この発明の実施の形態を、以下に説明する。
図1及び図2には、本実施の形態の作業車両として苗移植機を示す。即ち、対地作業装置として苗植付装置3を設けた6条植の乗用型田植機の左側面図と平面図を示す。尚、本明細書では田植機1の前進方向に向かって左右をそれぞれ左、右と規定し、前後をそれぞれ前、後と規定する。また、対地作業装置としては、播種装置、耕耘装置、刈草装置など種々のものがある。
この田植機1は、走行しながら圃場に苗を植え付けるものである。 図1及び図2に示すように、田植機1は、走行車体2と、走行車体2の後部(後方側)に装着された苗植付装置3と、動力伝達機構4と、整地装置5と、制御装置(コントローラ)100(図5)を備えている。
走行車体2は、左右一対の前輪12a,12aおよび左右一対の後輪(走行輪)12b,12bからなる4つの車輪12を有し、該4つの車輪12を駆動輪とする4輪駆動車となっている。走行車体2は、メインフレーム10と、メインフレーム10に搭載されたエンジン11などを有している。この田植機1において、エンジン11の駆動力は、走行車体2を前進または後退させるために使用されるだけでなく、苗植付装置3を駆動させるためにも使用される。
フロアステップ20は、走行車体2の前部(前方側)とエンジン11の後部(後方側)との間に渡って設けられており、メインフレーム10上に取り付けられている。フロアステップ20は、その一部が格子状となっており、靴に付いた泥を圃場に落とせるようにしている。また、フロアステップ20の後方には、後輪12b,12bのフェンダを兼ねたリアステップ21が設けられている。このリアステップ21は、後方に向うに従って上方に向う方向に傾斜した傾斜面を有しており、エンジン11の左右それぞれの側方に配置されている。
ベルト式動力伝達機構16は、エンジン11の出力軸に取り付けたプーリ51と、油圧式無段変速機15の入力軸に取り付けたプーリ52と、双方のプーリ51,52に巻き掛けたベルト53とを備えている。これにより、ベルト式動力伝達機構16は、エンジン11で発生した駆動力を、ベルト53を介して油圧式無段変速機15に伝達する。
また、走行車体2には、エンジンカバー14の上部に操縦席22が設置されており、操縦席22の前方で、且つ、走行車体2の前部には、フロントカバー23が配設されている。このフロントカバー23は、フロアステップ20の床面から上方に突出した状態で配置されており、フロアステップ20の前方側を左右に分断している。
このフロントカバー23の内部には、制御装置100、操作パネル等の操作装置、ステアリング機構およびエンジン用燃料の燃料タンク等が配設されている。また、フロントカバー23の上部には、各種操作レバー等や計器類、ハンドル24が配設されている。このハンドル24は、作業者が回転操作することにより、前輪12a,12aをステアリング操舵する操舵部材として設けられており、フロントカバー23内のステアリング機構等を介して前輪12a,12aをステアリング操舵(転舵)させることが可能になっている。
また、フロントカバー23の上部に設けられた各種操作レバーとしては、走行車体2の前後進、停止及び移動速度を切り替える走行操作レバー(図示せず)が配設されている。また、フロントカバー23の上部に設けられた各種操作レバーとしては、走行車体2が路上を走行する「路上走行モード」と、走行車体2が走行しながら圃場に苗を植え付ける「作業走行モード」等とを切替える副変速操作レバー(図示せず)が配設されている。
また、フロアステップ20におけるフロントカバー23の左右それぞれの側方に位置する部分には、補給用の苗を載せておく予備苗載台25が配置されている。この予備苗載台25は、フロアステップ20の床面から突出した支持軸(鉛直軸)149によって回転自在に支持されている。予備苗載台25は上下三段に構成され、最上段の予備苗載台25a、中段の予備苗載台25b及び最下段の予備苗載台25cからなり、作業者の手によって回動させることが可能になっている。
即ち、リンク機構139によって、複数(図示例では3段)の予備苗載台25a〜25cが上下多段となって平面視で重複した重複状態(図1、図2)と、複数の予備苗載台25a〜25cが前後向きに略一直線状になって展開した展開状態とに切り替え可能な構成である。図3及び4には、予備苗載台25の側面図を示す。図3は重複状態を示し、図4は展開状態を示している。
具体的には、重複状態から最上段の予備苗載台25aの前端を前方に引くか、最下段の予備苗載台25cの後端を後方に引くことで、最上段の予備苗載台25aが前方に、最下段の予備苗載台25cが後方に、支点Sを中心に回動して中段の予備苗載台25bの高さ位置に揃えることができる。また、リンク機構139の切り替えは、電動モータ141で駆動する切替駆動装置(ギア機構など)140によって行うこともできる。
従って、予備苗載台25には用水路をまたいでの苗補給も楽な姿勢で余裕をもって行える。そして、苗箱を予備苗載台25上に搭載したままでも重複状態と展開状態とに切り替えができ、作業中の妨げにもならない。
また、走行車体2の操縦席22の後方に施肥装置26(図1)が設けられている。施肥装置26は、肥料ホッパ27に貯留されている粒状の肥料を繰出部81によって一定量ずつ繰り出し、その肥料を施肥ホース82でセンターフロート138a及びサイドフロート138bの左右両側に取り付けた施肥ガイド(図示せず)まで導き、施肥ガイドの前側に設けた作溝体84によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥構内に落とし込む構成となっている。ブロア用電動モータ54で駆動するブロア58で発生させたエアが、左右方向に長いエアチャンバー59を経由して施肥ホース82に吹き込まれ、施肥ホース82内の肥料を風圧で強制的に搬送する構成となっている。
エンジン11の動力は施肥クラッチ(図示せず)を介して繰出部81に伝達されており、施肥クラッチにより繰出部81の作動及び停止を行う。これにより、後述する苗の植え付けに伴って、肥料ホッパ27から肥料が所定量ずつ繰出部81によって繰り出され、ブロア58の送風により肥料が施肥ホース82を通って作溝体84に供給されるのであり、作溝体84を介して肥料が田面に供給される。作業者が施肥スイッチ(スイッチセンサ)75(図5)を押す(入り)ことで、施肥クラッチを入りにしてブロア用電動モータ54を作動させる。
整地装置5は、フロート138と同様に、図1に示すように、走行車体2の左右方向の中央に設けられたセンターロータ150と、センターロータ150の左右両側でセンターロータ150よりも後方に設けられた一対のサイドロータ151と、センターロータ150の左右両端と一対のサイドロータ151とを連結する一対の連結伝動機構152とを備える。
苗植付装置3は、走行車体2の後部に装着され、かつ苗を圃場に植え付ける苗植付部13と、苗植付部13を走行車体2に対して昇降させる昇降リンク装置28とを備えている。苗植付部13は、昇降リンク装置28を介して走行車体2に取り付けられている。昇降リンク装置28は、走行車体2の後部と苗植付部13とを連結させる上リンク28aと下リンク28bとからなるリンク機構を有しており、これらのリンク28a、28bが、メインフレーム10の後部端に立設した背面視門型のリンクベースフレーム129に回動自在に連結され、各リンクの他端側が苗植付部13に回転自在に連結されることにより、苗植付部13が昇降可能に走行車体2に連結している。
図5には、図1の乗用型田植機の制御装置のブロック図を示す。
上リンク28aには昇降リンクセンサ(作業高さ検出部材)148(一例として、ポテンショメータ)が設けられている。昇降リンクセンサ148は、走行車体2(具体的にはメインフレーム10)に対する上リンク28aの傾斜角度を検出するセンサであり、上リンク28aの上下回動範囲に亘って上リンク28aの傾斜角度を検出する。そして、この昇降リンクセンサ148によって、作業高さ(圃場の深さ)を測定する。
なお、昇降リンクセンサ148は下リンク28bに設けても良い。昇降リンクセンサ148は上リンク28a又は下リンク28bのいずれか一方に設ければ良く、どちらに設けても昇降リンク装置28のリンク傾斜角度を検出するものである。
また、苗植付部13の昇降機構は、エンジン11の駆動力により発生する油圧によって伸縮する昇降シリンダ46を有しており、昇降シリンダ46の伸縮動作によって、昇降リンク装置28が苗植付部13を昇降させることが可能になっている。即ち、苗植付部13を非作業位置まで上昇させたり、対地作業位置(苗の植付位置)まで下降させたりすることが可能になっている。
苗植付部13は、苗の植付範囲を複数の区画あるいは複数の列で、苗を圃場に植え付けることができる。実施形態に係る田植機1は、苗を6つの区画で植え付ける、いわゆる6条植のものである。苗植付部13は、苗植付機構18と、苗載せ台17と、フロート138等を備えている。
苗載せ台17は、走行車体2の左右方向において仕切られた植付条数分の苗載せ面17aを有しており、それぞれの苗載せ面17aに土付きのマット状苗を積載することが可能になっている。これにより、苗載せ台17に積載した苗が植え付けられて無くなるたびに、圃場外に用意している苗を取りに戻る必要が無く、連続した作業を行えるので、作業能率が向上する。
苗植付機構18は、苗載せ台17の下方に配置されかつ苗載せ台17に積載された苗を圃場に植え付ける。この苗植付機構18は、2条毎に一つずつ配設されており、2条分の複数の苗植付具127を備えている。本実施形態では、苗植付機構18は、合計三つ設けられ、各苗植付機構18は、1条につき苗植付具127を二つ備えている。フロート138を接地させた状態で走行車体2を進行させると、苗載せ台17が左右に往復移動して台上のマット苗を苗載せ台17下端側に設けた苗受け枠120の苗取り口125に一株ずつ順次供給し、それを苗植付機構18が分離して取り出し圃場に植付ける。
外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース145から植付伝動軸146によって伝動ケース170(図18)から植付伝動ケース121へ伝動される。
植付クラッチケース145内の植付クラッチ(図示せず)が入り状態(単に入りと言う場合もある)になることで、全植付条の苗植付機構18が作動すると共に、苗載せ台17も左右移動を開始し、苗載せ台17の左右移動端では全植付条の苗送りベルト17bが作動する。伝動機構としては、植付クラッチから植付伝動軸146によって苗植付部13へ伝動され、苗植付部13内において各部分条クラッチ64(図18)を介して各々対応する苗植付機構18へ伝動され、苗植付部13内において各苗送りクラッチ(図示せず)を介して各々対応する苗送りベルト17bへ伝動される。各部分条クラッチ64は、各畦クラッチ操作レバー142により入り切り操作される。
植付伝動ケース121には中央部を中心に植付伝動ケース121に回転自在に設けられたロータリーケース31を備えている。ロータリーケース31は、各条に対応した二つの苗植付具127を両端部それぞれに回転自在に支持している。ロータリーケース31は、エンジン11からの駆動力により中央部を中心として回転されるとともに、エンジン11からの駆動力により二つの苗植付具127を回転させる。
苗植付機構18は、ロータリーケース31が中央部を中心として回転されながら、苗植付具127がロータリーケース31の両端部で回転されるとともに、苗取り爪36(図15)が突没されることで、苗植付具127が苗載せ台17に積載された苗を圃場に植え付ける。具体的には後述する。
また、フロート138は、走行車体2の移動と共に、圃場上を滑走して整地するものである。フロート138は、走行車体2の左右方向における苗植付部13の中央に設けられた一つのセンターフロート138aと、該センターフロート138aの左右両側にそれぞれ設けられたサイドフロート138b,138bとの3枚で構成されている。
また、各フロート138a,138bは、圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられている。苗植付装置3は、センターフロート138aの回動軸に圃場の凹凸を通過する際の回動量を検出するフロートセンサ(フロート回動検出部材,ポテンショメータなどで良い。仰角センサとも言う)143(図5)を設けている。
苗植付装置3は、植付作業時にはセンターフロート138aの前部の上下動がフロートセンサ143により検出され、その検出角度が(±両方向での)所定角度以上であれば、制御装置100により昇降シリンダ46を制御する電磁油圧バルブ(昇降油圧バルブ)161(図5)を切り替えて昇降シリンダ46を伸縮させ、苗植付部13を昇降させる(このことを自動昇降と言う場合がある)ことにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。具体的には、フロートセンサ143により検出されるセンターフロート138aの回動量から、苗植付部13の作業高さの変更時に作動させる昇降シリンダ46の作動量を算出し、該算出作動量に対応するように昇降シリンダ46を作動させる。
そして、本実施形態の田植機1は、昇降シリンダ46のストローク量を検出するストロークセンサ(作動量検出部材)50を昇降シリンダ46に沿って取り付け、シリンダそのものの作動量を検出し、フロートセンサ143の出力に対する油圧制御の応答性を把握し、制御の精度を高める構成である。図6には、図1の昇降シリンダ46付近の詳細図を示す。尚、図6(A)には、シリンダ収縮時の場合を示し、図6(B)には、シリンダ伸張時の場合を示している。
ストロークセンサ50内部の伸縮ワイヤ55がシリンダのピストン46aに繋がっており、ピストン46aの動きに沿って伸縮する。ストロークセンサ50は送電ハーネス56により制御装置100に繋がっており、検出信号が制御装置100に入力される。
上述のように、フロートセンサ143からの検出結果によって算出される理論値になるように昇降シリンダ46の伸縮量が制御されるが、見た目では殆ど差がなくても(例えばミリ単位など)算出理論値と実際の伸縮量とは異なる場合がある。そこで、ストロークセンサ50によって検出される実際の伸縮作動量(実測値)と算出理論値が異なる場合は、実測値が理論値と一致するように、制御装置100によって昇降シリンダ46の作動量が制御される(作動量調整機能)。
図7には、この時のフローを示す。
センターフロート138aの前部の上下動がフロートセンサ143により検出されると、昇降シリンダ46の伸縮量が算出され、昇降シリンダ46が作動する。この時、センターフロート138aの回動方向が下方(圃場の深さが深くなる)の場合は、昇降シリンダ46が伸張して苗植付部13を下降させる一方、センターフロート138aの回動方向が上方(圃場の深さが浅くなる)の場合は、昇降シリンダ46が収縮して苗植付部13を上昇させる。昇降シリンダ46の作動量はストロークセンサ50により検出され、ストロークセンサ50により検出される実測値が理論値と一致するまで昇降シリンダ46が作動する。
即ち、実測値が理論値よりも小さい場合(作動量不足)は、センターフロート138aを更に同一方向(伸張させている場合は伸長方向に、収縮させている場合は収縮方向)に作動させる一方、実測値が理論値よりも大きい場合(作動量過剰)は、センターフロート138aを逆方向(伸張させている場合は収縮方向に、収縮させている場合は伸長方向)に作動させる。
尚、図7では、「油圧バルブ」の停止と作動を繰り返す例を示しているが、この制御では、「油圧バルブ」が、上記実測値が理論値と一致するまで作動し続ける場合も含まれる。また、「油圧バルブ停止」、「ストロークセンサ検出」の順は特に問わず、ストロークセンサ50は、昇降シリンダ46の作動を常時検出しており、昇降シリンダ46の作動とほぼ同時に行われるものである。このことは、他のフローにも共通する。
本構成により、センターフロート138aの回動量から算出される昇降シリンダ46の作動量に対して昇降シリンダ46の実際の作動量に過不足があれば昇降シリンダ46が伸縮することにより、圃場の深さに対する苗植付部13の作業高さを適切な位置に合わせることができるので、作業精度が向上する。
また、昇降シリンダ46の伸縮に伴って昇降リンク装置28が作動することで苗植付部13が昇降するが、昇降シリンダ46の伸縮に対して、苗植付部13の作業高さの変化が遅れる場合がある。
そこで、昇降リンクセンサ148により検出される所定時間のリンク傾斜角度の変化量から算出される実際の昇降リンク装置28の昇降量(実測値)が、ストロークセンサ50により検出される昇降シリンダ46の所定時間の作動量に対応する昇降リンク装置28の昇降量(理論値、ストロークセンサ50により検出される昇降シリンダ46の所定時間の作動量から算出される)よりも小さい、即ち動作の反応が遅れている場合は、制御装置100によって昇降シリンダ46を速く作動させる(作動速度調整機能)。
この機能によって、油圧制御の応答性を把握し、応答性が良くない場合でも制御の精度を高めることが出来る。
図8には、作動速度調整機能のフローを示す。尚、この作動速度調整機能による制御は、前記作動量調整機能(図7)とは並列しているが、図7の対地作業装置上昇又は下降の部分に関係する。
昇降リンクセンサ148により検出される所定時間のリンク傾斜角度の変化量から実際の昇降リンク装置28の昇降量を算出し、ストロークセンサ50により検出される昇降シリンダ46の所定時間の作動量に対応する昇降リンク装置28の昇降量(理論値)と実際の昇降リンク装置28の昇降量(実測値)を比較し、実際の昇降リンク装置28の昇降量が小さい(昇降の遅延)場合は、昇降シリンダ46の作動速度を速める。具体的には以下のようになる。
センターフロート138aの回動方向が下方の場合は、昇降シリンダ46が伸張して苗植付部13を下降させる。昇降リンクセンサ148により検出される所定時間(例えば、0.5秒)のリンク傾斜角度の変化量から実際の昇降リンク装置28の下降量を算出し、ストロークセンサ50により検出される昇降シリンダ46の所定時間(0.5秒)の作動量に対応する昇降リンク装置28の下降量(理論下降量)と実際の昇降リンク装置28の下降量(実測下降量)を比較し、実際の昇降リンク装置28(苗植付部13)の下降量が小さい(下降の遅延)場合は、昇降シリンダ46の伸張作動を高速化する。この高速化の基準は、制御装置100に記録した、フロートセンサ143の回動量に対する昇降シリンダ46の伸縮量、及び昇降シリンダ46の伸縮が開始されてから終了するまでの理論上の時間とし、この制御速度で昇降シリンダ46の伸縮作動が制御されている。従って、昇降シリンダ46の伸縮速度を、理論上の時間に基づく伸縮制御速度よりも速くする。以下、同様とする。
尚、実際の昇降リンク装置28の下降量が小さくない場合は、適切であると判断し、昇降シリンダ46の作動速度は変化させない。
一方、センターフロート138aの回動方向が上方の場合は、昇降シリンダ46が収縮して苗植付部13を上昇させる。昇降リンクセンサ148により検出される所定時間(例えば、0.5秒)のリンク傾斜角度の変化量から実際の昇降リンク装置28の上昇量を算出し、ストロークセンサ50により検出される昇降シリンダ46の所定時間(0.5秒)の作動量に対応する昇降リンク装置28の上昇量(理論上昇量)と実際の昇降リンク装置28の上昇量(実測上昇量)を比較し、実際の昇降リンク装置28(苗植付部13)の上昇量が小さい(上昇の遅延)場合は、昇降シリンダ46の収縮作動を高速化する。
尚、実際の昇降リンク装置28の上昇量が小さくない場合は、適切であると判断し、昇降シリンダ46の作動速度は変化させない。
実際の昇降リンク装置28の昇降量が理論値よりも大きい、即ち苗植付部13の昇降が速いことに関しては問題ない。昇降シリンダ46の伸縮動作によって、機械的機構により昇降リンク装置28が作動するため、機械的なロスが問題となる。即ち、本構成は、苗植付部13の昇降遅れを是正するものである。
本構成により、昇降シリンダ46の伸縮に対して、苗植付部13の作業高さの変化が遅れているときは昇降シリンダ46の作動を速くすることにより、苗植付部13の下降時には、苗植付部13が地面に近付くまでに作業を開始することを防止でき、不要な作業が行われることが防止される。
また、苗植付部13による作業を中断する際に苗植付部13を上昇させるが、その時苗植付部13が地面から素早く離れることにより、苗の植え付けを行わない箇所で植付作業をすることを防止できるので、作業位置が重複することが防止される。
また、昇降リンク装置28には、昇降時の反動を空気圧により軽減するアキュムレータ78(調圧装置)と、アキュムレータ78の空気圧を調節するエアコンプレッサ79(空気圧調節装置)を設けており、昇降時の上リンク28aや下リンク28bの反動を、アキュムレータ78によって吸収することで、振動を抑え、上リンク28aや下リンク28bがバウンドせずにスムーズに停止させる構成である。尚、アキュムレータ78は、昇降油圧バルブ161と昇降シリンダ46との間の油圧回路(図示せず)に接続されている。
昇降リンクセンサ148からは、昇降リンク装置28の上方向(リンク傾斜角度が大きくなる)又は下方向(リンク傾斜角度が小さくなる)への移動量が検出される。
昇降リンクセンサ148により検出される実際の昇降リンク装置28の作動量が変化して、その上下動回数が一定時間内に所定値以上である場合、即ちリンク傾斜角度が増減して苗植付部13の作業高さが細かく変動する場合は、制御装置100によりエアコンプレッサ79を排出作動させてアキュムレータ78の空気圧を低下させる。
アキュムレータ78の空気圧が高いと、昇降リンク装置28の昇降停止時に、その反動で上リンク28aや下リンク28bが上下に揺動し、苗植付部13が細かく上下動するからである。
一方、昇降リンクセンサ148により検出される実際の昇降リンク装置28の上下動回数が一定時間内に所定値未満であり、上述のように、昇降シリンダ46の伸縮に対して、苗植付部13の作業高さの変化が遅れている場合は、エアコンプレッサ79を圧縮作動させてアキュムレータ78の空気圧を増加させる(空気圧調整機能)。
上記作動速度調整機能では苗植付部13の作業高さの変化が遅れている場合に昇降油圧バルブ161からの送油量を増加させることで対応しているが、本構成ではアキュムレータ78の加圧により一時的に早めて苗植付部13の作業高さの上昇又は下降の遅れを解消できる。即ち、昇降リンク装置28に空気のバネがあるようなもので、空気のバネの付勢力により、昇降の開始を遅らせないようにする、というものである。
図9には、このときのフローを示す。
センターフロート138aの回動方向が下方の場合は、昇降シリンダ46が伸張して苗植付部13を下降させる。昇降リンクセンサ148により検出される、実際の昇降リンク装置28の上下動回数が一定時間(例えば、1〜3秒)内に所定値(例えば、上動と下動を1セット(1回)として10〜20回)以上である場合、エアコンプレッサ79を作動させてアキュムレータ78の空気圧を低下させる。尚、この制御は極短時間の振幅を検知するもので、外観上は分からないレベルである。
昇降リンクセンサ148からは、リンク傾斜角度の所定角度以上の上方又は下方への変化量がある場合に検出される。そして、昇降リンク装置28の上下動回数が一定時間内に所定値以上検出されることは、大抵昇降シリンダ46の伸張又は収縮が停止する際に起こり、このとき昇降リンクセンサ148が僅かな昇降リンク装置28の回動を検出する。
昇降リンクセンサ148により検出される実際の昇降リンク装置28の上下動回数が一定時間内に所定値未満である場合は、ストロークセンサ50により検出される昇降シリンダ46の所定時間(例えば、0.5秒)の作動量に対応する昇降リンク装置28の下降量(理論下降量)と実際の昇降リンク装置28の下降量(実測下降量、昇降リンクセンサ148により検出される所定時間(0.5秒)のリンク傾斜角度の変化量から算出される)を比較し、実際の昇降リンク装置28の下降量が小さい(下降の遅延)場合は、エアコンプレッサ79を作動させてアキュムレータ78の空気圧を増加させる。尚、この時に昇降シリンダ46の伸張作動を高速化しても良い。
一方、センターフロート138aの回動方向が上方の場合は、昇降シリンダ46が収縮して苗植付部13を上昇させる。昇降リンクセンサ148により検出される、実際の昇降リンク装置28の上下動回数が一定時間(例えば、1〜3秒)内に所定値(例えば、上動と下動を1セット(1回)として10〜20回)以上である場合、エアコンプレッサ79を作動させてアキュムレータ78の空気圧を低下させる。
昇降リンクセンサ148により検出される実際の昇降リンク装置28の上下動回数が一定時間内に所定値未満である場合は、ストロークセンサ50により検出される昇降シリンダ46の所定時間(0.5秒)の作動量に対応する昇降リンク装置28の上昇量(理論上昇量)と実際の昇降リンク装置28の上昇量(実測上昇量、昇降リンクセンサ148により検出される所定時間(0.5秒)のリンク傾斜角度の変化量から算出される)を比較し、実際の昇降リンク装置28の上昇量が小さい(上昇の遅延)場合は、エアコンプレッサ79を作動させてアキュムレータ78の空気圧を増加させる。尚、この時に昇降シリンダ46の収縮作動を高速化しても良い。
即ち、昇降リンク装置28の昇降量が理論値よりも小さい(遅い)場合は、上記作動速度調整機能により昇降シリンダ46の作動を速くすると共に、エアコンプレッサ79を圧縮作動させてアキュムレータ78の空気圧を増加させる構成としても良い。この場合は、昇降シリンダ46の作動の高速化に伴う昇降リンク装置28の昇降動作の反動をアキュムレータ78により吸収することができる。
本構成により、油圧制御の応答性を把握し、応答性が良くない場合に最適化を図ることが出来る。また、昇降リンク装置28に設けたアキュムレータ78の空気圧をエアコンプレッサ79で増減させることにより、空気圧を適正化して苗植付部13を昇降シリンダ46の作動量に対応する作業高さに素早く移動させることができるので、圃場の深さに対する苗植付部13の作業高さを適切な位置に合わせることができ、作業精度が向上する。
また、苗植付部13の昇降を停止させたとき、アキュムレータ78により昇降動作の反動を吸収することで昇降リンク装置28が上下方向に微細に揺動することを防止できるので、作業精度を向上させることができると共に、重心位置の変化が生じにくく、走行車体2の走行姿勢が安定する。
そして、圃場の凹凸が激しいと、フロートセンサ143によるセンターフロート138aの上下動の検出によって昇降シリンダ46が頻繁に作動し、苗植付部13が頻繁に上下動することになる。フロートセンサ143によって検出される、所定時間内の回動角度の変化が多い場合は、作業位置周辺での凹凸が多い、ということであるため、フロート138の回動に合わせて苗植付部13を昇降させると、苗植付部13が昇降している間に次の上昇または下降の信号が出力され、苗植付部13が頻繁に上下動する。フロート138の回動と苗植付部13の昇降にはタイムラグがあるため、あまり頻繁に昇降させていると、植付深さを調節するために苗植付部13を昇降させているはずが、浅いところで深く、深いところで浅く苗を植えてしまうこともある。
これを防止すべく、フロートセンサ143によって圃場の凹凸が頻繁に検知される場合は、フロート138の回動角度を検知するポテンショメータの信号発信の時間間隔を長くし、苗植付部13の昇降頻度を少なくする。
具体的には、フロートセンサ143は、その検出角度が(±両方向での)所定角度以上であれば、センターフロート138aの回動と見なし制御装置100に出力するが、短時間以内にフロートセンサ143がセンターフロート138aの上下動を所定回数以上検出したときは、フロートセンサ143から制御装置100への出力時間間隔を長くすると良い(出力時間遅延機能)。
図10には、このときのフローを示す。
比較的短い所定時間(例えば、0.5〜1秒)以内にフロートセンサ143がセンターフロート138aの上下動を所定回数(例えば、上動と下動を1セット(1回)として10〜20回)以上検出したときは、フロートセンサ143から制御装置100への出力時間間隔を、現在の出力時間よりも、例えば0.05秒間隔から0.1秒間隔に長くする。一方、センターフロート138aの上下動回数が所定回数未満である場合であって、フロートセンサ143から制御装置100への出力時間間隔が標準(例えば、0.05秒)よりも長い場合は、現在の出力時間よりも短くし、出力時間間隔を標準とする。尚、標準とは、製品を組み上げた段階、言い換えれば出荷時の初期設定状態である。
このように、短時間でのセンターフロート138aの上下動が激しい場合は、フロートセンサ143から制御装置100への出力ディレイタイムを長くすることで、頻繁にフロート138が回動する凹凸の多い圃場で作業する際、昇降リンク装置28が自動昇降する頻度を抑えることができるので、苗植付部13の作業高さの過度の変化による作業精度の低下が防止される。一方、センターフロート138aの上下動が激しくなく、且つフロートセンサ143から制御装置100への出力時間間隔が長い場合は、出力時間間隔を短くすることで、追従性を高め、圃場の凹凸に適した高さに、精度良く苗植付部13を作動させることができる。
また、ストロークセンサ50により検出される昇降シリンダ46の作動が、昇降リンク装置28の上リンク28a自体は動かない程度の微少な動き(例えば、1〜2mm)を繰り返す場合、フロートセンサ143から制御装置100への出力信号を一定時間無視し、昇降シリンダ46を作動させない構成としても良い(出力信号停止機能)。即ち、ストロークセンサ50により昇降シリンダ46の作動が検出されても、昇降リンクセンサ148による昇降リンク装置28の作動が検出されない程の伸縮作動量で、且つ所定時間内に所定回数以上繰り返される場合は、昇降シリンダ46を作動させず、余計な仕事をさせないようにする。
図11には、このときのフローを示す。
フロートセンサ143がセンターフロート138aの回動を検出し、ストロークセンサ50から昇降シリンダ46の作動が検出されても、昇降リンクセンサ148による昇降リンク装置28の作動が検出されず、且つストロークセンサ50からの所定時間(例えば、1〜3秒)内の伸縮作動が所定回数(例えば、伸張と短縮を1セットとして10回)以上検出される場合は、フロートセンサ143から制御装置100への出力信号の送信を一定時間(例えば、1〜3秒)停止する。
センターフロート138aの回動に対する昇降リンク装置28の昇降位置が僅かに合っていないことにより昇降シリンダ46が作動して昇降リンク装置28を昇降させようとしているものの、その変化量が細かすぎて昇降リンク装置28が殆ど動いていない場合、昇降リンクセンサ148からは昇降リンク装置28の作動が検出されない。このように、昇降シリンダ46が作動しても昇降リンク装置28が作動しない状態が続くと、フロートセンサ143の検出角度に基づく自動昇降を一定時間行わないことにより、昇降シリンダ46の不要な作動制御を行う必要がなくなり、機体全体の作動ロスが軽減される。
そして、この田植機1のエンジン11は、ディーゼルエンジンであり、ガバナ制御をモータで行う、電子ガバナ機構を採用している。エンジン出力は、アクセルレバー71(エンジン11に装着されており、作業者が直接手動操作するものではない)の位置に基づく燃料噴射量によって制御される。燃料噴射量は、アクセルレバー71の位置を検出するアクセルレバーセンサ71aからの入力信号によりエンジン電子ガバナ72に燃料噴射量の指示が出力される。走行操作レバーの操作を「レバーポテンショメータX1」で検出し、この検出値に合わせてアクセルレバー71を移動させる「アクセルレバー切替モータX2」を作動させ、電子ガバナ72による燃料噴射量を変更してエンジン回転数を変更する。
通常の作業では、走行操作レバーによりエンジン回転数を、例えば定格回転数である2500rpmまで上げる。この定格回転数は、田植機の植付走行時に走行しつつ、苗植付部の作動に十分な出力を確保するために必要な回転数であり、基本的に植付走行時はこの数値を最低限に保っている。
作業者がハンドル24を左右何れかに200度回転操作すると、(ハンドル24は左右に最大360度〜400度回転する)旋回走行が始まり、旋回開始タイミングはハンドル24の操向角度(切れ角)センサ73で検出される。切れ角センサ73からは、操向角度のみならず旋回方向も検出される。尚、切れ角センサ73は、ハンドル24のステアリング軸に設けたポテンショメータなどで良い。
そして、枕地での旋回時において、切れ角センサ73によって旋回走行の開始が検出されると、制御装置100によって燃料供給量を制御することで、エンジン回転数を2000rpmに下げ、安定した操作性を確保する。走行と植付作業の両方に掛かる駆動力としては2500rpm(標準的な作業時の回転数の例)程度必要になるが、旋回時は植付作業を行わないため、走行に必要なエンジン回転数を確保すれば足りる。
図12には、このときのフローを示す。
アクセルレバー71の移動がアクセルレバーセンサ71aにより検出されると、エンジン回転数が2500rpmまで上昇するが、切れ角センサ73によって旋回開始が検出されると、エンジン回転数が2000rpmに下降する。
アクセルレバー71によるメカ的機構では、エンジン回転数が一定に保持されるという画一的な制御しかできない。即ち、植付作業時はエンジン回転数が2500rpm以下に下がらないが、旋回時のように植付クラッチが切れている状態では無駄な回転数になっている。しかし、本構成により、旋回時にはエンジン回転数を下げることで、燃料を節約でき、省エネにも繋がる。
前述のように、施肥装置26は、肥料ホッパ27に貯留されている粒状の肥料を植付作業中に一定量ずつ圃場に放出する。施肥スイッチ75をONにすると、施肥クラッチの入切モータ77が入り作動すると共に、ブロア用電動モータ54も作動する。
田植機1の枕地での旋回が終了すると、作業者は施肥スイッチ75をONにして、苗の植付が始まる前に肥料を播く。この時、制御装置100によって燃料供給量を制御することで、再びエンジン回転数を2400〜2500rpm程度に上げ、苗植付部13の駆動に必要な供給電流を確保する。
図13には、このときのフローを示す。
アクセルレバー71の移動によりエンジン回転数が2500rpmまで上昇後、旋回を開始すると、エンジン回転数が2000rpmに下降するが、切れ角センサ73によって旋回終了が検出され、且つ施肥スイッチ75がONになるとエンジン回転数が再び2500rpmまで上昇する。
アクセルレバー71によるメカ的機構では、画一的な制御しかできない。しかし、本構成により、旋回終了時にはエンジン回転数を戻すことで、植付作業に必要なパワーを確保できる。
また、エンジン11には、冷却水の温度を検出する水温センサ80を設けている。水温センサ80からの検出値によって、エンジン11がオーバーヒートしていないかどうかが分かる。水温センサ80によって異常を感知した場合は制御装置100によって燃料供給量を制御することで、エンジン回転数を1200rpmに下げ、焼き付き等の不具合の発生を未然に回避させる。
図14には、このときのフローを示す。
アクセルレバー71の移動がアクセルレバーセンサ71aにより検出されると、エンジン回転数が2500rpmまで上昇するが、水温センサ80によって異常が検出されると、エンジン回転数がアイドリング回転数程度の1200rpmに下降する。
アクセルレバー71によるメカ的機構では、画一的な制御しかできない。しかし、本構成により、冷却水の温度が高温となる異常時にはエンジン回転数をアイドリング回転数程に下げることで、焼き付き等の不具合の発生を防止できる。
次に、田植機1の苗植付部13の苗植付機構18の構成について説明する。
図15に、本実施の形態の苗植付機構18の走行車体2の左側から視た一部断面側面図を示し、図16に、苗植付機構18の一部断面正面図を示す。
植付伝動ケース121の後端部に植付駆動軸30が回転自在に支承されており、この植付駆動軸30の左右突出部にロータリーケース31の中央部が一体回転する構成で固定して取り付けられている。
更にロータリーケース31の両端部に第1の軸受32及び第2の軸受33によって植付回動軸34を回転自在に支承し、これらの2つの植付回動軸34のそれぞれに、苗植付具127の植付具ケース35が固定して取り付けられている。植付具ケース35には、苗取り爪36と、先端部に苗押出爪37が固定された押出ロッド29が設けられている。
図16に示す通り、植付駆動軸30には角軸面が形成されており、ロータリーケース31のボス部38に植付駆動軸30と直交させて挿し込んで通したテーパ状のコッタピン39を上記角軸面に接触させて、ロータリーケース31を植付駆動軸30に固定している。
図17に、田植機1のロータリーケース31の内部構造を示す。
ロータリーケース31の内部には、植付駆動軸30の外周部に嵌合し植付伝動ケース121と一体で公転しない偏芯サンギア40が配置されており、偏芯サンギア40に噛合する2つの偏芯カウンタギア41と、各偏芯カウンタギア41に噛合する2つの偏芯プラネタリギア42とからなるギア機構が収納されている。
偏芯サンギア40は、第3の軸受43によってロータリーケース31に支持されている。偏芯カウンタギア41は、カウンタギア軸44に取り付けられ、ロータリーケース31に対応して遊転する構成となっている。又、偏芯プラネタリギア42は、植付回動軸34に一体回転する構成で取り付けられている。
植付駆動軸30が駆動回転すると、ロータリーケース31が一定方向に回転し、偏芯サンギア40の回りを偏芯プラネタリギア42が公転するとともに、1回公転する間に公転方向とは逆向きに偏芯プラネタリギア42が1回自転する。図15に示す左側面図では、ロータリーケース31が植付駆動軸30と共に左回りに回転し、偏芯プラネタリギア42が植付駆動軸30を中心として左回りに公転するとともに、右回りに自転する。
苗植付具127は、偏芯プラネタリギア42に固定されている植付回動軸34とともに回動するので、植付駆動軸30が駆動回転するのに伴って、苗植付具127の苗取り爪36の先端が苗植付具先端軌跡19を描く構成で移動する。偏芯プラネタリギア42が1回公転する間に、苗取り爪36の先端が苗植付具先端軌跡19上を一周する。この苗植付具先端軌跡19は、走行車体10が停止しているときの左側方から視た静軌跡である。
又、ロータリーケース31の内部には、植付回動軸34に一体回転する構成で取り付けた制動カム47と、制動カム47の外周面に接触する制動アーム48と、制動アーム48を制動カム47に押し付ける制動スプリング49とからなる位相ずれ防止機構が設けられている。制動アーム48は、カウンタギア軸44に回動自在に軸支されている。
制動カム47は、苗植付具127が、苗取り口125から苗を取る位置及び苗を圃場に植え付ける位置にある時に偏芯プラネタリギア42の回転を制動し、各ギア間のバックラッシュを吸収して、苗分離及び苗植え付けの動作が正確に行われる構成で作用する。
苗植付具127の苗押出爪37は、植付具ケース35に摺動自在に支持された押出ロッド29の先端部に苗取り爪36の裏面に近接させて取り付けられ、押出ロッド29の作動により苗取り爪36の先端側へ突出、及び苗取り爪36の根元側へ後退する構成になっている。植付具ケース35内に収容されている苗押出爪37の作動機構により、苗取り爪36の先端が苗植付具先端軌跡19の下部へ移動していく際に苗押出爪37が突出して、苗取り爪36に保持されている苗を圃場へ押し出す。
本実施の形態の田植機1の苗植付機構18は、以上の構成で、植付作業時には次の通りに作動する。
植付駆動軸30が駆動回転することにより、ロータリーケース31に取り付けられている一対の苗植付具127が、苗取り爪36の先端が苗植付具先端軌跡19を描く同一軌道上を互いに1/2周期の間隔を保ったまま一定姿勢で移動する。
苗植付具127の苗取り爪36が苗取り口125を通過する際、苗載せ台17の苗を一株分離して取り出す。このとき、苗押出爪37は後退した状態にある。苗植付具127が下動して苗取り爪36の先端が苗植付具先端軌跡19の下部まで移動すると、苗押出爪37が突出し、苗取り爪36が保持している苗の土部を下向きに押すことにより、苗を苗取り爪36から押し出して圃場に植え付ける。その後、苗植付具127が下動時よりも後方の軌道を通って上動するとともに、苗押出爪37が後退する。
図18には、図1の田植機の植付伝動ケース121部分の平面断面図(概略図)を示す。
伝動ケース170内には、各々の苗植付具127に動力の断接を行う部分条クラッチ64を設けている。部分条クラッチ64は、駆動爪64aと従動爪64bを備え、駆動爪64aと従動爪64bが噛み合うことにより伝動される。
苗植付具127を駆動する植付駆動軸30には、従動スプロケット180を設け、その従動スプロケット180と部分条クラッチ64の従動爪64bに一体で設けた駆動スプロケット179との間に、伝動チェーン60を巻き掛けている。駆動爪64aは、部分クラッチ用キー173により駆動軸171と一体回転し且つ駆動軸171方向に移動しない。従動爪64bは、圧縮スプリングである部分クラッチ用スプリング63により駆動爪64a側への押し付け力を受けており、クラッチピン175が入る操作カム面を外周面に備えている。
クラッチピン175が従動爪64bに臨む位置で出退するべく、従動爪64b側へ押し付ける圧縮スプリングであるクラッチピン用スプリング176と、該クラッチピン用スプリング176に抗して従動爪64bとは反対側へ引っ張る畦クラッチケーブル177を設けている。従って、畦クラッチ操作レバー142の操作により、畦クラッチケーブル177を引っ張るとクラッチピン175が従動爪64bから離れて、部分クラッチ用スプリング63の押し付けにより部分条クラッチ64が伝動状態となる。逆に、部分クラッチ操作ケーブル177を弛めるとクラッチピン175が従動爪64bの外周面に接触し、従動爪64bの回転に伴って従動爪64bが駆動爪64aから離れる側へ移動し、駆動爪64aと従動爪64bの噛み合いが外れる所定の位相で部分条クラッチ64の伝動が断たれる。
このクラッチピン175を駆動爪64aまたは従動爪64bに接触させて切状態にするときに、駆動爪64aと従動爪64bは噛み合わないものの、爪の側端部同士が接触し合う状態となったときに、異音が生じることがある。
これは、低速移動時や停止時に部分条クラッチ64を切操作すると、駆動軸171の回転が遅い、あるいは回転が無いため、駆動爪64aと従動爪64bの離間距離が最低限になるために生じる。一方、移動速度が所定速度以上であれば、駆動軸171の回転速度も一定以上であるので、駆動爪64aまたは従動爪64bは回転の影響により、少なくとも爪の側端部が触れ合わない距離まで移動できる。
低速移動時の状態で植付を行うと、ロータリーケース31の回転時の駆動反力(ロータリーケース31内のギアが不等速(不等円)ギアであることにより生じる反力)や、苗植付具127の押出ロッド29の作動の反力により、ロータリーケース31が逆転し、このときに従動爪64bが反転することで駆動爪64aと擦れ合い、異音が発生する。
ロータリーケース31の逆転が伝動されてしまうのは、従動爪64bが、駆動軸171から植付駆動軸30に伝動するための駆動スプロケット179に接続されているためである。
図19には、伝動ケース内の一部のギアの関係を示した簡略側面図を示しており、部分条クラッチ64を切りにした時の制動カム47と制動アーム48との位置関係を示している。
部分条クラッチ64を切った時の苗植付具127の停止位置における制動カム47と制動アーム48の位置は、偏芯カウンタギア41と偏芯プラネタリギア42の組み合わせ上、決まっている。即ち、これらの偏芯ギア41,42の形状は、植付作業の再開時に植付単位が変わらないように設計されており、苗植付具127の停止位置における偏芯ギア41,42の位置も決まっている。このことは以下の理由による。
植付クラッチまたは部分条クラッチ64を切ったとき、ロータリーケース31の停止位置が不定であると、苗取り爪36や苗押出爪37が土中に入り込んだまま停止することもあり、これらの爪に泥が溜まり、苗を取れなくなることがある。また、部分条クラッチ64を切ったときは、苗取り爪36や苗押出爪37が土中に入ったまま前進することになるので、これらの爪だけでなく、ロータリーケース31にも負荷が掛かってしまう。
従って、これらのことを防止すべく、各ギアの噛み合わせにより、駆動力の供給が停止する際、決まった位置でロータリーケース31の回転が停止するように構成している。
図19(A)に示すように、部分条クラッチ64の切り時において制動カム47と制動アーム48との間に隙間Pがあると、制動カム47が制動アーム48から外れた際に、その反動でロータリーケース31が逆転して異音が発生してしまうことがある。そこで、図19(B)に示すように、部分条クラッチ64の切り時における制動カム47の制動アーム48側の部位を膨らませて制動カム47の形状を変えることで、部分条クラッチ64の切り時における制動カム47と制動アーム48との間の隙間をなくし、接触して負荷の掛かる範囲を増やすことで、前記駆動反力を抑えてロータリーケース31の逆転を防止できる。従って、前記異音の発生を抑えることが可能となる。
苗植付具127の作動時には、ロータリーケース31の回転に対する駆動反力や、苗植付具127の植付装置の押出ロッド29の作動の反力により、ロータリーケース31が逆転方向に移動しようとする力が加わる。一方、ロータリーケース31内のギア列は、逆転方向に回転するように組まれていないため、ロータリーケース31が逆転しようとすると、それだけで大きな負荷を受けることになる。制動カム47と制動アーム48は、接触し合うことによってこの逆転方向に回転しようとする力を打ち消すものである。
また、図19(A)に示すように、部分条クラッチ64の切り時において制動カム47と制動アーム48との間に隙間Pがあっても、下記の構成を採用することにより異音の発生を防止できる。
図20には、図18の他の例を示す。図20(A)には植付伝動ケース121の一部を示す平面断面図(概略図)を示し、図20(B)に、ブレーキディスク69の側面図(概略図)を示し、図20(C)にブレーキシュー66の側面図(概略図)を示す。
ブレーキシュー66は、中心部に孔を有する板状であり、固定ピン67によって植付伝動ケース121に固定されている。ブレーキシュー66の中心部の孔を植付駆動軸30が貫通する構成で配置されている。一方、ブレーキシュー66を挟む2枚のブレーキディスク69は、植付駆動軸30に固定されており、植付駆動軸30と一体となって回転する。
図20(B)に示す側面図は、ブレーキディスク69のブレーキシュー66に対面する側の側面図を示している。ブレーキシュー66は、両面とも図20(C)に示す構成である。ブレーキシュー66の両面に、ブレーキディスク69を対面させて配置している。
ブレーキディスク69は、ブレーキシュー66に対面する側の面の一部に摩擦力の大きい摩擦部70が形成されている。図20(B)では、円周方向に沿って4等分した領域のうち、対向する2つの領域に摩擦部70を形成している。 又、ブレーキシュー66の両面にも、図20(C)に示す通り、円周方向に沿って4等分した領域のうち、対向する2つの領域に摩擦部70を形成している。
植付伝動ケース121に固定されているブレーキシュー66に対応して、両面に配置されたブレーキディスク69が植付駆動軸30と一体に回転するので、ブレーキディスク69回転中の摩擦部70同士が対面するタイミングでブレーキディスク69にブレーキがかかり、植付駆動軸30に周期的にブレーキがかかる。
ブレーキディスク69を設けることで、前記駆動反力及び押出ロッド29の作動の反力が最も作用する位置でブレーキディスク69同士が接触し合い、従動爪64bが逆転方向に回転しないようにするものである。従って、ロータリーケース31の逆転を防止できることで、前記異音の発生を抑えることが可能となる。
また、クラッチピン175を従動爪64bに当て続けることでロータリーケース31の回転にブレーキをかけることができる。従って、この場合もロータリーケース31の逆転を防止できることで、前記異音の発生を抑えることが可能となる。
また、クラッチピン175の先端をテーパ状として接触抵抗を大きくすることで、ブレーキ作用を強くすることができる。
更に、予備苗載台25の上方に紫外線灯又は青色LEDなどの殺菌灯(図示せず)を、ステー(図示せず)などを介して取り付け、積載した苗に紫外線等を照射する構成としても良い。除菌や除虫は専用の薬剤で行っており、薬剤のコストが掛かると共に、供給量を誤ると圃場や周辺の汚染に繋がる。紫外線等の光線で殺菌や殺虫をすることで、薬剤が圃場に散らばることなく、環境負荷が軽減される。また、薬剤が不要となることから作業コストも低減される。
尚、複数の予備苗載台25は、上述のように重複状態と展開状態とに切り替え可能な構成であることから、最上段と最下段の予備苗載台25a、25cは移動量が大きい。しかし、中段の予備苗載台25bは殆ど動きがないため、中段の予備苗載台25bに殺菌灯を設置すると良い。
中段の予備苗載台25bは移動量が少ないため、ワイヤーハーネスを長くする必要がないので好適である。また、展開状態とした積み込み作業時や取り出し作業時に苗に紫外線等を確実に当てることが出来るので、殺菌、除虫効果が効率よく行える。
苗を載せる際には予備苗載台25を展開形態にして、苗を後方から前方に移動させ、苗を取りだす際には予備苗載台25を展開形態にして、苗を前方から後方に移動させる。従って、苗は中段を通ることで、照射される。尚、その場合、他の苗を移動させている間、中段の予備苗載台25bに苗を載置し、紫外線を照射すれば殺菌時間が長くなり、殺菌、除虫効果も高くなる。
一方で、殺菌灯を各予備苗載台25a、25b、25cに設けると、重複状態時においても予備苗載台25に積載した全ての苗を殺菌できる。従って、積み込み作業中(展開状態)でも、植え付け作業のために重複状態に切り替えた時でも、紫外線等を照射し続けることが出来るので、殺菌や除虫が長時間行える。
また、苗載せ台17の左右の壁から上方に支柱を立て、紫外線灯を左右の支柱上に付けることで、苗載せ台17の上方にも紫外線灯又は青色LEDを設けると、植付作業中も苗に紫外線等の光線を当てることができるため、殺菌、除虫率が向上する。