以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。
(実施形態1)
<濾過装置、中空糸膜モジュール>
まず、本発明の実施形態1における中空糸膜モジュール10及びこれを備えた濾過装置1の構成について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、濾過装置1の全体構成を模式的に示している。図2は、中空糸膜モジュール10の構成を模式的に示している。
濾過装置1は、浮遊汚濁物質などの不純物を含む原水を、中空糸膜モジュール10を用いて濾過することにより濾液を得る装置である。図1に示すように、濾過装置1は、外圧濾過式の中空糸膜モジュール10と、原水供給手段20と、バブリング手段30と、逆洗手段40と、気体排出手段60と、排水手段90と、を主に備えている。
「外圧濾過式の中空糸膜モジュール」とは、中空糸膜14の外表面側に原水を供給し、中空糸膜14の膜壁を通過することにより濾過された濾液を内表面側から取り出す構造のモジュールである。中空糸膜モジュール10としては、膜分離処理の条件や要求される性能に応じて、外圧全量濾過式又は外圧循環濾過式のものを用いることができる。膜寿命の観点からは、濾過膜の表面洗浄を濾過処理と同時に行うことができる外圧循環濾過式のものが好ましい。一方、設備の単純さ、設置コスト及び運転コストの観点からは、外圧全量濾過式のものが好ましい。
中空糸膜モジュール10は、束状の複数の中空糸膜14を有する中空糸膜束15と、中空糸膜束15が収容される内部空間S1を有するハウジング13と、を主に備えている。図2に示すように、中空糸膜モジュール10は、中空糸膜14の長手方向が上下方向(鉛直方向)に沿った姿勢で設置されている。
中空糸膜14は、上端14Bと、下端14Aと、を有している。中空糸膜束15は、中空糸膜14の上端14Bが開口した状態で固定部材3により固定されると共に、中空糸膜14の下端14Aが1本ずつ固定されない状態で樹脂により封止された片端フリータイプのものである。このような片端フリータイプの中空糸膜束15は、充水された内部空間S1に気体を供給してバブリング洗浄を行う際、気体の浮力により径方向に広がるように膨らむ。
固定部材3は、複数の中空糸膜14の上端14Bを収束固定する。固定部材3は、中空糸膜14を濾過膜として機能させるため、ハウジング13内の空間を原水側の内部空間S1と濾液側の空間S2とに液密に仕切る。固定部材3には、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。中空糸膜束15と固定部材3との接着方法としては、遠心接着法や静置接着法などが挙げられる。
中空糸膜14には、種々の素材を用いることが可能であり、特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF:Poly Vinylidene DiFluoride)、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール及びポリエーテルスルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことが好ましい。特に、膜強度や耐薬品性の観点から、ポリフッ化ビニリデンが中空糸膜14の素材として好ましい。
中空糸膜14は、親水化処理されたものであることが好ましい。本実施形態では、中空糸膜14は、0.1重量%以上10重量%以下の親水性樹脂を含有することにより親水化処理されている。親水性樹脂としては、ポリビニルピロリドン、セルロースエステル、エチレン−ビニルアルコール又はポリビニルアルコールなどの樹脂を用いることができる。特に親水性が高いポリビニルアルコールを親水性樹脂として用いることが好ましい。なお、中空糸膜としては、親水化処理されていないものを用いることもできる。
中空糸膜束15は、中空糸膜14の本数が多くなるに従って単位モジュール当たりの膜面積が広くなるため、高い濾過流量で運転することができる。しかし、中空糸膜14の本数が多くなり過ぎると、中空糸膜14の洗浄時における浮遊汚濁物質の排出効率が低下する。そのため、中空糸膜14の外径をdi(m)、中空糸膜束15における中空糸膜14の本数をn(本)、ハウジング13の断面積をS(m2)とした場合において、100πndi2/4S、により算出される膜充填率(%)が10%以上60%以下であることが好ましく、20%以上50%以下であることがより好ましい。
ハウジング13は、円筒形状からなり、上面13Aと、下面13Cと、これらを接続する側面13Bと、を有している。ハウジング13は、中空糸膜束15が収容される内部空間S1を有している。内部空間S1は、中空糸膜14の長手方向の中央よりも上側部分が位置する上部空間S11と、中空糸膜14の長手方向の中央よりも下側部分が位置する下部空間S12と、を含む。
ハウジング13の上面13Aには、中空糸膜14により濾過された濾液を取り出すための濾液配管51が接続されている。この濾液配管51には、濾液出口52及び濾液側気体入口53がそれぞれ設けられている。
ハウジング13の側面13Bにおける固定部材3の直下には、内部空間S1の気体を系外に排出するための気体抜き口11が設けられている。気体抜き口11は、上部空間S11の開口部である。
ハウジング13の側面13Bにおける下面13Cの真上には、内部空間S1の水を系外に排出するためのドレン抜き口12と、内部空間S1に気体を供給するための原水側気体入口7と、が設けられている。図2に示すように、原水側気体入口7は、下部空間S12よりも下側(中空糸膜14の下端14Aよりも下側)の空間に開口している。またハウジング13の下面13Cにおける中央近傍には、内部空間S1に原水を供給するための原水入口8が設けられている。
気体抜き口11には気体抜き配管61(図1)が接続されており、これを介してハウジング13内の気体が系外に排出される。気体抜き配管61には気体排出口バルブ62が設けられており、これを開くことによりハウジング13内から気体が抜かれる。
ドレン抜き口12にはドレン配管91が接続されており、これを介してハウジング13内の水が系外に排出される。ドレン配管91には排水バルブ92が設けられており、これを開くことによりハウジング13から水が排出される。
ハウジング13の材質としては、SUS(JIS規格)、変性PPE(Poly Phenylene Ether)、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリオレフィン又はABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂などを用いることができる。
ハウジング13の内側面に固定部材3が接着固定されることにより、いわゆる一体型モジュールが構成されていてもよい。また固定部材3の外周部にO−リングやパッキングなどが取り付けられ、固定部材3がハウジング13に対して着脱可能且つ液密に装着されていてもよい。この場合、固定部材3を取り外して中空糸膜束15を交換することにより、ハウジング13を繰り返し使用することができる。
原水供給手段20は、濾過処理の対象である原水を中空糸膜モジュール10に供給するものである。図1に示すように、原水供給手段20は、送液ポンプ23と、原水配管21と、原水バルブ22と、制御部100と、を有している。
原水配管21は、一端が中空糸膜モジュール10における原水入口8に接続されると共に、他端に送液ポンプ23が配置されている。原水バルブ22は、原水配管21に設けられており、原水配管21内における原水の流通及び遮断を切り替える。制御部100は、パーソナルコンピュータにより構成されており、送液ポンプ23の動作のオン/オフを制御すると共に、原水バルブ22の開閉動作を制御する。
バブリング手段30は、中空糸膜14のバブリング洗浄に用いられるものであり、ハウジング13の内部空間S1に気体(空気)を間欠的に供給する。即ち、バブリング手段30により、ハウジング13の内部空間S1に気体を予め定められた時間供給すると共に(バブリングオン)、当該内部空間S1への気体の供給を予め定められた時間停止することができる(バブリングオフ)。図1に示すように、バブリング手段30は、バブリング用配管31と、バブリング用バルブ32と、を有している。
バブリング用配管31は、一端が中空糸膜モジュール10における原水側気体入口7に接続されると共に、他端にエアーコンプレッサー33が配置されている。バブリング用バルブ32は、バブリング用配管31に設けられており、バブリング用配管31内における気体の流通及び遮断を切り替える。本実施形態では、このバブリング手段30を用いて実施される中空糸膜モジュール10のバブリング洗浄が重要な工程であり、これについては後に詳述する。
逆洗手段40は、中空糸膜14の内表面側から外表面側に向かって濾液を押し出すことにより、中空糸膜14の外表面に付着した浮遊汚濁物質を当該外表面から浮かせる逆圧洗浄を行うためのものである。図1に示すように、逆洗手段40は、逆洗用配管41と、逆洗用バルブ42と、を有している。
逆洗用配管41は、一端が濾液側気体入口53に接続されると共に、他端にエアーコンプレッサー33が配置されている。逆洗用バルブ42は、逆洗用配管41に設けられており、逆洗用配管41内における気体の流通及び遮断を切り替える。
気体排出手段60は、中空糸膜モジュール10におけるハウジング13内の気体を系外に排出するためのものである。気体排出手段60は、前述の気体抜き配管61及び気体排出口バルブ62により構成されている。
排水手段90は、ハウジング13の内部空間S1の水を系外に排出するためのものである。排水手段90は、前述のドレン配管91及び排水バルブ92により構成されている。
(濾過運転、中空糸膜モジュールの洗浄方法)
次に、上記濾過装置1による原水の濾過運転及び当該濾過運転を一時中断して行われる本実施形態に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法について説明する。図3は、濾過装置1の運転中における各工程の名称及び各工程に対応するバルブの開閉状態を示している。図3中において、丸印は該当するバルブが開いていることを意味し、空欄は該当するバルブが閉じていることを意味する。
はじめに、充水工程(濾過前)が行われる。この工程では、濾過装置1の全バルブが閉じた状態において、制御部100により原水バルブ22及び気体排出口バルブ62が開かれると共に、送液ポンプ23が作動する。これにより、送液ポンプ23から原水配管21に供給された原水が、原水入口8からハウジング13内に流入する。その結果、ハウジング13の内部空間S1が原水により満たされる。
次に、濾過工程が実施される。この工程では、気体抜き口11から原水が溢れた後、制御部100により濾液出口バルブ71を開くと共に気体排出口バルブ62を閉じる。そして、内部空間S1に満たされた原水が中空糸膜14の外表面側から膜壁を通過して内表面側へ浸透し、濾液側の空間S2から濾液として取り出される。
上記濾過工程においては、濾過時間の経過に伴って中空糸膜14の外表面に原水中の浮遊汚濁物質が付着し、中空糸膜14の細孔が閉塞されることがある。これにより、原水の透過流速が低下し、中空糸膜14による濾過能力が低下する。そのため、濾過開始から一定時間が経過した後に濾過運転を一時中段し、以下に説明する本実施形態に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法が行われる。これにより、中空糸膜14の外表面に付着した浮遊汚濁物質が除去され、中空糸膜14の濾過能力を回復させることができる。
まず、逆洗工程が実施される。この工程では、上記濾過工程において中空糸膜14により濾過された濾液を、気体により中空糸膜14の内表面側から外表面側に押し出す。具体的には、制御部100により逆洗用バルブ42及び排水バルブ92を開くことにより、濾液側気体入口53からハウジング13の濾液側の空間S2に気体(空気)が導入され、当該気体により濾液が加圧される。そして、加圧された濾液は中空糸膜14の内表面側から外表面側に押し出される。この時、内部空間S1の水の一部は、ドレン抜き口12から系外に排出される。
このように中空糸膜14の逆圧洗浄を行うことにより、上記濾過工程において中空糸膜14の外表面に付着した浮遊汚濁物質が当該外表面から浮いた状態となる。その後、制御部100により濾液側圧抜きバルブ81を開くことにより、濾液側の空間S2の圧力を低下させる。
次に、充水工程(バブリング前)が行われる。この工程では、上記逆洗工程において下がった内部空間S1内の液面を上昇させるため、内部空間S1に原水を供給する。具体的には、制御部100により原水バルブ22及び気体排出口バルブ62を開くと共に、送液ポンプ23を作動させる。これにより、原水配管21を介してハウジング13内に原水が供給され、内部空間S1内の液面が上昇する。その後、送液ポンプ23の動作を停止させ且つ原水バルブ22を閉じることにより、原水の供給を停止する。
次に、バブリング工程が行われる。この工程では、充水されたハウジング13の内部空間S1に気体を予め定められた時間供給するバブリングオンと、当該内部空間S1への気体の供給を予め定められた時間停止するバブリングオフと、を繰り返す。この工程は、本実施形態に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法における重要な工程であって、これを実施することにより中空糸膜束15全体において浮遊汚濁物質を効果的に除去することができる。
まず、気体排出口バルブ62を開いた状態において制御部100によりバブリング用バルブ32を開く。これにより、エアーコンプレッサー33から供給された気体(空気)が原水側気体入口7を通じてハウジング13の内部空間S1(下部空間S12よりも下側の空間)に供給され、当該内部空間S1に気泡が発生する(バブリングオン)。そして、図4に示すように、気泡Bが中空糸膜束15の径方向に広がりつつ、中空糸膜14同士の隙間S4及び中空糸膜束15の外周部とハウジング13の内側面との隙間S3を上昇する。この気泡Bによって中空糸膜14が揺動されることにより、中空糸膜14の膜表面に付着した浮遊汚濁物質を剥がれ落とすことができる。なお、気体は、中空糸膜14の下端14Aから上端14Bに向かって上昇した後、気体抜き口11からハウジング13の外に排出される。
ここで、中空糸膜束15は片端フリータイプであるため、図5に示すように内部空間S1に供給された気体による浮力に起因して径方向に広がるように膨らむ。そして、バブリングオンの時間が長くなるに従って中空糸膜束15の膨らみが大きくなり、中空糸膜束15の外周部とハウジング13の内側面との隙間が次第に小さくなる。その結果、中空糸膜束15の外周部を気泡が通過し難くなり、当該外周部における洗浄効果が低下する。
また図6は、中空糸膜束15の内部における気泡B1の通過経路を破線矢印により模式的に示している。図6に示すように、気泡B1は、中空糸膜束15の内部において中空糸膜の長手方向に沿うように下端から上端に向かって流れるが、中空糸膜束15の内部における気泡B1の通過経路はほぼ固定されてしまう。つまり、バブリング中に気体を連続的に供給してその供給時間を長くしたとしても、中空糸膜束15の径方向において満遍なく気体を行き渡らせることは難しく、中空糸膜束15全体をバブリング洗浄することは困難である。
そこで、本実施形態では、上記のとおり予め定められた時間だけ内部空間S1に気体を供給した後、制御部100によりバブリング用バルブ32を閉じ、内部空間S1への気体の供給を停止する(バブリングオフ)。これにより、気体による浮力に起因する中空糸膜束15の膨らみが解消され、図4に示すように中空糸膜束15が萎んだ状態に戻る。その結果、中空糸膜束15の外周部とハウジング13の内側面との間に再び隙間S3が生じる。
バブリング工程では、上記バブリングオンと上記バブリングオフとからなるサイクルを所定回数だけ繰り返す。バブリングオフ後に気体供給を再度開始する場合には、図4に示すように中空糸膜束15の外周部とハウジング13の内側面との間に隙間S3が生じているため、中空糸膜束15の外周部にも気体を供給可能である。このため、中空糸膜束15の外周部における洗浄効果を高めることができる。
またバブリングオフ時に気体供給を一旦停止することにより、中空糸膜束15の内部における気泡の通過経路もリセットされる。つまり、気体供給のサイクル毎に中空糸膜束15の膨らみ方を異ならせることにより、中空糸膜束15の内部において前サイクルと異なる径方向の位置に気泡B2の通過経路を形成することができる(図6中一点鎖線)。これにより、中空糸膜束15の径方向において気体の通過量のムラが生じ難くなり、中空糸膜束15全体を満遍なくバブリング洗浄することができる。しかも、気体の間欠供給によって中空糸膜束15の膨らみ(図5)と萎み(図4)の動きが繰り返されるため、気泡による膜の揺動とは異なる洗浄効果を与えることが可能となり、洗浄効果をさらに高めることができる。
バブリング工程において、バブリングオンとバブリングオフとからなるサイクルの繰り返し回数は特に限定されないが、2回以上10回以下であることが好ましい。上記サイクルを2回以上繰り返すことにより、バブリング洗浄の効果を確保することができる。一方、サイクルの繰り返し回数が10回を超えても中空糸膜14の洗浄効果は飽和する傾向がある。また必要以上にサイクルの繰り返し回数が増えると、バブリングのオン/オフを切り替えるためのバブリング用バルブ32の消耗が激しくなる。このため、上記サイクルの繰り返し回数は、2回以上10回以下であることが好ましく、3回以上6回以下であることがより好ましい。
またバブリング工程において、バブリングオン及びバブリングオフを行う時間も特に限定されないが、バブリングオンは3秒以上30秒以下行われることが好ましく、バブリングオフは3秒以上行われることが好ましい。
バブリングオンの時間を3秒以上にすることにより、中空糸膜束15が十分に膨らみ、各サイクルにおいて中空糸膜14のバブリング洗浄を確実に行うことができる。一方、バブリングオンの時間が30秒を超えると、予め定められた洗浄時間内におけるバブリングオン/オフの繰り返し回数が少なくなるため、洗浄効果が不十分になる。従って、予め定められた洗浄時間内において中空糸膜14の洗浄効果を確実に得るため、バブリングオンの時間は、3秒以上30秒以下であることが好ましく、3秒以上10秒以下であることがより好ましく、3秒以上5秒以下であることがさらに好ましい。
またバブリングオフの時間が3秒未満である場合には、バブリングオン時に供給された気体が中空糸膜束15の内部を通り抜けきれず、中空糸膜束15が完全に萎んだ状態とならない。このため、バブリングオフの時間は、3秒以上であることが好ましい。
最後に、排水工程が行われる。この工程では、制御部100により排水バルブ92が開かれることにより、上記バブリング工程において膜表面から剥がれた浮遊汚濁物質を含む水がドレン抜き口12から系外に排出される。
以上のようにして中空糸膜モジュール10の洗浄が行われた後、濾過工程が再び開始される。即ち、本実施形態に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法(バブリング工程を含む)は、1つの濾過工程と次の濾過工程との間に実施される。
ここで、上記のとおり説明した本実施形態に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法の特徴について列記する。
本実施形態に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法は、束状の複数の中空糸膜14を有し、中空糸膜14の上端14Bが固定されると共に中空糸膜14の下端14Aが固定されない片端フリータイプの中空糸膜束15と、中空糸膜束15が収容される内部空間S1を有するハウジング13と、を備えた外圧濾過式の中空糸膜モジュール10を洗浄する方法である。この方法は、中空糸膜14により原水を濾過する一の濾過工程と次の濾過工程との間において、充水された内部空間S1に気体を予め定められた時間供給するバブリングオンと、充水された内部空間S1への気体の供給を予め定められた時間停止するバブリングオフと、を繰り返すバブリング工程を備えている。
上記中空糸膜モジュールの洗浄方法では、充水されたハウジング13の内部空間S1に気体を供給することにより当該内部空間S1に気泡を発生させ、当該気泡により中空糸膜14を揺動させることにより膜表面に付着した浮遊汚濁物質を剥がれ落とすことができる。ここで、ハウジング13の内部空間S1への気体の供給を間欠的に行う(バブリングオン/オフを繰り返す)ことにより、気体供給のサイクル毎に中空糸膜束15の膨らみ方を変えることができる。これにより、気体をバブリング工程中に連続的に供給する場合と異なり、中空糸膜束15の内部における気泡流の通過経路を気体供給のサイクル毎に異ならせることができる。その結果、中空糸膜束15全体において気体の通過量のムラが生じ難くなり、中空糸膜束15全体をバブリング洗浄することができる。
また上記中空糸膜モジュールの洗浄方法では、バブリングオン時における中空糸膜束15の膨らみとバブリングオフ時における中空糸膜束15の萎みを繰り返しつつ、中空糸膜14をバブリング洗浄することができる。バブリング工程中に気体を連続的に供給する場合には、気体の浮力に起因する中空糸膜束15の膨らみにより、中空糸膜束15の外周部とハウジング13の内側面との隙間S3が次第に小さくなる。その結果、気泡が中空糸膜束15の外周部を通過し難くなり、中空糸膜束15の外周部における洗浄効果が低下する。これに対して、気体を間欠的に供給して中空糸膜束15の膨らみと萎みを繰り返しつつバブリング洗浄することにより、中空糸膜束15の外周部における洗浄効果を高めることもできる。しかも、中空糸膜束15の膨らみと萎みの繰り返しにより、通常のバブリングによる揺動とは異なる動きを中空糸膜14に与えることができるため、洗浄効果を一層高めることができる。
上記中空糸膜モジュールの洗浄方法は、中空糸膜14により濾過された濾液を、中空糸膜14の内表面側から外表面側に向かって気体により押し出す逆洗工程を備えている。バブリング工程は、逆洗工程の後に行われる。この方法によれば、逆洗工程の際に中空糸膜14内に気体を満たすことができる。これにより、バブリング工程の際に中空糸膜束15が膨らみ易くなり、中空糸膜束15の膨らみと萎みの繰り返しによる洗浄効果を高めることができる。
上記中空糸膜モジュールの洗浄方法では、バブリング工程において、バブリングオンとバブリングオフとからなるサイクルを2回以上10回以下繰り返す。上記サイクルを2回以上繰り返すことにより、バブリング洗浄の効果を確保することができる。一方、サイクルの繰り返し回数が10回を超えても中空糸膜14の洗浄効果は飽和する傾向がある。また必要以上にサイクルの繰り返し回数が増えると、バブリングのオン/オフを切り替えるためのバブリング用バルブ32の消耗が激しくなる。このため、バブリングオンとバブリングオフとからなるサイクルの繰り返し回数は、2回以上10回以下であることが好ましく、3回以上6回以下であることがより好ましい。
上記中空糸膜モジュールの洗浄方法では、バブリング工程において、バブリングオンを3秒以上30秒以下行うと共に、バブリングオフを3秒以上行う。バブリングオンの時間を3秒以上にすることにより、中空糸膜束15が十分に膨らみ、各サイクルにおいて中空糸膜14のバブリング洗浄を確実に行うことができる。一方、バブリングオンの時間が30秒を超えると、予め定められた洗浄時間内におけるバブリングオン/オフの繰り返し回数が少なくなるため、洗浄効果が不十分になる。従って、予め定められた洗浄時間内において中空糸膜14の洗浄効果を確実に得るため、バブリングオンの時間は、3秒以上30秒以下であることが好ましく、3秒以上10秒以下であることがより好ましく、3秒以上5秒以下であることがさらに好ましい。
またバブリングオフの時間が3秒未満である場合には、バブリングオン時に供給された気体が中空糸膜束15の内部を通り抜けきれず、中空糸膜束15が完全に萎んだ状態とならない。このため、バブリングオフの時間は、3秒以上であることが好ましい。
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法について説明する。実施形態2に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法は、基本的に上記実施形態1と同様に実施されるが、バブリング工程において散気部材4が用いられる点で異なっている。以下、上記実施形態1と異なる点についてのみ説明する。
図7に示すように、実施形態2で用いられる中空糸膜モジュール10Aは、中空糸膜束15及びハウジング13に加えて散気部材4をさらに備えている。またハウジング13の下面13Cの中央近傍には、内部空間S1に気体を供給するための散気用気体入口7Aが設けられている。この散気用気体入口7Aには、バブリング用配管31(図1)の一端が接続されている。
散気部材4は、中空糸膜14の下端14Aよりも下側(下部空間S12よりも下側の空間)に配置されている。散気部材4は、中空糸膜束15の径方向に広がった形状を有し、周縁部が中空糸膜束15よりも径方向外側に位置している。散気部材4には、ハウジング13内に気体を分散させるための複数の散気用通気孔43が径方向に間隔を空けて形成されている。
散気部材4は、中空糸膜束15の径方向に広がった形状を有し、複数の散気用通気孔43が形成された円板状の本体部44と、本体部44の周縁部に接続された周壁部47と、本体部44の下面に接続された円筒状の気体受け部45と、を有し、これらが一体に形成されている。
散気用通気孔43は、本体部44を厚み方向に貫通するように形成されている。散気用通気孔43は、本体部44の径方向及び周方向に互いに間隔を空けて形成されており、その一部は中空糸膜束15よりも径方向外側に位置している。これにより、中空糸膜束15に対して径方向に広い範囲で気体を分散させることができる。なお、本体部44は、円板状のものに限定されず、種々の形状のものであってもよい。
気体受け部45は、散気用気体入口7Aからハウジング13内に供給された気体を一時的に収容するための部分である。気体受け部45は、筒形状を有し、上端(一方端)が本体部44の下面に接続されると共に、下端(他方端)側に気体の受け口が形成されている。本実施形態では、気体受け部45は、上端から下端に向かって内径が略一定となるように構成されている。
気体受け部45は、散気用気体入口7Aよりも径方向外側に位置し、これにより散気用気体入口7Aからハウジング13内に供給された気体を筒内に収容することができる。また図7に示すように、気体受け部45の下端とハウジング13の下壁との間には隙間が形成されており、ハウジング13内の水が当該隙間を流通することができる。これにより、ハウジング13の下部における液溜まりを防ぐことができる。
気体受け部45の上端側の部位には、複数の分散孔が周方向に間隔を空けて形成されている。この分散孔は、気体受け部45を貫通するように形成されている。分散孔によって、気体受け部45に収容された気体を径方向外側へ逃がし、散気用通気孔43へ導くことができる。分散孔は、周方向に等間隔で形成されていてもよいし、異なる間隔で形成されていてもよい。
周壁部47は、本体部44の周縁部から下方に延びる筒形状を有する。周壁部47によって、分散孔を通じて気体受け部45の径方向外側に逃がされた気体が、本体部44よりも径方向外側に広がるのを抑制することができる。これにより、散気用通気孔43から気体が分散される前において、本体部44の下面に気体を留めることができる。
散気部材4によれば、バブリング工程(バブリングオン)において、散気用気体入口7Aからハウジング13内に供給された気体を気体受け部45により一時的に収容した後、分散孔から径方向外側へ逃がし、その後散気用通気孔43から下部空間S12に向かって分散させることができる。この時、内部空間S1において中空糸膜14の長手方向に沿って上向きの気泡流が発生する。これにより、中空糸膜束15の径方向における広い範囲に亘って気体を分散させることができるため、中空糸膜束15を径方向において均一にバブリング洗浄することができる。
(実施形態3)
次に、本発明の実施形態3に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法について説明する。実施形態3に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法は、基本的に上記実施形態1と同様に実施されるが、バブリング工程が逆洗工程と同時に行われる点で異なっている。以下、上記実施形態1と異なる点についてのみ説明する。
図8に示すように、実施形態3では、濾過工程が行われた後、逆洗工程とバブリング工程が同時に実施される。具体的には、逆洗用バルブ42、気体排出口バルブ62及び排水バルブ92を開いた状態で、バブリング用バルブ32の開閉を所定のインターバルで繰り返す。これにより、逆洗工程とバブリング工程を別々に行う場合に比べて、洗浄時間の短縮を図ることができる。
(その他実施形態)
なお、本発明に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法には、以下の実施形態もさらに含まれる。
上記実施形態3におけるバブリング洗浄の際に図7に示した散気部材4が用いられてもよい。
上記実施形態1,2では、逆洗工程が行われる場合について説明したがこれに限定されず、逆洗工程が省略されてもよい。
上記実施形態1では、バブリング用の気体として空気を用いる場合について説明したがこれに限定されず、例えば窒素などの不活性ガスが用いられてもよい。
上記実施形態1では、図2に示すように原水側気体入口7が1つだけ設けられる場合について説明したがこれに限定されず、複数の原水側気体入口7が下部空間S12よりも下側の空間に開口するように設けられてもよい。
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例により制限されるものではなく、前後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
(実施例1)
中空糸膜束15として、膜面積が40m2である片端フリータイプのものを用いた。中空糸膜14として、親水化処理されたポリフッ化ビニリデン系樹脂からなり、平均孔径が0.02μmであり、有効長が890mmのものを用いた。
散気部材4は、固定部材3から長手方向に915mm離れた位置に取り付けた。散気部材4としては、複数の散気用通気孔43が形成された円板状の本体部44と、気体受け部45と、周壁部47と、からなるものを用いた。散気部材4の気体受け部45への気体供給口として、ハウジング13の下面13Cに散気用気体入口7Aを設けた。
上記中空糸膜モジュール10A(図7)を用いて原水の濾過運転を行った。原水としては、水酸化第二鉄の懸濁液からなり、SS濃度が170mg/Lのモデル水を用いた。また外圧全濾過方式によって、流量5000L/hの条件で30分間定流量濾過を行った。
濾過運転後、中空糸膜モジュール10Aの濾液側に0.2MPaの圧縮空気を供給することにより逆圧洗浄を行った。その後、ハウジング13内において散気部材4に気体を3秒間供給した後に3秒間気体の供給を停止するサイクルを10回繰り返すことにより、バブリング洗浄を行った。具体的には、散気部材4により5000NL/hの流量でハウジング13内に空気を分散させ、気体抜き口11から排気した。なお、気体の供給を3秒間停止する間に、ハウジング13内に供給された気体が気体抜き口11から抜けることが確認された。その後、排水工程において、気体抜き口11及びドレン抜き口12を開放し、ハウジング13内の残留液を系外に排出した。
この洗浄を5回繰り返した後、中空糸膜束15をハウジング13から取り出した。そして、SSの付着量及び濾過運転時間内に供給されたSS全量により、SS排出率(((SS全量−SS付着量)/SS全量)×100)を算出し、これを指標として洗浄能力を評価した。
(実施例2)
バブリングオンの時間を5秒とし、バブリングオンとバブリングオフとからなるサイクルの繰り返し回数を6回とした点以外は、上記実施例1と同様である。
(実施例3)
バブリングオンの時間を10秒とし、バブリングオンとバブリングオフとからなるサイクルの繰り返し回数を3回とした点以外は、上記実施例1と同様である。
(実施例4)
バブリングオンの時間を15秒とし、バブリングオンとバブリングオフとからなるサイクルの繰り返し回数を2回とした点以外は、上記実施例1と同様である。
(実施例5)
バブリングオンの時間を30秒とし、バブリングオンとバブリングオフとからなるサイクルの繰り返し回数を2回とし、バブリング洗浄の合計時間を60秒とした点以外は、上記実施例1と同様である。
(実施例6)
バブリングオンの時間を15秒とし、バブリングオンとバブリングオフとからなるサイクルの繰り返し回数を4回とし、バブリング洗浄の合計時間を60秒とした点以外は、上記実施例1と同様である。
(比較例1)
バブリングオンとバブリングオフを繰り返さず、気体を連続的に供給してバブリング洗浄を行った点以外は、上記実施例1と同様である。散気部材4により5000NL/hの流量で30秒間連続してハウジング13内に空気を分散させると共に、気体抜き口11から排気した。
(比較例2)
バブリング洗浄において15秒間連続してハウジング13内に空気を分散させた点以外は、上記比較例1と同様である。
上記実施例1〜6及び比較例1,2の条件及びSS排出率の算出結果は、下記表1のとおりである。また図9のグラフは、バブリングオン/オフのサイクルの繰り返し回数(横軸)とSS排出率(縦軸)との関係を示している。
(考察)
上記試験結果に基づいて以下のように考察することができる。
実施例1〜6ではSS排出率が88%以上であったのに対して、比較例1,2ではSS排出率が80%に満たなかった。この結果より、バブリング洗浄中において気体の供給と停止を繰り返すことがSSの除去効率を向上させる上で有効に寄与することが分かった。またバブリングオンの時間を3〜30秒の範囲とし、且つバブリングオフの時間を3秒にすることにより、良好なSS排出率が達成された。
また図9のグラフのとおり、サイクルの繰り返し回数が3回以降からは、SS排出率は飽和する傾向が見られた。従って、バブリングのオン/オフに用いられるバルブの寿命を考慮し、サイクルの繰り返し回数は、3〜6回が好ましいと考えられる。
今回開示された実施形態及び実施例は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。