以下に添付図面を参照して、この発明にかかる乾燥装置および液体を吐出する装置の一実施形態を詳細に説明する。
「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドまたは液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、および、排紙に係わる手段、その他、前処理装置および後処理装置なども含むことができる。
例えば、「液体を吐出する装置」として、画像形成装置および立体造形装置(三次元造形装置)がある。画像形成装置は、インクを吐出させて用紙などの記録媒体に画像を形成する装置である。立体造形装置は、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる装置である。
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字および図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば「液体を吐出する装置」は、それ自体意味を持たないパターン等を形成する装置、および、三次元像を造形する装置も含む。
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、および、検査用セルなどの媒体である。このように「液体が付着可能なもの」は、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、および、セラミックスなど液体が、一時的でも付着可能であればよい。
また、「液体」は、液体吐出ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されない。「液体」は、常温および常圧下において、加熱により、または、冷却により、粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、「液体」は、以下のものを含む。
・水や有機溶媒等の溶媒
・染料や顔料等の着色剤
・重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料を含む溶液
・DNA、アミノ酸、たんぱく質、カルシウム等の生体適合材料を含む溶液
・天然色素等の可食材料を含む溶液
・懸濁液
・エマルジョン
これらの液体は、例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、および、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置を含むが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
また、「液体を吐出する装置」は、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などを含む。
「液体吐出ヘッド」は、使用する圧力発生手段が限定されるものではない。例えば、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、および、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどが圧力発生手段として使用できる。
「液体吐出ユニット」は、液体吐出ヘッドに機能部品および機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどを含む。
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品および機構が、締結、接着、または、係合などで互いに固定されているもの、並びに、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品および機構が互いに着脱可能に構成されていてもよい。
例えば、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されている液体吐出ユニットがある。また、チューブなどで互いに接続されることにより、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されている液体吐出ユニットがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
また、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されている液体吐出ユニットがある。
また、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されている液体吐出ユニットがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されている液体吐出ユニットがある。
また、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されている液体吐出ユニットがある。
また、ヘッドタンクまたは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されている液体吐出ユニットがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
なお本明細書では、画像形成、記録、印字、印写、印刷、および、造形等はいずれも同義語とする。
以下では、インクを吐出させて記録媒体に画像を形成するインクジェット方式の画像形成装置として、乾燥装置および液体を吐出する装置を実現した例を説明する。
上記のように、インクジェット印刷では、インクの乾燥が必要となる。パーソナル機といった低速機種では、インクによる紙の湿潤に関する課題はあるものの、自然乾燥させることで致命的な問題は発生していない。一方高速機では、自然乾燥では印刷の速度に乾燥が追いつかず、印刷物の排出後に重ねてストックした場合に、裏移り、ブロッキング、および、その結果による色抜けなどが発生する。このため、インクジェット印刷による高速機では、インクを乾燥させる機能を備える必要がある。
乾燥手段としては、ドラムを暖めることによるドラム乾燥、ハロゲンランプや赤外線ヒータを当てることにより乾燥させる輻射乾燥、および、温風を吹き付けることによる温風乾燥などが知られている。これらの乾燥手段は、電子写真における定着工程に相当し、低消費エネルギーというインクジェット技術のメリットを低減させる。
乾燥させる対象はインクであり、紙やローラ等の部品の加熱は不必要なエネルギーの消費を招く。インクのみの選択乾燥を行う手段としては、マイクロ波および高周波誘電等の誘電体の双極子の摩擦損失を利用した手段が挙げられる。このような手段では、発熱量は誘電体の誘電率と正接損失に依存している。発熱量は、水が極端に高い値を示している。従ってインクで画像が形成された媒体において、媒体は加熱されず、インクの水分のみが加熱される。さらに、加熱された熱量だけが高周波電界における電力損失となるため、エネルギー効率として圧倒的に優位となる。
マイクロ波の波長帯の方が高周波誘電の波長帯よりも水の正接損失が大きく、高エネルギー密度の加熱が可能になる。しかし、電波漏れ、および、加熱ムラなどの問題があるため、連続的な媒体の出入りのある印刷機においては、マイクロ波による乾燥装置を構成するには、構成が煩雑になりコストもかかる。それに比較して、高周波誘電は、容易な構成で乾燥手段を構築できるため、印刷乾燥装置などで用いられている。
高周波誘電では、上記のカーボンブラック粒子を用いた黒インクのように、導電体粒子を含むインクを用いることを考慮する必要がある。カーボンブラックは、濃度、質感、および、発色性の面から顔料の成分として優れているため、黒インクで一般的に使用されている。
カーボンブラックがインク中に分散された状態では導電性を示さない。しかし、例えば黒のベタ画像において、乾燥が進行してカーボンブラック粒子が互いに接した状態になると、画像面方向に導電性を示すようになる。高周波誘電加熱方式は、誘電体を加熱させるが、導電体が存在すると導電体の抵抗値により、異常加熱の発生やスパークが発生しうる。従って、カーボンブラックを用いた黒インクのベタ画像を高周波誘電加熱で加熱すると、画像が焦げるという不具合が発生しうる。また上記のように、両面印刷で、第1の面が乾燥した状態で第2の面を乾燥させると、第1の面側で少ない電力でも簡単にスパーク等が発生する可能性がある。
そこで本実施形態では、両面のうち先に乾燥させる第1の面の乾燥時には、導電率が上昇する手前で乾燥を止めるように乾燥処理を制御する。例えば、第1の面に吐出された液体に含まれる溶剤の割合が閾値以上になるように乾燥処理を制御する。これにより、導電体を含む液体を用いる場合であっても、異常加熱やスパークなどを生じさせずに乾燥を実行可能となる。なお両面に液体を吐出する構成ではなく、片面(第1の面)のみに液体を吐出する構成に対しても、本実施形態の方法を適用できる。この場合片面に吐出された液体の乾燥時の異常加熱等を抑制することができる。
図1は、本実施形態にかかる画像形成装置の全体構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように画像形成装置は、第1の画像形成部100と、反転部200と、第2の画像形成部300と、乾燥部400と、給紙ロール500と、巻取りロール600と、を備えている。
図1の画像形成装置は、ラインヘッドを用いた高速機種の例である。媒体は連帳タイプであって、図1の右から左へ(給紙ロール500から巻取りロール600へ)移動するロール・トゥ・ロールの形態で搬送される。なお連帳タイプ以外の媒体を用いるように構成してもよい。媒体は、第1の画像形成部100、反転部200、第2の画像形成部300、および、乾燥部400の順に搬送され、両面印刷画像が作成できる構成となっている。
第1の画像形成部100は、媒体の両面のうち一方の面である第1の面の画像形成を行う。第2の画像形成部300は、媒体の両面のうち他方の面である第2の面の画像形成を行う。第1の画像形成部100は、インクジェット画像形成部110と、インクジェット画像形成部110の下流に誘電加熱部120と、を備えている。第2の画像形成部300は、インクジェット画像形成部310と、インクジェット画像形成部310の下流に誘電加熱部320と、を備えている。誘電加熱部120および320は、インクが第1の面および第2の面に吐出される媒体を乾燥する乾燥装置に相当する。
インクジェット画像形成部110および310は、搬送された媒体に対して、インクジェット方式により画像を形成する。インクジェット画像形成部110および310は、インクを吐出する液体吐出ヘッド111および311をそれぞれ備えている。液体吐出ヘッド111(液体吐出ヘッド311)の代わりに、液体吐出ヘッド111(液体吐出ヘッド311)に機能部品および機構が一体化した液体吐出ユニットを用いてもよい。
インクは、導電体と水と溶剤とを含む液体の一例である。例えばインクとして、カーボンブラック粒子、水、および、溶剤を含む黒インクを用いることができる。導電体を含むインクはカーボンブラック粒子を含む黒インクに限られるものではない。例えば磁性インク、および、カーボンブラック粒子以外の導電体を含む任意の色(黒および黒以外を含む)のインクなどを用いる場合にも本実施形態を適用できる。
誘電加熱部120は、媒体の第1の面を乾燥させる。図1の構成では、両面のうち第1の面に対して先にインクが吐出されるため、誘電加熱部120は、第1の面にインクが吐出され、第2の面にはインクが吐出されていない状態の媒体を乾燥することになる。誘電加熱部320は、媒体の第2の面を乾燥させる。
誘電加熱部120および320は、マイクロ波加熱および高周波誘電加熱のいずれを用いて媒体を乾燥させてもよい。マイクロ波加熱は、ISM(Industry-Science-Medical)バンドとして915MHz、2.45GHz、および、5.8GHz付近の帯域を用いたものである。高周波誘電加熱は、13MHz、27MHz、および、40MHz付近の帯域を用いたものである。ただし漏洩電波レベルを法定値以下に抑えられるならば、これら近傍の任意の周波数帯を用いてもかまわない。このような構成によって、画像形成後、直ちに乾燥が行われることになり、後工程での媒体搬送が容易になる。なお、以下では、誘電加熱部120および320が高周波誘電加熱を用いた例について説明する。
反転部200は、媒体の表裏を反転させる。反転部200は、例えば、3本のローラを用いて連帳の媒体の表裏を反転させる。図2に示すように、反転部200は、ローラ210、220、230を含む。媒体501は、図2の右側(第1の画像形成部100の側)から搬送されるものとしている。
第1の画像形成部100での乾燥が不完全な場合、画像が形成された面(図2では第1の面)に接するローラ220には、インク移りによる汚れが堆積する恐れがある。従って、ローラ220には離形性のよい表面材質のローラを用いることが望ましい。ローラ220として、非接触搬送を実現するエア吐出が可能なローラを用いてもよい。
図1に戻り、乾燥部400は、高周波誘電加熱(誘電加熱部120および320)で乾燥しきれなかったインクを乾燥する。高周波誘電加熱は、水の乾燥には優れているが溶剤の乾燥には不向きである。このため、乾燥部400で溶剤を完全に乾燥させる。乾燥部400による乾燥方法は、ヒートドラム、熱風、および、赤外線などの方法を適用できる。乾燥部400で乾燥させることにより、媒体をロール状に巻き取ったときにブロッキングを防止することが可能になる。
図1に示す構成により、第1の面の画像形成、第1の面の画像乾燥、媒体の反転、第2の面の画像形成、第2の面の画像乾燥、および、仕上げ乾燥、というプロセスで両面印刷画像が形成される。
次に、誘電加熱部120の構成例について説明する。図3は、誘電加熱部120の構成例を示すブロック図である。図3に示すように、誘電加熱部120は、コントローラ121と、電源124と、乾燥部131と、を含む。乾燥部131は、整合部132と、電極133と、を含む。なお誘電加熱部320も誘電加熱部120と同様の構成とすることができる。コントローラ121は、誘電加熱部120および誘電加熱部320のそれぞれが備えてもよいし、1つのコントローラが誘電加熱部120および誘電加熱部320を制御するように構成してもよい。この場合、1つのコントローラは、誘電加熱部120および誘電加熱部320のいずれかの内部に備えられてもよいし、両者の外部に備えられてもよい。
コントローラ121は、誘電加熱部120の各種動作を制御する制御部として機能する。例えばコントローラ121は、乾燥の度合いに相当する出力値を指定して、乾燥部131に対して乾燥を指示する。より具体的には、コントローラ121は、電源124に対して所望の出力値となるように制御信号を出力し、電源124のスリープ/アクティブ制御、周波数制御、振幅制御、および、位相制御等を行う。乾燥部131の乾燥の度合いは、出力値に応じて変更される。
電源124は、高周波電圧を乾燥部131に出力する。電極133は、例えばコントローラ121の制御に応じた周波数、振幅、および、位相の高周波電圧を出力する。
整合部132は、電源124と電極133との間でインピーダンス整合を行う。例えば整合部132は、電源124および電極133の間で入射波と反射波を検出し、インピーダンス整合を行う。
媒体に塗布されるインク量(画像)は、例えば画像パターンが変化するため一定でない。従って、画像が形成された媒体は、電極133から見たときのインピーダンスが変化する。また、水などの加熱対象が乾燥して減少すると、パワーを吸収する対象が減少するため、この点でもインピーダンスが変化する。そこで、整合部132は、方向性結合器などを用いて入射波と反射波を検出し、振幅や位相差などの検出結果をコントローラ121へ出力する。そして、整合部132は、コントローラ121が出力する制御信号に応じて、反射波を0にしてインピーダンスが整合するように、整合部132に含まれる可変コンデンサや可変インダクタの値を調整する。
電極133は、媒体に対して高周波電界を印加することにより、媒体上のインクを加熱し、乾燥させるために用いられる。なお図3では、インク画像部134を含む等価回路として電極133が模式的に表されている。インク画像部134は、画像を形成するために吐出された媒体上のインクに相当する。
本実施形態では、インクが吐出された部分の導電率が上昇する手前、言い換えるとインピーダンスが下降する手前で乾燥を止めるように乾燥処理を制御する。インピーダンスの変化を検出するために、コントローラ121は、インピーダンス検出部122を備えている。
インピーダンス検出部122は、インク画像部134のインピーダンスを検出する。インピーダンス検出部122は、例えば整合部132から、整合した後の可変コンデンサおよび可変インダクタの値(LC情報)を取得する。インピーダンス検出部122は、取得した値に対応するインピーダンスを、対応テーブル123を参照して検出する。このため、対応テーブル123は、可変コンデンサの値、可変インダクタの値、および、インピーダンスの値を対応づけて記憶する。対応テーブル123は、インピーダンス検出部122の外部の記憶部等に記憶するように構成してもよい。
なおインピーダンス検出部122は、図3の構成に限られるものではなく、インク画像部134のインピーダンスを検出できればどのような構成であってもよい。図4は、図3と異なるインピーダンス検出部122−2を含む誘電加熱部120−2の構成例を示すブロック図である。
図4に示すように、誘電加熱部120−2は、コントローラ121−2と、電源124と、乾燥部131−2と、を含む。コントローラ121−2は、インピーダンス検出部122−2を含む。乾燥部131−2は、整合部132と、電極133と、電圧・電流検出部135−2と、を含む。なお図3と同様の機能を備える機能部については同一の符号を付し説明を省略する。
乾燥部131−2は、電圧・電流検出部135−2をさらに備える点が、図3の乾燥部131と異なっている。電圧・電流検出部135−2は、電極133にかかる電圧および電流を検出する。
インピーダンス検出部122−2は、検出された電圧および電流の値(電圧・電流情報)を取得する。インピーダンス検出部122−2は、取得した値に対応するインピーダンスを、対応テーブル123−2を参照して検出する。このため、対応テーブル123−2は、電圧、電流、および、インピーダンスの値を対応づけて記憶する。対応テーブル123−2は、インピーダンス検出部122−2の外部の記憶部等に記憶するように構成してもよい。
図3の対応テーブル123、および、図4の対応テーブル123−2は、例えば、工場における検査工程において、実測値に従って事前に作成し、インピーダンス検出部122およびインピーダンス検出部122−2に格納しておく。
本実施形態では、コントローラ121は、第1の面に吐出されたインクに含まれる溶剤の割合が閾値以上になるように、乾燥部131による乾燥処理を制御する。閾値は例えば、導電体により導電性が発生しない溶剤の割合を示す値として定められる。コントローラ121は、例えば溶剤の割合が閾値以上になるように定められた特定の出力値を乾燥部131に指示する。
特定の出力値は、事前に、または、装置起動時などの調整時に、コントローラ121が求めるように構成してもよい。例えばコントローラ121は、複数の出力値を指示して乾燥部131による乾燥処理を実行する。インピーダンス検出部122は、各乾燥処理時のインク画像部134のインピーダンスを検出する。これにより、複数の出力値で乾燥したときのインク画像部134のインピーダンス(導電体による導電性を示す測定値の一例)が求められる。コントローラ121は、求められたインピーダンスを用いて特定の出力値を決定する。例えばコントローラ121は、インピーダンスが減少に転じた測定値に対応する出力値より前の出力値、言い換えると、インピーダンスが減少に転じた測定値より乾燥の度合いが小さい出力値を、特定の出力値として決定する。
特定の出力値は、画像データのパターン(画像パターン)、および、環境条件の少なくとも一方に応じて定められてもよい。環境条件は、例えば、温度、湿度、媒体の種類、および、搬送速度などを含む。
図5を用いて、電極133の構成について説明する。図5は、電極133の基本的な構成の一例を示す模式的な斜視図である。印刷物である媒体501の乾燥については、媒体501が出入りする開口部が必要であるため、電波漏洩の観点からマイクロ波よりも1〜100MHz帯の高周波を用いた誘電加熱手段を用いることが多い。また、加熱ムラの観点からも高周波を用いた誘電加熱手段の方が優れている。マイクロ波はパワー密度に優れている。
電極133は、高周波電圧が印加される棒状電極133bと、グランド電極用の棒状電極133aと、を備えている。棒状電極133aと棒状電極133bとは、複数本並べて設けられていて、かつ交互に配置されている(この構成をグリッド電極と呼ぶ)。棒状電極133bの両端部には、電源124が接続されていて、高周波電圧が印加される。棒状電極133aの両端部は、グランドに接地されている。
図6に示すように、電源124から所定の電圧が棒状電極133bに印加されると、隣接する棒状電極133bと棒状電極133aとの間で電界601が形成される。図7に示すように、電界601中にインク画像701が形成された媒体501を配置することにより、主としてインク画像701が加熱され、媒体501上のインク画像701が発熱する。なお、グランド電極部(棒状電極133a)は、高周波電圧が印加される電極(棒状電極133b)に対して、180°位相が反転した高周波電圧を印加する物であってもよい。電極構成としては、電界が発生するものならば図5のようなグリッド電極構成でなくても構わない。薄いシート状の物の乾燥を行う場合は、グリッド電極に沿わせて乾燥を行うのが最も効率がよいため、一般的にグリッド電極が用いられている。
グリッド電極に近いほど電界強度も強くなるので、できるだけ媒体501を電極に近付けた状態で加熱および乾燥を行うのが望ましい。電界601の強度は、隣接する棒状電極133bと棒状電極133aとの中間の部分が最も強く(均一加熱)、棒状電極133b、133aの真上の部分では電界は小さくなる。従って、停止している媒体501には、図8に示すような加熱ムラ(例えば棒状電極133bおよび棒状電極133aの中間部分801と棒状電極133bの真上部分802との間)が発生する。
しかしながら、図8に示すように、媒体501が一定速度でグリッド電極に沿って矢印方向に移動するならば媒体501全体として加熱ムラは発生しない。各棒状電極133a、133b間を等間隔とすることにより、各棒状電極133a、133b間の電界強度を等しくできるので、グリッド電極全体として加熱ばらつきのないものを提供することができる。
次に、インクの乾燥状態と導電率の関係について説明する。以下では主にカーボンブラックを含む黒インクを例に説明する。インクジェットプリンタに用いられているインクは、粘性、乾燥性、および、保存安定性などを考慮して各種材料が配合されている。主成分として水、溶剤系、および、色素が挙げられる。色素としては染料や顔料がある。コート紙などの専用媒体でない場合、発色性は顔料が優れている。黒インクの場合は、カーボンブラックが最も黒濃度が濃く、一般的な黒顔料として用いられている。しかしカーボンブラックは導電性を有し、インク乾燥後にはカーボンブラック粒子が接触して導電性が発現する。導電性が発現したところに誘電加熱部120で加熱すると、異常加熱が発生しスパークの原因になる。
図9は、一般的なカーボンブラックを用いた黒インクの乾燥と導電率の変化を示す図である。横軸は、未乾燥状態でのインクの重量(初期インク重量)に対する乾燥後のインクの重量の割合(%)を示す。縦軸は、インクの導電率(S/m)を示す。
一般に溶剤は水よりも沸点が高いため、乾燥は水の蒸発から進行し、次いで溶剤が乾燥して乾燥が完了する。図9のフェーズ901、フェーズ902、フェーズ903は、それぞれ、水分乾燥のフェーズ、溶剤乾燥のフェーズ、導電率が上昇するフェーズを表す。乾燥状態910は、導電率が上昇する手前の乾燥状態であり、第1の面を乾燥するときの目標となる乾燥状態を表す。
図10は、黒インクの乾燥時の導電率変化の例を示す模式図である。図10左のようにインクが未乾燥の状態では、カーボンブラック粒子1001の周囲に水が十分に含まれ、イオン(マイナスイオン1011、プラスイオン1012)も存在するため、比較的導電率が高い。図10中央のように水が乾燥するにつれてイオンが減少して導電性が低下する。溶剤とカーボンブラックのみの時には導電率が最も低くなる。図10右のように溶剤の乾燥が進行し、溶剤がある程度乾燥することでカーボンブラック同士の接触が発生し、導電率が急上昇する。
以下の(1)式に示すように、導電率が高いほどインクは加熱されやすい。
P=1/2×σ×|E|2+π×f×ε0×εr"×|E|2
=(1/2×σ+π×f×ε0×εr")×|E|2・・・(1)
ここで、
P:発熱量 [W/m3]
σ:導電率 [S/m]
E:電界強度 [V/m]
f:周波数 [Hz]
ε0:真空の誘電率 8.854E−12 [F/m]
εr":対象物の複素比誘電率虚数部 [単位無し] (=εr'・tanδ)
インクは一般的に弱イオンであるが、それでも導電率が0.01S/m以上のものが多い。このため、インクは、誘電体としての水(εr'=80、tanδ=0.03)と比較して導電率の項が支配的になる。
水が多く含まれるときは加熱されやすいが、水や溶剤の蒸発熱に使われ、温度も100℃程度までにしかならない。乾燥後のカーボンブラックの接触で導電率が高くなった場合、発熱が大きいだけでなく、熱容量も小さく、沸騰などによる温度上昇の制限もなくなるので急速に加熱されて発火やスパークの原因になる。
そこで、本実施形態では、第1の面の乾燥は、導電率が上昇する手前で乾燥を止めるように構成する。以下、このような構成が望ましい理由について説明する。この状態では溶剤も含んでいるため、乾燥としては不完全である。従って後工程の反転部200においてインクが転写するようであれば、エア吐出ローラなどを使用することが望ましい。
図11は、第2の面の乾燥時に各面(第1の面、第2の面)に入力されるエネルギーの関係の例を示す図である。エネルギー状態1101〜1104は、第1の面および第2の面の乾燥状態の4つの組み合わせそれぞれに対応するエネルギー状態を表す。左側の長方形部分が第1の面に入るエネルギーに対応する。右側の長方形部分(斜線部)が第2の面に入るエネルギーに対応する。各長方形の幅が、エネルギーの大きさを表す。
第2の面の乾燥直前は、第2の面側の画像に水が多く含まれる状態であり、第2の面側は導電率が高く、第1の面側は導電率が低い。このため、乾燥エネルギーは、第2の面側の乾燥に集中し、効果的に乾燥が実行される。エネルギー状態1011および1012は、このときのエネルギー状態を示している。
しかし、第1の面を乾燥させすぎて第1の面側の画像の導電率が上がっている場合、乾燥エネルギーが第1の面側にも多く与えられることになる。エネルギー状態1013および1014は、このときのエネルギー状態を示している。
このようなエネルギー状態となることは、第1の面および第2の面が並列抵抗となる等価回路に置き換えられることから説明できる。例えば第1の面側の画像の導電率が上がっている状態で第1の面側に乾燥エネルギーが与えられると、上記のように既に水がなく、熱容量が小さい状態であるため、急速に加熱されて発火やスパークが容易に発生する。
第2の面の画像の乾燥が進行して導電率が低くなった状態では、第2の面の画像側にエネルギーが入りにくくなる。このとき第1の面の画像側の導電率が低いままであればエネルギーは第1の面の画像と第2の面の画像に均等に入り、第1の面の画像は急速に加熱されることはない。一方、第1の面の画像側の導電率が少しでも上がっていればエネルギーが集中して発火やスパークが容易に発生する可能性がある。また、第2の面側が限りなく白紙画像に近い場合であっても、第1の面側の画像の導電率は低い状態であれば、その状態ではエネルギーは入りづらく、急速加熱は発生しない。
以上の理由から、第1の面の乾燥においては、導電率が上昇せず、かつ、溶剤はできるだけ少ないほうがよい。上記図9に示す乾燥状態910が理想状態の一例である。
このような理想的な乾燥状態を実現する乾燥出力値の設定方法について以下に述べる。乾燥出力値とは、例えばコントローラ121が乾燥部131に対して出力する、乾燥の度合いを示す出力値である。
最も簡単な方法は、乾燥出力値の上限を初期設定しておく方法である。広い面積のベタ画像は、最も乾燥されやすく、カーボンブラックの粒子密度も高いため、異常加熱やスパークが発生する乾燥出力値が、より小さい値となる。そこで、例えば最大面積のベタ画像を乾燥させた場合に、図9の乾燥状態910となるような乾燥出力値(特定の出力値)を求め、事前に設定する。上記のような環境条件(温度、湿度)、媒体種類、および、搬送速度などをさらに加味して、乾燥状態910よりも確実に乾燥が進行せず、かつ、できるだけ乾燥状態910に近い状態となるような乾燥出力値を事前に求めることが望ましい。
別の方法は、画像パターン、および、環境条件などに応じて異なる乾燥出力値を記憶したテーブルを利用する方法である。図12は、電界の強度を説明するための図である。矢印1201〜1203は、棒状電極133a、133b間で印加される電界の向きを示している。また図12では、電極の並び方向(電界の向きと同じ方向)の幅が小さいインク画像1204が吐出された例が示されている。
矢印1201および1203は、絶縁層である空気中の電界に対応するため、電界の強度は大きくなる。矢印1202は、導電層であるインク画像1204中の電界に対応するため、電界の強度が小さくなる。高周波誘電加熱では、電極の並び方向でのインク画像の幅が小さくなるほど乾燥されにくくなる。従って、乾燥対象の画像から、電極の並び方向の幅が最も大きなベタ画像を抽出し、抽出したベタ画像に対して最適な乾燥出力値となるように出力を決定することが望ましい。例えば画像パターンに応じた乾燥出力値を記憶するテーブルは、このように乾燥出力値を決定するために用いられる。環境条件を加味したテーブルも用意できればなおよい。
また、第2の面に形成する画像パターンに応じて、第1の面の画像の乾燥に用いる乾燥出力値を変更するように構成してもよい。図11で説明したように、第2の面の画像(白紙画像か否かなど)によって、第2の面の画像の乾燥時に第1の面側の画像に入るエネルギーが変わるためである。
上記2つの方法では、画像形成装置の経時変化やリアルタイムな変動に対応していない。経時変化やリアルタイムに対応できる方法を以下に述べる。この場合、例えば装置の起動時に初期調整工程が実行される。初期調整工程は、最適な乾燥出力値を求める処理である。図13は、初期調整工程の全体の流れの一例を示すフローチャートである。図14は、初期調整工程の一例を説明するための図である。
インクジェット画像形成部110は、最も乾燥されやすい広い面積のベタ画像(ベタパターン画像)を黒インクで複数形成する(ステップS101)。誘電加熱部120は、各ベタパターン画像を異なる乾燥出力値で乾燥させる(ステップS102)。インピーダンス検出部122は、乾燥させた各ベタパターン画像のインピーダンスを検出(算出)する(ステップS103)。コントローラ121は、求められたインピーダンスを用いて最適な乾燥出力値を決定する(ステップS104)。例えばコントローラ121は、インピーダンスが低下する乾燥出力値の1つ前の乾燥出力値を、最適な乾燥出力値として決定する。
最適な乾燥出力値の求め方はこれに限られるものではない。例えば、インピーダンスが低下する乾燥出力値、または、インピーダンスが最大となる乾燥出力値から固定値を減算することにより最適な乾燥出力値を決定してもよい。固定値は、乾燥時の誤差等を考慮して事前に定めた値であってもよい。
図14は、媒体501上に6つのベタパターン画像1301を形成し、各ベタパターン画像1301に対して2000W、2200W、2400W、2600W、2800W、3000Wの乾燥出力値で乾燥させた例を示す。図13のような処理により、各乾燥出力値に対する画像のインピーダンス(画像インピーダンス)の関係を得ることができる。
図15は、求められた乾燥出力値と画像インピーダンスとの関係の一例を示す図である。乾燥出力値が大きい程、水分や溶剤がより蒸発して乾燥が進行した状態となる。インピーダンスと導電率とは逆数の関係にあるので、図15のグラフは、図9とは逆のグラフになる。
図15において、急に低下する画像インピーダンス1501に対応する乾燥出力値よりも1段低い乾燥出力値1502が、例えば図9の最適な乾燥状態910に相当する。従って、コントローラ121は、この乾燥出力値を抽出する。上記のように、画像パターンに応じて最適な乾燥出力値は変動する。このため、乾燥対象の画像情報に従って初期調整工程で得られた乾燥出力値に対して補正をかけてもよい。
なお第2の面の乾燥出力条件については、第1の面の画像と第2の面の画像のいずれもが黒インクが異常加熱やスパークが発生しない条件であればよく、導電率が多少上がることは問題ない。その条件の抽出方法は特に限定されない。
以上のように、本実施形態によれば、導電体粒子を含むインクでの両面印刷において、第1の面が乾燥した状態で第2の面を乾燥させたときに、第1の面側の異常加熱やスパークを防止することができる。すなわち、焦げ付きやスパークのない両面印刷乾燥を実現することができる。また、誘電加熱を用いるため、省エネルギー化を実現できる。
また、最適な乾燥出力値を例えば画像形成装置が起動されるごとに得ることができる。より正確な乾燥出力値を獲得することができるので、第2の面の乾燥時に第1の面側にエネルギーが与えられるのを防止するだけでなく、第1の面側の乾燥も可能な限り進行している状態を得ることが可能になる。また、画像パターンに応じた乾燥出力値を得るように構成すれば、より精度の高い出力値を得ることができる。
また、媒体の反転時にエア吐出が可能なローラを用いるように構成すれば、第1の面の乾燥が溶剤を残した不完全な乾燥であったとしても、その影響によるインクの転写等の不具合を防止可能となる。
また、第1の面および第2の面の乾燥の後に、仕上げ乾燥を実行する乾燥部を備えるように構成すれば、ロールに巻き取ったときのブロッキングを防止することが可能になる。