JP6655398B2 - 内視鏡用高周波処置具 - Google Patents

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Description

本発明は、内視鏡の処置具挿通チャンネルに挿入されて使用される内視鏡用高周波処置具に関する。
早期食道癌、早期胃癌、早期大腸癌等の広範囲に及ぶ病変部を内視鏡を用いて確実に一括切除することが可能な方法として、内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection(以下、「ESD」という。)が知られている。ESDの手技は、(1)病変部の切除範囲にマーキングを施し(マーキング)、(2)粘膜下層に薬液を局所注射して粘膜病変部を隆起させ(局注)、(3)マーキングに従って粘膜病変部の周囲を切開した後、粘膜下層を剥離し(切開・剥離)、(4)剥離した潰瘍面や切開、剥離時に発生した出血を止血する(止血)、といった処置(工程)よりなる。ESDの各工程では、専用のディスポーザブル内視鏡用処置具が使用される。例えば特許文献1に記載されているように、切開・剥離の工程では、高周波電流を通電して粘膜等を切除するニードルナイフ等を備えた内視鏡用処置具が使用される。
ESDは、広範囲の病変部を一括切除する治療方法であるため、治療時間が長く、手技的難易度も高い。そのため、粘膜等の切除を行う際、出血を伴うことが多い。術者は、手技中に出血が生じると、切開・剥離用の内視鏡用処置具を体腔内から一旦取り出し、止血用の内視鏡用処置具に差し替えて、内視鏡的止血術を行う必要がある。すなわち、ESDでは、用途に応じた(各工程に応じた)複数のディスポーザブル専用処置具が必要であり、また、予期せぬ出血等があるとそれに応じた対処が必要となる。そのため、コスト及び手技時間の観点から、複数の処置(工程)に対応できる内視鏡用処置具が望まれていた。
そこで、特許文献2において、ESDの複数の処置に使用することが可能な内視鏡用高周波処置具が提案されている。
特許文献2に記載の内視鏡用高周波処置具は、可撓性シースの先端面からの突出量が変化するナイフ部を備えている。ナイフ部は、前進操作されると、突出量が切開や剥離の処置に適した2mm程度となる位置で停止し、後退操作されると、突出量がマーキングや止血の処置に適した0.5mm程度となる位置で停止する。ナイフ部の突出量をESDの各処置に応じて変化させることにより、これらの処置中に内視鏡用処置具を差し替える必要がなくなる。そのため、手技の作業性が高められて、手技時間が短縮される。
特開2010−42155号公報 特開2013−111308号公報
図11(a)は、特許文献2に記載の内視鏡用高周波処置具を用いて粘膜病変部の周囲を切開している状態を示す図である。図11(a)に示されるように、特許文献2に記載の内視鏡用高周波処置具では、突起部材によって粘膜が押されることにより、ナイフ部の先端部分に粘膜が接触しないことがある。ナイフ部の先端部分が粘膜に接触しない場合、先端部分による粘膜の切開が行われないため、切開される粘膜の深さが浅くなる。ナイフ部の先端部分で切開できなかった粘膜を切開するには、ナイフ部を前回よりも深い位置に差し込んだうえで同様の作業を繰り返す必要がある。そのため、切開の回数が増えて、手技時間が長くなるという問題が指摘される。この問題を解決するため、ナイフ部の全長を長くすることが考えられる。しかし、この場合、粘膜穿孔等が発生する虞があるため、ナイフ部の全長を長くすることは難しい。
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ナイフ部の全長が長くなるのを抑えつつ切開回数の増加も抑えるのに好適な内視鏡用高周波処置具を提供することである。
本発明の一実施形態に係る内視鏡用高周波処置具は、内視鏡の処置具挿通チャンネル内に挿入可能な可撓性シースと、可撓性シースの先端に嵌入された導電性を持つ先端部材と、可撓性シース内部に挿通された導電性を持つワイヤと、ワイヤの先端に接続されており、操作部によって該ワイヤが可撓性シース内で進退されることにより、可撓性シースの先端面からの突出量が変化する、導電性を持つロッド状のナイフ部と、ワイヤを介して先端部材及びナイフ部に高周波電流を流すための高周波電源を接続可能な接点部とを備える構成としてもよい。この構成において、ナイフ部は、その最も先端から所定量後退した位置に、該ナイフの側面から突出する突起部材が設けられており、ワイヤと共に後退されると、突起部材が先端部材に当接して、ナイフ部の先端部分が該先端部材の先端面から所定量突出した位置で停止する。また、突起部材は、先端側が先細り形状となっている。
また、本発明の一実施形態において、突起部材は、例えば、先端側がテーパ形状又は面取りされた形状となっている。
また、本発明の一実施形態において、突起部材は、基端側がナイフ部の側面に対して段差をなす形状を持つ構成としてもよい。
また、本発明の一実施形態において、先端部材は、その先端側に突起部材を収容する収容部を有する構成としてもよい。この構成において、ナイフ部がワイヤと共に後退されると、突起部材が収容部内に収容されて該収容部を規定する壁部に当接して停止すると共に、該ナイフ部の先端部分が先端部材の先端面から所定量突出した位置で停止する。
また、本発明の一実施形態において、上記の所定量は、例えば、0.3mm〜0.7mmの範囲内である。
本発明の一実施形態によれば、ナイフ部の全長が長くなるのを抑えつつ切開回数の増加も抑えるのに好適な内視鏡用高周波処置具が提供される。
本発明の一実施形態に係る内視鏡用高周波処置具の構成を示す外観図及び断面図である。 本発明の一実施形態において、高周波ナイフを最も前に移動させたときの、内視鏡用高周波処置具の先端部近傍の構成を示す拡大図である。 本発明の一実施形態において、高周波ナイフを最も後ろに移動させたときの、内視鏡用高周波処置具の先端部近傍の構成を示す拡大図である。 図2のA−A断面図である。 本発明の一実施形態に係る内視鏡用高周波処置具を用いて行われるESDの各処置を説明する図である。 本発明の別の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具に備えられる突起部材の構成を示す側面図である。 本発明の別の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具に備えられる突起部材の構成を示す側面図である。 本発明の別の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具に備えられる突起部材の構成を示す側面図である。 本発明の一実施形態において、高周波ナイフを最も前に移動させたときの、内視鏡用高周波処置具の先端部近傍の構成を示す拡大図である。 本発明の別の実施形態において、高周波ナイフを最も後ろに移動させたときの、内視鏡用高周波処置具の先端部近傍の構成を示す拡大図である。 従来の内視鏡用高周波処置具、本発明の一実施形態に係る内視鏡用高周波処置具のそれぞれを用いて粘膜病変部の周囲を切開している状態を示す図である。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下においては、本発明の一実施形態として内視鏡用高周波処置具を例に取り説明する。
図1(a)、図1(b)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係る内視鏡用高周波処置具1の構成を示す外観図、断面図である。概説すると、図1に示されるように、内視鏡用高周波処置具1は、高周波ナイフ12、高周波ナイフ12に接続されたワイヤ13、ナイフ12及びワイヤ13が挿通されたシース15、ワイヤ13及びシース15を操作するための操作部20等を備えており、シース15が不図示の内視鏡の処置具挿通チャンネルから体腔内に挿入されてESDの手技に使用される。
高周波ナイフ12は、SUS等のロッド状(例示的には丸棒状)の金属製部材であり、体腔内組織の切開・剥離処理等のため、高周波電流が通電される。高周波ナイフ12は、操作部20の操作によって進退されることにより、シース15の先端面からの突出量が変化するように構成されている。
図2及び図3は、内視鏡用高周波処置具1の先端部近傍の構成を示す拡大図である。図2(a)、図2(b)は、それぞれ、操作部20によって高周波ナイフ12を所定の前進位置(ナイフ前進位置)に移動させたときの状態を示す拡大斜視図、拡大断面図である。図3(a)、図3(b)は、それぞれ、操作部20によって高周波ナイフ12を所定の後退位置(ナイフ後退位置)に移動させたときの状態を示す拡大斜視図、拡大断面図である。
図2及び図3に示されるように、高周波ナイフ12は、その先端面(ナイフ先端面12a)近傍に、高周波ナイフ12の側面から突出する突起部材12bが設けられている。高周波ナイフ12は、その基端部が接続部材14を介してワイヤ13に電気的及び機械的に接続されている。
突起部材12bは、中心部分に貫通孔を有する錐状の金属製部材である。突起部材12bの先端側は、先細り形状となっており、具体的には、図2及び図3に示されるように、放物線テーパ形状となっている。また、突起部材12bの基端側は、フラットな基端面を持つ形状となっている。
突起部材12bは、高周波ナイフ12がその貫通孔に挿通されて、ナイフ先端面12aから所定量後退した位置(例えばナイフ先端面12aから0.5mm後方の位置)で溶接されている。これにより、突起部材12bの先端側では、高周波ナイフ12と突起部材12bとが段差無く(高周波ナイフ12の側面と突起部材12bの放射線テーパ形状面とが鈍角をなして)接続され、突起部材12bの基端側では、高周波ナイフ12と突起部材12bとが段差をなして(高周波ナイフ12の側面と突起部材12bの基端面とが直角をなして)接続される。なお、高周波ナイフ12の外径は、高周波電流の密度を高めるため、約0.3mmと極力細く形成されている。また、突起部材12bの外径(最外径)は、約0.6mmに形成されている。
本発明の一実施形態では、高周波ナイフ12と突起部材12bが別々の部材で構成されているが、別の実施形態では、高周波ナイフ12と突起部材12bが一体の部材で形成されてもよい。
ワイヤ13は、SUS等の金属製ワイヤである。ワイヤ13は、その先端が接続部材14によって高周波ナイフ12の基端と接続された状態でシース15に挿通されている。ワイヤ13の基端は、操作部20まで延びている。術者が操作部20を操作してシース15内でワイヤ13を進退させることにより、高周波ナイフ12がワイヤ13と一体となって進退して、シース15の先端面(シース先端面15a)に対する高周波ナイフ12の突出量が変化する。
接続部材14は、高周波ナイフ12及びワイヤ13の外径よりも大きく、且つシース15の内径よりも小さな外径を有する円筒状の金属製部材である。接続部材14の中心には、高周波ナイフ12の長手方向に沿って延びる貫通孔が形成されている。接続部材14の貫通孔は、先端側(高周波ナイフ12側)の径が高周波ナイフ12の外径よりも僅かに大きくなっており、また、基端側(ワイヤ13側)の径がワイヤ13の外径よりも僅かに大きくなっている。高周波ナイフ12、ワイヤ13は、それぞれ、接続部材14の貫通孔の先端側、基端側から挿入された後、ロー付けやレーザ溶接等によって接続部材14に固定されている。
図4は、図2のA−A断面図である。図2〜図4に示されるように、接続部材14には、その先端面(接続部材先端面14a)から基端側に延びる断面十字形状のスリット14bが形成されている。スリット14bは、シース15内に液体が注入されたときにシース先端面15aに液体を供給するための送水チャンネルの一部として機能する。
シース15は、PTFE(polytetrafluoroethylene)等の樹脂からなる絶縁性及び可撓性を有する管状部材である。シース15は、体腔内に対する内視鏡用高周波処置具1の進入の度合いについて内視鏡による視認性を向上させるため、シース先端面15a近傍の外周面に周方向に亘ってマーカ16が設けられている。
シース先端面15aの外周端部(エッジ部)は、手技中のシース15の動作によって体腔内の粘膜が傷つくことの無いように面取りされている(面取り部15bが形成されている。)。
シース先端面15a近傍には、SUS等の金属製のストッパ17が固定されている。具体的には、ストッパ17は、シース15の内径と略同一の外径を有する円筒状部材であり、その外周面に抜け止め突起が形成されている。ストッパ17は、シース先端面15aからシース15内に圧入されてシース15の内面と嵌合し、ストッパ17の先端面(ストッパ先端面17a)がシース先端面15aと略同一面となる位置で固定されている。
ストッパ17には、高周波ナイフ12の外径よりも大きく、突起部材12bの外径よりも小さな径を有する貫通孔17cが高周波ナイフ12の長手方向(進退方向)に沿って形成されている。貫通孔17cには、高周波ナイフ12が挿通されている。また、ストッパ17のストッパ先端面17a側には、突起部材12bを収容する突起部材収容部17dが形成されている。
図2に示されるように、操作部20を操作して高周波ナイフ12をワイヤ13と共に前進させると、接続部材先端面14aがストッパ17の基端面(ストッパ基端面17b)に当接する。これにより、高周波ナイフ12の突出量が規制され(高周波ナイフ12がナイフ前進位置で停止し)、高周波ナイフ12が必要以上にシース先端面15aから突出することはない。
図2に示されるように、高周波ナイフ12をナイフ前進位置まで前進させると、高周波ナイフ12の突出量が最大となる。本発明の一実施形態では、高周波ナイフ12の最大突出量が2mmに設定されている。高周波ナイフ12をナイフ前進位置まで前進させた状態で高周波ナイフ12に高周波電流を通電することにより、体腔内粘膜の切開・剥離処置を行うことができる。
また、シース15内に液体(例えば、薬液や生理食塩水等の洗浄水)が供給されると、スリット14bを通して、貫通孔17c(ストッパ17と高周波ナイフ12との間の隙間)に液体が供給されて、シース先端面15aから外部に噴射される。すなわち、貫通孔17cは、シース先端面15aから外部に液体を噴射させるための送水チャンネルの一部として機能する。
図3に示されるように、操作部20を操作して高周波ナイフ2をワイヤ13と共に後退させると、突起部材12bが突起部材収容部17dに収容されて、突起部材12bの基端面が突起部材収容部17dを規定する壁部に当接し、突起部材12bが停止する。これにより、高周波ナイフ12とストッパ17とが電気的に接続されると共に、高周波ナイフ12の位置が規制され(高周波ナイフ12がナイフ後退位置で停止し)、突起部材12bの最も先端がストッパ先端面17aと略同一面上の位置となる。すなわち、ナイフ後退位置では、高周波ナイフ12の先端部分がシース先端面15a(言い換えると、ストッパ先端面17a)から0.5mmだけ突出した状態となる。
なお、ストッパ17は、高周波ナイフ12の位置に拘わらず、高周波ナイフ12と摺動可能に常に接触していてもよい。すなわち、ストッパ17は、高周波ナイフ12がナイフ前進位置以外の位置にあっても通電されるように構成されていてもよい。
ストッパ先端面17aの露出面積は、高周波ナイフ12や突起部材12bの外形と比べて遥かに大きい。そのため、突起部材12bを突起部材収容部17dに収容した状態で、高周波ナイフ12及びストッパ17に高周波電流を通電することにより、広い面積を焼灼することができ、具体的には、マーキング処置及び止血処置を行うことができる。
図1に示されるように、操作部20は、シース15が固定された本体22と、ワイヤ13の基端が固定されたスライダ24を備えている。本体22は、棒状部材であり、スライダ24を摺動させるためのガイド溝22aが軸方向に延設されている。本体22の基端側には、操作時に指を掛けるためのリング22bが設けられている。また、本体22の先端側には、シース15をガイドし、折れを防止する折れ止めチューブ30が設けられている。
スライダ24は、本体22の外周を取り囲む筒状部24aと、操作時に指を掛けるハンドル24bを有している。また、スライダ24には、図示しない高周波電源と接続されるプラグ26が取付けられている。ワイヤ13の基端部は、筒状部24aの内部で、ネジ26aによってプラグ26と接続固定されている。
すなわち、スライダ24及びワイヤ13は、ガイド溝22aに沿って、高周波ナイフ12及びワイヤ13の長手方向に摺動可能に本体22に装着されている。従って、術者が内視鏡用高周波処置具1のスライダ24をリング22b側に移動させると、高周波ナイフ12が後退して、突起部材12bが突起部材収容部17dに収容され(図3参照)、内視鏡用高周波処置具1のスライダ24をシース先端面15a側に移動させると、高周波ナイフ12が前進する(図2参照)。また、高周波電源から通電される高周波電流は、導電性のプラグ26、ワイヤ13、接続部材14を介して高周波ナイフ12に供給される。
折れ止めチューブ30の基端側(本体22側)には、液体注入口32が設けられている。不図示のシリンジや給水装置等が液体注入口32と接続されて、薬液や洗浄水等の液体が液体注入口32に注入されることにより、シース15内に液体が供給される。
シース15内に供給された液体は、シース15内を通りシース先端面15a側に送られて、接続部材14に形成されたスリット14b、貫通孔17c(ストッパ17と高周波ナイフ12との間の隙間)に供給される。高周波ナイフ12をナイフ後退位置(図3参照)から突出させると、貫通孔17cの先端が開放されるため、シース先端面15aから液体が噴射される。シース先端面15aから噴射される液体は、体腔内粘膜の切開・剥離処置中の高周波ナイフ12の洗浄や局注処置の局注液として用いられる。
次に、本発明の一実施形態に係る内視鏡用高周波処置具1を用いたESDの手技について説明する。図5は、内視鏡用高周波処置具1を用いて行われるESDの各処置を説明する図である。
[マーキング]
図5(a)は、本発明の一実施形態に係る内視鏡用高周波処置具1を用いて行われるマーキング処置を説明する図である。マーキング処置は、内視鏡の先端部を患者の体腔内に挿入し、ESDの切開対象となる病変部周辺に切開範囲の目印を付す工程である。
術者は、内視鏡の先端部を患者の体腔内に挿入した状態で、内視鏡の処置具挿通チャンネルにシース15を挿通し、内視鏡先端部からシース15を突出させる。術者は、内視鏡画像によってシース先端面15aと病変部の位置を確認しながら、高周波ナイフ12をナイフ後退位置(図3参照)まで後退させた状態で、シース先端面15aを病変部周辺の粘膜に押し当て、高周波ナイフ12に高周波電流を通電する。
ナイフ後退位置では、高周波ナイフ12に供給される高周波電流がストッパ17にも供給される。そのため、主に、ストッパ先端面17aの露出部分と接触した粘膜が焼灼されてマーキング痕が形成される。
なお、ナイフ後退位置では、高周波ナイフ12の先端部分がシース先端面15aから0.5mm突出している。従って、シース先端面15aが病変部周辺の粘膜に押し当てられると、高周波ナイフ12が粘膜内に僅かに差し込まれる。これにより、高周波ナイフ12が粘膜表面で滑らないため、術者は、狙った位置にマーキング痕を形成することができる。
術者は、上記の作業を複数回繰り返して、病変部の外縁を把握できる程度の個数のマーキング痕を形成し、マーキング処置を終了する。
なお、マーキング処置中、シース先端面15aが粘膜に押し当てられた状態で高周波ナイフ12に高周波電流が通電されると、高周波電流が通電される被通電部材のうち粘膜と接触する部分(主に、ストッパ先端面17a)に、例えば、焼灼によって熱凝固したヘモグロビンや蛋白質等の付着物が付着する可能性がある。
そこで、内視鏡用高周波処置具1は、ESDの処置中に粘膜に押し当てられる可能性のある部材の表面に、焦げ付き防止用の防汚コーティングが施されている。具体的には、内視鏡用高周波処置具1は、高周波ナイフ12、突起部材12b及びストッパ17のうち外観に現れる主な表面領域に、防汚コーティングが施されている。コーティング法としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法等が挙げられる。
図9(a)、図9(b)は、それぞれ、高周波ナイフ12をナイフ前進位置に移動させたときの、内視鏡用高周波処置具1の先端部近傍の構成を示す拡大斜視図、拡大断面図である。図9において、ハッチングで示される領域が、防汚コーティングが施されている表面領域である。なお、図9(及び後述の図10)においては、防汚コーティングが施されている表面領域を明示する都合上、この表面領域以外(例え断面であっても)にハッチングを用いない。
防汚コーティングの材料には、例えば、体腔内組織が焼灼によって炭化したときに発生するカーボンとの親和性が低いものが使用される。例示的には、フッ素化合物(テフロン(登録商標))や酸化ケイ素化合物(シリカ)、有機ケイ素化合物(シリコーン)等が使用される。
図9に示される領域に防汚コーティングを施すことにより、マーキング処置中、蛋白質等の付着物が内視鏡用高周波処置具1に付着し難くなる。これにより、付着物によって処置が阻害され難くなるため、術者は、適切な処置を行いやすくなる。また、シース先端面15aから噴射される洗浄水によって除去し切れなかった付着物については、シース15を内視鏡から抜去して洗浄する必要がある。防汚コーティングによって付着物が付着し難くなることにより、この作業の回数が減るため、手技時間が短縮される。
なお、防汚コーティングは、高周波ナイフ12、突起部材12b、ストッパ17の全ての部材の表面領域に施されていなくてもよい。粘膜との接触面積が広い高周波ナイフ12とストッパ17のうち外観に現れる少なくとも一部の表面領域(その中でも特にストッパ先端面17a)に防汚コーティングが施されていれば、付着物の付着抑制の効果が得られる。
[局注]
図5(b)は、本発明の一実施形態に係る内視鏡用高周波処置具1を用いて行われる局注処置を説明する図である。局注処置は、切開対象となる病変部の粘膜下層に液体を局所注射して、切開対象である病変部の粘膜を浮き上がらせる工程である。
術者は、内視鏡画像によってシース先端面15aと病変部の位置を確認しながら、高周波ナイフ12をナイフ前進位置(図2参照)まで前進させた状態で高周波電流を通電させ、シース先端面15aを粘膜下層に差し込むための孔を穿つ。術者は、次いで、高周波ナイフ12をナイフ後退位置(図3参照)まで後退させた状態で、シース先端面15aを粘膜下層に差し込む。術者は、シース先端面15aを粘膜下層に差し込むと、液体注入口32から薬液を注入し、この状態でスライダ24を操作して、高周波ナイフ12を僅かに前進させる。
[切開]
図5(c)は、本発明の一実施形態に係る内視鏡用高周波処置具1を用いて行われる切開処置を説明する図である。切開処置は、切開対象となる病変部の周囲をマーキング痕に沿って切開する工程である。
術者は、内視鏡画像によってシース先端面15aとマーキング痕の位置を確認しながら、高周波ナイフ12をナイフ前進位置(図2参照)まで前進させ、高周波電流を通電させた状態で、シース先端面15aをマーキング痕に沿って移動させて全周切開を行う。
図11(b)は、本発明の一実施形態に係る内視鏡用高周波処置具1を用いて粘膜病変部の周囲を切開している状態を示す図である。図11(b)に示されるように、突起部材12bは、基端面が高周波ナイフ12の側面と直交し、段差をなしている。この段差が粘膜内に嵌まり込み、一種の抜け止めとして機能する。そのため、切開中(ナイフ先端面12aを粘膜内に埋没させた状態で移動させている間)、ナイフ先端面12aが不用意に粘膜から抜けることがない。
また、図11(b)に示されるように、突起部材12bの先端側は、高周波ナイフ12と段差無く(高周波ナイフ12の側面と突起部材12bの放射線テーパ形状面とが鈍角をなして)接続されている。そのため、切開中、高周波ナイフ12の側面と突起部材12bの放射線テーパ形状面との境界付近まで粘膜が接触する。そのため、シース先端面15aから突出する高周波ナイフ12の突出部分の全長(2mm)の深さの粘膜が切開される。すなわち、本発明の一実施形態によれば、高周波ナイフ12の全長を長くすることなく必要な深さ(ここでは2mm)を切開することができる。そのため、粘膜穿孔等の発生が防がれると共に切開の回数が抑えられ、延いては、手技の長時間化が抑えられる。
切開処置では、出血を伴うことが多い。出血した場合、術者は、後述の止血処置を行う。また、切開処置では、粘膜や血液等が高周波ナイフ12に付着することにより、ナイフとしての機能が低下することがある。この場合、術者は、高周波ナイフ12を一旦粘膜から引き抜き、液体注入口32から液体を注入してナイフ先端面12aを洗浄する。すなわち、本発明の一実施形態によれば、内視鏡用高周波処置具1を取り出すことなくナイフ先端面12aを洗浄することが可能であり、また、止血処置を行うことが可能である。
局注・切開処置中も、防汚コーティングにより、蛋白質等の付着物が内視鏡用高周波処置具1に付着し難い。局注・切開処置中は、主に、高周波ナイフ12や突起部材12bが粘膜と接触する。高周波ナイフ12や突起部材12bに付着物が付着した場合であっても、これらの部材には、洗浄水を直接噴射させやすい。そのため、局注・切開処置中、付着物に対しては、洗浄水による除去が有効である。
なお、高周波ナイフ12に施されている防汚コーティングの厚みは、ストッパ17に施されている防汚コーティングの厚みよりも薄い。高周波ナイフ12に対するコート厚を薄くすることにより、ナイフ前進位置における高周波ナイフ12の突出部分の全長(2mm)への影響(すなわち、コート厚の分だけ全長が長くなってしまうこと)が抑えられる。これは、粘膜穿孔等の発生を防ぐ観点から好適である。
[剥離]
図5(d)は、本発明の一実施形態に係る内視鏡用高周波処置具1を用いて行われる剥離処置を説明する図である。剥離処置は、切開した病変部を少しずつ剥ぎ取る工程である。
術者は、高周波ナイフ12をナイフ前進位置(図2参照)まで前進させ、高周波電流を通電させた状態で、切開した病変部を持ち上げながら、切開した病変部の粘膜下層を焼灼して剥離していく。剥離処置中も切開処置中と同様に、突起部材12bが粘膜内に適度に引っ掛かる。そのため、高周波ナイフ12が滑って粘膜から不用意に抜けることがない。
剥離置中も、防汚コーティングにより、蛋白質等の付着物が内視鏡用高周波処置具1に付着し難い。剥離処置中も、局注・切開処置中と同様に、主に、高周波ナイフ12や突起部材12bが粘膜と接触する。そのため、付着物に対しては、洗浄水による除去が有効である。
[止血]
図5(e)は、本発明の一実施形態に係る内視鏡用高周波処置具1を用いて行われる止血処置を説明する図である。止血処置は、病変部を剥離した後の潰瘍部や切開、剥離処置中に出血した出血箇所を焼灼して止血する処理である。
術者は、高周波ナイフ12をナイフ後退位置(図3参照)まで後退させた状態で、シース先端面15aを出血した潰瘍部や粘膜に押し当て、高周波ナイフ12に高周波電流を通電して焼灼する。マーキング処置と同様に、ナイフ後退位置では、高周波ナイフ12に供給される高周波電流がストッパ17にも供給される。そのため、ストッパ先端面17aの露出部分と接触した比較的広い面積の粘膜が一度に焼灼されて止血処置される。
また、ナイフ後退位置では、高周波ナイフ12の先端部分がシース先端面15aから0.5mm突出している。従って、シース先端面15aが病変部周辺の粘膜に押し当てられると、高周波ナイフ12が粘膜内に僅かに差し込まれる。これにより、高周波ナイフ12が粘膜表面で滑らないため、術者は、狙った位置を的確に止血することができる。
止血処置中も、防汚コーティングにより、蛋白質等の付着物が内視鏡用高周波処置具1に付着し難い。そのため、付着物によって処置が阻害され難くなり、術者は、適切な処置を行いやすくなる。
術者は、必要に応じて上述の動作(処置)を継続し、最終的に、病変部を一括切除し、鉗子を有する他の処置具等を用いて切除後の粘膜を回収し、ESDの手技を終了する。
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば明細書中に例示的に明示される実施形態等又は自明な実施形態等を適宜組み合わせた内容も本発明の実施形態に含まれる。例えば、上記の実施形態では、突起部材12bは、ナイフ先端面12aから0.5mm基端側に設けられているが、本発明はこれに限らない。別の実施形態では、突起部材12bは、ナイフ先端面12aから0.3mm〜0.7mmの範囲内に設けられていてもよい。
また、上記の実施形態では、突起部材12bの先端側の先細り形状として放射線テーパ形状を例示したが、本発明はこれに限らない。図6〜図8に、他の先細り形状を持つ突起部材12bの側面図を示す。図6に示されるように、突起部材12bは、線形テーパ状の先細り形状を持つ錐状部材であってもよい。また、図7、図8のそれぞれに示されるように、突起部材12bは、円盤状部材であり、先端面側がR面取り、C面取りされることにより、実質的に先細りに形成されたものであってもよい。
また、突起部材12bの先細り形状は、放射線テーパ形状や線形テーパ形状、面取りされた形状に限らない。例示的には、突起部材12bの先細り形状は、指数関数テーパ形状や他の関数によって定義可能な形状であってもよく、また、このような関数に近似する形状であってもよい。
また、図10に、別の実施形態に係る内視鏡用高周波処置具1の先端部近傍の構成を拡大図で示す。図10においては、高周波ナイフ12をナイフ後退位置に移動させた状態を示す。
図10に示されるように、別の実施形態に係る突起部材12bは、円盤状に形成されている。高周波ナイフ12をナイフ後退位置に移動させると、突起部材収容部17dに収容された突起部材12bの先端面とストッパ先端面17aとが略同一面上に位置する。すなわち、別の実施形態では、マーキング処置及び止血処置中、粘膜との接触面積の広いストッパ先端面17aと略同一面上に、同じく粘膜との接触面積の広い突起部材12bの先端面が位置する。そのため、これらの面に対する付着物の付着が懸念される。そこで、別の実施形態では、図10中、ハッチングで示される表面領域に対して防汚コーティングが施されている。これにより、図10のような、粘膜との接触面積が広い構成であっても、付着物の付着が好適に抑えられる。
1 内視鏡用高周波処置具
12 高周波ナイフ
12a ナイフ先端面
12b 突起部材
13 ワイヤ
14 接続部材
14a 接続部材先端面
14b スリット
15 シース
15a シース先端面
15b 面取り
16 マーカ
17 ストッパ
17a ストッパ先端面
17b ストッパ基端面
17c 貫通孔
17d 突起部材収容部
20 操作部
22 本体
22a ガイド溝
22b リング
24 スライダ
24a 筒状部
24b ハンドル
26 プラグ
26a ネジ
30 折れ止めチューブ
32 液体注入口

Claims (5)

  1. 内視鏡の処置具挿通チャンネル内に挿入可能な可撓性シースと、
    前記可撓性シースの先端に嵌入された導電性を持つ先端部材と、
    前記可撓性シース内部に挿通された導電性を持つワイヤと、
    前記ワイヤの先端に接続されており、操作部によって該ワイヤが前記可撓性シース内で進退されることにより、前記可撓性シースの先端面からの突出量が変化する、導電性を持つロッド状のナイフ部と、
    前記ワイヤを介して前記先端部材及び前記ナイフ部に高周波電流を流すための高周波電源を接続可能な接点部と、
    を備え、
    前記ナイフ部は、
    前記ナイフ部の最も先端から所定量後退した位置に、該ナイフ部の側面から突出する突起部材が設けられており、
    前記ワイヤと共に後退されると、前記突起部材が前記先端部材に当接して、前記ナイフ部の先端部分が該先端部材の先端面から前記所定量突出した位置で停止し、
    前記突起部材は、
    先端側が先細り形状となっており
    前記突起部材の先端と前記ナイフ部との間に段差が形成されないように、該突起部材の先端側の側面と該ナイフ部の側面とが鈍角をなして接続された形状となっている、
    内視鏡用高周波処置具。
  2. 前記突起部材は、
    先端側がテーパ形状又は面取りされた形状となっている、
    請求項1に記載の内視鏡用高周波処置具。
  3. 前記突起部材は、
    基端側が前記ナイフ部の側面に対して段差をなす形状を持つ、
    請求項1又は請求項2に記載の内視鏡用高周波処置具。
  4. 前記先端部材は、
    前記先端部材の先端側に前記突起部材を収容する収容部
    を有し、
    前記ナイフ部が前記ワイヤと共に後退されると、前記突起部材が前記収容部内に収容されて該収容部を規定する壁部に当接して停止すると共に、該ナイフ部の先端部分が前記先端部材の先端面から前記所定量突出した位置で停止する、
    請求項1から請求項3の何れか一項に記載の内視鏡用高周波処置具。
  5. 前記所定量は、
    0.3mm〜0.7mmの範囲内である、
    請求項1から請求項4の何れか一項に記載の内視鏡用高周波処置具。
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