以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る駆動システムのブロック図である。本実施形態に係るモータ制御装置は、電気自動車又はハイブリッド車両に設けられるモータを制御するための装置である。なお、モータ制御装置は、車両用の駆動モータに限らず、車両以外の他の装置(エアコンのコンプレッサ、掃除機など)に設けられたモータを制御する装置でもよい。
図1に示すように、駆動システムは、バッテリ1、インバータ2、モータ3、電流センサ4、加速度センサ5、電流指令値演算部6、モータ電流制御部7、補正指令値演算部8、スイッチ制御部9、及び加算器10を備えている。
バッテリ1は、例えばリチウムイオン電池等の二次電池を接続することで構成されている。インバータ2は、バッテリ1から出力される直流電力を交流電力に変換する装置である。インバータ2は、IGBT等のスイッチング素子をブリッジ状で三相になるように接続した変換回路、及び、平滑回路等を有している。インバータ2はバッテリ1とモータ3との間に接続されている。
モータ3は永久磁石同期モータである。本実施形態では、モータとして、埋込磁石同期モータ(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor:IPMSM)が用いられる。なお、モータ3は、埋込磁石同期モータに限らず、他のモータでもよい。
モータ3は、ステータとロータ(回転子)を有している。ステータにはティースが設けられており、ティースの側面にはコイルが巻き付けられている。ティースは、U相、V相、W相を1組として、複数の組となりつつ、ステータの周方向に沿うように並べられている。ロータには複数の永久磁石が埋め込まれている。
モータ3は、インバータ2から出力される電力により駆動する。また、モータ3は発電機としても機能し、発電した電力はインバータ2を介してバッテリ1に供給される。
インバータ2と駆動モータ3との間には、電流センサ4が接続されている。電流センサ4は、モータ3のコイルに流れる電流(モータ電流)を検出する。電流センサ4は、U相及びV相に接続されている。W相の電流は、U相及びV相の電流に基づき演算される。なお、電流センサ4はW相にも設けてよい。電流センサ4は、検出電流をモータ電流制御部7及び補正指令値演算部8に出力する。
加速度センサ5は、モータ3の振動を、加速度として検出するセンサである。加速度センサ5はモータ3に設けられている。加速度センサ5は、検出した加速度を、補正指令値演算部8及びスイッチ制御部9に出力する。
電流指令値演算部6は、モータ3の回転速度及びトルク指令値に基づき、モータ3のd軸電流指令値及びq軸電流指令値を演算する。モータ3の回転速度は、レゾルバ等の回転数センサにより検出される。なお、回転数センサは、図1では図示されていないが、モータ3に設けられている。トルク指令値は、アクセル開度等に基づき演算される。
電流指令値演算部6には、モータ3の回転速度、トルク指令値、及びdq軸電流指令値との対応関係を示すマップが予め記憶されている。そして、電流指令値演算部6は当該マップを参照することで、dq軸電流指令値を演算する。q軸電流指令値は、永久磁石を有するロータの回転軸と同軸方向の電流成分(q軸)の指令値である。d軸電流指令値は、ロータの回転軸に対して直交する方向の電流成分(d軸)の指令値である。
モータ電流制御部7は、電流指令値演算部6により演算されたdq軸電流指令値と、電流センサ4の検出電流に基づき、インバータ2を制御するための電圧指令値を演算する。モータ電流制御部7は、dq軸電流指令値と、dq軸電流との差分を演算しつつ、当該差分に基づき、dq軸検出電流がdq軸電流指令値と一致させるようにPI制御により電圧指令値を演算する。dq軸電流は、電流センサ4により検出されたU、V、W相の三相の検出電流がdq軸の二相に変換された電流値である。なお、3相2相変換の際には、モータ3の回転速度が用いられる。
また、モータ電流制御部7は、演算した電圧指令値とキャリアとを比較して、いわゆるPWM制御によって、インバータ2のスイッチング信号(PWM信号)を生成し、インバータ2に出力する。
これにより、電流指令値演算部6はベクトル制御によりdq軸電流指令値を演算する。また、モータ電流制御部7は、電流センサ4の検出電流をフィードバックさせたフィードバック制御により、dq軸電流指令値に対してdq軸電流を、定常的な偏差なく所定の応答性で追随させるように、モータ3を制御している。なお、モータ3の制御は、上記の構成に限らず、例えば非干渉制御等を含めてもよい。
補正指令値演算部8は、電流センサ4により検出されたdq軸電流に基づき、6次ラジアル力を抑制するための補正指令値を演算する。補正指令値演算部8は、補正指令値をスイッチ制御部9に出力する。なお、補正指令値演算部8による補正指令値の具体的な演算方法は後述する。
スイッチ制御部9は、加速度センサ5の検出値と振動閾値とを比較する。検出閾値は、モータの振動の大きさを加速度で表した閾値であって、予め設定されている。検出値が検出閾値より大きい場合には、スイッチ制御部9はスイッチをオンにして、補正指令値を加算器10に出力する。加算器10は、電流指令値演算部6に演算されたdq軸電流指令値と、補正指令値演算部8により演算された補正指令値を加算する。これにより、モータ3の振動が大きい場合には、補正指令値がdq軸電流指令値に加わり、dq軸電流指令値が補正される。そして、補正されたdq軸電流指令値が加算器10からモータ電流制御部7に出力される。一方、検出値が検出閾値以下である場合には、スイッチ制御部9はスイッチをオフにする。
ところで、例えば、本実施形態に係る駆動システムを車両に適用した場合に、モータ3が振動したときには、モータ3の振動が音の発生源となり、車室内の静寂性に影響を与える可能性がある。また車両に限らず、他の装置に駆動システムを適用した場合にも、モータ3の低振動及び静音化が求められている。
モータ3の振動は、モータ3がもつトルクリプルや電磁加振力(Radial Electromagnetic Force)により発生する。電磁加振力は、モータ3の永久磁石とステータとの間で発生する力である。モータ3のコイルに交流電流を流すと、永久磁石をステータに引きつける力と、ステータから永久磁石を引き離す力が発生する。これらの力が電磁加振力である。そして、電磁加振力のうち、モータ3の半径方向に働く力をラジアル力と称す。
モータ3では、時間次数として電気角2次と電気角6次のラジアル力およびトルクリプルがモータ3の振動に寄与し、2次ラジアル力及び6次ラジアル力およびトルクリプルがモータ3への加振力となることが知られている。そこで、本実施形態では、モータ3の鎖交磁束に着目して、電気角6次成分のラジアル力およびトルクリプルの近似モデルを導出しつつ、当該近似モデルに基づくdq軸高調波電流を用いて、6次ラジアル力およびトルクリプルを抑制する。
まず電気角6次成分のラジアル力のモデル化にあたって、dq軸電流、鎖交磁束、及び電磁加振力の関係を説明する。なお、モデル化の前提として、1ティース全体に働くラジアル力の時間高調波成分がステータの振動になることを前提としている。
U相1ティースを貫く全磁束φu(t)はU相鎖交磁束ψu(t)を用いて式(1)で表される。
ただし、tは時間であり、Nは1相当たりのコイルの巻き数である。なお全てのコイルは直列に接続されているとする。
時間(t)における磁束密度の周方向成分(以下、周方向磁束分布と称す)をBθ(t)とし、磁束密度の半径方向成分(以下、半径方向磁束分布と称す)をBr(t)とする。そして、周方向磁束分布Bθ(t)が微小であると仮定すると、ティースに鎖交する全ての磁束が、半径方向磁束分布Br(t)となり、U相鎖交磁束ψu(t)は式(2)で表される。
ただし、Sは空隙に対向するティース面積である。空隙はティースとロータとの間の隙間である。
U相1ティースに働くラジアル力fu(t)はマクスウェル応力の式を用いて式(3)で表される。
そして、ティース面積S上で磁束分布は一様であると仮定すると、式(2)及び式(3)は、それぞれ式(4)及び(5)となる。
また、モータ3の速度条件として定速とする。そして、ラジアル力を電気角θの関数として表しつつ、式(1)及び式(4)を式(5)に代入することで、式(6)及び式(7)が得られる。
式(6)がラジアル力の近似モデルとなる。
次に、鎖交磁束に関する仮定を説明する。永久磁石によるU相鎖交磁束ψum(θ)と電流によるU相鎖交磁束ψui(θ)は線形独立として扱う。U相鎖交磁束ψu(θ)は、式(8)で表される。
6ラジアル力を考えるために、U相鎖交磁束ψum(θ)は式(9)のように7次成分まで考慮する。
5次鎖交磁束ψ5m及び7次鎖交磁束ψ7mは基本波磁束に対し、位相が反転している際には負の値を取りうる。3相の対称性より、UVWの各相ティースに働くラジアル力は同振幅かつ同位相であるためU相のみを扱う。
次に、電流指令値の定義を説明する。dq軸電流を下記式(10)〜(13)のように定義する。
以下、上記のように定義されたdq軸電流をラジアル力近似式に代入することで、dq軸高調波電流から6次ラジアル力を導出するまでの導出過程を説明する。
d軸高調波電流と6次ラジアルとの伝達特性は、以下の式(14)〜(17)で表される。d軸高調波電流id6によって生じるU相鎖交磁束ψuihは式(14)で表される。
式(9)及び式(14)を式(8)に代入することで、U相の全鎖交磁束ψuは式(15)で表される。
本実施形態ではdq/UVW変換に絶対変換を用いている。式(15)を式(6)に代入し、d軸高調波電流により生じる6次ラジアル力の項のみ整理すると式(16)となる。
なお、Kdr(Id0、Iq0)は下記式(17)で表される。
d軸6次高調波電流id6は、位相遅れが生じることなくKdr(Id0、Iq0)倍されて6次ラジアル力になることを、式(16)及び式(17)により示される。Kdr(Id0、Iq0)は、id6=cos6θとして解析したラジアル周波数解析結果より求まる。周波数解析の際に使用されるモデルとして、モータ3は12極18スロットの集中巻IPMSMとする。またロータの永久磁石はV字状に配置する。IPMSMのパラメータとして、コイル巻数Nは120であり、極対数(P)は6、ティースの対向面の面積は413(mm2)、基本波鎖交磁束ψ1mは36.2(mWb)、d軸インダクタンス(Ld)は0.866(mH)、q軸インダクタンス(Lq)は1.31(mH)、空隙は1(mm)、ステータの外径は150(mm)、ロータの外径は100(mm)、積み厚は30(mm)である。
上記のモデルを用いて、Kdr(Id0、Iq0)の近似精度を評価した電磁界解析結果を図2及び図3に示す。
図2は、Iq0=0とした場合に、Id0とKdrとの関係を示したグラフである。図3は、Id0=0とした場合に、Iq0とKdrとの関係を示したグラフである。なお、図2、3において、実線のグラフは式(17)で示される近似モデルの値(近似モデル)であり、バツ印で示される値が電磁界解析(周波数解析)の結果を示している。
図2及び図3に示すように、上記の式で示される6次ラジアル力の近似モデルと、電磁界解析結果は精度よく一致している。
次に、q軸高調波電流と6次ラジアルとの伝達特性は、以下の式(18)〜(20)で表される。q軸高調波電流iq6によって生じるU鎖交磁束ψuihは式(18)で表される。
式(15)と同様にU相の全鎖交磁束ψuを導出しつつ、U相の全鎖交磁束ψuを式(6)に代入する。そして、q軸高調波電流により生じる6次ラジアル力の項のみ整理すると式(19)となる。
なお、Kqr(Id0、Iq0)は下記式(20)で表される。
上記のモデルを用いて、Kqr(Id0、Iq0)の近似精度を評価した電磁界解析結果を図4に示す。図4は、Id0=0とした場合に、Iq0とKqrとの関係を示したグラフである。なお、図4において、実線のグラフは式(20)で示される近似モデルの値(近似モデル)であり、バツ印で示される値が電磁界解析(周波数解析)の結果を示している。
式(20)より、q軸高調波電流iq6により生じる6次ラジアル力はq軸基本波電流に比例している。近似モデルは、図4に示すように解析結果とも一致している。
次にトルクリプルをモデル化する。
電気角θの関数であるトルクT(θ)は、次式(21)によって表される。
ただし、Pは前述のとおり極対数であり、K
t(θ)はq軸電気子鎖交磁束ψ
aとPの積であり、T
cogはコギングトルクである。
ここでKt(θ)を直流成分Ktと交流成分Kth(θ)の和で表すこととし、id、iqがそれぞれ式(10)、式(12)で定義されることを踏まえると、式(21)は以下のように変形することができる。
いま着目しているのが電気角6次成分であること、すなわちKtIq0などの直流もしくは基本次数成分や6次よりも高次となるKth(θ)iq6やid6iq6を無視できることを踏まえると、T(θ)の電気角6次成分Tθ6は式(23)のように表される。
式(23)において、係数K
θdは式(24)で表される。
また式(23)において、係数K
θqは式(25)で表される。
次に6次ラジアル力を抑制するための制御方法について説明する。抑制したい6次ラジアル力をfbase(Id0、Iq0)とおくと、全6次ラジアル力fr6(id、iq)は式(26)及び式(27)により表される。
式(26)より、6次ラジアル力は、d軸又はq軸の少なくともいずれか一方の高調波電流を用いて抑制できる。電磁界解析により、Fbase、θbaseが既知であるとすると、抑制するためのdq軸高調波電流指令値は、式(28)、式(29)で表される。
式(28)は、d軸高調波電流を用いて6次ラジアル力を抑制する場合のd軸6次高調波電流を示している。言い替えると、q軸高調波電流iq6をゼロにしつつ、式(21)のゼロとするためのd軸6次高調波電流である。また、式(29)は、q軸高調波電流を用いて6次ラジアル力を抑制する場合のq軸6次高調波電流を示している。言い替えると、d軸高調波電流id6をゼロにしつつ、式(26)のゼロとするためのq軸6次高調波電流である。
式(28)又は式(29)で示されるdq軸6次高調波電流がdq軸電流指令値に加わると、dq軸電流指令値は、6次ラジアル力を抑制するような指令値に、補正される。そして、モータ3が、補正されたdq軸電流指令値に基づいて駆動することで、6次ラジアル力による振動が抑制される。
本実施形態では、d軸6次高調波電流を用いて6次ラジアル力を抑制する場合には、補正指令値演算部8は、式(28)で表されるd軸6次高調波電流指令値を、補正指令値(d軸)として演算する。また、q軸6次高調波電流を用いて6次ラジアル力を抑制する場合には、補正指令値演算部8は、式(29)で表されるq軸6次高調波電流指令値を、補正指令値(q軸)として演算する。
なお本実施形態において、補正指令値は、d軸6次高調波電流又はq軸6次高調波電流のいずれか一方の指令値に限らず、d軸6次高調波電流及びq軸6次高調波電流の両方の指令値であってもよい。補正指令値として、d軸電流及びq軸電流を用いる場合には、式(26)の上辺で表される値が、ゼロになるように、d軸6次高調波電流及びq軸6次高調波電流が演算される。
式(17)で示されるように、d軸6次高調波電流により発生する6次ラジアル力は、永久磁石の基本波磁束(基本波成分の磁束)及びd軸基本波電流に依存した係数(Kdr)で表される。そして、d軸基本波電流が、電流センサ4で検出されたd軸電流から演算されれば、式(28)より、6次ラジアル力を抑制するためのd軸6次高調波電流指令値を演算できる。
補正指令値演算部8は、係数(Kdr)を含んだ式(28)の関係を、マップにより予め記録している。補正指令値演算部8は、電流センサ4の検出電流に基づきd軸基本波電流を演算し、マップを参照して、d軸基本波電流及び電気角(θ)に対応するd軸6次高調波電流指令値を補正指令値として演算する。なお、電気角(θ)は、回転数センサの検出値から演算すればよい。
また、式(20)で示されるように、q軸高調波電流により発生する6次ラジアル力は、q軸基本波電流に依存した係数(Kqr)で表され、永久磁石の基本波磁束及びd軸基本波電流とは独立している。そのため、d軸6次高調波電流と同様に、6次ラジアル力を抑制するためのq軸6次高調波電流指令値を、マップにより演算できる。
補正指令値演算部8は、係数(Kqr)を含んだ式(29)で示される関係を、マップにより予め記録している。補正指令値演算部8は、電流センサ4の検出電流に基づきq軸基本波電流を演算し、マップを参照して、q軸基本波電流及び電気角(θ)に対応するq軸6次高調波電流指令値を補正指令値として演算する。
加速度センサ5の検出値が振動閾値より大きい場合には、スイッチ制御部9によりスイッチがオンになり、補正指令値が補正指令値演算部8から加算器10に出力される。このとき、補正指令値は、d軸6次高調波電流又はq軸6次高調波電流のいずれか一方の指令値である。
加算器10は、電流指令値演算部6により演算されたdq軸電流指令値と補正指令値を加算し、加算されたdq軸電流指令値をモータ電流制御部7に出力する。加算されたdq軸電流指令値が、補正後のdq軸電流指令値となる。これにより、dq軸電流指令値は、dq軸電流のうち6次成分の6次高調波電流に基づき補正される。
また本実施形態では、トルクリプルをモデル化した演算式より、6次成分の高調波電流に基づき電流指令値を補正することで、トルクリプルを抑制できる。
電気角6次成分のトルク(Tθ6)は、係数(Kθd)及び係数(Kθq)を含む演算式で表され、係数(Kθd)は、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス及びq軸基本波電流に依存し、係数(Kθq)は、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス及びd軸基本波電流に依存する。
すなわち、補正指令値演算部8は、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス及びq軸基本波電流に依存する係数(Kθd)と、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス及びq軸基本波電流に依存する係数(Kθq)とを含んだ演算式(21)により、トルクリプルを抑制するための補正指令値を演算し、スイッチ制御部9を介して、加算器10に出力する。
これにより、トルクリプルを抑制するための補正指令値がdq軸電流指令値に加算されるため、加算された指令値に基づきインバータが制御されることで、トルクリプルによるモータ3の振動を抑制できる。また、補正指令値は、6次ラジアル力を抑制する指令値でもあるため、本実施形態に係るモータ制御装置は、6次ラジアル力に加えて、トルクリプルも抑制できる。
次に、本実施形態における駆動システムの制御フローを、図5を用いて説明する。図5は、駆動システムの制御フローを示すフローチャートである。なお、図5に示す制御フローは、所定の周期で繰り返し実行される。
ステップS1にて、電流指令値演算部6は、トルク指令値及びモータ回転速度を取得する。ステップS2にて、電流センサ4はモータ電流を検出し、モータ電流制御部7及び補正指令値演算部8に出力する。
ステップS3にて、加速度センサ5は、加速度を検出し、検出した加速度をスイッチ制御部9に出力する。ステップS4にて、電流指令値演算部6は、トルク指令値及びモータ回転速度に基づきdq軸電流指令値を演算し、dq軸電流指令値を加算器10に出力する。
ステップS5にて、補正指令値演算部8は、dq軸電流に基づき補正指令値を演算し、補正指令値をスイッチ制御部9に出力する。dq軸電流は、電流センサ4により検出されたUVW相のモータ電流に対して、3相2相変換された電流である。補正指令値は、6次ラジアル力及びトルクリプルを抑制するための指令値である。補正指令値のうち、6次ラジアル力を抑制するための指令値は、式(28)で表されるd軸6次高調波電流、又は、式(29)で表されるq軸6次高調波電流に相当する。補正指令値のうち、トルクリプルを抑制するための指令値は、式(21)〜式(25)の関係式から導出される電流である。
ステップS6にて、スイッチ制御部9は、加速度センサ5により検出された加速度と振動閾値とを比較する。加速度が振動閾値より大きい場合には、ステップS7にて、スイッチ制御部9はスイッチをオンにし、補正指令値が加算器10に出力される。ステップS8にて、加算器10は、補正指令値をdq軸電流指令値に加算する。これにより、dq軸電流指令値が補正される。補正されたdq軸電流指令値はモータ電流制御部7に出力される。そして、ステップS10に進む。
ステップS7にて、加速度が振動閾値以下である場合には、ステップS9に進む。そして、ステップS9にて、スイッチ制御部9はスイッチをオフにする。補正指令値は加算器10に出力されないため、加算器10は、電流指令値演算部6により演算されたdq軸電流指令値を、そのままモータ制御部7に出力する。そして、ステップS10に進む。
ステップS10にて、モータ電流制御部7は、加算器10から出力されたdq軸電流指令値及びdq軸電流に基づくPWM制御により、PWM信号を生成し、インバータ2に出力する。そして、インバータ2は、PWM信号に基づきモータ3に対して電流を供給し、モータ3はインバータ2から供給される電流により駆動する。これにより、モータの振動が大きく、6次ラジアル力を抑制する条件を満たす場合(ステップS6の「Y」に相当)には、dq軸電流指令値が6次高調波電流に基づき補正される。そして、補正された指令値に基づいてモータ3が駆動するため、6次ラジアル力及びトルクリプルが抑制される。
以上のとおり、本実施形態によれば、モータの回転速度及びトルク指令値に基づき演算されたdq軸電流指令値を、6次高調波電流に基づき補正する。6次のラジアル力は6次高調波電流との間で一定の伝達特性をもっている。そのため、本実施形態にように、6次高調波電流に基づきdq軸電流指令値を補正することで、6次のラジアル力を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、6次のラジアル力を抑制する補正指令値を演算し、当該補正指令値をdq軸電流指令値に加えることで、dq軸電流指令を補正する。式(28)又は式(29)に示すように、6次のラジアル力を抑制する高調波電流指令値は、6次ラジアル力の近似モデルにより演算できる。そのため、式(28)又は式(29)に基づき演算される高調波電流指令値を補正指令値とすることで、6次のラジアル力を抑制することができる。
本実施形態によれば、係数(Kdr)を含む式(28)により、6次ラジアル力を抑制するためのd軸6次高調波電流指令値を補正指令値として演算する。また本実施形態によれば、係数(Kqr)を含む式(29)により、6次ラジアル力を抑制するためのq軸6次高調波電流指令値を補正指令値として演算する。これにより、6次のラジアル力を抑制することができる。
本実施形態によれば、係数(Kdr)を含む式(28)により、6次ラジアル力を抑制するためのd軸6次高調波電流指令値を第1補正値として演算し、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス及びq軸基本波電流に依存する係数(Kθd)と、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス及びq軸基本波電流に依存する係数(Kθq)とを含んだ演算式により、トルクリプルを抑制するための第2補正値を演算する、そして、第1補正値及び第2補正値を、dq軸電流指令値に加えることで、dq軸電流指令値を補正する。これにより、6次のラジアル力及びトルクリプルを抑制することができる。
本実施形態によれば、係数(Kqr)を含む式(29)により、6次ラジアル力を抑制するためのq軸6次高調波電流指令値を第3補正値として演算し、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス及びq軸基本波電流に依存する係数(Kθd)と、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス及びq軸基本波電流に依存する係数(Kθq)とを含んだ演算式により、トルクリプルを抑制するための第4補正値を演算する、そして、第3補正値及び第4補正値を、dq軸電流指令値に加えることで、dq軸電流指令値を補正する。これにより、6次のラジアル力及びトルクリプルを抑制することができる。
なお、図1に示す駆動システムでは、d軸電流指令値及びq軸電流指令値を両方、補正できるように構成しているが、d軸電流指令値のみ、又は、q軸電流指令値のみ補正できるように構成してもよい。例えば、d軸電流指令値のみ補正する場合には、補正指令値演算部8からスイッチ制御部9を介して加算器10に出力されるq軸の信号線が不要になり、さらに、スイッチ制御部9のq軸側スイッチ、及び加算器10のq軸側の加算器は不要になる。
なお本実施形態の変形例では、補正指令値演算部8は、電流センサ4の検出電流に基づき係数(Kdr)及び係数(Kqr)を演算し、係数(Kdr)と係数(Kqr)とを比較する。そして、係数(Kdr)が係数(Kqr)より大きい場合には、係数(Kdr)を含む式(28)により演算されたd軸6次高調波電流指令値を、加算器10に出力する。係数(Kdr)が係数(Kqr)以下である場合には、係数(Kqr)を含む式(29)により演算されたq軸6次高調波電流指令値を、加算器10に出力する。これにより、係数(Kdr)が係数(Kqr)より大きい場合には、d軸高調波電流を用いることで、小さい電流振幅で6次ラジアル力を抑制できる。また、係数(Kqr)が係数(Kdr)より大きい場合には、q軸高調波電流を用いることで、小さい電流振幅で6次ラジアル力を抑制できる。
上記の電流指令値演算部6が本発明の「電流指令値演算手段」に相当し、補正指令値演算部8、スイッチ制御部9及び加算器10が本発明の「補正手段」に相当する。