以下、測定装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
まず、測定装置の一例である図1に示す測定装置1の構成について説明する。この測定装置1は、測定部2、処理部3、記憶部4および出力部5を備え、一対の入力端子6a,6b間に入力される不図示の測定対象についての被測定量を示す測定電圧Vin(交流または直流電圧)に基づいて、この被測定量を測定する。この測定装置1では、入力端子6bがこの装置における基準電位(グランド)Gに規定されている部位に接続されているため、測定電圧Vinは、この入力端子6bの電位(基準電位G)を基準として入力端子6aに入力される。
この場合、測定装置1は、測定電圧Vinが測定対象に流れる電流を電圧に変換した信号であるときには、この電流を被測定量として測定し、測定電圧Vinが測定対象に生じている電圧を示す信号であるときには、この電圧を被測定量として測定する。また、測定装置1は、測定対象に流れる電流を電圧に変換した信号と、この電流が流れた際に測定対象の両端間に発生する電圧を示す信号とが測定電圧Vinとして時分割で入力されるときには、測定対象に流れる電流と測定対象に発生する電圧とを被測定量として測定すると共に、測定した電流および電圧に基づいて算出される電力についても被測定量として測定する。本例では一例として、測定装置1は、測定対象に生じている電圧の電圧値Vmを被測定量として測定する電圧測定装置であるものとし、一例として、測定電圧Vinは電圧値Vmと同じ電圧値の信号であるものとする。なお、測定電圧Vinは、測定対象に生じている電圧を分圧して得られる信号であったり、測定対象に生じている電圧を昇圧して得られる信号であってもよいのは勿論である。
測定部2は、基準電圧出力部11、第1スイッチ部12、レンジアンプ13、プリアンプ14およびA/D変換部15を備え、測定電圧Vinを複数の測定レンジ(本例では一例として後述する3つの測定レンジRa,Rb,Rc(特に区別しないときには測定レンジRともいう))のうちから選択(指定)された1つの測定レンジRで測定して、この測定電圧Vinの瞬時値を示す測定値(測定データ)Dmを予め規定された周期T1(例えば、数百ミリ秒間隔)で処理部3に出力する。
基準電圧出力部11は、一例として、測定レンジRの数と同数のゲイン補正(ゲイン校正)用の基準電圧Vr(基準電位Gを基準とする電圧値が既知の電圧)と、オフセット補正(オフセット校正)用の1つの基準電圧Vrz(電圧値が基準電位Gと同電位(ゼロボルト)の電圧)とを出力する。本例では、後述するように、測定レンジRの数は一例として10V,1V,0.1Vの3つであることから、基準電圧出力部11は、10Vの測定レンジRa用の基準電圧Vra(10Vまたは10Vよりも若干低い電圧。例えば9V)、1Vの測定レンジRb用の基準電圧Vrb(1Vまたは1Vよりも若干低い電圧。例えば0.9V)、および0.1Vの測定レンジRc用の基準電圧Vrc(0.1Vまたは0.1Vよりも若干低い電圧。例えば0.09V)を基準電圧Vrとして出力する。
第1スイッチ部12は、処理部3によってオン・オフ制御が行われる複数のスイッチ(本例では5つのスイッチSW1,SW2,SW3,SW4,SW5)を備えている。また、第1スイッチ部12は、入力端子6aおよび基準電圧出力部11における不図示の出力端子(基準電圧Vra〜Vrc,Vrzの各出力端子)と、レンジアンプ13(の非反転入力端子)との間に配設されて、スイッチSW1のみがオン状態に制御されることで測定電圧Vinをレンジアンプ13に選択的に出力し、スイッチSW2のみがオン状態に制御されることで基準電圧Vraをレンジアンプ13に選択的に出力し、スイッチSW3のみがオン状態に制御されることで基準電圧Vrbをレンジアンプ13に選択的に出力し、スイッチSW4のみがオン状態に制御されることで基準電圧Vrcをレンジアンプ13に選択的に出力し、スイッチSW5のみがオン状態に制御されることで基準電圧Vrzをレンジアンプ13に選択的に出力する。
レンジアンプ13は、一例として、オペアンプ13a、ゲインG1を設定するための2つの抵抗13b,13c、および処理部3によってオン・オフ制御が行われる複数のスイッチ(本例では4つのスイッチSW6,SW7,SW8,SW9)を有する第2スイッチ部13dを備えている。オペアンプ13aは、その非反転入力端子が第1スイッチ部12の各出力端子に接続されている。各抵抗13b,13cは、抵抗13bの他端と抵抗13cの一端とが接続されることで互いに直列接続されている。また、抵抗13b,13cの直列回路は、抵抗13bの一端がオペアンプ13aの出力端子に接続され、抵抗13cの他端が基準電位Gに規定されることで、オペアンプ13aの出力端子と測定部2における基準電位Gに規定された部位との間に配設されている。
また、第2スイッチ部13dの各スイッチSW6〜SW9は、スイッチSW6がオペアンプ13aの出力端子と反転入力端子との間に接続され、スイッチSW7が抵抗13cの一端とオペアンプ13aの反転入力端子との間に接続され、スイッチSW8がオペアンプ13aの出力端子とプリアンプ14の入力端子との間に接続され、スイッチSW9が抵抗13cの一端とプリアンプ14の入力端子との間に接続されている。
この構成により、レンジアンプ13は、スイッチSW7,SW8のみがオン状態に制御されることでゲインG1がG1c(=10)倍に設定(つまり、0.1Vの測定レンジRcに指定)され、スイッチSW6,SW8のみがオン状態に制御されることでゲインG1がG1b(=1)倍に設定(つまり、1Vの測定レンジRbに指定)され、スイッチSW6,SW9のみがオン状態に制御されることでゲインG1がG1a(=0.1)倍に設定(つまり、10Vの測定レンジRaに指定)されて、第1スイッチ部12において選択されて第1スイッチ部12から出力される選択電圧V1を、設定されたゲインG1で増幅して(指定された測定レンジRで測定して)第1増幅電圧V2としてプリアンプ14に出力する。
プリアンプ14は、レンジアンプ13から出力される第1増幅電圧V2を予め規定されたゲインG2で増幅して第2増幅電圧V3としてA/D変換部15に出力する。このプリアンプ14のゲインG2は、第2増幅電圧V3の電圧値をA/D変換部15の入力定格電圧に適合した電圧値とし得るように規定されている。
A/D変換部15は、プリアンプ14から出力される第2増幅電圧V3を、規定の周期T2(例えば、上記した周期T1の1/2)でサンプリングすることにより、第2増幅電圧V3の瞬時値を示す電圧データD1を生成して処理部3に出力する。本例では後述するように、処理部3が、スイッチSW1のみをオン状態に制御して測定電圧Vinをレンジアンプ13に出力させるという第1スイッチ部12に対する制御(後述する測定処理Pmの実行期間中に行う制御)と、スイッチSW1以外のいずれか1つのスイッチのみをオン状態に制御して1種類の基準電圧Vr(基準電圧Vra〜Vrc,Vrzのいずれか1つ)を出力させるという第1スイッチ部12に対する制御(後述する補正値更新処理Pcの実行期間中に行う制御)とを周期T2で繰り返し実行する。
この構成により、測定部2は、測定電圧Vinの瞬時値を示す電圧データD1を測定値Dmとして周期T1で出力し、この測定値Dmの出力タイミングと周期T2だけずれたタイミングで、基準電圧Vrを示す電圧データD1を補正値Dcとして周期T1で出力する。
処理部3は、例えばコンピュータで構成されて、測定部2から出力される測定値Dmを、記憶部4に記憶されている各測定レンジRで使用される個別の補正値Dc(各測定レンジRに対応する補正値)のうちのこの測定値Dmの測定に使用された測定レンジRで使用される補正値Dcで補正して測定電圧Vinの電圧値Vmを測定する測定処理Pm(図2参照)を実行する。
また、処理部3は、測定部2から出力される新たな補正値Dcで、記憶部4に記憶されている各測定レンジRで使用される個別の補正値Dcのうちの測定部2においてこの新たな補正値Dcの測定に使用された測定レンジRで使用される補正値Dcを更新する補正値更新処理Pcを実行する。
なお、補正値Dcとしては、ゲイン補正用の基準電圧Vra〜Vrcのうちのいずれかを示す電圧データD1が用いられる補正値Dcと、オフセット補正用の基準電圧Vrzを示す電圧データD1が用いられる補正値Dcとがあり、この2つを区別するため、前者を補正値Dcrとし、後者を補正値Dczとする。また、測定レンジRaで使用される補正値Dcr,Dczをそれぞれ補正値Dcra,Dczaとし、さらに補正値Dcraを更新する補正値更新処理Pcを補正値更新処理Pcraとし、補正値Dczaを更新する補正値更新処理Pcを補正値更新処理Pczaとする。同様にして、測定レンジRbで使用される補正値Dcr,Dczをそれぞれ補正値Dcrb,Dczbとし、さらに補正値Dcrbを更新する補正値更新処理Pcを補正値更新処理Pcrbとし、補正値Dczbを更新する補正値更新処理Pcを補正値更新処理Pczbとする。また測定レンジRcで使用される補正値Dcr,Dczをそれぞれ補正値Dcrc,Dczcとし、さらに補正値Dcrcを更新する補正値更新処理Pcを補正値更新処理Pcrcとし、補正値Dczcを更新する補正値更新処理Pcを補正値更新処理Pczcとする。
また、処理部3は、上記の測定処理Pmおよび上記の各補正値更新処理Pcの開始直後において、第1スイッチ部12の各スイッチSW1〜SW5に対するオン・オフ制御を実行して、測定電圧Vinおよび各基準電圧Vrのうちの各処理Pm,Pcにおいて使用する1つの電圧を選択して選択電圧V1としてレンジアンプ13に出力させる。また、処理部3は、測定処理Pmにおいて、算出した測定電圧Vinの電圧値Vmと各測定レンジRの電圧範囲とに基づいて、次の測定処理Pmにおいて電圧値Vmを算出するのに適した1つの測定レンジR(測定部2に対して測定値Dmを測定させるための1つの測定レンジ。この測定レンジを以下では第1測定レンジRともいう)を選択すると共に、レンジアンプ13の各スイッチSW6〜SW9に対するオン・オフ制御(レンジアンプ13についての測定レンジRの選択)を実行してこの第1測定レンジRに切り替えるレンジ切替処理Pr(図2参照)を実行する。
また、処理部3は、このようにして複数種類の測定レンジR(本例では3つの測定レンジRa,Rb,Rc)のうちの1つの測定レンジRを測定部2に対して測定値Dmを出力させる第1測定レンジRとして選択したときには、この第1測定レンジRでの測定処理Pmにおいてこの測定値Dmに基づいて算出される電圧値Vmがこの第1測定レンジRの電圧範囲内となっている限りは、測定処理Pmの実行時には現在の第1測定レンジRを変更することなく維持して、測定部2にこの第1測定レンジRでの測定値Dmを出力させて電圧値Vmを算出(測定)する。一方、補正値更新処理Pcについては、処理部3は、第1測定レンジRを維持して測定部2にこの第1測定レンジRでの補正値Dcを新たに出力させて、この新たな補正値Dcで、記憶部4に記憶されているこの第1測定レンジRで使用される補正値Dcを更新する補正値更新処理Pcを主として実行しつつ、測定部2に対して複数種類の測定レンジR(本例では3つの測定レンジRa,Rb,Rc)のうちの第1測定レンジR以外の第2測定レンジRで補正値Dcを出力させて(つまり、測定部2に対して第1測定レンジRを一時的に第2測定レンジRに切り替えさせると共にこの第2測定レンジRに対応した基準電圧Vrに一時的に切り替えさせることで、第2測定レンジRでの補正値Dcを出力させて)、この新たな補正値Dcで、記憶部4に記憶されているこの第2測定レンジRで使用される補正値Dcを更新する補正値更新処理Pcについても実行する。
すなわち、この第1測定レンジRにおいて主として実行する上記の補正値更新処理Pcを第1補正値更新処理Pcとし、一時的に第2測定レンジRに切り替えて実行する上記の補正値更新処理Pcを第2補正値更新処理Pcとしたときに、処理部3は、第1測定レンジRでの第1補正値更新処理Pcおよび測定処理Pmの実行の合間に、第2補正値更新処理Pcを実行する。
次に、各補正値更新処理Pcにおいて記憶部4に更新記憶される測定レンジR毎の補正値Dcと、測定値Dmと、電圧値Vmとの関係について説明する。
この測定装置1では、レンジアンプ13を構成するオペアンプ13aには、オフセット電圧Vos1が存在し、プリアンプ14には、オフセット電圧Vos2が存在している。この各オフセット電圧Vos1,Vos2、並びにレンジアンプ13のゲインG1およびプリアンプ14のゲインG2は、測定装置1が配置されている測定環境の変化に応じて変動する。このため、この測定装置1では、処理部3は、測定処理Pmにおいて、測定部2から出力される測定値Dmを、この測定値Dmが測定された測定レンジRで使用される補正値Dcで補正することにより、測定環境の変化に応じて変動する各オフセット電圧Vos1,Vos2および各ゲインG1,G2の影響を受けない状態(影響を排除した状態)で測定電圧Vinの電圧値Vmを算出する。
具体的には、測定レンジRa(レンジアンプ13のゲインG1がG1a)のときにおいて、第1スイッチ部12のスイッチSW1のみがオン状態に制御されたときには、プリアンプ14からA/D変換部15に出力される第2増幅電圧V3(このときの第2増幅電圧V3をV3maとする)は、下記式(1)で表される。
V3ma={(Vin+Vos1)×G1a+Vos2}×G2 ・・・(1)
また、この測定レンジRaのときにおいて、第1スイッチ部12のスイッチSW5のみがオン状態に制御されたときには、プリアンプ14からA/D変換部15に出力される第2増幅電圧V3(このときの第2増幅電圧V3をV3zaとする)は、基準電圧Vrzがゼロボルトであることを考慮すると、下記式(2)で表される。
V3za={(Vrz+Vos1)×G1a+Vos2}×G2
={Vos1×G1a+Vos2}×G2 ・・・(2)
また、この測定レンジRaのときにおいて、第1スイッチ部12のスイッチSW2のみがオン状態に制御されたときには、プリアンプ14からA/D変換部15に出力される第2増幅電圧V3(このときの第2増幅電圧V3をV3raとする)は、下記式(3)で表される。
V3ra={(Vra+Vos1)×G1a+Vos2}×G2 ・・・(3)
この場合、(V3ma−V3za)/(V3ra−V3za)の式に上記式(1)〜(3)を代入して整理すると、
(V3ma−V3za)/(V3ra−V3za)=Vin/Vraとなり、この式を変形すると、測定レンジRaのときの測定電圧Vinについての下記式(4)が導出される。
Vin=(V3ma−V3za)/(V3ra−V3za)×Vra ・・・(4)
この式(4)は、基準電圧Vraが測定環境の変化の影響を受けないもの(定電圧)であるときには、処理部3が、第1スイッチ部12の各スイッチSW1〜SW5に対するオン・オフ制御を実行して上記の2つの第2増幅電圧V3za,V3raについての電圧データD1を取得すると共にこの2つの電圧データD1をこの測定レンジRaで使用される補正値Dc(補正値Dcz,Dcr、具体的には補正値Dcza,Dcra)として記憶部4に記憶し(つまり、補正値更新処理Pcを実行し)、この各補正値Dcza,Dcraの取得のときから測定環境の変化が無視できるとみなせる短期間内に、第1スイッチ部12の各スイッチSW1〜SW5に対するオン・オフ制御を実行して上記の第2増幅電圧V3maについての電圧データD1を測定値Dmとして取得し(つまり、測定処理Pmを実行し)、かつこの取得した測定値Dmおよび各補正値Dcza,Dcraを上記の式(4)に、対応する第2増幅電圧V3ma,V3za,V3raとして基準電圧Vraと共に代入することにより、各オフセット電圧Vos1,Vos2および各ゲインG1,G2の影響を受けない状態(影響を排除した状態)で、測定レンジRaのときの測定電圧Vin(つまり、測定電圧Vinの電圧値Vm)を算出できることを示している。
また、測定レンジRb(レンジアンプ13のゲインG1がG1b)のときにおいては、第1スイッチ部12のスイッチSW1のみがオン状態に制御されたときの第2増幅電圧V3(このときの第2増幅電圧V3をV3mbとする)は、下記式(5)で表される。
V3mb={(Vin+Vos1)×G1b+Vos2}×G2 ・・・(5)
また、この測定レンジRbのときにおいて、第1スイッチ部12のスイッチSW5のみがオン状態に制御されたときの第2増幅電圧V3(このときの第2増幅電圧V3をV3zbとする)は、基準電圧Vrzがゼロボルトであることを考慮すると、下記式(6)で表される。
V3zb={(Vrz+Vos1)×G1b+Vos2}×G2
={Vos1×G1b+Vos2}×G2 ・・・(6)
また、この測定レンジRbのときにおいて、第1スイッチ部12のスイッチSW3のみがオン状態に制御されたときの第2増幅電圧V3(このときの第2増幅電圧V3をV3rbとする)は、下記式(7)で表される。
V3rb={(Vrb+Vos1)×G1b+Vos2}×G2 ・・・(7)
この場合、(V3mb−V3zb)/(V3rb−V3zb)の式に上記式(5)〜(7)を代入して整理すると、測定レンジRbのときの測定電圧Vinについての下記式(8)が導出される。
Vin=(V3mb−V3zb)/(V3rb−V3zb)×Vrb ・・・(8)
したがって、測定レンジRbのときにおいても、基準電圧Vrbが測定環境の変化の影響を受けないもの(定電圧)であるときには、上記した測定レンジRaのときと同様にして取得した測定値Dmおよび各補正値Dcz,Dcr(具体的には補正値Dczb,Dcrb)を上記の式(8)に、対応する第2増幅電圧V3mb,V3zb,V3rbとして基準電圧Vrbと共に代入することにより、各オフセット電圧Vos1,Vos2および各ゲインG1,G2の影響を受けない状態(影響を排除した状態)で、測定レンジRbのときの測定電圧Vin(つまり、測定電圧Vinの電圧値Vm)を算出できることを示している。
また、測定レンジRc(レンジアンプ13のゲインG1がG1c)のときにおいては、第1スイッチ部12のスイッチSW1のみがオン状態に制御されたときの第2増幅電圧V3(このときの第2増幅電圧V3をV3mcとする)は、下記式(9)で表される。
V3mc={(Vin+Vos1)×G1c+Vos2}×G2 ・・・(9)
また、この測定レンジRcのときにおいて、第1スイッチ部12のスイッチSW5のみがオン状態に制御されたときの第2増幅電圧V3(このときの第2増幅電圧V3をV3zcとする)は、基準電圧Vrzがゼロボルトであることを考慮すると、下記式(10)で表される。
V3zc={(Vrz+Vos1)×G1c+Vos2}×G2
={Vos1×G1c+Vos2}×G2 ・・・(10)
また、この測定レンジRcのときにおいて、第1スイッチ部12のスイッチSW4のみがオン状態に制御されたときの第2増幅電圧V3(このときの第2増幅電圧V3をV3rcとする)は、下記式(11)で表される。
V3rc={(Vrc+Vos1)×G1c+Vos2}×G2 ・・・(11)
この場合、(V3mc−V3zc)/(V3rc−V3zc)の式に上記式(9)〜(11)を代入して整理すると、測定レンジRcのときの測定電圧Vinについての下記式(12)が導出される。
Vin=(V3mc−V3zc)/(V3rc−V3zc)×Vrc ・・・(12)
したがって、測定レンジRcのときにおいても、基準電圧Vrcが測定環境の変化の影響を受けないもの(定電圧)であるときには、上記した測定レンジRaのときと同様にして取得した測定値Dmおよび各補正値Dcz,Dcr(具体的には補正値Dczc,Dcrc)を上記の式(12)に、対応する第2増幅電圧V3mc,V3zc,V3rcとして基準電圧Vrcと共に代入することにより、各オフセット電圧Vos1,Vos2および各ゲインG1,G2の影響を受けない状態(影響を排除した状態)で、測定レンジRcのときの測定電圧Vin(つまり、測定電圧Vinの電圧値Vm)を算出できることを示している。
記憶部4は、例えば、RAMなどの半導体メモリやハードディスク装置で構成されて、上記した各測定レンジRa〜Rcに対応した測定電圧Vinについての各式(4),(8),(12)、および各基準電圧Vra,Vrb,Vrcの既知の電圧値Vra,Vrb,Vrc(対応する電圧と同じ符号を付すものとする)が記憶されている。また、記憶部4には、各測定レンジRで使用される個別の補正値Rc(具体的には、上記したような、測定レンジRaで使用される補正値Dcza,Dcra、測定レンジRbで使用される補正値Dczb,Dcrb、測定レンジRcで使用される補正値Dczc,Dcrc)が更新記憶される。また、記憶部4には、測定値Dmおよび電圧値Vmが記憶される。なお、本例では、基準電圧Vrzの電圧値Vrzはゼロボルトであることから、記憶部4に電圧値Vrzを記憶させず、また電圧値Vrzを消去した上記のV3za,V3zb,V3zcについての各式(2),(6),(10)を用いて上記の各式(4),(8),(12)を導出しているが、電圧値Vrzはゼロボルト以外の電圧値であってもよい。この場合には、電圧値Vrzは記憶部4に記憶され、また上記の各式(4),(8),(12)は、基準電圧Vrzを含む上記したV3za,V3zb,V3zcについての各式を用いて導出されたものとなる。
出力部5は、一例として液晶ディスプレイなどの表示装置で構成されて、処理部3で測定された測定電圧Vinの電圧値Vmを画面上に表示させる。なお、出力部5については、表示装置とする構成に代えて、外部装置とデータ通信するインターフェース回路やリムーバブルメディアを装着し得るインターフェース回路とする構成として、この電圧値Vmを外部装置に送信したり、リムーバブルメディアに記憶させたりすることもできる。
次に、測定装置1の動作について図2を参照して説明する。
処理部3は、上記したように、A/D変換部15のサンプリング周期(周期T2)に同期した周期T1で測定処理Pmを実行して、測定部2に対して測定電圧Vinの瞬時値を示す電圧データD1を測定値Dmとして出力させると共に、既に選択した第1測定レンジRで使用される補正値Dcとこの第1測定レンジRで使用される測定電圧Vin(電圧値Vm)を算出するための式(上記の式(4),(8),(12)のいずれか)とを読み出して、電圧値Vmを算出して記憶部4に記憶させる。
この際に、現在の第1測定レンジRで使用される補正値Dcについては、処理部3が測定処理Pmを実行する周期T1に対して周期T2の期間分の時間だけずれたタイミングで第1補正値更新処理Pcを周期T1で実行するため、最新の状態に定期的に更新されている。このため、処理部3は、測定レンジRの切り替え直後に実行される測定処理Pmにおいて電圧値Vmを算出する場合を除き、この後の測定処理Pmでは、測定値Dmとこの最新の補正値Dcとに基づいて、測定環境の変化の影響を極めて受け難い状態で、電圧値Vmを正確に算出することが可能となっている。
また、処理部3は、測定処理Pmを実行する周期T2の期間内において、この算出した電圧値Vmを出力部5に出力して表示させると共に、現在の第1測定レンジRの電圧範囲と比較して、必要なときにはレンジ切替処理Prを実行して、第1測定レンジRとして選択している現在の測定レンジR以外の他の測定レンジRを新たな第1測定レンジRとして選択する(測定部2に対する測定レンジRの切替制御を実行する)。
また、処理部3は、上記したように、第1測定レンジRでの第1補正値更新処理Pcおよび測定処理Pmの実行の合間に、第1補正値更新処理Pcに代えて第2補正値更新処理Pc(図2中において破線の枠で囲まれた状態で示されている処理)を実行する。この第2補正値更新処理Pcでは、処理部3は、測定部2に対して複数種類の測定レンジRのうちの第1測定レンジR以外の第2測定レンジRで補正値Dcを出力させて(つまり、測定部2に対して第1測定レンジRを一時的に第2測定レンジRに切り替えさせると共にこの第2測定レンジRに対応した基準電圧Vrに一時的に切り替えさせることで、第2測定レンジRでの補正値Dcを出力させて)、この新たな補正値Dcで、記憶部4に記憶されているこの第2測定レンジRで使用される補正値Dcを更新する。これにより、第1測定レンジRで測定処理Pmを実行している期間において、この第1測定レンジRで使用される補正値Dcだけでなく、第1測定レンジR以外の第2測定レンジRで使用される補正値Dcについても更新される。
具体的に、図2に示す測定レンジRcを測定処理Pmのための第1測定レンジRとした最初の期間での動作を例に挙げて説明すると、処理部3は、同図中の最初の測定処理Pm(斜線を付した測定処理Pm)を実行する周期T2の期間では、この測定処理Pmよりも前に実行された第1補正値更新処理Pc(補正値更新処理Pczc,Pcrc)において記憶部4に更新記憶された最新の補正値Dcとしての補正値Dczc,Dcrcと、この測定処理Pmにおいて測定部2から取得した測定値Dmと、記憶部4に記憶されている測定レンジRcに対応する基準電圧Vrcの電圧値Vrcおよび測定電圧Vin(電圧値Vm)の算出式(12)とに基づいて、電圧値Vmを算出して記憶部4に記憶させる。また、処理部3は、この測定処理Pmを実行する周期T2の期間において、算出(測定)した電圧値Vmを出力部5に出力して表示させる。以後、処理部3は、この測定レンジRcを測定処理Pmのための第1測定レンジRとする期間において、周期T1でこの測定処理Pmを繰り返し実行する。
また、処理部3は、上記の測定処理Pmを実行する周期T2の期間の間に位置する周期T2の期間(周期T1で到来する周期T2の期間)において、第1補正値更新処理Pcおよび第2補正値更新処理Pcのいずれかを実行して、記憶部4に記憶されているすべての測定レンジRa〜Rcで使用する補正値Dcを更新記憶する。この図2に示す例では、処理部3は、一例として、第1補正値更新処理Pcとしての補正値更新処理Pczc(補正値Dczcを更新する処理)、第1補正値更新処理Pcとしての補正値更新処理Pcrc(補正値Dcrcを更新する処理)、第2補正値更新処理Pcとしての補正値更新処理Pcza(補正値Dczaを更新する処理)、第1補正値更新処理Pcとしての補正値更新処理Pczc、第1補正値更新処理Pcとしての補正値更新処理Pcrc、第2補正値更新処理Pcとしての補正値更新処理Pcra(補正値Dcraを更新する処理)、・・・、第2補正値更新処理Pcとしての補正値更新処理Pczb(補正値Dczbを更新する処理)、第1補正値更新処理Pcとしての補正値更新処理Pczc、第1補正値更新処理Pcとしての補正値更新処理Pcrc、第2補正値更新処理Pcとしての補正値更新処理Pcrb(補正値Dcrbを更新する処理)、第1補正値更新処理Pcとしての補正値更新処理Pczc、・・・というように、第1補正値更新処理Pcと共に、第2補正値更新処理Pcを第1補正値更新処理Pcよりも低い頻度で実行して、すべての測定レンジRa〜Rcで使用する補正値Dcを更新記憶する。
この構成により、この測定レンジRcを測定処理Pmのための第1測定レンジRとする期間における斜線を付した2つ目の測定処理Pmを実行する周期T2の期間内において、処理部3が、算出した電圧値Vmと現在の第1測定レンジRの電圧範囲との比較の結果、第1測定レンジRとして選択している現在の測定レンジRcを他の測定レンジRbに切り替える必要が生じたと判断してレンジ切替処理Prを実行したときには、この測定レンジRbを新たに測定処理Pmのための第1測定レンジRとする期間が開始する。
この測定レンジRbを測定処理Pmのための第1測定レンジRとする期間でも、処理部3は、この期間の最初の周期T2の期間において第1補正値更新処理Pcとしての補正値更新処理Pczb(補正値Dczbを更新する処理)を実行し、次の周期T2の期間において実行する測定処理Pmでは、直前に実行された第1補正値更新処理Pc(補正値更新処理Pczb)において記憶部4に更新記憶された最新の補正値Dcとしての補正値Dczbと、直前の測定レンジRcを測定処理Pmのための第1測定レンジRとする期間において実行された第1補正値更新処理Pc(補正値更新処理Pcrb)において記憶部4に更新記憶された補正値Dcとしての補正値Dcrbと、この測定処理Pmにおいて測定部2から取得した測定値Dmと、記憶部4に記憶されている測定レンジRbに対応する基準電圧Vrbの電圧値Vrbおよび測定電圧Vin(電圧値Vm)の算出式(8)とに基づいて、電圧値Vmを算出して記憶部4に記憶させる。また、処理部3は、この測定処理Pmを実行する周期T2の期間において、算出(測定)した電圧値Vmを出力部5に出力して表示させる。
以後、処理部3は、必要に応じてレンジ切替処理Prを実行することで測定処理Pmのための第1測定レンジRを測定レンジRa〜Rcのうちのいずれかに切り替えつつ、測定レンジRa〜Rcのうちのいずれが測定処理Pmのための第1測定レンジRとなる期間においても、測定処理Pmと共に、第1補正値更新処理Pcおよび第2補正値更新処理Pcを実行して、記憶部4に記憶されているすべての測定レンジRa〜Rcで使用する補正値Dcを更新記憶する。
このため、この測定装置1では、測定処理Pmのための第1測定レンジRを新たな測定レンジRに切り替えた直後に実行される測定処理Pmにおいても、処理部3は、測定値Dmの補正のための補正値Dcとして、最新ではないことがあるものの古くとも直前の測定レンジRを測定処理Pmのための第1測定レンジRとしていた期間において更新されていた補正値Dcを使用することが可能となっている。これにより、処理部3は、直前の測定レンジRを測定処理Pmのための第1測定レンジRとしていた期間において他の測定レンジRで使用される補正値Dcについて全く更新しない構成、つまり、測定処理Pmのための第1測定レンジRとして選択されている測定レンジRにおいてはこの測定レンジRで使用される補正値Dcだけしか更新しない構成と比較して、測定レンジRの切り替え直後に実行される測定処理Pmにおいて、より新しい補正値Dcを使用することができる結果、測定環境の変化の影響をより受け難い状態で、より正確な電圧値Vmを算出することが可能となっている。なお、この電圧値Vmの算出に際しては、区間平均(区間単純平均)を実行して電圧値Vmを算出することもできる。
このように、この測定装置1によれば、処理部3が、第1測定レンジでの第1補正値更新処理Pcおよび測定処理Pmの実行の合間に、測定部2に対して複数種類の測定レンジ(本例では3つの測定レンジRa〜Rc)のうちのこの第1測定レンジ以外の第2測定レンジ(第1測定レンジとして選択されている測定レンジRを除くすべての測定レンジR)で補正値Dcを出力させると共にこの補正値Dcで記憶部4に記憶されているこの第2測定レンジの補正値Dcを更新する第2補正値更新処理Pcを実行することにより、いずれの測定レンジRが第1測定レンジとして選択された場合であっても、測定レンジRの切り替え直後に実行される測定処理Pmにおいて、より新しい補正値Dcを常に使用することができる結果、測定環境の変化の影響をより受け難い状態で、より正確な電圧値Vmを算出することができる。
なお、第1測定レンジとして選択されている測定レンジRを除くすべての測定レンジRを第2測定レンジとして測定部2に対して補正値Dcを出力させることで、第1測定レンジとして選択されている測定レンジRを除くすべての測定レンジRで使用される補正値Dcを更新する上記の好ましい構成に代えて、第1測定レンジとして選択されている測定レンジRの両隣の測定レンジR(測定レンジRbが現在選択されている測定レンジのときには測定レンジRa,Rc、測定レンジRaが現在選択されている測定レンジのときには本例では測定レンジRbしかないことからこの測定レンジRb、測定レンジRcが現在選択されている測定レンジのときにも本例では測定レンジRbしかないことからこの測定レンジRb)だけを第2測定レンジとして測定部2に対して補正値Dcを出力させることで、この両隣の測定レンジRで使用される補正値Dcだけを更新する構成を採用することもできる。この構成においても、第1測定レンジとして選択されている測定レンジRの次に第1測定レンジとして選択される可能性の高い両隣の測定レンジRで使用される補正値Dcを更新することができる結果、第1測定レンジとして選択されている測定レンジRを新たな測定レンジRに切り替えた直後に実行される測定処理Pmにおいて、より新しい補正値Dcを使用できる可能性を高めることができる結果、測定環境の変化の影響をより受け難い状態で、より正確な電圧値Vmを算出し得る可能性を高めることができる。
さらに、この測定装置1によれば、処理部3が、第1測定レンジでの第1補正値更新処理Pcおよび測定処理Pmの実行の合間に、第2補正値更新処理Pcを第1補正値更新処理Pcよりも低い頻度で実行することにより、この第1測定レンジでの測定処理Pmにおいて使用する補正値Dc(第1測定レンジとして選択されている測定レンジRにおいて使用する補正値Dc)の更新頻度を高めることができる結果、より最新の補正値Dcを使用してより正確に電圧値Vmを算出することができる。
なお、第1測定レンジとして選択されている測定レンジRを新たな測定レンジRに切り替えた直後に実行される測定処理Pmにおいて、より新しい補正値Dcを使用できるようにするため、第1補正値更新処理Pcに対する第2補正値更新処理Pcの頻度を上記の例よりも高めて実行する構成を採用することもできる。例えば、図2に示す測定レンジRaを第1測定レンジRとする期間において、上記の例では、第1補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pcza、第1補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pcra、第2補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pczb、第1補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pcza、第1補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pcra、第2補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pcrb、・・・という頻度で第2補正値更新処理Pcを実行しているが、第1補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pcza,Pcra、第2補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pczb,Pcrb、第1補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pcza,Pcra、第2補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pczc,Pcrc、・・・というより高い頻度で第2補正値更新処理Pcを実行する構成や、第1補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pcza,Pcra、第2補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pczb,Pcrb、第2補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pczc,Pcrc、第1補正値更新処理Pcである補正値更新処理Pcza,Pcra、・・・というようにさらに高い頻度で第2補正値更新処理Pcを実行する構成を採用することもできる。
また、第1測定レンジとして選択されている測定レンジRにおいて実行される測定処理Pmでの電圧値Vmの正確性をより高めるために、第1補正値更新処理Pcに対する第2補正値更新処理Pcの頻度を上記の例よりも低めて実行する構成を採用することもできる。
また、測定レンジRの数を3つとした例について説明したが、測定レンジRの数は複数であればよく、測定レンジRの数に合った基準電圧Vr(基準電圧Vrzを除く基準電圧)とすることで、2つまたは4つ以上とすることもできる。