JP6641167B2 - 被覆半導体粒子の製造方法、半導体膜の製造方法、積層体の製造方法、電極の製造方法、及び色素増感太陽電池の製造方法 - Google Patents

被覆半導体粒子の製造方法、半導体膜の製造方法、積層体の製造方法、電極の製造方法、及び色素増感太陽電池の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、被覆半導体粒子の製造方法、半導体膜の製造方法、被覆半導体粒子、積層体、電極、及び色素増感太陽電池に関する。
透明樹脂フィルムを基材として備えたフィルム型色素増感太陽電池は、軽量、フレキシブル等の特徴を有している。これらの特徴は従来のシリコン太陽電池にはない有利な点であり、次世代の創エネデバイスとして注目されている。
フィルム型色素増感太陽電池の製造においては、フィルム基材の変性や損傷を生じない程度の温度で、発電層であるTiO層をフィルム基材上に成膜する必要がある。
特許文献1には、酸化チタン粒子のスラリーを用いて、150℃以下の加熱によって、フィルム基材上にTiO電極を形成する方法が開示されている。前記スラリーには酸化チタン粒子同士を結着させる少量の高分子バインダーが含まれている。高分子バインダーは絶縁体であり、低温加熱では焼失しないため、TiO層に残ってしまう。このため、高分子バインダーの量を少なくすることによって、TiO電極の電子伝導性の向上を図っている。しかしながら、150℃以下の低温の加熱ではTiO粒子同士のネッキング(接合)が悪く、TiO電極の電子伝導性は不十分であり、発電効率は依然として低い。
特許文献2には、TiO粒子を650℃程度の高温で焼成し、互いに焼結した粒子からなる塊を粉砕することによって多孔質微粒子を調製する方法、並びに、エアロゾル化した多孔質微粒子を基材上に高速で吹き付ける(打ち付ける)ことによって、フィルム基材上にTiO層を形成する方法(エアロゾルデポジション法:AD法)が開示されている。このAD法で作製したTiO電極において、TiO粒子同士のネッキング(接合)は特許文献1の電極に比べて良好であるが、その電子伝導性は充分ではない。
特開2006−172722号公報 特開2004−33818号公報
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた電子伝導性を有する薄膜を形成することが可能な被覆半導体粒子とその製造方法、その被覆半導体粒子を用いた半導体膜とその製造方法、その半導体膜を備えた積層体、その積層体によって形成された電極、及びその電極を備えた色素増感太陽電池の提供を課題とする。
[1] 半導体粒子の表面が金属含有物質によって覆われてなる被覆体を焼成し、前記表面に前記金属含有物質の焼成物からなる被覆層が形成された被覆半導体粒子を得る、被覆半導体粒子の製造方法。
[2] 前記金属含有物質が金属アルコキシド又は金属ハロゲン化物である、上記[1]に記載の被覆半導体粒子の製造方法。
[3] 上記[1]又は[2]に記載された製造方法によって被覆半導体粒子を得て、基材の表面に前記被覆半導体粒子の薄膜を成膜する、半導体膜の製造方法。
[4] 前記薄膜を成膜する方法が、前記基材の表面に前記被覆半導体粒子を吹き付けて成膜するエアロゾルデポジション法である、上記[3]に記載の半導体膜の製造方法。
[5] 前記薄膜を成膜する方法が、前記基材の表面に前記被覆半導体粒子を含むスラリーを塗布して乾燥させる方法である、上記[3]に記載の半導体膜の製造方法。
[6] 前記スラリーに高分子バインダーが含まれている場合、前記被覆半導体粒子100質量部に対して、前記高分子バインダーの含有量は5質量部以下である、上記[5]に記載の半導体膜の製造方法。
[7] 前記スラリーに高分子バインダーが含まれていない、上記[5]に記載の半導体膜の製造方法。
[8] 半導体粒子の表面に金属含有物質の焼成物からなる被覆層が形成された被覆半導体粒子。
[9] 基材と、前記基材の表面に成膜された薄膜と、を備え、前記薄膜は上記[8]に記載の被覆半導体粒子によって形成されている、積層体。
[10] 上記[9]に記載の積層体によって形成された電極。
[11] 上記[10]に記載の電極が有する前記薄膜に、増感色素が担持されてなる光電極を備えた、色素増感太陽電池。
本発明の被覆半導体粒子の製造方法によれば、優れた電子伝導性を有する薄膜を形成することが可能な被覆半導体粒子を製造することができる。
本発明の半導体膜の製造方法によれば、粒子同士が充分に接合し、電子伝導性に優れた被覆半導体粒子からなる薄膜を比較的低温で成膜することができる。
本発明の被覆半導体粒子、積層体及び電極は、発電効率に優れた色素増感太陽電池の材料として有用である。
本発明の半導体膜の製造方法に適用可能な成膜装置の概略構成図である。
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されない。
《被覆半導体粒子の製造方法》
本発明の第一態様は、半導体粒子の表面が金属含有物質によって覆われてなる被覆体を焼成し、前記表面に前記金属含有物質の焼成物からなる被覆層が形成された被覆半導体粒子を得る、被覆半導体粒子の製造方法である。
前記金属含有物質としては、例えば、金属アルコキシド、金属ハロゲン化物等が挙げられる。
前記金属アルコキシドとしては、例えば、チタン(IV)、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム等のアルコキシドが挙げられる。なかでも、化学式:M(O−i−Pr)で表される金属アルコキシド(金属イソプロポキシド)が好ましい。前記化学式中、Mは、チタン、アルミ、マグネシウム又はジルコニウムを表し、mは当該金属の価数に対応する数を表し、「−i−Pr」はイソプロピル基を表す。金属アルコキシドの少なくとも一部は、焼成後に金属酸化物になる。金属酸化物としては、例えば、TiO2、Al2O3、MgO等が挙げられる。
前記金属ハロゲン化物としては、例えば、四塩化チタン(IV)、塩化マグネシウム(II)、塩化アルミニウム、四塩化ジルコニウム等が挙げられる。
前記半導体粒子の種類は特に限定されず、例えば、公知の色素増感太陽電池の光電極を構成する半導体粒子が適用可能である。
前記半導体粒子を構成する半導体の種類は、バンドギャップ間の遷移が生じる半導体が好ましく、例えば、TiO,TiSrO,BaTiO,Nb,MgO,ZnO,WO,Bi,CdS,CdSe,CdTe,In,SnOなどが挙げられる。これらの半導体は、色素吸着が良好であり、増感色素を担持した光電極として良好に機能するため好ましい。光電変換効率を向上させる観点から、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化第二錫などの金属酸化物半導体が好適である。
前記半導体粒子は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記半導体粒子の平均一次粒子径は特に限定されず、例えば、1nm〜1μmの範囲で、成膜方法に応じて選択すればよい。
被覆半導体粒子を吹き付けるAD法によって成膜する場合には、優れた比表面積、電子伝導性を得る観点から、前記半導体粒子の平均一次粒子径は、10nm〜500nmが好ましく、10nm〜200nmがより好ましい。
被覆半導体粒子を基材表面に塗布し、乾燥又は加熱して成膜する場合には、優れた比表面積、電子伝導性を得る観点から、前記半導体粒子の平均一次粒子径は、10nm〜500nmが好ましく、50nm〜500nmがより好ましい。
前記半導体粒子を前記金属含有物質で覆う方法としては、例えば、前記金属含有物質を含む溶液に前記半導体粒子を浸漬する方法、前記溶液と前記半導体粒子をブレンダーで混合する方法、前記溶液を前記半導体粒子に噴霧する方法等が挙げられる。ここで例示した方法以外であっても、前記溶液と前記半導体粒子とが接触可能な方法であれば適用可能である。前記溶液と前記半導体粒子とを接触させた後、前記溶液から前記半導体粒子を取出し、風乾又は加熱して乾燥することにより、前記金属含有物質で覆われた半導体粒子(被覆体)を得ることができる。
前記溶液を構成する溶媒としては、前記金属含有物質を溶解し、前記半導体粒子を均一に分散させ易く、前記半導体粒子同士を凝集させ難い溶媒が好ましい。この様な溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、シクロヘキサノール等のアルコール、アセトニトリル、等の有機溶媒が挙げられる。これらの中でも、半導体粒子の分散性に優れ、乾燥が容易である観点から、メタノール、エタノール、1−ペンタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが好ましく、エタノールがより好ましい。
前記溶液に含まれる前記金属含有物質の配合量としては、例えば、前記溶液の総質量に対して、1〜1000mMが挙げられる。この際、前記溶液の総質量に対する前記半導体粒子の配合量は、0.1〜50質量%が好ましい。
上記範囲であると、優れた電子伝導性を有する被覆半導体粒子が容易に得られる。
前記半導体粒子と前記金属含有物質とは、単に接触して付着しているだけでもよく、両者が化学結合していてもよい。化学結合の一例として、例えば、前記金属アルコキシドを使用することにより、前記半導体粒子の表面に存在する水酸基と金属アルコキシドとが脱水結合する場合が挙げられる。
前記半導体粒子の表面を覆う前記金属含有物質の厚さは、特に限定されず、例えば、0.1nm〜0.1μm程度の厚さが挙げられる。
また、前記金属含有物質の厚さは、前記半導体粒子の平均一次粒子径の0.001〜10%程度の厚さが好ましく、0.01〜1%程度の厚さがより好ましい。
上記範囲であると、焼成後に形成される前記金属含有物質の焼成物からなる被覆層が、被覆半導体粒子同士の接合力を充分に高めることができる。
前記金属含有物質によって表面が覆われた半導体粒子(被覆体)を焼成する方法としては、例えば、オーブン中に当該半導体粒子を疎らに広げた状態で、酸素存在下400〜650℃で、1〜60分間程度、焼成する方法が挙げられる。この様に高い温度で充分に焼成することによって、前記金属含有物質の大半を金属酸化物にすることができる。
焼成後の被覆半導体粒子の被覆層を形成する前記金属酸化物は、半導体であってもよいし、絶縁体であってもよい。絶縁体である場合、後述する半導体膜の形成時に被覆半導体粒子の半導体部分が接合するため、半導体粒子同士の電気伝導性は損なわれない。また絶縁体層は数nm〜数十nm程度の厚みであれば、電子トンネル効果の影響によって絶縁体層から半導体層へスムーズに電子が流れる為、半導体粒子同士の電気伝導性は損なわれない。成膜された半導体膜において、粒子表面の被覆層によって被覆半導体粒子同士の接合性が向上するため、半導体膜の電気伝導性が向上する。
本発明において、焼成によって被覆半導体粒子同士を焼結しても構わないが、焼結せずに個々の粒子に分かれた状態で焼成を完了することが好ましい。焼結した場合には、乳鉢やボールミル等の公知方法によって、焼結して得られた塊を粉砕する手間が増える。
上記焼成の方法により、前記半導体粒子の表面に前記金属含有物質の焼成物からなる被覆層が形成された、被覆半導体粒子を得ることができる。
《被覆半導体粒子》
本発明の第二態様は、前記半導体粒子の表面に前記金属含有物質の焼成物からなる被覆層が形成された被覆半導体粒子であり、第一態様の製造方法によって製造されたものである。
前記焼成物は、前記金属含有物質が焼成されてなる金属酸化物を含むことが好ましい。充分に焼成することによって、前記焼成物中に含まれる前記金属酸化物の含有量を高めることができる。前記焼成物の総質量に対する前記金属酸化物の含有量は、例えば、10〜50質量%が好ましい。
前記焼成物は、前記被覆半導体粒子の表面を覆う被覆層を形成する。前記被覆層の厚さは、通常、焼成前の前記金属含有物質の厚さと同じ又はその厚さ以下になる。
前記焼成物からなる被覆層の厚さとしては、例えば、0.1nm〜0.1μm程度の厚さが挙げられる。
また、前記被覆層の厚さは、前記被覆半導体粒子の平均粒子径の0.001〜10%程度の厚さが好ましく、0.01〜1%程度の厚さがより好ましい。
上記範囲であると、前記被覆層が、当該被覆半導体粒子同士の接合力を充分に高めることができる。
(平均粒子径の測定)
前記半導体粒子及び前記被覆半導体粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡のSEM写真によって複数の粒子の長径(直径)を測定して平均した値である。平均を算出する際の測定粒子数は多いほど好ましいが、例えば30〜100個が挙げられる。
《半導体膜の製造方法》
本発明の第三態様は、第一態様の製造方法によって得られた被覆半導体粒子を用いて、基材の表面に前記被覆半導体粒子の薄膜を成膜する、半導体膜の製造方法である。
基材の種類は特に限定されず、例えば、ガラス基板、樹脂製基板、樹脂製フィルム、樹脂製シート、金属製基板等が挙げられる。
色素増感太陽電池等の電気化学デバイスの部材として半導体膜を製造する場合には、上記で例示した基材のうち非導電性基材の表面には、ITO等の導電膜が予め形成されていることが好ましい。
基材の表面に前記被覆半導体粒子の薄膜を成膜する方法は特に限定されず、基材の耐熱性、耐薬品性等の特性に応じて適宜選択することができる。
(焼成法)
基材がガラス基板である場合には、例えば、前記被覆半導体粒子、高分子バインダー及び分散媒を含むスラリーを基板表面に塗布し、従来の成膜法と同様に500℃程度の高温で焼成して成膜してもよい。
前記高分子バインダーとしては、公知の色素増感太陽電池の半導体層を形成するために使用される高分子バインダーが適用可能であり、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、ポリアクリル酸エステル、ポリエチレングリーコール等が挙げられる。
高分子バインダーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記スラリーに含まれる各材料の含有量としては、例えば、前記スラリーの総質量に対して、前記被覆半導体粒子の含有量が1〜30質量%、前記高分子バインダーの含有量が1〜20質量%、前記分散媒の含有量が60〜98質量%が挙げられる。
基材が樹脂製である場合、当該樹脂の耐熱温度よりも充分に低い温度で成膜することが望ましい。例えば、基材の表面に前記被覆半導体粒子を含むスラリーを塗布して乾燥させる方法(乾燥法)が挙げられる。また、例えば、基材の表面に前記被覆半導体粒子を高速で吹き付けて成膜するエアロゾルデポジション法(AD法)が挙げられる。
(乾燥法)
前記スラリーは、前記被覆半導体粒子及び分散媒を含む。当該スラリーには、高分子バインダーは含まれないことが好ましい。高分子バインダーを含む場合、前記被覆半導体粒子100質量部に対して、高分子バインダーの含有量は5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。本発明に係る前記被覆半導体粒子の表面には前記焼成物からなる被覆層が形成されているため、例えば100〜150℃という比較的低い温度で加熱して乾燥することによって、当該粒子同士を充分に接合し、電子伝導性に優れた半導体膜を形成することができる。
乾燥法で使用する前記スラリーに含まれる各材料の含有量としては、例えば、前記スラリーの総質量に対して、前記被覆半導体粒子の含有量が1〜30質量%、前記高分子バインダーの含有量が0〜5質量%、前記分散媒の含有量が65〜99質量%が挙げられる。前記高分子バインダーとして、焼成法で例示した高分子バインダーが挙げられる。また、前記分散媒として、焼成法で例示した分散媒が挙げられる。
(AD法)
本発明におけるAD法は、前記被覆半導体粒子を基材に吹き付けることにより、前記基材上に半導体膜を成膜する方法である。AD法によれば、吹き付け速度を調整することにより、多孔質膜及び緻密膜(非多孔質膜)のどちらの膜質でも任意に形成することができる。
基材上に成膜された半導体膜は、色素増感太陽電池の光電極(発電層)としての用途に適した充分な構造的強度及び導電性を有する。このため、別途焼成処理を施す必要がない。故に、耐熱性の低い樹脂製基材を使用することができる。樹脂製基材の厚みは特に制限されず、吹き付けた粒子が基材を貫通しない程度の厚みを有することが好ましい。
AD法による成膜方法としては、例えば、国際公開第WO2012/161161A1号に開示された方法が適用できる。以下、図1を参照して、AD法の具体例を説明する。
(成膜装置)
成膜装置60は、ガスボンベ55と、搬送管56と、ノズル52と、基台63と、成膜室51と、を備えている。ガスボンベ55には、被覆半導体粒子54を加速させて基材53に吹き付けるためのガス(搬送ガス)が充填されている。ガスボンベ55には、搬送管56の一端が接続されている。ガスボンベ55から供給される搬送ガスは搬送管56に供給される。
搬送管56には、前段側から順に、マスフロー制御器57、エアロゾル発生器58、搬送ガス中の被覆半導体粒子54の分散具合を適度に調整できる解砕器59及び分級器61、が設けられている。解砕器59により、被覆半導体粒子54同士が湿気等で互いに付着した状態を解くことができる。仮に、互いに付着した状態で解砕器59を通過した被覆半導体粒子があったとしても、そのような過度に大きな粒子は分級器61で除くことができる。
マスフロー制御器57により、ガスボンベ55から搬送管56に供給される搬送ガスの流量を調整することができる。エアロゾル発生器58には、被覆半導体粒子54が装填されている。被覆半導体粒子54はマスフロー制御器57から供給された搬送ガス中に分散されて、解砕器59及び分級器61へ搬送される。
ノズル52は、図示略の開口部が基台63上の基材53に対向するように配置されている。ノズル52には、搬送管56の他端が接続されている。被覆半導体粒子54を含む搬送ガスは、ノズル52の開口部から基材53に噴射される。
基台63の載置面72には、基材53の一方の面73が当接するように、基材53が載置されている。また、基材53の他方の面71(成膜面)はノズル52の開口部に対向している。ノズル52から搬送ガスと共に噴射される被覆半導体粒子54は、成膜面に衝突し、被覆半導体粒子54からなる多孔質膜が成膜される。
成膜室51は減圧雰囲気で成膜を行うために設けられている。成膜室51には真空ポンプ62が接続されており、必要に応じて成膜室51内が減圧される。
被覆半導体粒子54を吹き付ける手順としては、例えば、まず、真空ポンプ62を稼動させて成膜室51内を減圧する。成膜室51内の圧力は特に制限されないが、5〜1000Paに設定することが好ましい。この程度に減圧することにより、成膜室51内の対流を抑制し、被覆半導体粒子54を成膜面71の所定の位置に吹き付けることが容易になる。
次に、ガスボンベ55から搬送ガスを搬送管56へ供給し、搬送ガスの流速及び流量をマスフロー制御器57により調整する。搬送ガスとしては、例えば、O、N、Ar、He又は空気などを用いることができる。搬送ガスの流速及び流量は、ノズル52から吹き付ける被覆半導体粒子54の材料、平均粒径、流速及び流量に応じて適宜設定することができる。
被覆半導体粒子54をエアロゾル発生器58に装填し、搬送管56内を流れる搬送ガス中に被覆半導体粒子54を分散させて、加速する。ノズル52の開口部から、亜音速から超音速の速度で被覆半導体粒子54を噴射させて、基材53の成膜面71に積層させる。この際、被覆半導体粒子54の成膜面71への吹き付け速度は、例えば、10〜1000m/sに設定することができる。吹き付け速度は特に限定されず、基材53の材質、被覆半導体粒子54の種類や大きさ等に応じて適宜設定することができる。
搬送ガスの流速及び流量を調整することにより、被覆半導体粒子54からなる半導体膜の構造を緻密膜にすることもできるし、多孔質膜にすることもできる。さらに、前記多孔質膜の多孔度を制御することができる。通常、被覆半導体粒子54を吹き付ける速度が速い程、成膜される膜の構造は緻密になり易い(多孔度が小さくなり易い)傾向がある。また、極端に遅い吹き付け速度で成膜した場合には、十分な強度を有する半導体膜が得られず、圧粉体になることがある。十分な構造的強度を有する多孔質膜を成膜するためには、緻密膜が得られる速度と圧粉体が得られる速度との中間程度の吹き付け速度で成膜することが好ましい。
被覆半導体粒子54の吹き付けを継続することにより、基材53の成膜面71に接合した被覆半導体粒子54に対して、次々に被覆半導体粒子54が衝突する。被覆半導体粒子54同士の衝突によって粒子の表面に新生面が形成され、この新生面において被覆半導体粒子同士が接合される。また、接合した新生面の周囲において被覆半導体粒子同士の被覆層が接合する。この被覆層同士の接合が、被覆半導体粒子間の電気伝導性を高めていると考えられる。
基材上に形成される薄膜が所定の膜厚(例えば1μm〜100μm)になった時点で、被覆半導体粒子54の吹き付けを停止する。
以上の工程により、基材53の成膜面71の上に被覆半導体粒子54からなる所定の膜厚の薄膜を成膜することができる。
《積層体》
本発明の第四態様は、基材と、前記基材の表面に成膜された薄膜と、を備え、前記薄膜は本発明の第二態様の被覆半導体粒子によって形成されている積層体である。
前記基材の表面に成膜された薄膜の膜構造は緻密膜であってもよいし、多孔質膜であってもよい。その膜厚は特に限定されず、例えば1μm〜500μm程度の厚みが挙げられる。
前記積層体の用途は、色素増感太陽電池用の電極に限られず、前記薄膜の物理的特性又は化学的特性を活かすことが可能な用途に広く適用できる。
《電極》
本発明の第五態様は、第四態様の積層体によって形成された電極である。
前記積層体を構成する半導体膜に増感色素を吸着させることによって、色素増感太陽電池用の光電極として使用することができる。半導体膜は緻密膜であってもよいが、より多くの増感色素を吸着させる観点から、多孔質膜であることが好ましい。
前記増感色素の種類として公知の増感色素が適用できる。光電極の用途において、前記半導体膜は公知の透明導電膜が形成された透明基材上に成膜されていることが好ましい。前記半導体膜に増感色素を吸着させる方法は特に限定されず、例えば、半導体膜を色素溶液中に浸漬させる方法が挙げられる。
前記光電極は、第四態様の積層体を用いること以外は、常法により製造することができる。例えば、ITO膜が表面に形成された樹脂フィルムの導電面に前記多孔質膜を形成し、この多孔質膜に増感色素を吸着させた光電極を形成し、さらに必要に応じて、多孔質膜近傍の前記導電面に引き出し配線を接続することにより、光電極基板を作製することができる。
前記半導体膜が多孔質膜である場合、その空隙率(空孔率、細孔率又は多孔度と呼ばれることもある。)は、50%以上が好ましく、50〜85%がより好ましく、50〜75%が更に好ましく、50〜65%が特に好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、増感色素をより多く担持することができる。上記範囲の上限値以下であると多孔質膜の強度をより強固にすることができる。
ここで、空隙率とは「成膜した多孔質膜の単位体積あたりの空隙の体積が占める百分率」を意味する。この空隙率は、空隙率=嵩密度/真密度×100(%)によって算出される。嵩密度は、多孔質膜の単位体積あたりの質量を単位体積あたりの無機物質の粒子の質量(理論値)で除したものであり、真密度は、被覆半導体粒子の密度(理論値)を意味する。
空隙率の測定は、公知のガス吸着試験又は水銀圧入試験によって行うことができる。
前記半導体膜が多孔質膜である場合、多孔質膜の厚さは、1μm〜200μmであることが好ましく、2μm〜100μmであることがより好ましく、5μm〜50μmであることが更に好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、多孔質膜に担持させた増感色素が光エネルギーを吸収する確率を一層高めることができ、色素増感太陽電池における光電変換効率を一層向上できる。また、上記範囲の上限値以下であると、バルクの電解質(太陽電池セル内の電解質)と多孔質膜内の電解質との交換が、拡散によって一層効率よく行われ、発電効率を一層向上できる。
《色素増感太陽電池》
本発明の第六態様は、第五態様の電極が有する前記薄膜に、増感色素が担持されてなる光電極を備えた、色素増感太陽電池である。
色素増感太陽電池は、光電極と、対向電極と、電解液又は電解質層とを備えている。電解液は、光電極と対向電極の間において封止材によって封止されている。
光電極を構成する半導体膜が形成された基材として、透明導電膜が表面に形成された樹脂フィルム若しくは樹脂シートを用いることができる。
前記樹脂としては、可視光の透過性を有するものが好ましく、例えばポリアクリル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド等が挙げられる。これらのうち、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートが、透明耐熱フィルムとして好適であり、薄くて軽いフレキシブルな色素増感太陽電池を製造することができる。
前記電解液は特に限定されず、公知の色素増感太陽電池の電解液が適用できる。電解液には、酸化還元対(電解質)が溶解されており、フィラーや増粘剤などの他の添加剤を含んでいてもよい。また、電解液に代えて公知の固体電解質を適用してもよい。
前記固体電解質は、ゲル状又は固体状の何れかの状態である。ゲル状又は固体状の電解質層を用いることにより、色素増感太陽電池から電解液が漏出することがなくなる。
前記封止材の種類は特に限定されず、公知の色素増感太陽電池で使用されている封止樹脂を適用できる。例えば、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。前記封止材の厚みは特に限定されず、光電極と対向電極が所定の間隔を置いて離隔し、電解液又は電解質層が所定の厚みとなるように適宜調整される。
第六態様の色素増感太陽電池は、第五態様の電極を用いること以外は、常法により製造することができる。例えば、前記光電極と前記対向電極の間に前記電解液又は電解質を配置して封止し、必要に応じて引き出し配線を光電極及び/又は対向電極に電気的に接続することにより、本発明に係る色素増感太陽電池を作製することができる。
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
[実施例1]
<被覆半導体粒子の製造>
イソプロピルアルコールに、金属含有物質であるチタン(IV)イソプロポキシドを10mMで溶解させた処理溶液を300g得た。この処理溶液に、半導体粒子として、平均一次粒子径が15nm、平均二次(凝集)粒子径が50μmのアナターゼ型TiO粒子を10g浸漬させた。30分間浸漬した後、目開き20μmのメッシュを用いて処理溶液を濾過して、メッシュ上において風乾させることにより、金属含有物質によって表面が被覆された半導体粒子(被覆体)を得た。
次に、上記で得た被覆体をオーブン中で、500℃で30分間焼成することにより、上記金属含有物質の焼成物からなる被覆層が形成された被覆半導体粒子を得た。この被覆層の大部分は酸化チタンによって構成されていると考えられる。この被覆半導体粒子の平均一次粒子径を前述した方法で測定したところ、16〜17nmであった。
<半導体膜の成膜>
基材として、あらかじめITO(スズドープ酸化インジウム)がPEN基板に成膜されたITO−PEN基板を用いた。
図1に示す成膜装置60を使用して、成膜室51内において、10mm×0.5mmの長方形の開口部を持つノズル52からITO−PEN基板に対して前記被覆半導体粒子を吹き付けた。ノズル52における搬送速度は5mm/secとした。
上記のAD法により、被覆半導体粒子同士が互いに接合してなる、厚さ10μmの多孔質膜を成膜してなる積層体を得た。
[実施例2]
金属含有物質として、アルミニウムイソプロポキシドを使用した以外は、実施例1と同様に多孔質膜を成膜してなる積層体を得た。
[比較例1]
前記処理溶液に浸漬させず、前記焼成も行っていない、前記TiO粒子を使用して、AD法により実施例1と同様に積層体を得た。
[比較例2]
前記処理溶液に浸漬させずに、オーブン中で、500℃で30分間焼成して得られたTiO粒子を使用して、AD法により実施例1と同様に積層体を得た。
<色素増感太陽電池の製造、及びその性能評価>
実施例1〜2及び比較例1〜2の多孔質膜を備えた積層体(電極基板)を、0.3mMのRu錯体色素(N719)のアルコール溶液中に、室温で18時間浸漬させて、当該多孔質膜に色素を吸着させることにより、光電極基板を得た。
光電極基板と、白金コーティング付きガラス基板からなる対極基板とを対向配置し、この間にスペーサーとして厚み30μmの多孔性樹脂フィルムを挟んで、ダブルクリップで留めて圧着した。さらに、対極基板に予め空けておいた注入孔から、両基板の間に、電解液(30mMのI、1Mの1,3−ジメチルプロピルイミダゾリウムヨージド、 0.5Mのtert‐ブチルピリジン、0.1Mのヨウ化リチウムを含むアセトニトリル溶液)を注入した後、注入孔を樹脂板で塞ぐことにより、色素増感太陽電池の簡易セルを作製した。受光する有効面積は0.16cmであった。
得られた各試験例の簡易セルの発電効率(光電変換効率)等の性能を、ソーラーシミュレーター(AM1.5、100mW/cm)を用いて評価した。その結果を表1に示す。
Figure 0006641167
以上の結果から、実施例1〜2の簡易セルの発電効率は比較例1〜2よりも高く、太陽電池としてより優れていることが明らかである。この結果は、光電極を構成する多孔質膜において、被覆半導体粒子同士の接合が優れ、電子伝導性が向上していることを反映していると考えられる。
本発明に係る被覆半導体粒子及び半導体膜の製造方法は、太陽電池の分野に広く適用可能である。
51…成膜室、52…ノズル、53…基材、54…被覆半導体粒子、55…ボンベ、56…搬送管、57マスフロー制御器、58…エアロゾル発生器、59…解砕器、60…成膜装置、61…分級器、62…真空ポンプ、63…基台、71…成膜面、72…基台の載置面、73…成膜面の反対側の面

Claims (10)

  1. 半導体粒子の表面に、金属含有物質及び有機溶媒を含む溶液(但し、25℃では固体状態をとって、加熱により融解して極性を示す液体状態となり、そして加熱をさらに続けることにより熱分解する有機材料の融液に、上記金属含有物質の塩が溶解されたものを除く。)を接触させ、ゲル化を経ずに乾燥することにより、
    前記半導体粒子の表面が前記金属含有物質によって覆われてなる被覆体を得て、
    さらに前記被覆体を焼成することにより、
    前記表面に前記金属含有物質の焼成物からなる被覆層が形成された被覆半導体粒子を得る、被覆半導体粒子の製造方法。
  2. 前記金属含有物質が金属アルコキシド又は金属ハロゲン化物である、請求項1に記載の被覆半導体粒子の製造方法。
  3. 請求項1又は2に記載された製造方法によって被覆半導体粒子を得て、基材の表面に前記被覆半導体粒子の薄膜を成膜する、半導体膜の製造方法。
  4. 前記薄膜を成膜する方法が、前記基材の表面に、亜音速から超音速の速度で前記被覆半導体粒子を吹き付けて成膜するエアロゾルデポジション法である、請求項3に記載の半導体膜の製造方法。
  5. 前記薄膜を成膜する方法が、前記基材の表面に前記被覆半導体粒子を含むスラリーを塗布して乾燥させる方法である、請求項3に記載の半導体膜の製造方法。
  6. 前記スラリーに高分子バインダーが含まれており、前記被覆半導体粒子100質量部に対して、前記高分子バインダーの含有量は5質量部以下である、請求項5に記載の半導体膜の製造方法。
  7. 前記スラリーに高分子バインダーが含まれていない、請求項5に記載の半導体膜の製造方法。
  8. 基材と、前記基材の表面に成膜された薄膜と、を備えた積層体の製造方法であって
    求項1又は2に記載の製造方法によっ被覆半導体粒子を得て、
    前記被覆半導体粒子によって前記基材の表面に前記薄膜を形成することを含む、積層体の製造方法
  9. 請求項8に記載の製造方法によって積層体を得て、
    前記積層体を用いて電極を形成することを含む、電極の製造方法
  10. 請求項9に記載の製造方法によって電極を得て、
    前記電極が有する前記薄膜増感色素を担持させることによって光電極を得ることを含む、色素増感太陽電池の製造方法
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