JP6598576B2 - 積層体及び積層体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、積層体及び積層体の製造方法に関する。
近年では、環境問題解決に資する研究が盛んに行なわれており、例えば、酸化チタンなどの光触媒材料を用いた研究が盛んに行なわれている。酸化チタンなどの光触媒材料は、所定波長の光が照射されることで光励起され、窒素酸化物(NO)、硫黄酸化物(SO)、揮発性有機化合物(VOC)などの有害物質を分解する分解機能、及び、基材の表面を高度に親水化する超親水化機能を有している。
そのため、このような光触媒材料は、分解機能及び超親水化機能を付与する材料として、基材の表面に層状に設けられ、光触媒層が設けられた基材は、建築物などを構成する部材に用いられる。例えば、光触媒層が設けられた基材を、屋外用の部材として用いた場合、太陽光が光触媒層に照射されることで光励起された電子およびホールが生成し、NO、SOなどの有害物質を分解する分解機能が発揮されるとともに、超親水化機能が発揮される。そのため、部材の表面に汚れが付着しにくく、汚れが付着した場合であっても水により簡単に除去される自己浄化(セルフクリーニング)機能が発揮される。
また、光を物質に照射することにより、可逆的に色が変化する現象をフォトクロミズムというが、フォトクロミズムが生じるフォトクロミック材料を用いた研究も行なわれている。このようなフォトクロミック材料は、光学素子、調光ガラス、カラーディスプレイなどへの応用が期待されている。フォトクロミック材料としては、例えば、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニオブ、これら酸化物の混合物等が知られている。
ここで、酸化チタン(TiO)及び酸化タングステン(WO)を混合させてなる膜ならびにTiO膜及びWO膜を積層してなる膜がフォトクロミック機能を有することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
また、紫外線パルスレーザー照射により基材上の光機能無機材料(酸化タングステン)を高機能化する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
Energy Storage of TiO2-WO3 Photocatalysis Systems in the Gas Phase Langmuir, 2002, 18, pp 7777-7779 特開2013−673号公報
非特許文献1では、TiO及びWOを混合してなる膜が優れたフォトクロミック機能を有することが示されているが、TiO膜及びWO膜を積層してなる膜では十分なフォトクロミック機能が得られていない。
また、特許文献1では、光機能無機材料を高機能化する技術について記載されているが、セルフクリーニング機能を有する成分との複合化については言及されていない。
さらに、前述の酸化チタンなどの光触媒材料と、酸化タングステンなどのフォトクロミック材料とを物理的に混合しただけでは、機能発現が不十分であり、セルフクリーニング機能及びフォトクロミック機能に優れた材料を製造することは困難である。
本発明は、セルフクリーニング機能及びフォトクロミック機能に優れた積層体ならびにその製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 酸化タングステンを含み、多孔質である第1の層と、前記第1の層上に配置され、酸化チタンを含む第2の層と、を含み、前記第2の層が光の入射側に位置している積層体。
<2> 前記第1の層は、孔径が50nm〜500nmである<1>に記載の積層体。
<3> 前記第1の層は、4価又は5価の遷移金属がドープされてなる<1>又は<2>に記載の積層体。
<4> 前記第1の層は、酸化タングステンに対して5.0モル%以下の前記4価又は5価の遷移金属がドープされてなる<3>に記載の積層体。
<5> 前記第1の層を構成する粒子の粒径は、10nm〜60nmである<1>〜<4>のいずれか1つに記載の積層体。
<6> 前記第2の層上に配置され、酸化タングステンを含み、多孔質である第3の層をさらに含み、前記第3の層の厚さが20nm以下である<1>〜<5>のいずれか1つに記載の積層体。
<7> タングステン成分を含むゾル溶液を基材に塗布する第1塗布工程と、前記基材に塗布された前記タングステン成分を含むゾル溶液を乾燥して第1ゲル層とする第1乾燥工程と、チタン成分を含むゾル溶液を前記第1ゲル層上に塗布する第2塗布工程と、前記第1ゲル層上に塗布された前記チタン成分を含むゾル溶液を乾燥して第2ゲル層とする第2乾燥工程と、前記第1ゲル層及び前記第2ゲル層を熱処理し、酸化タングステンを含み、多孔質である第1の層及び酸化チタンを含み、光の入射側に位置する第2の層を形成する熱処理工程と、を含む積層体の製造方法。
<8> 前記タングステン成分を含むゾル溶液は、さらに4価又は5価の遷移金属成分を含み、かつ、前記第1の層は、4価又は5価の遷移金属がドープされてなる<7>に記載の積層体の製造方法。
<9> 前記第1の層は、酸化タングステンに対して5.0モル%以下の前記4価又は5価の遷移金属がドープされてなる<8>に記載の積層体の製造方法。
<10> 前記熱処理工程は、前記第1ゲル層及び前記第2ゲル層を300℃〜550℃の範囲で加熱する工程である<7>〜<9>のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
本発明によれば、セルフクリーニング機能及びフォトクロミック機能に優れた積層体ならびにその製造方法を提供することができる。
本実施形態に係る積層体の概略図である。 酸化タングステン層1〜3のXRDパターンを示すグラフである。 酸化タングステン層1〜3表面のSEM画像である。 (a)Tiドープ酸化タングステン層のXRDパターンを示すグラフであり、(b)Zrドープ酸化タングステン層のXRDパターンを示すグラフである。 (a)Tiドープ酸化タングステン層のXRDパターンを示すグラフであり、(b)Zrドープ酸化タングステン層のXRDパターンを示すグラフである。 酸化タングステン層、2.0モル%Tiドープ酸化タングステン層及び9.1モル%Tiドープ酸化タングステン層表面のSEM画像である。 酸化タングステン層1〜3における、光の波長と光透過率との関係を示すグラフであり、(a)は酸化タングステン層1、(b)は酸化タングステン層2及び(c)は酸化タングステン層3に対応する。 積層体3の表面のSEM画像である。 積層体1〜3における、光の波長と光透過率との関係を示すグラフであり、(a)は積層体1、(b)は積層体2及び(c)は積層体3に対応する。 各積層体における金属のドープ量と光透過率の変化量との関係を示すグラフである。 各積層体における焼成温度と光透過率の変化量との関係を示すグラフである。 評価用サンプルにおけるUV254nmの照射時間を変更したときの光の波長と光透過率との関係を示すグラフである。 評価用サンプルにおけるUV254nmの照射時間と吸光度との関係を示すグラフである。 評価用サンプルにおける暗所保管時間を変更したときの光の波長と光透過率との関係を示すグラフである。 紫外線の照射時間と積層体1〜3及び酸化チタン膜の表面の接触角との関係を示すグラフである。 紫外線の照射時間とオレイン酸含有溶液を塗布した、積層体1〜3及び酸化チタン膜の表面の接触角との関係を示すグラフである。 積層体1〜3における接触角の経時変化を示すグラフであり、(a)は紫外線照射のみ、(b)は紫外線照射及び水供給、(c)は暗所保管ならびに(d)は暗所保管及び水供給をそれぞれ行なった場合に対応する。 紫外線照射のみ、紫外線照射及び水供給、暗所保管ならびに暗所保管及び水供給をそれぞれ行なった際の、接触角の経時変化を示すグラフであり、(a)は積層体1、(b)は積層体2及び(c)は積層体3に対応する。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
〔積層体〕
本実施形態に係る積層体は、酸化タングステンを含み、多孔質である第1の層と、前記第1の層上に配置され、酸化チタンを含む第2の層と、を含み、前記第2の層が光の入射側に位置している。
酸化チタンを含む第2の層は、光触媒機能を有し、所定波長の光を第2の層に照射することにより、光触媒である酸化チタンが光励起され、NO、SOなどの有害物質を分解する分解機能が発揮されるとともに、超親水化機能が発揮される。そのため、積層体の表面に汚れが付着しにくく、汚れが付着した場合であっても水により簡単に除去される自己浄化(セルフクリーニング)機能が発揮される。
また、酸化タングステンを含む第1の層は、所定波長の光を第2の層に照射することにより、第2の層を透過した光を吸収する。これにより、励起電子がW6+を還元してW5+を生成するため、酸化タングステンの色調が変化する、つまり酸化タングステンが着色するフォトクロミック機能が発揮される。さらに、第1の層と第2の層との界面を介して第2の層にて生じた励起電子が第1の層に輸送されるため、酸化タングステンを含む単層に比べて、本実施形態に係る積層体は、酸化タングステンの着色量が多く、優れたフォトクロミック機能を有する。
また、酸化タングステンを含む第1の層は多孔質であり、かつ微粒子で構成されているため、多孔質ではない酸化タングステンを含む層と比較して、第1の層と第2の層との界面の面積が増加する。これにより、着色及び脱色がより促進され、着色効率を高めることができる。
さらに、本実施形態に係る積層体では、所定波長の光を照射して酸化タングステンを含む第1の層を着色させることで、例えば、900nm以上の赤外領域の光を吸収しやすくなる。そのため、本実施形態に係る積層体は、遮熱効果が期待でき、例えば、調光ガラスとして使用した場合に、室内の温度変化を好適に調整でき、冷暖房効率の向上が可能である。
(第1の層)
本実施形態に係る積層体は、酸化タングステンを含み、多孔質である第1の層を含む。第1の層は、所定波長の光を照射することにより、着色するフォトクロミック機能を有する層である。
第1の層は、酸化タングステンを含み、多孔質であれば特に限定されないが、孔径が50nm〜500nmであることが好ましく、50nm〜300nmであることがより好ましい。
また、第1の層は、さらに4価又は5価の遷移金属がドープされてなることが好ましい。これにより、酸化タングステンにおけるタングステンの一部が4価又は5価の遷移金属と入れ替わることで結晶性が低下し、その結果、酸化タングステンの着色量がより増加し、より優れたフォトクロミック機能を有する。さらに、第1の層が4価又は5価の遷移金属がドープされてなることにより、積層体のセルフクリーニング機能がより向上する。また、4価又は5価の遷移金属を適宜選択することにより、第1の層の表面構造を調整することができる。
さらに、第1の層は、酸化タングステンの着色量をより多くする点から、酸化タングステンに対して5.0モル%以下の4価又は5価の遷移金属がドープされてなることが好ましく、2.0モル%〜5.0モル%の4価又は5価の遷移金属がドープされてなることがより好ましい。ここで、4価又は5価の遷移金属が2.0モル%以上ドープされていることにより、積層体のセルフクリーニング機能及びフォトクロミック機能をより高めることができ、4価又は5価の遷移金属を5.0モル%以下含むことにより、積層体はより優れたフォトクロミック機能を有する。
4価又は5価の遷移金属としては、特に限定されないが、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等が挙げられ、中でも、チタン、ジルコニウムが好ましい。
第1の層を構成する粒子の粒径は、10nm〜60nmであることが好ましい。粒子の粒径は、例えば、添加する4価又は5価の遷移金属を適宜選択することにより調整でき、また、4価又は5価の遷移金属を第1の層にドープすることで、粒子の粒径をより小さく調整できる。粒子の粒径は、試料のSEM観察により測定される値である。
第1の層の厚さは、フォトクロミック機能を高める点から、10nm〜10μmが好ましく、50nm〜1μmがより好ましい。
本実施形態に係る積層体における第1の層の結晶化度は、90%以上であることが好ましく、95%〜100%であることがより好ましい。結晶化度は、以下のようにして測定される数値である。XRDを用いて結晶化度=(結晶質からの回折強度/結晶質と非晶質による回折の和)×100により測定される。
(第2の層)
本実施形態に係る積層体は、第1の層上に配置され、酸化チタンを含む第2の層を含む。酸化チタンを含む第2の層は、光触媒機能を有し、所定波長の光を第2の層に照射することにより、有害物質を分解する分解機能が発揮されるとともに、超親水化機能が発揮される。そのため、積層体の表面に汚れが付着しにくく、汚れが付着した場合であっても水により簡単に除去される自己浄化(セルフクリーニング)機能が発揮される。
さらに、第1の層と第2の層との界面を介して第2の層にて生じた励起電子が第1の層に輸送されるため、酸化チタンを含む第2の層は、酸化タングステンを含む第1の層のフォトクロミック機能を高める効果を奏する。
第2の層の厚さは、優れた光触媒機能を発揮する点及びフォトクロミック機能を高める点から、10nm〜10μmが好ましく、50nm〜1μmがより好ましい。
第2の層に含まれる酸化チタンは、結晶性に優れるものが好ましく、粒径が30nm以下の粒子であることが好ましい。粒子の粒径は、試料のSEM観察により測定される値である。さらに、光散乱を抑制するために、第2の層にて酸化チタンが緻密に堆積されていることが好ましい。
本実施形態に係る積層体は、酸化タングステンを含み、多孔質である第1の層と、酸化チタンを含む第2の層と、を含むものであれば特に限定されず、第1の層を支持するガラス基板、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等の透明樹脂フィルムなどの基材を有していてもよい。例えば、本実施形態にかかる積層体は、図1に示すように、基材1上に、第1の層1と第2の層2とが順番に積層されている積層体10であってもよい。
また、第1の層及び第2の層を含む積層体は、第2の層上に電解質を有し、かつ積層体及び電解質が1対の透明電極に挟持された構成を有していてもよい。これにより、フォトクロミック機能を有する第1の層に電荷を付与でき、電荷付与による酸化還元反応によって第1の層における酸化タングステンの色調を可逆的に変化させることができる。そのため、第1の層における酸化タングステンの色調を好適に制御することができる。
(第3の層)
本実施形態に係る積層体は、第2の層上に、酸化タングステンを含み、多孔質である第3の層をさらに含み、第3の層の厚さが20nm以下であってもよい。酸化チタンを含む層上に、酸化タングステンを含む層上を設けた場合、酸化タングステンの厚みによっては、照射された光がほとんど酸化タングステン層に吸収されてしまい、酸化チタン層に吸収されないため、フォトクロミック性能があまり向上しない。しかし、本実施形態のように、酸化チタンを含む第2の層上に厚さが20nm以下である酸化タングステンを含む第3の層を設けることにより、第3の層を透過した光が第2の層に照射されるようになり、積層体のフォトクロミック性能をより向上させることができる。
〔積層体の製造方法〕
本実施形態に係る積層体の製造方法は、タングステン成分を含むゾル溶液を基材に塗布する第1塗布工程と、前記基材に塗布された前記タングステン成分を含むゾル溶液を乾燥して第1ゲル層とする第1乾燥工程と、チタン成分を含むゾル溶液を前記第1ゲル層上に塗布する第2塗布工程と、前記第1ゲル層上に塗布された前記チタン成分を含むゾル溶液を乾燥して第2ゲル層とする第2乾燥工程と、前記第1ゲル層及び前記第2ゲル層を熱処理し、酸化タングステンを含み、多孔質である第1の層及び酸化チタンを含み、光の入射側に位置する第2の層を形成する熱処理工程と、を含む。これにより、優れたセルフクリーニング機能及びフォトクロミック機能を有する積層体を製造できる。なお、本実施形態に係る積層体は、この製造方法にて製造されたものに限定されない。
まず、本実施形態に係る積層体の製造方法では、タングステン成分を含むゾル溶液を準備する。例えば、タングステン成分を溶媒に加えて溶解、あるいは必要に応じて反応させることにより、タングステン成分を含むゾル溶液を調製できる。
タングステン成分としては、タングステン単体又はハロゲン化タングステン、タングステンアルコキシド、水酸化タングステン、タングステン酸等のタングステン化合物が挙げられる。
タングステン成分を溶解させる溶媒としては、特に限定されず、有機溶媒、水等が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、アルコール系、ケトン系、エーテル系等が挙げられるが、より具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。なお、溶媒は、一種であってもよく、二種以上を併用してもよい。また、酸、塩基などを溶媒に添加してもよい。
ここで、前述の溶媒はタングステン単体、ハロゲン化タングステンなどのタングステン成分と反応するものであってもよく、例えば、タングステン成分がハロゲン化タングステン(例えば、六塩化タングステン)である場合、溶媒としては、アルコール系溶媒が好ましく、エタノールがより好ましい。ハロゲン化タングステンをアルコールに溶解させることにより、ハロゲンが解離し、アルコールとタングステンイオンが反応してタングステンアルコキシドとなることが推測される。また、タングステン成分がハロゲン化タングステン(例えば、六塩化タングステン)である場合、ハロゲン化タングステンと酸素との反応を抑制する点から、窒素ガス雰囲気中やアルゴン等の希ガス雰囲気中でハロゲン化タングステンをアルコールに溶解させることが好ましい。
次に、調製したタングステン成分を含むゾル溶液を基材に塗布する(第1塗布工程)。ゾル溶液を基材に塗布する方法は、特に限定されず、ディップコート法、スピンコート法、ロールコート法などが挙げられる。また、ゾル溶液が塗布される基材としては、特に限定されず、ガラス基板、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等の透明樹脂フィルムが挙げられる。
タングステン成分を含むゾル溶液を基材に塗布した後、基材に塗布されたゾル溶液を乾燥して第1ゲル層とする(第1乾燥工程)。タングステン成分を含むゾル溶液を乾燥することで、ゾル溶液中の溶媒は揮発し、さらに、タングステンアルコキシドなどのタングステン成分は加水分解、縮重合等の化学反応を経て酸化タングステン(WO)となり、ゲル状の層(第1ゲル層)が形成される。
基材に塗布されたゾル溶液を乾燥するときの乾燥温度や乾燥時間は特に限定されないが、例えば、乾燥温度は100℃〜250℃が好ましく、乾燥時間は3分〜10分が好ましい。これにより、第1ゲル層は十分に乾燥された層となるため、チタン成分を含むゾル溶液を第1ゲル層上に塗布した場合に第1ゲル層とチタン成分を含むゾル溶液とが混ざり合うことが抑制される。
第1ゲル層の厚さは、基材に塗布するゾル溶液の量や濃度を調整することにより適宜設定できる。また、第1塗布工程及び第1乾燥工程は複数回繰り返してもよく、例えば、基材上に形成した第1ゲル層上にタングステン成分を含むゾル溶液を塗布し、塗布したゾル溶液を乾燥させてゲル状の層(第1ゲル層)をさらに積層してもよい。
さらに、タングステン成分を含むゾル溶液は、4価又は5価の遷移金属成分を含んでいてもよい。これにより、第1の層を形成する酸化タングステンにおけるタングステンの一部が4価又は5価の遷移金属と入れ替わることにより結晶性が低下し、その結果、酸化タングステンの着色量がより増加し、より優れたフォトクロミック機能を有する積層体を製造できる。また、第1の層に4価又は5価の遷移金属がドープされていることにより、セルフクリーニング機能がより向上した積層体を製造できる。
タングステン成分及び4価又は5価の遷移金属成分を含むゾル溶液は、例えば、4価又は5価の遷移金属、あるいは、4価又は5価の遷移金属のハロゲン化物、アルコキシド、水酸化物を前述の溶媒に溶解させて溶液とし、この溶液をタングステン成分を含むゾル溶液と混合して調製すればよい。
タングステン成分及び4価又は5価の遷移金属成分を含むゾル溶液は、形成される第1の層における酸化タングステンの着色量をより多くする点から、4価又は5価の遷移金属成分を、タングステン成分に対して5.0モル%以下含むことが好ましく、1.0モル%〜5.0モル%含むことがより好ましい。なお、ゾル溶液中の4価又は5価の遷移金属成分の濃度は、第1の層における4価又は5価の遷移金属のドープ量に対応する。また、第1の層における4価又は5価の遷移金属のドープ量は、例えば、X線回折測定における回折強度やICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析によって判断することができる。
また、本実施形態に係る積層体の製造方法では、チタン成分を含むゾル溶液を準備する。例えば、チタン成分を溶媒に加えて溶解させることにより、チタン成分を含むゾル溶液を調製できる。
チタン成分としては、チタン単体又はハロゲン化チタン、チタンアルコキシド、水酸化チタン等のチタン化合物が挙げられる。
チタン成分を溶解させる溶媒としては、特に限定されず、有機溶媒、水等が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、アルコール系、ケトン系、エーテル系等が挙げられるが、より具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。なお、溶媒は、一種であってもよく、二種以上を併用してもよい。また、酸、塩基などを溶媒に添加してもよい。
ここで、前述の溶媒はチタン単体、ハロゲン化チタンなどのチタン成分と反応するものであってもよく、例えば、チタン成分がハロゲン化チタン(例えば、四塩化チタン)である場合、溶媒としては、アルコール系溶媒が好ましく、エタノールがより好ましい。ハロゲン化チタンをアルコールに溶解させることにより、ハロゲンが解離し、アルコールとチタンイオンが反応してチタンアルコキシドとなることが推測される。
次に、調製したチタン成分を含むゾル溶液を第1ゲル層上に塗布する(第2塗布工程)。ゾル溶液を基材に塗布する方法は、特に限定されず、ディップコート法、スピンコート法、ロールコート法などが挙げられる。
チタン成分を含むゾル溶液を第1ゲル層に塗布した後、第1ゲル層に塗布されたゾル溶液を乾燥して第2ゲル層とする(第2乾燥工程)。チタン成分を含むゾル溶液を乾燥することで、ゾル溶液中の溶媒は揮発し、さらに、チタンアルコキシドなどのチタン成分は加水分解、縮重合等の化学反応を経て酸化チタン(TiO)となり、ゲル状の層(第2ゲル層)が形成される。
第1ゲル層に塗布されたゾル溶液を乾燥するときの乾燥温度や乾燥時間は特に限定されないが、例えば、乾燥温度は100℃〜250℃が好ましく、乾燥時間は3分〜10分が好ましい。これにより、第2ゲル層は十分に乾燥された層となる。
第2ゲル層の厚さは、第1ゲル層に塗布するゾル溶液の量を調整することにより適宜設定できる。また、第2塗布工程及び第2乾燥工程は複数回繰り返してもよく、例えば、第1ゲル層上に形成した第2ゲル層上にチタン成分を含むゾル溶液を塗布し、塗布したゾル溶液を乾燥させてゲル状の層(第2ゲル層)をさらに積層してもよい。
さらに、本実施形態に係る積層体の製造方法では、第1ゲル層及び第2ゲル層を熱処理し、酸化タングステンを含み、多孔質である第1の層及び酸化チタンを含み、光の入射側に位置する第2の層を形成する(熱処理工程)。熱処理工程を行なうことにより、第1の層及び第2の層の内部に残存する溶媒が除去されるとともに、第1の層を形成する酸化タングステン及び第2の層を形成する酸化チタンが緻密化される。
熱処理工程は、酸化タングステンの着色量がより増加し、より優れたフォトクロミック機能を有する積層体を製造する点から、第1ゲル層及び第2ゲル層を300℃〜550℃で加熱することが好ましく、300℃〜500℃で加熱することがより好ましく、400℃〜500℃で加熱することがさらに好ましい。
また、本実施形態に係る積層体の製造方法では、ゾル−ゲル法により積層体を製造しているため、スパッタリング法、真空蒸着法などを用いた場合と異なり、多孔質の酸化タングステン層を形成することができ、フォトクロミック性能に優れる積層体を製造することができる。またゾル−ゲル法では、積層体の大型化を容易に図ることができる。さらに、スパッタリング法、真空蒸着法などの方法では、積層体製造時にクラックが発生するおそれがあり、外観不良が生じるおそれがあるが、ゾル−ゲル法では、熱処理を適切に調節することでクラックが発生せず、外観に優れた積層体を製造できる。
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
[ゾル−ゲル法による酸化タングステン層1〜3の製造]
まず、以下の手順にて酸化タングステン層1〜3を作製した。
(酸化タングステン層1の作製)
まず、アルゴン雰囲気下にて、エタノール溶液(純度99.5%)に六塩化タングステン(WCl:純度99.99%)を添加し、溶液を5分間撹拌してタングステン成分を含むゾル溶液(Wゾル溶液)を調製した。
次に、Wゾル溶液を無アルカリガラス基板上に滴下し、ガラス基板を1500rpmで5秒間回転させ、次いで3000rpmで10秒間回転させてスピンコートを行なった。スピンコートの後、ガラス基板上のWゾル溶液を200℃で3分間乾燥させ、ゲル層をガラス基板上に形成した。さらに、ゲル層上に上記と同じ条件にてWゾル溶液のスピンコートを行なった後、上記と同じ条件でWゾル溶液を乾燥させる処理を4回繰り返した。すなわち、Wゾル溶液のスピンコート及び乾燥をそれぞれ5回行なうことにより、ガラス基板上に酸化タングステンを含むゲル層を形成した。
次に、基板上に形成されたゲル層を500℃で10分間焼成し、基板上に酸化タングステン層1を作製した。
(酸化タングステン層2の作製)
まず、アルゴン雰囲気下にて、エタノール溶液(純度99.5%)に六塩化タングステン(WCl:純度99.99%)を添加し、溶液を5分間撹拌してタングステン成分を含むゾル溶液を調製した。また、アルゴン雰囲気下にて、エタノール溶液(純度99.5%)に四塩化チタン(TiCl:純度99.0%)を添加し、溶液を5分間撹拌してチタン成分を含むゾル溶液を調製した。タングステン成分を含むゾル溶液及びチタン成分を含むゾル溶液を混合し、混合ゾル溶液を調製した(タングステン成分に対して、Ti2.0モル%)。
次に、酸化タングステン層1の作製と同じ条件にて、混合ゾル溶液のスピンコート及び乾燥を5回行ない、基板上に2.0モル%チタンがドープされた酸化タングステンを含むゲル層を形成した。そして、基板上に形成されたゲル層を500℃で10分間焼成し、基板上に酸化タングステン層2を作製した。
(酸化タングステン層3の作製)
まず、アルゴン雰囲気下にて、エタノール溶液(純度99.5%)に六塩化タングステン(WCl:純度99.99%)を添加し、溶液を5分間撹拌してタングステン成分を含むゾル溶液を調製した。また、アルゴン雰囲気下にて、エタノール溶液(純度99.5%)に四塩化ジルコニウム(ZrCl:純度95%以上)を添加し、溶液を5分間撹拌してジルコニウム成分を含むゾル溶液を調製した。タングステン成分を含むゾル溶液及びジルコニウム成分を含むゾル溶液を混合し、混合ゾル溶液を調製した(タングステン成分に対して、Zr2.0モル%)。
次に、酸化タングステン層1の作製と同じ条件にて、混合ゾル溶液のスピンコート及び乾燥を5回行ない、基板上に2.0モル%ジルコニウムがドープされた酸化タングステンを含むゲル層を形成した。そして、基板上に形成されたゲル層を500℃で10分間焼成し、基板上に酸化タングステン層3を作製した。
[酸化タングステン層1〜3のX線回折]
次に、基板上に作製した上記酸化タングステン層1〜3のX線回折(XRD:X−ray diffraction)測定を行なった。酸化タングステン層1〜3のXRDパターンを図2に示す。図中、PureWO、Ti:2.0mol%doped及びZr:2.0mol%dopedは、それぞれ酸化タングステン層1〜3に対応する(他の図でも同様)。また、図2中、縦軸は任意単位の回折強度(intensity/a.u.)であり、横軸は回折角2θ[°]である。
図2より、酸化タングステン層にドープされている金属種によって層の結晶系に差が生じていること、ならびに酸化チタン(TiO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)の回折ピークが見られないことが分かる。したがって、酸化タングステン層2、3では、酸化タングステン(WO)へTi、Zrがそれぞれドープされており、WとTi又はZrとのイオン半径の差が結晶構造へ影響を及ぼしていることが推測される。なお、W6+は配位数VI、イオン半径0.60Åであり、Ti4+は配位数VI、イオン半径0.605Åであり、Zr4+は配位数VI、イオン半径0.72Åである。
[酸化タングステン層1〜3表面のSEM画像]
次に、基板上に作製した上記酸化タングステン層1〜3の表面をSEM(Scanning Electron Microscope)により観察した。酸化タングステン層1〜3表面のSEM画像を図3に示す。
図3より、酸化タングステン層1を構成する粒子の粒径は20nm〜60nm程度、酸化タングステン層2を構成する粒子の粒径は10nm〜40nm程度及び酸化タングステン層3を構成する粒子の粒径は15nm〜30nm程度であることを確認した。これにより、Ti又はZrをドープすることにより酸化タングステンの粒成長が抑制されることが推測される。
さらに、図3では、ドープする金属種によって酸化タングステン層の表面構造に変化が見られ、Tiがドープされた酸化タングステン層2では、酸化タングステン層1に比べ表面が粗く、Zrがドープされた酸化タングステン層3では、酸化タングステン層1に比べ表面が平滑であった。したがって、ドープする金属種に応じて、酸化タングステン層の表面構造を調整できることが推測される。
[焼成温度と酸化タングステン層の構造]
次に、酸化タングステンを含むゲル層を焼成して酸化タングステン層を作製する際の焼成温度が、作製された酸化タングステン層の構造に与える影響について、X線回折測定及びSEM観察により検討した。
まず、酸化タングステン層1の作製と同様にして、2.0モル%チタンがドープされた酸化タングステンを含むゲル層を有する基板を4つ準備した。そして、基板上に形成されたゲル層を、それぞれ400℃、500℃、600℃又は700℃で10分間焼成して、基板上にTiドープ酸化タングステン層を作製した。
また、酸化タングステン層1の作製と同様にして、2.0モル%ジルコニウムがドープされた酸化タングステンを含むゲル層を有する基板を4つ準備した。そして、基板上に形成されたゲル層を、それぞれ400℃、500℃、600℃又は700℃で10分間焼成して、基板上にZrドープ酸化タングステン層を作製した。
次に、基板上に作製した、Tiドープ酸化タングステン層及びZrドープ酸化タングステン層のX線回折測定を行なった。Tiドープ酸化タングステン層のXRDパターンを図4の(a)に示し、Zrドープ酸化タングステン層のXRDパターンを図4の(b)に示す。図4では、焼成温度が高くなるにつれて酸化タングステン層の結晶性が向上することが観察された。
また、酸化タングステン層1の作製と同様にして、酸化タングステンを含むゲル層を有する基板を準備し、基板上に形成されたゲル層を、700℃で10分間焼成して、基板上に酸化タングステン層を作製した。
そして、基板上に作製した、酸化タングステン層(700℃焼成)、Tiドープ酸化タングステン層(700℃焼成)及びZrドープ酸化タングステン層(700℃焼成)の表面をSEMにより観察した。このとき、酸化タングステン層を構成する粒子の粒径は80nm〜150nm程度、Tiドープ酸化タングステン層を構成する粒子の粒径は40nm〜60nm程度及びZrドープ酸化タングステン層を構成する粒子の粒径は25nm〜45nm程度であることを確認した。よって、焼成温度が高くなるにつれて酸化タングステンを構成する粒子の粒径が増加すること、及びTi又はZrをドープすることにより酸化タングステンの粒成長が抑制されることが推測される。
[金属のドープ量と酸化タングステン層の構造]
次に、酸化タングステン層におけるTi、Zrのドープ量が、酸化タングステン層の構造に与える影響について、X線回折測定及びSEM観察により検討した。
まず、酸化タングステン層2の作製と同様に、タングステン成分を含むゾル溶液及びチタン成分を含むゾル溶液を混合し、タングステン成分に対して、チタン成分が2.0モル%、4.8モル%、9.1モル%、及び16.6モル%含まれる混合ゾル溶液をそれぞれ調製した。そして、酸化タングステン層2の作製と同じ条件にて、基板上にチタンがドープされた酸化タングステンを含むゲル層をそれぞれ形成し、基板上に形成されたゲル層を500℃で10分間焼成し、基板上にTiドープ酸化タングステン層をそれぞれ作製した。
また、酸化タングステン層3の作製と同様に、タングステン成分を含むゾル溶液及びジルコニウム成分を含むゾル溶液を混合し、タングステン成分に対して、ジルコニウム成分が2.0モル%、4.8モル%、9.1モル%、及び16.6モル%含まれる混合ゾル溶液をそれぞれ調製した。そして、酸化タングステン層3の作製と同じ条件にて、基板上にジルコニウムがドープされた酸化タングステンを含むゲル層をそれぞれ形成し、基板上に形成されたゲル層を500℃で10分間焼成し、基板上にZrドープ酸化タングステン層をそれぞれ作製した。
次に、基板上に作製した、Tiドープ酸化タングステン層及びZrドープ酸化タングステン層のX線回折測定を行なった。Tiドープ酸化タングステン層のXRDパターンを図5の(a)に示し、Zrドープ酸化タングステン層のXRDパターンを図5の(b)に示す。図5より、Tiドープ量又はZrドープ量が増加した場合であっても、TiO由来又はZrO由来の回折ピークは見られなかった。また、Tiドープ量又はZrドープ量が増加すると、単斜晶、正方晶、立方晶の順に結晶相が転移し、結晶化度が低下することが確認された。これは、酸化タングステンにおけるタングステンの一部が、チタン又はジルコニウムと入れ替わる際に、電荷バランスを保つために酸素欠損が発生するが、Tiドープ量又はZrドープ量が増加することにより、酸素欠損が増加し、結晶性が低下するためであると推測される。
そして、基板上に作製した、酸化タングステン層(500℃焼成)、2.0モル%Tiドープ酸化タングステン層(500℃焼成)及び9.1モル%Tiドープ酸化タングステン層(500℃焼成)の表面をSEMにより観察した。酸化タングステン層、2.0モル%Tiドープ酸化タングステン層及び9.1モル%Tiドープ酸化タングステン層表面のSEM画像を図6に示す。
図6より、酸化タングステン層を構成する粒子の粒径は20nm〜60nm程度、2.0モル%Ti酸化タングステン層を構成する粒子の粒径は10nm〜40nm程度及び9.1モル%Ti酸化タングステン層を構成する粒子の粒径は10nm〜30nm程度であることを確認した。これにより、Tiのドープ量が増加するにつれて酸化タングステンの粒成長が抑制されることが推測される。
[金属ドープによるフォトクロミック性能への影響]
次に、酸化タングステン層に金属をドープすることによるフォトクロミック性能への影響を検討した。
まず、前述のようにして作製した酸化タングステン層1〜3について、光照射前、UV365nmを1時間照射後、及びUV254nmを1時間照射後におけるフォトクロミック性能について調べた。具体的には、光照射前、UV365nmを1時間照射後、及びUV254nmを1時間照射後における酸化タングステン層1〜3の光透過率を測定した。酸化タングステン層1〜3における、光の波長と光透過率との関係を示すグラフを図7に示しており、(a)は酸化タングステン層1、(b)は酸化タングステン層2、及び(c)は酸化タングステン層3に対応する。
図7の(a)〜(c)に示すように、波長1100nmにおける光照射前とUV365nmを1時間照射後又はUV254nmを1時間照射後との光透過率の変化は、以下の通りである。
酸化タングステン層1・・・3.0%(UV365nm)、6.6%(254nm)
酸化タングステン層2・・・1.8%(UV365nm)、5.9%(254nm)
酸化タングステン層3・・・6.0%(UV365nm)、12.5%(254nm)
以上により、Zrがドープされた酸化タングステン層3では、酸化タングステン層1、2と比較して近赤外光を多く吸収できることが示された。
[ゾル−ゲル法による積層体の製造]
次に、以下の手順にて積層体1〜5を作製した。
〔実施例1〕
(積層体1の作製)
まず、アルゴン雰囲気下にて、エタノール溶液(純度99.5%)に六塩化タングステン(WCl:純度99.99%)を添加し、溶液を5分間撹拌してタングステン成分を含むゾル溶液を調製した。
次に、Wゾル溶液を無アルカリガラス基板上に滴下し、ガラス基板を1500rpmで5秒間回転させ、次いで3000rpmで10秒間回転させてスピンコートを行なった。スピンコートの後、ガラス基板上のWゾル溶液を200℃で3分間乾燥させ、ゲル層をガラス基板上に形成した。さらに、ゲル層上に上記と同じ条件にてWゾル溶液のスピンコートを行なった後、上記と同じ条件でWゾル溶液を乾燥させた。すなわち、Wゾル溶液のスピンコート及び乾燥をそれぞれ2回行なうことにより、ガラス基板上に酸化タングステンを含むゲル層である第1ゲル層を形成した。
アルゴン雰囲気下にて、エタノール溶液(純度99.5%)に四塩化チタン(TiCl:純度99.0%)を添加し、溶液を5分間撹拌してチタン成分を含むゾル溶液(Tiゾル溶液)を調製した。次に、Tiゾル溶液を第1ゲル層上に滴下し、ガラス基板を1500rpmで5秒間回転させ、次いで3000rpmで10秒間回転させてスピンコートを行なった。スピンコートの後、第1ゲル層上のTiゾル溶液を200℃で3分間乾燥させ、酸化チタンを含むゲル層を第1ゲル層上に形成した。さらに、酸化チタンを含むゲル層上に上記と同じ条件にてTiゾル溶液のスピンコートを行なった後、上記と同じ条件でTiゾル溶液を乾燥させる処理を5回繰り返した。すなわち、Tiゾル溶液のスピンコート及び乾燥をそれぞれ6回行なうことにより、第1ゲル層上に酸化チタンを含むゲル層である第2ゲル層を形成した。
次に、基板上に形成された第1ゲル層及び第2ゲル層を500℃で10分間焼成した。これにより、基板、酸化タングステンを含む第1の層及び酸化チタンを含む第2の層がこの順番で積層された積層体1(基板/第1の層/第2の層、第1の層の厚さ120nm、第2の層の厚さ70nm)を作製した。
〔実施例2〕
(積層体2の作製)
まず、アルゴン雰囲気下にて、エタノール溶液(純度99.5%)に六塩化タングステン(WCl:純度99.99%)を添加し、溶液を5分間撹拌してタングステン成分を含むゾル溶液を調製した。また、アルゴン雰囲気下にて、エタノール溶液(純度99.5%)に四塩化チタン(TiCl:純度99.0%)を添加し、溶液を5分間撹拌してチタン成分を含むゾル溶液を調製した。タングステン成分を含むゾル溶液及びチタン成分を含むゾル溶液を混合し、混合ゾル溶液を調製した(タングステン成分に対して、Ti2.0モル%)。
次に、混合ゾル溶液を無アルカリガラス基板上に滴下し、ガラス基板を1500rpmで5秒間回転させ、次いで3000rpmで10秒間回転させてスピンコートを行なった。スピンコートの後、ガラス基板上の混合ゾル溶液を200℃で3分間乾燥させ、2.0モル%チタンがドープされた酸化タングステンを含むゲル層をガラス基板上に形成した。さらに、2.0モル%チタンがドープされた酸化タングステンを含むゲル層上に上記と同じ条件にて混合ゾル溶液のスピンコートを行なった後、上記と同じ条件で混合ゾル溶液を乾燥させた。すなわち、混合ゾル溶液のスピンコート及び乾燥をそれぞれ2回行なうことにより、ガラス基板上に2.0モル%チタンがドープされた酸化タングステンを含むゲル層である第1ゲル層を形成した。
さらに、積層体1の作製と同じ条件にて、Tiゾル溶液のスピンコート及び乾燥をそれぞれ6回行なうことにより、第1ゲル層上に酸化チタンを含むゲル層である第2ゲル層を形成した。
そして、基板上に形成された第1ゲル層及び第2ゲル層を500℃で10分間焼成した。これにより、基板、2.0モル%Tiドープ酸化タングステンを含む第1の層、酸化チタンを含む第2の層がこの順番で積層された積層体2(基板/第1の層/第2の層、第1の層の厚さ120nm、第2の層の厚さ70nm)を作製した。
〔実施例3〕
(積層体3の作製)
まず、アルゴン雰囲気下にて、エタノール溶液(純度99.5%)に六塩化タングステン(WCl:純度99.99%)を添加し、溶液を5分間撹拌してタングステン成分を含むゾル溶液を調製した。また、アルゴン雰囲気下にて、エタノール溶液(純度99.5%)に四塩化ジルコニウム(ZrCl:純度95%以上)を添加し、溶液を5分間撹拌してジルコニウム成分を含むゾル溶液を調製した。タングステン成分を含むゾル溶液及びジルコニウム成分を含むゾル溶液を混合し、混合ゾル溶液を調製した(タングステン成分に対して、Zr2.0モル%)。
次に、積層体1の作製と同じ条件にて、混合ゾル溶液のスピンコート及び乾燥を2回行ない、基板上に2.0モル%ジルコニウムがドープされた酸化タングステンを含むゲル層である第1ゲル層を形成した。さらに、積層体1の作製と同じ条件にて、Tiゾル溶液のスピンコート及び乾燥をそれぞれ6回行なうことにより、第1ゲル層上に酸化チタンを含むゲル層である第2ゲル層を形成した。
そして、基板上に形成された第1ゲル層及び第2ゲル層を500℃で10分間焼成した。これにより、基板、2.0モル%Zrドープ酸化タングステンを含む第1の層、酸化チタンを含む第2の層がこの順番で積層された積層体3(基板/第1の層/第2の層、第1の層の厚さ120nm、第2の層の厚さ70nm)を作製した。
積層体3の表面(第2の層側)をSEMにより観察した。積層体3の表面のSEM画像を図8に示す。なお、積層体3における第2の層の表面に傷をつけ、その傷をつけた箇所を観察した。図8に示すように、酸化チタンを含む第2の層が設けられていない酸化タングステン層3の表面(図3の(c))と比較して、積層体3の表面はより平滑であった。
〔実施例4〕
(積層体4の作製)
まず、積層体1の作製と同じ条件にて、Wゾル溶液のスピンコート及び乾燥を1回行ない、ガラス基板上に酸化タングステンを含むゲル層である第1ゲル層を形成した。次に、積層体1の作製と同じ条件にて、Tiゾル溶液のスピンコート及び乾燥をそれぞれ6回行なうことにより、第1ゲル層上に酸化チタンを含むゲル層である第2ゲル層を形成した。さらに、積層体1の作製と同じ条件にて、Wゾル溶液のスピンコート及び乾燥を1回行ない、第2ゲル層上に酸化タングステンを含むゲル層である第1ゲル層を形成した。
そして、基板上に形成された第1ゲル層及び第2ゲル層を500℃で10分間焼成した。これにより、基板、酸化タングステンを含む第1の層、酸化チタンを含む第2の層及び酸化タングステンを含む第1の層がこの順番で積層された積層体4(基板/第1の層/第2の層/第1の層、第1の層の厚さそれぞれ60nm、第2の層の厚さ70nm)を作製した。
〔比較例1〕
(積層体5の作製)
まず、積層体1の作製と同じ条件にて、Tiゾル溶液のスピンコート及び乾燥をそれぞれ6回行なうことにより、ガラス基板上に酸化チタンを含むゲル層である第2ゲル層を形成した。さらに、積層体1の作製と同じ条件にて、Wゾル溶液のスピンコート及び乾燥を2回行ない、第2ゲル層上に酸化タングステンを含むゲル層である第1ゲル層を形成した。
そして、基板上に形成された第1ゲル層及び第2ゲル層を500℃で10分間焼成した。これにより、基板、酸化チタンを含む第2の層及び酸化タングステンを含む第1の層がこの順番で積層された積層体5(基板/第2の層/第1の層、第1の層の厚さ120nm、第2の層の厚さ70nm)を作製した。
[酸化チタン層によるフォトクロミック性能への影響]
次に、実施例1〜4及び比較例1のように、第1の層及び第2の層を積層したことによるフォトクロミック性能への影響について検討した。
まず、前述のようにして作製した積層体1〜3について、光照射前、UV365nmを第2の層に1時間照射後、及びUV254nmを第2の層に1時間照射後におけるフォトクロミック性能について調べた。具体的には、光照射前、UV365nmを1時間照射後、及びUV254nmを1時間照射後における積層体1〜3の光透過率を測定した。積層体1〜3における、光の波長と光透過率との関係を示すグラフを図9に示しており、(a)は積層体1、(b)は積層体2、及び(c)は積層体3に対応する。
図9の(a)〜(c)に示すように、波長1100nmにおける光照射前とUV365nmを1時間照射後又はUV254nmを1時間照射後との光透過率の変化は、以下の通りである。
積層体1・・・11.5%(UV365nm)、29.7%(254nm)
積層体2・・・9.2%(UV365nm)、40.1%(254nm)
積層体3・・・15.3%(UV365nm)、46.2%(254nm)
また、前述のようにして作製した積層体4、5についても、積層体1〜3と同様にして光照射前、UV365nmを第1の層に1時間照射後、及びUV254nmを第1の層に1時間照射後におけるフォトクロミック性能について調べた。このとき、波長1100nmにおける光照射前とUV365nmを1時間照射後との光透過率の変化は、積層体4では前述の酸化タングステン層1よりも若干優れていたが、積層体5では前述の酸化タングステン層1とほとんど差がなかった。
以上により、酸化チタン層(第2の層)を酸化タングステン層(第1の層)上に設けることにより、近赤外線領域を含む広波長領域で光吸収量が増加し、フォトクロミック性能が大きく向上することが示された。これは、酸化チタン層へのUV照射により酸化チタン層で生成される励起電子が酸化タングステン層側へ移動することで、W6+の還元が促進され、かつ電荷分離が向上するためと推測される。さらに、Ti又はZrがドープされた酸化タングステン層を有する積層体2、3では、積層体1と比較して広波長領域での光吸収量が増加していることが示された。
一方、積層体4、5のように、酸化タングステン層を酸化チタン層上に設けた場合、積層体4は酸化タングステン層よりも若干フォトクロミック性能が優れていたが、積層体5は酸化タングステン層と比較してもフォトクロミック性能に差はほとんど見られなかった。これは、照射された光がほとんど酸化タングステン層に吸収されてしまい、酸化チタン層にあまり吸収されないためであると推測される。そのため、積層体1〜3のように、フォトクロミック性能を大きく向上させるためには、酸化チタン層上に酸化タングステン層を設けない、あるいは、厚みが小さい酸化タングステン層(第3の層)を酸化チタン層上に設け、この酸化タングステン層を透過した光が酸化チタン層に照射されるようにする必要があると推測される。
[金属のドープ量とフォトクロミック性能との関係]
次に、酸化タングステン層における金属のドープ量が、積層体のフォトクロミック性能に与える影響について検討した。
まず、酸化タングステン層2の作製と同様に、タングステン成分を含むゾル溶液及びチタン成分を含むゾル溶液を混合し、タングステン成分に対して、チタン成分が4.8モル%、9.1モル%、及び16.6モル%含まれる混合ゾル溶液をそれぞれ調製した。そして、酸化タングステン層2の作製と同じ条件にて、基板上にチタンがドープされた酸化タングステンを含むゲル層をそれぞれ形成した。
そして、チタンがドープされた酸化タングステンを含むゲル層上に、実施例1と同様にして、酸化チタンを含むゲル層である第2ゲル層を形成し、次いで、基板上に形成された第1ゲル層及び第2ゲル層を500℃で10分間焼成した。これにより、基板と、4.8モル%、9.1モル%、又は16.6モル%のチタンがドープされた酸化タングステンを含む第1の層と、酸化チタンを含む第2の層とがこの順番で積層された積層体(基板/第1の層/第2の層、第1の層の厚さ120nm、第2の層の厚さ70nm)をそれぞれ作製した。
また、酸化タングステン層3の作製と同様に、タングステン成分を含むゾル溶液及びジルコニウム成分を含むゾル溶液を混合し、タングステン成分に対して、ジルコニウム成分が4.8モル%、9.1モル%、及び16.6モル%含まれる混合ゾル溶液をそれぞれ調製した。そして、酸化タングステン層3の作製と同じ条件にて、基板上にジルコニウムがドープされた酸化タングステンを含むゲル層をそれぞれ形成した。
そして、ジルコニウムがドープされた酸化タングステンを含むゲル層上に、実施例1と同様にして、酸化チタンを含むゲル層である第2ゲル層を形成し、次いで、基板上に形成された第1ゲル層及び第2ゲル層を500℃で10分間焼成した。これにより、基板と、4.8モル%、9.1モル%、又は16.6モル%のジルコニウムがドープされた酸化タングステンを含む第1の層と、酸化チタンを含む第2の層とがこの順番で積層された積層体(基板/第1の層/第2の層、第1の層の厚さ120nm、第2の層の厚さ70nm)をそれぞれ作製した。
次に、前述の積層体1、2.0モル%、4.8モル%、9.1モル%又は16.6モル%のチタンがドープされた第1の層を有する積層体、及び2.0モル%、4.8モル%、9.1モル%、又は16.6モル%のジルコニウムがドープされた第1の層を有する積層体について、フォトクロミック性能を調べた。具体的には、光照射前における各積層体に対するUV254nmを1時間照射後における各積層体の1100nmにおける光透過率の変化量を調べた。結果を図10に示す。
図10は、各積層体における金属のドープ量と光透過率の変化量との関係を示すグラフである。図10に示すように、Ti又はZrがドープされた酸化タングステン層を有する積層体では、Ti又はZrのドープ量が増加するにつれて、1100nmにおける光透過率の変化量が小さくなる、すなわち、近赤外線領域で光吸収量が低減し、フォトクロミック性能が低下する傾向が示された。また、金属ドープ量の増加によるフォトクロミック性能の低下は、TiドープよりもZrドープにて顕著であった。
[焼成温度とフォトクロミック性能との関係]
次に、第1ゲル層及び第2ゲル層の焼成温度が、積層体のフォトクロミック性能に与える影響について検討した。
まず、実施例1と同様にして、第1ゲル層及び第2ゲル層を有する基板を4つ準備した。そして、基板上に形成された第1ゲル層及び第2ゲル層を、それぞれ400℃、500℃、600℃又は700℃で10分間焼成し、基板、酸化タングステンを含む第1の層、酸化チタンを含む第2の層がこの順番で積層された積層体をそれぞれ作製した。
また、実施例2と同様にして、第1ゲル層及び第2ゲル層を有する基板を4つ準備した。そして、基板上に形成された第1ゲル層及び第2ゲル層を、それぞれ400℃、500℃、600℃又は700℃で10分間焼成し、基板、2.0モル%Tiドープ酸化タングステンを含む第1の層、酸化チタンを含む第2の層がこの順番で積層された積層体をそれぞれ作製した。
さらに、実施例3と同様にして、第1ゲル層及び第2ゲル層を有する基板を4つ準備した。そして、基板上に形成された第1ゲル層及び第2ゲル層を、それぞれ400℃、500℃、600℃又は700℃で10分間焼成し、基板、2.0モル%Zrドープ酸化タングステンを含む第1の層、酸化チタンを含む第2の層がこの順番で積層された積層体をそれぞれ作製した。
前述のように焼成温度を400℃〜700℃にして作製した各積層体について、フォトクロミック性能を調べた。具体的には、光照射前における各積層体に対するUV254nmを1時間照射後における各積層体の1100nmにおける光透過率の変化量を調べた。結果を図11に示す。
図11は、各積層体における焼成温度と光透過率の変化量との関係を示すグラフである。図11に示すように、焼成温度が400℃又は500℃のときの各積層体では、焼成温度が600℃又は700℃のときの各積層体に対して1100nmにおける光透過率の変化量が良好であり、より優れたフォトクロミック性能を示した。
[脱着色速度評価]
次に、酸化タングステン層である第1の層及び酸化チタン層である第2の層を有する積層体の脱着色速度について評価した。
まず、実施例2と同様にして、第1ゲル層及び第2ゲル層を有する基板を準備し、基板上に形成された第1ゲル層及び第2ゲル層を、400℃で10分間焼成し、基板、2.0モル%Zrドープ酸化タングステンを含む第1の層、酸化チタンを含む第2の層がこの順番で積層された積層体を評価用サンプルとして作製した。
前述のようにして作製した評価用サンプルにUV254nmを所定の時間照射した後、評価用サンプルの光透過率及び吸光度を測定して着色速度を評価した。結果を図12、13に示す。
図12は、評価用サンプルにおけるUV254nmの照射時間を変更したときの光の波長と光透過率との関係を示すグラフであり、図13は、評価用サンプルにおけるUV254nmの照射時間と吸光度との関係を示すグラフである。図12、13に示すように、UV254nmの照射時間が4分の場合と、UV254nmの照射時間が8分〜60分の場合とで光透過率及び吸光度にほとんど差が見られなかった。そのため、UV254nmの照射時間が4分経過した時点で評価用サンプルの着色が完了していることが推測される。さらに、UV254nmの照射により、近赤外線領域を含む広波長領域で高い光吸収量が示された。
例えば、従来公知の酸化タングステンとウレタン樹脂とのコンポジット膜(公益社団法人日本セラミックス協会 2015年 年会 講演予稿集1P070 三酸化タングステンベースコンポジット膜のフォトクロミズム特性への低価数元素添加効果を参照)では、50分程度UVを照射することで、光透過率がほぼ一定となっている。そのため、前述の評価サンプルは、従来の酸化タングステン膜と比較しても着色速度が非常に速いことが分かる。
次に、前述のようにして作製した評価用サンプルにUV254nmを1時間照射した後、評価用サンプルを暗所に保管し、所定時間経過後に暗所保管した評価用サンプルの光透過率を測定して脱色速度を評価した。結果を図14に示す。
図14は、評価用サンプルにおける暗所保管時間を変更したときの光の波長と光透過率との関係を示すグラフである。図14に示すように、暗所にて3時間(180分)保管することで、評価用サンプルの脱色は90%程度完了していた。
[光触媒性能評価]
積層体1〜3及び酸化チタン膜(厚さ70nm)について、接触角測定(水接触角測定)による親水性評価、及びオレイン酸分解によるセルフクリーニング性能試験を行なうことにより、光触媒性能を評価した。
(親水性評価)
まず、積層体1〜3及び酸化チタン膜の親水性評価を行なった。積層体1〜3及び酸化チタン膜の表面を純水で洗浄した後、100℃で15分間乾燥させた。乾燥後、紫外線(波長365nm)を積層体1〜3及び酸化チタン膜の表面に照射し、10分毎の接触角を測定した。接触角の測定は、基板ガラス表面のぬれ性試験方法(JIS R 3257 1999)に準拠して行なった。結果を図15に示す。
図15は、紫外線の照射時間と積層体1〜3及び酸化チタン膜の表面の接触角との関係を示すグラフである。図15に示すように、積層体1〜3及び酸化チタン膜は、同程度の親水性を示した。
(セルフクリーニング性能試験)
次に、積層体1〜3及び酸化チタン膜のセルフクリーニング性能試験を行なった。セルフクリーニング性能試験は、ファインセラミックス−光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法−第1部:水接触角の測定(JIS R 1703−1 2007)に準拠して行なった。具体的には以下の通りである。
まず、オレイン酸(純度99.0%)及びヘプタン溶液(濃度60質量%)を混合し、混合溶液(オレイン酸0.5体積%)を調製した。積層体1〜3及び酸化チタン膜の表面を純水で洗浄した後、100℃で15分間乾燥させた後、調製した混合溶液を積層体1〜3及び酸化チタン膜の表面に塗布した。次いで、積層体1〜3及び酸化チタン膜の表面を70℃で15分間乾燥させた後、紫外線(波長365nm)をこれらの表面に照射し、20分毎の接触角を測定した。結果を図16に示す。
図16は、紫外線の照射時間とオレイン酸含有溶液を塗布した、積層体1〜3及び酸化チタン膜の表面の接触角との関係を示すグラフである。なお、清浄表面の接触角は10°である。図16に示すように、積層体1〜3及び酸化チタン膜は、オレイン酸分解性能を示した。さらに、Ti又はZrがドープされた酸化タングステン層を有する積層体(積層体2、3)では、積層体1と比較してオレイン酸分解性能が向上しており、酸化チタン層である第2の層にて励起電子及び正孔の電荷分離が促進されていることが推測される。
また、積層体1〜3について、前述のようにして表面にオレイン酸を含む混合溶液を塗布した後、紫外線(UV:波長365nm)照射のみ、紫外線照射及び水供給、暗所保管ならびに暗所保管及び水供給をそれぞれ行ない、積層体表面の接触角の経時変化について検討した。結果を図17、18に示す。
図17は、積層体1〜3における接触角の経時変化を示すグラフであり、(a)は紫外線照射のみ、(b)は紫外線照射及び水供給、(c)は暗所保管、ならびに(d)は暗所保管及び水供給をそれぞれ行なった場合に対応する。図18は、紫外線照射のみ、紫外線照射及び水供給、暗所保管ならびに暗所保管及び水供給をそれぞれ行なった際の、接触角の経時変化を示すグラフであり、(a)は積層体1、(b)は積層体2及び(c)は積層体3に対応する。図17の(a)、(b)及び図18に示すように、紫外線照射を行なうことで接触角が低下しており、積層体1〜3はオレイン酸分解性能を示した。一方、図17の(c)、(d)及び図18に示すように、暗所保管では、時間が経過しても接触角がほぼ一定であり、積層体1〜3はオレイン酸分解性能を示さなかった。
実施例1〜実施例3の積層体1〜3では、フォトクロミック機能及びセルフクリーニング機能が確認された。また、Ti又はZrがドープされた酸化タングステン層を有する積層体(積層体2、3)では、積層体1と比較して、より優れた、フォトクロミック機能及びセルフクリーニング機能が確認された。

Claims (10)

  1. 酸化タングステンを含み、多孔質である第1の層と、
    前記第1の層上に配置され、酸化チタンを含む第2の層と、を含み、
    前記第2の層が光の入射側に位置しており、前記第1の層の結晶化度は、90%以上である積層体。
  2. 前記第1の層は、孔径が50nm〜500nmである請求項1に記載の積層体。
  3. 前記第1の層は、4価又は5価の遷移金属がドープされてなる請求項1又は請求項2に記載の積層体。
  4. 前記第1の層は、酸化タングステンに対して5.0モル%以下の前記4価又は5価の遷移金属がドープされてなる請求項3に記載の積層体。
  5. 前記第1の層を構成する粒子の粒径は、10nm〜60nmである請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の積層体。
  6. 前記第2の層上に、酸化タングステンを含み、多孔質である第3の層をさらに含み、
    前記第3の層の厚さが20nm以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の積層体。
  7. タングステン成分を含むゾル溶液を基材に塗布する第1塗布工程と、
    前記基材に塗布された前記タングステン成分を含むゾル溶液を乾燥して第1ゲル層とする第1乾燥工程と、
    チタン成分を含むゾル溶液を前記第1ゲル層上に塗布する第2塗布工程と、
    前記第1ゲル層上に塗布された前記チタン成分を含むゾル溶液を乾燥して第2ゲル層とする第2乾燥工程と、
    前記第1ゲル層及び前記第2ゲル層を熱処理し、酸化タングステンを含み、多孔質である第1の層及び酸化チタンを含み、光の入射側に位置する第2の層を形成する熱処理工程と、を含み、前記第1の層の結晶化度は、90%以上である積層体の製造方法。
  8. 前記タングステン成分を含むゾル溶液は、さらに4価又は5価の遷移金属成分を含み、かつ、前記第1の層は、4価又は5価の遷移金属がドープされてなる請求項7に記載の積層体の製造方法。
  9. 前記第1の層は、酸化タングステンに対して5.0モル%以下の前記4価又は5価の遷移金属がドープされてなる請求項8に記載の積層体の製造方法。
  10. 前記熱処理工程は、前記第1ゲル層及び前記第2ゲル層を300℃〜550℃の範囲で加熱する工程である請求項7〜請求項9のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
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