JP6333531B2 - 酵母エキス - Google Patents

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Description

本発明は、酵母エキスに関し、より詳細には酵母エキス中のアルギニンおよびリン酸類の含有量が一定量以上であり、かつリン酸類に対するオルトリン酸の含有率が一定の比率以下である酵母エキスに関する。
酵母エキスは、酵母菌体から自己消化や酵素分解、熱水、または酸分解などにより抽出されたエキスであり、有害な副生成物やアレルゲンを含まず、トレーサビリティーに優れた調味料素材である。また、近年、消費者は調味素材の選定に際して天然由来の成分をより好む傾向が強くなっているため、食品メーカーではその消費者のニーズに対応するために呈味付けなどの目的で酵母エキスを積極的に採用している。
酵母エキスの調理素材としての機能を向上させるため、呈味や風味に関係する様々な成分を高含有させることが行われている。アルギニンもその成分の一つである。アルギニンを含む酵母エキス組成物はうま味などの風味改良剤として用いることができることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、特許文献2または特許文献3には、食肉加工品の食感の改良するための、リン酸塩を高含有させた酵母エキスが開示されている。
WO2011/074359号公報 特開2007−222020号公報 特開2011−78356号公報
しかしながら、これらの酵母エキスを食品に用いる場合には、酵母エキス特有の風味(以下、酵母臭ともいう)が食品に付与され、これが好ましくない風味とされる場合がある。また、上記のリン酸塩を高含有させた酵母エキスではリン酸カルシウムやリン酸マグネシウムといったオルトリン酸の不溶性の塩が主体であるため、分散性の問題により、十分に食品の物性を改良できない場合があった。有機酸などの酸を用いることにより、この分散性を改善できるが、有機酸などの酸を用いた場合には、風味への影響が生じる場合がある。
従って、風味に影響を及ぼす有機酸などの酸を用いることなしに、十分に食品の物性を改良でき、特に酵母臭などの風味変化を抑制できる酵母エキスは未だ求められているといえる。
本発明は、風味に影響する有機酸などの酸を用いることなしに、十分に食品の物性を改良でき、特に酵母臭などの風味変化を抑制できる酵母エキスを提供することを目的とする。
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)アルギニンおよびリン酸類を含んでなる酵母エキスであって、該酵母エキスに含まれるアルギニンおよびリン酸類の含有量が、該酵母エキスの全固形分に対して、それぞれ2質量%以上および10質量%以上であり、かつ該酵母エキスに含まれる該リン酸類中のオルトリン酸の含有率が、40質量%以下である、酵母エキス。
(2)酵母エキスに含まれるアルギニンの含有量が、該酵母エキスの全固形分に対して、50質量%以下である、(1)に記載の酵母エキス。
(3)アルギニンおよびリン酸類を含んでなる酵母菌体であって、酵母菌体に含まれるアルギニンおよびリン酸類の含有量が、該酵母菌体の全固形分に対して、それぞれ0.5質量%以上および3質量%以上であり、かつ該酵母菌体に含まれる該リン酸類中のオルトリン酸の含有率が、30質量%以下である、酵母菌体。
(4)(3)に記載の菌体を用いて製造された、酵母エキス。
(5)(1)、(2)、および(4)のいずれかに記載の酵母エキスを含有する、食品の物性改良剤。
(6)食品が畜肉加工品または水産加工品である、(5)に記載の物性改良剤。
(7)(1)、(2)、および(4)に記載の酵母エキスならびに(5)および(6)に記載の物性改良剤のいずれか一つを食品へ加える工程を含む、物性が改良された食品の製造方法。
(8)(1)、(2)、および(4)に記載の酵母エキスならびに(5)および(6)に記載の物性改良剤のいずれか一つを食品へ加えることを特徴とする、食品の物性改良方法。
本発明によれば、風味に影響する有機酸などの酸を用いることなしに、風味変化を抑制しつつ、食品の物性を改良できる酵母エキスを提供することができる。
発明の具体的説明
本発明の酵母エキスは、アルギニンおよびリン酸類を含んでなる酵母エキスであって、該酵母エキスに含まれるアルギニンおよびリン酸類の含有量が、該酵母エキスの全固形分に対して、それぞれ2質量%以上および10質量%以上であり、かつ該酵母エキスに含まれる該リン酸類中のオルトリン酸の含有率が、40質量%以下である、酵母エキスである。本発明の酵母エキスを用いることにより、風味への影響する有機酸など酸を用いることなしに、食品の物性を改良でき、特に酵母臭などの風味変化を抑制することができる。
本発明の酵母エキスに含まれるアルギニンの含有量に上限はないが、食品の風味の観点からは、酵母エキスの全固形分に対して、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
本発明の酵母エキスに含まれるアルギニンは、L体およびD体のいずれのアルギニンであってもよいが、好ましくはL体のアルギニンである。
本発明の酵母エキスに含まれるリン酸類の含有量に上限はないが、通常20質量%以下である。
本発明の酵母エキスに含まれるリン酸類は、リン酸類であれば限定されず、オルトリン酸、リン酸基を二つ有するピロリン酸、リン酸基を三つ以上有するポリリン酸、および環状のメタリン酸などリン酸基を有するリン酸類のいずれであってもよい。
本発明の酵母エキスに含まれるリン酸類中のオルトリン酸の含有率は、40質量%以下であれば特に限定されるものではないが、好ましくは30質量%以下、より好ましくは26質量%以下である。
本発明の酵母エキスは、上記成分を含有する限り、酵母エキスにアルギニンまたはリン酸を添加する等の方法により調製してもよく、また酵母菌体を用いて調製してもよい。
本発明の別の態様によれば、アルギニンおよびリン酸類を含んでなる酵母菌体であって、酵母菌体に含まれるアルギニンおよびリン酸類の含有量が、該酵母菌体の全固形分に対して、それぞれ0.5質量%以上および3質量%以上であり、かつ該酵母菌体に含まれる該リン酸類中のオルトリン酸の含有率が、30質量%以下である酵母菌体が提供される。この酵母菌体を用いて酵母エキスが製造されてもよい。
本発明の酵母菌体に含まれるアルギニンの含有量に上限はないが、食品の風味の観点からは、酵母菌体の全固形分に対して、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。本発明の酵母菌体に含まれるアルギニンは、本発明の酵母エキスと同じであってよい。また、酵母菌体に含まれるアルギニン量は、実施例に示した計算式1に基づいて、酵母エキスのアルギニン量から算出することができる。
本発明の酵母菌体に含まれるリン酸類の含有量に上限はないが、通常20質量%以下である。本発明の酵母菌体に含まれるリン酸類は、本発明の酵母エキスと同じであってよい。
本発明の酵母菌体に含まれるリン酸類中のオルトリン酸の含有率は、30質量%以下であれば特に限定されるものではないが、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは18質量%以下である。
「酵母菌体を用いて酵母エキスを製造する方法」は、特に限定されないが、例えば、水抽出法、温水抽出法、熱水抽出法、酸分解法、酵素分解法、または自己消化法のいずれの方法であってもよく、熱水抽出法、酵素分解法、または自己消化法が好ましく用いられる。また、これらの複数の方法を組み合わせて製造してもよい。
熱水抽出法としては、例えば、酵母の培養物を遠心分離して回収した酵母湿菌体に、その質量と等量の蒸留水を加え、よく混合した後、加熱処理に供する方法が挙げられる。得られた加熱処理物は、そのまま本発明の酵母エキスとして用いてもよく、必要に応じて遠心分離し、その上清を本発明の酵母エキスとして用いてもよい。
また、酵素分解法としては、例えば、酵母の培養物にプロテアーゼ、アミラーゼ、細胞壁溶解酵素、デアミナーゼ、ヌクレアーゼ等の酵素を添加し、酵素反応させる方法が挙げられる。酵素分解法に用いられる酵素は単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。添加する酵素量、酵素反応の温度、pH、反応時間は各酵素により異なるが、各酵素の至適温度、至適pHで反応させることが好ましい。酵素分解処理後、得られる処理物をそのまま本発明の酵母エキスとして用いてもよいし、遠心分離、ろ過等の固液分離操作を行ない、その不溶性の固形分を除去したものを本発明の酵母エキスとして用いてもよい。
また、自己消化処理法としては、例えば、酵母の培養物を35〜50℃で6〜72時間加熱する方法が挙げられる。上記自己消化処理後、得られる処理物をそのまま、本発明の酵母エキスとして用いてもよいし、遠心分離、ろ過等の固液分離操作を行ない、その不溶性の固形分を除去したものを本発明の酵母エキスとして用いてもよい。
本発明の好ましい態様によれば、アルギニンおよびリン酸類を含んでなる酵母菌体であって、酵母菌体に含まれるアルギニンおよびリン酸類の含有量が、該酵母菌体の全固形分に対して、それぞれ0.5質量%以上および3質量%以上であり、かつ該酵母菌体に含まれる該リン酸類中のオルトリン酸の含有率が、30質量%以下である酵母菌体を用いて製造された、酵母エキスが提供される。
本発明の酵母菌体は、例えばアルギニンを高含有する能力を有する酵母を培地で培養し、該培養中に培地中の無機リン酸が枯渇している状況下で無機リン酸を添加する方法(例えば、FEMS YEAST RESEARCH No.8 877−882頁 2008年に記載の方法)により得ることができる。
アルギニンを高含有する能力を有する酵母としては、例えばアルギニンアナログ耐性を有する酵母が挙げられる。具体的には、特許文献1(WO2011/074359号公報)に記載のアルギニンアナログ耐性を有し、かつアルギニンを唯一の窒素源とする培地では生育可能な性質を有する酵母が挙げられる。
酵母の種類としては、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)等のサッカロミセス属に属する酵母、カンジダ・ユーティリス(Candida utilis)等のカンジダ属に属する酵母が挙げられる。
本発明の酵母菌体を培養する培地は、炭素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常の栄養培地であれば固体培地でも液体培地でもよいが、培養中に無機リン酸を添加することが容易であることから液体培地が好ましく用いられる。本発明の酵母菌体を培養する培地は、合成培地または天然培地のいずれを用いてもよい。
本発明の酵母菌体を培養する培地に含有させる炭素源としては、グルコース、グリセロール、マンニトール、エタノール、n-パラフィン等が用いられる。また、乳酸やクエン酸等の有機酸も単独あるいは他の炭素源と併用して用いることができる。
本発明の酵母菌体を培養する培地に含有させる窒素源としては、尿素、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等が用いられる。
本発明の酵母菌体を培養する培地に含有させる有機微量栄養素としては、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、更にこれらのものを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆蛋白分解物等が用いられる。
本発明の酵母菌体を培養する培地に含有させる無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、鉄塩、亜鉛塩、カルシウム塩等が用いられる。
本発明の酵母菌体の培養は、培養温度20〜37℃で、pHを3〜8に制御して行い、必要に応じて通気培養を行なう。培養中、炭酸カルシウム、アンモニア水、アンモニアガス、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリによりpHを調整してもよい。
上記酵母菌体の培養を、上記の条件により、10時間〜4日間程度行なうことにより菌体内にアルギニンを蓄積させることができる。また、該培養中に培地中の無機リン酸が枯渇している状況下で無機リン酸を適量添加することにより菌体内にリン酸類が蓄積する。なお、菌体内のリン酸類の含有量は培養後に得られる菌体を後述する方法に供して定量することができる。また、菌体内のアルギニンの含有量は培養後に得られる菌体を分離後、該菌体を後述する酵母エキス中のアルギニン含有量を定量する方法に供して定量することができる。
培養終了後、液体培地を用いて培養した場合は、培養液をそのまま培養物として用いてもよいし、培養液から遠心分離またはろ過等の固液分離操作を行なって菌体を分離し、これを培養物として用いてもよい。
また、固体培地を用いて培養した場合は、固体培地に生育した菌体を固体培地とともにそのまま培養物として用いてもよいし、固体培地から掻き取るなどの方法で集菌して得られる菌体をそのまま用いてもよい。
得られた酵母の培養物はそのまま次の処理に用いてもよいし、必要に応じて、水、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩水溶液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝液などに懸濁し、該懸濁液を酵母の培養物として次の処理に用いてもよい。
得られた培養物から、上述の「酵母菌体を用いて酵母エキスを製造する方法」に記載された方法と同様の方法により酵母エキスを製造してもよい。
本発明の酵母エキスおよび酵母菌体の全固形分量は、酵母エキスまたは酵母菌体の一定量、例えば1mLを105℃で3時間以上乾熱して乾固させ、デシケーター内で冷却後、秤量することで定量することができる。
また、該上清を、アミノ酸アナライザー、液体クロマトグラフィー等に供することにより、酵母エキスおよび酵母菌体中のアルギニン含有量を定量することができる。
酵母菌体および酵母エキス中のオルトリン酸の含有量は、酸性溶液中でリン酸イオンと、モリブデン酸イオンおよびアンチモンイオンとを反応させて生成したモリブデン錯体をアスコルビン酸で還元し、青色のリンモリブデンブルーとして吸光光度法で定量することができる。全リン酸類の定量には、試料を一度加熱分解した上で、上記反応に供することにより定量することができる。
また、上記全リン酸類およびオルトリン酸の定量は、市販のリン含有量測定キット等を用いても簡便に定量することができる。
上記方法により得た酵母エキス中のアルギニン含有量またはリン酸類の含有量が本発明における所定量に満たない場合には、別途、天然物由来のアルギニンとして白子やゼラチンなどのアルギニンを多く含むタンパク質の加水分解物、玄米などの遊離のアルギニンを多く有する食品やその抽出物等、また天然物由来のリン酸類として乳酸菌など微生物に含有させたリン酸類等を添加して調製してもよい。
本発明の酵母エキスの形態は液体および固体(粉体、粒体、粉粒体等を含む)のいずれであってもよい。
本発明の酵母エキスは、通常の酵母エキスと同様に、食品の風味改良剤、呈味改良剤、調味料等として用いてもよいが、そのまま、または必要に応じて塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、アラニン等のアミノ酸、大豆タンパク質、乳タンパク質等のタンパク質素材、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸、ショ糖、ブドウ糖、乳糖等の糖、醤油、味噌、畜肉エキス、魚介エキス、蛋白質加水分解物等の天然調味料、スパイス類、ハーブ類等の香辛料、デキストリン、デンプン等の賦形剤、食物繊維等の食品に使用可能な各種添加物を添加して、蛋白溶解促進剤、乳化剤、アルカリ剤(かんすい)、畜肉または魚肉等の結着剤、保水剤、膨張剤、強化剤等の食品の物性改良剤として好適に用いることができる。
本発明の酵母エキスの好ましい態様によれば、アルギニンおよびリン酸類を含んでなる酵母エキスであって、該酵母エキスに含まれるアルギニンおよびリン酸類の含有量が、該酵母エキスの全固形分に対して、それぞれ2質量%以上および10質量%以上であり、かつ該酵母エキスに含まれる該リン酸類中のオルトリン酸の含有率が、30質量%以下(好ましくは、26質量%以下)である酵母エキスが提供される。
本発明の酵母菌体の好ましい態様によれば、アルギニンおよびリン酸類を含んでなる酵母菌体であって、酵母菌体に含まれるアルギニンおよびリン酸類の含有量が、該酵母菌体の全固形分に対して、それぞれ0.5質量%以上および3質量%以上であり、かつ該酵母菌体に含まれる該リン酸類中のオルトリン酸の含有率が、25質量%以下(好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下)である酵母菌体が提供される。
本発明の別の態様によれば、本発明の酵母エキスを含有する食品の物性改良剤が提供される。本発明の食品の物性改良剤は、食品の食感改良剤であってもよく、食感としては、例えば、硬さ、歯切れ、および弾力性が挙げられる。
本発明の酵母エキスまたは食品の物性改良剤を含有させて物性を改良できる食品は、特に限定されないが、畜肉加工品、水産加工品、大豆加工品、および麺類などが挙げられ、好ましくは畜肉加工品、水産加工品などが挙げられ、より好ましくはハム、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボール、蒲鉾、ちくわ、およびさつま揚げなどが挙げられる。これらの食品は、特にアルギニンおよびリン酸類を高含有し、かつリン酸類中のオルトリン酸の含有率が低いため、本発明の酵母エキスは、畜肉や、魚肉等の結着剤、加工食品の保水剤としての用途に適している。
本発明の物性改良剤は、酵母エキス中の旨味成分が含まれるため、添加した食品に呈味性が増加する利点も有する。
物性改良剤として食品に使用する場合の添加量は、添加する食品の種類や求められる効果の程度等に応じて適宜調整することができる。
本発明の別の態様としては、本発明の酵母エキスおよび物性改良剤のいずれか一つを食品へ加える工程を含む、物性が改良された食品の製造方法が提供される。改良される物性は食感であってもよく、食感としては、例えば、硬さ、歯切れ、および弾力性が挙げられる。
本発明の物性が改良された食品の製造方法は、物性が改良される食品の種類によって、酵母エキスや物性改良剤に含まれるアルギニンや、リン酸類の含有量、およびリン酸類中のオルトリン酸の含有率を適宜調整することができる。
また、本発明の酵母エキスおよび物性改良剤のいずれか一つを、食品に添加する時期は特に限定されない。本発明の酵母エキスおよび物性改良剤のいずれか一つは、食品の初期の原料の混合工程、食品の製造工程、および食品の製造の最終工程等のいずれの工程で添加してもよい。
さらに、本発明の別の態様によれば、本発明の酵母エキスおよび物性改良剤のいずれか一つを食品へ加えることを特徴とする、食品の物性改良方法が提供される。改良される物性は食感であってもよく、食感としては、例えば、硬さ、歯切れ、および弾力性が挙げられる。
本発明の食品の物性改良方法は、物性が改良される食品の種類によって、酵母エキスや酵母菌体に含まれるアルギニンや、リン酸類の含有量、およびリン酸類中のオルトリン酸の含有率を適宜調整することができる。
また、本発明の酵母エキスおよび物性改良剤のいずれか一つを、食品に添加する時期は特に限定されない。本発明の酵母エキスおよび物性改良剤のいずれか一つは、食品の初期の原料の混合工程、食品の製造工程、および食品の製造の最終工程等のいずれの工程で添加してもよい。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、下記の実施例において特に言及しない限り、「%」は質量%を意味するものとする。
酵母エキスおよび酵母菌体の調製
アルギニンを高含有する能力を有する酵母である特許文献1(WO2011/074359号公報)に記載の「ARG2株」〔NITE BP−849株:アルギナーゼを欠損し、かつアルギニンアナログに耐性を有するサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母菌株〕を、糖蜜を糖源とし、アンモニアを窒素源とする液体培地に植菌し、5Lジャーにて培養した。培養中に、適時、リン測定キット(LCK350、HACH LANGE社製)を用いて、培養液中のリン酸類の含有量を定量し、培養液中のリン酸類が枯渇していることを確認しつつ、菌体が十分量増えるまで培養した後、リン酸類を蓄積させるために無機リン酸を適量添加して、さらに2時間培養して培養を終了した。
得られた培養液を遠心分離して集菌し、固形分が10%となるように加水調製し、混合したものを酵母菌体1として得た。
酵母菌体1を90℃で30分間、オートクレーブ処理に供した後、5000Gで5分間遠心分離し、上清を得た。沈殿物と等量の蒸留水を加え、よく混合した後、再度同条件で遠心分離した。得られた上清を先の上清に加え、酵母からの熱水抽出物として取得し、固形分が10%となるまで濃縮して酵母エキス1として得た。
また、酵母菌株としてARG2株の代わりに、市販のパン酵母であるダイヤイーストYST株(キリン協和フーズ社製)を用いる以外は酵母菌体1で行った操作と同様の操作を行って、酵母菌体2および酵母エキス2を得た。
また、リン酸類を酵母菌体に蓄積させるための培地中のリン酸類の枯渇している状態での培養および無機リン酸の添加を実施しないこと以外は酵母菌体1で行った操作と同様の操作を行って、酵母菌体3および酵母エキス3を得た。
また、市販のダイヤイーストYST株をそのまま蒸留水に懸濁し、固形分10%となるように加水調製し、混合して酵母菌体4とした。酵母菌体4を、酵母エキス1の調製における操作と同様の操作を行って、酵母エキス4を得た。
各1mlの酵母菌体1〜4および酵母エキス1〜4を105℃で3時間以上乾熱し、デシケーター中で冷却後、秤量して固形分含有量を定量した。
酵母エキス3と酵母エキス4について、それぞれ同じ固形分含有量となる量ずつ混合し、酵母エキス5を得た。
また、酵母エキス5についても、同様の操作を行って固形分含有量を定量した。
また、酵母エキス1〜5を、それぞれアミノ酸アナライザー(L−8800A、日立ハイテク社製)に供してアルギニン含有量を定量した。酵母菌体1〜5のアルギニン含有量については、酵母エキスのアルギニン含有量に計算式1に示すエキス化率(%)を乗じたものを酵母菌体のアルギニン含有量として算出した。
計算式1:エキス化率(%) = (A1/B1)×100
A1:(酵母エキス固形分含有量)×(酵母エキス質量)
B1:(酵母菌体固形分含有量)×(酵母菌体質量)
また、酵母菌体1〜4および酵母エキス1〜5の全リンおよびオルトリン酸をリン含有量測定キット(LCK350、HACH LANGE製)に供してリンとして定量した。全リンおよびオルトリン酸の測定方法は測定キット記載のプロトコールに則った。
酵母菌体1〜4および酵母エキス1〜5のアルギニン含有量(アルギニン含有量/固形分含有量×100)、全リン酸類含有量(全リン含有量/固形分含有量×100)、並びにオルトリン酸の含有量および含有率の値を、それぞれ下記表1および表2に示す。
Figure 0006333531
Figure 0006333531
酵母エキス含有ハムの調製およびその評価
下記表3に記載の材料をポリ袋に充填し、ヒートシールした後、氷冷で1時間保存した。その後フードプロセッサーで1分30秒間混合し、Φ30mm塩化ケーシングチューブに充填し密封してハムを調製した。5℃で一晩保存した後、75℃で60分間加熱し、流水で冷却した。
Figure 0006333531
上記で調製した各ハムの離水率を以下の計算式2により求めた。結果を下記表4に示す。
計算式2:離水率(%)=(A2/B2)×100
A2=(全質量)―(肉質量)−(ケーシングチューブの質量)
B2=(全質量)―(ケーシングチューブ質量)
A2、B2の全質量:ケーシングチューブに充填されたままのハムの質量
A2の肉質量:ケーシングチューブから取り出したハムの質量
また、厚さ2cmに切断した各試験区のハムの下記表4に示した各項目について、6名のトレーニングされたパネルにより、官能評価を行った。評価は、各評価項目において酵母エキス無添加の評価結果を1点とし、非常に効果が強い場合を7点として7点評点法で行った。官能評価結果を下記表4に示す。
Figure 0006333531
上記表4に示すとおり、酵母エキス1により、有機酸などの酸を用いることなしに調製されたハムは、離水率が低く、酵母臭が弱く、ハムとしての良好な硬さ、歯切れ、および弾力性を有していた。

Claims (2)

  1. アルギニンおよびリン酸類を含んでなる酵母エキスであって、
    該酵母エキスに含まれるアルギニンおよびリン酸類の含有量が、該酵母エキスの全固形分に対して、それぞれ2質量%以上および10質量%以上であり、かつ
    該酵母エキスに含まれる該リン酸類中のオルトリン酸の含有率が、40質量%以下である、酵母エキス。
  2. 酵母エキスに含まれるアルギニンの含有量が、該酵母エキスの全固形分に対して、50質量%以下である、請求項1に記載の酵母エキス。
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