以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における燃料電池システム100の構成の一例を示す構成図である。
燃料電池システム100は、燃料電池の発電に必要となる燃料を含むアノードガス、及び酸化剤を含むカソードガスをそれぞれ燃料電池スタック1に供給し、電気負荷に応じて燃料電池を発電させる電源システムを構成する。本実施形態では、燃料として水素が用いられ、酸化剤として酸素が用いられる。燃料電池システム100は、例えば、電動車両やハイブリッド車両などに搭載される。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、スタック冷却装置4と、負荷装置5と、コントローラ200とを含む。
燃料電池スタック1は、複数の燃料電池が積層された積層電池である。燃料電池スタック1は、負荷装置5に対して接続されて、負荷装置5に電力を供給する電源である。燃料電池スタック1は、例えば数百V(ボルト)の直流の電圧を発生させる。
燃料電池は、アノード電極(燃料極)と、カソード電極(酸化剤極)と、これらの電極に挟まれた電解質膜と、を有する。燃料電池は、アノード電極に供給されるアノードガス中の水素と、カソード電極に供給されるカソードガス中の酸素とが電気化学反応を起こして発電する。電気化学反応(発電反応)は、アノード電極及びカソード電極において以下のとおり進行する。
アノード電極: 2H2 → 4H++4e- ・・・(1)
カソード電極: 4H++4e-+O2 → 2H2O ・・・(2)
カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するカソードガス供給装置を含む。本実施形態のカソードガス給排装置2は、酸素を含む空気をカソードガスとして燃料電池スタック1のカソード電極側に供給すると共に、燃料電池スタック1のカソード電極側から排出される空気をカソード排ガスとして大気に放出する。
カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、コンプレッサ22と、流量センサ23と、インタークーラ24と、カソード圧力センサ25と、カソードガス排出通路26と、カソード調圧弁27とを含む。
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するための通路である。カソードガス供給通路21の一端は開口しており、他端は燃料電池スタック1のカソードガス入口孔に接続される。
コンプレッサ22は、カソードガス供給通路21に設けられる。コンプレッサ22は、カソードガス供給通路21の開口端から空気を取り込み、その空気を燃料電池スタック1に供給する。コンプレッサ22の操作量はコントローラ200によって制御される。
流量センサ23は、コンプレッサ22よりも上流のカソードガス供給通路21に設けられる。流量センサ23は、コンプレッサ22により吸引されて燃料電池スタック1に向かって吐出されるカソードガスの流量を検出する。以下では、コンプレッサ22により燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量のことを「コンプレッサ流量」という。流量センサ23は、コンプレッサ流量を検出した信号をコントローラ200に出力する。
インタークーラ24は、コンプレッサ22よりも下流のカソードガス供給通路21に設けられる。インタークーラ24は、インタークーラ24よりも下流に配置された部品の温度が高くなり過ぎないよう、コンプレッサ22から吐出されるカソードガスを冷却する。
カソード圧力センサ25は、インタークーラ24と燃料電池スタック1との間のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ25は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を検出する。以下では、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力のことを「カソード圧力」という。カソード圧力センサ25は、カソード圧力を検出した信号をコントローラ200に出力する。
カソードガス排出通路26は、燃料電池スタック1からカソードガスを排出するための通路である。カソードガス排出通路26の一端は、燃料電池スタック1のカソードガス出口孔に接続され、他端は開口している。
カソード調圧弁27は、カソードガス排出通路26に設けられる。カソード調圧弁27として本実施形態では、弁の開度を段階的に変更可能な電磁弁が用いられる。なお、カソード調圧弁27として、オリフィスや、タービンノズルのようなものを用いてもよい。カソード調圧弁27の開度はコントローラ200によって制御される。カソード調圧弁27の開度が大きくなるほどカソード調圧弁27が開き、カソード調圧弁27の開度が小さくなるほどカソード調圧弁27が閉じる。
アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給するアノードガス供給装置とアノード循環系とを構成する。
本実施形態のアノードガス給排装置3は、アノードガスとして水素を燃料電池スタック1のアノード電極側に供給すると共に、燃料電池スタック1のアノード電極側から排出されるガスを燃料電池スタック1のアノード電極に再び導入して循環させる。
さらに、アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1のアノード極側から排出されるガス中の不純物を、カソード排ガスにより希釈して大気に放出する。以下では、燃料電池スタック1のアノード電極側から排出されるガスのことを「アノード排ガス」という。
アノードガス給排装置3は、高圧タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、エゼクタ34と、アノードガス循環通路35と、アノード循環ポンプ36と、アノード圧力センサ37と、不純物排出通路38と、パージ弁39とを含む。なお、本実施形態のアノード循環系は、燃料電池スタック1、エゼクタ34、アノードガス循環通路35、及びアノード循環ポンプ36により構成される。
高圧タンク31は、燃料電池スタック1に供給される燃料である水素を高圧状態に保って貯蔵する。
アノードガス供給通路32は、高圧タンク31に収容された水素をアノードガスとして燃料電池スタック1に供給するための通路である。アノードガス供給通路32の一端は高圧タンク31に接続され、他端は、燃料電池スタック1のアノードガス入口孔に接続される。
アノード調圧弁33は、エゼクタ34よりも上流のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33は、アノードガス供給通路32の圧力、すなわちエゼクタ34に供給されるアノードガスの圧力を調整する。アノード調圧弁33としては、例えば弁の開度を段階的に変更可能な電磁弁が用いられる。アノード調圧弁33の開度は、コントローラ200によって開閉制御される。
エゼクタ34は、アノード調圧弁33と燃料電池スタック1との間のアノードガス供給通路32に設けられる。エゼクタ34は、アノード調圧弁33により供給されるアノードガスに対し燃料電池スタック1から排出されるアノード排ガスを合流させて、燃料電池スタック1に供給する機械式ポンプである。
本実施形態のエゼクタ34は、ノズル径が一定のエゼクタである。このエゼクタ34では、高圧タンク31から供給されるアノードガスを、流入口にあるノズルからディフューザに向けて噴射することで、ディフューザ内に負圧を発生させる。そして、この負圧を利用してアノード排ガスを吸引口からディフューザ内に吸引され、吸引させたアノード排ガスとノズルから噴射される新たなアノードガスとを混合して流出口から燃料電池スタック1に向かって排出する。
このように、エゼクタ34は、アノード調圧弁33により供給されるアノードガスの流速を高めることにより、アノードガス循環通路35からアノード排ガスを吸引してそのアノード排ガスを燃料電池スタック1のアノード電極に循環させる。
アノードガス循環通路35は、燃料電池スタック1からのアノード排ガスを、アノードガス供給通路32に導入して燃料電池スタック1に循環させる通路である。アノードガス循環通路35の一端は、燃料電池スタック1のアノードガス出口孔に接続され、他端はエゼクタ34の吸引口(循環口)に接続される。
アノード循環ポンプ36は、アノードガス循環通路35に設けられる。アノード循環ポンプ36は、エゼクタ34を介してアノード排ガスを燃料電池スタック1に送り出すためのアクチュエータを有する。アノード循環ポンプ36は、燃料電池スタック1内のアノード電極を循環するアノード排ガスの循環流量を確保するために、アノードガス循環通路35の圧力を上昇させる。
本実施形態のアノード循環ポンプ36は、HRB(Hydrogen recirculation blower)により実現される。アノード循環ポンプ36のことを以下では「HRB」とも称する。アノード循環ポンプ36の回転数(回転速度)はコントローラ200によって制御される。なお、アノード循環ポンプ36は、アノード排ガスを昇圧してエゼクタ34に送り出すものであれば良く、HRBに限られず、コンプレッサや、ポンプであってもよい。
アノード圧力センサ37は、エゼクタ34と燃料電池スタック1との間のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード圧力センサ37は、エゼクタ34から燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を検出する。以下では、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力のことを「アノード圧力」という。アノード圧力センサ37は、アノード圧力を検出した信号をコントローラ200に出力する。
不純物排出通路38は、アノード排ガス中の不純物を排出する通路である。ここにいう不純物とは、燃料電池スタック1における発電に伴う生成水や、燃料電池スタック1のカソード電極から電解質膜を介してアノード電極へと透過してきた窒素ガスなどのことである。
不純物排出通路38の一端はアノードガス循環通路35に接続され、他端は、カソード調圧弁27よりも下流のカソードガス排出通路26に接続される。これにより、不純物排出通路38から不純物と共に排出される水素が、カソードガス排出通路26を流れるカソード排ガスによって希釈されることになる。
なお、ここでは図示されていないが、アノードガス循環通路35と不純物排出通路38との接続部分には、アノード排ガス中の生成水と窒素ガスなどの気体とを分離する気液分離装置が設けられている。
パージ弁39は、不純物排出通路38に設けられる。パージ弁39は、アノード排ガスに含まれる不純物を外部にパージする。パージ弁39はコントローラ200によって開閉制御される。例えば、パージ弁39は、デューティ制御により一定の周期で開閉を繰り返す。
パージ弁39から不純物と共に水素がパージされ、これらを含むパージガスはカソードガス排出通路26へと排出される。カソード排ガスによる希釈後の水素濃度が規定値以下となるように、カソード排ガスの流量が調整される。
スタック冷却装置4は、燃料電池スタック1の温度を冷却する装置である。スタック冷却装置4は、冷却水循環通路41と、冷却水ポンプ42と、ラジエータ43と、バイパス通路44と、三方弁45と、入口水温センサ46と、出口水温センサ47とを含む。
冷却水循環通路41は、燃料電池スタック1に冷却水を循環させる通路である。冷却水循環通路41の一端は燃料電池スタック1の冷却水入口孔に接続され、他端は燃料電池スタック1の冷却水出口孔に接続される。
冷却水ポンプ42は、冷却水循環通路41に設けられる。冷却水ポンプ42は、ラジエータ43を介して燃料電池スタック1に冷却水を供給する。冷却水ポンプ42の回転数は、コントローラ200によって制御される。
ラジエータ43は、冷却水ポンプ42よりも下流の冷却水循環通路41に設けられる。ラジエータ43は、燃料電池スタック1の内部で温められた冷却水をファンによって冷却する。
バイパス通路44は、ラジエータ43をバイパスする通路であって、燃料電池スタック1から排出された冷却水を燃料電池スタック1に戻して循環させる通路である。バイパス通路44の一端は、冷却水ポンプ42とラジエータ43との間の冷却水循環通路41に接続され、他端は三方弁45に接続される。
三方弁45は、燃料電池スタック1に供給される冷却水の温度を調整する。三方弁45は、例えばサーモスタットにより実現される。三方弁45は、ラジエータ43と燃料電池スタック1の冷却水入口孔との間の冷却水循環通路41においてバイパス通路44が合流する部分に設けられる。
入口水温センサ46及び出口水温センサ47は、冷却水の温度を検出する。入口水温センサ46及び出口水温センサ47により検出される冷却水の温度は、燃料電池スタック1の温度として用いられる。以下では、燃料電池スタック1の温度のことを「FC温度」ともいう。
入口水温センサ46は、燃料電池スタック1の冷却水入口孔近傍に位置する冷却水循環通路41に設けられる。入口水温センサ46は、燃料電池スタック1の冷却水入口孔に流入する冷却水の温度を検出する。以下では、燃料電池スタック1に流入する冷却水の温度のことを「FC入口水温」という。入口水温センサ46は、FC入口水温を検出した信号をコントローラ200に出力する。
出口水温センサ47は、燃料電池スタック1に形成された冷却水出口孔の近傍に位置する冷却水循環通路41に設けられる。出口水温センサ47は、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度を検出する。以下では、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度のことを「FC出口水温」という。出口水温センサ47は、FC出口水温を検出した信号をコントローラ200に出力する。
負荷装置5は、燃料電池スタック1に接続され、燃料電池スタック1により供給される電力を受けて駆動する装置である。負荷装置5としては、例えば、車両を駆動する電動モータや、その電動モータを制御する制御ユニット、燃料電池スタック1の発電に必要となる付属機器であるFC補機などが含まれる。FC補機としては、例えば、コンプレッサ22や、アノード循環ポンプ36、冷却水ポンプ42などが挙げられる。
負荷装置5の制御ユニットは、燃料電池スタック1に対する要求負荷をコントローラ200に出力する。ここにいう要求負荷は、燃料電池スタック1の発電量と相関のあるパラメータであり、例えば、負荷装置5の駆動に必要となる要求電力や、その要求電力を負荷装置5に供給するのに必要となる燃料電池スタック1の目標電流又は目標電圧などであってもよい。負荷装置5の要求電力が大きくなるほど、燃料電池スタック1への要求負荷は高くなる。車両に搭載された燃料電池システム100では、アクセルペダルの踏込み量が大きくなるほど、負荷装置5の要求負荷が大きくなる。
負荷装置5と燃料電池スタック1との間には、電流センサ51及び電圧センサ52が配置される。電流センサ51は、燃料電池スタック1の正極端子1pと負荷装置5の正極端子との間の電源線に接続される。電流センサ51は、燃料電池スタック1から負荷装置5に出力される電流を検出する。電圧センサ52は、燃料電池スタック1の正極端子1pと負極端子1nとの間に接続される。電圧センサ52は、正極端子1pと負極端子1nとの間の電圧である端子間電圧を検出する。
コントローラ200は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される制御装置である。なお、コントローラ200は、複数のマイクロコンピュータで構成されるものであってもよい。
コントローラ200には、流量センサ23、カソード圧力センサ25、アノード圧力センサ37、入口水温センサ46及び出口水温センサ47の各出力信号と、負荷装置5からの要求負荷とが入力される。その他にコントローラ200には、大気圧力を検出する大気圧センサ201の出力信号が入力される。これらの入力信号は、燃料電池システム100の運転状態に関するパラメータとして用いられる。
コントローラ200は、これらの入力信号に応じて燃料電池スタック1の発電量を制御する。本実施形態では、コントローラ200は、燃料電池スタック1に対する要求負荷の大きさに応じて、アノード調圧弁33の開度及びアノード循環ポンプ36の操作量を制御する。これと共にコントローラ200は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、コンプレッサ22の操作量及びカソード調圧弁27の開度を制御する。
例えば、コントローラ200は、燃料電池スタック1に対する要求負荷に基づいて、燃料電池スタック1に供給すべきカソードガスの目標流量及び目標圧力、並びにアノードガスの目標循環流量及び目標圧力を演算する。
コントローラ200は、カソードガスの目標流量及び目標圧力に基づいてコンプレッサ22のモータトルク、及びカソード調圧弁27の開度を制御する。これと共にコントローラ200は、アノードガスの目標循環流量及び目標圧力に基づいてアノード循環ポンプ36の回転数、及びアノード調圧弁33の開度を制御する。
例えば、コントローラ200は、燃料電池スタック1のカソード圧力とアノード圧力との差圧、すなわち極間差圧が極力小さくなるよう、カソード調圧弁27の開度、及びアノード調圧弁33の開度を制御する。
図2は、本実施形態におけるエゼクタ34の性能に関する説明図である。図2(a)は、エゼクタ34の性能とアノード循環系の必要揚程との関係を観念的に示している。
図2(a)では、横軸が、燃料電池システム100から負荷装置5への出力電力Wであり、縦軸がアノード循環系の圧力損失である。ここにいうアノード循環系の圧力損失は、燃料電池スタック1におけるアノードガス入口圧力とアノードガス出口圧力との差圧である圧力損失ΔPIOに意味する。
図2(a)には、燃料電池システム100の出力電力Wとエゼクタ34の揚程との関係が破線により示され、燃料電池システム100の出力電力Wを確保するのに必要となるアノード循環系の必要揚程の変化が点線により示されている。
なお、エゼクタ34の揚程とは、エゼクタ34によるアノードガス循環通路35の圧力の昇圧量、すなわちアノード排ガスの昇圧量のことを意味する。必要揚程とは、燃料電池スタック1に供給すべきアノードガス循環流量を確保するのに必要となるアノード排ガスの昇圧量のことを意味する。
図2(a)の破線で示すように、燃料電池システム100の出力電力が高い領域、すなわち燃料電池スタック1の高負荷域では、要求負荷が大きくなるほどエゼクタ34に供給されるアノードガスの圧力が高くなるため、エゼクタ34の揚程が大きく上昇する。このように、本実施形態のエゼクタ34は、燃料電池スタック1の高負荷域においてエゼクタ34の揚程が大きくなるように設計されている。
一方、燃料電池システム100の出力電力が低い領域、すなわち燃料電池スタック1の低負荷域では、エゼクタ34に供給されるアノードガスの圧力が低くなるため、エゼクタ34の揚程がマイナスになり、エゼクタ34の構造上の特性によりアノード排ガスの圧力が下がってしまう。これに対して、図2(a)の実線で示すように、必要揚程を確保するには、低中負荷域においてアノード循環ポンプ36を駆動してアノード排ガスの圧力を上昇させるのが一般的な手法である。
図2(b)は、必要揚程に対するエゼクタ34の揚程不足をアノード循環ポンプ36のみによってアシストしたときのアノード循環ポンプ36の消費電力を示す観念図である。
図2(b)に示すように、燃料電池システム100の出力電力が0から大きくなるほど、エゼクタ34自身の圧力損失が原因となり、エゼクタ34の揚程がマイナス方向に大きくなる。それゆえ、燃料電池システム100の出力電力が0から大きくなるほど、アノード循環ポンプ36の消費電力が大きくなる。
そして、燃料電池システム100の出力点wpにおいて、エゼクタ34の揚程がマイナス方向に最も大きくなるため、アノード循環ポンプ36の消費電力が最大となる。出力点wpは、燃料電池システム100の出力範囲のうち、概ね20%から30%までの区間に存在し、この区間は、車両の高速走行状態での平均出力に相当する。
燃料電池システム100の出力電力が出力点wpよりも大きくなるほど、図2(a)に示すように、エゼクタ34に供給されるアノードガスの圧力が高くなるので、エゼクタ34の揚程が大きくなり、その分だけアノード循環ポンプ36の消費電力が低下する。これにより、高負荷域においてアノード循環ポンプ36の消費電力が0又は一定になる。
このように、エゼクタ34の揚程がマイナス方向に最大となる出力点wpにおいては、アノード循環ポンプ36の要求動力が最大となる。すなわち、燃料電池スタック1の低負荷域においては、エゼクタ34の特性によりアノード排ガスの圧力が降下してしまうため、その分だけアノード循環ポンプ36の消費電力が増加してしまう。
その結果、燃料電池スタック1の負荷が低負荷域にあるときには、アノード循環ポンプ36を駆動してアノード排ガスを昇圧しているにもかかわらず、エゼクタ34の圧力損失によりアノード排ガスの圧力が下ってしまう。すなわち、低負荷域においてはアノード循環ポンプ36の動力の一部が無駄になってしまう。
さらに、アノード循環ポンプ36を駆動して必要揚程を確保しようとすると燃料電池スタック1へのカソードガスの流速が高くなり、燃料電池スタック1を含むアノード循環系の圧力損失が大きくなってしまう。
これに対して、エゼクタ34に供給するアノードガスの圧力を高くすると、アノードガスの密度が高くなるので、アノード電極への水素供給量を確保しつつ燃料電池スタック1へのアノードガスの流速を下げることが可能になる。アノード循環系の圧力損失は、アノードガスの密度、及び、アノードガスの流速の二乗に比例することから、アノードガスの流速が低下すると、アノード循環系の圧力損失が小さくなるので、アノード循環系の必要揚程も低下することになる。したがって、エゼクタ34に供給するアノードガスの圧力を高くすることで、アノード循環ポンプ36の動力を下げることが可能になる。
そこで、本実施形態のコントローラ200は、エゼクタ34によりアノード排ガスが降圧するような低負荷域において、アノード循環系の必要揚程を下げるためにアノードガスの圧力を増加させる。
図3は、本実施形態におけるアノードガス圧力の制御手法の一例を示す図である。図3(a)は、燃料電池スタック1に対する要求負荷と燃料電池スタック1におけるアノード圧力及びカソード圧力との関係の一例を示している。
図3(a)には、本実施形態における圧力制御を実行したときのアノード圧力の変化が実線により示され、カソード圧力の変化が点線により示されている。さらに図3(a)には、比較例が破線により示されている。
図3(a)の点線で示すように、本実施形態のコントローラ200は、燃料電池スタック1の発電に必要な酸素分圧を確保するため、燃料電池スタック1に対する要求負荷が大きくなるほど、燃料電池スタック1のカソード圧力を高くする。
これと共にコントローラ200は、要求負荷が低負荷域にあるときには、カソード圧力とアノード圧力との極間差圧を、要求負荷が高負荷域にあるときに比べて大きくする。すなわち、コントローラ200は、燃料電池スタック1の負荷が低いときには、燃料電池スタック1におけるカソードガスの圧力に対してアノードガスの圧力を増加させる。
本実施形態では、コントローラ200は、要求負荷が高くなるほどアノード圧力を大きくし、かつ、低負荷域においては要求負荷に対するアノード圧力の特性が凸部を有するようにアノード調圧弁33の開度を制御する。
図3(b)は、本実施形態における、燃料電池スタック1に対する要求負荷とアノード循環ポンプ36の消費電力との関係を観念的に示している。
図3(b)には、本実施形態における圧力制御を実行したときのアノード循環ポンプ36の消費電力の変化が実線により示され、図3(a)の破線で示した圧力制御を実行したときのアノード循環ポンプ36の消費電力の変化を表わす比較例が破線により示されている。
図3(b)に示すように、低負荷域においてエゼクタ34へのアノードガス圧力を増やすことで燃料電池スタック1の発電に必要となるアノードガス循環流量を下げることができるので、その分だけアノード循環ポンプ36の消費電力を低減することが可能になる。
図3(b)の例では、アノード循環ポンプ36の消費電力のピークが比較例に比べて30%程度低減される。このように、低負荷域においてシステム全体の消費電力を増やすことなくアノード圧力を増やすことにより、アノード循環ポンプ36の消費電力のピーク値を下げることができるので、アノード循環ポンプ36を小型にすることが可能になる。
また、低負荷域でアノードガス圧力を増やすことにより、エゼクタ34によるアノード排ガスの圧力低下が抑制されるので、アノード循環ポンプ36の動力の一部がエゼクタ34によるアノード排ガスの降圧によって無駄になるという事態を回避することができる。
さらに、燃料電池スタック1が高負荷域にあるときには、アノードガス圧力の増加が抑制されるので、燃料電池スタック1へのアノードガスの供給流量が多くなり過ぎるという事態を回避することができる。
仮に低負荷域でアノードガスの供給流量が過剰になったとしても、燃料電池スタック1が高負荷域へ遷移したときに余剰のアノードガスを消費することが可能になる。このため、燃料電池スタック1において必要以上にアノードガスを消費したり、余剰のアノードガスを捨てたりする必要がなくなる。したがって、燃料電池システム100の燃費が悪化するのを抑制することができる。
さらに、高負荷域においてアノードガス圧力の増加が抑えられるので、アノード圧力とカソード圧力との極間差圧が小さくなり、電解質膜の耐久性が低下するのを抑制することができる。
また、高負荷域でアノードガス圧力の増加量を小さくすることにより、パージ弁39から大気へ排出される水素の排出量が少なくなるので、燃料電池システム100の燃費を改善することができる。さらに、アノード電極からカソード電極への水素の透過量(リーク量)が減少するので、燃費をより一層改善することができる。
なお、図3(a)の例では要求負荷が0から特定の値までの極低負荷域において極間差圧が0になっているが、コントローラ200は、この極低負荷域においても極間差圧が一定、又はアノード圧力が一定となるようにアノード調圧弁33の開度を制御してもよい。このような場合であっても、アノード循環ポンプ36の消費電力を低減することが可能である。
図4は、本実施形態における燃料電池システム100の制御方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
ステップS1においてコントローラ200は、負荷装置5からの要求負荷の大きさに応じて、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力であるカソード圧力を制御する。例えば、コントローラ200は、要求負荷が高くなるほどカソード圧力を大きくする。
ステップS2においてコントローラ200は、要求負荷が所定の低負荷域にあるか否かを判断する。所定の低負荷域は、エゼクタ34によるアノードガスの循環流量を確保できない負荷の領域に設定される。
ステップS3においてコントローラ200は、要求負荷が所定の低負荷域にあるときには、要求負荷の大きさに応じてアノード循環ポンプ36の動力を制御する。
ステップS4においてコントローラ200は、アノード調圧弁33の開度を制御することにより、燃料電池スタック1におけるカソード圧力とアノード圧力との極間差圧を大きくする。これにより、エゼクタ34に供給されるアノードガスの圧力が増加するので、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノードガスの流速を下げることができ、図3(b)に示したようにアノード循環ポンプ36の消費電力を低減することができるようになる。
例えば、コントローラ200は、燃料電池スタック1から排出されるカソード排ガスの流量だけでパージガスを希釈することができる範囲においてアノード圧力を増加させる。これにより、コンプレッサ流量を燃料電池スタック1の発電に必要となるカソードガス流量よりも大きくする必要がないので、コンプレッサ22の消費電力の増加を抑制することができる。
ステップS5においてコントローラ200は、要求負荷が所定の低負荷域外にあるときには、アノード圧力とカソード圧力とが互いに等しくなうようにアノード調圧弁33の開度を制御する。これにより、電解質膜の耐久性が低下するのを抑制することができる。
ステップS4又はS5の処理が終了すると、燃料電池システム100の制御方法の一連の処理手順が終了する。
本発明の第1実施形態によれば、燃料電池システム100は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスに対して燃料電池スタック1のアノード排ガスを合流させるエゼクタ34と、エゼクタ34にアノード排ガスを供給するアノード循環ポンプ36とを備える。
この燃料電池システム100の制御方法は、燃料電池スタック1に要求される要求負荷の大きさに応じて、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を制御するカソードガス制御ステップS1を含む。さらに、制御方法は、要求負荷が低いときには、要求負荷が高いときに比して、アノード調圧弁33により燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力とカソードガスの圧力との差圧を大きくするアノードガス制御ステップS2乃至S4とを含む。
このように、燃料電池スタック1の負荷が低いときにアノードガスの圧力を増やすことで、エゼクタでのアノード排ガスの降圧が抑制されるので、その分だけアノード循環ポンプ36のアクチュエータによるアノード排ガスの昇圧量を下げることができる。したがって、アクチュエータの消費電力を低減することができる。
一方、燃料電池スタック1の負荷が高いときにはカソードガス及びアノードガスの差圧を小さくすることにより、燃料電池スタック1におけるアノード電極からカソード電極へのアノードガスのリーク量が減少するので、無駄なアノードガスの排出を抑制することができる。すなわち、燃料電池システム100における燃費の悪化を抑制することができる。
さらに、燃料電池スタック1の負荷が高いときにはカソードガス及びアノードガスの差圧が小さくなるので、燃料電池スタック1に形成された電解質膜の耐久性が低下するのを抑制することができる。
また、本実施形態によれば、コントローラ200は、ステップS3において要求負荷の大きさに応じてアノード循環ポンプ36の動力を制御する。例えば、コントローラ200は、図3(b)に示したように、要求負荷が低いときには、要求負荷が高いときに比してアノード循環ポンプ36によりアノード排ガスの昇圧量を大きくする。
そして、コントローラ200は、図3(b)に示したように、アノード循環ポンプ36の動力が増加する所定の低負荷域において、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力に対してアノードガスの圧力を増加させる。これにより、アノード循環ポンプ36の消費電力の最大値が下がるので、アノード循環ポンプ36を小型にすることが可能になる。
上述の所定の低負荷域は、図2(a)の破線で示したように、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノードガス圧力ではエゼクタ34によってアノード排ガスを吸引して循環させることできない負荷の領域に設定される。
また、本実施形態によれば、コントローラ200は、ステップS5において要求負荷が所定の低負荷域外にあるときには、カソードガスの圧力と等しくなるようにアノードガスの圧力を小さくする。これにより、燃料電池スタック1における極間差圧が0に近づくことになるので、燃料電池スタック1における電解質膜の劣化を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、燃料電池システム100は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するカソードガス給排装置2と、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を調整するアノード調圧弁33と、燃料電池スタック1へのアノードガスに対して燃料電池スタック1のアノード排ガスを合流させるエゼクタ34とを含む。さらに、燃料電池システム100は、エゼクタ34にアノード排ガスを供給するアノード循環ポンプ36のアクチュエータと、燃料電池スタック1に接続された負荷装置5に応じて燃料電池スタック1の発電を制御する制御装置を構成するコントローラ200と、を含む。
そして、コントローラ200は、負荷装置5により要求される要求負荷が低いときには、負荷が高いときに比して、カソードガス給排装置2によるカソードガス圧力の操作量に対するアノード調圧弁33の操作量の割合を大きくする。
例えば、コントローラ200は、低負荷域においてカソードガス給排装置2におけるカソード調圧弁27の操作量に対するアノード調圧弁33の操作量の割合を大きくする。これにより、低負荷域においてカソード調圧弁27の開度に対してアノード調圧弁33の開度が大きくなることから、図3(a)に示したように、燃料電池スタック1におけるカソードガス圧力及びアノードガス圧力の差圧を大きくすることができる。
したがって、図3(b)に示したように、燃料電池スタック1におけるアノード電極からカソード電極へのアノードガスの漏れ量を低減しつつ、アノード循環ポンプ36の消費電力を抑制することができる。
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態におけるコントローラ200の機能構成を示すブロック図である。
コントローラ200は、An圧力演算部210と、An調圧弁FB制御器220と、HRB回転数演算部230と、Ca圧力演算部240と、Ca流量演算部250と、Ca流量・圧力FB制御器260とを含む。
An圧力演算部210は、負荷装置5からの要求負荷と燃料電池スタック1の温度であるFC温度とに基づいて、燃料電池スタック1に供給されるべきアノードガスの目標圧力を演算する。An圧力演算部210の詳細については図6を参照して後述する。
本実施形態のAn圧力演算部210は、入口水温センサ46から出力されるFC入口温度と、出口水温センサ47から出力されるFC出口温度との平均値をFC温度として算出する。なお、FC温度としては、FC入口温度とFC出口温度のうちいずれか一方を用いるようにしてもよい。
An調圧弁FB制御器220は、アノードガスの目標圧力とアノード圧力センサ37からのアノード圧力値とに基づいて、アノード圧力値が目標圧力に収束するよう、アノード調圧弁33の開度をフィードバック制御する。
HRB回転数演算部230は、負荷装置5からの要求負荷に基づいて、エゼクタ34及びアノード循環ポンプ36を含むアノード循環系の必要揚程を確保するのに必要となるアノード循環ポンプ36の目標回転数を演算する。HRB回転数演算部230の詳細については図7を参照して後述する。
HRB回転数演算部230は、演算した目標回転数をアノード循環ポンプ36に出力する。これにより、アノード循環ポンプ36の回転数は目標回転数に制御される。
Ca圧力演算部240は、負荷装置5からの要求負荷と上述のFC温度とに基づいて、燃料電池スタック1に供給されるべきカソードガスの目標圧力を演算する。Ca圧力演算部240の詳細については図8を参照して後述する。
Ca流量演算部250は、負荷装置5からの要求負荷と、アノード圧力センサ37からのアノード圧力値と、大気圧センサ201からの大気圧力値とに基づいて、燃料電池スタック1に供給されるべきカソードガスの目標流量を演算する。Ca流量演算部250の詳細については図9を参照して後述する。
Ca流量・圧力FB制御器260は、カソードガスの目標圧力及び目標流量と、カソード圧力センサ25からのカソード圧力値と、流量センサ23からのコンプレッサ流量とに基づいて、コンプレッサ22の操作量とカソード調圧弁27の開度を制御する。コンプレッサ22の操作量とは、例えば、コンプレッサ22に設けられたモータのトルクを操作する量のことである。
例えば、Ca流量・圧力FB制御器260は、カソード圧力値が目標圧力に収束するように、カソード調圧弁27の開度をフィードバック制御する。これと共にCa流量・圧力FB制御器260は、コンプレッサ流量が目標流量に収束するようにコンプレッサ22の操作量をフィードバック制御する。あるいは、Ca流量・圧力FB制御器260は、カソード圧力値が目標圧力に収束するように、カソード調圧弁27の開度に加えてコンプレッサ22の操作量についてもフィードバック制御するようにしてもよい。
図6は、本実施形態におけるAn圧力演算部210の詳細構成を示すブロック図である。
An圧力演算部210は、負荷装置5の要求負荷に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノードガスの圧力を示す目標圧力を演算する。そして、An圧力演算部210は、入口水温センサ46及び出口水温センサ47の検出値に基づくFC温度に応じて、アノードガスの目標圧力を補正する。
図6に示すように、An圧力演算部210には、FC温度ごとに、要求負荷と、要求負荷を確保するのに必要となるアノード圧力との関係を示すAn圧力制御マップが格納されている。An圧力演算部210は、負荷装置5から要求負荷を取得すると共にFC温度を算出すると、そのFC温度に対応するAn圧力制御マップを参照し、取得した要求負荷に関係付けられたアノード圧力をアノードガスの目標圧力として算出する。
本実施形態では、An圧力制御マップは、要求負荷が大きくなるほどアノード圧力が大きくなり、かつ、低負荷域においてアノード圧力の特性が凸部を有するように設定されている。
An圧力制御マップにおいては、基本的に、電解質膜の耐久性の低下を抑えるため、カソード圧力とアノード圧力との極間差圧が小さくなるように、アノードガスの目標圧力が設定される。通常、同一の要求負荷においては、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノードガスの目標圧力がカソードガスの目標圧力よりも小さくなる。そのため、アノードガスの目標圧力はカソードガスの目標圧力と一致するように設定される。
低負荷域においては、図2(a)の破線で示したようにエゼクタ34によるアノード排ガスの昇圧量がマイナスとなるため、エゼクタ34に供給するアノードガスの圧力を増加させるためにアノードガスの目標圧力がカソードガスの目標圧力よりも高い値に設定される。これにより、エゼクタ34の揚程が増加するので、その分だけアノード循環ポンプ36の動力を低減することが可能になる。
要求負荷に対するアノード圧力の特性が凸部を有する負荷域は、図2(a)に示したように、アノード循環ポンプ36の動力が増加する領域であって、エゼクタ34の揚程が必要揚程よりも不足する領域である。例えば、アノード圧力特性の凸部は、要求負荷の上限値に対して20%から30%までの負荷域を含むように設定される。
また、An圧力制御マップでは、FC温度が高くなるほどアノード圧力が大きくなる。このようにする理由は、FC温度が高くなるほど、燃料電池スタック1内の水蒸気圧が高くなることから、これに伴って燃料電池スタック1の発電に必要となる水素分圧を確保すことが必要になるからである。
そして低負荷域においては、FC温度が高くなるほど、アノード圧力特性における凸部が小さくなる。すなわち、FC温度が高くなるほど、カソードガスの目標圧力とアノードガスの目標圧力との差分を小さくする。これにより、FC温度が高いときに無用にアノードガスの圧力を高くして燃料電池スタック1へのアノードガスの供給量が過剰になるのを抑制することができる。
このように、An圧力演算部210は、燃料電池スタック1に対する要求負荷が低いときには、要求負荷が高いときに比して、カソードガスの目標圧力とアノードガスの目標圧力との差分を大きくする。
そして、低負荷域においてAn圧力演算部210は、燃料電池スタック1の温度が高くなるほど、カソードガスの目標圧力とアノードガスの目標圧力との差分を小さくする。また、An圧力演算部210は、要求負荷が低負荷域外にあるときには、カソードガスの目標圧力と等しくなるようにアノードガスの目標圧力を算出する。
図7は、本実施形態におけるHRB回転数演算部230の詳細構成を示すブロック図である。
HRB回転数演算部230は、負荷装置5の要求負荷に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノード循環ポンプ36の回転数を示す目標回転数を演算する。
図7に示すように、HRB回転数演算部230には、要求負荷と、要求負荷を確保するのに必要なHRB回転数との関係を示すHRB制御マップが格納されている。HRB回転数演算部230は、負荷装置5から要求負荷を取得すると、HRB制御マップを参照し、その要求負荷に関係付けられたHRB回転数をHRB目標回転数として算出する。
本実施形態では、HRB制御マップは、低負荷域においてHRB回転数の特性が台形状となるように設定されている。
HRB制御マップでは、図2(a)に示したようにエゼクタ34の揚程が必要揚程を下回る低負荷域においてHRB回転数が増加する。低負荷域においては、要求負荷が0から大きくなるほどHRB回転数が大きくなり、図6のAn圧力制御マップにおける凸部に相当する負荷域においてHRB回転数がほぼ一定となる。この負荷域よりも要求負荷が大きくなると、HRB回転数が急峻に小さくなる。
図6のAn圧力制御マップに凸部を設定することで、HRB回転数のピークが抑えられて、図3(b)に示したようにアノード循環ポンプ36の消費電力を減らすことができる。したがって、燃料電池システム100の消費電力を増やすことなく、アノード循環ポンプ36を小型にすることができる。
このように、HRB回転数演算部230は、要求負荷が低いときには、要求負荷が高いときに比して、アノード排ガスの昇圧量が大きくなるようにアノード循環ポンプ36の回転数を増加させる。
図8は、本実施形態におけるCa圧力演算部240の詳細構成を示すブロック図である。
Ca圧力演算部240は、負荷装置5の要求負荷に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要となるカソードガス圧力を示す目標圧力を演算する。そして、Ca圧力演算部240は、入口水温センサ46及び出口水温センサ47の検出値に基づくFC温度に応じてカソードガスの目標圧力を補正する。
図8に示すように、Ca圧力演算部240には、FC温度ごとに、要求負荷と、要求負荷の確保に必要なカソード圧力との関係を示すCa圧力制御マップが格納されている。Ca圧力演算部240は、負荷装置5から要求負荷を取得すると共にFC温度を算出すると、そのFC温度に対応するCa圧力制御マップを参照し、取得した要求負荷に関係付けられたカソード圧力をカソードガスの目標圧力として算出する。
Ca圧力制御マップは、要求負荷が大きくなるほど、カソード圧力が大きくなるように設定されている。このように設定する理由は、要求負荷が大きくほど、燃料電池スタック1の発電に必要となるカソード電極における酸素分圧が大きくなるからである。
また、Ca圧力制御マップは、FC温度が高くなるほど、カソード圧力が大きくなるように設定されている。このように設定する理由は、FC温度が高くなるほど、燃料電池スタック1内の水蒸気圧が高くなることから、これに伴って燃料電池スタック1の発電に必要となる酸素分圧を確保する必要があるからである。
このように、Ca圧力演算部240は、燃料電池スタック1に対する要求負荷が高くなるほど、燃料電池スタック1に供給されるべきカソードガスの目標圧力を大きくする。そして、Ca圧力演算部240は、燃料電池スタック1の温度が高くなるほど、カソードガスの圧力が大きくなるようにカソードガスの目標圧力を補正する。Ca圧力演算部240は、カソードガスの目標圧力をCa流量・圧力FB制御器260に出力する。
図9は、本実施形態におけるCa流量演算部250の詳細構成を示すブロック図である。
Ca流量演算部250は、発電流量演算部251と、酸素消費量演算部252と、Ca排ガス流量演算部253と、希釈要求流量算出部254と、目標流量設定部255と、を含む。
発電流量演算部251は、負荷装置5からの要求負荷に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要となるカソードガスの流量を示す発電要求カソード流量を演算する。
発電流量演算部251には、図9に示すように、燃料電池スタック1に対する要求負荷と発電要求カソード流量との関係を示すCa流量制御マップが格納されている。発電流量演算部251は、負荷装置5から要求負荷を取得すると、Ca流量制御マップを参照し、その要求負荷に関係付けられた発電要求カソード流量を算出する。
Ca流量制御マップは、要求負荷が大きくなるほど、発電要求カソード流量が大きくなるように設定されている。このため、発電流量演算部251は、要求負荷が大きくなるほど、発電要求カソード流量を大きくする。そして、発電流量演算部251は、発電要求カソード流量をFC要求カソード流量として目標流量設定部255に出力する。
酸素消費量演算部252は、負荷装置5からの要求負荷に基づいて、燃料電池スタック1での電気化学反応によって消費される酸素の消費流量を示す酸素消費量を演算する。
酸素消費量演算部252は、負荷装置5から要求負荷を取得すると、その要求負荷に対し予め定められた換算値を乗じて、燃料電池スタック1における酸素消費流量を算出する。
Ca排ガス流量演算部253は、アノード圧力センサ37からのアノード圧力値に基づいて、カソードガス排出通路26から大気に放出される排ガス中の水素濃度が規定値、例えば4%以下となるように、カソード排ガスの希釈要求流量を演算する。ここにいうカソード排ガスの希釈要求流量とは、パージ弁39から排出される水素の希釈に必要となるカソード排ガス流量のことである。また、Ca排ガス流量演算部253は、大気圧センサ201からの大気圧力値に応じて、カソード排ガスの希釈要求流量を補正する。
Ca排ガス流量演算部253には、図9に示すように、大気圧力値ごとに要求負荷とカソード排ガスの希釈要求流量との関係を示す希釈要求マップが格納されている。Ca排ガス流量演算部253は、負荷装置5から要求負荷を取得すると共に大気圧センサ201から大気圧力値を取得すると、その大気圧力値に対応する希釈要求マップを参照し、取得した要求負荷に関係付けられた希釈要求流量を算出する。
希釈要求マップは、アノード圧力値が大きくなるほど、カソード排ガスの希釈要求流量が大きくなるように設定されている。このように設定する理由は、アノード圧力値が大きくなるほど、パージ弁39から排出されるパージガス量が増加してカソードガス排出通路26へ放出される水素量が増加するからである。
また、希釈要求マップは、大気圧力値が大きくなるほど、カソード排ガスの希釈要求流量が小さくなるように設定されている。このように設定する理由は、大気圧力値が大きくなるほど、アノードガス循環通路35の圧力と大気圧との差圧が小さくなるため、パージガス量が減少するからである。
希釈要求流量算出部254は、カソード排ガスの希釈要求流量に対し、酸素消費量演算部252からの酸素消費流量を加えることにより、パージガス中の水素の希釈に必要となるコンプレッサ22の吐出量を示す希釈要求コンプレッサ流量を算出する。希釈要求流量算出部254は、算出した希釈要求コンプレッサ流量を目標流量設定部255に出力する。
目標流量設定部255は、希釈要求コンプレッサ流量と、発電流量演算部251からのFC要求カソード流量とのうち、大きい方の値をカソードガスの目標流量に設定する。目標流量設定部255は、設定したカソードガスの目標流量をCa流量・圧力FB制御器260に出力する。
このように、希釈要求に基づくカソードガスの流量と、発電要求に基づくカソードガスの流量とのうちの大きい方の値を選択することにより、要求負荷を満たしつつ、燃料電池システム100の排出ガスの水素濃度を規定値以下に維持することが可能になる。
図10は、燃料電池スタック1に対する要求負荷と燃料電池システム100の作動状態との関係の一例を示す図である。
図10(a)は、燃料電池スタック1におけるアノード圧力及びカソード圧力の変化を示す。図10(a)には、アノード圧力が太線により示され、カソード圧力が細線により示されている。
図10(b)は、エゼクタ34及びアノード循環ポンプ36を含むアノード循環系の圧力損失の変化を示す。図10(b)には、アノード循環系の必要揚程が細線により示され、エゼクタ34の揚程が点線により示され、アノード循環ポンプ36の揚程が太線により示されている。ここにいうアノード循環ポンプ36の揚程は、アノード循環ポンプ36によるアノード排ガスの昇圧量を意味する。
アノード循環系の必要揚程とは、要求負荷に応じて定められたアノードガス循環流量を確保するのに必要となるアノード排ガスの昇圧量のことを意味する。アノードガス循環流量は、要求負荷が大幅に高くなったときに燃料電池スタック1の下流側アノード電極で水素不足が発生しないように定められる。例えば、アノードガス循環流量は、要求負荷の確保に最低限必要となる循環流量に対して1.0よりも大きな所定の値を乗じて求められ、このアノードガス循環流量に基づいて必要揚程が定められる。
図10(c)は、アノード循環ポンプ36の消費電力の変化を示す。図10(a)乃至図10(c)は、FC温度が低いときの燃料電池システム100の作動状態が実線により示され、FC温度が高いときの燃料電池システム100の作動状態が破線により示されている。
図10(d)は、カソードガスの目標流量の変化を示す図である。図10(d)には、カソードガスの希釈要求流量である希釈要求コンプレッサ流量が実線により示され、カソードガスの発電要求流量であるFC要求カソード流量が一点鎖線により示されている。
なお、図10(a)乃至図10(d)の横軸は、互いに共通の軸であり、燃料電池スタック1に対する要求負荷Lを示す。
まず、FC温度が低い場合における燃料電池システム100の動作について説明する。
要求負荷が0から負荷点L1までの第1負荷域(極低負荷域)にあるときには、図10(d)に示すように、希釈要求コンプレッサ流量がFC要求カソード流量よりも大きくなる。このため、図9に示した目標流量設定部255により希釈要求コンプレッサ流量がカソードガスの目標流量として設定される。
第1負荷域においては、図8に示したCa圧力演算部240のマップに従って、図10(a)に示すように、要求負荷が高くなるほどカソード圧力が大きくなる。これと共に、図6に示したAn圧力演算部210のマップに従って、要求負荷が高くなるほど、アノード圧力と同じようにアノード圧力が大きくなる。すなわち、カソード圧力とアノード圧力との差圧は増大しない。
このようにする理由は、第1負荷域においてアノード圧力をカソード圧力よりも大きくすると、パージガスの増量に伴って希釈要求コンプレッサ流量が増加するため、カソードガスの目標流量が増加することになる。すなわち、アノード圧力を増加するとコンプレッサ22の消費電力が増加してしまう。この対策として、希釈要求コンプレッサ流量がFC要求カソード流量を上回る第1負荷域においては、カソード圧力に対するアノード圧力の増加が抑制される。すなわち、低負荷域において、要求負荷が低くなるほどアノード圧力の増加が抑制される。
さらに、図10(b)に示すように、エゼクタ34によりアノード排ガスの昇圧が行われないため、アノード循環ポンプ36を駆動してアノード排ガスの昇圧が行われる。このため、図10(c)に示すようにアノード循環ポンプ36の消費電力が増加する。第1負荷域は、例えば、燃料電池スタック1の出力範囲の0%から十数%までの領域である。
要求負荷が負荷点L1まで大きくなると、図10(d)に示すように、FC要求カソード流量は希釈要求コンプレッサ流量に対して等しくなる。そして、要求負荷が負荷点L1から負荷点L4までの低負荷域にあるときには、図10(a)に示すように、アノード圧力とカソード圧力との極間差圧を大きくする差圧運転が実施される。これにより、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノード循環系の必要揚程が低下する。
要求負荷が負荷点L1から負荷点L2までの第2負荷域にあるときには、図6に示したAn圧力演算部210が、図10(a)及び図10(b)に示すように、希釈要求コンプレッサ流量がFC要求カソード流量を超えない範囲でアノード圧力をカソード圧力よりも増加させる。この例では、希釈要求コンプレッサ流量がFC要求カソード流量に対して等しくなるまでアノード圧力が増やされている。
第2負荷域で燃料電池スタック1のアノード圧力を増加させることにより、エゼクタ34に供給されるアノードガスの圧力が増加するので、アノード循環系の必要揚程が下ると共に、図10(b)に示すようにエゼクタ34の揚程がマイナスにならずに一定に維持される。このため、図10(c)に示すように、アノード圧力をカソード圧力と一致させる場合に比べてアノード循環ポンプ36の消費電力が抑制される。第2負荷域は、例えば、燃料電池スタック1の出力範囲の十数%から二十数%までの領域である。
要求負荷が負荷点L2まで大きくなると、図10(b)に示すように、エゼクタ34の揚程が上昇を開始する。そのため、要求負荷が負荷点L2から負荷点L3までの第3負荷域にあるときには、図10(a)に示すように、カソード圧力に対するアノード圧力の増加量が小さくなる。このとき、図10(d)に示すように、希釈要求コンプレッサ流量がFC要求カソード流量を下回る。
第3負荷域では、図10(b)に示すように、要求負荷が大きくなるほど、エゼクタ34の揚程が増加することから、その分だけアノード循環ポンプ36の揚程が減少する。したがって、図10(c)に示すようにアノード循環ポンプ36の消費電力が減少する。第3負荷域は、例えば、燃料電池スタック1の出力範囲の二十数%から三十数%までの領域である。
要求負荷が負荷点L3まで大きくなると、図10(b)に示すようにエゼクタ34の揚程とアノード循環ポンプ36の揚程とが互いに等しくなる。
要求負荷が負荷点L3から負荷点L4までの第4負荷域にあるときには、図10(b)に示すようにアノード循環ポンプ36の揚程がエゼクタ34の揚程を下回り、図10(a)に示すようにカソード圧力とアノード圧力との極間差圧は小さくなる。
要求負荷が負荷点L4まで大きくなると、図10(b)に示すように、エゼクタ34の揚程が必要揚程まで大きくなるのでアノード循環ポンプ36の揚程が0又は一定になる。このとき、図10(c)に示すようにアノード循環ポンプ36の消費電力が0又は一定になると共に、図10(a)に示すようにアノード圧力とカソード圧力とが互いに等しくなる。
このように、希釈要求コンプレッサ流量がFC要求カソード流量を下回る第2負荷域乃至第4負荷域においてアノード圧力をカソード圧力に対して大きくすることで、コンプレッサ22の消費電力が増加するのを抑制することが可能になる。
要求負荷が負荷点L4よりも高い高負荷域にあるときには、図10(a)に示すようにアノード圧力とカソード圧力との極間差圧が0又は所定の値に維持される。これにより、燃料電池スタック1における電解質膜の耐久性の低下が抑制される。
このように、負荷点L1から負荷点L4までの低負荷域においてカソード圧力とアノード圧力との極間差圧を大きくすることにより、負荷点L2におけるアノード循環ポンプ36の消費電力のピーク値を低減することができる。そして、希釈要求コンプレッサ流量がFC要求カソード流量を超えない範囲においてアノード圧力を増やすことにより、コンプレッサ22の消費電力が増加するのを回避することができる。
また、要求負荷が低い低負荷域のうち、希釈要求コンプレッサ流量がFC要求カソード流量よりも大きくなる第1負荷域においてアノード圧力の増加を抑制することで、コンプレッサ22の消費電力の増加を抑制することができる。なお、第1負荷域は、燃料電池スタック1の使用割合が高い領域であることから、コンプレッサ22の消費電力の低減に大きく寄与する。
次にFC温度が高い場合における燃料電池システム100の動作について説明する。
低負荷域においては、図10(a)の点線で示すように、FC温度が高いときのアノード圧力は、FC温度が低いときのアノード圧力に比べて高くなる。また、図10(b)に示すように、FC温度が高いときの必要揚程は、FC温度が低いときの必要揚程に比べて小さくなる。
したがって、図10(c)に示すように、FC温度が高いときにはアノード圧力をカソード圧力よりも高くしなくても、アノード循環ポンプ36の消費電力はFC温度が低いときに比べて小さくなる。
このため、図10(a)に示すように、FC温度が高いときには、図6に示したAn圧力演算部210のマップに従って、FC温度が低いときに比してカソード圧力とアノード圧力との極間差圧を小さくする。これにより、アノード圧力を無用に大きくしてアノードガス循環流量が過剰になるのを回避することができる。
本発明の第2実施形態によれば、コントローラ200は、図10(a)に示したように、所定の低負荷域において、燃料電池スタック1におけるカソードガス圧力とアノードガス圧力との差圧を大きくする。これにより、第1実施形態と同様、アノード循環ポンプ36の消費電力の一部を削減でき、アノード循環ポンプ36を駆動するアクチュエータを小型にすることができる。
さらに、本実施形態によれば、コントローラ200は、図10(c)に示したように、所定の低負荷域において、要求負荷の大きさに応じてアノード循環ポンプ36の動力を制御する。ここにいう所定の低負荷域は、エゼクタ34によるアノードガスの循環流量が、要求負荷に応じて定まる基準流量に対して不足する負荷の領域に設定される。この基準流量は、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノードガス流量に対し、例えば1.5を乗じて求められる。
これにより、アノードガス循環流量が基準流量となるようにアノード循環ポンプ36が駆動するので、要求負荷が急峻に高くなったとしても、燃料電池スタック1の下流側においてアノードガスが不足するという事態を回避することができる。すなわち、アノードガス不足に伴う電解質膜の性能劣化を抑制することができる。
そしてコントローラ200は、アノード循環ポンプ36の動力が増加する所定の低負荷域において、カソードガス圧力に対してアノードガス圧力を増加させる。これにより、アノード循環ポンプ36の消費電力のピーク値が下がるので、アノード循環ポンプ36を小型にすることができる。
また、本実施形態によれば、燃料電池システム100は、燃料電池スタック1からのアノード排ガスに含まれる不純物を排出するパージ弁39と、パージ弁39からのパージガスを燃料電池スタック1のカソード排ガスにより希釈するガス通路を構成する不純物排出通路38とを含む。
この燃料電池システム100を制御するコントローラ200は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスを用いてパージガスを希釈することが可能な所定の低負荷域においてアノードガス圧力をカソードガス圧力に比して増加させる。
このようにする理由は、図10(d)に示したように、アノードガス圧力の増加に伴って希釈要求コンプレッサ流量がFC要求カソード流量を上回ることがない限り、コンプレッサ22の動力は増加しないからである。そのため、本実施形態においては希釈要求コンプレッサ流量がFC要求カソード流量よりも少なくなる状況でアノードガス圧力を増やすので、アノード循環ポンプ36の消費電力を低減しつつ、コンプレッサ22の消費電力の増加を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、コントローラ200は、図6に示したAn圧力演算部210に保持されたマップに従って、燃料電池スタック1の温度が高くなるほど、カソードガス圧力とアノードガス圧力との差圧を小さくする。
図8に示したCa圧力演算部240におけるマップのように、燃料電池スタック1の温度が高くなるほどカソードガス圧力が大きくなることから、仮にカソードガス圧力を基準にしてアノードガス圧力を一定量だけ増加させると、無用にアノードガス圧力を高くしてしまう。
この対策として、本実施形態のコントローラ200は、燃料電池スタック1の温度が高くなるほど、カソードガス圧力とアノードガス圧力との差圧を小さくする。これにより、アノードガス圧力を無用に高くするのを回避することができ、パージガスの排出量やアノード電極からカソード電極への水素リーク量が無用に増えることがなくなるので、燃費の低下を抑制することができる。
なお、本実施形態では燃料電池スタック1の温度が高くなるほどカソードガス圧力とアノードガス圧力との極間差圧を小さくする例について説明したが、カソードガス圧力が高くなるほど極間差圧を小さくするようにアノード調圧弁33の開度を制御してもよい。
例えば、図6に示したマップに代えて、カソード圧力値ごとに要求負荷とアノード圧力との関係を示すマップをAn圧力演算部210に記録し、An圧力演算部210は、カソード圧力センサ25からの検出値又カソードガスの目標圧力を取得すると、取得した値に対応するマップを参照してアノードガスの目標圧力を算出する。このようにしても、本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、本実施形態によれば、図6に示したAn圧力演算部210は、要求負荷が低いときには、要求負荷が高いときに比して燃料電池スタック1の発電に必要なアノードガス発電要求圧力よりも大きな値がアノードガスの目標圧力に設定されたマップを保持する。そして、An圧力演算部210である制御部は、要求負荷を取得すると、そのマップを参照して、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を目標圧力に制御する。これにより、低負荷域におけるアノードガス圧力の増加を簡易な構成により実現することができる。
特に、An圧力演算部210に保持されたマップは、要求負荷が高くなるほどアノードガスの目標圧力が大きくなり、かつ、要求負荷が低い低負荷域において目標圧力の特性が凸部を有するように設定されている。
これにより、図10(a)に示したように、低負荷域(0−L4)のうち負荷が低い極低負荷域(0−L1)において極間差圧を概ね0に抑制することができる。このように、低負荷域(0−L4)において要求負荷が低くなるほど、アノードガス圧力の増加を抑制することができる。
このようにする理由は、図10(d)に示したように、極低負荷域(0−L1)においてはFC要求カソード流量よりも希釈要求コンプレッサ流量が大きくなるからである。それゆえ、アノードガス圧力が増加すると、カソードガスの目標流量に設定されている希釈要求コンプレッサ流量が大きくなるため、コンプレッサ22の消費電力が増加してしまう。
この対策として、本実施形態では低負荷域においてアノードガスの目標圧力の特性が凸部を有するようにマップを設定することで、極低負荷域におけるアノードガス圧力の増加が抑えられるので、コンプレッサ22の消費電力の増加を抑制することができる。
なお、燃料電池スタック1においては燃料電池の電解質膜が乾燥し過ぎると発電性能が低下し、電解質膜が濡れ過ぎても電解質膜が目詰まりを起こして発電性能が低下することから、電解質膜の湿潤状態(含水量)を燃料電池の発電に適した状態に操作することが好ましい。そこで、電解質膜の湿潤状態を操作する燃料電池システムの実施形態を以下で説明する。
(第3実施形態)
図11は、本発明の第3実施形態における燃料電池システム101の構成例を示す構成図である。
燃料電池システム101は、図1に示した燃料電池システム100の構成に加えて、インピーダンス測定装置6を備えている。また、燃料電池システム101は、燃料電池システム100のカソードガス給排装置2に代えてカソードガス給排装置2aを備えている。
カソードガス給排装置2aは、図1に示したカソードガス給排装置2の構成に加えて、カソードバイパス通路28及びバイパス弁29を備えている。
カソードバイパス通路28は、コンプレッサ22により供給されるカソードガスの一部が燃料電池スタック1を迂回して外部に排出されるよう、カソードガス供給通路21とカソードガス排出通路26との間に設けられた通路である。カソードバイパス通路28の一端は、インタークーラ24と燃料電池スタック1との間のカソードガス供給通路21に接続され、その他端は、カソード調圧弁27よりも下流のカソードガス排出通路26に接続される。
バイパス弁29は、カソードバイパス通路28に設けられる。バイパス弁29は、コンプレッサ22から供給されるカソードガスの一部をカソードガス排出通路26へ排出するカソードガスの流量を調整する。バイパス弁29としては、例えば弁の開度を段階的に変更可能な電磁弁が用いられる。バイパス弁29の開度はコントローラ200によって制御される。
発電要求カソード流量に比べて希釈要求コンプレッサ流量が大きくなる状況においては、通常、コンプレッサ流量が希釈要求コンプレッサ流量となるようにコンプレッサ22の操作量が制御される。このような場合において、図1に示した燃料電池システム100にはカソードバイパス通路28が設けられていないことから、燃料電池スタック1へのカソードガス流量が発電要求カソード流量に対して多くなってしまう。その結果、余剰のカソードガスに起因して燃料電池スタック1から持ち出される水分が増加し、電解質膜が乾燥するおそれがある。
そのため、発電要求カソード流量よりも希釈要求コンプレッサ流量が大きくなるときには、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量が発電要求カソード流量を上回らないように、バイパス弁29の開度がコントローラ200によって制御される。
インピーダンス測定装置6は、電解質膜の湿潤状態を検出する装置である。インピーダンス測定装置6は、電解質膜の湿潤状態と相関のある燃料電池スタック1の内部インピーダンスを測定する。インピーダンス測定装置6は、測定した内部インピーダンスをコントローラ200に出力する。
一般に、電解質膜の含水量が少なくなるほど、すなわち電解質膜が乾き気味になるほど、内部インピーダンスの電気抵抗成分は大きくなる。一方、電解質膜の含水量が多くなるほど、すなわち電解質膜が濡れ気味になるほど、内部インピーダンスの電気抵抗成分は小さくなる。そのため、電解質膜の湿潤状態を示すパラメータとして、本実施形態では燃料電池スタック1の内部インピーダンスが用いられる。
燃料電池スタック1には、正極端子1pと直列に接続された正極タブと、負極端子1nと直列に接続された負極タブとが設けられており、インピーダンス測定装置6が正極タブ及び負極タブに接続される。
インピーダンス測定装置6は、電解質膜の電気抵抗を計測するのに適した所定の周波数を有する交流電流を正極端子1pに供給して、正極端子1pと負極端子1nとの間に生じる交流電圧を検出する。インピーダンス測定装置6は、検出した交流電圧の振幅を、正極端子1pに供給した交流電流の振幅により除して内部インピーダンスを算出する。以下では、算出した内部インピーダンスのことをHFR(High Frequency Resistance;高周波数抵抗)という。
本実施形態のコントローラ200には、第1実施形態で述べた入力信号の他に、インピーダンス測定装置6から出力される燃料電池スタック1のHFRと、不図示のHRBインバータの温度を検出するINV温度センサ202の出力信号とが入力される。HRBインバータは、燃料電池スタック1又はバッテリから出力される電力を交流電力に変換し、変換した交流電力をアノード循環ポンプ36のモータに供給する。
コントローラ200は、インピーダンス測定装置6からのHFRに応じて、負荷装置5からの要求負荷を燃料電池スタック1で実現することができる範囲内でコンプレッサ22の操作量、カソード調圧弁27の開度、及びアノード循環ポンプ36の回転数を操作する。本実施形態では、アノード循環ポンプ36の回転数が大きくなるほど、アノード循環系に留保する水量が増加するので、燃料電池スタック1の電解質膜が湿った状態になる。
例えば、燃料電池スタック1のHFRが目標値よりも大きい場合、すなわち電解質膜が乾いている場合には、コントローラ200は、要求負荷を実現できる範囲において、カソードガスの流量を減らしたり、カソードガスの圧力を増やしたり、アノード循環ポンプ36の回転数を大きくしたりする。
一方、燃料電池スタック1のHFRが目標値よりも小さい場合には、コントローラ200は、要求負荷を確保できる範囲で、カソードガスの流量を増やしたり、カソードガスの圧力を減らしたりたり、アノード循環ポンプ36の回転数を小さくしたりする。
図12は、本発明の第3実施形態におけるコントローラ200の機能構成例を示すブロック図である。
本実施形態のコントローラ200は、An圧力演算部310と、An調圧弁FB制御器320と、HRB回転数演算部330と、Ca圧力演算部340と、Ca流量演算部350と、Ca流量・圧力FB制御器360と、膜湿潤FB制御器370とを含む。
なお、コントローラ200における膜湿潤FB制御器370以外の構成は、基本的に第2実施形態の構成と同じである。ここでは、主に膜湿潤FB制御器370の構成について詳細に説明し、その後、第2実施形態と比較して入力パラメータが異なるAn圧力演算部310、HRB回転数演算部330、Ca圧力演算部340及びCa流量演算部350の構成について簡単に説明する。
膜湿潤FB制御器370は、負荷装置5からの要求負荷とインピーダンス測定装置6からのHFRとに基づいて、燃料電池スタック1の湿潤状態を目標状態に操作するのに必要となる、HRB回転数、カソード圧力及びカソード流量をそれぞれ演算する。以下ではこれらのパラメータのことを、それぞれ「湿潤要求HRB回転数」、「湿潤要求カソード圧力」及び「湿潤要求カソード流量」という。
例えば、膜湿潤FB制御器370には、燃料電池スタック1の目標HFRと要求負荷との関係を示す湿潤制御マップが予め格納されている。ここにいう目標HFRは、燃料電池の電解質膜が発電に適した目標となる状態で維持されるよう、実験等を通じて決められる。例えば、要求負荷ごとに、燃料電池スタック1で生成される水量や、カソード排ガスによって燃料電池スタック1から持ち出される水量などを考慮して目標HFRが決定される。
膜湿潤FB制御器370は、負荷装置5から、燃料電池スタック1に対する要求負荷を取得すると、湿潤制御マップを参照して、その要求負荷に関係付けられた目標HFRを算出する。そして、膜湿潤FB制御器370は、インピーダンス測定装置6からのHFRが目標HFRとなるように、湿潤要求HRB回転数、湿潤要求カソード圧力及び湿潤要求カソード流量をフィードバック制御する。
燃料電池スタック1のHFRが目標HFRよりも大きくなるほど、すなわち電解質膜が乾き気味であるほど、湿潤要求HRB回転数を大きくし、湿潤要求カソード圧力を大きくし、湿潤要求カソード流量を小さくする。湿潤要求HRBを大きくすることでアノード循環系の水分が増加するため、燃料電池スタック1の電解質膜が湿り易くなる。さらに、湿潤要求カソード圧力を大きくすると共に湿潤要求カソード流量を小さくすることでカソードガスによって燃料電池スタック1から持ち出される水分が減少するため、電解質膜がより一層湿り易くなる。
一方、燃料電池スタック1のHFRが目標HFRよりも小さくなるほど、すなわち電解質膜が湿りすぎるほど、湿潤要求HRB回転数を小さくし、湿潤要求カソード圧力を小さくし、湿潤要求カソード流量を大きくする。これにより、燃料電池スタック1の電解質膜が乾き易くなる。
膜湿潤FB制御器370は、湿潤要求HRB回転数をHRB回転数演算部330に出力し、湿潤要求カソード圧力をCa圧力演算部340に出力し、湿潤要求カソード流量をCa流量演算部350に出力する。
An圧力演算部310は、第2実施形態のAn圧力演算部210に対応する。An圧力演算部310は、負荷装置5からの要求負荷と、HRBインバータ温度と、大気圧センサ201からの大気圧力値と、カソード圧力センサ25からのカソード圧力値と、カソードガスの目標圧力とに基づいて、アノードガスの目標圧力を演算する。An圧力演算部310の詳細については図13を参照して後述する。
An調圧弁FB制御器320は、第2実施形態のAn調圧弁FB制御器220と同じ機能を有する。
HRB回転数演算部330は、第2実施形態のHRB回転数演算部230に対応する。HRB回転数演算部330は、負荷装置5からの要求負荷と、膜湿潤FB制御器370からの湿潤要求HRB回転数とに基づいて、アノード循環ポンプ36の目標回転数を演算する。HRB回転数演算部330の詳細については図18を参照して後述する。
Ca圧力演算部340は、第2実施形態のCa圧力演算部240に対応する。Ca圧力演算部340は、負荷装置5からの要求負荷と、アノード圧力センサ37からのアノード圧力値とに基づいて、カソードガスの目標圧力を演算する。Ca圧力演算部340の詳細については図19を参照して後述する。
Ca流量演算部350は、第2実施形態のCa流量演算部250に対応する。Ca流量演算部350は、負荷装置5からの要求負荷と、アノード圧力センサ37からのアノード圧力値と、大気圧センサ201からの大気圧力値とに基づいて、コンプレッサ目標流量及び、カソード目標流量を演算する。
コンプレッサ目標流量は、コンプレッサ22から吐出すべきカソードガス流量の目標値を示すパラメータであり、カソード目標流量は、燃料電池スタック1に供給すべきカソードガス流量の目標値を示すパラメータである。
Ca流量演算部350は、カソード目標流量をAn圧力演算部310に出力する共に、コンプレッサ目標流量及びカソード目標流量をCa流量・圧力FB制御器360に出力する。Ca流量演算部350の詳細については図20を参照して後述する。
Ca流量・圧力FB制御器360は、第2実施形態のCa流量・圧力FB制御器260に対応する。Ca流量・圧力FB制御器360は、第2実施形態と同様、カソードガスの目標圧力及びコンプレッサ目標流量と、カソード圧力センサ25からのカソード圧力値と、流量センサ23からのコンプレッサ流量とに基づいて、コンプレッサ22の操作量とカソード調圧弁27の開度を制御する。
また、Ca流量・圧力FB制御器360は、コンプレッサ目標流量及びカソード目標流量に基づいてバイパス弁29の開度を制御する。例えば、Ca流量・圧力FB制御器360は、所定のマップを参照し、カソードバイパス通路28を流れるカソードガスの流量が、コンプレッサ目標流量からカソード目標流量を減じたバイパス流量となるように、バイパス弁29の開度を制御する。
なお、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量を検出するセンサをカソードガス供給通路21に設け、そのセンサの検出値がカソード目標流量となるようにバイパス弁29の開度をフィードバック制御するようにしてもよい。
図13は、本実施形態におけるAn圧力演算部310の詳細構成例を示すブロック図である。また、図14乃至図17は、An圧力演算部310に格納されたマップを説明する図である。
An圧力演算部310は、エゼクタ揚程演算部311と、HRB上限揚程演算部312と、加算器313と、HRB要求圧力演算部314とを含む。さらにAn圧力演算部310は、酸素消費量演算部315と、Ca排ガス流量演算部316と、Comp要求圧力演算部317と、許容差圧値保持部318と、膜保護要求圧力算出部319と、昇圧設定部321とを含む。まら、An圧力演算部310は、通常差圧値保持部322と、等圧制御圧力算出部323と、An目標圧力設定部324とを含む。
エゼクタ揚程演算部311は、負荷装置5からの要求負荷に基づいて、エゼクタ34の揚程(昇圧量)の予測値を示すエゼクタ予測揚程を演算する。エゼクタ34の揚程は、エゼクタ34のノズルから噴射されるアノードガスの噴射流量により定まり、エゼクタ34の噴射流量は要求負荷に比例する。このため、エゼクタ揚程演算部311は、要求負荷が大きくなるほど、エゼクタ予測揚程を大きくする。
本実施形態では、図14に示すように、要求負荷とエゼクタ予測揚程との関係を示すエゼクタ揚程演算マップがエゼクタ揚程演算部311に格納されている。エゼクタ揚程演算部311は、負荷装置5から要求負荷を取得すると、エゼクタ揚程演算マップを参照して、その要求負荷に関係付けられたエゼクタ予測揚程を算出する。
揚程演算マップは、低負荷域においてエゼクタ34の揚程は0に設定され、中高負荷域においては要求負荷が大きくなるほどエゼクタ予測揚程が大きくなるように設定されている。これは、エゼクタ34の揚程が高負荷域で大きくなるように設計されているからである。
HRB上限揚程演算部312は、INV温度センサ202からのHRBインバータ温度に基づいて、アノード循環ポンプ36の昇圧量の上限値を示すHRB上限揚程を演算する。
アノード循環ポンプ36のインバータは、内部に設けられたスイッチング素子の温度が高くなりすぎて損傷しないよう、アノード循環ポンプ36に供給する電力を制限する。このため、HRB上限揚程演算部312は、HRBインバータ温度が所定の閾値よりも高くなった場合には、HRB上限揚程を小さくする。なお、所定の閾値は実験等により求められる。
本実施形態では、図15に示すように、HRBインバータ温度とHRB上限揚程との関係を示すHRB制限マップがHRB上限揚程演算部312に格納されている。HRB上限揚程演算部312は、INV温度センサ202からHRBインバータ温度を取得すると、HRB制限マップを参照して、HRBインバータ温度に関係付けられたHRB上限揚程を算出する。
HRB制限マップは、HRBインバータ温度が0から所定の閾値までの温度域においてはHRB上限揚程が一定の値に設定されている。この温度域は、インバータのスイッチング素子の温度が高くなり過ぎず、スイッチング素子が損傷するおそれが極めて低い温度域である。
また、HRB制限マップは、HRBインバータ温度が所定の閾値よりも高い温度域においてはHRBインバータ温度が高くなるほどHRB上限揚程が小さくなるように設定されている。この温度域では、スイッチング素子の温度が上限温度を超えないように、アノード循環ポンプ36への供給電力が制限される。
なお、本実施形態ではアノード循環ポンプ36用インバータの温度を用いてHRB上限揚程を演算する例について説明したが、インバータの温度の代わりにインバータ内のスイッチング素子の温度や、アノード循環ポンプを駆動するモータの温度などが用いられてもよい。このようなパラメータを用いたとしてもHRB上限揚程の算出誤差を小さくすることが可能となる。
加算器313は、HRB上限揚程とエゼクタ予測揚程とを加えることにより、エゼクタ34及びアノード循環ポンプ36による確保可能揚程を算出する。ここにいう確保可能揚程とは、エゼクタ34及びアノード循環ポンプ36の双方を用いてアノード排ガスを昇圧することが可能な昇圧量の上限値のことである。
HRB要求圧力演算部314は、負荷装置5からの要求負荷に基づいて、アノード循環ポンプ36の動力を軽減するために要求されるアノード圧力を示すHRB要求アノード圧力を演算する。さらにHRB要求圧力演算部314は、加算器313からの確保可能揚程に応じてHRB要求アノード圧力を補正する。
本実施形態では、図16に示すように、アノード循環系の確保可能揚程ごとに、要求負荷とHRB要求アノード圧力との関係を示すHRB動力軽減マップが、HRB要求圧力演算部314に格納されている。HRB要求圧力演算部314は、負荷装置5から要求負荷を取得すると共に加算器313から確保可能揚程を取得すると、その確保可能揚程に対応するHRB動力軽減マップを参照し、取得した要求負荷に関係付けられたHRB要求アノード圧力を算出する。
HRB動力軽減マップは、要求負荷が高くなるほどHRB要求アノード圧力が小さくなるように設定される。これは、図2(a)に示したように要求負荷が高くなるほどエゼクタ34の揚程が大きくなるため、高負荷域ではアノード循環ポンプ36の動力を低減することが可能になるからである。
さらに、低負荷域における要求負荷に対するアノード圧力の傾き(低下率)が高負荷域のものよりも大きくなっている。これは、低負荷域においてアノード循環ポンプ36の動力が増加するので、低負荷域において要求負荷が低くなるほどHRB要求アノード圧力を大きくすることでアノード循環ポンプ36の動力を高負荷域よりも軽減することが可能になるからである。これにより、アノード循環ポンプ36の動力を低減することができ、アノード循環ポンプ36を小型にすることが可能になる。
また、HFR動力軽減マップは、アノード循環系の確保可能揚程が大きくなるほど、HRB要求アノード圧力が小さくなるように設定される。これは、エゼクタ34及びアノード循環ポンプ36によるトータルの揚程が十分に確保されている状態であってもアノード圧力を高くして無用にアノードガス供給量を増やしたり、アノード圧力とカソード圧力との差圧を大きくしたりするのを抑制するためである。これにより、高負荷域では、図2(a)に示したようにエゼクタ34の揚程が十分に大きくなることから、アノード圧力の増加を小さくすることができる。
上述のようにHRB動力軽減マップを設定することにより、図3(b)及び図10(b)に示したように、低負荷域においてアノード循環ポンプ36の消費電力のピークを低減しつつ、高負荷域においてアノード圧力とカソード圧力との差圧を小さくすることが可能になる。
HRB要求圧力演算部314は、算出したHRB要求アノード圧力を昇圧設定部321に出力する。
酸素消費量演算部315は、図9に示した酸素消費量演算部252と同様、負荷装置5からの要求負荷に予め定められた換算値を乗じて、燃料電池スタック1における酸素消費流量を演算する。
Ca排ガス流量演算部316は、Ca流量演算部350からのカソードガスの目標流量から酸素消費流量を減じて、燃料電池スタック1から排出されるカソード排ガスの流量を示すカソード排ガス流量を演算する。
Comp要求圧力演算部317は、コンプレッサ22の動力を軽減するために要求されるアノード圧力を示すComp要求アノード圧力を演算する。また、Comp要求圧力演算部317は、大気圧センサ201からの大気圧力値に応じて、Comp要求アノード圧力を補正する。
ここにいうComp要求アノード圧力は、カソード排ガスのみを用いてパージガス中の水素を希釈することができるアノード圧力の上限値を示すパラメータである。ここにいうパージガス中の水素を希釈することができるとは、燃料電池システム101の排ガス中の水素濃度を規定値以下に維持することができるという意味である。すなわち、Comp要求アノード圧力は、コンプレッサ22の消費電力の増加を抑制するためにHRB要求アノード圧力を制限するパラメータである。
本実施形態では、図17に示すように、大気圧ごとに、燃料電池スタック1のカソード排ガス流量とComp要求アノード圧力との関係を示すComp制限マップがComp要求圧力演算部317に格納されている。Comp要求圧力演算部317は、Ca排ガス流量演算部316からカソード排ガス流量を取得すると共に、大気圧センサ201から大気圧力値を取得する。そして、Comp要求圧力演算部317は、その大気圧力値に対応するComp制限マップを参照して、取得したカソード排ガス流量に関係付けられたComp要求アノード圧力を算出する。
Comp制限マップは、カソード排ガス流量が大きくなるほど、Comp要求アノード圧力が大きくなるように設定される。これは、カソード排ガス流量が大きくなるほど、コンプレッサ22の動力を増加させることなくアノード圧力の増加幅を大きくすることが可能になるからである。
さらにComp制限マップは、大気圧力値が大きくなるほど、Comp要求アノード圧力が大きくなるように設定される。これは、大気圧力値が大きくなるほど、アノード電極からカソード電極への水素リーク量、及びパージ弁39から大気へのパージガスの排出量が少なくなり、その分だけアノード圧力を高くすることが可能になるからである。
このように、Comp要求圧力演算部317は、Comp制限マップを用いて、燃料電池スタック1からのカソード排ガス流量だけでパージガスを希釈することが可能なアノード圧力の上限値を算出する。これにより、コントローラ200は、パージガスの希釈に必要となるカソードガス希釈流量が燃料電池スタック1へのカソードガスの供給流量以下となるようにアノード圧力を増加させることが可能になる。
Comp要求圧力演算部317は、算出したComp要求アノード圧力を昇圧設定部321に出力する。
許容差圧値保持部318は、カソード圧力とアノード圧力との差圧について、燃料電池スタック1の電解質膜が許容できる差圧の上限値を示す許容差圧上限値を保持する。
膜保護要求圧力算出部319は、カソード圧力センサ25からのカソード圧力値に対し上述の許容差圧上限値を加えることにより、電解質膜を保護するために要求されるアノード圧力を示す膜保護要求アノード圧力を算出する。膜保護要求圧力算出部319は、膜保護要求アノード圧力を昇圧設定部321に出力する。
昇圧設定部321は、HRB要求アノード圧力と、Comp要求アノード圧力と、膜保護要求アノード圧力とのうち、最も小さな値を昇圧要求アノード圧力としてAn目標圧力設定部324に出力する。
例えば、要求負荷が、図10の負荷点L1から負荷点L2までの第2負荷域にあるときには、HRB要求アノード圧力がComp要求アノード圧力よりも大きくなるため、昇圧設定部321は、Comp要求アノード圧力を昇圧要求アノード圧力に設定する。
また、要求負荷が、図10の負荷点L2から負荷点L3までの第3負荷域にあるときには、HRB要求アノード圧力がComp要求アノード圧力よりも小さくなるため、昇圧設定部321は、HRB要求アノード圧力を昇圧要求アノード圧力に設定する。
通常差圧値保持部322は、通常の発電制御中におけるカソード圧力とアノード圧力との極間差圧の基準値を示す通常差圧基準値を保持する。例えば、通常差圧基準値は、ゼロ(0)又は差圧制御の誤差を考慮した値に設定される。
等圧制御圧力算出部323は、カソード圧力センサ25からのカソード圧力値に対して上述の通常差圧基準値を加えることにより、カソード圧力とアノード圧力とを互いに等しくするためのアノード圧力を示す等圧制御アノード圧力を算出する。等圧制御圧力算出部323は、等圧制御アノード圧力をAn目標圧力設定部324に出力する。これにより、電解質膜の耐久性を維持することが可能になると共に、パージガスの増加が抑えられてコンプレッサ22の動力を抑制することが可能になる。
An目標圧力設定部324は、昇圧要求アノード圧力と等圧制御アノード圧力とのうち、大きい方の値をアノードガスの目標圧力として設定する。そして、An目標圧力設定部324は、アノードガスの目標圧力をAn調圧弁FB制御器320に出力する。
図18は、本実施形態におけるHRB回転数演算部330の詳細構成例を示すブロック図である。
HRB回転数演算部330は、発電要求回転数演算部331と目標回転数設定部332とを含む。
発電要求回転数演算部331は、図7に示したHRB回転数演算部330と同じ機能を有する。発電要求回転数演算部331には、図7に示したHRB制御マップと同じ内容のマップが格納されており、発電要求回転数演算部331は、負荷装置5からの要求負荷を取得すると、上述のマップを参照して発電要求HRB回転数を算出する。発電要求HRB回転数は、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノード循環ポンプ36の回転数を示すパラメータである。
目標回転数設定部332は、発電要求HRB回転数と、膜湿潤FB制御器370からの湿潤要求HRB回転数とのうち、大きい方の値をアノード循環ポンプ36の目標回転数として設定する。
インピーダンス測定装置6からのHFRが目標HFRよりも大きい場合、すなわち電解質膜が乾き気味である場合において要求負荷が高負荷域にあるときには、湿潤要求HRB回転数が発電要求HRB回転数よりも大きくなる。このような場合には、目標回転数設定部332は、湿潤要求HRB回転数を目標回転数に設定して、その目標回転数をアノード循環ポンプ36に出力する。これにより、アノード排ガスの循環流量が大きくなり、電解質膜が湿り易くなる。
図19は、本実施形態におけるCa圧力演算部340の詳細構成例を示すブロック図である。
Ca圧力演算部340は、発電要求圧力演算部341と、許容差圧値保持部342と、膜保護要求圧力算出部343と、目標圧力設定部344とを含む。
発電要求圧力演算部341は、負荷装置5からの要求負荷に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要な酸素分圧を確保するためのカソード圧力を示す発電要求カソード圧力を演算する。
本実施形態では、燃料電池スタック1に対する要求負荷と発電要求カソード圧力との関係を示す酸素分圧制御マップが、発電要求圧力演算部341に格納されている。発電要求圧力演算部341は、負荷装置5から要求負荷を取得すると、酸素分圧制御マップを参照して、要求負荷に関係付けられた発電要求カソード圧力を算出する。
酸素分圧制御マップは、要求負荷が大きくなるほど発電要求カソード圧力が大きくなるように設定されている。これは、要求負荷が大きくなるほど、電解質膜における酸素消費量が多くなるからである。
許容差圧値保持部342は、電解質膜の耐圧を考慮して定められた許容差圧上限値を保持する。許容差圧上限値は、図13の許容差圧値保持部318に保持された値と同じである。
膜保護要求圧力算出部343は、アノード圧力センサ37からのアノード圧力値から許容差圧上限値を減じて、電解質膜を保護するのに要求されるカソード圧力を示す膜保護要求カソード圧力を演算する。膜保護要求圧力算出部343は、その膜保護カソード圧力を目標圧力設定部344に出力する。
目標圧力設定部344は、膜湿潤FB制御器370からの湿潤要求カソード圧力と、発電要求カソード圧力と、膜保護要求カソード圧力とのうち、最も大きな値をカソードガスの目標圧力として設定する。目標圧力設定部344は、カソードガスの目標圧力をCa流量・圧力FB制御器360に出力する。
このように、Ca圧力演算部340は、燃料電池スタック1に対する湿潤要求や、発電要求、膜保護要求などの要求に応じて、燃料電池スタック1に供給すべきカソードガスの目標圧力を算出する。すなわち、コントローラ200は、燃料電池スタック1の発電状態や、湿潤状態、差圧状態などの運転状態に応じて、燃料電池スタック1のカソード圧力が燃料電池スタック1に対して要求されるカソードガス圧力となるようにアノード調圧弁33の開度を制御する。そして、図13に示したAn圧力演算部310の等圧制御圧力算出部323は、カソード圧力センサ25からのカソード圧力値に対してアノード圧力が概ね等しくなるように、等圧制御アノード圧力を算出する。
図20は、本実施形態におけるCa流量演算部350の詳細構成例を示すブロック図である。
Ca流量演算部350は、発電要求流量演算部351と、FC要求流量設定部352と、酸素消費量演算部353と、Ca排ガス流量演算部354と、希釈要求流量算出部355と、Comp目標流量設定部356とを含む。
発電要求流量演算部351は、図9に示したCa流量演算部250と同じ機能を有する。発電要求流量演算部351には、図20に示すように、図9のCa流量制御マップと同じマップが格納されており、発電要求流量演算部351は、負荷装置5からの要求負荷を取得すると、Ca流量制御マップを参照して発電要求カソード流量を算出する。
FC要求流量設定部352は、膜湿潤FB制御器370からの湿潤要求カソード流量と発電要求カソード流量とのうち大きい方の値をFC要求カソード流量として設定する。ここにいうFC要求カソード流量は、燃料電池スタック1に対する発電要求や湿潤要求などの要求によって定められる燃料電池スタック1へのカソードガスの供給流量を示すパラメータである。
FC要求流量設定部352は、FC要求カソード流量をカソード目標流量として、An圧力演算部310及びCa流量・圧力FB制御器360に出力する。
酸素消費量演算部353、Ca排ガス流量演算部354及び希釈要求流量算出部355は、それぞれ、図9に示した酸素消費量演算部252、Ca排ガス流量演算部253及び希釈要求流量算出部254に対して同じ機能を有する。このため、これらの構成についてはここでの説明を省略する。
Comp目標流量設定部356は、FC要求カソード流量と希釈要求コンプレッサ流量とのうち大きい方の値を、コンプレッサ目標流量としてCa流量・圧力FB制御器360に出力する。
本実施形態のコントローラ200についても、図10に示したように、燃料電池スタック1の低負荷域においてアノード圧力をカソード圧力に比して大きくする。
An圧力演算部310では、図10(a)に示したように、負荷点L1から負荷点L4までの第2乃至第4負荷域においてHRB要求アノード圧力がカソード圧力値を上回る。そして、図10(d)に示したように負荷点L1からL2までの第2負荷域において、HRB要求アノード圧力はComp要求アノード圧力により制限される。
これにより、希釈要求コンプレッサ流量がFC要求カソード流量以下となるように、アノード圧力を増加させることが可能になる。このため、An圧力演算部310は、コンプレッサ22の消費電力の増加を抑制しつつ、アノード循環ポンプ36の消費電力を低減することができる。
本発明の第3実施形態によれば、燃料電池システム101は、燃料電池スタック1からのアノード排ガスに含まれる不純物を排出するパージ弁39と、パージ弁39から排出されるパージガスを燃料電池スタック1からのカソード排ガスを用いて希釈する通路を構成する不純物排出通路38及びカソードガス排出通路26とを含む。
そして、コントローラ200のAn圧力演算部310は、カソード目標流量に基づいて、パージガスの希釈に必要となるカソードガス希釈流量が、燃料電池スタック1から排出されるカソード排ガス流量以下となるよう、アノードガス圧力の増加量を制御する。
本実施形態では、An圧力演算部310のComp要求圧力演算部317に格納されたマップに、燃料電池スタック1からのカソード排ガス流量だけでパージガスを希釈できるアノード圧力の上限値を示すComp要求アノード圧力が設定されている。このため、Comp要求圧力演算部317は、そのマップに従って、Comp要求アノード圧力を算出して昇圧設定部321に出力する。
これにより、低負荷域において、HRB要求アノード圧力がカソード圧力よりも大きくなってComp要求アノード圧力を上回ったとしても、昇圧設定部321によりComp要求アノード圧力がアノードガスの目標圧力として設定される。このため、アノードガスの目標圧力はComp要求アノード圧力よりも大きな値になることはない。
したがって、コントローラ200は、パージガスの希釈に必要となるカソードガス希釈流量が燃料電池スタック1のカソード排ガス流量以下となるよう、アノード圧力の増加量を増加又は減少させることが可能になる。これにより、アノード循環ポンプ36の消費電力を低減しつつ、コンプレッサ22の消費電力の増加を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、膜保護要求圧力算出部319は、カソード圧力値に許容差圧の上限値を加算した値を示す膜保護要求アノード圧力を昇圧設定部321に出力する。これにより、An圧力演算部310において、HRB要求アノード圧力及びComp要求アノード圧力が共に膜保護要求アノード圧力よりも大きくなったとしても、昇圧設定部321により膜保護要求アノード圧力がアノードガスの目標圧力として設定される。
したがって、コントローラ200は、アノード圧力とカソード圧力との極間差圧が電解質膜の許容差圧以下となるように、アノード圧力の増加量を制限することが可能になる。これにより、アノード循環ポンプ36の消費電力を低減しつつ、電解質膜の耐久性が低下して発電性能が低下するのを回避することができる。
上記の各実施形態では、高負荷域において極間差圧が小さくなるようにアノード圧力及びカソード圧力を等圧制御する例について説明したが、これに限られるものではない。例えば、燃料電池スタック1における電解質膜の耐久性の高い燃料電池システムにおいては、次図に示すように、燃料電池スタック1の発電に必要となる圧力値にアノード圧力を制御するようにしてもよい。
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態におけるコントローラ200について説明する。本実施形態のコントローラ200の基本構成は、図5に示したコントローラの構成と同様であるが、An圧力演算部210のメモリに保持されたマップの設定内容が異なる。
図21は、本発明の第4実施形態におけるコントローラ200によるアノード圧力制御の一例を示す図である。
図21には、本実施形態のコントローラ200による圧力制御を実行したときのアノード圧力の変化が実線により示され、中高負荷において等圧制御を実行したときのアノード圧力の変化が破線により示されている。
図21に示すように、本実施形態のコントローラ200は、低負荷域においては図10(a)の太線のように、要求負荷に対するアノード圧力の特性が凸部を有するようにアノード調圧弁33の開度を制御する。
高負荷域においては、本実施形態のコントローラ200は、他の実施形態とは異なり、アノード圧力を燃料電池スタック1の発電に必要となる圧力値に制御する。これにより、図21の実線で示すように、破線で示された等圧制御に比べて、要求負荷に対するアノード圧力の勾配は小さくなる。
例えば、コントローラ200は、図21の実線で示すような要求負荷とアノードガスの目標圧力との関係を示した圧力制御マップを、図6に示したAn圧力演算部210のメモリに保持し、この圧力制御マップに従ってアノード圧力を目標圧力に制御する。なお、燃料電池スタック1の発電に必要となる圧力値を考慮したうえで、圧力制御マップの要求負荷に対するアノード圧力の勾配をゼロにしてもよい。
あるいは、図13に示したAn圧力演算部310の構成のうち、通常差圧値保持部322、等圧制御圧力算出部323、及びAn目標圧力設定部324を省略して、昇圧設定部321の出力をアノードガスの目標圧力としてもよい。このような構成であっても、図21のように、高負荷域において、等圧制御に比べて要求負荷が高くなるほど緩やかにアノード圧力が大きくなったり、あるいは、アノード圧力が一定になったりする。
本発明の第4実施形態によれば、エゼクタ34及びアノード循環ポンプ36を備える燃料電池システム100のコントローラ200は、メモリを有するAn圧力演算部210を備える。An圧力演算部210のメモリは、燃料電池スタック1の負荷が低いときには負荷が高いときに比して燃料電池スタック1の発電に必要となるアノード圧力よりも大きな値をアノードガスの目標圧力に設定したマップを保持する。コントローラ200は、燃料電池スタック1に対する要求負荷を取得すると、そのマップを参照して、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を目標圧力に制御する。
これにより、コントローラ200は、簡易な構成により、燃料電池スタック1の低負荷域において、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノードガス圧力値よりも高くすることが可能になる。したがって、コントローラ200の演算負荷を軽減しつつ、アノード循環ポンプ36の消費電力を低減することができるようになる。
さらに本実施形態によれば、図6に示したように、An圧力演算部210のマップは、燃料電池スタック1の負荷が高くなるほどアノードガスの目標圧力が大きくなり、かつ、負荷が低い負荷域において目標圧力の特性が凸部を有するように設定される。
このように、第2実施形態と同様、低負荷域においては希釈要求コンプレッサ流量が発電要求カソード流量を超えない範囲でアノード圧力を増加させることにより、コンプレッサ22の消費電力の増加を抑制しつつアノード循環ポンプ36を小型化することができる。
さらに本実施形態では、図21に示したように、負荷が高い負荷域においてアノードガスの目標圧力の勾配がカソードガスの目標圧力の勾配よりも小さくなるように設定される。
このように、高負荷域においてはアノード圧力をカソード圧力よりも小さくすることにより、アノード電極から電解質膜を介してカソード電極に透過してくる水素のリーク量が少なくなるので、燃料電池システム100の燃費を改善することができる。
さらに、図10(b)に示したエゼクタ34の揚程が上昇する負荷点L2を例えば負荷点L1へ移動させることが可能となる。その結果、低負荷域でエゼクタ34の揚程が高くなるため、アノード循環ポンプ36の要求動力が小さくなり、アノード循環ポンプ36の消費電力を低減することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、図10(a)では低負荷域のうち負荷点L1から負荷点L4までの負荷域のみ、カソードガス圧力とアノードガス圧力との極間差圧を大きくする例について説明したが、コンプレッサ22の消費電力の増加が軽微であれば0から負荷点L1までの負荷域においても極間差圧を大きくしてもよい。このようにしてもアノード循環ポンプ36の消費電力を低減することができる。
また、本実施形態ではエゼクタ34を介して燃料電池スタック1にアノードガスを供給するアノードガス供給装置をアノード調圧弁33により構成したが、インジェクタやポンプなどにより構成するようにしてもよい。
また、本実施形態では図9及び図20に示したようにコンプレッサ目標流量を演算するにあたりFC要求流量と希釈要求コンプレッサ流量とを考慮したが、コンプレッサ22のサージングの発生を回避するのに必要となるサージ回避要求コンプレッサ流量をさらに考慮するようにしてもよい。
また、本実施形態では図19に示したようにカソードガスの目標圧力を演算するにあたり、湿潤要求、発電要求、膜保護要求を考慮したが、これに加えて、コンプレッサ22の下流にある部品の過熱を回避するために要求される部品保護要求を考慮するようにしてもよい。
なお、上記各実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
本願は、2016年3月15日に日本国特許庁に出願された特願2016−51472に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。