以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。
(実施形態1)
[濾過装置、中空糸膜モジュール]
まず、本発明の実施形態1に係る中空糸膜モジュール10及びこれを備えた濾過装置1の構成について、図1及び図2を主に参照して説明する。図1は、濾過装置1の全体構成を模式的に示している。図2は、中空糸膜モジュール10の構成を模式的に示している。
図1に示すように、濾過装置1は、中空糸膜モジュール10と、中空糸膜モジュール10に原水を供給するための原水ポンプ20と、処理水を貯留する処理水タンク23と、処理水を中空糸膜モジュール10に供給するための処理水ポンプ24と、中空糸膜モジュール10に空気(気体)を供給するためのエアーコンプレッサー30と、これらを接続する配管及び開閉バルブと、を有する。処理水は、一旦濾過処理された後の水であって、中空糸膜モジュール10を用いて再度濾過するために処理水タンク23に貯留されるものである。中空糸膜モジュール10は、中空糸膜の外表面側に供給された原水又は処理水を内表面側から濾液として取り出す外圧濾過式のものである。
図2に示すように、中空糸膜モジュール10は、複数の中空糸膜14が上端14Bにおいて固定部材3により束状に固定された中空糸膜束15と、中空糸膜束15が収容される内部空間S1が形成されたハウジング13と、内部空間S1に原水又は処理水(以下、「原水等」ともいう)を供給する水供給部材5と、内部空間S1に洗浄用の空気(気体)を分散させる散気部材4と、を有する。
中空糸膜束15は、複数の中空糸膜14の上端14Bが開口した状態で固定部材3により固定され、下端14Aが1本ずつ固定されない状態で封止された片端フリータイプである。固定部材3は、複数の中空糸膜14の上端14Bを収束固定する。固定部材3は、中空糸膜14を濾過膜として機能させるため、ハウジング13内の空間を原水側の内部空間S1と濾液側の空間S2とに液密に仕切る。固定部材3には、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を使用することができる。中空糸膜束15と固定部材3の接着方法としては、遠心接着法や静置接着法などが挙げられる。
中空糸膜14の素材としては、種々の材料を用いることが可能であり、特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール及びポリエーテルスルホンからなる群より選択される少なくとも1種類が、中空糸膜14の素材として用いられることが好ましい。特に、膜強度や耐薬品性の観点から、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が素材として用いられることが好ましい。
中空糸膜モジュール10は、外圧濾過式のものであり、膜分離処理の条件や要求される性能に応じて外圧全量濾過式又は外圧循環濾過式のものであってもよい。膜寿命の点では、濾過膜の表面洗浄を同時に行うことができる外圧循環濾過式が好ましく、設備の単純さ、設置コスト及び運転コストの点では、外圧全量濾過式が好ましい。
中空糸膜束15は、中空糸膜14の本数が多くなるに従いモジュール当たりの膜面積が大きくなるため、濾過流量を高くして運転することができるが、一方で洗浄時における汚濁物質の排出効率が低下する。そのため、中空糸膜14の外径di(m)、中空糸膜14の本数n(本)及びハウジング13の断面積S(m2)により計算される膜充填率100πndi2/4S(%)が10〜60%であることが好ましく、20〜50%であることがより好ましい。
図3は、図2中の線分III−IIIに沿った断面を示している。図3に示すように、中空糸膜束15は、周方向に分割された複数(本実施形態では4個)の膜束15Aを有し、隣り合う膜束15Aの間に隙間Sが形成されている。各膜束15Aは、複数の中空糸膜が円筒状に束ねられたものである。膜束15Aの数は例えば4〜8個とすることができ、また膜束15Aの形状は円筒形状以外のその他の形状であってもよい。
図2に示すように、ハウジング13は、上面13A及び下面13Cと、これらを接続する側面13Bと、を有する筒形状からなる。ハウジング13は、中空糸膜束15が収容される内部空間S1を有する。内部空間S1は、中空糸膜14の長手方向の中央Cよりも上側部分が位置する上部空間S11と、中空糸膜14の長手方向の中央Cよりも下側部分が位置する下部空間S12と、を含む。
ハウジング13の上面13Aには、濾液を取り出すための濾液配管51が接続され、当該濾液配管51には濾液出口52及び濾液側気体入口53が設けられている。側面13Bにおいて固定部材3の直下には、内部空間S1の気体を系外に排出するための気体抜き口11が設けられている。気体抜き口11は、上部空間S11の開口部であり、ハウジング13の内部圧力を調整するための部分である。ハウジング13の下部には、内部空間S1から系外に原水等を排出するためのドレン抜き口12(排水部)が設けられている。図2に示すように、ドレン抜き口12は、中空糸膜14の長手方向(上下方向)において散気部材4よりも下側の位置に設けられている。またハウジング13の下部には、内部空間S1に空気(気体)を供給するための孔である散気用気体入口7も設けられている。
図1に示すように、気体抜き口11には気体抜き配管61が接続され、これを介してハウジング13内の気体が系外に排出される。気体抜き配管61には気体排出口バルブ62が設けられ、これを開閉することによりハウジング13内からの気体の排出及びその停止を切り替えることができる。またドレン抜き口12にはドレン配管41が接続され、これを介してハウジング13内の原水等が系外に排出される。ドレン配管41には液体排出口バルブ42が設けられ、これを開閉することによりハウジング13からの水の排出及びその停止を切り替えることができる。このドレン抜き口12によって、中空糸膜14の長手方向の中央Cよりも下側において内部空間S1から原水等を排出することができる。
ハウジング13の材質としては、SUS、変性PPE、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリオレフィン又はABS樹脂などが用いられる。図2に示すように、ハウジング13の内面に固定部材3が接着固定されることにより、いわゆる一体型モジュールが構成されていてもよい。また、固定部材3の外周部にO−リングやパッキンなどが取り付けられ、固定部材3がハウジング13に対して着脱可能且つ液密に装着されていてもよい。この場合、固定部材3を取り外して中空糸膜束15を交換し、ハウジング13を繰り返し使用することができる。
水供給部材5は、原水等が流れる内部通路が形成された管部材(導水管)である。図2に示すように、水供給部材5は、ハウジング13の下壁部を貫通すると共に上面13Aに向かって中空糸膜束15の内側を延びる姿勢で配置され、上端が固定部材3に接続されている。
水供給部材5は、下端側に液入口9が設けられている。図1に示すように、原水ポンプ20によって原水導入配管21を介して液入口9に原水を供給し、又は処理水ポンプ24によって処理水導入配管25を介して液入口9に処理水を供給することができる。原水の供給時には原水導入配管21に設けられた原水導入バルブ22が開かれ、また処理水の供給時には処理水導入配管25に設けられた処理水導入バルブ26が開かれる。そして、水供給部材5の内部通路に導入された原水等は、通水孔54(図2)よりハウジング13の内部空間S1に噴出される。
また図1に示すように、原水導入配管21において原水導入バルブ22よりも下流側の部位には、気体導入配管33が接続されている。これにより、気体導入配管33を介して原水導入配管21に空気(気体)を導入し、液入口9から水供給部材5の内部に空気を供給することができる。そして、水供給部材5の内部に導入された空気を、通水孔54(図2)よりハウジング13の内部空間S1に供給することができる。このように、水供給部材5によれば、原水等をハウジング13内に供給し、空気のみをハウジング13内に供給し、又は原水等及び空気の両方をハウジング13内に供給することができる。なお、図1では、気体導入配管33が原水導入配管21に接続されているが、処理水導入配管25にも接続されていてもよい。
散気部材4は、散気用気体入口7からハウジング13内に供給された気体を、中空糸膜束15の径方向に広がるように分散させるための部材である。図2に示すように、散気部材4は、下部空間S12よりも下側に配置されており、中央部に水供給部材5が貫通している。水供給部材5及び散気部材4の詳細な構造については後述する。
図1に示すように、エアーコンプレッサー30は、第1気体導入配管31を介して濾液側気体入口53に接続され、第2気体導入配管32を介して散気用気体入口7に接続され、第3気体導入配管33を介して原水導入配管21に接続されている。第1気体導入配管31には配管内における空気の流通及び遮断を切り替える第1気体導入バルブ34が設けられ、第2及び第3気体導入配管32,33にも同様に第2及び第3気体導入バルブ35,36が設けられている。第2気体導入配管32により散気用気体入口7を介してハウジング13内に空気を供給し、当該空気を散気部材4によって分散させることができる。
制御装置40は、原水ポンプ20、処理水ポンプ24及びエアーコンプレッサー30の駆動を制御し、かつ各バルブの開閉動作を制御する。制御装置40は、例えばパーソナルコンピュータなどによって構成されている。制御装置40は、濾過装置1の運転時に順次実行される各工程(充水、濾過、逆洗、バブリング、排水など)のシーケンス情報が格納された記憶部と、当該シーケンス情報に従って各装置の駆動及びバルブの開閉を制御するコントローラと、を有する。
[散気部材、水供給部材]
次に、散気部材4及び水供給部材5の詳細な構造について、図2〜図6を参照して説明する。図4は、散気部材4の平面構造を示している。図5は、図4中の線分V−Vに沿った散気部材4の断面構造を示している。
散気部材4は、中空糸膜14の下端14Aよりも下側に配置されている。散気部材4は、中空糸膜束15の径方向に広がった形状を有し、周縁部が中空糸膜束15よりも径方向外側に位置している。散気部材4には、ハウジング13内に気体を分散させるための複数の通気孔43が径方向に間隔を空けて形成されている。
図4及び図5に示すように、散気部材4は、中空糸膜束の径方向に広がった形状を有し、複数の通気孔43が形成された円板状の本体部44と、本体部44の周縁部に接続された周壁部47と、本体部44の下面中央に接続された円筒状の気体受け部45と、を有し、これらが一体に形成されている。
通気孔43は、本体部44を厚み方向に貫通するように形成されている。図4に示すように、通気孔43は、本体部44の径方向及び周方向に互いに間隔を空けて形成されており、その一部は中空糸膜束15よりも径方向外側に位置している。これにより、中空糸膜束15の径方向において広い範囲で気体を分散させることができる。また図5に示すように、本体部44には、水供給部材5が貫通する貫通孔44Aが中央に形成されている。なお、本体部44は、図4に示すような円板状のものに限定されず、種々の形状のものであってもよい。
気体受け部45は、散気用気体入口7(図2)からハウジング13内に供給された気体を一時的に収容するための部分である。気体受け部45は、筒形状を有し、上端が本体部44の下面に接続されると共に、下端側に気体の受け口45Aが形成されている。本実施形態では、気体受け部45は、上端から下端に向かって内径が略一定となるように構成されている。気体受け部45は、その内径が水供給部材5の外径よりも大きく、水供給部材5の外周面との間の隙間において気体を収容する。図2に示すように、気体受け部45の下端とハウジング13の下壁部との間には隙間が形成されており、ハウジング13内の液体が当該隙間を流通することができる。これにより、ハウジング13の下部における液溜まりを防ぐことができる。
図5に示すように、気体受け部45の上端側の部位には、複数の分散孔46が周方向に間隔を空けて形成されている。分散孔46は、気体受け部45を貫通するように形成されている。分散孔46により、気体受け部45に収容された空気を当該気体受け部45よりも径方向外側へ逃がし、通気孔43へ導くことができる。分散孔46は、周方向に等間隔で形成されていてもよいし、異なる間隔で形成されていてもよい。
周壁部47は、本体部44の周縁部から下方に延びる筒形状を有する。周壁部47により、分散孔46から気体受け部45の外側に放出された空気が、本体部44よりも外側に広がることを抑制できる。これにより、通気孔43から気体が分散される前において、本体部44の下面に空気を留めることができる。
散気部材4によれば、散気用気体入口7からハウジング13内に供給された気体を気体受け部45により一時的に収容した後、分散孔46から外側へ逃がし、その後通気孔43から下部空間S12に分散させることができる。つまり、本実施形態では、散気部材4は、中空糸膜14の長手方向の中央Cよりも下側の位置、具体的には下部空間S12よりも下側の位置において内部空間S1に空気を分散させる気泡流発生手段6を構成する。この気泡流発生手段6によって、図2に示すように、内部空間S1において中空糸膜14の長手方向に沿って上向きの気泡流91を発生させることができる。また図1に示すように、制御装置40により第2気体導入バルブ35を開いて散気部材4に空気を供給することから、当該バルブの開閉を制御する制御装置40も気泡流発生手段6を構成する。
図2に示すように、水供給部材5は、中空糸膜束15の中心を上下に延びるように配置されている。本実施形態では、水供給部材5は、円筒形状の導水管からなるが、特に形状は限定されない。水供給部材5は、散気部材4(本体部44)を貫通し、下端がハウジング13の下壁部よりも下側に突き出ている。なお、水供給部材5はこの形状のものに限定されず、例えば本体部44の上面から突出する別の配管に対して外嵌されたものでもよい。
水供給部材5において本体部44の上面よりも上側に突出した部位には、長手方向全体に亘って複数の通水孔54が間隔を空けて形成されている。より具体的には、水供給部材5の上部空間S11に位置する部位には上側通水孔54Aが互いに間隔を空けて複数形成されており、また下部空間S12に位置する部位にも下側通水孔54Bが互いに間隔を空けて複数形成されている。なお、上側通水孔54A及び下側通水孔54Bは、それぞれ長手方向に等間隔で形成されていてもよいし、異なる間隔で形成されていてもよい。また本実施形態では、上側通水孔54A及び下側通水孔54Bは、円形状からなるが特に限定されず、例えば矩形状などの他の形状からなっていてもよい。また下側通水孔54Bが省略されてもよい。
この上側通水孔54Aによって、中空糸膜14の長手方向の中央Cよりも上側において、内部空間S1に原水等を供給することができる。このため、図2に示すように、上側通水孔54Aから噴出した原水等が中空糸膜14の上部から下部に向かって流れ、そしてハウジング13の下部まで流れた原水等がドレン抜き口12から系外に排出される。これにより、内部空間S1において中空糸膜14の長手方向に沿って下向きに流れる水流92が形成される。つまり、本実施形態では、水供給部材5及びドレン抜き口12は、中空糸膜14の長手方向に沿って原水等の水流92を発生させる水流発生手段8を構成する。また図1に示すように、制御装置40により原水導入バルブ22(又は処理水導入バルブ26)及び液体排出口バルブ42を開くことにより水流92が発生することから、これらのバルブの開閉を制御する制御装置40も水流発生手段8を構成する。
このように本実施形態では、図6に示すように、ハウジング13の内部空間S1において、水流発生手段8(水供給部材5及びドレン抜き口12)により下向きの水流92を発生させると共に、気泡流発生手段6(散気部材4)により当該水流92に対して反対向き(上向き)の気泡流91を発生させることができる。これにより、水流92と気泡流91が衝突することによって内部空間S1に強いせん断力が発生する。本実施形態に係る中空糸膜モジュール10は、水流92を発生させると共にこれと反対向きの気泡流91を発生させる向流バブリング手段2(水流発生手段8及び気泡流発生手段6により構成される)を備えることを特徴としており、強いせん断力によって中空糸膜14の外表面を効果的に洗浄可能となっている。これにより、濾過運転中において中空糸膜14の外表面に付着した懸濁物質などの固形物を効率的に除去することが可能になる。
図2に戻り、通水孔54は、それぞれ同じ大きさで形成されている。通水孔54の内径は、原水等の供給によるせん断力の確保という観点から、30mm以下に設計されることが好ましいが、特に限定されない。また図2に示すように、水供給部材5の最上部に形成された上側通水孔54Aは気体抜き口11の下面11Aよりも上側に位置しており、上から2番目の上側通水孔54Aは当該下面11Aよりも下側に位置している。つまり、水供給部材5には、気体抜き口11の下面11Aを上下に挟む位置に上側通水孔54Aが形成されている。
図3に示すように、通水孔54Aは、隣り合う膜束15Aの隙間Sに向かって原水等を噴出する位置に形成されている。より具体的には、通水孔54Aは、隣り合う膜束15Aの隙間Sに向かって開口しており、膜束15Aが延びる上下方向に直交するように径方向外向きに水を噴出する。通水孔54Aからせん断力の高い水が噴出されるため、膜束15Aに対して直接水を噴出すると中空糸膜が損傷を受ける虞があり、また膜束15Aによって水流が遮られることにより中空糸膜束15の外周部まで水が行き渡りにくくなる。これに対して、膜束15Aの隙間Sに向かって水を噴出することにより、中空糸膜の損傷を抑制することができると共に中空糸膜束15の外周部まで水を均一に行き渡らせることができる。
図7は、図2中の領域VIIにおける水供給部材5の拡大図である。水供給部材5における通水孔54の開孔率は、以下のように定義できる。図7の斜線部に示すように、最上部の通水孔54の中間高さ位置からその下の通水孔54の中間高さ位置までの範囲における水供給部材5の外周面の面積をS1とし、当該範囲の外周面に形成された全ての通水孔54の合計の開孔面積をS2としたときに、通水孔54の開孔率は、S2/S1×100、として定義できる。本実施形態では、当該開孔率が1%以上20%以下に設計されることが好ましい。
ハウジング13内に挿入された水供給部材5の長さは、中空糸膜モジュール10を嵩張らせないようにするため、中空糸膜14の長さの1〜2倍であることが好ましく、1〜1.5倍であることがより好ましい。
水供給部材5の内径は、通水時の圧力損失を小さくするため、通水時の流束が4m/s以下となるように設計されることが好ましく、3m/s以下となるように設計されることがより好ましい。
[濾過装置の運転方法、中空糸膜モジュールの洗浄方法]
次に、濾過装置1の運転方法及び中空糸膜モジュール10の洗浄方法について説明する。図8は、濾過装置1の運転方法における各工程とバルブの開閉状態との関係を示している。図8中の丸印は該当するバルブが開状態であることを意味し、空欄はバルブが閉状態であることを意味する。
はじめに、充水工程が実施される。この工程では、濾過装置1の全バルブが閉じた状態において、制御装置40によって原水導入バルブ22及び気体排出口バルブ62が開かれ、且つ原水ポンプ20が作動する。これにより、原水ポンプ20から原水導入配管21を介して水供給部材5内に原水が導入され、通水孔54からハウジング13内に原水が供給される。これにより、ハウジング13の内部空間S1が充水される。
次に、濾過工程が実施される。この工程では、気体抜き口11から原水が溢れた後、制御装置40によって濾液出口バルブ71が開かれ、且つ気体排出口バルブ62が閉じられる。そして、内部空間S1に満たされた原水が中空糸膜14の外表面側から壁面を通過して内表面側へ浸透し、濾液側の空間S2から濾液として取り出される。
この濾過工程において、濾過時間が経過するのに伴って中空糸膜14の外表面には原水中の汚濁物質が付着し、透過流速が低下することにより濾過能力が低下する。そのため、一定時間濾過が実施された後、以下に説明する本実施形態に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法を実施することにより、中空糸膜14の外表面が洗浄される。
まず、逆洗工程が実施される。この工程では、制御装置40によって液体排出口バルブ42及び第1気体導入バルブ34を開き、且つエアーコンプレッサー30を作動させる。これにより、濾液側気体入口53からハウジング13の濾液側の空間S2に気体又は液体(例えば空気又は水)が導入され、これによって濾液が加圧される。加圧された濾液は、中空糸膜14の内表面側から外表面側に押し出され、その結果内部空間S1の液体の一部がドレン抜き口12から系外に排出される。このようにして、中空糸膜14の逆洗が行われる。
次に、向流バブリング工程が実施される。この工程では、制御装置40によって第1気体導入バルブ34を閉じると共に原水導入バルブ22及び気体排出口バルブ62を開き、且つ原水ポンプ20を作動させる。これにより、原水ポンプ20から原水導入配管21を介して水供給部材5の内部に原水が導入され、通水孔54からハウジング13内に原水が供給される。そして、通水孔54から噴出した原水がドレン抜き口12に向かって流れる。これにより、図6に示すように、内部空間S1において中空糸膜の長手方向に沿って原水が上側から下側に流れる下向きの水流92が発生する。この時、原水ではなく処理水の水流92を発生させてもよいし、原水及び処理水が混合した水流92を発生させてもよい。
なお、気体排出口バルブ62は開状態であってもよいが、下向きの水流92を形成するため、ドレン抜き口12からの排水量が気体抜き口11からの排水量よりも多くなるようにバルブ開度を調整する必要がある。具体的には、液体排出口バルブ42の開度を気体排出口バルブ62の開度よりも大きくする必要がある。また中空糸膜14の上端14Bを効果的に洗浄するという観点では、原水ポンプ20から中空糸膜モジュール10への給水量がドレン抜き口12からの排水量よりも多いことが好ましい。
このようにしてハウジング13内に下向きの水流92を発生させる一方、制御装置40によって第2気体導入バルブ35を開くと共にエアーコンプレッサー30を作動させる。これにより、第2気体導入配管32を介して散気用気体入口7からハウジング13内に空気が供給される。そして、当該空気は、気体受け部45に収容された後、通気孔43から下部空間S12へ分散される。これにより、図6に示すように、内部空間S1において中空糸膜の長手方向に沿って水流92に対して反対向き(上向き)の気泡流91が発生する。この時、水流92と気泡流91とが衝突することによって強いせん断力が発生する。このせん断力は、ハウジング13内の気液界面において最も大きくなる。本実施形態に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法では、この強いせん断力によって中空糸膜14の外表面を効果的に洗浄することができ、これによって上記濾過工程において中空糸膜14の外表面に付着した懸濁物質を効率的に除去することができる。
次に、図9〜図11に示すように、ハウジング13の内部空間S1における原水(又は処理水)の液面93を中空糸膜の長手方向に沿って下向きに移動させ、これによって中空糸膜14の外表面をさらに効果的に洗浄することができる。具体的には、制御装置40によって気体排出口バルブ62を閉じた状態で第2気体導入配管32からハウジング13内に空気を供給し続ける。そうすると、内部空間S1の上部に満たされる空気量が次第に増加し、これに伴ってドレン抜き口12からの排水量が増加する。この過程において、図9〜図11に順に示すように、内部空間S1における液面93が下側に向かって徐々に移動する。上述のように液面93は最もせん断力が大きくなる部分であり、洗浄効果に優れる。このため、液面93を中空糸膜の長手方向に沿って徐々に下げることにより、中空糸膜を長手方向の広い範囲に亘って効率的に洗浄することができる。
なお、液面93を移動させる時に、気体排出口バルブ62を完全に閉じる場合に限定されない。例えば、気体排出口バルブ62を開いた状態で中空糸膜モジュール10への給水量よりも排水量を多くすることにより、ハウジング13の上部から下部に向かって液面93を移動させてもよい。
また上述のように液面93を一旦下げた後、再び液面93を上げてもよい。具体的には、原水ポンプ20の動力や原水導入バルブ22及び液体排出口バルブ42の開度を調整してハウジング13への給水量を排水量よりも多くすることにより、液面93を上向きに移動させてもよい。またこのような液面93の上下移動を複数回繰り返し行ってもよい。これにより、中空糸膜14の洗浄効果を一層高めることができる。
またこの工程において、第2気体導入配管32からハウジング13内に供給する空気の流量(バブリング流量)は、強いせん断力を発生させるという観点で3Nm3/h以上20Nm3/h以下に設定されることが好ましく、エアーコンプレッサー30の容量などの観点で5Nm3/hに設定されることが好ましい。
次に、排水工程が実施される。この工程では、制御装置40によって第2気体導入バルブ35が閉じられると共に液体排出口バルブ42が開かれる。これにより、上記逆洗工程及び向流バブリング工程において中空糸膜14の外表面から剥がれた懸濁物質を含む液体が、ドレン抜き口12を介して系外に排出される。
このようにして中空糸膜モジュール10の洗浄が実施された後、濾過装置1による原水の濾過が再開される。また上記中空糸膜モジュールの洗浄方法は、濾過運転中において任意のタイミングで実施することができる。また逆洗工程から排水工程までの洗浄プロセスを1回のみ実施するだけでなく複数回繰り返して実施することも可能であり、これによってより効果的な洗浄が可能になる。
[作用効果]
次に、上記本実施形態に係る中空糸膜モジュール10及びその洗浄方法の特徴並びにその作用効果について説明する。
上記中空糸膜モジュール10は、外圧濾過式のものであって、束状の複数の中空糸膜14を有する中空糸膜束15と、中空糸膜束15が収容される内部空間S1が形成されたハウジング13と、内部空間S1において中空糸膜14の長手方向に沿って原水又は処理水の水流92を発生させると共に、内部空間S1において中空糸膜14の長手方向に沿って水流92に対して反対向きの気泡流91を発生させる向流バブリング手段2と、を備える。
上記中空糸膜モジュールの洗浄方法は、束状の複数の中空糸膜14を有する中空糸膜束15がハウジング13の内部空間S1に収容された外圧濾過式の中空糸膜モジュール10において中空糸膜14を洗浄する方法である。上記中空糸膜モジュールの洗浄方法は、内部空間S1において中空糸膜14の長手方向に沿って原水又は処理水の水流92を発生させると共に、内部空間S1において中空糸膜14の長手方向に沿って水流92に対して反対向きの気泡流91を発生させる向流バブリング工程を備える。
これにより、原水又は処理水の水流92を発生させると共に、当該水流92に対して反対向きの気泡流91を発生させることができる。このため、互いに反対向きの水流92と気泡流91が衝突することにより強いせん断力が発生し、当該せん断力によって中空糸膜14を効果的に洗浄することが可能となる。これにより、中空糸膜14の表面に付着した懸濁物質などの固形物を効率的に除去することができる。しかも、中空糸膜14の長手方向に沿って水流92及び気泡流91を発生させることで、中空糸膜14における長手方向の広い範囲に亘って強いせん断力を作用させることが可能となり、その結果中空糸膜14を均一に洗浄することができる。
上記中空糸膜モジュール1において、向流バブリング手段2は、水流92を発生させる水流発生手段8と、気泡流91を発生させる気泡流発生手段6と、を含む。水流発生手段8は、中空糸膜14の長手方向の中央Cよりも上側において内部空間S1に原水又は処理水を供給する水供給部材5と、中空糸膜14の長手方向の中央Cよりも下側において内部空間S1から原水又は処理水を排出するドレン抜き口12(排水部)と、を有する。気泡流発生手段6は、中空糸膜14の長手方向の中央Cよりも下側の位置において内部空間S1に気体を分散させる散気部材4を有する。
これにより、中空糸膜14の長手方向の中央Cよりも上側から下側に向かって下向きの水流92を形成することができると共に、当該中央Cよりも下側から上側に向かって上向きの気泡流91を形成することができる。
上記中空糸膜モジュール10において、ドレン抜き口12は、中空糸膜14の長手方向において散気部材4よりも下側の位置に設けられている。これにより、水流92が発生する領域をより広くすることが可能となり、より広い範囲に亘って強いせん断力を中空糸膜14に作用させることができる。このため、中空糸膜14をさらに均一に洗浄することができる。
上記中空糸膜モジュール10において、散気部材4は、中空糸膜束15の径方向に広がった形状を有し、径方向に間隔を空けて複数の通気孔43が形成されている。これにより、散気部材4に形成された複数の通気孔43から中空糸膜束15の径方向に広がるように気体を分散させてバブリングすることが可能となり、中空糸膜束15を径方向においてより均一に洗浄することができる。
上記中空糸膜モジュール10において、中空糸膜束15は、周方向に分割された複数の膜束15Aを有する。水供給部材5は、中空糸膜束15の内側に配置され、隣り合う膜束15Aの隙間Sに向かって原水又は処理水を噴出する通水孔54を有する。これにより、通水孔54から膜束15Aに対して直接水が噴出されることを避けることが可能となる。このため、せん断力の高い水が噴出された時でも、膜束15Aが損傷を受けることを抑制できる。しかも、膜束15Aによって水流が遮られないため、中空糸膜束15の外周部にまで水を均一に行き渡らせることができる。
上記中空糸膜モジュールの洗浄方法では、向流バブリング工程において、内部空間S1における原水又は処理水の液面93を中空糸膜14の長手方向に沿って移動させる。これにより、特に強いせん断力が働く液面93を移動させることにより、中空糸膜14の長手方向の広い範囲に亘って強いせん断力を均一に作用させることが可能となる。これにより、中空糸膜14の洗浄効果をより高めることができる。
上記中空糸膜モジュールの洗浄方法は、中空糸膜14の内表面側から外表面側に向かって濾液を押し出す逆洗工程を備える。向流バブリング工程は、逆洗工程の後又は同時に実施される。これにより、逆洗工程と向流バブリング工程とを組み合わせて実施することで、中空糸膜14の洗浄効果を一層高めることができる。
(その他実施形態)
次に、本発明のその他実施形態について説明する。
上記実施形態1では、水供給部材5及びドレン抜き口12によって下向きの水流92を発生させる場合について説明したがこれに限定されない。例えば、図12に示すように、ハウジング13の内部空間S1における上部に連通する水供給口17を形成し、水供給口17から内部空間S1に供給された原水(又は処理水)がドレン抜き口12に向かって下向きに流れる水流92を形成してもよい。この場合、水供給口17及びドレン抜き口12が水流発生手段8を構成する。そして、上記実施形態1と同様に散気部材4によって水流92に対して反対向きの気泡流91を形成することにより強いせん断力を発生させることができ、上記実施形態1と同様に高い洗浄効果を得ることができる。
上記実施形態1では、散気部材4によってハウジング13内に上向きの気泡流91を発生させる場合について説明したが、これに限定されない。例えば、図13に示すように、散気部材を配置せずにハウジング13の下面13Cに気体導入孔13Dを形成し、当該気体導入孔13Dからハウジング13内に気体を供給することにより、上向きの気泡流91を形成してもよい。この場合、気体導入孔13Dがバブリング手段6を構成し、上記実施形態1と同様に下向きの水流92に対して反対向きの気泡流91を発生させることにより、強いせん断力を発生させることができる。
上記実施形態1では、図2に示すようにドレン抜き口12がハウジング13の最下部に設けられる場合について説明したが、当該ドレン抜き口12が散気部材4よりも上側の位置に設けられていてもよい。
上記実施形態1では、中空糸膜束15が複数の膜束15Aに分割される場合について説明したがこれに限定されず、複数の膜束15Aに分割されていなくてもよい。
上記実施形態1では、逆洗工程を実施した後に向流バブリング工程を実施する場合について説明したがこれに限定されず、逆洗工程と向流バブリング工程が同時に実施されてもよい。また逆洗工程を省略してもよい。
上記実施形態1では、向流バブリング工程において液面93を中空糸膜14の長手方向に沿って移動させる場合について説明したがこれに限定されず、液面93の位置を保ったまま向流バブリングによる洗浄を行ってもよい。
(実施例1)
まず、本実施例に使用した中空糸膜モジュール10について、図2を参照して説明する。中空糸膜束15としては、膜面積が30m2である片端フリータイプのものを使用した。中空糸膜14としては、親水化処理されたポリフッ化ビニリデン系樹脂からなり、平均孔径が0.02ミクロンであり、有効長が890mmのものを使用した。
水供給部材5としては、長さが985mm、内径が40mmの円筒状のものを使用した。水供給部材5は、中空糸膜束15の中心に配置し、固定部材3により中空糸膜束15と共に固定した。水供給部材5において固定部材3から長手方向に70〜970mm離れた位置にある部分において100mmの間隔で通水孔54を形成した。各長さ位置において通水孔54を周方向に90°の間隔で4個ずつ形成し、合計の通水孔54の数を36個とした。また通水孔54の孔径は10mmとした。また中空糸膜束15は、周方向において4つの膜束15Aに分割されたものを使用し、通水孔54が隣り合う膜束15Aの隙間Sに向くように水供給部材5を設置した。
散気部材4は、固定部材3から長手方向に915mm離れた位置に取り付けた。散気部材4は、複数の通気孔43が形成された円板状の本体部44と、気体受け部45と、周壁部47と、からなるものを用いた。散気部材4の気体受け部45への気体供給口として散気用気体入口7を設けた。
上記中空糸膜モジュール10を使用し、水酸化第二鉄の懸濁液からなり、SS濃度が250mg/Lのモデル水を原水として、外圧全濾過方式により流量5000L/hの条件で30分間定流量濾過を行った。そして、濾過運転後、中空糸膜モジュール10の濾液側から0.2MPaの圧縮空気により逆圧洗浄を実施し、その後、ハウジング13内において下向きの水流92及び上向きの気泡流91を発生させることによる向流バブリング洗浄を実施した。具体的には、散気部材4により5000NL/hの流量でハウジング13内に空気を分散させ、水供給部材5から5000L/hの流量でハウジング13内に原水を供給し、ドレン抜き口12から5000L/hの流量で排水し、気体抜き口11から5000NL/hの流量で排気した。その後、排出工程において、気体抜き口11及びドレン抜き口12を開放し、ハウジング13内の残留液を系外に排出した。
この洗浄を24時間繰り返した後、中空糸膜モジュール10をハウジング13から取り出した。そして、SSの付着量及び濾過運転時間内に供給されたSS全量によりSS排出率(((SS全量−SS付着量)/SS全量)×100)を算出し、これを指標として洗浄能力を評価した。その結果、本実施例ではSS排出率は95%であった。
(実施例2)
上記実施例1と同様に濾過運転を行った後、中空糸膜モジュール10の濾液側から0.2MPaの圧縮空気により逆圧洗浄を実施し、その後、ハウジング13内の液面93を順次下げながら向流バブリング洗浄を行った。具体的には、散気部材4により5000NL/hの流量でハウジング13内に空気を分散させ、水供給部材5から5000L/hの流量でハウジング13内に原水を供給し、気体排出口バルブ62を閉止し、ドレン抜き口12から10000L/hの流量で排水することにより、ハウジング13の上部から下部に向かって液面93を下げながら洗浄を行った。その後、排出工程において、気体排出口バルブ62及び液体排出口バルブ42を開放することにより、ハウジング13内の残留液を系外に排出した。その結果、SS排出率は98%となり、良好な洗浄状態を確認することができた。
(実施例3)
上記実施例1と同様に濾過運転を行った後、中空糸膜モジュール10の濾液側から0.2MPaの圧縮空気により逆圧洗浄を実施すると同時に、上記実施例1と同様に向流バブリング洗浄を行った。その結果、SS排出率は95%であり、良好な洗浄状態を確認することができた。
(比較例1)
上記実施例1と同様に濾過運転を行った後、中空糸膜モジュール10の濾液側から0.2MPaの圧縮空気により逆圧洗浄を実施し、その後、散気部材4を用いたバブリング洗浄のみを実施した。具体的には、散気部材4により5000NL/hの流量でハウジング13内に空気を分散させると共に、気体排出口バルブ62から5000NL/hの流量で空気を排出した。その後、排出工程において、気体排出口バルブ62及び液体排出口バルブ42を開放することにより、ハウジング13内の残留液を排出した。その結果、SS排出率は65%となり、上記実施例1〜3に比べて洗浄状態が悪化することが確認された。
(比較例2)
上記実施例1と同様に濾過運転を行った後、中空糸膜モジュール10の濾液側から0.2MPaの圧縮空気により逆圧洗浄を実施し、その後、向流バブリング洗浄の工程にて、ハウジング13内において上向きの気泡流と同方向の水流を発生させた以外は、実施例1と同様の運転を行った。具体的には、散気部材4により5000NL/hの流量でハウジング13内に空気を分散させ、水供給部材5から5000L/hの流量でハウジング13内に原水を供給し、気体抜き口11から5000L/hの流量で排水し、気体抜き口11から5000NL/hの流量で排気した。その後、排出工程において、気体抜き口11及びドレン抜き口12を開放し、ハウジング13内の残留液を系外に排出した。上記実施例1と同様の濾過試験を実施すると、SS排出率は60%となり、上記実施例1〜3に比べて洗浄状態が悪化することが確認された。
今回開示された実施形態及び実施例は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて、特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。