JP6638678B2 - 鋼材およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、主としてばら積み貨物船のホールド(船倉)に用いる鋼材およびその製造方法に関し、特に、石炭やコークスを積載するばら積み貨物船のホールドに好適な鋼材およびその製造方法に関する。本発明に係る鋼材は、厚鋼板をはじめとして、薄鋼板、形鋼および棒鋼等を含む。
エネルギー資源の運搬には、多くの場合に商船が用いられている。商船の中でもばら積み貨物船は、その約30%の船腹量を占めている。このばら積み貨物船において、1990年代初頭に海難事故が相次いで発生し、国際問題となった。特に、石炭運搬船での事故が数多く報告されており、その原因の大部分はホールド内での損傷であった。
ばら積み貨物船では、積荷を直接ホールドに積載するため、積荷が腐食性である場合には、その影響を受け易く、ホールド内の腐食、特に石炭運搬船のホールド内の側壁部、肋骨部での孔食による、局所的な強度の減少が問題と考えられる。実際に、この孔食が著しく進行した事例や、船の強度を確保する肋骨部分の板厚が孔食により極端に減少している事例が報告されている。
孔食の発生するばら積み貨物船ホールドの側壁部、肋骨部では、結露水が生じ易い。こうした結露水が生じた場所に石炭の硫黄成分が溶け出し、結露水と反応して硫酸を生成する。そのため、石炭運搬船のホールド内は硫酸腐食が生じ易い低pH環境となっている。
また、コークス運搬船のホールドにおいても激しい硫酸腐食が観察されている。これは、石炭と同様、コークスに含有する硫黄分が激しい腐食の原因となっている。
このようなホールド内の腐食対策として、ホールド内には変性エポキシ系塗装が被覆厚さ約150〜200μmで施されている。しかし、積荷によるメカニカルダメージや積荷搬出の際の重機による傷、磨耗により、塗装が剥がれる場合が多いため、塗装により十分な防食効果を得ることは難しい。
さらなる腐食対策として、定期的に再塗装したり、一部補修するなどの方法が採られている。しかしながら、このような方法は、非常に大きなコストがかかることから、船舶のメンテナンス費用を含め、ライフサイクルコストを低減させるために、新たな耐食鋼の開発が課題となっている。
ところで、船舶用の耐食鋼としては、カーゴオイルタンク用やバラストタンク用として開発された鋼が知られている。しかし、石炭運搬船やコークス運搬船のホールドの使用環境は、腐食環境(温度・湿度・腐食性物質など)および内容物によるメカニカルダメージの有無などの点で、カーゴオイルタンクやバラストタンクの使用環境と全く異なっている。このため、石炭運搬船やコークス運搬船のホールド用の鋼として、独自の材料設計や特性評価が必要とされると考えられる。
石炭運搬船のホールドに言及した従来技術としては、特許文献1〜3が挙げられる。特許文献1にはMgを必須成分とした鋼材が、また特許文献2および特許文献3にはSnを必須成分とした鋼材が開示されている。
特開2000-17381号公報 特開2007-262555号公報 特開2008-174768号公報
特許文献1には、船舶外板やバラストタンク、カーゴオイルタンク、鉱石船カーゴホールド等を、共通の環境で使用することを前提として、鋼材の耐食性について、カーゴオイルタンクとバラストタンクの腐食試験の結果が良好であることが示されている。バラストタンクでは主として海水による塗膜下腐食が生じ、カーゴオイルタンクの上甲板裏ではH2S(硫化水素)ガスによる全面腐食が主として生じ、カーゴオイルタンクの底板では高濃度塩水よる孔食が主として生じ、石炭ホールドでは石炭由来の希硫酸腐食が主として生じるように、使用される場所の環境により、主要な腐食因子および腐食の形態が異なる。しかしながら、特許文献1では、石炭運搬船やコークス運搬船のホールド使用環境に特有の腐食については考慮されていない。
また、特許文献2および特許文献3では、鉱石運搬船の環境を模擬した腐食環境における鋼材の耐食性を評価しているものの、石炭船および石炭・鉱石兼用船のホールド使用環境を考慮した試験結果は示されていない。
このように、石炭運搬船やコークス運搬船のホールドに用いられる耐食性に優れた鋼材の開発には、石炭運搬船やコークス運搬船のホールド特有の腐食環境を考慮すると同時に、塗膜が剥離して塗膜がない状態での鋼材の腐食の評価が重要であるにもかかわらず、従来は、これらの点について考慮されていなかった。
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、石炭やコークスを積載するばら積み貨物船のホールドが使用される特有の腐食環境において、優れた耐食性を示す鋼材を提供することにある。
一般に、船舶は防食塗膜が施されて使用される。しかし、石炭運搬船やコークス運搬船のホールド使用環境では、石炭やコークスのメカニカルダメージで塗装が剥がれやすい状況にあり、鋼材は乾湿を繰返し、かつ低pH環境下に曝される。そこで、発明者らは、石炭運搬船やコークス運搬船のホールド使用環境に特化した材料開発が必要であると考え、鋼材の表面の防食塗膜が剥離した後も耐食性を発揮できる鋼材の開発を試みた。
すなわち、発明者らは、石炭運搬船およびコークス運搬船のホールド内の環境を模擬した試験法を開発し、その試験法を用いて各成分組成の影響を検討した。その結果、主としてCu、Ni、W、Sb、およびNbが、鋼材の耐食性の向上に有効に寄与することを見出した。本発明は、上記の新規な知見に基づき、さらに検討を重ねた末に完成されたもので、その要旨構成は、以下の通りである。
1.質量%で、
C:0.040%以上0.200%以下、
Si:0.01%以上0.50%以下、
Mn:0.10%以上2.00%以下、
P:0.035%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.003%以上0.100%以下、
Cu:0.04%以上0.35%以下、
Ni:0.04%以上0.40%以下、
W:0.010%以上0.500%以下、
Sb:0.010%以上0.300%以下、
Nb:0.003%以上0.025%以下および
N:0.0010%以上0.0080%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有する鋼材であって、
前記Wにおける固溶W量が0.005%以上であり、
前記Nbにおける固溶Nb量が0.002%以上である鋼材。
2.前記成分組成は、さらに、
質量%で、
Ti:0.001%以上0.030%以下、
Zr:0.001%以上0.030%以下および
V:0.002%以上0.20%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、上記1に記載の鋼材。
3.前記成分組成は、さらに、
質量%で、
Ca:0.0002%以上0.0050%以下
を含有する、上記1または2に記載の鋼材。
4.前記成分組成は、さらに、
質量%で、
B:0.0002%以上0.0030%以下
を含有する、上記1から3のいずれかに記載の鋼材。
5.前記成分組成は、さらに、
質量%で、
Co:0.01%以上0.50%以下、
Mo:0.01%以上0.50%以下および
Cr:0.01%以上0.20%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、上記1から4のいずれかに記載の鋼材。
6.前記成分組成は、さらに、
質量%で、
REM:0.0002%以上0.015%以下、
Y:0.0001%以上0.1%以下および
Mg:0.0002%以上0.015%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、上記1から5のいずれかに記載の鋼材。
7.上記1から6のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材を加熱し、その後熱間圧延する鋼材の製造方法であって、
前記鋼素材の加熱温度が1050℃以上であり、
前記熱間圧延における仕上圧延後の冷却速度が10℃/s以上である鋼材の製造方法。
本発明によれば、石炭やコークスを積載するばら積み貨物船ホールドが使用される特有の腐食環境において、優れた耐食性を示す鋼材を提供することができる。
以下、本発明の一実施形態による鋼材について説明する。まず、鋼材の成分組成の限定理由について述べる。なお、本明細書において、各成分元素の含有量を表す「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
C:0.040%以上0.200%以下
Cは、鋼の強度を上昇させるのに有効な元素であり、本発明では強度を確保するために0.040%以上含有させる。一方、Cを0.200%を超えて含有させると、溶接性および溶接熱影響部靭性を低下させる。よって、C量は0.040%以上0.200%以下の範囲とする。好ましくは0.050%以上0.180%以下の範囲であり、より好ましくは、0.060%以上0.160%以下の範囲である。
Si:0.01%以上0.50%以下
Siは、脱酸剤として添加され、また鋼の強度を高める元素であるので、本発明では0.01%以上含有させる。しかしながら、Siを0.50%を超えて含有させると、鋼の靱性を劣化させるので、Si量の上限は0.50%とする。好ましくは0.05%以上0.40%以下の範囲であり、より好ましくは0.10%以上0.35%以下の範囲である。
Mn:0.10%以上2.00%以下
Mnは、鋼の強度を上げることができるため、0.10%以上含有させる。しかしながら、Mnを2.00%を超えて含有させると、鋼の靱性および溶接性を低下させるため、Mn量の上限は2.00%とする。好ましくは0.50%以上1.60%以下の範囲である。より好ましくは0.70%以上1.60%以下の範囲である。
P:0.035%以下
Pは、鋼の母材靱性を低下させる有害な元素であるが、Pの低減は製造コストの上昇を招く。そこで、母材靭性および製造コストの観点から、P量は0.035%以下とする。好ましくは0.020%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。なお、0.001%未満とするのは工業的規模の製造では難しいため、0.001%以上の含有は許容される。
S:0.010%以下
Sは、鋼の靭性および溶接性を劣化させる有害な元素であるので、極力低減することが好ましいため、0.010%以下とする。好ましくは0.006%以下であり、より好ましくは0.003%以下である。なお、0.0005%未満とするのは工業的規模の製造では難しいため、0.0005%以上の含有は許容される。
Al:0.003%以上0.100%以下
Alは、脱酸剤として0.003%以上含有させるが、0.100%を超える含有は、溶接部靭性に悪影響を及ぼすので、Al量は0.100%以下とする。好ましくは0.010%以上0.050%以下であり、より好ましくは0.015%以上0.040%以下である。
Cu:0.04%以上0.35%以下
Cuは、Fe3O4のような腐食生成物を緻密にする。この緻密化した腐食生成物層が保護膜として作用し、H2O、O2、SO4 2-といった腐食因子の地鉄表面への透過が抑制され、鋼の耐食性が向上する。この効果は、Cu量が0.04%以上になると発現するが、0.35%を超えて過剰に含有されると溶接性や母材靭性が低下する。そのため、Cu量は0.04%以上0.35%以下の範囲とする。好ましくは0.05%以上0.30%以下の範囲である。より好ましくは0.10%以上0.30%以下の範囲である。
Ni:0.04%以上0.40%以下
Niは、Cuと同様、腐食生成物を緻密にし、地鉄表面へのH2O、O2、SO4 2-の拡散を抑制する。これにより、鋼の耐食性が向上する。この効果は、Ni量が0.04%以上になると発現するが、0.40%を超えると効果が飽和するだけでなく、コストも上昇するため、Ni量は0.04%以上0.40%以下の範囲とする。好ましくは0.05%以上0.40%以下の範囲である。より好ましくは0.10%以上0.40%以下の範囲である。
W:0.010%以上0.500%以下
Wは、WO4 2-の生成により、地鉄表面へのSO4 2-の拡散を抑制すると共に、腐食生成物を緻密にして、地鉄表面へのH2O、O2、SO4 2-の拡散を抑制する。これにより、鋼の耐食性が向上する。この効果は、0.010%以上で発現するが、0.500%を超えて含有されると効果が飽和するだけでなく、コストも上昇する。そのため、W量は0.010%以上0.500%以下の範囲とする。好ましくは0.020%以上0.200%以下の範囲である。より好ましくは0.030%以上0.150%以下の範囲である。
固溶W:0.005%以上
Wは、上記したような耐食性向上作用を有するが、Wは鋼中で固溶W、あるいは、炭化物などの析出物として存在する。このうち、耐食性の向上に寄与しているのは固溶Wである。固溶Wは0.005%以上で耐食性が発現するため、固溶W量は0.005%以上とした。好ましくは0.010%以上0.1%以下である。より好ましくは0.020%以上0.1%以下である。ここで、固溶Wを0.005%以上とするには、鋼のW添加量を0.007%以上にするとともに、熱間圧延における仕上圧延後の冷却速度を10℃/s以上とすることが必要である。
Sb:0.010%以上0.300%以下
Sbは、鋼材に合金元素として0.010%以上を含有させると、低pH環境において地鉄近傍に濃縮する。Sbは大きな水素過電圧を持つため、Sbが析出した部分では水素発生反応が抑制され、耐食性が向上する。また、SbはCuと金属間化合物であるCu2Sbを形成することで、さらに耐食性が向上する。この効果は0.010%以上で発現するが、0.300%を超えて含有させると靭性を低下するので、Sbは0.010%以上0.300%以下の範囲とする。好ましくは0.020%以上0.250%以下の範囲である。より好ましくは0.030%以上0.120%以下の範囲である。
Nb:0.003%以上0.025%以下
Nbは、腐食生成物を緻密にして、地鉄表面へのH2O、O2、SO4 2-の拡散を抑制する。これにより、鋼の耐食性が向上する。この効果を得るためにはNbを0.003%以上含有させる必要がある。一方、Nbを0.025%を超えて含有させても効果は飽和する。よって、Nb量は0.003%以上0.025%以下の範囲とする。好ましくは0.005%以上0.020%以下の範囲である。より好ましくは、0.007%以上0.020%以下の範囲である。
固溶Nb:0.002%以上
Nbは、上記したような耐食性向上作用を有するが、Nbは鋼中で固溶Nb、あるいは、炭化物、窒化物、炭窒化物などの析出物として存在する。このうち、耐食性の向上に寄与しているのは固溶Nbである。固溶Nbは0.002%以上で耐食性が発現するため、固溶Nb量は0.002%以上とした。好ましくは、0.003%以上0.020%以下であり、より好ましくは0.005%以上である。ここで、固溶Nbを0.002%以上とするには、スラブ加熱温度を1050℃以上とすることが必要である。スラブの加熱温度は、Nbの固溶量と相関を有する。スラブ加熱温度を1050℃以上とすることにより、Nbの鋼中固溶量を必要量確保することができ、その結果耐食性を向上させることができる。
N:0.0010%以上0.0080%以下
Nは、靱性を低下させる元素であるので、極力低減することが望ましい。しかしながら、工業的には0.0010%未満に低減するのは難しい。一方、0.0080%を超えて含有させると靱性の著しい劣化を招く。よって本発明では、N量は0.0010%以上0.0080%以下の範囲とする。好ましくは0.0015%以上0.0060%以下であり、より好ましくは0.0020%以上0.0050%以下である。
以上、本発明の基本成分について説明した。上記成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物であるが、その他にも必要に応じて、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ti:0.001%以上0.030%以下、Zr:0.001%以上0.030%以下、およびV:0.002%以上0.20%以下のうちから選ばれる1種または2種以上
Ti、ZrおよびVはいずれも、鋼の強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて選択して含有させることができる。このような効果を得るためには、TiおよびZrは0.001%以上、Vは0.002%以上含有させる必要がある。しかしながら、TiおよびZrはいずれも0.030%を超えて、またVは0.20%を超えて含有させると靱性が低下するため、Ti、ZrおよびVを含有させる場合には、それぞれ、上記の範囲で含有させることとする。
Ca:0.0002%以上0.0050%以下
Caは、介在物形態制御の効果があり、鋼の延性および靱性を高めることができる。この効果はCa量が0.0002%以上で発現する。一方、Caは0.0050%を超えて含有させると、粗大な介在物を形成し、母材の靱性を劣化させる。そこで、好ましくはCa量は0.0002%以上0.0050%以下の範囲とする。より好ましくは0.0005%以上0.0040%以下の範囲である。さらに好ましくは0.0010%以上0.0030%以下の範囲である。
B:0.0002%以上0.0030%以下
Bは鋼の強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて選択して含有させることができる。このような効果は、0.0002%以上で発現する。しかしながら、0.0030%を超えて含有させると靱性が低下するため、好ましくはB量は0.0002%以上0.0030%以下とする。より好ましくは0.0003%以上0.0025%以下であり、さらに好ましくは0.0005%以上0.0015%以下である。
Co:0.01%以上0.50%以下、Mo:0.01%以上0.50%以下、およびCr:0.01%以上0.20%以下のうちから選ばれる1種または2種以上
Co、Mo、Crはいずれも、鋼の強度を高める元素であり、必要に応じて選択して含有させることができる。このような効果は、Co、Mo、Cr共に0.01%以上で発現するが、Co、Moでは0.50%を超えて、また、Crでは0.20%を超えて含有させるとそれぞれ靱性が低下するため、好ましくはCo、Mo、Crは上記の範囲で含有させることとする。
REM:0.0002%以上0.015%以下、Y:0.0001%以上0.1%以下、およびMg:0.0002%以上0.015%以下のうちから選ばれる1種または2種以上
REM(希土類元素)、Y、Mgはいずれも溶接熱影響部の靭性向上に効果のある元素であり、必要に応じて選択して添加することができる。この効果は、REM:0.0002%以上、Y:0.0001%以上、Mg:0.0002%以上で得られる。しかし、REM:0.015%、Y:0.1%、Mg:0.015%を超えて含有させると、却って靭性の低下を招くので、REM、Y、Mgは、それぞれ上記値を上限として添加するのが好ましい。
本発明における成分組成のうち、上記以外の成分はFeおよび不可避的不純物である。ただし、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、上記以外の成分の含有を拒むものではない。
次に、本発明に係る鋼材の好適な製造方法について説明する。
上記した成分組成の溶鋼を転炉、電気炉等の通常公知の方法で溶製し、連続鋳造法、造塊法等の通常公知の方法でスラブやビレット等の鋼素材とするのが好ましい。なお、溶鋼に、取鍋精錬や真空脱ガス等の処理を付加しても良いことは言うまでもない。
次いで、上記鋼素材を、結晶粒粗大化防止の観点から、好ましくは1050〜1250℃の温度に加熱したのち、所望の寸法形状に熱間圧延するか、あるいは鋼素材の温度が熱間圧延可能な程度に高温である場合には加熱することなく、あるいは均熱する程度で直ちに所望の寸法形状の鋼材に熱間圧延することが好ましい。
ここで、固溶Wを0.005%以上に制御するためには、熱間圧延の工程で、仕上圧延後の冷却速度を10℃/s以上とすることが必要である。
また、固溶Nbを0.002%以上に制御するためには、鋼素材の加熱温度を1050℃以上とすることが必要である。
なお、熱間圧延では、強度を確保するために、熱間仕上圧延終了温度および熱間仕上圧延終了後の冷却速度を適正化することが好ましく、熱間仕上圧延終了温度は600℃以上、熱間仕上圧延終了後の冷却は、空冷または冷却速度150℃/s以下の加速冷却を行うことが好ましい。なお、冷却後、再加熱処理を施してもよい。その他の製造条件は、鋼材の一般的な製造方法に従えばよい。
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
表1に示す成分組成を含む鋼を、真空溶解炉で溶製後、インゴットとし、または転炉で溶製後、連続鋳造によりスラブとした。ついで、インゴットまたはスラブを加熱炉に装入して1150℃に加熱後、熱間圧延により、25mm厚の鋼板とした。
Figure 0006638678
これらの鋼板について、母材の引張特性および衝撃特性(シャルピー衝撃試験により、−20℃での吸収エネルギーvE-20を測定)を調査した。また、溶接部靭性として、溶接入熱が150kJ/cmのサブマージアーク溶接した時の溶接継手における溶接熱影響部1mm位置(ヒュージョンラインから母材側に1mm入った箇所)での熱履歴に相当する再現熱サイクルを付与したのち、シャルピー衝撃試験により0℃での吸収エネルギーvE0を測定した。
また、耐食性については、以下に示す条件で試験を行うことで、石炭船および石炭・鉱石兼用船のホールド内の腐食に大きな影響を及ぼす温湿度環境、結露状況を模擬した。
前記鋼板から、5mmt×50mmW×75mmLの試験片を採取し、その表面をショットブラストして、表面のスケールや油分を除去した。この面を試験面として、塗膜剥離後の鋼材の耐食性を評価した。裏面と端面をシリコン系シールでコーティングした後、アクリル製の治具に嵌め込み、その上に石炭5gを敷き詰め、恒温恒湿器により、雰囲気A(温度60℃、相対湿度95%、20時間)⇔雰囲気B(温度30℃、相対湿度95%、3時間)、遷移時間0.5時間の温度湿度サイクルを84日間与えた。ここで、記号「⇔」は繰り返しを意味している。
なお、石炭は5gを秤量し、これを常温で100mlの蒸留水に2時間浸漬したのち、ろ過を行い、200mlに希釈した石炭浸出液のpHが3.0になるものを用いた。
本実施例では、上記の条件で試験を行うことにより、石炭運搬船およびコークス運搬船のホールド内の腐食に大きな影響を及ぼす温湿度環境、結露状況を模擬している。試験後、錆剥離液を用い、各試験片の錆を剥離し、鋼材の重量減少量を測定し腐食量とした。また、生じた最大孔食深さをデプスメーターを用いて測定した。
表2に機械的特性調査結果および耐食性試験結果を示す。表2に示したとおり、発明例、比較例ともにほぼ良好な母材機械的特性および溶接部衝撃特性を示した。母材機械的特性を評価する引張特性については、降伏応力YSが315MPa以上、引張強さTSが440MPa以上、伸びElが19%以上を良好とし、衝撃特性については、シャルピー衝撃試験による−20℃での吸収エネルギーvE-20が31J以上を良好とした。溶接部衝撃特性については、シャルピー衝撃試験による0℃での吸収エネルギーvE0が34J以上を良好とした。
しかしながら、耐食性については大幅な違いがみられた。すなわち、発明例の重量減および最大孔食深さは、比較例であるベース鋼No.53の70%以下であり、良好な耐食性を示したのに対し、比較例であるNo.54〜67の重量減および最大孔食深さはベース鋼の90%以上であり、耐食性として不十分であった。
Figure 0006638678
本発明に係る鋼材は、石炭やコークスを積載するばら積み貨物船のホールドの使用環境において、腐食減耗が抑制されて優れた耐食性を発揮するため、ホールドの再塗装や鋼材切替えの頻度を低減することができる。

Claims (7)

  1. 質量%で、
    C:0.040%以上0.200%以下、
    Si:0.01%以上0.50%以下、
    Mn:0.10%以上2.00%以下、
    P:0.035%以下、
    S:0.010%以下、
    Al:0.003%以上0.100%以下、
    Cu:0.04%以上0.35%以下、
    Ni:0.04%以上0.40%以下、
    W:0.010%以上0.500%以下、
    Sb:0.010%以上0.300%以下、
    Nb:0.003%以上0.025%以下および
    N:0.0010%以上0.0080%以下
    を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有する鋼材であって、
    前記Wにおける固溶W量が0.005%以上であり、
    前記Nbにおける固溶Nb量が0.002%以上であり、
    以下の腐食試験条件における重量減が3.12g以下である鋼材。
    腐食試験条件:鋼板から、5mmt×50mmW×75mmLの試験片を採取し、その表面をショットブラストして、表面のスケールや油分を除去し、この面を試験面として、塗膜剥離後の鋼材の耐食性を評価する。係る鋼材に、裏面と端面をシリコン系シールでコーティングした後、アクリル製の治具に嵌め込み、その上に石炭5gを敷き詰め、恒温恒湿器により、雰囲気A(温度60℃、相対湿度95%、20時間)⇔雰囲気B(温度30℃、相対湿度95%、3時間)、遷移時間0.5時間の温度湿度サイクルを84日間与える。ここで、記号「⇔」は繰り返しを意味している。
    なお、石炭は5gを秤量し、これを常温で100mlの蒸留水に2時間浸漬したのち、ろ過を行い、200mlに希釈した石炭浸出液のpHが3.0になるものを用いる。
  2. 前記成分組成は、さらに、
    質量%で、
    Ti:0.001%以上0.030%以下、
    Zr:0.001%以上0.030%以下および
    V:0.002%以上0.20%以下
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の鋼材。
  3. 前記成分組成は、さらに、
    質量%で、
    Ca:0.0002%以上0.0050%以下
    を含有する、請求項1または2に記載の鋼材。
  4. 前記成分組成は、さらに、
    質量%で、
    B:0.0002%以上0.0030%以下
    を含有する、請求項1から3のいずれかに記載の鋼材。
  5. 前記成分組成は、さらに、
    質量%で、
    Co:0.01%以上0.50%以下、
    Mo:0.01%以上0.50%以下および
    Cr:0.01%以上0.20%以下
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1から4のいずれかに記載の鋼材。
  6. 前記成分組成は、さらに、
    質量%で、
    REM:0.0002%以上0.015%以下、
    Y:0.0001%以上0.1%以下および
    Mg:0.0002%以上0.015%以下
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1から5のいずれかに記載の鋼材。
  7. 請求項1から6のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材を加熱し、その後熱間圧延する鋼材の製造方法であって、
    前記鋼素材の加熱温度が1050℃以上であり、
    前記熱間圧延における仕上圧延後の冷却速度が10℃/s以上であって、前記鋼材中のWにおける固溶W量が0.005%以上であり、前記鋼材中のNbにおける固溶Nb量が0.002%以上であり、さらに以下の腐食試験条件における重量減が3.12g以下である鋼材の製造方法。
    腐食試験条件:鋼板から、5mmt×50mmW×75mmLの試験片を採取し、その表面をショットブラストして、表面のスケールや油分を除去し、この面を試験面として、塗膜剥離後の鋼材の耐食性を評価する。係る鋼材に、裏面と端面をシリコン系シールでコーティングした後、アクリル製の治具に嵌め込み、その上に石炭5gを敷き詰め、恒温恒湿器により、雰囲気A(温度60℃、相対湿度95%、20時間)⇔雰囲気B(温度30℃、相対湿度95%、3時間)、遷移時間0.5時間の温度湿度サイクルを84日間与える。ここで、記号「⇔」は繰り返しを意味している。
    なお、石炭は5gを秤量し、これを常温で100mlの蒸留水に2時間浸漬したのち、ろ過を行い、200mlに希釈した石炭浸出液のpHが3.0になるものを用いる。
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