JP6668722B2 - コハク酸類の製造方法 - Google Patents
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Description
無水マレイン酸はポリマーの原料やγ−ブチロラクトン(GBL)、ブタンジオール(BDO)及びテトラヒドロフラン(THF)の原料として有用であり、工業的にも様々な方法で多量に製造されている。
上記反応ガスからの無水マレイン酸の分離・回収は、例えば反応ガスを水や有機溶媒などの吸収剤と接触させて無水マレイン酸あるいはマレイン酸として液中に捕集する方法が知られている(例えば特許文献1)。その際、マレイン酸の一部が異性化してフマル酸になると、最終生成物である無水マレイン酸の収率が低下するだけでなく、溶解性に乏しく融点の高いフマル酸が配管中で析出し、閉塞を引き起こす等の問題があった。
また、マレイン酸を原料とするコハク酸の製造方法としては、マレイン酸水溶液中の一酸化炭素濃度を制御して高い収率でコハク酸を得る方法が提案されているが、この方法では高圧の水素と長時間の反応が必要であった(例えば特許文献3)。
即ち、本発明の要旨は、以下の[1]〜[5]に存する。
[1] 無水マレイン酸の製造時に副生するフマル酸類を水素添加してコハク酸類を製造する方法であって、上記副生フマル酸類に対してバナジウム原子換算で0.2質量ppm以上、200質量ppm以下のバナジウム化合物の存在下で、該副生フマル酸類を水素添加するコハク酸類の製造方法。
[2] 前記副生フマル酸類が、無水マレイン酸製造工程において、無水マレイン酸の生成混合物から水又は有機溶媒を主成分とする吸収剤を用いて無水マレイン酸を分離・回収した後の該吸収剤に含まれるものである上記[1]に記載のコハク酸類の製造方法。
[3] 前記副生フマル酸類中の無水マレイン酸とマレイン酸との合計含有量が2質量%以下である上記[1]又は[2]に記載のコハク酸類の製造方法。
[4] 前記副生フマル酸類の水素添加の際に、リン化合物を、前記バナジウム化合物中のバナジウム1グラム原子あたり、リン原子が0.01グラム原子以上、100グラム原子以下になるようにリン化合物を含有させる前記[1]〜[3]のいずれかに記載のコハク酸類の製造方法。
[5] 前記副生フマル酸類は、前記無水マレイン酸の生成混合物から、無水マレイン酸の製造に際して使用された触媒類を予め除去されたものである上記[1]〜[4]のいずれかに記載のコハク酸類の製造方法。
1−1.無水マレイン酸製造工程
本発明の対象となる無水マレイン酸の工業的な製造方法は、原料炭化水素と酸素含有ガスとを触媒の存在下に反応させる反応工程、反応ガスから無水マレイン酸を回収する無水マレイン酸回収工程、回収した無水マレイン酸を精製する精製工程からなる。
原料炭化水素としては、n−ブタン、1−ブテン、2−ブテン、1,3−ブタジエン、n−ペンタン、イソペンタン、1−ペンテン、2−ペンテン、ベンゼンなど炭素数4以上、炭素数6以下の原料が挙げられる。好ましくはn−ブタン、1−ブテン、ベンゼンであり、特に好ましくはn−ブタンである。
この反応に用いられる触媒としては、バナジウム化合物及びリン化合物を主要構成元素とする複合酸化物を活性成分とするもの(以下、この触媒を「バナジウム−リン系複合酸化物触媒」と略称することがある)が好ましい。この触媒は、例えば米国特許第4,520,127号、同第4,472,527号、特開平7−68179号等に記載された方法で製造することができる。
反応生成ガスには、目的物である無水マレイン酸の他に未反応の原料炭化水素や酸素、反応で副生する一酸化炭素、二酸化炭素及び水等が様々な濃度で含有されている。
以下、ガスフィルターについてより詳細に説明する。ガスフィルターは継続して使用していると堆積した粒子等により圧力損失が大きくなるため、一定の時間間隔で、又は所定の圧力損失に達した場合に、堆積した粒子をフィルター面から払い落す必要がある。このための方法としては、例えば、機械的に振動を与える方法や、間欠的に圧縮空気をフィルター面に吹き付ける方法(パルスエア法)などがある。フィルターが捕捉する触媒の粒径は装置や設備運転上の条件から決定すればよく、特に限定されないが、粒子径の下限は通常0.01μm、好ましくは0.1μmである。捕捉する粒子径の下限が小さ過ぎると、フィルターの前後で差圧が高くなったり、フィルターが目詰まりを起こしやすくなったりして運転操作が煩雑になることがある。
に、珪藻土やセルロースなどのろ過助剤を使用すると、触媒の分離が容易となる場合がある。
上記のようにして得られた反応生成ガスからの無水マレイン酸の分離・回収は、反応ガスを冷却して無水マレイン酸を凝縮させる方法、反応ガスを水や有機溶媒などの吸収剤と接触させて無水マレイン酸を捕集する方法等の方法を特に制限することなく用いることができる。
このような吸収剤を用いて無水マレイン酸を捕集・回収する方法も、一般的に用いられている方法を特に制限することなく用いることができる。
図1のバナジウム−リン系複合酸化物を活性成分とする触媒を内部に有する反応器(3)に原料の炭化水素(1)と酸素含有ガス(2)が導入される。反応器(3)で生成した無水マレイン酸を含むガス(4)は吸収剤(6)を用いて無水マレイン酸を吸収する吸収塔(5)に導かれる。
無水マレイン酸を吸収した吸収剤(7)は、分離塔(8)において、吸収剤と無水マレイン酸との沸点差を利用して無水マレイン酸と分離され、製品である粗無水マレイン酸(9)と大部分の無水マレイン酸を分離除去した吸収剤(10)が抜き出される。無水マレイン酸回収・除去後の吸収剤は、吸収塔(5)に循環して使用される。
本発明の対象となる副生フマル酸類は、上記無水マレイン酸製造プロセスにおいて副生物として存在するフマル酸類である。ここで副生物とは、同一の原料からなるプロセスにおいて無水マレイン酸よりも少量である生成物のことをいう。例えば、無水マレイン酸とフマル酸を併産するプロセスにおいても、無水マレイン酸の製造量よりフマル酸の製造量が少ない場合は副生フマル酸と呼ぶことができる。
吸収塔(5)における無水マレイン酸の吸収は0℃以上、300℃以下で行われる。好ましくは10℃以上、200℃以下、更に好ましくは20℃以上、180℃以下である。吸収温度が低すぎると目的成分である無水マレイン酸の吸収が不十分となりやすく、一方、吸収温度が高すぎると無水マレイン酸の熱分解などを引き起こす可能性が高くなるので、いずれも好ましくない。吸収処理の後に得られる吸収剤中の無水マレイン酸及びマレイン酸(以下両者をまとめて「無水マレイン酸類」と記すことがある)の合計濃度は1質量%以上、70質量%以下である。好ましくは5質量%以上、60質量%以下で、更に好ましくは10質量%以上、50質量%以下である。無水マレイン酸類の合計濃度が1質量%未満では、吸収剤から無水マレイン酸類の回収時に大量の吸収剤を処理する必要があり経済的に好ましくない。無水マレイン酸類の合計濃度が上記の範囲を超えて高くなると、無水マレイン酸類が析出する事があるため、配管の閉塞などを引き起こす恐れがある。
イン酸類より一般に高いので、無水マレイン酸類を低沸点成分として吸収剤から回収することが好ましい。
なお、水のような無水マレイン酸類よりも低沸点の吸収剤を用いた場合でも、吸収剤の一部を無水マレイン酸類とともに蒸発させ、留出分中の無水マレイン酸類と吸収剤とを蒸留などの方法で分離することができる。
上記の通り、副生フマル酸類は、沸点が無水マレイン酸類より通常高いため、無水マレイン酸類を低沸点成分として吸収剤から回収した後の蒸留残分として回収されるが、このような副生フマル酸類は流動性に乏しいことが多いので、吸収剤と混合した状態で回収し、続く水素化工程に供することが好ましい。また、必要に応じて溶媒(吸収剤と同じでも異なっていても構わない)を添加して水素化工程に供してもよい。
また、副生フマル酸類にはフマル酸塩(酸性エステル塩を含む)が含まれていてもよく、このようなフマル酸塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等のフマル酸塩や酸性フマル酸エステル塩が例示でき、上記同様水素化反応における反応性の点で、フマル酸ジアンモニウム塩やフマル酸ジナトリウム塩が好ましい。
2−1.バナジウム化合物の特性と反応への効果
本発明方法においては、副生フマル酸類の水素添加反応(本明細書中で「水素化反応」又は単に「水素化」と記すことがある)がバナジウム原子換算で0.2質量ppm以上200質量ppm以下のバナジウム化合物の存在下で実施される。なお、この「バナジウム化合物」には単体のバナジウム(金属バナジウム)も含まれる。好ましいバナジウム化合物としては、フマル酸や水素との相互作用の効率の点から、イオン又は金属塩であるのが好ましい。
ではないが、次のように推定される。即ち、一般にバナジウム化合物はルイス酸触媒としてフマル酸類と容易に相互作用して、フマル酸類の脱水縮合や分解反応を促進し、水素化の際のコハク酸収率を低下させることが多い。その一方、バナジウム化合物はフマル酸類の炭素−炭素二重結合と相互作用し、その水素化反応を促進する効果も有している。
本発明方法で上記特定のバナジウム化合物を所定の濃度で用いることにより、バナジウム化合物によるフマル酸類の脱水縮合や分解は抑止される一方、フマル酸類の炭素−炭素二重結合は水素化されやすくなるため、高収率でコハク酸類を得ることができると考えられる。
無水マレイン酸の製造プロセスにおいては、触媒の損失を低減し、かつ後続の工程での触媒による悪影響を防止するため、上記のよう反応ガスと触媒成分とが分離される。例えば、流動床反応器等を用いた場合に反応混合物に混入して飛散した触媒はサイクロン及び/又はフィルターによってほぼ完全に捕捉・回収される。
この濃度が高すぎると、バナジウム化合物による副生フマル酸類の脱水縮合及び副生フマル酸類の分解反応が支配的になり、コハク酸類の収率が低下する傾向となる。一方、バナジウム化合物濃度が過度に低いと、副生フマル酸類の炭素−炭素二重結合が安定化して、水素化されにくくなるので、やはりコハク酸収率が低下する。
3−1.固体触媒
フマル酸類の水素化方法は周知であり、例えば、特表2009−537592号公報、特開平9−31011号公報等に記載された方法で水素化することができる。
このような水素化触媒としては、周期律表の第8〜11族に属する遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものが好ましい。第8〜11族に属する遷移金属としては、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、パラジウム、ニッケル、白金、銅、銀、金などが挙げられ、触媒活性の面でルテニウム、銅、パラジウムが好ましく、特にパラジウムが好ましい。触媒の形態としては固体触媒でも錯体触媒でもよいが、水素化後の触媒の分離・回収が容易な固体触媒の方が好ましい。
リカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、チタニア、チタニア−アルミナ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム等が好ましく、これらを組み合わせたものでもよい。担体の形状は、粉末、顆粒、ペレットなど、特に限定されない。担体を使用することにより、水素化原料混合物中の着色成分や有機不純物を同時に吸着除去でき、効率的で好ましい。金属の担持量は、通常、担体の0.1〜10重量%である。好ましい担持触媒としては、例えば、アルミナ担持パラジウム、シリカ担持パラジウム、炭素担持パラジウム、アルミナ担持ルテニウム、炭素担持ルテニウム、アルミナ担持ルテニウム、チタニア担持パラジウム、炭素担持プラチナ、アルミナ担持プラチナ等が挙げられる。
上記副生フマル酸類を含む水素化原料混合物中にリン化合物が存在していると、水素化の促進、バナジウム化合物の安定化など多くの点において好ましい。リン化合物は単独であっても2種類以上を併用しても構わない。また、それらのイオンや塩として存在して構わないが、化合物としての安定性の観点から無機リン化合物が好ましい。本発明の無機リン化合物の具体例としては、ホスフィン、亜リン酸、リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸等の縮合リン酸、三リン酸カリウム、三リン酸ナトリウム、四リン酸カリウム、五リン酸ナトリウム、六リン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロ亜リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム十水和物、ピロ亜リン酸ナトリウム等の無機リン酸塩、エチルホスホネート、プロピルホスホネート、ヒドロキシメチルホスホネート、ジ(ポリオキシエチレン)ヒドロキシメチルホスホネート、メチルホスホノアセテート、エチルメチルホスホノアセテート、メチルエチルホスホノアセテート、エチルエチルホスホノアセテート、プロピルジメチルホスホノアセテート、メチルジエチルホスホノアセテート、トリエチルホスホノアセテート等のホスホネート類が挙げられる。好ましくは、亜リン酸、リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸である。
本発明においてリン酸等のリン化合物を添加することで水素化の効率が向上する理由は明らかではないが、次のように推定される。一般にリン酸は供与可能な不対電子を有しており、リン酸がバナジウム化合物に電子を供与することでバナジウム化合物が安定化される。このため、バナジウム化合物が反応混合物中で凝集したり、不活性化したりすることなくフマル酸類の水素化に寄与すると考えられる。
i)水素化原料混合物中に流入するリン化合物を増加させる、
ii)水素化原料混合物中のリン化合物を蒸留によって濃縮する、
iii)水素化原料混合物中にリン化合物を添加する、
等の方法を例示することができる。
上記の副生フマル酸類を含む水素化原料混合物中にリン化合物が所定量存在することで
、水素化反応を促進させ、高い収率でコハク酸を得ることが可能となる。
なお、リン化合物中のリン原子換算濃度はICP発光分光法やICP質量分析法等を用いて測定することができる。
本発明方法の副生フマル酸類の水素化は、前記の吸収剤をそのまま溶媒として実施することができるが、該吸収剤以外の種々の溶媒を、反応の目的や進行を阻害しない範囲で使用することもできる。
このような溶媒としては、例えば、水、ジエチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、フェノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トルイル酸などのカルボン酸類;酢酸メチル、酢酸ブチル、安息香酸ベンジル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチルなどのエステル類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ジクロロメタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルスルホン等のスルホン類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ガンマブチロラクトン、カプロラクトン等のラクトン類;テトラグライム、トリグライム等のポリエーテル類;ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート等の炭酸エステル類等が挙げられ、好ましくは水、芳香族類、アルコール類、ポリエーテル類である。特に好ましくは水、キシレン、トリグライム、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチルである。
本発明方法において行われる水素化反応方法としては連続法、回分法のいずれの方法も用いることができる。その際の反応温度は、通常50〜250℃、好ましくは70〜200℃、より好ましくは80℃〜150℃である。反応温度が50℃未満のように低くなると副生フマル酸類の生成反応速度が低下するだけではなく、副生フマル酸類が析出する可能性がある。一方、反応温度が250℃を超えて高くなると、水素化反応よりも副生フマル酸類の脱水縮合反応が速く進行し、縮合物による閉塞などの問題が発生しやすくなる。
本発明は、図2に示すような無水マレイン酸吸収工程、無水マレイン酸分離工程、水素化工程、及び循環工程からなる連続反応プロセスに好適に適用される。
この場合、本発明方法で規定される水素化工程におけるバナジウム化合物濃度を所定の範囲内に安定して維持するために、コハク酸類を含む反応生成物を分離した後の循環工程においてバナジウム化合物を含む循環液の一部を系外へ排出した(図示せず)上で、残る一部を無水マレイン酸吸収工程に循環させたり、前記の方法により、水素化工程におけるバナジウム化合物濃度を制御することができる。
無水マレイン酸及び副生フマル酸類を含む混合物は、無水マレイン酸吸収工程で吸収剤中に溶解・吸収される。吸収工程の温度は通常0℃以上、300℃以下、好ましくは10℃以上、200℃以下、より好ましくは20℃以上、180℃以下である。吸収温度が0℃未満のように低すぎると目的成分である無水マレイン酸の吸収が不十分となりやすく、一方吸収温度が300℃を超えて高すぎると無水マレイン酸の熱分解など起きやすくなるため好ましくない。
無水マレイン酸分離工程においては、上記吸収剤及び副生フマル酸類から無水マレイン酸が分離・回収される。
副生フマル酸類は無水マレイン酸より高沸点であるため、無水マレイン酸を低沸点成分として分離することが好ましいが、この時、吸収工程において用いた吸収剤の沸点と無水マレイン酸の沸点との関係で好ましい分離手順は若干異なる。
一方、吸収剤の沸点が、例えば水のように無水マレイン酸よりも低い場合は、吸収工程で得られる溶液から、無水マレイン酸と吸収剤の全部あるいは一部を蒸発させて副生フマル酸類を分離した上で、更にその後の工程で無水マレイン酸と吸収剤を蒸留・分離する等の方法によって無水マレイン酸を分離することができる。
無水マレイン酸分離工程において回収した吸収剤には副生フマル酸類が含まれている。この副生フマル酸類を水素化する際に、本発明方法を用いてコハク酸類を製造する。
水素化工程に供する原料としては、無水マレイン酸分離工程で得られた出口液をそのまま使用してもよく、また前記のようにリン化合物を添加してもよく、更に必要に応じて前記各種の溶媒を水素化工程の原料中に加えることもできる。
なお、反応条件及び原料水素の供給方法については前項(3−4)で説明した通りである。
本発明の目的生成物であるコハク酸類は、上記水素化工程の反応生成物に含まれて得られ、この反応生成物から、溶媒への溶解度差を利用した晶析法や、融点の差を利用した保温濾過法などによって、コハク酸類を分離・精製することができる。
具体的には、ろ過によりコハク酸類を含有する反応生成物から水素化触媒を分離し、次いで冷却等を行ってコハク酸類を晶析させ、生成したコハク酸の結晶をろ別する、等の操作が例示できる。
を用いることが好ましい。ろ過の際、得られたコハク酸のケーキにろ液が残留していると得られるコハク酸の純度が低下するので、コハク酸のケーキからの溶剤分離を十分行うか、またはコハク酸のケーキを水で洗浄することが好ましい。
コハク酸のケーキを分離した後の溶媒は、次の処理に再使用することができ、また溶媒が前記吸収剤と同じ物質である場合は無水マレイン酸含有ガスの吸収工程に使用することもできる。
このようにして得られたコハク酸類は、種々の化成品の反応中間体やポリブチレンサクシネートなどの熱可塑性樹脂の原料モノマー、コハク酸ジ(2−エチルヘキシル)等の可塑剤、あるいは各種食品添加剤として使用できる。
前記のように反応生成物(コハク酸類)を分離した後の混合物は循環工程に供される。この混合物(以下「循環液」と記すことがある)中には、未反応のフマル酸類、バナジウム化合物、リン化合物、及び吸収剤等の有用物が含まれているので、これを循環工程を経て無水マレイン酸吸収工程に供給することが好ましい。
なお、この場合循環液中のバナジウム化合物も循環してプロセス内に蓄積することとなるため、水素化工程におけるバナジウム化合物濃度を本発明で規定する範囲内とするためには、通常、前記バナジウム化合物を含む循環液の少なくとも一部を系外へ排出(パージ)することが必要となる。こうしたバナジウム化合物の系外への排出方法は特に限定されず、例えば、循環液の一部を分離して焼却する方法等を用いることができる。
1.原材料
フマル酸:試薬特級(和光純薬工業(株)製)
リン酸:(和光純薬工業(株)製)
ピロリン酸ジバナジル:(日揮触媒化成(株)製)
粗フマル酸:無水マレイン酸の製造設備において、プロセス流量が6500kg/hrの水に含まれる55質量%のマレイン酸から3500kg/hrの無水マレイン酸を回収した残液を採取し、その残液100gにピロリン酸ジバナジル(日揮触媒化成(株)製)を0.002g添加したもの
1%パラジウム担持活性炭:(エヌイーケムキャット(株)製)
トリグライム:試薬一級(和光純薬工業(株)製、試薬一級)
N、O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド:試薬特級(東京化成工業(株)製)
[ガスクロマトグラフィー分析]
ガスクロマトグラフィー用のサンプルはあらかじめ等量のN、O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミドと混合し、2時間静置して前処理(トリメチルシリル化処理)を行った。
ガスクロマトグラフィー分析装置((株)島津製作所製2014型)にて、島津ジーエルシー(株)製BPX−5カラム(微極性)を用い、フマル酸、コハク酸を分析した。
ICP発光分光計(サーモサイエンティフィック社製iCAP6500Duo、ペルチェ冷却有機溶媒導入システム)にて、有機溶媒直接導入法によりV(バナジウム)分析及びP(リン)分析を行った。
<参考例1>
内容量1Lのオートクレーブ(材質:SUS316)中に、フマル酸を15.6g(5.0質量%)、1%パラジウム担持活性炭触媒を3.0g(Pd:100質量ppm)、及び溶媒としてトリグライムを281.2g仕込んだ。反応混合物中のバナジウム化合物のバナジウム原子換算濃度は0.2質量ppm未満であった。
反応終了後、得られた反応生成液を採取し、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析した結果、コハク酸の収率は63.0%であった。反応結果を表1に示す。
上記参考例1のフマル酸の代わりに、オートクレーブ中にバナジウム化合物とリン酸を含む粗フマル酸混合物(フマル酸に対するバナジウム原子濃度:4質量ppm、バナジウム1グラムに対するリン原子濃度:6.6グラム原子)を15.6g使用したこと以外は参考例1と同様に水素化反応を実施し、得られた反応生成物の分析を行った。コハク酸の収率は65.4%であった。反応結果を表1に示す。
上記参考例1のフマル酸の代わりに、オートクレーブ中にバナジウム化合物とリン酸を含む粗フマル酸混合物(フマル酸に対するバナジウム原子濃度:10質量ppm、バナジウム1グラムに対するリン原子濃度:8.2グラム原子)を15.6g使用したこと以外
は参考例1と同様に水素化反応を実施し、得られた反応生成物の分析を行った。コハク酸の収率は74.0%であった。反応結果を表1に示す。
上記参考例1のフマル酸の代わりに、オートクレーブ中にバナジウム化合物とリン酸を含む粗フマル酸混合物(フマル酸に対するバナジウム原子濃度:2質量ppm、バナジウム1グラムに対するリン原子濃度:3.3グラム原子)を15.6g使用したこと以外は参考例1と同様に水素化反応を実施し、得られた反応生成物の分析を行った。コハク酸の収率は68.0%であった。反応結果を表1に示す。
上記参考例1のフマル酸混合物にピロリン酸ジバナジルを1g添加した(フマル酸に対するバナジウム原子濃度:230質量ppm、バナジウム1グラムに対するリン原子濃度:2.6グラム原子)こと以外は参考例1と同様に水素化反応を実施し、得られた反応生成物の分析を行った。コハク酸の収率は37.3%であった。反応結果を表1に示す。
トリグライム溶液10gにフマル酸を0.5g、ピロリン酸ジバナジルを0.0001g(フマル酸に対するバナジウム原子濃度:50質量ppm、バナジウム1グラムに対するリン原子濃度:6.6グラム原子)を添加し、150℃で2時間撹拌して得られた溶液中のフマル酸量をGCにより測定したところ、溶液中のフマル酸の39質量%が縮合し高沸物化した。コハク酸の生成量は最大で61質量%と見積もられる。
分析結果を表2に示す。
トリグライム溶液にピロリン酸ジバナジルを添加しなかったこと以外は、実施例4と同様にしてGC測定した。分析結果を表2に示す。原料となるフマル酸類が反応中に縮合して62%が消費されたため、このようなフマル酸類混合物を水素化原料と使用してもコハク酸の生成量は最大でも38%にしかならないと推測される。
トリグライム溶液にリン酸5000質量ppm添加した(フマル酸に対するバナジウム原子濃度:0.2質量ppm未満、バナジウム1グラムに対するリン原子濃度:40000グラム原子以上)こと以外は、実施例4と同様にしてGC測定した。分析結果を表2に
示す。上記比較例2と同様、原料フマル酸類が反応中に67%が消費され、このようなフマル酸類混合物を水素化原料と使用してもコハク酸の生成量はせいぜい33%にしかならないと思われる。
無水マレイン酸製造において流動床反応器より流出した反応ガス(ガス流量13,650Nm3/hr、無水マレイン酸流量13kmol/hr、ピロリン酸ジバナジル1.0kg/hr、270℃、0.58kg/cm2・ゲージ圧)をガスフィルター(日本ポール(株)製Dynalloy XU4、150φ×2000L)に通過させた後、反応ガスをジブチルフタレート(11400kg/hr)に吸収させたところ、得られた溶液にはバナジウムは検出されなかった。
(1)表1に示された実施例1〜3と比較例1とを対比すると、水素化反応時のバナジウム化合物濃度を本願所定の範囲内とした実施例においては、コハク酸収率が参考例(バナジウム化合物を含まない原料)と同レベルの収率となっている一方、この濃度が本願範囲を超える比較例1ではコハク酸収率が著しく低下していることが判る。
(2)表2の実施例4ではバナジウム化合物濃度が本願で規定する範囲内であり、加熱後もコハク酸類に転化可能なフマル酸の縮合が抑えられている一方、この濃度が本願範囲を超える比較例2、3では加熱後にフマル酸の縮合が顕著に進行してしまっている。
上記の結果より、本願範囲を逸脱する範囲ではコハク酸の収率が低下することは明らかで、本発明の効果が十分確認できる。
2:酸素含有ガスのフローを示す
3:バナジウム−リン系複合酸化物触媒を内部に有する反応器を示す
4:反応器(3)で生成した無水マレイン酸を含むガスのフローを示す
5:精製した無水マレイン酸を吸収剤に吸収する吸収塔を示す。
6:吸収剤の循環・供給フローを示す。
7:無水マレイン酸を吸収した吸収剤のフローを示す。
8:吸収剤と無水マレイン酸とを分離する分離塔を示す。
9:粗無水マレイン酸のフローを示す。
10:大部分の無水マレイン酸を分離除去した吸収剤の循環フローを示す。
Claims (5)
- 無水マレイン酸の製造時に副生するフマル酸類(以下「副生フマル酸類」と略記する)を水素添加してコハク酸類を製造する方法であって、上記副生フマル酸類に対してバナジウム原子換算で1質量ppm以上、50質量ppm以下のバナジウム化合物の存在下で、該副生フマル酸類を水素添加することを特徴とする、コハク酸類の製造方法。
- 前記副生フマル酸類が、無水マレイン酸製造工程において、無水マレイン酸の生成混合物から水又は有機溶媒を主成分とする吸収剤を用いて無水マレイン酸を分離・回収した後の該吸収剤に含まれるものであることを特徴とする請求項1に記載のコハク酸類の製造方法。
- 前記副生フマル酸類中の無水マレイン酸とマレイン酸との合計含有量が2質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコハク酸類の製造方法。
- 前記副生フマル酸類の水素添加の際に、リン化合物を、前記バナジウム化合物中のバナジウム1グラム原子あたり、リン原子が0.01グラム原子以上、100グラム原子以下になるようにリン化合物を含有させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコハク酸類の製造方法。
- 前記副生フマル酸類は、前記無水マレイン酸の生成混合物から、無水マレイン酸の製造に際して使用された触媒類が予め除去されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のコハク酸類の製造方法。
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