JP6611715B2 - オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属藻類の低塩分濃度条件順化方法 - Google Patents

オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属藻類の低塩分濃度条件順化方法 Download PDF

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Description

本発明は、低塩分濃度条件下で増殖及び物質生産が可能なオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属藻類を生産する方法、当該藻類を用いた炭化水素製造方法、及び当該藻類を利用した下水処理方法に関する。
生物の同化産物から得られるバイオマス、特にバイオ燃料は、近年、地球温暖化又は埋蔵資源の枯渇等の問題から注目を集めている。このバイオマスの中でも、微生物が生産する炭化水素やトリアシルグリセロール等のオイルは、食料と競合せず、エネルギー生産効率が高く、生産規模の拡大が容易であることから、工業的利用の早期実現が望まれている。
物質生産に利用される微生物の例として、ラビリンチュラ類(Labyrinthulomycetes)に属する藻類が挙げられる。ラビリンチュラ類藻類は様々な炭化水素や油脂を生産するものが報告されており、微生物を利用した物質生産技術の有望な材料として注目されている。例えば物質生産性ラビリンチュラ類藻類として、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)等の高度不飽和脂肪酸を多量に蓄積する性質を有するもの(SR21株、特許文献1:特許第2764572号)や、スクワレンを生産するものが知られている。(非特許文献1:G. Chen. et al. New Biotechnology 27, 382−289 (2010);非特許文献2:Q. Li et al., J. Agric. Food Chem. 57(10), 4267−4272 (2009);非特許文献3:K. W. Fan et al., World J. Microbiol. Biotechnol. 26, 1303−1309 (2010))。
ラビリンチュラ類藻類の中で、2007年に定義されたオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属藻類は、汽水域に生息する従属栄養性藻類で、水中の栄養分を同化して脂質を生産し、細胞内に蓄積する特徴を有する。彼谷らは、スクワレンを生産するオーランチオキトリウム属藻類tsukuba−3株を同定し、その生産効率が、ボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)等の従来から産業利用が研究されている炭化水素生産藻類よりも格段に優れていることを見出した(非特許文献4:BioScience, Biotechnology, and Biochemistry 75, 2246−2248)。
オーランチオキトリウム属藻類の培養条件については鋭意検討が行われており、通常は、GTY培地(D(+)グルコース20g/L、トリプトン10g/L、酵母抽出物5g/L、人工海水8.5g/L)に種菌を播種し、常温で撹拌培養することにより行われる(特許文献2:再表2012/077799)。培養培地としてGTY培地に代えて透析排液や食品廃水、下水等の富栄養性の廃水を利用することにより、培地供給のコストを下げると共に廃水の浄化を促進する技術も報告されている(特許文献3:特開2014−108101)。
ここで、オーランチオキトリウム属藻類は汽水域に生息する海洋性微細藻類であるため、通常培養には海水に近いレベルの塩分濃度を必要とする。従って、当該藻類は、低塩分濃度条件下では増殖速度や物質生産速度が著しく低下し、あるいは死滅する。そのような藻類の培養は、以下のような不都合を生じ得る。
オーランチオキトリウム属藻類は光合成を行わない従属栄養性藻類であるため、大規模プラントで培養を行う際、光合成効率を考慮した広大な表面積の培養槽を要さず、光合成を行う独立栄養性藻類と比較してプラントの立地を比較的容易に確保することが出来るという利点がある。しかしながら、高い塩分濃度の培地が必要な当該藻類のプラント立地は、必然的に塩分供給源として海水の利用が容易な沿岸エリアに限定されてしまう。
また、高い塩分濃度の培地を上記藻類の培養に用いた場合、培養の過程で高塩分濃度の廃液や残渣等の廃棄物が発生することとなるが、このような廃棄物の処分には専用設備と費用が必要となるため、事業化において負担となる。また、培地中に含まれる高濃度の塩分がプラント構造物を劣化させるため、当該培養プラントは塩耐性を備えるべく防錆などの表面処理が必要となり、プラントの建設コストや維持費用の支出が過大になるおそれもある。
更に、上記先行技術に倣い様々な富栄養性廃水を藻類培養に利用しようとする場合、培養のため廃水に大量の塩分を添加して、培養後の廃水から費用を掛けて添加した塩分を処理しなければならず、工程が冗長となる。藻類培養への富栄養性廃水の利用は廃水浄化を兼ねているにもかかわらず、処理が必要な廃水が新たに生産されるのでは本末転倒である。
従って、海洋性藻類であるオーランチオキトリウム属藻類を、上記弊害が生じないレベルの低塩分濃度で培養を可能とする技術は、当該藻類の培養による炭化水素生産技術の産業利用を見据えた発展に大いに貢献するものであり、当該技術分野における需要は極めて大きい。
微生物を特定の環境に順応させる技術には、公知のものが存在する。例えば、大阪大学のグループは、大腸菌の高温順化株(非特許文献5:Kishimoto et al 2010, PLoS Genetics., 6(10), e1001164)やエタノール耐性株(非特許文献6:Horinouchi et al. 2010, BMC Genomics., 11(579), e579)の取得を報告している。両文献において、環境順応大腸菌株は、数百日に及ぶ期間に渡り段階的な環境ストレスを付与することにより取得されたことが記載されている。
しかしながら、大腸菌における環境適応プロセスを、真核微生物と同列に議論することは出来ない。人工進化(研究室内進化)の研究では、出発微生物の世代時間が環境順応の成否に著しく影響する。即ち、微生物の環境耐性は数多の世代交代を繰り返すことにより獲得されるものであるため、世代交代の頻度が多い程(世代時間が短い程)環境順応の速度が増大する。ここで、上記大阪大学のグループの研究で用いられている大腸菌の世代時間は約20分、即ち一日の内に72回の世代交代が行われている。一方、微細藻類の世代交代は大腸菌と比較して著しく緩慢で、例えば本発明で用いられるオーランチオキトリウム属藻類の世代時間は2.86時間、即ち一日の世代交代回数は僅か8.4回であり、これは大腸菌に比べて8.6分の1の速度でしか環境順応が起こらないことを示している。故に、藻類が大腸菌と同等の世代交代回数を経て環境ストレスに対する耐性を獲得すると仮定した場合、環境順応株を取得するために数年〜十年に及ぶ長大な期間の順化培養が必要となってしまう。
従って、当業者は、仮に上記先行技術を参照してオーランチオキトリウム属藻類の環境適応を試みようとしても、所望の株を取得するために費やすことになる時間と労力が甚大となることを予想し、またいくら時間を掛けても目的の株が得られるか否かが不明であることを考慮し、計画を躊躇すると考えられる。
:特許第2764572号公報 :再表2012−077799号公報 :特開2014−108101号公報
:G. Chen. et al. New Biotechnology 27, 382−289 (2010) :Q. Li et al., J. Agric. Food Chem. 57(10), 4267−4272 (2009) :K. W. Fan et al., World J. Microbiol. Biotechnol. 26, 1303−1309 (2010) :Kaya et al. BioScience, Biotechnology, and Biochemistry 75, 2246−2248 :Kishimoto et al 2010, PLoS Genetics., 6(10), e1001164 :Horinouchi et al. 2010, BMC Genomics., 11(579), e579
彼谷らは、高いスクワレン生産能を有するオーランチオキトリウム・tsukuba−3株を樹立し、当該株を用いた様々な培養技術の研究開発を行っている。しかしながら、上述したように、海洋性藻類である当該株は培養において高濃度の塩分を要求するものであり、斯かる特性は、当該株を用いた炭化水素生産技術の産業上の利用を著しく阻害し、その価値を損なうおそれがある。
そこで、発明者らは、通常の生育環境よりも低い塩分濃度で培養することが可能な、低塩分濃度条件に順化したオーランチオキトリウム属藻類の取得方法について鋭意研究した結果、驚くべきことに、当該藻類の培地中の塩分濃度を漸次減少させることにより、最終的に海水の数千分の1(〜10ppm)の塩分濃度の培地中で持続的に増殖可能な順化株を取得出来ることが判明した。更に驚くべきことに、本発明における藻類の低塩分濃度順化プロセスは、約100日という、従来技術から予想されるよりも格段に短期間で達成されることが示された。
なお、発明者らは、変異原を用いた突然変異誘導によるオーランチオキトリウム属藻類の低塩分濃度耐性株の取得を様々な条件で検討したが、結局所望の耐性株を取得することは出来なかった。
当該順化培養において、当該藻類は120時間という比較的短い周期で継代が行われ、培養温度を至適温度条件の25℃よりも5℃低い20℃とすることにより、高い増殖力が長期間維持される。当該藻類の増殖活性を高いレベルに維持することが、低塩分濃度ストレスに対する耐性獲得を飛躍的に早めることに繋がった。
従って、本願は、以下の発明を提供する。
1.低塩分濃度条件下で増殖及び物質生産が可能なオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属藻類を生産する方法であって、以下の工程:
(i)海水の10%(v/v)以上に相当する塩分を添加した培養培地中で培養したオーランチオキトリウム属藻類を提供する工程;
(ii)上記藻類を、上記工程よりも塩分の添加量を減少させた培養培地中で培養し、当該藻類の増殖速度が基準値に達するまでこれを継代する工程;及び
(iii)上記工程(ii)を、更に低い塩分の添加量で繰り返して、所望の塩分濃度条件下で増殖及び物質生産が可能なオーランチオキトリウム属藻類を取得する工程;
を含む、生産方法。
2.前記オーランチオキトリウム属藻類が、オーランチオキトリウム・tsukuba−3株(受託番号FERM BP−11442)である、項1に記載の生産方法。
3.前記塩分の添加量の減少が、それまでの添加量の1/2〜1/50に減少することである、項1又は2のいずれか1項に記載の生産方法。
4.前記所望の塩分濃度が100ppm以下である、項1〜3のいずれか1項に記載の生産方法。
5.前記培養培地が、D(+)グルコース20g/L、トリプトン10g/L、酵母抽出物5g/Lを含む、項1〜4のいずれか1項に記載の生産方法。
6.更に、以下の工程:
(iv)上記工程(iii)で取得した藻類を、塩分以外の1つ以上の成分の添加量を減少させた培養培地中で培養し、当該培養を当該藻類の増殖速度が基準値に達するまで続行する工程;及び
(v)上記工程(iv)を、当該成分の添加量を更に低下させて繰り返して、所望の栄養条件下で培養及び物質生産が可能なオーランチオキトリウム属藻類を取得する工程;
を含む、項1〜5のいずれか1項に記載の生産方法。
7.前記培養培地の1つ以上の成分の添加量の減少が、それまでの当該成分の含有量の80%〜90%に減少することである、項6に記載の生産方法。
8.前記1つ以上の成分が、D(+)グルコース、トリプトン、及び酵母抽出物の1つ以上である、項6又は7のいずれか1項に記載の生産方法。
9.前記所望の栄養条件が培養当初の栄養成分の70%以下である、項6〜8のいずれか1項に記載の生産方法。
10.炭化水素を製造する方法であって、項1〜9のいずれか1項に記載の方法により生産されたオーランチオキトリウム属藻類を低塩分濃度の培地中で培養すること、及び当該藻類細胞中に蓄積された炭化水素を分離精製することを含む、方法。
11.前記炭化水素がスクワレンである、項10に記載の製造方法。
12.培地が下水を含有する、項10又は11のいずれか1項に記載の製造方法。
13.前記下水が、10ppm以上の塩分を含有している、項12に記載の製造方法。
14.前記下水に、糖質、有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基、ビタミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ミネラルのいずれか1つ以上が添加されて成分調整が行われる、項12又は13のいずれか1項に記載の製造方法。
15.項12〜14に記載の製造方法において下水を含有する培地を使用して当該下水中の栄養分を藻類に資化させることによる、下水を浄化する方法。
驚くべきことに、海洋性微細藻類であるオーランチオキトリウム属藻類は、対数増殖期を維持できる頻度で継代を行いながら培地の塩分濃度を漸次減少させることにより、50〜100日程度の極めて短期間で低塩分濃度に順化出来ることが判明した。本発明の方法により取得された順化株は、海水中で培養した場合と比較して遜色のないレベルの増殖及び物質生産速度を示す。従って、本発明の方法により取得した順化株を炭化水素生産技術の材料として使用することにより、通常の当該藻類が高い塩分濃度を要求することにより想定される上記様々な不利益を回避することが出来る。
図1は、本願発明に従い生産したオーランチオキトリウム属藻類低塩分濃度順化株が、スクワレン生産能力を保持していることを示す。 図2は、本願発明に従い生産したオーランチオキトリウム属藻類低塩分濃度順化株が、下水の一次処理水を基礎として調製した低塩分濃度培地中で、野生株と比較して優れた増殖能力を呈することを示す。 図3は、本願発明に従い生産したオーランチオキトリウム属藻類低塩分濃度順化株が、下水の一次処理水及び乾燥脱水汚泥由来の酸糖化物を利用して調製した培養培地中で、下水由来の栄養分を用いて増殖することが出来ることを示す。 図4は、本願発明に従い生産したオーランチオキトリウム属藻類低塩分濃度順化株が、下水の一次処理水及び乾燥脱水汚泥由来の酸糖化物を利用して調製した培養培地中で、細胞内に脂質を蓄積することが出来ることを示す。
1.オーランチオキトリウム属藻類
本発明において淡水順化が行われる微生物は、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属に属する微生物であればいずれのものでもよい。具体的には、例えば、上記オーランチオキトリウム・tsukuba−3株を用いることができるが、これに限らず、当該株と実質的に同一の菌学的性質を有する菌株であればいずれの菌株も使用することができる。
本発明において淡水順化が行われるオーランチオキトリウム属藻類は、ラビリンチュラ類(Labyrinthulomycetes)に属する微細藻類で、従属栄養性で、細胞内に多量の炭化水素を蓄積する。ラビリンチュラ類は、卵菌類に属するものであるが、系統的には他の菌類と異なり褐藻類や珪藻類等の不等毛植物と近縁の系統であり、不等毛植物とともにストラメノパイル系統を構成するものである。
前記オーランチオキトリウム属藻類は、2007年に新たに定義された海洋性藻類で、脂質を生産して、細胞内に蓄積する特徴を有する。例えば、オーランチオキトリウムtsukuba−3株は、彼谷らが沖縄県の海岸に生息するマングローブの葉より採取及び分離したものである。当該藻類は、従来炭化水素を生産することが知られていたボツリオコッカス・ブラウニー等の他の微細藻類と比較して卓越して優れた炭化水素生産能力と増殖性を有することが見出され、藻類培養による炭化水素生産技術への利用が期待されている。オーランチオキトリウム・tsukuba−3株は、独立行政法人産業技術総合研究所(住所 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6)に2010年12月9日付で寄託されている(受託番号FERM BP−11442)。
2.通常の藻類培養条件
上記オーランチオキトリウム属藻類の培養方法は、当該技術分野において確立されたものである。即ち、通常の維持培養は、成分調製した適当な培地に播種し、定法に従い行われる。培地としては、任意の公知のものを使用できる、例えば、炭素源としてはグルコース、フルクトース、サッカロース等の糖類がある。これらの炭素源を、例えば、培地1リットル当たり20〜120gの濃度で使用する。窒素源としては、グルタミン酸ナトリウム、尿素等の有機窒素、又は酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の無機窒素、又は酵母抽出物、コーンスチープリカー、ポリペプトン、ペプトン、トリプトン等の生物由来消化物等がある。また、上記培地は適宜ビタミン類を含むこともできる。上記培地は、適切な塩分濃度の人工海水で調製される。好ましくは、当該培地は、最終的な塩分濃度が海水(塩分濃度3.4%(w/v))の約10%(v/v)以上、又は約10%(v/v)〜約100%(v/v)、例えば塩分濃度が約1.0〜3.0%(w/v)となるように調製される。より好ましくは、当該培地は、最終的な塩分濃度が海水の約20%(v/v)〜80%(v/v)、約30%(v/v)〜70%(v/v)、約40%(v/v)〜60%(v/v)、又は約50%となるように調製される。
本明細書中、「塩分」とは、海水が含有する主要な塩類、即ち塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム及び塩化カリウムの、海水と同一の構成比率の混合物を意味する。他の態様において、「塩分」とは、75%(w/w)以上の塩化ナトリウムと、塩化ナトリウム以外の1つ以上の上記海水が含有する主要な塩類との混合物、又は塩化ナトリウム単体を意味する。
人工海水は、水に溶解させることで海水に近い各種イオン組成を構成することの出来る塩の混合物である。好ましくは、当該人工海水は、海水を模倣するように、適切な比率で塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウム、微量金属、有機物等を含有する。本明細書中、本発明の培地の成分として、人工海水に代えて、海水と等張の水溶液を構成する量の塩化ナトリウムを用いてもよい。あるいは、人工海水に代えて、天然の海水又は海水濃縮物を用いてもよい。
好ましくは、上記培地は、50%(v/v)人工海水に、D(+)グルコース20g/L、トリプトン10g/L、酵母抽出物5g/Lを添加したもの(GTY培地)である。
上記培地は、調製後、適当な酸又は塩基を加えることにより適宜pHを調整できる。培地のpHは、pH2.0〜11.0、好ましくはpH3.0〜10.0、より好ましくはpH4.0〜9.0、より好ましくはpH4.5〜9.0であり、最も好ましくはpH6.5を用いる。
上記培地は、オーランチオキトリウム属藻類の播種前にオートクレーブにより殺菌されてもよい。
培養は、培養温度5〜40℃、好ましくは10〜35℃、より好ましくは10〜30℃にて行われる。継代は、通常1〜10日間、好ましくは3〜7日間置きに行われる。培養は通気攪拌培養、振とう培養又は静置培養で行うことができるが、好ましくは通気攪拌培養又は振とう培養で培養する。
通常、海洋性微細藻類であるオーランチオキトリウム属藻類の維持培養において、培養液に海水と同濃度〜10%(v/v)濃度程度の塩分の添加は必須である。当該藻類の増殖活性は、維持培地中の塩分濃度の低下に依存して著しく低下し、塩分を添加せずに調製された培地中では、当該藻類は増殖を停止し、又は死滅する。
3.順化条件
オーランチオキトリウム属藻類の低塩分濃度順化培養は、上記通常の維持培養に用いられる培養培地の塩分濃度を減少させることにより行われる。好ましくは、低塩分濃度順化に用いる培地の組成は、塩分濃度を変化させる点を除いて、維持培養に用いる培地の組成と同一のものである。あるいは、本発明の方法に用いる具体的な藻類の種類、状態、実施環境に依存して、当該藻類の増殖活性を高いレベルに維持するために、維持培地の組成を適宜変更してもよい。
上記低塩分濃度順化培養に用いる培地の塩分濃度の減少は、藻類の継代の際に用いる新鮮な培地の塩分濃度を減少させることにより行われる。当該塩分濃度の減少の幅は、2〜100分の1であり、本発明の方法に用いる具体的な藻類の種類、状態、実施環境、所望される順化レベルに依存して選択される。減少の幅が大きくなる程順化の成功率は低下し、順化に掛かる時間は長くなる。一方、減少の幅を小さくすると、順化の成功率は増大し、順化に掛かる時間は短くなる。
所望の順化レベルが1回の順化培養で達成出来ないものである場合(1000分の1等)、上記順化培養を二段階以上に分けることにより、即ち塩分濃度を漸次減少させることにより行う。例えば通常の塩分濃度の1000分の1の塩分濃度に順化した株を取得する場合、まず塩分濃度50分の1に順化した株を取得し、これを更に塩分濃度を20分の1に低下させて順化を行うことにより、所望の順化レベルの株を取得することが出来る。
上記低塩分濃度順化培養における藻類の継代は、藻類培養物が定常期に入る前の時点で実施され、好ましくは対数増殖期の時点で実施される。藻類培養物の増殖段階は、OD660の吸光度測定等、当該技術分野で通常用いられる方法により容易に判定することが出来る。藻類培養物がいかなる増殖段階にあるかは、実際に藻類培養物をサンプリングしてOD660を測定することにより導き出してもよく、あるいは当該藻類における同一の条件下で作成した増殖曲線を参照して推定してもよい。例えば、本発明の実施例において、オーランチオキトリウム・tsukuba−3株は、OD660が0.05となるように新鮮な培地に播種した後、120時間の時点で対数増殖期にあると推定し、120時間周期で継代が行われた。
上記低塩分濃度順化培養において、温度、湿度、照明、撹拌速度、通気量、培養設備の構成等、諸々の培養環境は、藻類の増殖活性を高いレベルに維持するように適宜調整される。あるいは、増殖速度が過剰となりコストや労力の面で実施者の負担となる場合に、上記培養環境が当該藻類の増殖活性を適切なレベルに維持するように適宜調整される。例えば、本発明の実施例において、オーランチオキトリウム・tsukuba−3株は、最適な培養温度の25℃では増殖速度が過剰となり長期間の順化培養が困難となることが予想されたため、20℃で培養が行われた。
一つの態様において、前記藻類がある塩分濃度に順化したか否かは、当該藻類の増殖速度が基準値に達したことによって判断される。即ち、塩分濃度を低下させる前(ある塩分濃度に順化した藻類を更に低い塩分濃度に順化させる場合、当該更なる順化を試みる前)の藻類の培養速度と比較して許容出来るレベルの増殖速度に達したことをもって、当該塩分濃度に順化したと判断する。好ましくは、当該許容出来るレベルとは、順化前の藻類の培養速度に対して50%以上である。当該判断において、藻類の増殖速度は、培養物のOD660が増大する速度に基づいて導き出されてもよい。他の態様において、前記藻類がある塩分濃度に順化したか否かは、増殖速度に代えて炭化水素等物質生産速度が基準値に達したことによって判断されてもよい。
本発明において所望の低塩分濃度順化藻類株を取得するために要する時間は、本発明の方法に用いる具体的な藻類の種類、状態、実施環境、所望される順化レベル、塩分濃度減少の幅に依存して変動するが、数ヶ月で通常の培養培地の塩分濃度(50%(v/v)人工海水)の1000分の1以下のレベルまで順化させることが出来る。増殖速度で藻類を遥かに上回る大腸菌においてさえ環境ストレス耐性株を取得するのに数百日かかる(非特許文献5:Kishimoto et al 2010, PLoS Genetics., 6(10), e1001164;非特許文献6:Horinouchi et al. 2010, BMC Genomics., 11(579)ことを考慮すると、これは予想を上回る短期間といえる。
低塩分濃度順化藻類株を取得するための本願発明の方法を応用して、オーランチオキトリウム属藻類を、塩分以外の培地構成成分の添加量を低下させた条件に順化させることも出来る。当該順化において、オーランチオキトリウム属藻類は、前記藻類培養培地から任意の1つ以上の成分を減少させた培地中で培養される。
任意の成分を減少させた培地への順化を行う際に用いる諸条件は、減少させられる成分の種類に依存して当業者により検討されるべきであるが、上記低塩分濃度順化において用いられた条件を基礎としてもよい。
例えば、藻類の培養にGTY培地(50%(v/v)人工海水に、D(+)グルコース20g/L、トリプトン10g/L、酵母抽出物5g/Lを添加したもの)を用いる場合、順化培地において、グルコース、トリプトン及び酵母抽出物の1つ以上の添加量が減少させられる。好ましくは、当該順化培地において、グルコース、トリプトン及び酵母抽出物の添加量が、通常の培養培地の添加量の70%〜90%に減少させられる。
オーランチオキトリウム属藻類は、培地中の栄養分の含有量に応じて増殖速度を柔軟に変動させるため、上記GTY培地の栄養分を減少させること自体は環境ストレスとはならない。しかしながら、当該培地中に比較的高濃度で存在する上記栄養成分を減少させることにより培地の浸透圧が著しく低下することとなり、これが藻類細胞に対するストレスとなる。実際に、GTY培地の上記栄養成分を減少させると藻類の増殖速度は低下するが、その培地で上記低塩分濃度順化の手順と同様に継代培養を続行すると、一定の期間を経て増殖速度が僅かに増大する。これは、GTY培地の栄養成分を減少させることにより浸透圧が低下した培地に藻類が順化したことを示唆する。
4.低塩分濃度順化藻類株の特性
オーランチオキトリウム属藻類は藻類培養による炭化水素生産技術において極めて有望な材料であるが、培養に高濃度の塩分が要求されるため、工業的規模の生産に用いることを考えた場合、プラント立地の制限やコストの増大等の不利益が懸念されていた。しかしながら、本発明の方法により取得された低塩分濃度に順化したオーランチオキトリウム属藻類株は、低塩分濃度条件下で、海水中で培養した場合と比較して遜色のないレベルの増殖及び物質生産速度を示すので、当該順化株を炭化水素生産技術の材料として使用することにより、海洋性藻類の培養に高塩分濃度の培地を使用する際に予想される上記様々な不利益を回避することが出来る。
本発明の方法に従い取得された低塩分濃度順化藻類株は、増殖速度や物質生産能力等の生理活性が評価されてもよい。当該生理活性の判定手段は、当該技術分野で通常用いられているものが用いられる。例えば増殖速度であれば吸光度測定や細胞計数等、また物質生産能力であれば生産物の単離精製、クロマトグラフィーやゲル電気泳動等による生産物の定量が想定される。
当該順化株は、低塩分濃度条件下で、通常の塩分濃度の培地で培養した藻類の培養速度と比較して生理活性が低下するが、その低下の程度は、許容出来るレベルである。どの程度の生理活性の低下まで許容するかは、具体的に本発明の方法に従い取得された低塩分濃度順化藻類株を用いて物質生産を試みる当業者により、順化株の生理活性の低下による最終的な生産物の収量低下と、培地に塩分添加が要求されることによる様々な不利益とを比較考量して判断される。
本発明の方法において順化が可能な塩分濃度は、海水(塩分濃度3.4%(w/v))の100分の1(塩分濃度340ppm)以下、好ましくは1000分の1(塩分濃度34ppm)以下、より好ましくは1600分の1(塩分濃度20.2ppm)以下、尚もより好ましくは3200分の1(塩分濃度10.1ppm)以下である。通常、塩分濃度が100ppm以下であれば、培地に塩分添加が要求されることによる様々な不利益の大半が解消され得る。即ち、オーランチオキトリウム属藻類を塩分濃度100ppm以下の培地で培養出来るのであれば、塩分添加のコストに配慮する必要が無いので、培養設備の立地が沿岸部に限定されず、また培養廃水を処理する際に塩分を除去する必要が無いので廃水処理工程の簡素化及びコスト節約が図れる。培地中の塩分により培養設備が損傷する恐れも無い。更に、富栄養性廃水を藻類培養に利用しようとする場合、当該順化株は廃水中に最初から存在する100ppm以下の塩分濃度で培養が可能であるため、培地調製や培養廃液の処理が容易になる。
オーランチオキトリウム属藻類の淡水適応突然変異体の作製
変異原としてメタンスルホン酸エチル(EMS)を使用した突然変異誘導により、低塩濃度環境に適応した株の取得を試みた。オーランチオキトリウムtsukuba−3株を、20mlのGTY培地(50%(v/v)海水相当の人工海水(大阪薬研)1.7%(w/v)、D(+)グルコース(Wako)20g/L、トリプトン(GIBCO)10g/L、酵母抽出物(GIBCO)5g/L)中で16〜100時間前培養した。当該培養物に、最終濃度が30〜50mMとなるように、EMS(和光純薬)を添加し、更に25℃で7時間培養した。当該培養物に、10%(w/v)Naを2.0ml添加した。これを室温下5分間1000xgで遠心分離し、上澄みを除去した。沈殿した細胞ペレットに、更にGTY培地1mlを添加し、室温下5分間1000xgで遠心分離し、上澄みを除去する工程を2回繰り返した。得られた細胞ペレットにGTY培地を1ml添加し、懸濁物の細胞数を計測し、これを3000〜120000細胞/プレートとなるように、人工海水を添加していないGTY寒天平板上に展開した。当該実験の手順を、表1に示す。
前培養時間、EMS濃度、寒天平板上に展開する細胞数、その後のスクリーニング条件等を変更しつつ上記実験を10回以上繰り返したが、目的の淡水適応突然変異体を取得することは出来なかった。
オーランチオキトリウム属藻類の淡水順化株の作製
オーランチオキトリウムtsukuba−3株を、20mlのGTY培地(50%(v/v)海水相当の人工海水(大阪薬研)1.7%(w/v)、D(+)グルコース(Wako)20g/L、トリプトン(GIBCO)10g/L、酵母抽出物(GIBCO)5g/L)中、20℃、120rpmで、72時間旋回培養した。当該培地1mlを、塩分濃度が0.425%(w/v)(1.25%(v/v)海水相当)となるように調製したGTY培地に継代し、20℃、120rpmで、120時間旋回培養した。更に当該培養物を、塩分濃度が20.2ppm(0.06%(v/v)海水相当)となるように調製したGTY培地に、初期濁度OD660=0.05となる濃度で継代し、20℃、120rpmで、旋回培養した。この時、低塩分濃度条件に耐えられず藻類が全滅するリスクを考慮し、複数系統を用意した。途中、120時間毎に新規培地に継代を繰り返して(初期濁度OD660=0.05)、各系統を維持した。斯かるプロセスを経て許容出来るレベルで生理活性を維持することが出来た系統を、0.06%(v/v)海水順化株として取得した。
上記0.06%(v/v)海水順化株から、更に塩分濃度を減少させた条件下で生存可能な株の取得も実施された。上記0.06%(v/v)海水への順化培養を1256時間実施して取得した0.06%(v/v)海水順化株培養物を、更に塩分濃度が10.1ppm(0.03%(v/v)海水相当)となるように調製したGTY培地に、初期濁度OD660=0.05となる濃度で継代し、20℃、120rpmで、旋回培養した。120時間毎に新規培地に継代を繰り返して(初期濁度OD660=0.05)、当該培養を1200時間実施した結果、0.03%(v/v)海水順化株が取得された。
上記0.06%(v/v)海水順化株から、更に他の培地成分の濃度を減少させた条件下で生存可能な株の取得も実施された。上記0.06%(v/v)海水への順化培養を334時間実施して取得した0.06%(v/v)海水順化株培養物を、更にD(+)グルコース、トリプトン、酵母抽出物の含有量をそれぞれ20%減少させ、かつ塩分濃度が20.2ppm(0.06%(v/v)海水相当)となるように調製したGTY培地に、初期濁度OD660=0.05となる濃度で継代し、20℃、120rpmで、旋回培養した。当該培養を451時間実施した結果、20%成分減量・0.06%(v/v)海水順化株が取得された。
更に、当該20%成分減量・0.06%(v/v)海水順化株培養物を、D(+)グルコース、トリプトン、酵母抽出物の含有量をそれぞれ30%減少させ、かつ塩分濃度が20.2ppm(0.06%(v/v)海水相当)となるように調製したGTY培地に、初期濁度OD660=0.05となる濃度で継代し、20℃、120rpmで、旋回培養した。当該培養を1627時間実施した結果、30%成分減量・0.06%(v/v)海水順化株が取得された。以上の順化株作製実験の手順を、表2に示す。
順化株の評価
上記低塩分又は低塩分・成分減量条件における順化の成否は、OD660=0.05となる濃度で継代し120時間培養後、OD660≧5.0に達することを目安として判断した。
更に、当該順化株が、スクワレン生産能力を保持しているか否かも検証された。上記のようにして取得した0.03%(v/v)海水順化株、20%成分減量・0.06%(v/v)海水順化株、及び30%成分減量・0.06%(v/v)海水順化株を遠心分離にて回収し、細胞ペレットを凍結乾燥した。当該凍結乾燥調製物を、クロロホルムとエタノールを2:1の割合で混合した溶液に、乾燥細胞100mgあたり15mlの割合で添加し、これを72時間インキュベーションした。取得されたオイル抽出物にヘキサン1mlを添加して形成した懸濁物4μlを、薄層クロマトグラフィーに展開した。当該実験の結果を、図1に示す。0.03%(v/v)海水順化株、20%成分減量・0.06%(v/v)海水順化株、及び30%成分減量・0.06%(v/v)海水順化株のいずれにおいてもスタンダードと同一の位置にスクワレンに相当するバンドが検出されており、いずれの順化株もスクワレン生産能力を保持していることが確認された。
下水を利用した順化株の培養
下水や産業廃水等の富栄養性廃水をオーランチオキトリウム属藻類培養に利用することは、培養コストの削減及び廃水処理の促進の両面において有益である。しかしながら、通常の富栄養性廃水はオーランチオキトリウム属藻類を培養するのに充分な濃度の塩分を含有しておらず、これを培地の基礎とするためには、適切な量の塩分を添加しなければならない。また、当該培養の過程で、更に処理が必要な高塩分濃度の廃水が排出されるので、廃水処理の促進という当該利用の利点が没却してしまう。
一方、上記のように作製したオーランチオキトリウム属藻類の低塩分濃度順化株が、通常の富栄養性廃水が含有する程度の塩分濃度条件下で生存が可能であれば、廃水を基礎とした培地に塩分を添加する必要が無いので、上記のような不利益が発生しない。
そこで、本発明の方法により作製した低塩分濃度順化株が、塩分濃度の低い富栄養性廃水を基礎とした培地中で実際に培養可能であるかについて、検証実験を行った。
50%(v/v)海水に代えて、仙台市南蒲生浄化センターで生産された一次処理水を基礎として、GTY培地を作製した。オーランチオキトリウムtsukuba−3株の野生株と、上記低塩分濃度順化株(0.03%(v/v)海水順化株)との間で、当該培地中での増殖速度を比較した。
人工海水に代えて塩分含有量の低い下水を基礎としたGTY培地中で、上記順化株と野生株を培養した。培地の基礎として利用した下水は、仙台市南蒲生浄化センターで生産された一次処理水である。当該一次処理水の塩分濃度は100ppm未満(99〜65ppm)であり、これを基礎として調製した培地の塩分濃度も同様である。
実験に先立って、順化株、野生株共に、50%(v/v)人工海水で調製した通常のGTY培地50mL中で、72時間培養した(20℃、120rpm旋回培養)。そして、これらを、上記一次処理水に、D(+)グルコース(Wako)20g/L、トリプトン(GIBCO)10g/L、酵母抽出物(GIBCO)5g/Lを添加して調製したGTY培地中で96時間培養し(20℃、120rpm旋回培養)、培養開始から5箇所のタイムポイントでOD660を測定した。その結果を図2に示す。
図2の左右のグラフは同一の結果を示すものであるが、右図はY軸が対数目盛になっている。正方形が順化株、円が野生株の細胞濃度(OD660)を示す。左図が示すように、培養開始後96時間の時点で、順化株はOD660=13.9、野生株はOD660=4.9となり、最終到達濁度に2.8倍の差が生じた。また、右図が示すように、順化株はμd−1=2.12、野生株はμd−1=1.45となり、比増殖速度に1.46倍の差が生じた。従って、当該図は、人工海水に代えて塩分含有量の低い下水を基礎としたGTY培地中で、本発明の方法により作製した低塩分濃度順化株が、野生株と比較して格段に優れた増殖能力を有することを実証するものである。
更に、下水由来の有機物を藻類培養の栄養分として利用することが可能かを検討した。下水処理で生産された乾燥脱水汚泥0.6gに、6mLの72%HSOを添加し、30℃で1時間反応させた。当該反応物に、前記一次処理水102mLを添加し、120℃で1時間インキュベートした。当該一次処理水の塩分濃度は100ppm未満(99〜65ppm)であり、最終的に調製される培地の塩分濃度も、概ね同様である。当該懸濁物を、CaCOで中和して、pH5.3に調整した。当該懸濁物を濾過して、濾液を酸糖化液として取得した(糖類含有量3.2g/L)。当該酸糖化液に、トリプトン10g/L、酵母抽出物5g/Lを添加し、これをオートクレーブで120℃、20分間滅菌して、下水を基礎とした藻類培養培地を調製した。
上記培地を用いて、上記低塩分濃度順化株(0.03%(v/v)海水順化株)を96時間培養し(20℃、120rpm旋回培養)、培養開始から5箇所のタイムポイントで、培地中の糖濃度及びOD660を測定した。その結果を図3に示す。
点線で結んだ円が培地中の有機物濃度(g/L)、実線で結んだ円が細胞濃度(OD660)を示す。培養開始後約40時間で培養藻類が対数増殖期に入り、同時に糖濃度が低下し始める。そして、細胞濃度の増大に対応して、糖濃度が低下し続ける。また、培養開始後76時間時点の細胞をNile redで染色し、蛍光顕微鏡下で細胞内に顕著な油滴が形成されることを観察した(図4)。
従って、当該実験により、上記低塩分濃度順化株が、下水の一次処理水及び乾燥脱水汚泥由来の酸糖化物を利用して調製した培養培地中で、下水由来の栄養分を用いて増殖及びオイル生産を行うことが出来ることが示された。これは、本願方法を用いて取得されたオーランチオキトリウムtsukuba−3低塩分濃度順化株が、下水を基礎とする培地中で良好な増殖及び物質生産を行うことが可能であると共に、当該培養を通じて、当該順化株が下水中の栄養分を同化することにより、下水の浄化を促進することも可能であることを示唆する。

Claims (15)

  1. 低塩分濃度条件下で増殖及び物質生産が可能なオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属藻類を生産する方法であって、以下の工程:
    (i)海水の10%(v/v)以上に相当する塩分を添加した培養培地中で培養したオーランチオキトリウム属藻類を提供する工程;
    (ii)上記藻類を、上記工程よりも塩分の添加量を減少させた培養培地中で培養し、当該藻類の増殖速度が許容出来るレベルに達するまでこれを継代する工程;及び
    (iii)上記工程(ii)を、更に低い塩分の添加量で繰り返して、所望の塩分濃度条件下で増殖及び物質生産が可能なオーランチオキトリウム属藻類を取得する工程;
    を含む、生産方法。
  2. 前記オーランチオキトリウム属藻類が、オーランチオキトリウム・tsukuba−3株(受託番号FERM BP−11442)である、請求項1に記載の生産方法。
  3. 前記塩分の添加量の減少が、それまでの添加量の1/2〜1/50に減少することである、請求項1又は2のいずれか1項に記載の生産方法。
  4. 前記所望の塩分濃度が100ppm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の生産方法。
  5. 前記培養培地が、D(+)グルコース20g/L、トリプトン10g/L、酵母抽出物5g/Lを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の生産方法。
  6. 更に、以下の工程:
    (iv)上記工程(iii)で取得した藻類を、塩分以外の1つ以上の成分の添加量を減少させた培養培地中で培養し、当該培養を当該藻類の増殖速度が許容出来るレベルに達するまで続行する工程;及び
    (v)上記工程(iv)を、当該成分の添加量を更に低下させて繰り返して、所望の栄養条件下で培養及び物質生産が可能なオーランチオキトリウム属藻類を取得する工程;
    を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の生産方法。
  7. 前記培養培地の1つ以上の成分の添加量の減少が、それまでの当該成分の含有量の80%〜90%に減少することである、請求項6に記載の生産方法。
  8. 前記1つ以上の成分が、D(+)グルコース、トリプトン、及び酵母抽出物の1つ以上である、請求項6又は7のいずれか1項に記載の生産方法。
  9. 前記所望の栄養条件が培養当初の栄養成分の70%以下である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の生産方法。
  10. 炭化水素を製造する方法であって、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により生産されたオーランチオキトリウム属藻類を低塩分濃度の培地中で培養すること、及び当該藻類細胞中に蓄積された炭化水素を分離精製することを含む、方法。
  11. 前記炭化水素がスクワレンである、請求項10に記載の製造方法。
  12. 培地が下水を含有する、請求項10又は11のいずれか1項に記載の製造方法。
  13. 前記下水が、10ppm以上の塩分を含有している、請求項12に記載の製造方法。
  14. 前記下水に、糖質、有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基、ビタミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ミネラルのいずれか1つ以上が添加されて成分調整が行われる、請求項12又は13のいずれか1項に記載の製造方法。
  15. 請求項12〜14のいずれか1項に記載の製造方法において下水を含有する培地を使用して当該下水中の栄養分を藻類に資化させることによる、下水を浄化する方法。
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