以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(1.金属加工装置の構成)
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る金属加工装置の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る金属加工装置の一構成例を示す図である。図1では、本実施形態に係る金属加工装置の水平断面を上方から見た様子を示している。なお、図1を含む以下に示す図面では、説明のため、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合があり、各図面において図示される各構成部材の相対的な大きさは、必ずしも実際の構成部材間における大小関係を正確に表現するものではない。
図1を参照すると、本実施形態に係る金属加工装置10は、金属材1をその長手方向に間欠的に又は連続的に送り出す送出機構110と、送り出された金属材1を案内支持する支持機構120と、金属材1を局部的に加熱する加熱機構130と、金属材1の加熱された部位を冷却する冷却機構140と、金属材1を挟持して加熱された金属材1の部位に曲げ荷重を付加する挟持機構150と、が、金属材1の長手方向に沿ってこの順に配置されて構成される。また、金属加工装置10には、送出機構110、加熱機構130、冷却機構140及び挟持機構150の駆動を制御することにより、金属材1を長手方向に移動させながら当該金属材1に対して熱間曲げ加工を施す、制御装置160が備えられる。金属加工装置10は、いわゆる3DQに対応した金属加工装置である。
ここで、以下の説明では、一例として、金属材1が鋼管である場合について説明する。金属加工装置10は、例えば、外径がφ10〜200mm程度、肉厚が1〜8mm程度の鋼管を加工の対象としている。ただし、本実施形態はかかる例に限定されず、金属材1は、例えば中実の棒鋼等、棒状の金属材であれば他の部材であってもよい。また、金属材1は、曲げ加工が可能な金属であればよく、その材質は鉄鋼に限定されない。金属材1は、例えば、鉄鋼、特殊鋼の他、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等、各種の金属であってよい。
(送出機構)
送出機構110は、金属材1の一端を把持するとともに、制御装置160からの制御により当該金属材1を長手方向に連続的又は間欠的に移動させる。送出機構110としては、例えば特許文献1、2に例示される従来の3DQに係る金属加工装置の送出機構と同様のものが用いられてよい。例えば、送出機構110は、ACサーボモータ又は油圧サーボモータ等の駆動源や、当該駆動源の回転動力を直線運動に変換するボールねじ等の機械要素から構成され得る。あるいは、送出機構110は、油圧シリンダーやエアシリンダー等のシリンダー装置によって構成されてもよい。当該ボールねじや、当該シリンダー装置のピストンロッド等によって金属材1の端部が押圧されることにより、金属材1が長手方向に押し出されることになる。
なお、以下の説明では、送出機構110によって金属材1が押し出される方向をx軸方向とも呼称する。また、当該x軸方向と互いに直交する2方向をそれぞれy軸方向及びz軸方向とも呼称する。z軸方向が鉛直方向(すなわち、上下方向)に対応する。
(支持機構)
支持機構120は、金属材1の長手方向の一部位において当該金属材1を案内支持する。支持機構120は、例えば金属材1の長手方向の一部位において当該金属材1の外周を覆うように配置される支持部材によって構成される。
ここで、支持機構120と金属材1との接触状態に異常が生じた場合には、支持機構120と金属材1との間の摩擦係数が大きく変化すると考えられる。例えば、支持機構120と金属材1との間にキリコ等の異物が侵入した場合には、当該摩擦係数は正常と思われる値よりも大きくなることが想定される。一方、支持機構120と金属材1との間の隙間が設計値よりも大きくなった場合には、当該摩擦係数は正常と思われる値よりも小さくなることが想定される。
このように、支持機構120と金属材1との間の摩擦係数は、支持機構120と金属材1との接触状態を表す指標となり得る。そこで、本実施形態では、このことに注目し、支持機構120と金属材1との間の摩擦係数を測定することにより、支持機構120と金属材1との接触状態を評価する。
具体的には、本実施形態では、支持機構120に、自身に作用する荷重を検出する測定機構が備えられる。当該測定機構は、金属材1に負荷される曲げ荷重によって支持機構120に作用する反力(すなわち、曲げ方向への加工反力)と、金属材1が長手方向に送られることにより支持機構120に作用する摩擦力(すなわち、送り方向への摩擦力)と、を少なくとも測定可能に構成される。支持機構120によって測定されたこれらの力についての値は、制御装置160に送信される。制御装置160は、測定された送り方向への摩擦力(以下、測定摩擦力とも呼称する)を、測定された曲げ方向への加工反力(以下、測定加工反力とも呼称する)で除すことにより、摩擦係数を求め、当該摩擦係数に基づいて接触状態の異常を検出することができる。
なお、加工反力を測定するだけであっても、その値が正常な値から大きく外れている場合には、支持機構120と金属材1との接触状態に何らかの異常が発生していることを検出できる可能性はある。しかしながら、加工反力は、例えば金属材1である鋼管の肉厚のばらつき等によっても変化し得る。つまり、加工反力が変動する要因は、必ずしも支持機構120と金属材1との接触状態の変化だけではない。従って、加工反力の測定値に基づいて当該接触状態を評価した場合には、当該接触状態を正確に評価できない可能性がある。これに対して、本実施形態では、上記のように、支持機構120と金属材1との間の摩擦係数に基づいて、両者の接触状態を評価する。摩擦係数は、両者の接触状態をより直接的に表す指標であり得るため、本実施形態によれば、当該接触状態をより正確に評価することが可能となる。
なお、図1では、簡単のため、支持機構120を簡略化して単純な四角形の部材として図示しているが、実際の支持機構120の形状は図示するものとは異なる。測定機構の構成も含めた支持機構120のより詳細な構成については、下記(2.支持機構の構成)で改めて説明する。
(加熱機構)
加熱機構130は、例えば長手方向の一部位において金属材1の外周を覆うように配置される加熱コイルによって構成され、金属材1を局部的に加熱する。制御装置160からの制御により当該加熱コイルに高周波電流が印加されることにより、金属材1が局部的に加熱されることとなる。なお、加熱機構130としては、例えば特許文献1、2に例示される従来の3DQに係る金属加工装置の加熱機構と同様のものが用いられてよい。
(冷却機構)
冷却機構140は、例えば長手方向の一部位において金属材1の外周を覆うように配置される水冷ジャケットによって構成され、金属材1の加熱機構130によって加熱された部位を冷却する。あるいは、冷却機構140は、金属材1に対して冷却媒体を噴霧するノズルによって構成されてもよい。制御装置160からの制御により、冷却ジャケット及び/又はノズルへの冷却媒体の供給が適宜制御されることにより、金属材1の冷却が行われる。なお、冷却機構140としては、例えば特許文献1、2に例示される従来の3DQに係る金属加工装置の冷却機構と同様のものが用いられてよい。
なお、金属加工装置10において、実際に金属材1に対して曲げ加工が施されるのは加熱機構130に対応する位置である。従って、金属加工装置10においては、加工精度を向上させるために、加熱機構130と、加熱機構130の前段に設けられる支持機構120と、加熱機構130の後段に設けられる冷却機構140と、は、できるだけ近接して配置されることが好ましい。
(挟持機構)
挟持機構150は、例えば産業用ロボットのマニピュレータによって構成され、金属材1の送出機構110によって把持される端部とは逆側の端部を挟持するとともに、当該金属材1に対して曲げ荷重を付加する。本実施形態では、挟持機構150を構成するマニピュレータは、少なくとも6自由度を有するように構成されており、金属材1に対して、x軸方向、y軸方向及びz軸方向に対する荷重と、これら3軸まわりの回転方向への荷重を与えることができる。従って、金属加工装置10によれば、金属材1に対する3次元の曲げ加工が実現され得る。ただし、挟持機構150の構成はかかる例に限定されず、挟持機構150は、金属材1に対して所定の方向に曲げ荷重を付加可能であれば、他の構成であってもよい。挟持機構150としては、例えば特許文献1、2に例示される従来の3DQに係る金属加工装置の挟持機構と同様のものが用いられてよい。
(制御装置)
制御装置160は、送出機構110、加熱機構130、冷却機構140及び挟持機構150の駆動を互いに連動して制御することにより、金属材1を所望の形状に加工する。具体的には、制御装置160は、製品形状に応じた加工条件に従って、送出機構110が金属材1を所定の速度で長手方向に送り出しながら、加熱機構130が金属材1を局部的に加熱するとともに、挟持機構150が金属材1のその加熱された部位に曲げ荷重を付加し、その直後に冷却機構140が金属材1の当該加熱された部位を冷却するように、これらの各機構の駆動を制御する。これにより、所望の製品形状に従った金属材1の加工が実現される。
また、本実施形態では、制御装置160は、支持機構120における金属材1との接触状態の異常を検出する機能を有する。具体的には、金属加工装置10には、製品ごと及び加工部位ごとの、支持機構120と金属材1との間の摩擦係数の正常範囲についての情報が格納された、摩擦係数DB170が設けられる。摩擦係数DB170は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス又は光磁気記憶デバイス等の、各種の情報を記憶可能な記憶装置によって構成される。
制御装置160は、加工中に支持機構120によって測定された摩擦力及び加工反力に基づいて、支持機構120と金属材1との間の摩擦係数を求める。そして、制御装置160は、求めた摩擦係数を、摩擦係数DB170に格納されている摩擦係数の正常範囲と比較する。制御装置160は、求めた摩擦係数が正常範囲から外れている場合には、支持機構120と金属材1との接触状態に異常が発生していると判定する(すなわち、接触状態の異常を検出する)。また、制御装置160は、求めた摩擦係数が正常範囲内である場合には、支持機構120と金属材1との接触状態は正常であると判定する。金属加工装置10では、支持機構120と金属材1との接触状態に異常が検出された場合には、例えば加工を中止したり、警報を発したりといった、オペレータ等に対して接触状態の異常を通知する所定のアクションが実行される。なお、制御装置160の機能については、下記(3.制御装置の機能構成)で改めてより詳細に説明する。
なお、接触状態の異常の検出に応じて警報が発せられる場合には、金属加工装置10には、例えば、スピーカ等の音声出力装置及び/又はランプ等の表示装置によって構成される警報装置が設けられ得る。接触状態の異常が検出された場合には、制御装置160からの制御によって当該警報装置が駆動され、音及び/又は光等によって、接触状態の異常が発生した旨の警報が発せられ得る。
以上、図1を参照して、本実施形態に係る金属加工装置10の全体構成について説明した。
(2.支持機構の構成)
図2及び図3を参照して、支持機構120の構成についてより詳細に説明する。図2は、図1に示す支持機構120のA−A断面における断面図である。図3は、図1に示す支持機構120を、実際の形状を反映してより詳細に図示したものである。図2及び図3では、金属材1が断面形状が矩形の鋼管(いわゆる角管)である場合における支持機構120の一構成例を示している。ただし、本実施形態では金属材1は角管に限定されず、金属材1が断面形状が円形の鋼管である場合であっても、支持機構120を同様に構成することが可能である。
図2を参照すると、支持機構120は、複数の支持部材121によって構成される。図示するように、各支持部材121が、金属材1の矩形形状の断面の4辺のそれぞれに対して、配置され得る。
なお、図2及び図3では、金属材1と各支持部材121との隙間を誇張して図示しているが、実際には、当該隙間は、金属材1の移動及び支持がともに適切に行われるように適宜調整されている。例えば、当該隙間が小さ過ぎると、金属材1が支持部材121の内壁と摺動してしまい、金属材1の軸方向への円滑な移動が妨げられる可能性がある。一方、当該隙間が大き過ぎると、金属材1の中心軸の位置が安定しないため、加工時に所望の曲げ荷重を付加することが困難になる可能性がある。従って、当該隙間は、金属材1の移動及び支持がともに適切に行われるように適宜調整されている。
図2及び図3に示すように、支持部材121は、略直方体形状の基材122の一面に、三分力ロードセル123と、ガイドシュー124と、が、この順に積み重なるように取り付けられて構成される。また、図示するように、支持部材121は、ガイドシュー124が金属材1と対向するように配置される。図示する構成例では、支持部材121は、1つの基材122上に、三分力ロードセル123及びガイドシュー124の組み合わせが2組設けられるとともに、これらの組み合わせが金属材1の送り方向に所定の間隔を空けて並ぶように配置されて構成されている。
三分力ロードセル123は、互いに直交する3軸方向の力を検出可能な力センサである。三分力ロードセル123は、図示するx軸方向、y軸方向及びz軸方向に作用する力を検出するように取り付けられる。なお、三分力ロードセル123としては、例えば歪みゲージを用いたもの又は圧電素子を用いたもの等、各種の公知のものを利用することができる。
ガイドシュー124は、曲げ加工時に金属材1を支持する部材である。ガイドシュー124は、例えば、金属、セラミック又は樹脂等によって形成される。ガイドシュー124は、三分力ロードセル123の上部に取り付けられており、三分力ロードセル123は、ガイドシュー124に作用した力を検出することができる。金属材1の曲げ加工時には、その曲げ方向に配置されるガイドシュー124に対して金属材1が押圧されることとなるため、支持部材121においては、三分力ロードセル123によって、曲げ加工時にガイドシュー124に作用する曲げ方向への加工反力が測定され得る。また、支持部材121においては、三分力ロードセル123によって、金属材1を長手方向に送る際にガイドシュー124に作用する送り方向への摩擦力も測定され得る。なお、三分力ロードセル123は、例えば、100g〜900kg程度の範囲の摩擦力を測定し得るように構成される。
ガイドシュー124の具体的な形状としては、図示するように、ガイドシュー124は、金属材1と対向する部位が、金属材1の送り方向(図中x軸方向)を含む面内において円弧形状を有するとともに、金属材1の送り方向と直交する方向(図中y軸方向又はz軸方向)を含む面内において直線形状を有するように構成される。つまり、ガイドシュー124の金属材1と対向する部位は、金属材1の送り方向を含む面内における円弧形状が、当該送り方向と直交する方向に連なった形状を有する。
かかる形状によれば、曲げ加工時又は送り時に金属材1がガイドシュー124と接触する際に、ガイドシュー124は、送り方向と直交する方向に延伸する直線状の部位(上述した、金属材1の送り方向と直交する方向を含む面内における直線形状に対応する部位)でのみ、金属材1と接触することとなる。つまり、長手方向においては、ガイドシュー124は、金属材1と、円弧状の1箇所でのみ接触する。
ここで、上述したように、本実施形態では、測定された摩擦力及び加工反力に基づいて摩擦係数を算出し、当該摩擦係数に基づいて支持機構120と金属材1との接触状態(すなわち、ガイドシュー124と金属材1との接触状態)を評価する。従って、接触状態をより正確に評価するためには、摩擦係数をより精度良く算出する必要がある。本実施形態によれば、上記のように力センサとして三分力ロードセル123を用いること、及びガイドシュー124の形状を工夫することにより、摩擦係数をより精度良く算出することを可能にしている。
まず、三分力ロードセル123を用いることによる効果について説明する。ガイドシュー124と金属材1との間の摩擦係数を精度良く求めるためには、ガイドシュー124に作用する摩擦力及び加工反力を同時刻に測定する必要がある。ここで、摩擦力及び加工反力をそれぞれ異なる力センサによって測定した場合には、実際に力が負荷されてからその力が検出されるまでの応答速度のばらつき等により、同一時刻における摩擦力及び加工反力を精度良く測定できるとは限らない。これに対して、本実施形態では、上記のように力センサとして三分力ロードセル123を用いることにより、1つの力センサによって摩擦力及び加工反力を同時に測定することができる。従って、これらの測定値に基づいて算出される摩擦係数も、より高精度に算出することが可能になる。
次に、ガイドシュー124の形状を工夫することによる効果について説明する。ガイドシュー124と金属材1との間の摩擦係数を精度良く求めるためには、ガイドシュー124の同一の箇所における摩擦力及び加工反力を測定する必要がある。互いに異なる箇所で摩擦力及び加工反力を測定した場合には、摩擦係数を求める際に、その測定箇所間の距離に応じた補正を行う必要があり、処理が煩雑になるとともに、補正を行う分精度も低下する恐れがあるからである。本実施形態によれば、ガイドシュー124の形状を工夫することにより、上記のようにガイドシュー124と金属材1とが長手方向において1箇所でのみ接触することとなるため、ガイドシュー124の当該箇所において、すなわち同一箇所において摩擦力及び加工反力を測定することができる。従って、摩擦係数を精度良く求めることが可能になる。
また、ガイドシュー124の形状を上記のように形成することにより、更に以下の効果を得ることができる。まず、操業中、金属材1が連続的に加工される場合において、金属材1の先端が支持部材121と衝突してしまい金属材1が支持部材121の間に円滑に挿入されないと、金属材1の長手方向への移動が円滑に行われないこととなり、摩擦力及び加工反力を安定的に測定することが困難となることが懸念される。これに対して、本実施形態では、金属材1の送り方向を含む面内におけるガイドシュー124の形状を円弧状に形成することにより、金属材1の先端が支持部材121の間に挿入される際に、当該円弧形状に案内されて、金属材1の先端が支持部材121の間に挿入されやすくなる。すなわち、金属材1の先端と支持部材121との物理的な干渉が緩和されるため、摩擦力及び加工反力を安定的に測定することが可能になる。
また、上記のように、ガイドシュー124の金属材1と対向する部位は、金属材1の送り方向を含む面内においては円弧形状を有するが、当該送り方向と直交する面内においては直線形状を有する。もしもガイドシュー124の金属材1と対向する部位が球面のような3次元的な曲面形状を有している場合には、ガイドシュー124と金属材1とが1箇所で接触するという目的は達成され得るものの、ガイドシュー124と金属材1とは、その曲面上の1点でのみ接触することとなる。この場合、その接触部位に過大な力が作用してしまい、摩擦力及び加工反力を安定的に測定することが困難になる恐れがある。これに対して、上記のように、ガイドシュー124の金属材1と対向する部位を、所定の面内でのみ円弧形状を有するように形成することにより、ガイドシュー124と金属材1とが直線状の部位において接触することとなるため、摩擦力及び加工反力をより安定的に測定することが可能になる。
このように、本実施形態によれば、ガイドシュー124の金属材1と対向する部位を、金属材1の送り方向を含む面内において円弧形状を有するとともに、金属材1の送り方向と直交する方向を含む面内において直線形状を有するように構成することにより、ガイドシュー124に作用する摩擦力及び加工反力をより精度良く、安定的に測定することが可能になる。従って、これらの測定値に基づいて算出される摩擦係数も、より精度良く、安定的に算出することができる。
なお、支持部材121を構成する、基材122、三分力ロードセル123、及びガイドシュー124は、弾性が小さい(弾性変形し難い)材質によって形成されることが好ましい。支持部材121を構成する各部材の材質の弾性が大きく、金属材1と接触した際のたわみが大きいと、摩擦力及び加工反力を正確に測定することが困難になる恐れがあるからである。支持部材121を構成する各部材を弾性が比較的小さい材質によって形成することにより、支持部材121全体の剛性を高くすることができ、摩擦力及び加工反力の測定精度をより向上させることができる。
ここで、図示するように、支持部材121は、1つの基材122上に、三分力ロードセル123及びガイドシュー124の組み合わせが2組設けられて構成され得る。また、これら三分力ロードセル123及びガイドシュー124の組み合わせが金属材1の送り方向に所定の間隔を空けて並ぶように配置され得る。支持部材121をこのように構成することにより、接触状態の異常を更に精度良く検出することが可能になる。
例えば、金属材1をy軸の負方向に曲げ加工する場合について考える。この場合において、図示する構成例とは異なり、例えば支持部材121を、1つの基材122上に三分力ロードセル123及びガイドシュー124の組み合わせを1組のみ設けて構成し、その支持部材121を送り方向における同一位置において金属材1をy軸方向に挟むように配置した場合には、金属材1をy軸の負方向に曲げ加工すると、当該金属材1は、y軸の負方向に位置するガイドシュー124としか接触しないこととなる。従って、当該1つのガイドシュー124においてのみ、摩擦力及び加工反力が測定され得る。
一方、図示する構成例であれば、金属材1は、図中のy軸の正方向であってx軸の負方向に位置するガイドシュー124(図中、ガイドシューX)、及び図中のy軸の負方向であってx軸の正方向に位置するガイドシュー124(図中、ガイドシューY)に接触することになるため、これらガイドシューX、Yにおいて、それぞれ、摩擦力及び加工反力を測定することができる。つまり、同一の加工工程について、互いに異なる2箇所において、摩擦力及び加工反力が測定され得る。従って、摩擦係数についても、同一の加工工程について互いに異なる2箇所における摩擦係数を求めることができるため、接触状態の異常をより詳細に評価することが可能となる。
また、本実施形態に係る支持部材121によれば、ガイドシュー124が上記のような形状を有することにより、加工中における当該ガイドシュー124と金属材1との接触条件を略一定に保つことができ、その接触状態(すなわち、摩擦係数)をより安定的に検出することが可能になるという利点がある。この点について、図4及び図5を参照して、従来の他の形状を有する支持部材と比較しながら、より詳細に説明する。ここでは、一例として、接触条件として、支持部材121及び金属材1の接触位置と金属材1の曲げ位置との距離、及び支持部材121と金属材1との接触部位の面積について説明する。
図4は、従来の支持部材を用いた場合における、当該支持部材及び金属材の接触条件について説明するための図である。図4では、従来の金属加工装置によって金属材1を曲げ加工している際の支持機構620近傍の水平断面を上方から見た様子を示している。図示するように、支持機構620は、略直方体形状の支持部材621が、金属材1のy軸方向の両側に、金属材1を挟むように配置されることにより構成されている。なお、図4では明示されないが、支持部材621は、金属材1のz軸方向の両側にも同様に配置されてもよい。このように、従来、金属加工装置10と同様の3DQに対応した一般的な金属加工装置においては、支持機構620の支持部材621としては、略直方体形状の鋼材等が用いられている。つまり、従来の金属加工装置では、支持部材621と金属材1とは、当該支持部材621の一平面を介して接触することとなる。なお、ここでは、従来の金属加工装置は、支持機構620の構成が異なるだけで、その他の構成は本実施形態に係る金属加工装置10と同様であるとしている。
従来の金属加工装置において、y軸の正方向に金属材1を曲げる場合について考える。図4(a)は、比較的曲げ量が小さい場合における支持機構620近傍の様子を示している。この場合、図示するように、支持部材621及び金属材1は、y軸の負方向に配置される支持部材621のx軸の負方向の角近傍(図中、接触点201)、及びy軸の正方向に配置される支持部材621のx軸の正方向の角近傍(図中、接触点203)の2点において、主に接触すると考えられる。便宜的に、金属材1の曲げ位置を加熱機構130の出口とすれば、比較的曲げ量が小さい場合における接触位置と曲げ位置との距離は、上記接触点201、203それぞれと加熱機構130の出口との距離d1、d2とみなすことができる。
一方、図4(b)は、比較的曲げ量が大きい場合における支持機構620近傍の様子を示している。この場合、極端に示すと、図示するように、支持部材621及び金属材1は、y軸の負方向に配置される支持部材621のx軸の負方向の角から所定の長さの領域(図中、接触領域205)において、主に接触すると考えられる。従って、比較的曲げ量が大きい場合における接触位置と曲げ位置との距離は、上記接触領域205と加熱機構130の出口との距離d3とみなすことができる。図4(b)では、便宜的に、接触領域205の略中心と、加熱機構130の出口との距離を距離d3として示している。
このように、従来の略直方体形状を有する支持部材621を用いて曲げ加工を行った場合には、曲げ量に応じて、支持部材621と金属材1との接触部位の面積が変化する。具体的には、曲げ量が比較的小さいときには、当該接触部位はx−y平面において略点状の部位(接触点201、203)とみなすことができるが、曲げ量が比較的大きいときには、当該接触部位はx−y平面内においてx軸方向に所定の長さを有する部位(接触領域205)とみなすことができる。また、この接触部位の面積の変化に伴い、曲げ量に応じて、支持部材621及び金属材1の接触位置と曲げ位置との距離も変化する。
以上の考察から、従来の略直方体形状を有する支持部材621を用いて曲げ加工を行った場合には、加工条件によって支持部材621と金属材1との接触条件が変化し得る。この場合には、例えば支持部材621に摩擦係数の測定機構(例えば、x軸方向の摩擦力及び曲げ方向の加工反力を測定するための力センサ)を設けたとしても、当該測定機構の設置位置に応じて測定される摩擦係数の値が変化してしまう事態が生じ得る。従って、支持部材621と金属材1との接触状態(すなわち、摩擦係数)を安定的に検出することが困難となる。また、図4(b)に示す接触領域205のように、支持部材621と金属材1との接触部位が所定の面積を有する場合には、曲げ加工中に金属材1から支持部材621に加えられる加工反力がその接触面において分散してしまうため、当該加工反力を正確に測定することは更に難しいものとなる。
これに対して、図5は、本実施形態に係る支持部材121を用いた場合における、当該支持部材121及び金属材1の接触条件について説明するための図である。図5でも、図4と同様に、本実施形態に係る金属加工装置10によって金属材1を曲げ加工している際の支持機構120近傍の水平断面を上方から見た様子を示している。
本実施形態に係る金属加工装置10において、同様にy軸の正方向に金属材1を曲げる場合について考えると、図示するように、支持部材121及び金属材1は、y軸の負方向に配置される支持部材121のx軸の負方向に位置するガイドシュー124の円弧形状の先端近傍(図中、接触点207)、及びy軸の正方向に配置される支持部材121のx軸の正方向に位置するガイドシュー124の円弧形状の先端近傍(図中、接触点209)の2点において、主に接触すると考えられる。そして、この接触点207、209の位置は、曲げ量が変化したとしてもほぼ変化しない。従って、本実施形態に係る支持部材121を用いた場合には、接触位置と曲げ位置との距離は、上記接触点207、209のそれぞれと加熱機構130の出口との距離d4、d5とみなすことができ、更に、当該距離d4、d5は、曲げ量にかかわらず略一定であるとみなすことができる。
このように、本実施形態に係る支持部材121を用いて曲げ加工を行った場合には、曲げ量が変化したとしても、支持部材121と金属材1との接触部位の面積、並びに支持部材121及び金属材1の接触位置と曲げ位置との距離が変化しない。
以上の考察から、本実施形態に係る支持部材121を用いて曲げ加工を行った場合には、加工条件が変化した場合であっても、支持部材121と金属材1との接触条件が変化しない。具体的には、加工条件が変化した場合であっても、支持部材121と金属材1とは、上述した接触点207、209において接触する。従って、この接触点207、209で接触することを考慮して、上述したような三分力ロードセル123を設けることにより、摩擦係数の値をより精度良く測定することが可能になる。つまり、支持部材121と金属材1との接触状態をより安定的に検出することが可能になる。また、上記のように、支持部材121と金属材1との接触部位は、x−y平面内において点状の部位である接触点207、209であるため、曲げ加工中に金属材1から支持部材121に加えられる加工反力が、当該接触点207、209に集中的に作用することになる。従って、当該加工反力をより正確に測定することが可能になり、摩擦係数の測定をより高精度に行うことが可能になる。
以上、支持機構120の構成、及び支持機構120を構成する支持部材121の構成について詳細に説明した。
ここで、上述したように、支持機構120は、加熱機構130及び冷却機構140の近傍に配置され得るため、支持部材121(すなわち、三分力ロードセル123及びガイドシュー124)には、これら加熱機構130及び冷却機構140の影響を受け難いこと(具体的には、加熱機構130による誘導加熱の影響を受け難いこと、及び冷却機構140から飛散した冷却水が掛かっても劣化しないこと等)が求められる。従って、例えば、誘導加熱の影響を避けるために、加熱機構130の加熱能力等を考慮して、支持部材121と加熱機構130との距離が適宜調整されてもよい。また、例えば、冷却水の飛散の影響を避けるために、ガイドシュー124の表面にはめっき処理が施されてもよい。
また、これら加熱機構130及び冷却機構140の影響による誤作動を避けるためには、支持部材121に搭載される力センサは、できるだけ小型であることが望ましい。本実施形態によれば、力センサとして、摩擦力及び加工反力をともに測定できる三分力ロードセル123を用いることにより、当該力センサの小型化を実現し、上述した高周波ノイズや冷却水の飛散の影響を受け難くしている。これにより、摩擦力及び加工反力を更に高精度に測定することが可能になる。
また、図2に示す構成例では、4つの支持部材121によって支持機構120が構成されているが、支持機構120を構成する支持部材121の数はかかる例に限定されず、任意であってよい。支持部材121については、摩擦係数を算出するために加工反力を測定可能であるように、少なくとも曲げ加工を行う方向に当該支持部材121が位置するように、その配置及び数が適宜設定されてよい。例えば、金属材1をy軸方向に曲げ加工する際の、支持機構120と金属材1との間の摩擦係数を測定したい場合であれば、金属材1をy軸方向に挟む位置に少なくとも支持部材121が配置されればよい。
また、金属材1を囲むように配置される複数の支持部材121の全てが、摩擦力及び加工反力の測定機構を有しなくてもよい。つまり、支持機構120は、図3に示すような摩擦力及び加工反力の測定機構を有する支持部材121と、測定機構を有しない支持部材と、によって構成されてよい。摩擦係数を求めたい(すなわち、加工反力及び摩擦力を測定したい)加工工程における曲げ方向にのみ、測定機能を有する支持部材121が配置されれば十分だからである。例えば、金属材1をy軸方向に曲げ加工する際の、支持機構120と金属材1との間の摩擦係数を測定したい場合であれば、金属材1をy軸方向に挟む位置に少なくとも測定機構を有する支持部材121が配置されればよく、金属材1をz軸方向に挟む位置には測定機構を有しない支持部材が設けられてもよい。なお、この場合、測定機構を有しない支持部材は、金属材1を案内支持する機能を果たせばよいため、例えば略直方体形状の鋼材等であってよい。
また、図3に示す構成例では、支持部材121は、1つの基材122上に、三分力ロードセル123及びガイドシュー124の組み合わせが2組設けられて構成されているが、本実施形態はかかる例に限定されない。例えば、図示する構成例においてy軸の負方向に金属材1を曲げる場合には、上述したように、当該金属材1は、ガイドシューX及びガイドシューYと接触する。従って、例えばy軸の負方向に金属材1を曲げる際の摩擦係数のみを求めたい場合には、支持部材121を、1つの基材122上に三分力ロードセル123及びガイドシュー124の組み合わせを1組のみ設けて構成するとともに、その支持部材121を、ガイドシュー124がガイドシューX、Yに対応する位置に位置するように配置すればよい。このように、1つの支持部材121における三分力ロードセル123及びガイドシュー124の組み合わせの配置数及び配置位置は、摩擦係数を求めたい加工工程における曲げ方向を考慮して、適宜設定されてよい。
また、以上説明した構成例では、支持部材121は三分力ロードセル123を有していたが、本実施形態はかかる例に限定されない。摩擦係数を算出するためには、送り方向への摩擦力と、曲げ方向への加工反力が測定できればよいため、支持部材121は、その配置位置と金属材1の曲げ方向との関係に応じて、三分力ロードセル123に代えて二分力ロードセルを有していてもよい。例えば、金属材1をy軸方向に挟むように設けられる支持部材121は、y軸方向に金属材1を曲げる際の摩擦係数を求めるものであるため、当該支持部材121にはx軸方向及びy軸方向の荷重を検出可能な二分力ロードセルが搭載されればよい。一方、例えば、金属材1をz軸方向に挟むように設けられる支持部材121は、z軸方向に金属材1を曲げる際の摩擦係数を求めるためのものであるため、当該支持部材121にはx軸方向及びz軸方向の荷重を検出可能な二分力ロードセルが搭載されればよい。
更に、本実施形態では、支持部材121は、摩擦力及び加工反力を測定可能に構成されればよく、その構成は任意であってよい。例えば、ガイドシュー124の形状は必ずしも図示するものでなくてもよく、略直方体形状であってもよい。また、力センサとしては、必ずしも三分力ロードセル123でなくてもよく、例えば摩擦力を測定するための力センサと、加工反力を測定するための力センサとが、それぞれ支持部材121に搭載されてもよい。ガイドシュー124の形状が略直方体形状である場合や、摩擦力及び加工反力を互いに異なる力センサによって測定した場合には、同一箇所で摩擦力及び加工反力を測定できない可能性があるが、その場合には、例えばガイドシュー124の形状や加工条件、力センサの配置位置等に基づいて両者の測定箇所間の距離を推定し、その推定結果を用いて、適宜補正を施した上で摩擦係数を求めてもよい。ただし、図示したように支持部材121を構成することにより、上述したように、このような補正処理を行わなくても摩擦係数を求めることができるため、支持部材121においては図示した構成が好適であると言える。
(3.制御装置の機能構成)
図6を参照して、図1に示す制御装置160の機能構成について説明する。図6は、図1に示す制御装置160の機能構成を示すブロック図である。図6では、説明のため、制御装置160とともに、摩擦係数DB170も併せて図示している。
制御装置160は、支持機構120によって測定された摩擦力及び加工反力に基づいて、当該支持機構120と金属材1との接触状態の異常を検出する。制御装置160は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Pocessor)等の各種のプロセッサ、又は、当該プロセッサが搭載された情報処理装置等である。制御装置160を構成するプロセッサが所定のプログラムに従って動作することにより、制御装置160の機能が実現され得る。
図6を参照すると、制御装置160は、その機能として、摩擦係数算出部161と、接触状態異常検出部162と、を有する。なお、図示は省略するが、制御装置160は、その機能として、金属材1を製品及び加工形状に応じた所望の形状に曲げ加工するために、金属加工装置10の送出機構110、加熱機構130、冷却機構140及び挟持機構150の駆動を適宜制御する加工制御部も有する。制御装置160における当該加工制御部の機能は、一般的な既存の3DQに係る金属加工装置における機能と同様であるため、ここではその詳細な説明は省略する。
摩擦係数算出部161は、支持機構120によって測定された摩擦力及び加工反力に基づいて、当該支持機構120と金属材1との間の摩擦係数を算出する。具体的には、摩擦係数算出部161は、測定摩擦力を測定加工反力で除すことにより摩擦係数を求めることができる。なお、支持部材121の構成等の事情により、同一箇所で摩擦力及び加工反力が測定できなかった場合には、摩擦係数算出部161は、両者の測定箇所間の距離等の情報を用いて、適宜補正を施した上で摩擦係数を求めてもよい。摩擦係数算出部161は、算出した摩擦係数についての情報を、接触状態異常検出部162に提供する。
接触状態異常検出部162は、算出された摩擦係数に基づいて、支持機構120と金属材1との接触状態の異常を検出する。具体的には、接触状態異常検出部162は、摩擦係数算出部161によって算出された摩擦係数を、摩擦係数DB170に格納されている摩擦係数の正常範囲と照らし合わせることにより、算出された摩擦係数が正常範囲に含まれるかどうかを判定する。
例えば、摩擦係数DB170には、下記表1に示すような、製品及び加工部位と、摩擦係数の正常範囲との関係が格納されている。当該関係は、金属材1の材質(鋼管の炭素濃度等)、形状(鋼管の管径等)、送り速度、曲げ量(屈曲部の半径R)等の加工条件に応じて変化し得るため、当該関係は、製品ごと及び加工部位ごとに事前に取得され、摩擦係数DB170に格納される。なお、製品及び加工部位に応じた摩擦係数の正常範囲は、例えば実績データ、実験結果及び/又はシミュレーション結果等に基づいて、製品に不良が発生しないような摩擦係数の範囲として適宜設定されてよい。
接触状態異常検出部162は、上述した加工制御部から、現在加工中の(すなわち、支持機構120によって摩擦力及び加工反力が測定された)製品及び加工部位についての情報を得ることができる。接触状態異常検出部162は、当該情報に基づいて、摩擦係数DB170から、対応する製品及び加工部位についての摩擦係数の正常範囲についての情報を取得する。そして、接触状態異常検出部162は、摩擦係数算出部161によって算出された摩擦係数と、取得した摩擦係数の正常範囲の下限値及び上限値と、を比較する。
算出された摩擦係数が正常範囲から外れている場合には、接触状態異常検出部162は、支持機構120と金属材1との接触状態に異常が発生していると判定する(すなわち、接触状態の異常を検出する)。また、算出された摩擦係数が正常範囲内である場合には、接触状態異常検出部162は、支持機構120と金属材1との接触状態は正常であると判定する。
接触状態異常検出部162は、判定の結果、支持機構120と金属材1との接触状態の異常を検出した場合には、その旨の情報を、例えば金属加工装置10に設けられている警報装置や、上述した加工制御部等に提供する。当該情報に従って、例えば警報装置において警報が発せられたり、加工制御部によって加工が中止されたりする。
なお、支持機構120における加工反力及び摩擦力の測定は、曲げ加工中に所定のタイミングで随時実行されてよく、摩擦係数算出部161及び接触状態異常検出部162は、その測定タイミングに応じて、摩擦係数の算出処理及び接触状態の異常の検出処理を随時行ってよい。つまり、本実施形態では、曲げ加工中に随時、接触状態の異常が検出され得る。
以上、図6を参照して、図1に示す制御装置160の機能構成について説明した。以上説明したように、本実施形態によれば、支持機構120によって測定された摩擦力及び加工反力に基づいて、当該支持機構120と金属材1との間の摩擦係数が算出され、算出された摩擦係数に基づいて、支持機構120と金属材1との接触状態の異常が検出される。そして、接触状態の異常が検出された場合には、加工の中止や警報がなされる。また、この接触状態の異常の検出は、加工中に随時実行され得る。従って、支持機構120と金属材1との接触状態の異常に起因する不良品の作り込みを防止することができ、歩留まりを向上させることができる。
なお、接触状態異常検出部162は、接触状態の異常の判定に用いるしきい値を適宜設定することにより、接触状態の異常が実際に発生する前に、その危険性を検出してもよい。例えば、当該しきい値としては、摩擦係数の正常範囲内ではあるが、当該正常範囲の下限値及び上限値に近い値が設定される。これにより、接触状態の異常が発生しそうになった段階で、警報が発せられたり、加工が中止されたりといった所定のアクションが実行され得るため、接触状態の異常の発生を未然に防止することが可能になる。
(4.金属材の製造方法)
図7を参照して、本実施形態に係る金属部材の製造方法について説明する。図7は、本実施形態に係る金属部材の製造方法の処理手順の一例を示すフロー図である。なお、図7に示す処理手順は、以上説明した金属加工装置10において実行される金属部材の製造方法に対応している。
図7を参照すると、本実施形態に係る金属部材の製造方法では、まず、金属材1に対する曲げ加工中に、支持機構120において摩擦力及び加工反力が測定される(ステップS101)。なお、当該曲げ加工としては、一般的な既存の3DQに係る加工と同様の加工が行われるため、当該曲げ加工を行うための具体的な処理手順についての説明は省略する。
次に、測定された摩擦力及び加工反力に基づいて、支持機構120と金属材1との間の摩擦係数が算出される(ステップS103)。具体的には、ステップS103では、測定摩擦力を測定加工反力で除すことにより摩擦係数が求められる。なお、ステップS103に示す処理は、図6に示す摩擦係数算出部161によって実行される処理に対応している。
次に、算出された摩擦係数が正常範囲内かどうかが判定される(ステップS105)。ステップS105では、算出された摩擦係数が、図6に示す摩擦係数DB170に格納されている、製品及び加工部位と、支持機構120と金属材1との間の摩擦係数の正常範囲と、の関係と照らし合わされ、算出された摩擦係数が当該正常範囲に含まれるかどうかが判定される。なお、ステップS105に示す処理は、図6に示す接触状態異常検出部162によって実行される処理に対応している。
ステップS105で摩擦係数が正常な範囲内であると判定された場合には、支持機構120と金属材1との接触状態は正常であり、当該接触状態の異常に起因する不良は生じないと考えられる。従って、この場合には、ステップS101に戻り、次の測定タイミングで、支持機構120によって摩擦力及び加工反力が測定されるまで待機する。
一方、ステップS105で摩擦係数が正常な範囲を外れていると判定された場合には、支持機構120と金属材1との接触状態に異常が生じており、そのまま加工を継続した場合には不良が生じる危険性が高いと考えられる。従って、この場合には、ステップS107に進み、加工中止又は警報等の、曲げ不良の発生を抑制するための所定のアクションが実行される。
以上、図7を参照して、本実施形態に係る金属部材の製造方法について説明した。
本発明に係る方法によって支持機構と金属材との接触状態の異常を検出可能であることを確認するために、実際に金属材に対する曲げ加工を行い、その際の摩擦力及び加工反力を本発明に係る支持機構を用いて測定し、これらの測定値に基づいて当該支持機構と金属材との間の摩擦係数を算出した。具体的には、金属加工装置としては、図1に示す金属加工装置10と同様の構成を有する、3DQに対応した金属加工装置を用いた。また、支持機構としては、図2及び図3に示す支持機構120と同様の構成を有するものを用いた。
加工条件の詳細は以下の通りである。ここで、図8は、実施例における加工条件での曲げ方向について説明するための図である。図8では、実験に用いた金属材1の一断面の斜視図を示している。
(加工条件)
金属材:機械構造用炭素鋼管
金属材の形状:断面矩形(長辺の長さ46mm、短辺の長さ40mm)、長さ約1000mm、肉厚1.6mm
曲げ方向:一断面において当該断面の中心から一方の長辺に向かう方向(図8に示す矢印方向)
当該実験では、支持機構の状態として、(1)支持機構と金属材との接触状態が正常なもの、(2)キリコ等の発生により支持機構と金属材との接触状態が異常になったことを想定して、支持機構の金属材と当接する表面をあえて粗くしたもの、及び(3)支持機構と金属材とが接触しないことにより両者の接触状態が異常になったことを想定して、両者の隙間をあえて広げたもの、をそれぞれ用意し、これら条件(1)〜(3)の場合について、それぞれ、金属材の加工中における摩擦力及び加工反力の測定、並びに摩擦係数の算出を行った。なお、条件(1)では、実績データに基づいて、実際に不良品が発生していない場合における支持機構と金属材との接触状態(すなわち、支持機構の表面状態、及び支持機構と金属材との間の隙間等)を再現した。条件(2)及び条件(3)は、接触状態が異常である場合を模擬したものである。条件(2)の場合には、摩擦係数が正常範囲よりも大きくなることが想定される。また、条件(3)の場合には、摩擦係数が正常範囲よりも小さくなることが想定される。
具体的には、条件(1)〜(3)では、支持機構の支持部材のガイドシューの、金属材と当接する表面を、下記表2に示すものとした。具体的には、条件(1)、(3)では、図2及び図3に示す本実施形態に係るガイドシュー124の構成から当該当接面は変更していない。一方、条件(2)では、キリコ等の発生によりガイドシューと金属材との接触状態が異常になったことを想定して、図2及び図3に示す本実施形態に係るガイドシュー124の構成に対して、その金属材と当接する面に、市販の滑り止めテープを貼り付けた。また、条件(3)では、ガイドシュー124の金属材と当接する表面自体は本実施形態に係るものから変更していないものの、ガイドシューと金属材とが接触していないことにより両者の接触状態が異常になったことを想定して、ガイドシューと金属材との距離を条件(1)、(2)よりも大きくした。
支持部材に設けられる測定機構によって摩擦係数を測定した結果を図9及び下記表3に示す。図9は、摩擦係数の測定結果を示すグラフ図である。図9では、横軸に加工中における時間、縦軸に摩擦係数の測定値を取り、両者の関係をプロットしている。また、表3は、図9に示す結果を具体的に数値としてまとめたものである。
図9及び表3に示すように、接触状態が異常である場合を模擬した条件(2)の場合には、接触状態が正常である場合を模擬した条件(1)に比べて、想定通り、より大きい摩擦係数が算出された。また、同じく接触状態が異常である場合を模擬した条件(3)の場合には、接触状態が正常である場合を模擬した条件(1)に比べて、想定通り、より小さい摩擦係数が算出された。当該結果は、本発明に係る方法を用いることにより支持機構と金属材との間の摩擦係数を確かに検出可能であること、及び本発明に係る方法によって得られた摩擦係数が実際の支持機構と金属材との接触状態を適切に表し得ることを示している。
ここで、図10は、条件(1)において実際に曲げ加工を行った後の、金属材の表面を撮影した写真である。また、図11は、条件(2)において実際に曲げ加工を行った後の、金属材の表面を撮影した写真である。なお、図10及び図11では、金属材の表面のうち、曲げ加工時にガイドシューと接触していた領域を撮影したものを示している。更に、図12は、条件(2)において実際に曲げ加工を行った後の、ガイドシュー上の滑り止めテープの表面を撮影した写真である。図12でも、同様に、滑り止めテープの表面のうち、曲げ加工時に金属材と接触していた領域を撮影したものを示している。図10を参照すると、条件(1)では曲げ加工後の金属材の表面にほぼ疵が生じていないのに対して、図11を参照すると、条件(2)では曲げ加工後の金属材の表面に疵が生じていることが分かる。また、図12を参照すると、条件(2)では曲げ加工後の滑り止めテープの金属材と接触していた部位(突出しているガイドシュー上に位置する部位)の表面が金属材との接触により摩耗していることが分かる。これらの結果と、図9及び表3に示す結果は、条件(2)において、ガイドシューと金属材との接触状態の異常が的確に再現され得ていること、及び本発明に係る方法を用いることによりその接触状態の異常が摩擦係数の測定値として検出され得たことを示している。
このように、本実施例により、本発明に係る方法によって、実際の接触状態が反映された摩擦係数を検出可能であることが確認できた。従って、本発明に係る方法によって算出された摩擦係数を用いて接触状態の異常を判断することにより、当該接触状態の異常をより正確に検出することが可能となる。また、図11に示されるように、ガイドシューと金属材との接触状態に異常が発生した場合には、金属材に疵が生じ得る。つまり、本実施例における結果は、本発明に係る方法によって、金属材における疵の発生の有無を、摩擦係数の違いから検出することが可能となることも示している。
ここで、接触状態に異常が発生しているにもかかわらず加工を続行すれば、図11に示すように金属材に疵が発生し、製品品質を劣化させる可能性がある。これに対して、本実施例のように、本発明に係る方法を適用し、加工中に接触状態の異常をより正確に検出することができれば、加工を中断してガイドシューの交換や補修等を適宜行い、接触状態を良好に保つことにより、不良品の発生を抑制することができ、歩留まりを向上させることが可能になる。このように、本発明によれば、接触状態の異常をより正確に検出することができるため、金属材における疵の発生を未然に防止し、歩留まりを向上させる効果が期待できる。
なお、図9及び表3に示す結果から、今回の実験での加工における上記表1に示したような摩擦係数の正常範囲を規定すれば、例えば、当該正常範囲は、摩擦係数が0よりも大きく、かつ0.3未満の範囲と規定することができる。つまり、当該実験と同様の加工条件によって曲げ加工が行われる製品に対して、本実施形態に係る技術を適用しようとした場合には、図6に示す制御装置160の接触状態異常検出部162は、測定された摩擦係数が0よりも大きく、かつ0.3未満であれば、接触状態は正常であると判定し、測定された摩擦係数が0又は0.3以上であれば、接触状態は異常であると判定すればよい。
(5.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態では、金属加工装置10が3DQに対応する加工装置である場合について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明は、長尺の金属材をその長手方向に送りながら当該金属材に対して曲げ加工を施す加工装置であれば、他の加工装置に対しても適用され得る。