以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態のファン成形品は、動的粘弾性測定における、85℃での貯蔵弾性率E1’に対する110℃での貯蔵弾性率E2’の割合(E2’/E1’)が0.90以上であり、110℃における貯蔵弾性率E2’、23℃における比重ρとしたときの比貯蔵弾性率(E2’/ρ)が4,000MPa以上の熱可塑性樹脂組成物からなる。
なお、本明細書において、動的粘弾性測定における85℃での貯蔵弾性率E1’を、単に「E1’」と、動的粘弾性測定における110℃での貯蔵弾性率E2’を、単に「E2’」と称する場合がある。本明細書において、E1’、E2’は、後述の〔評価〕の「(1)貯蔵弾性率」に記載の方法で測定される値をいう。
また、本明細書において、110℃での貯蔵弾性率E2’、23℃における比重ρとしたときの比貯蔵弾性率(E2’/ρ)を、「110℃における比貯蔵弾性率」や「E2’/ρ」と称する場合がある。
〔熱可塑性樹脂組成物〕
上記熱可塑性樹脂組成物は、E1’に対するE2’の割合(E2’/E1’)が0.90以上である。E2’/E1’が0.90以上であることによって、使用時の環境温度によるインペラー変形量の温度依存性が少ないファン成形品が得られる。上記E2’/E1’は、好ましくは0.93以上、より好ましくは0.95以上である。
上記熱可塑性樹脂組成物は、110℃における比貯蔵弾性率(E2’/ρ)が4,000MPa以上である。ここで、ρはISO1183に準拠し23℃にて測定した比重である。110℃における比貯蔵弾性率が4,000MPa以上であることによって、高温環境下かつ高速回転状態で運転してもインペラーの変形量が少ないファン成形品が得られる。上記E2’/ρは、好ましくは4,200MPa以上、より好ましくは4,500MPa以上である。
また、上記熱可塑性樹脂組成物の23℃における比重ρは、高温環境下かつ高速回転状態で運転してもインペラーの変形量が一層少ないファン成形品が得られる観点から、1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがより好ましい。
E2’/E1’及びE2’/ρを制御する方法としては、ファン成形品の製造に用いる熱可塑性樹脂組成物として、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を用いる方法が好ましい。
上記熱可塑性樹脂組成物は、UL94に準拠して測定される、試料厚み0.75mmの難燃性レベルが、V−0であることが好ましい。難燃性を制御する方法としては、上記熱可塑性樹脂組成物として、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を用いる方法、難燃剤を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いる方法等が挙げられる。
上記熱可塑性樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物であることが好ましく、より具体的には、ポリフェニレンエーテル(A)、必要に応じて、スチレン系樹脂(B)、ガラス繊維(C)、有機リン系難燃剤(D)、ポリアミド系樹脂(E1)、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂(E2)からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含有するポリフェニレンエーテル系樹脂組成物であることがより好ましい。
−ポリフェニレンエーテル(A)−
ポリフェニレンエーテル(A)は、下記一般式(1)及び/又は(2)の繰り返し単位を有し、構成単位が一般式(1)又は(2)からなる単独重合体(ホモポリマー)、あるいは一般式(1)及び/又は(2)の構成単位を含む共重合体(コポリマー)であることが好ましい。
(上記一般式(1)、(2)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、その他の一価の基、例えば、ハロゲン及び水素等からなる群から選択される基である。但し、R
5及びR
6が共に水素である場合を除く。)
なお、上記その他の一価の基としては、水素が好ましい。また、上記アルキル基及び上記アリール基の水素原子は、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基で置換されていてもよい。更に、上記アルキル基の好ましい炭素数は1〜3であり、上記アリール基の好ましい炭素数は6〜8である。
なお、上記一般式(1)、(2)における繰り返し単位数については、ポリフェニレンエーテル(A)の分子量分布により様々としてよく、特に制限されることはない。
ポリフェニレンエーテル(A)のうち、単独重合体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル及び、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられ、特に、原料入手の容易性及び加工性の観点から、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが好ましい。
ポリフェニレンエーテル(A)のうち、共重合体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体、及び2,3,6−トリメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体といった、ポリフェニレンエーテル構造を主体とするものが挙げられ、特に、原料入手の容易性及び加工性の観点から、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、物性改良の観点から、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体(特に2,6−ジメチルフェノール部分90〜70質量%、及び2,3,6−トリメチルフェノール部分10〜30質量%を含む共重合体)がより好ましい。
上述した各種ポリフェニレンエーテル(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
ポリフェニレンエーテル(A)は、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性が低下しすぎない程度であれば、上記一般式(1)、(2)以外の他の種々のフェニレンエーテル単位を部分構造として含むポリフェニレンエーテルを含んでいてもよい。かかるフェニレンエーテル単位としては、以下に限定されるものではないが、例えば、特開平01−297428号公報及び特開昭63−301222号公報に記載されている、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルに由来する単位や、2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルに由来する単位等が挙げられる。
ポリフェニレンエーテル(A)は、ポリフェニレンエーテルの主鎖中にジフェノキノンに由来する単位等が結合していてもよい。
更に、ポリフェニレンエーテル(A)は、ポリフェニレンエーテルの一部または全部をアシル官能基と、カルボン酸、酸無水物、酸アミド、イミド、アミン、オルトエステル、ヒドロキシ及びカルボン酸アンモニウム塩からなる群から選択される1種以上の官能基とを含む官能化剤と、反応(変性)させることによって、官能化ポリフェニレンエーテルに置き換えた構成を有していてもよい。
ポリフェニレンエーテル(A)の、重量平均分子量Mwの数平均分子量Mnに対する割合(Mw/Mn値)は、熱可塑性樹脂組成物の成形加工性の観点から、2.0以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましく、3.0以上であることが更により好ましく、また、熱可塑性樹脂組成物の機械的物性の観点から、5.5以下であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましい。
なお、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定による、ポリスチレン換算分子量から得られる。
ポリフェニレンエーテル(A)の還元粘度は、十分な機械的物性の観点から、0.25dl/g以上であることが好ましく、0.30dl/g以上であることがより好ましく、0.33dl/g以上であることが更により好ましく、また、成形加工性の観点から、0.65dl/g以下であることが好ましく、0.55dl/g以下であることがより好ましく、0.42dl/g以下であることが更により好ましい。
なお、還元粘度は、ウベローデ粘度計を用いて、クロロホルム溶媒、30℃、0.5g/dl溶液で測定することができる。
ポリフェニレンエーテル(A)、スチレン系樹脂(B)、及びガラス繊維(C)の合計質量を100質量%としたときの、ポリフェニレンエーテル(A)の含有量は、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることが更により好ましく、55質量%以上であることが特に好ましい。また、75質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であることが更により好ましい。ポリフェニレンエーテル(A)の含有量が45質量%以上であることにより、耐熱性と難燃性を付与出来る効果を奏し、75質量%以下であることが成形加工性の観点から好ましい。
ポリフェニレンエーテル(A)と、スチレン系樹脂(B)と、ガラス繊維(C)と、有機リン系難燃剤(D)との合計質量100質量%中における、ポリフェニレンエーテル(A)の含有量は、十分な耐熱性、難燃性を付与する観点から、25質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更により好ましく、また、成形加工性の観点から、75質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることが更により好ましい。
−スチレン系樹脂(B)−
成形流動性を改良する観点から、上記熱可塑性樹脂組成物には、スチレン系樹脂(B)が含まれていてもよい。
上記熱可塑性樹脂組成物において、スチレン系樹脂(B)は、スチレン系化合物をゴム質重合体存在下または非存在下で重合して得られる重合体、またはスチレン系化合物と該スチレン系化合物と共重合可能な化合物とを、ゴム質重合体存在下または非存在下で共重合して得られる共重合体である。
上記スチレン系化合物とは、スチレンの1つまたは複数の水素原子が1価の基で置換された化合物をいう。
上記スチレン系化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられ、特に安定した品質の原材料の入手容易性と組成物の特性とのバランスの観点から、スチレンが好ましい。
上記スチレン系化合物と共重合可能な化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物類;無水マレイン酸等の不飽和酸無水物等が挙げられる。
なお、上述のスチレン系樹脂のうち、ゴム質重合体存在下で重合又は共重合して得られる重合体又は共重合体を「ゴム強化されたスチレン系樹脂」といい、ゴム質重合体非存在下で重合又は共重合して得られる重合体又は共重合体を「ゴム強化されていないスチレン系樹脂」という。
スチレン系樹脂(B)としては、ファン成形品の機械的物性の観点から、ゴム強化されていないスチレン系樹脂が好ましい。
ポリフェニレンエーテル(A)、スチレン系樹脂(B)、及びガラス繊維(C)の合計質量を100質量%としたときの、スチレン系樹脂(B)の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、実質的に含まないことが更により好ましい。スチレン系樹脂(B)の含有量が5質量%以下であることにより、耐熱性と難燃性に優れるため好ましい。
ポリフェニレンエーテル(A)、スチレン系樹脂(B)、ガラス繊維(C)、及び有機リン系難燃剤(D)の合計質量100質量%中における、スチレン系樹脂(B)の含有量は、十分な耐熱性、難燃性を付与する観点から、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
−ガラス繊維(C)−
上記熱可塑性樹脂組成物は、ガラス繊維(C)を含むことが好ましい。ガラス繊維(C)は、上記熱可塑性樹脂組成物において、機械的強度を向上させる目的で配合される。
ガラス繊維(C)のガラスの種類としては、公知のものが使用でき、例えば、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Aガラス等が挙げられる。ガラス繊維(C)は、繊維形状のガラスをいい、塊状のガラスフレークやガラス粉末とは区別される。
ガラス繊維(C)の平均繊維径は、押出、成形時の繊維破損による成形体の剛性、耐熱性、耐衝撃性、耐久性等の低下や生産安定性の観点から、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましく、また、十分な機械的物性付与や成形体表面外観保持の観点から、15μm以下であることが好ましく、13μm以下であることがより好ましい。
ガラス繊維(C)の平均長さは、取扱性の観点から、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、また、10mm以下であることが好ましく、6mm以下であることがより好ましい。
また、ガラス繊維(C)の平均L/D比(長さと繊維径の比)は、剛性、耐久性と成形加工性、成形外観とのバランスの観点から、70以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、200以上であることが最も好ましく、また、1200以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましく、800以下であることが最も好ましい。
上記ガラス繊維(C)は、表面処理剤、例えばシラン化合物で表面処理されたものであってもよい。表面処理に用いられるシラン化合物は、通常、ガラスフィラーやミネラルフィラー等を表面処理する場合に用いられるものである。シラン化合物の具体例としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン化合物、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシラン化合物、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド等の硫黄系シラン化合物;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン化合物;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ユレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン化合物等が挙げられ、本発明の目的を達成する観点から、アミノシラン化合物が特に好ましい。これらのシラン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。また、これらシラン化合物は、エポキシ系あるいはウレタン系等の収束剤と予め混合して、該混合物で表面処理してもよい。
ポリフェニレンエーテル(A)、スチレン系樹脂(B)、及びガラス繊維(C)の合計質量を100質量%としたときの、ガラス繊維(C)の含有量は、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが 更により好ましく、また、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることが更により好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。ガラス繊維(C)の含有量が20質量%以上であることにより、熱可塑性樹脂組成物の機械的強度を向上させインペラーの変形を抑制する効果を奏し、50質量%以下であることにより、熱可塑性樹脂組成物の難燃性を向上できるため好ましい。
ポリフェニレンエーテル(A)と、スチレン系樹脂(B)と、ガラス繊維(C)と、有機リン系難燃剤(D)との合計質量100質量%中における、ガラス繊維(C)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の機械的物性を改良する観点から、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、また、熱可塑性樹脂組成物に難燃性を与える観点から、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることが更により好ましい。
―有機リン系難燃剤(D)―
上記熱可塑性樹脂組成物は、さらに有機リン系難燃剤(D)を含有することが好ましい。ここで有機リン系難燃剤とは、リンを含む有機化合物からなる難燃剤をいい、リンを含む無機化合物からなる難燃剤、及び有機リン酸と金属との塩からなる難燃剤は該当しないものとする。
有機リン系難燃剤(D)としては、具体的には、トリフェニルホスフェート及びホスファゼンからなる群から選択される1種以上の化合物が好ましい。有機リン系難燃剤(D)の質量を100質量%としたときに、トリフェニルホスフェート及びホスファゼンからなる群から選択される1種以上の化合物を70質量%以上含有することが更に好ましい。これにより難燃性付与と耐熱性の保持の効果を奏する。中でも、本発明の効果を得やすくする観点から、ホスファゼンが好ましい。
有機リン系難燃剤(D)として、トリフェニルホスフェートを単独で用いた場合、ポリフェニレンエーテル(A)と、スチレン系樹脂(B)と、ガラス繊維(C)と、有機リン系難燃剤(D)との合計質量100質量%中における、トリフェニルホスフェートの含有量は、本発明の効果を十分に得る観点から、5質量%以上であることが好ましい。また、13質量%以下であることが好ましく、耐熱性を高める観点から、10質量%以下であることがより好ましい。
ホスファゼンとしては、下記一般式(3)に示す構成単位を含有するものが挙げられる。
(上記一般式(3)中、XはPh(フェニル基)、又はOPh(フェニルオキシ基)を示す。)
ホスファゼンとしては、上記一般式(3)に示す構成単位を含有するものであれば制限されないが、例えば、環状ホスファゼン化合物、鎖状ホスファゼン化合物、架橋基で架橋した架橋ホスファゼン化合物等が挙げられる。
上記熱可塑性樹脂組成物においては、ホスファゼンとしては、より良好な難燃性を付与する観点から、環状ホスファゼン化合物が好ましく、環状フェノキシホスファゼン化合物がより好ましい。また、ホスファゼンとしては、成形加工性、難燃性の観点から、三量体を70質量%以上、好適には85質量%以上含有する環状フェノキシホスファゼン化合物が望ましい。
有機リン系難燃剤(D)として、ホスファゼンを単独で用いた場合、ポリフェニレンエーテル(A)と、スチレン系樹脂(B)と、ガラス繊維(C)と、有機リン系難燃剤(D)との合計質量100質量%中における、ホスファゼンの含有量は、5〜20質量%である限り特に限定されない。
なお、有機リン系難燃剤(D)の30質量%未満は、トリフェニルホスフェート及びホスファゼン以外の化合物としてよく、例えば、トリフェニルホスフェート以外の芳香族リン酸エステルとしてよい。
芳香族リン酸エステルとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジキシレニルフェニルホスフェート、ヒドロキシノンビスフェノールホスフェート、レゾルシノールビスホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート等のトリフェニル置換タイプの芳香族リン酸エステル類が好ましく、中でもトリフェニルホスフェートがより好ましい。
有機リン系難燃剤(D)として、芳香族リン酸エステルとホスファゼンとの混合物を用いた場合、上記熱可塑性樹脂組成物では、より良好な成形流動性及び機械的物性を付与する観点から、芳香族リン酸エステルとホスファゼンとの質量比(芳香族リン酸エステル:ホスファゼン)を、5:95〜30:70の併用比率で用いることが好ましく、10:90〜25:75の併用比率で用いることがより好ましく、20:80〜25:75の併用比率で用いることが更により好ましい。
ポリフェニレンエーテル(A)、スチレン系樹脂(B)、ガラス繊維(C)及び有機リン系難燃剤(D)の合計質量を100質量%としたときに、有機リン系難燃剤(D)の含有量は、難燃性の観点から、5質量%以上であることが好ましい。また、耐熱性の観点から、20質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更により好ましい。
―ポリアミド系樹脂(E1)―
ポリアミド系樹脂(E1)としては、ポリマー主鎖の繰り返し単位中にアミド結合−NH−C(=O)−を有するものであればよく、その種類は特に限定されない。ポリアミド系樹脂は、通常、ジアミンとジカルボン酸の重縮合、ラクタム類の開環重合、アミノカルボン酸の重縮合等によって得ることができるが、ポリアミド系樹脂の製造方法はこれらに限定されず、その他の方法によって得られたポリアミド系樹脂であってもよい。
ジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン等が挙げられる。ジアミンの具体例としては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環式ジアミン;m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等が挙げられる。
ジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。ジカルボン酸の具体例としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3−ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、スベリン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,1,3−トリデカン二酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ラクタム類としては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−エナントラクタム、ω−ラウロラクタム等が挙げられる。
アミノカルボン酸としては、例えば、ε−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、13−アミノトリデカン酸等が挙げられる。
ジアミン、ジカルボン酸、ラクタム類、アミノカルボン酸は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、ジアミン、ジカルボン酸、ラクタム類、アミノカルボン酸等を重合反応器内で低分子量のオリゴマーの段階まで重合させ、押出機内等で高分子量化したものも使用することができる。
ポリアミド系樹脂(E1)としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド6/6,6、ポリアミド6/6,12、ポリアミドMXD(m−キシリレンジアミン),6、ポリアミド6,T、ポリアミド9,T、ポリアミド6,I、ポリアミド6/6,T、ポリアミド6/6,I、ポリアミド6,6/6,T、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミド6/6,T/6,I、ポリアミド6,6/6,T/6,I、ポリアミド6/12/6,T、ポリアミド6,6/12/6,T、ポリアミド6/12/6,I、ポリアミド6,6/12/6,I、ポリアミド9,T、等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアミド系樹脂(E1)は、耐熱性と成形品の吸水時の寸法安定性の観点から、半芳香族ポリアミドを含有することが好ましい。半芳香族ポリアミドは、(a)ジカルボン酸単位と、(b)ジアミン単位とを含むポリマーであって、(a)ジカルボン酸単位と(b)ジアミン単位のいずれか一方の少なくとも一部が芳香族化合物であるものをいう。半芳香族ポリアミドとしては、以下に詳述する半芳香族ポリアミドを用いることが好ましい。
難燃性と耐熱性の観点から、半芳香族ポリアミドは、(a)ジカルボン酸単位として、テレフタル酸単位を含有することが好ましい。(a)ジカルボン酸単位中におけるテレフタル酸単位の含有量は、60〜100モル%であることが好ましく、75〜100モル%であることがより好ましく、90〜100モル%であることが更に好ましく、実質的にジカルボン酸単位(a)の全てがテレフタル酸単位であることがより更に好ましい。
半芳香族ポリアミドの(a)ジカルボン酸単位における、テレフタル酸単位以外の他のジカルボン酸単位の含有量は、40モル%未満であることが好ましく、25モル%未満であることがより好ましく、10モル%未満であることが更に好ましく、実質的に含まないことがより更に好ましい。
テレフタル酸単位以外の他のジカルボン酸単位としては、例えば、テレフタル酸以外の上記ジカルボン酸から誘導される単位が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸から誘導される単位が好ましい。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸から誘導される単位を、溶融成形が可能な範囲内で含んでいてもよい。
本実施形態のファン成形品の吸水時の寸法安定性の観点から、半芳香族ポリアミドは、(b)ジアミン単位として、(b−1)1,9−ノナジアミン単位、及び/又は(b−2)2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン単位を含有することが好ましい。
(b)ジアミン単位における、(b−1)1,9−ノナンジアミン単位及び(b−2)2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン単位の含有量は、合計で、60〜100モル%であることが好ましく、75〜100モル%であることがより好ましく、90〜100モル%であることが更に好ましく、実質的にすべてのジアミン単位が、(b−1)1,9−ノナジアミン単位及び/又は(b−2)2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン単位から構成されていることが更により好ましい。
半芳香族ポリアミド中の(b)ジアミン単位において、1,9−ノナンジアミン単位及び2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン単位以外の他のジアミン単位の含有量は、40モル%未満であることが好ましく、25モル%未満であることがより好ましく、10モル%未満であることが更に好ましく、実質的に含まないことが更により好ましい。
1,9−ノナンジアミン単位及び2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン単位以外の他のジアミン単位としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル等の芳香族ジアミンから誘導される単位等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
半芳香族ポリアミドに含まれる(b)ジアミン単位中の、(b−1)1,9−ノナンジアミン単位と(b−2)2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン単位の合計量を100モル%としたときの、(b−1)1,9−ノナンジアミン単位の含有量は、60モル%以上であることが好ましく、75モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることが更に好ましい。(b−1)単位の含有量が上記範囲であることにより、耐熱性が一層向上するとともに、成形品の吸水性を一層効果的に抑制することができる。(b)ジアミン単位中の(b−1)単位と(b−2)単位の合計量を100モル%としたときの、(b−1)単位の含有量は、95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、85モル%以下であることが更に好ましい。(b−1)単位の含有量が上記範囲であることにより、耐衝撃性や引っ張り伸び等の機械的特性が一層向上するとともに、ファン成形品の表面外観を一層優れたものにできる。
ポリアミド系樹脂(E1)としては、複数種類のポリアミド系樹脂を押出機等によって共重合化させたポリアミド系樹脂も使用することができる。
ポリアミド系樹脂(E1)の粘度数(ISO 307:1994に準拠し96%硫酸で測定した粘度数)は、50mL/g以上であることが好ましく、70mL/g以上であることがより好ましく、100mL/g以上であることが更により好ましい。また、250mL/g以下であることが好ましく、200mL/g以下であることがより好ましく、150mL/g以下であることが更により好ましい。
ポリアミド系樹脂(E1)の粘度数を50mL/g以上とすることにより、難燃性や押出し等の加工性が一層向上し、成形時のガスの発生が一層抑制される。加えて、粘度数を50mL/g以上とすることによりモールドデポジットの発生を低減化でき、射出成形時の正常な成形が可能なショット数を飛躍的に増やすことができ、成形性の大幅な改善につながる。また、粘度数を250mL/g以下とすることにより、上述した効果に加え、薄肉成形品の成形性の向上といった効果が得られる。
上述した粘度数の範囲内にあるポリアミド系樹脂を用いることで、一層優れた効果を得ることが期待されるが、更に一層優れた効果を所望する場合には、ポリアミド系樹脂の種類に応じて以下に述べる粘度数となるよう制御することが更に好ましい。
例えば、ポリアミド系樹脂(E1)としてポリアミド9,Tやポリアミド6,6/6,I等の半芳香族ポリアミドを用いる場合は、靭性と成形流動性のバランスの観点から、ポリアミド系樹脂として半芳香族ポリアミドを用いない場合と比較して好適な粘度範囲が若干異なる。好適な粘度数の範囲は、ポリアミド9,Tの場合、70mL/g以上であることが好ましく、100mL/g以上であることがより好ましい。また、粘度数は150mL/g以下であることが好ましく、120mL/g以下であることがより好ましい。
ポリアミド6,6/6,Iの場合、粘度数は50mL/g以上であることが好ましく、70mL/g以上であることがより好ましい。また、粘度数は150mL/g以下であることが好ましく、130mL/g以下であることがより好ましく、120mL/g以下であることが更により好ましい。
上記熱可塑性樹脂組成物にポリアミド系樹脂(E1)を用いる場合、熱可塑性樹脂組成物の成形性と耐衝撃性とのバランスは、ポリアミド系樹脂(E1)の粘度数により大きく影響を受けることを、本発明者らは見出した。かかる観点から、上述した粘度数を有するポリアミド系樹脂を使用することにより特異的に特性の改善が見られる。
ポリアミド系樹脂(E1)は、粘度数の異なる複数のポリアミド系樹脂の混合物であってもよい。上記熱可塑性樹脂組成物中のポリアミド系樹脂(E1)の粘度数は、以下の方法により確認することができる。
まず、熱可塑性樹脂組成物の樹脂分を、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールを用いて溶解させた後、可溶分中に含まれる樹脂分を、メタノールで沈殿させて分取する。この分取物をさらにギ酸、又は硫酸で溶解した後、遠心分離機等を用いて可溶分を分取する。この可溶分をメタノールで再沈してポリアミド系樹脂成分を分取し、その後、粘度数を測定することにより確認することができる。
成形品の吸水時の寸法安定性や成形品の表面外観の観点から、ポリアミド系樹脂(E1)としては、ヘキサメチレンアジパミド単位70〜95質量%と、ヘキサメチレンイソフタラミド単位5〜30質量%と、から構成される半芳香族ポリアミドであることが特に好ましい。なお、ヘキサメチレンアジパミドは、例えば、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンから得ることができる。ヘキサメチレンイソフタラミドは、例えば、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンから得ることができる。
ポリアミド系樹脂(E1)の末端基は、ポリフェニレンエーテル(A)との反応に関与する。通常、ポリアミド系樹脂は、末端基として、アミノ基やカルボキシル基を有している。一般的に、末端カルボキシル基濃度が高くなると、耐衝撃性が低下し、流動性が向上する傾向にある。
上記熱可塑性樹脂組成物の特性バランスを一層良好にする観点から、ポリアミド系樹脂(E1)の末端アミノ基濃度の末端カルボキシル基濃度に対する割合(モル)は、1.0以下であることが好ましく、0.05〜0.8であることがより好ましい。ポリアミド系樹脂(E1)の末端アミノ基濃度の末端カルボキシル基濃度に対する割合を上記範囲とすることにより、熱可塑性樹脂組成物の流動性と耐衝撃性のバランスを一層高いレベルで維持することができる。
ポリアミド系樹脂(E1)の末端アミノ基濃度は、1μmol/g以上であることが好ましく、5μmol/g以上であることがより好ましく、10μmol/g以上であることが更により好ましく、20μmol/g以上であることが特に好ましい。また、80μmol/g以下であることが好ましく、60μmol/g以下であることがより好ましく、45μmol/g以下であることが更により好ましく、40μmol/g以下であることが特に好ましい。末端アミノ基濃度を上記範囲とすることにより、熱可塑性樹脂組成物の流動性と耐衝撃性とのバランスを一層高いレベルで維持することができる。
ポリアミド系樹脂(E1)の末端カルボキシル基濃度は、20μmol/g以上であることが好ましく、30μmol/g以上であることがより好ましい。また、150μmol/g以下であることが好ましく、130μmol/g以下であることがより好ましい。末端カルボキシル基濃度を上記範囲とすることにより、熱可塑性樹脂組成物の流動性と耐衝撃性とのバランスを一層高いレベルで維持することができる。
これらのポリアミド系樹脂の各末端基の濃度は、公知の方法を用いて調整することができる。例えば、ポリアミド系樹脂の重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、及びモノカルボン酸化合物等から選ばれる1種以上を添加する方法等が挙げられる。
末端アミノ基濃度と末端カルボキシル基濃度は、種々の方法により測定可能である。例えば、1H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値より求める方法が、精度、簡便さの観点から好ましい。例えば、ポリアミド系樹脂の末端基濃度の定量方法の具体例としては、特開平07−228689号公報の実施例に記載された方法が挙げられる。具体的には、各末端基の数は、1H−NMR(500MHz、重水素化トリフルオロ酢酸中、50℃で測定)により、各末端基に対応する特性シグナルの積分値より求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。末端封止剤によって封止された末端の特性シグナルが同定できない場合には、ポリアミド系樹脂の極限粘度[η]を測定し、下記式の関係を用いて分子鎖末端基総数を算出することができる。
Mn=21900[η]−7900 (Mnは数平均分子量を表す)
分子鎖末端基総数(eq/g)=2/Mn
ポリアミド系樹脂の分子鎖の末端基の10〜95%が末端封止剤により封止されていることが好ましい。ポリアミド系樹脂の分子鎖の末端基が封止されている割合(末端封止率)は、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。末端封止率を上記範囲とすることにより、熱可塑性樹脂組成物の溶融成形時の粘度変化を一層効果的に抑制することができ、得られる成形品の表面外観や、加工時の耐熱安定性等が一層向上する。また、末端封止率は、95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましい。末端封止率を上記範囲とすることにより、耐衝撃性や成形品の表面外観が一層向上する。
ポリアミド系樹脂(E1)の末端封止率は、当該ポリアミド系樹脂に存在する末端カルボキシル基、末端アミノ基及び末端封止剤によって封止された末端基の数をそれぞれ測定し、下記の式(I)に従って求めることができる。
末端封止率(%)=[(α−β)/α]×100 (I)
(式中、αは分子鎖の末端基の総数(単位=モル;これは、通常、ポリアミド分子の数の2倍に等しい。)を表し、βは封止されずに残ったカルボキシル基末端及びアミノ基末端の合計数(単位=モル)を表す。)
末端封止剤としては、ポリアミド系樹脂末端のアミノ基及び/又はカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に限定されないが、反応性及び封止末端の安定性等の観点から、モノカルボン酸、モノアミンが好ましく、取扱いの容易性等の観点から、モノカルボン酸がより好ましい。その他にも、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコ−ル類等を末端封止剤として使用することができる。
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に限定されず、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物等が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、及び経済性等の観点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸が好ましく、酢酸、安息香酸がより好ましい。
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に限定されず、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物等が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、及び経済性等の観点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンが好ましく、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミンがより好ましい。
上記熱可塑性樹脂組成物の耐熱安定性を一層向上させる目的で、ポリアミド系樹脂(E1)だけでなく遷移金属(鉄を除く)やハロゲンを熱可塑性樹脂組成物中に存在させてもよい。
遷移金属(鉄を除く)の種類は、鉄以外であれば特に限定されず、例えば、銅、セリウム、ニッケル、コバルト等が挙げられる、これらの中でも、長期熱安定性の観点から銅が好ましい。また、ハロゲンの種類は、特に限定されないが、生産設備等の腐食防止の観点から、臭素、ヨウ素が好ましい。
遷移金属(鉄を除く)の含有量は、上記熱可塑性樹脂組成物の全量を100質量%としたとき、質量基準で1ppm以上であることが好ましく、5ppm以上であることがより好ましい。また、200ppm未満であることが好ましく、100ppm未満であることがより好ましい。
ハロゲンの含有量は、上記熱可塑性樹脂組成物の全量を100質量%としたとき、質量基準で500ppm以上であることが好ましく、700ppm以上であることがより好ましい。1500ppm未満であることが好ましく、1200ppm未満であることがより好ましい。
これら遷移金属(鉄を除く)やハロゲンを上記熱可塑性樹脂組成物に添加する方法としては、特に限定されず、例えば、ポリアミド系樹脂(E1)と、ポリフェニレンエーテル(A)とを溶融混練する工程においてこれらを粉体として添加する方法;ポリアミド系樹脂(E1)の重合時に添加する方法;高濃度で遷移金属やハロゲンを添加したポリアミド系樹脂(E1)のマスターペレットを製造した後、このポリアミド系樹脂(E1)のマスターペレットを熱可塑性樹脂組成物へ添加する方法等が挙げられる。これらの方法の中で好ましい方法は、ポリアミド系樹脂(E1)の重合時に添加する方法、ポリアミド系樹脂(E1)に遷移金属及び/又はハロゲンを高濃度で添加したマスターペレットを製造した後、添加する方法である。
上記熱可塑性樹脂組成物中のポリアミド系樹脂(E1)の含有量は、高温環境下での変形量が一層減少する観点から、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。また、ポリフェニレンエーテル(A)、スチレン系樹脂(B)、及びガラス繊維(C)の合計質量を100質量%としたときの、ポリアミド系樹脂(E1)の含有量は、高温環境下での変形量が一層減少する観点から、80質量%以下であることが好ましい。
―ポリフェニレンスルフィド系樹脂(E2)―
ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略記する場合がある。)は、下記一般式(4)で表されるフェニレンスルフィドの繰り返し単位を含む重合体である。ポリフェニレンスルフィド中のこの繰り返し単位の含有量は、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが更により好ましい。
[−Ar−S−] ・・・(4)
(上記一般式(4)中、Sは硫黄原子を表し、Arはアリーレン基を表す。)
上記アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、置換フェニレン基(置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基が好ましい。)、p,p’ジフェニレンスルホン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基等が挙げられる。
PPSは、一般式(4)で表される繰り返し単位のみから構成されるホモポリマーであり、かつ一般式(4)中のArが1種のアリーレン基のみから構成される単独重合体(ホモポリマー)であってもよい。また、加工性や耐熱性の観点から、一般式(4)で表される繰り返し単位のみから構成されるが、一般式(4)中のArが2種以上の異なるアリーレン基である共重合体であってもよい。これらの中でも、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上有するPPSが、加工性及び耐熱性に優れ、かつ入手容易である観点から好ましい。
PPSの含有塩素濃度は、腐食性の抑制の観点から、1500ppm以下であることが好ましく、900ppm以下であることがより好ましい。塩素濃度の測定は、社団法人日本プリント回路工業会(JPCA)が定めたJPCA−ES01(ハロゲンフリー銅張積層板試験方法)に準拠し測定できる。その分析方法は、フラスコ燃焼処理イオンクロマトグラフ法によって行うことができる。
PPSの製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることもできる。例えば、ハロゲン置換芳香族化合物(例えば、p−ジクロルベンゼン等)を硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法;極性溶媒中で、硫化ナトリウム又は硫化水素ナトリウムと、水酸化ナトリウム又は硫化水素と、水酸化ナトリウム又はナトリウムアミノアルカノエートとの存在下で、重合を行う方法;p−クロルチオフェノールの自己縮合等が挙げられる。これらの中でも、より具体的には、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる方法等が好ましい。分子鎖に分岐構造をもたらすために、必要に応じてトリクロルベンゼンを分岐剤として使用してもよい。
PPSは、例えば、米国特許第2513188号明細書、特公昭44−27671号公報、特公昭45−003368号公報、特公昭52−012240号公報、特開昭61−225217号、米国特許第3274165号明細書、特公昭46−027255号公報、ベルギー特許第29437号明細書、特開平05−222196号公報等に記載された方法で得ることもできる。このような重合反応で得られるPPSは、通常、リニア型PPSである。
本実施形態では、重合反応を行った後に、酸素の存在下、PPSの融点以下の温度(例えば、200〜250℃)で加熱処理することで酸化架橋を促進させて、ポリマー分子量や粘度を適度に高めたもの(架橋型PPS)を用いてもよい。この架橋型PPSには、架橋度を低く制御した半架橋PPSも包含される。
PPSの剪断速度100秒-1における300℃の溶融粘度は、10Pa・s以上であることが好まし。また、150Pa・s以下であることが好ましく、100Pa・s以下であることがより好ましく、80Pa・s以下であることが更により好ましい。溶融粘度を上記範囲とすることで、靭性と剛性のバランスを一層高いレベルで維持することができるともに、成形時のバリ発生を一層効果的に抑制することができる。
なお、溶融粘度は、キャピラリー式のレオメーターによって測定できる。例えば、キャピログラフ(東洋精機製作所社製)を用い、キャピラリー(キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mm)を用いて、温度300℃、剪断速度100秒-1の条件で測定することができる。
PPSの具体例として上述したリニア型PPSや架橋型PPS等については、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。PPSとして、リニア型PPSと架橋型PPSとを併用することは、PPSとポリフェニレンエーテルのアロイとした際に、ポリフェニレンエーテル分散相の粒子径を小さくできるので好ましい。
成形時の白化やモールドデポジットを低減させる観点から、PPS中に含まれるオリゴマーの含有量は、0.7質量%以下であることが好ましい。ここで、PPSに含まれるオリゴマーとは、塩化メチレンによってPPSから抽出される物質を意味し、一般にPPSの不純物として扱われている物質である。
オリゴマーの含有量は、以下の方法により測定することができる。PPSの粉末5gを塩化メチレン80mLに加え、6時間ソックスレー抽出を実施した後、室温まで冷却し、抽出液である塩化メチレン溶液を秤量瓶に移す。そして、抽出に使用した容器を、塩化メチレン合計60mLを用いて、3回に分けて洗浄し、この洗浄液を上記秤量瓶中の抽出液に加えて回収する。次に、抽出液を約80℃で加熱して、塩化メチレンを蒸発させて除去し、残渣を回収する。残渣を秤量し、この残渣量を計量することで、塩化メチレンによる抽出量(すなわちPPS中に存在するオリゴマー量)の割合を求めることができる。
上記熱可塑性樹脂組成物中のPPS(E2)の含有量は、高温環境下での変形量が一層減少する観点から、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。また、ポリフェニレンエーテル(A)、スチレン系樹脂(B)、及びガラス繊維(C)の合計質量を100質量%としたときの、PPS(E2)の含有量は、高温環境下での変形量が一層減少する観点から、60質量%以下であることが好ましい。
−その他の材料−
上記熱可塑性樹脂組成物は、機械的物性、難燃性、成形体の表面外観等を著しく低下させない範囲において、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の安定剤類、着色剤、離型剤等を含んでよい。
上記酸化防止剤等の含有量は、ポリフェニレンエーテル(A)と、スチレン系樹脂(B)と、ガラス繊維(C)と、有機リン系難燃剤(D)との合計質量を100質量とした場合、各々、十分な添加効果を発現させる観点から、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることが更により好ましく、また、上記熱可塑性樹脂組成物の物性を保持する観点から、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更により好ましい。
上記熱可塑性樹脂組成物は、機械的物性、耐衝撃性、難燃性を著しく低下させない範囲において、ガラス繊維(C)以外の無機質充填剤を含んでよい。
上記ガラス繊維(C)以外の無機質充填剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、炭素繊維、マイカ、タルク、ガラスフレーク、ガラスミルドファイバー(ガラス繊維を砕いて粉末状にしたもの)、クロライト等が挙げられる。
上記ガラス繊維(C)以外の無機質充填剤の含有量は、ポリフェニレンエーテル(A)と、スチレン系樹脂(B)と、ガラス繊維(C)と、有機リン系難燃剤(D)との合計質量を100質量とした場合、剛性、耐久性付与の観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、また、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。
上記熱可塑性樹脂組成物は、金属腐食性の観点から、ポリフェニレンエーテル(A)、スチレン系樹脂(B)、及びガラス繊維(C)の合計質量が90質量%以上であり、且つ上記合計質量を100質量%として、ポリフェニレンエーテル(A)25〜75質量%、スチレン系樹脂(B)0〜5質量%、ガラス繊維(C)20〜50質量%含有することが好ましく、ポリフェニレンエーテル(A)45〜75質量%、スチレン系樹脂(B)0〜5質量%、ガラス繊維(C)25〜50質量%含有することが最も好ましい。
上記熱可塑性樹脂組成物中の、ポリフェニレンエーテル(A)、スチレン系樹脂(B)、及びガラス繊維(C)の合計質量は、高温環境下での変形量が一層少ないファン成形品が得られる観点から、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
〔熱可塑性樹脂組成物の製造方法〕
上記熱可塑性樹脂組成物は、例えば、ポリフェニレンエーテル(A)、ポリフェニレンエーテル(B)、ガラス繊維(C)、有機リン系難燃剤(D)、ポリアミド系樹脂(E1)、ポリフェニレンスルフィド系樹脂(E2)、その他の材料を溶融混練することによって、製造することができる。
上記熱可塑性樹脂組成物では、有機リン系難燃剤(D)が、35〜60℃の融点を有し、常温では固体又は紛体の化合物の場合、熱可塑性樹脂組成物の製造時に、押出機原料投入口やバレル近傍の原料フィードライン等で(D)成分が溶融し、固着物を生じさせて、これにより、ラインの閉塞が生じ、製造が中断される場合がある。上記熱可塑性樹脂組成物の製造においては、かかる問題を解消する製造方法を用いることが好ましい。
上記熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、以下に限定されるものではないが、例えば、有機リン系難燃剤(D)とポリフェニレンエーテル(A)の一部または全部とを予めブレンドして、ブレンド物を調製し、該ブレンド物を熱可塑性樹脂組成物の原料として用いることが好ましい。ここで、該ブレンド物における有機リン系難燃剤(D)とポリフェニレンエーテル(A)とのブレンドの比率は、有機リン系難燃剤(D)の質量を1とした場合のポリフェニレンエーテル(A)の質量は、熱可塑性樹脂組成物を生産する際のハンドリング性の観点から、1以上とすることが好ましく、1.5以上とすることがより好ましく、2以上とすることが特により好ましく、また、ブレンド物の製造量の増加に伴う煩雑性を低減する観点から、7以下とすることが好ましく、6以下とすることがより好ましく、5以下とすることが特により好ましい。
有機リン系難燃剤(D)とポリフェニレンエーテル(A)とを含むブレンド物の調製には、以下に限定されるものではないが、例えば、撹拌速度調整の可能なブレンダーや、回転羽根の速度調整の可能なヘンシェルミキサーを用いてよく、有機リン系難燃剤(D)の性状(固体、粉体等)に応じて、速度、温度、時間等の条件を適宜調節しながら、ブレンド物を調製してよい。
上記熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、以下に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂組成物を大量に安定して製造する観点、すなわち製造効率の観点から、二軸押出機が好適に用いられる。
二軸押出機としては、例えば、ZSK40MC二軸押出機(独国Werner&Pfleiderer社製、バレル数13、スクリュー径40mm、L/D=50;ニーディングディスクL(Left−handed):2個、ニーディングディスクR(Right−handed):6個、及びニーディングディスクN(Neutral):4個を有するスクリューパターン)が挙げられ、これを用いて、シリンダー温度270〜330℃、スクリュー回転数150〜450rpm、押出レート40〜220kg/hの条件で溶融混練することができる。また、二軸押出機としては、例えば、TEM58SS二軸押出機(東芝機械社製、バレル数13、スクリュー径58mm、L/D=53;ニーディングディスクL:2個、ニーディングディスクR:14個、及びニーディングディスクN:2個を有するスクリューパターン)が挙げられ、これを用いて、シリンダー温度270〜330℃、スクリュー回転数150〜500rpm、押出レート200〜600kg/hの条件で溶融混練することもできる。
ここで、上記L/Dの「L」は、押出機の「スクリューバレル長さ」であり、上記「D」は「スクリューバレルの直径」である。
二軸押出機のスクリュー径は、25〜90mmとすることが好ましく、40〜70mmとすることがより好ましい。
上記熱可塑性樹脂組成物を、二軸押出機を用いて製造する場合、材料に耐熱性及び機械的物性を付与する観点から、ポリフェニレンエーテル(A)、スチレン系樹脂(B)、及び有機リン系難燃剤(D)は、押出機の最上流部の供給口(トップフィード)から供給して、ガラス繊維(C)は、押出機途中の供給口(サイドフィード)から供給することが好ましい。
[ファン成形品]
本実施形態のファン成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物を成形することによって得ることができる。成形方法としては、例えば、圧縮成形、射出成形、カレンダー成形、押出成形、中空成形、インフレーション成形、熱成形、ブロー成形等の方法が挙げられる。
本実施形態のファン成形品の最大直径は、30mm以上であることが好ましく、40mm以上であることがより好ましく、また、200mm以下であることが好ましく、160mm以下であることがより好ましく、120mm以下であることが更により好ましい。最大直径が200mm以下であることにより、ファン成形品を適用する電子機器の小型化を図ることができる。
本実施形態のファン成形品は、サーバー等の電子機器、携帯電話基地局等の通信機器、車載用電源機器(例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車等のリチウムイオンバッテリー、ニッケル水素バッテリー等)の冷却ファン等として用いることが好ましい。
電子機器が小型化すると、電子機器内部に熱がこもりやすくなる。本実施形態のファン成形品は、E2’/E1’、E2’/ρが特定範囲である熱可塑性樹脂組成物を用いてファン成形品を製造しているため、高熱、高速回転下においても変形しにくく、熱がこもりやすい小型の電子機器内部にも適用することができる。また、高熱、高速回転下においても冷却効率が高い。
以下、本発明について、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例7〜9は、参考例として記載するものである。
実施例及び比較例のファン成形品の、原材料及び物性の測定方法を以下に示す。
〔原材料〕
−ポリフェニレンエーテル(A)−
PPE−1:還元粘度η(クロロホルム溶媒を用いて30℃で測定)0.52dl/gのポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル
PPE−2:還元粘度η(クロロホルム溶媒を用いて30℃で測定)0.40dl/gのポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル
PPE−3:還元粘度η(クロロホルム溶媒を用いて30℃で測定)0.31dl/gのポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル
−ポリスチレン(B)−
GPPS−1:ゼネラルパーパスポリスチレン(商品名:スタイロン660(登録商標)、米国ダウケミカル社製)
−ガラス繊維(C)−
GF−1:アミノシラン化合物で表面処理された平均繊維径10μm、繊維カット長3mmのガラス繊維(商品名:EC10 3MM 910(登録商標)、NSGヴェトロテックス社製)
GF−2:アミノシラン化合物で表面処理された平均繊維径13μm、繊維カット長3mmのガラス繊維(商品名:ECS03T−249(登録商標)、日本電気硝子社製)
−有機リン系難燃剤(D)−
FR−1:トリフェニルホスフェート(芳香族リン酸エステル系難燃剤、商品名:TPP(登録商標)、大八化学社製)
FR−2:ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート(芳香族リン酸エステル系難燃剤、商品名:CR−741(登録商標)、大八化学社製)
FR−3:ホスホニトリル酸フェニルエステル(ホスファゼン系難燃剤、商品名:ラビトル(登録商標)FP−110、伏見製薬所社製)
−ポリアミド系樹脂(E1)−
PA9T−1:ポリアミド(特開2000−212433号公報の実施例に記載の方法に従い、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を3272.96g(19.7モル)、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミン2532.64g(16.0モル)および2−メチル−1,8−オクタンジアミン633.16g(4.0モル)、末端封止剤として安息香酸73.26g(0.60モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物6.5g(原料に対して0.1質量%)および蒸留水6リットルを内容積20リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間撹拌し、2時間かけて内部温度を210℃に昇温した。この時、オートクレーブは22kg/cm2まで昇圧した。そのまま1時間反応を続けた後230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を22kg/cm2に保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を10kg/cm2まで下げ、更に1時間反応させて、極限粘度[η]が0.25dl/gのプレポリマーを得た。これを、100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の大きさまで粉砕した。これを230℃、0.1mmHg下にて、10時間固相重合し、ポリアミドの粒状ポリマーを得た。得られた粒状ポリマーをシリンダー温度330℃に設定した二軸押出機を用いてペレット状のPA9T−1を得た。融点:304℃、極限粘度[η]:1.20dl/g、末端封止率:90%、末端アミノ基濃度:10μmol/g、末端カルボキシル基:60μmol/g、リン元素含有量:300ppm)
−ポリフェニレンスルフィド系樹脂(E2)−
PPS−1:ポリフェニレンスルフィド(DSP(登録商標)K−2G、ディーアイシーEP株式会社製)
−その他材料−
PBT−1:ポリブチレンテレフタレート(ジュラネックスPBT(登録商標)2002、ウィンテックポリマー株式会社製)
FR−4:ジアルキルホスフィン酸アルミニウム(ホスフィン酸金属塩系難燃剤、商品名:エクソリットOP1230(登録商標)、クラリアントジャパン社製)
FR−5:臭素化ポリスチレン(臭素系難燃剤、商品名:SAYTEX(登録商標)HP−7010、アルベマール日本製)
相溶化剤−1:グリシジルメタクリレートを5重量%含有するスチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(重量平均分子量110,000)
相溶化剤−2:商品名:CRYSTAL MAN AB(登録商標)、日本油脂株式会社製
三酸化アンチモン:商品名:PATOX−M(登録商標)、日本精鉱株式会社製
マイカ:商品名:C−1001F(登録商標)、レプコ社製
〔評価〕
(1)貯蔵弾性率
1.測定サンプル作製
実施例及び比較例で製造したファン成形品のインペラー部分をカットし、熱プレスにて長さ50mm、幅10mm、厚み4mmの試験片を作製した。
2.測定
動的粘弾性測定装置(商品名「イプレクサー500N」、アイティーエスジャパン株式会社製)を用いて、下記条件にて、85℃における貯蔵弾性率及び110℃における貯蔵弾性率を測定した
測定モード 引張り
測定周波数 10Hz
昇温速度 3℃/分
温度範囲 −100℃〜300℃
静的負荷歪み 0.5%(荷重Limit 140N)
動的負荷歪み 0.3%(荷重Limit 120N)
機器名 イプレクサー 500N
(2)UL94燃焼性
0.75mm厚みの短冊状の成形片を用いて、難燃性試験規格UL94に基づいて難燃レベルを判定した。
(3)ファン変形量
図5に示すように、送風定温恒温器(DKM600型、ヤマト科学株式会社製)内の、アルミ製ケース3内(断熱ケース内)に設置したDCブラシレスモーター2(BMS−4020、ナカニシ製)に、回転軸を介して接続した評価用ファン成形品1をセットして回転試験を実施した。
まず温度25℃の状態で回転数1,000rpmにてファン成形品1を回転させて、ファン最外部と実際の製品を模した内径φ120mmのアルミ製ケース3との隙間長さをレーザーセンサー(キーエンス製IB−10)にて連続して測定し、数値が安定したところでアルミ製ケース3との隙間長さ(L1(mm))を求めた。
次に恒温器の温度を85℃に設定し、温度が安定したところでファン成形品1の回転数を7,000rpmにセットし、ファン最外部と実際の製品を模した内径φ120mmのアルミ製ケース3との隙間長さをレーザーセンサー(投光器4、受光器5)にて連続して測定し、数値が安定したところでアルミ製ケースとの隙間長さ(L2(mm))を求めた。
ファンの変形量は次式にて求めた。
「ファン変形量:85℃×7,000rpm(mm)」=L2−L1
温度110℃、回転数7,000rpmでのファン変形量についても同様の方法で求めた。
(4)金型鋼材腐食性
磁器るつぼ(内径φ38mm、高さ110mm)に表1記載のペレット状の熱可塑性樹脂組成物を詰め、ペレット中に幅20mm、長さ40mm、厚み3mmのサイズに切削した炭素鋼S55C片を埋め込んだ。樹脂ペレットと炭素鋼片の入った磁器るつぼを330℃の電気炉に5時間静置し、取り出した後デシケーターにて常温まで冷却した。冷却後、樹脂材料内より炭素鋼片を取り出して表面の腐食有無を目視にて確認し、腐食が見られなかった場合を「無」、腐食が見られた場合を「有」と評価した。
[実施例1]
(PPE−1)34質量部と、(FR−1)/(PPE−1)=1/3の比率で予めヘンシェルミキサーで撹拌混合(回転数600rpm、撹拌時間1min、内温23−25℃)して得たブレンド物36質量部とを、二軸押出機(商品名:ZSK40MC、Werner&Pfleiderer社製、バレル数13、スクリュー径40mm、ニーディングディスクL:2個、ニーディングディスクR:6個、ニーディングディスクN:4個を有するスクリューパターン)の最上流部(トップフィード)から供給し、途中のバレル8から(GF−1)30質量部をサイドフィードして、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数250rpm、押出レート100kg/hで溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を得た。
熱可塑性樹脂組成物の23℃での比重ρは、ISO1183に準拠して測定した。
軸流ファン(型番「9GV1212P1J01」、山洋電気株式会社製)を3Dスキャンし、ファン形状をCADデータに変換した。得られたCADデータより、ファン成形品の射出成形用金型を製作した。製作した金型のファンの最大直径は114mmであった。
上記金型及び射出成形機(商品名:EC100SX、東芝機械株式会社製)を用いて、表1記載の温度条件で上記熱可塑性樹脂組成物を成形し、ファン成形品を得た。
なお、比較例3(PPS材)では、成形後に150℃オーブン中に3時間静置しアニール処理した。
[実施例2〜9、比較例1〜4]
熱可塑性樹脂組成物の組成を表1に記載の組成とし、成形温度を表1に記載の温度とした以外は、実施例1と同様にしてファン成形品を得た。