JP6658499B2 - 係合機構の油圧制御装置 - Google Patents

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Description

この発明は、係合することによりトルクを伝達するように構成された係合機構に関し、特に、油圧が供給されて係合・解放するように構成された係合機構を対象とする油圧制御装置に関するものである。
この種の装置の一例が特許文献1に記載されている。その装置は、変速機の変速比を設定する複数の油圧制御式クラッチを備え、各油圧制御式クラッチが作動し始める時期が規定範囲内となるように、油圧制御式クラッチに供給する作動流体の流量を制御する圧力制御スイッチを調整するように構成されている。具体的には、圧力制御スイッチの弁プランジャの一端部に作用する制御圧と、他端部に作用するクラッチの制御室からのフィードバック圧およびバネ力とによって弁プランジャの位置を推定する。そして、弁プランジャの推定位置と圧力制御スイッチのクラッチ圧と作動流体の圧力や温度となどに基づいて、上述した油圧制御式クラッチが作動し始める時期、つまり、油圧制御式クラッチがトルクを伝達し始めるパックエンド圧を推定し、上述した時期が規定範囲内となるように圧力制御スイッチを調整する。
また、特許文献2には、自動変速機の変速比を変更する係合装置を係合状態となる直前の待機状態とするパック詰め制御を行うように構成された自動変速機の制御装置が記載されている。その制御装置は、パワーオンダウンシフトやマニュアルアップシフトなどの変速制御の形態に応じて、パック詰め制御の目標時間を設定するとともに、変速制御の形態に応じた油圧モデルを算出しあるいは予め記憶してあるデータから読み出す。油圧モデルとは、変速制御の形態に応じたパック詰め制御における油圧指令値の出力形態を設定したものである。そして、油圧モデルと目標時間となどに基づいてパック詰め制御を行うように構成されている。
特許文献3には、クラッチのピストンを作動させる比例電磁制御弁の特性補正装置が記載されている。その装置は、比例電磁制御弁に対する制御指令信号である電流値を漸増させることにより、電流値に対してピストンを移動させる油圧室の実油圧が追従して変化しない状態から電流値に対して実油圧が追従して変化するポイントを検出するように構成されている。つまり、ピストンのストロークが終了するピストンエンドを検出し、ピストンエンドでの実油圧に対応する電流値を推定するように構成されている。
米国特許第9140337号明細書 特開2016−003733号公報 特開2005−106131号公報
特許文献1に記載された圧力制御スイッチは、制御圧とフィードバック圧となどの釣り合いにより弁プランジャの位置を変更して油圧制御式クラッチに対する油圧の供給および停止を切り替えており、油圧制御式クラッチに対する油圧の供給および停止を直接切り替えるようには構成されていない。そのため、特許文献1に記載された構成では、油圧制御式クラッチを構成する部品のばらつきによる個体差があったり、経年劣化したりすると、それらの影響を受けてパックエンド圧を推定することとなる。その結果、推定されるパックエンド圧と、実際のパックエンド圧とが乖離し、パックエンド圧の推定精度が悪化してしまう可能性がある。
特許文献2に記載された構成では、算出あるいは予め設定した油圧モデルに基づいてパック詰め制御を行うように構成されている。そのため、制御対象である係合装置を構成する部品のばらつきによる個体差があったり経年劣化したりすると、油圧モデルによる油圧指令値と実際の油圧とが乖離してしまい、変速制御の形態に応じたパック詰め制御にならない可能性がある。なお、特許文献3に記載された装置は、ピストンエンドを推定するように構成されており、パックエンド圧を推定するものではない。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、係合機構におけるパックエンド圧の推定精度を向上するとともに、そのパックエンド圧を設定して待機させることのできる係合機構の油圧制御装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、この発明は、油圧室の油圧が低下されて解放状態となることによりトルクの伝達が遮断され、前記油圧室の油圧が増大されて係合状態となることにより前記トルクの伝達を行うように構成された係合機構の油圧制御装置において、前記油圧室の前記油圧を変化させるコントローラを備え、前記コントローラは、前記油圧室の前記油圧が所定圧となっていてかつ前記係合機構での前記トルクの伝達がない待機状態の場合に、前記油圧室の前記油圧を増大させる第1指示圧と、前記第1指示圧と比較して前記油圧室での前記油圧の増大が小さい第2指示圧とを連続して出力するパターン制御を少なくとも1回行って前記油圧をステップ的に増大させ、かつ、前記第1指示圧による前記油圧室での前記油圧の第1変化量と前記第2指示圧による前記油圧室での前記油圧の第2変化量とを求め、前記第1変化量と前記第2変化量とに基づいて前記係合機構が前記トルクを伝達し始める前記油圧室での前記油圧を推定することを特徴とするものである。
この発明によれば、油圧室の油圧が所定圧となっていてかつトルクの伝達がない待機状態の場合には、係合機構に対して油圧室の油圧を増大させる第1指示圧と第2指示圧とが連続して少なくとも1回出力される。これにより第1指示圧と第2指示圧とのそれぞれに対する油圧の応答性、すなわち、各指示圧に対する油圧室での油圧の変化量をそれぞれ求める。油圧式の係合機構では解放状態から係合状態に到る過程で、指示圧に対する上述した油圧の応答性が変化する。そのため、上述した第1指示圧による第1変化量と、第2指示圧による第2変化量とに基づいて、係合機構におけるトルクを伝達し始める油圧を推定することができる。また、この発明では、油圧室の油圧を実際に変化させて求めた各変化量に基づいて現時点での係合機構におけるトルクを伝達し始める油圧を推定しているため、係合機構を構成する各部品のばらつきによる個体差あるいは経年劣化などがあったとしても、前記個体差や経年劣化などの影響を実質的に少なく、あるいは、許容することができる。その結果、係合機構におけるトルクを伝達し始める油圧であるパックエンド圧の推定精度を向上することができる。これにより、油圧室の油圧をパックエンド圧に設定して待機させることができるため、係合指示があった場合には、係合機構を速やかに係合させることができる。
この発明の実施形態に係る係合機構の一例を模式的に示す断面図である。 この発明の実施形態に係る係合機構における油圧回路の一例を模式的に示す図である。 この発明の実施形態に係る係合機構の係合過程における油圧曲線を模式的に示す図である。 この発明の実施形態における制御の一例を説明するためのフローチャートである。 この発明の実施形態における第2制御パターンの一例を模式的に示す図である。 この発明の実施形態における第3制御パターンの一例を模式的に示す図である。 この発明の実施形態における第1制御パターンの一例を模式的に示す図である。 図4に示す制御を行った場合の油圧室の油圧の変化、および、摩擦クラッチでの伝達トルクの変化の一例を示すタイムチャートである。
図1は、この発明の実施形態に係る係合機構の一例を模式的に示す断面図である。図1に示す例における係合機構は、車両に搭載される油圧式の摩擦クラッチ1であって、摩擦クラッチ1は、図示しないエンジンの出力軸に連結されたインプットシャフト2と一体に回転しかつインプットシャフト2の外周側に設けられたクラッチドラム3を有している。クラッチドラム3は、軸線方向に凹んだ環状の凹部であるシリンダ部を形成している。クラッチドラム3の内部に、互いに摩擦接触することによってトルクを伝達する複数のプレート4と複数のディスク5とが設けられている。プレート4とディスク5とは図1に示すように、交互に配置され、各プレート4はクラッチドラム3の内周面のうち半径方向で外側の内周面3Aにスプライン嵌合している。ディスク5は図示しない出力部に取り付けられたクラッチハブ6の外周面にスプライン嵌合している。クラッチハブ6は円筒状の部材であって、クラッチドラム3と同心円状に配置されている。
クラッチドラム3の内部に、プレート4とディスク5とに向けて前後動し、プレート4とディスク5とを押圧して係合させるピストン7が収容されている。半径方向でピストン7の内周部はクラッチドラム3の内周面のうち半径方向で内側の内周面3Bに接触している。半径方向でピストン7の外周部は軸線方向でプレート4側に突出しており、その突出部7Aとプレート4との間に、プレート4とディスク5とを係合させる際に、それらの間で締結圧や係合力が急激に増大することを抑制するディッシュプレート8が配置されている。インプットシャフト2の軸線方向でピストン7とクラッチドラム3との間には、隙間が形成されており、この隙間は油圧室9となっている。
油圧室9には、図示しない油圧供給源からピストン7を軸線方向に前後動させる油圧が供給される。すなわち、インプットシャフト2の内部に、軸線方向に延びかつ図示しない油圧供給源に連通する油路10と、油路10からインプットシャフト2の外周面に到る油孔11とが形成されている。クラッチドラム3におけるインプットシャフト2側の内周部には、半径方向に貫通していて前記油孔11に連通する他の油路12が形成されている。また、油圧室9や、インプットシャフト2とクラッチドラム3との間の隙間などからのオイルの漏洩を防止もしくは抑制するシールリング13がインプットシャフト2の外周面やピストン7に嵌合されている。
インプットシャフト2の軸線方向でピストン7を挟んでクラッチドラム3とは反対側にリターンスプリング14が配置され、軸線方向でリターンスプリング14を挟んでクラッチドラム3とは反対側にリテーナ15が設けられている。リテーナ15はスナップリング16によって、クラッチドラム3の凹部における内周面のうち半径方向で内側の内周面3Bに抜け止めされている。リターンスプリング14はクラッチドラム3とリテーナ15との間に配置され、ピストン7をクラッチドラム3側に押圧している。
図2は、この発明の実施形態に係る係合機構における油圧回路の一例を模式的に示す図である。油圧供給源17は、図示しないエンジンによって駆動される機械式のオイルポンプや、図示しないモータによって駆動される電動式オイルポンプを有しており、それらのオイルポンプの吐出口に上述した油路10が連通されている。油路10の途中には油圧供給源17から吐出されたオイルを所定の圧力に調圧する調圧弁18が設けられている。調圧弁18は例えばソレノイドバルブであってよく、油圧供給源17から吐出されたオイルの圧力を制御指令信号である電流値もしくは電磁力に応じた圧力に調圧するように構成されている。油路10におけるオイルの流動方向で調圧弁18の下流側には、油路10の開口面積(流路断面積)を減じるオリフィス19が設けられている。そのため、摩擦クラッチ1に供給されるオイルの流量はオリフィス19によって調整あるいは減じられる。
油路10におけるオリフィス19の下流側に、摩擦クラッチ1の油圧室9に直接連通するダンパ機構20と実油圧センサ21とが設けられている。ダンパ機構20は、油圧供給源17から吐出されるオイルの圧力変動を吸収するものであって、例えばアキュムレータによって構成することができる。実油圧センサ21は、従来知られている油圧センサと同様の構成のものであってよい。油路10におけるダンパ機構20と実油圧センサ21との下流側で油路10と他の油路12とが連通している。それらの接続箇所には、上述したように、シールリング13が設けられており、オイルの漏洩を防止もしくは抑制している。
油圧供給源17の駆動や、調圧弁18を制御して摩擦クラッチ1の係合状態と解放状態とを制御する電子制御装置(ECU)22が設けられている。ECU22は、この発明の実施形態におけるコントローラに相当し、例えばマイクロコンピュータを主体にして構成され、入力されたデータや、予め記憶しているデータを使用して演算を行い、演算の結果を制御指令信号として油圧供給源17や調圧弁18に出力するように構成されている。ECU22に入力されるデータは、実油圧センサ21によって検出された油圧室9の油圧や、図示しない制動装置に設けられたブレーキ圧センサによって検出されたブレーキ圧Pbrake、各種のセンサによって得られた車速Vやアクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度ACCなどである。
図3は、この発明の実施形態に係る係合機構の係合過程における油圧曲線の一例を模式的に示す図である。互いに離隔している係合要素であるプレート4とディスク5とが完全に係合するまでの過程は、図3に示すように、4つのステージに大別することができる。第1ステージST1は、ピストン7がプレート4とディスク5とに向けて動き出す前の段階である。具体的に説明すると、油圧室9の油圧を増大させる指示圧がECU22から油圧供給源17や調圧弁18に入力され、指示圧に基づいて油圧供給源17や調圧弁18が制御されて油圧室9の油圧が増大される。油圧室9の油圧が、ピストン7が移動し始める油圧であるストローク開始圧Ppsより低い場合には、ピストン7の移動に伴う油圧室9の体積変化がない。そのため、油圧室9における実際の油圧(以下の説明では、実油圧と記す。)は、上述した指示圧に追従するように変化する。そのため、第1ステージST1では、所定時間当たりの油圧の変化量は大きく、指示圧に対する実油圧の応答性が良い。
油圧室9の油圧がストローク開始圧Ppsより大きくなると、プレート4とディスク5とに向かって軸線方向にピストン7が移動し始める。ピストン7の移動に伴って油圧室9の体積が大きくなるため、第1ステージST1と比較して、油圧室9における実油圧と指示圧との乖離が大きくなり、実油圧は緩やかに増大する。ピストン7が移動して突出部7Aがディッシュプレート8を押し潰し始めると、プレート4とディスク5とが接触あるいは係合し始め、プレート4とディスク5との間でトルクが伝達され始める。第2ステージST2は、油圧室9の油圧がストローク開始圧Pps以上となってピストン7が移動し始めてから、ピストン7によってディッシュプレート8を押し潰し始めるまでの段階である。すなわち、ピストン7がストロークする段階である。この第2ステージST2では油圧室9の体積変化を伴うため、第1ステージST1と比較して所定時間当たりの油圧の変化量は小さく、指示圧に対する実油圧の応答性が悪い。
ピストン7がディッシュプレート8を押し潰している段階では、ピストン7は、ディッシュプレート8を押し潰した分、移動する。また、ディッシュプレート8が完全に押し潰されると、ピストン7が停止する。第3ステージST3は、このように、ピストン7がディッシュプレート8を押し潰し始めてからピストン7の移動が停止するまでの段階である。そのため、第3ステージST3では、プレート4とディスク5とが半係合あるいはスリップしている。また、第3ステージST3では、第2ステージST2と比較して油圧室9の体積変化が小さいことにより、所定時間当たりの油圧の変化量は第2ステージST2に比較して大きく、また、指示圧に対する実油圧の応答性は第2ステージST2に比較して良い。それら第2ステージST2と第3ステージST3との境界の油圧は、プレート4とディスク5との間での伝達トルク容量が「0」となる油圧室9における最大の油圧である。この油圧を以下の説明ではパックエンド圧と称する。油圧室9の油圧がパックエンド圧より大きくなると、プレート4とディスク5との間でトルクが伝達される。
ディッシュプレート8が完全に押し潰されてピストン7の移動が終了すると、油圧室9に油圧を供給しても、油圧室9の体積は変化しない。そのため、油圧室9における実油圧は指示圧に追従するように変化し、プレート4とディスク5とは完全に係合する。このようにプレート4とディスク5とが完全に係合している段階が第4ステージST4である。第4ステージST4では所定時間当たりの油圧の変化量は大きく、指示圧に対する実油圧の応答性が良い。また、プレート4とディスク5との係合力あるいは締結圧は油圧室9の油圧に応じた値になる。
上述した構成の摩擦クラッチ1では、プレート4とディスク5とを係合させてトルク伝達を行う場合に、第2ステージST2が律速となる。そのため、この発明の実施形態に係る係合機構の油圧制御装置では、摩擦クラッチ1でのトルク伝達に備える待機状態が設定されている場合に、第2ステージST2と第3ステージST3との境界であるパックエンド圧を推定し、油圧室9の油圧をパックエンド圧もしくはこれとほぼ同じ圧力に設定するように構成されている。図4は、パックエンド圧を推定するためのこの発明の実施形態に係る制御の一例を説明するためのフローチャートである。ここに示すルーチンは車両におけるパワースイッチがオンにされた場合や、車両が停車している場合、あるいは、車両が走行している場合などであって、対象とする係合機構が待機状態となっている場合に、ECU22によって所定の短時間毎に繰り返し実行される。
図4に示す例では、先ず、指示圧待機状態であるか否かが判断される(ステップS1)。指示圧待機状態とは、将来における摩擦クラッチ1でのトルク伝達に備えて、プレート4とディスク5とのクリアランスが詰められており、かつ、摩擦クラッチ1における伝達トルク容量が「0」となっている状態である。これは、ファーストフィル制御を実行することにより設定することができる。ファーストフィル制御は、上述したクリアランスを詰める制御であって、油圧室9の油圧が一時的に高められる。その後、油圧室9の油圧は、ファーストフィル制御によって設定されたプレート4とディスク5とのクリアランスを維持できる程度の低い油圧に設定される。したがって、ステップS1での判断は、例えば、ファーストフィル制御を実行するフラグがオンとなっているか否かに基づいて判断することができる。なお、この指示圧待機状態がこの発明の実施形態における待機状態に相当し、ファーストフィル制御によって設定されたプレート4とディスク5とのクリアランスを維持できる程度の低い油圧がこの発明の実施形態における所定圧に相当している。
ステップS1で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく図4に示すルーチンを一旦終了する。これに対してステップS1で肯定的に判断された場合には、油圧供給源17や調圧弁18に対する指示圧が基準圧Pslreqに設定される(ステップS2)。実油圧センサ21や各種のセンサによる検出値、摩擦クラッチ1には、例えば、製造ばらつきによる個体差や経年劣化などに起因した誤差を含む場合があり、前回のルーチンにおいて推定されたパックエンド圧(以下の説明では前回値と称する。)は、それらの誤差を含んでいる可能性がある。また、前回値は誤差を含んでいることによって、実際の値より大きい値となっている可能性がある。そのため、前回値から上述した誤差分を減じて基準圧Pslreqとし、基準圧Pslreqから今回のルーチンでの係合機構における係合段階の同定制御を開始する。したがって、図4のステップS2に記載してある所定圧とは、上述した誤差に対応する値であり、例えば、以下に説明する第1指示圧Puと第2指示圧Puとの合計値から第3指示圧Pdを減じて求めた算出値を用いることができる。この算出値に替えて、実験などにより予め定めた値を用いてもよい。なお、車両の出荷時においては、前回値として実験的に求めた値を予め設定する。また、油圧室9の油圧は基準圧Pslreqに応じた油圧に設定される。
次いで、油圧室9の油圧を増大させる第1指示圧Puが油圧供給源17や調圧弁18に入力される(ステップS3)。油圧室9の油圧は基準圧Pslreqに応じた油圧となっているため、第1指示圧Puの分、油圧室9の油圧が増大される。次いで、第1指示圧Puが入力されてから所定時間経過したtj時点において、第1指示圧Puに対する摩擦クラッチ1の油圧の応答性が良いか否かが判断される(ステップS4)。具体的には、第1指示圧Puが入力された時点から所定時間経過したtj時点までの間における油圧室9での油圧の第1変化量Δ1が第1閾値α以上か否かが判断される。第1閾値αは油圧応答性の良否を判定するためのものであって、実験などにより予め求めることができる。第1変化量Δ1が第1閾値α以上であれば、ステップS4で肯定的に判断される。この場合には、tj時点において、摩擦クラッチ1の係合段階は、図3に示す係合過程における油圧曲線で、指示圧に対する実油圧の応答性が良いとされる第1ステージST1もしくは第3ステージST3となっている可能性がある。これに対して、ステップS4で否定的に判断された場合には、tj時点において、摩擦クラッチ1の係合段階は、指示圧に対する実油圧の応答性が悪いとされる第2ステージST2となっている可能性がある。
ステップS4で肯定的に判断された場合には、tj時点での油圧室9の実油圧を実油圧センサ21によって検出するとともに、実油圧がストローク開始圧Pps以下であるか否かが判断される(ステップS5)。ストローク開始圧Ppsはピストン7が動き始める圧力であるため、このステップS5では、摩擦クラッチ1の係合段階が第1ステージST1であるか否かが判断される。ステップS5で肯定的に判断された場合には、現時点での摩擦クラッチ1の係合段階が第1ステージST1であると同定される(ステップS6)。この場合には、ステップS3に戻り、再度、第1指示圧Puが入力され、2周期目の同定制御が実行される。この制御パターンが、図5に記載してある第2制御パターンである。
これに対して、ステップS5で否定的に判断された場合には、現時点での摩擦クラッチ1の係合段階が第3ステージST3であると同定されるとともに、今回のルーチンにおける同定結果が図示しない記憶装置に一旦記憶され、かつ、第1指示圧Puの分、油圧室9の油圧が低下される(ステップS7)。つまり、上述した同定結果を一時的に記憶し、油圧室9の油圧が基準圧Pslreqにまで低下される。この制御パターンが、図6に記載してある第3制御パターンである。その後に、ステップS8に進み、前回の同定制御の同定結果が第2ステージST2であるか否かが判断される。ステップS8で肯定的に判断された場合には、ステップS9に進み、前回の同定結果と今回の同定結果とに基づいてパックエンド圧が推定されるとともに、油圧室9の油圧がパックエンド圧に設定される。ステップS9でのパックエンド圧の推定制御については後述する。また、ステップS8で否定的に判断された場合には、図4に示すルーチンを一旦終了する。
上述したステップS4で否定的に判断された場合には、第1指示圧Puに続けて第2指示圧Puが入力され、さらに、第2指示圧Puに続けて第3指示圧Pdが入力される(ステップS10)。この制御パターンが、図7に記載してある第1制御パターンであって、第1制御パターンのうち、特に、第1指示圧Puに続けて油圧供給源17や調圧弁18に第2指示圧Puを入力するパターンがこの発明の実施形態におけるパターン制御に相当している。第2指示圧Puは油圧室9の油圧を増大させる指示圧であって、かつ、第1指示圧Puより小さい。そのため、第2指示圧Puによる油圧の増大あるいは変化幅は、第1指示圧Puによる油圧の増大あるいは変化幅より小さい。第3指示圧Pdは油圧室9の油圧を低下させる指示圧であって、第3指示圧Pdの絶対値は第2指示圧Puの絶対値より大きく、第1指示圧Puの絶対値と第2指示圧Puの絶対値との合計値より小さい値に設定されている。第1指示圧Pu,第2指示圧Pu,第3指示圧Pdによる油圧の変化幅の大小関係を不等号で示せば下記式のとおりである。
Pu>Pu, Pu+Pu>Pd>Pu
なお、第1指示圧Puに続けて第2指示圧Puを入力すると、第2指示圧Puの分、油圧室9の実油圧と指示圧との差圧を拡大できるため、オリフィス19を通過する油量を増大させて、油圧室9における油量を増大することができる。その結果、指示圧に対する実油圧の変化を明確にすることができる。また、油圧室9の油圧を増大させる指示圧Pu,Puに続けて油圧室9の油圧を低下させる第3指示圧Pdを入力すると、各指示圧に対する実油圧の変化が明確になるとともに、実油圧の変化パターンの数が増えるため、いわゆる分解能を向上して同定制御の正確性を向上することができる。
次いで、第2指示圧Puが入力されてから所定時間経過したtj時点において、第2指示圧Puに対する摩擦クラッチ1の油圧の応答性が良いか否かが判断され、かつ、第3指示圧Pdが入力されてから所定時間経過したtj時点において、第3指示圧Pdに対する摩擦クラッチ1の油圧の応答性が良いか否かが判断される(ステップS11)。具体的には、第2指示圧Puが入力された時点から所定時間経過したtj時点までの間における油圧室9での油圧の第2変化量Δ2が第2閾値β以上か否かが判断される。第3指示圧Pdが入力された時点から所定時間経過したtj時点までの間における油圧室9での油圧の第3変化量Δ3が第3閾値γ以上か否かが判断される。それら第2閾値βと第3閾値γとは油圧応答性の良否を判定するためのものであって、実験などにより予め求めることができる。そして、少なくとも第2変化量Δ2が第2閾値βより小さい場合には、ステップS11で否定的に判断され、現時点での摩擦クラッチ1の係合段階が第2ステージST2であると同定される(ステップS12)。その後、ステップS3に戻り、再度、第1指示圧Puが入力され、2周期目の同定制御が実行される。また、今回の同定結果は図示しない記憶装置に一旦記憶される。
これに対して、少なくとも第2変化量Δ2が第2閾値βより大きい場合には、ステップS11で肯定的に判断される。この場合には、現時点での摩擦クラッチ1の係合段階が、第2ステージST2から第3ステージST3への移行段階であると同定される(ステップS13)。また、ステップS13での同定結果が図示しない記憶装置に一旦記憶され、その後、ステップS9に進む。
なお、上述した摩擦クラッチ1の係合段階の同定制御を実行している際に、摩擦クラッチ1を係合させる指示がECU22に入力され、あるいは、摩擦クラッチ1を係合させる要求があるとECU22が判断した場合には、摩擦クラッチ1の係合段階の同定制御を一旦終了し、摩擦クラッチ1を係合させる。また、図4に記載してある一点鎖線で囲ってある領域は、摩擦クラッチ1の係合段階の同定制御における1周期に相当する。
ここで、ステップS9でのパックエンド圧の推定について説明する。先ず、前回のルーチンにおける係合段階の同定結果つまり1周期目の同定結果が第2ステージST2であり、今回のルーチンにおける係合段階の同定結果つまり2周期目の同定結果が第3ステージST3であると同定された場合について説明する。この場合には、第2ステージST2と第3ステージST3との境界は、1周期目の最終圧P(n−1)の近傍にあると推定される。この場合におけるパックエンド圧を設定するための最終指示圧Pは下記の(1)式によって算出することができる。
最終指示圧P=1周期目の同定結果の最終圧P(n−1)・・・(1)
最終圧P(n−1)=基準圧Pslreq(n−1)+Pu+Pu−Pd
なお、1周期目のルーチンにおける同定結果の最終圧P(n−1)に替えて、2周期目のルーチンにおける係合段階の基準圧Pslreq(n)を最終指示圧Pとして用いてもよい。そして、上記のようにして算出された最終指示圧Pによって油圧供給源17や調圧弁18が制御されて油圧室9の油圧がパックエンド圧に設定される。また、最終指示圧Pは図示しない記憶装置に一時的に記憶され、次回のルーチンにおいて、前回値として使用される。
また、今回のルーチンにおける係合段階の同定結果が第2ステージST2から第3ステージST3への移行段階であると同定された場合について説明する。この場合には、第2ステージST2と第3ステージST3との境界は今回の係合段階の同定制御における基準圧Pslreq(n)と、今回の係合段階の同定制御における最終圧P(n)との間にあると推定される。最終圧P(n)は、ステップS13を終了した時点での指示圧であって、基準圧Pslreq(n)に第1指示圧Puと第2指示圧Puとを加算した指示圧から、第3指示圧Pdを減算した指示圧である。したがって、パックエンド圧を設定するための指示圧(以下の説明では最終指示圧と記す。)Pは下記の(2)式によって算出することができる。
最終圧P(n)=基準圧Pslreq(n)+Pu+Pu−Pd
最終指示圧P=(基準圧Pslreq(n)+最終圧P(n))/2・・・(2)
また、前回のルーチンにおける係合段階の同定結果つまり1周期目の同定結果が第2ステージST2であり、今回のルーチンにおける係合段階の同定結果つまり2周期目の同定結果が第2ステージST2から第3ステージST3への移行段階である場合も、最終指示圧Pは上述した(2)式によって算出することができる。
図8は、図4に示す制御例に基づいて推定したパックエンド圧を使用した摩擦クラッチ1の油圧制御、および、伝達トルクの変化の一例を模式的に示すタイムチャートである。運転者が図示しないブレーキペダルを踏み込んでおり、かつ、ファーストフィル制御が実行されていることにより、指示圧待機状態であると判断されると(t時点)、図4に示す制御が実行される。すなわち、第1指示圧Pu,第2指示圧Pu,第3指示圧Pdが油圧供給源17や調圧弁18に入力され、油圧室9の油圧がステップ的に変化させられる。そして、指示圧に対する実油圧の応答性の変化に基づいて上述したように、摩擦クラッチ1の係合段階が同定される。そして、摩擦クラッチ1における係合段階の同定結果と、上述した(1)式あるいは(2)式とに基づいてパックエンド圧を達成する最終指示圧P(n)が推定される(t時点)。
油圧供給源17や調圧弁18に対する指示圧が最終指示圧Pに設定されると(t時点)、油圧室9の油圧はパックエンド圧もしくはパックエンド圧とほぼ同じ圧力に設定される。そのため、例えば、運転者が図示しないブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替えるなど摩擦クラッチ1でトルクを伝達する要求があった場合には、油圧室9の油圧を速やかに増大させて摩擦クラッチ1を係合状態とすることができる。
上述した実施形態では、摩擦クラッチ1が待機状態となっている場合に、油圧室9の油圧を実際に変化させ、各係合段階ごとの油圧応答性の変化に基づいて摩擦クラッチ1における係合段階を同定するとともに、同定された係合段階に基づいてパックエンド圧を推定している。そのため、摩擦クラッチ1や油圧供給源17などを構成する各部品のばらつきによる個体差や、経年劣化などがあったとしても、それらの個体差や経年劣化などの影響を実質的に少なく、あるいは、許容することができる。その結果、上述した実施形態では、パックエンド圧を設定する指示圧の推定精度を向上することができる。また、待機状態において、油圧室9の油圧を、上述したパックエンド圧に設定することができるため、摩擦クラッチ1でトルクを伝達する要求があった場合には、摩擦クラッチ1を速やかに係合状態にすることができる。つまり、油圧の応答性を向上することができ、運転者が、違和感を覚えたり、加速性能や加速フィーリングが良好でないと感じたりすることを防止もしくは抑制することができる。
なお、この発明は上述した実施形態に限定されないのであって、上述した実施形態に係る係合機構は摩擦クラッチ1に替えて、多板ブレーキや、トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチなどであってもよい。要は、油圧式の摩擦係合機構であればよい。
1…摩擦クラッチ(係合機構)、 9…油圧室、 22…電子制御装置(コントローラ)、 Pu…第1指示圧、 Pu…第2指示圧、 Δ1…第1変化量、 Δ2…第2変化量。

Claims (1)

  1. 油圧室の油圧が低下されて解放状態となることによりトルクの伝達が遮断され、前記油圧室の油圧が増大されて係合状態となることにより前記トルクの伝達を行うように構成された係合機構の油圧制御装置において、
    前記油圧室の前記油圧を変化させるコントローラを備え、
    前記コントローラは、
    前記油圧室の前記油圧が所定圧となっていてかつ前記係合機構での前記トルクの伝達がない待機状態の場合に、
    前記油圧室の前記油圧を増大させる第1指示圧と、前記第1指示圧と比較して前記油圧室での前記油圧の増大が小さい第2指示圧とを連続して出力するパターン制御を少なくとも1回行って前記油圧をステップ的に増大させ、かつ、
    前記第1指示圧による前記油圧室での前記油圧の第1変化量と前記第2指示圧による前記油圧室での前記油圧の第2変化量とを求め、
    前記第1変化量と前記第2変化量とに基づいて前記係合機構が前記トルクを伝達し始める前記油圧室での前記油圧を推定する
    ことを特徴とする係合機構の油圧制御装置。
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