以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。尚、各図は実施形態を説明するための模式図に過ぎず、例えば図中の各要素の寸法は必ずしも現実のものを反映するものではない。また、図中において同一の要素には同一の参照番号を付しており、本明細書において重複する内容については説明を省略する。
図1および図2は、第1実施形態に係る車両1の構成を説明するための図である。図1は、以下で説明される各要素の配置位置および要素間の接続関係を、車両1の上面図および側面図を用いて示す。図2は、車両1のシステムブロック図である。
尚、以下の説明において、前/後、上/下、側方(左/右)などの表現を用いる場合があるが、これらは、車両1の車体を基準に示される相対的な方向を示す表現として用いられる。例えば、「前」は車体の前後方向における前方を示し、「上」は車体の高さ方向を示す。
車両1は、操作機構11、周辺監視装置12、制御装置13、駆動機構14、制動機構15、操舵機構16、及び、乗員監視装置17を備える。尚、本実施形態では車両1は四輪車とするが、車輪の数はこれに限られるものではない。
操作機構11は、加速用操作子111、制動用操作子112、及び、操舵用操作子113を含む。典型的には、加速用操作子111はアクセルペダルであり、制動用操作子112はブレーキペダルであり、また、操舵用操作子113はステアリングホイールである。しかし、これらの操作子111〜113には、レバー式、ボタン式等、他の方式のものが用いられてもよい。
周辺監視装置12は、カメラ121、レーダ122、及び、ライダ(Light Detection and Ranging(LiDAR))123を含み、これらは何れも車両(自車両)1の周辺環境を監視ないし検出するためのセンサとして機能する。カメラ121は、例えばCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等を用いた撮像装置である。レーダ122は、例えばミリ波レーダ等の測距装置である。また、ライダ123は、例えばレーザレーダ等の測距装置である。これらは、図1に例示されるように、車両1の周辺環境を検出可能な位置、例えば、車体の前方側、後方側、上方側および側方側にそれぞれ配される。
上述の車両1の周辺環境の例としては、車両1の走行環境およびそれに関連する車両1周辺の環境(車線の延設方向、走行可能領域、信号機の色など)、車両1周辺のオブジェクト情報(他車両、歩行者、障害物などのオブジェクトの有無、そのオブジェクトの属性、位置、移動の向きや速さなど)等が挙げられる。この観点で、周辺監視装置12は、車両1の周辺情報を検出するための検出装置等と表現されてもよい。
制御装置13は、車両1を制御可能に構成され、例えば、操作機構11、周辺監視装置12、及び/又は、後述の乗員監視装置17からの信号に基づいて、各機構14〜16を制御する。制御装置13は複数のECU(電子制御ユニット)131〜135を含む。各ECUは、CPU、メモリおよび通信インタフェースを含む。各ECUは、通信インタフェースを介して受け取った情報(データないし電気信号)に基づいてCPUにより所定の処理を行い、その処理結果を、メモリに格納し、或いは、通信インタフェースを介して他の要素に出力する。
ECU131は、加速用ECUであり、例えば、運転者による加速用操作子111の操作量に基づいて後述の駆動機構14を制御する。
ECU132は、制動用ECUであり、例えば、運転者による制動用操作子112の操作量に基づいて制動機構15を制御する。制動機構15は、例えば、各車輪に設けられたディスクブレーキである。
ECU133は、操舵用ECUであり、例えば、運転者による操舵用操作子113の操作量に基づいて操舵機構16を制御する。操舵機構16は、例えば、パワーステアリングを含む。
ECU134は、周辺監視装置12に対応して設けられた解析用ECUである。ECU134は、周辺監視装置12により得られた車両1の周辺環境に基づいて所定の解析/処理を行い、その結果をECU131〜133に出力する。例えば、ECU134は、信号機の色に応じて車両1が発進/停止し、車線に沿って車両1が旋回するように、ECU131〜133に制御信号を出力する。
ECU135は、乗員監視装置17に対応して設けられた解析用ECUである。乗員監視装置17は、本実施形態では、車内に設置されたカメラ171を含み、このカメラ171を用いて乗員の撮像画像を取得することができる。詳細については後述とするが、ECU135は、この撮像画像を乗員監視装置17から受け取って乗員の感情を推定(或いは、解析、評価等と表現されてもよい。)し、その結果をECU131〜133に出力する。
即ち、ECU131〜133は、ECU134及び/又はECU135からの信号に基づいて各機構14〜16を制御することができる。このような構成により、制御装置13は、周辺環境に応じた車両1の走行制御を行い、例えば自動運転を行うことができる。
本明細書において、自動運転は、運転操作(加速、制動および操舵)の一部または全部を、運転者側ではなく、制御装置13側で行うことをいう。即ち、自動運転の概念には、運転操作の全部を制御装置13側で行う態様(いわゆる完全自動運転)の他、運転操作の一部のみを制御装置13側で行う態様(いわゆる運転支援)が含まれる。運転支援の例としては、車速制御(オートクルーズコントロール)機能、車間距離制御(アダプティブクルーズコントロール)機能、車線逸脱防止支援(レーンキープアシスト)機能、衝突回避支援機能等が挙げられる。
尚、制御装置13は本構成に限られるものではない。例えば、各ECU131〜135にはASIC(特定用途向け集積回路)等の半導体装置が用いられてもよい。即ち、各ECU131〜135の機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの何れによっても実現可能である。また、ECU131〜135の一部または全部は、単一のECUで構成されてもよい。
図3は、車両1の構成の一部、特に駆動機構14およびECU135、を説明するためのブロック図である。本実施形態では、駆動機構14は、動力源141および自動変速機142を含む。動力源141には、内燃機関が用いられるものとするが、他の実施形態として電動機が用いられてもよい。自動変速機142は、トルクコンバータ1421および変速機構1422を含み、このような構成により、動力源141の動力(回転数)を所定の変速比に基づいて変速し、不図示の伝達機構を介して車輪に該動力を伝達する。
トルクコンバータ1421は、動力源141の出力軸と変速機構1422の入力軸との間に配された流体継手型の発進デバイスであり、動力源141の動力を、流体(例えばオイル)を介して変速機構1422に伝達することができる。本実施形態では、トルクコンバータ1421として、動力源141の出力軸と変速機構1422の入力軸とを直結可能なロックアップクラッチ1421Aを含むロックアップクラッチ付トルクコンバータが用いられる。ロックアップクラッチ1421Aが駆動されて動力源141の出力軸と変速機構1422の入力軸とが機械的に連結された状態(直結状態)では、動力源141の動力は直接的に変速機構1422に伝達される。一方、ロックアップクラッチ1421Aが駆動されていない状態(解放状態)では、動力源141の動力は流体を介して変速機構1422に伝達される。また、ロックアップクラッチ1421Aは、部分的に駆動されることで直結状態および解放状態の中間状態(動力源141の出力軸と変速機構1422の入力軸との間で滑動可能に係合している状態)をとることも可能であり、その駆動量を制御することにより動力源141の動力の伝達効率を調整することも可能である。
変速機構1422には、本実施形態では、複数の遊星歯車機構および複数の係合機構(例えばクラッチ、ブレーキ等)を含むプラネタリギア式変速機構が用いられる。変速機構1422は、制御装置13からの信号に基づいて各係合機構を制御して動力源141からの動力の伝達経路を切り替えることで複数の変速比の1つを選択的に形成し、これにより変速段が決定される。このような構成により、変速機構1422は、変速段に応じた変速比で動力源141の動力を変速して出力する。
例えばKを1以上の整数として、選択中の変速段をK速段から(K+1)速段に変えることをシフトアップといい、また、選択中の変速段を(K+1)速段からK速段に変えることをシフトダウンという。シフトアップの例としては、加速時に1速段から2速段に変えて変速比を下げる場合が挙げられる。シフトダウンの例としては、減速時に4速段から3速段に変えて変速比を上げる場合が挙げられる。また、シフトアップおよびシフトダウンをまとめてシフトチェンジ(変速操作)という。
ECU135は、前述のとおり、乗員の撮像画像を乗員監視装置17から受け取り、その乗員の感情を推定することができる。本実施形態では、ECU135は、CPU1351、メモリ1352、及び、通信インタフェース1353を含み、所定のプログラムに基づく画像解析により上記推定を行う。詳細については後述とするが、メモリ1352には参照テーブルTSが保持され、制御装置13は、ECU135による上記推定の結果に応じた参照テーブルTSを参照することで、車両1の走行制御態様を適切なものにする。
車両1の走行制御態様は、例えば車両1の運動特性の設定に従う。運動特性は、運転操作に対する車両1の挙動の応答性であり、例えば加減速特性(加速特性および減速特性)の設定を変更することで、運動特性を向上させ又は制限することが可能である。例えば、加減速特性を高くすると運動特性が向上し、加減速特性を低くすると運動特性が制限される。換言すると、運動特性が向上すると、加速時や減速時に乗員に加わる車両前後方向の加速度は大きくなる。また、旋回時においては車両1に遠心力が加わるため、運動特性が向上すると、旋回時に乗員に加わる車両左右方向の加速度は大きくなる。一方、運動特性が制限されると上記加速度は小さくなる。
尚、本明細書において、運動特性や加減速特性等が向上するといった表現は、それらの応答性が良くなること、或いは、その特性を示す数値(大きさ、強さ等)が大きくなること、をいう。例えば、運動特性を向上させる/高くすることは、運転操作が変化したことに対して、その変化に応じた車両1の挙動が、より短時間で表れることをいう。例えば、加速特性を制限する/低くすることは、加速操作(自動運転の場合、制御装置13による加速指示)に対して、それに応じた車速の変化が現れるまでの時間が、より長くなること、或いは、該加速操作により生じる加速度が小さくなること、をいう。
加減速特性は、例えば動力源141や自動変速機142の制御態様に従うため、これらの制御態様に基づいて上記運動特性を変更することができる。例えば、内燃機関である動力源141については、燃料噴射量及び/又はスロットル開度を大きくすると、動力源141の動力が大きくなり、加減速特性が高くなって運動特性は向上する。例えば、自動変速機142のトルクコンバータ1421については、ロックアップクラッチ1421Aの駆動速度及び/又は駆動タイミングを早くすると、動力源141の動力が短時間で変速機構1422に伝達され、加減速特性が高くなって運動特性が向上する。また、変速機構1422については、クラッチやブレーキ等の各係合機構の駆動速度及び/又は駆動タイミングを早くすると、シフトチェンジに要する時間(動力の伝達経路の切り替えに要する時間)が短くなり、加減速特性が高くなって運動特性が向上する。
詳細については後述とするが、運動特性を向上させると、一般に、車両1に生じる加速度や動力源141の振動が大きくなり、乗り心地が低下して乗員に加わる負担が大きくなる。即ち、運動特性と乗り心地とは一般にトレードオフの関係である。
図3に示されるように、参照テーブルTS(TS1、TS2、TS3、TS4等)には、多様な運動特性を選択的に実現するための制御設定(例えばパラメータ)が規定されている。例えば、参照テーブルTS1には運動特性の標準設定が規定されており、制御装置13は、この参照テーブルTS1に基づいて動力源141および自動変速機142を制御することで、標準の運動特性で車両1を制御することができる。例えば、参照テーブルTS2には、上記標準設定とは異なる他の運動特性の設定が規定されており、制御装置13は、この参照テーブルTS2に基づいて動力源141および自動変速機142を制御することで、該他の運動特性で車両1を制御することができる。制御装置13は、ECU135による上記推定の結果に応じた参照テーブルTSを参照することで、動力源141や自動変速機142の制御態様を決定し、所望の運動特性の車両1を適切に制御する。
各参照テーブルTSに規定されている上記制御設定の例としては、例えば、動力源141における燃料噴射量およびスロットル開度の制御設定、ロックアップクラッチ1421Aの制御設定、変速機構1422の制御設定、等が挙げられる。ロックアップクラッチ1421Aの制御設定の例としては、例えば、ロックアップクラッチ1421Aの駆動速度および駆動タイミングが挙げられる。変速機構1422の制御設定の例としては、クラッチやブレーキ等の各係合機構の駆動速度および駆動タイミングが挙げられる。
上述の運動特性に加え、自動運転においては、制御装置13による車両1の走行制御態様は、例えば車間距離(主に車両1とその先行車両との距離)の設定にも従う。自動運転の際には車間距離をどの程度に維持するかは、制御装置13にとって必要な情報となる。そのため、本実施形態では、各参照テーブルTSには、所望の車間距離特性を実現するための制御設定も規定されている。一般に、車間距離を小さく設定すると、自車両1と先行車両との間に他車両が進入する可能性が低くなるため、目的地に早期に到着可能となる一方で、急停止(急ブレーキ)が必要となる場合がある。また、車間距離を大きく設定すると、急停止を回避可能となるため、より安全な走行が可能となる一方で、目的地への到着に要する時間が長くなる場合がある。
尚、詳細については後述とするが、参照テーブルTSは、予め幾つかのものが用意されていてもよいし、必要に応じて制御装置13により新規に生成されてもよい。また、参照テーブルTSは、必要に応じて所定のデータベースから読み出されてメモリ1352に格納されてもよいし、メモリ1352に記憶されていてもよい。
図4は、本実施形態に係る車両1の走行制御方法を説明するためのフローチャートである。本方法の内容は、制御装置13(主にECU135)により行われる。本方法の概要としては、初期設定の走行制御に基づいて自動運転を開始し、その後、乗員の感情に応じて走行制御態様を変更しながら自動運転を継続する。
先ず、ステップS1000(以下、単に「S1000」と示す。他のステップについても同様とする。)では、車両1の動作モードが自動運転モードか否かを判定する。自動運転モードの場合にはS1010に進み、そうでない場合(運転操作の全部を運転者が行う通常モードの場合)には本フローを終了とする。尚、車両1の動作モードとしての通常モード/自動運転モードの切り替えは、車内において運転者(或いは、自動運転を解除した際に運転者となりうる者)が所定のスイッチを押すことで行われうる。
S1010では、自動運転における車両1の走行制御に必要な初期設定を行い、これにより前述の運動特性等の各特性を決定する。本実施形態では、初期設定として標準設定が選択されるものとするが、他の実施形態として、ユーザにより予めカスタマイズされた設定が選択されてもよい。ここでいうユーザとは、例えば、自動運転を解除した際に運転者となりうる者、車両1の所持者等である。
S1020では、車両1の乗員の感情の推定を行う。前述のとおり、この推定は、乗員監視装置17のカメラ171により得られた乗員の撮像画像について画像解析を行うことにより実現可能である。
該推定用ツールとしては、Sentiment Analysis Glassware(Emotient社)、エモスパーク(EmoShape社)等が挙げられる。付随的/代替的に、上記推定は、画像解析の他、音声を検出するマイクロフォン、体温を検出する赤外線センサ、脈拍センサ等を用いた感情解析により行われてもよい。例えば、FMH(フリッカーヘルスマネジメント株式会社)、JINS MEME(株式会社ジェイアイエヌ)、Car Monitoring System(CAARESYS社)等が用いられてもよい。
このS1020では、上記推定の結果として、乗員の感情の度合いを示す評価値(推定値)を生成する。本実施形態では、評価値は次のように生成されるものとする:
‐感情の評価値
評価値: −5 −4 −3 −2 −1 ±0 +1 +2 +3 +4 +5
感情 : 不安 ← 平静 → 苛々
即ち、或る乗員についての評価値が正の方向に大きいほど、その乗員は苛立っていると推定したことを示す。また、この評価値が負の方向に大きいほど、その乗員は不安を感じていると推定したことを示す。また、この評価値が±0に近いほど、その乗員は平静であると推定したことを示す。
或る乗員についての評価値が正の方向に大きいほど、車両1の挙動は、その乗員にとって過度にマイルドであり、その乗員は車両1の挙動がスポーティになることを望んで苛立っていると考えられる。一方、上記評価値が負の方向に大きいほど、車両1の挙動は、その乗員にとって過度にスポーティであり、その乗員は車両1の挙動がマイルドになることを望んでリラックスできずにいると考えられる。即ち、評価値は、大き過ぎても小さ過ぎても乗り心地が良いとは言えず、所定の基準値(ここでは±0)に近いほど良いと言える。
S1030では、S1020での推定結果が所定条件を満たすか否かを判定する。詳細については後述とするが、この所定条件の例としては、上記評価値に基づく演算値が基準範囲内となっていること、より具体的には、何れの乗員についても苛々度及び/又は不安度が過度に高くないこと、が挙げられる。上記推定結果が所定条件を満たす場合にはS1080に進み、そうでない場合にはS1040に進む。
S1040では、走行制御の設定を変更する。詳細については後述とするが、例えば、上記評価値が正の方向に大きくなっており乗員の苛々度が高まっている場合には、車両1の挙動がスポーティなものになるように走行制御の設定を変更する。また、例えば、上記評価値が負の方向に大きくなっており乗員の不安度が高まっている場合には、車両1の挙動がマイルドなものになるように走行制御の設定を変更する。
S1050では、車両1の乗員の感情の再推定を行う。この再推定は、S1020同様、カメラ171により得られた撮像画像の画像解析により行われればよい。
S1060では、S1050での再推定結果に基づいて、S1040での設定の変更によって乗員の感情が改善されたか否かを判定する。乗員の感情が改善されている場合にはS1070に進み、改善というより寧ろ悪化している場合にはS1080に進む。
例えば、S1040では苛々度を改善するために走行制御の設定を変更したにも関わらず、その苛々度は改善されることなく、寧ろ、不安度が悪化している場合には、S1040で変更された設定は元の状態に戻されるべきと言える。また、例えば、苛々度を改善するために設定を変更したにも関わらず、その苛々度が却って悪化しているようでは、S1040での設定の変更は逆効果であったと言える。
そこで、S1070では、走行制御の再設定を行う。詳細については後述とするが、例えば上述の例では、S1040で変更された設定を元の状態に戻し、或いは、S1040で変更とは異なる方針で設定を変更する。
S1080では、車両1の動作モードが自動運転モードを継続するか否かを判定する。自動運転モードを継続する場合にはS1020に戻り、そうでない場合には本フローを終了とする。尚、上述のS1010〜S1080の一連のフローは、自動運転の間、繰り返し行われ、例えば、分単位、秒単位等、所定周期で行われてもよいし、或いは、赤信号等で一時停止した場合、左折/右折を行う場合等の所定条件を契機として行われてもよい。
このように、車両1の走行制御態様を、車両1の乗員の感情に応じたものに変更しながら自動運転を行う。ここで、乗員が複数存在する場合、それら複数の乗員の感情は互いに異なっていることが考えられる。そのため、上述の評価値に基づく走行制御の設定および該設定の変更には、多様な態様が考えられる。このことを、以下、図5及び図6を参照しながら説明する。
[第1の例]
図5は、車両1の走行制御態様の第1の例を示すタイミングチャートである。図中の横軸は時間軸を示す。車両1を例えば4人乗り用として、図中の縦軸には、車両1の4人の乗員A〜Dの感情についての上記評価値をそれぞれ評価値VA〜VDとして示す。また、図中の縦軸には、更に、これら評価値VA等に基づいて苛々度のみを評価した苛々度評価値E1および不安度のみを評価した不安度評価値E2、並びに、総合的な評価結果としての総合評価値ETOTALを示す。
乗員A等についての評価値VA等は、ここでは−5から+5までの範囲内で生成されるものとする。例えば、評価値VAが±0に近いほど乗員Aは平静であり、正の方向に大きくなると苛立ったものと推定され、また、負の方向に大きくなると不安を感じているものと推定される。このことは、乗員B、C及びDに対応する評価値VB、VC及びVDについても同様である。
苛々度評価値E1は、例えば係数mA1、mB1、mC1及びmD1を用いて、
E1=VA×mA1(但し、VA<0の場合は0とする。)
+VB×mB1(但し、VB<0の場合は0とする。)
+VC×mC1(但し、VC<0の場合は0とする。)
+VD×mD1(但し、VD<0の場合は0とする。)、
と与えられる。即ち、苛々度評価値E1は、評価値VA〜VDのうち正のもののみを加重加算することで、得られる(E1≧0)。例えば、
VA=+1、
VB=−5、
VC=−3、及び、
VD=−1、
の場合、
E1=(+1)×mA1、
となる。
上記係数mA1、mB1、mC1及びmD1は、例えば、
mA1+mB1+mC1+mD1=M(固定値(例えば1))
を満たすように、乗員の属性に応じた値が割り当てられる。乗員の属性とは、例えば、その乗員が、運転者としての乗員なのか、単なる同乗者なのか、車内の何れの位置に座っているのか等、車内における各乗員の相対的な立場を関連付けた情報に相当する。
例えば、乗員Aが運転席の乗員の場合には、係数mA1には他の係数mB1、mC1及びmD1の何れよりも大きい値が割り当てられてもよい。この場合、自動運転を終了する際には乗員Aは比較的良好な状態で制御装置13から運転操作を引き継ぐことが可能となる。また、例えば、乗員Dが子供の場合には、係数mD1には他の係数mA1、mB1及びmC1の何れよりも大きい値が割り当てられてもよい。或いは、前列(運転席および助手席)の乗員A及びBに対応する係数mA1及びmB1には、後列の乗員C及びDに対応する係数mC1及びmD1より大きい値が割り当てられてもよい。
即ち、上述の係数mA1〜mD1は、乗員の属性に応じた優先度に相当する。但し、この優先度は設けられなくてもよい(係数mA1〜mD1には同一の値が割り当てられてもよい)し、或いは、係数mA1〜mD1はユーザにより予め所定値に固定されていてもよい。
また、苛々度評価値E1同様、不安度評価値E2は、例えば係数mA2、mB2、mC2及びmD2を用いて、
E2=VA×mA2(但し、VA>0の場合は0とする。)
+VB×mB2(但し、VB>0の場合は0とする。)
+VC×mC2(但し、VC>0の場合は0とする。)
+VD×mD2(但し、VD>0の場合は0とする。)、
と与えられる。即ち、不安度評価値E2は、評価値VA〜VDのうち負のもののみを加重加算することで、得られる(E2≦0)。例えば、上述の例同様、
VA=+1、
VB=−5、
VC=−3、及び、
VD=−1、
の場合、
E2=(−5)×mB2+(−3)×mC2+(−1)×mD2、
となる。
上記係数mA1等同様、係数mA2、mB2、mC2及びmD2は、例えば、
mA2+mB2+mC2+mD2=M(固定値(例えば1))
を満たすように、乗員の属性に応じた値が割り当てられる。尚、係数mA2〜mD2は係数mA1〜mD1同様の値がそれぞれ割り当てられてもよいが、それとは異なるものが割り当てられてもよいし、或いは、ユーザにより予め固定的に設定されていてもよい。
尚、乗員が3人以下の場合には、上記係数mA1〜mD1のうちの一部、及び、係数mA2〜mD2のうちの一部には0が割り当てられればよい。
総合評価値ETOTALは、例えば、
ETOTAL=E1+E2、
で与えられる。他の例として、苛々度および不安度の一方を重視する場合には、総合評価値ETOTALは、評価値E1及びE2の加重加算により与えられてもよい。
また、図中の縦軸には、更に、車両1の走行制御態様を変更するための特性P1〜P5を示す。車両1の走行制御態様は、前述の運動特性等を含む多様な特性の個々の設定を個別に変更することにより、調整することができ、所望の走行制御態様を実現することができる。ここでは、その一例として、車間距離特性P1、ECU131による加速指示の特性P2および減速指示の特性P3、並びに、自動変速機142の変速時間特性P4および変速タイミング特性P5、の5つの特性を例示する。
車間距離特性P1は、自動運転の際に車間距離をどの程度に維持するかを示し、本例では、特性P1の設定は次のとおりとする:
‐車間距離特性P1
設定値 : −2 −1 ±0 +1 +2
車間距離: 大きい ← 標準 → 小さい
前述のとおり、特性P1の設定値を高くすると(車間距離を小さく設定すると)、或る乗員の苛々を解消する可能性がある一方で、他の乗員に不安を生じさせる可能性がある。また、特性P1の設定値を低くすると、或る乗員の不安を解消する可能性がある一方で、他の乗員に苛々を生じさせる可能性がある。
加速指示の特性P2は、車速を上げる際(例えば発進時)にECU131が駆動機構14に対して出力する加速指示信号の信号レベルの変化態様に対応し、該信号レベルの単位時間あたりの変化の程度(速やか/緩やか)を示す。本例では、特性P2の設定は次のとおりとする:
‐加速指示の特性P2
設定値: −2 −1 ±0 +1 +2
加速度: 小さい ← 標準 → 大きい
即ち、特性P2の設定値を高くすると、加速特性が高くなり車両1の挙動はスポーティ(或いは機敏)になるため、或る乗員の苛々を解消する可能性がある一方で、他の乗員に不安を生じさせる可能性がある。また、特性P2の設定値を低くすると、加速特性が低くなり車両1の挙動はマイルド(或いは鈍重)になるため、或る乗員の不安を解消する可能性がある一方で、他の乗員に苛々を生じさせる可能性がある。
減速指示の特性P3は、車速を下げる際にECU132が制動機構15に対して出力する減速指示信号の信号レベルの変化態様に対応し、該信号レベルの単位時間あたりの変化の程度(速やか/緩やか)を示す。本例では、特性P3の設定は次のとおりとする:
‐減速指示の特性P3
設定値: −2 −1 ±0 +1 +2
加速度: 小さい ← 標準 → 大きい
即ち、特性P2同様、特性P3の設定値を高くすると、減速特性が高くなり車両1の挙動はスポーティになるため、或る乗員の苛々を解消する可能性がある一方で、他の乗員に不安を生じさせる可能性がある。また、特性P3の設定値を低くすると、減速特性が低くなり車両1の挙動はマイルドになるため、或る乗員の不安を解消する可能性がある一方で、他の乗員に苛々を生じさせる可能性がある。
尚、一般に、減速は、加速と比べると、運転操作主体(多くの場合は運転者、自動運転の場合には制御装置13)というよりは、先行車両の車線変更が発生した場合等、不測の外的要因に起因して比較的短時間内に必要に迫られることが多い。よって、特性P2及びP3は、共通に設定されてもよいが、個別に設定されることが好ましい。
変速時間特性P4は、ロックアップクラッチ1421Aの駆動速度および変速機構1422の各係合機構の駆動速度に従う。これら駆動速度を変えることで、加減速特性を変更して運動特性を向上させ又は制限することが可能である。本例では、特性P4の設定は次のとおりとする:
‐変速時間特性P4
設定値 : −2 −1 ±0 +1 +2
変速時間: 緩やか ← 標準 → 速やか
即ち、特性P4の設定値を高くすると、加減速特性が高くなり車両1の挙動はスポーティになるため、或る乗員の苛々を解消する可能性がある一方で、他の乗員に不安を生じさせる可能性がある。また、駆動速度特性P4の設定値を低くすると、加減速特性が低くなり車両1の挙動はマイルドになるため、或る乗員の不安を解消する可能性がある一方で、他の乗員に苛々を生じさせる可能性がある。
変速タイミング特性P5は、ロックアップクラッチ1421Aの駆動タイミングおよび変速機構1422の各係合機構の駆動タイミングに従う。これら駆動タイミングを変えることで、加減速特性を変更して運動特性を向上させ又は制限することが可能である。本例では、特性P5の設定は次のとおりとする:
‐変速タイミング特性P5
設定値 : −2 −1 ±0 +1 +2
変速タイミング: 早い ← 標準 → 遅い
即ち、特性P5の設定値を高くすると、加減速特性が高くなり車両1の挙動はスポーティになるため、或る乗員の苛々を解消する可能性がある一方で、他の乗員に不安を生じさせる可能性がある。また、駆動速度特性P5の設定値を低くすると、加減速特性が低くなり車両1の挙動はマイルドになるため、或る乗員の不安を解消する可能性がある一方で、他の乗員に苛々を生じさせる可能性がある。
尚、ここでは特性P1〜P5の設定値として−2から+2までの整数を例示したが、この数値に限られるものではないし、また、該設定値は小数を用いて設定されてもよい。
本明細書では、特性P1〜P5の設定値は、車両1の挙動がスポーティ傾向であることを「+(プラス)」の極性で示し、車両1の挙動がマイルド傾向であることを「−(マイナス)」の極性で示す。車両1の挙動はこの設定値により相対的に表現可能であり、例えば、特性P1〜P5の任意の個々において、設定値+2は、設定値+1に比べて、車両1の挙動がスポーティであることを示す。尚、他の例として、特性P1〜P5の一部/全部について設定値の極性を逆にしてもよく、車両1の挙動がスポーティ傾向であることを「−」で示し、車両1の挙動がマイルド傾向であることを「+」で示すこととしてもよい。
先ず、評価値VA〜VDの初期値を±0とする。初期値には、車両1の走行開始当初の評価値が用いられればよい。即ち、例えば、車両1に乗員A〜Dが乗り込んだ際、動力源141起動後(イグニッションオンの後)、或いは、その後のユーザによる所定の操作に応答して、S1020(図4参照)同様の手順で感情の推定を行い、それにより得られた評価値を基準値(±0)として初期値に設定する。これにより、その後の乗員A〜Dの表情の相対的な変化/差分に基づいて、乗員A〜Dの個々の感情の推移を監視することができる。
尚、本例では、車両1の走行開始当初において、特性P1〜P5は標準に設定されており、即ち、それらの設定値の初期値は何れも±0とする。これら特性P1〜P5の初期値は、詳細については後述とするが、走行開始当初に所定の演算処理に基づいて決定されてもよい。
その後、時刻t1010では、評価値VB〜VDが負の値となり、それに伴い不安度評価値E2が負の値となり、また、総合評価値ETOTALは基準範囲REを超えて負の値となる。このことは、S1020〜S1030(図4参照)に対応し、乗員A〜Dの個々の感情の推定の結果、現状の(時刻t1010時点での)車両1の走行制御が全体的に不安を生じさせていると判定されたことを示す。尚、この基準範囲REは、上限値および下限値が固定的に設定された範囲であってもよいし、ユーザにより設定/変更可能であってもよい。
時刻t1020では、総合評価値ETOTALが基準範囲RE外となったことに応じて、特性P1の設定値±0を下げて、例えば設定値−1にし、これにより、車間距離を大きくする。このことは、S1040(図4参照)に対応し、総合評価値ETOTALを±0に近付けるため、即ち乗員A〜Dに全体的に不安を感じさせないようにするため、走行制御の設定を変更したことを示す。
ここで、時刻t1020では総合評価値ETOTALを±0に近付けるのに特性P1の設定値を変更したが、特性P1〜P5の何れの設定値を変更するかは所定のプログラムに基づいて決められうる(このことは、これ以降の他の設定の変更についても同様とする。)。例えば特性P1〜P5の何れが一般的に乗員の感情への影響が大きいか等を考慮して、設定値の変更の順番について優先度が設けられてもよい。本例では、車間距離が乗員の感情にもたらす影響が比較的大きいため、先ず特性P1の設定値が変更された。
尚、本例では、特性P1〜P5のうちの1つの設定値が順に変更されるものとするが、2以上の設定値が一度に変更されてもよい。
本例では、上記設定値の変更に伴う各評価値E1、E2及びETOTALの悪化はなかったため、時刻t1020での設定値の変更は維持される。このことは、S1050〜S1060(図4参照)に対応する。
ここで、上記特性P1の設定値の変更によっては総合評価値ETOTALは基準範囲RE内とならなかったため、その後の感情の推定によって設定の変更が継続されることとなる(S1020〜S1030)。
時刻t1030では、特性P3の設定値±0を下げて、例えば設定値−1にし、これにより、減速特性を低くして運動特性を制限する。本例では、これに伴い、不安度評価値E2が±0に近付いて総合評価値ETOTALが±0に近付き、即ち乗員の感情が改善されるものとする。尚、本例では、上記設定値の変更に伴う各評価値E1、E2及びETOTALの悪化はなかったため、この設定値の変更は維持される(S1050〜S1060)。また、上記特性P3の設定値の変更によっては総合評価値ETOTALは基準範囲RE内とならなかったため、その後の感情の推定によって設定の変更が更に継続されることとなる(S1020〜S1030)。
時刻t1040では、特性P2の設定値±0を下げて、例えば設定値−1にし、これにより、加速特性を低くして運動特性を制限する。本例では、この設定値の変更によっては、不安度評価値E2が±0に近付くことなく、一方で、苛々度評価値E1が正の値となるものとする。このことは、乗員の不安が解消されてその感情が改善されるというよりは、寧ろ、他の乗員が苛々を感じてその感情が悪化したと言える。
そこで、本例では、時刻t1040での設定値の変更は誤りだったとして、該設定値は時刻t1050において再設定される(S1050〜S1060)。本例では、特性P2の設定値−1は元の状態に戻され、即ち設定値±0にする。尚、総合評価値ETOTALは依然として基準範囲RE内となっていないため、その後の感情の推定によって設定の変更が更に継続されることとなる(S1020〜S1030)。
時刻t1060では、特性P4の設定値±0を下げて、例えば設定値−1にし、これにより、加減速特性を低くして運動特性を制限する。本例では、これに伴い、不安度評価値E2が±0に近付いて総合評価値ETOTALが±0に近付き、即ち乗員の感情が改善されるものとする。尚、本例では、上記設定値の変更に伴う各評価値E1、E2及びETOTALの悪化はなかったため、この設定値の変更は維持される(S1050〜S1060)。
上記特性P4の設定値の変更の結果、総合評価値ETOTALは基準範囲RE内となった。そのため、その後の感情の推定で得られる総合評価値ETOTALが基準範囲RE内である限り(S1020〜S1030)、上述の特性P1〜P5の設定値は維持されることとなる。例えば、その後の任意のタイミングである時刻t1070では、総合評価値ETOTALは基準範囲RE内であるため、特性P1〜P5の設定値は変更されることなく、自動運転が継続されることとなる。
即ち、本例によれば、乗員A〜Dの全員の感情を考慮することで、乗員A〜Dに無用に苛立ち及び不安を感じさせることのない走行制御を適切に実現可能となる。よって、本例によれば、乗員A〜Dの全員にとって、より乗り心地がよく且つストレスのない走行制御を適切に実現可能となる。
[第2の例]
図6は、車両1の走行制御態様の第2の例のタイミングチャートを、前述の第1の例(図5)同様に示す。本例は、主に、車両1の走行制御が全体的に苛々を生じさせていると判定される、という点で第1の例と異なる。
評価値VA〜VDの初期値および特性P1〜P5の設定値の初期値がそれぞれ設定された後、時刻t2010では、評価値VA〜VDが正の値となり、それに伴い苛々度評価値E1が正の値となり、また、総合評価値ETOTALは基準範囲REを超えて正の値となる。このことは、S1020〜S1030(図4参照)に対応し、乗員A〜Dの個々の感情の推定の結果、現状の(時刻t2010時点での)車両1の走行制御が全体的に苛々を生じさせていると判定されたことを示す。
時刻t2020では、特性P1の設定値±0を上げて、例えば設定値+1にし、これにより、車間距離を小さくする。このことは、S1040(図4参照)に対応し、総合評価値ETOTALを±0に近付けるため、即ち乗員A〜Dに全体的に苛々を感じさせないようにするため、走行制御の設定を変更したことを示す。本例では、これに伴い、苛々度評価値E1が±0に近付いて総合評価値ETOTALが±0に近付き、即ち乗員の感情が改善されるものとする。尚、本例では、上記設定値の変更に伴う各評価値E1、E2及びETOTALの悪化はなかったため、この設定値の変更は維持される(S1050〜S1060)。
ここで、上記特性P1の設定値の変更によっては総合評価値ETOTALは基準範囲RE内とならなかったため、その後の感情の推定によって設定の変更が継続されることとなる(S1020〜S1030)。
時刻t2030では、特性P3の設定値±0を上げて、例えば設定値+1にし、これにより、減速特性を高くして運動特性を向上させる。本例では、この設定値の変更によっては、苛々度評価値E1が±0に近付くことなく、一方で、不安度評価値E2が負の値となるものとする。このことは、乗員の苛々が解消されてその感情が改善されるというよりは、寧ろ、他の乗員が不安を感じてその感情が悪化したと言える。
そこで、本例では、時刻t2030での設定値の変更は誤りだったとして、該設定値は時刻t2040において再設定される(S1050〜S1060)。本例では、特性P3の設定値+1は元の状態に戻され、即ち設定値±0にする。尚、総合評価値ETOTALは依然として基準範囲RE内となっていないため、その後の感情の推定によって設定の変更が更に継続されることとなる(S1020〜S1030)。
時刻t2050では、特性P2の設定値±0を上げて、例えば設定値+1にし、これにより、加速特性を高くして運動特性を向上させる。本例では、これに伴い、苛々度評価値E1が±0に近付いて総合評価値ETOTALが±0に近付き、即ち乗員の感情が改善されるものとする。尚、本例では、上記設定値の変更に伴う各評価値E1、E2及びETOTALの悪化はなかったため、この設定値の変更は維持される(S1050〜S1060)。
ここで、上記特性P2の設定値の変更によっては総合評価値ETOTALは基準範囲RE内とならなかったため、その後の感情の推定によって設定の変更が更に継続されることとなる(S1020〜S1030)。
時刻t2060では、特性P4の設定値±0を上げて、例えば設定値+1にし、これにより、加減速特性を高くして運動特性を向上させる。本例では、この設定値の変更によっては、苛々度評価値E1は、±0に近付くことなく、寧ろ、±0から離れてしまうものとする。このことは、乗員の苛々が解消されてその感情が改善されるというよりは寧ろ該感情を悪化させた、即ち逆効果であった、と言える。
そこで、本例では、時刻t2060での設定値の変更は誤りだったとして、該設定値は時刻t2070において元の状態に戻され、更に、即ち設定値±0にする。また、時刻t2060での設定値の変更は逆効果であったと考えられるため、時刻t2080では、特性P4の設定値±0を下げて(逆補正を行い)、例えば設定値−1にする。尚、ここでは逆補正の説明のため、上記設定値を元に戻す態様としたが、時刻t2070〜t2080の一連の再設定は一度に行われてもよく、即ち、特性P4の設定値は+1から−1に変更されてもよい。
尚、総合評価値ETOTALは依然として基準範囲RE内となっていないため、その後の感情の推定によって設定の変更が更に継続されることとなる(S1020〜S1030)。
時刻t2090では、特性P5の設定値±0を上げて、例えば設定値+1にし、これにより、加減速特性を高くして運動特性を向上させる。本例では、これに伴い、苛々度評価値E1が±0に近付いて総合評価値ETOTALが±0に近付き、即ち乗員の感情が改善されるものとする。尚、本例では、上記設定値の変更に伴う各評価値E1、E2及びETOTALの悪化はなかったため、この設定値の変更は維持される(S1050〜S1060)。
上記特性P5の設定値の変更の結果、総合評価値ETOTALは基準範囲RE内となった。そのため、その後の感情の推定で得られる総合評価値ETOTALが基準範囲RE内である限り(S1020〜S1030)、上述の特性P1〜P5の設定値は維持されることとなる。例えば、その後の任意のタイミングである時刻t2100では、総合評価値ETOTALは基準範囲RE内であるため、特性P1〜P5の設定値は変更されることなく、自動運転が継続されることとなる。
即ち、本例によれば、乗員A〜Dの全員の感情を考慮することで、乗員A〜Dに無用に苛立ち及び不安を感じさせることのない走行制御を適切に実現可能となる。よって、本例によれば、乗員A〜Dの全員にとって、より乗り心地がよく且つストレスのない走行制御を適切に実現可能となる。
[第3の例]
前述の第1〜第2の例で設定された特性P1〜P5の設定値、及び/又は、その過程で生成された情報、例えば各乗員についての評価値VA等、は、過去の履歴としてデータベースに登録され蓄積されてもよい。例えば、第1〜第2の例により運転が終了した後、他の機会においては、同乗員A〜Dの全部/一部が車両1に乗り込むことが考えられる。具体的には、例えば、動力源141を停止させてから(イグニッションオフとしてから)数分〜数日等の所定期間が経過した後に再び車両1に乗り込んで動力源141を起動する場合が考えられる。このような場合には、第1〜第2の例で設定された特性P1〜P5の設定値の全部/一部は流用されることが好ましい。
よって、過去の推定結果は、次の機会に車両1に乗り込む乗員に応じて適宜参照可能となるように、データベースに登録されるとよい。データベース(過去の履歴)を必要に応じて参照可能とすることで、S1010(図4参照)での初期設定を適切に且つ速やかに行うことが可能となる。
また、データベースに複数の乗員の個々について各設定が既に登録されており、それら複数の乗員のうちの一部が車両1に新たに乗り込む場合には、そのデータベースに基づいて、特性P1〜P5についての初期設定を新たに生成することも可能である。
図7(A)は、データベースに複数の乗員の個々について各設定が既に登録されている場合における特性P1〜P5についての初期設定の決定方法を説明するための図である。
例えば、単一の乗員Aについては、特性P1、P2、P3、P4及びP5は、それぞれ、設定値a1、a2、a3、a4及びa5で設定されれば、その乗員Aについての評価値VAを±0に維持可能であることが、データベースにより分かっているものとする。同様に、単一の乗員Bについては、特性P1〜P5は、それぞれ、設定値b1〜b5で設定されれば、評価値VBを±0に維持可能であることが、同データベースにより分かっているものとする。同様に、単一の乗員Cについては、特性P1〜P5は、それぞれ、設定値c1〜c5で設定されれば、評価値VCを±0に維持可能であることが、同データベースにより分かっているものとする。また、同様に、単一の乗員Dについては、特性P1〜P5は、それぞれ、設定値d1〜d5で設定されれば、評価値VDを±0に維持可能であることが、同データベースにより分かっているものとする。
このような場合、それら乗員A〜Dの全員にとって乗り心地がよく且つストレスのない走行制御を適切に実現するため、制御装置13は、上述の設定値a1等を用いて特性P1〜P5の初期値を決定し、参照テーブルTSを参照することも可能である。特性P1、P2、P3、P4及びP5についての設定値の初期値を、それぞれ、s1、s2、s3、s4及びs5としたとき、本例では、これら初期値s1〜s5は、係数n1、n2、n3及びn4を用いて、
s1=a1×n1+b1×n2+c1×n3+d1×n4、
s2=a2×n1+b2×n2+c2×n3+d2×n4、
s3=a3×n1+b3×n2+c3×n3+d3×n4、
s4=a4×n1+b4×n2+c4×n3+d4×n4、及び、
s5=a5×n1+b5×n2+c5×n3+d5×n4、
と与えられる。
ここで、係数n1〜n4は、例えば、
n1+n2+n3+n4=N(固定値(例えば1))、
を満たすように、席の位置に応じた値が割り当てられる。本例では、係数n1、n2、n3及びn4は、それぞれ、運転席、助手席、左側後列座席、及び、右側後部座席に対応する。係数n1〜n4には、同一の値が割り当てられてもよいが、席の位置に基づく優先度を示すものとして、互いに異なる値が割り当てられてもよい。また、乗員が3人以下の場合には、上記係数n1(或いはn2)〜n4のうちの一部には0が割り当てられればよい。
図7(B)に示されるように、制御装置13は、上記s1〜s5を満たす参照テーブルTS(或いは、それに最も近い参照テーブル)を参照することで、乗員A〜Dの全員にとって乗り心地がよく且つストレスのない走行制御を行うことができる。本例によれば、データベース、即ち過去の設定履歴、を参照することで、比較的短時間で適切な運動特性を設定可能となる。また、本例によれば、その後、S1020〜S1080(図4参照)を行う際においては該設定の変更は微修正に留めることが可能となる。
更に、乗員A〜Dについての評価値VA〜VDは、ECU135のメモリ1352(或いは上記データベース)に保持されてもよい。これら乗員A〜Dの少なくとも一部が乗車した車両1の走行を、例えば数分、数十分等、比較的短時間内に再開する場合には、上記保持された評価値VA〜VDのうち対応するものは、流用されてもよい。これにより、比較的直近に得られた評価値、即ち過去の設定履歴、を参照することで、比較的短時間で適切な運動特性を設定可能となる。また、上記同様、その後、S1020〜S1080を行う際においては該設定の変更は微修正に留めることが可能となる。
その他、過去の推定により得られた評価値(VA等)および特性P1等の設定値(a1等)は、上述の例を含む多様な次の機会において、車両1の走行制御態様を決定するのに流用可能である。
[変形例]
本発明は、上述の例に限られるものではなく、多様な変形を適用可能である。例えば、駆動機構14の構成は図3の例に限られるものではなく、公知の他の構成が採用されてもよい。例えば、自動変速機142として、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)が用いられてもよい。
また、例えば、上述の例では、動力源141及び自動変速機142の制御態様を変更して車両1の運動特性を向上させ又は制限することを述べたが、他の方法も採用可能である。例えば、運動特性は、路面からの振動を吸収するためのサスペンション機構(不図示)の減衰特性にも従う。よって、車両1が、減衰特性を調整可能なサスペンション機構を更に備える場合には、この減衰特性を調整することで車両1の運動特性の設定を変更することも可能である。
また、実施形態では、自動運転モードにおいて上述の評価値に基づいて運動特性の設定を変更する態様を例示したが、このことは通常モードにおいても適用可能である。即ち、通常モードにおいても、車両1の運動特性は運転者の疲労状態に応じた設定に変更されてもよい。
その他、本明細書に記載された個々の用語は、本発明を説明する目的で用いられたものに過ぎず、本発明は、その用語の厳密な意味に限定されるものでないことは言うまでもなく、その均等物をも含みうる。
本発明の特徴を以下にまとめる:
第1の態様は、車両(例えば1)の走行制御を行う制御装置(例えば13、135)であって、前記車両の複数の乗員の感情を推定する推定手段(例えば135、S1020、S1050)と、前記推定手段による前記複数の乗員の感情の推定結果に基づいて前記車両の走行制御態様を変更する変更手段(例えば135、S1040、S1070)と、を備える。
第1の態様によれば、複数の乗員の感情を考慮することで、各乗員に無用に苛立ち及び不安を感じさせることのない走行制御を適切に実現可能となる。よって、乗員全員にとって、より乗り心地がよく且つストレスのない走行制御を適切に実現可能となる。尚、感情は、実施形態では、典型的な例として、平静な状態か否か(苛々を感じているか、不安を感じているか)を示すものとしたが、これに類する感情ないし印象を示す。
第2の態様では、前記車両は動作モードとして自動運転モードを含んでおり(例えばS1000、S1080)、前記自動運転モードにおいて、前記推定手段は前記感情の推定を行い且つ前記変更手段は前記走行制御態様の変更を行う。
第2の態様によれば、上記走行制御を自動運転モード(運転支援モードを含む。)において好適に実現可能である。
第3の態様では、前記変更手段は、前記車両の運動特性(例えばP2〜P5)の設定を変更することで、前記走行制御態様を変更する。
第3の態様によれば、運動特性の設定の変更は、例えばECUにより各機構の制御設定を変更することで実現可能であるため、比較的簡便に車両の走行制御態様を変更することができる。
第4の態様では、前記変更手段は、前記車両の加減速特性の設定を変更することで、前記運動特性の設定を変更する。
第4の態様によれば、加減速特性の設定の変更は、例えば駆動機構の制御態様を変更することで実現可能であるため、比較的簡便に車両の運動特性の設定を変更することができる。
第5の態様では、前記車両は自動変速機(例えば142)を備えており、前記変更手段は、前記自動変速機の制御態様を変更することで前記加減速特性の設定を変更する。
第5の態様によれば、上記加減速特性の設定の変更は、駆動機構の一部である自動変速機の制御態様を変更することで実現可能であるため、比較的簡便に車両の運動特性の設定を変更することができる。
第6の態様では、前記自動変速機は変速機構を含み、前記変更手段は、前記変速機構が備える係合機構の制御態様を変更して、前記加減速特性の設定を変更する。
第6の態様によれば、上記加減速特性の設定の変更は、例えば変速機構の制御態様を変更することで実現可能であるため、比較的簡便に車両の運動特性の設定を変更することができる。例えばプラネタリギア式変速機構の場合、上記制御態様としては、例えばクラッチやブレーキ等の係合機構の駆動速度及び/又は駆動タイミングを変更することが挙げられる。
第7の態様では、前記自動変速機は、ロックアップクラッチ(例えば1421A)付トルクコンバータ(例えば1421)を含み、前記変更手段は、前記ロックアップクラッチの制御態様を変更して、前記加減速特性の設定を変更する。
第7の態様によれば、上記加減速特性の設定の変更は、ロックアップクラッチの制御態様を変更することで実現可能であるため、比較的簡便に車両の運動特性の設定を変更することができる。ロックアップクラッチの制御態様としては、例えばロックアップクラッチの駆動速度及び/又は駆動タイミングを変更することが挙げられる。
第8の態様では、前記複数の乗員について変更された前記運動特性の前記設定を記憶する記憶手段(例えば1352、DB)を更に備え、前記変更手段は、前記記憶手段に記憶された前記設定に対応する前記複数の乗員と、前記車両に新たに乗り込んだ複数の乗員とが一致する場合には、前記記憶手段に記憶された前記設定を用いる。
第8の態様によれば、過去の設定履歴を参照することで、比較的短時間で適切な運動特性を設定可能となる。
第9の態様では、前記推定手段による推定結果を記憶する第2記憶手段(例えば1352、DB)を更に備え、前記推定手段は、前記第2記憶手段に記憶された前記推定結果に対応する乗員と、前記車両に新たに乗り込んだ複数の乗員の少なくとも一部とが一致する場合には、該推定結果を用いて前記少なくとも一部の乗員の前記感情の推定を再開する。
第9の態様によれば、過去の評価履歴を参照することで、比較的短時間で適切な走行制御を実現可能となる。
第10の態様では、前記推定手段は、各乗員の前記感情を評価して評価値を生成し、各乗員の属性に応じた係数(例えばn1等)を該評価値に乗じて加重加算を行うことで、前記推定を行い、前記変更手段は、前記加重加算の結果に基づいて前記運動特性の設定を変更する。
第10の態様によれば、各乗員の属性に応じた係数を各乗員についての評価値に乗じることで、より適切な走行制御を実現可能となる。
第11の態様では、前記車両は、車内に配された撮像装置(例えば171)を備えており、前記推定手段は、前記撮像装置により得られた撮像画像に基づいて前記推定を行う。
第11の態様によれば、車内の各乗員の様子を適切に監視可能となり、その乗員の感情を適切に評価可能となる。
第12の態様では、前記変更手段は、前記走行制御態様を変更した結果、前記複数の乗員の少なくとも一部の前記感情が悪化したと前記推定手段により推定された場合には、前記走行制御態様を元のものに戻す。
第12の態様によれば、評価結果が悪くなった場合(評価値が低下した場合)には、走行制御態様の変更が誤りだったとして元の状態に戻すことで、より乗り心地がよく且つストレスのない走行制御を適切に実現可能となる。
第13の態様では、前記変更手段は、前記車両の車間距離特性(例えばP1)の設定を変更することで、前記走行制御態様を変更する。
一般に、車間距離が乗員の感情にもたらす影響は比較的大きいため、第13の態様によれば、更に乗り心地がよく且つストレスのない走行制御を適切に実現可能となる。