以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1〜図3は、実施形態に係る燃料電池の各部の構成を示す図であり、図4〜図6は、実施形態に係るレーザー溶接装置およびクランプ部を示す図であり、図7〜図13は、実施形態に係るレーザー溶接方法の説明に供する図である。
まず、実施形態に係る燃料電池について説明する。
図1に示す燃料電池100は、例えば、固体高分子形燃料電池からなり、電源として利用可能に構成されたものである。固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、小型化、高密度化および高出力化が可能であり、例えば、搭載スペースが限定される車両などの移動体の駆動用電源として使用することができる。特に、システムの起動・停止および出力変動が頻繁に発生する自動車への使用が適している。自動車に使用する場合、例えば、車体中央部の座席下、後部トランクルームの下部、車両前方のエンジンルーム等に搭載して用いることができる。車内空間およびトランクルームを広く取る観点からは、座席下への搭載が好ましい。
燃料電池100は、スタック部110、締結板130、補強板135、集電板140、スペーサ145、エンドプレート150、およびボルト155を有する。
図1、図2に示すように、スタック部110は、膜電極接合体40と第1のセパレータ51、第2のセパレータ52とを有する単セル120を複数積層した積層体により構成している。なお、図2は、図1に示すスタック部110の一部を拡大して示す断面図である。
積層した第1のセパレータ51と第2のセパレータ52は、複数の溶接部位80a、80b、80cを介して相互に溶接されている(図3を参照)。本実施形態における溶接部位とは、溶接するためのレーザーが照射される照射位置と、その照射位置の周辺部分(レーザーの照射の影響を受けて溶融する部分)を含む一定の範囲を意味する。
本実施形態では、溶接部位80aをレーザー溶接する例について説明する。ただし、実施形態に係るレーザー溶接を他の溶接部位80b、80cの溶接に適用することも可能であるし、例示した各溶接部位80a、80b、80c以外の溶接部位に対して適用することも可能である。
図1に示すように、締結板130は、スタック部110の底面側および上面側のそれぞれに配置している。補強板135は、スタック部110の両側面側に配置している。締結板130および補強板135は、スタック部110の周囲を取り囲むケーシングを構成する。
集電板140は、緻密質カーボンや銅板などのガス不透過性を備える導電性部材により構成している。図示省略するが、集電板140には、スタック部110で生じた起電力を出力するための出力端子を設けている。出力端子は、単セル120の積層方向の両端側(スタック部110の正面側および背面側)に配置している。
スペーサ145は、スタック部110の背面側に配置した集電板140の外側に配置している。
エンドプレート150は、剛性を備えた材料、例えば、鋼などの金属材料により形成することができる。エンドプレート150は、スタック部110の正面側に配置される集電板140の外側と、スペーサ145の外側とに配置している。エンドプレート150は、燃料ガス、酸化剤ガス、冷媒のそれぞれを燃料電池100内で流通させるための燃料ガス導入口、燃料ガス排出口、酸化剤ガス導入口、酸化剤ガス排出口、冷媒導入口および冷媒排出口を有する。各導入口および各排出口は、図示省略する。
ボルト155は、エンドプレート150、締結板130、補強板135を締結する。ボルト155により付与される締結力は、単セル120の積層方向に作用して、燃料電池100の内部に位置するスタック部110を押圧した状態で保持する。ボルト155の本数やボルト孔の位置は、適宜変更することが可能である。また、ボルト155を含む締結機構は、螺合に限定されず、他の手段を適用することも可能である。
図2に示すように、単セル120が備える膜電極接合体40は、高分子電解質膜20と、アノード電極として機能するアノード触媒層30と、カソード電極として機能するカソード触媒層35と、一対のガス拡散層10、15とを有する。
ガス拡散層10は、第2のセパレータ52とアノード触媒層30との間に配置している。ガス拡散層10は、アノード側に供給される燃料ガスを分散させて、燃料ガスをアノード触媒層30へ供給する。一方、ガス拡散層15は、第1のセパレータ51とカソード触媒層35との間に配置している。ガス拡散層15は、カソード側に供給される酸化剤ガスを分散させて、酸化材ガスをカソード触媒層35へ供給する。
アノード触媒層30は、触媒成分と、触媒成分を担持する導電性の触媒担体と、高分子電解質とを含んでいる。アノード触媒層30は、高分子電解質膜20の一方の側に配置している。カソード触媒層35は、触媒成分と、触媒成分を担持する導電性の触媒担体と、高分子電解質とを含んでいる。カソード触媒層35は、高分子電解質膜20の他方の側に配置している。
高分子電解質膜20は、アノード触媒層30で生成したプロトンをカソード触媒層35へ選択的に透過させる機能と、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能を有する。
第1のセパレータ51および第2のセパレータ52は、単セル120を電気的に直列接続する機能と、燃料ガス、酸化剤ガス、冷媒を互いに遮断する隔壁としての機能を有している。各セパレータ51、52の外形形状は、膜電極接合体40と略同一形状である。また、各セパレータ51、52は、ステンレス鋼鈑に所定の溝部を形成するためのプレス加工を施したものにより構成することができる。
ステンレス鋼鈑は、複雑な機械加工を施し易く、かつ、導電性が良好である点でセパレータの素材として好ましい。必要に応じて、ステンレス鋼板に耐食性の塗装を施すことも可能である。ただし、第1のセパレータ51および第2のセパレータ52は、ステンレス鋼鈑以外の金属材料、例えば、アルミニウム板やクラッド材により構成することも可能である。
第1のセパレータ51は、膜電極接合体40のカソード側に配置されるカソード側セパレータとして構成している。第1のセパレータ51は、カソード触媒層35に対向するように配置している。
図3に示すように、第1のセパレータ51は、発電反応部61およびマニホールド部65を有する。なお、図3は、第1のセパレータ51および第2のセパレータ52の平面を概略的に示す図である。各セパレータ51、52は略同一の構成を有しているため、同一の図面を使用することにより、図示による説明を一部省略している。
図2に示すように、発電反応部61は、膜電極接合体40の発電に寄与する領域の一方に接する領域であり、溝部71を有する。溝部71は、膜電極接合体40と第1のセパレータ51との間に位置する流路53を形成するための凹凸形状を有している。流路53は、酸化剤ガスをカソード触媒層35に供給するために利用される。マニホールド部65は、燃料ガス通過用のマニホールド穴66と、酸化剤ガス通過用のマニホールド穴67と、冷媒通過用のマニホールド穴68とを備える。
第2のセパレータ52は、膜電極接合体40のアノード側に配置されるアノード側セパレータを構成している。第2のセパレータ52は、アノード触媒層30に対向するように配置している。
図3に示すように、第2のセパレータ52は、発電反応部62およびマニホールド部75を有する。図2に示すように、発電反応部62は、膜電極接合体40の発電に寄与する領域の他方に接する領域であり、溝部72を有する。溝部72は、膜電極接合体40と第2のセパレータ52との間に位置する流路58を形成するための凹凸形状を有している。流路58は、燃料ガスをアノード触媒層30に供給するために利用される。マニホールド部75は、燃料ガス通過用のマニホールド穴76と、酸化剤ガス通過用のマニホールド穴77と、冷媒通過用のマニホールド穴78とを備える。なお、図2に示すように、各セパレータ51、52の間には、冷媒用の流路59を形成している。
第2のセパレータ52は、隣接する他の単セル120の第1のセパレータ51に溶接しており、第1のセパレータ51は、隣接する別の単セル120の第2のセパレータ52に溶接している。具体的には、第1のセパレータ51および第2のセパレータ52は、各マニホールド穴66(76)、67(77)、68(78)を取り囲む溶接部位80b、各セパレータ51、52の外周部分に沿って延在する溶接部位80c、および発電反応部61(62)に位置する溶接部位80aのそれぞれの溶接部位を介して、相互に溶接している。発電反応部61(62)に位置する溶接部位80aは、各溝部71、72を接合するためのものであり、各溝部71、72の中心に位置決めしている。
次に、高分子電解質膜20および各触媒層30、35の材質等を説明する。なお、以下に示す材料等は例示に過ぎず、使用する材料がこれらの材料のみに限定されることはない。
高分子電解質膜20は、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂膜、リン酸やイオン性液体等の電解質成分を含浸した多孔質状の膜を、適用することが可能である。パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーは、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)、Gore selectシリーズ(登録商標、日本ゴア株式会社)等である。多孔質状の膜は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)から形成される。
高分子電解質膜20の厚みは、特に限定されないが、強度、耐久性および出力特性の観点から5μm〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。
アノード触媒層30に用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば、特に限定されない。カソード触媒層35に用いられる触媒成分は、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば、特に限定されない。
具体的な触媒成分は、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等から選択される。触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましい。カソード触媒層およびアノード触媒層に適用される触媒成分は、同一である必要はなく、適宜選択することが可能である。なお、貴金属を含まない触媒を適用することも可能である。
各触媒層30、35に用いられる触媒の導電性担体は、触媒成分を所望の分散状態で担持するための比表面積、および集電体として十分な電子導電性を有していれば、特に限定されないが、主成分がカーボン粒子であることが好ましい。カーボン粒子は、例えば、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛から構成される。
各触媒層30、35に用いられる高分子電解質は、少なくとも高いプロトン伝導性を有する材料であれば、特に限定されず、例えば、ポリマー骨格の全部または一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質や、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質が適用可能である。各触媒層30、35に用いられる高分子電解質は、高分子電解質膜20に用いられる高分子電解質と同一であっても異なっていてもよいが、高分子電解質膜20に対する各触媒層30、35の密着性を向上させる観点から、同一であることが好ましい。
次に、図4〜図6を参照して、実施形態に係るレーザー溶接装置200について説明する。
レーザー溶接装置200は、概説すると、第1のセパレータ51と第2のセパレータ52を溶接する溶接部位80aへ向けてレーザーを照射する加工ヘッド(レーザー照射部に相当する)232と、溶接部位80aからのレーザーの反射光を検出する反射光検出部240と、反射光検出部240の検出結果に基づいて溶接部位80aの溶接状態の良否を判定する判定部266と、加工ヘッド232の動作を制御する制御部262とを有している。後述するように、溶接部位80aに溶接不良が発生している場合には、制御部262が加工ヘッド232を動作させて、溶接部位80aを補修するための補修溶接用のレーザーを照射する(図8(B)を参照)。
レーザー溶接装置200を使用したレーザー溶接を実施するに際して、各セパレータ51、52は重ね合わせて積層した状態にセットする。各セパレータ51、52を積層した状態に維持するために、クランプ治具(クランプ部に相当する)210を使用している。
クランプ治具210は、積層した各セパレータ51、52を挟持してクランプする上板212および下板214と、上板212および下板214のクランプ動作を駆動する押圧機構220と、クランプ治具210全体を高さ方向(Z方向)に移動自在に支持する支持部215と、を有する。
上板212は、第1のセパレータ50をその上面側から押圧する押圧部材である。図6(A)に示すように、上板212は、スリット部213を有する。レーザー溶接を実施する際は、スリット部213を第1のセパレータ50の発電反応部61および溝部71に位置合わせして配置する。スリット部213が配置される部分、すなわち発電反応部61および溝部71は、上板212によって第1のセパレータ51を押圧した状態(第1のセパレータ51の上面側に上板212が配置された状態)において、露出される。したがって、第1のセパレータ51の溝部71に設定した溶接部位80aを溶接する際には、溶接部位80aの位置の確認および溶接部位80aへのレーザーの導光を容易に行うことが可能となる。
下板214は、第2のセパレータ52を下面側から押圧する押圧部材である。下板214は、各セパレータ51、52が載置される受け台としての機能を兼ねている。図6(B)に示すように、下板214には、押圧機構220を一体的に取り付けている。なお、下板214は、必要に応じて、透明な材料やレーザーの透過性を備える材料により構成することが可能である。
図4に示すように、押圧機構220は、アーム部222および突出部224を有する。突出部224は、アーム部222の先端部に配置している。突出部224は、上板212に対して当接自在に構成している。突出部224が上板212を押さえ付けると、上板212を介して各セパレータ51、52が押圧される。各セパレータ51、52は、上板212と下板214に挟まれて押圧されることにより、上下方向からクランプされる。図6(B)に示すように、クランプ治具210は、各セパレータ51、52の周囲を取り囲むように複数個(例えば、10個)配置することができるが、レーザー溶接を実施している最中に各セパレータ51、52をクランプした状態に維持し得る限りにおいて、設置数や設置位置等は特に限定されない。
支持部215は、例えば、高さ方向にクランプ治具210全体を移動可能に支持する載置台(ステージ)により構成することができる。支持部215は、押圧機構220を介してクランプした状態における第1のセパレータ51および第2のセパレータ52を高さ方向に移動させることにより加工ヘッド232と各セパレータ51、52との間の距離を可変可能に調整する調整機構としての機能を有している。
図4に示すように、レーザー溶接装置200は、加工ヘッド232と、ロボットアーム234と、光ファイバー236と、レーザー発振器238とを備える本体部230を有する。
レーザー発振器238は、光学系、電源、制御系、冷却ガス循環系等を内蔵しており、発振させたレーザーを、光ファイバー236を介して加工ヘッド232へ提供する。レーザー発振器238により発振するレーザーの種類は特に限定されないが、例えば、レーザー溶接に一般的に用いられるYAGレーザーを選択することができる。
ロボットアーム234は、多軸式であり、その先端に加工ヘッド232が取り付けられている。ロボットアーム234は、教示作業によって与えられた動作経路のデータに従って、加工ヘッド232を移動させる。また、ロボットアーム234は、クランプ治具210の支持部215と同様に、加工ヘッド232を各セパレータ51、52に対して接近離反移動させることにより、加工ヘッド232と各セパレータ51、52との間の距離を可変可能に調整する調整機構としての機能を有している。
加工ヘッド232は、レーザーを走査することによって連続溶接を可能にする公知のガルバノヘッドにより構成している。図5に示すように、加工ヘッド232は、コリメータ282と、レーザー径調整部283と、反射ミラー284と、ガルバノスキャナ286と、加工レンズ288と、所定の保護ガラス289とを有する。
コリメータ282は、光ファイバー236から導光されるレーザーを平行光に変換する。レーザー径調整部283は、レーザー径を調整するための光学系であり、例えば、この位置でレーザー径を減少するように調整すると、溶接部位80aにおけるレーザー径が増加することになる。反射ミラー284は、レーザー径調整部283を通過したレーザーを反射し、ガルバノスキャナ286に投射するために使用される折り返しミラーである。
ガルバノスキャナ286は、例えば、2軸式であり、2つのミラーと、各ミラーを駆動するモータを有している。ガルバノスキャナ286は、レーザーの反射方向を変化させることによってレーザーを二次元方向に走査することが可能に構成されている。
加工レンズ288は、例えば、fθレンズにより構成することができる。加工レンズ288は、ガルバノスキャナ286で反射したレーザーを集光する。加工レンズ288におけるレーザーの集光度を調整することにより、照射位置におけるレーザーのエネルギーを調整することができる。例えば、レーザーの集光度を低くして、レーザーの焦点をずらす(ぼかす)と、レーザーの照射位置に付与されるエネルギーが小さくなり、レーザーの集光度を高くすると、レーザーの照射位置に付与されるエネルギーが大きくなる。
図4に示すように、反射光検出部240は、レーザー溶接を実施する際に溶接部位80aから反射した反射光を検出する光センサ241を備えている。光センサ241は、例えば、YAGレーザーの反射光を所定のサンプリング周波数で電気信号に変換するフォトダイオードなどを備える公知のものにより構成することができる。反射光検出部240の検出結果は、有線や無線の公知のデータ通信方式により制御部262へ送信される。
制御部262は、レーザー溶接装置200の動作を統括的に制御するコントローラ260に組み込まれている。コントローラ260は、制御部262とともに記憶部264を有している。
制御部262は、例えば、所定のプログラムにしたがってレーザー溶接装置200の動作制御やクランプ治具210の動作制御、および各種の演算処理等を実行するマイクロプロセッサ等から構成される制御回路を有する。レーザー溶接装置200の各機能およびクランプ治具210の各機能は、それに対応するプログラムを制御部262が実行することにより発揮される。
記憶部264は、各種プログラムおよび各種データを記憶するために使用され、ROM(リードオンリーメモリー)、RAM(ランダムアクセスメモリー)、書き換え可能な不揮発性半導体メモリー(例えば、フラッシュメモリー)、ハードディスクドライブ装置等を適宜組み合わせて構成している。
記憶されているプログラムは、溶接プログラム265および補修溶接プログラム266を含んでいる。溶接プログラム265は、加工ヘッド232やロボットアーム234の動作を制御して、各セパレータ51、52同士の溶接を実施する作業プログラムである。補修溶接プログラム266は、反射光検出部240の検出結果に基づく溶接部位80aの溶接状態の判定、判定結果に応じた補修溶接の選択、および加工ヘッド232やロボットアーム234の動作を制御して補修溶接を実施する作業プログラムである。
制御部262は、レーザー溶接を実施している最中に補修溶接プログラム266を読み出す。また、制御部262は、補修溶接に必要なデータ(反射光検出部240の検出結果等)を一時記憶する作業領域としてRAMを使用する一方で、補修溶接プログラム266を実行処理する。制御部262は、補修溶接プログラム266を実行することにより、溶接状態の判定を行う判定部として機能する。
次に、判定部(制御部262)による溶接状態の判定手順について説明する。
反射光検出部240は、レーザー溶接を実施している最中に溶接部位80aからのレーザーの反射光を検出する。反射光検出部240が備える光センサ241は、検出した反射光を電気信号に変換する。反射光検出部240は、レーザー溶接を実施している最中に経時的に反射光を検出するため、反射光を変換した電気信号の信号強度の経時的な変化を示す波形データが取得される。そして、判定部は、取得した波形データを、記憶部264に予め記憶された基準データと比較することにより、溶接部位80aの溶接状態を判定する。判定部は、取得した波形データを基準データと比較することにより、溶接部位80aの溶接状態が良好であるかまたは良好でないかの判定(溶接状態の判定)、および、溶接状態が良好でない場合にどのような溶接不良が発生しているかの判定(溶接不良の判定)を行う。判定に使用される基準データは、レーザー溶接の実施に先立って予め取得しておくことができる。
図9には、レーザー溶接により溶接部位80aに形成された溶接ビードを例示しており、図11には、溶接不良が発生した際の波形データを例示している。
図9(A)には、溶接部位80aにおけるレーザー溶接が良好に行われた場合に形成される溶接ビード91を示している。レーザー溶接が良好に行われた場合、レーザーの溶接経路(走査軌跡)に沿って線状に連なる溶接ビード91を形成することができる。このような溶接ビード91を形成することにより、適切な溶接強度を確保することが可能になる。
図9(B)には、溶接不良の一例として、ビード切れが発生した際の溶接ビード93を示している。ビード切れが発生すると、溶接ビード93には、不連続な端部93a、93bと、各端部93a、93bの間に形成される未溶接部分93cが形成される。このビード切れの発生に伴い、溶接強度の低下が招かれる。
図11(A)には、ビード切れが発生した際の波形データが示される。図11(A)中の縦軸は、検出した反射光に基づいて取得した電気信号の信号強度であり、横軸は時間である。この図に示すように、ビード切れが発生した場合には、信号強度が一時的に上昇したピーク値P11が検出されることがわかる。このピーク値P11に基づいて、所定の閾値P12を設定している。本実施形態では、溶接部位80aの溶接状態の判定に際して、閾値P12を上回る信号強度が検出された場合には、ビード切れが発生していると判定する。ただし、閾値P12は、任意の値に設定することができ、例えば、ピーク値P11と、その他の信号強度の大きさとの比率に基づいて適宜変更することが可能である。
図9(C)には、溶接不良の一例として、穴あきが発生した際の溶接ビード95を示している。溶接ビード95のように穴あき部分95aが形成されると、溶接強度の低下が招かれる。
図11(B)には、穴あきが発生した際の波形データが示される。この図に示すように、穴あきが発生した場合には、信号強度が一時的に下降したピーク値P21が検出されることがわかる。このピーク値P21に基づいて、所定の閾値P22を設定している。本実施形態では、溶接部位80aの溶接状態の判定に際して、閾値P22を下回る信号強度が検出された場合には、穴あきが発生していると判定する。ただし、閾値P22は、任意の値に設定することができ、例えば、ピーク値P21と、その他の信号強度の大きさとの比率に基づいて適宜変更することが可能である。
レーザー溶接を実施している最中に、図11(A)、(B)に示す各閾値P12、P22を上回るもしくは下回る信号強度が検出されなかった場合には、溶接部位80aの溶接状態は良好であると判定することができる。ただし、各閾値P12、P22を上回るもしくは下回る信号強度が検出されない場合であっても、良好なレーザー溶接が実施された際に取得される波形データとは明らかに異なる波形データが取得されることがある。このような場合、良好、ビード切れ、穴あきのいずれにも判定することはできないが、少なくとも溶接部位80aは良好な溶接状態とはなっておらず、溶接部位80aに何らかの溶接不良が発生していることが考えられる。この溶接不良の一つとして、隙間不良による溶け落ちが挙げられる。
例えば、図12(A)に示すように、各セパレータ51、52の溶接に際して、各セパレータ51、52をクランプすると、各セパレータ51、52の間に僅かな隙間gが形成されることがある。各セパレータ51、52は薄肉であり、かつ、微細な凹凸形状を備えているため、クランプ時の力の掛かり具合やクランプ位置などの影響を受けて、隙間gが比較的形成され易い。隙間gが形成された状態で溶接が行われると、溶接部位80aに溶け落ちが生じて、溶接強度の低下を招くことになる。本実施形態では、良好、ビード切れ、穴あきのいずれにも判定することができない波形データが取得された場合には、このような隙間不良に伴う溶け落ちが発生していると判定する。
次に、本実施形態に係るレーザー溶接方法を説明する。図7は、本実施形態に係るレーザー溶接方法の各工程を示すフローチャートである。図7に示されるフローチャートにより示されるアルゴリズムは、記憶部264に溶接プログラム265および補修溶接プログラム266として記憶されており、制御部262によって実行される。
まず、第1のセパレタータ51と第2のセパレタータ52を積層して重ね合わせた状態とし、クランプ治具210を使用して各セパレータ51、52をクランプする。そして、図8(A)に示すように、加工ヘッド232を動作させて、溶接部位80aに向けてレーザーを照射する(ステップS10)。加工ヘッド232から照射したレーザーは、破線L1で示す。
溶接部位80aに対するレーザー照射を実施しつつ、反射光検出部240により、溶接部位80aからの反射光を検出する(ステップS11)。
レーザー溶接を実施する際に反射光検出部240を配置する位置は、反射光を検出可能であれば特に限定されないが、本実施形態においては、クランプ治具210が備える上板212に形成したスリット213を通る反射光を検出し得るように、スリット213の近傍に反射光検出部240を配置している(図8(A)を参照)。溶接部位80aから反射した反射光は、矢印f1で示す。
反射光検出部240の検出結果に基づいて溶接部位80aの溶接状態の良否を判定する(ステップS12)。なお、レーザー照射による溶接(ステップS10)、反射光の検出(ステップS11)、溶接状態の良否の判定(ステップS12)は、同時に実施されるため、作業者はレーザー溶接を実施している最中にリアルタイムで溶接状態の良否を知ることができる。
溶接不良が発生していないと判定された場合(ステップS12:NO)、溶接部位80aの溶接状態は良好であると判断されるため、溶接部位80aに対する溶接作業を終了する。一方、溶接不良が発生していると判定された場合(ステップS12:YES)、溶接不良の内容を判定する(ステップS13)。そして、溶接不良の内容が判定された後、溶接不良の内容に応じた補修溶接を実施する各工程(ステップS14、ステップS15、ステップS16)へ進む。なお、溶接状態の良否の判定(ステップS12)と、溶接不良の判定(ステップS13)は、反射光検出部240の検出結果から得られる電気信号に基づいて実質的に同時に行われる。
溶接不良の判定(ステップS13)により、溶接部位80aに形成した溶接ビード93にビード切れが発生していると判定された場合、制御部262は、図8(B)に示すように、加工ヘッド232を動作させて、補修溶接用のレーザーを溶接部位80aに向けて照射する(ステップS14)。加工ヘッド232から照射した補修溶接用のレーザーは、破線L2で示す。
図10(A)、(B)には、補修溶接用のレーザーを照射して形成した溶接ビード96を示している。例えば、ビード切れが発生した場合には、ビード切れが発生した溶接ビード93と異なる溶接経路に沿った補修用の溶接ビード96を形成する。
補修用の溶接ビード96は、例えば、図10(A)に示すように、溶接ビード93の各端部93a、93bに連なるV字形に形成したり、図10(B)に示すように、U字形に形成したりすることができる。溶接ビード93の各端部93a、93bを補修用の溶接ビード96により繋げることで、ビード切れに伴う溶接強度の低下を効果的に補うことができる。また、ビード切れの原因として、付着物(例えば、コンタミや油分)が未溶接部分93cに付着していることが考えられる。このため、付着物が付着していることが考えられる未溶接部分93cへの補修溶接用のレーザーの照射を避けて、溶接ビード93とは異なる溶接経路に沿って補修用の溶接ビード96を形成することにより、補修溶接時に溶接不良が発生するのを効果的に防止することが可能になる。なお、補修用の溶接ビード96の形状は特に限定されることはないが、溶接強度の向上を図る観点より、溶接ビード93の各端部93a、93bを繋げる形状であることが好ましい。
溶接不良の判定(ステップS13)により、溶接部位80aに形成した溶接ビード95に穴あきが発生していると判定された場合、制御部262は、加工ヘッド232を動作させて、補修溶接用のレーザーを溶接部位80aに向けて照射する(ステップS15)。
図10(C)には、補修溶接用のレーザーを照射して形成した溶接ビード97を示している。例えば、穴あきが発生した場合には、穴あきが発生した溶接ビード95よりも大きな幅の補修用の溶接ビード97を形成する。穴あき部分95aを溶接ビード97によって覆うことで、穴あき部分95aの発生に伴う溶接強度の低下を抑えることができる。補修用の溶接ビード97の幅は、穴あきが発生した溶接ビード95の幅よりも大きければよく、その寸法は特に限定されない。また、溶接ビード97の長さ(溶接ビード95の延在方向に沿う長さ)も、穴あき部分95aよりも長ければよく、その寸法は特に限定されない。
溶接不良の判定(ステップS13)により、隙間不良が発生していると判定された場合、制御部262は、クランプ治具210を動作させて、再クランプを実施する(ステップS16)。図12(A)に示すように隙間不良が発生した場合には、図12(B)に示すように、クランプ治具210による再クランプを実施する。そして、再クランプを実施して隙間gを無くした後に補修溶接用のレーザーを照射する(ステップS17)。溶接部80aに補修用の溶接ビードを形成することで溶接強度の低下を抑えることができる。なお、補修溶接用のレーザーを照射する位置は、例えば、隙間不良による溶け落ちなどが生じた部分の近傍であって、かつ、所定の幅の溶接ビードを形成し得る位置に設定することができる。
各補修溶接を実施する場合(ステップS14、ステップS15、ステップS16)、補修溶接とともに、溶接部位80aに照射した補修溶接用のレーザーの反射光を反射光検出部240により検出する(ステップS18)。そして、この検出結果に基づいて、補修溶接された溶接部位80aの溶接状態の良否を判定する(ステップS19)。なお、溶接状態の良否の判定方法は、ステップS12と同様に、反射光から取得した波形データに基づいて行うことができる。
補修溶接時に溶接不良が発生していないと判定された場合(ステップS19:NO)、補修溶接された溶接部位80aの溶接状態は良好であると判断されるため、溶接部位80aに対する溶接作業を終了する。一方、補修溶接時に溶接不良が発生していると判定された場合(ステップS19:YES)、既に実施された補修溶接の実施回数をカウントし、この実施回数と予め設定された設定回数Nとを比較する(ステップS20)。
補修溶接の実施回数が設定回数Nを超えていないと判定された場合(ステップS20:NO)、補修溶接が施された溶接部位80aの溶接状態に応じた補修溶接を実施する(ステップS14、ステップS15、ステップS16)。以下同様にして、補修溶接用のレーザーの反射光の検出(ステップS18)、補修溶接時の溶接状態の判定(S19)を実施する。なお、補修溶接時の溶接状態の良否の判定(ステップS19)と、補修溶接時の溶接不良の判定(ステップS13)は、反射光検出部240の検出結果から得られる電気信号に基づいて実質的に同時に行われる。
補修溶接の実施回数と設定回数Nとの比較により、補修溶接の実施回数が設定回数Nを超えていると判定された場合(ステップS20:YES)、周辺設備の調整を行う(ステップS21)。
例えば、補修溶接を複数回実施する場合において、補修溶接の度に溶接不良が発生しているような場合には、レーザー溶接を実施している作業環境等に問題があることが考えられる。このため、補修溶接の回数が設定回数Nを超える回数で実施されている場合には、周辺設備を調整して溶接不良の要因を取り除く作業を実施する。なお、設定回数Nは、2以上の任意の回数に設定することが可能である。
溶接不良の要因としては、例えば、各セパレータ51、52が適切にクランプされていない(隙間不良やクランプ位置のズレ)状態で溶接が行われたり、溶接部位80aの周辺に付着物(例えば、コンタミや油分)が付着した状態で溶接が行われたりすることが考えられる。したがって、周辺設備の調整として、例えば、クランプ治具210によるクランプ動作の調整作業(再クランプ、クランプ位置の変更)や、各セパレータ51、52およびクランプ治具210(例えば、上板212)などに付着した付着物を除去する作業を行う。
付着物を除去する作業は、例えば、図13に示すように、低出力に調整した洗浄用のレーザーを照射することで実施できる。レーザー溶接時に照射するレーザーよりも低出力に調整したレーザーを照射することで、照射位置への熱的な影響を軽減しつつコンタミ等の付着物mを好適に除去することができる。レーザーを使用することで細部に付着した付着物mを除去することが可能となる上に、洗浄用の装置としてレーザー溶接装置200を共用化するため、設備コストの削減を図ることができる。レーザーの出力の調整は、例えば、加工ヘッド232が備える加工レンズ288によってレーザーの集光度を低くして(レーザーの焦点をずらして)調整する方法で行うことができる(図5を参照)。図13において、洗浄用のレーザーは、破線L3で示す。
レーザー溶接装置200を使用してレーザー溶接を実施する場合には、制御部262が動作制御を行うことにより、クランプ治具210の調整作業や付着物の除去作業を自動で実施させることが可能であるが、例えば、これらの作業は、作業者自身で行うことも可能である。また、洗浄作業は、例えば、ブラッシング等により行うことも可能である。
なお、ビード切れや穴あき等は、付着物の存在が原因で発生することが多い。例えば、補修溶接を実施する際には、補修溶接の回数が設定回数Nを超えない場合にも、補修溶接の実施に先立ってレーザーによる洗浄を実施してもよい。洗浄を実施した後に補修溶接を実施することで、補修溶接時に溶接不良が発生するのを未然に防止することが可能になる。
周辺設備を調整して溶接不良の原因を取り除いた後、溶接不良に応じた補修溶接を実施する(ステップS14、ステップS15、ステップS16)。以下同様にして、補修溶接用のレーザーの反射光の検出(ステップS18)、補修溶接時の溶接状態の良否の判定(S19)を実施する。補修溶接時に溶接不良が発生していないと判定される(ステップS19:NO)まで、補修溶接を繰り返し実施する。
溶接不良の発生が検出されず、溶接部80aの溶接が正常に終了した後、溶接作業が完了する。溶接部80aに対する溶接作業が終了した後、引き続き、他の溶接部80b、80cへのレーザー溶接作業や他のセパレータに対するレーザー溶接作業へ移行することができる。
以上、本実施形態に係るレーザー溶接装置200およびレーザー溶接方法によれば、第1のセパレータ51と第2のセパレータ52をレーザー溶接する溶接部位80aの溶接状態が良好でない場合には、溶接部位80aの溶接状態に応じた適切な補修溶接を実施するため、溶接不良が発生した場合においても溶接品質の向上を図ることができる。また、レーザー溶接を実施している最中に溶接部位80aの溶接状態の良否を判定し、その判定結果に基づいて補修溶接を引き続き実施することができるため、レーザー溶接と補修溶接とを別途の作業で実施する場合に比べて、溶接作業が煩雑になるのを防止でき、作業効率を向上させることができる。
また、検出した反射光により取得される電気信号の信号強度の経時的な変化に基づいて、溶接部位80aの溶接状態を良好、ビード切れ、穴あきのいずれかに判定するため、精度のよい判定結果を得ることができる。そして、ビード切れ、または、穴あきと判定された場合に補修溶接を実施するため、不要な補修溶接が実施されるのを防止でき、かつ、ビード切れや穴あきの発生に伴う溶接強度の低下を効果的に抑えることができる。
また、溶接状態がビード切れと判定された場合には、補修溶接を実施して、ビード切れが発生した溶接ビード93とは異なる溶接経路に沿った補修用の溶接ビード96を形成する。これにより、ビード切れの発生に伴う溶接強度の低下を効果的に抑えることができる。
また、溶接状態が穴あきと判定された場合には、補修溶接を実施して、穴あきが発生した溶接ビード95よりも大きな幅の補修用の溶接ビード97を形成する。これにより、穴あきの発生に伴う溶接強度の低下を効果的に抑えることができる。
また、補修溶接を実施している最中に検出された反射光に基づいて補修溶接時の溶接部位80aの良否を判定し、補修溶接が必要な場合には補修溶接を再度実施するため、溶接不良の発生に伴う溶接強度の低下をより一層確実に抑えることができる。
また、補修溶接が複数回繰り返される場合には、各セパレータ51、52のクランプ状態を調整したり、溶接部位80aの周辺に付着した付着物を除去したりすることで、周辺設備側にある溶接不良の原因を取り除いた上で、補修溶接を再度実施するため、作業環境等に起因して発生する溶接不良に伴う溶接強度の低下を効果的に抑えることができる。
また、補修溶接の実施に先立って、低出力に調整された洗浄用のレーザーを照射して付着物の除去を実施するため、補修溶接時に溶接不良が発生するのを効果的に防止することができる。
<改変例>
次に、図14〜図20を参照して、上述した実施形態の改変例を説明する。
本改変例は、レーザーを照射して形成した溶接部位に溶接不良としての穴あきが発生した場合に、溶接部位をより好適に補修することを可能にするレーザー溶接装置およびレーザー溶接方法に関するものである。なお、本改変例の説明においては、前述した実施形態において既に説明したレーザー溶接装置の各部の構成および溶接作業の手順等については、その説明を適宜省略する。
前述した実施形態においては、各セパレータ51、52同士を溶接するにあたり、各溶接部位80a、80b、80c(図3を参照)に溶接不良の原因となる穴あきが発生した場合、各溶接部位80a、80b、80cに対して補修溶接用のレーザーL2を照射する。そして、補修溶接用のレーザーL2を照射することにより、溶接用のレーザー(第1回目のレーザー)L1の照射により形成された溶接ビード95よりも大きな幅の補修用の溶接ビード97を形成する(図10(C)を参照)。本改変例では、穴あきが発生した際に行う上記の補修溶接の方法として、より好適な例を説明する。
まず、図14を参照して、各溶接部位80a、80b、80cの溶接例を説明する。
図14(A)、図3に示すように、例えば、発電反応部61、62に位置する溶接部位80a(アクティブエリア溶接ライン)に対しては、各セパレータ51、52を厚み方向に貫通させることなく溶接がなされる非貫通溶接を実施することができる。非貫通溶接で溶接を行うことにより、各セパレータ51、52の間に形成される流路53、58同士(図2を参照)が貫通した状態で溶接されるのを好適に防止することが可能になる。
図14(B)、図3に示すように、例えば、マニホールド部65、75を取り囲む溶接部位80b(マニホールド溶接ライン)、および各セパレータ51、52の外周部分に沿って延在する溶接部位80c(外周溶接ライン)に対しては、各セパレータ51、52を厚み方向に貫通するように溶接がなされる貫通溶接を実施する。発電反応部61、62から離れた位置に形成される各溶接部位80b、80cについては、流路53、58との関係で各セパレータ51、52間の貫通状態を厳密に調整しなくてもよい。このため、各溶接部位80b、80cに対して貫通溶接で溶接を行うことにより、各セパレータ51、52間の接合強度の向上を図ることが可能になる。
図14(A)、図14(B)に示すように、第1セパレータ51と第2セパレータ52とを溶接する際に照射するレーザーL1は、各セパレータ51、52間の境界部分に、各セパレータ51、52が溶融した溶融金属90が十分に介在し得るように、例えば、境界部分付近に焦点Fが結ばれるように照射する。したがって、レーザーL1のビームプロファイル(ビーム形状)L11は、各セパレータ51、52間の境界部分付近に径が最も絞られたビームウエスト部を備える。後述するように、本改変例においては、このビームウエスト部におけるスポット径は、第1回目の溶接時に照射するレーザーL1と、補修溶接時に照射するレーザーL2とで異なるように調整する。
次に、図15を参照して、穴あきの発生機序について説明する。
図15(A)に示すように、例えば、各セパレータ51、52同士の間に隙間gが形成された状態でレーザーL1を照射すると、レーザーL1の照射により溶融した溶融金属90が隙間g内を広がるように流動する。これにより、図15(B)に示すように、各セパレータ51、52間に介在する溶融金属90の量が不足した状態となるため、溶接作業が終了した後に、溶接部位80aに穴あき部分95aが形成される。その結果、溶接部位80aにおけるシール機能の低下や、接合強度の低下が招かれることになる。一般的に、燃料電池100に使用される各セパレータ51、52を接合する溶接ビードは、1組のセパレータセルごとに比較的長い長さで形成される。また、セパレータセルには、厳密なシール機能が要求されるため、溶接品質を確保することが課題となる。溶接ビード中に穴あき部分95aが形成されると、シール機能の低下に大きな影響が及ぼされるため、穴あき部分95aが形成された場合には、その対策として補修溶接を実施することが求められる。
上記のように穴あき部分95aの発生要因として隙間gを例に挙げたが、例えば、溶接部位80a付近にコンタミや油分等の付着物が存在しているような場合には、これらの付着物が要因となって穴あき部分95aが形成されることもある。
以下、本改変例の説明においては、貫通溶接を行う溶接部位80aに対する溶接作業への適用例を主として説明するが、本改変例のレーザー溶接方法は、非貫通溶接を行う溶接部位80b、80cに対する溶接作業についても同様に適用することが可能である。
図16〜図20を参照して、本改変例に係るレーザー溶接方法を説明する。図16および図17は、レーザー溶接方法の作業手順を示すフローチャートである。図18〜図20は、レーザー溶接を実施する際の各セパレータ51、52を示す断面図および平面図である。
なお、説明は省略するが、本改変例に係るレーザー溶接方法は、溶接不良の発生の判定(図7に示すステップS12)、および溶接不良の内容の判定(図7に示すステップS13)を実施することを前提として、穴あきに対する補修溶接を実施するものである。
図16を参照して、レーザー溶接を開始するにあたり、ロボットアーム234を動作させて、溶接部位80aに対してレーザーL1を照射することが可能になる溶接開始位置へ加工ヘッド232を移動させる(ステップS101)。
加工ヘッド232が溶接開始位置に移動したことを確認した場合(ステップS102:YES)、加工ヘッド232の移動を停止させる(ステップS103)。溶接開始位置に加工ヘッド232が移動していない場合(ステップS102:NO)、加工ヘッド232を適正な位置に移動させる。
加工ヘッド232を溶接開始位置に移動させた後、反射光検出部240による反射光のモニタリングを開始する(ステップS104)。
次に、加工ヘッド232を動作させて、溶接部位80aに向けて溶接用のレーザー(第1回目のレーザー)L1を照射する(ステップS105)。図18(A)に示すように、レーザーL1は各セパレータ51、52の境界部分(重ね合わせた部分)に焦点Fが結ばれるように照射する。そして、図19(A)に示すように、溶接部位80aの所定の範囲に亘ってレーザーL1を走査することにより、走査方向(図中の矢印s)に延びる溶接ビード95を形成させる。
図16を参照して、レーザーL1を照射した際の反射光をモニタリングした結果、溶接部位80aに穴あき部分95aが形成されていない(溶接不良が発生していない)と判定された場合(ステップS106:NO)、図17に示す次工程(ステップS121)へ進む。一方、溶接部位80aに穴あき部分95aが形成された(溶接不良が発生した)と判定された場合(ステップS106:YES)、補修溶接を実施するための準備工程(ステップS107)へ進む。
本改変例に係るレーザー溶接方法では、図18(B)、図19(B)に示すように、第1回目の溶接時に照射したレーザーL1のスポット径d1よりも大きなスポット径d2(スポット径d1<スポット径d2)となる補修溶接用のレーザーL2を照射する。そして、補修溶接用のレーザーL2を溶接ビード95全体に沿って照射することにより、溶接ビード95を覆う補修用の溶接ビード97を形成させる。
スポット径d2となる補修溶接用のレーザーL2を照射する方法としては、例えば、加工ヘッド232内に配置された加工レンズ288(図5を参照)の集光度を調整して、加工ヘッド232から照射されるレーザーL2をデフォーカスさせる方法(焦点Fをずらす方法)、加工ヘッド232と各セパレータ51、52との間の物理的な距離を調整してレーザーL2をデフォーカスさせる方法、およびその両方を組み合わせた方法を採用することができる。
また、加工ヘッド232と各セパレータ51、52との間の物理的な距離を調整してレーザーL2をデフォーカスさせる方法としては、ロボットアーム234を動作させて加工ヘッド232を各セパレータ51、52から離反移動させる方法、クランプ治具210の支持部215(図4を参照)を動作させて各セパレータ51、52をロボットアーム234から離反移動させる方法、および、ロボットアーム234と支持部215の両方を動作させて加工ヘッド232と各セパレータ51、52を互いに離反移動させる方法を採用することができる。
本改変例では、図18(B)に示すように、ロボットアーム234を動作させて加工ヘッド232を各セパレータ51、52から相対的に離反移動(図中の矢uで示す)させることにより、補修溶接用のレーザーL2の焦点Fを、各セパレータ51、52の境界部分から第1のセパレータ51の表面側(焦点位置が浅くなる側)へずらす方法を採用している。このように加工ヘッド232と各セパレータ51、52との間の距離を広げることにより、補修溶接用のレーザーL2は、各セパレータ51、52の境界部分に対してデフォーカスして照射される。このため、各セパレータ51、52の境界部分における補修溶接用のレーザーL2のスポット径d2は、境界部分に焦点Fを結ぶように照射したレーザーL1のビームプロファイルL11のスポット径d1よりも大きくなる。
上記のように本改変例では、補修溶接を行う際に、補修溶接用のレーザーL2として、第1回目の溶接時に照射したレーザーL1のスポット径d1よりも大きなスポット径d2のレーザーを照射する。このため、補修溶接時に形成される溶融金属90の量を増加させることができ、穴あき部分95aをより確実に埋めることが可能になる。さらに、補修溶接用のレーザーL2をデフォーカスさせて各セパレータ51、52に対して照射するため、補修溶接用のレーザーL2の照射範囲を広げることができ、補修用の溶接ビード97のビード幅を大きく形成することができる。例えば、補修溶接を行う際に、溶接位置のズレや各セパレータ51、52の位置ズレが発生しているような場合においても、補修用の溶接ビード97のビード幅内にズレ量を収めることができるため、溶接位置のズレや各セパレータ51、52の位置ズレの影響を軽減(許容)することができる。さらに、補修溶接用のレーザーL2をデフォーカスさせて照射するため、第2のセパレータ52を支持するクランプ治具214の下板214に付与される熱量が低減する。これにより、下板214に破損等が発生するのを好適に防止することが可能になる。
図16を再び参照して、穴あき部分95aが形成されたと判定された場合(ステップS106:YES)、補修溶接用のレーザーL2をデフォーカスして照射させることが可能な位置(デフォーカス位置)へ加工ヘッド232を移動させる(ステップS107)。
加工ヘッド232がデフォーカス位置に移動した後、加工ヘッド232の移動を停止させる(ステップS108)。そして、反射光検出部240による反射光のモニタリングを開始する(ステップS109)。
次に、加工ヘッド232を動作させて、溶接部位80aに向けて補修溶接用のレーザー(N回目のレーザー)L2を照射する(ステップS110)。補修溶接用のレーザーL2は、図19(B)に示すように、第1回目の溶接時に形成した溶接ビード95全体に沿って照射することができる。このように補修溶接用のレーザーL2を照射することにより、溶接部位80aの複数箇所に穴あき部分95aが形成されている場合に、一度の補修溶接で全箇所の穴あき部分95aを補修することが可能になるため、作業効率を向上させることができる。
ただし、補修溶接用のレーザーL2は、図19(C)に示すように、溶接ビード95全体に沿って照射せずに、穴あき部分95aが形成された部位およびその周辺のみに対して照射することも可能である。例えば、補修溶接を実施する際に、穴あき部分95aが形成された位置が明確であるような場合には、穴あき部分95aおよびその周辺のみを補修対象部位に設定することができる。このような設定を行うことにより、溶接ビード95全体に沿って補修溶接用のレーザーL2を走査する場合に比べて、レーザー溶接装置200の稼働量が低減するため、作業効率の向上や作業コストの削減を図ることが可能になる。なお、補修溶接用のレーザーL2を穴あき部分95aおよびその周辺に対してスポット照射するような場合は、穴あき部分95aを十分な量の溶融金属90で補修することが可能となるように、比較的大きなスポット径d3(例えば、スポット径d2≦スポット径d3)を備える補修溶接用のレーザーL2を照射することができる。
また、本改変例に係るレーザー溶接方法においては、補修溶接用のレーザーL2を照射する際に、各セパレータ51、52に付与するレーザーの入熱量を調整することができる。具体的には、図20に示すように、補修溶接用のレーザーL2の入熱量は、第1のセパレータ51および第2のセパレータ52のうち加工ヘッド232のレーザー照射位置(加工ヘッド232が配置された位置)から離間した側に配置される第2のセパレータ(一方のセパレータに相当する)52に溶け落ちが生じるのを防止するように調整することができる。
各セパレータ51、52に付与する補修溶接用のレーザーL2の入熱量を調整し、第2のセパレータ52に溶け落ちが生じるのを防止すると、補修溶接時に穴あき部分95aが再度形成さたり、各セパレータ51、52を貫通する貫通孔が新たに形成されたりするのを防止することができる。これにより、補修溶接時に溶接不良が発生するのを好適に防止することが可能になる。
入熱量を調整する方法としては、例えば、加工ヘッド232から照射される補修溶接用のレーザーL2の出力エネルギーを調整する方法、補修溶接用のレーザーL2の走査速度を調整する方法、およびその両方を組み合わせた方法を採用することができる。なお、制御部262は、補修溶接用のレーザーL2の入熱量の調整に際して、入熱量が所定の値となるようにレーザー溶接装置200の各部の動作を制御する入熱量調整部としての機能を有している。
図16を再び参照して、補修溶接用のレーザーL2を照射した際に、穴あき部分95aが形成されたと判定された場合(ステップS111:YES)、補修溶接を再度実施する(ステップS110)。一方、補修溶接用のレーザーL2を照射した際に、穴あき部分95aが形成されていないと判定された場合(ステップS111:NO)、図17に示す次工程(ステップS121)へ進み、他の溶接部位(例えば、溶接部位80b、80c)に対する溶接作業を開始する。
図17は、他の溶接部位80b、80cに対する溶接作業を示すフローチャートである。ステップS121〜S131は、図16に示すステップS101〜S111と実質的に同一であるため、簡略化して説明する。
まず、他の溶接部位80b、80cに対するレーザー溶接を開始するにあたり、ロボットアーム234を動作させて、所定の溶接開始位置へ加工ヘッド232を移動させる(ステップS121)。
加工ヘッド232が溶接開始位置に移動したことを確認した場合(ステップS122:YES)、加工ヘッド232の移動を停止させる(ステップS123)。溶接開始位置に加工ヘッド232が移動していない場合(ステップS122:NO)、加工ヘッド232を適正な位置へ移動させる。
加工ヘッド232を溶接開始位置に移動させた後、反射光検出部240による反射光のモニタリングを開始する(ステップS124)。
次に、加工ヘッド232を動作させて、他の溶接部位80b、80cに向けて溶接用のレーザー(第1回目のレーザー)L1を照射する(ステップS125)。
溶接用のレーザーL1を照射した際の反射光をモニタリングした結果、他の溶接部位80b、80cに穴あき部分95aが形成されていないと判定された場合(ステップS126:NO)、次工程(ステップS132)へ進む。一方、他の溶接部位80b、80cに穴あき部分95aが形成されたと判定された場合(ステップS126:YES)、補修溶接用のレーザーL2をデフォーカスして照射させることが可能な位置(デフォーカス位置)へ加工ヘッド232を移動させる(ステップS127)。
加工ヘッド232がデフォーカス位置に移動した後、加工ヘッド232の移動を停止させる(ステップS128)。そして、反射光検出部240による反射光のモニタリングを開始する(ステップS129)。
次に、加工ヘッド232を動作させて、他の溶接部位80b、80cに向けて補修溶接用のレーザー(N回目のレーザー)L2を照射する(ステップS130)。
補修溶接用のレーザーL2を照射した際に、穴あき部分95aが形成されたと判定された場合(ステップS131:YES)、補修溶接を再度実施する(ステップS130)。一方、補修溶接用のレーザーL2を照射した際に、穴あき部分95aが形成されていないと判定された場合(ステップS131:NO)、次工程(ステップS132)へ進む。
各セパレータ51、52同士を溶接するために設定した全ての溶接部位80a、80b、80cに対する溶接作業が終了した場合(ステップS132:YES)、レーザー溶接を完了させる。一方、全ての溶接部位80a、80b、80cに対する溶接作業が終了していない場合(ステップS132:NO)、溶接作業が終了していない溶接部位に対する溶接作業を再度開始するために、加工ヘッド232を所定の溶接開始位置へ移動させる(ステップS121)。以下、同様の手順でレーザー溶接、および補修溶接を実施する。
本改変例で説明したレーザー溶接方法を実施する際においても、補修溶接の回数が所定の回数(N回)を超える場合に、溶接不良の要因を取り除くための工程(図7に示すステップS21)を実施することが可能である。また、溶接不良の発生の有無を確認する各工程(ステップS106、ステップS111、ステップS126、ステップS131)において、穴あき以外の溶接不良が発生しているか否かを併せて判定し、穴あき以外の溶接不良が発生していると判定された場合、溶接不良の内容に適した補修溶接を適宜実施することも可能である。
以上のように、本改変例に係るレーザー溶接装置200およびレーザー溶接方法は、溶接部位80aに溶接不良の要因となる穴あきが発生した場合に、第1回目の溶接時に照射したレーザーL1のスポット径d1よりも大きなスポット径d2の補修溶接用のレーザーL2を溶接ビード95全体に沿って照射するか、または穴あきが形成された部位(穴あき部分95a)に向けて照射することにより、補修用の溶接ビード97を形成する。したがって、補修溶接時に形成される溶融金属90の量を増加させることができ、穴あき部分95aをより確実に埋めることが可能になるため、穴あき部分95aの発生に起因したシール機能の低下や接合強度の低下が発生するのを好適に防止することが可能になる。
また、第1のセパレータ51および第2のセパレータ52に対して補修溶接用のレーザーL2がデフォーカスされるように、加工ヘッド232と第1のセパレータ51および第2のセパレータ52とを相対的に離反移動させるため、補修溶接用のレーザーL2の照射範囲を広げることができ、補修用の溶接ビード97のビード幅を大きく形成することができる。補修溶接用のレーザーL2をデフォーカスさせて照射するため、第2のセパレータ52を支持するクランプ治具214の下板214に付与される熱量が低減するため、下板214に破損等が発生するのを好適に防止することが可能になる。
また、加工ヘッド232によりデフォーカスさせたレーザーを補修溶接用のレーザーL2として照射するように構成することにより、レーザー溶接装置200の動作制御によってデフォーカスさせたレーザーを照射することが可能になる。
また、補修溶接用のレーザーL2の入熱量を、第1のセパレータ51および第2のセパレータ52のうち加工ヘッド232のレーザー照射位置から離間した側に配置される第2のセパレータ(一方のセパレータに相当する)52に溶け落ちが生じるのを防止するように調整することにより、補修溶接時に穴あき部分95aが再度形成さたり、各セパレータ51、52を貫通する貫通孔が新たに形成されたりするのを防止できる。
また、入熱量の調整を、補修溶接用のレーザーL2の出力エネルギーの調整および/または補修溶接用のレーザーL2の走査速度の調整により行うことにより、レーザー溶接装置200の動作制御によって入熱量の調整を行うことが可能になる。
以上、実施形態を通じて本発明に係るレーザー溶接装置およびレーザー溶接方法を説明したが、本発明は実施形態において説明した内容のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
例えば、レーザー溶接装置の各部の構成は、燃料電池用セパレータに設定した溶接部位に照射したレーザーの反射光を検出し、その検出結果に基づいて溶接部位の溶接状態の良否を判定することができ、かつ、判定した結果に基づいて所定の補修溶接を実施し得るように構成されている限りにおいて適宜変更することができ、装置各部の構造や配置等は図示により説明したものに限定されることはない。また、付加的な部材の使用の省略、および他の付加的な部材の使用等も適宜に行い得る。
また、例えば、溶接不良として、ビード切れ、穴あき、隙間不良を例示したが、本発明に係る補修溶接の対象となる溶接不良は、反射光検出部により検出が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ブローホールやアンダーフィルといった溶接不良を対象に含むものであってもよい。