JP6667242B2 - 培養オーランチオキトリウム属藻類の奇数脂肪酸含有量を増大させる培地 - Google Patents

培養オーランチオキトリウム属藻類の奇数脂肪酸含有量を増大させる培地 Download PDF

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本発明は、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属藻類の培養に用いる改質培地の製造方法、当該培地を用いたオーランチオキトリウム属藻類の培養方法、及び当該培地中でオーランチオキトリウム属藻類を培養することによる奇数脂肪酸を主要成分として含有するトリグリセリドを製造する方法に関する。
生物細胞の物質生産過程を利用して様々な有機物を取得する技術は、近年、地球温暖化又は埋蔵資源の枯渇等の問題から注目を集めている。特に、微生物が産生する炭化水素やトリアシルグリセロール等のオイル又は多糖類は、食料と競合せず、大量培養が可能であることから、工業的利用の期待が高く、微生物から様々なバイオ燃料やその他の有用成分を獲得する技術の開発が進められている。しかしながら、工業的に微生物の大量培養を行うには、有用な微生物の選択及び微生物株の樹立、培養設備の構築及び運転コストや、培養に必要な資源の確保等、様々な技術上の問題点を解決しなければならない。
斯かる物質生産に利用される微生物の例として、ラビリンチュラ類(Labyrinthulomycetes)に属する藻類が挙げられる。ラビリンチュラ類藻類は様々な炭化水素や油脂を生産するものが報告されており、微生物を利用した物質生産技術の有望な材料として注目されている。例えば物質生産性ラビリンチュラ類藻類として、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)等の高度不飽和脂肪酸を多量に蓄積する性質を有するもの(SR21株、特許文献1)や、スクワレンを生産するものが知られている。(非特許文献1、2、3)。
特に、ラビリンチュラ類藻類のオーランチオキトリウム属藻類は、汽水域に生息する従属栄養性藻類で、水中の栄養分を同化して脂質を生産し、細胞内に蓄積する特徴を有する。発明者らは、スクワレンを生産するオーランチオキトリウム属藻類tsukuba−3株を同定し、その生産効率が、ボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)等の従来から産業利用が研究されている炭化水素生産藻類よりも格段に優れていることを見出した(非特許文献4)。
オーランチキトリウム属藻類は、2つの脂肪酸合成経路を有することが知られている(非特許文献5)。一方は、飽和脂肪酸を合成する脂肪酸シンターゼ経路であり、他方は、デサチュラーゼの作用を受けずに高度不飽和脂肪酸を合成するポリケチドシンターゼ経路である。これらの両経路を利用して、オーランチキトリウム属藻類は、パルミチン酸(C16)、ペンタデカン酸(C15)、ドコサヘキサエン酸(DHA)を合成することが出来る(非特許文献6)。
哺乳類や鳥類の体内の脂肪酸は、炭素数が偶数であるものがほとんどであるが、炭素数が奇数の脂肪酸も僅かに存在する。このような奇数脂肪酸は、発見当初は異常な脂肪酸として毒性があるのではないかと思われていた。1975年の奇数脂肪酸に関する総説では、奇数脂肪酸は偶数脂肪酸と同様にβ‐酸化によりエネルギー源となるもので毒性は無い旨、ヒトおよび家畜と家禽の体脂肪、筋肉、臓器、乳および卵に0.1〜数%程度の奇数脂肪酸が含まれており、臓器により組成が異なる旨、奇数脂肪酸は体外から取り込まれたものだけでなく、体内で生合成され得る旨が記載されている(非特許文献7)。更に1993年になって、Adachi らは、ペンタデカノイルモノグリセリドが毛母細胞のATPレベルを上昇させ、細胞を活性化させることを報告し(非特許文献8)、この知見に基づき育毛剤が開発され、製品化された。
脂肪酸は体内で酸化され、炭素数2個(C2)のアセチル−CoAとなってクエン酸サイクル(TCAサイクル)に入り、補酵素NAD (ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)をNADH2やFADH2に還元し、電子伝達系によりATPを産生する。ここで、炭素数が偶数の脂肪酸は、全ての炭素鎖がC2のアセチル−CoAに分解されてTCAサイクルに利用されるが、奇数脂肪酸の場合は、分解の最後にC3のプロピオニル−CoAが残る。
プロピオニル−CoAは、C4のメチルマロニル−CoAに変換され、ビタミンB12を補酵素とする酵素メチルマロニル−CoAムターゼによって、TCAサイクルの一員であるスクシニル−CoAに変換される。TCAサイクルに導入されたスクシニル−CoAは、酵素スクシニルCoA シンセターゼによってコハク酸になる。この反応で、シグナル伝達物質であるGTP(グアノシン三リン酸)が生産される。TCAサイクルにおいて、GTPが生産されるのはこの反応だけである。なお、TCAサイクルにおいてATPは生産されない。
GTPはG−タンパク質と呼ばれる膜タンパク質に結合してシグナルを伝達する。GTPが結合した活性型Gタンパク質は、細胞の様々な生理機能を活性化させる重要な役割を担っている。したがって、奇数脂肪酸は、C2のアセチル−CoAから出発するATP生産に加えて、C3のプロピオニル−CoAから出発する細胞の生理機能活性化にも関与することが示唆される。
TCAサイクルを構成する分子は他の様々な代謝経路にも関与するものであるため、構成分子のいずれかが不足してTCAサイクルが充分に機能しなくなくなる場合がある。そのような場合、奇数脂肪酸が上記のように分解されて生成されたスクシニル−CoAがTCAサイクルに補充される(この現象を補充反応(anaplerosis)と呼ぶ)。また、逆にTCAサイクルの分子が過剰に存在する場合は、いずれかの構成分子を抜き取る反応(cataplerotic reaction)が生じ、TCAサイクルが正常に保たれる。奇数脂肪酸は、プロピオニル−CoAを経由してスクシニル−CoAを補充することにより、TCAサイクルを正常に維持する機能を担ってもいるのである(非特許文献9及び10)。
TCAサイクルが正常に機能し、スクシニル−CoAの補充が必要でない場合、プロピオニル−CoAから生成するメチルマロニル−CoAはスクシニル−CoAに変換されず、ロイシン、バリン、イソロイシンといったメチル側鎖を有するアミノ酸(BCA)の生成に用いられる。これらのBCAは筋肉を構成するアミノ酸であると同時に、激しい運動などでTCAサイクルの分子が不足した場合にスクシニル−CoA を補充する分子でもある(非特許文献11)。激しい運動で血中のBCAが急激に減少するのも、上記の補充反応によりBCAがスクシニル−CoAの補充に消費されるためであると考えられる。また、運動後に起こる筋肉痛は筋繊維の断裂によるものであるが、BCAの補充により筋肉痛が緩和されるという研究もある。運動時の血中BCA濃度の減少は年齢が高くなるほど大きくなるが、これはTCAサイクルの機能が低下しているためと考えられる。従って、奇数脂肪酸を摂取してTCAサイクルの機能を維持することにより、運動時や運動後の筋肉の損傷により起こる筋肉痛を軽減出来ることが示唆される(非特許文献12〜14)。
以上のように、奇数脂肪酸は細胞の生理機能の改善や健康増進に有益な効果を有することが期待されているため、今後の産業上の需要が増大することが予想される。
上述のように、炭素数が奇数の脂肪酸は動物性脂肪中に僅かしか存在しないため、動物性脂肪からこれを抽出するのは甚だ非効率である。一方、奇数脂肪酸は、これまで商業的価値が充分に認識されていなかったため、これを工業的生産過程で量産する技術を開発する取組みは現在のところ充分な検討がなされていない。
上記のようにオーランチオキトリウム属藻類は奇数脂肪酸であるペンタデカン酸(C15)を合成することが出来る。従来の脂肪酸供給源に僅かしか存在せず取得が困難であった奇数脂肪酸を培養藻類を利用して取得する技術は他に類を見ないものであり、医薬又は機能性食品としての優秀な潜在的価値が見込まれる奇数脂肪酸を高品質かつ良好な効率で生産する技術として、将来の奇数脂肪酸の需要増大に備える上で極めて有望である。
:特許第2764572号公報
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本発明は、オーランチオキトリウム属藻類の培養に用いる改質培地の製造方法、及び当該培地中でオーランチオキトリウム属藻類を培養する工程を含む、奇数脂肪酸を主要成分として含有するトリグリセリドを製造する方法を提供することを課題とする。
発明者らは、培養オーランチオキトリウム属藻類から奇数脂肪酸を生産する技術を確立すべく、鋭意研究を行っており、当該藻類の培地に対する様々な処理が、培養藻類の奇数脂肪酸の生産効率にもたらす影響を検討した。
試行錯誤の結果、発明者らは、強酸処理した細胞抽出物を添加して調製した藻類培養培地中でオーランチオキトリウム属藻類を培養したところ、当該処理をしない細胞抽出物を添加した場合と比較して、奇数脂肪酸の生産量が劇的に増大することを見出した。
更に驚くべきことに、発明者らは、強酸処理した細胞抽出物を添加して調製した藻類培養培地に少量の無処理の細胞抽出物を添加してオーランチオキトリウム属藻類を培養したところ、奇数脂肪酸の生産量が更に増大することを見出した。
斯かる新規かつ驚異的な知見を利用して、本発明者らは本発明を完成するに至った。
従って、本願は、以下の発明を提供する。
1.培養オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属藻類を培養するための培地の製造方法であって、以下の工程:
(1)細胞抽出物を強酸で処理し、これを加熱する工程;
(2)工程(1)の抽出物を中和する工程;
(3)工程(2)の抽出物を基礎として細胞培養培地を調製する工程;
を含む、当該製造方法。
2.前記細胞培養培地を用いてオーランチオキトリウム属藻類を培養すると、当該藻類が蓄積する全脂肪酸中の奇数脂肪酸含有率が増大する、項目1に記載の製造方法。
3.前記工程(3)の細胞培養培地に、工程(1)及び(2)の処理をしていない0.01〜1重量%の細胞抽出物を添加する、項目1又は2のいずれかに記載の製造方法。
4.前記工程(1)の加熱が、60〜180℃で10〜180分間行われる、項目1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
5.前記工程(1)の強酸処理が、塩酸、硫酸、リン酸、及び硝酸からなる群から選択される酸の添加によりなされる、項目1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
6.前記工程(2)の中和がアルカリの添加によりなされる、項目1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
7.前記工程(1)の強酸処理がプロトン型(H型)強酸性陽イオン交換樹脂の添加であり、前記工程(2)の中和が、当該強酸性陽イオン交換樹脂の除去である、項目1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
8.前記細胞抽出物が、培養細胞に対して十分な主要栄養素を供給することが出来る限りにおいて、原核生物、細菌、真菌、原生動物、無脊椎動物又は脊椎動物から選択される生物種の細胞に由来する、項目1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
9.前記細胞抽出物が魚肉抽出物又は酵母抽出物である、項目8に記載の製造方法。
10.項目1〜9のいずれか1項に記載の製造方法により製造した培地を用いてオーランチオキトリウム属藻類を培養して細胞内にトリグリセリドを蓄積させる工程を含む、オーランチオキトリウム属藻類を培養する方法。
11.前記培養したオーランチオキトリウム属藻類が蓄積する全脂肪酸中の奇数脂肪酸含有率が増大する、項目10に記載の培養方法。
12.前記培養工程を経てオーランチオキトリウム属藻類が蓄積する全脂肪酸中の奇数脂肪酸の含有率が5〜40重量%である、項目10又は11のいずれかに記載の培養方法。
13.奇数脂肪酸を主要成分として含有するトリグリセリドを製造する方法であって、以下の工程:
(1)項目10〜12のいずれか1項に記載の方法を用いて培養したオーランチオキトリウム属藻類を提供する工程;
(2)当該オーランチオキトリウム属藻類からトリグリセリド成分を抽出する工程;及び
(3)抽出したトリグリセリドを精製する工程;
を含む、当該製造方法。
14.項目1〜9のいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造された培養オーランチオキトリウム属藻類を培養するための培地。
微小藻類を培養する培地には、通常、主要栄養素の供給源として、タンパク質の酵素分解産物や、酵母エキスや魚肉を酵素によりエキス化したもの(魚肉抽出物)等の細胞抽出物を添加する。細胞抽出物はタンパク質の酵素分解産物と比較して安価で、かつ細胞由来の様々な微量栄養素に富むため、微生物の工業的スケールでの大量培養における利用に適している。しかしながら、細胞抽出物をベースに調製した培地中でオーランチオキトリウム属藻類を培養すると、当該培養藻類が生産するトリグリセリド中の奇数脂肪酸の割合が著しく低下するという問題があった。
強酸で処理した細胞抽出物を含有する本発明に係る藻類培養培地は、細胞抽出物をベースとして用いた場合の上記問題点を克服し、強酸処理という簡便な手順によって、細胞抽出物ベースの培地を奇数脂肪酸を取得するための藻類培養に適したものに改質出来ることを示すものである。
また、発明者らは、当該強酸で前処理した細胞抽出物で調製した藻類培養培地に少量の無処理の細胞抽出物を添加することにより、培養オーランチオキトリウム属藻類の奇数脂肪酸の生産量が更に増大することを見出した。斯かる効果は全く予想外のものであり、本発明に係る培地の有用性を更に向上させる。
図1は、強酸処理した細胞抽出物として魚肉抽出物を用いた細胞培養培地に添加する未処理酵母抽出物の量と、オーランチオキトリウムSp.SA−96株のバイオマス及び蓄積した全脂肪酸中の奇数脂肪酸の割合との間の関係のグラフを示す。
図2は、強酸処理した細胞抽出物に代えてBacto(商標)Tryptoneを用いた細胞培養培地に添加する未処理酵母抽出物の量と、オーランチオキトリウムSp.SA−96株のバイオマス及び蓄積した全脂肪酸中の奇数脂肪酸の割合との間の関係のグラフを示す。
図3は、強酸処理した細胞抽出物として魚肉抽出物を用いた細胞培養培地に添加する未処理酵母抽出物の量と、オーランチオキトリウムSp.SA−96株、NB−6−3株、及びNIES−3737株の蓄積した全脂肪酸中の奇数脂肪酸の割合との間の関係のグラフを示す。
本発明の培地は、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属藻類を培養するためのものである。オーランチオキトリウム属は、ラビリンチュラ類(Labyrinthulomycetes)に属する従属栄養性のヤブレツボカビ目藻類であり、2007年に本多らによってシゾキトリウムから分離・独立した新属である。当該藻類は、細胞内に多量の脂質を大量に蓄積することを特徴としている。ラビリンチュラ類は卵菌類に属する原生生物であるが、系統的には褐藻類や珪藻類等の不等毛植物と近縁であり、不等毛植物とともにストラメノパイル系統を構成する。ラビリンチュラ類藻類は、ω−3高度不飽和脂肪酸を多く含有することが知られていた。
本発明の培地によって培養されるオーランチオキトリウム属藻類は、所望のトリグリセリドを生産する能力の優れた株を用いるのが好ましい。そのような藻類株は、天然に採取及び分離されたものであっても、突然変異誘導及びスクリーニングを経てクローニングされたものであっても、あるいは遺伝子組み換え技術を利用して樹立されたものであってもよい。例えば、オーランチオキトリウムSp.SA‐96株、NIES−3737株、又はオーランチオキトリウムNB6−3株は、奇数脂肪酸のペンタデカン酸(PDA)を含有するトリグリセリドと、高度不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やドコサペンタエン酸(DPA)を含有するトリグリセリドを細胞内に大量に蓄積する性質を有するため、本発明の培地によって培養される藻類株、又は改変の出発株として、特に好ましい。
上記オーランチオキトリウム属藻類の培養は、当該技術分野において確立された方法で行われる。即ち、通常の維持培養は、適切に成分調製した培地に藻類を播種し、定法に従い行われる。
オーランチオキトリウム属藻類を培養するための培地は、本質的に、塩分、炭素供給源及び窒素供給源を含有する。一般的に、微細藻類の培養には、いわゆるGTY培地(人工海水10−40g/L、D(+)グルコース20−100g/L、トリプトン10−60g/L、酵母抽出物5−40g/L)が用いられる。本発明に関する培地も、基本的にはこれらの3つの要素を組み合わせて構成される。
炭素源としてはグルコース、フルクトース、スクロース等の糖類がある。これらの炭素源を、例えば、培地1リットル当たり20〜120gの濃度で添加する。
オーランチオキトリウム属藻類は海洋性藻類であり、培地には適切な量の人工海水が添加される。好ましくは、人工海水は、最終的な培地の塩分濃度が海水(塩分濃度3.4%(w/v))の約10%(v/v)〜約100%(v/v)、例えば塩分濃度が約1.0〜3.0%(w/v)となるように添加される。
一般的に、微細藻類の培養培地には、グルタミン酸ナトリウム、尿素等の有機窒素、又は酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の無機窒素、又は酵母抽出物、コーンスチープリカー、ポリペプトン、ペプトン、トリプトン等の生物由来消化物等の、様々な窒素源が添加され得る。特に、オーランチオキトリウム属藻類の培養に用いる培地に添加する窒素源として、様々な動物の細胞から液体成分を抽出して得られる細胞抽出物が好んで用いられる。培養細胞産物を取得するために細胞を工業的スケールで大量培養しなければならない場合に、細胞由来のアミノ酸、核酸、ビタミン、ミネラル等の栄養素に富み、低コストで入手可能な細胞抽出物の利用は極めて有利である。
しかしながら、上記のように、細胞抽出物をベースに調製した培地を使用すると、培養藻類が生産するトリグリセリド中の奇数脂肪酸の割合が著しく低下してしまうため、目的とする細胞培養産物が奇数脂肪酸である場合、培地の窒素源として細胞抽出物を利用することが出来なかった。
従って、本発明において、強酸で処理した細胞抽出物を基礎として細胞培養培地が製造される。当該培地は、培養藻類が蓄積するトリグリセリド中の奇数脂肪酸の割合の著しい減少に悩まされることなく、奇数脂肪酸を培養細胞産物とするオーランチオキトリウム属藻類の培養に利用することが出来る。
本発明において培地製造に用いられる細胞抽出物として、培養細胞に対して十分な主要栄養素を供給することが出来る限りにおいて、原核生物、細菌、真菌、原生動物、無脊椎動物又は脊椎動物等、様々な生物に由来する任意の細胞抽出物が用いられる。酵母エキス、魚肉抽出物や家畜肉エキス、それらの酵素消化物等、細胞培養の添加物として通常利用されているものに加え、食料品、飼料、園芸用品、工業用品として調製された細胞抽出物、あるいは動物の死骸等の産業廃棄物であっても、本願培地の細胞抽出物として利用することが想定される。
上記のように細胞抽出物を含有する培地でオーランチオキトリウム属藻類を培養すると、当該培養藻類が生産するトリグリセリド中の奇数脂肪酸の割合が著しく低下してしまう。本発明において、斯かる現象は、細胞抽出物を強酸で処理することによって解消される。
本発明において、細胞抽出物を処理するため、塩酸、硫酸、リン酸、及び硝酸等の強酸が使用される。また、強酸添加に代えて、Dowex(登録商標)−50等、プロトン型(H型)の強酸性イオン交換樹脂が用いられてもよい。当該強酸又はイオン交換樹脂を適宜希釈して、細胞抽出物に添加する。
強酸による細胞抽出物の処理を促進するために、細胞抽出物は強酸処理に際して加熱処理される。加熱温度及び時間は、処理に供される細胞抽出物や強酸の種類に応じて選択され得る。下記実施例で示すように、当該加熱時間に応じて、得られた細胞抽出物を添加した培地で培養したオーランチオキトリウム属藻類の奇数脂肪酸生産効率が増大するが、一定時間以上の加熱で増大は一定になる。従って、好ましい態様において、当該加熱時間は、下記に例示するような、加熱時間対奇数脂肪酸生産効率の曲線を考慮して決定される。
加熱処理の終了後、当該細胞抽出物は中和処理される。強酸性イオン交換樹脂を添加して強酸処理を行っていた場合、中和処理に代えて当該イオン交換樹脂が分離除去される。中和処理は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等の強アルカリや、DEAEやアンバーライト等の陰イオン交換樹脂等の中和剤の添加により行われる。強酸処理に使用した酸の種類や量に応じて、適切な中和剤が選択される。好ましい態様において、強酸と中和剤に由来する成分が細胞抽出物から容易に除去されるように、当該反応において使用される強酸及び中和剤の種類や反応手順が検討される。例えば、強酸として濃硫酸を使用する場合、中和剤として炭酸カルシウムを使用すれば、中和反応によって分離が比較的容易な二酸化炭素と硫酸カルシウムが生成する。また、中和点まで炭酸カルシウムを添加すると未反応の炭酸カルシウムが細胞抽出物中に残留し、当該抽出物を添加して調製した培地の加熱殺菌時(121℃20分)に沈殿を生じるおそれがあるため、中和反応の途中まで炭酸カルシウムを用い、以後中和点まではNaOHを用いるのが好ましい。
以上のように強酸処理した細胞抽出物をベースとして、オーランチオキトリウム属藻類を培養する培地が調製される。特に好ましい態様において、当該培地に、上記強酸処理をしていない少量の細胞抽出物が更に添加される。
細胞抽出物の強酸処理は、細胞抽出物中に存在する奇数脂肪酸合成を阻害する因子を失活させるものであると考えられる。そのように処理した細胞抽出物を用いて調製した本発明の培地に、強酸処理しておらず活性の阻害因子が存在している筈の細胞抽出物を添加すると、当該活性の阻害因子が再び奇数脂肪酸生成を妨げることが予想される。しかしながら、当該予想に反し、下記に示すように、本発明の培地に未処理の細胞抽出物を少量添加することで、当該培地で培養したオーランチオキトリウム属藻類の奇数脂肪酸の生産効率が格段に増大する。
当該未処理の細胞抽出物は、本発明の培地に添加された強酸処理された細胞抽出物と同一のものであっても、異なるものであってもよい。当該未処理の細胞抽出物の添加量は細胞抽出物の種類や藻類株の生理活性等の様々な条件応じて当業者により調整され得るが、典型的には、0.01〜1重量%の濃度で培地中に存在する量が添加される。下記実施例で示すように、未処理細胞抽出物の添加量に応じて、調製した培地で培養したオーランチオキトリウム属藻類の奇数脂肪酸生産効率が変化する。典型的には、特定の量の未処理細胞抽出物を添加したところで生産効率がピークに達し、それ以上の量を添加すると生産効率が低下する。これは、未処理細胞抽出物中の奇数脂肪酸生成を阻害する因子の影響が大きくなるためと考えられる。従って、好ましい態様において、未処理細胞抽出物の添加量は、下記に例示するような、添加量対奇数脂肪酸生産効率の曲線を作成して、生産効率がピークとなる量が採用される。
当該培地は、調製後に適当な酸又は塩基を加えることにより適宜pHを調整できる。培地のpHは、pH2.0〜11.0、好ましくはpH3.0〜10.0、より好ましくはpH4.0〜9.0、より好ましくはpH4.5〜9.0であり、最も好ましくはpH6.5である。
本発明において、前記培地は、オーランチオキトリウム属藻類の培養に使用する前にオートクレーブ、ろ過滅菌や紫外線照射等により殺菌されてもよい。
本発明の培地を用いてなされるオーランチオキトリウム属藻類の培養は、培養温度5〜40℃、好ましくは10〜35℃、より好ましくは10〜30℃にて行われる。継代は、通常1〜10日間、好ましくは3〜7日間置きに行われる。培養は通気攪拌培養、振とう培養又は静置培養で行うことができるが、好ましくは通気攪拌培養又は振とう培養で培養する。
本発明の培地を用いて培養したオーランチオキトリウム属藻類が生産したトリグリセリド混合物は、当業者に既知の方法で抽出及び分析することができる。例えば、上記の通り藻類細胞を培養及び増殖させ、得られた培養物から遠心分離又は濾過等により回収したペレットを、凍結乾燥又は加温による乾燥等により乾燥させる。または、培養後の藻類細胞が懸濁した培地をそのままトリグリセリドの抽出ステップに用いてもよい。
得られた微生物の乾燥体、又は培養物から、有機溶媒を用いて所望のトリグリセリドを含有する脂質を抽出できる。抽出は、異なる有機溶媒を用いて複数回行ってもよい。有機溶媒としては、n−ヘキサン・エタノール混合溶媒、クロロホルム・メタノール混合溶媒、又はエタノール・ジエチルエーテル混合溶媒等の極性溶媒と弱極性溶媒の混合液を用いることができる。得られた抽出液は、当業者に既知の方法で精製される。例えば、シリカゲルや酸性白土を用い、極性脂質を吸着させて精製することができる。また、精製したトリグリセリドを、NMR、IR、ガスクロマトグラフィー、GC/MS等により分析する。
本発明の文脈において、「トリグリセリド」とは、CH(OOCR)CH(OOCR)CH(OOCR)という一般化学式を有する、3個の脂肪酸残基とグリセロールとのエステルであり、式中、OOCR、OOCR、およびOOCRは、各々、エステル結合した脂肪酸残基を表す。本発明において、奇数脂肪酸を主要成分として含有するトリグリセリドは、OOCR、OOCR、およびOOCRの1つ以上が奇数脂肪酸であるトリグリセリドを意味する。
本発明の文脈において、「脂肪酸」とは直鎖モノカルボン酸を指し、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、長鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸を含む。他に言及の無い限り、脂肪酸は、遊離脂肪酸に加えて金属塩、有機塩基との塩、トリ、ジ、およびモノグリセリドを含む脂肪酸とアルコールのエステルやアミドの形態のものを含む。
本発明の文脈において、「奇数脂肪酸」は、炭素数が奇数の炭素鎖を有する脂肪酸を意味し、C3プロピオン酸、C5吉草酸、C7エナント酸、C9ペラルゴン酸、C11ウンデカン酸、C13トリデカン酸、C15ペンタデカン酸、C17マルガリン酸、C19ノナデカン酸、C21ヘンイコシル酸、C23トリコシル酸が挙げられる。一方、上記奇数脂肪酸に該当しない炭素数が偶数の炭素鎖を有する脂肪酸を「偶数脂肪酸」と表記する。
オーランチオキトリウム属藻類が生産するトリグリセリド混合物が含有する、奇数脂肪酸を主要成分として含有するトリグリセリドは、OOCR、OOCR、およびOOCRのいずれも偶数脂肪酸ではない。このように、奇数脂肪酸と偶数脂肪酸が同一のトリグリセリドの枝に共存しないのは、オーランチキトリウム属藻類が、奇数脂肪酸トリグリセリド及び偶数脂肪酸トリグリセリドを別個の経路を用いて合成するためである。斯かる特徴を有するため、オーランチオキトリウム属藻類が生産されるトリグリセリド混合物は、奇数脂肪酸トリグリセリドと、偶数脂肪酸トリグリセリドとを、分離精製出来るという利点を有する。
本発明の培地を用いて培養したオーランチオキトリウム属藻類が生産するトリグリセリド混合物は、奇数脂肪酸を主要成分として含有するトリグリセリドを顕著に高い割合で含有する。好ましい態様において、当該トリグリセリド混合物は、抽出された混合物の重量に対して、奇数脂肪酸を主要成分として含有するトリグリセリドを、10〜50%、15〜45%、20〜40%、25〜35%含有する。
なお、理論に拘束されないが、本発明の方法において、細胞抽出物中に混在するビタミンB12が強酸処理によって失活することで、ビタミンB12を補酵素とする補充反応により奇数脂肪酸の材料となるプロピオニル−CoAが消費されるのを阻害することにより、奇数脂肪酸合成経路が優勢となると推察される。
実施例1.細胞抽出物の強酸処理の効果
最終濃度2%(w/v)の魚肉抽出物(マルハニチロ株式会社より提供、鰹節製造残渣のプロテアーゼ分解産物)20g、炭素源としてグルコース20g、および海水塩10gを添加して培養液を調製し、当該培地200mLを、500mLの坂口フラスコに分注した。こうして調製した培地を参照培地としてオーランチオキトリウム属藻類の培養に用いた。
一方、本発明の培養培地において、上記魚肉抽出物及び酵母抽出物に対して、以下のように強酸処理が実施される。
上記魚肉抽出物を蒸留水に溶解して20%(w/v)の溶液を調製し、これにそれぞれ3.3%(v/v)濃度の塩酸もしくは硫酸または16.6%(w/v)のイオン交換樹脂Dowex−50(交換基:スルフォン酸)を添加し、120℃で所定の時間加熱した。
上記加熱後、硫酸を添加した抽出物は、炭酸カルシウム及び水酸化ナトリウムでpHが6.0となるように中和滴定し、中和の過程で生成した硫酸カルシウムの沈殿は分離除去された。塩酸を添加した抽出物は、イオン交換樹脂アンバーライト(商標)を用いて中和した。Dowex−50を添加した抽出物は、当該樹脂を分離除去した。
最終濃度2%(w/v)のこれらの酸処理抽出物、最終濃度1%(w/v)グルコース、0.1%(w/v)未処理酵母抽出物および1%(w/v)海水塩を蒸留水に添加して、本発明の培養培地を調製した。
上記参照培地及び本発明の培養培地を121℃で20分間オートクレーブ滅菌後、オーランチオキトリウムSp.SA‐96株を接種し、25℃で2日間、100ストローク/minの条件で振盪培養した。当該培養細胞から定法に従いトリグリセリド成分を抽出し、その脂肪酸組成を分析した。各培地調製条件におけるオーランチオキトリウム属藻類の奇数脂肪酸含有率を下記表にまとめた。
Figure 0006667242
処理時間0分の欄には、参照培地を用いた培養の結果を記入している。強酸処理をしていない細胞抽出物を用いてSA−96株を培養した場合、奇数脂肪酸C15は殆ど生成しないことが観察される。一方、いずれの強酸で処理した場合も、加熱時間が長いほど奇数脂肪酸の生成量が増大している。その効果は概ね20分程で顕著に現れ、60分超でプラトーに達する。全奇数脂肪酸中のC15の割合は、いずれの強酸で処理した場合も、時間経過に拘らず概ね一定である。硫酸処理の場合よりも塩酸処理及びイオン交換樹脂処理の場合の方が全奇数脂肪酸中のC15の割合が僅かに低い。
また、上記魚肉抽出物に代えて等重量の酵母抽出物(Difco社製Yeast Extract)を使用した点、並びに強酸を硫酸に、及び加熱時間を60分に固定した点を除いて上記と同一の培地調製条件及び培養条件で取得されたオーランチオキトリウム属藻類が生産するトリグリセリド組成と、上記魚肉抽出物を用いた場合の当該組成とを比較し、下記表にまとめた。なお、酵母抽出物として上記Difco社製Yeast Extractに代えてAsahi food and Health社のミーストを使用して上記同一の実験を行ったところ、同様の結果が得られた。
Figure 0006667242
各培養藻類から取得されたトリグリセリドの脂肪酸組成として、C12、13、14、15、16、17、18、C22=5、C24=1及びC22=6の含有率(%)を示す。魚肉抽出物及び酵母抽出物のいずれを用いた場合も、抽出物を酸処理した場合に極めて類似した脂肪酸組成の変化を示す。すなわち、奇数脂肪酸C15の含有率が顕著に増大し、一方で無処理の場合に脂肪酸の大半を占めていた偶数脂肪酸C16の含有率が、酸処理有りの場合に顕著に減少する。これは、無処理のときはC16合成に大幅に傾いていた脂肪酸合成経路が、酸処理によってC16合成に切り替わったことを示唆する。また、酸処理した場合、C22=5及びC22=6の含有率も顕著に増大している。
実施例2.培養培地への未処理細胞抽出物添加の効果
上記のように強酸処理した魚肉抽出物に0.01、0.05、0.1、0.25、0.5、1及び5%(w/v)の上記未処理酵母抽出物を添加し、上記と同様に培養液を調製して、当該培養液中で培養したSA−96株のバイオマス(培養物1Lあたりの藻類乾燥重量(g/L))及び全脂肪酸中の奇数脂肪酸の比率(%)を測定した。
上記実験の結果を、図1に示す。強酸処理した魚肉抽出物を用いている系において、未処理酵母抽出物の添加量が0.1% 前後で奇数脂肪酸の割合が最大になり、それ以上は、添加量が増えるに従って減少した。バイオマス量も、未処理酵母抽出物の添加量が0.1% 以上で一定になった。Bacto(商標)Tryptoneを用いている系において、未処理酵母抽出物の添加量がおよそ0.5%で奇数脂肪酸の割合が最大になり、それ以上は、添加量が増えるに従って減少した。バイオマス量も、未処理酵母抽出物の添加量が0.5% 以上で概ね一定になった。
なお、上記未処理酵母抽出物の代わりに未処理の魚肉抽出物を添加した場合も同様の結果が得られた。
これらの結果から、強酸処理した魚肉抽出物を添加した細胞培養培地に0.1%の未処理酵母抽出物または魚肉抽出物を添加することにより、奇数脂肪酸を高収量で取得出来ることが示された。
上記強酸処理した魚肉抽出物に代えてBacto(商標)Tryptoneを用いて同一の実験を実施した。当該実験の結果を、図2に示す。未処理酵母抽出物または魚肉抽出物の添加量が0.5%付近で奇数脂肪酸の割合が最大になったが、奇数脂肪酸、バイオマスともに強酸処理した魚肉抽出物を添加した細胞培養培地に及ばなかった。
上記強酸処理した魚肉抽出物+未処理酵母抽出物の条件で、SA−96細胞株をオーランチオキトリウムNB−6−3又はNIES−3737に代えて、同様の実験を実施した。当該実験の結果を図3に示す。未処理酵母抽出物の添加量に応じた奇数脂肪酸の割合の増大が、SA−96と極めて類似したパターンを示した。当該結果から、本発明の細胞培養培地は、オーランチオキトリウム属藻類の種や株に拘らず所望の奇数脂肪酸増大効果を有することが示された。

Claims (13)

  1. 培養オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属藻類を培養するための培地の製造方法であって、以下の工程:
    (1)細胞抽出物を強酸で処理し、これを加熱する工程;
    (2)工程(1)の抽出物を中和する工程;
    (3)工程(2)の抽出物を基礎として細胞培養培地を調製する工程;
    を含み、当該細胞抽出物がオーランチオキトリウム属藻類の細胞抽出物ではない、当該製造方法。
  2. 前記細胞培養培地を用いてオーランチオキトリウム属藻類を培養すると、当該藻類が蓄積する全脂肪酸中の奇数脂肪酸含有率が増大する、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記工程(3)の細胞培養培地に、工程(1)及び(2)の処理をしていない0.01〜1重量%の細胞抽出物を添加する、請求項1又は2のいずれかに記載の製造方法。
  4. 前記工程(1)の加熱が、60〜180℃で10〜180分間行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 前記工程(1)の強酸処理が、塩酸、硫酸、リン酸、及び硝酸からなる群から選択される酸の添加によりなされる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 前記工程(2)の中和がアルカリの添加によりなされる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
  7. 前記工程(1)の強酸処理がプロトン型(H型)強酸性陽イオン交換樹脂の添加であり、前記工程(2)の中和が、当該強酸性陽イオン交換樹脂の除去である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
  8. 前記細胞抽出物が、培養細胞に対して十分な主要栄養素を供給することが出来る限りにおいて、原核生物、細菌、真菌、原生動物、無脊椎動物又は脊椎動物から選択される生物種の細胞に由来する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
  9. 前記細胞抽出物が魚肉抽出物又は酵母抽出物である、請求項8に記載の製造方法。
  10. 請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法により製造した培地を用いてオーランチオキトリウム属藻類を培養して細胞内にトリグリセリドを蓄積させる工程を含む、オーランチオキトリウム属藻類を培養する方法。
  11. 前記培養したオーランチオキトリウム属藻類が蓄積する全脂肪酸中の奇数脂肪酸含有率が増大する、請求項10に記載の培養方法。
  12. 前記培養工程を経てオーランチオキトリウム属藻類が蓄積する全脂肪酸中の奇数脂肪酸の含有率が5〜40重量%である、請求項10又は11のいずれかに記載の培養方法。
  13. 奇数脂肪酸を主要成分として含有するトリグリセリドを製造する方法であって、以下の工程:
    (1)請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法を用いて培養したオーランチオキトリウム属藻類を提供する工程;
    (2)当該オーランチオキトリウム属藻類からトリグリセリド成分を抽出する工程;及び
    (3)抽出したトリグリセリドを精製する工程;
    を含む、当該製造方法。
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