[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。本願の光モジュールは、光を形成する光形成部と、光形成部からの光を透過する出射窓を有し、光形成部を取り囲むように配置される保護部材と、を備える。光形成部は、発振波長が500nm以上550nm以下の緑色半導体レーザ素子を含む。保護部材により閉じられた空間内の水分濃度は2.4体積%以下である。上記緑色半導体レーザ素子は、複数の半導体層が積層され、半導体層の積層方向に交差する方向に延在するリッジ部を有する半導体積層体と、リッジ部の頂面上に接触して配置されるコンタクト電極と、リッジ部の頂面上においてコンタクト電極を覆い、リッジ部の側面に対応する領域にまで延在するパッド電極と、を含む。パッド電極の、リッジ部の側面に対応する領域には、パッド電極が部分的に途切れた領域である隙間部が形成されている。
本発明者は、発振波長が500nm以上550nm以下である緑色半導体レーザ素子を含む光モジュールの安定した駆動を達成する方策について検討した。その結果、緑色半導体レーザ素子においては、より発振波長が短い青色半導体レーザ素子において発生する共振器端面の黒色化等による劣化ではなく、コンタクト電極を構成する原子のリッジ部への拡散によってレーザ素子が劣化し、光モジュールの安定した駆動が阻害されることを見出した。
より具体的には、緑色半導体レーザ素子においては、コンタクト電極を構成する原子がリッジ部へと拡散することにより、コンタクト電極と半導体積層体との接触状態がオーミック接触からショットキー接触へと変化する。そのため、コンタクト電極と半導体積層体との接触抵抗が増大し、動作電圧が上昇する。その結果、光モジュールの安定した駆動が阻害される。コンタクト電極を構成する原子のリッジ部への拡散は、緑色半導体レーザ素子への水分の侵入に起因するものと考えられる。
保護部材により閉じられた空間内には、封止時に当該空間内に存在するガスに含まれる水分のほか、当該空間内に配置される部品および部品を固定する接着剤等に含まれる水分が存在する。一方、リッジ部を有する半導体積層体上に、リッジ部の頂面上においてコンタクト電極を覆い、リッジ部の側面に対応する領域にまで延在するパッド電極が配置される構造の緑色半導体レーザ素子においては、パッド電極の、リッジ部の側面に対応する領域に、パッド電極が部分的に途切れた領域である隙間部が形成される場合がある。この隙間部は、リッジ部の頂面に対して側面が大きく傾斜していることに起因して発生する。そのため、パッド電極を形成する際のパッド電極を構成する原子の供給の向きに対するリッジ部の側面の角度を変化させる等の対策により、上記隙間部の形成を回避することができる。しかし、このような製造手順を採用すると、製造コストが上昇するという問題が生じる。
本発明者の検討によれば、上記隙間部が存在する場合でも、保護部材により閉じられた空間内の水分濃度を低減することにより、より具体的には水分濃度を2.4体積%以下とすることにより、上記隙間部が存在する場合であっても、コンタクト電極を構成する原子のリッジ部への拡散を抑制し、上記動作電圧の上昇を許容可能な範囲に低減することができる。本願の光モジュールにおいては、パッド電極のリッジ部の側面に対応する領域に上記隙間部が形成されるとともに、保護部材により閉じられた空間内の水分濃度が2.4体積%以下とされている。その結果、製造コストを低減しつつ、上記緑色半導体レーザ素子の劣化を抑制することができる。このように、本願の光モジュールによれば、製造コストを抑制しつつ安定した駆動を達成することが可能な緑色半導体レーザ素子を含む光モジュールを提供することができる。
保護部材により閉じられた空間内の水分濃度は、たとえばガス分析装置として沖エンジニアリング社製半導体内臓ガス分析装置を用い、検出器としてファイファーバキューム社製四重極質量分析計(QMI422/QMA−125)を用いて測定することができる。保護部材により閉じられた空間内の水分濃度は、0.1体積%以上であってもよく、0.3体積%以上であってもよい。
上記光モジュールにおいて、緑色半導体レーザ素子は、リッジ部の側面に対応する領域において、半導体積層体とパッド電極との間に、半導体積層体およびパッド電極に接触するように配置され、絶縁体からなる絶縁膜をさらに含んでいてもよい。このようにすることにより、リッジ部の側面とパッド電極との間を絶縁することができる。
上記光モジュールにおいて、光形成部は、樹脂硬化型接着剤により固定される部品を含んでいてもよい。水分の発生源となる樹脂硬化型接着剤が部品の固定に使用される光モジュールに、本願の光モジュールは好適である。
上記光モジュールにおいて、光形成部は、銀ペースト接着剤により固定される部品を含んでいてもよい。水分の発生源となる銀ペースト接着剤が部品の固定に使用される光モジュールに、本願の光モジュールは好適である。
上記光モジュールにおいて、光形成部は、複数の半導体レーザ素子を含んでいてもよい。このようにすることにより、複数のレーザ素子を単一のパッケージ内に収納した光モジュールを得ることができる。
上記光モジュールにおいて、光形成部は、複数の半導体レーザ素子のそれぞれに対応する複数のレンズと、複数の半導体レーザ素子からの光を合波するフィルタと、をさらに含んでいてもよい。このように、単一のパッケージ内に複数のレーザ素子を配置し、これらからの光を当該パッケージ内において合波可能とすることで、複数のパッケージからの光を合波する場合に比べて、光モジュールが用いられる装置のコンパクト化を達成することができる。なお、フィルタとしては、たとえば波長選択性フィルタ、偏波合成フィルタなどを採用することができる。
上記光モジュールにおいて、リッジ部の延在方向に沿った長さが30nm以上である上記隙間部が形成されていてもよい。隙間部の長さが30nm以上にわたる場合でも、本願の光モジュールによれば安定した駆動を達成することができる。上記光モジュールにおいて、リッジ部の延在方向に沿った長さが100nm以上である上記隙間部が形成されていてもよい。
上記光モジュールにおいて、コンタクト電極はパラジウム(Pd)からなっていてもよい。パラジウムは、本願の光モジュールにおいて、コンタクト電極を構成する材料として好適である。
上記光モジュールにおいて、保護部材により閉じられた空間の体積は200mm3以上であってもよい。このようにすることにより、多数の部品がパッケージ内に搭載された光モジュールを得ることが容易となる。
上記光モジュールにおいて、光形成部に含まれる半導体レーザ素子に対する投入電力の総和が0.95W以上であってもよい。投入電力が大きく、パッケージ内における水分の放出量が大きくなる光モジュールに、本願の光モジュールは好適である。光形成部に含まれる半導体レーザ素子に対する投入電力の総和は、1.45W以上であってもよい。
上記光モジュールにおいて、保護部材の内壁面には、表面粗さがRaで0.5μm以上である領域が形成されていてもよい。表面粗さが大きく、水分が付着しやすい保護部材を含む光モジュールに、本願の光モジュールは好適である。
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本発明にかかる光モジュールの一実施の形態を、図1〜図5を参照しつつ説明する。図2は、図1のキャップ40を取り外した状態に対応する図である。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
図1および図2を参照して、本実施の形態における光モジュール1は、平板状の形状を有するステム10と、ステム10の一方の主面10A上に配置され、光を形成する光形成部20と、光形成部20を覆うようにステム10の一方の主面10A上に接触して配置されるキャップ40と、ステム10の他方の主面10B側から一方の主面10A側まで貫通し、一方の主面10A側および他方の主面10B側の両側に突出する複数のリードピン51とを備えている。
ステム10とキャップ40とは、たとえば溶接されることにより気密状態とされている。すなわち、光形成部20は、ステム10とキャップ40とによりハーメチックシールされている。ステム10とキャップ40とにより取り囲まれる空間には、たとえば乾燥空気などの水分が低減(除去)された気体が封入されている。ステム10およびキャップ40は、保護部材を構成する。保護部材であるステム10とキャップ40とにより閉じられた空間の水分濃度は2.4体積%以下である。ステム10とキャップ40とにより閉じられた空間の体積は、たとえば200mm3以上である。保護部材であるステム10およびキャップ40の内壁面(ハーメチックシールされた空間を取り囲む壁面)には、表面粗さがRaで0.5μm以上である領域が形成されていてもよい。たとえば、キャップ40の内壁面の表面粗さは、Raで0.5μm以上である。
キャップ40には、光形成部20からの光を透過する出射窓41が形成されている。出射窓は一対の主面が互いに平行な平板状の形状を有していてもよいし、光形成部20からの光を集光または拡散させるレンズ形状を有していてもよい。
図2および図3を参照して、光形成部20は、板状の形状を有するベース部材であるベース板60を含む。ベース板60は、平面的に見て長方形形状を有する一方の主面60Aを有している。ベース板60は、ベース領域61と、チップ搭載領域62とを含んでいる。チップ搭載領域62は、一方の主面60Aの一の短辺と、当該短辺に接続された一の長辺を含む領域に形成されている。チップ搭載領域62の厚みは、ベース領域61に比べて大きくなっている。その結果、ベース領域61に比べて、チップ搭載領域62の高さが高くなっている。チップ搭載領域62において上記一の短辺の上記一の長辺に接続される側とは反対側の領域に、隣接する領域に比べて厚みの大きい(高さが高い)領域である第1チップ搭載領域63が形成されている。チップ搭載領域62において上記一の長辺の上記一の短辺に接続される側とは反対側の領域に、隣接する領域に比べて厚みの大きい(高さが高い)領域である第2チップ搭載領域64が形成されている。
第1チップ搭載領域63上には、平板状の第1サブマウント71が配置されている。第1サブマウント71は、たとえば銀ペースト接着剤により接着されて第1チップ搭載領域63に対して固定されている。そして、第1サブマウント71上に、第1半導体レーザ素子としての赤色レーザダイオード81が配置されている。
一方、第2チップ搭載領域64上には、平板状の第2サブマウント72および第3サブマウント73が配置されている。第2サブマウント72から見て、上記一の長辺と上記一の短辺との接続部とは反対側に、第3サブマウント73が配置される。第2サブマウント72および第3サブマウント73は、たとえば銀ペースト接着剤により接着されて第2チップ搭載領域64に対して固定されている。そして、第2サブマウント72上には、第2半導体レーザ素子としての緑色レーザダイオード82が配置されている。また、第3サブマウント73上には、第3半導体レーザ素子としての青色レーザダイオード83が配置されている。
赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83の光軸の高さ(ベース板60の一方の主面60Aを基準面とした場合の基準面と光軸との距離;Z軸方向における基準面との距離)は、第1サブマウント71、第2サブマウント72および第3サブマウント73により調整されて一致している。赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83に対する投入電力の総和は、たとえば0.95W以上であってもよく、1.45W以上であってもよい。
ベース板60のベース領域61上には、凸部である第1レンズ保持部77、第2レンズ保持部78および第3レンズ保持部79が形成されている。そして、第1レンズ保持部77、第2レンズ保持部78および第3レンズ保持部79上には、それぞれ第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93が配置されている。第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93は、それぞれたとえば樹脂硬化型接着剤により接着されて第1レンズ保持部77、第2レンズ保持部78および第3レンズ保持部79に対して固定されている。
第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93は、表面がレンズ面となっているレンズ部91A,92A,93Aを有している。第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93は、レンズ部91A,92A,93Aとレンズ部91A,92A,93A以外の領域とが一体成型されている。第1レンズ保持部77、第2レンズ保持部78および第3レンズ保持部79により、第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93のレンズ部91A,92A,93Aの中心軸、すなわちレンズ部91A,92A,93Aの光軸は、それぞれ赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83の光軸に一致するように調整されている。第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93は、それぞれ赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83から出射される光のスポットサイズを変換する。第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93により、赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83から出射される光のスポットサイズが一致するようにスポットサイズが変換される。
ベース板60のベース領域61上には、第1フィルタ97と第2フィルタ98とが配置される。第1フィルタ97および第2フィルタ98は、たとえば樹脂硬化型接着剤により接着されてベース領域61に対して固定されている。第1フィルタ97および第2フィルタ98は、それぞれ互いに平行な主面を有する平板状の形状を有している。第1フィルタ97および第2フィルタ98は、たとえば波長選択性フィルタである。第1フィルタ97および第2フィルタ98は、誘電体多層膜フィルタである。より具体的には、第1フィルタ97は、赤色の光を透過し、緑色の光を反射する。第2フィルタ98は、赤色の光および緑色の光を透過し、青色の光を反射する。このように、第1フィルタ97および第2フィルタ98は、特定の波長の光を選択的に透過および反射する。その結果、第1フィルタ97および第2フィルタ98は、赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83から出射された光を合波する。第1フィルタ97および第2フィルタ98は、それぞれベース領域61上に形成された凸部である第1突出領域88および第2突出領域89上に配置される。
図3を参照して、赤色レーザダイオード81、第1レンズ91のレンズ部91A、第1フィルタ97および第2フィルタ98は、赤色レーザダイオード81の光の出射方向に沿う一直線上に並んで(X軸方向に並んで)配置されている。緑色レーザダイオード82、第2レンズ92のレンズ部92Aおよび第1フィルタ97は、緑色レーザダイオード82の光の出射方向に沿う一直線上に並んで(Y軸方向に並んで)配置されている。青色レーザダイオード83、第3レンズ93のレンズ部93Aおよび第2フィルタ98は、青色レーザダイオード83の光の出射方向に沿う一直線上に並んで(Y軸方向に並んで)配置されている。すなわち、赤色レーザダイオード81の出射方向と、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83の出射方向とは交差する。より具体的には、赤色レーザダイオード81の出射方向と、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83の出射方向とは直交する。緑色レーザダイオード82の出射方向は、青色レーザダイオード83の出射方向に沿った方向である。より具体的には、緑色レーザダイオード82の出射方向と青色レーザダイオード83の出射方向とは平行である。第1フィルタ97および第2フィルタ98の主面は、赤色レーザダイオード81の光の出射方向に対して傾斜している。より具体的には、第1フィルタ97および第2フィルタ98の主面は、赤色レーザダイオード81の光の出射方向(X軸方向)に対して45°傾斜している。
図2を参照して、光形成部20は、電子冷却モジュール30を含む。電子冷却モジュール30は、ステム10とベース板60との間に配置される。電子冷却モジュール30は、吸熱板31と、放熱板32と、電極を挟んで吸熱板31と放熱板32との間に並べて配置される半導体柱33とを含む。吸熱板31および放熱板32は、たとえばアルミナからなっている。吸熱板31がベース板60の他方の主面60Bに接触して配置される。放熱板32は、ステム10の一方の主面10Aに接触して配置される。本実施の形態において、電子冷却モジュール30はペルチェモジュール(ペルチェ素子)である。そして、電子冷却モジュール30に電流を流すことにより、吸熱板31に接触するベース板60の熱がステム10へと移動し、ベース板60が冷却される。その結果、光形成部20を構成する部品の温度変化が抑制される。
次に、本実施の形態における光モジュール1の動作について説明する。図3を参照して、赤色レーザダイオード81から出射された赤色の光は、光路L1に沿って進行して第1レンズ91のレンズ部91Aに入射し、光のスポットサイズが変換される。具体的には、たとえば赤色レーザダイオード81から出射された赤色の光がコリメート光に変換される。第1レンズ91においてスポットサイズが変換された赤色の光は、光路L1に沿って進行し、第1フィルタ97に入射する。第1フィルタ97は赤色の光を透過するため、赤色レーザダイオード81から出射された光は光路L2に沿ってさらに進行し、第2フィルタ98に入射する。そして、第2フィルタ98は赤色の光を透過するため、赤色レーザダイオード81から出射された光は光路L3に沿ってさらに進行し、キャップ40の出射窓41を通って光モジュール1の外部へと出射する。
緑色レーザダイオード82から出射された緑色の光は、光路L4に沿って進行して第2レンズ92のレンズ部92Aに入射し、光のスポットサイズが変換される。具体的には、たとえば緑色レーザダイオード82から出射された緑色の光がコリメート光に変換される。第2レンズ92においてスポットサイズが変換された緑色の光は、光路L4に沿って進行し、第1フィルタ97に入射する。第1フィルタ97は緑色の光を反射するため、緑色レーザダイオード82から出射された光は光路L2に合流する。その結果、緑色の光は赤色の光と合波され、光路L2に沿って進行し、第2フィルタ98に入射する。そして、第2フィルタ98は緑色の光を透過するため、緑色レーザダイオード82から出射された光は光路L3に沿ってさらに進行し、キャップ40の出射窓41を通って光モジュール1の外部へと出射する。
青色レーザダイオード83から出射された青色の光は、光路L5に沿って進行して第3レンズ93のレンズ部93Aに入射し、光のスポットサイズが変換される。具体的には、たとえば青色レーザダイオード83から出射された青色の光がコリメート光に変換される。第3レンズ93においてスポットサイズが変換された青色の光は、光路L5に沿って進行し、第2フィルタ98に入射する。第2フィルタ98は青色の光を反射するため、青色レーザダイオード83から出射された光は光路L3に合流する。その結果、青色の光は赤色の光および緑色の光と合波され、光路L3に沿って進行し、キャップ40の出射窓41を通って光モジュール1の外部へと出射する。
次に、図4および図5を参照して、光形成部20に含まれる緑色レーザダイオード82について説明する。図4には、図5の線分IV−IVに沿う断面が含まれる。また、図5は、図4の線分V−Vに沿う断面を矢印の向きに見た状態に対応する概略断面図である。
図4および図5を参照して、本実施の形態における緑色レーザダイオード82は、基板102と、エピ層103と、絶縁膜171と、p側コンタクト電極181と、p側パッド電極182と、n側電極183と、前側誘電体多層膜160Aと、後側誘電体多層膜160Bと、を備えている。基板102は、六方晶系III族窒化物半導体からなっている。基板102を構成するIII族窒化物半導体としては、たとえば導電型がn型であるGaN(窒化ガリウム)を採用することができる。基板102は、たとえば基板102を構成するGaNの半極性面である(20−21)面に対応する第1の主面102Aを有している。第1の主面102Aは、GaNの(0001)面(c面)に対応するものであってもよい。基板102は、第1の主面102Aとは反対側の主面である第2の主面102Bを有している。
エピ層103は、基板102の第1の主面102A上に接触するように配置されている。エピ層103は、基板102の第1の主面102A上にエピタキシャル成長により形成された層である。エピ層103は、六方晶系III族窒化物半導体からなっている。エピ層103は、バッファ層121と、n側クラッド層122と、第1n側ガイド層123と、第2n側ガイド層124と、活性層131と、第1p側ガイド層141と、電子ブロック層142と、第2p側ガイド層143と、p側クラッド層144と、コンタクト層145と、を含んでいる。
バッファ層121は、基板102の第1の主面102A上に接触するように配置されている。バッファ層121は、III族窒化物半導体からなっている。バッファ層121を構成するIII族窒化物半導体としては、たとえば導電型がn型であるGaNを採用することができる。バッファ層121は、基板102の第1の主面102A上にエピタキシャル成長により形成された層である。
n側クラッド層122は、バッファ層121の基板102とは反対側の主面121A上に接触するように配置されている。n側クラッド層122は、III族窒化物半導体からなっている。n側クラッド層122を構成するIII族窒化物半導体としては、たとえば導電型がn型であるInAlGaN(窒化インジウムアルミニウムガリウム)を採用することができる。n側クラッド層122は、バッファ層121の主面121A上にエピタキシャル成長により形成された層である。
第1n側ガイド層123は、n側クラッド層122のバッファ層121とは反対側の主面122A上に接触するように配置されている。第1n側ガイド層123は、III族窒化物半導体からなっている。第1n側ガイド層123は、たとえば導電型がn型であるGaNからなっている。第1n側ガイド層123は、n側クラッド層122の主面122A上にエピタキシャル成長により形成された層である。
第2n側ガイド層124は、第1n側ガイド層123のn側クラッド層122とは反対側の主面123A上に接触するように配置されている。第2n側ガイド層124は、III族窒化物半導体からなっている。第2n側ガイド層124は、たとえばアンドープのInGaN(窒化インジウムガリウム)からなっている。第2n側ガイド層124は、第1n側ガイド層123の主面123A上にエピタキシャル成長により形成された層である。
活性層131は、第2n側ガイド層124の第1n側ガイド層123とは反対側の主面124A上に接触するように配置されている。活性層131は、III族窒化物半導体からなっている。活性層131は、たとえばInGaNからなる井戸層とGaNからなる障壁層とが交互に複数周期積層された構造を有する。活性層131は、第2n側ガイド層124の主面124A上にエピタキシャル成長により形成された層である。活性層131は、その内部において電子と正孔とが再結合して光を発生するMQW(Multi Quantum Well)を構成する。
第1p側ガイド層141は、活性層131の第2n側ガイド層124とは反対側の主面131A上に接触するように配置されている。第1p側ガイド層141は、III族窒化物半導体からなっている。第1p側ガイド層141を構成するIII族窒化物半導体としては、たとえばアンドープのInGaNを採用することができる。第1p側ガイド層141は、活性層131の主面131A上にエピタキシャル成長により形成された層である。
電子ブロック層142は、第1p側ガイド層141の活性層131とは反対側の主面141A上に接触するように配置されている。電子ブロック層142は、III族窒化物半導体からなっている。電子ブロック層142を構成するIII族窒化物半導体としては、たとえば導電型がp型であるAlGaNなどを採用することができる。電子ブロック層142は、第1p側ガイド層141の主面141A上にエピタキシャル成長により形成された層である。
第2p側ガイド層143は、電子ブロック層142の第1p側ガイド層141とは反対側の主面142A上に接触するように配置されている。第2p側ガイド層143は、III族窒化物半導体からなっている。第2p側ガイド層143を構成するIII族窒化物半導体としては、たとえば導電型がp型であるGaNを採用することができる。第2p側ガイド層143は、電子ブロック層142の主面142A上にエピタキシャル成長により形成された層である。
p側クラッド層144は、第2p側ガイド層143の電子ブロック層142とは反対側の主面143A上に接触するように配置されている。p側クラッド層144は、III族窒化物半導体からなっている。p側クラッド層144を構成するIII族窒化物半導体としては、たとえば導電型がp型であるInAlGaN、導電型がp型であるAlGaNなどを採用することができる。p側クラッド層144は、第2p側ガイド層143の主面143A上にエピタキシャル成長により形成された層である。
コンタクト層145は、p側クラッド層144の第2p側ガイド層143とは反対側の主面144A上に接触するように配置されている。コンタクト層145は、III族窒化物半導体からなっている。コンタクト層145を構成するIII族窒化物半導体としては、たとえば導電型がp型であるGaNなどを採用することができる。コンタクト層145は、p側クラッド層144の主面144A上にエピタキシャル成長により形成された層である。
バッファ層121の主面121A、n側クラッド層122の主面122A、第1n側ガイド層123の主面123A、第2n側ガイド層124の主面124A、活性層131の主面131A、第1p側ガイド層141の主面141A、電子ブロック層142の主面142A、第2p側ガイド層143の主面143A、p側クラッド層144の主面144Aおよびコンタクト層145の主面145Aは、基板102の第1の主面102Aと同じ面方位を有している。基板102およびエピ層103は、本実施の形態における半導体積層体を構成する。
図4を参照して、エピ層103には、半導体層(バッファ層121、n側クラッド層122、第1n側ガイド層123、第2n側ガイド層124、活性層131、第1p側ガイド層141、電子ブロック層142、第2p側ガイド層143、p側クラッド層144およびコンタクト層145)の積層方向に交差する方向(積層方向に垂直な方向)に沿うように延在する溝部151が形成されている。溝部151は、コンタクト層145の主面145Aにおいて開口するとともに、コンタクト層145、p側クラッド層144および第2p側ガイド層143を貫通し、電子ブロック層142内に底壁を有している。つまり、溝部151の側壁には、コンタクト層145、p側クラッド層144および第2p側ガイド層143が露出している。溝部151は、等間隔に複数形成されている。その結果、隣り合う溝部151に挟まれた領域は、リッジ部152を構成する。リッジ部152には、コンタクト層145、p側クラッド層144および第2p側ガイド層143が含まれる。リッジ部152は、エピ層103を構成する半導体層の積層方向に交差する方向(垂直な方向)に延在する。
エピ層103上に接触するように、絶縁膜171が形成されている。絶縁膜171は、たとえば二酸化珪素(SiO2)などの絶縁体からなっている。絶縁膜171は、溝部151の底壁および側壁を覆う。すなわち、絶縁膜171は、リッジ部152の側面152Aを覆う。絶縁膜171には、コンタクト層145の主面145Aに対応する領域に開口部が形成されている。つまり、当該開口部から、リッジ部152の頂面であるコンタクト層145の主面145Aが露出している。絶縁膜171は、リッジ部152の側面152Aに対応する領域において、エピ層103とp側パッド電極182との間に、エピ層103およびp側パッド電極182に接触するように配置されている。
コンタクト層145の主面145A上に接触するようにp側コンタクト電極181が形成されている。p側コンタクト電極181は、リッジ部152の頂面152B上に接触して配置される。p側コンタクト電極181は、Pd、Ni(ニッケル)など、コンタクト層145とオーミックコンタクトを形成可能な金属などの導電体からなっている。p側コンタクト電極181とコンタクト層145とは、オーミックコンタクトを形成している。
溝部151の底壁上、溝部151の側壁上およびコンタクト層145の主面145A上に対応する領域を覆うようにp側パッド電極182が配置されている。すなわち、p側パッド電極182は、リッジ部152の頂面152B上においてp側コンタクト電極181を覆い、リッジ部152の側面152Aに対応する領域上に形成された絶縁膜171上にまで延在する。p側パッド電極182は、たとえばAu(金)からなっている。また、p側コンタクト電極181とp側パッド電極182との間には、Ti(チタン)からなる層が形成されていてもよい。すなわち、p側電極には、たとえばPd/Ti/Auが採用される。
基板102の第2の主面102B上に接触するように、n側電極183が配置されている。n側電極183には、たとえばAl/Ti/Au(アルミニウム/チタン/金)を採用することができる。n側電極183と基板102とは、オーミックコンタクトを形成している。
図5を参照して、リッジ部152の延在方向における一対の端部のそれぞれには、活性層131の共振面131B,131Cを含むように端面103A,103Bが形成されている。リッジ部152の延在方向におけるエピ層103の一方の端面である前側端面103A上に接触するように前側誘電体多層膜160Aが配置され、他方の端面である後側端面103Bに接触するように後側誘電体多層膜160Bが配置されている。前側誘電体多層膜160Aおよび後側誘電体多層膜160Bは、それぞれエピ層103の前側端面103Aおよび後側端面103Bを全域にわたって覆うように形成されている。
そして、図4を参照して、p側パッド電極182の、リッジ部152の側面152Aに対応する領域には、p側パッド電極182が部分的に途切れた領域である隙間部199が形成されている。隙間部199は、リッジ部152の延在方向に沿って延在する。リッジ部152の延在方向に沿った隙間部199の長さLは、たとえば30nm以上であってもよく、100nm以上であってもよい。隙間部199は、p側パッド電極182を貫通し、絶縁膜171に到達するか、p側コンタクト電極181にまで到達するように形成されている。
次に、本実施の形態における緑色レーザダイオード82の動作について説明する。図4および図5参照して、p側パッド電極182とn側電極183との間に電圧が印加されると、p側パッド電極182とn側電極183との間に電流が流れる。このとき、活性層131には、p側コンタクト電極181側から正孔が、n側電極183側から電子が注入される。そして、活性層131内において、正孔と電子とが再結合し、光が発生する。
発生した光は、厚み方向において活性層131内に閉じ込められる。一方、図5を参照して、前側誘電体多層膜160Aおよび後側誘電体多層膜160Bが形成されることにより、活性層131の前側共振面131Bにおける上記光の反射率は後側共振面131Cにおける反射率に比べて小さく調整される。たとえば、上記光の前側共振面131Bにおける反射率は40%程度、後側共振面131Cにおける反射率は95%程度と設定される。厚み方向において活性層131内に閉じ込められた光は、前側共振面131Bと後側共振面131Cとの間で反射を繰り返す。その結果、位相の揃った光が増幅され、レーザ発振が達成される。そして、前側共振面31Bから、レーザ光が放出される。緑色レーザダイオード82の発振波長は500nm以上550nm以下である。すなわち、緑色レーザダイオード82は、緑色のレーザ光を出射する。
ここで、本実施の形態の光モジュール1においては、光モジュール1に含まれる緑色レーザダイオード82の、p側パッド電極182のリッジ部152の側面152Aに対応する領域に、隙間部199が形成されている。また、光モジュール1の保護部材であるステム10とキャップ40とにより閉じられた空間内の水分濃度は2.4体積%以下とされている。光モジュール1においては、隙間部199が存在するものの、ステム10とキャップ40とにより閉じられた空間内の水分濃度が2.4体積%以下とされることにより、p側コンタクト電極181を構成する原子のリッジ部152への拡散が抑制され、動作電圧の上昇が許容可能な範囲に低減される。その結果、製造コストが低減されつつ、緑色レーザダイオード82の劣化が抑制されている。このように、光モジュール1は、製造コストが抑制されつつ安定した駆動が達成される緑色半導体レーザ素子を含む光モジュールとなっている。
次に、光モジュール1および緑色レーザダイオード82の製造方法の一例について説明する。本実施の形態における光モジュール1および緑色レーザダイオード82の製造方法では、まず基板を準備する工程が実施される。この工程では、図4および図5を参照して、III族窒化物半導体からなり、第1の主面102Aを有する基板102が準備される。具体的には、たとえばc軸方向の結晶成長により得られたGaNからなるインゴットをc面に対して所望の角度をなす平面でスライスし、洗浄、乾燥などの手順を経て、基板102が準備される。
次に、エピタキシャル成長によりエピ層を形成する工程が実施される。この工程では、先の工程において準備された基板102上にエピタキシャル成長によりエピ層103が形成される。具体的には、図4および図5を参照して、基板102の第1の主面102A上に、バッファ層121、n側クラッド層122、第1n側ガイド層123、第2n側ガイド層124、活性層131、第1p側ガイド層141、電子ブロック層142、第2p側ガイド層143、p側クラッド層144およびコンタクト層145がエピタキシャル成長により順次形成される。このエピ層103の形成は、基板102を成長炉内に設置し、成長炉内に適切な原料ガスを供給しつつ、成長炉内の温度および圧力を適切に調整することにより実施することができる。このとき、Ga(ガリウム)の原料ガスとしては、たとえばTMG(Trimethyl Gallium)、Al(アルミニウム)の原料ガスとしては、たとえばTMA(Trimethyl Aluminum)、In(インジウム)の原料ガスとしては、たとえばTMI(Trimethyl Indium)、N(窒素)の原料ガスとしては、たとえばアンモニアを採用することができる。これらの原料ガスの流量などを適切に調整することにより、所望の成分組成を有するバッファ層121、n側クラッド層122、第1n側ガイド層123、第2n側ガイド層124、活性層131、第1p側ガイド層141、電子ブロック層142、第2p側ガイド層143、p側クラッド層144およびコンタクト層145を成長させることができる。
次に、リッジ部を形成するとともに、絶縁膜およびコンタクト電極を形成する工程が実施される。この工程では、図4および図5を参照して、先の工程において得られたエピ層103にリッジ部152が形成されるとともに、絶縁膜171、p側コンタクト電極181およびn側コンタクト電極(n側電極183において基板102に接触する部分)が形成される。リッジ部152の形成は、たとえばドライエッチングにより溝部151を形成することにより実施することができる。ドライエッチングとしては、たとえばICP−RIE(Inductive Coupled Plasm − Reactive Ion Etching)を採用することができる。絶縁膜171、p側コンタクト電極181およびn側コンタクト電極の形成は、たとえば蒸着法により実施することができる。絶縁膜171としては、たとえば二酸化珪素からなる膜を形成することができる。p側コンタクト電極181としては、たとえばPdからなる膜を形成することができる。n側コンタクト電極としては、たとえばNiからなる膜を形成することができる。
次に、パッド電極を形成する工程が実施される。この工程では、図4および図5を参照して、p側パッド電極182およびn側パッド電極(n側電極183において基板102とは反対側の表面を含む領域)が形成される。具体的には、たとえばp側コンタクト電極181およびn側コンタクト電極上にTiからなる膜が形成された後、Auからなる膜が形成される。パッド電極の形成は、たとえば蒸着法により実施することができる。
ここで、p側パッド電極182は、リッジ部152の頂面であるコンタクト層145の主面145Aに対応する領域を覆い、リッジ部の側面152Aに対応する領域にまで延在する。方向性を持ってp側パッド電極182を構成する材料、たとえばAuを供給してp側パッド電極182を形成する場合、p側コンタクト電極181の存在するコンタクト層145の主面145Aに対して直交する方向にAuを供給することが適切である。この場合、コンタクト層145の主面145Aに対して交差する面であるリッジ部152の側面152Aに対応する領域には、Auが供給されにくくなる。その結果、リッジ部152の側面152Aに対応する領域に、p側パッド電極182が部分的に途切れた領域である隙間部199が形成される。
次に、共振器の端面が形成される工程が実施される。この工程では、リッジ部152の延在方向における一対の端部のそれぞれに、活性層131の共振面131B,131Cを含むように前側端面103Aおよび後側端面103Bが形成される。前側端面103Aおよび後側端面103Bは、たとえば基板102上にエピ層103等が形成された構造体を機械的に破断させることにより形成することができる。
次に、誘電体多層膜を形成する工程が実施される。この工程では、上記工程において形成された前側端面103Aおよび後側端面103B上に、それぞれ前側誘電体多層膜160Aおよび後側誘電体多層膜160Bが形成される。前側誘電体多層膜160Aおよび後側誘電体多層膜160Bは、たとえばECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタにより形成することができる。その後、チップに切断されて緑色レーザダイオード82が完成する。
次に、光モジュールを組み立てる工程が実施される。この工程では、図1〜図3を参照して、上述のように製造された緑色レーザダイオード82を含む部品が組み合わされて、光モジュール1が組み立てられる。第1サブマウント71、第2サブマウント72および第3サブマウント73は、たとえば銀ペースト接着剤により固定される。光学部品である第1レンズ91、第2レンズ92、第3レンズ93、第1フィルタ97および第2フィルタ98は、たとえば樹脂硬化型接着剤により固定される。キャップ40は、ステム10に対して、たとえば溶接される。これにより、ステム10とキャップ40とは気密状態とされている。このとき、ステム10とキャップ40とにより閉じられる空間には、乾燥空気などの水分が低減(除去)された気体が封入される。これにより、当該空間内の水分濃度(封入される気体の水分濃度ではなく、空間内に存在する接着剤等から発生する水分を含む水分濃度)は2.4体積%以下とされる。
上記製造方法によれば、光モジュール1に含まれる緑色レーザダイオード82の、p側パッド電極182のリッジ部152の側面152Aに対応する領域における隙間部199の形成を許容することにより、隙間部199が形成されないように複数回の蒸着やp側パッド電極182を構成する材料の供給方向を変化させた蒸着を実施する場合に比べて、製造コストを抑制することができる。また、光モジュール1の保護部材であるステム10とキャップ40とにより閉じられた空間内の水分濃度は2.4体積%以下とされる。これにより、p側コンタクト電極181を構成する原子のリッジ部152への拡散が抑制され、動作電圧の上昇が許容可能な範囲に低減される。その結果、製造コストが低減されつつ、緑色レーザダイオード82の劣化が抑制される。このように、上記製造方法により、製造コストを抑制しつつ、安定した駆動が達成される緑色レーザダイオード82を含む光モジュール1を製造することができる。
上記実施の形態の緑色レーザダイオード82と同様の構造において、隙間部199が存在するものと存在しないものとを作製した。エピ層103として、n−GaNバッファ層、n−(In)AlGaNクラッド層、n−(In)GaNガイド層、InGaN活性層、p−(In)GaNガイド層、p−InAlGaNクラッド層、p−GaNコンタクト層をGaN基板上に形成した。p側の電極としてPd/Ti/Auを採用した。n側の電極としてAl/Ti/Auを採用した。電極形成後の合金化熱処理は実施しなかった。隙間部の存在は、SEM(Scanning Electron Microscope)による観察にて確認することができる。
上記緑色レーザダイオードに加えて、青色レーザダイオードとして窒化物化合物半導体レーザダイオード、赤色レーザダイオードとしてGaAs(ガリウム砒素)系レーザダイオードを準備した。さらに、上記実施の形態と同様にレンズ、フィルタ、サブマウント、ステム、キャップなどの部品を準備した。そして、これらの部品を組み立てることにより、上記実施の形態と同様の構造の光モジュールを作製した。サブマウントとレーザダイオードとは、AuSn(金スズ)ハンダで接合した。サブマウントは、Agペースト接着剤により固定した。レンズおよびフィルタは、UV硬化樹脂接着剤(樹脂硬化型接着剤)により固定した。組立に際しては、ステムおよびキャップにより閉じられる空間内に封入される水分濃度を変化させた。このようにして得られたサンプルについて、電流密度10kA/cm2で緑色レーザダイオードの発光をスタートし、スタート時の出力を維持するように電圧を調整しつつ600時間発光を継続した前後における電圧の上昇量(電圧上昇)を算出した。また、発光終了後の光モジュールのキャップに貫通孔を形成し、ステムおよびキャップにより閉じられる空間内の水分濃度を測定した。水分濃度は、ガス分析装置として沖エンジニアリング社製半導体内臓ガス分析装置を用い、検出器としてファイファーバキューム社製四重極質量分析計(QMI422/QMA−125)を用いて測定した。
得られた水分濃度と電圧上昇との相関を検討すると、両者の間に相関は存在するものの、上記隙間部の有無も電圧上昇に影響していることが分かった。そこで、隙間部が存在する緑色レーザダイオードを含み、水分濃度が異なる複数の光モジュールを作製し、同様に電圧上昇および水分濃度を確認する実験を行った。実験の結果得られた水分濃度と電圧上昇との関係を図6に示す。
図6において、横軸はステムおよびキャップにより閉じられる空間内の水分濃度を示す。また図6において、縦軸は電圧上昇(ΔVf)を示す。図6を参照して、隙間部が存在する場合でも、水分濃度を2.4体積%以下とすることにより、電圧上昇を許容可能な範囲(0.04V以下)にまで低減できることが分かる。
さらに、水分濃度確認後の光モジュールから緑色レーザダイオードを取り出し、p側コンタクト電極からリッジ部にかけての深さ方向(半導体層の積層方向)におけるTi、GaおよびPdの分布を調査し、発光前の分布(基準)と比較した。なお、基準となる発光前のTi、GaおよびPdの分布は、同一ロットで作製した緑色レーザダイオードについての調査から得られたものである。Ti、GaおよびPdの分布は、オージェ電子分光法により調査した。実験結果を図7〜図10に示す。
図7、図8、図9および図10は、それぞれ電圧上昇が2V、1.2V、0.1Vおよび0.01VであったサンプルのTi、GaおよびPdの分布を示している。図7〜図10において、横軸は深さ、縦軸は各元素の濃度に対応する。また、図7〜図10において、実線、破線および一点鎖線は、それぞれTi、GaおよびPdに対応する。また、図7〜図10において、細線は基準となる発光前の濃度分布、太線は発光後の濃度分布に対応する。図10に対応するサンプルの水分濃度は2.34体積%(2.4体積%以下)である。
図7〜図10を参照して、電圧上昇の大きい図7および図8のサンプルにおいては、発光後におけるPdの分布が深さ方向において広がっていることが分かる。また、Pdの分布の広がりは、図7および図8に比べて電圧上昇の小さい図9において小さくなっており、さらに電圧上昇の小さい図10においては分布がほとんど変化していない。このことから、電圧上昇(緑色レーザダイオードの劣化)は、p側コンタクト電極を構成する材料(金属)であるPdの拡散によって生じていることが分かる。また、水分濃度との関係から、Pdの拡散は、ステムとキャップとにより閉じられた空間内における水分が原因であると考えられる。そして、上記実験結果より、上記隙間部が存在する場合でも、上記水分濃度が2.4体積%以下とされることにより(図10のサンプルに対応)、電圧上昇が許容可能な範囲に抑制されることが分かる。なお、上記実験はp側コンタクト電極がPdからなる場合について実施したが、p側コンタクト電極が他の金属、たとえばNiからなる場合であっても同様の結果が得られるものと考えられる。
以上の実験結果より、本願の光モジュールによれば、製造コストが抑制されつつ安定した駆動が達成される緑色半導体レーザ素子を含む光モジュールを提供可能であることが確認される。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。