JP6645103B2 - 高Mn鋼材及びその製造方法 - Google Patents
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式で定義されるパラメータX(%)が6.0〜15.0%であり、結晶粒界における炭化物被覆率が30%以下であることを特徴とする高Mn鋼材。
X(%)=C+10×Si+2×Ni・・・・・・・・・・・・・・・(1)式
ここで、C、Si及びNiは鋼材中の各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
[C:0.25〜0.75%]
Cは、オーステナイトの安定化を通じて、液化ガスタンクなど低温用鋼材に要求される強度を確保するのに有効な元素である。特に、室温における強度を確保するために、C含有量を0.25%以上とする。好ましくはC含有量を0.35%以上とする。一方、Cの含有量が0.75%を超えるとCr炭化物がオーステナイト粒界へ大量に析出して、母材の靱性や耐食性、さらには溶接熱影響部の低温靭性が劣化するおそれがある。したがって、C含有量は0.75%以下とする。好ましくは0.65%以下、より好ましくは0.50%以下とする。
Siは、脱酸のために有効な元素であり、また強度上昇に有効な元素である。ただし、0.05%未満では脱酸不足になる可能性があり、Si含有量を0.05%以上とする。好ましくはSi含有量を0.4%以上とする。また、Si含有量が1.0%を超えると延性および靱性の劣化をもたらすおそれがあるため、1.0%以下とする。好ましくは、Si含有量を0.8%以下とする。
Mnは、オーステナイトの安定化を通じて、降伏応力の増加と低温靱性の向上に有効な元素である。ただし、20%以下の含有量では降伏応力や低温靭性の低下が生ずるだけでなく、オーステナイトが不安定化し、α’マルテンサイトなどが析出して靭性が劣化するため、Mn含有量を20%超とする。好ましくはMn含有量を23%以上とする。一方、Mn含有量が35%を超えると加工性や溶接性が劣化するため、35%以下とする。好ましくはMn含有量を30%以下、より好ましくは27%以下とする。
Niはオーステナイトの安定化と靱性の向上に極めて有効な元素であり、Ni含有量を0.1%以上とする。ただし、7.0%以上のNiを含有させてもその効果は飽和するとともに、α’マルテンサイトが生成しやすくなって、溶接部靭性や透磁率が劣化する恐れがあるため、Ni含有量を7.0%未満とする。好ましくはNi含有量を3.0%未満、より好ましくは2.0%以下とする。
Crは、オーステナイトを安定化し、耐力を向上させる元素である。本発明では、他の合金元素との関係で、Cr含有量が0.1%以上でこの効果が得られる。好ましくはCr含有量を1.0%以上、より好ましくは3.0%以上、更に好ましくは4.0%以上とする。ただし、Cr含有量が8.0%以上になるとCr炭化物が粒界上に析出しやすくなり、靱性を低下させるとともに、溶体化処理等の熱処理が必要になる。したがって、Cr含有量は8.0%未満とする。好ましくは、Cr含有量を6.0%以下とする。
Alは、鋼の脱酸と結晶粒の微細化による鋼の特性向上の作用を持つ元素である。ただし、0.005%未満では十分な効果が得られないため、Al含有量を0.005%以上とする。好ましくはAl含有量を0.01%以上とする。一方、Al含有量が0.10%を超えると靱性が劣化するため、上限を0.10%以下とする。好ましくは、Al含有量を0.05%以下とする。
P及びSは、ともに熱間加工性を損なう不純物元素である。オーステナイト鋼においては、P及びSの両元素の含有量を同時に低減することにより、単独に低減する場合よりも大きな母材および溶接熱影響部の靭性値の向上効果が得られる。そこで、Pの含有量は0.04%以下、そして、Sの含有量は0.02%以下に制限する。好ましくは、Pの含有量は0.02%以下、Sの含有量は0.003%以下とする。P及びSの含有量は少ないほど好ましいが、製造コストの観点から、Pの含有量は0.003%以上、Sの含有量は0.001%以上であってもよい。
Nは、オーステナイトの安定化と耐力向上に有効な元素である。オーステナイトの安定化元素としてNはCと同等の効果を有し、粒界析出による靱性劣化などの悪影響を及ぼさず、極低温での強度を上昇させる効果がCよりも大きい。また、Nは窒化物形成元素と共存することによって、鋼中に微細な窒化物を分散させるという効果を有する。これらの効果を発現させるために、Nの含有量を0.005%以上とする。一方、N含有量が0.050%超になると靱性の劣化が著しくなるため、0.050%以下とする。好ましくは、N含有量を0.03%以下とする。
前述の(1)式、すなわち、X(%)=C+10×Si+2×Niで定義されるパラメータXは、母材強度、炭化物生成抑制、母材靭性を改善する観点から、特に−196℃におけるシャルピー特性を改善する観点から、その制御が必要なパラメータである。ここで、パラメータXのC、Si及びNiは鋼材中の各元素の含有量(単位:質量%)を示す。本発明における高Mn鋼材は、主にオーステナイト相からなるため、いわゆる劈開破壊を生じにくい材質ではあるが、オーステナイトの結晶粒界に析出した炭化物が破壊の起点となりシャルピー特性を低下させる場合がある。
Nb、V、Ti、B、Ca、Mg及びREMから選択される1種又は2種以上を含有させることができる。以下、これらの任意含有元素について説明する。
Cuは、オーステナイトを強化し、耐力の上昇に有効であるので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が3.0%を超えると加工性を劣化させるので、Cuを含有させる場合は、その含有量は3.0%以下とし、より好ましくは1.0%以下、更に好ましくは0.7%以下とする。強度を高めるには、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
Moは、強度の上昇に効果があるだけでなく、Cr炭化物の粒界析出に起因する靱性劣化を防止したり、鋼の強度を高めたりするのに有効であるので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が3.0%を超えるとその効果は飽和する。よって、Moを含有させる場合は、その含有量は3.0%以下とし、より好ましくは2.0%以下、更に好ましくは1.0%以下、より一層好ましくは0.8%以下とする。強度を高めるには、Mo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
Nbは、C及びNと結合して炭窒化物を析出させ、その析出強化によって鋼の耐力を向上させるのに有効な元素であるので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.5%を超えると靱性が悪化する。よって、Nbを含有させる場合は、その含有量は0.5%以下とし、より好ましくは0.2%以下とする。強度を高めるには、Nb含有量を0.005%とすることが好ましく、より好ましくは0.01%とする。
Vは、C及びNと結合して炭窒化物を析出させ、その析出強化によって鋼の耐力を向上させるのに有効な元素であるので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.5%を超えると靱性が悪化する。よって、Vを含有させる場合は、その含有量は0.5%以下とし、より好ましくは0.2%以下とする。強度を高めるために、V含有量を0.01%以上とすることができる。
Tiは、C及びNと結合して炭窒化物を析出させ、その析出強化によって鋼の耐力を向上させるのに有効な元素であるので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.5%を超えると靱性が悪化する。よって、Tiを含有させる場合は、その含有量は0.5%以下とし、より好ましくは0.3%以下とする。強度を高めるために、Ti含有量を0.005%以上とすることができる。
Bは、オーステナイト粒界に偏析することにより粒界破壊を防止し、耐力を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.001%を超えると靱性が悪化する。よって、Bを含有させる場合は、その含有量は0.001%以下とする。粒界破壊を抑制するには、B含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。
Caは、介在物の球状化作用をもたらし、靱性を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.01%を超えると清浄度を悪化させ靱性が失われる場合があり、Caの含有量は0.01%以下が好ましい。より好ましくはCaの含有量を0.003%以下とする。靱性を向上させるには、Ca含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
Mgは、Caと同様に、介在物の球状化作用をもたらし、靱性を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.01%を超えると清浄度を悪化させ、靱性が失われる場合があり、Mgの含有量は0.01%以下が好ましい。より好ましくはMgの含有量を0.003%以下とする。靱性を向上させるには、Mg含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。
希土類元素(REM)は、Caと同様に、介在物の球状化作用をもたらし、靱性を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.05%を超えると清浄度を悪化させ、靱性が失われる場合があり、REMの含有量は0.05%以下が好ましい。より好ましくはREMの含有量を0.003%以下とする。靱性を向上させるには、希土類元素(REM)の含有量を0.0002%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.0003%とする。REMを含有させる場合は、LaやCeを主成分とするミッシュメタルを用いてもよい。なお、本発明でいう希土類元素とは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、希土類元素の含有量はこれらの元素の合計含有量を指す。
本発明の高Mn鋼材の金属組織はオーステナイトである。本発明では、熱間圧延後に溶体化処理などの熱処理を施さないため、オーステナイトの結晶粒界(オーステナイト粒界)に炭化物が析出している。高Mn系の鋼材で低温用材料としての十分低温靭性を付与させるためには、上記の被覆率を30%以下に制御することが重要である。高Mn鋼では主にオーステナイト粒界に微細な炭化物が生成するが、これらは硬質相であり破壊の起点となり得ることから、炭化物被覆率を制御する必要がある。炭化物被覆率の下限は低いほど好ましいが、1%以上であってもよく、5%以上であってもよい。鋼材中のオーステナイト粒界炭化物被覆率は組織観察により求めることができる。
一般に、高Mn鋼は炭素鋼や低合金鋼に比べて熱間加工性が劣るため、適正な条件で圧延を行う必要がある。適正な条件から外れると、鋼片若しくは鋼塊又は鋼板の表面に割れが生じるので、歩留の低下を招く。したがって、鋼片又は鋼塊の加熱条件及び圧延条件の厳密な管理が重要である。
まず、鋼片又は鋼塊の加熱温度は、950℃未満では、圧延時の変形抵抗が大きく、圧延機に過大な負荷がかかるため、950℃以上とし、好ましくは1000℃以上とする。一方、1200℃を超えて高温に加熱すると、表面の酸化による歩留まりの低下が懸念されるとともに、オーステナイト粒が粗大化してしまい、その後に熱間圧延しても容易に細粒化できなくなるため、1200℃以下とする。
鋼片又は鋼塊を加熱した後、800〜1100℃の温度範囲における累積圧下率が30%以上の熱間圧延を施す必要がある。これは、鋼片又は鋼塊の鋳造組織を破壊するとともに、鋼材中のオーステナイト粒を細粒化かつ扁平化するためである。800〜1100℃の温度範囲における累積圧下率が30%以上の熱間圧延の効果を更に高め、微細なオーステナイト結晶粒を得るためには、熱間圧延の圧延仕上温度が重要である。累積圧下率は、1100℃での板厚と800℃での板厚との差を、1100℃での板厚で除して求め、百分率で表す。800℃超で熱間圧延を終了する場合は、800℃での板厚を圧延後の板厚として計算する。
熱間圧延の圧延仕上温度は750〜950℃とする必要がある。圧延仕上げ温度が950℃を超えると、圧延後のオーステナイト結晶粒成長が大きくなりすぎるため、所望の微細組織が得られない。一方、圧延仕上温度が750℃未満では、圧延時の変形抵抗が大きく、圧延機に過大な負荷がかかる。さらに、圧延集合組織が発達し、鋼板の異方性が大きくなるので好ましくない。
この後、析出物の生成を抑制し、低温靭性を高めるために、750℃から600℃までの温度範囲の冷却速度を5℃/s以上とする加速冷却を行う。5℃/s未満の冷却速度では、加速冷却の効果が十分ではなく、特に、オーステナイト結晶粒界の炭化物被覆率が大きくなる。この加速冷却は、圧延組織が変化してしまうと加速冷却の効果が得られないので、750℃以上で加速冷却を開始する必要がある。また、この加速冷却の範囲の下限を600℃とするのは、少なくとも600℃まで冷却すれば所定の加速冷却の効果は得られるからである。加速冷却の停止後はそのまま放冷し、溶体化処理などの再加熱処理を施さないが、600℃以下の温度まで加速冷却を継続しても差し支えない。これにより強度と破壊抵抗力がともに優れた鋼板が得られる。この鋼板は、LNGタンク内槽材に適した性質を有している。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.25〜0.75%、Si:0.05〜1.0%、Mn:20%を超え35%以下、Ni:0.1%以上7.0%未満、Cr:0.1%以上8.0%未満、Al:0.005〜0.10%、N:0.005%以上0.050%以下を含有し、P:0.04%以下、S:0.02%以下に制限し、残部Feおよび不純物からなり、
下記の(1)式で定義されるパラメータX(%)が6.0〜15.0%であり、
結晶粒界における炭化物被覆率が1%以上30%以下であり、
室温における降伏応力が400MPa以上であり、
−196℃におけるシャルピー吸収エネルギーが50J以上である、高Mn鋼材。
X(%)=C+10×Si+2×Ni・・・・・・・・・・・・・・・(1)式
ここで、C、Si及びNiは鋼材中の各元素の含有量(単位:質量%)を示す。 - Feの一部に代えて、質量%で、Cu:3.0%以下、Mo:3.0%以下、Nb:0.5%以下、V:0.5%以下、Ti:0.5%以下、B:0.001%以下、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下及びREM:0.05%以下から選択される1種又は2種以上を含有する、請求項1に記載の高Mn鋼材。
- 請求項1又は2に記載の化学組成を有する鋼片又は鋼塊を、950〜1200℃に加熱後、800〜1100℃の温度範囲における累積圧下率が30%以上であってかつ圧延仕上温度を750〜950℃とする熱間圧延を施した後、750℃から600℃までの温度範囲を冷却速度5℃/s以上で冷却し、そのまま放冷して、高Mn鋼材の結晶粒界における炭化物被覆率を1%以上30%以下とし、
前記高Mn鋼材は、室温における降伏応力が400MPa以上であり、
−196℃におけるシャルピー吸収エネルギーが50J以上である、高Mn鋼材の製造方法。
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