JP3720012B2 - 半導体ウェハの不純物濃度分布測定方法およびそのための装置 - Google Patents

半導体ウェハの不純物濃度分布測定方法およびそのための装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、二次イオン質量分析装置を用いた半導体ウエハの不純物濃度測定方法およびそのための装置に関し、特に、シリコン半導体に含まれるヒ素あるいはボロンの不純物濃度測定方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体ウエハ中不純物の深さ方向濃度分布を測定する表面分析装置および方法の一つとして,二次イオン質量分析装置を用いた分析方法がある。二次イオン質量分析法では,減圧された密閉容器内に配置された試料表面に一次イオンを連続的に照射し、前記試料表面をスパッタ励起することで発生する二次イオンの質量分析をすることで試料表面近傍に存在する元素の深さ方向濃度分析を行っている。
【0003】
この二次イオン質量分析装置を図5で説明する。図5において、50が二次イオン質量分析装置であり、この装置は、試料室51内に配置された試料台52上に測定する試料Sを載置し、この試料室51内は真空ポンプPによって真空に保たれる。一次イオン源53から出射されるイオンビームを、イオンビームを収束させるためのレンズを含むイオン導入筒54を経由して、試料Sに照射し、この試料Sから出射される二次イオンを二次イオンレンズ56によって引き込み、質量分析器57で、二次イオンを質量によって分離して検出器58で検出するものである。連続的に一次イオン源53からイオンビームを照射することにより、試料の深さ方向の情報を得ることができる。
その結果は、コンピュータ59に入力され、イオンビームを照射した時間(深さに比例)と出射される特定の質量の二次イオン数の関係が得られる。これによって、試料を構成する元素種や微量不純物元素種およびその量を深さ方向に分析することができる。この二次イオン質量分析装置を用いると、少量の試料で微量の成分まで極めて精度の高い深さ方向分析を行うことができるため、半導体装置のような試料の質量分析を行うことが可能となり、広く使用されている。
【0004】
ところで、このような二次イオン質量分析装置を用いて、Si基板試料の浅い拡散層に用いるドーパント不純物(5keV以下の極低エネルギーによりイオン注入された不純物)の深さ方向濃度分布を二次イオン質量分析法により行うと、上記一次イオンのエネルギーに依存して不純物の深さ方向濃度分布が変化すること(深さ方向濃度分布の傾きが変化すること)が知られている。
【0005】
この場合、一般に一次イオンエネルギーを低くすると、一次イオンが試料内で引き起こすノックオン効果が抑制されるので得られる深さ方向濃度分布は真に近づくと言われている。しかしながら、低いエネルギー(1keV以下)の一次イオンを用いても、浅い拡散層のドーパント不純物が極めて浅い領域(10nm以下の浅い領域)に分布するとノックオン効果を完全に抑制できないため真の分布が得られないという問題点がある。これは一次イオンのエネルギーは一次イオン銃の性能から考えてせいぜい100eVまでしか下げることができないし、将来的に100eV以下のイオンビームが放出できるイオン銃が開発されても100eV以下の一次イオンではイオンスパッタリングがほとんど生じなくなるので分析ができないからである。
【0006】
このような分析上の制約のため、真の、もしくは真に近い深さ分布を求めるためにノックオン等のイオンスパッタリングにより引き起こされる現象に関する深さ分解能を考慮して測定された深さ分布から真の分布を推定するデコンボリューション法を用いる必要が生じてきた。
【0007】
すなわち、測定された分布をI(z)、深さ分解能関数をg(z)、真の深さ分布をX(z)とするとこれら3者の関数は以下のような式1で表される(図2参照)。図2において、(a)が測定された分布であり、(b)が真の深さ分布であり、(c)が深さ分解関数である。
【0008】
【数1】
Figure 0003720012
【0009】
デコンボリューションは、この深さ分解能関数g(z)を考慮してI(z)から真の深さ分布X(z)を推定する方法である。
【0010】
深さ分解能関数の導出方法としては、従来以下の2つの方法がこれまで報告されているが、以下のような問題点をかかえている。
【0011】
1)デルタドープ層を有する試料を用いる方法
デルタドープ層とは、試料中に形成される単原子層であり、デルタドープ層を有する試料を測定したことにより得られる深さ分布は、そのものが深さ分解能関数となることが知られている。すなわち、G.A.CookeらはSi中のBや、GaAs中のSiの深さ分解能関数を、デルタ試料を用いて導出し、このようにして得た深さ分解能関数を用いて、最大エントロピー法を利用したデコンボリューション法により真の深さ分布を推定している(非特許文献1参照)。これは図7(a)に示すドープ元素の深さ分布を有する試料を質量分析して図7(b)に示すような深さ分解能関数を得、この深さ分解能関数を用いて真の深さ分布を求めるものである。
【0012】
ところで、この方法の問題点は真のデルタドープ試料を作製することが困難だということである。デルタドープ試料はMBE法などの試料作製法により作られるが、一般に成膜温度が数100℃であるため製膜成膜中にデルタドーピングした原子が上下の層にどうしても拡散し、いわゆるデルタ層ではなく、ある程度の深さに広がった分布が形成されてしまうのである。結果としてこのようなデルタドープ試料から得られる深さ分解能関数はドープした原子が拡散したぶんだけ実際の深さ分解能関数よりも広がった形状を有することになる。このためこの深さ分解能関数を使って正確なデコンボリューション処理、正確な真の深さ分布推定はできないことになる。
【0013】
2)常温接合試料を用いる方法
上記デルタドープ層を有する試料による深さ分布の測定の欠点を改善する方法として、常温接合試料の測定により深さ分解能関数を算出することが知られている(特許文献1参照)。常温接合試料とは異種材料の表面を清浄化・活性化した後、真空中にて常温圧着することにより得られる試料である。この試料の接合界面では非常に急峻な(ステップ関数的な)濃度分布を有する試料を得ることができる。常温にて接合しているため、デルタドープ試料のような不純物元素の拡散はなく、得られたステップ関数状の分布を微分することにより深さ分解能関数が得られると考えられる。例えば、川島の前記特許文献1においては、SiとInPの接合によりSi中のPの深さ分解能関数が得られるとしている(図8参照)。図8(a)が、SiとInPを接合した試料の断面図であり、この試料中のリンについて測定した深さ分布が図8(b)である。この深さ分布は、試料中のリンの分布が急峻に変化していることから、その分布は、非検出領域と高濃度領域に急峻に変化するものと考えられるが、実際には、図8(b)に見られるように多少の勾配をもって遷移している。この分布曲線を微分することによって図8(c)に示す深さ分解能関数が得られる。
【0014】
ところで、この方法の問題点は、SiとInP等の異種マトリックス材料を張り合わせているので、Si層中およびInP層中でのPの二次イオン質量分析における二次イオン化効率が異なってしまうために、正確な深さ分解能関数が得られないということである。またこの常温接合試料を得るためには特別な装置である真空チャンバー中の圧着器が必要となる。このため、一般的にはこの方法を用いることは極めて困難である。
【0015】
【非特許文献1】
J.Vac.Sci.Technol.B14,p132、 J.Vac.Sci.Technol.B14,p283
【特許文献1】
特許第3123602号
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、二次イオン質量分析装置を用いた深さ方向分析により得られた深さ方向分布をデコンボリューション処理することにより不純物元素の深さ分布を測定する方法において、容易に、しかも正確な深さ分解能関数を得、それに基づいて容易、かつ簡便に不純物元素の深さ分布を測定する方法を提供することを目的としている。
【0017】
【課題を解決するための手段】
第1の本発明は、深さ分解能関数導出用の半導体ウェハから、少なくとも第1の試料片及び第2の試料片を採取する工程と、
二次イオン質量分析装置により前記第1の試料片に含有される不純物の濃度分布を裏面方向から測定する第1測定工程と、
前記二次イオン質量分析装置により前記第2の試料片に含有される不純物の濃度分布を表面方向から測定する第2測定工程と、
前記第1測定工程で得られる不純物の濃度分布と、前記第2測定工程で得られる不純物の濃度分布を比較し、それらの測定ずれを表す関数である深さ分解能関数を求める工程と、
被測定用の半導体ウェハから被測定試料片を採取する工程と、
前記二次イオン質量分析装置により前記被測定用の試料片に含有される不純物の濃度分布を表面方向から測定する工程と、
前記深さ分解能関数を用いて、前記被測定試料片から測定した不純物濃度の分布の実測値をデコンボリューション計算により補正することを特徴とする半導体ウェハの不純物濃度分布測定方法である。
【0018】
前記第1の本発明において、前記被測定試料片の表面からの深さが、3.5nm以上の範囲のみの不純物濃度の分布を、真の不純物濃度分布とすることが精度の高い不純物濃度分布を求める上で望ましい。
【0019】
第2の本発明は、被測定試料に一次イオンを照射する一次イオン源と、前記被測定試料を配置し、真空に維持することのできる試料室と、一次イオンによって照射された前記被測定試料表面から放射される二次イオンを質量分離する質量分析器と、質量分離された前記二次イオンを検出する二次イオン検出器と、該二次イオン検出器からの出力を入力して演算処理する情報処理装置とを少なくとも備えた二次イオン質量分析装置において、
該情報処理装置が、分解能関数導出用の半導体ウェハから採取される第1の試料片の裏面方向から測定された不純物濃度分布と、前記分解能関数導出用の半導体ウェハから採取される第2の試料片の表面方向から測定された不純物濃度分布のそれぞれの実測値を比較し、それらの測定ずれを表す関数である深さ分解能関数を求め、該深さ分解能関数を用いて、前記被測定試料片の表面方向から二次イオン質量分析装置により測定された不純物濃度分布からデコンボリューション計算により前記被測定用試料片の真の不純物濃度分布を算出する手段を備えていることを特徴とする半導体ウェハの不純物濃度分布測定装置である。
【0020】
上記本発明で採用するデコンボリューション法とは、測定された分布をI(z)、深さ分解能関数をg(z)、真の深さ分布をX(z)とした場合、深さ分解能関数g(z)を考慮して真の深さ分布X(z)を推定する方法である。デコンボリューション計算を行うため、最大エントロピー法やフーリエ変換など、公知の方法が用いられている。
【0021】
本発明で採用する裏面分析法とは、分析試料表面側と支持基板を接着し、分析に適した厚さまで試料裏面側を機械的もしくは化学的に機械研磨・化学もしくはドライエッチングし、機械研磨・エッチングした面から分析を行う手法である。浅い接合層の評価を行うには100nm以下まで機械研磨・エッチングする必要がある。試料の基板がSOIウエハ(Si膜/SiO膜/Si基板構造の基板)であれば、SiOとSiの化学的な選択エッチング作用を用いることにより容易に裏面分析用の試料を作ることができることが知られている(特許3123602号)。
【0022】
この裏面分析法は、試料表面に表面荒れがある場合や分析中に荒れやすい金属膜が試料表面に付いている場合の他に、試料表面側から分析した場合の試料基板方向へのノックオン効果を抑制したい場合に有効であることが知られている。
また表面からの分析法とは通常行われる分析法で、試料表面からそのまま分析を行う方法である。試料表面に不必要な膜、分析に障害を与える膜がついている場合は機械研磨・化学もしくはドライエッチングしても良い。
【0023】
以下、本発明の原理について説明する。
深さ分解能関数の導出は、裏面分析法および表面からの分析法により得られた深さ方向分布のデータを用いて両者のデータを比較することにより、正確な深さ分解能関数を求めることができる。具体的には以下の方法で行うことができる。
【0024】
裏面分析法にて得られる浅い拡散層深さ分布の中で、負の傾きをもった分布はスパッタリング時のノックオン効果を受けにくいため真もしくは真に近い分布が得られることが知られている(SIMS−XIII国際会議(2001)、C.Hongo,M.Tomitaら、Accurate SIMS Depth Profiling for Ultra−shallow Implantsusing backside SIMS)。浅い拡散層の分布は非常に浅い領域に不純物が注入されることにより作製されるため、分布のほとんどは負の傾きを持った領域である。裏面分析法で得られる深さ分布の負の傾きをもった部分は一次イオンエネルギーを変化させてもほとんどその形状(傾き)が変化しないことから、ある程度一次イオンエネルギーを低下させれば(不純物の分布形状にも依存するが、500eV以下の一次イオンエネルギーのことを指す)、真もしくは真に近い分布が得られることが確認できている。このため、裏面分析法にて得られた深さ分布の負の傾きをもった部分を真もしくは真に近い分布であると考えることができる。
【0025】
このため、表面側からの分析によって得られた分布をE(z)、深さ分解能関数をg(z)、裏面分析によって得られた深さ分布をY(z)とするとこれら3者の関数は式2と同様の形式にて以下のように表される。
【0026】
【数2】
Figure 0003720012
【0027】
深さ分解能関数は例えばDowsettらにより式3のような形式(ここではこの式をDowsett関数と呼ぶことにする)にて記述できることが示されている(J.Vac.Sci.Technol.B12(1994)186)。 このため、Dowsett関数と裏面分析によって得られた深さ分布Y(z)のコンボリューションされた分布と表面側からの分析によって得られた分布E(z)を比較することにより、Dowsett関数のパラメータw,eu,edを決定することができる。すなわち、深さ分解能関数であるDowsett関数を求めることができる。
【0028】
【数3】
Figure 0003720012
【0029】
深さ分解能関数はDowsett関数の他にHofmannによるMRIモデルの関数(Surf.Interf.Anal.30(2000)p228)を用いてもよい。また、式2において、表面側からの分析によって得られた分布をE(z)、裏面分析によって得られた深さ分布をY(z)のデータを用いてデコンボリューション法により深さ分解能関数を、g(z)を算出しても良い。この際、デコンボリューションは例えば最大エントロピー法やフーリエ変換法などを用いて行うことができる。
【0030】
ちなみにこの方法では、裏面分析法で得られる深さ分布の負の傾きをもった部分を真もしくは真に近い分布であると仮定することにより、深さ分解能関数を求めている。 不純物の深さ分布が山形の形状を有している場合、裏面分析法で得られる分布の正の傾きをもった部分は真の分布では無いため、その部分のデータを含めて上記の深さ分解能の導出を行うことは好ましくない。
【0031】
従来法に対するこの深さ分解能関数の導出方法のメリットは、第一に測定すべき試料そのもの、もしくは同一の系の試料から深さ分解能関数を導出できることである。デルタドープ層を有する試料を用いる方法や常温接合試料を用いる方法では測定対象とは異なる試料を別途準備してその試料から深さ分解能関数を求めるため、測定対象試料と比べて厳密には系(例えば結晶性、評価対象となる分析深さ、不純物の濃度など)が異なることになる。このような意味で、本特許による深さ分解能の測定法は極めて優れた方法である。
【0032】
第二のメリットとしては、イオン注入試料から深さ分解能関数を求めているため、イオン注入可能なすべての元素の深さ分解能関数を求めることができるということが挙げられる。この方法の最終目的はイオン注入された不純物の正確な深さ分布を求めることであるため、すべてのイオン注入試料について深さ分解能関数を導出することができる。一方、デルタドープ層を有する試料を用いる方法、常温接合試料を用いる方法では作製できるデルタドープ試料、常温接合試料の種類に限りがある。この点においても、本発明の優れた特徴が明らかである。
【0033】
【発明の実施の形態】
本発明に係わる浅い接合層の深さ分布のデコンボリューションに使用する深さ分解能関数の測定法は、二次イオン質量分析装置を用いて試料裏面方向から試料中の不純物の真もしくは真に近い分布を測定する工程と、試料表面方向から試料中の不純物分布の実測値を測定する工程と、実測値の分布と真もしくは真に近い分布とから試料表面方向から測定したときの不純物分布の測定ずれを生じさせる関数すなわち深さ分解能関数を求めることを目的としている。
【0034】
半導体ウエハ中不純物の深さ方向濃度分布を測定する表面分析装置および方法の一つとして,二次イオン質量分析装置および二次イオン質量分析方法がある。Si基板試料の浅い拡散層に用いるドーパント不純物の深さ方向濃度分布を二次イオン質量分析法により行うと、ノックオン効果によって不純物の深さ方向濃度分布が歪められてしまうことが知られている。このため、真の(もしくは真に近い)深さ分布を測定するためにノックオン等のイオンスパッタリングにより引き起こされる現象に関する深さ分解能を考慮して測定された深さ分布から真の分布を推定するデコンボリューション法を用いる必要である。
【0035】
以下、図1を用いて本発明不純物濃度の測定方法の実施の形態について説明する。
まず、測定試料となる半導体ウェハから、深さ分解能関数を算出するための少なくとも2個の試料片を採取する(s1)。
【0036】
次いで、この試料片の内の1つである裏面分析用試料について、試料加工する(s2)。
この裏面分析用資料加工の詳細について、図2を用いて説明する。表面に不純物領域を有する半導体ウェハから分析試料片を切り出し(図2(a))、その表面にアモルファスシリコン膜を室温もしくはできうる限り低い温度にて形成する(図2(b))。このアモルファスシリコン膜は、シリコンと支持基板とを接合する際に用いる接着剤のような異種材料を直接試料表面に接合することによって二次イオン収量が変化することを防止するためのものである。このアモルファスシリコン膜の膜厚は、3nm〜1μm程度、好ましくは20nm〜100nm程度がよい。
【0037】
次いで、アモルファスシリコン膜上に、エポキシ樹脂のような接着剤を塗布した後、シリコンウェハのような支持基板を接着し、分析試料片裏面側から機械研磨あるいは化学エッチングにより研削処理して裏面分析用試料に加工する(図2(c))。
【0038】
上記工程で加工した裏面分析用試料について、図5の二次イオン質量分析装置を用いて、二次イオン質量分析を行う(s3)。
【0039】
一方、前記s1工程で採取した深さ分解能関数算出用試料の他の1つについて、その表面から図5の二次イオン質量分析装置を用いて、二次イオン質量分析を行う(s4)。
【0040】
上記s3ステップで得た裏面分析用試料の質量分析データと、上記s4ステップで得た表面分析用試料の質量分析データとを用いて前記式3で表される深さ分解能関数を算出する(s5)。
【0041】
次いで、実際に不純物濃度の深さ分布を測定する試料を準備し、その表面からの二次イオン質量分析を行なう(s6)。本発明における上記深さ分解能関数は、半導体元素種、不純物元素種、および表面からの二次イオン質量分析の分析条件(ステップs4での分析条件)に依存し、不純物濃度分布の形状にはほとんど依存しない。従って、半導体元素種、不純物元素種が同一であれば、前記ステップs5で算出した深さ分解能関数を、この深さ分解能関数を算出した半導体ウェハとは異なる半導体ウェハの不純物濃度分布算出に適用することができる。ただし、これら半導体ウェハを分析する条件はステップ4で二次イオン質量分析を行なった分析条件と同じである必要がある。
【0042】
前記ステップs5で得た深さ分解能関数と、前記ステップs6で得た不純物濃度分布データから、デコンボリューション計算により、真値に近い不純物濃度分布を算出する。
【0043】
【実施例】
(実施例)
この実施例1ではSi(シリコン)半導体にエネルギー0.2keV、ドーズ量1E15cm−2の条件にて11B(質量数11のボロン)をイオン注入した試料を準備した。このBイオン注入された試料を小片に切断し、となりあった2個の試料を得た。この内の1個の試料については裏面からの分析用、もう1個は表面からの分析用とした。
【0044】
裏面からの分析用試料は以下の手順にて裏面分析用試料に加工した。まず裏面からの分析用試料の表面に約50nmのアモルファスSi膜を室温にてMBE製膜した。これは加工した試料の二次イオン質量分析を行う際に、次工程で行う貼り付けの界面付近にて二次イオン収量が変化するのを防ぐためである(エポキシ樹脂とSi半導体界面では異種材料からなる界面であるため、二次イオン化効率が変化してしまうため)。次にエポキシ樹脂にて上記分析試料の表面側と支持基板(Si基板)を張り合わせた。さらにこの張り合わせ試料の支持基板側を研磨機の研磨台に貼り付けた。
【0045】
次に研磨機にて上記分析試料の裏面側をその研磨面が分析試料の表面側の面に並行になるように研磨した。この際、研磨シートの粗さは徐々に細かくしながら研磨し、最終仕上げとしてシリカの微粒子を用いたバフ研磨を施した。このとき、研磨表面は鏡面となり、分析試料の厚さ(残り膜厚)は約40nmであった(レーザー干渉式測長器により測定)。また、研磨された試料の残り膜厚の面内依存性をレーザー干渉式測長器により測定した。試料周辺部は40nmよりもさらに薄くなっていたが、試料の中央部3mmファイの部分では試料の残り膜厚はほぼ均一になっていることが判った。このため、この部分を二次イオン質量分析装置にて分析することにした。研磨された試料を二次イオン質量分析装置(図5)に入れ、以下の条件にて分析を行った。この条件で裏面分析することにより、このデータは真に近いデータとなることがあらかじめ分かっている。 それは、一次イオンエネルギーを徐々に下げて測定すると、500eV以下ではB分布が変化しなくなるからである。
【0046】
(分析条件)
一次イオン:O 、350eV、入射角45°、ラスター幅500um角、酸素吹き付け条件
検出二次イオン:11B
【0047】
また、次の条件にて表面方向から表面分析用試料の分析を行った。今回の場合、一次イオンエネルギー500eVにて測定しているので、一次イオンエネルギー500eV条件での深さ分解能関数が得られることになる。
【0048】
(分析条件)
一次イオン:O 、500eV、入射角45°、ラスター幅500um角、酸素吹き付け条件
検出二次イオン:11B
【0049】
両者のデータを比較するため表面位置(裏面試料の場合は初期の表面位置)を合わせて図示した(図3)。この際、裏面方向から分析したデータの初期試料の表面位置は10Bの信号のピーク位置から決定した(Bは空気中からの汚染により試料表面に付着する。10Bを検出すれば初期試料の表面位置を知ることができる。)。また表面方向から分析する際には、スパッタの初期においてスパッタ速度が大きいことが知られているため、その分の補正を行って図3に示している。図3によると、表面方向から分析したデータのほうが裏面方向から分析したデータよりもその傾きが緩やかであり、表面方向から分析したデータはノックオン効果を受けていることが判る。
【0050】
深さ分解能を算出するための計算は図3に示した2セットのデータの3.5nm−9.5nm範囲のデータを利用した。最表面の0−3.5nmのデータを利用しなかったのは、この範囲における裏面方向からの分析データが真の分布と異なる(この範囲において濃度が真値よりも低くなる)ことが判明したからである。このことは、アモルファスSi膜を付けた試料を表面および裏面方向から分析したことで明らかになった。ちなみに、表面から分析したデータも0−2nmの範囲でスパッタ速度が早くなるため、深さ分解能を求めるための計算に使用しないほうがよい。
【0051】
また、9.5nmよりも深い領域のデータを使用しなかったのは、表面から分析したデータにおいてクレータエッジ効果等により実際の濃度よりも高くなっている(バックグラウンドが乗っている)可能性があるからである。このバックグラウンドはB濃度約1E18cm−3程度に現れるため、この濃度よりも低い表面からのデータは深さ分解能を算出するための計算に利用できない。このバックグラウンドを除去するには、分析対象エリアの周りをあらかじめメサ構造に加工(分析エリアの周りに堀を作製する)した後に分析すればよい。今回の表面からのデータを取得する際にはメサ加工を行わなかったために、9.5nmよりも深い領域のデータを使用しなかった。もしメサ加工を行った試料について表面からのデータを取得するのであれば、この制限は必要ない。
上記の理由から、深さ分解能を算出するための計算は3.5nmよりも深い範囲かつ表面から分析したデータの濃度が1E18cm−3以上の領域である必要がある(メサ加工を行った試料について表面からのデータを取得するのであれば、3.5nmよりも深い領域から計算すればよい)。
【0052】
(式3)のDowsett関数と裏面方向から分析したデータのコンボリューション計算を行い、表面方向から分析したデータと比較した。Dowsett関数のパラメータには初期値として適当な値を入れ、上記の両データの分布が完全に一致するようDowsett関数のパラメータを決めた(w=0.13,eu=0,ed=0.74)。その際、Dowsett関数のパラメータAはDowsett関数の積分値が“1”になるように、Dowsett関数のパラメータxcはxがxcよりも大きい部分および小さい部分での積分値が同じになるように決めている。また、J.Vac.Sci.Technol.B16(1998)377のDowsettらの結果から、eu=0であることが判明しているので、今回のパラメータ計算でもeu=0とした。このようにして、一次イオンエネルギー500eVでの深さ分解能関数であるDowsett関数を得た(図4)。
【0053】
このようにして得られた深さ分解能関数を用いて、表面からの分析条件と同じ条件にて得た他の試料の深さ分布(表面側から測定したデータ)のデコンボリューション計算を最大エントロピー法やフーリエ変換法を用いて行えば、他の試料における真もしくは真に近い分布を得ることができる。なお、このような深さ分解能関数の導出やデコンボリューション計算を行わなくても、測定したいすべての試料について裏面分析を行えば真の分布を得ることができるが、一般にその方法は好ましくない。それは裏面分析用の試料の作製(研磨操作)に非常に時間がかかる(1個/数日)からである。またこのような裏面分析試料の作製には熟練した研磨技術が必要なことから誰でもできる訳ではないからである。すなわち、大量の試料の評価をこのような裏面分析法で行うことはできないからである。一方、本特許の方法により1試料にのみについて表・裏面分析を行いさらに深さ分解能関数を導出して、それを他の多くの試料の表面側からの分析データに適用、デコンボリューション計算を行えば、短時間にて多くの試料における不純物の正確な深さ分布を得ることができる。100個の試料の分析を行うのに表1に示す時間を要した。
【0054】
このように、100個の試料でも320時間という比較的短時間にて正確な浅い拡散層中の不純物分布を求めることができる。このため、Si半導体の研究やSi半導体の工場において研究効率や不良解析の効率を上げることができる。
【0055】
(比較例1)
本特許の方法を使わない場合(デコンボリューション計算を使わず、すべての評価試料について裏面分析を適用した場合)の測定に要する時間を計算した。その結果を表1に併記する。
この比較例においては、評価する必要のあるすべての試料の裏面分析を行わなければならないため、裏面分析用の試料1個を作製するのに2日間かかった。100個の試料を分析するのに、1800時間を要する。このため、Si半導体の研究やSi半導体の工場において研究効率や不良解析の効率が非常に悪い。
【0056】
【表1】
Figure 0003720012
【0057】
上記表1に示したように、本発明の実施例によれば、100個の試料の分析に要した時間は、およそ320時間であったのに対して、本発明のデコンボリューション計算を採用しない比較例においては、1800時間を要した。この結果から、本発明の測定方法によれば、半導体の不純物濃度分布を短時間に測定することが可能となることが明かとなった。
【0058】
(比較例2)
本特許の方法を使わずにCookeらが述べたデルタドープ試料を使った方法で深さ分解能関数を導出した。まずMBE法により450℃にてSi基板上にSi結晶層(20nm)/Bデルタ層/Si結晶層(50nm)/Si基板構造の試料を作製した。 次に以下の条件にてこの試料のSIMS分析を行った。 この条件は実施例1にて表面から試料を分析した際に用いた条件と同じである。
【0059】
(分析条件)
一次イオン:O 、500eV、入射角45°、ラスター幅500um角、酸素吹き付け条件
検出二次イオン:11B
【0060】
得られたBイオン分布の形状はそのままこの分析条件での深さ分解能関数となるはずである。ただし、この分布の積分値が“1”になるよう、また分布の重心位置が深さ0nmになるように深さを補正している(図9の破線に示す)。分布形状を実施例1で示した深さ分解能関数(図4および図9の実線)と比較すると、この比較例2で示した深さ分解能関数の分布幅のほうが広がっていることが判る。これは450℃にて作製したデルタドープ試料は実際には1原子層にドーピングしたデルタ層になっているのではなく、MBE製膜中にBが上下層のSi層に拡散しているからである。従って、この比較例2にて求めた深さ分解能関数は真の深さ分解能関数ではないということになる。この深さ分解能関数を用いて他の試料の表面からの分析で得られた分布のデコンボリューション計算を行うと、真ではない深さ方向分布が得られることになる。このことは、この比較例2の方法を用いて半導体作製工程を評価すると、その半導体作製工程の良否を決める際に誤った結論を導く可能性がある。このため、この比較例2の方法は好ましくない。
【0061】
【発明の効果】
以上、述べたように本発明に係わる深さ分解能関数を用いた不純物濃度分布測定方法を用いれば、二次イオン質量分析の深さ方向分布のデコンボリューション処理に必要となる正確な深さ分解能関数を容易に得ることができる。このため、この深さ分解能関数を用いることにより深さ方向分布をデコンボリューションできるようになるので、多くの試料について正確な浅い拡散層中の不純物分布を求めることができる。このため、Si半導体の研究やSi半導体の工場において研究効率や不良解析の効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係わる浅い拡散層中の不純物測定方法の一例を示すフローチャート図
【図2】 本発明の裏面分析法を示す模式図
【図3】 実施例の裏面方向および表面方向から分析したシリコン中11Bの深さ分布
【図4】 実施例のデータから算出した深さ分解能関数
【図5】 本発明の浅い拡散層中の不純物の測定方法で使用される二次イオン質量分析装置の概略構成を示す模式図。
【図6】 測定された深さ分布から真の分布を推定するデコンボリューション法を示す図
【図7】 従来のデルタドープ層試料を用いた深さ分解能関数の測定法を示す図
【図8】 従来の常温接合試料を用いた深さ分解能関数の測定法を示す図
【図9】 実施例および比較例2によって得られた深さ分解能関数を示す図
【符号の説明】
s・・・試料
50・・・二次イオン質量分析装置
51・・・試料室
53・・・一次イオン源
55・・・電極
56・・・二次イオンレンズ
57・・・質量分析器
58・・・検出器
59・・・コンピュータ

Claims (3)

  1. 深さ分解能関数導出用の半導体ウェハから、少なくとも第1の試料片及び第2の試料片を採取する工程と、
    二次イオン質量分析装置により前記第1の試料片に含有される不純物の濃度分布を裏面方向から測定する第1測定工程と、
    前記二次イオン質量分析装置により前記第2の試料片に含有される不純物の濃度分布を表面方向から測定する第2測定工程と、
    前記第1測定工程で得られる不純物の濃度分布と、前記第2測定工程で得られる不純物の濃度分布を比較し、それらの測定ずれを表す関数である深さ分解能関数を求める工程と、
    被測定用の半導体ウェハから被測定試料片を採取する工程と、
    前記二次イオン質量分析装置により前記被測定用の試料片に含有される不純物の濃度分布を表面方向から測定する工程と、
    前記深さ分解能関数を用いて、前記被測定試料片から測定した不純物濃度の分布の実測値をデコンボリューション計算により補正することを特徴とする半導体ウェハの不純物濃度分布測定方法。
  2. 前記被測定試料片の表面からの深さが、3.5nm以上の範囲のみの不純物濃度の分布を、真の不純物濃度分布とすることを特徴とする請求項1記載の不純物濃度分布測定方法。
  3. 被測定試料に一次イオンを照射する一次イオン源と、前記被測定試料を配置し、真空に維持することのできる試料室と、一次イオンによって照射された前記被測定試料表面から放射される二次イオンを質量分離する質量分析器と、質量分離された前記二次イオンを検出する二次イオン検出器と、該二次イオン検出器からの出力を入力して演算処理する情報処理装置とを少なくとも備えた二次イオン質量分析装置において、
    該情報処理装置が、分解能関数導出用の半導体ウェハから採取される第1の試料片の裏面方向から測定された不純物濃度分布と、前記分解能関数導出用の半導体ウェハから採取される第2の試料片の表面方向から測定された不純物濃度分布のそれぞれの実測値を比較し、それらの測定ずれを表す関数である深さ分解能関数を求め、該深さ分解能関数を用いて、前記被測定試料片の表面方向から二次イオン質量分析装置により測定された不純物濃度分布からデコンボリューション計算により前記被測定用試料片の真の不純物濃度分布を算出する手段を備えていることを特徴とする半導体ウェハの不純物濃度分布測定装置。
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