JP6669362B2 - クピンスーパーファミリーのタンパク質により触媒される(r)−選択的ニトロアルドール反応 - Google Patents

クピンスーパーファミリーのタンパク質により触媒される(r)−選択的ニトロアルドール反応 Download PDF

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Description

本発明は、キラルβ−ニトロアルコール化合物を作製するための方法であって、ニトロアルカン化合物およびクピン−ニトロアルドラーゼの存在下でアルデヒド化合物またはケトン化合物を対応するβ−ニトロアルコール化合物に変換する方法に関する。本発明は、特に、ヘンリー反応をエナンチオ選択的に触媒する(R)−選択的クピン−ニトロアルドラーゼに関する。
生体触媒プロセスは化学産業にとって非常に重要になってきている。生体触媒の特性が、キラル化合物またはプロキラル化合物を伴う化学反応において2つのエナンチオマーのうちのいずれかを優先的に反応させるか形成することを可能にする場合、酵素の使用は特に重要である。
酵素のこのような好ましい特性を利用するための必須要件は、工業プロセスで必要とされるような十分な量のそれらの酵素を低コストで利用できること、十分に高い反応性、選択性、および工業プロセスの現実的な条件下での高い安定性である。
β−ニトロアルコールは、医薬成分として使用されるエフェドリン、ベスタチンおよびスフィンゴシンなどの生物活性化合物の合成に重要なキラル構築ブロックであるβ−アミノアルコールの前駆体である。ニトロアルドール反応またはヘンリー反応は、C−C結合の形成のための有機合成における古典的な人名反応の1つである。最大で2つの新たなキラル中心を生じさせる可能性があるため、エナンチオ選択的且つ立体選択的にニトロアルドール付加を実施できることは、合成用途には根本的に重要である。この反応は1世紀超にわたって知られているが(Henry, 1895)、非酵素的な有機分子触媒またはキラル金属触媒を利用する立体特異的プロトコルは、最近になって発展してきたに過ぎない。これらの方法の発展は印象的ではあるが、それらは未だにいくつかの欠点を共有し、これらの欠点には、金属触媒の場合には長い反応時間および、時には、極端な反応条件、または有機分子触媒の場合には不十分な選択性、が含まれる。
過去10年の間に、最初の不斉性の生体触媒によるニトロアルドール反応が、熱帯性のゴムノキであるパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)に由来するヒドロキシニトリルリアーゼ(HbHNL)で見出された(Purkarthofer et al.,Angew Chem Int Ed Engl. 2006 45(21), 3454−6;Gruber−Khadjawi et al.,Adv.Synth.Catal.2007, 349, 1445−1450;Yuryev,R. et al.,Biocatal.Biotransform.,(2010) 28, 348;Yuryev,R. et al. Chemcatchem,(2010) 2, 981)。
また、HbHNLと同様にα/β−ヒドロラーゼスーパーファミリーに属する、キャッサバ(Manihot esculenta)由来の(S)−選択的MeHNLも、活性および選択性はより低いものの、(S)−選択的ニトロアルドール反応を触媒することが可能である。
(R)−選択的にHNLにより触媒されるヘンリー反応を触媒する最初の(R)−選択的HNLは、シロイヌナズナ(Arabidobsis thaliana)由来のAtHNLであり(Fuhshuku et al. J.Biotechnol.2011, 153, 153−159)、これは、(S)−選択的ニトロアルドラーゼと同様にα/β−ヒドロラーゼスーパーファミリーにも属する。
対照的に、異なるタンパク質フォールドに属する、アーモンド(Prunus amygdalus)由来の(R)−選択的ヒドロキシニトリルリアーゼ(PaHNL)については、これまでニトロアルドール反応における活性は示されていない。
しかし、残念なことに、報告された反応条件にて反応時間を(2時間から4時間に)延長してもその間にAtHNLの反応産物のエナンチオマー過剰率は、収率の増加を伴うことなく著しく低下する(Fuhshuku et al. 2011)。
Asanoおよび共同研究者は、ベンズアルデヒド1mmolあたり40mgのAtHNLを適用して、50%のn−ブチルアセテートを伴うpH7の二相系においてベンズアルデヒドおよびMeNOで最も高いエナンチオ選択性を達成した(収率30%およびee91%)。収率およびエナンチオマー過剰率はさらに、より多量の酵素(基質1mmolあたり100mg)を適用することによって僅かに向上した。基質1mmolあたり40mgのAtHNLおよび2時間という反応時間を適用すると、基質および反応系に依存して最大60%の収率または最大96%のエナンチオマー過剰率を得ることができた。しかし、これらは同一の反応条件下では共存しない。
しかし、報告された反応条件にて反応時間を(2時間から4時間に)延長してもその間にAtHNLの反応産物のエナンチオマー過剰率は、収率の増加を伴うことなく著しく低下する。ニトロエタンは使用されなかった。
Gotorおよび共同研究者は、水中での運搬体タンパク質ウシ血清アルブミン(BSA)によるニトロアルドール反応のタンパク質媒介性触媒作用を報告した。この触媒作用は、これらの科学者等の観察から非特異的なタンパク質触媒作用という結論が導かれたため、有機分子触媒作用として分類され得る(Busto,E.;Gotor−Fernandez,V.;Gotor,V., Org.ProcessRes.Dev.,(2011) 15, 236)。生体触媒によるニトロアルドール反応は、トランスグルタミナーゼ(Tang, R. C.; et al., J. Mol. Catal. B: Enzym., (2010) 63, 62)、ヒドロラーゼ(Wang, J. L.; et al., J. Biotechnol., (2010) 145, 240)、プロテアーゼ(Lopez−Iglesias, M.; et al., Adv. Synth. Catal., (2011) 353, 2345)、リパーゼ(Le, Z.−G.; et al., Green Chem. Lett. Rev., (2013) 6, 277; Xia, W.−J.; et al., Molecules, (2013) 18, 13910)、アシラーゼ(Xia, W.−J.; et al., Molecules, (2013) 18, 13910)およびグルコアミラーゼ(Gao, N.; et al., RSC Adv., (2013) 3, 16850)などの酵素でも報告されているが(概要についてはMilner, S. E.; et al., Eur. J. Org. Chem, (2012), 3059を参照のこと)、全ての場合において、反応がエナンチオ選択的ではないか、またはエナンチオ選択性についてのデータが提示されていない。
従って、これまでは、α/β−ヒドロラーゼのフォールドを有する植物のHNLのみが、エナンチオ選択的ニトロアルドール反応を触媒することが可能であった。
別のアプローチは、化学合成された立体異性体の混合物を酵素による速度論的光学分割によって(例えばヒドロラーゼを使用して)分離する化学−酵素的アプローチである。しかし、一般的な速度論的光学分割の主な欠点は、最大で50%という収率の制限である。
従って、ヘンリー反応をエナンチオ選択的に触媒できる新たなニトロアルドラーゼが依然として必要とされている。
最近になって、クピンのフォールドを有する新たな細菌性HNLの発見が報告された(Hajnal, I.; et al., Febs J., (2013) 280, 5815; Hussain, Z.; et al., Appl. Environ. Biotechnol., (2012) 78, 2053)。しかし、これらは非常に低い比活性しか示さない。新たな酵素の一つであるGtHNLは詳細に特徴付けられており、その構造が解明された(Hajnal, I.; et al., Febs J., (2013) 280, 5815; Lyskowski, A.; et al., Acta Crystallogr. F, (2012) 68, 451)。GtHNLは、約15kDaの分子量を有する小さな金属依存性モノ−クピンであり、四量体を形成する。
β−ニトロアルコール化合物を作製するための改良された方法を提供することが本発明の目的である。方法は、アルデヒド化合物またはケトン化合物を提供する工程と、その化合物をニトロアルカン化合物およびクピン−ニトロアルドラーゼの存在下で対応するβ−ニトロアルコール化合物に変換する工程と、を含む。本発明は、特に、ヘンリー反応をエナンチオ選択的に触媒できる(R)−選択的クピン−ニトロアルドラーゼに関する。
GtHNL(PDB−コード:4BIF)の構造の1つのクピン単量体の模式図。 配列番号1、3および5〜10の多重配列アライメント。 50%のTBMEを伴う二相系におけるAcHNLおよびGtHNLならびにGtHNLの三重変異体(GtHNL−A40H/V42T/Q110H、省略名:GtHNLmut)およびAcHNLの三重変異体(AcHNL−A40H/V42T/Q110H、省略名:AcHNLmut)とベンズアルデヒド(20μmol)およびニトロメタン(1mmol)とのニトロアルドール反応。清澄化したライセート(酵素/mmol BAの量は、総ライセートタンパク質の約50%がHNLであると仮定した場合の酵素自体の量を指す)または精製酵素を使用した。変換率およびeeの値は、6時間の反応時間の後に測定した。 50%のTBMEを伴う二相系および種々のタンパク質対基質比における三重変異体GtHNL−A40H/V42T/Q110H(省略名:GtHNLmut)とベンズアルデヒド(20μmol)およびニトロメタン(1mmol)とのニトロアルドール反応。参照用にAtHNLを使用した。変換率およびeeの値は、2時間および24時間の反応時間の後に測定した。 50%のTBMEを伴う二相系におけるいくつかのクピン−ニトロアルドラーゼとベンズアルデヒド(20μmol)およびニトロエタン(1mmol)とのニトロアルドール反応。変換率およびeeの値は、2時間、4時間および24時間の反応時間の後に測定した。 クピン−ニトロアルドラーゼのタンパク質配列。 配列番号1:GtHNL(Granulicella tundricola MP5ACTX9, Uniprot E8WYN5)。 配列番号2:GtHNL三重変異体(A40H,V42T,Q110H)のタンパク質配列。 配列番号3:AcHNLのタンパク質配列(Acidobacterium capsulatum ATCC 51196; Uniprot C1F951)。 配列番号4:AcHNL三重変異体(A40H,V42T,Q110H)のタンパク質配列。 配列番号5:クピン2保存バレルドメインタンパク質のタンパク質配列(Uniprot B8ENI4)。 配列番号6:クピン2保存バレルドメインタンパク質のタンパク質配列(Uniprot A5G162)。 配列番号7:クピン2保存バレルドメインタンパク質のタンパク質配列(Uniprot C6D499)。 配列番号8:性質不明のタンパク質のタンパク質配列(Uniprot C1D3E9)。 配列番号9:クピン2保存バレルドメインタンパク質のタンパク質配列(Uniprot A6U7V5)。 配列番号10:クピン2保存バレルドメインタンパク質のタンパク質配列(Uniprot F8IF03)。 クピン−ニトロアルドラーゼのタンパク質配列。 配列番号1:GtHNL(Granulicella tundricola MP5ACTX9, Uniprot E8WYN5)。 配列番号2:GtHNL三重変異体(A40H,V42T,Q110H)のタンパク質配列。 配列番号3:AcHNLのタンパク質配列(Acidobacterium capsulatum ATCC 51196; Uniprot C1F951)。 配列番号4:AcHNL三重変異体(A40H,V42T,Q110H)のタンパク質配列。 配列番号5:クピン2保存バレルドメインタンパク質のタンパク質配列(Uniprot B8ENI4)。 配列番号6:クピン2保存バレルドメインタンパク質のタンパク質配列(Uniprot A5G162)。 配列番号7:クピン2保存バレルドメインタンパク質のタンパク質配列(Uniprot C6D499)。 配列番号8:性質不明のタンパク質のタンパク質配列(Uniprot C1D3E9)。 配列番号9:クピン2保存バレルドメインタンパク質のタンパク質配列(Uniprot A6U7V5)。 配列番号10:クピン2保存バレルドメインタンパク質のタンパク質配列(Uniprot F8IF03)。
第一の態様では、本発明は、β−ニトロアルコール化合物を作製するための方法であって、ニトロアルカン化合物およびクピン−ニトロアルドラーゼの存在下でアルデヒド化合物またはケトン化合物を対応するβ−ニトロアルコール化合物に変換する方法に関する。
別の態様では、本発明は、上記のような方法であって、クピン−ニトロアルドラーゼが図1Aの保存されたバレルドメインを含む、方法に関する。
別の態様では、本発明は、上記のような方法であって、クピン−ニトロアルドラーゼが、PFAM accession CL0029を有するクピンスーパーファミリーの保存されたバレルドメインを含む、方法に関する。
別の態様では、本発明は、上記のような方法であって、クピン−ニトロアルドラーゼが、PFAM accession PF07883を有するクピン2ファミリーの保存されたバレルドメインを含む、方法に関する。
別の態様では、本発明は、上記のような方法であって、クピン−ニトロアルドラーゼが、SCOP accession 51182を有するRmlC様(RmlC−like)クピンスーパーファミリーに属する、方法に関する。
別の態様では、本発明は、上記のような方法であって、クピン−ニトロアルドラーゼがInterProタンパク質ファミリーデータベース(the InterPro protein families database)のRmlC様ゼリーロールフォールド(IPR014710)を含む、方法に関する。
別の態様では、本発明は、上記のような方法であって、クピン−ニトロアルドラーゼがInterProタンパク質ファミリーデータベースのRmlC様クピンドメイン(IPR011051)を含む、方法に関する。
別の態様では、本発明は、上記のような方法であって、クピン−ニトロアルドラーゼがInterProタンパク質ファミリーデータベースのクピン2保存バレルドメイン(IPR013096)を含む、方法に関する。
別の態様では、本発明は、上記のような方法であって、クピン−ニトロアルドラーゼの存在下で式Iの化合物を式IIの化合物と反応させて式IIIのβ−ニトロアルコールを得る方法に関し、

式中、
およびRは、互いに独立して、H、C1〜20アルキル、C2〜20アルケニル、またはC2〜20アルキニル、C3〜10シクロアルキル、C4〜20シクロアルキルアルキル、C6〜14アリール、C7〜20アリールアルキル、3〜14員のヘテロシクロアルキル、4〜20員のヘテロシクロアルキルアルキル、5〜20員のヘテロアリールまたは6〜20員のヘテロアリールアルキルであり、これらは任意選択で1つ以上のRにより置換されており、
およびRは、互いに独立して、Hまたは、任意選択で1つ以上のRにより置換されたC1〜20アルキルであり、
は、それぞれ独立して、H、ハロゲン、−CF、−OR、−NR、−(CHCOOR、−(CHC(=O)R、−(CHCONR、C1〜20アルキル、C2〜20アルケニル、またはC2〜20アルキニルであり、
は、それぞれ独立して、Hまたは、任意選択で置換されたC1〜20アルキル、C2〜20アルケニルもしくはC2〜20アルキニルであり、
nは、0、1、2または3である。
アルキル基は、別段の記載がない限り、任意選択で置換された直鎖状または分枝状のC1〜20アルキル、好ましくは1〜20個の炭素原子の直鎖または分枝鎖、を意味する。アルキル基は1つ以上のRにより置換されていてよい。
アルケニル基は、別段の記載がない限り、任意選択で置換された部分的に不飽和の直鎖状または分枝状のC2〜20アルケニル、好ましくは少なくとも1つの二重結合を含む2〜20個の炭素原子の直鎖または分枝鎖、を意味する。アルケニル基は1つ以上のRにより置換されていてよい。
アルキニル基は、別段の記載がない限り、任意選択で置換された部分的に不飽和の直鎖状または分枝状のC2〜20アルキニル、好ましくは少なくとも1つの三重結合を含む2〜20個の炭素原子の直鎖または分枝鎖、を意味する。アルキニル基は1つ以上のRにより置換されていてよい。
シクロアルキル基は、任意選択で置換された、3〜10個の炭素原子(好ましくは4〜6個の炭素原子)を含む単環式非芳香族炭化水素環または7〜10個の炭素原子(好ましくは7個の炭素原子)を含む二環式非芳香族炭化水素環系を意味し、ここでシクロアルキル基は任意選択で1つ以上の二重結合または三重結合を含む。シクロアルキル基は1つ以上のRにより置換されていてよい。
ヘテロシクロアルキル基は、任意選択で置換された、3〜14個の炭素原子(好ましくは4〜8個の炭素原子)を含む単環式非芳香族炭化水素環または7〜14個の炭素原子(好ましくは8〜10個の炭素原子)を含む二環式非芳香族炭化水素環系を意味し、ここで、ヘテロシクロアルキル基において炭化水素環または炭化水素環系の炭素原子のうちの1つ以上が、−N−、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、−Si−および−P−を含む群より選択される基に置き換わっており、ヘテロシクロアルキル基は任意選択で1つ以上の二重結合を含む。ヘテロシクロアルキル基は1つ以上のRにより置換されていてよい。
アリール基は、好ましくは、任意選択で置換された、単環式、二環式、三環式または四環式の芳香族炭化水素基、好ましくは6〜14個の炭素原子を有する単環式芳香族炭化水素基を意味し、アリール基は、好ましくは、任意選択で置換されたフェニルである。アリール基は1つ以上のRにより置換されていてよい。
ヘテロアリール基は、炭素原子のうちの少なくとも1つがO、N、および/またはSのようなヘテロ原子に置き換わっている任意選択で置換された芳香族の5員または6員の単環式炭化水素基を意味し、ここで、芳香族単環式の5員または6員の環状炭化水素基は任意選択でさらなる単環式の5員〜7員(好ましくは5員〜6員)の芳香族または非芳香族の炭化水素環に融合しており、さらなる単環式の芳香族または非芳香族の炭化水素環において1つ以上(好ましくは1つまたは2つ)の炭素原子がO、N、および/またはSのようなヘテロ原子に置き換わっていてよい。ヘテロアリール基は1つ以上のRにより置換されていてよい。
ハロゲン基は、塩素、臭素、フッ素またはヨウ素である。
本明細書において使用される場合、「任意選択で置換された」は、ハロゲン、−OH、−OCH、−CN、カルボニルおよびカルボキシルからなる群より選択される置換基、
置換および非置換C6〜14アリールまたはC5〜14ヘテロアリール残基に隣接するC1〜20アルキル、C2〜20アルケニルおよびC2〜20アルキニルに適用される。
方法は、単相系もしくは二相系またはエマルジョンにおいて実施できる。
単相反応溶液は水性溶媒または有機溶媒を含む。
適切な水溶液は、例えば水、クピン−ニトロアルドラーゼ含有溶液、または緩衝液である。緩衝液の例は、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、MES、HEPES、Tris緩衝液、またはそれらの混合物である。これらの溶液のpHはpH2〜9、好ましくは4〜7であってよい。
適切な有機溶液は、僅かに水混和性の、または水不混和性の脂肪族または芳香族の炭化水素(任意選択でハロゲン化されている)、アルコール、エーテルもしくはエステルまたはそれらの混合物または基質自体であってよい。例えば、限定されるものではないが、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルtert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサデカン、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルム、キシレン、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびドデカノール、DMF、DMSO、アセトニトリル、ニトロメタン、ニトロエタン、またはそれらの混合物が好適である。イオン性液体および超臨界流体を指す新型溶媒(neoteric solvents)も適用可能である。
水−有機溶媒二液相系において生物変換を行うことの利点は当技術分野において周知である。二相系は、互いに混和しない2つの相(例えば水相および有機相)からなる。
さらなる態様では、本発明は、上記のような方法であって、反応が単相系もしくは二相系またはエマルジョンにおいて実施される方法に関する。
さらなる態様では、本発明は、上記のような方法であって、二相系が本明細書に記載されるような水溶液および有機溶液を含む方法に関する。
本発明のクピン−ニトロアルドラーゼは、この系にて、精製酵素または全細胞懸濁液のいずれかとして存在してよいか、または無細胞ライセート中に含まれていてよいか、または(例えばCelite(登録商標)、Avicel等などの支持体上に、または架橋酵素集合体(CLEA)として)固定化された形態であってよい。
さらに、変換は−10℃〜+50℃という温度にて、好ましくは0℃〜35℃にて、起こる。
適用可能な求電子剤の選択肢の範囲は、芳香族アルデヒドからヘテロ芳香族アルデヒドおよび脂肪族アルデヒドにまで及ぶ。基質および反応系に依存して、最大97.3%の収率または99%超のエナンチオマー過剰率が本発明の方法によって得られる可能性がある。
さらなる態様では、本発明は、上記のような方法であって、β−ニトロアルコール化合物が少なくとも55%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも75%のエナンチオマー過剰率(e.e.)で得られる方法に関する。
さらなる態様では、本発明は、上記のような方法であって、β−ニトロアルコール化合物が少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%の変換率で得られる方法に関する。
クピンスーパーファミリーのタンパク質(PFAM:CL0029)は、10〜12個の逆平行βストランドから構成される保存されたβバレルドメインを含む(図1A)。Cupaはバレルのラテン語である。タンパク質構造分類データベース(the structural classification of proteins database)(SCOP)では、クピンスーパーファミリーのタンパク質は、二本鎖βヘリックスフォールド内のRmlc様クピンスーパーファミリー[51182]として分類される。クピンのフォールドは幅広い様々な酵素に見出されるが、非酵素タンパク質にも見出される。クピンドメインは、単独で、あるいは他のドメインと組み合わさって、タンパク質構造中に1つ、2つまたは3つ以上見出され得る。クピンスーパーファミリーのタンパク質は、全体としての配列類似性は非常に低いが、それらは全て、長さおよびアミノ酸配列の両方が様々である保存度の低いモチーフ間の領域によって隔てられた2つの短いが部分的に保存されたクピン配列モチーフを含む(図1)。クピンスーパーファミリーのタンパク質は、古細菌、細菌および真核生物において広範な生物学的機能を有する。
クピンは構造的に保存されており、通常、G−(X)−H−X−H−(X)3,4−E−(X)−G(モチーフ1)およびG−(X)−P−X−G−(X)−H−(X)−N(モチーフ2)という2つの保存されたモチーフを含み、このスーパーファミリーのメンバーの間では、全体としての配列同一性が低い。また、上記の2つのモチーフは、金属との結合のための残基も含む。大部分のクピンは、鉄、亜鉛、マンガン、銅、ニッケルまたはカドミウムなどの二価の陽イオンに結合する金属結合タンパク質である。金属は通常、反応機構において直接的に、または少なくとも基質との相互作用を介して、酵素反応に関与する。
さらなる態様では、本発明は、少なくとも10%の、好ましくは少なくとも20%の、より好ましくは少なくとも50%の変換率で不斉性のβ−ニトロアルコール反応を触媒することが可能なクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
さらなる態様では、本発明は、クピン−ニトロアルドラーゼであって、図1Aの保存されたバレルドメインを含むクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
さらなる態様では、本発明は、クピン−ニトロアルドラーゼであって、PFAM accession CL0029を有するクピンスーパーファミリーの保存されたバレルドメインを含むクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
さらなる態様では、本発明は、クピン−ニトロアルドラーゼであって、PFAM accession PF07883を有するクピン2ファミリーの保存されたバレルドメインを含むクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
さらなる態様では、本発明は、クピン−ニトロアルドラーゼであって、SCOP accession 51182を有するRmlC様クピンスーパーファミリーに属するクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
別の態様では、本発明は、クピン−ニトロアルドラーゼであって、InterProタンパク質ファミリーデータベースのRmlC様ゼリーロールフォールド(IPR014710)を含むクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
別の態様では、本発明は、クピン−ニトロアルドラーゼであって、InterProタンパク質ファミリーデータベースのRmlC様クピンドメイン(IPR011051)を含むクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
別の態様では、本発明は、クピン−ニトロアルドラーゼであって、InterProタンパク質ファミリーデータベースのクピン2保存バレルドメイン(IPR013096)を含むクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
本発明のさらなる態様は、組換えクピン−ニトロアルドラーゼである、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼである。
本発明のさらなる態様は、少なくとも1つ、具体的には少なくとも2つ、具体的には少なくとも3つ、具体的には少なくとも4つ、具体的には少なくとも5つまたは6つ以上のアミノ酸の改変を含む、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼである。
本発明によれば、「改変」なる用語は、少なくとも1つのアミノ酸の欠失または置換または挿入を意味する。具体的には、改変は1アミノ酸の置換である。
本発明の特定の実施形態において、クピン−ニトロアルドラーゼは、1つ、2つまたは3つのアミノ酸置換を含む。
本発明の実施形態によれば、野生型配列のアミノ酸を置換するために任意のアミノ酸を選択できる。
置換アミノ酸は、アルギニン、リジン、ヒスチジンおよびスレオニンから選択される。具体的には、上記の置換アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジンまたはスレオニンである。
さらなる態様では、本発明は、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼであって、そのアミノ酸配列がそれぞれの野生型酵素と少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、または少なくとも98%同一であるクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
さらなる態様では、本発明は、配列番号1、配列番号3の番号付けに従った位置40、42および/または110(図1B)のうちのいずれか1箇所で改変されている、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
さらなる態様では、本発明は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9または配列番号10の番号付けに従った位置40、42および/または110(図1B)のうちのいずれか1箇所で改変されている、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
本発明の実施形態によれば、位置40、42および/または110のうちのいずれかの箇所の改変はアミノ酸置換である。
さらなる実施形態によれば、本発明のクピン−ニトロアルドラーゼ変異体は、保存されたバレルドメインの位置40、42および110のうちのいずれかの箇所に1つ、2つまたは3つの置換を含む。
さらなる態様では、本発明は、配列番号2(GtHNLmut)または配列番号4(AcHNLmut)を有する、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
さらなる実施形態によれば、クピン−ニトロアルドラーゼ変異体は、配列番号1、配列番号3、または配列番号5〜10の番号付けに従ったA40HまたはA40Rである。
さらなる実施形態によれば、クピン−ニトロアルドラーゼ変異体は、配列番号1または配列番号3または配列番号5〜10の番号付けに従ったV42TまたはQ110Hである。
さらなる実施形態によれば、クピン−ニトロアルドラーゼ変異体は、配列番号1または配列番号3または配列番号5〜10の番号付けに従ったA40H V42Tである。
特定の実施形態によれば、クピン−ニトロアルドラーゼ変異体は、配列番号1または配列番号3または配列番号5〜10の番号付けに従ったA40H V42T Q110Hである。
さらなる態様では、本発明は、一般式:
(X1)(X2)(X3)(X4)F(X5)PGAR(X6)(X7)WH(X8)HP(X9)G
のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関し、式中、
X1はA、V、L、F、Y、M、S、T、G、H、N、KまたはR残基であり、好ましくはAまたはNであり;
X2は任意のアミノ酸であり、好ましくはS、H、A、またはTであり;
X3はV、A、I、C、M、H、またはT残基であり、好ましくはVであり;
X4は任意のアミノ酸であり、好ましくはTまたはRであり;
X5は任意のアミノ酸であり、好ましくはEであり;
X6はT、SまたはN残基であり、好ましくはTであり;
X7は任意のアミノ酸であり、好ましくはAであり;
X8はT、S、またはI残基であり、好ましくはTであり;
X9は任意のアミノ酸であり、好ましくはLであり;
位置X1またはX3のうちの少なくとも一方はH、K、RまたはT残基により置換されている。
さらなる態様では、本発明は、一般式:
(X1)(X2)(X3)(X4)F(X5)PGAR(X6)(X7)WH(X8)HP(X9)G
のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関し、式中、
X1はA、V、L、F、Y、M、S、H、G、N、KまたはR残基であり、好ましくはAまたはNであり;
X2は任意のアミノ酸であり、好ましくはS、H、A、またはTであり;
X3はV、A、I、C、M、またはT残基であり、好ましくはVであり;
X4は任意のアミノ酸であり、好ましくはTまたはRであり;
X5は任意のアミノ酸であり、好ましくはEであり;
X6はT、SまたはN残基であり、好ましくはTであり;
X7は任意のアミノ酸であり、好ましくはAであり;
X8はT、S、またはI残基であり、好ましくはTであり;
X9は任意のアミノ酸であり、好ましくはLであり;
位置X1またはX3のうちの少なくとも一方はH、K、RまたはT残基により置換されている。
さらなる態様では、本発明は、一般式:
(X1)(X2)(X3)(X4)F(X5)PGAR(X6)(X7)WH(X8)HP(X9)G
のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関し、式中、
X1はA、V、L、F、Y、M、S、T、G、N、KまたはR残基であり、好ましくはAまたはNであり;
X2は任意のアミノ酸であり、好ましくはS、H、A、またはTであり;
X3はV、A、I、C、M、またはH残基であり、好ましくはVであり;
X4は任意のアミノ酸であり、好ましくはTまたはRであり;
X5は任意のアミノ酸であり、好ましくはEであり;
X6はT、SまたはN残基であり、好ましくはTであり;
X7は任意のアミノ酸であり、好ましくはAであり;
X8はT、S、またはI残基であり、好ましくはTであり;
X9は任意のアミノ酸であり、好ましくはLであり;
位置X1またはX3のうちの少なくとも一方はH、K、RまたはT残基により置換されている。
さらなる態様では、本発明は、一般式:
(X1)(X2)(X3)(X4)F(X5)PGAR(X6)(X7)WH(X8)HP(X9)G
のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関し、式中、
X1はA、V、L、F、Y、M、S、G、N、KまたはR残基であり、好ましくはAまたはNであり;
X2は任意のアミノ酸であり、好ましくはS、H、A、またはTであり;
X3はV、A、I、C、またはM残基であり、好ましくはVであり;
X4は任意のアミノ酸であり、好ましくはTまたはRであり;
X5は任意のアミノ酸であり、好ましくはEであり;
X6はT、SまたはN残基であり、好ましくはTであり;
X7は任意のアミノ酸であり、好ましくはAであり;
X8はT、S、またはI残基であり、好ましくはTであり;
X9は任意のアミノ酸であり、好ましくはLであり;
位置X1またはX3のうちの少なくとも一方はH、K、RまたはT残基により置換されている。
さらなる態様では、本発明は、一般式:
(X1)(X2)(X3)(X4)FEPGARTAWHTHPLG
のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関し、式中、
X1はA、V、L、F、Y、M、S、T、G、H、K、NまたはR残基であり、好ましくはAまたはNであり;
X2は任意のアミノ酸であり、好ましくはS、H、A、またはTであり;
X3はV、A、I、C、M、H、またはT残基であり、好ましくはVであり;
X4は任意のアミノ酸であり、好ましくはTまたはRであり;
位置X1またはX3のうちの少なくとも一方はH、K、RまたはT残基により置換されている。
さらなる態様では、本発明は、一般式:
(X1)(X2)(X3)(X4)FEPGARTAWHTHPLG
のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関し、式中、
X1はA、V、L、F、Y、M、S、T、G、H、またはN残基であり、好ましくはAまたはNであり;
X2は任意のアミノ酸であり、好ましくはS、H、A、またはTであり;
X3はV、A、I、C、M、H、またはT残基であり、好ましくはVであり;
X4は任意のアミノ酸であり、好ましくはTまたはRであり;
位置X1またはX3のうちの少なくとも一方はH、K、RまたはT残基により置換されている。
さらなる態様では、本発明は、一般式:
(X1)(X2)(X3)(X4)FEPGARTAWHTHPLG
のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関し、式中、
X1はA、V、L、F、Y、M、S、T、G、H、K、NまたはR残基であり、好ましくはAまたはNであり;
X2は任意のアミノ酸であり、好ましくはS、H、A、またはTであり;
X3はVであり;
X4は任意のアミノ酸であり、好ましくはTまたはRであり;
位置X1またはX3のうちの少なくとも一方はH、K、RまたはT残基により置換されている。
さらなる態様では、本発明は、一般式:
(X1)(X2)(X3)(X4)FEPGARTAWHTHPLG
のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関し、式中、
X1はA、V、L、F、Y、M、S、G、N、KまたはR残基であり、好ましくはAまたはNであり;
X2は任意のアミノ酸であり、好ましくはS、H、A、またはTであり;
X3はV、A、I、C、またはM残基であり、好ましくはVであり;
X4は任意のアミノ酸であり、好ましくはTまたはRであり;
位置X1またはX3のうちの少なくとも一方はH、K、RまたはT残基により置換されている。
さらなる態様では、本発明は、一般式:
(X1)(X2)(X3)(X4)FEPGARTAWHTHPLG
のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関し、式中、
X1はAまたはN残基であり、好ましくはAであり;
X2は任意のアミノ酸であり、好ましくはS、H、A、またはTであり;
X3はV、A、I、C、またはM残基であり、好ましくはVであり;
X4は任意のアミノ酸であり、好ましくはTまたはRであり;
位置X1またはX3のうちの少なくとも一方はH、K、RまたはT残基により置換されている。
さらなる態様では、本発明は、一般式:
(X1)(X2)(X3)(X4)FEPGARTAWHTHPLG
のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼに関し、式中、
X1はAまたはN残基であり、好ましくはAであり;
X2は任意のアミノ酸であり、好ましくはS、H、A、またはTであり;
X3はVであり;
X4は任意のアミノ酸であり、好ましくはTまたはRであり;
位置X1またはX3のうちの少なくとも一方はH、K、RまたはT残基により置換されている。
さらなる態様では、本発明は、配列番号1もしくは3または配列番号5〜10の番号付けに従った以下の変異A40H、A40R、V42Tおよび/またはQ110Hのうちの1つ以上を有するクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
さらなる態様では、本発明は、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼをコードする単離されたポリ核酸分子に関する。
本発明のさらなる態様では、上記のようなクピン−ニトロアルドラーゼをコードする単離されたポリ核酸分子が提供される。ポリ核酸はDNAまたはRNAであってよい。従って、上記のような本発明のクピン−ニトロアルドラーゼをコードすることになる改変は、DNAまたはRNAレベルで行われる。この単離されたポリ核酸分子は、上記のような本発明のクピン−ニトロアルドラーゼの大規模生産に好適である。
さらなる態様では、本発明は、上記のような単離されたDNA分子を含むベクターに関する。
ベクターは、効率的なトランスフェクションならびに効率的なタンパク質発現に必要な調節要素を全て含む。このようなベクターは当技術分野において周知であり、この目的のために任意の好適なベクターを選択できる。
本発明のさらなる態様は、上記のような本発明のベクターでトランスフェクトされている組換え非ヒト細胞に関する。細胞のトランスフェクションおよび組換え細胞の培養は、当技術分野において周知のように実施できる。このような組換え細胞ならびにそれらに由来する任意の子孫細胞は上記ベクターを含む。従って、ベクターに依存して連続的または活性化時に本発明のクピン−ニトロアルドラーゼタンパク質を発現する細胞株が提供される。
さらなる態様では、本発明は、上記のような組換え細胞を培養することによって得られる培養物に関する。
組換え細胞は、金属イオンの存在下で、好ましくは鉄またはマンガンの存在下で、培養されてよい。
さらなる態様では、本発明は、上記のような培養物から回収されたクピン−ニトロアルドラーゼに関する。具体的には、タンパク質は、細胞を破砕して上清からタンパク質を回収することによって単離され得る。
さらなる態様では、本発明は、クピン−ニトロアルドラーゼを生産するための方法であって、上記のような培養物からクピン−ニトロアルドラーゼを回収することを含む方法に関する。細胞培養物からの上記単離または精製は、当技術分野において公知の方法によって実施できる。具体的には、アフィニティークロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーを使用して上記タンパク質を単離できる。
さらなる態様では、本発明は、当技術分野で公知の方法によって緩衝液中の金属塩(例えばFeCl、MnCl、CoCl、NiCl、CuClまたはZnCl)の溶液と共にインキュベートされている、上記のように生産されたクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
さらなる態様では、本発明は、当技術分野で公知の方法によって金属がインビトロでマンガン、鉄、ニッケル、コバルト、銅または亜鉛に交換されている、上記のように生産されたクピン−ニトロアルドラーゼに関する。
実施例
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために記載されているが、決して本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、また、限定するものと解釈されるべきでない。実施例には、従来の方法(例えばクローニング、トランスフェクション、および微生物宿主細胞におけるタンパク質の過剰発現のための方法の基本的態様)の詳細な説明は含まれない。このような方法は当業者に周知である。
実施例1:タンパク質生産
Acidobacterium capsulatum ATCC 51196由来の仮想タンパク質(Uniprot C1F951, Ward et al., Appl. Environ. Microbiol (2009) 75, 2046)をコードする遺伝子(gene ID:NC_012483)は、E.coli用にコドン最適化して注文した(GeneArt, Life Technologies, Carlsbad, CA, USA)(以下ではAcHNLと呼称)。コード領域はNdeI制限部位とHindIII制限部位に挟まれており、これらの制限部位は、発現ベクターpET26b(+)(Novagen, Merck KGaA, Darmstadt,ドイツ)に上記遺伝子をクローニングするために使用された。
E.coli用にコドン最適化されている、Granulicella tundricula由来のGtHNLに相当するAciX9_0562(gene ID:322434201)をコードする配列は、以前に発現ベクターpET26b(+)にクローニングされていた(Hajnal et al., FEBS J. 2013 280(22):5815−28)。GtHNLは、半合理的なタンパク質設計(より詳細には部位飽和変異導入(site−saturation mutagenesis))のためのテンプレートとして使用された。変異A40H、V42TおよびQ110Hは、改善した変異体をもたらした。部位特異的変異導入によって位置A40、V42およびQ110における最良のアミノ酸交換を組み合わせた。その後、位置A40、V42およびQ110における同一のアミノ酸交換を部位特異的変異導入によってAcHNLの配列にも導入した。
発現宿主としてE.coli BL21−Gold(DE3)を使用した(Stratagene, La Jolla, CA, USA)。硫酸カナマイシン(終濃度40mg/L)を添加したLB(溶原ブロス、Lennox)培地(Carl Roth GmbH, Karlsruhe,ドイツ)中で細胞を増殖させた。OD600が約0.8の培養物に0.5mMのIPTG(イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド)を添加することにより組換えタンパク質の発現を開始させ、25℃にて20時間、培養を続けた。全ての酵素は、マンガンが発現培地中に存在する状態で産生させた。必ず、100μMのMnClを誘導と同時に添加した。細胞を回収して、冷緩衝液(50mMリン酸カリウム緩衝液、pH6.0)中に再懸濁し、氷上で冷却しながら3分間を2回の超音波処理(Branson Sonifier S−250、80%負荷サイクルおよび出力制御7に設定)により破砕した。細胞ライセートを50,000gで1時間遠心分離して、破砕されていない細胞および不溶性物質を除去した。無細胞ライセートを0.45μmのシリンジフィルターでろ過し、必要であれば、Vivaspin 20 Centrifugal Filter Units(分子量カットオフ10,000Da;Sartorius)を使用して所望の濃度まで濃縮した。ライセートを等分し、さらなる使用まで凍結した。タンパク質の発現は、標準的なSDS−PAGEによって観察した。AcHNLおよびGtHNL、ならびにアミノ酸置換A40H、A40R、V42TおよびQ110Hを含むGtHNLおよびAcHNLの変異体は、E.coli BL21−Gold(DE3)において可溶性タンパク質として高産生量で発現し、総可溶性タンパク質の50%超という産生量に達した。
精製手順については、GtHNLに関して公開されたプロトコルを、陰イオン交換クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーを適用して改変した(Hajnal et al., 2013)。要するに、緩衝液A(50mM Bis−Tris/HCl、pH6.8または6.9、50mM NaCl)中で細胞を超音波処理で溶解させ、清澄化したライセートをQSepharose陰イオン交換カラム(HiTrapTM Q FF 5 mL, GE Healthcare, Uppsala,スウェーデン)にロードした。10%の緩衝液B(50mM Bis−Tris/HCl、pH6.6、1M NaCl)でタンパク質を溶出させた。50mM NaPi、pH7.0、100mM NaClで予め平衡化したSuperdex 75 HiLoad 16/600カラム(GE Healthcare, Uppsala,スウェーデン)上でサイズ排除クロマトグラフィーを実施した。目的のタンパク質を含む画分をプールし、PD−10カラム(GE Healthcare, Uppsala,スウェーデン)上で緩衝液を50mM KPi、pH6.0に交換した。Bradfordアッセイ(Biorad, Hercules, CA, USA)を用いて無細胞ライセートのタンパク質濃度を通常通りに決定した。Protparamを用いてアミノ酸配列に基づいて算出した吸光係数を適用し、280nmにてNanodrop分光光度計(モデル2000c, Peqlab, Erlangen,ドイツ)を用いて精製タンパク質の濃度を決定した。タンパク質は、さらなる使用まで−80℃または−20℃で保存した。取り込みの成功は、誘導結合プラズマ/発光分光法(ICP/OES)によって確認した。
実施例2:二相系におけるニトロアルドール反応
有機相としてのMTBEに溶解させたベンズアルデヒドおよびニトロメタンならびにpH6のリン酸緩衝液中の無細胞ライセートまたは精製酵素を含む水相からなる二相系を用いて、これらの酵素がβ−ニトロアルコールの合成を触媒する能力を調べた。
内部標準(0.2% 1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、IS)、ベンズアルデヒド(20μmol、BA)およびニトロメタン(1mmol、NM)を含む有機溶媒(500μl MTBE)を、無細胞ライセート(約50%でクピン−ニトロアルドラーゼを含む約0.5〜3mgの総タンパク質)または精製酵素(約0.3〜1.5mg)のいずれかを含むpH6の50mM リン酸カリウム緩衝液500μlと混合した。陰性対照として、酵素を含まない無細胞ライセート、MnCl非存在下で発現させたAcHNL、またはMnClを含む、および含まない緩衝液のみ、のいずれかを使用した。合成遺伝子として注文してpET28a(+)ベクターにクローニングしたAtHNLであってAsanoのグループ(Fuhshuku et al., 2011)により説明されるように発現および精製したAtHNL(2〜3mg)を陽性対照として使用した。低pHにおけるAtHNLの安定性の問題を理由にAtHNLをpH6.5で適用したことに留意されたい。エッペンドルフサーモミキサー(Eppendorf Thermomixer)装置において30℃で1200rpmにて2〜24時間、混合物をインキュベートした。13,000rpmで5分間の遠心分離によって反応を停止させた。450μlのHPLC溶媒混合物で有機相50μLを希釈し、キラルHPLCによって分析した。
ベンズアルデヒドおよびニトロメタンを用いた最初のクピン−ニトロアルドラーゼにより触媒されるヘンリー反応の結果を図2および表1に示す。
AcHNLは、6時間のインキュベーションの後に19%という変換率および88%というeeを示した。GtHNL−A40H/V42T/Q110Hは、ほぼ70%という変換率および97%というeeを達成した。清澄化したライセートまたは精製酵素を適用した場合に差異は観察されなかった。従って、精製酵素は、適用された反応条件下で安定であるが、他方では、良好〜優秀なeeの値を得るために精製される必要はない。全ての陰性対照(MnCl非存在下で発現させたAcHNLならびに緩衝液中に適用されたMnClまたは酵素を含まないE.coliのライセート中に適用されたMnCl)は不活性であった。従って、クピンタンパク質およびマンガンの両方がニトロアルドール活性のために組み合わせで必要である。
より少ない量の酵素でも良好な変換率を達成できるかどうか、より短い反応時間を適用してeeをさらに改善できるかどうか、および、より長いインキュベーション時間の間にeeが安定であるかどうかをさらに調べるために、GtHNL−A40H/V42T/Q110Hを用いた反応を繰り返した(図3および表2)。
AtHNLについての文献(Fuhshuku et al., 2011)で報告された値および我々によっても決定された値と比較すると、新たに見出された上記のGtHNL三重変異体は、AtHNLよりも活性が高く、より高いエナンチオ選択性を示す。
重要なことに、AtHNLとは対照的に、GtHNL−A40H/V42T/Q110Hを用いれば、より長いインキュベーション時間によってエナンチオ選択性をほとんど失わずにより高い収率を達成できる。
AcHNLおよびGtHNLの単一変異体を、それらがニトロアルドール反応を触媒する能力について試験した。
実施例3:ベンズアルデヒドへのニトロエタンの付加
精製したAcHNL、AcHNL−A40H、AcHNL−A40R、AcHNL−A40H/V42T/Q110H、GtHNL−A40RおよびGtHNL−A40H/V42T/Q110Hを、それらがニトロアルドール反応においてニトロメタンの代わりにニトロエタンを利用する能力について試験した。ニトロメタンの代わりに1mmolのニトロエタンを使用したことを除き、実施例2に記載されるように反応を実施した。
ベンズアルデヒドおよびニトロエタンと共に精製酵素を用いた最初のクピン−ニトロアルドラーゼにより触媒されるヘンリー反応の結果を図4および表4に示す。
ベンズアルデヒドへのニトロエタンの付加は同時に2つの新たな立体中心をもたらし、2−ニトロ−1−フェニルプロパノールのジアステレオマー混合物が得られた。2時間の反応時間の後、AcHNLのアンチ/シン比率は2:1であり、アンチ異性体のエナンチオマー過剰率は85%であった。従って、生成物の混合物は、予想される主要生成物である(1R,2S)−2−ニトロ−1−フェニルプロパノールを約60%含む。単一変異体AcHNL−A40Hでは、(1R,2S)−2−ニトロ−1−フェニルプロパノールの割合が70%までさらに増加した。
実施例4:様々なアルデヒドへのニトロメタンの付加
2−Cl−ベンズアルデヒド、ヘキサナールまたはシクロヘキサンカルボキシアルデヒドのいずれかをベンズアルデヒドの代わりに使用するように改変して、実施例2に記載されるように反応を実施した。
反応条件:TBMEおよび50mM KPi(pH6.0、1:1)からなる二相系中のアルデヒド(20mM)およびニトロメタン(1M)、反応容積1mL、30℃、1200rpm、24時間。精製酵素(2.5mg)を使用した。
実施例5:ニトロアルドール反応の金属依存性
GtHNL−A40H/V42T/Q110Hから金属イオンを除去するために、(実施例1に記載されるような)精製タンパク質を、100mMの酢酸ナトリウムおよび150mM NaCl(pH5.5)中の20mM 2,4−ピリジンジカルボン酸一水和物(PDCA)に対して50時間透析し、その後に、20mM Tris/HCl(pH 7.5)に対して20時間透析した。得られたアポタンパク質を10倍モル過剰のFeCl、MnCl、CoCl、NiClまたはZnClのいずれか共に室温で2.5時間インキュベートした。PD−10カラムを使用して、結合していない金属を除去し、および緩衝液を50mM KPi(pH6.0)に交換した。金属分析をICP−OESにより実施した。
実施例2に記載されるように反応を実施した。
実施例6:ニトロアルドール活性を有する他のクピン−HNL
配列番号1および3に対して58〜84%の配列同一性を有する、いくつかの他のクピン(Wiedner, R.; et al., Comp. Struct. Biotechnol. J., (2014), 10, 58)を、それらがニトロアルドール反応を触媒する能力について試験した。タンパク質の発現および無細胞ライセートの調製は、実施例1に記載されるように実施した。
実施例2に記載されるように反応を実施した。
実施例7:水溶液系におけるニトロアルドール反応
pH6の50mMリン酸カリウム緩衝液500μl中のベンズアルデヒド5μmol、ニトロメタン0.3mmol、および総ライセートタンパク質(約50%でクピン−ニトロアルドラーゼを含む)0.375mgまたは精製タンパク質0.5mgからなる単相の水溶液系を用いて、クピン−ニトロアルドラーゼがβ−ニトロアルコールの合成を触媒する能力を調べた。30℃で1200rpmにて1時間のインキュベーションの後、0.2%の内部標準(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、IS)を含む500μLのMTBEで抽出することにより反応を停止させた。450μLのHPLC溶媒混合物で有機相50μLを希釈し、キラルHPLCによって分析した。
ベンズアルデヒドおよびニトロメタンを用いた水溶液系における最初のクピン−ニトロアルドラーゼにより触媒されるヘンリー反応の結果を表9に示す。

Claims (10)

  1. β−ニトロアルコール化合物を作製するための方法であって、ニトロアルカン化合物およびクピン−ニトロアルドラーゼの存在下でアルデヒド化合物またはケトン化合物を対応するβ−ニトロアルコール化合物に変換し、
    前記クピン−ニトロアルドラーゼが、一般式:
    (X1)(X2)(X3)(X4)F(X5)PGAR(X6)(X7)WH(X8)HP(X9)G
    のアミノ酸配列を含み、
    式中、
    X1はA、V、L、F、Y、M、S、T、G、H、N、KまたはR残基であり;
    X2は任意のアミノ酸であり;
    X3はV、A、I、C、M、H、またはT残基であり;
    X4は任意のアミノ酸であり;
    X5は任意のアミノ酸であり;
    X6はT、SまたはN残基であり;
    X7は任意のアミノ酸であり;
    X8はT、S、またはI残基であり;
    X9は任意のアミノ酸であり;
    位置X1またはX3のうちの少なくとも一方はH、K、RまたはT残基により置換され、
    前記クピン−ニトロアルドラーゼが、配列番号1または3のアミノ酸の番号付けに従った以下の変異:A40H、A40R、V42TおよびQ110Hのうちの1つ以上を有し、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、銅または亜鉛を含む、方法。
  2. クピン−ニトロアルドラーゼの存在下で式Iの化合物を式IIの化合物と反応させて式IIIのβ−ニトロアルコール化合物を得る、請求項1に記載の方法であって、

    式中、
    およびRは、互いに独立して、H、C1〜20アルキル、C3〜10シクロアルキル、C4〜20シクロアルキルアルキル、C6〜14アリール、C7〜20アリールアルキル、3〜14員のヘテロシクロアルキル、4〜20員のヘテロシクロアルキルアルキル、5〜20員のヘテロアリールまたは6〜20員のヘテロアリールアルキルであり、これらは任意選択で1つ以上のRにより置換されており、
    およびRは、互いに独立して、Hまたは、任意選択で1つ以上のRにより置換されたC1〜20アルキルであり、
    は、それぞれ独立して、H、ハロゲン、−CF、−OR、−NR、−(CHCOOR、−(CHC(=O)R、−(CHCONR、C1〜20アルキル、C2〜20アルケニル、またはC2〜20アルキニルであり、
    は、それぞれ独立して、Hまたは、任意選択で置換されたC1〜20アルキル、C2〜20アルケニルもしくはC2〜20アルキニルであり、
    nは、0、1、2または3である、
    方法。
  3. 単相系もしくは二相系またはエマルジョンにおいて反応が実施される、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記β−ニトロアルコール化合物が少なくとも55%のエナンチオマー過剰率(e.e.)で得られる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記β−ニトロアルコール化合物が少なくとも10%の変換率で得られる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 一般式:
    (X1)(X2)(X3)(X4)F(X5)PGAR(X6)(X7)WH(X8)HP(X9)G
    のアミノ酸配列を含むことを特徴とするクピン−ニトロアルドラーゼ変異体であって、式中、
    X1はA、V、L、F、Y、M、S、T、G、H、N、K、またはR残基であり;
    X2は任意のアミノ酸であり;
    X3はV、A、I、C、M、H、またはT残基であり;
    X4は任意のアミノ酸であり;
    X5は任意のアミノ酸であり;
    X6はT、SまたはN残基であり;
    X7は任意のアミノ酸であり;
    X8はT、S、またはI残基であり;
    X9は任意のアミノ酸であり;
    位置X1またはX3のうちの少なくとも一方はH、K、RまたはT残基により置換され、
    配列番号1または3のアミノ酸の番号付けに従った以下の変異:A40H、A40R、V42TおよびQ110Hのうちの1つ以上を有し、
    マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、銅または亜鉛を含む、クピン−ニトロアルドラーゼ変異体。
  7. 請求項6に記載のクピン−ニトロアルドラーゼ変異体をコードする、単離されたポリ核酸分子。
  8. 請求項7の単離されたポリ核酸分子を含むベクター。
  9. 請求項8のベクターを導入することにより得られる組換え非ヒト細胞。
  10. 請求項9の組換え非ヒト細胞を培養することにより得られる培養物。
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