JP7176344B2 - ピアサ-プラグ及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ピアサ-プラグ及びその製造方法に関する。
従来、継目無鋼管の穿孔圧延に用いられるピアサープラグは、表面の遮熱性、潤滑性、及び耐焼付き性を確保するため、表面にスケール皮膜を形成して使用される。
スケール皮膜は、穿孔圧延ごとに次第に摩耗する。スケール皮膜が完全に摩耗して母材(プラグ本体)が露出すると、母材の溶損や相手材との焼付きが生じる。ステンレス等の難加工材の穿孔ではスケール皮膜の摩耗が顕著であり、数パスで摩耗する場合がある。その度にスケール皮膜を再形成するための熱処理が必要になる。この熱処理には数時間から数十時間を要する。
国際公開第2013/153878号、国際公開第2013/161489号、及び国際公開第2014/109180号には、鉄及び酸化物からなる溶射皮膜をピアサープラグの母材の表面に形成する技術が提案されている。
国際公開第2013/153878号 国際公開第2013/161489号 国際公開第2014/109180号
溶射皮膜は、スケール皮膜よりも母材との密着性や耐摩耗性に優れ、かつ、数分から数十分で形成することができる。そのため溶射皮膜は、スケール皮膜よりも寿命が長く、かつ、摩耗しても短時間で再生することができる。一方、継目無鋼管の製造能率を高めるためには、ピアサープラグの寿命をさらに長くすることが好ましい。そのためには、溶射皮膜の密着性及び耐摩耗性をさらに高くすることが好ましい。
本発明の目的は、密着性及び耐摩耗性に優れたピアサープラグ及びその製造方法を提供することである。
本発明の一実施形態によるピアサープラグは、後端面を除く表面の少なくとも一部を含む部分がオーステナイト合金で形成された本体と、前記本体の前記オーステナイト合金で形成された表面の少なくとも一部を覆い、オーステナイト合金を含む溶射皮膜と、を備える。
本発明によれば、密着性及び耐摩耗性に優れたピアサープラグ及びその製造方法が得られる。
図1は、本発明の一実施形態によるピアサープラグの縦断面図である。 図2は、図1に示すA-A線における断面図である。 図3は、溶射皮膜の形成に用いる装置の一例を示す図である。 図4は、コアードワイヤの断面図である。 図5は、本発明の他の実施形態によるピアサープラグの縦断面図である。 図6は、本発明のさらに他の実施形態によるピアサープラグの縦断面図である。 図7は、溶射皮膜の断面顕微鏡写真である。
穿孔圧延に用いられるピアサープラグは約1200℃のビレットを穿孔するため、非常に過酷な環境にさらされる。ピアサープラグの表面には、酸化皮膜又は溶射皮膜が形成される。これらの皮膜は、穿孔の過酷な環境にさらされ、摩耗や剥離により消耗する。皮膜が消耗すると、一旦、ピアサープラグの使用を中断し、皮膜を再度オフラインにて再生する。皮膜が再生されたピアサープラグは、別のチャンスで、リサイクル使用される。この際の課題は、ピアサープラグの母材すなわち本体が、高面圧を受けることによって変形することである。
発明者らは、ピアサープラグの母材をオーステナイト合金とすることは、母材の高温強度を高めるため、穿孔時における母材変形抑制の観点から有効であることを見いだしている。そこで、発明者らは、オーステナイト合金に溶射皮膜を付与してピアサープラグを形成することを検討した。
オーステナイト合金の母材に鉄の溶射皮膜を施工した場合、皮膜が剥離しやすくなることが分かった。剥離原因を調査したところ、プラグが穿孔中に温度上昇するときに発生する母材と皮膜の線膨張係数差によるものと推定された。そこで、母材との線膨張差を低減すべく、オーステナイト系合金を線材として用いて溶射皮膜の形成を試みた。その結果、密着性及び耐摩耗性が高いピアサープラグが得られた。この知見を基に、以下の実施形態にかかるピアサープラグ及びその製造方法に想到した。
本発明の一実施形態によるピアサープラグは、後端面を除く表面の少なくとも一部を含む部分がオーステナイト合金で形成された本体と、前記本体の前記オーステナイト合金で形成された表面の少なくとも一部を覆い、オーステナイト合金を含む溶射皮膜と、を備える。これにより、溶射皮膜の密着性及び耐摩耗性に優れたピアサープラグが得られる。すなわち、少なくとも表面層がオーステナイト合金で形成された本体と、オーステナイト合金を含む溶射皮膜との組み合わせにより、本体の変形が少なく、かつ溶射皮膜の密着性及び耐摩耗性に優れるピアサープラグが得られる。
なお、溶射皮膜の密着性は、溶射皮膜の本体からの剥離のしにくさである。ピアサープラグは、オーステナイト合金で形成された本体の表面が、オーステナイト合金を含む溶射皮膜で覆われてなる層構造を含む。この層構造は、本体の後端面以外の表面の少なくとも一部において形成される。ピアサープラグの本体の全体がオーステナイト合金で形成されてもよいし、本体の表面層がオーステナイト合金で形成され、表面層の内側がオーステナイト合金以外の金属で形成されてもよい。また、本体の後端面を除く表面全体における一部がオーステナイト合金であってもよい。本体の少なくとも一部を形成するオーステナイト合金は、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼とすることができる。また、溶射皮膜に含まれるオーステナイト合金は、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼とすることができる。
前記溶射皮膜におけるオーステナイト合金の含有率は、断面の面積率で10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。これにより、溶射皮膜の密着性及び耐摩耗性が、より確保しやすくなる。溶射皮膜におけるオーステナイト合金の含有量の測定方法については後述する。
前記溶射皮膜は、前記オーステナイト合金として、オーステナイト系ステンレス鋼を含み、前記オーステナイト系ステンレス鋼は、Cr:13質量%、Ni:8質量%以上を含むことが好ましい。これにより、溶射皮膜の密着性及び耐摩耗性が、より確保しやすくなる。溶射皮膜におけるオーステナイト系ステンレス鋼中のCr及びNiの含有量の測定方法については後述する。
本発明の一実施形態によるピアサープラグの製造方法は、後端面を除く表面少なくとも一部を含む部分がオーステナイト合金で形成された本体を準備する工程と、オーステナイト合金を含む線材を、前記本体の表面にアーク溶射することで、前記本体の前記オーステナイト合金で形成された表面に溶射皮膜を形成する工程と、を有する。これにより、溶射皮膜の密着性及び耐摩耗性に優れたピアサープラグが得られる。
前記製造方法は、前記溶射皮膜が形成された前記本体を、熱処理する工程をさらに有することが好ましい。本体を熱処理することで、本体に対する溶射皮膜の密着性を高めることができる。
前記線材に含まれる前記オーステナイト合金は、Cr:13~28質量%、Ni:8~23質量%、C:0.1質量%以下、Si:1.5質量%以下、Mn:2.0質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.05質量%以下、残部のFe及び不可避不純物から構成されるオーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。これにより、溶射皮膜の密着性及び耐摩耗性が、より確保しやすくなる。また、前記線材に含まれる前記オーステナイト合金は、Mo:3.0質量%以下、W:4.0質量%以下、及びCu:3.0質量%以下からなる群から選ばれた1種又は2種以上を含有してもよい。前記線材に含まれる前記オーステナイト合金において、C、Si、Mn、P、及びSの下限は、例えば、0.00001質量%とすることができる。Mo、W、及びCuの下限は、例えば、0.1質量%とすることができる。
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
[ピアサープラグの構造]
図1は、本発明の一実施形態によるピアサープラグ10の縦断面図である。図2は、図1に示すA-A線における断面図である。図2は、ピアサープラグ10の横断面図である。ピアサープラグ10は、プラグ本体11と、溶射皮膜12とを備えている。
プラグ本体11は、砲弾形状を有する。プラグ本体11の横断面の形状が円形である。プラグ本体11は、外径がプラグ本体11の先端から後端に向かって大きくなる形状を有している。プラグ本体11は、先端と反対側の端の面すなわち後端面11cを有する。プラグ本体11の後端面11cと、それ以外の面との境は、円形の稜線となっている。別の観点から、プラグ本体11は、図1に示すように、圧延部111とリーリング部112とに区分される。圧延部111は先端部2に連続する前方の部位であり、リーリング部112は圧延部111よりも後方すなわち後端面11cに近い部位である。圧延部111は穿孔圧延において、肉厚圧下の大部分を受け持つ部位である。リーリング部112は、穿孔圧延において、中空素管(シェルともいう)の肉厚を仕上げる部位である。
フラグ本体11の後端面とプラグ本体11全体すなわちフルボディは、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼で構成されている。プラグ本体11のオーステナイト系ステンレス鋼として、例えば、SUS310、SUS304、SUS316等を用いることができる。
プラグ本体11を形成するオーステナイト系ステンレス鋼は、例えば、Cr:13~28質量%、Ni:8~23質量%、C:0.1質量%以下、Si:1.5質量%以下、Mn2.0質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.05質量%以下、残部のFe及び不可避不純物から構成されるオーステナイト系ステンレス鋼であってもよい。プラグ本体を形成するオーステナイト系ステンレス鋼において、C、Si、Mn、P、及びSの下限は、例えば、0.00001質量%とすることができる。
溶射皮膜12は、プラグ本体11の表面に形成されている。溶射皮膜12は、プラグ本体11の後端面を除き、プラグ本体11の表面の全体を覆っている。溶射皮膜12の厚さは、一定でなくてもよい。例えば、プラグ本体11の先端部11aを覆う溶射皮膜12の厚みは、胴部11bを覆う溶射皮膜12より厚くすることができる。先端部11aは、先端を含む部分である。胴部11bは、先端部11aと連続し、先端部11aと後端との間の部分である。
溶射皮膜12は、少なくともオーステナイト系ステンレス鋼及びその酸化物を含んでいる。溶射皮膜12は、これら以外の化合物を含んでいてもよい。例えば、炭素鋼及びその酸化物が溶射皮膜12に含まれてもよい。
溶射皮膜12中のオーステナイト系ステンレス鋼は、鉄(Fe)を主成分とし、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)等を含んでいる。溶射皮膜12中のオーステナイト系ステンレス鋼は、Fe、Cr、Niの他、C、Si、Mn、P、S、Mo、及びCuのうちの一部のみを含んでいてもよいし、C、Si、Mn、P、S、Mo、及びCu以外の元素を含んでいてもよい。溶射皮膜12中のオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成は一様でなくてもよい。
溶射皮膜12には、オーステナイト系ステンレス鋼が酸化されて形成される酸化物、FeCr 、Cr 等が含まれる。
溶射皮膜12におけるオーステナイト系ステンレス鋼の含有率は、断面の面積率で10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。溶射皮膜12中、オーステナイト系ステンレス鋼の比率が高いほど、プラグ本体11との密着性及び耐摩耗性が向上する。なお、製造工程により、溶射皮膜12におけるオーステナイト系ステンレス鋼の含有率の上限は、断面の面積率で70%程度になる。
溶射皮膜12におけるオーステナイト系ステンレス鋼は、Cr:13質量%以上、Ni:8質量%以上を含んでもよい。例えば、溶射皮膜12におけるオーステナイト系ステンレス鋼はCr:13~28質量%、Ni:8~23質量%、C:0.1質量%以下、Si:1.5質量%以下、Mn:2.0質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.05質量%以下、残部のFe及び不可避不純物であることが好ましい。また、溶射皮膜12中のオーステナイト系ステンレス鋼は、Mo:0.1~3.0質量%及び/又はW:0.1~4.0質量%をさらに含有してもよい。
溶射皮膜におけるオーステナイト系ステンレス鋼の面積率は、プラグから切り出したミクロ観察用試験片を分析することで得られる。試験片は、プラグの溶射皮膜を含む部分から機械加工によって切り出される。試験片は、溶射皮膜の断面が観察できる方向に切り出される。試験片は、プラグの横断面方向又は縦断面方向に切り出される。切り出された試験片の溶射皮膜の断面が現れる面は研磨によって仕上げられる。試験片の溶射皮膜断面に対して、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)の面分析を行い、得られる溶射皮膜の断面の測定エリアにおける元素分布から計算されるオーステナイト系ステンレス鋼の面積割合を面積率とする。この時の測定エリアは、試験片に埋め込まれた溶射皮膜の膜厚方向及び膜厚方向に垂直な方向(幅方向)の中心を含み、膜厚方向の寸法は、溶射皮膜厚に対して80%の寸法とし、幅方向の寸法は、膜厚方向と同じ寸法とする正方形で囲まれたエリアとする。解析は、下記の設備に標準装備されているソフトを用いる。
溶射皮膜12におけるオーステナイト系ステンレス鋼に含まれるCrやNi等の元素の質量%も、設備標準ソフトにて算出できる。
[ピアサープラグの製造方法]
以下、ピアサープラグ10の製造方法の一例を説明する。以下で説明する方法はあくまで例示であり、ピアサープラグ10の製造方法はこれに限定されない。
プラグ本体11を準備する。プラグ本体11は、後端面を除く表面の少なくとも一部を含む部分がオーステナイト系ステンレス鋼で構成されたものを用いる。例えば、プラグ本体11の全体(フルボディ)をオーステナイト系ステンレス鋼としたものが用いられる。
プラグ本体11に、溶射皮膜12を形成する。溶射皮膜12は、図3に示すアーク溶射装置20を用いて形成することができる。
アーク溶射装置20は、溶射ガン21と、回転台24とを備えている。溶射ガン21は、連続的に供給される陽極線材22及び陰極線材23の先端でアークを発生させ、溶融した金属を圧縮空気によって噴射する。
溶射皮膜12の化学組成は、陽極線材22及び陰極線材23の化学組成よって調整することができる。陽極線材22及び陰極線材23は、同じ化学組成の線材であってもよいし、異なる化学組成の線材であってもよい。異なる化学組成の線材を用いた場合、陽極線材22の金属と陰極線材23の金属とが混ざりあって、擬似的な合金が形成される。
陽極線材22及び陰極線材23の少なくともいずれかは、オーステナイト系ステンレス鋼とする。これにより、溶射皮膜12にオーステナイト系ステンレス鋼を含ませることができる。
図4に示すコアードワイヤ30を用いてもよい。コアードワイヤ30は、炭素鋼製の外殻31と、外殻31に充填された充填材32とを備えている。充填材32の種類を変えることで、溶射ガン21から噴射する金属の化学組成を任意に変えることができる。充填剤32の少なくとも一部は、オーステナイト系ステンレス鋼とする。これにより、溶射皮膜12にオーステナイト系ステンレス鋼を含ませることができる。
溶射ガン21の先端からプラグ本体11の表面までの距離(以下「溶射距離」という。)Dが長いほど、溶射皮膜12中の酸化物の比率が高くなる。これは、溶射ガン21の先端から噴射される金属の酸化が溶射距離に応じて進行するためである。溶射距離Dは、これに限定されないが、例えば100~1400mmである。また、溶射距離Dを徐々に長くしながら溶射することで、プラグ本体11の近傍の金属成分の比率を高くし、表面に向かうにしたがって酸化物の比率を高くすることができる。
回転台24によってプラグ本体11を軸周りに回転させながら、溶射皮膜12が所定の厚さになるまで溶射する。溶射皮膜12の厚さは、これに限定されないが、例えば200~3000μmである。
溶射皮膜12を形成後、拡散のための熱処理を実施することが好ましい。これによって、プラグ本体11と溶射皮膜12とをより密着させることができる。拡散のための熱処理として例えば、600~1250℃で10分以上保持することが好ましい。熱処理温度はより好ましくは600~1100℃である。
以上、本発明の一実施形態によるピアサープラグ10を説明した。本実施形態におけるピアサープラグ10のプラグ本体11は、オーステナイト系ステンレス鋼で構成される。オーステナイト系ステンレス鋼は、高温強度が高い。そのため、オーステナイト系ステンレス鋼をプラグ本体11に用いることは、穿孔時にプラグ本体変形(母材変形)抑制の観点から有効である。また、オーステナイト系ステンレス鋼のプラグ本体11は、拡散熱処理により焼きが入らない。そのため、オーステナイト系ステンレス鋼のプラグ本体11は、熱処理によって硬くも脆くもならない。そのため、例えば、溶射皮膜の密着性を高めるために拡散熱処理がしやすくなる。これに対して、低合金鋼やフェライト系ステンレス鋼でプラグ本体を形成した場合、拡散熱処理では、先端部に焼きが入り、且つ、胴部には焼きが入らないよう、部分的に熱処理温度を変える必要が生じる。オーステナイト系ステンレス鋼のプラグ本体11の場合は、ピアサープラグ10の全体に一様の温度で熱処理が可能であり、より製造工程が煩雑にならずにすむ。
このように、発明者らによって、オーステナイト系ステンレス鋼でプラグ本体11を構成することの利点が見いだされている。一方、オーステナイト系ステンレス鋼は、耐酸化性が高すぎて、従来のスケール処理では、酸化スケールを形成するのが難しい。また、オーステナイト系ステンレス鋼のプラグ本体に、鉄の溶射皮膜を形成した場合、皮膜が剥離しやすいことがわかっている。そこで、本実施形態では、オーステナイト系ステンレス鋼のプラグ本体11に、オーステナイト系ステンレス鋼を含む溶射皮膜12を形成している。これにより、溶射皮膜12の密着性及び耐摩耗性を確保できる。これは、溶射皮膜12とプラグ本体11との線膨張係数の差が小さいため、これらの密着性が高くなったと推定される。
本実施形態によれば、穿孔時の母材変形量が少なく、且つ、表面皮膜の密着性及び耐摩耗性に優れたピアサープラグ10が提供できる。本実施形態のピアサープラグ10は、マンネスマンマンドレルミル法による穿孔圧延工程に用いることができる。溶射皮膜が摩耗もしくは剥離によって焼失した時には、ピアサープラグの寿命となる。本実施形態のピアサープラグ10は、溶射皮膜12の密着性及び耐摩耗性に優れているため、寿命が長くなる。
上記の実施形態では、プラグ本体11が砲弾形状である場合を説明した。しかし、プラグ本体11の形状は任意である。ピアサープラグは例えば、図5に示す先端突出形状のプラグ本体13に溶射皮膜12が形成されたものであってもよい。図5に示す例では、プラグ本体13の先端と、横断面の直径が最大にある部分との間において、プラグ本体13の表面に溶射皮膜12が形成されない部分が存在する。
図6に示すように、ピアサープラグのプラグ本体14は、分割された先端部14aと胴部14bで構成されてもよい。図6に示す例では、先端部14a及び胴部14bのそれぞれに、別々の溶射皮膜12が設けられる。先端部14a及び胴部14bをまとめて一体的に覆う溶射皮膜12が設けられてもよい。また、図示しないが、プラグ本体14は、中心部と、中心部の表面に肉盛された肉盛部を含んでもよい。この場合、肉盛部を、オーステナイト系ステンレス鋼として、肉盛部の表面に、オーステナイト系ステンレス鋼の溶射皮膜を形成してもよい。なお、図1に示すように、プラグ本体12の全体をオーステン体系ステンレス鋼とする構成では、プラグ本体が、分割形状又は肉盛形状のように複数の部分を含む構成の場合よりも、製造工程が単純になり、製造コストが抑えられる。
このように、プラグ本体の後端面を除く表面のうち少なくとも一部の表面を含む部分がオーステナイト合金で形成される。そして、オーステナイト合金で形成されたプラグ本体の表面のうち後端面以外の表面の少なくとも一部がオーステナイト合金を含む溶射皮膜で覆われる。ここで、プラグ本体の全体が、オーステナイト合金で形成されてもよい。プラグ本体の後端面は、オーステナイト合金で形成されてもよいし、オーステナイト合金以外の材料で形成されてもよい。また、プラグ本体の後端面を除く表面の一部が、オーステナイト合金以外の材料で形成されてもよい。
オーステナイト合金を含む溶射皮膜は、オーステナイト合金で形成された本体の表面層以外の表面層を覆っていてもよい。例えば、少なくともプラグ本体の圧延部の表面を含む部分がオーステナイト合金で形成され、少なくとも圧延部の表面がオーステナイト合金を含む溶射皮膜で覆われる構成とすることができる。これにより、圧延時に、他の部分よりも大きな圧力がかかる部分における密着性及び耐摩耗性に優れたピアサープラグを提供できる。同様の観点から、プラグ本体11の外径が最大となる部分と、この部分より先端に近い部分において、プラグ本体11の表面層をオーステナイト合金で形成し、この表面層を、オーステナイト合金を含む溶射皮膜12が覆う構成としてもよい。
上記の実施形態では、溶射皮膜12をアーク溶射によって形成する場合を説明した。しかし、溶射皮膜12を形成する方法はこれに限定されない。溶射皮膜12は例えば、プラズマ溶射、フレーム溶射、高速フレーム溶射等によって形成することもできる。また、ピアサープラグは、丸ブレットを穿孔圧延する穿孔機(ピアサ)で用いられてもよいし、中空素管(ホローシェル)の拡径及び薄肉化をするエロンゲータで用いられてもよい。また、上記実施形態では、プラグ本体の表面層を形成するオーステナイト合金、及び溶射皮膜に含まれるオーステナイト合金が、いずれも、オーステナイト系ステンレス鋼である。これらのオーステナイト合金は、オーステナイト系ステンレス鋼に限られず、例えば、Fe-Mn合金であってもよい。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
SUS310のプラグ本体の上に溶射皮膜を形成してテストプラグを作成した。図3に示すアーク溶射装置を用いて溶射を行った。陽極線材及び陰極線材として、炭素鋼、SUS304、SUS316L、SUS308、及びSUS309の線材から選択された2つを陽極線材及び陰極線材として、溶射皮膜の成分を調整した。表1に示す陽極線材及び陰極線材の組み合わせで、SUS310のプラグ本体に溶射皮膜を施工した。図7は、表1のNo. 10のテストプラグに施工した溶射皮膜の断面観察結果を示す図である。
Figure 0007176344000001
表2は、表1におけるプラグ本体の材料の成分の組成を示す。
Figure 0007176344000002
表3は、表1における陽極線材、及び陰極線材の材料の成分の組成を示す。
Figure 0007176344000003
実施形態で説明した方法によって、下記の条件で、テストプラグの溶射皮膜のオーステナイト系ステンレス鋼の面積率、及び、溶射皮膜のオーステナイト系ステンレス鋼における各元素の含有量を分析した。

装置:JXA-8100
加速電圧:15kV
ピッチ:0.6μm
画素:500×500
分光結晶
Fe:LIF(FeKα)
Cr:LIFH(CrKα)
Ni:LIFH(NiKα)
O:LDE2(OKα)
(解析ソフトは標準装備)
表4は、表1におけるテストプラグNo.9~12の溶射皮膜のオーステナイト系ステンレス鋼の含有量を示す。
Figure 0007176344000004
溶射皮膜の拡散熱処理として、プラグ全体を大気中で、1000℃で10分保持後、大気放冷した。熱処理後のテストプラグを用いてラボ圧延にて穿孔テストを実施した。剥離の有無と、溶射皮膜の摩耗量の測定を実施した。表1に示す摩耗量は、テストプラグNo.1を基準(1)とする相対値である。
表1に示す線材の材料のうち、SUS304、SUS316L、SUS308、及びSUS309は、いずれも、オーステナイト系ステンレス鋼である。テストプラグNo.9~12においてこれらの少なくとも1つを線材として溶射した場合、溶射皮膜にオーステナイト系ステンレス鋼が含まれる、すなわち、溶射皮膜におけるオーステナイト系ステンレス鋼の面積率が0%ではなくなった。テストプラグNo.9~12では、プラグ本体をSUS310のオーステナイト系ステンレス鋼とし、且つ、溶射皮膜にオーステナイト系ステンレス鋼が含まれる。これらテストプラグNo.9~12では、剥離が発生せず、摩耗量がテストプラグNo.1よりも少なくなっている。この結果から、プラグ本体をオーステナイト系ステンレス鋼とし、且つ、溶射皮膜にオーステナイト系ステンレス鋼テストプラグが含まれる構成とすることで、溶射皮膜の密着性及び耐摩耗性が向上することがわかった。
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示にすぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
10 ピアサ-プラグ
11,13,14 プラグ本体
12 溶射皮膜
20 アーク溶射装置
21 溶射ガン
22 陽極線材
23 陰極線材
24 回転台
30 コアードワイヤ
31 外殻
32 充填材

Claims (8)

  1. 後端面を除く表面の少なくとも一部を含む部分がオーステナイト合金で形成された本体と、
    前記本体の前記オーステナイト合金で形成された表面の少なくとも一部を覆い、オーステナイト合金及びオーステナイト合金が酸化されて形成される酸化物を含む溶射皮膜と、を備えるピアサープラグ。
  2. 前記溶射皮膜におけるオーステナイト合金の含有率は、断面の面積率で10%以上且つ70%以下である、請求項1に記載のピアサープラグ。
  3. 前記溶射皮膜は、前記オーステナイト合金として、オーステナイト系ステンレス鋼を含み、前記オーステナイト系ステンレス鋼は、Cr:13質量%以上、Ni:8質量%以上を含む、請求項1又は2に記載のピアサープラグ。
  4. 前記溶射皮膜は、前記オーステナイト合金として、オーステナイト系ステンレス鋼を含み、オーステナイト合金が酸化されて形成される前記酸化物として、FeCr 及びCr の少なくともいずれかを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のピアサープラグ。
  5. 後端面を除く表面の少なくとも一部を含む部分がオーステナイト合金で形成された本体を準備する工程と、
    オーステナイト合金を含む線材を、前記本体の表面にアーク溶射することで、前記本体の前記オーステナイト合金で形成された表面に、前記オーステナイト合金及び前記オーステナイト合金が酸化されて形成される酸化物を含む溶射皮膜を形成する工程と、を有するピアサープラグの製造方法。
  6. 前記溶射皮膜が形成された前記本体を、熱処理する工程をさらに有する、請求項に記載のピアサープラグの製造方法。
  7. 前記線材に含まれる前記オーステナイト合金は、Cr:13~28質量%、Ni:8~23質量%、C:0.1質量%以下、Si:1.5質量%以下、Mn:2.0質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.05質量%以下、残部のFe及び不可避不純物から構成されるオーステナイト系ステンレス鋼である、請求項又はに記載の製造方法。
  8. 前記溶射皮膜を形成する工程の前記アーク溶射において、前記線材の噴射口から前記本体の表面までの溶射距離を、徐々に長くしながら前記線材を溶射する、請求項5~7のいずれか1項に記載のピアサープラグの製造方法。
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