以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
(第1の偏波分離素子)
図1を参照して、この発明の第1の実施の形態による偏波分離素子(以下、第1の偏波分離素子とも称する)について説明する。図1(A)は、第1の偏波分離素子を示す概略平面図である。なお、図1(A)では、後述する支持基板及びクラッドを省略して示してある。図1(B)は、図1(A)に示す構造体をI−I線で切り取った概略的端面図である。なお、図1(B)では、ハッチングを省略している。
以下の説明では、各構成要素について、光伝播方向に沿った方向を長さ方向とする。また、支持基板の厚さに沿った方向を厚さ方向とする。また、長さ方向及び厚さ方向に直交する方向を幅方向とする。
第1の偏波分離素子100は、支持基板10とクラッド20と光導波路コア30とを備えて構成されている。
支持基板10は、例えば単結晶Siを材料とした平板状体で構成されている。
クラッド20は、支持基板10上に、支持基板10の上面を被覆し、かつ光導波路コア30を包含して形成されている。クラッド20は、例えばSiO2を材料として形成されている。
光導波路コア30は、クラッド20よりも高い屈折率を有する例えばSiを材料として形成されている。その結果、光導波路コア30は、光の伝送路として機能し、光導波路コア30に入力された光が光導波路コア30の平面形状に応じた伝播方向に伝播する。
なお、伝播する光が支持基板10へ逃げるのを防止するために、光導波路コア30は、支持基板10から例えば1〜3μmの範囲内の距離を離間させて形成されているのが好ましい。また、光導波路コア30は、厚さ方向でシングルモード条件を達成するべく、例えば100〜300nmの範囲内の厚さで形成されるのが好ましい。
また、光導波路コア30は、厚さよりも幅が大きく設計されている。
光導波路コア30は、この順に接続された第1入力ポート部41、第1入力テーパ部42、第1光導波路コア43、第1出力テーパ部44及び第1出力ポート部45を含んでいる。また、光導波路コア30は、この順に接続された第2入力ポート部51、第2入力テーパ部52、第2光導波路コア53、第2出力テーパ部54及び第2出力ポート部55を含んでいる。
そして、第1光導波路コア43及び第2光導波路コア53が互いに離間しかつ並んで配置された領域として、結合領域70が構成されている。結合領域70は、2つのサブ結合領域60、すなわち第1サブ結合領域60−1及び第2サブ結合領域60−2を含んでいる。
さらに、第1光導波路コア43は、第1サブ結合領域60−1に含まれる第1−1結合部61−1、第2サブ結合領域60−2に含まれる第2−1結合部62−1、並びに第1−1結合部61−1及び第2−1結合部62−1間を接続する第1接続テーパ部71を含んでいる。また、第2光導波路コア53は、第1サブ結合領域60−1に含まれる第1−2結合部61−2、第2サブ結合領域60−2に含まれる第2−2結合部62−2、並びに第1−2結合部61−2及び第2−2結合部62−2間を接続する第2接続テーパ部72を含んでいる。
第1入力ポート部41は、TE偏波及びTM偏波の双方に対してシングルモード条件を達成する厚さ及び幅で形成されている。従って、第1入力ポート部41は、基本モードのTE偏波及びTM偏波を伝播させる。
第1入力テーパ部42は、第1入力ポート部41と接続された一端から第1−1結合部61−1と接続された他端に向かって、第1入力ポート部41の幅から第1−1結合部61−1の幅まで、連続的に幅が拡大するテーパ形状で形成されている。第1入力テーパ部42を設けることによって、第1入力ポート部41から第1−1結合部61−1へ伝播する光の伝播損失を抑制することができる。
第1−1結合部61−1及び第2−1結合部62−1は、それぞれ直線導波路として形成されている。なお、第1−1結合部61−1及び第2−1結合部62−1の詳細な設計については後述する。
第1接続テーパ部71は、第1−1結合部61−1と接続された一端から第2−1結合部62−1と接続された他端に向かって、第1−1結合部61−1の幅から第2−1結合部62−1の幅まで、連続的に幅が変化(ここでは縮小)するテーパ形状で形成されている。第1接続テーパ部71を設けることによって、第1−1結合部61−1から第2−1結合部62−1へ伝播する光の伝播損失を抑制することができる。
第1出力テーパ部44は、第2−1結合部62−1と接続された一端から第1出力ポート部45と接続された他端に向かって、第2−1結合部62−1の幅から第1出力ポート部45の幅まで、連続的に幅が縮小するテーパ形状で形成されている。第1出力テーパ部44を設けることによって、第2−1結合部62−1から第1出力ポート部45へ伝播する光の伝播損失を抑制することができる。
第1出力ポート部45は、TE偏波及びTM偏波の双方に対してシングルモード条件を達成する厚さ及び幅で形成されている。従って、第1出力ポート部45は、基本モードのTE偏波及びTM偏波を伝播させる。
第2入力ポート部51は、TE偏波及びTM偏波の双方に対してシングルモード条件を達成する厚さ及び幅で形成されている。従って、第2入力ポート部51は、基本モードのTE偏波及びTM偏波を伝播させる。
第2入力テーパ部52は、第2入力ポート部51と接続された一端から第1−2結合部61−2と接続された他端に向かって、第2入力ポート部51の幅から第1−2結合部61−2の幅まで、連続的に幅が拡大するテーパ形状で形成されている。第2入力テーパ部52を設けることによって、第2入力ポート部51から第1−2結合部61−2へ伝播する光の伝播損失を抑制することができる。
第1−2結合部61−2及び第2−2結合部62−2は、それぞれ直線導波路として形成されている。なお、第1−2結合部61−2及び第2−2結合部62−2の詳細な設計については後述する。
第2接続テーパ部72は、第1−2結合部61−2と接続された一端から第2−2結合部62−2と接続された他端に向かって、第1−2結合部61−2の幅から第2−2結合部62−2の幅まで、連続的に幅が変化(ここでは拡大)するテーパ形状で形成されている。第2接続テーパ部72を設けることによって、第1−2結合部61−2から第2−2結合部62−2へ伝播する光の伝播損失を抑制することができる。
第2出力テーパ部54は、第2−2結合部62−2と接続された一端から第2出力ポート部55と接続された他端に向かって、第2−2結合部62−2の幅から第2出力ポート部55の幅まで、連続的に幅が縮小するテーパ形状で形成されている。第2出力テーパ部54を設けることによって、第2−2結合部62−2から第2出力ポート部55へ伝播する光の伝播損失を抑制することができる。
第2出力ポート部55は、TE偏波及びTM偏波の双方に対してシングルモード条件を達成する厚さ及び幅で形成されている。従って、第2出力ポート部55は、基本モードのTE偏波及びTM偏波を伝播させる。
次に、結合領域70並びに第1サブ結合領域60−1及び第2サブ結合領域60−2の設計について説明する。
結合領域70において、第1光導波路コア43の、第1入力テーパ部42側の入力端(すなわち第1−1結合部61−1の、第1入力テーパ部42と接続された端)43aと、第2光導波路コア53の、第2入力テーパ部52側の入力端(すなわち第1−2結合部61−2の、第2入力テーパ部52と接続された端)53aとは、面位置を一致させて配置されている。
また、結合領域70において、第1光導波路コア43の、第1出力テーパ部44側の出力端(すなわち第2−1結合部62−1の、第1出力テーパ部44と接続された端)43bと、第2光導波路コア53の、第2出力テーパ部54側の出力端(すなわち第2−2結合部62−2の、第2出力テーパ部54と接続された端)53bとは、面位置を一致させて配置されている。
また、第1−1結合部61−1、第1−2結合部61−2、第2−1結合部62−1及び第2−2結合部62−2は、共通の長さで形成されている。従って、第1サブ結合領域60−1及び第2サブ結合領域60−2は、共通の長さである。また、第1接続テーパ部71及び第2接続テーパ部72は、共通の長さである。従って、第1光導波路コア43及び第2光導波路コア53は、共通の長さである。
そして、第1−1結合部61−1の幅(第1幅)と、第1−2結合部61−2の幅(第2幅)とは、異なる寸法に設定されている。なお、図1では、第1幅>第2幅とした場合の構成例を示してある。また、第2−1結合部62−1は、上述の第2幅で形成されており、かつ第2−2結合部62−2は、上述の第1幅で形成されている。
従って、第1サブ結合領域60−1と第2サブ結合領域60−2とでは、第1光導波路コア43の幅及び第2光導波路コア53の幅の大小関係が反転している。この結果、結合領域70は、第1サブ結合領域60−1と第2サブ結合領域60−2とで、第1光導波路コア43の幅及び第2光導波路コア53間の伝播定数差が反転する、所謂反転Δβ構造の方向性結合器を構成している。
ここで、反転Δβ構造の動作曲線を図2に示す。図2では、横軸に、第1サブ結合領域60−1及び第2サブ結合領域60−2を合わせた長さLと結合長Lcとの比L/Lcを示している。また、図2では、縦軸に、第1光導波路コア43と第2光導波路コア53との、幅差から生じる伝播定数差Δβを、長さLで規格化したΔβL/πを示している。
図2において、横軸に示す×から伸びる曲線100a及び100bは、第1光導波路コア43の入力端43aに入力される光が、第2光導波路コア53の出力端53bから出力される(すなわちクロス状態となる)条件を示している。また、横軸に示す=から伸びる曲線150は、第1光導波路コア43の入力端43aに入力される光が、第1光導波路コア43の出力端43bから出力される(すなわちバー状態となる)条件を示している。
結合長Lcと、第1光導波路コア43及び第2光導波路コア53間の結合係数Kとの関係は、KLc=π/2で与えられる。図2において、横軸に示すL/Lcが大きくなるほど、結合係数Kは大きくなる。ここで、一対の光導波路コアが一定幅である方向性結合器においてクロス状態を得る場合には、長さLと結合長Lcとを一致させる必要がある。しかし、反転Δβ構造の場合には、長さLと結合長Lcとが一致しなくとも、クロス状態を得ることができる。
上述したように、第1の偏波分離素子100では、厚さよりも幅が大きく設計されている。この結果、第1光導波路コア43及び第2光導波路コア53では、TM偏波に対する閉じ込め効果に対して、TE偏波に対する閉じ込め効果が大きくなる。このため、TE偏波の結合係数は、TM偏波の結合係数よりも小さくなる。従って、図2に示すように、横軸(L/Lc)において、TE偏波の動作状態は、TM偏波よりも原点に近くなる。
また、第1光導波路コア43と第2光導波路コア53との、幅差から生じる伝播定数差Δβは、TE偏波の方が、2倍以上TM偏波よりも大きくなる。このため、図2に示すように、縦軸(ΔβL/π)において、TM偏波の動作状態は、TE偏波よりも原点に近くなる。
そして、第1の偏波分離素子100では、TM偏波に対して、クロス状態となる条件を満たし(すなわち図2におけるTM偏波の動作状態を示す点が、曲線100a又は100bと重なり)、かつTE偏波に対して、L/Lcが0に近い値となる(すなわち図2におけるTE偏波の動作状態を示す点が、横軸において原点に近い値となる)ように、第1光導波路コア43及び第2光導波路コア53の厚さ、幅及び長さを設計する。これによって、第1光導波路コア43を伝播するTE偏波を第2光導波路コア53に移行させず、第1光導波路コア43を伝播するTM偏波を第2光導波路コア53に移行させることができる。
なお、伝播定数差Δβは、波長の逆数である。このため、波長を変更した場合、図2においてTE偏波及びTM偏波の動作状態を示す各点は、縦軸に沿って、すなわちクロス状態の曲線とほぼ平行な方向に移動する。このため、TM偏波の動作状態を示す点が、曲線100a又は100bと重なる範囲の波長帯において、TM偏波に対してクロス状態を得ることができる。また、波長を変更しても、TE偏波の動作状態を示す点は、横軸において原点に近い値のままであるため、TE偏波に対してバー状態を維持することができる。
ここで、発明者は、有限要素法を使用して、方向性結合器における、対称モード(ここでは基本モード:M=0)及び反対称モード(ここでは1次モード:M=1)に対する等価屈折率neff、並びに結合長Lcを計算した。計算結果を表1に示す。ここでは、方向性結合器を構成する一対の光導波路コアの幅をそれぞれ460nmで一定とし、また、厚さを200nmとした。また、ここでは、1300nmの波長に対する計算結果を示す。なお、等価屈折率neffと結合長Lcとの関係は、基本モードの等価屈折率をneff0、1次モードの等価屈折率をneff1、及び波長をλとして、Lc=(λ/2)/(neff0−neff1)を用いて計算した。
表1におけるGapは、方向性結合器を構成する一対の光導波路コア間の離間距離を示している。また、表1の最下段に示すXtalkは、反転Δβ構造ではない(すなわち一対の光導波路コアが一定幅である)方向性結合器を用いて偏波分離を行う場合に期待される、TE偏波及びTM偏波それぞれの消光比を示している。消光比は、TE偏波の結合長をLcTE、及びTE偏波の結合長をLcTMとして、−10log10sin2{(LcTM/LcTE)(π/2)}を用いて計算した。
表1に示すように、光導波路コア間の離間距離が大きいほど消光比が向上することがわかる。一方で、光導波路コア間の離間距離が大きいと、結合長が大きくなる。このため、クロス状態を得るための光導波路コアの長さも大きくなる。光導波路コアの長さが大きくなると、TM偏波のクロス状態が得られる波長帯が狭まる。
第1の偏波分離素子100では、消光比の向上又は波長帯の拡大それぞれの観点から、仕様用途等に応じて、第1サブ結合領域60−1における第1−1結合部61−1及び第1−2結合部61−2間の離間距離、並びに第2サブ結合領域60−2における第2−1結合部62−1及び第2−2結合部62−2間の離間距離を設計することができる。
第1の偏波分離素子100は、このように設計された結合領域70を備えることによって、TE偏波とTM偏波との経路を分離することができる。第1の偏波分離素子100では、例えば第1入力ポート部41からTE偏波及びTM偏波を含む光が入力される。第1入力ポート部41に入力された光は、第1入力テーパ部42を経て、第1光導波路コア43の入力端43aに送られる。第1光導波路コア43を伝播する光のうち、TE偏波は、第2光導波路コア53に移行せずに、第1光導波路コア43の出力端43bから、第1出力テーパ部44に送られる。第1出力テーパ部44に送られたTE偏波は、第1出力ポート部45から出力される。一方、第1光導波路コア43を伝播する光のうち、TM偏波は、第2光導波路コア53に移行して、第2光導波路コア53の出力端53bから、第2出力テーパ部54に送られる。第2出力テーパ部54に送られたTM偏波は、第2出力ポート部55から出力される。
なお、ここでは、第1の偏波分離素子100の結合領域70が、2つのサブ結合領域60(第1サブ結合領域60−1及び第2サブ結合領域60−2)を含む構成例について説明した。しかし、結合領域70が、n個(nは2以上の整数)のサブ結合領域60を含む構成とすることもできる。この場合には、第k番目(kは1≦k≦n−1の整数)のサブ結合領域60において、第1光導波路コア43の結合部を第1幅で形成し、かつ第2光導波路コア53の結合部を、第1幅とは異なる第2幅で形成する。そして、第k+1番目のサブ結合領域60において、第1光導波路コア43の結合部を第2幅で形成し、かつ第2光導波路コア53の結合部を第1幅で形成する。このように第1光導波路コア43及び第2光導波路コア53の幅を設定することによって、n個のサブ結合領域60を含む結合領域70においても、反転Δβ構造の方向性結合器を構成することができる。
(特性評価)
発明者は、3次元BPM(Beam Propagation Method)を用いて、第1の偏波分離素子100の特性を評価するシミュレーションを行った。
まず、図1に示す構成例の第1の偏波分離素子100について、第1入力ポート部41からTE偏波及びTM偏波を入力した場合の、TE偏波及びTM偏波が光導波路コア30を伝播する様子を確認した。
このシミュレーションでは、以下のように、第1の偏波分離素子100を設計した。すなわち、光導波路コア30の厚さを200nmとした。また、第1−1結合部61−1の幅(第1幅)を442nm、及び第1−2結合部61−2の幅(第2幅)を478nmとした。また、第2−1結合部62−1の幅を第2幅と等しい478nm、及び第2−2結合部62−2の幅を第1幅と等しい442nmとした。また、第1入力テーパ部42から第1出力テーパ部44までの長さ、及び第2入力テーパ部52から第2出力テーパ部54までの長さを、それぞれ43μmとした。また、第1入力テーパ部42、第1接続テーパ部71及び第1出力テーパ部44、並びに第2入力テーパ部52、第2接続テーパ部72及び第2出力テーパ部54の長さをそれぞれ1μmとした。また、第1サブ結合領域60−1における第1−1結合部61−1及び第1−2結合部61−2間の離間距離、並びに第2サブ結合領域60−2における第2−1結合部62−1及び第2−2結合部62−2間の離間距離を、それぞれ300nmとした。また、入力するTE偏波及びTM偏波の波長として、1300nmを想定した。この設計条件における、第1サブ結合領域60−1及び第2サブ結合領域60−2の長さLと結合長Lcとの比L/Lcは、1.3程度である。
また、このシミュレーションでは、第1光導波路コア43及び第2光導波路コア53をそれぞれ460nmの一定幅で形成した場合の比較用素子についても、TE偏波の伝播の様子を確認した。比較用素子の設計は、第1光導波路コア43及び第2光導波路コア53が一定幅である点以外は、上述の第1の偏波分離素子100と同様である。
このシミュレーションの結果を図3に示す。図3(A)は、TM偏波が光導波路コア30を伝播する様子を示す図である。また、図3(B)は、TE偏波が光導波路コア30を伝播する様子を示す図である。また、図3(C)は、比較用素子について、TE偏波が光導波路コアを伝播する様子を示す図である。
図3(A)に示すように、第1の偏波分離素子100において、第1光導波路コア43を伝播するTM偏波が、第2光導波路コア53に移行して、第2出力ポート部55へ送られる様子が確認された。また、図3(B)に示すように、第1の偏波分離素子100において、第1光導波路コア43を伝播するTE偏波は、第2光導波路コア53に移行せずに、第1出力ポート部45へ送られる様子が確認された。一方、図3(C)に示すように、第1光導波路コア43と第2光導波路コア53とを一定幅とした比較用素子では、第1光導波路コア43を伝播するTE偏波の一部が、第2光導波路コア53に移行する様子が確認された。このように、反転Δβ構造を利用することにより、第1の偏波分離素子100では、良好な消光比で、TE偏波とTM偏波とを分離できることが確認された。
次に、図1に示す構成例の第1の偏波分離素子100について、3次元FDTD(Finite Difference Time Domain)法により波長特性を確認した。このシミュレーションでは、第1入力ポート部41からTE偏波及びTM偏波を入力した場合において、第1出力ポート部45及び第2出力ポート部55から出力されるTE偏波及びTM偏波の強度を解析した。
このシミュレーションでは、以下のように、第1の偏波分離素子100を設計した。すなわち、光導波路コア30の厚さを200nmとした。また、第1−1結合部61−1の幅(第1幅)を453nm、及び第1−2結合部61−2の幅(第2幅)を467nmとした。また、第2−1結合部62−1の幅を第2幅と等しい467nm、及び第2−2結合部62−2の幅を第1幅と等しい453nmとした。また、第1入力テーパ部42から第1出力テーパ部44までの長さ、及び第2入力テーパ部52から第2出力テーパ部54までの長さを、それぞれ79.32μmとした。また、第1入力テーパ部42、第1接続テーパ部71及び第1出力テーパ部44、並びに第2入力テーパ部52、第2接続テーパ部72及び第2出力テーパ部54の長さをそれぞれ1μmとした。また、第1サブ結合領域60−1における第1−1結合部61−1及び第1−2結合部61−2間の離間距離、並びに第2サブ結合領域60−2における第2−1結合部62−1及び第2−2結合部62−2間の離間距離を、それぞれ400nmとした。また、入力するTE偏波及びTM偏波の波長は、1300nmを中心波長とするパルス光を想定した。この設計条件における、第1サブ結合領域60−1及び第2サブ結合領域60−2の長さLと結合長Lcとの比L/Lcは、1.6程度である。
このシミュレーションの結果を図4に示す。図4(A)は、TM偏波の強度を示す図である。また、図4(B)は、TE偏波の強度を示す図である。図4(A)及び(B)では、縦軸に、強度をdB目盛で、また、横軸に波長をμm単位でとって示してある。また、図4(A)において、曲線401は第1入力ポート部41に入力するTM偏波の強度を、曲線402は第1出力ポート部45から出力されるTM偏波の強度を、曲線403は第2出力ポート部55から出力されるTM偏波の強度を、それぞれ示している。また、図4(B)において、曲線404は第1入力ポート部41に入力するTE偏波の強度を、曲線405は第1出力ポート部45から出力されるTE偏波の強度を、曲線406は第2出力ポート部55から出力されるTE偏波の強度を、それぞれ示している。
図4(A)に示すように、第2出力ポート部55から出力されるTM偏波の強度は、波長1300nm付近において、40nm程度の幅の波長帯に渡るフラットトップなピークを示している。また、この1300nm付近の波長帯において、第1出力ポート部45から出力されるTM偏波と第2出力ポート部55から出力されるTM偏波とで、20dB程度の消光比が得られている。また、図4(B)に示すように、上述の波長1300nm付近の波長帯において、第1出力ポート部45から出力されるTE偏波と第2出力ポート部55から出力されるTE偏波とで、20dB程度の消光比が得られている。従って、上述の設計で構成された第1の偏波分離素子100では、波長1300nm付近の波長帯において、良好な消光比でTE偏波とTM偏波とを分離できることが確認された。
(変形例)
図5を参照して、この発明の偏波分離素子の変形例について説明する。図5(A)は、偏波分離素子の変形例(以下、第2の偏波分離素子とも称する)を示す概略平面図である。図5(B)は、偏波分離素子の他の変形例(以下、第3の偏波分離素子とも称する)を示す概略平面図である。なお、図5(A)及び(B)では、支持基板及びクラッドを省略して示してある。また、上述した第1の偏波分離素子と共通する構成要素については、共通の符号を付し、重複する説明を省略する。
まず、図5(A)に示す第2の偏波分離素子200について説明する。
第2の偏波分離素子200は、3つの結合領域70(第1結合領域70−1、第2結合領域70−2及び第3結合領域70−3)を備えている。
第1結合領域70−1の第1光導波路コア43の出力端と第2結合領域70−2の第1光導波路コア43の入力端との間、及び第1結合領域70−1の第2光導波路コア53の出力端と第2結合領域70−2の第2光導波路コア53の入力端との間は、それぞれ接続部80によって接続されている。また、第2結合領域70−2の第1光導波路コア43の出力端と第3結合領域70−3の第1光導波路コア43の入力端との間、及び第2結合領域70−2の第2光導波路コア53の出力端と第3結合領域70−3の第2光導波路コア53の入力端との間も、それぞれ接続部80によって接続されている。
接続部80は、光導波路コア30の一部として形成されている。接続部80は、第1光導波路コア43間又は第2光導波路コア53間において、連続的に幅が変化するテーパ導波路によって、又はテーパ導波路と直線導波路とを組み合わせた導波路によって構成される。
第1結合領域70−1の第1光導波路コア43の入力端には、第1入力テーパ部42を介して第1入力ポート部41が、及び第1結合領域70−1の第2光導波路コア53の入力端には、第2入力テーパ部52を介して第2入力ポート部51が、それぞれ接続されている。また、第3結合領域70−3の第1光導波路コア43の出力端には、第1出力テーパ部44を介して第1出力ポート部45が、及び第3結合領域70−3の第2光導波路コア53の出力端には、第2出力テーパ部54を介して第2出力ポート部55が、それぞれ接続されている。
各結合領域70−1〜3は、それぞれ互いに異なる波長(ここでは、第1結合領域70−1:波長λ1、第2結合領域70−2:波長λ2、第3結合領域70−3:波長λ3)において、TE偏波がバー状態となり、かつTM偏波がクロス状態となるように設計されている。従って、各結合領域70−1〜3では、それぞれ互いに異なる波長において、第1光導波路コア43を伝播するTM偏波が、第2光導波路コア53に移行する。また、各結合領域70−1〜3において、第1光導波路コア43を伝播するTE偏波は、第2光導波路コア53に移行しない。
第2の偏波分離素子200では、例えば第1入力ポート部41からTE偏波及びTM偏波を含む、波長λ1、λ2及びλ3の光が入力される。第1入力ポート部41に入力された光は、第1入力テーパ部42を経て、第1結合領域70−1の第1光導波路コア43に送られる。
第1結合領域70−1では、波長λ1のTM偏波が第1光導波路コア43から第2光導波路コア53に移行する。第1結合領域70−1の第1光導波路コア43を伝播する光のうち、波長λ1のTM偏波以外の光は、接続部80を経て、第2結合領域70−2の第1光導波路コア43に送られる。第2結合領域70−2では、波長λ2のTM偏波が第2光導波路コア53に移行する。第2結合領域70−2の第1光導波路コア43を伝播する光のうち、波長λ2のTM偏波以外の光は、接続部80を経て、第3結合領域70−3の第1光導波路コア43に送られる。第3結合領域70−3では、波長λ3のTM偏波が第2光導波路コア53に移行する。第3結合領域70−3の第1光導波路コア43を伝播する光のうち、波長λ3のTM偏波以外の光、すなわち波長λ1、λ2及びλ3のTE偏波は、第1出力テーパ部44を経て第1出力ポート部45から出力される。
また、第1結合領域70−1において第2光導波路コア53に移行した波長λ1のTM偏波は、第2結合領域70−2の第2光導波路コア53及び第3結合領域70−3の第2光導波路コア53を順次に経た後、第2出力テーパ部54を経て第2出力ポート部55から出力される。また、第2結合領域70−2において第2光導波路コア53に移行した波長λ2のTM偏波は、第3結合領域70−3の第2光導波路コア53を経た後、第2出力テーパ部54を経て第2出力ポート部55から出力される。また、第3結合領域70−3において第2光導波路コア53に移行した波長λ3のTM偏波は、第2出力テーパ部54を経て第2出力ポート部55から出力される。
このように、第2の偏波分離素子200では、複数の波長帯の光について、TE偏波とTM偏波との経路を分離することができる。
なお、ここでは、第2の偏波分離素子200が、3つの結合領域70を含む構成例について説明した。しかし、第2の偏波分離素子200が、i個(iは2以上の整数)の結合領域70を含む構成とすることもできる。この場合には、第j番目(jは1≦j≦i−1の整数)の結合領域70の第1光導波路コア43と、第j+1番目の結合領域70の第1光導波路コア43とが、接続部80によって接続される。また、第j番目の結合領域70の第2光導波路コア53と、第j+1番目の結合領域70の第2光導波路コア53とが、接続部80によって接続される。そして、各結合領域70では、それぞれ互いに異なる波長において、第1光導波路コア43を伝播するTM偏波が、第2光導波路コア53に移行し、かつ第1光導波路コア43を伝播するTE偏波が、第2光導波路コア53に移行しないように、それぞれの各サブ結合領域60における、第1光導波路コア43及び第2光導波路コア53の厚さ、幅及び長さが設計される。
次に、図5(B)に示す第3の偏波分離素子300について説明する。
第3の偏波分離素子300は、3対の結合領域70(第1−1結合領域70−1a及び第1−2結合領域70−1b、第2−1結合領域70−2a及び第2−2結合領域70−2b、並びに第3−1結合領域70−3a及び第3−2結合領域70−3b)を備えている。
第1−1結合領域70−1aの第1光導波路コア43の出力端と第2−1結合領域70−2aの第1光導波路コア43の入力端との間、及び第2−1結合領域70−2aの第1光導波路コア43の出力端と第3−1結合領域70−3aの第1光導波路コア43の入力端との間は、それぞれ接続部80によって接続されている。
また、第1−2結合領域70−1bの第2光導波路コア53の出力端と第2−2結合領域70−2bの第2光導波路コア53の入力端との間、及び第2−2結合領域70−2bの第2光導波路コア53の出力端と第3−2結合領域70−3bの第2光導波路コア53の入力端との間は、それぞれ接続部80によって接続されている。
さらに、第1−1結合領域70−1aの第2光導波路コア53の出力端と第1−2結合領域70−1bの第1光導波路コア43の入力端との間、第2−1結合領域70−2aの第2光導波路コア53の出力端と第2−2結合領域70−2bの第1光導波路コア43の入力端との間、及び第3−1結合領域70−3aの第2光導波路コア53の出力端と第3−2結合領域70−3bの第1光導波路コア43の入力端との間は、それぞれ接続部80によって接続されている。
第1−1結合領域70−1aの第1光導波路コア43の入力端には、第1入力テーパ部42を介して第1入力ポート部41が、及び第1−1結合領域70−1aの第2光導波路コア53の入力端には、第2入力テーパ部52を介して第2入力ポート部51が、それぞれ接続されている。また、第3−1結合領域70−3aの第1光導波路コア43の出力端には、第1出力テーパ部44を介して第1出力ポート部45が接続されている。さらに、第3−2結合領域70−3bの第2光導波路コア53の出力端には、第2出力テーパ部54を介して第2出力ポート部55が接続されている。
同一対に含まれる各2つの結合領域70は、それぞれ共通の波長において、TE偏波がバー状態となり、かつTM偏波がクロス状態となるように設計されている。また、異なる対に含まれる結合領域70は、それぞれ互いに異なる波長(ここでは、第1−1結合領域70−1a及び第1−2結合領域70−1b:波長λ1、第2−1結合領域70−2a及び第2−2結合領域70−2b:波長λ2、第3−1結合領域70−3a及び第3−2結合領域70−3b:波長λ3)において、TE偏波がバー状態となり、かつTM偏波がクロス状態となるように設計されている。従って、各結合領域70では、各対同士で互いに異なる波長において、第1光導波路コア43を伝播するTM偏波が、第2光導波路コア53に移行する。また、各結合領域70において、第1光導波路コア43を伝播するTE偏波は、第2光導波路コア53に移行しない。
第3の偏波分離素子300では、第1入力ポート部41からTE偏波及びTM偏波を含む、波長λ1、λ2及びλ3の光が入力される。第1入力ポート部41に入力された光は、第1入力テーパ部42を経て、第1−1結合領域70−1aの第1光導波路コア43に送られる。
第1−1結合領域70−1aでは、波長λ1のTM偏波が第1光導波路コア43から第2光導波路コア53に移行する。第1−1結合領域70−1aの第1光導波路コア43を伝播する光のうち、波長λ1のTM偏波以外の光は、接続部80を経て、第2−1結合領域70−2aの第1光導波路コア43に送られる。第2−1結合領域70−2aでは、波長λ2のTM偏波が第2光導波路コア53に移行する。第2−1結合領域70−2aの第1光導波路コア43を伝播する光のうち、波長λ2のTM偏波以外の光は、接続部80を経て、第3−1結合領域70−3aの第1光導波路コア43に送られる。第3−1結合領域70−3aでは、波長λ3のTM偏波が第2光導波路コア53に移行する。第3−1結合領域70−3aの第1光導波路コア43を伝播する光のうち、波長λ3のTM偏波以外の光、すなわち波長λ1、λ2及びλ3のTE偏波は、第1出力テーパ部44を経て第1出力ポート部45から出力される。
また、第1−1結合領域70−1aにおいて第2光導波路コア53に移行した波長λ1のTM偏波は、第1−2結合領域70−1bの第2光導波路コア53、第2−2結合領域70−2bの第2光導波路コア53及び第3−2結合領域70−3bの第2光導波路コア53を順次に経た後、第2出力テーパ部54を経て第2出力ポート部55から出力される。また、第2−1結合領域70−2aにおいて第2光導波路コア53に移行した波長λ2のTM偏波は、第2−2結合領域70−2bの第2光導波路コア53及び第3−2結合領域70−3bの第2光導波路コア53を順次に経た後、第2出力テーパ部54を経て第2出力ポート部55から出力される。また、第3−1結合領域70−3aにおいて第2光導波路コア53に移行した波長λ3のTM偏波は、第3−2結合領域70−3bの第2光導波路コア53を経た後、第2出力テーパ部54を経て第2出力ポート部55から出力される。
このように、第3の偏波分離素子300では、複数の波長帯の光について、TE偏波とTM偏波との経路を分離することができる。
なお、ここでは、第3の偏波分離素子300が、3対の結合領域70を含む構成例について説明した。しかし、第3の偏波分離素子300が、p対(pは2以上の整数)の結合領域70を含む構成とすることもできる。この場合には、第q番目(qは1≦q≦p−1の整数)の対の一方の結合領域70の第1光導波路コア43と、第q+1番目の対の一方の結合領域70の第1光導波路コア43とが、接続部80によって接続される。また、第q番目の対の他方の結合領域70の第2光導波路コア53と、第q+1番目の対の他方の結合領域70の第2光導波路コア53とが、接続部80によって接続される。さらに、同一対に含まれる2つの結合領域70について、一方の結合領域70の第2光導波路コア53と他方の結合領域70の第1光導波路コア43とが、接続部80によって接続される。
そして、この場合には、同一対に含まれる結合領域70は、それぞれ共通の波長において、第1光導波路コア43を伝播するTM偏波が、第2光導波路コア53に移行し、かつ第1光導波路コア43を伝播するTE偏波が、第2光導波路コア53に移行しないように、それぞれの各サブ結合領域60における、第1光導波路コア43及び第2光導波路コア53の厚さ、幅及び長さが設計される。また、異なる対に含まれる結合領域70は、それぞれ互いに異なる波長において、第1光導波路コア43を伝播するTM偏波が、第2光導波路コア53に移行し、かつ第1光導波路コア43を伝播するTE偏波が、第2光導波路コア53に移行しないように、それぞれの各サブ結合領域60における、第1光導波路コア43及び第2光導波路コア53の厚さ、幅及び長さが設計される。
(製造方法)
上述した第1の偏波分離素子100、第2の偏波分離素子200及び第3の偏波分離素子300は、例えばSOI(Silicon On Insulator)基板を利用することによって、簡易に製造することができる。
すなわち、まず、支持基板層、SiO2層、及びSi層が順次積層されて構成されたSOI基板を用意する。次に、例えばエッチング技術を用い、Si層をパターニングすることによって、光導波路コア30を形成する。その結果、支持基板10としての支持基板層上にSiO2層が積層され、さらにSiO2層上に光導波路コア30が形成された構造体を得ることができる。次に、例えばCVD法を用いて、SiO2層上に、SiO2を、光導波路コア30を被覆して形成する。その結果、クラッド20によって光導波路コア30が包含された第1の偏波分離素子100、第2の偏波分離素子200又は第3の偏波分離素子300を製造することができる。
なお、第1の偏波分離素子100、第2の偏波分離素子200及び第3の偏波分離素子300では、上述したように、光導波路コア30は、厚さよりも幅が大きく設計される。これを実現するために、光導波路コア30を形成する工程において、Si層をパターニングした後、例えばエッチング技術や研磨等を用いて、光導波路コア30を全体的に薄くすることもできる。