JP6670755B2 - 放射線遮蔽材料及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、X線やγ線等の放射線を遮蔽するための新規な遮蔽材料及びその製造方法に関する。詳しくは、任意の形状の成形体を構成し、該成形体において、放射線の照射を受ける面から裏面への放射線の透過を抑制する放射線遮蔽効果と共に、材料に対して透明性を付与することを可能とした放射線遮蔽材料を提供するものである。
従来、放射線を発生するガス、液体、固体等の物質(以下、これらを放射性物質と総称することもある。)からの放射線量を低減するための放射線遮蔽材料としては、種々の材料が提供されており、代表的な材料は鉛である。しかし、鉛は、放射線の遮蔽効果は優れるものの、それ単独では、加工性が悪く、板状物の形態で箱体のような単純構造物の壁内に埋め込んで使用するなど、使用範囲が限られていた。また、鉛ガラスも、放射線の遮蔽効果は高いものの、ガラスであるために脆く、重量もあるため、鉛と同様に使用範囲が限られていた。
上記鉛や鉛ガラスに対して、放射線の吸収効果のある粉末を樹脂に充填した放射線遮蔽材料は、遮蔽効果は低いものの、軽く、種々の形状に成形可能であることから、容器、パイプ、防具、シリンジ等の構造体に加工し得る材料として期待されている。
例えば、鉛やタングステンなどの金属粉末、硫酸バリウムなどの化合物を樹脂に充填した放射線遮蔽材料が提供されている(特許文献1〜3参照)。
しかしながら、前記金属系の放射線遮蔽材料は、放射線の遮蔽効果を上げるためにその充填量を増やすと材料が重くなるという問題を有する。しかも、鉛は有毒物質であり、その使用が制限されつつあるという問題をも有する。
これに対して、前記硫酸バリウム等の化合物系の充填剤は比較的軽量であり、ある程度の放射線遮蔽効果を示すため、好適に使用されている。
一方、従来提案されてきた放射線遮蔽材料は、前記鉛ガラスを除いてはいずれの材料も不透明であり、放射線を遮蔽する内容物を確認するために透明性が要求される用途においては、かかる要請を犠牲にして使用せざるを得なかった。
また、歯科分野におけるX線造影用の透明樹脂材料として、可視光線の波長より小さいナノ粒子を充填したものも提案されている(特許文献4参照)。しかし、ナノ粒子は、充填において分散が困難であり、十分な量での充填ができないため十分な遮蔽効果を得難く、逆に充填量を増やすと、透明性が著しく低下するという問題が懸念される。
特開2007−212304 号公報 特開2013−127021 号公報 特開2013−181793号公報 特開昭61−176508号公報
従って、本発明の目的は、樹脂よりなるマトリクスに放射線吸収物質を充填した樹脂組成物よりなる放射線遮蔽材料において、従来の放射線遮蔽材料と同等な放射線遮蔽効果を有しながら、従来に比べて透明性が著しく改善された構造体を得ることが可能な放射線遮蔽材料を提供することにある。
本発明の一形態に係る放射線遮蔽材料は、バリウムを一構成元素とするフッ化物粉末を20〜80容量%の割合で含む樹脂組成物で構成される。
本発明の放射線遮蔽材料の一形態に係る成形体は、樹脂中に金属フッ化物粉末が充填された樹脂組成物よりなる充填層を有する成形体であって、上記金属フッ化物粉末の密度は、4.6g/cm以上であり、上記樹脂の屈折率に対する上記金属フッ化物粉末の屈折率の差は、±0.07の範囲内であり、上記充填層は、厚み方向の一部または全部において金属フッ化物粉末の充填率が40容量%以上の層を有する。
本発明の放射線遮蔽材料の代表的な製造方法は、樹脂と、上記樹脂の屈折率との差が±0.07の範囲にある屈折率を有し密度が4.6g/cm以上である金属フッ化物粉末とを準備し、上記樹脂と上記金属フッ化物粉末とを含む樹脂組成物を作製し、上記金属フッ化物粉末の充填率が40容量%以上である層を少なくとも一部に含むように上記樹脂組成物を成形する。
本発明によれば、従来の放射線遮蔽材料と同等な放射線遮蔽効果を有しながら、従来に比べて透明性が改善された構造体を得ることができる。
本発明者らは、バリウムを構成元素とするフッ化物が、従来提案されていた化合物に比べ、放射線吸収特性に優れるばかりでなく、成形材料として汎用的に使用される塩化ビニル樹脂等の樹脂に充填した際、高い透明性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽材料は、バリウムを一構成元素とするフッ化物粉末(以下、BaF粉末ともいう。)を20〜80容量%の割合で含む樹脂組成物よりなることを特徴とする。
本実施形態に係る放射線遮蔽材料において、上記BaF粉末としては、フッ化バリウムやフッ化リチウムバリウムが好適である。
また、使用する樹脂として、1.4〜1.6の屈折率(n)を有するものが、BaF粉末との組合せにおいて透明性を高めるために好ましく、具体的には、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリル酸樹脂、シリコーン樹脂が挙げられるが、勿論これに限られない。
特に、上記樹脂とフッ化物粉末との組合せにおいて、該樹脂とフッ化物粉末との屈折率の差が、±0.05の範囲(該樹脂とフッ化物粉末との屈折率の差の絶対値が0.05以下。以下同様)であることが好ましい。屈折率の差がこの範囲であれば、例えば、4mm厚みの成形体の全光線透過率を60%以上にすることができる。
更にまた、本実施形態に係る放射線遮蔽材料において、上記フッ化物粉末の平均粒子径は、例えば、10〜500μmであることが透明性を一層発揮するために好ましい。
本実施形態の放射線遮蔽材料に使用するBaF粉末は、高い密度を有しているにも拘わらず、屈折率が低く、汎用の透明樹脂の屈折率に近づけることが可能であるため、これを充填した樹脂組成物に、高い透明性を付与することができる。しかも、上記BaF粉末は、その高い密度に伴う放射線の吸収特性にも優れ、従来の放射線遮蔽材料と同等の放射線遮蔽効果を発揮することが可能である。
また、本実施形態の放射線遮蔽材料において、リチウムを含むBaF粉末を充填した場合、中性子をも効果的に遮蔽することが可能である。
このように、放射線遮蔽材料において、透明性を有する材料の提供は、本発明において初めて成されたものであり、 該放射線遮蔽材料を任意の形状に成形して構造体とし、放射線を遮蔽する内容物を確認するために透明性が要求される用途への活用が期待される。
かかる用途としては、例えば、通過する流体の状態を確認可能な輸送用パイプ、内容物の状態が確認可能な容器、放射線遮蔽板、シート等や、その他、シリンジのシリンダや外筒部材などが挙げられる。
以下、本実施形態の詳細について説明する。
[BaF粉末]
本実施形態において、前記BaF粉末としては、少なくともバリウムを一構成元素とするフッ化物粉末であれば特に制限されず、例えば、フッ化バリウム、フッ化バリウムリチウム、フッ化バリウムイットリウム等が挙げられる。BaF粉末としてはその結晶構造が立方晶系を有するものが、樹脂に粉末として充填した際に結晶の複屈折による透明性の低下が無いため、優れた透明性を有する放射線遮蔽材料を得ることができる。立方晶系を有するバリウム含有フッ化物として、フッ化バリウム、フッ化バリウムリチウムが挙げられる。また、二種類以上のBaF粉末を混合して用いることもできる。特にフッ化バリウムリチウムは構成元素にリチウムを含んでおり、これをBaF粉末として用いた場合には本発明の放射線遮蔽材料に中性子に対する遮蔽性も付与することができる。
上記BaF粉末は、概ね、具体的には、80質量%以上、特に、90質量%以上が単粒子からなることが好ましい。即ち、凝集体を多く含むBaF粉末は樹脂に充填する際に粘度が高くなり混合が困難になるばかりか、気泡を含みやすくなり、得られる樹脂組成物よりなる放射線遮蔽材料の透明性が低下するおそれがある。
上記BaF粉末は、単結晶であり、その単粒子を得る方法としては、バルク状の単結晶体を製造しこれを粉砕し分級する方法が挙げられる。
尚、上記単結晶体の製造方法としては引き上げ法、ブリッジマン法、VGF法、EFG法、キャスティング法など公知の方法を用いることができる。
単結晶体の粉砕には、ハンマーミル、ローラーミル、乳鉢等公知の方法を制限無く用いることができる。また、上記粉砕後、気流分級や篩等の手段により、微粉や粗大粒子を除去することが好ましい。
また、上記BaF粉末の平均粒子径は、10〜500μm、特に、20〜200μmが好ましい。平均粒子径が10μm未満であると、樹脂との混合の際に凝集しやすく、粘度も高くなるため、BaF粉末を高充填することが難しくなる傾向がある。また、平均粒子径が500μmより大きいと成形体の表面が荒れ、脆くなり機械強度が低下する傾向にある。
[樹脂]
本実施形態において、樹脂は透明性を有するものであれば特に制限されないが、代表的な樹脂を例示すれば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、スチレンブタジエン共重合体、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、エチレン系共重合体、ポリビニルアセテート、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
そのうち、1.4〜1.6の屈折率(n)を有するものが、BaF粉末との組合せにおいて透明性を高めるために好ましく、具体的には、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリル酸樹脂、シリコーン樹脂、エチレン系共重合体が好適である。
尚、BaF粉末の原料のうち、例えば、フッ化バリウム単結晶の屈折率は1.48、フッ化バリウムリチウム単結晶の屈折率は1.54である。
本実施形態の放射線遮蔽材料の透明性をより良好に発現させるためには、用いる樹脂の屈折率がBaF粉末の屈折率に近いことが必要であり、樹脂とBaF粉末との屈折率の差が±0.05、特に、±0.03であることがより好ましい。例えば、フッ化バリウムリチウムとポリ塩化ビニルは両方とも屈折率が1.54とほぼ同一の値を有しており、透明性発現においては特に好ましい組み合わせである。
また、BaFと樹脂の屈折率の差が大きい場合は、樹脂の成分や分子量の調整、また、可塑剤を使用する場合は、その種類や添加量を調整する手段を採用し、樹脂の屈折率をBaF粉末の屈折率により近づけるように調整することにより、透明性を一層高めることも可能である。
[放射線遮蔽材料におけるBaF粉末と樹脂との割合]
本発明において、上記BaF粉末は、20〜80容量%、好ましくは、50〜75容量%の割合で樹脂に充填される。
上記BaF粉末の充填量が20容量%より少ない場合、放射線の遮蔽効果が十分でなく、また、75容量%より多い場合は、透明性が低下し、成形体の強度低下が著しくなる。
BaF粉末の充填量は、成形体の使用形態や使用目的に従い最適な量を選択する。例えば、成形体の柔軟性や軽量性を重視する場合は60容量%未満を、放射線の遮蔽効果を重視する場合は60容量%以上を選択するなどである。
[放射線遮蔽材料におけるその他の任意添加剤]
本実施形態の放射線遮蔽材料は、前記成分に加えて、本実施形態の効果に悪影響を及ぼさない公知の添加剤を公知の割合で添加することも可能である。
上記添加剤を例示すれば、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、加工助剤、着色剤等が挙げられる。また、これらの添加剤は、必要に応じて、二種類以上組み合わせて使用することもできる。
[混合方法と成形方法]
本実施形態において、放射線遮蔽材料を構成する樹脂組成物を得るための、樹脂とBaF粉末の混合方法は、用いる樹脂の特性やBaF粉末の平均粒子径や充填量により、公知の方法から採用することができる。例示すれば、ポリ塩化ビニルやエチレン共重合体などの熱可塑性樹脂の場合は、予め樹脂とBaF粉末を混合機等を用いてよく混合した後、バンバリーミキサーや押出機等で樹脂を加熱溶融させながら混練して樹脂組成物を得る方法が用いられる。得られた樹脂組成物は一旦ペレット状等に固化させた後に成形機により成形することもできるし、樹脂の溶融を維持した状態で成形することもできる。成形方法としては、射出成形、押出成形、プレス成形、カレンダー成形、ブロー成形等公知の方法を採用することができる。
また、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂等の場合は、液状モノマーとBaF粉末をミキサー等を用い常温で混合しスラリーを作製し、これを型に流し込み、加熱や紫外線照射等の方法により固化させて成形体を得ることができる。
いずれの混合においても、樹脂とBaF粉末との間に気泡が存在する場合、かかる気泡を追い出して透明性の低下を防止するため、樹脂が流動性を有している間に、真空脱泡等の脱気処理を行うことが好ましい。
[放射線遮蔽材料の用途]
本実施形態の放射線遮蔽材料は、適当な成形方法により任意の構造体に加工し、放射線を遮蔽する内容物を確認するために透明性が要求される任意の用途に特に制限無く使用することができる。また、透明であるため着色も容易であり、産業用の資材だけでなく日用品や家庭用品などにも広く好適に用いることができる。
例えば、放射線物質を含有した液体を輸送するためのパイプ、放射性物質を移送や保管するための容器、放射性物質含有液用シリンジ、放射線を遮蔽するための面体、ゴーグルや眼鏡のレンズ部、ヘルメット、防護服、エプロン、靴底、盾、パーティション、カーテン、ブラインドカーテン、アコーディオンカーテン、重機等の窓、床材や窓や壁材等の建築資材、多目的に使用できる板やシートなどが挙げられる。板やシートの用途の例として、放射性物質や放射性廃棄物の置き場のカバー、レジャーシート、窓ガラスに貼り付ける用途などが挙げられる。
さらに、本実施形態に係る放射線遮蔽材料は、成形体のような定形性を有する構造体以外のものにも用いることができる。すなわち本実施形態に係る放射線遮蔽材料は、液状あるいはペースト状の不定形のものであってもよく、例えば、アスファルトやガラス、床材、壁材その他の建築資材向けの補修材、充填材あるいはコーキング材等として用いられてもよい。
本発明者らはさらに、前記バリウムを構成元素とするフッ化物を含む、所定以上の密度を有する金属フッ化物は、放射線吸収特性に優れると共に、かかる高い密度に比して、意外にも、屈折率が大きくないことから、成形材料として汎用的に使用される塩化ビニル樹脂等の樹脂の屈折率に近く、樹脂の屈折率と合わせ易いという知見を得た。上記知見に基づき、高充填が可能な比較的大きい粒径を有する充填材として上記金属フッ化物を使用して高濃度で金属フッ化物を含有する層を形成し、且つ、該金属フッ化物と樹脂との屈折率の差を特定の範囲となるように調整することにより、極めて透明性の高く、しかも、放射線遮蔽性に優れた樹脂成形体よりなる放射線材料を得ることができることを見出した。
即ち、本発明の放射線遮蔽材料の一実施形態に係る成形体は、樹脂中に金属フッ化物粉末が充填された樹脂組成物よりなる充填層を有する成形体であって、上記金属フッ化物粉末の密度は、4.6g/cm以上であり、上記樹脂の屈折率に対する上記金属フッ化物粉末の屈折率の差は、±0.07の範囲内(上記樹脂の屈折率に対する上記金属フッ化物粉末の屈折率の差の絶対値が0.07以下。以下同様)、好ましくは±0.05、特に、±0.03の範囲内であり、上記充填層は、厚み方向の一部または全部において金属フッ化物粉末の充填率が40容量%以上、特に、50容量%以上、更には、60容量%以上の層を有する。
また、本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽材料の製造方法は、樹脂と、上記樹脂の屈折率との差が±0.07、好ましくは±0.05、特に、±0.03の範囲にある屈折率を有し密度が4.6g/cm以上である金属フッ化物粉末とを準備し、上記樹脂と上記金属フッ化物粉末とを含む樹脂組成物を作製し、上記金属フッ化物粉末の充填率が40容量%以上、特に、50容量%以上、更には、60容量%以上である層を少なくとも一部に含むように上記樹脂組成物を成形する。
上記樹脂組成物の成形体は、放射線の照射を受ける第1の面と、その反対側の第2の面とを有し、第1の面から第2の面への放射線の透過を抑制する放射線遮蔽効果を有する。そして、上記充填層は、典型的には、第1の面と第2の面との間の成形体の厚み方向の断面に存在し、第1の面から第2の面への放射線の透過を抑制するように、厚み方向の断面の少なくとも一部を構成する。上記樹脂組成物を構成する樹脂及び金属フッ化物粉末との間の比重差により、金属フッ化物粉末は、樹脂中に所定の濃度勾配をもって分布する傾向にある。このような場合においても、厚み方向の断面において放射線の透過方向と直交又は交差する方向に、金属フッ化物の充填率が40容量%以上である層が存在することで、目的とする高い放射線遮蔽効果を得ることができる。
成形体の全厚に占める上記充填層の厚みの割合は特に限定されず、成形体の全厚又はその一部であってもよい。また、充填層の厚みは、それを構成する金属フッ化物の充填率で決定されてもよく、例えば一定以上の放射線遮蔽効果を得る場合には、充填層内の金属フッ化物の充填率が比較的高ければ薄くでき、逆に当該充填率が比較的低ければ厚くすればよい。いずれの態様においても、前記充填層は、金属フッ化物の充填率が40容量%以上、好ましくは、50容量%以上である層(以下、高充填層ともいう。)を有していることが、本発明の目的を達成するために必要である。高充填層は、充填層の全部または一部を構成してもよく、その厚みは、0.5mm以上、好ましくは、1mm以上、さらには、2〜50mmとなるようにすることが好ましい。
本実施形態における上記金属フッ化物粉末を構成する金属フッ化物としては、単体金属フッ化物、複合金属フッ化物、又は、複数の金属フッ化物の固溶体が挙げられる。使用する金属フッ化物の種類によって屈折率が異なるため、使用する樹脂の種類や屈折率等に応じて金属フッ化物粉末を構成する金属フッ化物の種類を選択することで、金属フッ化物粉末と樹脂との間の屈折率差を所定の範囲内に抑えて成形体の透明性を高めることが可能となる。
密度が4.6g/cm以上の金属フッ化物としては、例えば、BaLiF単結晶(複合体、密度5.2、屈折率1.54)、BaY(複合体、密度5.0、屈折率1.52)、BaF(単体、密度4.8、屈折率1.48)、LaF(単体、密度5.9、屈折率1.60)、CeF(単体、密度6.2、屈折率1.61)、SmF(単体、密度6.6、屈折率1.62)、YbF(単体、密度8.2、屈折率1.60)、BaF−LaF(固溶体、密度5.4、屈折率1.54)等が挙げられる。
樹脂組成物を構成する樹脂の屈折率は、特に限定されず、典型的には1.4以上1.6以下である。このような屈折率を有する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、又はこれらの少なくとも2種以上の混合物等が挙げられる。また、上記樹脂としては、透明な樹脂であることが好ましい。
[樹脂組成物におけるその他の任意添加剤]
本実施形態の放射線遮蔽材料は、前記成分に加えて、本実施形態の効果に悪影響を及ぼさない公知の添加剤を公知の割合で添加することも可能である。
上記添加剤を例示すれば、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、加工助剤、着色剤等が挙げられる。また、これらの添加剤は、必要に応じて、二種類以上組み合わせて使用することもできる。
上記金属フッ化物粉末を準備する工程には、上記金属フッ化物粉末の屈折率を、金属フッ化物の固溶化により調整することが含まれてもよい。具体的には、BaFとLaFのように屈折率が異なり且つ互いに固溶する複数のフッ化物を準備し、これらを所望の屈折率となるように混合し、溶融固化して固溶体を得るとよい。あるいは、上記樹脂を準備する工程には、上記樹脂の屈折率を、屈折率の異なる樹脂の混合物により調整することが含まれてもよい。具体的には、樹脂の成分や分子量等の違いによって屈折率が異なる樹脂を複数準備し、これらを所望の屈折率となるように混合するとよい。
金属フッ化物粉末の粒子形状は、特に限定されず、球状、鱗片状、不定形状等、任意の形状のものを用いることができるが、球状のものを用いることが好ましい。これにより、後述の粒子径での使用において、金属フッ化物粉末の凝集を抑えて樹脂中に比較的容易に分散させることができる。
金属フッ化物粉末の平均粒子径は、10μm以上500μm以下であることが好ましい。平均粒子径が10μm未満の場合、樹脂への充填において分散が困難となり、十分な量の充填ができないため、目的とする放射線遮蔽効果を得られ難い。また、充填量を増やしたとしても、透明性が著しく低下し、目的とする透明性を確保することができなくなる。一方、金属フッ化物粉末の平均粒子径が500μmを超えると、成形体の表面が荒れ、脆くなり機械強度が低下する傾向にある。特に好ましい平均粒子径は、20〜200μmである。
[混合方法と成形方法]
本実施形態において、前記樹脂組成物を構成するための混合方法は、用いる樹脂の特性や金属フッ化物粉末の平均粒子径や充填量により、公知の方法から採用することができる。例示すれば、ポリ塩化ビニルやエチレン共重合体などの熱可塑性樹脂の場合は、予め樹脂と金属フッ化物粉末を、混合機等を用いてよく混合した後、バンバリーミキサーや押出機等で樹脂を加熱溶融させながら混練して樹脂組成物を得る方法が用いられる。得られた樹脂組成物は一旦ペレット状等に固化させた後に成形機により成形することもできるし、樹脂の溶融を維持した状態で成形することもできる。成形方法としては、射出成形、押出成形、プレス成形、カレンダー成形、ブロー成形等公知の方法を採用することができる。
また、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂等の場合は、液状モノマーと金属フッ化物粉末とをミキサー等を用い常温で混合してスラリーを作製し、これを型に流し込み、加熱や紫外線照射等の方法により固化させて成形体を得ることができる。
いずれの混合においても、樹脂と金属フッ化物粉末との間に気泡が存在する場合、かかる気泡を追い出して透明性の低下を防止するため、樹脂が流動性を有している間に、真空脱泡等の脱気処理を行うことが好ましい。
以上のような構成を有する本実施形態の成形体によれば、65%以上の全光線透過率を得ることができ、あるいは、ヘイズを40%以下に抑えることができる。さらに、1mmPb以上の鉛当量の放射線遮蔽効果を有する成形体を得ることができる。
上記のように、高い透明性と優れた放射線遮蔽効果を有する成形体は、比較的軽量であり、板状、シート状、筒状等の任意の形状に構成することができるため、例えば、ゴーグル又は眼鏡のレンズ部、放射線物質含有液輸送用のパイプ、放射線遮蔽シート、放射線物質含有液用のシリンジ等として容易に構成することができる。
[屈折率の測定方法]
樹脂の屈折率は、樹脂のみを硬化させた試験片を用いて、市販の屈折率計によって測定することができる。なお、物質の屈折率は光の波長によって異なるが、一般にはナトリウムのD線(589.3nm)を光源とし、当該波長における屈折率(以下、nともいう)を測定すると良い。当該nによって、可視領域における屈折率を概ね代表することができる。なお、特定の波長の光に対する透明性が高い放射線遮蔽材を得たい場合には、当該波長を発する光源を用いて屈折率を測定すれば良い。
フッ化物粉末の屈折率は、フッ化物のインゴットを加工した試験片を用いて、前記樹脂の屈折率と同様にして測定することができる。なお、フッ化物のインゴットが得難く、フッ化物粉末の屈折率を直接測定する必要がある場合には、液浸法により屈折率を求めることができる。すなわち、0.01毎に屈折率を調整した種々の分散媒を用意し、該分散媒にフッ化物粉末を分散せしめた分散液のうち、最も透明性が高い分散液に用いた分散媒の屈折率をフッ化物粉末の屈折率とすることができる。
[フッ化物粉末が存在する層の厚み及びフッ化物粉末の充填率の測定方法]
放射線遮蔽材中のフッ化物粉末が存在する層の厚み及び当該層におけるフッ化物粉末の充填率は、放射線遮蔽材を放射線の入射方向に沿って切断し、得られた断面の反射電子組成像を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより同定できる。反射電子組成像においては、フッ化物粉末と樹脂の密度が大きく異なるため、フッ化物粉末が存在する層を明瞭なコントラストの下で観察することができる。
フッ化物粉末が存在する層の厚みの測定は、SEMの測長機能を用い、間隔の長さが既知の標準グリッドを用いて校正して測定する。当該層におけるフッ化物粉末の充填率は、次式によって算出する。
充填率(vol%)=1/{(ρ/ρ)/(W/W)+1}×t/t×100
ただし、ρ及びρはそれぞれフッ化物粉末及び樹脂の密度を表し、W及びWはそれぞれ放射線遮蔽材に含まれるフッ化物粉末及び樹脂の重量を表し、t及びtはそれぞれ放射線遮蔽材全体の厚み及びフッ化物粉末が存在する層の厚みを表す。
上記層の厚み及び充填率の測定においては、任意の数十カ所で測定し、得られた値の平均値をとるものとする。
[放射線遮蔽能の測定方法]
放射線遮蔽材の遮蔽能は、以下の方法で放射線透過率を測定することによって評価できる。遮蔽の対象となる放射線を生じる放射線源と、該放射線に対応する放射線検出器を所定の距離で相対させ、その間に遮蔽材を置かない状態での放射線強度C0を得る。次に放射線源と放射線検出器の間に、放射線遮蔽材を配置した状態での放射線強度C1を得る。得られたC0及びC1を用いて次式によって放射線透過率を求める。
放射線透過率(%)=C1/C0×100
また当業者において、放射線遮蔽材の遮蔽能を、これと等価な遮蔽能を与える鉛の厚み(鉛当量)で評価することが一般に行われている。該鉛当量は、以下の方法で求められる。まず種々の厚みの鉛板を用意し、該鉛板のそれぞれの放射線透過率を前記と同様にして測定する。鉛板の厚みに対する放射線透過率は次式の関係にあるため、測定に供した鉛板の厚み及び得られた放射線透過率を用いて回帰分析を行い、減弱係数を求める。
T=e−μt
ただし、Tは放射線透過率を表し、μは減弱係数(mm−1)を表し、tは鉛板の厚み(mm)を表す。
次いで放射線遮蔽材の放射線透過率を測定し、次式に代入して鉛当量を求める。
鉛当量(mmPb)=−ln(T)/μ
[ヘイズの測定方法]
放射線遮蔽材のヘイズは、日本工業規格(JIS K 7136)に規定された方法によって測定することができる。当該規格に準拠した測定装置が市販されており、これらを制限なく用いることができる。
以下、本発明の実施形態を更に具体的に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでは無い。
(実施例1)
LiF粉末とBaF2粉末をそれぞれ溶融、固化させることにより得られた塊状のLiF原料およびBaF2原料を、LiF:BaF2が0.57:0.43のモル比であり、かつ、原料の合計量が3kgになるように混合して、カーボン製の内径120mmの坩堝に収容しチョクラルスキー結晶育成炉(CZ炉)内に収容した。次に、炉内を1×10−3Pa以下の真空度に保ち坩堝を600℃まで24時間かけて加熱昇温させ、純度99.999%のCF4ガスを炉内に導入して炉内の圧力80kPaにした。その後、坩堝を900℃まで2時間かけて加熱昇温させて、上記混合物を融解させた。
次いで、坩堝内の原料融液に、BaLiF単結晶からなり鉛直方向が<111>方向である種結晶を接触させ、この種結晶を15rpmで回転させながら1.0mm/hの速度で引き上げることにより、BaLiF単結晶体からなるインゴットを成長させた。BaLiF単結晶体のインゴットを所定の大きさまで成長させた後、溶融液からインゴットを切り離した。次いで、CZ炉を36時間かけて冷却した後に、インゴットをCZ炉から取り出した。得られたインゴットは全長130mm、直胴部の長さが100mm、直胴部の直径が50mmであった。
得られたBaLiF単結晶体の密度は5.2g/mL、屈折率は1.54であった。単結晶体のうち、透明部分の切り出し粉砕機を用いて細かく粉砕し、目開き200μmの篩にかけ、篩下分を回収しBaF粉末1とした。BaF粉末1の平均粒子径は120μmであった。次に屈折率1.54のポリ塩化ビニル樹脂(PVC)300gにBaF粉末1を3000gの割合で混合し、バンバリーミキサーを用いて混練し、BaF粉末1が72.6容量%含まれる樹脂組成物よりなる放射線遮蔽材料を得た。この放射線遮蔽材料を加圧プレス機により成形し、4mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。この放射線遮蔽材は透明性を有しており、その全光線透過率は91%であり、ヘイズは32%であった。
次に、以下の方法で、作製した放射線遮蔽材の放射線透過率を測定した。即ち、Cs137の611eVのガンマ線発生源とNaI−R6249ガンマ線検出器を30cmの距離で相対させ、その間に遮蔽物を置かない状態でのガンマ線強度C0を得る。次にガンマ線発生源とガンマ線検出器の間の検出器の3cm前方に、作製した放射線遮蔽材を配置した状態でのガンマ線強度C1を得る。次式によって放射線透過率を求めた。
放射線透過率(%)= C1/C0×100
本実施例にて作製した放射線遮蔽材を上記の方法で評価したところ、放射線透過率は88%であり、放射線遮蔽能(鉛当量)は1.2mmPbであった。
得られた放射線遮蔽材の断面をSEMで観察し、フッ化物粉末が存在する層(充填層)の厚み及び該層におけるフッ化物粉末の充填率を測定したところ、厚みは4.0mm、充填率は73容量%であった。
(実施例2)
BaFを原料として実施例1と同様の方法により単結晶体を作製した。
BaF粉末3kgをカーボン製の内径120mmの坩堝に収容しチョクラルスキー結晶育成炉(CZ炉)内に収容した。次に、炉内を1×10−3Pa以下の真空度に保ち坩堝を600℃まで24時間かけて加熱昇温させ、純度99.999%のCF4ガスを炉内に導入して炉内の圧力80kPaにした。その後、坩堝を1400℃まで2時間かけて加熱昇温させて、上記混合物を融解させた。次いで、坩堝内の原料融液に、BaF単結晶からなり鉛直方向が<111>方向である種結晶を接触させ、この種結晶を15rpmで回転させながら2.0mm/hの速度で引き上げることにより、BaF単結晶体からなるインゴットを成長させた。BaF単結晶体のインゴットを所定の大きさまで成長させた後、溶融液からインゴットを切り離した。次いで、CZ炉を36時間かけて冷却した後に、インゴットをCZ炉から取り出した。得られたインゴットは全長130mm、直胴部の長さが100mm、直胴部の直径が50mmであった。
得られたBaFの単結晶体の密度は4.8g/mL、屈折率は1.48であった。これを、粉砕機を用いて細かく粉砕し、目開き200μmの篩にかけ、篩下分を回収しBaF粉末2とした。BaF粉末2の平均粒子径は108μmであった。次にポリ塩化ビニル樹脂粉末(屈折率1.54)300gに対しBaF粉末2を3000gの割合で予備混合し、これを、バンバリーミキサーを用いて溶融混合し、BaF粉末2を74.1容量%含む樹脂組成物よりなる放射線遮蔽材料を得た。この放射線遮蔽材料を加圧プレス機により成形し、4mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
得られた放射線遮蔽材は透明性を有しており、その全光線透過率は65%であり、ヘイズは38%であった。
次に、実施例1と同じ方法で、得られた放射線遮蔽材の放射線透過率を測定したところ、放射線透過率は88%であり、放射線遮蔽能(鉛当量)は1.2mmPbであった。
得られた放射線遮蔽材の断面をSEMで観察し、フッ化物粉末が存在する層(充填層)の厚み及び該層におけるフッ化物粉末の充填率を測定したところ、厚みは4.0mm、充填率は74容量%であった。
(実施例3)
本実施例では、フッ化物粉末としてBaFとLaFからなる固溶体の粉末を用い、樹脂としてポリ塩化ビニルを用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.54及び1.54であり、両者の屈折率の差は0.00である。
BaF粉末とLaF粉末を、BaF:LaFが0.5:0.5のモル比であり、かつ、合計量が3kgになるように混合してフッ化物粉末の原料を得た。該フッ化物粉末の原料をカーボン製の内径400mmの坩堝に充填し溶融炉内に収容した。次に、炉内を1×10−3Pa以下の真空度に保ち坩堝を600℃まで24時間かけて加熱昇温させ、純度99.999%のCF4ガスを炉内に導入して炉内の圧力80kPaにした。その後、坩堝を1500℃の溶融温度まで2時間かけて加熱昇温させて、上記混合物を融解させた。溶融温度で3時間保持した後、12時間かけて室温まで徐冷して凝固させ、BaFとLaFからなる固溶体(以下、BaF−LaFともいう)のインゴットを得た。該BaLaFの密度は5.4g/mLであった。
BaF−LaFのインゴットを粉砕機によって細かく粉砕し、目開き200μmの篩にかけ、篩下分を回収しBaF−LaFの粉末を得た。該粉末の平均粒子径は115μmであった。
ポリ塩化ビニル樹脂粉末(屈折率1.54)300gに対しBaF−LaFの粉末を3000gの割合で予備混合し、これを、バンバリーミキサーを用いて溶融混合し、BaF−LaFの粉末を72.2容量%含む樹脂組成物よりなる放射線遮蔽材料を得た。この放射線遮蔽材料を加圧プレス機により成形し、4mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
得られた放射線遮蔽材は透明性を有しており、その全光線透過率は94%であり、ヘイズは20%であった。
次に、実施例1と同じ方法で、得られた放射線遮蔽材の放射線透過率を測定したところ、放射線透過率は87%であり、放射線遮蔽能(鉛当量)は1.3mmPbであった。
得られた放射線遮蔽材の断面をSEMで観察し、フッ化物粉末が存在する層(充填層)の厚み及び該層におけるフッ化物粉末の充填率を測定したところ、厚みは4.0mm、充填率は72容量%であった。
(実施例4)
本実施例では、フッ化物粉末としてBaYの粉末を用い、樹脂としてエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート 25質量%とトリエチレングリコールジメタクリレート 75質量%からなる共重合体を用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.52及び1.52であり、両者の屈折率の差は0.00である。
BaF粉末とYF粉末を、BaF:YFが1:2のモル比であり、かつ、合計量が3kgになるように混合したフッ化物粉末の原料を用い、溶融温度を1100℃とする以外は、実施例3と同様にしてBaYのインゴットを得た。該BaYの密度は5.0g/mLであった。次いでBaYのインゴットを実施例3と同様にして粉砕し、篩にかけてBaYの粉末を得た。該粉末の平均粒子径は118μmであった。
次にエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート 25質量%とトリエチレングリコールジメタクリレート 75質量%を混合した液状樹脂 300gにBaYの粉末を3000gの割合で混合し、真空脱泡により気泡を除去した。得られたフッ化物粉末と液状樹脂の混合物を厚みが4.5mmで100mm×100mmのモールドに注入し、液状樹脂を硬化させて4.5mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
得られた放射線遮蔽材は透明性を有しており、その全光線透過率は92%であり、ヘイズは25%であった。
次に、実施例1と同じ方法で、得られた放射線遮蔽材の放射線透過率を測定したところ、放射線透過率は88%であり、放射線遮蔽能(鉛当量)は1.2mmPbであった。
得られた放射線遮蔽材の断面をSEMで観察し、フッ化物粉末が存在する層(充填層)の厚み及び該層におけるフッ化物粉末の充填率を測定したところ、厚みは4.0mm、充填率は79容量%であった。
(実施例5)
本実施例では、フッ化物粉末としてYbFの粉末を用い、樹脂としてポリエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートを用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.60及び1.58であり、両者の屈折率の差は0.02である。
フッ化物粉末の原料として、YbFの微粉末原料 3kgを用い、溶融温度を1300℃とする以外は、実施例3と同様にしてYbFのインゴットを得た。該YbFの密度は8.2g/mLであった。次いでYbFのインゴットを実施例3と同様にして粉砕し、篩にかけてYbFの粉末を得た。該粉末の平均粒子径は105μmであった。
次にエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート 300gにYbF 3600gの割合で混合する以外は、実施例4と同様にして4.5mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
得られた放射線遮蔽材は透明性を有しており、その全光線透過率は75%であり、ヘイズは33%であった。
次に、実施例1と同じ方法で、得られた放射線遮蔽材の放射線透過率を測定したところ、放射線透過率は84%であり、放射線遮蔽能(鉛当量)は1.7mmPbであった。
得られた放射線遮蔽材の断面をSEMで観察し、フッ化物粉末が存在する層(充填層)の厚み及び該層におけるフッ化物粉末の充填率を測定したところ、厚みは4.0mm、充填率は72容量%であった。
(実施例6)
本実施例では、フッ化物粉末として前記BaF粉末2(密度4.8g/mL)を用い、樹脂としてシリコーンを用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.48及び1.41であり、両者の屈折率の差は0.07である。BaF粉末2の平均粒子径は108μmであった。
液状のシリコーン 300gにBaF粉末2 2500gの割合で混合し、真空脱泡により気泡を除去した。得られたフッ化物粉末と液状のシリコーンの混合物を厚みが4.5mmで100mm×100mmのモールドに注入し、シリコーンを硬化させて4.5mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
得られた放射線遮蔽材は透明性を有しており、その全光線透過率は65%であり、ヘイズは40%であった。
次に、実施例1と同じ方法で、得られた放射線遮蔽材の放射線透過率を測定したところ、放射線透過率は89%であり、放射線遮蔽能(鉛当量)は1.1mmPbであった。
得られた放射線遮蔽材の断面をSEMで観察し、フッ化物粉末が存在する層(充填層)の厚み及び該層におけるフッ化物粉末の充填率を測定したところ、厚みは4.0mm、充填率は74容量%であった。
表1に、実施例1〜6の評価結果をまとめて示す。
Figure 0006670755
(比較例1)
本比較例では、フッ化物粉末として密度3.2g/mLのCaFの粉末を用い、樹脂としてシリコーンを用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.43及び1.41であり、両者の屈折率の差は0.02である。
フッ化物粉末の原料として、CaFの微粉末原料 3kgを用いる以外は、実施例3と同様にしてCaFのインゴットを得た。該CaFの密度は3.2g/mLであった。次いでCaFのインゴットを実施例3と同様にして粉砕し、篩にかけてCaFの粉末を得た。該粉末の平均粒子径は123μmであった。
次に、液状のシリコーン 300gにCaFの粉末 1700gの割合で混合する以外は、実施例6と同様にして4.5mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
得られた放射線遮蔽材について、フッ化物粉末が存在する層の厚み、該層におけるフッ化物粉末の充填率、全光線透過率、ヘイズ、放射線透過率及び放射線遮蔽能を表2に示す。フッ化物粉末の密度が3.2g/mLと小さいため、1mmPbに満たない放射線遮蔽能しか得られなかった。
(比較例2)
本比較例では、フッ化物粉末として前記BaF粉末1を用い、樹脂としてシリコーンを用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.54及び1.41であり、両者の屈折率の差は0.13である。
液状のシリコーン 300gにBaF粉末1 2500gの割合で混合する以外は、実施例6と同様にして4.5mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
得られた放射線遮蔽材について、フッ化物粉末が存在する層の厚み、該層におけるフッ化物粉末の充填率、全光線透過率、ヘイズ、放射線透過率及び放射線遮蔽能を表2に示す。フッ化物粉末と樹脂との屈折率の差が0.13と大きかったため、透明性は低かった(全光線透過率57%、ヘイズ62%)。
(比較例3)
本比較例では、ポリ塩化ビニル樹脂300gにBaF粉末1を450gの割合で混合し、BaF粉末1が28.8容量%含まれる樹脂組成物を調製する以外は、実施例1と同様にして4mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
得られた放射線遮蔽材について、フッ化物粉末が存在する層の厚み、該層におけるフッ化物粉末の充填率、全光線透過率、ヘイズ、放射線透過率及び放射線遮蔽能を表2に示す。フッ化物粉末の充填率(29%)が低いため、1mmPbに満たない放射線遮蔽能しか得られなかった。
(比較例4)
本比較例では、フッ化物粉末としてYbの粉末を用い、樹脂としてエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートの重合体を用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.95及び1.58であり、両者の屈折率の差は0.37である。
Ybの微粉末原料をレニウム製の内径80mmの坩堝に充填し溶融炉内に収容した。次に、炉内にO 0.01%、H 10%、N 90%のガスを流通させて炉内の圧力を大気圧に保ちながら、坩堝を2500℃の溶融温度まで8時間かけて加熱昇温させて、上記混合物を融解させた。溶融温度で3時間保持した後、12時間かけて室温まで徐冷して凝固させ、Ybのインゴットを得た。該Ybのインゴットの密度は9.2g/mLであった。
Ybのインゴットを粉砕機によって細かく粉砕し、目開き200μmの篩にかけ、篩下分を回収しYbの粉末を得た。該粉末の平均粒子径は125μmであった。
次にエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート 50gにYb 670gの割合で混合する以外は、実施例5と同様にして4.5mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
得られた放射線遮蔽材について、Yb粉末が存在する層の厚み、該層におけるYb粉末の充填率、全光線透過率、ヘイズ、放射線透過率及び放射線遮蔽能を表2に示す。フッ化物粉末と樹脂との屈折率の差が0.37と非常に大きかったため、透明性は低かった(全光線透過率51%、ヘイズ85%)。
(比較例5)
本比較例では、BaSO粉末をポリ塩化ビニル樹脂に充填した放射線遮蔽材を作製した。該BaSO粉末及びポリ塩化ビニル樹脂の屈折率はそれぞれ1.64及び1.54であり、両者の屈折率の差は0.10である。
ポリ塩化ビニル樹脂300gに市販のBaSO粉末(平均粒子径 15μm)を2700gの割合で混合する以外は、実施例1と同様にして4mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
得られた放射線遮蔽材について、BaSO粉末が存在する層の厚み、該層におけるBaSO粉末の充填率、全光線透過率、ヘイズ、放射線透過率及び放射線遮蔽能を表2に示す。ある程度の放射線遮蔽効果は得られるものの(1.1mmPb)、実施例1〜6よりも透明性は低かった(全光線透過率59%、ヘイズ61%)。
Figure 0006670755

Claims (19)

  1. バリウムを一構成元素とするフッ化物粉末を20〜80容量%の割合で含む樹脂組成物よりなる放射線遮蔽材料であって、
    前記樹脂組成物を構成する樹脂の屈折率に対する前記フッ化物粉末の屈折率の差が、±0.05の範囲内にある放射線遮蔽材料。
  2. 前記フッ化物粉末は、フッ化バリウム、又は、フッ化リチウムバリウムである請求項1に記載の放射線遮蔽材料。
  3. 前記樹脂組成物を構成する樹脂が、1.4〜1.6の屈折率を有する請求項1又は2に記載の放射線遮蔽材料。
  4. 前記フッ化物粉末の平均粒子径は、10〜500μmである請求項1〜3のいずれか一項に記載の放射線遮蔽材料。
  5. 樹脂中に金属フッ化物粉末が充填された樹脂組成物よりなる充填層を有する成形体であって、
    前記金属フッ化物粉末の密度は、4.6g/cm以上であり、
    前記樹脂の屈折率に対する前記金属フッ化物粉末の屈折率の差は、±0.07の範囲内であり、
    前記充填層は、厚み方向の一部または全部において金属フッ化物粉末の充填率が40容量%以上の層を有する
    ことを特徴とする放射線遮蔽材料。
  6. 前記金属フッ化物粉末を構成する金属フッ化物は、金属フッ化物単体、又は、複数の金属フッ化物の固溶体で構成される請求項5に記載の放射線遮蔽材料。
  7. 前記金属フッ化物粉末の粒子形状は、球状である請求項5又は6に記載の放射線遮蔽材料。
  8. 前記樹脂の屈折率は、1.4以上1.6以下である請求項5〜7のいずれか一項に記載の放射線遮蔽材料。
  9. 前記樹脂は、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂又はシリコーン樹脂である請求項8に記載の放射線遮蔽材料。
  10. 前記成形体の全光線透過率は、65%以上である請求項5〜9のいずれか一項に記載の放射線遮蔽材料。
  11. 前記成形体のヘイズは、40%以下である請求項5〜10のいずれか一項に記載の放射線遮蔽材料。
  12. 前記成形体の鉛当量は、1.0mmPb以上である請求項5〜11のいずれか一項に記載の放射線遮蔽材料。
  13. 前記成形体は、ゴーグル又は眼鏡のレンズ部である請求項5〜12のいずれか一項に記載の放射線遮蔽材料。
  14. 前記成形体は、放射線物質含有液輸送用のパイプである請求項5〜12のいずれか一項に記載の放射線遮蔽材料。
  15. 前記成形体は、放射線遮蔽用のシートである請求項5〜12のいずれか一項に記載の放射線遮蔽材料。
  16. 前記成形体は、放射線物質含有液用のシリンジである請求項5〜12のいずれか一項に記載の放射線遮蔽材料。
  17. 樹脂と、前記樹脂の屈折率との差が±0.07の範囲にある屈折率を有し密度が4.6g/cm以上である金属フッ化物粉末とを準備し、
    前記樹脂と前記金属フッ化物粉末とを含む樹脂組成物を作製し、
    前記金属フッ化物粉末の充填率が40容量%以上である層を少なくとも一部に含むように前記樹脂組成物を成形する
    放射線遮蔽材料の製造方法。
  18. 前記金属フッ化物粉末を準備する工程は、屈折率の異なる複数の金属フッ化物材料を準備し、材料の混合量を調整することによって固溶化後の金属フッ化物の屈折率を調整することを含む請求項17に記載の放射線遮蔽材料の製造方法。
  19. 前記樹脂を準備する工程は、前記樹脂の屈折率を、屈折率の異なる樹脂の混合物により調整することを含む請求項17又は18に記載の放射線遮蔽材料の製造方法。
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