JP6682988B2 - 延性に優れた高張力厚鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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[2] 更に、質量%で、Cu:2%以下、Ni:3%以下、Cr:2%以下、Mo:1%以下、B:0.005%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記[1]に記載の延性に優れた高張力厚鋼板。
[3] 更に、質量%で、V:0.2%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の延性に優れた高張力厚鋼板。
[4] 上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の成分組成を有する鋼を鋳造し、鋳造後の鋼片にそのまま、又は、一旦、冷却した鋼片を930〜1250℃に加熱して、Ar3点以上950℃以下の温度範囲で、総圧下比が6〜20、かつ、750℃以下の圧下比が2〜20である熱間圧延を施し、前記熱間圧延の終了後、Ar3−50℃以上の温度から、冷却速度が2.0℃/秒超7.5℃/秒以下である前段強制冷却を行って450〜600℃の温度範囲で前段強制冷却を停止し、450〜600℃の温度範囲内での保持時間を1〜50秒とし、その後、350〜450℃の温度域を10秒以内に通過するように、冷却速度が10〜100℃/秒の後段強制冷却を行って200〜350℃の温度範囲で後段強制冷却を停止し、室温まで空冷することを特徴とする上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の延性に優れた高張力厚鋼板の製造方法。
[5] 室温まで放冷した後、Ac1〜Ac1+50℃の温度範囲内に加熱して1〜1200秒保持する熱処理を行うことを特徴とする上記[4]に記載の延性に優れた高張力厚鋼板の製造方法。
Cは、強度を向上させる元素であり、C含有量を0.03%以上とする。好ましくはC含有量を0.05%以上、より好ましくは0.08%以上とする。しかし、C含有量が0.2%を超えると、溶接性が劣化し、また、MAなどの硬質相が増加して、加工性及び靭性が著しく劣化する。したがって、C含有量は0.20%以下とし、好ましくは0.15%以下とする。
Siは、脱酸元素であり、また、固溶強化元素でもあり、効果を得るためにSi含有量を0.05%以上とする。好ましくはSi含有量を0.10%以上、より好ましくは0.15%以上とする。一方、Si含有量が1.0%を超えると、低温靱性及び鋼の表面性状が劣化するため、上限を1.0%とする。好ましくはSi含有量を0.70%以下、より好ましくは0.50%以下とする。
Mnは、鋼の焼入れ性を高め、強度向上に寄与する元素であり、Mn含有量を0.7%以上とする。好ましくはMn含有量を1.0%以上、より好ましくは1.20%以上とする。一方、Mn含有量が2.5%を超えると、溶接性が劣化し、また、ミクロ偏析に起因してMAなどの硬質相が増加し、加工性及び靭性が劣化する。したがって、Mn含有量は2.50%以下とし、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.80%以下とする。
[S:0.02%以下]
P及びSは不純物であり、延性を低下させることから、P及びSの含有量を0.02%以下に制限する。P及びSの含有量の上限は特に限定せず、0%でもよい。Sは、微細なMnSが鋼中に分散すると、金属組織の微細化に寄与することから、S含有量は0.0005%以上であってもよい。
Alは、脱酸元素であるが、Al含有量が0.1%を超えると、鋼材の靱性及び表面性状が劣化するので、上限を0.1%とする。脱酸はAl以外の元素でも可能であるため、0%でもよいが、0.0001%以上を含有させてもよい。
Nは、不純物であり、含有量が0.01%を超えると、靭性が低下する。また、Nは、Ti、Al、Zr、Ta及びHfと窒化物を形成し、熱間圧延時のオ−ステナイトの細粒化及びフェライトの再結晶粒の微細化に有効に作用する。このため、N含有量が0.0001%以上であってもよい。
Oは、不純物であり、Ti、Al及びMn等と結合し、酸化物等の化合物を生成する。O含有量が0.01%を超えると、粗大な化合物が生じて破壊の起点となるため、靭性が劣化する。一方、酸化物等の化合物が鋼中に微細に分散すると、金属組織(結晶粒)の微細化に寄与するので、O含有量は0.0001%以上であってもよい。
Cuは、焼入れ性の向上に有効であり、また、固溶強化によって、鋼材の強度を向上させる元素である。効果を得るために、Cu含有量は0.001%以上が好ましい。より好ましくはCu含有量を0.05%以上、更に好ましくは0.10%以上とする。一方、Cu含有量が2%を超える場合には、鋳造時に粒界に析出して内部割れを引き起こし、圧延製造工程中に鋼塊及び鋼板で疵が発生しやすくなり、更には鋼材の熱間加工性等を劣化させる要因ともなる。よって、Cuの含有量は2%以下が好ましい。より好ましくはCu含有量を1.0%以下、更に好ましくは0.50%以下とする。
Niは、強度を向上させる作用を有し、特に靭性を低下させることなく強度向上が図れる点で有用な元素である。効果を得るために、Ni含有量は0.001%以上が好ましい。一方、3%を超える量のNiを含有させても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利になると共に、強度上昇によって、靱性及び延性の劣化を招く場合がある。よって、Niの含有量は3%以下が好ましい。より好ましくはNi含有量を2.0%以下、更に好ましくは1.0%以下とする。
Crは、焼入れ性の向上と析出硬化とにより、母材(鋼材)の強度向上に有効な元素である。効果を得るために、Crの含有量は0.001%以上が好ましい。より好ましくはCr含有量を0.05%以上、更に好ましくは0.10%以上とする。一方、Cr含有量が2%を超えると靭性が低下する場合がある。したがって、Crの含有量は2%以下が好ましく、より好ましくは1.0%以下、更に好ましくは0.50%以下とする。
Moは、焼入れ性の向上、及び析出強化に寄与して強度を向上させる元素である。効果を得るために、Mo含有量は0.001%以上が好ましい。より好ましくはMo含有量を0.05%以上、更に好ましくは0.10%以上とする。一方、Mo含有量が1%を超えてしまうと、合金コストが上昇するだけでなく、強度が上昇して靭性の劣化が生じる場合がある。したがって、Moの含有量は1%以下が好ましく、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.30%以下とする。
Bは、微量の添加で鋼材の焼き入れ性を増加させ、所望の強度を得やすくする元素である。効果を得るために、B含有量は0.0001%以上が好ましい。より好ましくはB含有量を0.0003%以上、更に好ましくは0.0005%以上とする。一方、Bの含有量が0.005%を超えると、焼入れ性が過度となる場合があり、上限は0.005%が好ましい。より好ましくはB含有量を0.003%以下、更に好ましくは0.002%以下とする。
[Nb:0.1%以下]
[Ti:0.1%以下]
V、Nb及びTiは、結晶粒を微細化すると共に、析出強化の面で有効に機能するため、靭性を劣化させない範囲で選択的に添加することができる。効果を得るために、これらの元素の含有量は0.0001%以上が好ましく、より好ましくは0.0005%以上、更に好ましくは0.001以上とする。一方、V含有量は0.2%を、Nb含有量及びTi含有量は0.1%を超えると、鋼材の靭性が低下する場合がある。したがって、V含有量は0.2%以下が好ましく、より好ましくは0.1%以下、更に好ましくは0.05%以下とする。また、Nb含有量及びTi含有量は、何れも、0.1%以下が好ましく、より好ましくは0.05%以下、更に好ましくは0.03%以下とする。
フェライトの結晶粒径は5μm以下にする必要がある。これは、強度を高めるためであり、また、フェライトの微細化により、硬質相の結晶粒径を2μm以下にすることが可能になる。特にMAは複数のフェライトの結晶粒の間に生成するので、フェライトを微細化することにより微細分散することができる。フェライトの結晶粒径の下限は特に定めないが、現在の技術水準では1μm未満にすることは難しく、1μm以上であってもよい。フェライトの結晶粒径は、光学顕微鏡を用いて測定する。
フェライトの体積分率は50%以上とする。フェライトの体積分率が50%未満であると、ベイナイトやマルテンサイトが主体の金属組織となり、靭性や延性が低下する。一般に、金属組織の体積率は面積率と等価である。したがって、光学顕微鏡によって観察を行い、測定したフェライトの面積率を体積分率とする。
硬質相は、主に、マルテンサイト−オーステナイト混成物(MA)である。硬質相の結晶粒径は、2μmを超えると、温度の低下や加工によって、残留オーステナイトがマルテンサイトに変態し、延性や靭性を劣化させる。したがって、硬質相の結晶粒径は2μm以下とする。硬質相の結晶粒径は、レペラー液によるエッチングを行い、光学顕微鏡を用いて測定する。
硬質相は、加工硬化による延性の向上に寄与し、効果を得るために、体積分率を1%以上とする必要がある。一方、硬質相の体積分率は、残留オーステナイトのマルテンサイト変態を防止し、延性や靭性の劣化を抑制するために、10%以下とする。硬質相の体積率は、フェライトの体積率と同様、光学顕微鏡によって観察を行い、測定する。フェライト、硬質相(MA)の残部は、マルテンサイト、ベイナイト、パーライトの1種又は2種以上である。
[引張強度:570N/mm2以上]
[一様伸び率:15%以上]
本発明の高張力厚鋼板は、建築物や橋梁の強度部材、ラインパイプの素材などに好適に使用される。厚鋼板の高張力化が求められる理由は、建築物の大型化やラインパイプ内の圧力の上昇に伴う負荷応力の増大や、素材の板厚減などである。このような高強度化の要請に対応するため、本発明の高張力厚鋼板では、降伏強度を500N/mm2以上、引張強度を570N/mm2以上とする。また、高張力鋼板の冷間加工性の確保や、外部から応力が負荷された際の破断の防止などのため、一様伸びは15%以上とする。
一般に、鋼の強度が高くなると延性が低下する。本発明の高張力鋼板は、強度及び延性を共に向上させることが必要であり、引張強度と一様伸びとの積を評価の指標とする。本発明の高張力厚鋼板が好適に使用される、建築物や橋梁の強度部材、ラインパイプの素材において、上述のような高張力化及び高延性化の要求を満足するため、引張強度と一様伸びとの積は9000N/mm2・%以上とする。
熱間圧延前に鋼素材を再加熱する場合は、その加熱温度を930〜1250℃の範囲とする。圧延前の再熱温度が930℃未満の場合、鋼材の金属組織がオ−ステナイト単相にならない。また、圧延前の再加熱温度が1250℃を超えると、結晶粒径が粗大となるため、鋼材の靱性が劣化する。結晶粒径を微細にするためには、加熱温度は1150℃以下が好ましく、より好ましくは1000℃以下とする。
熱間圧延はAr3点以上で行う。これは、Ar3温度未満で圧延した場合、金属組織中に加工されたフェライトが混在し、鋼材の靱性が劣化するからである。また、熱間圧延では、フェライト及び硬質相を微細にするため、950℃以下の温度範囲の総圧下比が重要である。950℃以下では熱間圧延の圧延パス間での再結晶が抑制され、転位などの不均一な加工組織が形成される。このような不均一組織は、圧延後の冷却中に生じる相変態の核生成サイトとなる。
750℃以下の温度での圧下により、フェライト及び硬質相の細粒化が顕著となる。この原因は必ずしも明確ではないが、低温では転位の回復が顕著に抑制され、多重すべりが発生して、圧下によって導入される不均一組織が非常に微細化するためではないかと考えられる。フェライト及び硬質相は、700℃以下の温度での圧下により、更に顕著に微細化される。
熱間圧延後、Ar3点−50℃未満の温度から冷却を行った場合、冷却開始前に粗大なフェライトが多量に生成し、鋼材の強度が低下すると共に靱性が劣化する。よって、熱間圧延後の加速冷却(前段の加速冷却)の開始温度板は、Ar3点−50℃以上の温度とする。
熱間圧延後、加速冷却を施す場合、冷却速度を高めるに従って、鋼の金属組織は、順に、粗粒フェライト、細粒フェライト、ベイナイト、マルテンサイトへと変化する。熱間圧延の終了後、前段の加速冷却は、粗粒フェライトの生成を回避し、金属組織を細粒フェライト主体とする金属組織とするために2.0℃/秒超の冷却速度で行う。冷却速度は速い方が好ましいが、450〜600℃の温度範囲で、一旦、加速冷却を終了させる必要があり、工業的規模で実現可能なレベルとして7.5℃/秒を上限とする。フェライトを安定的に生成させるには、4℃/秒未満の冷却速度が好ましい。
前段の加速冷却の終了温度が低下すると、フェライトの体積率が減少し、鋼の強度が増加する。前段の加速冷却の終了温度は、硬質相に含まれる残留オーステナイトを安定化させるために450℃以上とし、好ましくは500℃以上とする。一方、前段の加速冷却の終了温度が高くなると、フェライトの粒径が粗大になり、強度や靱性が低下する。強度及び靱性を確保するために、前段の加速冷却の終了温度は600℃以下とし、好ましくは550℃以下とする。
前段の加速冷却の終了後、450℃以上の温度で保持することにより、鋼に含まれる炭素をオーステナイトに濃化させ、硬質相の残留オーステナイトを安定化させることができる。その結果、残留オーステナイトのマルテンサイト変態が抑制され、延性及び靱性の劣化を防止することができる。好ましくは、前段の加速冷却の終了後、後段の加速冷却を開始するまでの保持温度を500℃以上とする。一方、前段の加速冷却の終了後、600℃超の温度で保持すると、フェライトの粗大化やベイナイト変態、パーライト変態が生じ、フェライトの体積率が減少して、延性や靱性が劣化する。したがって、前段加速冷却終了から後段加速冷却開始までの保持温度は600℃以下とし、好ましくは550℃以下とする。
前段の加速冷却の終了後、後段の加速冷却を開始するまでの保持時間は、硬質相の残留オーステナイトを安定化させるために、1秒以上とする。好ましくは10秒以上とする。一方、前段の加速冷却の終了後、後段の加速冷却を開始するまでの保持時間は、フェライトの粗大化や、ベイナイト変態、パーライト変態を抑制するために、50秒以下とする。好ましくは35秒以下とする。
後段の加速冷却は、結晶粒の粗大化や相変態を抑制し、前段の加速冷却及びその後の保持によって得られた、微細なフェライト及び硬質相を、できるだけ安定化させつつ、保つために行う。そのため、後段の加速冷却では、10℃/秒以上の冷却速度が必要である。後段の加速冷却の冷却速度は速いほど好ましいが、工業的安定操業の観点から100℃/秒以下とする。上限は、50℃/秒、更に、35℃/秒であってもよい。
後段の加速冷却では、350〜450℃の温度範囲を10秒以内で通過することが重要である。350〜450℃の温度範囲の通過に要する時間が10秒を超えると、ベイナイト変態によって硬質相の生成が不十分になり、延性が低下する。
後段の加速冷却は、ベイナイト変態を抑制するために、350℃以下で終了することが必要である。一方、後段の加速冷却の終了温度を過剰に低下させると、可動転位が多く生成し、降伏応力を低下させ、一様伸びも低下してしまうので、200℃以上とする。
[保持時間:1〜1200秒]
熱処理を施す場合は、MAに含まれる残留オーステナイトを安定化させるために、金属組織の一部がフェライトからオーステナイトに変態するAc1以上に加熱することが好ましい。しかし、加熱温度が高過ぎると変態によって生成するオーステナイトの量が増加して、冷却後に変態して、硬質相に含まれる残留オーステナイトを安定化させる効果を十分に得ることができないので、加熱温度をAc1+50℃以下とすることが好ましい。一方、保持時間は、効果を得るために1秒以上とし、金属組織の粗大化を避けるために、1200秒以下とすることが好ましい。より好ましくは保持時間を300秒以下とする。
Claims (5)
- 質量%で、
C:0.03〜0.2%、
Si:0.05〜1.0%、
Mn:0.7〜2.5%
を含有し、
P:0.02%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.1%以下、
N:0.01%以下、
O:0.01%以下
に制限し、残部がFe及び不純物からなる成分組成を有し、金属組織は、結晶粒径が5μm以下のフェライトの体積分率が50%以上であり、結晶粒径が2μm以下の硬質相であるマルテンサイト−オーステナイト混成物を体積分率で1〜10%含み、降伏強度が500N/mm2以上であり、引張強度が570N/mm2以上、一様伸びが15%以上であり、前記引張強度と前記一様伸びの積が9000N/mm2・%以上である
ことを特徴とする延性に優れた高張力厚鋼板。 - 更に、質量%で、
Cu:2%以下、
Ni:3%以下、
Cr:2%以下、
Mo:1%以下、
B:0.005%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の延性に優れた高張力厚鋼板。 - 更に、質量%で、
V:0.2%以下、
Nb:0.1%以下、
Ti:0.1%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の延性に優れた高張力厚鋼板。 - 請求項1〜3の何れか1項に記載の成分組成を有する鋼を鋳造し、鋳造後の鋼片にそのまま、又は、一旦、冷却した鋼片を930〜1250℃に加熱して、Ar3点以上950℃以下の温度範囲で、
総圧下比が6〜20、かつ、750℃以下の圧下比が2〜20である熱間圧延を施し、前記熱間圧延の終了後、Ar3−50℃以上の温度から、冷却速度が2.0℃/秒超7.5℃/秒以下である前段強制冷却を行って450〜600℃の温度範囲で前段強制冷却を停止し、
450〜600℃の温度範囲内での保持時間を1〜50秒とし、その後、350〜450℃の温度域を10秒以内に通過するように、冷却速度が10〜100℃/秒の後段強制冷却を行って200〜350℃の温度範囲で後段強制冷却を停止し、室温まで空冷する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の延性に優れた高張力厚鋼板の製造方法。 - 室温まで空冷した後、Ac1〜Ac1+50℃の温度範囲内に加熱して1〜1200秒保持する熱処理を行うことを特徴とする請求項4に記載の延性に優れた高張力厚鋼板の製造方法。
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