JP6627223B2 - 耐食性に優れた加工部品の製造方法及びそれを実行する装置 - Google Patents

耐食性に優れた加工部品の製造方法及びそれを実行する装置 Download PDF

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Description

本発明は、鋼部材の切断端面の耐食性を向上させる、丸みの帯びた端面を有する加工部品の製造方法に関するものである。
鋼板は、現在、自動車、家電などで広く使用されており、ほとんどの鋼板は、切断、打ち抜き、縁切り、曲げ加工などの機械加工が施される。これらの鋼部材から形成された部品には、一般に表面処理(防錆処理)が施される。たとえば、亜鉛メッキ鋼板のような、予め片面又は両面に表面処理が施されている鋼板を材料として、これに機械加工して、所定形状の部品とする場合と、片面又は両面に表面処理がされていない鋼板を材料として、これに機械加工して、所定形状の部品にしてから、塗装などの表面処理を施す場合がある。
予め表面処理が施されている鋼板を材料として、切断などの機械加工をした場合、機械加工後に加工部品の外周に新たな端面が生じる。このような端面は、下地鋼板が露出されるため、端面において、耐食性が不足する問題がある。特許文献1には、不純物成分をはじめとする鋼板成分の含有量を制限して、端面における錆の発生起点を極力低減させ、屋内環境下での加工端面の耐食性を向上させる技術が開示されている。
一方、切断などの機械加工をして所定形状の鋼部材にしてから、表面処理を施す場合、機械加工後に鋼部材の外周に形成された新たな端面(以下、「機械加工ままの端面」という)にも塗装が施された加工部品が得られる。そのため、当該加工部品は、前述の予め表面処理が施されている鋼部材に切断などの機械加工をして得られた加工部品より、機械加工ままの端面の耐食性が優れるものである。しかし、このような機械加工ままの端面を有する部品に表面処理を施した場合において、機械加工ままの端面の周辺に、早期に、赤錆が発生する問題があった。
これは、機械加工ままの端面に形成されるバリや微小クラックなどの凹凸に起因して生じる。すなわち、鋼板に切断などの機械加工を施すと、機械加工ままの端面にバリや微小クラックなどの凹凸が形成される。当該凹凸を残存させたまま、鋼部材に塗装を行うと、当該凹凸部分に塗装膜が形成され難く、この部分の塗装膜厚が他の部分よりも薄くなる。そのため、当該凹凸部分、すなわち、機械加工ままの端面の周辺では、塗装膜による耐食性が十分発揮されず、腐食し易くなる。
従来から、機械加工ままの端面を有する鋼部材において、正確な寸法とするためや、取り扱いの際に怪我をしないようにするため、機械加工ままの端面に形成されるバリを低減することが行われている。たとえば、せん断加工において、バリを低減するために、上刃と下刃のクリアランスを適正にすることや、上刃を傾斜させて上刃と下刃との間の角度を調整することなどが検討されている。しかし、これらは、いずれも適用する上での制限や、バリを小さくすることはできても、バリや微小クラックを無くすことはできなかった。また、機械加工ままの端面のバリや微小クラックなどを除去する処理として、一般に、研削、研磨処理が行われている(たとえば、特許文献2及び3、参照)。しかしながら、研削、研磨処理では、処理部分に研磨痕が残り、滑らかな面とならない問題があった。
そこで、機械加工ままの端面に形成されるバリや微小クラックなどの防錆対策として、特許文献1に記載の技術を適用することが考えられる。しかし、この技術は、不純物成分をはじめとする鋼板成分の含有量を制限するため、所定の成分組成の鋼板に対しては有効であるが、その成分組成を有さない鋼板に対しては適用できず、汎用性に乏しい。
一方、機械加工ままの端面のバリ取り加工の一つとして、バリにレーザ光を照射して取り除く方法がある(たとえば、特許文献4、参照)。この方法では、バリを取ることができ、レーザ光を照射して表面層を溶融凝固させるため、処理部分に研磨痕は残存せず、表面粗さが小さい滑らかな面が得られる。しかし、レーザ光が照射されない機械加工ままの端面に存在する微小クラックなどの凹凸は除去されず、また、バリ取り加工された部分の周辺に、段差部分が生じることがあった。このような凹凸や段差部分に塗装した場合、塗装膜厚が他の部分よりも薄くなる。そのため、塗装膜により耐食性が十分発揮されず、加工端面における耐食性を改善することが必要であった。
また、特許文献4に記載された技術は、連続するバリに細かなばらつきがある場合でも、効率良くバリ取りを行うために、主走査を多関節ロボットよるワークの移動で行い、副走査を走査ミラーの振り角制御で行うものである。しかし、ワークの寸法が大きくなると、又は、ワークの形状が複雑になると、バリにレーザ光が照射されるようにワークを多関節ロボットより走査することが困難な場合があった。
特開2004−217960号公報 特開2007−260845号公報 特開平10−225851号公報 特開2000−317660号公報
本発明は、このような実情に鑑み、所定形状の鋼部材に機械加工してから、塗装などの表面処理を施した加工部品の製造において、鋼部材の寸法及び形状によらず、加工端面における塗装膜厚の均一化を図り、耐食性が優れる加工部品を製造する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決する方法について鋭意検討したところ、機械加工後の端面をバリの無い丸みの帯びた端面形状とすることで、塗装膜の形成の際、当該端面上における塗装環境(塗装温度や塗装原料の供給量など)が均一となり、端面上への塗装膜の付着量が一定、すなわち、均一な塗装膜厚となると考えた。そこで、それを実現するための手段について検討したところ、機械加工後の被処理端面に対して、レーザ光を垂直に照射して機械加工後の被処理端面を溶融凝固させることで、端面がバリの無い丸みの帯びた端面形状となるとの知見を得た。
そして、機械加工後の被処理端面と対向して反射鏡を設け、リモートレーザ装置からのレーザ光を加工端面に照射することで、加工部品の周方向のいずれの位置の被処理端面においても、また、複雑な形状の被処理端面においても、容易に被処理端面を溶融凝固できた。
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)板厚1〜10mmの鋼部材の端面を含む表面に塗装する加工部品の製造方法であって、鋼部材の外周の機械加工後の被処理端面と対向させて反射鏡を配置し、リモートレーザ装置からのレーザ光を前記反射鏡に照射し、前記被処理端面に対してレーザ光を65〜115°の角度で照射して、当該被処理端面全体を溶融凝固させる溶融凝固処理を施して、溶融凝固した端面を含む鋼部材の厚さ方向に平行な断面において、鋼部材の一方の表面の端面移行端部と鋼部材の他方の表面の端面移行端部との間が鋼部材の外側に向かって凸状である曲線で接続される形状の溶融凝固処理端面を形成した後、鋼部材の当該溶融凝固処理端面を含む表面に塗装を施すことを特徴とする加工部品の製造方法。
(2)前記レーザ光を線状レーザ光とすることを特徴とする前記(1)に記載の加工部品の製造方法。
(3)前記反射鏡の反射面上で前記レーザ光を移動させることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の加工部品の製造方法。
(4)前記反射鏡を回転及び移動の少なくとも一方をさせることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の加工部品の製造方法。
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の加工部品の製造方法における溶融凝固処理端面の形成を実行する装置であって、リモートレーザ装置と反射鏡とを備え、当該反射鏡を被処理端面と対向させて配置することを特徴とする装置。
(6)前記(4)に記載の加工部品の製造方法における溶融凝固処理端面の形成を実行する装置であって、リモートレーザ装置と反射鏡とを備え、当該反射鏡を被処理端面と対向させて配置し、前記反射鏡が回転装置及び移動装置の少なくとも一方と接続されていることを特徴とする装置。
本発明によれば、大型で複雑な形状の加工部品であっても、加工端面における塗装膜厚の均一化を図り、耐食性が優れる加工部品を提供することができる。
塗装を施した試験片を示す図である。(a)は試験片aの外観、(b)は試験片bの外観を示す図である。 機械加工後の被処理端面の溶融凝固処理の状況を説明する図である。 レーザ光を線状ビームとした場合の機械加工後の被処理端面の溶融凝固処理の状況を説明する図である。 反射鏡を回転させてレーザ光の移動を行う一例を示す図である。 反射鏡を被処理端面に追随するように移動させてレーザ光の移動を行う一例を示す図である。
以下、本発明の加工部品の製造方法(以下、「本発明の製法」という)について、説明する。
本発明の製法では、鋼部材の外周の機械加工後の被処理端面と対向させて反射鏡を配置し、リモートレーザ装置からのレーザ光を、反射鏡を介して被処理端面に対して65〜115°の角度で照射し、被処理端面を溶融凝固させる。これにより、溶融凝固した端面を含む鋼部材の板厚方向に平行な断面において、鋼部材の一方の表面の端面移行端部と鋼部材の他方の表面の端面移行端部との間が鋼部材の外側に向かって凸状である曲線で接続される形状(以下、「凸状断面形状」という)の溶融凝固処理端面を形成し、その後、鋼部材の当該溶融凝固処理端面を含む表面に塗装を施し、加工部品を製造する。
以下、本発明の製法に至った検討の経緯及び本発明の製法の基本的な原理について説明する。
一般に、鋼部材の機械加工後の端面には、研削、研磨処理が行われている。しかしながら、研削、研磨処理では、処理部分に研磨痕が残り、滑らかな端面が得られない問題があった。それに対して、機械加工後の端面のバリに、レーザ光を照射して、バリを取り除く方法があるが(たとえば、特許文献4、参照)、この方法では、レーザ光を照射しない端面の部分(バリの無い部分)に存在する微小クラックなどの凹凸は除去されない。また、バリ取り加工する部分にレーザ光を照射すると、溶融金属が重力方向に溶け落ち、段差のある端面となることがあった。
このような、研磨痕、微小クラックなどの凹凸、及び、段差部分が残存すると、加工部品に塗装膜を形成する際、端面上における塗装原料の供給速度や塗装温度などの塗装環境が不均一となることがあった。そのため、均一な塗装膜厚が得られず、結果として、端面の周辺が腐食し易くなることがあった。そこで、本発明者らは、塗装膜の形成に先立って、機械加工後の端面を、凹凸及び段差のない凸状断面形状とすることで、塗装膜厚の均一化が図れると考え、それを実現する手段について検討した。
その結果、本発明者らは、バリの部分だけでなく、機械加工ままの被処理端面に対して、レーザ光を垂直に照射して端面全体を溶融凝固することで、被処理端面をバリの無い凸状断面形状とすることを着想した。
そこで、板厚2.3mm、440MPa級の熱延鋼板を切断加工した試験片を2片準備した。そして、一方の試験片は、切断加工ままとする試験片aとし、他方の試験片は、切断加工後の被処理端面に対して、レーザ光を垂直に照射して被処理端面を溶融凝固して、溶融凝固処理端面を有する試験片bとした。
そして、試験片a及び試験片bに塗装を施して、耐食性試験を実施し、溶融凝固処理端面の形状が及ぼす耐食性への効果について検討した。耐食性試験は、自動車用材料腐食試験方法(JASOM609−91)に基づき、1サイクルあたり8時間の処理を30サイクル繰り返し行い、実施した。1サイクルは、塩水噴霧試験(2時間、5%NaCl、35℃)、乾燥(4時間、30%RH、60℃)、湿潤試験(2時間、95%RH、50℃)からなる。
図1は、塗装を施した試験片を示す図である。図1(a)は試験片a、図1(b)は試験片bの外観である。また、図1(イ)の段の図は、板厚方向の端面を含む断面を示したもので、(ロ)の段の図は、(イ)の段の図中に示した枠の部分の拡大図である。(イ)は、試験片を切断し、該切断面を研磨した後、走査型電子光学顕微鏡で倍率100倍で撮影した写真を模した図を縮小したものである。(ロ)は、倍率2000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真を模した図を縮小したものである。
試験片aは、図1に示されるように、加工部品の鋼部材1の一方の表面4と鋼部材1の他方の表面5は、各表面から被処理端面3へ移行する端部である被処理端面移行端部6、7を有し、被処理端面移行端部6と被処理端面移端部7との間は、ほぼ直線で接続されていた。そして、被処理端面移行端部6の周辺に高いバリが形成されており、(ロ)の段の図に示されるように、バリ部分において塗装膜2の膜厚(左上から右下に向かう斜線部分)が薄くなっている。そして、耐食性試験の結果、端面周辺に、赤錆が発生していた。
それに対して、試験片bは、(イ)の段の図に示されるように、溶融凝固処理端面8が凸状断面形状となっていた。すなわち、加工部品の鋼部材1の一方の表面4と鋼部材1の他方の表面5は、各表面から溶融凝固処理端面8へ移行する端部である溶融凝固処理端面移行端部6、7を有し、溶融凝固処理端面移行端部9と溶融凝固処理端面移行端部10との間は、鋼部材1の外側に向かって凸状である曲線で接続される形状となっていた。そして、(ロ)の段の図に示されるように、溶融凝固処理端面8の上端部付近にバリはなく、塗装膜2膜厚(左上から右下に向かう斜線部分)が均一になっている。そして、耐食性試験の結果、溶融凝固処理端面周辺に赤錆がほとんど発生しなかった。
これより、機械加工後の被処理端面に対して、レーザ光を垂直に照射して被処理端面を溶融凝固することで、溶融凝固した端面を含む鋼部材の板厚方向に平行な断面において、鋼部材の一方の表面の端面移行端部と鋼部材の他方の表面の端面移行端部との間が鋼部材の外側に向かって凸状である曲線で接続される形状の溶融凝固処理端面を形成することができ、鋼部材の表面に塗装を施した際に、塗装の膜厚が均一となり、耐食性に優れたものとなることを知見した。
また、大型の加工部品やレーザ装置は、重量が重く、寸法が大きいため、加工部品及びレーザ装置を移動、特に、移動途中で方向を変えて(回転させて)移動させることは困難であり、移動途中に被処理端面のレーザ光の照射位置から、レーザ光が外れてしまうことがあった。そこで、被処理端面と対向させて反射鏡を配置し、リモートレーザ装置からのレーザ光を反射鏡に照射して、被処理端面に対してレーザ光を垂直に照射したところ、加工部品及びレーザ装置を移動させず、又は、最小限の移動で、被処理端面に対して、レーザ光を垂直に照射することができた。
本発明は、以上のような検討過程を経て上記(1)に記載の発明に至ったものであり、そのような本発明について、さらに、必要な要件や好ましい要件について順次説明する。
次に、本発明の製法について図面を用いて説明する。
図2は、機械加工後の被処理端面の溶融凝固処理の状況を説明する図である。
本発明の製法では、鋼材に切断などの機械加工をして鋼部材1を得る。次に、鋼部材1の外周の機械加工後の被処理端面3と対向させて反射鏡11を配置する。そして、リモートレーザ装置12からレーザ光13を反射鏡11に照射し、レーザ光13を、反射鏡11を介して、被処理端面3に対して、垂直に照射する。これにより、被処理端面全体を溶融凝固させて、一方の表面の端面移行端部9と他方の表面の端面移行端部10との間が、鋼部材の外側に向かって凸状である曲線で接続される形状の溶融凝固処理端面を形成することができる。その後、鋼部材1の表面に塗装を施すことで、塗装の膜厚が均一となり、耐食性に優れた加工部品を得ることができる。
(鋼部材)
レーザ光13により溶融凝固処理をする鋼部材1は、鋼材に、切断、打ち抜き、縁切りなどの機械加工が施され、外周に被処理端面3を有するものである。鋼部材1は、他に曲げ加工、プレス加工、穴あけ加工などが施されていてもよい。鋼部材1の形状は、特に限定されるものでなく、たとえば、図2において、リモートレーザ装置12側からみたとき、矩形状、円形状、楕円形状などいかなる形状でもよい。また、鋼部材1は、板厚1〜10mmの鋼材で形成され、鋼部材の鋼種や成分組成は、特に限定されない。また、鋼部材1の外周の被処理端面3は、反射鏡11側からみたとき、矩形状、波形状、クランク形状などいかなる形状でもよい。
(反射鏡)
反射鏡は、鋼部材1の外周の被処理端面3と対向して配置する。図2に例示されるように、矩形状の鋼部材1の一辺に沿って、その辺と同等の長さを有し、反射面が平面状の反射鏡11aを配置してもよく、また、矩形状の鋼部材1の角部と対向して、角部にレーザ光13が集中するように、反射面が曲面状の反射鏡11bを配置してもよい。反射鏡11は、溶融凝固処理を予定する被処理端面3に対向して配置すればよく、矩形状の鋼部材1の全ての辺や全ての角部に配置してもよい。また、鋼部材1の形状が、リモートレーザ装置13側からみたとき、円形状、楕円形状などの場合は、反射鏡の形状も、被処理端面3に沿って、リモートレーザ装置12側からみたとき、円形状、楕円形状などになるように曲面状の反射鏡とすることができる。被処理端面3に対向する反射面の傾斜角度は、特に限定されず、45度が例示される。反射鏡の材料は、耐熱性を有する材料であれば、限定されないが、銅又は銅合金などの金属が好ましい。また、反射鏡は、支持体に反射膜を形成したものであってもよい。
(リモートレーザ装置)
被処理端面3に反射鏡11を介してレーザ光13を照射するリモートレーザ装置12は、反射鏡11にレーザ光13を照射できる位置に配置されるものであり、リモートレーザ装置12の配置は、特に限定されるものでない。たとえば、鋼部材1の板厚方向において、リモートレーザ装置12が配置される側を上側とした場合、リモートレーザ装置12を反射鏡11の上方に配置してもよい。ただし、矩形状の鋼部材1の一辺の被処理端面と、それに対向する矩形状の鋼部材1の一辺の被処理端面に対してレーザ光を照射する場合のような、レーザ光13を照射する端面が離間しているとき、リモートレーザ装置12を端面の中間の鋼部材1の上方に対向させて配置することが好ましい。これにより、一つのリモートレーザ装置12でレーザ光13を各反射鏡11に照射することができるので好ましい。
また、大型の鋼部材の溶融凝固処理において、被処理端面の離間距離が長く、一つのリモートレーザ装置12で反射鏡を介して前記被処理端面にレーザ光を照射することが困難な場合は、被処理端面にレーザ光を照射することができるように、リモートレーザ装置を反射鏡の離間方向に移動できるようにしてもよい。
(レーザ発振器)
リモートレーザ装置12は、高出力のレーザ光13を発振できる発振器を有していれば、特に限定されるものでない。そのような発振器として、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ、半導体レーザ、炭酸ガスレーザなどが例示される。レーザ光13の出力やビーム径は、加工部品の材質によって、選択すればよく、出力は0.1〜10kW、ビーム径は0.5〜3.0mmが好ましい。ただし、レーザ光13のビーム径は、被処理端面3の厚さ(板厚)より大きいと、被処理端面3以外(たとえば、鋼部材1の表面)にレーザ光が照射され、表面品質が低下するため、板厚より小さくする。
(レーザ光の照射角度及び照射位置)
レーザ光13は、被処理端面3と対向して配置された反射鏡11を介し、被処理端面3に垂直に照射されることで、被処理端面3を凸状断面形状とすることができる。レーザ光13を被処理端面3に垂直に照射とは、被処理端面3に対して、少なくとも65〜115°の角度の範囲内で照射すること意味する。65°未満、あるいは115°超では、図1(イ)(b)で示されるような上下対称に近い凸状の曲面の断面形状は得られず、むしろ、角形状が生じてしまう。塗装膜厚が不均一となり、十分な耐食性が得られない。好ましくは、80〜100°である。さらに好ましくは、85〜95°である。照射角度は90°が最も好ましい。
レーザ光13の被処理端面3の照射位置は、被処理端面3の厚さ(板厚)の中心とする。これにより、被処理端面3の中心にレーザ光13が照射され、被処理端面3の全体を溶融凝固させ易い。または、レーザ光13の被処理端面3への照射位置を、板厚の中心より少し上方の位置(たとえば、板厚の10%)とすることで、溶融金属が重力方向に移動しても、所望の凸状断面形状が形成されるので好ましい。そして、被処理端面3が局部加熱されないように、被処理端面3の面上のレーザ光13のスポット径を絞りすぎないようにする。また、レーザ光13の反射鏡11への照射位置と、レーザ光13の被処理端面3の照射位置との距離は、1〜5mmとするのが好ましい。
(レーザ光のビーム形状)
被処理端面3へ照射するレーザ光13は、レンズやプリズムなどを用いて、点状、線状などのビーム形状にしてもよい。図3に、レーザ光を線状ビームとした場合の被処理端面の溶融凝固処理の状況を説明する図を示す。図2では、レーザ光13のビーム形状を点状にした場合の被処理端面の溶融凝固処理の状況を示したが、図3に示すように、レーザ発振器からの点状ビームをレンズ系で扇状に拡げて線状ビームとして、反射鏡11を介して被処理端面3へ照射してもよい。このように、レーザ光13のビーム形状を線状とすることで、広範囲の被処理端面3を一括加熱することができ、溶融凝固処理の効率が向上する。
また、図2では、反射鏡11a及び反射鏡11bの面上を、鋼部材1の板厚に対して垂直方向に、レーザ光13を移動させて、レーザ光13を被処理端面3に照射している。ただし、矩形状の鋼部材1の角部と対向して、反射面が曲面状の反射鏡11bを配置して、被処理端面3に、線状のレーザ光13を照射する場合は、レーザ光13が角部に集中するため、レーザ光13の出力を低くすることが好ましい。
(レーザ光の移動)
レーザ光13は、リモートレーザ装置12を用いて、ミラースキャンにより、図2に斜線矢印で示すように、反射鏡11の面上を移動させる。これにより、被処理端面3へのレーザ光13の照射が瞬時に行え、時間の短縮化を図ることができ、また、反射鏡間の移動、たとえば、平面状の反射鏡11aと曲面状の反射鏡11bの間の移動も容易、かつ瞬時に行うことができる。レーザ光13の移動方向は、斜線矢印と逆方向でもよい。被処理端面3が複雑な形状の場合は、平面状の反射鏡11aを、被処理端面3の板厚方向や被処理端面3と平面状の反射鏡11aの対向方向に移動できるようにしてもよい。
また、図4及び図5に例示するように、反射鏡を回転及び移動の少なくとも一方をさせてレーザ光を移動させてもよい。図4に、反射鏡を回転させてレーザ光の移動を行う一例を示す。図4に示すように、被処理端面3における、レーザ光13の移動は、反射鏡11に対してレーザ光13の焦点を固定して、図示しない回転装置に接続された回転式反射鏡11cで行うことができる。回転式反射鏡11cを用いてレーザ光13を移動させることで、被処理端面と同等の大きさの反射鏡を準備する必要がなく、反射鏡を小さくすることができる。そのため、鋼部材の周囲の空間が少ない場合、図4に示すような回転式反射鏡11cを採用してもよい。
回転式反射鏡11cの回転方向は、特に限定されず、時計回り、反時計回りのいずれも採用できる。また、鋼部材1の角部と対向して、角部にレーザ光13が集中するように反射面が曲面状の反射鏡11bを配置し、回転できるようにしてもよい。被処理端面3が長い場合や複雑な形状の場合は、回転式反射鏡11cを、被処理端面3の長さ方向や、板厚方向、被処理端面3と回転式反射鏡11cの対向方向に移動できるようにしてもよい。また、端面検出装置14を設け、3次元計測により検出した被処理端面3の位置に応じて、反射鏡の回転角度などを制御するようにしてもよい。端面検出装置14は、被処理端面3の位置を検出できれば、特に限定されるものでなく、レーザ変位計測装置などを用いることができる。
図5に、反射鏡を被処理端面に追随するように移動させてレーザ光の移動を行う一例を示す。図5に示す、移動手段15が設置され、図示しない移動装置に接続された可動式反射鏡11dは、移動手段15を被処理端面3側に付勢させながら被処理端面3に沿って移動させるものである。そして、被処理端面3における、レーザ光13の移動は、可動式反射鏡11dを斜線矢印の方向に移動及び回転させるとともに、リモートレーザ装置12を用いて、ミラースキャンにより、レーザ光13を可動式反射鏡11dに照射することで行うことができる。このように、可動式反射鏡11dを用いることで、反射鏡を鋼部材の周囲と相似形に配置、又は、複数配置する必要がなくなる。そして、移動手段15が被処理端面3と接触して、可動式反射鏡11dは移動するので、被処理端面3と可動式反射鏡11dとの間の距離は、ほぼ一定に維持される。
移動手段15は、特に限定されるものでなく、車輪、球などを採用することができる。移動手段15を球とした場合、複雑な形状の被処理端面、たとえば、反射鏡側からみて波状、クランク状などにおいても、移動することができる。また、可動式反射鏡11dに、移動手段15を板厚方向に複数設けてもよい。そして、レーザ光13の移動方向は、斜線矢印と逆方向でもよい。
被処理端面3のレーザ光13の移動は、レーザ光13を反射鏡上を移動させて行う場合、及び、反射鏡を回転及び移動の少なくとも一方を行い移動させる場合のいずれにおいても、被処理端面3に沿って、20〜70cm/minの移動速度で実施するのが好ましい。また、被処理端面3に沿ったレーザ光13の移動は、同一の被処理端面3に対して、1回でもよく、2回以上させてもよい。
(溶融凝固処理端面)
溶融凝固処理端面は、被処理端面に対してレーザ光を概ね垂直方向に照射して得られるが、その際に、レーザ光の出力を調整して、溶融した金属(鋼)が溶け落ちないようにする。これにより、表面層が溶融し、溶けた金属が表面張力の作用によって、凸状断面形状に保持される。このとき、金属は除去されるのではなく、再配置される。また、溶融凝固処理端面の凹凸の高さは3μm以下となる。
一方、機械加工後の端面に対し、研削や研磨を施すと、研削又は研磨による処理端面に研磨痕が残り、研磨痕の部分で膜が薄くなることがある。溶融して形成された溶融凝固処理端面には、研磨痕がないため、表面粗さの測定により、研削又は研磨による処理端面と区別できる。または、機械加工後の被処理端面は、深さ20〜300μm程度、レーザにより溶融されるので、鋼板表面に対し、垂直な線に沿って、鋼板を切断し、切断面を研磨し、エッチングして組織を現出した後、光学顕微鏡で組織の変化を観察することで、研削又は研磨による処理端面と区別できる。
溶融凝固処理端面が、溶融凝固処理端面を含む鋼部材の厚さ方向に平行な断面において、鋼部材の一方の表面の溶融凝固処理端面移行端部と鋼部材の他方の表面の溶融凝固処理端面移行端部との間が鋼部材の外側に向かって凸状であるとは、鋼部材の内側に凸状である部分、すなわち、凹状である部分を含まないことを意味する。このような鋼部材の内側に凸状である部分を含むと、その部分で塗装膜厚が薄くなる。ただし、この凹みには、3μm以下の微細な凹みは含まれない。また、溶融凝固処理端面移行端部から鋼部材の外側に向かう方向を高さとした場合、溶融凝固処理端面移行端部から、最大凸までの高さは、特に限定されないが、1mm以下が好ましい。
(塗装)
鋼部材の塗装は、いかなる塗装方法を採用してもよいが、耐食性の向上のために、自動車部品の下地塗装に採用される電着塗装が好ましい。電着塗装は、被塗装物を電着塗料中に電極として浸漬させて、電圧を印加することにより、被塗装物上に電着塗膜が形成されるものである。そして、電着塗装される加工部品が、自動車車体などのように高い防食性が求められるものである場合は、電着塗装の前に、種々の表面処理が行われる。このような表面処理として、例えば、アルカリ脱脂後、リン酸亜鉛系化成剤などの化成剤を用いて無機被膜を形成する化成処理を行う。
塗料としては、カチオン電着塗料及びアニオン電着塗料のいずれでも使用できるが、耐食性などの観点からカチオン電着塗料が採用される。膜厚は、5〜50μmである。5μm以上であると、均一なカチオン電着塗膜が得られる。50μm以下であると、経済的に有利である。塗装条件は、特に限定されず、一般的な条件を採用することができ、例えば、焼き付け条件は、100〜220℃、10〜30分を採用することができる。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
試験片として、板厚2.3mm、440MPa級の熱延鋼板を、クリアランス22%でシャーリング切断して、試験片A〜Dを準備した。試験片A〜Cは、リモートレーザ装置側からみたとき、図2に示すような、機械加工後の端面を直線としたもので、試験片Dは、リモートレーザ装置側からみたとき、図4に示すような、機械加工後の端面を曲線としたものである。なお、クリアランスは、上刃と下刃の隙間をhとして、試験片の板厚をtとすると、(h/t)×100%で表されるものである。そして、試験片B〜Dに対して、機械加工後の被処理端面に溶融凝固処理を実施した。試験片Aは、機械加工ままの端面とした。
試験片Bに対する溶融凝固処理は、図2に示す装置を用いて、試験片Dに対する溶融凝固処理は、図4に示す装置を用いて、以下の条件で行った。
レーザ発振器:半導体励起YAGレーザ
レーザ出力:1kW
レーザ移動速度:50cm/min
レーザスポット径:φ1.0mm
反射鏡:端面に対する反射面の傾斜角度が45度の三角柱
レーザ照射方向:レーザ光を被処理端面に平行な方向に反射鏡へ向けて照射し、反射されたレーザ光が被処理端面に対して90°の角度
レーザ照射位置:スポット中心が板厚中心となる位置
試験片Cに対する溶融凝固処理は、図3に示す装置を用いて、以下の条件で行った。
レーザ発振器:半導体レーザ
レーザ出力:2kW
レーザ移動速度:50cm/min
線状レーザ:10mm×1.5mm
反射鏡:端面に対する反射面の傾斜角度が45度の三角柱
レーザ照射方向:レーザ光を被処理端面に平行な方向に反射鏡へ向けて照射し、反射されたレーザ光が被処理端面に対して90°の角度
レーザ照射位置:線状レーザの幅中心が板厚中心となる位置
次に、試験片A〜Dに塗装を施した。まず、試験片に対して、アルカリ脱脂、りん酸亜鉛化成処理を施し、その後、目標膜厚20μmとなるように、Pbフリーカチオン電着塗料を用いて、塗装を実施した。そして、試験片A〜Dの塗装後の板厚方向の端面を含む断面を走査型電子顕微鏡により観察した。
試験片Aは、機械加工ままの端面移行端部の周辺に高いバリが形成されており、バリ部分において塗装膜の膜厚が薄くなっていた。一方、溶融凝固処理をした試験片B〜Dは、バリが無く、試験片B〜Dは、溶融凝固処理端面が鋼部材の外側に向かって凸状となっていた。そして、塗装膜膜厚が均一になっていた。
次に、塗装後の試験片A〜Dに対して、耐食性試験を実施した。耐食性試験は、自動車用材料腐食試験方法(JASOM609−91)に基づき、上述同様に、1サイクルあたり8時間の処理を30サイクル繰り返し行い、実施した。
試験片Aは、機械加工ままの端面に塗装したものであり、赤錆の発生が顕著であった。一方、試験片B〜Dは、溶融凝固処理をして凸状断面形状の端面としたので、試験片Aと比較して、赤錆の発生が減少した。
本発明によれば、大型で複雑な形状の加工部品であっても、加工端面における塗装膜厚の均一化を図り、耐食性が優れる加工部品を提供することができる。よって、本発明は、産業上の利用可能性が高いものである。
1 鋼部材
2 塗装膜
3 被処理端面
4 鋼部材の一方の表面
5 鋼部材の他方の表面
6 被処理端面移行端部
7 被処理端面移行端部
8 溶融凝固処理端面
9 溶融凝固処理端面移行端部
10 溶融凝固処理端面移行端部
11 反射鏡
11a 平面状の反射鏡
11b 曲面状の反射鏡
11c 回転式反射鏡
11d 可動式反射鏡
12 リモートレーザ装置
13 レーザ光
14 端面検出装置
15 移動手段

Claims (6)

  1. 板厚1〜10mmの鋼部材の端面を含む表面に塗装する加工部品の製造方法であって、鋼部材の外周の機械加工後の被処理端面と対向させて反射鏡を配置し、リモートレーザ装置からのレーザ光を前記反射鏡に照射し、前記被処理端面に対してレーザ光を65〜115°の角度で照射して、当該被処理端面全体を溶融凝固させる溶融凝固処理を施して、溶融凝固した端面を含む鋼部材の厚さ方向に平行な断面において、鋼部材の一方の表面の端面移行端部と鋼部材の他方の表面の端面移行端部との間が鋼部材の外側に向かって凸状である曲線で接続される形状の溶融凝固処理端面を形成した後、鋼部材の当該溶融凝固処理端面を含む表面に塗装を施すことを特徴とする加工部品の製造方法。
  2. 前記レーザ光を線状レーザ光とすることを特徴とする請求項1に記載の加工部品の製造方法。
  3. 前記反射鏡の反射面上で前記レーザ光を移動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の加工部品の製造方法。
  4. 前記反射鏡を回転及び移動の少なくとも一方をさせることを特徴とする請求項1又は2に記載の加工部品の製造方法。
  5. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の加工部品の製造方法における溶融凝固処理端面の形成を実行する装置であって、リモートレーザ装置と反射鏡とを備え、当該反射鏡を被処理端面と対向させて配置することを特徴とする装置。
  6. 請求項4に記載の加工部品の製造方法における溶融凝固処理端面の形成を実行する装置であって、リモートレーザ装置と反射鏡とを備え、当該反射鏡を被処理端面と対向させて配置し、前記反射鏡が回転装置及び移動装置の少なくとも一方と接続されていることを特徴とする装置。
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