〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態に係る凝集モニタリング装置を示している。図1に示す構成は一例であり、斯かる構成に本発明の凝集モニタリング装置、凝集モニタリング方法または凝集システムが限定されるものではない。
この凝集モニタリング装置2は、被処理水中のSSの凝集状態を判定する装置であって、センサ部4を備える。被処理水の凝集処理には、被処理水の浄化を目的とする凝集沈殿工程のほか、被処理水に含まれる余剰汚泥の脱水を目的とする凝集工程も含まれる。このセンサ部4は、たとえば凝集槽6に溜められている被処理水8に水没状態に維持するほか、凝集槽6の底部に沈殿した汚泥中に投入される。凝集槽6は被処理水8を溜める被処理水槽の一例であり、被処理水8の凝集処理を行う機能を兼ね備えている。この凝集槽6は、たとえば沈殿池(シックナー)などであり、被処理水8が貯められるとともに底部に高濃度の汚泥が沈殿している。
センサ部4にはレーザ光照射部10および散乱光受光部12が備えられる。レーザ光照射部10は、凝集のモニタリングに用いる計測光を照射する計測光照射部の一例であり、計測光の一例であるレーザ光を導く第1の光ファイバ14−1の出光端部で形成される。散乱光受光部12は、散乱光を導く第2の光ファイバ14−2の入光端部で形成される。
レーザ光照射部10と散乱光受光部12の間には遮蔽部材16を介在させて計測領域18が設定されている。この計測領域18にはレーザ光発光部20で発光したレーザ光がレーザ光照射部10から照射される。この計測領域18はレーザ光の被処理水8における照射領域の一例である。また、レーザ光照射部10のレーザ発光面側から計測領域18までの間は、発光領域としてもよい。さらに散乱光受光部12から計測領域18で発生した散乱光が受光面に到達するまでの領域は受光領域としてもよい。この計測領域18にレーザ光が照射されると、被処理水8中の粒子によりレーザ光が散乱し、散乱光を生じる。したがって、散乱光受光部12は、この散乱光を計測領域18から受光する。この場合、計測領域18にフロックが存在すれば、そのフロックが散乱光に影響を与える。
遮蔽部材16は各光ファイバ14−1、14−2の固定および支持手段であるとともに、計測領域18に対する自然光の遮断手段である。この遮蔽部材16では一例として、光ファイバ14−1を固定、支持する第1の支持部22−1と、光ファイバ14−2を支持する第2の支持部22−2とが一定角度を持つ頂角部24を備える。この頂角部24の角度はたとえば、90度が好ましいが、それ以外の角度であってもよい。この頂角部24を計測領域18に対向させるとともに、レーザ光照射部10と散乱光受光部12との間に介在させている。これにより、レーザ光照射部10からのレーザ光が散乱光受光部12に入射するのを回避でき、散乱光受光部12には計測領域18にある粒子側の散乱光を受光できる。
レーザ光発光部20には、たとえばレーザ発光素子26および発光回路28が備えられる。レーザ発光素子26はレーザ光を発光するレーザ光源の一例である。このレーザ光源にはレーザダイオードが好ましいが、レーザ光が得られる素子または装置であればよい。なお、凝集のモニタリングに用いる計測光はレーザ光に限定されるものではない。粒子に当たり散乱光を生じさせる光であれば凝集のモニタリングに用いることができ、レーザ光のように指向性に優れた計測光を用いることで、計測領域18に効率的に光を照射することができる。このような計測光を用いる場合には、計測光を発光する発光素子およびこの発光素子を駆動する発光回路を備える発光部を用いればよい。計測光にはたとえば、発光ダイオードを用いてもよい。
発光回路28はレーザ発光素子26の駆動手段の一例である。この発光回路28には一例として、AM(Amplitude Modulation:振幅変調)変調回路30、タイミング回路32およびファンクションジェネレータ34が備えられる。AM変調回路30は、タイミング信号Tsに所定の周波数fを持つ変調信号Msで振幅変調(AM変調)を行い、所定の周波数fの振幅を持ちかつ所定の時間間隔で断続する発光信号Drを出力する。この発光信号Drを受け、レーザ発光素子26は変調信号Msで変化しかつタイミング信号Tsによる所定の時間間隔で発光、非発光を繰り返す。これにより、凝集モニタリングのためのレーザ発光素子26の発光時間が短縮される。レーザ発光素子26に発光寿命が数千時間と短いレーザダイオードなどの発光素子を用いた場合であっても、連続点灯による劣化を防止できるので、使用時間を延長できる。
タイミング回路32はタイミング信号Tsを発生する。このタイミング信号Tsはたとえば、一定周期で断続するパルス信号であればよい。このタイミング信号Tsは、被処理水8の凝集に関わる凝集指標の演算処理の同期情報として用いられる。つまり、このタイミング信号Tsは、レーザ発光素子26の発光と凝集指標の演算処理とを同期させている。
ファンクションジェネレータ34は変調信号Msを発振する発振器の一例である。この変調信号Msは、レーザ光に対する自然光の影響を回避可能な周波数fが好ましくたとえば、f=70〜150〔kHz〕を用いればよい。信号形態は同一振幅の周期信号であればよく、波形形態は正弦波、三角波、矩形波などのいずれでもよい。
このようなレーザ光発光部20で得られるレーザ光が計測領域18に照射されると、この計測領域18に存在する微小コロイド粒子で散乱した散乱光が散乱光受光部12に入射する。この場合、微小コロイド粒子は未凝集のコロイド粒子である。この微小コロイド粒子により得られる散乱光は、レーザ光照射部10から照射されるレーザ光と同様の周波数を持ち、一定の周期で間欠する態様となる。また、計測領域18に存在するフロックで反射した反射光が散乱光受光部12に入射する。
またSS濃度が高い被処理水8では、計測領域18に加えて発光領域や受光領域側に汚泥や凝集したフロックが存在する。この場合、レーザ光発光部20から照射されたレーザ光が高濃度のSSやフロックによって減衰し、または遮光されることになる。この場合、計測領域18に存在する未凝集のコロイド粒子により散乱した散乱光やフロックで反射した反射光は、散乱光受光部12側に届く機会が極端に減少する。
散乱光受光部12の受光出力は、光ファイバ14−2により信号処理部36に導かれる。この信号処理部36は光電変換、ノイズ成分の除去、散乱光の強度を表すレベル信号、このレベル信号から散乱光の強度を表す計測値を取り出などの処理を行う。この信号処理部36には一例として、光電変換回路38および検波回路40が備えられている。
光電変換回路38は、フォトディテクタ42、バンドパスフィルタ44および増幅器46が備えられる。フォトディテクタ42は、光ファイバ14−2で導かれた散乱光を受け、電気信号Eiに変換する。バンドパスフィルタ44は電気信号Eiからノイズ成分をカットし、変調信号Msの信号成分を取り出す。バンドパスフィルタ44のカットオフ周波数を設定することにより、不要な変動成分を取り除き、変調信号Msの信号成分を出力する。増幅器46は、散乱光における変調信号Msの信号成分を増幅し、散乱光に応じた振幅レベルを持つ受光信号Eoを出力する。この光電変換回路38において、フォトディテクタ42に代えてフォトダイオードを用いてもよいし、バンドパスフィルタ44に代えてハイパスフィルタを用いてもよい。これらのフィルタを用いることで、自然光や照明光などの非計測光の受光により生じる直流ノイズ成分をカットすることができる。
検波回路40は受光信号EoからAM検波(包絡線検波)により出力信号Doを検出する。この出力信号Doは、受光信号の一例であり、受光信号Eoの直流成分のレベルを表す。この出力信号Doのレベルが微小コロイド粒子を含む被処理水における粒子による散乱光レベルを表している。つまり、微小コロイド粒子以外の散乱光であるノイズ成分やフロックによる反射成分が含まれる。
この検波回路40の出力は演算回路48に加えられる。この演算回路48は計測値演算部の一例であり、波高検出部50および比較部52を備えている。演算回路48は、演算回路48に入力される出力信号Doのレベル(信号強度)をメモリ部60(図2)のデータ記録部64に記録するとともに、波高検出部50により出力信号Doの計測を行う。演算回路48は、これらの計測結果を用いて被処理水の凝集レベルを判定し、この凝集レベルを表す凝集指標を出力する。凝集指標により表される凝集レベルはたとえば、「未凝集」、「凝集不足」、「現状十分」または「過剰」により表される。演算回路48はさらに、発光制御部54を備え、レーザ発光素子26の発光と凝集指標の演算処理に同期する制御信号(タイミング信号Ts)をタイミング回路32に出力する。
波高検出部50は、受光した散乱光の波高である振幅検出、振幅計測およびピーク波形の出現数をカウントする機能を含んでいる。波高検出部50は、たとえばデータ記録部64に記録されている出力信号Doのレベルの変曲点を検出して、その変曲点のピーク値を計測する。変曲点の検出により、波高検出部50は出力信号Doの振幅の発生を検出する。つまり、波高検出部50は、出力信号Doが上昇から下降に変化する第1の変曲点および下降から上昇に変化する第2の変曲点を検出し、隣接する第1の変曲点および第2の変曲点の検出により振幅の発生を検出する。波高検出部50は、ピーク値の計測により、隣接する第1の変曲点および第2の変曲点のレベル差を求め、出力信号Doの振幅の大きさを計測する。これらの機能により波高検出部50は、出力信号Doのピーク波形の出現数を振幅の大きさ毎に計測することができる。
比較部52は、たとえばデータ記録部64に記録されている出力信号Doのレベルを、予め設定した閾値と比較し、閾値以上となるピーク波形の出現数をカウントする。この受光した散乱光の出力信号Doのレベル、または出力信号Doのレベルと閾値以上となる波形の出現数との組み合わせを散乱光の受光レベルとする。この閾値は、たとえば被処理水や汚泥の種類、用途、または凝集条件、添加する薬剤の種類などによって切り換えても良く、さらに、1または複数の閾値を設定すればよい。
演算回路48はたとえば、図2に示すように、マイクロプロセッサなどのコンピュータを含む回路によって実現される。この演算回路48にはアナログ・ディジタル変換器(A/D)56、プロセッサ58およびメモリ部60が備えられる。A/D56は出力信号Doをディジタル信号に変換する。A/D56の出力信号は出力信号Doのレベルをディジタル値で表し、振幅検出部50および最低値検出部52のディジタル処理に用いられる。
プロセッサ58はメモリ部60のプログラム記憶部62にあるOS(Operating System)および凝集プログラムを実行し、既述の波高検出部50、比較部52および発光制御部54として機能する。
メモリ部60は記録部の一例であり、プログラム記憶部62、データ記録部64およびRAM(Random-Access Memory)66を備える。プログラム記憶部62にはプログラムとしてOSや既述の凝集プログラムなどが格納されている。データ記録部64には、出力信号Doのレベルのほか、既述のように凝集条件などに応じて設定される波高値やその出現数を規定した閾値データが記録される。RAM66は情報処理のワークエリアに用いられる。
プロセッサ58の演算結果は表示部67に出力される。この表示部67にはたとえば、液晶ディスプレィ(LCD)が用いられる。この表示部67にはプロセッサ58の演算に用いられる計測値や、演算結果である出力信号Doの波高値の値、閾値毎の出現数のほか、判定された凝集指標などが表示される。
<受光レベルの変化と凝集状態との関連について>
SS濃度が高い被処理水における凝集状態と、凝集モニタリング装置2で検出した散乱光の受光レベルの変化との関連性について説明する。
図3は、被処理水または沈殿した汚泥に含まれる懸濁物質やフロックの状態例である。
SS濃度が高い被処理水8や汚泥の内部には、凝集処理が十分に進んでいない場合、未凝集の懸濁物質や一定の大きさ以下のフロック70が密集状態となっている。このような凝集不足の被処理水8や汚泥では、レーザ光照射部10から照射されたレーザ光が計測領域18に達する前にフロック70に当たってしまうほか、計測領域18で散乱した光がレーザ光受光部12に入射する前に他のフロック70や汚泥に遮光される。このようにフロック70が密集状態となっている被処理水のフロック70同士の隙間について解析する。
粒径2aのフロック70が密集した高濃度の被処理水について、たとえば近接する特定の4つのフロック70の中心同士を結んで仮想的な立方体の空間を想定し、この空間内におけるフロック70が占める割合を計算する。近接する球体によって作られる球で囲まれた空隙の割合については、たとえば次の資料を参照する。
(新潟大学工学部微粒子材料工学研究室、教授:木村勇雄、講義:「円と球の空間」http://www.gs.niigata-u.ac.jp/~kimlab/lecture/math/SpacingCirclesSpheres.html)
この立方体の内部には、立方体の辺によって分断されたフロック70を組み合わせることで、4個のフロック70が含まれていると想定できる。ここでフロック70の粒径が2aであるから、球全体の体積と立方体の体積とから球が占める割合は、約0.74となり、空間(空隙)の割合は、0.26となる。この空間の割合には、球径は影響しない。
また想定した立方体の一辺は、対角線の長さが4aであるから、一辺の長さが、aとなる。これにより立方体における隙間の体積をVcとすると、
Vc=16×0.26=5.88a3 ・・・(1)
となる。
これにより汚泥の粒径がたとえば0.2〔mm〕から凝集剤の注入により粒径2〔mm〕まで成長したとすると、それぞれの粒径における隙間の体積は、以下のようになる。なお、この凝集剤は、被処理水中のSSを凝集させてフロック化する機能をもつものであればよく、被処理水中の汚泥の凝集と含水率の低下を図る脱水剤であってもよい。
(粒径0.2mmの場合) V0.2=0.047〔mm3〕 ・・・(2)
(粒径2mmの場合) V2 =47〔mm3〕 ・・・(3)
計測領域18とその周囲の発光領域および受光領域の合計体積がたとえば3〔mm3〕程度とすると、フロック70の成長により隙間が大きくなることで、この隙間を通じて散乱光が通過する可能性が高くなる。
〔フロックの成長に応じた散乱光の受光状態について〕
図4に示す散乱光の検出状態は、たとえば被処理水が未凝集の状態または凝集剤の添加量が少ない場合を示している。このとき、被処理水内の凝集処理が不十分であるため、散乱光受光部12において計測領域18で散乱した散乱光の受光ができず、またはその散乱光が減衰してしまい、散乱光レベルは0〔mV〕またはそれに近い値が維持される。
図5に示す散乱光の検出状態は、たとえば凝集処理が進み、フロック70が所定の大きさまで成長した場合を示しており、散乱光レベルが大きくなるとともに、受光回数が増加する。このとき成長したフロック70は、たとえばレーザ光の照射面積が大きくなることで、その表面に当たって発生する散乱光のレベルは高くなり、且つフロック70が大きくなったことでフロック70同士の隙間が拡大し、散乱光のレベルが高くなる機会が多くなる。逆に、フロック70が小さく、高密度になると、散乱光により照射されるフロック70の表面積が小さくなることで散乱光のレベルが小さくなる、かつフロック70の隙間が小さくなることにより散乱光受光部12に到達するまでに散乱光の減衰率が高くなり、受光レベルは低くなる。
図6に示す散乱光の検出状態では、たとえば図5に示す凝集処理からさらに凝集剤を添加して凝集処理が進んだ場合であり、散乱光レベルがさらに大きくなるとともに、その受光回数が増加する。このとき、散乱光レベルのピーク値が大きな値となり、かつその高い散乱光レベルの出現回数が多くなっている。SS濃度が高い被処理水8において、高い散乱光レベルが多数検出できていることから、被処理水8内のフロックは十分に成長して凝集処理が進んでいるものと判断する。このような高い散乱光レベルの受光が可能になった場合には、薬注を中止させればよい。
<凝集指標の出力>
レーザ光発光部20より照射されたレーザ光は、たとえば光路上に存在するフロック70に当たり散乱光を発生させる。散乱光の発生地点から散乱光受光部12までの平均粒子密度がほぼ一定と仮定すれば、フロックの密度が高い場合(フロックが小さい場合)には、散乱光は粒子と発光面の距離の変化が小さく、大きなフロック70が発生している場合に比べて出力信号Doのレベルが小さくなる。逆に、フロック70が大きい場合には、粒子と発光面の距離の変化が大きくなり、小さなフロック70の場合に比べて出力信号Doのレベルが大きくなる。
被処理水8中の汚泥濃度が高い場合の凝集レベルの指標は、検出された散乱光のレベルにより、その波高値が所定閾値以上になるか否かおよびその閾値以上のレベルの出現数に基づいて設定される。すなわち、この凝集モニタリングでは、散乱光の受光信号の上昇量およびそのような信号が出現する出現数(発生頻度)と、凝集により成長したフロック同士の隙間の増大とを相関させて凝集指標としている。この表1には、散乱光レベルの波高値およびその出現数に基づく凝集指標を示す。
表1において、L1〜L3は、散乱光レベルを示す出力信号Doの波高値(ピーク値)に対する第1の閾値の一例であり、たとえばL1=500〔mV〕、L2=1000〔mV〕、L3=2000〔mV〕が設定される。斯かるL1〜L3の閾値は、たとえば被処理水内の凝集汚泥の種類、性質、凝集条件などによって閾値を設定すればよい。通常、波高値の閾値は、L1<L2<L3の値で設定する。また、凝集レベルの判断では、波高値に対する閾値L1〜L3毎に、凝集状態の検出時間におけるその閾値を超える波形の出現数を判断する。この出現数に関する第2の閾値としてN1〜N3が設定され、一例としてN1=5〔回〕、N2=4〔回〕、N3=3〔回〕が設定される。出現数の閾値N1〜N3は、たとえば被処理水内において、部分的に凝集状態が進行している状態を排除して、凝集レベルを判断するものである。
表1によれば、たとえば出力信号Doのレベル(散乱光レベル)の波高値が閾値L1〜L3以上か否かを判断し、かつその出現数が閾値N1〜N3を満たすか否かにより、現在の凝集状態が凝集レベル1〜レベル3のいずれに属するかを判断する指標となる。そして、この指標に基づいて凝集剤の添加量が不十分か、または過剰かを把握でき、添加制御を行なうことができる。
<信号処理および計測値の信号処理>
ここで、モニタリング処理に用いる信号処理について一例を説明する。タイミング回路32が制御するタイミング信号Tsは、一定時間Tの間隔(周期)で一定のパルス幅twを持つパルス信号である。この場合、Hレベル区間(=パルス幅tw)がレーザ光の発光時間であり、Lレベル区間(=T−tw)がレーザ光の非発光時間である。一例として、T=2〔秒〕、tw=0.2〔秒〕に設定される。この場合、T−tw=2〔秒〕に設定してもよい。
ファンクションジェネレータ34が処理する変調信号Msは、一定の周波数fおよび同一振幅の周期信号である。周波数fは、70〜150〔kHz〕のいずれかを選択すればよい。
発光信号Drは、変調信号Msでタイミング信号Tsを変調するAM変調回路30の出力信号である。つまり、この発光信号Drは、タイミング信号TsのHレベル区間のパルス幅twに変調信号Msを重畳した周期信号である。つまり、発光信号Drは、パルス幅twが変調信号Msの振幅で変化し、タイミング信号Tsで間欠する周期信号である。
このような発光信号Drを用いれば、レーザ発光素子26から発光信号Drによる発光態様を持つレーザ光が得られる。
このレーザ光をレーザ光照射部10から計測領域18に照射すると、計測領域18に滞在する被処理水8中の懸濁物質やフロック70などの粒子から散乱光が得られる。この散乱光が散乱光受光部12に受光される。
そして、光電変換回路38の光電変換、フィルタ処理および増幅を経て、増幅器46の出力側には受光信号Eoが得られる。この受光信号Eoは、タイミング信号Tsで間欠し、変調信号Msの周波数を持ち、散乱光の強度に応じたレベルの振幅を持っている。
この受光信号Eoを検波回路40で検波すると、タイミング信号Tsで間欠し、散乱光の強度に応じた直流レベルを持つ出力信号Doが得られる。受光信号Eoの信号処理ではたとえば、バンドパスフィルタ44の出力を半波整流して検波した後、その検波出力のトップピークをピークホールドすれば出力信号Doが得られる。
これにより演算回路48では、出力信号DoからA/D変換を経て、既述の振幅および信号レベルのピーク値が計測される。
<凝集モニタリングの処理手順>
図7は、凝集モニタリングの処理手順の一例を示している。この処理手順は、本発明の凝集モニタリング方法の一例である。この処理手順は、演算回路48に含まれるプロセッサ58およびメモリ部60を含むコンピューティング処理(情報処理)によって実行される。
この処理手順では、条件設定工程において、凝集モニタリングの条件設定を行う(S1)。この条件設定では、たとえば被処理水のSS濃度条件、被処理水や被処理汚泥の種類の条件、被処理水や被処理汚泥に応じた散乱光の波高値L1〜L3およびその出現数の閾値N1〜N3などを設定する。
この条件設定の後、凝集モニタリングの開始か否かを判断する(S2)。モニタリングを開始すると(S2のYES)、レーザ発光工程に移行してレーザ発光素子26を駆動し(S3)、レーザ光照射工程に移行する(S4)。レーザ光照射工程では既述したように、計測領域18にレーザ光を照射する。
散乱光受光工程(S5)では既述したように、計測領域18から散乱光を受光し、散乱光の強度を表すレベルを持つ受光信号に変換する。
信号処理の工程として、出力信号Doの散乱光レベルについて、波形のピーク値を計測処理するとともに、ピーク値が閾値L1〜L3を超える波形の出現数を計測する(S6)。この出力信号Doのピーク値検出処理は、既述の計測値の信号処理に基づいて、演算回路48で演算処理される。
凝集状態の判断処理として、計測された出力信号Doについて、散乱光レベルが既述の表1に示す凝集レベル1の条件未満か否かを判断する(S7)。散乱光レベルのピーク値が閾値L1未満の場合(S7のYES)、散乱光受光部12は全く、または殆ど散乱光を受光出来ていないことから、被処理水内の凝集処理が進んでおらず、フロックの成長が不十分であると判断し、凝集指標「未凝集」を出力する(S8)。このような判断に基づいて、凝集処理では、凝集剤の添加率を増加させるなどの制御が行われる。
散乱光レベルが凝集レベル1未満でない場合(S7のNO)、すなわち、出力信号Doのピーク値が閾値L1以上であり、かつその波形の出現数が閾値N1以上の場合には、「凝集レベル1以上」が確定するとともに、凝集レベル2の条件未満か否かの判断が行われる(S9)。この判断では、出力信号Doのピーク値が閾値L2であるか、またそのような波形の出現数が閾値N2を越えるかが判断される。凝集レベル2の条件を満たさない場合(S9のYES)、凝集指標「凝集レベル1以上、2未満」を出力する(S10)。この判断に基づいて、凝集処理では、凝集不足又は成長過程のフロックであると判断され、凝集レベル1未満よりも少量の凝集剤の添加量を増加させる制御が行われる。
散乱光レベルが凝集レベル2未満でない場合(S9のNO)。凝集レベル3未満か否かの判断が行われる(S11)。この判断では、出力信号Doのピーク値が閾値L3であるか、またはそのような波形の出現数が閾値N3を越えるか否かが判断される。凝集レベル3の条件を満たさない場合(S11のYES)凝集指標「凝集レベル2以上3未満」を出力する(S12)。この判断に基づいて、凝集処理では、凝集十分と判断し、凝集剤の投入量を現状維持させる。
また、凝集レベル3の条件を満たす場合(S11のNO)、凝集指標「薬注過剰」を出力する(S13)。この場合、凝集処理では、凝集剤添加量を減少させる制御が行われる。
なお、この凝集モニタリング処理では、凝集状態の判断において、散乱光レベルが低い閾値が設定された凝集レベル1から判断したがこれに限らず、出力信号Doについて、凝集レベル3から判断してもよい。
<第1の実施の形態の作用および効果>
この第1の実施の形態によれば、次のような作用および効果が得られる。
(1) 凝集モニタリング装置2は、演算回路48の波高検出部50、比較部52において、受光した散乱光の出力信号Doから信号波形のピーク値を求め、そのピーク値が閾値を超えること、およびその閾値を超える波形の出現数を求めることで、受光レベルの変化を判断する。そして、演算回路48は、この受光レベルの変化から被処理水の凝集状態の指標を求める。斯かる構成により、SS濃度が高く、未凝集の状態ではレーザ光によるSS濃度の計測が困難な被処理水であっても、薬注による凝集処理の進行状態を把握でき、適切な薬注処理による凝集制御を行うことが可能となる。
(2) 凝集モニタリングでは、出力信号Doのピーク値に対する閾値を複数設定し、いずれの閾値を超えるか、かつ、この閾値を超える波形の出現数が幾つあるのかに基づいて、受光レベルの変化を判断する。この閾値の設定は、被処理水に含まれる被処理汚泥の性質や凝集目的、または添加される凝集剤の種類により設定される。これにより、SS濃度が高い被処理水においても、凝集状態を精緻に把握することができる。
(3) 凝集状態の判断において、出力信号Doのピーク値に対する閾値の判断のみではなく、この閾値を超える波形の出現数を組み合わせて凝集レベルを判断することで、被処理水中において凝集処理が部分的に偏って生じるなどの状態を排除することができる。
(4) 上記実施の形態では、波形の出現数が第2の閾値を超えることで凝集レベルを判断しているが、これに限られない。出力信号Doのピーク値の発生数が少ない場合、または部分的に突出したピーク値が発生した場合には、その波形の出現数を判断せず、または第2の閾値を超えていなくても、ピーク値のみで凝集レベルを判断してもよい。これにより、フロックが大きく成長することでフロック間の隙間が大きくなり、散乱光のレベルに偏りが生じる場合でも、適切な薬注制御、凝集状態の把握が可能となる。
〔第2の実施の形態〕
図8は、第2の実施の形態に係る凝集システムを示している。この凝集システム72は、第1の実施の形態に係る凝集モニタリング装置2を用いた凝集処理システムの一例である。図8において、図1と同一部分には同一符号を付し、その説明を割愛する。
凝集モニタリング装置2では、凝集槽6で凝集処理が行われている被処理水8の凝集指標が算出され、制御部74に提供される。この凝集指標は、凝集槽6内で凝集処理される被処理水8の処理状態から得られた凝集の指標を示している。
この制御部74は凝集剤の薬注量や攪拌制御などの凝集槽6における被処理水8の凝集処理を制御する。凝集槽6の被処理水8には薬注部76から凝集剤が注入される。また、凝集槽6には、被処理水8を攪拌する攪拌機が設置されてもよい。この攪拌機は、制御部74によって制御される駆動部80によって駆動すればよい。
制御部74はたとえば、コンピュータによって構成され、凝集モニタリング装置2から提供される凝集指標を用いて凝集剤の薬注量が算出される。
<凝集システムの凝集処理>
図9は、凝集処理の処理手順の一例を示している。この処理手順では、凝集処理の開始か否かを判断し(S21)、その判断結果に応じて凝集処理を開始する。凝集処理を開始すると(S21のYES)、凝集槽6の被処理水8の処理状態について凝集モニタリングを実施する(S22)。この凝集モニタリングは凝集モニタリング装置2によって実施される。この処理内容の詳細は割愛する。この凝集モニタリング装置2では被処理水8の処理状態を表す凝集指標が算出され(S23)、凝集システム72の制御部74に提供される。
凝集指標を受けると、制御部74では凝集指標に基づき凝集剤薬注量が選定される(S24)。これにより、薬注部76から凝集剤の薬注が行われる(S25)。
この凝集処理を終了するか否かを監視し(S26)、凝集処理を終了しない場合には(S26のNO)、S22に戻り、S22〜S26の凝集処理を継続する。
そして、凝集処理を終了する場合には(S26のYES)、凝集モニタリングを終了し(S27)、凝集処理を終了する。
<第2の実施の形態の作用および効果>
この第2の実施の形態によれば、次のような機能および効果が得られる。
(1) 凝集処理の状態がリアルタイムで把握され、フロックの有無にかかわらずに散乱光の計測値から凝集指標を生成し薬注制御に採用するので、安定した薬注制御を実現することができる。
(2) 被処理水の凝集条件や凝集剤の薬注量が求められる。
(3) 被処理水に対する薬注量の適正化とともに、安定した凝集処理が行え、凝集効率を高めることができる。
(4) 凝集槽6の処理状態の測定に基づく凝集システムの補償機能を維持することができ、過剰な凝集剤の投与を防止して環境負荷への影響を回避でき、信頼性の高い凝集処理を実現できる。
(5) 高濃度の汚泥処理であっても、添加した薬剤による凝集状態の変化を把握することができ、的確な薬注制御を行うことができる。
〔他の実施の形態〕
(1) 上記実施の形態では、所定の時間間隔で発光しかつ所定周波数で振幅変調が施されたレーザ光を用いているが、レーザ発光素子の寿命を考慮することなく、濁度の計測を優先する場合には所定周波数で振幅変調が施されたレーザ光を用いてもよい。この場合、複数の最低レベルの信号を連続した受光信号から所定のタイミングで抽出すればよい。
(2) 上記実施の形態では、凝集状態の指標として、散乱光レベルである出力信号Doのピーク値が閾値以上であり、かつその閾値以上の波形の出現数の変化に基づいて凝集レベルを判断する場合を示したがこれに限られない。演算回路48は、たとえば測定した散乱光レベルの出力信号Doの合計を算出し、その合計値を所定の閾値と比較して凝集レベルの指標を求めてもよい。演算回路48は、たとえば積分回路を備え、測定された出力信号Doの波形からその合計値を求めても良く、またはデータ記録部64に記録されたピーク値を利用してその合計値を求めても良い。そして演算回路46には、所定の計測時間における散乱光レベルの合計値に基づく凝集レベルの指標が設定されてもよい。
(3) また、演算回路48は、たとえば散乱光レベルの出力信号Doの測定結果に対して所定の判定時間における出力信号Doの平均値を算出してもよい。そして凝集状態の判断では、斯かる平均値と凝集レベルとを関連付けた閾値を利用してもよい。
(4) 上記実施の形態において、バンドパスフィルタ44および増幅器46はディジタル処理で実現してもよい。
(5) 上記実施の形態では、凝集モニタリング装置2で処理状態をモニタリングする被処理水8として浄水、工業用水、排水などを例示しているが、この被処理水8は採石場などから廃出される高濃度の無機排水や果汁などの飲用液体であってもよい。
(6) 凝集状態の判断は、たとえば1回のみで凝集状態を判断する場合に限らず、所定時間おきに複数回の散乱光レベルを測定し、計測された出力信号Doの閾値以上の波形となるピーク値の合計回数、または平均発生回数を利用してもよい。また、薬注処理を行ってから経過時間を計測し、その経過時間の相違による散乱光の受光レベルの変化も合せて凝集状態の指標を求めてもよい。
(7) また、凝集モニタリング装置2は、計測した出力信号Doのみから凝集状態を判断する場合に限られず、たとえばデータ記録部64に蓄積された前回またはそれ以前の出力信号Doのデータを利用して凝集状態を判断してもよい。演算回路48は、たとえば今回測定した出力信号Doの値とともに、直前に判断した出力信号Doの値との差分値を求め、その変化量も考慮して凝集レベルの指標を設定してもよい。
(8) 上記実施の形態では、閾値を超える出力信号Doのピーク値と、その出現数に基づいて凝集レベルを判断しているが、これに限らない。演算回路48は、たとえば閾値を超える出力信号Doの出現回数のみが増減した場合にも凝集レベルの指標を設定し、判断を行ってもよい。
(9) 凝集モニタリング装置2には、たとえば図10に示すように、レーザ発光素子26や散乱光の受光部であるフォトディテクタ42の前面側に、それぞれフィルタ部材80、82を備えるとともに、このフィルタ部材80、82の一面を洗浄処理する洗浄装置90を備えてもよい。フィルタ部材80、82は、被処理水や汚泥をレーザ発光素子26やフォトディテクタ42に接触させない防護手段の一例であって、たとえばアクリルやガラスなどレーザ光やその散乱光の透過を妨げない透明な部材で形成されていればよい。洗浄装置90は、たとえばフィルタ部材80、82に対して、水や空気、その他、被処理水8や汚泥に影響を与えない洗浄剤などを吹き付けるノズル92、94を備えている。洗浄装置90は、被処理水8の計測領域18から離間させ、被処理水8のモニタリングに影響を与えないように離間して配置されればよい。また洗浄装置90は、たとえば凝集モニタリング装置2の演算回路48にある発光制御部54や凝集システム72の制御部74に接続されており、レーザ光の発光タイミングや薬注処理タイミング等に重ならないように、動作制御が行われればよい。このような構成によれば、常に、レーザ光の発光部および散乱光の受光部分を清浄に維持することができ、SS濃度が高い被処理水8中の汚泥などの影響を受けずに、凝集状態を把握することができる。
(10) 凝集モニタリング装置2は、凝集処理の開始時に、凝集剤が添加される前の被処理水8の凝集状態の測定処理を行い、未凝集の状態で散乱光の受光レベルが検出できない、または極めて微小な値のみが検出されることの判断を行ってもよい。すなわち、上記実施の形態に示す凝集状態の判断手法は、SS濃度が極めて高い場合を想定したものであることから、凝集処理の開始時に従来の未凝集のSS濃度の凝集監視が行えないことを確認する工程を行ってもよい。
以上説明したように、本発明の凝集モニタリング装置、凝集モニタリング方法および凝集システムの最も好ましい実施の形態等について説明した。本発明は、上記記載に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載され、または発明を実施するための形態に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能であることは勿論である。斯かる変形や変更が、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。