以下、本発明の方向性電磁鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
A.方向性電磁鋼板
本発明の方向性電磁鋼板は、表面に圧延方向と交差する方向に延在し、かつ深さ方向が板厚方向となる溝が形成された母鋼板を有し、上記溝が形成されていない上記母鋼板の表面の平坦部上に1種または2種以上の絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板であって、上記母鋼板に形成された上記溝の最大深さは、上記平坦部における上記母鋼板の板厚をtとしたときt/30以上であり、上記母鋼板に形成された上記溝の内面に接するように上記1種または2種以上の絶縁被膜のうちの最表層の絶縁被膜が形成され、上記溝内の上記母鋼板と上記最表層の絶縁被膜との界面に、直径が1000nm以下である特定元素濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成されたことを特徴とする。
図1は、本発明の方向性電磁鋼板の一例の概略斜視図である。図2(a)は、本発明の方向性電磁鋼板における溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造の一例の概略断面図である。図2(b)は、図2(a)のA部分の拡大図である。本発明の方向性電磁鋼板の一例は、図1において母鋼板以外の構成が省略されて示され、図2(a)および図2(b)において母鋼板以外の構成も含めて示されている。
図1に示されるように、方向性電磁鋼板100は、板幅が数1000mm、板厚が300μmの母鋼板101を有する。母鋼板101の表面には、矢印Xで示される圧延方向に垂直な方向(矢印Xで示される圧延方向と交差する方向)に延在し、かつ深さ方向が板厚方向となる複数の溝101aが形成されている。複数の溝101aは、母鋼板101の表面において一端から他端まで圧延方向に垂直な方向に延びるように形成されている。複数の溝101aは、圧延方向に沿って所定間隔で形成され、圧延方向に垂直な方向の長さが板幅と同一、幅が50μm、最大深さが20μmである。溝101aの最大深さ(20μm)は、母鋼板101の表面の平坦部における母鋼板101の板厚(300μm)をtとしたときt/30以上となっている。
図2(a)には、溝101aの延伸方向に垂直な断面での溝101a内の母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面構造を示した。図2(a)に示されるように、溝101aが形成されていない母鋼板101の表面の平坦部101bにおいては、平坦部101b上にグラス被膜102が形成され、グラス被膜102上に第1絶縁被膜103が形成され、第1絶縁被膜103上に第1絶縁被膜103とは異なる種類の第2絶縁被膜104が形成されている。また、溝101aの内面に接するように第2絶縁被膜104が形成されている。
なお、第1絶縁被膜103および第2絶縁被膜104は、本発明における2種以上の絶縁被膜であり、第2絶縁被膜104は、当該2種以上の絶縁被膜のうちの最表層の絶縁被膜、第1絶縁被膜103は、当該2種以上の絶縁被膜のうちの最表層以外の絶縁被膜である。
図2(a)および図2(b)に示される溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造を形成する場合には、まず、一般的な方向性電磁鋼板の製造方法によって、グラス被膜102が仕上げ焼鈍により母鋼板101の表面の平坦部101b上に形成された方向性電磁鋼板100を製造する。次に、母鋼板101に張力が付与されて鉄損が低減されるように、かつ母鋼板101を積層して構成する鉄心等の電磁部材において鋼板間が電気的に絶縁されるように、グラス被膜102上に第1絶縁被膜103を形成する。次に、鋼板の磁区を制御して鉄損を低減するために、レーザー照射またはエッチングでの化学的反応により、母鋼板101の表面に、圧延方向と交差する方向に延在し、かつ深さ方向が板厚方向となる溝101aを形成する。レーザー照射により形成する場合、グラス被膜102および第1絶縁被膜103ならびに母鋼板101は一瞬で溶けて蒸発する。また、エッチングでの化学的反応により溝101aを形成する場合も、グラス被膜102および第1絶縁被膜103ならびに母鋼板101は溶解除去される。このため、図2(a)および図2(b)に示されるように、溝101aの内面上にグラス被膜102および第1絶縁被膜103が残存することはない。
これにより、溝101aの内面の全体で母鋼板101が剥き出しとなるため、方向性電磁鋼板100では、溝101aが形成された部分で絶縁性が確保できない問題や耐食性および外観不良等の問題が生じることになる。これらの問題を回避するためには、溝101aの内面上に第2絶縁被膜104を形成する必要があるが、第2絶縁被膜104および母鋼板101の密着性は低いため、溝101aの内面上に第2絶縁被膜104を形成したとしても、第2絶縁被膜104が鉄心等の電磁部材の製造過程で剥離するので、これらの問題を回避することはできない。そこで、図2(a)および図2(b)に示される溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造を形成する場合には、溝101aの内面に接するように第2絶縁被膜104を形成する前に、溝101aの内面に接するように特定元素濃化部105を形成する。
これにより、図2(a)および図2(b)に示される溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造では、母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面が溝101aの内面の全体に存在し、溝101aの内面の全体に存在する母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面に、直径が1000nm以下である特定元素濃化部105が、0.1個/μm以上の密度で形成されている。より具体的には、溝101aの延伸方向に垂直な母鋼板101の断面において、溝内の母鋼板101と第2絶縁被膜104および特定元素濃化部105との境界における一または二以上の密度算出用区間において、特定元素濃化部105が母鋼板101と第2絶縁被膜104および特定元素濃化部105との境界に接するように0.1個/μm以上の密度で形成されている。
母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面において、特定元素濃化部105が形成されていない箇所では、母鋼板101および第2絶縁被膜104の間で成分の混合および原子の拡散が生じる。一方、母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面において、特定元素濃化部105が形成された箇所では、特定元素濃化部105が形成されていない箇所とは異なる反応が生じる。これにより、図2(b)に示されるように、溝101aの内面の全体に存在する母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面では反応が局所的に変動するため、母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面構造の複雑化が生じる。この結果、いわゆるアンカー効果が増大するので、溝101a内おいて母鋼板101および第2絶縁被膜104の密着性が向上する。
図2(a)および図2(b)に示される例では、母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面が溝101aの内面の全体に存在する溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造を説明したが、本発明における溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造はこれに限定されるものではなく、図3(a)および図3(b)に示される例のような溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造でもよい。図3(a)は、本発明の方向性電磁鋼板における溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造の他の例の概略断面図である。図3(b)は、図3(a)のA部分の拡大図である。本発明の方向性電磁鋼板の一例は、図1において母鋼板以外の構成が省略されて示され、図3(a)および図3(b)において母鋼板以外の構成も含めて示されている。
図3(a)には、溝101aの延伸方向に垂直な断面での溝101a内の母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面構造を示した。図3(a)に示されるように、溝101aが形成されていない母鋼板101の表面の平坦部101bにおいては、平坦部101b上にグラス被膜102が形成され、グラス被膜102上に第1絶縁被膜103が形成され、第1絶縁被膜103上に第1絶縁被膜103とは異なる種類の第2絶縁被膜104が形成されている。また、溝101aの内面に接するように第2絶縁被膜104が形成されている。
なお、第1絶縁被膜103および第2絶縁被膜104は、本発明における2種以上の絶縁被膜であり、第2絶縁被膜104は、当該2種以上の絶縁被膜のうちの最表層の絶縁被膜、第1絶縁被膜103は、当該2種以上の絶縁被膜のうちの最表層以外の絶縁被膜である。
図3(a)および図3(b)に示される溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造を形成する場合には、まず、図2(a)および図2(b)に示される例と同様に、グラス被膜102が形成された方向性電磁鋼板100を製造し、グラス被膜102上に第1絶縁被膜103を形成する。次に、鋼板の磁区を制御して鉄損を低減するために、機械的加工により、母鋼板101の表面に、圧延方向と交差する方向に延在し、かつ深さ方向が板厚方向となる溝101aを形成する。この場合、金型を母鋼板101に押し付けることや凹凸ロールで軽い圧延を行うことにより、母鋼板101を変形させて溝101aを形成する。このため、図3(a)および図3(b)に示されるように、溝101aの内面上において、グラス被膜102は部分的に破壊され剥離するものの部分的に残存する。また、第1絶縁被膜103も、溝101a内において部分的に剥離するものの、残存したグラス被膜102上に部分的に残存する。
これにより、溝101aの内面では部分的に母鋼板101が剥き出しとなるため、方向性電磁鋼板100では、溝101aの内面において母鋼板101が剥き出しとなった部分で絶縁性が確保できない問題や耐食性および外観不良等の問題が生じることになる。これらの問題を回避するためには、溝101aの内面上に第2絶縁被膜104を形成する必要があるが、第2絶縁被膜104および母鋼板101の密着性は低いため、溝101aの内面において母鋼板101が剥き出しとなった部分および第2絶縁被膜104の密着性は低い。このため、溝101aの内面において母鋼板101が剥き出しとなった部分では、溝101aの内面上に第2絶縁被膜104を形成したとしても、第2絶縁被膜104が鉄心等の電磁部材の製造過程で剥離するので、これらの問題を回避することはできない。そこで、図3(a)および図3(b)に示される溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造を形成する場合には、溝101aの内面に接するように第2絶縁被膜104を形成する前に、溝101aの内面に接するように特定元素濃化部105を形成する。
これにより、図3(a)および図3(b)に示される溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造では、母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面が溝101aの内面に部分的に存在し、溝101aの内面に部分的に存在する母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面に、直径が1000nm以下である特定元素濃化部105が、0.1個/μm以上の密度で形成されている。より具体的には、溝101aの延伸方向に垂直な母鋼板101の断面において、溝内の母鋼板101と第2絶縁被膜104および特定元素濃化部105との境界における一または二以上の密度算出用区間において、特定元素濃化部が母鋼板101と第2絶縁被膜104および特定元素濃化部105との境界に接するように0.1個/μm以上の密度で形成されている。
このため、溝101aの内面に部分的に存在する母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面でも、図2(a)および図2(b)に示される溝101aの内面の全体に存在する両者の界面と同様に、反応が局所的に変動するため、母鋼板101と第2絶縁被膜104との界面構造の複雑化が生じる。この結果、いわゆるアンカー効果が増大するので、溝101a内おいて母鋼板101および第2絶縁被膜104の密着性が向上する。
したがって、図2(a)および図2(b)に示される例ならびに図3(a)および図3(b)に示される例で説明したように、本発明においては、母鋼板に形成された溝の内面に接するように最表層の絶縁被膜が形成され、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、上述の特定元素濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成されていることにより、溝内において母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上する。このため、本発明によれば、方向性電磁鋼板を、トランス等の電磁部材製造時に加工された後においても、絶縁性が損なわれずに極めて良好な磁気特性を示し、耐食性が高く、電磁部材の外観が損なわれないものにすることができる。
以下、本発明の方向性電磁鋼板における各構成について説明する。
1.母鋼板
まず、本発明の方向性電磁鋼板における母鋼板について説明する。
本発明における母鋼板は、特に限定されるものではないが、質量%で、Si:0.8%〜7%、C:0%よりも高く0.085%以下、酸可溶性Al:0%〜0.065%、N:0%〜0.012%、Mn:0%〜1%、Cr:0%〜0.3%、Cu:0%〜0.4%、P:0%〜0.5%、Sn:0%〜0.3%、Sb:0%〜0.3%、Ni:0%〜1%、S:0%〜0.015%、Se:0%〜0.015%を含有し、残部がFeおよび不純物からなることが好ましい。
母鋼板の化学組成は、結晶方位を{110}<001>方位に集積させたGoss集合組織に制御するために好ましい化学成分である。母鋼板の化学組成の元素のうち、SiおよびCが基本元素であり、酸可溶性Al、N、Mn、Cr、Cu、P、Sn、Sb、Ni、S、およびSeが選択元素である。これらの選択元素は、その目的に応じて含有させればよいので下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。また、これらの選択元素が不可避的不純物として含有されても、本発明の効果は損なわれない。母鋼板は、基本元素および選択元素の残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
なお、本発明において、「不可避的不純物」とは、母鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境等から不可避的に混入する元素を意味する。
また、電磁鋼板では二次再結晶時に純化焼鈍を経ることが一般的である。純化焼鈍においてはインヒビター形成元素の系外への排出が起きる。特にN、Sについては濃度の低下が顕著で、50ppm以下になる。通常の純化焼鈍条件であれば、9ppm以下、さらには6ppm以下、純化焼鈍を十分に行えば、一般的な分析では検出できない程度(1ppm以下)にまで達する。
母鋼板の化学成分は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、母鋼板の化学成分は、ICP−AES(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。具体的には、例えば、被膜除去後の母鋼板の中央の位置から35mm角の試験片を取得し、島津製作所製ICPS−8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより特定できる。なお、CおよびSは燃焼−赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解−熱伝導度法を用いて測定すればよい。
なお、母鋼板の化学成分は、方向性電磁鋼板から後述の方法により後述のグラス被膜および絶縁被膜を除去した鋼板を、母鋼板としてその成分を分析した成分である。
2.絶縁被膜
1種または2種以上の絶縁被膜は、溝が形成されていない母鋼板の表面の平坦部上に形成されている。
図2(a)および図3(a)に示される第1絶縁被膜103のような、上記1種または2種以上の絶縁被膜のうちの最表層以外の絶縁被膜は、例えば、コロイダルシリカおよびリン酸塩を含有し、電気的絶縁性だけでなく、張力、耐食性および耐熱性等を母鋼板に与える役割を担っている。
3.グラス被膜
本発明では、母鋼板の表面の平坦部上にグラス被膜が形成され、グラス被膜上に1種または2種以上の絶縁被膜が形成されていてもよい。
グラス被膜は、例えば、フォルステライト(Mg2SiO4)、スピネル(MgAl2O4)、またはコーディエライト(Mg2Al4Si5O16)などの複合酸化物によって構成される。詳細については後述の「B.方向性電磁鋼板の製造方法 7.その他の工程」の項目で説明するが、グラス被膜は、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法の1つの工程である仕上げ焼鈍工程において、鋼板に焼き付きが発生することを防止するために形成される被膜である。
4.母鋼板に形成された溝および溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造
本発明の方向性電磁鋼板では、母鋼板の表面に圧延方向と交差する方向に延在し、かつ深さ方向が板厚方向となる溝が形成されている。溝の最大深さは、平坦部における上記母鋼板の板厚をtとしたときt/30以上である。母鋼板に形成された溝の内面に接するように1種または2種以上の絶縁被膜のうちの最表層の絶縁被膜が形成されている。溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、直径が1000nm以下である特定元素濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成されている。
以下、母鋼板に形成された溝および溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造について詳細に説明する。
(1)溝
溝は、母鋼板の表面に形成され、圧延方向と交差する方向に延在し、かつ深さ方向が板厚方向となるものである。溝の最大深さは、平坦部における母鋼板の板厚をtとしたときt/30以上である。
溝の最大深さは、t/30以上t/8以下の範囲内であることが好ましい。t/30より浅いと鉄損を低減する作用が弱くなり、t/8より深いと磁束密度の劣化を招き鉄損特性が悪くなるからである。
また、溝の幅は、10μm〜500μmの範囲内であることが好ましく、中でも20μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。500μmを超えると磁束密度の劣化が大きくなり、鉄損を低減する作用が認められないからであり、10μmより狭くすることは技術的に難しいからである。
また、溝の圧延方向と交差する方向の長さは、十分な磁区制御の効果を得るため、母鋼板の板厚以上の範囲内であることが好ましい。また、長過ぎても特性上の致命的な問題は生じないが、溝を形成する工程において母鋼板の板幅より短い溝を母鋼板の幅方向全体に分散させるように配置しても良い。
さらに、溝としては、例えば、圧延方向に沿って数10〜数1000μmの所定間隔で形成されている複数の溝が挙げられる。
(2)最表層の絶縁被膜
母鋼板に形成された溝の内面に接するように1種または2種以上の絶縁被膜のうちの最表層の絶縁被膜が形成されている。
1種または2種以上の絶縁被膜が、図2(a)および図3(a)に示される第1絶縁被膜103および第2絶縁被膜104のような2種以上の絶縁被膜である場合には、第2絶縁被膜104のような2種以上の絶縁被膜のうちの最表層の絶縁被膜が、最表層の絶縁被膜となる。1種または2種以上の絶縁被膜が1種の絶縁被膜である場合には、1種の絶縁被膜が最表層の絶縁被膜となる。
(3)溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造
溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、直径が1000nm以下である特定元素濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成されている。
ここで、本発明において、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、特定元素濃化部が0.1個/μm以上の密度で形成されている構造とは、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面において、溝内の母鋼板と他の領域との境界における一または二以上の密度算出用区間に形成されている特定元素濃化部の合計の個数[個]を、当該一または二以上の密度算出用区間の合計の長さ[μm]で割って求められる特定元素濃化部の密度[個/μm]が、0.1個/μm以上となる構造を意味する。また、特定元素濃化部が密度算出用区間に形成されているとは、特定元素濃化部が密度算出用区間において溝内の母鋼板と他の領域との境界に接するように形成されていることを意味する。
また、密度算出用区間とは、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面に表われる溝内の母鋼板と他の領域との境界において、母鋼板と最表層の絶縁被膜および特定元素濃化部との境界、または母鋼板と最表層の絶縁被膜、特定元素濃化部、および後述のSiO2粒子との境界が連続した区間であり、かつ一端から他端までに5個以上の特定元素濃化部が形成された区間を意味する。これは、密度算出用区間として、恣意的に長さの短い区間が使用されると、実態以上に高い特定元素濃化部の密度が求められるからである。
また、本発明において、「特定元素濃化部」とは、Ni、Co、Cr、Mo、V、およびMnから選ばれた1種または2種以上の特定元素の合計の濃度が30質量%以上となっている濃化領域、または上記濃化領域および上記濃化領域の周囲の領域からなる領域であって、上記1種または2種以上の特定元素の合計の濃度の平均が30質量%以上である領域を意味する。そして、上記濃化領域とは、EPMAやEDX等を使用して作成された溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面の各位置における各元素濃度のマッピング像において、上記1種または2種以上の特定元素の合計の濃度が30質量%以上となっている領域を意味する。
また、本発明において、「直径が1000nm以下である特定元素濃化部」とは、母鋼板に形成された溝の内面への特定元素濃化部の投影面積と同一面積の円の直径が1000nm以下である特定元素濃化部を意味する。
なお、Ni、Co、Cr、Mo、V、およびMnは、母鋼板を構成する鉄(Fe)および最表層の絶縁被膜を構成する元素(P、Si、およびAl等)との酸化性が大きく異なる。このため、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、これらの元素から選ばれた1種または2種以上の元素を含有する特定元素濃化部を形成することによって、母鋼板に形成された溝の内面に接するように最表層の絶縁被膜を形成する時に生じる母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面の反応において、母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面の構造の複雑化が生じる。これにより、母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上するため、本発明においては、これらの元素から選ばれた1種または2種以上の元素が特定元素として用いられる。また、本発明において、上記1種または2種以上の特定元素の合計の濃度の平均が30質量%以上である特定元素濃化部が形成されているのは、特定元素濃化部における上記1種または2種以上の特定元素の合計の濃度の平均が30質量%よりも小さいと、特定元素濃化部と母鋼板および絶縁被膜との反応において、鋼板および後述の絶縁被膜の密着性を向上させるに十分な反応が得られないからである。
a.溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面
溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面は、特に限定されるものではないが、算術平均粗さ(Ra)が3μm以上であるものが好ましい。溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面が、微細な噛み込み形状となることにより、いわゆるアンカー効果がさらに増大するので、溝内において母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が顕著に向上するからである。
ここで、本発明において、「溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面の算術平均粗さ(Ra)が3μm以上である」とは、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面において、溝内の母鋼板と他の領域との境界における一または二以上の密度算出用区間を粗さ曲線として測定した算術平均粗さ(Ra)を意味する。
b.特定元素濃化部
特定元素濃化部としては、上記1種または2種以上の特定元素の合計の濃度の平均が30質量%以上であるものであれば特に限定されるものではないが、中でも上記1種または2種以上の特定元素の合計の濃度の平均が60質量%以上、特に上記1種または2種以上の特定元素の合計の濃度の平均が90質量%以上であるものが好ましい。溝内の母鋼板と酸化物である最表層の絶縁被膜との反応で鉄(Fe)が酸化する過程において、上記1種または2種以上の特定元素が酸化せずに純金属としてより多く存在することにより、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造の複雑化が顕著に生じ、母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が顕著に向上するからである。
特定元素濃化部としては、直径が1000nm以下でありかつ界面に0.1個/μm以上の密度で形成されているものであれば特に限定されるものではないが、中でも直径が600nm以下でありかつ界面に0.3個/μm以上の密度で形成されているもの、特に直径が300nm以下でありかつ界面に10個/μm以上の密度で形成されているものが好ましい。溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面において反応が局所的に変動する周期が短くなることにより、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造の複雑化が顕著に生じる。この結果、いわゆるアンカー効果がさらに増大するので、溝内において母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が顕著に向上するからである。
c.SiO2粒子
本発明では、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、直径が1000nm以下であるSiO2粒子がさらに形成されていることが好ましい。酸化物であるSiO2粒子は、母鋼板および最表層の絶縁被膜との反応性が特定元素濃化部とは異なるため、SiO2粒子が形成されていない場合と比較して、上記界面において反応が局所的に変動する効果が顕著となる。これにより、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造の複雑化が顕著に生じる結果、溝内において母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が顕著に向上するからである。なお、SiO2粒子の直径を1000nm以下とするのは、上記界面においてSiO2粒子により反応が局所的に変動する領域を短くなることにより、上記界面構造の複雑化が顕著に生じ、上記密着性が顕著に向上するからである。
ここで、本発明において、「直径が1000nm以下であるSiO2粒子」とは、母鋼板に形成された溝の内面へのSiO2粒子の投影面積と同一面積の円の直径が1000nm以下であるSiO2粒子を意味する。
溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、SiO2粒子をさらに形成するためには、「B.方向性電磁鋼板の製造方法 5.特定元素濃化部形成工程」の項目に記載の通り、浸漬めっき法を使用して、溝形成後の鋼板に上述の特定元素濃化部を形成する方法において、溝形成後の鋼板を、特定元素を含有する表面処理用水溶液に浸漬すると同時、またはその直前もしくは直後に、溝形成後の鋼板にSiO2粒子を塗布することが好ましい。中でも、特定元素を含有する表面処理用水溶液にSiO2粒子を含有させることにより、溝形成後の鋼板を表面処理用水溶液に浸漬すると同時に、溝形成後の鋼板にSiO2粒子を塗布することが実用的に好ましい。
SiO2粒子としては、直径が1000nm以下である粒子であれば特に限定されるものではないが、中でも直径が100nm以下、特に直径が10nm以下である粒子が好ましい。直径をより小さくすることによって、上記界面においてSiO2粒子による反応の局所的な変動が生じる領域をさらに短くすることにより、上記界面構造の複雑化をさらに顕著にして、上記密着性を顕著にさらに向上させることができるからである。
SiO2粒子としては、上記界面に0.1個/μm以上の密度で形成されている粒子が好ましく、中でも0.3個/μm以上、特に10個/μm以上の密度で形成されている粒子が好ましい。上記界面においてSiO2粒子により反応が局所的に変動する周期が短くなることにより、上記界面構造の複雑化がより顕著に生じ、上記密着性がより顕著に向上するからである。
ここで、本発明において、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、SiO2粒子が0.1個/μm以上の密度で形成されている構造とは、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面において、溝内の母鋼板と他の領域との境界における一または二以上の密度算出用区間に形成されているSiO2粒子の合計の個数[個]を、当該一または二以上の密度算出用区間の合計の長さ[μm]で割って求められるSiO2粒子の密度[個/μm]が、0.1個/μm以上となる構造を意味する。
なお、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面にさらに形成させる酸化物粒子としては、SiO2粒子以外のものも考えられる。しかしながら、窒素(N)と反応して窒化物を形成し易い金属元素を含む酸化物粒子では、最表層の絶縁被膜を形成するための熱処理中に窒化物を形成し、窒化物が母鋼板表層の磁壁移動の障害となり磁気特性を劣化させることがあるので避けるべきである。例えば、Al2O3粒子、ZrO2粒子、TiO2粒子等は密着性の観点では効果が得られるものの磁気特性を劣化させることがある。
d.溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造
本発明では、密度算出用区間としては、上述の区間であれば特に限定されるものではないが、中でも一端から他端までに10個以上の特定元素濃化部が形成された区間、特に一端から他端までに20個以上の特定元素濃化部が形成された区間が好ましい。溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面のより広い範囲において、母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上しているからである。
また、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、特定元素濃化部が0.1個/μm以上の密度で形成されている構造としては、上述の構造であれば特に限定されるものではないが、中でも、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面において、溝内の母鋼板と他の領域との境界における二以上の密度算出用区間に形成されている特定元素濃化部の個数[個]を、当該二以上の密度算出用区間の合計の長さ[μm]で割って求められる特定元素濃化部の密度[個/μm]が、0.1個/μm以上となる構造が好ましい。溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面のより広い範囲において、母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上しているからである。
また、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、特定元素濃化部が0.1個/μm以上の密度で形成されている構造としては、上述の構造であれば特に限定されるものではないが、中でも、溝の延伸方向に1μmの間隔で指定した複数の位置における溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面において、上述の特定元素濃化部の密度[個/μm]が、0.1個/μm以上となる構造が好ましい。溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面のより広い範囲において、母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上しているからである。
母鋼板に形成された溝は、一般的にはレーザー照射もしくはエッチングでの化学的反応、または機械的加工等の方法により形成される。溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造は、これらの形成方法次第で大きく異なる。レーザー照射またはエッチングでの化学的反応により形成された上記界面構造は、図2(a)に示される例のようになり、機械的加工により形成された上記界面構造は、図3(a)に示される例のようになる。
なお、図3(a)に示される例において、母鋼板101に形成された溝101aの内面上に部分的に残存するグラス被膜102および残存したグラス被膜102上に部分的に残存する第1絶縁被膜103は、上述の「3.グラス被膜」の項目に記載のグラス被膜および上述の「2.絶縁被膜」の項目に記載の1種または2種以上の絶縁被膜のうちの最表層以外の絶縁被膜が、溝の内面上に部分的に残存したものである。そして、母鋼板に形成された溝内には、例えば、図3(a)に示される例のように、母鋼板101と第1絶縁被膜103との界面や第1絶縁被膜103とグラス被膜102との界面のような母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面以外の界面が存在する場合もある。しかしながら、母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面以外の界面は、本発明において制御を要するものではない。
e.溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造の決定方法
上記溝内の母鋼板、上記1種または2種以上の絶縁被膜、上記グラス被膜、上記特定元素濃化部、上記濃化領域、および上記SiO2粒子の各領域の位置、形状、および大きさは、例えば、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面の各位置における各元素濃度(各元素の質量%)等から決定される。より具体的には、例えば、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面の各位置における各元素濃度のマッピング像等から決定される。これにより、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造は、決定される。また、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面の各位置における各元素濃度は、例えば、EPMAやEDX等を使用して測定される。
また、上記溝内の母鋼板、上記1種または2種以上の絶縁被膜、上記グラス被膜、上記特定元素濃化部、および上記SiO2粒子における2つの領域の界面では、鋼板製造過程の熱処理により、上記2つの領域に含まれる含有元素が少なからず相互拡散する。このため、上記2つの領域の界面は不明瞭になり、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面において、上記2つの領域の境界も不明瞭になる。
そこで、本発明では、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面において、上記2つの領域の境界は、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面において、一方の領域において相互拡散の影響が及んでいない箇所における特定の含有元素の濃度を100%とした場合に、特定の含有元素の濃度が50%となる位置と定義する。そして、この位置は、例えば、EPMAやEDX等を使用して測定される溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面の各位置における各元素濃度から定義する。
具体的には、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面において、上記2つの領域(領域1および領域2)の境界は、下記表1に示すように定義する。
また、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面の算術平均粗さ(Ra)は、溝の延伸方向に垂直な母鋼板の断面の各位置における各元素濃度から決定される母鋼板および1種または2種以上の絶縁被膜の位置、形状、および大きさから計算することもできるが、SEMでの断面観察を行って観察された界面の位置、形状、および大きさから計算することもできる。
5.製造方法
本発明の方向性電磁鋼板は、後述の「B.方向性電磁鋼板の製造方法」に記載の方向性電磁鋼板の製造方法により製造することが好ましい。
6.その他
本発明の方向性電磁鋼板では、上述のように、母鋼板に形成された溝の内面において、グラス被膜および最表層以外の絶縁被膜が破壊され剥離し、母鋼板が剥き出しとなった部分で生じる問題を回避するために、第2絶縁被膜104のような1種または2種以上の絶縁被膜のうちの最表層の絶縁被膜が、母鋼板に形成された溝の内面に接するように形成されている。このため、本発明の方向性電磁鋼板における被膜構造は、最表層の絶縁被膜が、母鋼板の表面の平坦部、または母鋼板に形成された溝の内面の一部に存在するグラス被膜上に形成された最表層以外の絶縁被膜上に形成された被膜構造になり得る。そして、最表層および最表層以外の絶縁被膜は、異なる材料から構成される必要はなく、生産を容易にするために同一材料から構成される場合がある。この場合には、最表層および最表層以外の絶縁被膜を区別することができない状況もあり得るが、このような状況では、最表層および最表層以外の絶縁被膜を含有する単一の絶縁被膜が形成されている被膜構造として認識されることになる。
上述のグラス被膜および絶縁被膜は、例えば、以下の方法によって方向性電磁鋼板から除去することができる。まず、グラス被膜または絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板を、NaOH:10質量%およびH2O:90質量%を含有する水酸化ナトリウム水溶液に、80℃で15分間浸漬する。次に、H2SO4:10質量%およびH2O:90質量%を含有する硫酸水溶液に、80℃で3分間浸漬する。次に、HNO3:10質量%およびH2O:90質量%を含有する硝酸水溶液に、常温で1分間弱、浸漬して洗浄する。最後に、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させる。
B.方向性電磁鋼板の製造方法
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上述の「A.方向性電磁鋼板」の項目に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、溶鋼を鋳造してスラブとする鋳造工程と、上記スラブの熱間圧延を行う熱間圧延工程と、上記熱間圧延後の鋼板に一回または中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延を行う冷間圧延工程と、上記冷間圧延後の鋼板に上記溝を形成する溝形成工程と、上記溝形成後の鋼板に上記特定元素濃化部を形成する特定元素濃化部形成工程と、上記特定元素濃化部形成後の鋼板に上記最表層の絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程と、を有することを特徴とする。
以下、方向性電磁鋼板の製造方法における各工程について説明する。本発明を特定するために必要な工程の条件は、溝形成工程、特定元素濃化部形成工程、および絶縁被膜形成工程に関するものである。溝形成工程、特定元素濃化部形成工程、および絶縁被膜形成工程以外の工程の条件についての以下の説明は、一般的な条件を参考までに示したものであり、その条件を充足しなかったとしても、本発明の効果を得ることは可能である。
1.鋳造工程
鋳造工程においては、溶鋼を鋳造してスラブとする。
鋳造工程においては、特に限定されるものではないが、例えば、質量%で、Si:0.8%〜7%、C:0%よりも高く0.085%以下、酸可溶性Al:0%〜0.065%、N:0%〜0.012%、Mn:0%〜1%、Cr:0%〜0.3%、Cu:0%〜0.4%、P:0%〜0.5%、Sn:0%〜0.3%、Sb:0%〜0.3%、Ni:0%〜1%、S:0%〜0.015%、Se:0%〜0.015%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる溶鋼を鋳造してスラブとする。具体的には、溶鋼を連続鋳造機に供給して、スラブを連続的に製出する。
2.熱間圧延工程
熱間圧延工程においては、スラブの熱間圧延を行う。
熱間圧延工程においては、鋳造工程で得られたスラブを所定の温度(例えば1150〜1400℃の範囲内の温度)に加熱した後に、熱間圧延を行うことが好ましい。析出物を一度溶体化させ固溶させることで熱間圧延時に微細析出物として析出させることが、熱間圧延の目的の一つだからである。熱間圧延条件は、特に限定されるものではないが、例えば、750〜1200℃で30秒〜10分間加熱する。また、例えば、1.8mm〜3.5mmの板厚を有する鋼板を得る。
3.冷間圧延工程
冷間圧延工程においては、熱間圧延後の鋼板に一回または中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延を行う。
冷間圧延工程においては、熱間圧延後の鋼板の表面に酸洗処理を実施した後、一回または中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延を行うことが好ましい。冷間圧延条件は、特に限定されるものではないが、例えば、700〜900℃で1〜3分間加熱する。また、例えば、0.15〜0.35mmの板厚を有する鋼板を得る。
4.溝形成工程
溝形成工程においては、冷間圧延後の鋼板に、上述の「A.方向性電磁鋼板 4.母鋼板に形成された溝および溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造 (1)溝」の項目に記載の溝を形成する。具体的には、冷間圧延後の鋼板の表面に圧延方向と交差する方向に延在し、かつ深さ方向が板厚方向となる溝を形成する。
溝を形成する方法としては、公知のどのような方法でも構わないが、例えば、レーザー照射、エッチングでの化学的反応、機械的加工等が挙げられる。
5.特定元素濃化部形成工程
特定元素濃化部形成工程においては、溝形成後の鋼板に上述の「A.方向性電磁鋼板 4.母鋼板に形成された溝および溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造 (3)溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造」の項目に記載の特定元素濃化部を形成する。
具体的には、母鋼板に形成された溝の内面に、直径が1000nm以下である特定元素濃化部を0.1個/μm以上の密度で形成する。
母鋼板に形成された溝の内面に特定元素濃化部を形成する方法としては、例えば、浸漬めっき法、イオンプレーティング、めっき、各種物質の塗装など様々な方法を適用することが可能であり、また、複数の元素を含有する物質を一度に塗布してもよいし、元素を一種のみ、または一種ずつ複数回塗布してもよい。中でも、浸漬めっき法を使用して、特定元素を含有する表面処理用水溶液に溝形成後の鋼板を浸漬することにより、溝形成後の鋼板に特定元素濃化部を形成する方法が好ましい。特定元素を含有する表面処理用水溶液に溝形成後の鋼板を浸漬するだけで、特定元素濃化部を形成することができ、工業的にも実施が容易だからである。また、工業的にも実施が容易な浸漬めっき法では、公知の知見を活用して溶解している化学物質を変化させれば、様々な物質を鋼板上に塗布することが容易だからである。
そして、特定元素濃化部形成工程としては、例えば、溝形成後の鋼板を、NiSO4・7H2Oを含有する硫酸ニッケル水溶液(表面処理用水溶液)に浸漬する浸漬めっき法により、Niを上記1種の特定元素として用いて、Niの平均濃度が30質量%以上であるNi濃化部を上記特定元素濃化部として形成する工程が挙げられる。この工程におけるNiSO4・7H2Oの濃度、硫酸ニッケル水溶液の温度およびpH、ならびに浸漬時間の条件は、使用する設備や対象となる母鋼板および目的とする特性レベルに応じて適切に調整すればよいが、中でも、NiSO4・7H2Oを1〜8質量%含有し、温度が20〜100℃、pHが1〜8である硫酸ニッケル水溶液に30秒〜30分浸漬する条件が好ましい。pHについては、この範囲において鋼板と表面処理用水溶液との反応効率が高いとの知見が実験的に得られているからである。また、浸漬時間については、この範囲よりも短いと鋼板表層に特定元素が十分に濃化できず、この範囲よりも長いと鋼板表層全体に特定元素が濃化してしまい密着性が低下するからである。また、濃度については浸漬時間同様に、この範囲よりも低いと特定元素が十分に濃化されず、この範囲よりも高いと鋼板表層全体に特定元素が濃化してしまい密着性が低下するからである。さらに、温度については、この範囲よりも低いと反応効率が低く濃化が促進されず、この範囲よりも高いと効率が良すぎることでやはり鋼板表層全体に特定元素が濃化するもしくは絶縁皮膜の化学成分が溶け出す場合があるからである。
また、特定元素濃化部形成工程としては、例えば、溝形成後の鋼板を、CoCl・6H2Oを含有する塩化コバルト水溶液(表面処理用水溶液)に浸漬する浸漬めっき法により、Coを上記1種の特定元素として用いて、Coの平均濃度が30質量%以上であるCo濃化部を上記特定元素濃化部として形成する工程が挙げられる。この工程におけるCoCl・6H2Oの濃度、塩化コバルト水溶液の温度およびpH、ならびに浸漬時間の条件は、使用する設備や対象となる母鋼板および目的とする特性レベルに応じて適切に調整すればよいが、中でも、CoCl・6H2Oを1〜8質量%を含有し、温度が20〜100℃、pHが7〜13である塩化コバルト水溶液に10〜30分浸漬する条件が好ましい。浸漬めっき法によりNi濃化部を形成する工程の好ましい条件が好ましい理由と同様の理由からである。
また、特定元素濃化部形成工程としては、例えば、溝形成後の鋼板を、Na2Cr2O7・2H2Oを含有するニクロム酸ナトリウム水溶液(表面処理用水溶液)に浸漬する浸漬めっき法により、Crを上記1種の特定元素として用いて、Crの平均濃度が30質量%以上であるCr濃化部を上記特定元素濃化部として形成する工程が挙げられる。この工程におけるNa2Cr2O7・2H2Oの濃度、ニクロム酸ナトリウム水溶液の温度およびpH、ならびに浸漬時間の条件は、使用する設備や対象となる母鋼板および目的とする特性レベルに応じて適切に調整すればよいが、中でも、Na2Cr2O7・2H2Oを1〜8質量%含有し、温度が20〜100℃、pHが10〜14であるニクロム酸ナトリウム水溶液に10〜30分浸漬する条件が好ましい。浸漬めっき法によりNi濃化部を形成する工程の好ましい条件が好ましい理由と同様の理由からである。
また、特定元素濃化部形成工程としては、例えば、溝形成後の鋼板を、Na2MoO4・2H2Oを含有するモリブデン酸ナトリウム水溶液(表面処理用水溶液)に浸漬する浸漬めっき法により、Moを上記1種の特定元素として用いて、Moの平均濃度が30質量%以上であるMo濃化部を上記特定元素濃化部として形成する工程が挙げられる。この工程におけるNa2MoO4・2H2Oの濃度、モリブデン酸ナトリウム水溶液の温度およびpH、ならびに浸漬時間の条件は、使用する設備や対象となる母鋼板および目的とする特性レベルに応じて適切に調整すればよいが、中でも、Na2MoO4・2H2Oを1〜8質量%含有し、温度が20〜100℃、pHが10〜14であるモリブデン酸ナトリウム水溶液に10〜30分浸漬する条件が好ましい。浸漬めっき法によりNi濃化部を形成する工程の好ましい条件が好ましい理由と同様の理由からである。
また、特定元素濃化部形成工程としては、例えば、溝形成後の鋼板を、VOSO4・H2Oを含有する硫酸バナジウム水溶液(表面処理用水溶液)に浸漬する浸漬めっき法により、Vを上記1種の特定元素として用いて、Vの平均濃度が30質量%以上であるV濃化部を上記特定元素濃化部として形成する工程が挙げられる。この工程におけるVOSO4・H2Oの濃度、硫酸バナジウム水溶液の温度およびpH、ならびに浸漬時間の条件は、使用する設備や対象となる母鋼板および目的とする特性レベルに応じて適切に調整すればよいが、中でも、VOSO4・H2Oを10〜30質量%含有し、温度が20〜100℃、pHが1〜8である硫酸バナジウム水溶液に10〜30分浸漬する条件が好ましい。浸漬めっき法によりNi濃化部を形成する工程の好ましい条件が好ましい理由と同様の理由からである。
また、特定元素濃化部形成工程としては、例えば、溝形成後の鋼板を、MnSO4・5H2Oを含有する硫酸マンガン水溶液(表面処理用水溶液)に浸漬する浸漬めっき法により、Mnを上記1種の特定元素として用いて、Mnの平均濃度が30質量%以上であるMn濃化部を上記特定元素濃化部として形成する工程が挙げられる。この工程におけるMnSO4・5H2Oの濃度、硫酸マンガン水溶液の温度およびpH、ならびに浸漬時間の条件は、使用する設備や対象となる母鋼板および目的とする特性レベルに応じて適切に調整すればよいが、中でも、MnSO4・5H2Oを10〜30質量%含有し、温度が20〜100℃、pHが1〜8である硫酸マンガン水溶液に10〜30分浸漬する条件が好ましい。浸漬めっき法によりNi濃化部を形成する工程の好ましい条件が好ましい理由と同様の理由からである。
なお、浸漬めっき法により、Co濃化部、Cr濃化部、Mo濃化部、V濃化部、およびMn濃化部を形成する工程は、浸漬時間が浸漬めっき法によりNi濃化部を形成する工程に比べて長くなる。このため、生産性の観点から、これらの工程よりも、Ni濃化部を形成する工程の方が望ましい。
さらに、浸漬めっき法を使用して、溝形成後の鋼板に特定元素濃化部を形成する工程としては、表面処理用水溶液に直径が1000nm以下であるSiO2粒子がさらに含有されていることが好ましい。SiO2粒子が含有されていない場合と比較して、溝内の鋼板と最表層の絶縁被膜との界面において反応が局所的に変動する効果が顕著となる。これにより、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造の複雑化が顕著に生じる結果、溝内において母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が顕著に向上するからである。
6.絶縁被膜形成工程
絶縁被膜形成工程においては、特定元素濃化部形成後の鋼板に上述の「A.方向性電磁鋼板 4.母鋼板に形成された溝および溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造 (2)最表層の絶縁被膜」の項目に記載の最表層の絶縁被膜を形成する。
具体的には、特定元素濃化部形成後の鋼板の溝の内面および溝の内面に形成された特定元素濃化部に、例えばコロイダルシリカおよびリン酸塩を含有する絶縁コーティング液を塗布して、これを焼付けることによって、最表層の絶縁被膜を形成する。
焼付けの条件は、特に限定されるものではないが、例えば、840〜920℃の範囲内の温度で1〜600秒間焼付ける。
以上の絶縁被膜形成工程までの工程によって、本発明の方向性電磁鋼板を製造することができる。
7.その他の工程
本発明は、一般的に一方向性電磁鋼板の製造方法において行われる工程をさらに有するものでもよい。
具体的には、本発明は、熱延板焼鈍工程をさらに有するものでもよい。
熱延板焼鈍工程においては、熱間圧延後の鋼板の熱延板焼鈍を行い、熱延板焼鈍後の鋼板を熱間圧延後の鋼板として冷間圧延工程に供する。
熱延板焼鈍条件は、特に限定されるものではないが、例えば、750〜1200℃の範囲内の温度で30秒〜10分間加熱する。
また、具体的には、本発明は、脱炭焼鈍工程をさらに有するものでもよい。
脱炭焼鈍工程においては、冷間圧延後の鋼板の脱炭焼鈍を行い、脱炭焼鈍後の鋼板を、冷間圧延後の鋼板として、後述の焼鈍分離剤塗布工程、仕上げ焼鈍工程、もしくは溝形成前の絶縁被膜形成工程、または溝形成工程に供給する。
脱炭焼鈍条件は、特に限定されるものではないが、例えば、700〜900℃の範囲内の温度で1〜3分間加熱する。脱炭焼鈍が行われると、冷延鋼板において炭素が所定量以下に低減され、一次再結晶組織が形成される。また、脱炭焼鈍が行われると、冷延鋼板の表面にシリカ(SiO2)を主成分として含有する酸化物層が形成される。
また、具体的には、本発明は、仕上げ焼鈍工程をさらに有するものでもよい。さらに、本発明が仕上げ焼鈍工程をさらに有する場合には、本発明は焼鈍分離剤塗布工程をさらに有するものでもよい。
仕上げ焼鈍工程においては、冷間圧延後の鋼板の仕上げ焼鈍を行い、仕上げ焼鈍後の鋼板を冷間圧延後の鋼板として後述の溝形成前の絶縁被膜形成工程または溝形成工程に供する。
仕上げ焼鈍条件は、特に限定されるものではないが、例えば、1100〜1300℃の範囲内の温度で20〜24時間加熱する。
焼鈍分離剤塗布工程においては、仕上げ焼鈍工程前に、冷間圧延後の鋼板に焼鈍分離剤を塗布し、焼鈍分離剤塗布後の鋼板を冷間圧延後の鋼板として仕上げ焼鈍工程に供給する。
具体的には、例えば、脱炭焼鈍後の鋼板における酸化物層の表面に焼鈍分離剤を塗布する。焼鈍分離剤としては、例えば、マグネシア(MgO)またはアルミナ(Al2O3)を主成分として含有する焼鈍分離剤等が挙げられる。
仕上げ焼鈍が行われると、脱炭焼鈍後の鋼板において二次再結晶が生じるとともに、脱炭焼鈍後の鋼板が純化される。また、仕上げ焼鈍が行われると、上述のマグネシアを主成分として含有する焼鈍分離剤を塗布していた場合、上述のシリカを主成分として含有する酸化物層がこれと反応して、フォルステライト(Mg2SiO4)等の複合酸化物を含むグラス被膜が脱炭焼鈍後の鋼板の表面に形成される。また、上述のアルミナを主成分として含有する焼鈍分離剤を塗布していた場合は、グラス被膜は形成されず、いわゆるグラスレスの方向性電磁鋼板になる。
さらに、具体的には、本発明は、溝形成前の絶縁被膜形成工程をさらに有するものでもよい。
溝形成前の絶縁被膜形成工程においては、冷間圧延後の鋼板の表面に「A.方向性電磁鋼板 2.絶縁被膜」の項目に記載の1種または2種以上の絶縁被膜のうちの最表層以外の絶縁被膜を形成し、最表層以外の絶縁被膜形成後の鋼板を冷間圧延後の鋼板として溝形成工程に供する。
具体的には、例えば、コロイダルシリカおよびリン酸塩を含有する絶縁コーティング液を冷間圧延後の鋼板の表面に塗布して、これを焼付けることによって、上述の最表層以外の絶縁被膜を形成する。焼付けの条件は、特に限定されるものではないが、例えば、840〜920℃の範囲内の温度で1〜600秒間焼付ける。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例および比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。
まず、実施例で母鋼板として使用する方向性電磁鋼板について以下に説明する。本発明の効果は母鋼板の成分や製造履歴に関わらず得られるため、後述する実施例1〜6の全ての実施例では、以下に説明する代表的な方向性電磁鋼板を母鋼板として評価を実施する。
このような代表的な方向性電磁鋼板である母鋼板を製造する時には、まず、質量%で、Si:3.2%、C:0.07%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.003%、Mn:0.5%、Cu:0.05%、P:0.01%、Sn:0.03%、Ni:0.02%、およびS:0.003%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる溶鋼を鋳造してスラブを得る。
次に、スラブの熱間圧延を行って、板厚が2.8mmの鋼板を得る。熱間圧延の条件は、1150℃で10分間加熱する条件とする。
次に、熱間圧延後の鋼板に一回の冷間圧延を行って、板幅が80mm、板厚が0.23mmの鋼板を得る。冷間圧延の条件は、700℃で1分間加熱する条件とする。
次に、冷間圧延後の鋼板の仕上げ焼鈍を行う。仕上げ焼鈍条件は、1200℃で24時間加熱する条件とする。
次に、仕上げ焼鈍後の鋼板の表面に絶縁コーティング液を塗布して、これを焼付けることによって、最表層以外の絶縁被膜を形成する。絶縁コーティング液としては、コロイダルシリカおよびリン酸塩を含有する絶縁コーティング液を用い、850℃の温度で100秒間焼付ける。
次に、最表層以外の絶縁被膜形成後の鋼板の表面に圧延方向と交差する方向に延在し、かつ深さ方向が板厚方向となる複数の溝を形成する。これにより、実施例で母鋼板として使用する方向性電磁鋼板を得る。複数の溝は、圧延方向に沿って5000μmの間隔で形成し、幅を60μm、圧延方向と交差する方向の長さを60mm、最大深さを25μmとする。
(実施例1)
実施例1では、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に特定元素濃化部が形成されていることにより、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上する効果を評価する。
まず、上述の溝形成後の方向性電磁鋼板である1枚の母鋼板を、NiSO4・7H2Oを2質量%含有し、温度が25℃、pHが4である硫酸ニッケル水溶液(表面処理用水溶液)に120秒間浸漬することにより、Ni濃化部(特定元素濃化部)を形成する。
次に、母鋼板の溝の内面および溝の内面に形成されたNi濃化部に絶縁コーティング液を再塗布して、これを焼付けることによって最表層の絶縁被膜を形成する。絶縁コーティング液としては、コロイダルシリカおよびリン酸塩を含有する絶縁コーティング液を用い、870℃で100秒間焼付ける。
以上の工程により、下記表2に示す試料No.1の方向性電磁鋼板が得られる。試料No.1は、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、直径が1000nm以下であるNi濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成された方向性電磁鋼板であることが、EPMAやEDX等を使用して測定される溝の延伸方向に垂直な鋼板の断面の各位置における各元素濃度から分かる。
また、Ni濃化部(特定元素濃化部)を形成する点を除いて、試料No.1が得られた工程と同一の工程により、下記表2に示す試料No.2の方向性電磁鋼板が得られる。
次に、得られた各試料から、W×Lが60mm×300mmの試験片をせん断する。そして、それぞれの試験片について、Ni濃化部の直径[nm]および密度[個/μm]を測定する。また、それぞれの試験片を直径20mmの丸棒に巻き付けた際の溝内の最表層の絶縁被膜の剥離の有無を判定し、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性を評価する。さらに、試料No.1については、浸漬前の鋼板(硫酸ニッケル水溶液への浸漬によりNi濃化部が形成される前の鋼板)および浸漬後の鋼板(硫酸ニッケル水溶液への浸漬によりNi濃化部が形成された後の鋼板)について、単板磁気特性測定法(単板SST)を行って、50Hzおよび1.7Tでの鉄損W17/50[W/kg]を測定する。また、試料No.2については、浸漬前の鋼板(硫酸ニッケル水溶液への浸漬によりNi濃化部が形成される前の鋼板)について、単板磁気特性測定法(単板SST)を行って、50Hzおよび1.7Tでの鉄損W17/50[W/kg]を測定する。そして、これらの浸漬前後の鉄損W17/50を指標として浸漬前磁性および浸漬後磁性を評価する。これらの結果を、下記表2に示す。なお、界面にNi濃化部は複数個形成されているので、下記表2においては、界面に形成された複数個のNi濃化部の直径の範囲を示す。
上記表2に示すように、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、Niの平均濃度が30質量%以上であり、直径が1000nm以下であるNi濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成された試料No.1は、試料No.2よりも溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上する。また、上記表2に示すように、試料No.1では、浸漬前後で鉄損はほとんど変化せず、Ni濃化部が形成されても鉄損が劣化しないことが分かる。
(実施例2)
実施例2では、Ni濃化部の直径および密度と、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性との関係について評価を行う。
まず、上述の溝形成後の方向性電磁鋼板である3枚の母鋼板を、NiSO4・7H2Oをそれぞれ2質量%、6質量%、および10質量%含有し、温度が25℃、pHが4である3種類の硫酸ニッケル水溶液(表面処理用水溶液)に、それぞれ120秒間浸漬することにより、それぞれ異なるNi濃化部(特定元素濃化部)を形成する。次に、実施例1と同様に、最表層の絶縁被膜を形成する。
以上の工程により、下記表3に示す試料No.1〜3の方向性電磁鋼板が得られる。試料No.1〜2は、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、直径が1000nm以下であるNi濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成された方向性電磁鋼板であることが、EPMAやEDX等を使用して測定される溝の延伸方向に垂直な鋼板の断面の各位置における各元素濃度から分かる。
次に、得られた各試料から、W×Lが60mm×300mmの試験片をせん断する。そして、それぞれの試験片について、Ni濃化部の直径[nm]および密度[個/μm]を測定する。また、それぞれの試験片について、SEMでの断面観察を行って、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面の算術平均粗さ(Ra)を計算する。また、それぞれの試験片を直径20mmの丸棒に巻き付けた際の溝内の最表層の絶縁被膜の剥離の有無を判定し、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性を評価する。これらの結果を、下記表3に示す。なお、界面にNi濃化部は複数個形成されているので、下記表3においては、界面に形成された複数個のNi濃化部の直径の範囲を示す。
上記表3に示すように、Ni濃化部の直径が小さくなり、かつNi濃化部の密度が大きくなるほど、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面の算術平均粗さ(Ra)が高くなり、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が顕著に向上する。
(実施例3)
実施例3では、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、特定元素濃化部とともに酸化物粒子を形成することによって、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が顕著に向上する効果を評価する。
まず、上述の溝形成後の方向性電磁鋼板である8枚の母鋼板を、NiSO4・7H2Oの濃度が2質量%、温度が25℃、pHが4である硫酸ニッケル水溶液(表面処理用水溶液)であって、下記表4に示す種類の酸化物粒子を含有する8種類の水溶液に、それぞれ120秒間浸漬することにより、それぞれ異なるNi濃化部(特定元素濃化部)を形成する。次に、実施例1と同様に、最表層の絶縁被膜を形成する。
以上の工程により、下記表4に示す試料No.1〜8の方向性電磁鋼板が得られる。試料No.1〜3は、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、直径が1000nm以下であるNi濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成された方向性電磁鋼板であることが、EPMAやEDX等を使用して測定される溝の延伸方向に垂直な鋼板の断面の各位置における各元素濃度から分かる。
次に、得られた各試料から、W×Lが60mm×300mmの試験片をせん断する。そして、それぞれの試験片について、界面に形成されたNi濃化部の直径[nm]および密度[個/μm]ならびに界面に形成された酸化物粒子の直径[nm]および密度[個/μm]を測定する。また、それぞれの試験片について、浸漬前の鋼板(硫酸ニッケル水溶液への浸漬によりNi濃化部が形成される前の鋼板)に対する鉄損の変化を求める。また、それぞれの試験片を直径20mmの丸棒に巻き付けた際の溝内の最表層の絶縁被膜の剥離の有無を判定し、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性を評価する。これらの結果を、酸化物粒子の種類と合わせて下記表4に示す。なお、界面にNi濃化部は複数個形成されているので、下記表4においては、界面に形成された複数個のNi濃化部の直径の範囲を示す。また、界面に酸化物粒子は複数個形成されているので、下記表4においては、界面に形成された複数個の酸化物粒子の直径の範囲を示す。
上記表4に示すように、界面に直径が1000nm以下である酸化物粒子が形成されていることにより、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が顕著に向上する傾向が見られる。また、酸化物粒子の直径が小さくなるほど、または酸化物粒子の密度が大きくなるほど、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が顕著に向上する傾向が見られる。また、SiO2以外の酸化物粒子を添加した場合には、鉄損が劣化する傾向が見られる。
(実施例4)
実施例4では、溝形成後の鋼板を、NiSO4・7H2Oを含有する硫酸ニッケル水溶液(表面処理用水溶液)に浸漬する浸漬めっき法により、Niを上記1種の特定元素として用いて、Ni濃化部(特定元素濃化部)を形成する工程について、浸漬めっきの条件の最適条件を検討する。
具体的には、NiSO4・7H2Oの濃度、硫酸ニッケル水溶液の温度およびpH、ならびに浸漬時間を変化させて、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性への影響を評価する。
まず、上述の溝形成後の方向性電磁鋼板である22枚の母鋼板を、下記表5に示すNiSO4・7H2Oの濃度[質量%]、温度[℃]、およびpHを有する硫酸ニッケル水溶液(表面処理用水溶液)に、下記表5に示す浸漬時間[min]それぞれ浸漬することにより、それぞれ異なるNi濃化部(特定元素濃化部)を形成する。次に、実施例1と同様に、最表層の絶縁被膜を形成する。
以上の工程により、下記表5に示す試料No.1−A〜1−Kおよび試料No.2−A〜2−Kの方向性電磁鋼板が得られる。試料No.1−B、1−C、1−F、1−G、1−J、2−C、2−G、および2−Hは、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、直径が1000nm以下であるNi濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成された方向性電磁鋼板であることが、EPMAやEDX等を使用して測定される溝の延伸方向に垂直な鋼板の断面の各位置における各元素濃度から分かる。
次に、得られた各試料から、W×Lが60mm×300mmの試験片をせん断する。そして、それぞれの試験片について、Ni濃化部の直径[nm]および密度[個/μm]を測定する。また、それぞれの試験片を直径20mmの丸棒に巻き付けた際の溝内の最表層の絶縁被膜の剥離の有無を判定し、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性を評価する。この結果を、浸漬めっきの条件と合わせて下記表5に示す。なお、界面にNi濃化部は複数個形成されているので、下記表5においては、界面に形成された複数個のNi濃化部の直径の範囲を示す。
上記表5に示すように、NiSO4・7H2Oの濃度が1〜8質量%の範囲内、硫酸ニッケル水溶液の温度が20〜100℃の範囲内、硫酸ニッケル水溶液のpHが1〜8の範囲内、浸漬時間が30秒〜30分間の範囲内である場合に、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、直径が1000nm以下であるNi濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成され、溝内の鋼板および最層の絶縁被膜の密着性が顕著に向上する傾向が見られる。そして、NiSO4・7H2Oの濃度、表面処理用水溶液の温度およびpH、ならびに浸漬時間のいずれかがこれらの範囲外となると、密着性が低下する傾向が見られる。
(実施例5)
実施例5では、溝形成後の鋼板を、NiSO4・7H2Oを含有する硫酸ニッケル水溶液(表面処理用水溶液)に浸漬する浸漬めっき法により、Niを上記1種の特定元素として用いて、Ni濃化部(特定元素濃化部)を形成する工程について、さらに浸漬めっきの条件の最適条件を検討する。
具体的には、NiSO4・7H2Oの濃度、硫酸ニッケル水溶液の温度およびpH、ならびに浸漬時間のみならず、硫酸ニッケル水溶液におけるSiO2粒子の含有有無を変化させて、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性への影響を評価する。
まず、上述の溝形成後の方向性電磁鋼板である17枚の母鋼板を、下記表6に示すNiSO4・7H2Oの濃度[質量%]、温度[℃]、およびpHを有し、SiO2粒子の含有有無が下記表6に示す通りの硫酸ニッケル水溶液(表面処理用水溶液)に、下記表6に示す浸漬時間[min]それぞれ浸漬することにより、それぞれ異なるNi濃化部(特定元素濃化部)を形成する。次に、実施例1と同様に、最表層の絶縁被膜を形成する。
以上の工程により、試料No.1〜17の方向性電磁鋼板が得られる。試料No.1〜11および試料No.13〜14は、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、直径が1000nm以下であるNi濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成された方向性電磁鋼板であることが、EPMAやEDX等を使用して測定される溝の延伸方向に垂直な鋼板の断面の各位置における各元素濃度から分かる。
次に、得られた各試料から、W×Lが60mm×300mmの試験片をせん断する。そして、それぞれの試験片について、Ni濃化部のNiの平均濃度[質量%]を測定する。また、それぞれの試験片について、界面に形成されたNi濃化部の直径[nm]および密度[個/μm]を測定する。また、界面にSiO2粒子が形成された試験片については、界面に形成されたSiO2粒子の直径[nm]および密度[個/μm]を測定する。また、それぞれの試験片について、SEMでの断面観察を行って、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面の算術平均粗さ(Ra)を計算する。また、それぞれの試験片を直径20mmの丸棒に巻き付けた際の溝内の最表層の絶縁被膜の剥離の有無を判定し、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性を評価する。さらに、JIS C 2550−4の表面絶縁抵抗の測定方法を用いて、10個の金属接触子電極をW×Lが60mm×300mmの試験片片側の皮膜面に接触させ規定の電圧および圧力を印加することによって、層間電流[mA]を測定する。これらの結果を、浸漬めっきの条件と合わせて下記表6に示す。なお、界面にNi濃化部は複数個形成されているので、下記表6においては、界面に形成された複数個のNi濃化部の直径の範囲を示す。また、界面にSiO2粒子は複数個形成されているので、下記表6においては、界面に形成された複数個のSiO2粒子の直径の範囲を示す。さらに、界面にNi濃化部は複数個形成されているので、下記表6おいては、界面に形成された複数個のNi濃化部のNiの平均濃度の範囲を示す。
上記表6に示すように、試料No.15〜17では、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、直径が1000nm以下であるNi濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成されない。これは、NiSO4・7H2Oの濃度、表面処理用水溶液の温度およびpH、ならびに浸漬時間のいずれかが上述の範囲外となっているからであると考えられる。また、硫酸ニッケル水溶液にSiO2粒子を含有させる場合には、界面に直径が1000nm以下であるSiO2粒子が形成されることによって密着性が顕著に向上する傾向が見られる。上記表6に示すように、Ni濃化部のNiの平均濃度が高いほど、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上する傾向が見られる。これは、Ni濃化部のNiの平均濃度が高いほど、溝内の母鋼板と酸化物である最表層の絶縁被膜との反応で鉄(Fe)が酸化する過程において、Niが酸化せずに純金属としてより多く存在することにより、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造の複雑化が顕著に生じるからであると考えられる。さらに、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上するほど、層間電流が低くなった。このため、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上するほど、積層される方向性電磁鋼板間の絶縁性が十分に確保されると考えられる。
(実施例6)
実施例6では、Ni以外の特定元素を含有する表面処理用水溶液に溝形成後の鋼板を浸漬する浸漬めっき法により、Ni以外の特定元素を含有する特定元素濃化部を形成することにより得られる効果を評価する。
まず、上述の溝形成後の方向性電磁鋼板である16枚の母鋼板を、下記表7に示す溶質の濃度[質量%]、温度[℃]、およびpHを有し、SiO2粒子の含有有無が下記表6に示す通りの表面処理用水溶液に、下記表7に示す浸漬時間[min]それぞれ浸漬することにより、それぞれ異なる特定元素濃化部を形成する。次に、実施例1と同様に、最表層の絶縁被膜を形成する。
上記のように、Co、Cr、Mo、V、およびMnを特定元素として含有する特定元素濃化部を形成するためには、それぞれ、溶質としてCoCl・6H2Oを含有する塩化コバルト水溶液、溶質としてNa2Cr2O7・2H2Oを含有するニクロム酸ナトリウム水溶液、溶質としてNa2MoO4・2H2Oを含有するモリブデン酸ナトリウム水溶液、溶質としてVOSO4・H2Oを含有する硫酸バナジウム水溶液、および溶質としてMnSO4・5H2Oを含有する硫酸マンガン水溶液を、表面処理用水溶液として使用する。また、溝形成後の母鋼板をこれらの表面処理用水溶液に浸漬する浸漬めっき法により、特定元素濃化部を形成する時には、溶質の濃度、温度およびpH、ならびに浸漬時間のみならず、SiO2粒子の含有有無を変化させる。
以上の工程により、下記表7に示す試料No.1〜16の方向性電磁鋼板が得られる。試料No.1〜16は、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面に、直径が1000nm以下である特定元素濃化部が、0.1個/μm以上の密度で形成された方向性電磁鋼板であることが、EPMAやEDX等を使用して測定される溝の延伸方向に垂直な鋼板の断面の各位置における各元素濃度から分かる。
次に、得られた各試料から、W×Lが60mm×300mmの試験片をせん断する。そして、それぞれの試験片について特定元素濃化部の特定元素の平均濃度[質量%]を測定する。この時、特定元素濃化部が2種以上の特定元素を含有する場合は、特定元素濃化部における2種以上の特定元素の合計の濃度の平均を測定する。また、それぞれの試験片について、界面に形成された特定元素濃化部の直径[nm]および密度[個/μm]を測定する。また、界面にSiO2粒子が形成された試験片については、界面に形成されたSiO2粒子の直径[nm]および密度[個/μm]を測定する。また、それぞれの試験片について、SEMでの断面観察を行って、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面の算術平均粗さ(Ra)を計算する。また、それぞれの試験片を直径20mmの丸棒に巻き付けた際の溝内の最表層の絶縁被膜の剥離の有無を判定し、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性を評価する。さらに、JIS C 2550−4の表面絶縁抵抗の測定方法を用いて、10個の金属接触子電極をW×Lが60mm×300mmの試験片片側の皮膜面に接触させ規定の電圧および圧力を印加することによって、層間電流[mA]を測定する。これらの結果を、浸漬めっきの条件と合わせて下記表7に示す。なお、界面に特定元素濃化部は複数個形成されているので、下記表7においては、界面に形成された複数個の特定元素濃化部の直径の範囲を示す。また、界面にSiO2粒子は複数個形成されているので、下記表7においては、界面に形成された複数個のSiO2粒子の直径の範囲を示す。さらに、界面に特定元素濃化部は複数個形成されているので、下記表7においては、界面に形成された複数個の特定元素濃化部の特定元素の平均濃度の範囲を示す。
溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性について、上記表2示す特定元素濃化部が形成されていない試料No.2鋼板と上記表7に示す試料No.1〜16の鋼板とを比較すると、特定元素濃化部に含有される特定元素の種類にかかわらず、特定元素濃化部が形成されていることによって、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上することが分かる。また、上記表7に示すように、特定元素濃化部に含有される特定元素の種類にかかわらず、界面に直径が1000nm以下であるSiO2粒子が形成されている鋼板の方が、SiO2粒子が形成されていない鋼板と比較して、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上する傾向が見られる。上記表7に示すように、特定元素濃化部の特定元素の平均濃度が高いほど、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上する傾向が見られる。これは、特定元素濃化部の特定元素の平均濃度が高いほど、溝内の母鋼板と酸化物である最表層の絶縁被膜との反応で鉄(Fe)が酸化する過程において、特定元素が酸化せずに純金属としてより多く存在することにより、溝内の母鋼板と最表層の絶縁被膜との界面構造の複雑化が顕著に生じるからであると考えられる。さらに、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上するほど、層間電流が低くなった。このため、溝内での母鋼板および最表層の絶縁被膜の密着性が向上するほど、積層される方向性電磁鋼板間の絶縁性が十分に確保されると考えられる。