本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。ここで、遺伝子は、DNAの形態(例えば、cDNAもしくはゲノムDNA)、またはRNA(例えば、mRNA)の形態にて存在し得る。DNAまたはRNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。また、遺伝子は化学的に合成してもよく、コードするタンパク質の発現が向上するように、コドンユーセージ(Codon usage)を変更してもよい。同じアミノ酸をコードするコドン同士であれば置換することも可能である。また、用語「タンパク質」は、「ペプチド」または「ポリペプチド」と交換可能に使用される。本明細書において使用される場合、塩基およびアミノ酸の表記は、適宜IUPACおよびIUBの定める1文字表記または3文字表記を使用する。
<1.本発明の概要>
本発明は、五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質、当該タンパク質をコードする遺伝子、当該遺伝子を導入した形質転換体、当該形質転換体を用いた前記タンパク質の製造方法、および、22α位が水酸化した五環系トリテルペン(以下、「22α位水酸化五環系トリテルペン」と称することもある)の製造方法に関する。
本明細書において、五環系トリテルペンは、スクアレンシンターゼ(SQS)およびスクアレンエポキシダーゼ(SQE)の触媒活性によりファルネシル二リン酸(FDP、FPPとも称する)(FPPの各種異性体を含む)から生成する化合物および化合物群を意図する。FPPからの生成は、SQSおよびSQEの触媒活性によるFPPの環化、酸化、水酸化等の酵素反応により行われるが、これらに限定されない。
本発明の理解の一助とすべく、五環系トリテルペン生成の概要について説明する。五環系トリテルペンは、メバロン酸経路(MVA経路とも呼ばれる)または非メバロン酸経路(MEP経路とも呼ばれる)により合成されたFPPから、2,3−オキシドスクアレンを経て合成される。FPPは、テルペンやステロイドを生合成するメバロン酸経路の中間体となる物質である。FPPは、SQSおよびSQEの作用により、2,3−オキシドスクアレンに変換される。2,3−オキシドスクアレンは、OSCによりα−アミリン、β−アミリン、ルペオール等の五環系トリテルペンの基本骨格を有する化合物に変換される。
このようにして生成した五環系トリテルペンの基本骨格を有する化合物は、その28位やβ22位が、シトクロームP450モノオキシゲナーゼ(P450)のCYP716Aサブファミリーの酵素により酸化されることが知られている。しかしながら、五環系トリテルペンの22α位を水酸化する酵素については、今まで報告されていない。本発明者らは、鋭意検討を行った結果、シロイヌナズナ由来の特定のCYP716Aサブファミリーが、五環系トリテルペンの22α位の水酸化に関わることを見出し、本発明を完成させるに至った。
22α位が水酸化した五環系トリテルペンは、がん細胞(LM3細胞)に対して増殖阻害活性を示すことから、医薬品原体あるいはそのリード化合物になることが期待される化合物であるが、パタゴニアに生息するキク科植物のNardophyllum bryoidesからごくわずかな量が単離されることは知られているが、人工的に合成する方法は知られていない。本発明者らが見出した、五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質によれば、22α位が水酸化された五環系トリテルペンを人工的に合成することができる。したがって、今後、名古屋議定書によりアクセスすることがより難しくなると考えられる、パタゴニアに生息するキク科植物から抽出しなくても、22α位が水酸化された五環系トリテルペンを生成することが可能である。
<2.タンパク質>
本発明に係るタンパク質は、五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有する酵素タンパク質である。「五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性」とは、基質である五環系トリテルペンの、22番目の炭素のα位に水酸基を付与する酵素活性を意味している。
本発明に係るタンパク質は、P450であり、具体的には、P450ファミリーのCYP716AサブファミリーのCYP716A2であることが好ましい。また、本発明において、CYP716A2はシロイヌナズナ由来であることが好ましい。
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は、ゲノム上に二分子種のCYP716Aサブファミリー(CYP716A1およびCYP716A2)を保持することが知られている。しかしながら、シロイヌナズナのゲノム情報を提供しているTAIR(The Arabidopsis Information Resource)においては、アノテーションが不正確であるため、本発明におけるCYP716A2と、TAIRにおけるCYP716A2とは同一ではない。すなわち、TAIRにおけるCYP716A2のAGIコード(Arabidopsis Genome Initiative code、シロイヌナズナの遺伝子座を示す番号)は、AT5G36140であるが、正しくは、AT5G36140に加えて、さらにAT5G36130も含む。
本発明におけるCYP716A2は、TAIRにおけるCYP716A2と、遺伝子配列およびアミノ酸配列は同一ではないが、本明細書中においては便宜上、CYP716A2と称する。したがって、特に明示しない限り、本明細書中におけるCYP716A2の記載は、本発明に係るCYP716A2を意味する。
本発明に係るタンパク質は、(f)配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質;(g)配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質;および(h)配列番号1に記載されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質、からなる群より選択されるいずれかのタンパク質である。さらに、後述する(a)〜(e)のいずれかの遺伝子にコードされるタンパク質も本発明には含まれ得る。
前記(f)のタンパク質に関して、配列番号1は、シロイヌナズナ由来のP450であるCYP716A2のアミノ酸配列を示しており、473アミノ酸残基から構成される。
前記(g)のタンパク質は、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質の、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、または他のタンパク質・ペプチドとの融合タンパク質等であって、五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする限り、その具体的な配列については限定されない。ここで欠失、置換または付加されてもよいアミノ酸の数は、前記機能を失わせない限り、限定されてないが、部位特異的突然変異誘発法等の公知の導入法によって欠失、置換または付加できる程度の数をいい、通常は、30アミノ酸以内であり、好ましくは20アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内であり、より好ましくは7アミノ酸以内、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、5、4、3、2または1アミノ酸)である。また、明細書中において「変異」とは、部位特異的突然変異誘発法等によって人為的に導入された変異を主に意味するが、天然に存在する同様の変異であってもよい。
変異するアミノ酸残基は、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されていることが好ましい。例えば、アミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸およびアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)が挙げられる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字表記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1または複数個のアミノ酸残基の欠失、付加および/または他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。さらに、標的アミノ酸残基は、共通した性質をできるだけ多く有するアミノ酸残基に変異させることがより好ましい。
本明細書において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、目的とするタンパク質と同等(同一および/または類似)の生物学的機能や生化学的機能を有することを意図する。生物学的な性質には発現する部位の特異性や、発現量等も含まれ得る。変異を導入したタンパク質が所望の機能を有するかどうかは、その変異タンパク質が五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するかどうか調べることにより判断できる。
前記(h)のタンパク質も、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質の、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、または他のタンパク質・ペプチドとの融合タンパク質等を意図しており、五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする限り、その具体的な配列については限定されない。アミノ酸配列の相同性とは、アミノ酸配列全体(または機能発現に必要な領域)で、少なくとも85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有することを意味する。アミノ酸配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993)に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore =100、wordlength =12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore =50、wordlength =3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。比較対象の塩基配列またはアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントするために、付加または欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。
本明細書において「相同性」とは、性質が類似のアミノ酸残基数の割合(homology、positive等)を意図しているが、より好ましくは、一致したアミノ酸残基数の割合、すなわち同一性(identity)である。なお、アミノ酸の性質については上述したとおりである。
(基質)
本発明に係るタンパク質により22α位が水酸化される基質である五環系トリテルペンには、植物によって合成されるトリテルペンまたはその誘導体が含まれ、例えばβ−アミリン(olean−12−en−3β−ol)、α−アミリン(urs−12−en−3β−ol)、ルペオール(lup−20(29)−en−3β−ol)、およびそれらの誘導体等が挙げられる。
誘導体は、五環系トリテルペンの、例えば1位、2位、11位、12位、28位、29位、30位などの、生合成中間体2,3−オキソスクアレンを原料とするその環化反応、および、22α位水酸化酵素活性に影響の少ないと思われる位置の水素原子が、別の置換基、例えば低級アルキル基(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、水酸基、エステル基(アセトキシ、プロパノイルオキシなど)、アシル基(ホルミル、アセチル、プロピオニルなど)、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシなど)、アミノ基、モノ−もしくはジ−低級アルキルアミノ基(メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノなど)、アミド基、低級アルキルアミド基(アセタミドなど)、オキソ基、シアノ基、ニトロ基、低級アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオなど)、スルフォニル基(メシル、エチルスルホニルなど)などの官能基で置換された化合物等を含む。さらに、これらの部位の水酸基、ヒドロキシメチル基またはカルボキシル基にブドウ糖などの単糖や複数の糖がつくトリテルペンサポニンでもかまわない。
本発明の22α位水酸化酵素の基質となる五環系トリテルペンとしては、β−アミリンまたはα−アミリンであることが好ましく、α−アミリンであることがより好ましい。
ここで、図1、2および5を参照して五環系トリテルペンの22α位の水酸化について説明する。図1に示すように、α−アミリンの22α位の水素基を水酸基で置換することにより、α−アミリンの22α位が水酸化され、22α−ヒドロキシ−α−アミリンが得られる。また、図2に示すように、β−アミリンの22α位の水素基を水酸基で置換することにより、β−アミリンの22α位が水酸化され、22α−ヒドロキシ−β−アミリンが得られる。五環系トリテルペンの22α位とは、図5の22α−ヒドロキシ−α−アミリンの構造式に示すように、炭素の22番目のα位を意味している。
α−アミリンは、α−アミリン合成酵素の作用によって、2,3−オキシドスクアレンから合成され、β−アミリンは、β−アミリン合成酵素の作用によって合成される(P.M.Dewick, Medicinal Natural Product, 3rd ed., John Wiley & Sons, 2009)。これらの合成酵素に関する配列情報およびクローニングについては、種々の植物の例えば根や種子由来のcDNAライブラリーからクローニングされて配列決定されており、すでに公知である。α−アミリン合成酵素については、M. Morita et al., Eur. J. Biochem. 267:3453-3460 (2000)などに記載されている。β−アミリン合成酵素については、H. Hayashi et al., Biol. Pharma. Bull. 24(8):912-916 (2001)、T. Kushiro et al., Eur. J. Biochem. 256:238-244 (1998)、米国特許No. 7,186,884、WO 2003/095615、EMBL Accession No. AY095999およびAAM23264.1(Glycine max)などに記載されている。
これらの合成酵素は、例えばオオムギ、マメ、ピーナッツ、シュガービート、コムギ、オートムギ、馬鈴薯、ニンニク、タマネギ、アスパラガス、茶、イネ、ライムギ、ダイズ、イチゴ、ヒマワリ、トマトなどの植物に存在することが知られている(米国特許No. 7,186,884)ので、必要に応じて、これらの植物から上記文献記載のクローニング手法を用いて、α−アミリン合成酵素およびβ−アミリン合成酵素をコードするDNAを取得し、周知のDNA組換え技術、PCR法などを使用して該DNAを微生物細胞または植物細胞に導入して該合成酵素を発現するようにすることも可能である。
このようにして得られた形質転換細胞または植物細胞から再生されたトランスジェニック植物は、これにさらに22α位を水酸化する、本発明に係るタンパク質をコードするDNAを発現可能に組み込むことによって、22α位が水酸化された五環系トリテルペンを生成可能になる。
<3.遺伝子>
本発明に係る(A)遺伝子は、上述した本発明に係るタンパク質をコードする遺伝子であり、すなわち、五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有する酵素タンパク質をコードする遺伝子である。本発明に係る遺伝子は、シロイヌナズナ由来のCYP716A2遺伝子であり得る。
本発明に係る遺伝子は、(a)配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;(b)配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;(c)配列番号1に記載されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;(d)配列番号2に記載される塩基配列からなる遺伝子;および(e)前記(a)〜(d)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、からなる群より選択されるいずれかの遺伝子である。
前記(a)の遺伝子に関して、配列番号1は、シロイヌナズナ由来のP450であるCYP716A2のアミノ酸配列を示しており、このアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子である。
前記(b)の遺伝子は、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質の、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、または他のタンパク質・ペプチドとの融合タンパク質等であって、五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする限り、その具体的な配列については限定されない。その他の説明は、前記(g)のタンパク質と共通するため、省略する。
前記(c)の遺伝子は、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質の、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、または他のタンパク質・ペプチドとの融合タンパク質等を意図しており、五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする限り、その具体的な配列については限定されない。その他の説明は、前記(h)のタンパク質と共通するため、省略する。
前記(d)の遺伝子について、配列番号2は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列(Open Reading Frame:ORF)を示す。
前記(e)の遺伝子は、前記(a)〜(d)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子を意図する。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成され、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成されない条件をいう。換言すれば、相同性が高い核酸同士、例えば完全にマッチしたハイブリッドの融解温度(Tm値)から15℃、好ましくは10℃、更に好ましくは5℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件ともいえる。例えば、一例を示すと、0.25M Na2HPO4、pH7.2、7%SDS、1mM EDTA、1×デンハルト溶液からなる緩衝液中で温度が60〜68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で16〜24時間ハイブリダイズさせ、さらに20mM Na2HPO4、pH7.2、1%SDS、1mM EDTAからなる緩衝液中で温度が60〜68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で15分間の洗浄を2回行う条件を挙げることができる。
他の例としては、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/mL変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほど、特異性の高いハイブリダイズとなる。ただし、前記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する前記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間等)を適宜組み合わせることにより、前記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。このことは、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001)等に記載されている。
また、前記(e)の遺伝子には、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入および/または付加しているDNAからなる遺伝子、および配列番号2のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子も含まれる。
上述した遺伝子を得る方法としては、通常行われるポリヌクレオチド改変方法を用いてもよい。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドの特定の塩基を置換、欠失、挿入および/または付加することで、所望の組換えタンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドを作製することができる。ポリヌクレオチドの塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(KOD-Plus Site-Directed Mutagenesis Kit;東洋紡製,Transformer Site-Directed Mutagenesis Kit; Clontech製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit; Stratagene製など)の使用、またはポリメラーゼ連鎖反応法(polymerase chain reaction:PCR)の利用が挙げられる。これらの方法は当業者に公知である。
また、前記遺伝子は、本発明に係るタンパク質をコードするポリヌクレオチドのみからなるものであってもよいが、その他の塩基配列が付加されていてもよい。付加される塩基配列としては、特に限定されないが、標識(例えば、ヒスチジンタグ、MycタグまたはFLAGタグなど)、融合タンパク質(例えば、ストレプトアビジン、シトクローム、GST、GFPまたはMBPなど)、プロモーター配列、およびシグナル配列(例えば、小胞体移行シグナル配列、および分泌配列など)をコードする塩基配列などが挙げられる。これらの塩基配列が付加される部位は特に限定されるものではなく、例えば、翻訳されるタンパク質のN末端であっても、C末端でもあってもよい。
<4.ベクター>
また、本発明には、前記遺伝子を含むベクターが含まれ得る。本ベクターとしては、形質転換体作製のために宿主細胞内で、前記遺伝子を発現させるための発現ベクターのほか、組換えタンパク質の生産に用いるものも含まれる。形質転換の対象は特に限定されず、細菌、酵母(出芽酵母、分裂酵母、油性酵母等)、昆虫、動物および植物を例示することができる。本発明において、好ましくは、酵母が形質転換の対象とされる。
前記ベクターの母体となる基材ベクターとしては、一般的に使用される種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージまたはコスミド等を用いることができ、導入される細胞または導入方法に応じて適宜選択できる。つまり、ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。宿主細胞の種類に応じて、確実に前記遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと前記遺伝子を各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。
発現ベクターとして、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、染色体ベクター、エピソームベクターおよびウイルス由来ベクター(例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体エレメントおよびウイルス(例えば、バキュロウイルス、パポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、トリポックスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルスおよびレトロウイルス))ならびにそれらの組合せに由来するベクター(例えば、コスミドおよびファージミド)を利用可能である。
一般的に、プラスミドベクターは、リン酸カルシウム沈殿物のような沈殿物中か、または荷電された脂質との複合体中で導入される。ベクターがウイルスである場合、ベクターは、適切なパッケージング細胞株を用いてin vitroでパッケージングされ得、次いで宿主細胞に形質導入され得る。また、レトロウイルスベクターは、複製可能かまたは複製欠損であり得る。後者の場合、ウイルスの増殖は、一般的に、ヘルパー細胞においてのみ生じる。
また、前記ベクターは、目的の遺伝子に対するシス作用性制御領域を含むベクターが好ましい。適切なトランス作用性因子は、宿主によって供給され得るか、相補ベクターによって供給され得るか、または宿主への導入の際にベクター自体によって供給され得る。この点に関する好ましい実施態様としては、前記ベクターは、誘導性および/または細胞型特異的であり得る特異的な発現を提供するものであることが好適である。このようなベクターの中で特に好ましいベクターは、温度および栄養添加物のような操作することが容易である環境因子によって誘導性のベクターである。
細菌における使用に好ましいベクターの中には、例えば、pQE−70、pQE−60およびpQE−9(Qiagen社から入手可能);pBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18AおよびpNH46A(Stratagene社から入手可能);ptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540およびpRIT5(Addgene社から入手可能);ならびにpRSF(MERCK社から入手可能);ならびにpAC(ニッポンジーン社から入手可能)が含まれる。また、好ましい真核生物ベクターの中には、pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1およびpSG(Stratagene社から入手可能);ならびにpSVK3、pBPV、pMSGおよびpSVL(Addgene社から入手可能)が含まれる。
前記遺伝子が宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。すなわち、前記ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このような選択マーカーとしては、例えば、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性、E.coliおよび他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。また、その他にも宿主細胞中で欠失している遺伝子をマーカーとして用いてもよい。このマーカーと本発明に係る遺伝子とを含むプラスミド等を発現ベクターとして宿主細胞に導入することにより、マーカー遺伝子の発現から前記遺伝子の導入を確認することができる。また、前記遺伝子は、宿主細胞における増殖のための選択マーカーを含むベクターに結合されてもよい。
また、前記遺伝子のインサートは、適切なプロモーターに作動可能に連結されることが好ましい。他の適切なプロモーターとしては、当業者に知られたものを利用可能であり、特に限定されないが、例えば、ファージλPLプロモーター、E.coli lacIプロモーター、lacZプロモーター、T3プロモーターおよびT7プロモーター、trpプロモーターおよびtacプロモーター、SV40初期プロモーターおよび後期プロモーターならびにレトロウイルスLTRのプロモーターが挙げられる。
形質転換における宿主として酵母を用いる場合には、酵母内複製させるための「ori」および形質転換された酵母を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシンおよびクロラムフェニコール等)耐性遺伝子)をベクター上に有することが好ましい。酵母発現ベクターとしては、例えば、YEp−FLAG−1(SIGMA社製)、pYES2、pYD1(Invitorogen社製)、pUR123(宝酒造社製)、pYEX−BX、pYEX−S1、pYEX−4T(CLONTECH社製)、pESC等が挙げられる。
前記ベクターは、さらに、転写開始、転写終結のための部位、および、転写領域中に翻訳のためのリボゾーム結合部位を含むことが好ましい。ベクター構築物によって発現される成熟転写物のコード部分は、翻訳されるべきポリペプチドの始めに転写開始AUGを含み、そして終わりに適切に位置される終止コドンを含むことになる。
また、高等真核生物によるDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増大させ得る。エンハンサーは、所定の宿主細胞型におけるプロモーターの転写活性を増大するように働く、通常約10〜300bpのDNAのシス作用性エレメントである。エンハンサーとしては、例えば、SV40エンハンサー(これは、複製起点の後期側上の100〜270bpに位置される)、サイトメガロウイルスの初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側上のポリオーマエンハンサーおよびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。
<5.形質転換体>
本発明に係る形質転換体は、特定のP450をコードするP450遺伝子を導入し、発現させた形質転換体であればよく、その他の具体的な構成は特に限定されない。本発明に係る形質転換体に導入されたP450遺伝子は、CYP716Aサブファミリーの酵素である、シロイヌナズナ由来のCYP716A2をコードする遺伝子である。
本発明に係る形質転換体は、(a)配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;(b)配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;(c)配列番号1に記載されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;(d)配列番号2に記載される塩基配列からなる遺伝子;および(e)前記(a)〜(d)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ五環系トリテルペンの22α位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、からなる群より選択されるいずれかの遺伝子を導入した形質転換体である。
すなわち、本発明に係る形質転換体には、上述した、本発明に係る(A)遺伝子または、当該遺伝子を含むベクターを含む形質転換体が含まれる。ここで、「遺伝子またはベクターを含む」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されていることを意味する。また、前記「形質転換体」とは、細胞・組織・器官のみならず、生物個体を含む意味である。
また、本発明に係る形質転換体は、上述した本発明に係る遺伝子を含むベクターを、宿主に、複数導入したものであってもよい。これにより、本発明に係る遺伝子の発現量を増やすことができる。
本発明に係る形質転換体の作製方法(生産方法)としては、上述したベクターを形質転換する方法が挙げられる。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、後述する宿主細胞に例示した各種微生物を挙げることができる。また、プロモーターまたはベクターを選択すれば、植物または動物も形質転換の対象とすることが可能である。
ベクターを導入する宿主としては、特に限定されないが、各種細胞を好適に用いることができる。適切な宿主の代表的な例としては、菌体(例えば、E. coli細胞、Streptomyces細胞およびSalmonella typhimurium細胞)、真菌細胞(例えば、酵母細胞)、昆虫細胞(例えば、Drosophila S2細胞およびSpodoptera Sf9細胞)、動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞およびBowes黒色腫細胞)ならびに植物細胞が挙げられる。より具体的には、ヒトまたはマウス等の哺乳類の細胞だけでなく、例えば、カイコガ由来の細胞をはじめとして、キイロショウジョウバエ等の昆虫、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、および油性酵母(Yarrowia lipolytica、Rhodosporidium toruloides、Xanthophyllomyces dendrorhous、Rhodotorula glutinis、Rhodotorula acheniorum、およびLipomyces starkeyi))、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。前記の宿主細胞のための適切な培養培地および条件は当分野で公知ものを利用可能である。
本発明に係る形質転換体は、組換え酵母であることが好ましい。また、本発明に係る形質転換体は、サイトゾルにDMAPP(ジメチルアリルピロリン酸)を生合成する経路(メバロン酸経路)を有している酵母が宿主であることがより好ましい。
組換え酵母の宿主酵母株については各種の酵母株を用いることができ特に限定されないが、例えば、Saccharomyces属酵母、Pichia属酵母、Schizosaccharomyces属酵母、Yarrowia属酵母、Rhodotorula属酵母、Rhodosporidium属酵母、Xanthophyllomyces属酵母、Cryptococcus属酵母、Lipomyces属酵母、Trichosporon属酵母、Kluyveromyces属酵母、Candida属酵母、Pseudozyma属酵母、Ustilago属酵母、Debaryomyces属酵母、Sporobolomyces属酵母、Guehomyces属酵母などが挙げられる。好ましくは、Saccharomyces属酵母、Pichia属酵母が用いられ、より好ましくは、Saccharomyces属酵母が用いられる。このような菌株であれば、高効率で本発明に係るタンパク質を製造することができる。
前記ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入または感染等の従来公知の方法を好適に用いることができる。このような方法は、Davisら、Basic Methods In Molecular Biology (1986) のような多くの標準的研究室マニュアルに記載されている。
本発明に係る形質転換体は、本発明に係るタンパク質の部分断片(フラグメント)を組換え的に生成するための、前記タンパク質の部分断片をコードするポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターおよび組換え発現ベクターで遺伝子操作された形質転換体(宿主細胞)を含む。
<6.他の遺伝子を導入した形質転換体>
また、本発明には、以下の(B)の遺伝子を導入し発現させた形質転換体が含まれる:
(B)五環系トリテルペン合成酵素遺伝子。
前記(B)の遺伝子は、本発明に係るタンパク質の基質である五環系トリテルペンを生成する活性を有する酵素タンパク質(五環系トリテルペン合成酵素)をコードする遺伝子であり、当該酵素タンパク質は、五環系トリテルペンを生成する活性を有している限り、別段に制限されない。
本発明に係る形質転換体の宿主が、五環系トリテルペン合成酵素遺伝子を有していない場合に、五環系トリテルペン合成遺伝子を本発明に係る形質転換体に導入する態様は当然に好ましいが、宿主が自身の五環系トリテルペン合成酵素遺伝子を有している場合においても、五環系トリテルペン合成酵素遺伝子を導入する態様は好ましくあり得る。五環系トリテルペン合成酵素遺伝子を有している宿主細胞には、植物細胞、および特定の酵母細胞が含まれる。
五環系トリテルペン合成酵素遺伝子として、例えば、α−アミリン合成酵素遺伝子、β−アミリン合成酵素遺伝子が挙げられ、本発明に係る形質転換体は、α−アミリン合成酵素遺伝子が導入されていることが好ましい。α−アミリン合成酵素およびβ−アミリン合成酵素の詳細については、前記2.タンパク質に記載したものと共通するため、省略する。
さらに、本発明には、以下の(C)の遺伝子を導入し発現させた形質転換体が含まれる:
(C)NADPH−シトクロームP450還元酵素(以下、単に「CPR」と称する場合もある)遺伝子。
前記(C)CPRは、P450が酸化反応を行う際に必要な電子を供給するフラビン酵素であり、自らの補酵素であるFADおよびFMNが結合するドメイン(各々、FAD結合ドメインおよびFMN結合ドメイン)をその内部に包含している。本発明において、形質転換体のための宿主(以下、単に「宿主」と記す。)が自身のCPR遺伝子を有していない場合に、CPR遺伝子を導入する態様は当然に好ましいが、宿主が自身のCPR遺伝子を有している場合においても、CPR遺伝子を導入する態様は好ましくあり得る。例えば、本発明の宿主が酵母である場合において、酵母自体はCPR遺伝子を有しているが、さらにCPR遺伝子を導入する態様が好ましくあり得る。また、例えば、本発明の宿主が大腸菌である場合において、大腸菌自体はNADPH−シトクロームP450還元酵素遺伝子を有していないので、当該遺伝子を導入する態様が好ましくあり得る。
NADPH−シトクロームP450還元酵素遺伝子の由来は、特段限定されることなく、任意の生物種由来の遺伝子を用いることができる。また、NADPH−シトクロームP450還元酵素遺伝子は、同時に発現させるP450ならびに導入される宿主細胞との関係を考慮して適宜設定することができる。
導入されるCPR遺伝子は、宿主と同じ種由来のCPR遺伝子であってもよく、異なる種由来のCPR遺伝子であってもよい。好ましくは、異なる種由来のCPR遺伝子であり、より好ましくは、植物由来のCPR遺伝子である。
さらに、本発明には、FPPの供給量を上げるために、以下の(D)〜(F)の遺伝子を導入し発現させた形質転換体が含まれ得る:
(D)HMG−CoA合成酵素遺伝子;
(E)HMG−CoA還元酵素遺伝子;
(F)1型および/または2型イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子。
上述した(A)〜(C)の遺伝子に加えて、メバロン酸またはメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群として前記(D)および(E)の遺伝子を、形質転換体に導入することが好ましい。
前記(D)および(E)の遺伝子群としては、ストレプトミセス属CL190株由来のメバロン酸経路遺伝子群(特開2009−207376号公報、Accession no AB037666)を用いることができるが、これ以外にも出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のメバロン酸経路遺伝子群(V. J. J. Martin, D. J. Pitera, S. T. Withers, J. D. Newman, J. D. Keasling, Nature Biotechnology, 21: 796-802, 2003)、細菌ストレプトコッカス・プノイモニエ(Streptococcus pneumoniae)由来のメバロン酸経路遺伝子群(S. H. Yoon, Y. M. Lee, J. E. Kim, S. H. Lee, J. H. Lee, J. Y. Kim, K. H. Jung, Y. C. Shin, J. D. Keasling, S. W. Kim, Biotechnology & Bioengineering, 94: 1025-1032, 2006)なども好適に用いることができる。
さらに、FPPの供給量を上げるために、(F)1型および/または2型イソペンテニル二リン酸イソメラーゼIPPイソメラーゼ(Idi;IPP isomerase)遺伝子を用いることが好ましい。Idiには互いに構造が異なる、1型(type 1)と2型(type 2)のものが存在するが、本発明では、いずれのIdiを用いてもよいが、最も好ましくは両方のIdiを用いる態様である。Idi遺伝子としては、ストレプトミセス属CL190株由来のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(特許文献1、Accession no AB037666)を用いることができるが、これ以外にも大腸菌由来のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(V. J. J. Martin, D. J. Pitera, S. T. Withers, J. D. Newman, J. D. Keasling, Nature Biotechnology, 21: 796-802, 2003)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(S. Kajiwara, P. D. Fraser, K. Kondo, N. Misawa, Biochemical Journal, 324: 421-426, 1997)、緑藻ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)由来のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(前述のV. J. J. Martinらの文献、および前述のS. Kajiwaraらの文献)なども用いることができる。
上述した(D)および(E)のメバロン酸経路遺伝子群、ならびに(F)のIdi遺伝子を導入した形質転換体によれば、培地中にメバロン酸またはメバロノラクトン(D−メバロノラクトン(D-mevalonate lactone))を基質として配合することにより、FPPを大量に生産することができる。
本発明の形質転換体において、宿主として酵母を用いる場合、通常の酵母株を使用することもできるし、FPPを高生産する酵母を使用することもできる。FPPを高生産する酵母の製造は、当分野において既知の技術を用いて、当業者により容易に実施することができる。
またさらに、本発明には、五環系トリテルペンの生産を増強させるために以下の(G)および(H)の遺伝子を導入し発現させた形質転換体が含まれ得る:
(G)スクアレンシンターゼ(SQS)遺伝子;
(H)スクアレンエポキシダーゼ(SQE)遺伝子。
前記(G)SQS遺伝子は、2分子のFPPを結合させてスクアレンを生成する反応を触媒する酵素遺伝子であり、(H)SQE遺伝子は、分子状酸素をスクアレンに付加して2,3−オキシドスクアレンを生成する反応を触媒する酵素遺伝子である。本発明において、(G)および(H)の遺伝子を用いることにより、五環系トリテルペンの生産量を上げることができる。導入されるSQS遺伝子およびSQE遺伝子は、宿主と同じ種由来の遺伝子であってもよく、異なる種由来の遺伝子であってもよい。好ましくは、植物由来の遺伝子である。例えば、SQS遺伝子として、出芽酵母由来のERG9遺伝子を、また、SQE遺伝子として、出芽酵母由来のERG1遺伝子などを例示できる。
一方、基質として、メバロノラクトンより安価なアセト酢酸塩(例えばlithium acetoacetate;LAA)を基質として利用することもできる。培地中に添加されたLAAを利用するためには、それを基質とするアセト酢酸−コエンザイムA(CoA)リガーゼ(acetoacetate-CoA ligase)遺伝子を、さらに導入することが好ましい。
アセト酢酸−CoAリガーゼは、アセト酢酸とCoAとを基質とし、ATPを用いてアセトアセチル−CoAへの変換を触媒する酵素である(J.R. Stern, Biochem. Biophys. Res. Commun. 44, 1001-1007, 1971; Bergstrom, J.D.;Wong, G.A.; Edwards, P.A.; Edmond, J., J. Biol. Chem. 259, 14548-14553, 1984)。アセト酢酸−CoAリガーゼ遺伝子としては、ラット(Rattus norvegicus)やヒトなどの哺乳類、ある種のバクテリア、菌類等に由来する遺伝子が知られており、本発明においても、これらの遺伝子を使用することができる。また、ラット由来のアセト酢酸−CoAリガーゼをコードする遺伝子全長(Accession No.BC061803)を含むプラスミドは、Mammalian Gene Collection cDNAクローンとして、Invitrogen社より取得できる(クローンID: 5598532)。
<7.形質転換体による酵素の製造方法>
本発明には、本発明に係る形質転換体を培養して、本発明に係るタンパク質である、CYP716A2を製造する方法も含まれ得る。例えば、本発明に係る形質転換体を培地において培養し、培養物中に本発明に係るタンパク質を生成蓄積させ、生成したタンパク質を該培養物から採取することにより、本発明に係るタンパク質を製造することができる。
上記形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
大腸菌等の原核生物や、酵母等の真核生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、該生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地および合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、該生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類等を用いることができる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体、およびその消化物等を用いることができる。
無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。
培養は、通常振盪培養または深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常5時間〜7日間である。培養中pHは3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機または有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。また、培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
本発明に係るタンパク質の製造方法としては、宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、あるいは宿主細胞外膜上に生産させる方法があり、選択した方法に応じて、生産させるタンパク質の構造を変えることができる。
本発明に係るタンパク質が宿主細胞内あるいは宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法(J.Biol.Chem.,264,17619(1989))、ロウらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990))、または、特開平05−336963、WO94/23021等に記載の方法を準用することにより、該タンパク質を宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。すなわち、遺伝子組換えの手法を用いて、本発明のタンパク質の活性部位を含むタンパク質の手前にシグナルペプチドを付加した形で生産させることにより、該タンパク質を宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
また、特開平2−227075号公報に記載されている方法に準じて、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等を用いた遺伝子増幅系を利用して生産量を上昇させることもできる。さらに、遺伝子導入した植物の細胞を再分化させることにより、遺伝子が導入された植物個体(トランスジェニック植物)を造成し、これらの個体を用いて本発明に係るタンパク質を製造することもできる。
本発明に係るタンパク質を生産する形質転換体が植物個体の場合は、通常の方法に従って、飼育または栽培し、該タンパク質を生成蓄積させ、該植物個体より該タンパク質を採取することにより、該タンパク質を製造することができる。
本発明に係るタンパク質を生産する形質転換体を用いて製造された本発明に係るタンパク質を単離・精製する方法としては、通常の酵素の単離、精製法を用いることができる。例えば、本発明に係るタンパク質が、細胞内に溶解状態で生産された場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。
得られた無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、通常の酵素の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等レジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
また、本発明に係るタンパク質が細胞内に不溶体を形成して生産された場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈殿画分より、通常の方法により該タンパク質を回収後、該タンパク質の不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。
得られた可溶化液を、タンパク質変性剤を含まない溶液またはタンパク質変性剤の濃度がタンパク質を変性させない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、該タンパク質を正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
本発明に係るタンパク質またはその糖修飾体等の誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清から該タンパク質またはその糖付加体等の誘導体を回収することができる。すなわち、得られた培養物を上記と同様の遠心分離等の手法により処理することにより可溶性画分を取得し、該可溶性画分から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
また、本発明に係るタンパク質を他のタンパク質との融合タンパク質として生産し、融合したタンパク質に親和性をもつ物質を用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用して精製することもできる。例えば、ロウらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990))、特開平5−336963、WO94/23021に記載の方法に準じて、本発明に係るタンパク質をプロテインAとの融合タンパク質として生産し、イムノグロブリンGを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
また、本発明に係るタンパク質をFlagペプチドとの融合タンパク質として生産し、抗Flag抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990))。さらに、該タンパク質自身に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することもできる。
上述したように取得したタンパク質のアミノ酸配列情報を基に、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法により、本発明のタンパク質を製造することができる。また、Advanced ChemTech社、パーキン・エルマー社、Pharmacia社、Protein Technology Instrument社、Synthecell−Vega社、PerSeptive社、島津製作所等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
<8.形質転換体による22α位水酸化五環系トリテルペンの製造方法>
本発明に係る製造方法は、22α位水酸化五環系トリテルペンの製造方法であり、本発明に係る形質転換体を培養して、22α位が水酸化された五環系トリテルペンを製造する。本発明に係る製造方法は、上述した本発明に係る形質転換体を使用するものであればよく、その他の具体的な構成については特に限定されない。
本発明に係る製造方法においては、本発明に係る遺伝子と、五環系トリテルペン合成酵素遺伝子とが導入された本発明に係る形質転換体を培養することにより、22α位が水酸化された五環系トリテルペンを製造してもよい。本発明に係る製造方法によれば、基質である五環系トリテルペン合成酵素遺伝子と、本発明に係る遺伝子である、五環系トリテルペンの22α位を水酸化する酵素遺伝子とを共に発現させることによって、22α位が水酸化された五環系トリテルペンを製造することができる。
本発明に係る形質転換体を用いて、五環系トリテルペン合成酵素遺伝子と、本発明に係る遺伝子とを共に発現させる方法においては、本発明に係る形質転換体の培養物中に22α位が水酸化された五環系トリテルペンを生成および蓄積させ、この培養物の処理物から生成された化合物を回収する。
培養物の処理物としては、培養物の濃縮物、培養物の乾燥物、培養物を遠心分離して得られる菌体、該菌体の乾燥物、該菌体の凍結乾燥物、該菌体の界面活性剤処理物、該菌体の超音波処理物、該菌体の機械的摩砕処理物、該菌体の溶媒処理物、該菌体の酵素処理物、該菌体のタンパク質分画物、該菌体の固定化物あるいは該菌体より抽出して得られる酵
素標品等をあげることができる。
本発明に係る形質転換体を培養する工程に関しては、五環系トリテルペン合成酵素遺伝子と、本発明に係る遺伝子とを共に発現させるように培養すればよく、従来公知の手法を好適に利用でき、特に限定されない。培養条件の詳細については、上述した7.形質転換体による酵素の製造方法に記載した条件と共通するため、省略する。また、培養物または菌体からの22α位水酸化五環系トリテルペンの採取方法についても、微生物生産物を得るのに常用される方法に従って行うことができ、特に限定されない。採取方法の詳細については、上述した7.形質転換体による酵素の製造方法に記載した方法と共通するため、省略する。
また、本発明に係る製造方法は、培養工程において、本発明に係る遺伝子が導入された本発明に係る形質転換体を培養し、得られた培養物に、基質である五環系トリテルペンまたはその誘導体を添加する工程をさらに含んでいてもよい。本発明に係る遺伝子が発現した本発明に係る形質転換体の培養物に、五環系トリテルペンを含有する溶液を加えることで、22α位が水酸化された五環系トリテルペンを製造することができる。
本発明に係る形質転換体が、本発明に係るタンパク質を宿主細胞外に分泌する場合には、培養物に五環系トリテルペンを含有する溶液を添加してもよいし、培養物から精製した本発明に係るタンパク質に、五環系トリテルペンを含有する溶液を添加してもよい。
本発明に係る形質転換体が、本発明に係るタンパク質を宿主細胞内または宿主細胞外膜上に生産する場合、培養後に得られた細胞の懸濁液を破砕後、遠心分離して無細胞抽出液を得る。得られた無細胞抽出液、または無細胞抽出液から精製した本発明に係るタンパク質を含む溶液に、基質となる五環系トリテルペンを添加してインキュベートすることで、22α位が水酸化された五環系トリテルペンを製造することができる。
この製造法において、本発明のタンパク質は、基質として用いる五環系トリテルペン1mg当たり0.01〜100mg、好ましくは0.1mg〜10mg添加する。また、この製造法において、基質として用いる五環系トリテルペンは、0.1〜500g/L、好ましくは0.2〜200g/Lの濃度になるように反応水性媒体に初発または反応途中に添加する。22α位が水酸化された五環系トリテルペンの生成反応は水性媒体中、pH5〜11、好ましくはpH6〜10、20〜50℃、好ましくは25〜45℃の条件で2〜150時間、好ましくは6〜120時間行う。
また、本発明には、本発明に係る形質転換体を含むトランスジェニック植物においてを生長させることで、五環系トリテルペンの22α位を水酸化する酵素を発現させて22α位が水酸化された五環系トリテルペンを製造し、根や種子等から回収する方法も含まれる。さらに、本発明には、化学合成した本発明に係るタンパク質を含む溶液に、五環系トリテルペンを添加することで、22α位が水酸化された五環系トリテルペンを製造する方法も含まれる。
本発明に係る22α位水酸化五環系トリテルペンの製造方法によって得られた物質は、当分野において既知である任意の技術を用いて、その構造を決定することができる。構造を決定するための技術としては、例えば、X線回折、NMR(核磁気共鳴法)、赤外分光法(IR)、MS(質量分析)がなど挙げられるが、これらに限定されない。
その他、前記<1>〜<8>の各項目で記載した内容は、他の項目においても適宜援用できることを付言する。また、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
<1.α−アミリン合成酵素遺伝子の酵母発現プラスミドの構築>
α−アミリン合成酵素遺伝子(GenBank accession no.AB291240)を有するエントリークローンを作製し、pYES3/CT(AUR)−Gateway−1ベクターと混合して、Gateway LR Clonase II Enzyme Mix(Invitrogen社)を用いて、α−アミリン合成酵素遺伝子の酵母発現プラスミドpYES3−ADH−aASを得た。
<2.β−アミリン合成酵素遺伝子の酵母発現プラスミドの構築>
β−アミリン合成酵素遺伝子(GenBank accession no.AB181244)を制限酵素XbaI、KpnI認識配列を付加したプライマーを使用したPCRで増幅後、当該制限酵素で処理し、ライゲーションにより、pAUR123(TaKaRaバイオ社)へクローニングした。得られたPADH1−bAS−TADH1領域をPCRで増幅させ、In−Fusionクローニング(Clontech社)によりpYES3/CTベクターへ移し、β−アミリン合成酵素遺伝子の酵母発現プラスミドpYES3−ADH−bASを得た。
<3.CYP716A2遺伝子cDNAの単離>
シロイヌナズナcDNAライブラリー(SuperScript Pre-Made cDNA Library, Invitrogen社, 11474-012)からCYP716A2全長cDNAを、遺伝子特異的プライマーで増幅させ、pENTR−D−TOPOベクターへクローニングし、エントリークローンを取得した。
<4.CYP716A2の酵母発現プラスミドの構築>
上記3.の項において構築したCYP716A2全長cDNAを含むエントリークローンとpELC(pESC−LEU)(Agilent社)クローニングサイト1に、ミヤコグサ由来のCytochrome P450 Reductase(CPR)(GenBank accession no. AB433810)を挿入したベクター、pESC−HIS(Agilent社)のクローニングサイト2へGatewayカセットを挿入したpELC−GW、pESC−HIS−GW、あるいはpYES−DEST52(Invitrogen社)を混合して、Gateway LR Clonase II Enzyme Mix(Invitrogen社)を用いて、CYP716A2遺伝子の酵母発現プラスミドpELC−CYP716A2、pESC−HIS−CYP716A2、及びpYES−DEST52−CYP716A2を構築した。
<5.酵母の形質転換>
Frozen−EZ Yeast Transformation II(Zymo Research)を用いて、製品に付属のプロトコルに従い、出芽酵母INVSc1株(MATa his3D1 leu2 trp1-289 ura3-52)(Invitrogen社)への遺伝子導入を行った。上記1.で得られたα−アミリン合成酵素遺伝子の酵母発現プラスミドpYES3−ADH−aAS、または、上記2.で得られたβ−アミリン合成酵素遺伝子の酵母発現プラスミドpYES3−ADH−bASと、上記4.で得られたCYP716A2発現プラスミドpELC−CYP716A2、pESC−HIS−CYP716A2、及びpYES−DEST52−CYP716A2と、を用いて上記酵母の形質転換をそれぞれ行った。
遺伝子導入操作後のそれぞれ組み換え酵母を、トリプトファン、ロイシン、ウラシル、およびヒスチジンを含まない、2%グルコース含有合成完全培地(SC−Trp−Leu−Ura−His)において、30℃で1日間、200r.p.m.で振盪培養した。その後、細胞を回収し、グルコースの代わりに2%ガラクトースを含むSC−Trp−Leu−Ura−His培地(10mL)に再懸濁し、30℃で2日間、200r.p.m.で振盪培養した。得られた培養サンプルを−80℃で保管した。
<6.酵母培養液の溶媒抽出、ならびにGC−MS測定試料の調製>
上記5.の項で得られた形質転換酵母の培養液10mLを、6mLの酢酸エチルと混合しボルテックス、ソニケーション処理、遠心分離後上層を回収することにより溶媒抽出した。この操作を3回繰り返し、抽出画分を遠心エバポレーターで乾固し、1mLの酢酸エチルに溶解後Sep−pak Vac Silica(Waters社)へ付加し、酢酸エチル、クロロホルム:メタノールで溶出を行ったのち、再度遠心エバポレーターで乾固し、0.5mLのクロロホルム:メタノール溶液に溶解させた。このうち50μLを乾固し、100μLのN−methyl−N−(trimethylsilyl)trifluoroacetamideを加え、80℃、20分間誘導体化することにより、GC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)測定試料を得た。
<7.GC−MS分析>
装置は5977Aガスクロマトグラフ質量分析計(Agilent Technologies)を使用した。ガスクロマトグラフにキャピラリーカラムDB−1MS(30m×0.25mm、膜厚0.25μm : Agilent J&W)を用いた。カラムオーブンの昇温条件は、80℃で1min保持,320℃まで20℃/minで昇温、320℃で28min保持とした。インジェクター温度は250℃、GCインターフェイス温度は250℃とした。キャリアガスにはヘリウムを用い、流速は1.0mL/min、サンプル注入量は1μL、スプリットレスとした。質量分析計は電子イオン化法(EI)を用い、ゲインバリューは1.0、イオン源温度は230℃とした。m/z:50−750についてスキャンした。
α−アミリン合成酵素およびCYP716A2を発現した形質転換酵母からの抽出物について、GC−MS分析した結果を図3に示す。比較例として、CYP716A2の代わりにCYP716A1を発現した形質転換酵母、あるいは空ベクターを導入した形質転換酵母からの抽出物を用い、標準品として、α−アミリン(1)、α−アミリンの28位が酸化したウバオール(2)、ウルソール酸(3)の混合物を用いた。
図3に示すように、α−アミリン合成酵素およびCYP716A2を発現した形質転換酵母においては、比較例および標準品とは異なるピーク(4)が見られ、新規の反応産物が得られたことを示す。
β−アミリン合成酵素およびCYP716A2を発現した形質転換酵母からの抽出物について、GC−MS分析した結果を図4に示す。比較例として、CYP716A2の代わりにCYP716A1を発現した形質転換酵母、あるいは空ベクターを導入した形質転換酵母からの抽出物を用い、標準品として、β−アミリン(6)、β−アミリンの28位が酸化したエリトロジオール(7)、オレアノール酸(8)の混合物を用いた。
図4に示すように、β−アミリン合成酵素およびCYP716A2を発現した形質転換酵母においては、比較例および標準品とは異なるピーク(10)が見られ、新規の反応産物が得られたことを示す。
<8.反応産物の分離・精製>
新規の反応産物について、NMRによる構造決定を行うために、α−アミリン合成酵素およびCYP716A2を発現した形質転換酵母の培養液から、化合物(4)を含む酢酸エチル抽出画分を分離した。得られた粗抽出画分をシリカ(60N 40〜50μm)カラムに供し、ヘキサン:酢酸エチル混合溶媒(5:1〜3:1)を用いて溶出することにより化合物(4)を精製した。
<9.NMR分析>
得られた精製物を、TMSを添加したCDCl3に溶解してNMR用サンプルとした。NMRは、JNM-ECS400(JEOL)を使用し、1H、13C、DEPT135°、1H-1H COSY、HMBC、HSQC、NOESYについての測定を行った。化学シフトは1H−NMRの場合はTMSを内部標準(0.0)とし、13C−NMRはCDCl3の77.0を標準としてppm値で与えた。
NMR分析で得られた解析結果を、図5に示す。図5に示すように、α−アミリン合成酵素およびCYP716A2を発現した形質転換酵母から得られた新規の反応産物は、22α位が水酸化されたα−アミリンである、22α−ヒドロキシ−α−アミリンであることが明らかとなった。α−アミリンとβ−アミリンとは構造が類似しているため、β−アミリン合成酵素およびCYP716A2を発現した形質転換酵母から得られた新規の反応産物についても、22α位が水酸化されたβ−アミリンであると推測できる。