JP6604118B2 - 炭素繊維シートの製造方法 - Google Patents
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Description
炭素繊維の原料となる有機繊維としては、PAN(ポリアクリロニトリル)系の他、ピッチ系、レーヨンが挙げられるが、得られる炭素繊維の優れた特長から主にPAN系繊維が用いられている。有機繊維から炭素繊維を製造する場合、原料繊維をそのまま炭化すると繊維の溶融により元の繊維の形態が保たれない、熱分解により繊維のほとんどが消失してしまう、あるいは炭素繊維が得られても炭化収率が極めて低くなるといった問題がある。そこで、有機繊維を炭素繊維の原料とする場合には、繊維の溶融や収率低下を抑制する目的で、加熱処理の前に不融化(又は耐炎化ともいう)処理が行われる。
[1] 下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする不融化工程を含まない炭素繊維シートの製造方法。
(a)炭素繊維シートの原料となる有機繊維を含有するシートを準備する工程
(b)上記有機繊維を含有するシートを有機スルホン酸で処理する工程
(c)上記有機スルホン酸で処理したシートを不活性ガス雰囲気中、加熱温度500〜2600℃で処理する工程
[2] 更に下記の(d)の工程を含むことを特徴とする[1]に記載の炭素繊維シートの製造方法。
(d)前記(c)工程で得られた有機系スルホン酸を用いて処理を施した後に加熱処理した炭素繊維シートを不活性ガス雰囲気中、2200〜3200℃で再加熱処理する工程
[3] 前記炭素繊維シートの原料となる有機繊維が、不活性ガス雰囲気中、500〜2600℃で加熱処理した場合の残炭率が5重量%以上であることを特徴とする[1]〜[2]のいずれかに記載の炭素繊維シートの製造方法。
[4] 前記有機繊維が、ポリアクリロニトリル系繊維であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
[5]
前記炭素繊維シートの原料となる有機繊維を含有するシートが、抄紙法によって準備され、且つ前記シート全重量に対してパルプが10重量%以上含有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
[6] 前記有機スルホン酸が、メタンスルホン酸であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
[7] 前記炭素繊維の原料となる繊維を含有するシートに処理する有機スルホン酸の付着率が、処理前のシート全重量に対して1〜50重量%であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
[8] [1]〜[7]のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維シートを用いることを特徴とする複合材料。
[9] [1]〜[7]のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維シートを用いることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
(炭素繊維の原料となる有機繊維)
本発明において、炭素繊維の原料となる有機繊維としては、特に限定されるものではないが、有機繊維を不活性ガス雰囲気中、500〜2600℃で加熱処理した場合の残炭率が、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。残炭率が5%に満たない場合には、有機スルホン酸を処理した後に加熱処理して製造した炭素繊維シートの収率向上効果が得られ難いだけでなく、実用的価値が乏しい。
本発明において、炭素繊維の原料となる有機繊維としては、前記炭素繊維シートの物性及び収率が優れていることから、PAN系繊維が最も好ましい。
PAN系繊維以外の炭素繊維の原料となる有機繊維としては、500〜2600℃で加熱処理した場合の残炭率が5%以上であればよく、特に限定されないが、炭素繊維の原料として一般に知られているピッチ系繊維やレーヨンなどのセルロース系繊維の他、熱可塑性樹脂であるポリビニルアルコール、ポリアミドイミド、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテルからなる繊維、熱硬化性樹脂であるフェノール、フラン、尿素、エポキシ、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミドからなる繊維などの例を挙げることができる。
本発明において、セルロース系繊維とは、樹木などから得られる植物系セルロース物質及び/又は植物系セルロース物質(綿、木材パルプなど)に化学処理を施して溶解させて得られる長い繊維状の再生セルロース系物質から構成された繊維であり、この繊維にリグニンやヘミセルロースなどの成分が含まれていても構わない。
本発明において、炭素繊維の原料となる有機繊維を含有するシートが、抄紙法により準備される場合には、シート全重量に対して、パルプを10重量%以上含有させることは抄紙性の点から好ましい。
本発明において、パルプとは、セルロースを主成分とする天然繊維であって、製紙用として一般的に用いられる針葉樹又は広葉樹から得られる木材パルプの他、麻、竹、バガスなどの非木材パルプが例として挙げられ、これらのうちから適宜選択できる。これらのパルプは、製造される炭素繊維シートに要求される密度、強度などの物性に応じて適切な方法によって叩解処理を行うことができるが、叩解処理を行わずに用いることもできる。
前述のセルロース系繊維と同様、パルプに有機スルホン酸を処理した後に加熱処理することにより、元の繊維形態を保持したままの炭素繊維が得られ、有機スルホン酸を処理しない場合に比べて炭化収率が向上する。
本発明において、シートに含浸させる有機スルホン酸としては、炭素骨格にスルホ基(1つであっても複数であってもよい)が結合した有機化合物であればいずれであってもよく、脂肪族系、芳香族系の種々のスルホ基を有する化合物が利用可能であるが、取扱いの観点から低分子であることが好ましい。
本発明において、有機系スルホン酸で処理したシートを加熱処理(炭化)する。炭化は不活性ガス雰囲気中で行う。不活性ガスとしてはアルゴン、窒素等が例示される。
〜2600℃の温度にて加熱処理することが好ましい。この加熱処理条件とすることにより、シートの形態が維持された炭素繊維シートを得ることができる。加熱処理温度が500℃未満であると炭素繊維シートの炭素含有率が80%以下で炭化が不十分であり、一方2600℃を超えても炭化状態はもはや殆ど変化しない。また、炭化処理は、連続式またはバッチ式のどちらで行ってもよい。
まず、上記のスルホン酸処理工程を経たシートを、その形態を維持した状態で電気炉を用いて窒素又はアルゴン雰囲気下、500〜2600℃で加熱処理する。この際、加熱処理時間は処理温度にもよるが、好ましくは0.5〜2時間である。また、室温から所定処理温度までの昇温時間は3〜8℃/分が好ましい。加熱処理工程において管状炉や電気炉等の不活性ガス雰囲気にした高温炉を使用できるが、この場合、不活性ガスの排気管に活性炭素のような吸着材を充填し、スルホン酸及びから発生する少量の硫黄系のガスの脱硫処理を行うことが好ましい。また、炭素繊維の原料となる有機繊維としてPAN系繊維を用いる場合は、加熱処理を行う過程で毒性の強いシアン系ガスが発生するので、その場合には、排気ガスの燃焼など適切な処理を行うことにより、シアン系ガスの無害化を行う必要がある。
繊度1.7dtex、繊維長5mmのPAN繊維40%および未叩解広葉樹パルプ60%をそれぞれ離解処理した後、混合して水で希釈しスラリーとし、角型抄紙機(25×25cm)を用いて抄紙し、常法によりプレスおよび乾燥を行い、坪量70g/m2のシートを得た。このシートをメタンスルホン酸水溶液に5分間浸漬した後、シートを2本のゴムロール(ヒシラコピー)の間を通過させて過剰なメタンスルホン酸水溶液を搾り取り、室温で風乾させ炭化用シートを調製した。なお、メタンスルホン酸水溶液の濃度は、シートへのメタンスルホン酸付着率が約6%となるように調整した。次いで、このメタンスルホン酸処理を行った炭化用シートをグラファイト板の間に挟み、電気炉で、窒素ガス雰囲気中、5℃/min.で昇温の後、800℃を1時間保持して加熱処理することにより炭素繊維シートを得た。
実施例1と同様に原料を抄紙して坪量70g/m2のシートを得た後、メタンスルホン酸による処理は行わず、実施例1と同様に電気炉で加熱処理することにより、炭素繊維シートを得た。
実施例1と同様に原料を抄紙して坪量70g/m2のシートを得た後、このシートを送風乾燥機を用いて、空気中、250℃で20分間加熱処理してシートに含まれるPAN繊維の不融化処理を行い、メタンスルホン酸による処理は行わず、実施例1と同様に電気炉で加熱処理することにより、炭素繊維シートを得た。
実施例1と同様に原料を抄紙して坪量70g/m2のシートを得た後、このシートを送風乾燥機を用いて、空気中、250℃で20分間加熱処理してシートに含まれるPAN繊維の不融化処理を行い、実施例1と同様にメタンスルホン酸による処理を行い、電気炉で加熱処理することにより、炭素繊維シートを得た。
Claims (6)
- 下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする不融化工程を含まない炭素繊維シートの製造方法。
(a)炭素繊維シートの原料となるポリアクリロニトリル系繊維を含有するシートを準備する工程
(b)上記有機繊維を含有するシートを有機スルホン酸で処理する工程
(c)上記有機スルホン酸で処理したシートを不活性ガス雰囲気中、加熱温度500〜2600℃で処理する工程 - 更に下記の(d)の工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維シートの製造方法。
(d)前記(c)工程で得られた有機系スルホン酸を用いて処理を施した後に加熱処理した炭素繊維シートを不活性ガス雰囲気中、2200〜3200℃で再加熱処理する工程 - 前記炭素繊維シートの原料となるポリアクリロニトリル系繊維が、不活性ガス雰囲気中、500〜2600℃で加熱処理した場合の残炭率が5重量%以上であることを特徴とする請求項1〜請求項2のいずれかに一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
- 前記炭素繊維シートの原料となるポリアクリロニトリル系繊維を含有するシートが、抄紙法によって準備され、且つ前記シート全重量に対してパルプが10重量%以上含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
- 前記有機スルホン酸が、メタンスルホン酸であることを特徴とする請求項1〜請求項4の
いずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。 - 前記炭素繊維の原料となる繊維を含有するシートに処理する有機スルホン酸の付着率が、
処理前のシート全重量に対して1〜50重量%であることを特徴とする請求項1〜請求項
5のいずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
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