JP6645379B2 - 質量分析方法 - Google Patents

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Description

本発明は、イオンビームを走査して試料表面の一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法に関する。
西澤潤一監修,半導体用語大辞典編集委員会,「半導体用語大辞典」,1999年3月30日,pp798−799(非特許文献1)に記載のように、イオンビームを走査して試料表面の一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であるSIMS(二次イオン質量分析法)は、試料の表面組成を解析する最も有用な方法として広く用いられている。
また、国際公開第2005/119229号(特許文献1)は、試料中の成分を正確に測定するために、SIMSにおいて一次イオンのラスター領域の面積を変化させることにより、一次イオン電流密度を変化させて、バックグラウンド成分と試料中の成分に分けることができる、ラスター変化法を開示する。
国際公開第2005/119229号
西澤潤一監修,半導体用語大辞典編集委員会,「半導体用語大辞典」,1999年3月30日,pp798−799)
しかしながら、西澤潤一監修,半導体用語大辞典編集委員会,「半導体用語大辞典」,1999年3月30日,pp798−799(非特許文献1)に記載のSIMSは、試料の表面組成を解析するのに極めて有用であるが、測定される元素の量に、試料表面の付着成分に含まれる元素の量も含まれるという問題点がある。このため、SIMSにより、たとえば、試料中(試料の表面および内部を意味する。以下同じ。)の酸素または窒素などの元素の量を解析する場合、それらの中に試料表面に付着する大気中の酸素または窒素などの元素が含まれてしまい、試料中の酸素または窒素などの元素を正確に解析することが困難である。
また、国際公開第2005/119229号(特許文献1)に開示されるラスター変化法は、走査させる一次イオンのイオンビーム径がラスター領域に比べて小さい場合はラスター領域を変化させても一次イオン電流密度は変化しないため、ラスター変化法によって試料中の成分を正確に解析することができないという問題点があった。
そこで、試料表面の付着成分の影響を除去して、試料中の所望の元素の量を正確に解析することができる質量分析方法を提供することを目的とする。
本発明のある態様にかかる質量分析方法は、イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であって、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第1除去工程と、上記特定される一定領域に一次イオンの第1イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から所望の元素の量を測定する第1測定工程と、上記特定される一定領域に一次イオンの第2イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から上記所望の元素の量を測定する第2測定工程と、第1測定工程において測定される上記所望の元素の量と第2測定工程において測定される上記所望の元素の量との変分を演算する演算工程と、を備え、第1除去工程から第1測定工程における第1イオンビームの照射までの時間である第1測定工程導入時間と、第1測定工程における第1イオンビームの照射から第2測定工程における第2イオンビームの照射までの時間である第2測定工程導入時間と、が同じであり、第1イオンビームの強度が第2イオンビームの強度より強い。
本発明の別の態様にかかる質量分析方法は、イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であって、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第1除去工程と、上記特定される一定領域に一次イオンの第1イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から所望の元素の量を測定する第1測定工程と、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第2除去工程と、上記特定される一定領域に一次イオンの第2イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から上記所望の元素の量を測定する第2測定工程と、第1測定工程において測定される上記所望の元素の量と第2測定工程において測定される上記所望の元素の量との変分を演算する演算工程と、を備え、第1除去工程から第1測定工程における第1イオンビームの照射までの時間である第1測定工程導入時間と、第2除去工程から第2測定工程における第2イオンビームの照射までの時間である第2測定工程導入時間と、が同じである。
上記によれば、試料表面の付着成分の影響を除去して、試料中の所望の元素の量を正確に解析することができる質量分析方法を提供することができる。
本発明のある態様にかかる質量分析方法のある例を示すフローチャートである。 本発明のある態様にかかる質量分析方法の別の例を示すフローチャートである。 本発明のある態様にかかる質量分析方法の第1測定工程および第2測定工程における二次イオンの質量分析からの所望の元素の測定概要を示す模式図である。
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
本発明のある実施形態にかかる質量分析方法は、イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であって、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第1除去工程と、上記特定される一定領域に一次イオンの第1イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から所望の元素の量を測定する第1測定工程と、上記特定される一定領域に一次イオンの第2イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から上記所望の元素の量を測定する第2測定工程と、第1測定工程において測定される上記所望の元素の量と第2測定工程において測定される上記所望の元素の量との変分を演算する演算工程と、を備え、第1除去工程から第1測定工程における第1イオンビームの照射までの時間である第1測定工程導入時間と、第1測定工程における第1イオンビームの照射から第2測定工程における第2イオンビームの照射までの時間である第2測定工程導入時間とが、同じであり、第1イオンビームの強度が第2イオンビームの強度より強い。
本実施形態の質量分析方法は、第1除去工程、第1測定工程、第2測定工程および演算工程を備え、第1除去工程、第1測定工程および第2測定工程において特定される一定領域がいずれも同じ領域の同一面積であり、第1測定工程導入時間と第2測定工程導入時間とが同じであり、第1イオンビームの強度が第2イオンビームの強度より強いことから、第1測定工程および第2測定工程における試料表面の上記特定される一定領域の付着成分の影響を相殺することにより除去して、試料中の所望の元素の量を正確に解析することができる。
本実施形態の質量分析方法において、第1除去工程における上記特定される一定領域の付着成分を除去する方法を、第1イオンビームの強度以上の強度を有するイオンビームを上記特定される一定領域に照射することとできる。かかる質量分析方法は、第1除去工程で用いられるイオンビームの強度が第1イオンビームの強度以上であることから、第1測定工程および第2測定工程における上記特定される一定領域の付着成分の影響を確実に相殺することにより確実に除去して、試料中の所望の元素の量をより正確に解析することができる。
本発明の別の実施形態にかかる質量分析方法は、イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であって、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第1除去工程と、上記特定される一定領域に一次イオンの第1イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から所望の元素の量を測定する第1測定工程と、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第2除去工程と、上記特定される一定領域に一次イオンの第2イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から上記所望の元素の量を測定する第2測定工程と、第1測定工程において測定される上記所望の元素の量と第2測定工程において測定される上記所望の元素の量との変分を演算する演算工程と、を備え、第1除去工程から第1測定工程における第1イオンビームの照射までの時間である第1測定工程導入時間と、第2除去工程から第2測定工程における第2イオンビームの照射までの時間である第2測定工程導入時間と、が同じである。
本実施形態の質量分析方法は、第1除去工程、第1測定工程、第2除去工程、第2測定工程および演算工程を備え、第1除去工程、第1測定工程、第2除去工程および第2測定工程において特定される一定領域がいずれも同じ領域の同一面積であり、第1測定工程導入時間と第2測定工程導入時間とが同じであることから、第1測定工程および第2測定工程における試料表面の上記特定される一定領域の付着成分の影響を相殺することにより除去して、試料中の所望の元素の量を正確に解析することができる。
本実施形態の質量分析方法において、第1除去工程および第2除去工程における上記特定される一定領域の付着成分を除去する方法が、第1イオンビームの強度および第2イオンビームの強度のいずれも以上の強度を有するイオンビームを上記特定される一定領域に照射することとできる。かかる質量分析方法は、第1除去工程および第2除去工程で用いられるイオンビームの強度が第1イオンビームの強度および第2イオンビームの強度のいずれも以上であることから、第1測定工程および第2測定工程における上記特定される一定領域の付着成分の影響を確実に相殺することにより確実に除去して、試料中の所望の元素の量をより正確に解析することができる。
すなわち、本実施形態の質量分析方法は、イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であって、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第1除去工程と、上記特定される一定領域に一次イオンの第1イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から所望の元素の量を測定する第1測定工程と、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第2除去工程と、上記特定される一定領域に一次イオンの第2イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から上記所望の元素の量を測定する第2測定工程と、第1測定工程において測定される上記所望の元素の量と第2測定工程において測定される上記所望の元素の量との変分を演算する演算工程と、を備え、第1除去工程から第1測定工程における第1イオンビームの照射までの時間である第1測定工程導入時間と、第2除去工程から第2測定工程における第2イオンビームの照射までの時間である第2測定工程導入時間と、が同じであり、第1除去工程および第2除去工程における上記特定される一定領域の付着成分を除去する方法が、第1イオンビームの強度および第2イオンビームの強度のいずれも以上の強度を有するイオンビームを上記特定される一定領域に照射することである。
かかる質量分析方法は、第1除去工程、第1測定工程、第2除去工程、第2測定工程および演算工程を備え、第1除去工程、第1測定工程、第2除去工程および第2測定工程において特定される一定領域がいずれも同じ領域の同一面積であり、第1測定工程導入時間と第2測定工程導入時間とが同じであり、第1除去工程および第2除去工程で用いられるイオンビームの強度が第1イオンビームの強度および第2イオンビームの強度のいずれも以上であることから、第1測定工程および第2測定工程における試料表面の上記特定される一定領域の付着成分の影響を確実に相殺することにより確実に除去して、試料中の所望の元素の量をより正確に解析することができる。
[本発明の実施形態の詳細]
<実施形態1>
図1を参照して、本実施形態の質量分析方法は、イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であって、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第1除去工程S01と、上記特定される一定領域に一次イオンの第1イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から所望の元素の量を測定する第1測定工程S10と、上記特定される一定領域に一次イオンの第2イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から上記所望の元素の量を測定する第2測定工程S20と、第1測定工程S10において測定される上記所望の元素の量と第2測定工程S20において測定される上記所望の元素の量との変分を演算する演算工程S30と、を備え、第1除去工程S01から第1測定工程S10における第1イオンビームの照射までの時間である第1測定工程導入時間と、第1測定工程S10における第1イオンビームの照射から第2測定工程S20における第2イオンビームの照射までの時間である第2測定工程導入時間と、が同じであり、第1イオンビームの強度が第2イオンビームの強度より強い。
本実施形態の質量分析方法は、第1除去工程S01、第1測定工程S10、第2測定工程S20および演算工程S30を備え、第1除去工程S01、第1測定工程S10および第2測定工程S20において特定される一定領域がいずれも同じ領域の同一面積であり、第1測定工程導入時間と第2測定工程導入時間とが同じであり、第1イオンビームの強度が第2イオンビームの強度より強いことから、第1測定工程S10および第2測定工程S20における試料表面の上記特定される一定領域の付着成分の影響を相殺することにより除去して、試料中の所望の元素の量を正確に解析することができる。以下、詳細に説明する。
イオンビームを走査することにより試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析するSIMSにおいては、1×10-8Pa程度までの高い真空雰囲気中において試料の分析を行なうが、かかる真空雰囲気中においてもわずかに含まれる大気由来の所定の元素(酸素、窒素、炭素、水素およびアルゴンなど)の試料表面への付着が問題となる。
たとえば、酸素分子の付着確率(酸素分子が装置の壁に衝突したときに、そのまま装置の壁に付着する確率をいう、以下同じ。)を1とすると、酸素分圧1×10-4Paで酸素の単分子層を形成するまでの時間は約1秒である。任意に特定される一定領域の一例としての3μm×3μmの正方形領域に単分子層が形成されている状況においては、直径約0.3nmの酸素分子が(3μm/0.3nm)2個すなわち108個付着していると考えられる。SIMS装置内の真空度を1×10-8Paとすると、酸素分圧は2×10-9Paである。このとき、3μm×3μmの正方形領域に1秒間で付着する酸素分子は(1×108)×(2×10-9)/(1×10-4)個すなわち2000個となる。したがって、たとえば、試料である窒化ケイ素焼結体の表面および内部の固溶酸素量を測定する場合に、その固溶酸素量が100〜1000ppmのオーダであるため、試料の表面に付着している酸素分子の影響が大きい。
本実施形態の質量分析方法においては、第1除去工程S01によって上記特定される一定領域の付着成分がすべて除去されても、第1測定工程S10における第1イオンビームの照射までの第1測定工程導入時間の間に、上記のように上記特定される一定領域に所定の元素が付着する。また、第1測定工程S10における第1イオンビームの照射によっても上記特定される一定領域の付着成分がすべて除去されても、第2測定工程S20における第2イオンビームの照射までの第2測定工程導入時間の間に、上記のように上記特定される一定領域に所定の元素が付着する。
ここで、第1除去工程S01、第1測定工程S10および第2測定工程S20において特定される一定領域がいずれも同じ領域でありしたがって同一面積であり、第1除去工程S01および第1測定工程S10における第1イオンビームの照射により上記特定される一定領域の付着成分がすべて除去され、所定の雰囲気中において上記特定される一定領域に所定の元素が付着する第1測定工程導入時間および第2測定導入時間が同じであれば、第1測定工程S10および第2測定工程S20における上記特定される一定領域の付着成分の組成および量は同じである。そこで、第1測定工程S10において測定される所望の元素の量と第2測定工程S20において測定される所望の元素の量との変分を演算することにより、上記特定される一定領域の付着成分の影響を相殺して除去できる。
本実施形態の質量分析方法においては、イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析するSIMSにおいて、第1測定工程S10において測定される所望の元素の量と第2測定工程S20において測定される上記所望の元素の量との間に変分が出るように、第1測定工程S10と第2測定工程S20との間で、SIMS装置のアパーチャーのサイズ(スリット幅)を変える方法(アパーチャー変化法ともいう、以下同じ。)により、イオンビームの密度を一定にしたままイオンビームの径を変えて、イオンビームの強度を変えて、電流密度およびスパッタ速度を変える。これにより、第1測定工程S10と第2測定工程S20との間で、二次イオンとして発生する所望の元素の量が異なるため、それらの変分を演算することができる。
本実施形態および他の実施形態において、変分とは、第1測定工程S10において二次イオンとして発生する所望の元素の量と、第2測定工程S20において二次イオンとして発生する上記所望の元素の量と、の間で変化した分量をいい、たとえば両者の間の変化した差である差分などを含む。第1除去工程S01、第1測定工程S10および第2測定工程S20において特定される一定領域を同じとして同一面積とし、第1測定工程導入時間および第2測定工程導入時間を同じとすることにより、第1測定工程S10および第2測定工程S20における上記特定される一定領域の付着成分の組成および量が同じになる。このため、第1測定工程S10において二次イオンとして発生する所望の元素の量と、第2測定工程S20において二次イオンとして発生する所望の元素の量と、の変分を演算することにより、上記特定される一定領域の付着成分の影響を相殺して除去できるため、試料中の所望の元素の量を正確に解析することができる。
図3に、本実施形態の質量分析方法により、たとえば、試料として窒化ケイ素焼結体の表面および内部(以下、窒化ケイ素焼結体中ともいう)の固溶酸素量をSIMSにより測定する一例を示す。窒化ケイ素焼結体中の酸素(O)およびケイ素(Si)の量を評価するために、一次イオンとしてセシウムイオン(Cs)を用いる。
図3(A)に、たとえば、第1測定工程において、アパーチャーのサイズを大きくして大きな強度の第1イオンビームを照射したときに発生する二次イオン中に、試料中のSiが6個、試料中のOが4個、試料表面付着のOが1個、測定されることを示す。試料中のSiに対する試料中のOの比(以下、(試料O/試料Si)比ともいう)は4/6である。しかしながら、SIMSにより測定されるSiに対するOの比(以下、(測定O/測定Si)比ともいう)は、試料中のSiに対する試料中および試料表面付着のOの比(以下、((試料O+付着O)/試料Si)比ともいう)である5/6であり、(試料O/試料Si)比を測定することができない。
図3(B)に、たとえば、第2測定工程において、アパーチャーのサイズを小さくして小さな強度の第2イオンビームを照射したときに発生する二次イオン中に、試料中のSiが3個、試料中のOが2個、試料表面付着のOが1個、測定されることを示す。(試料O/試料Si)比は2/3である。しかしながら、SIMSにより測定される(測定O/測定Si)比は、((試料O+付着O)/試料Si)比である3/3であり、(試料O/試料Si)比を測定することができない。
そこで、第1測定工程導入時間と第2測定工程導入時間を同じとすることにより、試料表面の付着成分の一つであるOが同じ量になるように調整して、第1測定工程で測定されたSiおよびOの個数と、第2測定工程で測定されたSiおよびOの個数の差分を演算することにより、試料表面に付着しているOの影響を相殺により除去して、(試料O/試料Si)比を算出できる。すなわち、ΔSiは第1測定工程の測定Siである6個から第2測定工程の測定Siである3個を減じた3個となり、ΔOは第1測定工程の測定Oある5個から第2測定工程の測定Oである3個を減じた2個となる。したがって、ΔSiに対するΔOの比(以下、(ΔO/ΔSi)比ともいう)は、2/3となり、(試料O/試料Si)比と一致する。
本実施形態の質量分析方法においては、第1除去工程S01における上記特定される一定領域の付着成分の除去と同様に、第1測定工程における第1イオンビームの照射により、上記特定される一定領域の付着成分を確実に除去する観点から、第1イオンビームの強度は第2イオンビームの強度より強い。これにより、第1測定工程S10および第2測定工程S20における上記特定される一定領域の付着成分の影響を確実に相殺することにより確実に除去して、試料中の所望の元素の量を正確に解析することができる。
本実施形態の質量分析方法において、第1除去工程S01における上記特定される一定領域の付着成分を除去する方法は、第1イオンビームの強度以上の強度を有するイオンビームを上記特定される一定領域に照射することが好ましい。かかる質量分析方法は、第1除去工程S01で用いられるイオンビームの強度が第1イオンビームの強度以上であることから、第1測定工程S10および第2測定工程S20における上記特定される一定領域の付着成分の影響を確実に相殺することにより確実に除去して、試料中の所望の元素の量をより正確に解析することができる。
<実施形態2>
図2を参照して、本実施形態の質量分析方法は、イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であって、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第1除去工程S01と、上記特定される一定領域に一次イオンの第1イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から所望の元素の量を測定する第1測定工程S10と、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第2除去工程S02と、上記特定される一定領域に一次イオンの第2イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から上記所望の元素の量を測定する第2測定工程S20と、第1測定工程S10において測定される上記所望の元素の量と第2測定工程S20において測定される上記所望の元素の量との変分を演算する演算工程S30と、を備え、第1除去工程S01から第1測定工程S10における第1イオンビームの照射までの時間である第1測定工程導入時間と、第2除去工程S02から第2測定工程S20における第2イオンビームの照射までの時間である第2測定工程導入時間と、が同じである。
本実施形態の質量分析方法は、第1除去工程S01、第1測定工程S10、第2除去工程S02、第2測定工程S20および演算工程S30を備え、第1除去工程S01、第1測定工程S10、第2除去工程S02および第2測定工程S20において特定される一定領域がいずれも同じ領域の同一面積であり、第1測定工程導入時間と第2測定工程導入時間とが同じであることから、第1測定工程S10および第2測定工程S20における試料表面の上記特定される一定領域の付着成分の影響を相殺することにより除去して、試料中の所望の元素の量を正確に解析することができる。
本実施形態の質量分析方法において、第1除去工程S01および第2除去工程S02における上記特定される一定領域の付着成分を除去する方法は、第1イオンビームの強度および第2イオンビームの強度のいずれも以上の強度を有するイオンビームを上記特定される一定領域に照射することが好ましい。かかる質量分析方法は、第1除去工程S01および第2除去工程S02で用いられるイオンビームの強度が第1イオンビームの強度および第2イオンビームの強度のいずれも以上であることから、第1測定工程および第2測定工程における上記特定される一定領域の付着成分の影響を確実に相殺することにより確実に除去して、試料中の所望の元素の量をより正確に解析することができる。
なお、試料表面の上記特定される一定領域の付着成分を除去する方法が、一次イオンのイオンビームを上記特定される一定領域に照射することである場合は、第1測定工程導入時間および第2測定工程導入時間は、それぞれ第1および第2の除去工程のイオンビームの照射から第1および第2の測定工程における第1および第2のイオンビームの照射までの時間である。
すなわち、図2を参照して、本実施形態の質量分析方法は、イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であって、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第1除去工程S01と、上記特定される一定領域に一次イオンの第1イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から所望の元素の量を測定する第1測定工程S10と、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第2除去工程S02と、上記特定される一定領域に一次イオンの第2イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から上記所望の元素の量を測定する第2測定工程S20と、第1測定工程S10において測定される上記所望の元素の量と第2測定工程S20において測定される上記所望の元素の量との変分を演算する演算工程と、を備え、第1除去工程S01から第1測定工程S10における第1イオンビームの照射までの時間である第1測定工程導入時間と、第2除去工程S02から第2測定工程S20における第2イオンビームの照射までの時間である第2測定工程導入時間と、が同じであり、第1除去工程S01および第2除去工程S02における上記特定される一定領域の付着成分を除去する方法が、第1イオンビームの強度および第2イオンビームの強度のいずれも以上の強度を有するイオンビームを上記特定される一定領域に照射することである。
かかる質量分析方法は、第1除去工程S01、第1測定工程S10、第2除去工程S02、第2測定工程S20および演算工程S30を備え、第1除去工程S01、第1測定工程S10、第2除去工程S02および第2測定工程S20において特定される一定領域がいずれも同じ領域の同一面積であり、第1測定工程導入時間と第2測定工程導入時間とが同じであり、第1除去工程S01および第2除去工程S02で用いられるイオンビームの強度が第1イオンビームの強度および第2イオンビームの強度のいずれも以上であることから、第1測定工程S10および第2測定工程S20における試料表面の上記特定される一定領域の付着成分の影響を確実に相殺することにより確実に除去して、試料中の所望の元素の量をより正確に解析することができる。
<実施形態1と実施形態2との対比と付加実施形態>
図1および図2を参照して、実施形態1は、実施形態2に比べて、第2除去工程S02はないが、第1測定工程S10における第1イオンビームの強度が第2測定工程S20における第2イオンビームの強度よりも大きいという限定が有る点で異なる。すなわち、実施形態1は、実施形態2に比べて、第1測定工程S10における第1イオンビームの強度が第2測定工程S20における第2イオンビームの強度よりも大きくすることにより、第2除去工程S02を省略できる。これは、第1実施形態においては、第1測定工程S10における第1イオンビーム(これは、上記のように第2測定工程S20における第2イオンビームに比べて強い強度を有する)の照射によって、二次イオンを発生させる際に、上記特定される一定領域の付着成分が除去されているためと考えられる。
したがって、第1除去工程S01、第1測定工程S10および第2測定工程S20を含み、第1測定工程S10における第1イオンビームが、上記特定される一定領域の付着成分を除去するのに十分な強度を有していれば、実施形態1のような第1イオンビームの強度が第2イオンビーム強度より強いという条件がなくても、第1測定工程S10において測定される所望の元素の量と第2測定工程S20において測定される上記所望の元素の量との変分を演算することにより、第1測定工程S10および第2測定工程S20における上記特定される一定領域の付着成分の影響を確実に相殺することにより確実に除去して、試料中の所望の元素の量を正確に解析することができる。
すなわち、図1を参照して、追加実施形態の質量分析方法として、イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であって、上記特定される一定領域の付着成分を除去する第1除去工程S01と、上記特定される一定領域に一次イオンの第1イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から所望の元素の量を測定する第1測定工程S10と、上記特定される一定領域に一次イオンの第2イオンビームを照射することにより発生する二次イオンの質量分析から上記所望の元素の量を測定する第2測定工程S20と、第1測定工程S10において測定される上記所望の元素の量と第2測定工程S20において測定される上記所望の元素の量との変分を演算する演算工程S30と、を備え、第1除去工程S01から第1測定工程S10における第1イオンビームの照射までの時間である第1測定工程導入時間と、第1測定工程S10における第1イオンビームの照射から第2測定工程S20における第2イオンビームの照射までの時間である第2測定工程導入時間と、が同じであり、第1イオンビームの強度が上記特定される一定領域の付着成分を除去するのに十分な強度を有する、質量分析方法が挙げられる。ここで、第1イオンビームの強度が上記特定される一定領域の付着成分を除去するのに十分な強度を有するか否かは、付着成分の量との関係による相対的なものである。付着成分の量は、測定雰囲気における残留量、第1測定工程導入時間などにより影響を受ける。
かかる追加実施形態の質量分析方法は、第1イオンビームの強度が上記特定される一定領域の付着成分を除去するのに十分な強度を有するという条件により、実施形態1のような第1イオンビームの強度が第2イオンビーム強度より強いという条件がなくても、第1測定工程S10および第2測定工程S20における上記特定される一定領域の付着成分の影響を確実に相殺することにより確実に除去して、試料中の所望の元素の量を正確に解析することができる。かかる観点から、実施形態1の質量分析方法は、上記の追加実施形態の質量分析方法の一実施形態とも考えられる。
また、追加実施形態の質量分析方法は、第1イオンビームの強度が上記特定される一定領域の付着成分を除去するのに十分な強度を有するという条件により、第1測定工程S10における第1イオンビームの照射により、第2除去工程S02を省略しても、第2除去工程S02における上記特定される一定領域の付着成分の除去が実質的に行われている、すなわち、第1測定工程S10が第2除去工程S02をも兼ねており、実質的に第2除去工程S02をも含んでいると考えられる。かかる観点から、実施形態1の質量分析方法および上記の追加実施形態の質量分析方法は、実施形態2の質量分析方法の一実施形態とも考えられる。
上記の実施形態1、実施形態2および追加実施形態の質量分析方法は、特に、イオンビーム径が50nm以下程度のDynamic−SIMS(たとえば、アメテック社カメカ事業部製NanoSIMS 50L)において好適に用いられる。ここで、イオンビーム径が50nm以下程度のDynamic−SIMSは、イオンビーム径が小さいため、高空間分解能あるいは超高解像度で試料の測定が可能であるなどの特徴を有する。
<付記>
ここで、上記の追加実施形態の質量分析方法を請求項として記載すると、
「イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であって、
前記特定される一定領域の付着成分を除去する第1除去工程と、
前記特定される一定領域に前記一次イオンの第1イオンビームを照射することにより発生する前記二次イオンの質量分析から所望の元素の量を測定する第1測定工程と、
前記特定される一定領域に前記一次イオンの第2イオンビームを照射することにより発生する前記二次イオンの質量分析から前記所望の元素の量を測定する第2測定工程と、
前記第1測定工程において測定される前記所望の元素の量と前記第2測定工程において測定される前記所望の元素の量との変分を演算する演算工程と、を備え、
前記第1除去工程から前記第1測定工程における前記第1イオンビームの照射までの時間である第1測定工程導入時間と、前記第1測定工程における前記第1イオンビームの照射から前記第2測定工程における前記第2イオンビームの照射までの時間である第2測定工程導入時間と、が同じであり、
前記第1イオンビームの強度が前記特定される一定領域の付着成分を除去するのに十分な強度を有する、質量分析方法。」となる。
<実施例I>
(例I−1)
1.試料の準備
試料として、レーザフラッシュ法により測定される熱伝導率が100W・m-1-1であり、JIS R1601:2008に基づいて室温(25℃)において厚さ3mm×幅4mm×長さ40mmの試験片の2支点間の距離が30mmでそれらの2支点の中間点で曲げたときの3点曲げ強度が652MPaの窒化ケイ素焼結体を準備した。かかる窒化ケイ素焼結体は、以下のようにして作製した。まず、原料として、100質量部の窒化ケイ素粉末と、3.5質量部の酸化イットリウム(Y23)粉末と、1.5質量部の酸化マグネシウム(MgO)粉末と、バインダーとして31.5質量部のポリビニルブチラール(PVB)と、分散媒として145質量部のエタノールとを、超音波混合機により均一に混合して、原料スラリーを作製した。次いで、得られた原料スラリーを、一軸加圧成形法により、室温(25℃)で1.0tonf/cm2(98MPa)の条件で成形することにより、成形体を作製した。次いで、得られた成形体を、窒素雰囲気下で温度1950℃圧力0.8MPaの条件で焼結することにより、窒化ケイ素焼結体を得た。
2.SIMSによる試料中の酸素量の測定
アメテック社カメカ事業部製NanoSIMS 50Lを用いて、以下のようにして、上記試料中の酸素量、ケイ素量および(酸素/ケイ素)比を測定した。
(1)第1除去工程
一次イオンとしてCsイオンのイオンビームを試料表面のある特定した一定領域であるラスター領域に照射することにより、試料表面の付着成分を除去した。イオンビームの照射は、ラスター領域3μm×3μm、アパーチャースリット#2(大)で行なった。
(2)第1測定工程
第1除去工程(具体的には、第1除去工程におけるイオンビームの照射)から10秒間の導入時間後、一次イオンとしてCsイオンの第1イオンビームを試料表面の上記ラスター領域(すなわち同一領域の同一面積)に照射することにより発生した二次イオンの質量分析において16Oおよび30Siの信号を測定した。測定は、アパーチャースリット#2(大)を用い、Imageモードで、ラスター領域3μm×3μm、ピクセル数256、イオンビーム照射時間1000μs/ピクセル、積算数5回の条件で行なった。結果を表1にまとめた。
(3)第2測定工程
第1測定工程における第1イオンビームの照射から10秒間の導入時間後、一次イオンとしてCsイオンの第2イオンビームを試料表面の上記ラスター領域(すなわち同一領域の同一面積)に照射することにより発生した二次イオンの質量分析において16Oおよび30Siの信号を測定した。測定は、アパーチャースリット#3(中)を用い、Imageモードで、ラスター領域3μm×3μm、ピクセル数256、イオンビーム照射時間1000μs/ピクセル、積算数5回の条件で行なった。結果を表1にまとめた。
(4)演算工程
第1測定工程で測定された16Oのカウント数IO1および30Siのカウント数ISi1と、第1測定工程で測定された16Oのカウント数I02および30Siのカウント数ISi2との変分のひとつである差分ΔIOおよびΔISiを以下の式(1)および(2)
ΔIO = |IO1−I02| (1)
ΔISi = |ISi1−ISi2| (2)
により算出した。さらに、ΔIOをΔISiで除することにより、ΔIO/ΔISi比を算出した。積算回数が3〜5回における平均のΔIO/ΔISi比は0.110であった。結果を表1にまとめた。
Figure 0006645379
(例I−2)
第1測定工程においてアパーチャースリット#3(中)を用いたことおよび第2測定工程においてアパーチャースリット#4(小)を用いたこと以外は、例I−1と同一のラスター領域(すなわち同一領域の同一面積)でかつ同じ測定方法により測定して、ΔIO、ΔISiおよびΔIO/ΔISi比を算出した。積算回数が3〜5回における平均のΔIO/ΔISi比は0.114であった。結果を表2にまとめた。
Figure 0006645379
表1および表2を参照して、実施例Iの例I−1および例I−2の質量分析において、第1測定工程におけるアパーチャースリットのサイズが第2測定工程におけるアパーチャースリットのサイズより大きくすることにより、第1測定における第1イオンビームの強度が第2測定における第2イオンビームの強度より強くして測定し、その変分(差分)から算出した平均のΔIO/ΔISi比は、それぞれ0.110および0.114とよい一致を示した。すなわち、第1除去工程のみならず第1測定工程においても、試料表面の付着成分が適切に除去され、試料表面の付着成分の影響を除去して、試料中の元素の量を正確に解析することができた。
なお、試料中の酸素の具体的な原子濃度(単位:原子/cm3)は、上記平均のΔIO/ΔISi比に、Siに対するOのRSF(相対感度係数)を乗ずることにより算出される。
<比較例RI>
(例RI−1)
実施例Iの例I−1における第1測定工程(アパーチャースリット#2(大))において測定された16Oのカウント数IO1および30Siのカウント数ISi1とからIO1/ISi1比を算出した。すなわち、第1測定工程における測定値と第2測定工程における測定値との変分(差分)を演算することなく、第1測定工程における測定値のみからIO1/ISi1比を算出した。積算回数が3〜5回における平均のIO/ISi比は0.131であった。結果を表3にまとめた。
Figure 0006645379
(例RI−2)
実施例Iの例I−2における第1測定工程(アパーチャースリット#3(中))において測定された16Oのカウント数IO1および30Siのカウント数ISi1とからIO1/ISi1比を算出した。すなわち、第1測定工程における測定値と第2測定工程における測定値との変分(差分)を演算することなく、第1測定工程における測定値のみからIO1/ISi1比を算出した。積算回数が3〜5回における平均のIO/ISi比は0.159であった。結果を表4にまとめた。
Figure 0006645379
表3および表4を参照して、実施例Iの例I−1および例I−2の質量分析において、第1測定工程における測定値と第2測定工程における測定値との変分(差分)を演算することなく、アパーチャースリットのサイズの異なるそれぞれの第1測定工程における測定値のみから算出した平均のIO/ISi比は、それぞれ0.131および0.159と不一致であった。また、これらの値は、実施例Iの例I−1および例I−2の平均のΔIO/ΔISi比である0.110および0.114と不一致であった。すなわち、試料表面の付着成分の影響を除去できず、試料中の元素の量を正確に解析することができなかった。
(例RI−3)
第1測定工程においてアパーチャースリット#3(中)を用いたことおよび第2測定工程においてアパーチャースリット#2(大)を用いたこと以外は、例I−1と同一のラスター領域(すなわち同一領域の同一面積)でかつ同じ測定方法により測定して、ΔIO、ΔISiおよびΔIO/ΔISi比を算出した。積算回数が3〜5回における平均のΔIO/ΔISi比は0.135であった。結果を表5にまとめた。
Figure 0006645379
(例RI−4)
第1測定工程においてアパーチャースリット#4(小)を用いたことおよび第2測定工程においてアパーチャースリット#3(中)を用いたこと以外は、例RI−3と同一のラスター領域(すなわち同一領域の同一面積)でかつ同じ測定方法により測定して、ΔIO、ΔISiおよびΔIO/ΔISi比を算出した。積算回数が3〜5回における平均のΔIO/ΔISi比は0.153であった。結果を表6にまとめた。
Figure 0006645379
表5および表6を参照して、第1測定工程におけるアパーチャースリットのサイズが第2測定工程におけるアパーチャースリットのサイズより小さくすることにより、第1測定における第1イオンビームの強度が第2測定における第2イオンビームの強度より弱くして測定し、その変分(差分)から算出した平均のΔIO/ΔISi比は、それぞれ0.135および0.153と不一致であった。すなわち、試料表面の付着成分の影響を除去できず、試料中の元素の量を正確に解析することができなかった。
<実施例II>
(例II−1)
1.試料の準備
試料として、実施例Iの例I−1とは別のケイ素焼結体を準備した。
2.SIMSによる試料中の酸素量の測定
アメテック社カメカ事業部製NanoSIMS 50Lを用いて、以下のようにして、上記試料中の酸素量、ケイ素量および(酸素/ケイ素)比を測定した。
(1)第1除去工程
一次イオンとしてCsイオンのイオンビームを試料表面のある特定した一定領域であるラスター領域に照射することにより、試料表面の付着成分を除去した。イオンビームの照射は、ラスター領域3μm×3μm、アパーチャースリット#2(大)で行なった。
(2)第1測定工程
第1除去工程(具体的には、第1除去工程におけるイオンビームの照射)から10秒間の導入時間後、一次イオンとしてCsイオンの第1イオンビームを試料表面の上記ラスター領域(すなわち同一領域の同一面積)に照射することにより発生した二次イオンの質量分析において16Oおよび30Siの信号を測定した。測定は、アパーチャースリット#3(中)を用い、Imageモードで、ラスター領域3μm×3μm、ピクセル数256、イオンビーム照射時間1000μs/ピクセル、積算数5回の条件で行なった。結果を表7にまとめた。
(3)第2除去工程
第1測定工程後、一次イオンとしてCsイオンのイオンビームを試料表面の上記ラスター領域(すなわち同一領域の同一面積)に照射することにより、試料表面の付着成分を除去した。イオンビームの照射は、ラスター領域3μm×3μm、アパーチャースリット#2(大)で行なった。
(4)第2測定工程
第2除去工程(具体的には、第2除去工程におけるイオンビームの照射)から10秒間の導入時間後、一次イオンとしてCsイオンの第2イオンビームを試料の表面に照射することにより発生した二次イオンの質量分析において16Oおよび30Siの信号を測定した。測定は、アパーチャースリット#2(大)を用い、Imageモードで、ラスター領域3μm×3μm、ピクセル数256、イオンビーム照射時間1000μs/ピクセル、積算数5回の条件で行なった。結果を表7にまとめた。
(5)演算工程
第1測定工程で測定された16Oのカウント数IO1および30Siのカウント数ISi1と、第2測定工程で測定された16Oのカウント数I02および30Siのカウント数ISi2との差分ΔIOおよびΔISi、ならびにΔIO/ΔISi比を実施例Iの例I−1と同様にして算出した。積算回数が3〜5回における平均のΔIO/ΔISi比は0.109であった。結果を表7にまとめた。
Figure 0006645379
<比較例RII>
(例RII−1)
実施例IIの例II−1における第1測定工程(アパーチャースリット#3(中))において測定された16Oのカウント数IO1および30Siのカウント数ISi1とからIO1/ISi1比を算出した。すなわち、第1測定工程における測定値と第2測定工程における測定値との変分(差分)を演算することなく、第1測定工程における測定値のみからIO1/ISi1比を算出した。積算回数が3〜5回における平均のIO/ISi比は0.349であった。結果を表8にまとめた。
Figure 0006645379
(例RII−2)
実施例IIの例II−1における第2測定工程(アパーチャースリット#2(大))において測定された16Oのカウント数IO1および30Siのカウント数ISi1とからIO1/ISi1比を算出した。すなわち、第1測定工程における測定値と第2測定工程における測定値との変分(差分)を演算することなく、第1測定工程における測定値のみからIO1/ISi1比を算出した。積算回数が3〜5回における平均のIO/ISi比は0.213であった。結果を表9にまとめた。
Figure 0006645379
表8および表9を参照して、比較例RIIの例RII−1および例RII−2として、実施例IIの例II−1の質量分析において、第1測定工程における測定値と第2測定工程における測定値との変分(差分)を演算することなく、アパーチャースリットのサイズの異なる第1測定工程および第2測定工程における測定値のみから算出した平均のIO/ISi比は、それぞれ0.349および0.213と不一致であった。すなわち、試料表面の付着成分の影響を除去できず、試料中の元素の量を正確に解析することができなかった。
これに対して、表7を参照して、実施例IIの例II−1において、第1測定工程におけるアパーチャースリットのサイズが第2測定工程におけるアパーチャースリットのサイズより小さくすることにより、第1測定における第1イオンビームの強度が第2測定における第2イオンビームの強度より弱くして測定し、その変分(差分)から算出した平均のΔIO/ΔISi比は、0.109であった。
表7〜表9を参照して、比較例RIIの例RII−1および例RII−2においては、試料表面の付着成分の影響を除去できず、試料中の元素の量を正確に解析することができなかった。これに対して、実施例IIの例II−1においては、第1測定工程と第2測定工程との間に第2除去工程を設けることにより、第1測定における第1イオンビームの強度が第2測定における第2イオンビームの強度より弱くして測定しても、その変分(差分)を演算することにより、試料表面の付着成分の影響を除去して、試料中の元素の量を正確に解析することができた。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
S01 第1除去工程
S02 第2除去工程
S10 第1測定工程
S20 第2測定工程
S30 演算工程

Claims (4)

  1. イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であって、
    前記特定される一定領域の付着成分を除去する第1除去工程と、
    前記特定される一定領域に前記一次イオンの第1イオンビームを照射することにより発生する前記二次イオンの質量分析から所望の元素の量を測定する第1測定工程と、
    前記特定される一定領域に前記一次イオンの第2イオンビームを照射することにより発生する前記二次イオンの質量分析から前記所望の元素の量を測定する第2測定工程と、
    前記第1測定工程において測定される前記所望の元素の量と前記第2測定工程において測定される前記所望の元素の量との変分を演算する演算工程と、を備え、
    前記第1除去工程から前記第1測定工程における前記第1イオンビームの照射までの時間である第1測定工程導入時間と、前記第1測定工程における前記第1イオンビームの照射から前記第2測定工程における前記第2イオンビームの照射までの時間である第2測定工程導入時間と、が同じであり、
    前記第1イオンビームの強度が前記第2イオンビームの強度より強い、質量分析方法。
  2. 前記第1除去工程における前記特定される一定領域の付着成分を除去する方法が、前記第1イオンビームの強度以上の強度を有するイオンビームを前記特定される一定領域に照射することである請求項1に記載の質量分析方法。
  3. イオンビームを走査して試料表面の任意に特定される一定領域に一次イオンを照射することにより発生する二次イオンの質量を分析する質量分析方法であって、
    前記特定される一定領域の付着成分を除去する第1除去工程と、
    前記特定される一定領域に前記一次イオンの第1イオンビームを照射することにより発生する前記二次イオンの質量分析から所望の元素の量を測定する第1測定工程と、
    前記特定される一定領域の付着成分を除去する第2除去工程と、
    前記特定される一定領域に前記一次イオンの第2イオンビームを照射することにより発生する前記二次イオンの質量分析から前記所望の元素の量を測定する第2測定工程と、
    前記第1測定工程において測定される前記所望の元素の量と前記第2測定工程において測定される前記所望の元素の量との変分を演算する演算工程と、を備え、
    前記第1除去工程から前記第1測定工程における前記第1イオンビームの照射までの時間である第1測定工程導入時間と、前記第2除去工程から前記第2測定工程における前記第2イオンビームの照射までの時間である第2測定工程導入時間と、が同じである、質量分析方法。
  4. 前記第1除去工程および前記第2除去工程における前記特定される一定領域の付着成分を除去する方法が、前記第1イオンビームの強度および前記第2イオンビームの強度のいずれも以上の強度を有するイオンビームを前記特定される一定領域に照射することである請求項3に記載の質量分析方法。
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