アーク溶射は、溶融させた材料を基材上に噴霧して堆積させ、基材上に皮膜を形成する方法である。このため、図16に示すように、アーク溶射によって形成された皮膜100は、空隙101を多く含みやすい傾向にある。空隙101の種類としては、内在空隙101aと、開口空隙101bとがある。内在空隙101aは、皮膜100内に閉じ込められており、皮膜100の外部から遮断された空隙である。開口空隙101bは、皮膜100の表面に開口しており、皮膜100の外部と連通する空隙である。
空隙101は、皮膜100の遮熱性を高める効果を有する。しかしながら、空隙101は、皮膜100の強度を低下させ、皮膜100に発生したクラックの進展経路となって皮膜100の剥離を誘発する。
皮膜100の耐剥離性を向上させるため、皮膜100が形成された基材200に熱処理を施して、皮膜100と基材200との拡散接合を促進する方法がある。しかしながら、図17に示すように、熱処理によって皮膜100と基材200との拡散接合が進行しても、皮膜100中の空隙101はほとんど減少しない。
皮膜100が形成された基材200に熱間等方圧加圧処理(HIP処理)を施す方法もある。HIP処理を実施した場合、図18に示すように、皮膜100と基材200との拡散接合が進行するとともに、内在空隙101aが圧力により押しつぶされて消滅する。しかしながら、HIP処理を実施した場合であっても、開口空隙101bは皮膜100中に残存する。
図19Aに示すように、皮膜100が形成された基材200をカプセル300に封入して密閉した後、HIP処理を行うという方法もある。この場合、図19Bに示すように、内在空隙101aだけでなく、開口空隙101bも消滅させることができる。カプセル300は、図19Cに示すように、HIP処理の終了後に切削されて除去される。
カプセル300を使用するHIP処理では、圧力を付与しない熱処理や、カプセル300を使用しないHIP処理と比べて皮膜100が緻密になり、基材200に対する皮膜100の密着性を高めることができる。しかしながら、カプセル300への基材200の封入及びカプセル300の除去は容易ではなく、コスト面でも不利である。また、カプセル300を除去する工程において、カプセル300が皮膜100又は基材200と接合し、皮膜100又は基材200の表面を変質させる可能性がある。
本発明者等は、以上のような事情を鑑みて検討を重ね、実施形態に係るプラグの製造方法を考案した。
実施形態に係るプラグの製造方法は、プラグ本体を準備する工程と、鉄線材を用いたアーク溶射を行ってプラグ本体の表面上に本体皮膜を形成する工程と、本体皮膜の形成が終了した時点における溶射距離よりも短い溶射距離で鉄線材を用いたアーク溶射を行って、本体皮膜上に表層皮膜を形成する工程と、本体皮膜及び表層皮膜が形成されたプラグ本体に熱間等方圧加圧処理を施す工程とを備える(第1の構成)。
第1の構成によれば、アーク溶射によって本体皮膜及び表層皮膜が形成されたプラグ本体に、熱間等方圧加圧処理(HIP処理)が施される。表層皮膜は、比較的短い溶射距離で形成されるため、空隙率が低く緻密である。このため、HIP処理において表層皮膜がカプセルとして機能し、本体皮膜中の内在空隙及び開口空隙を減少させることができる。よって、本体皮膜が緻密になるとともにプラグ本体に対する本体皮膜の密着性が向上し、本体皮膜及び表層皮膜がプラグ本体から剥離しにくくなる。
また、第1の構成によれば、本体皮膜及び表層皮膜の双方を鉄線材のアーク溶射によって形成する。すなわち、表層皮膜は、本体皮膜と同一の材料及び同一の手法で形成される。このため、HIP処理用のカプセルとして機能する表層皮膜を本体皮膜と同一工程内で連続的に形成することができる。しかも、HIP処理の後、表層皮膜を除去する必要がない。よって、耐剥離性が高い本体皮膜及び表層皮膜を有するプラグを簡易に得ることができる。
表層皮膜を形成する工程は、200mm以下の溶射距離でアーク溶射を行ってもよい(第2の構成)。
第2に構成によれば、表層皮膜の形成時の溶射距離が十分に短いため、表層皮膜の空隙率を十分に低くし、表層皮膜をより緻密にすることができる。これにより、HIP処理用のカプセルとしての表層皮膜の機能が向上し、より確実に本体皮膜中の空隙を減少させることができる。よって、本体皮膜の緻密性及びプラグ本体に対する密着性を高めることができる。
表層皮膜の空隙率は、2%以下であってもよい(第3の構成)。
第3に構成によれば、表層皮膜が十分に緻密であるため、HIP処理用のカプセルとしてより確実に機能する。これにより、HIP処理における本体皮膜中の空隙の減少効果が向上し、本体皮膜の緻密性及びプラグ本体に対する密着性を高めることができる。
表層皮膜の厚みは、250μm以下であってもよい(第4の構成)。
第4の構成によれば、表層皮膜の厚みが十分に小さいため、表層皮膜の放熱性を向上させることができる。これにより、穿孔中における表層皮膜の温度上昇を抑制することができ、プラグに対するビレットの焼き付きの発生を抑制することができる。
本体皮膜を形成する工程は、溶射距離を徐々に長くしながらアーク溶射を行ってもよい(第5の構成)。
アーク溶射では、溶射距離が長くなるほど皮膜中の酸化物の含有率が高くなる。第5の構成によれば、本体皮膜のうちプラグ本体側の領域を形成する際の溶射距離が比較的短い。このため、プラグ本体側の領域では、鉄の含有率が高く、酸化物の含有率が低くなる。これにより、プラグ本体に対する本体皮膜の密着性を向上させることができる。一方、本体皮膜のうち表層皮膜側の領域を形成する際の溶射距離は比較的長い。よって、表層皮膜側の領域では、酸化物の含有率が高くなり、熱伝導率が低くなる。これにより、本体皮膜の遮熱性が向上し、プラグに対するビレットの焼き付きの発生を抑制することができる。
実施形態に係るプラグ本体と、本体皮膜と、表層皮膜とを備える。本体皮膜は、プラグ本体の表面上に形成される。本体皮膜は、鉄及び鉄酸化物を含有する。表層皮膜は、本体皮膜上に形成される。表層皮膜は、鉄及び鉄酸化物を含有する。本体皮膜において、プラグ本体に隣接し且つ100μmの厚みを有する領域の空隙率は、3%以下である(第6の構成)。
第6の構成によれば、本体皮膜のうち、プラグ本体との界面付近の領域の空隙率が十分に低くなっている。これにより、本体皮膜の緻密性及びプラグ本体との密着性が高くなり、本体皮膜及び表層皮膜がプラグ本体から剥離するのを抑制することができる。
以下、実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。図中同一及び相当する構成については同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。説明の便宜上、各図において、構成を簡略化又は模式化して示したり、一部の構成を省略して示したりする場合がある。
[プラグの構造]
まず、プラグの構造について説明する。図1に示すように、実施形態に係るプラグ10は、プラグ本体1と、本体皮膜2と、表層皮膜3とを備える。
プラグ本体1は、横断形状が円形状であり、その外径は、プラグ本体1の先端から後端に向かって大きくなる。要するに、プラグ本体1の形状は、略砲弾状である。
本体皮膜2は、プラグ本体1の表面上に形成される。本体皮膜2は、プラグ本体1の後端面を除き、プラグ本体1の表面の全体を覆っている。本体皮膜2の厚みは、全体にわたって一定でなくてもよい。本実施形態に係る本体皮膜2において、プラグ本体1の先端部11上に位置する部分の厚みは、プラグ本体1の胴部12上に位置する部分の厚みよりも大きくなっている。
表層皮膜3は、本体皮膜2上に形成される。表層皮膜3は、本体皮膜2の全体を覆っている。表層皮膜3の厚みは、本体皮膜2の厚みよりも小さい。表層皮膜3の厚みは、全体にわたって実質的に一定である。表層皮膜3の厚みは、好ましくは250μm以下であり、より好ましくは200μm以下である。
図2は、図1に示すII部分の拡大図である。本体皮膜2及び表層皮膜3は、鉄及び鉄酸化物を含有する。本体皮膜2及び表層皮膜3は、主として鉄及び鉄酸化物で構成されているが、鉄及び鉄酸化物以外の元素及び/又は化合物をわずかに含む場合もある。本体皮膜2では、プラグ本体1から表層皮膜3に向かうにつれて鉄の含有率が低く、鉄酸化物の含有率が高くなっている。表層皮膜3の鉄の含有率は、本体皮膜2のうち表層皮膜3に隣接し且つ表層皮膜3と同厚の領域における鉄の含有率よりも高くなっている。
本体皮膜2の領域21の空隙率は、3%以下である。領域21は、本体皮膜2のうちプラグ本体1に隣接する領域である。すなわち、領域21は、本体皮膜2のうちプラグ本体1との界面側に位置する領域である。領域21の厚みは、100μmである。表層皮膜3の空隙率は、2%以下であることが好ましい。
ここで、本体皮膜2及び表層皮膜3における鉄の含有率、鉄酸化物の含有率、及び空隙率の算出方法について説明する。
まず、本体皮膜2及び表層皮膜3の断面のミクロ観察画像を取得する。本体皮膜2の領域21の空隙率は、ミクロ観察画像において、プラグ本体1と本体皮膜2との界面から本体皮膜2の内側へ100μmの範囲で評価する。表層皮膜3の空隙率は、ミクロ観察画像に写る表層皮膜3全体で評価する。なお、厚さ方向と直交する方向(プラグ表面に並行する方向)の評価範囲は、1000〜1500μm程度とする。この方向には、基本的には、ほぼ均一に空隙が分布していると考えられるため、1000〜1500μm程度の幅で評価すると、ほぼ平均的な空隙率を算出できる。
図3は、皮膜の断面のミクロ観察画像(原画像)の一例である。原画像中の鉄、鉄酸化物、及び空隙は、それぞれ異なる色味を有する。具体的には、鉄、鉄酸化物、及び空隙の順で色が濃くなっている。
次に、原画像から図4に示す輝度ヒストグラムを作成する。輝度ヒストグラムは、原画像における画素の輝度分布を示すグラフであり、縦軸に頻度(画素数)、横軸に輝度値をとる。この輝度ヒストグラムにおいてピークの検出を行うと、鉄、鉄酸化物、及び空隙の各々に起因する3つのピークが検出される。
続いて、原画像の3値化を行う。図5に示すように、3値化に用いる閾値は、輝度値B1と輝度値B2との中間値M1、及び輝度値B2と輝度値B3との中間値M2である。B1、B2、及びB3は、それぞれ、空隙に起因するピークの輝度値、鉄酸化物に起因するピークの輝度値、及び鉄に起因するピークの輝度値である。
図6に、原画像の3値化によって得られた3値画像を示す。3値画像では、原画像においてM1未満の輝度値を有する画素が黒色、M1以上M2未満の輝度値を有する画素が灰色、M2以上の輝度値を有する画素が白色で表示されている。3値画像において、黒色の領域を空隙の領域、灰色の領域を鉄酸化物の領域、白色の領域を鉄の領域とし、各領域の画素数をカウントする。空隙の領域の画素数、鉄酸化物の領域の画素数、及び鉄の領域の画素数の各々を全体の画素数で除することにより、空隙率(%)、鉄酸化物の含有率(%)、及び鉄の含有率(%)が算出される。つまり、空隙率、鉄酸化物の含有率、及び鉄の含有率は、原画像中の画素の比率(面積率)で評価される。
[プラグの製造方法]
次に、プラグ10の製造方法について説明する。
まず、プラグ本体1を準備する。このプラグ本体1の表面に、アーク溶射によって本体皮膜2及び表層皮膜3を形成する。
アーク溶射は、例えば、図7に示すアーク溶射装置4を用いて行うことができる。アーク溶射装置4は、溶射ガン41と、回転台42とを備える。溶射ガン41は、溶射用の線材をアークによって溶融させ、圧縮空気によってノズルから噴霧する。本実施形態では、溶射用の線材として、鉄線材を使用する。鉄線材は、鉄(Fe)を主成分とする炭素鋼(普通鋼)の線材である。典型的には、Feを主成分とし、炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)及び不純物からなる、いわゆる普通鋼であるが、タングステン(W)等の元素を含有していてもよい。
本体皮膜2及び表層皮膜3の形成に際し、プラグ本体1をアーク溶射装置4の回転台42に配置する。そして、回転台42によってプラグ本体1を軸周りに回転させながら、このプラグ本体1に対して鉄線材のアーク溶射を行う。これにより、まず、鉄及び鉄酸化物で構成された本体皮膜2がプラグ本体1の表面上に形成される。本体皮膜2の形成は、所望の厚みの材料がプラグ本体1の表面上に堆積された時点で終了する。
本体皮膜2は、溶射距離を徐々に長くしながら形成されることが好ましい。溶射距離は、溶射ガン41のノズルの先端から溶射対象物の表面までの最短距離である。本体皮膜2は、プラグ本体1から所定の距離に溶射ガン41を配置してアーク溶射を開始し、溶射ガン41をプラグ本体1から徐々に遠ざけながらアーク溶射を継続することで形成される。しかしながら、本体皮膜2の形成中、溶射距離を一定に保つこともできる。
本体皮膜2の形成後、表層皮膜3を続けて形成する。すなわち、本体皮膜2を形成した後、そのままアーク溶射を継続して、本体皮膜2上に表層皮膜3を形成する。
表層皮膜3を形成する際の溶射距離は、本体皮膜2を形成する際の溶射距離よりも短い。より具体的には、表層皮膜3を形成する際の溶射距離は、少なくとも、本体皮膜2の形成が終了した時点での溶射距離より短い。すなわち、溶射ガン41をプラグ本体1から徐々に遠ざけながら本体皮膜2を形成した後、溶射ガン41をプラグ本体1に一気に近づけて表層皮膜3を形成する。
表層皮膜3の形成中、溶射距離は実質的に一定に保たれる。表層皮膜3の形成時の溶射距離は、200mm以下であることが好ましい。表層皮膜3の形成は、所望の厚みの材料が本体皮膜2上に堆積された時点で終了する。好ましくは、表層皮膜3の厚みが250μmを超える前、より好ましくは表層皮膜3の厚みが200μmを超える前に表層皮膜3の形成を終了する。
ここで、溶射距離についてより詳細に説明する。図8は、溶射距離と皮膜の空隙率との関係を示すグラフである。図9は、溶射距離と皮膜中の酸化物の含有率との関係を示すグラフである。図10は、溶射距離と皮膜の引張強度との関係を示すグラフである。
図8に示すように、溶射距離が長くなれば皮膜の空隙率は高くなる。すなわち、本体皮膜2及び表層皮膜3の空隙率は、溶射距離によって制御することができる。上述したように、表層皮膜3を形成する際の溶射距離は、本体皮膜2の形成が終了した時点での溶射距離よりも短い。このため、表層皮膜3の空隙率は、本体皮膜2の空隙率よりも低くなる。表層皮膜3の空隙率は、特に、本体皮膜2のうち表層皮膜3側の領域の空隙率と比較してかなり低くなる。
図9に示すように、溶射距離が長くなれば皮膜における溶射材料の酸化物の含有率は高くなる。すなわち、本体皮膜2及び表層皮膜3の鉄及び鉄酸化物の各含有率は、溶射距離によって制御することができる。上述したように、本体皮膜2は、溶射距離を徐々に長くしながら形成される。よって、本体皮膜2では、プラグ本体1側から表層皮膜3側に向かうにつれて、鉄の含有率が低く、鉄酸化物の含有率が高くなる。表層皮膜3は、本体皮膜2の形成後、溶射距離を短くして形成される。このため、表層皮膜3の鉄の含有率は、少なくとも、本体皮膜2のうち表層皮膜3側の領域の鉄の含有率より高くなる。
図10に示すように、溶射距離が長くなれば皮膜の引張強度は低くなる。すなわち、本体皮膜2及び表層皮膜3の引張強度は、溶射距離によって制御することができる。表層皮膜3の形成時の溶射距離は、本体皮膜2の形成の終了時点の溶射距離よりも短い。このため、表層皮膜3の引張強度は、少なくとも、本体皮膜2のうち表層皮膜3側の領域の鉄の含有率より高くなる。
本体皮膜2及び表層皮膜3を形成した後、プラグ本体1にHIP処理を施す。具体的には、図11に示すように、本体皮膜2及び表層皮膜3が形成されたプラグ本体1を、熱間等方圧加圧装置(HIP装置)5の圧力容器51内に配置する。このとき、従来のHIP処理のようにプラグ本体1をカプセル等に封入する必要はない。
プラグ本体1は、圧力容器51内のヒータ52によって加熱されるとともに、圧力容器51内に供給される高圧の不活性ガスによって加圧される。不活性ガスは、例えばアルゴン(Ar)ガスである。
HIP処理の温度は、プラグ本体1と本体皮膜2との拡散接合を促進する観点から、700℃以上であることが好ましい。また、本体皮膜2及び表層皮膜3の融点を考慮すると、HIP処理の温度は1300℃未満であることが好ましい。HIP処理の圧力は、本体皮膜2中の空隙を十分に押しつぶすという観点から、20MPa以上であることが好ましい。HIP処理の時間は、例えば、10〜600分である。
HIP処理の終了後、プラグ本体1を圧力容器51から取り出す。これにより、本実施形態に係るプラグ10(図1)が完成する。
[効果]
本実施形態では、アーク溶射によって本体皮膜2及び表層皮膜3が形成されたプラグ本体1に対し、HIP処理が施される。表層皮膜3は、空隙率が低く緻密であるため、HIP処理においてカプセルとして機能する。よって、HIP処理によって本体皮膜2の空隙率を効果的に低下させ、本体皮膜2の緻密性及びプラグ本体1に対する密着性を高めることができる。この効果について、図12A及び図12Bを参照しつつ、より詳細に説明する。
図12Aは、本体皮膜2及び表層皮膜3の形成後であってHIP処理前のプラグ本体1の表面付近の断面を模式的に示す図である。図12Aに示すように、この時点では、多くの内在空隙101a及び開口空隙101bが本体皮膜2中に存在する。
図12Bは、HIP処理後のプラグ本体1の表面付近の断面を模式的に示す図である。HIP処理により、プラグ本体1と本体皮膜2との間には拡散接合が生じる。また、HIP処理において、低空隙率の表層皮膜3によって本体皮膜2が覆われた状態で圧力が付与されるため、本体皮膜2中の内在空隙101a及び開口空隙101bが押しつぶされて減少する。よって、本体皮膜2の緻密性及びプラグ本体1に対する密着性が高くなる。その結果、本体皮膜2及び表層皮膜3がプラグ本体1から剥離しにくくなる。
本体皮膜2及び表層皮膜3は、いずれも鉄線材を用いたアーク溶射によって形成される。よって、HIP処理用のカプセルとして機能する表層皮膜3を、本体皮膜2と同一工程内で連続的に形成することができる。また、表層皮膜3は、本体皮膜2と同一の材料で形成されているため、HIP処理後に除去する必要がない。表層皮膜3は、HIP処理の後、そのままプラグ本体1を保護する皮膜として使用することができる。よって、本実施形態によれば、皮膜の耐剥離性が高いプラグ10を簡易な方法で得ることができる。
本実施形態において、表層皮膜3を形成する際の溶射距離は、好ましくは200mm以下である。これにより、表層皮膜3の空隙率が十分に低くなり、表層皮膜3をより緻密にすることができる。よって、HIP処理において、表層皮膜3がカプセルとしてよく機能し、本体皮膜2中の内在空隙101a及び開口空隙101bをより減少させることができる。その結果、本体皮膜2の緻密性及びプラグ本体1に対する密着性が向上する。
本実施形態において、表層皮膜3の空隙率は、好ましくは2%以下である。これにより、表層皮膜3が十分に緻密になり、HIP処理用のカプセルとしてより確実に機能する。よって、本体皮膜2中の内在空隙101a及び開口空隙101bの減少効果を高めることができ、本体皮膜2の緻密性及びプラグ本体1に対する密着性を向上させることができる。
本実施形態において、表層皮膜3の厚みは、好ましくは250μm以下である。これにより、穿孔圧延中における表層皮膜3の温度上昇を抑制することができる。前述のとおり、表層皮膜3は皮膜中の鉄の含有率が高いため、熱伝導率が高い。従って、穿孔圧延中は高温のビレットと接することで、表層皮膜3は加熱されやすい。表層皮膜3の厚みが厚すぎると、表層皮膜3中に熱が蓄積され、表層皮膜3が高温となる。表層皮膜3が高温になりすぎると、プラグ10に対するビレットの焼き付きが発生しやすくなる。表層皮膜3の厚みを250μm以下にすることで焼き付きの発生を抑制することができる。
本体皮膜2は、溶射距離を徐々に長くしながら形成される。これにより、本体皮膜2のうちプラグ本体1側の領域において鉄の含有率が高くなるため、プラグ本体1と本体皮膜2との密着性を向上させることができる。一方、本体皮膜2のうち表層皮膜3側の領域では、鉄酸化物の含有率が高くなるため、熱伝導率が低くなって遮熱性が向上する。よって、プラグ10に対するビレットの焼き付きの発生を抑制することができる。
本体皮膜2のうちプラグ本体1側の領域21の空隙率は、3%以下となっている。このようにすることで、本体皮膜2の緻密性及びプラグ本体1との密着性を高めることができ、本体皮膜2及び表層皮膜3がプラグ本体1から剥離するのを抑制することができる。
以上、実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
<1.皮膜の空隙率及び基材と皮膜との密着性の評価>
板状鋼材の試験片(基材)を4つ準備し、それぞれの試験片について、表1に示す条件で鉄線材を用いたアーク溶射及び後処理を行った。
実施例1に係る試験片には、アーク溶射によって本体皮膜(2)及び表層皮膜(3)を形成した。表層皮膜(3)の形成時の溶射距離は、本体皮膜(2)の形成時の溶射距離よりも短くした。このため、表層皮膜(3)は、本体皮膜(2)よりも空隙率が低く緻密である。実施例1では、アーク溶射の後処理として、本体皮膜(2)及び表層皮膜(3)を形成した試験片に対し、アルゴン(Ar)雰囲気下、処理圧力:120MPa、処理温度:1180℃、処理時間:3時間のHIP処理を施した。
比較例1−1に係る試験片には、アーク溶射によって本体皮膜(2)のみを形成し、表層皮膜(3)を形成しなかった。また、比較例1−1では、アーク溶射後の後処理を行っていない。
比較例1−2に係る試験片にも、アーク溶射によって本体皮膜(2)のみを形成した。比較例1−2では、アーク溶射の後処理として、本体皮膜(2)を形成した試験片に対し、アルゴン(Ar)雰囲気及び大気圧下、処理温度:1180℃、処理時間:3時間の熱処理を施した。比較例1−2の熱処理は、加圧を行わず、拡散接合を促進するための加熱のみを行う処理(以下、拡散熱処理という)である。
比較例1−3に係る試験片にも、アーク溶射によって本体皮膜(2)のみを形成した。比較例1−3では、アーク溶射の後処理として、本体皮膜(2)を形成した試験片に対し、実施例1と同じ条件でHIP処理を実施した。
実施例1及び比較例1−1〜1−3に係る各試験片について、皮膜部分の断面のミクロ観察画像を取得し、本体皮膜(2)の空隙率及び本体皮膜(2)と基材とのせん断密着力を評価した。各ミクロ観察画像を図13に示す。
本体皮膜(2)の空隙率は、ミクロ観察画像において、基材と皮膜との界面から皮膜側に100μmの領域で評価した。空隙率の算出方法は、上記実施形態において図3〜図6を用いて説明した通りである。
図14は、実施例1及び比較例1−1〜1−3について、皮膜の空隙率を示すグラフである。図14より、本体皮膜(2)上に表層皮膜(3)を形成し、且つHIP処理を実施した実施例1では、本体皮膜(2)の形成後に何ら処理を行わなかった比較例1−1と比べて、本体皮膜(2)の空隙率が2%まで低下していることがわかる。表層皮膜(3)を形成せずに拡散熱処理を実施した比較例1−2では、本体皮膜(2)の空隙率はほとんど低下しなかった。表層皮膜(3)を形成せずにHIP処理を実施した比較例1−3では、本体皮膜(2)の空隙率が若干低下したが、実施例1ほどの空隙減少効果は得られなかった。
図15は、実施例1及び比較例1−1〜1−3について、本体皮膜(2)と基材とのせん断密着力を示すグラフである。せん断密着力は、基材に形成された皮膜に対してせん断方向に負荷をかけ、基材から剥離させたときの応力である。図15より、本体皮膜(2)の空隙率が最も低かった実施例1では、せん断密着力が最も高いことがわかる。比較例1−2及び1−3では、比較例1−1よりもせん断密着力が大きくなっているが、実施例1ほどのせん断密着力の増幅効果は見られない。
以上より、本体皮膜(2)上に表層皮膜(3)を形成し、HIP処理を実施すれば、本体皮膜(2)の空隙率が著しく低減し、本体皮膜(2)と基材とのせん断密着力も向上することが確認できた。
<2.プラグの性能評価>
最大径:77.5mm、全長:230mm、材質:C:0.15質量%、W:3.5質量%を含有する鋼のプラグ本体(1)を9つ準備した。各プラグ本体(1)について鉄線材を用いたアーク溶射及び後処理を行い、実施例2−1〜2−5及び比較例2−1〜2−4に係るプラグを作製した。
実施例2−1〜2−5では、それぞれ、アーク溶射によってプラグ本体(1)に本体皮膜(2)及び表層皮膜(3)を形成した後、アルゴン(Ar)雰囲気下、処理圧力:120MPa、処理温度:1180℃、処理時間:3時間のHIP処理を施した。実施例2−1〜2−5において、本体皮膜(2)の厚みは、プラグ本体(1)の先端部(11)で1500μm、胴部(12)で500μmである。実施例2−1〜2−5の表層皮膜(3)の施工条件は互いに異なる。
比較例2−1〜2−4では、それぞれ、実施例2−1〜2−5と同様の本体皮膜(2)をアーク溶射によってプラグ本体(1)に形成した。比較例2−1では、アーク溶射の後処理を行わなかった。比較例2−2では、アーク溶射の後処理として、アルゴン(Ar)雰囲気及び大気圧下、処理温度:1180℃、処理時間:3時間の拡散熱処理を実施した。比較例2−3では、アーク溶射の後処理として、実施例2−1〜2−5と同様のHIP処理を実施した。比較例2−4では、アーク溶射によって表層皮膜(3)を本体皮膜(2)上に形成した後、比較例2−2と同様の拡散熱処理を実施した。
実施例2−1〜2−5及び比較例2−1〜2−4に係るプラグの各々を用いて、1200℃に加熱した、直径:65m、長さ:400mmであって25質量%のCrおよび35質量%のNiを含有するビレットの穿孔圧延を繰り返し実施した。各実施例について、プラグが損傷するまでの穿孔回数(寿命パス数)と、プラグの損傷状況(皮膜の剥離状況および焼き付きの有無)とを確認した。その結果を表2に示す。
表層皮膜(3)を形成せず、アーク溶射後の処理も実施しなかった比較例2−1に係るプラグでは、1パス終了後に、大きな先端変形が発生した。また、胴部における皮膜はかなり剥離していた。このため、2パス目の継続穿孔は不可と判断した。
表層皮膜(3)を形成せずに拡散熱処理又はHIP処理を実施した比較例2−2及び2−3に係るプラグについては、1パス終了後に、先端変形が発生した。このため、2パス目の継続穿孔は不可と判断した。この先端変形は、プラグの先端部の皮膜の剥離により、プラグへの入熱が増大したことに起因すると推定される。また、プラグの胴部においても皮膜の剥離が部分的に発生していた。
表層皮膜(3)を形成し、拡散熱処理を実施した比較例2−4に係るプラグについては、1パス終了後に、比較例2−2及び2−3と同様に、プラグの先端部の皮膜の剥離に起因すると思われる先端変形が発生した。よって、2パス目の継続穿孔は不可と判断した。また、プラグの胴部においても皮膜の剥離が部分的に発生していた。
一方、表層皮膜(3)を形成し、且つHIP処理を実施した実施例2−1〜2−5では、比較例2−1〜2−4と比べて本体皮膜(2)の空隙率が低く(表2)、本体皮膜(2)が緻密である。本体皮膜(2)の空隙率は、本体皮膜(2)のうちプラグ本体(1)との界面側・100μm厚の領域(21)の空隙率で評価している。本体皮膜(2)が緻密な実施例2−1〜2−5では、皮膜の剥離が生じにくいことを確認することができた。以下、詳述する。
実施例2−1に係るプラグでは、1パス終了後に焼き付きが発生した。よって、2パス目の継続穿孔は不可と判断した。しかし、先端部および胴部において皮膜の剥離はほとんど見られなかった。実施例2−2に係るプラグでは、1パス終了後に、プラグ先端部が変形した。先端部の変形度合いは、比較例2−2〜2−4に比べると軽度であったが、再度穿孔圧延に使用するのは困難と判断し、2パス目の継続穿孔は行わなかった。また、プラグ胴部における皮膜は多少剥離していた。実施例2−3〜2−5に係るプラグでは、2パス終了後に、プラグ先端部が変形したため、3パス目の継続穿孔は不可と判断した。この先端変形は、プラグ先端部の皮膜が摩耗により薄くなり、プラグへの入熱が増大したことに起因すると推定される。2パス終了後の先端部および胴部における皮膜は、かなり摩耗していたが、本体からの剥離はほとんど見られなかった。よって、本体皮膜(2)上に表層皮膜(3)を形成し、且つHIP処理を実施すれば、皮膜の剥離を抑制することができるといえる。
実施例2−1及び2−3〜2−5では、本体皮膜(2)の空隙率が3%以下まで低下した。これは、実施例2−1及び2−3〜2−5では表層皮膜(3)の形成時の溶射距離が200mm以下であったため、表層皮膜(3)がより緻密になり、HIP処理の際にカプセルとしてよく機能したことによると考えられる。
表層皮膜(3)の厚みが250μm以下である実施例2−2〜2−5では、プラグに対するビレットの焼き付きが生じなかった。一方、表層皮膜(3)の厚みが300μmであった実施例2−1では、プラグに対するビレットの焼き付きが生じた。よって、プラグとビレットとの焼き付きを防止する観点から、表層皮膜(3)の厚みは250μm以下であることが好ましいといえる。
本体皮膜(2)の空隙率が3%以下であり、且つ表層皮膜(3)の厚みが250μm以下であった実施例2−3〜2−5に係るプラグでは、2パス目まで穿孔することができた。このように本体皮膜(2)の空隙率及び表層皮膜(3)の厚みの双方を適正な範囲にすることで、プラグをより長寿命化することができる。