JP6594405B2 - 消臭ガラス剤 - Google Patents
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Description
0.01≦x≦2.03のとき、0.15≦y≦5.08x+0.18
2.03≦x≦23のとき、0.15≦y≦10.5
ここで請求項2のように、B2O3を5〜20モル%、R2O(R=Li、Na、K)を10〜30モル%含有するものを用いることが更に好ましい。参考のため、上記の数式で規定される範囲を、図10に示す。
0.01≦x≦2.38のとき、0.17≦y≦4.27x+0.34
2.38≦x≦23のとき、0.17≦y≦10.5
参考のため、上記の数式で規定される範囲を、図11に示す。
本実施形態の消臭ガラス剤は、SiO2を46〜70モル%、B2O3とR2Oを合計で15〜50モル%、R´O(R´=Mg、Ca、Sr、Ba)を0〜10モル%、Al2O3を0〜6モル%、CuOを0.01〜23モル%含有する「アルカリ(R2O)−アルカリ土類(R´O)−ホウケイ酸ガラス(B2O3−SiO2)」からなり、通常のガラス剤と同様に、溶融急冷法で製造することができる。ガラス剤の形状は、溶融急冷法でプレ成形体を得た後、粉砕を行って得た粉体とする。ここで言う粉砕とは、一般的に知られる粉砕機(例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、CFミル等)による粉砕を意味し、乾式でも湿式でも構わない。
SiO2は、ガラスの構造骨格を形成する主成分となる。その含有量は、46〜70モル%、好ましくは、51〜63モル%とする。46モル%未満の場合、ガラスの化学的耐久性が不十分となり、またガラスが失透しやすくなり好ましくない。更に、46モル%未満の場合、ガラスの耐水性が不十分となり、水分存在下(大気中の水分を含む)で銅イオンが溶出しやすくなる結果、触媒作用による消臭効果よりも、イオン溶出によって起こる硫化反応による消臭効果が強くなるため好ましくない。70モル%を超える場合、融点が上昇することにより、ガラスの溶融性が困難となる他、粘度上昇も起こるため好ましくない。
B2O3は、ガラスの溶解性、清澄性を向上させる成分であり、特定の組成においてはガラスの構造骨格を形成する成分ともなる。B2O3は、その含有量によって、ガラスの安定性を大きく左右するものであり、本願発明ではガラスの融剤としての意味合いが大きい。その含有量は、B2O3の揮発量を勘案して、5〜20モル%、好ましくは8〜17モル%とする。20モル%を超える場合、B2O3は溶融過程において揮発しやすく、組成制御が困難となるため好ましくない。
R2O(R=Li、Na、K)は、ガラスの構造骨格におけるSiとOの結合を切断して非架橋酸素を形成し、その結果、ガラスの粘性を低下させ、成形性や溶解性を向上させる成分であり、B2O3同様の融剤である。その含有量は、R2O(R=Li、Na、K)の一種もしくは二種以上を、他成分との含有比も考慮しつつ、合計10〜30モル%、好ましくは13〜22モル%とする。30モル%を超える場合、ガラスの化学的耐久性が不十分となる。具体的には、ガラス剤と大気中の水分が反応してブルームと称される白化現象が引き起こされる。ブルームが発生することにより、悪臭ガスとの接触面積が減少するため望ましくない。また、溶解炉のアルミナ質が浸蝕されやすくなる。
前記のように、B2O3とR2Oは、共に、融剤として使用される。B2O3とR2Oの合計含有量が、15〜50モル%、好ましくは21〜39モル%の範囲が、安全に消臭効果を示す領域となる。15モル%未満の場合、ガラスの溶融性が不十分となり、成形の際に失透が発生しやすくなるため好ましくない。40モル%を超えると、ガラスの耐水性が不十分となり、水分存在下(大気中の水分を含む)で銅イオンが溶出しやすくなる結果、触媒作用による消臭効果よりも、イオン溶出によって起こる硫化反応による消臭効果が強くなるため好ましくない。また、50モル%を超えると、溶融の際に分相を起こしやすく、それに伴いガラス剤の消臭効果が不十分となるため好ましくない。
R´O(R´=Mg、Ca、Sr、Ba)は、ガラスの化学的耐久性を向上させる成分である。その含有量は、R´O(R´=Mg、Ca、Sr、Ba)の一種もしくは二種以上を、合計0〜10モル%、好ましくは2〜7モル%とする。10モル%を超えると溶融時の粘性が高くなるとともに、ガラスが失透しやすくなるため好ましくない。なお、本発明の消臭ガラス剤において必須成分ではなく、その含有量は0モル%でもよい。
CuOは、触媒として機能して、硫黄系悪臭物質の分解反応(酸化・還元反応)を促進し、硫黄系悪臭物質の消臭効果を奏するものである。その含有量は、0.01〜23モル%、好ましくは1〜13モル%、さらに好ましくは4〜13モル%とする。23モル%を超えると未溶解物が残留しやすくなる他、急冷の際や加工時に金属銅が析出しやすくなるため好ましくない。金属銅も消臭効果を示すため、消臭という観点からは、その析出は問題とならないが、金属銅の析出に伴いガラスに変色を生じるため、ガラスの変色が問題となる用途には適さない。また、金属銅として析出した場合、被毒が進行してしまう。これに対し、CuOをガラス成分として含ませた本発明によれば、被毒が進行し難く、触媒機能を長期間に亘って安定して発揮することができる。
0.01≦x≦2.03のとき、0.15≦y≦5.08x+0.18
2.03≦x≦23のとき、0.15≦y≦10.5
Al2O3は、ガラスの化学的耐久性を向上させ、結晶構造安定性に影響を与える成分である。また、Al2O3は、ガラスの分相を抑制しガラス剤の均質性を高める働きをする。粘性を上げること、添加によってガラス中の銅イオンの酸化還元状態に影響を与える可能性があることから、その含有量は、6モル%以下、好ましくは5.5モル%以下とすることが望ましい。
上記成分以外にも、微量成分として、ZnO、SrO、BaO、TiO2、ZrO2、Nb2O5、P2O5、Cs2O、Rb2O、TeO2、BeO、GeO2、Bi2O3、La2O3、Y2O3、WO3、MoO3、CoO、またはFe2O3等も含めることができる。さらに、F、Cl、SO3、Sb2O3、SnO2、あるいはCe等を清澄剤として添加してもよい。
Fe2O3は、ガラス中の銅イオンの酸化還元状態に影響を与える(Cu+>Cu2+を強める)成分のため、その含有量は、0.5モル%以下、好ましくは0.3モル%以下とすることが望ましい。
Cr2O3、MnO2、CeO2は、遷移金属イオンであり、CuOと同様に原子価を変化し得る成分である。CuOと混在するとき、酸化性が強いこれらの成分(酸化力Cr2O3>MnO2>CeO2)によってガラス中の銅イオンの酸化還元状態は酸性に傾く(Cu+<Cu2+)。本願発明の組成範囲、製造方法では安定性して消臭効果が得られるが、酸化還元状態が大きく予想を外れて消臭効果が得られない場合(例えば、溶解炉は浸蝕に伴い酸化還元状態の制御が困難となる場合がある)、Cr2O3、MnO2、CeO2の添加によって銅イオンの価数バランスを制御することもできる。
原料調合後、溶融温度1350℃で8時間溶融し、流し出して、表1のガラス組成から成るガラスを得た。溶融後は、自然冷却を行ったが、水冷とすることもできる。得られたガラスを、ボールミルを用いて乾式粉砕し、粒度計でD50(粒径を累積分布させたときの積算値50%にあたる)=4.5μm以下、D98(粒径を累積分布させたときの積算値98%にあたる)=40μm以下となるように制御した。なお、粒径(直径)100μm以上の粒子はふるいで分けて除去した。
消臭試験方法:
表1のガラス組成からなる消臭ガラス剤(実施例1)と悪臭とをテドラーバッグに封入し、経過時間に伴うバッグ内の悪臭濃度をガス検知管で測定した。
試験条件は、下記の通りとした。
テドラーバッグ容量 : 1L
温度 : 室温(20〜25℃)
消臭ガラス剤重量 : 0.1g
消臭ガラス剤粒径 : D50= 4.21μm
消臭ガラス剤比表面積 : 1.54m2/g
また、ブランクとして、消臭ガラス剤なしで上記同様の操作を行った。
測定結果および考察:
図1に示すように、硫化水素、エチルメルカプタン、ブチルメルカプタン、2-メルカプトエタノール、いずれの硫黄系悪臭に対しても消臭効果があることが確認された。その他、図2、3、4、6、7、8に示す通りメチルメルカプタンに対しても消臭効果があることが確認された。
補足:
ガス検知管は、同一試験内での比較に適した手法だが、定量性は低い。また、環境(温度、湿度)の影響を受けるため、他試験と定量性をもって比較できるものではない。つまり、あくまで、同一試験内での結果比較のみに留める必要がある。
消臭試験方法1(窒素雰囲気):
上記表1のガラス組成からなる消臭ガラス剤(実施例1)とMM(メチルメルカプタン)とをテドラーバッグに封入し、悪臭注入直後、2時間後、24時間後に、MMおよびDMDS(ジメチルジスルフィド)濃度をガスクロマトグラフ(GC)で測定した。
試験条件は、下記の通りとした。
テドラーバッグ容量 : 5L
初期ガス(MM)濃度 : 100ppm
温度 : 室温(20〜25℃)
消臭ガラス剤重量 : 1g
消臭ガラス剤粒径 : D50= 4.21μm
消臭ガラス剤比表面積 : 1.54m2/g
また、ブランクとして、消臭ガラス剤なしで上記同様の操作を行った。
上記の試験は、株式会社 環境科学研究所に依頼した。
消臭試験方法2(人工エアー雰囲気):
上記同様の試験を、人工エアー雰囲気(酸素濃度20%、窒素濃度80%)で行った。
消臭試験方法1に同じく、株式会社 環境科学研究所に依頼した。
測定結果および考察:
図2には、消臭試験方法1の結果を示し、図3には、消臭試験方法2の結果を示している。
図2、図3に示すように、ブランクでも0時間の時点からDMDSが存在しているが、確認したところ、使用したガス中にコンタミでDMDSが含まれていた。
MM→DMDSは、自然酸化が若干は起こるものの、ブランクに対し消臭ガラス剤は明らかにDMDSの生成が促進されている。この反応は、MMが二量体化してDMDSとなる。
その他、硫黄成分がないかGCの保持時間を90分まで保持し、その中でMM、DMDS以外の存在を確認したが、特にピークは確認されなかった。
消臭ガラス剤の消臭機構が、先行技術の溶解性ガラス剤のように硫化反応であれば、硫黄成分と銅成分の結合が起きる。しかし、GC結果の通り、銅との結合ではなく、MMから別の硫黄成分DMDSへの変換が確認された。変換量もほぼ等量と考えられる(ブランク自体のMMの減少等考慮して)。
また、図3に示すように、酸素が存在すると、その消臭効果が明らかに高まった。酸素を介してMM→DMDSの反応を促進する触媒と考えられる。触媒作用による消臭機構を示すことが知られているCuOも、酸素を介してMM→DMDSの反応を促進する。表面に吸着している酸素を介すといわれている。消臭ガラス剤も同様の触媒作用を示している可能性がある。窒素雰囲気のときも消臭効果が確認されるが、封入前、ガラス表面に吸着していた酸素が影響した可能性がある。
反応式としては、下記式が想定される。
2CH3‐SH+oxidant→CH3‐S‐S‐CH3+2H++2e−
消臭試験方法:
表1のガラス組成からなる消臭ガラス剤(実施例1)、CuO試薬それぞれとMMとをテドラーバッグに封入し、経過時間に伴うバッグ内のMM濃度をガス検知管で測定した。
試験条件は、下記の通りとした。
テドラーバッグ容量 : 1L
初期ガス(MM)濃度 : 55ppm (55ppmで繰り返し8回実施)
温度 : 室温(20〜25℃)
消臭ガラス剤重量 : 0.1g
消臭ガラス剤粒径 : D50= 4.21μm
消臭ガラス剤比表面積 : 1.54m2/g
CuO : Wako試薬、粒径(記載値5μm)、比表面積0.38m2/g。
また、ブランクとして、消臭ガラス剤なしで上記同様の操作を行った。
測定結果および考察:
図4に示すように、消臭ガラス剤もCuOも、約10ppm弱で収束することが確認された。これは、触媒作用によってDMDSが生成することによる、ガス検知管の誤差である(MM以外の硫黄成分があるとき、識別ができないため誤差要因となる)。別途、収束時点のMMをGCで確認したが、検出限界以下であることを確認した(結果割愛)。単純にCuO含有量からすると、消臭ガラス剤はCuO試薬の1/10程度にあるにも関わらず、高い消臭効果を示した。
繰返し1回目の時点では、CuOの消臭スピードが上回っているが、繰返し8回目ともなると、両者の関係は逆転し、消臭ガラス剤の消臭スピードが勝っていることが確認された。具体的には、繰返し8回目も消臭ガラス剤は消臭スピードを保っているが、CuOの消臭効果が低下傾向にあることがわかる。硫黄系悪臭を消臭するとき、CuOは被毒(触媒劣化)することが知られており、この影響によると考えられる。本実施例では、ガラス化することで、安定な触媒状態になっていることが確認された。
溶解性ガラス剤作製方法:
溶解性ガラス1
代表的な溶解性ガラス剤(イオンピュア)市販品
溶解性ガラス2
リン酸マグネシウム94.26gと、89重量%のリン酸157.76gと、酸化銀4.0gとを混合して300℃にて3時間保持し、次にその乾燥物を1300℃で1時間溶融して下記表2のガラス組成から成るガラスを作製し、これを粉砕して試料とした。
溶解性ガラス3
リン酸カリウム71.36gと、第一リン酸カルシウム38.05gと、酸化銅26.17gと89重量%のリン酸117.72gを混合して300℃にて3時間保持し、次にその乾燥物を1300℃で1時間溶融して下記表2のガラス組成から成るガラスを作製し、これを粉砕して試料とした。
溶解性ガラス4
無水硼酸12.05g、硝酸ソーダ5.62g、超微粉シリカ(製品名:スノーテックスS)5.26g、アルミナ粉末0.2g、塩化銅21.4g、純水60mlを高速攪拌機で撹拌して、ゾルを調整した後、これに10Nのアンモニア水3mlを加えてゲル化し、乾燥機にて、120℃で180分乾燥した後、焼成炉にて、常温→525℃で30分、525℃で10分、525→950℃で30分、950℃で30分焼成して下記表2のガラス組成から成るガラス剤を作製し、これを粉砕して試料とした。
表1のガラス組成からなる消臭ガラス剤(実施例1)、上記表2のガラス組成からなる溶解性ガラスと硫化水素とをテドラーバッグに封入し、経過時間に伴うバッグ内の硫化水素濃度をガス検知管で測定した。
試験条件は、下記の通りとした。
テドラーバッグ容量 : 1L
初期ガス(硫化水素)濃度 : 55ppm
温度 : 室温(20〜25℃)
湿度 : 約80%
消臭ガラス剤重量 : 0.1g
消臭ガラス剤粒径 : D50= 4.21μm
消臭ガラス剤比表面積 : 1.54m2/g
また、ブランクとして、消臭ガラス剤なしで上記同様の操作を行った。
測定結果および考察:
図5に示すように、溶解性ガラス剤は、硫化反応による消臭のため反応スピードが速いことが確認された。このため、溶解性ガラス剤は、10分後にも測定した。溶解性ガラス1、3は、繰返し1回目で収束した。ほぼ消臭限界に達したことが確認された。また、これらのガラス剤は耐水性が低く吸湿しやすいせいか、凝集が確認された。参考値として、試料量中のAg2O、CuO換算値を示した。しかし、これはガラス全量中であり、実際は表面に析出している分が消臭効果を示す。溶解性ガラス剤は表面で硫化反応を示し(実際、反応を裏付ける変色(黄色〜褐色)が確認された)、それ以上、ガラス内部のAg、Cuは反応に寄与しないと考えられる。溶解性ガラス3は、繰返し2回目も若干の消臭効果を示したが、凝集していたため、ガスがゆっくりと内部に潜り込んで消臭された可能性がある。消臭ガラス剤は、溶解性ガラス剤と消臭機構が異なるために、溶解性ガラス4よりもCuOモル量が少ないにも関わらず持続性が高く、消臭量が多くなることが確認された。
補足:
高湿度条件で調整したため、水分の存在よって助長される消臭ガラス剤は、(他の実施例と比較して)消臭スピードが向上した(他の実施例は、いずれも湿度50%以下)。
消臭ガラス剤作製方法:
原料調合後、溶融温度1350 ℃で8時間溶融し、流し出して、下記表3のガラス組成から成るガラスを得た。溶融後の形成は、自然冷却で行ったが、水冷とすることもできる。
ガラス組成は、蛍光X線分析装置を用いた半定量測定により確認した。得られたガラスをボールミルを用いて乾式粉砕し、粒度計でD50=4.5μm以下、D98=40μm以下となるように制御した。なお、粒径(直径)100μm以上の粒子はふるいで分けて除去した。
上記表3のガラス組成からなるガラス剤(CuO含有の消臭ガラス剤と未含有ガラス剤)とMMとをテドラーバッグに封入し、経過時間に伴うバッグ内のMM濃度をガス検知管で測定した。
試験条件は、下記の通りとした。
テドラーバッグ容量 : 1L
初期ガス(MM)濃度 : 55ppm
温度 : 室温(20〜25℃)
消臭ガラス剤重量 : 0.1g
また、ブランクとして、消臭ガラス剤なしで上記同様の操作を行った。
測定結果および考察:
図6に示すように、CuOの含有量が異なる実験例1〜6の何れも、消臭効果が、約10ppm弱に収束することが確認された。これは、触媒作用によってDMDSが生成することによる、ガス検知管の誤差である(MM以外の硫黄成分があるとき、識別ができないため誤差要因となる)。
また、同粒径、同重量のとき、CuO含有量に伴って、消臭効果が上がる(具体的には、消臭スピードが上がる)ことが確認された。
これは、CuOの含有量に伴って、悪臭と接触するガラス表面のCuO含有量も増加することによる。
ただし、最も少ないCuO含有量の実験例1でも、55ppmという高濃度のMMを消臭しており、その消臭効果は十分である。
実験例1は、24時間時点で比較したときに、実験例2〜6よりも消臭スピードが劣るが、粒子径を小さくし表面積を上げることでそのスピードは容易に補える。
ガラス組成変化に伴って、耐水性が変化する。このとき、溶解性ガラス剤に近づくと消臭機構が変化する可能性があるため、代表的な溶解性ガラス剤であるイオンピュア(比較例2、3)と溶解量を比較した。比較例2、3は、代表的な溶解性ガラス剤である「イオンピュア(市販品)」である。
消臭ガラス剤作製方法:
原料調合後、溶融温度1350 ℃で8時間溶融し、流し出して、下記表4のガラス組成から成るガラスを得た。溶融後の形成は、自然冷却で行ったが、水冷とすることもできる。
ガラス組成は、蛍光X線分析装置を用いた半定量測定により確認した。得られたガラスをボールミルを用いて乾式粉砕し、粒度計でD50=4.5μm以下、D98=40μm以下となるように制御した。なお、粒径(直径)100μm以上の粒子はふるいで分けて除去した。実験例7〜10はCuO含有量(モル%)が同等となるように調整した。
試料0.1gに対し、蒸留水100mLに浸漬し、室温(20〜25℃)で24時間保持した後、その減少量を確認した。
判定方法:
テドラーバッグ1L、MM濃度55ppm、繰り返し8回後までに消臭限界を迎えたものを×、消臭限界は迎えていないが、消臭スピードの低下が確認されたものを△、
繰返し8回後も持続性が確認されたものを○、として評価した。
消臭試験時のガラス剤の比表面積、粒径は表4の通りであり、試料重量は0.1gである。
判定結果および考察:
実験例9、10も触媒作用は確認されたが、耐水性が不十分なために溶解性ガラス剤と同様のイオン溶出における硫化反応が大きく働いたと思われる。
消臭試験方法1(持続性評価):
表1のガラス組成からなる消臭ガラス剤(実施例1)とMMとをテドラーバッグに封入し、経過時間に伴うバッグ内のMM濃度をガス検知管で測定した。
試験条件は、下記の通りとした。
テドラーバッグ容量 : 1L
初期ガス(MM)濃度 : 表6の通り
温度 : 室温(20〜25℃)
消臭ガラス剤重量 : 0.1g
消臭ガラス剤粒径 : D50= 4.21μm
消臭ガラス剤比表面積 : 1.54m2/g
比較評価対象として、下記の表5に示す無機系消臭ガラス剤を用いて上記同様の消臭試験を行った。なお、これらの無機系消臭ガラス剤は、何れも持続性の高い無機系消臭ガラス剤として市販されているものである。
消臭試験方法2(水分存在条件):
表1のガラス組成からなる消臭ガラス剤(実施例1)、表5の無機系消臭ガラス剤1〜2、CuO試薬それぞれとMM、蒸留水とをテドラーバッグに封入し、経過時間に伴うバッグ内のMM濃度をガス検知管で測定した。
試験条件は、下記の通りとした。
テドラーバッグ容量 : 1L
初期ガス(MM)濃度 : 55ppm
温度 : 室温(20〜25℃)
消臭ガラス剤重量 : 0.1g
消臭ガラス剤粒径 : D50= 4.21μm
消臭ガラス剤比表面積 : 1.54m2/g
蒸留水添加量 : 500μl(試料表面全体を濡らした)
CuO : Wako試薬、粒径(記載値5μm)、比表面積0.38m2/g。
また、ブランクとして、消臭ガラス剤なしで上記同様の消臭試験を行った。
測定結果および考察:
また、図8に示すように、水分添加により、消臭傾向に変化が確認された。
無機系消臭ガラス剤1では、瞬間的な消臭効果が低下することが確認された。これは、物理吸着が高い剤のため、表面が濡れるとその瞬間的効果が弱まることに起因するものと考えられる。無機系消臭ガラス剤2は、水分存在環境では十分な消臭効果を奏することができないことが確認された。本実施例では、水分添加によって、消臭スピードが大幅に向上することが確認された。本実施例では、水分の存在によって、触媒効果を助長することやイオン溶出によって硫化反応による消臭機構が加わった可能性がある。本実施例は銅イオン溶出量がわずかなため、前者の可能性が高い。また、水分添加条件のとき、繰返し1回目にも関わらず、CuOよりも消臭スピードが速い結果であった(図4比較参照)。
なお、ブランクでは、若干の減少があるものの明らかな濃度低下は確認されなかった。この結果は、MMが水に溶けたわけではなく、各剤の消臭効果を評価できたことを示している。
消臭試験方法:
表1のガラス組成からなる消臭ガラス剤(実施例1)と悪臭とをテドラーバッグに封入し、経過時間に伴うバッグ内の悪臭濃度をガス検知管で測定した。
試験条件は、下記の通りとした。
テドラーバッグ容量 : 1L
温度 : 室温(20〜25℃)
消臭ガラス剤重量 : 0.1g
消臭ガラス剤粒径 : D50= 4.21μm
消臭ガラス剤比表面積 : 1.54m2/g
また、ブランクとして、消臭ガラス剤なしで上記同様の操作を行った。
測定結果および考察:
図9に示すように、酢酸、プロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸、イソ吉草酸、いずれの低級脂肪酸に対しても、消臭効果があることが確認された。
消臭試験方法:
表1のガラス組成からなる消臭ガラス剤(実施例1)、CuO試薬それぞれとトランス−2−ノネナールとをテドラーバッグに封入し、経過時間に伴うバッグ内の悪臭濃度を高速液体クロマトグラフで測定した。
高速液体クロマトグラフ法では、バッグ内のガスをDNPHカートリッジに捕集し、このカートリッジにアセトニトリルを通してDNPH誘導体を溶出させ、得られた溶出液を高速液体クロマトグラフで測定し、バッグ内のガス濃度を算出する。
試験条件は、下記の通りとした。
テドラーバッグ容量 : 4L
温度 : 室温(20〜25℃)
消臭ガラス剤重量 : 0.1g
消臭ガラス剤粒径 : D50= 4.21μm
消臭ガラス剤比表面積 : 1.54m2/g
CuO : Wako試薬、粒径(記載値5μm)、比表面積0.38m2/g
また、ブランクとして、消臭ガラス剤なしで上記同様の操作を行った。
上記の試験は、一般財団法人 日本食品分析センターに依頼した。
測定結果および考察:
消臭ガラス剤作製方法:
原料調合後、溶融温度1350℃で8時間溶融し、流し出して、表8のガラス組成から成るガラスを得た。溶融後は、自然冷却を行ったが、水冷とすることもできる。得られたガラスを、粉砕し、表8の粒度に調整した。
例えば、生活環境の中、トイレではメチルメルカプタンが数ppb発生すると言われている。10ppbと仮定したとき、1分で全て消臭したいとする。
上記の図6で示した通り、実験例2〜6は、24hで55ppm消臭可能である。(二次生成物のジメチルジスルフィドは無視し、メチルメルカプタンを約55ppm消臭可能と捉える)計算上(55ppm/24h/60m)、1分あたりの消臭量は38ppbである。また、実験例1は、48hで55ppm消臭可能なことから、計算上(55ppm/48h/60m)、1分あたりの消臭量は19ppbである。
図6を見て分かる通り、実際はさらに消臭スピードが速いことが予想されるため(測定のタイミングでグラフ上ゆるやかに見える)、上述の算出値よりもさらに1分あたりの消臭量が高いことが予想される。
図6の評価結果は、あくまで小容量、ガラス剤単体での効果のため、トイレ空間に対しては余裕を持ったスピードが好ましい。
24hで55ppm消臭可能であれば、消臭すべき環境濃度の10ppbよりも約4倍、48hで55ppm消臭可能であれば、約2倍のスピードである。
表8では、約4倍(-5%まで許容範囲)のものを「A判定」、約2倍(-5%まで許容範囲)のものを「B判定」とした。
測定結果および考察:
消臭ガラス剤の粒径(D50)y(μm)、CuO添加量x(モル%)として、
0.01≦x≦2.03のとき、0.15≦y≦5.08x+0.18
2.03≦x≦23のとき、0.15≦y≦10.5
の範囲において、より速やかな消臭が行われることが確認された。
なお、消臭ガラス剤の粒径(D50)y(μm)については、「粉末」状の消臭ガラス剤とするために、10.5μmを上限とした。
消臭ガラス剤作製方法:
原料調合後、溶融温度1350 ℃で8時間溶融し、流し出して、下記表9のガラス組成から成るガラスを得た。溶融後の形成は、自然冷却で行ったが、水冷とすることもできる。
ガラス組成は、蛍光X線分析装置を用いた半定量測定により確認した。得られたガラスをボールミルを用いて乾式粉砕し、表9の粒度に調整した。なお、粒径(直径)100μm以上の粒子はふるいで分けて除去した。
上記表9のガラス組成からなるガラス剤の実験例19〜29とMMとをテドラーバッグに封入し、経過時間に伴うバッグ内のMM濃度をガス検知管で測定した。
試験条件は、下記の通りとした。
テドラーバッグ容量 : 1L
初期ガス(MM)濃度 : 70ppm
温度 : 室温(18〜22℃)
消臭ガラス剤重量 : 0.1g
また、ブランクとして、消臭ガラス剤なしで上記同様の操作を行った。
測定結果および考察:
図12に示すように、CuOの含有量が同等のとき、母組成に関わらずその消臭効果は十分に発現する。また、母組成よりも若干のCuO含有量の違いが消臭スピードに影響していることがわかる。実験例19〜20は、消臭スピードがCuO含有量に依存していないが、粒度の影響が生じたものと思われる(ただし、ガス検知管のため測定誤差も十分考えられる)。
ガラス溶解量確認方法、ガラス成分溶出量確認方法:
試料0.1gに対し、蒸留水100mLに浸漬し、室温(18〜22℃)で24時間保持した後、その減少量を確認した。この結果をガラス溶解量とした。
24時間保持後、吸引濾過により蒸留水のみを採取し、250mLに希釈した。この調整液に対し、ICP発光分光分析装置(Optima2000DV)を用いて溶出した成分濃度を測定した。測定は、JIS K0116(2003)に規定された手法に基づいて実施し、検出下限値を0.01ppmで設定した。また、高濃度成分は、必要に応じてさらに希釈した。測定値を蒸留水100ml中濃度に補正し、この結果を溶出量とした。
粒径確認方法:
粒度計(MicrotracII)を用いて測定した。比表面積を実測値で確認していないものについては、粒度計結果から算出される比表面積CS(全て球状と仮定した場合の比表面積)を示した。
全結果および考察:
表9の組成範囲内では、CuO含有量が同等のとき、母組成が与える消臭効果への影響は大差ないことが判明した。しかし、その溶解量、溶出量には差が確認された。消臭剤として使用したとき、凝集や周辺材料への影響、安全性の観点から溶出、溶解が少ないに越したことはない。経験的に、本試験でのガラス溶解量が10%以下となることが望ましい。
本実施形態の消臭ガラス剤は、SiO2を50〜70モル%、R2O(R=Li、Na、K)を10〜33モル%、R´O(R´=Mg、Ca、Sr、Ba)を0〜15モル%、Al2O3を0〜6モル%、CuOを0.01〜23モル%含有する「アルカリ(R2O)−アルカリ土類(R´O)−ケイ酸ガラス(SiO2)」からなり、通常のガラス剤と同様に、溶融急冷法で製造することができる。ガラス剤の形状は、溶融急冷法でプレ成形体を得た後、粉砕を行って得た粉体とする。ここで言う粉砕とは、一般的に知られる粉砕機(例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、CFミル等)による粉砕を意味し、乾式でも湿式でも構わない。
(SiO2)
SiO2は、ガラスの構造骨格を形成する主成分となる。その含有量は、50〜70モル%、好ましくは、55〜70モル%とする。50モル%未満の場合、ガラスの化学的耐久性が不十分となり、またガラスが失透しやすくなり好ましくない。更に、50モル%未満の場合、ガラスの耐水性が不十分となり、水分存在下(大気中の水分を含む)で銅イオンが溶出しやすくなる結果、触媒作用による消臭効果よりも、イオン溶出によって起こる硫化反応による消臭効果が強くなるため好ましくない。70モル%を超える場合、融点が上昇することにより、ガラスの溶融性が困難となる他、粘度上昇も起こるため好ましくない。
R2O(R=Li、Na、K)は、ガラスの構造骨格におけるSiとOの結合を切断して非架橋酸素を形成し、その結果、ガラスの粘性を低下させ、成形性や溶解性を向上させる成分であり、B2O3同様の融剤である。その含有量は、R2O(R=Li、Na、K)の一種もしくは二種以上を、多成分との含有比も考慮しつつ、合計10〜33モル%、好ましくは12〜24モル%とする。33モル%を超える場合、ガラスの化学的耐久性が不十分となる。具体的には、ガラス剤と大気中の水分が反応してブルームと称される白化現象が引き起こされる。ブルームが発生することにより、悪臭ガスとの接触面積が減少するため望ましくない。また、溶解炉のアルミナ質が浸蝕されやすくなる。
R´O(R´=Mg、Ca、Sr、Ba)は、ガラスの化学的耐久性を向上させる成分である。その含有量は、R´O(R´=Mg、Ca、Sr、Ba)の一種もしくは二種以上を、合計0〜15モル%、好ましくは2〜10モル%とする。15モル%を超えると溶融時の粘性が高くなるとともに、ガラスが失透しやすくなるため好ましくない。なお、発明の消臭ガラス剤において必須成分ではなく、その含有量は0モル%でもよい。
CuOに関しては、基本的に上記した実施形態1と同様であるが、本実施形態では、CuO粉末の添加量x(モル%)および消臭ガラス剤の粒径(D50、yμm)を下記式の範囲に限定することにより、従来の消臭ガラス剤では考慮されていなかった、「速やかな消臭」を実現可能とした。
0.01≦x≦2.38のとき、0.17≦y≦4.27x+0.34
2.38≦x≦23のとき、0.17≦y≦10.5
Al2O3は、ガラスの化学的耐久性を向上させ、結晶構造安定性に影響を与える成分である。また、Al2O3は、ガラスの分相を抑制しガラス剤の均質性を高める働きをする。粘性を上げること、添加によってガラス中の銅イオンの酸化還元状態に影響を与える可能性があることから、その含有量は、6モル%以下、好ましくは5.5モル%以下とすることが望ましい。
実施形態1の実施例Jと同様にして、粒子径と消臭スピードの検討を行った。
Claims (8)
- SiO 2 を46〜70モル%、
B 2 O 3 とR 2 O(R=Li、Na、K)を合計で15〜50モル%、
R´O(R´=Mg、Ca、Sr、Ba)を0〜10モル%、
Al 2 O 3 を0〜6モル%、
CuOを0.01〜23モル%含有するCuO含有アルカリ-アルカリ土類-ホウケイ酸ガラスの粉末からなり、ガラス中に保持させたCuOの触媒作用により空気中の悪臭成分を分解する消臭ガラス剤であって、
CuOの含有率(xモル%)と消臭ガラス剤の粒径(D 50 )を下記の範囲(yμm)としたことを特徴とする消臭ガラス剤。
0.01≦x≦2.03のとき、0.15≦y≦5.08x+0.18
2.03≦x≦23のとき、0.15≦y≦10.5 - 前記ガラスが、
B 2 O 3 を5〜20モル%、
R 2 O(R=Li、Na、K)を10〜30モル%
含有するものであることを特徴とする請求項1記載の消臭ガラス剤。 - 前記ガラスが、
SiO 2 を51〜63モル%、
B 2 O 3 とR 2 O(R=Li、Na、K)を合計で21〜39モル%、
R´O(R´=Mg、Ca、Sr、Ba)を2〜7モル%、
Al 2 O 3 を0〜5.5モル%、
CuOを1〜13モル%
含有するものであることを特徴とする請求項1記載の消臭ガラス剤。 - 前記ガラスが、
B 2 O 3 を8〜17モル%、
R 2 O(R=Li、Na、K)を13〜22モル%、
含有するものであることを特徴とする請求項3記載の消臭ガラス剤。 - 前記ガラスが、
SiO 2 を53〜62モル%、
B 2 O 3 を10〜17モル%、
Na 2 Oを13〜19モル%、
CaOを3〜6モル%、
Al 2 O 3 を0〜4.5モル%、
CuOを4〜13モル%
含有するものであることを特徴とする請求項1記載の消臭ガラス剤。 - SiO 2 を50〜70モル%、
R 2 O(R=Li、Na、K)を10〜33モル%
R´O(R´=Mg、Ca、Sr、Ba)を0〜15モル%、
Al 2 O 3 を0〜6モル%、
CuOを0.01〜23モル%
含有するCuO含有アルカリ-アルカリ土類-ケイ酸塩ガラスの粉末からなり、ガラス中に保持させたCuOの触媒作用により空気中の悪臭成分を分解する消臭ガラス剤であって、
CuOの含有率(xモル%)と消臭ガラス剤の粒径(D 50 )を下記の範囲(yμm)としたことを特徴とする消臭ガラス剤。
0.01≦x≦2.38のとき、0.17≦y≦4.27x+0.34
2.38≦x≦23のとき、0.17≦y≦10.5 - 前記ガラスが、
SiO 2 を55〜70モル%、
R 2 O(R=Li、Na、K)を合計で12〜24モル%、
R´O(R´=Mg、Ca、Sr、Ba)を2〜10モル%、
Al 2 O 3 を0〜5.5モル%、
CuOを1〜20モル%
含有するものであることを特徴とする請求項6記載の消臭ガラス剤。 - 前記ガラスが、
SiO 2 を55〜65モル%、
Na 2 Oを12〜20モル%、
CaOを3〜7モル%、
Al 2 O 3 を0〜5モル%、
CuOを4〜13モル%
含有するものであることを特徴とする請求項6記載の消臭ガラス剤。
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