以下、実施形態の永久磁石回転電機を、図面を参照して説明する。まず、実施形態の永久磁石回転電機1の概要について説明する。永久磁石回転電機1が備える固定子(例えば、後述する固定子3)にティースが形成されていないため、永久磁石回転電機1では、ティースが形成された固定子を備えた他の回転電機と比べて、トルクリップルが小さい。このため、永久磁石回転電機1は、低振動のモーターであるとともに低騒音のモーターである。
永久磁石回転電機1は、永久磁石回転電機1と異なる他の永久磁石回転電機Xと比べて、損失を低減するとともに高いトルクを発生させることができる。例えば、従来技術による永久磁石回転電機Xは、永久磁石回転電機Xが備える空芯巻線に流れる電流を増大させることによって、永久磁石回転電機Xの発生可能なトルクを増大させることができる(当該空芯巻線の詳細については後述する)。
永久磁石回転電機Xが備える空芯巻線が1本の素線によって構成される場合、空芯巻線に流れる電流は、空芯巻線を構成する素線の断面積を大きくすることによって増大させることができる。しかし、空芯巻線を構成する素線の断面積を大きくすると、永久磁石回転電機Xを駆動する際に当該素線の内部に発生する渦電流が増大する。当該渦電流は、永久磁石回転電機Xのトルクの増加に寄与せず、ジュール熱に変換されてしまうため、消費電力量を増加させる一因である。
一方、永久磁石回転電機Xが備える空芯巻線が複数の素線によって構成される場合、永久磁石回転電機Xは、個々の素線の断面積を小さくすることによって渦電流の発生を抑制することができる。また、永久磁石回転電機Xは、素線の数を増やすことによって空芯巻線に流れる電流を増大させることができる。しかし、空芯巻線を構成する素線の数を複数にした場合、当該空芯巻線を構成する複数の素線同士が並列に接続された並列回路内において、永久磁石回転電機Xを駆動する際に当該並列回路を循環する電流である循環電流が発生する。このような循環電流は、渦電流と同様に、永久磁石回転電機Xのトルクの増加に寄与せず、ジュール熱に変換されてしまうため、消費電力量を増加させる一因である。
このような永久磁石回転電機Xに対し、永久磁石回転電機1は、永久磁石を備える回転子と、回転子の回転方向の上流側に配置される空芯巻線である第1空芯巻線と、第1空芯巻線よりも当該回転方向の下流側に配置される空芯巻線である第2空芯巻線との2種類の空芯巻線によって形成される極を相毎に1以上有する多相の電機子巻線であって、複数の第1空芯巻線のそれぞれについて、第1空芯巻線の一部位と、当該第1空芯巻線以外の1の第1空芯巻線の一部位とが、回転子の中心軸の方向に2層に積層され、複数の第2空芯巻線のそれぞれについて、第2空芯巻線の一部位と、当該第2空芯巻線以外の1の第2空芯巻線の一部位とが、回転子の中心軸の方向に2層に積層された2層巻きの電機子巻線を備え、各相の各極を形成する第1空芯巻線のそれぞれについて、第1空芯巻線と、当該第1空芯巻線と同相の極を形成する第2空芯巻線のうちの1つとが直列にそれぞれ接続される。
換言すると、永久磁石回転電機1は、永久磁石を備える回転子と、回転子の回転方向の上流側に配置される空芯巻線である第1空芯巻線と、第1空芯巻線よりも当該回転方向の下流側に配置される空芯巻線である第2空芯巻線との2種類の空芯巻線によって形成される極を相毎に1以上有する多相の電機子巻線であって、それぞれの極において、第1空芯巻線と第2空芯巻線とが回転子の径方向に重なり合い、第1空芯巻線については第2空芯巻線よりも当該上流側に配置されている部分があり、第2空芯巻線については第1空芯巻線よりも当該下流側に配置されている部分がある電機子巻線を備え、各相の各極を形成する第1空芯巻線のそれぞれについて、第1空芯巻線と、当該第1空芯巻線と同相の極を形成する第2空芯巻線のうちの1つとが直列にそれぞれ接続される。
この構成により、永久磁石回転電機1は、前述の渦電流や循環電流を抑制することにより、ジュール熱の発生による電力の損失を低減するとともに高いトルクを発生させることができる。この実施形態では、永久磁石回転電機1が備えるこれらの構成の具体例と、当該構成による渦電流や循環電流の抑制について詳しく説明する。図1を参照し、実施形態の永久磁石回転電機1の構成について説明する。
図1は、回転子2の回転軸に直交する方向に永久磁石回転電機1を切った場合の断面図の一例を示す図である。永久磁石回転電機1は、回転子2と、固定子3とを備える。
永久磁石回転電機1は、巻線(コイル)を構成する素線を巻きつける部位であるティースが固定子3に形成されていないスロットレスのM相N極のブラシレス交流モーターである。Mは、2以上の整数である。また、Nは、1以上の整数である。また、スロットは、複数のティースが形成された固定子におけるティース間の間隙のことである。以下では、一例として、永久磁石回転電機1がスロットレスの3相4極のブラシレス交流モーターである場合について説明する。
回転子2は、図1に示したように、永久磁石21〜永久磁石28の8個の永久磁石を備える。永久磁石21と永久磁石22とは、回転子2の回転中心から回転子2の径方向における外周側へと向かう方向に磁化配向されている。また、永久磁石23と永久磁石24とは、回転子2の径方向における外周側から回転子2の回転中心へと向かう方向に磁化配向されている。
また、永久磁石25は、永久磁石24から永久磁石21へと向かう方向に磁化配向されている。また、永久磁石26は、永久磁石23から永久磁石22へと向かう方向に磁化配向されている。また、永久磁石27は、永久磁石23から永久磁石21へと向かう方向に磁化配向されている。また、永久磁石28は、永久磁石24から永久磁石22へと向かう方向に磁化配向されている。これらの永久磁石21〜永久磁石28は、回転子2において4極の磁極を構成する。
また、図1では、回転子2は、図示しない軸受によって支持されている。なお、図1では、回転子2の回転軸が延伸する方向と、図1に示した三次元座標系のZ軸方向とを一致させている。
固定子3は、回転子2を回転させる磁場を発生させる複数の巻線が設けられる。前述したように固定子3には、ティースが形成されていない。そのため、この一例において固定子3に設けられる巻線は、空芯巻線(空芯コイル)である。この一例における空芯巻線は、内径側に磁性体が存在しない巻線のことである。また、当該空芯巻線は、1本の素線によって構成されるコイルである。また、当該空芯巻線は、巻き線を構成する素線の一部と当該素線の他の一部とが並列に接続される並列回路を含まない。
固定子3の回転子2と対向する面である内径面の一部には、空芯巻線を設置する設置面が予め決められている。例えば、図1に示したように、当該座標軸のZ軸の負方向に向かって固定子3を見た場合に、当該内径面のうちの図1に示した三次元座標系のY軸の正方向を含む面を設置面VS1と決める。そして、当該場合に、回転子2の中心から設置面VS1に向かう方向を基準として時計回りに所定の角度毎に設置面を決める。図1に示した例では、所定の角度は、15°である。すなわち、この一例において、固定子3には、設置面VS1〜設置面VS24の24個の設置面を予め決めることができる。これらの設置面VS1〜設置面VS24のそれぞれは、仮想的なスロットと見做すことができるため、以下では、設置面VS1〜設置面VS24を、仮想スロットVS1〜仮想スロットVS24と称して説明する。
この一例における固定子3には、これらの仮想スロットVS1〜仮想スロットVS24を用いて、24の空芯巻線が設けられる。ここで、図2を参照し、固定子3に設けられた24の空芯巻線について説明する。
図2は、固定子3における空芯巻線の接続状態の一例を示す図である。固定子3は、回転子2の回転方向の上流側(回転の手前側)に配置される空芯巻線である第1空芯巻線と、当該回転方向の下流側(回転の先方側)に配置される空芯巻線である第2空芯巻線との2種類の空芯巻線によって1つの極が形成される3相4極の2層巻きの電機子巻線を備える。図2に示した例では、回転子2の回転方向は、図1に示した三次元座標系のZ軸の負方向側に向かって回転子2を見た場合において回転子2が時計周りに回転する方向である。
具体的には、固定子3には、3相4極のうちの1つ目の相である第1相Uの第1極が、第1空芯巻線U1と第2空芯巻線U2により形成されている。また、固定子3には、第1相Uの第2極が、第1空芯巻線U3と第2空芯巻線U4により形成されている。また、固定子3には、第1相Uの第3極が、第1空芯巻線U5と第2空芯巻線U6により形成されている。また、固定子3には、第1相Uの第4極が、第1空芯巻線U7と第2空芯巻線U8により形成されている。
また、固定子3には、3相4極のうちの2つ目の相である第2相Wの第1極が、第1空芯巻線W1と第2空芯巻線W2により形成されている。また、固定子3には、第2相Wの第2極が、第1空芯巻線W3と第2空芯巻線W4により形成されている。また、固定子3には、第2相Wの第3極が、第1空芯巻線W5と第2空芯巻線W6により形成されている。また、固定子3には、第2相Wの第4極が、第1空芯巻線W7と第2空芯巻線W8により形成されている。
また、固定子3には、3相4極のうちの3つ目の相である第3相Vの第1極が、第1空芯巻線V1と第2空芯巻線V2により形成されている。また、固定子3には、第3相Vの第2極が、第1空芯巻線V3と第2空芯巻線V4により形成されている。また、固定子3には、第3相Vの第3極が、第1空芯巻線V5と第2空芯巻線V6により形成されている。また、固定子3には、第3相Vの第4極が、第1空芯巻線V7と第2空芯巻線V8により形成されている。
また、図2に示した固定子3では、これらの各極が回転子2の回転方向において、第1相Uの第1極、第2相Wの第1極、第3相Vの第1極、第1相Uの第2極、第2相Wの第2極、第3相Vの第2極、第1相Uの第3極、第2相Wの第3極、第3相Vの第3極、第1相Uの第4極、第2相Wの第4極、第3相Vの第4極の順に配置されている。
この一例における空芯巻線は、回転子2の回転方向における上流側(回転の手前側)の空芯巻線の1辺である上流辺と、当該回転方向における下流側(回転の先方側)の空芯巻線の1辺である下流辺とを、それぞれ異なる仮想スロットに配置することにより、固定子3に設けられる。また、当該空芯巻線は、当該上流辺と当該下流辺とによって、回転子2の回転方向に沿って1以上の仮想スロットを挟んで固定子3に設けられる。
具体的には、図2に示した固定子3には、第1空芯巻線U1の上流辺が仮想スロットVS1に配置され、第1空芯巻線U1の下流辺が仮想スロットVS7に配置されている。すなわち、第1空芯巻線U1は、第1空芯巻線U1の上流辺と下流辺とによって、回転子2の回転方向に沿って5つの仮想スロットを挟んで固定子3に設けられている。
また、図2に示した固定子3には、第2空芯巻線U2の上流辺が仮想スロットVS2に配置され、第2空芯巻線U2の下流辺が仮想スロットVS8に配置されている。すなわち、第2空芯巻線U2は、第2空芯巻線U2の上流辺と下流辺とによって、回転子2の回転方向に沿って5つの仮想スロットを挟んで固定子3に設けられている。
また、この一例における固定子3には、複数の第1空芯巻線のそれぞれについて、第1空芯巻線の一部位と、当該第1空芯巻線以外の1の第1空芯巻線の一部位とが、回転子2の中心軸の方向に2層に積層され、複数の第2空芯巻線のそれぞれについて、第2空芯巻線の一部位と、当該第2空芯巻線以外の1の第2空芯巻線の一部位とが、回転子2の中心軸の方向に2層に積層される2層巻きによって、これらの第1空芯巻線及び第2空芯巻線が配置されている。具体的には、当該2層巻きでは、各相の各極を形成する第1空芯巻線毎に、当該第1空芯巻線の上流辺(前述の第1空芯巻線の一部位)と、他の第1空芯巻線の下流辺(前述の他の第1空芯巻線の一部位)とが回転子2の中心軸の方向に向かって当該上流辺から当該下流辺の順(又は当該下流辺から当該上流辺の順)に2層に積層される。例えば、図2に示した固定子3には、第1空芯巻線U1の上流辺と、第1空芯巻線U1の下流辺とが仮想スロットVS7において回転子2の中心軸の方向に向かって当該上流辺から当該下流辺の順に2層に積層されている。
また、当該2層巻きでは、各相の各極を形成する第2空芯巻線毎に、当該第2空芯巻線の上流辺(前述の第2空芯巻線の一部位)と、他の第2空芯巻線の下流辺(前述の他の第2空芯巻線の一部位)とが回転子2の中心軸の方向に向かって当該上流辺から当該下流辺の順(又は当該下流辺から当該上流辺の順)に2層に積層される。例えば、図2に示した固定子3には、第2空芯巻線U2の上流辺と、第2空芯巻線U2の下流辺とが仮想スロットVS8において回転子2の中心軸の方向に向かって当該上流辺から当該下流辺の順に2層に積層されている。
このように、固定子3は、第1空芯巻線と第2空芯巻線との2種類の空芯巻線によって1つの極が形成される3相4極の2層巻きの電機子巻線を備える。ここで、各相の各極を形成する第1空芯巻線のそれぞれについて、第1空芯巻線と、当該第1空芯巻線と同相の極を形成する第2空芯巻線とは、図2において図示しない接続線によって直列に接続される。
図3は、各相の各極を形成する第1空芯巻線と、当該第1空芯巻線と同相の極を形成する第2空芯巻線との接続状態の一例を示す図である。図3に示した例では、第1相Uの第1極を形成する第1空芯巻線U1と第2空芯巻線U2とが第1直列回路UC1として直列に接続される。また、当該例では、第1相Uの第2極を形成する第1空芯巻線U3と第2空芯巻線U4とが第2直列回路UC2として直列に接続される。また、当該例では、第1相Uの第3極を形成する第1空芯巻線U5と第2空芯巻線U6とが第3直列回路UC3として直列に接続される。また、当該例では、第1相Uの第4極を形成する第1空芯巻線U7と第2空芯巻線U8とが第4直列回路UC4として直列に接続される。
また、当該例では、これら4つの直列回路である第1直列回路UC1〜第4直列回路UC4が互いに並列に接続される。
また、当該例では、3相4極のうちの2つ目の相である第2相Wの第1極を形成する第1空芯巻線W1と第2空芯巻線W2とが第1直列回路WC1として直列に接続される。また、当該例では、第2相Wの第2極を形成する第1空芯巻線W3と第2空芯巻線W4とが第2直列回路WC2として直列に接続される。また、当該例では、第2相Wの第3極を形成する第1空芯巻線W5と第2空芯巻線W6とが第3直列回路WC3として直列に接続される。また、当該例では、第2相Wの第4極を形成する第1空芯巻線W7と第2空芯巻線W8とが第4直列回路WC4として直列に接続される。
また、当該例では、これら4つの直列回路である第1直列回路WC1〜第4直列回路WC4が互いに並列に接続される。
また、当該例では、3相4極のうちの3つ目の相である第3相Vの第1極を形成する第1空芯巻線V1と第2空芯巻線V2とが第1直列回路VC1として直列に接続される。また、当該例では、第3相Vの第2極を形成する第1空芯巻線V3と第2空芯巻線V4とが第2直列回路VC2として直列に接続される。また、当該例では、第3相Vの第3極を形成する第1空芯巻線V5と第2空芯巻線V6とが第3直列回路VC3として直列に接続される。また、当該例では、第3相Vの第4極を形成する第1空芯巻線V7と第2空芯巻線V8とが第4直列回路VC4として直列に接続される。
また、当該例では、これら4つの直列回路である第1直列回路VC1〜第4直列回路VC4が互いに並列に接続される。
また、この一例において、第1空芯巻線及び第2空芯巻線は、それぞれを構成する素線を重ね巻きすることによって形成されているとする。なお、第1空芯巻線と第2空芯巻線とのうちいずれか一方又は両方は、これに代えて、第1空芯巻線と第2空芯巻線とのうちいずれか一方又は両方を構成する素線を波巻きすることによって形成されている構成であってもよい。
このような構成により、前述したように、永久磁石回転電機1は、渦電流や循環電流を抑制することができる。以下、図4〜図6を参照し、このような構成によって永久磁石回転電機1が抑制する渦電流及び循環電流の発生原理と抑制方法について説明する。
図4は、回転子2が備える永久磁石の磁束が空芯巻線を構成する素線を貫く様子の一例を示す図である。図4に示した拡大図WD内には、永久磁石21と、永久磁石25と、永久磁石27とが作り出す磁束が第2空芯巻線W8の下流辺を構成する素線を貫いている様子を示す。図4では、第2空芯巻線W8の下流辺を構成する素線は、1本の素線が16巻きに巻かれているため、16本の素線のように見えている。なお、第2空芯巻線W8における素線の巻き数は、16巻きに代えて、他の巻き数であってもよい。
第2空芯巻線W8の下流辺を構成する素線を貫く磁束は、永久磁石21と、永久磁石25と、永久磁石27とによって構成される磁極から回転子2の径方向へと放射状に生成される。すなわち、当該素線を貫く磁束の方向及び大きさは、当該素線の内部における位置毎にばらつく。このため、当該素線の内部に存在する自由電子は、当該磁束(磁場)によるローレンツ力によって当該内部において渦を巻いて動き始める。前述の渦電流は、この渦を巻いて動いている自由電子の流れである。
図5は、空芯巻線を構成する素線の内部において渦電流が発生した様子の一例を示す図である。図5において矢印Bのそれぞれは、空芯巻線を構成する素線Lを貫く磁束Bを示している。また、素線Lの内部において楕円状に描かれている矢印CC1は、当該磁束によって発生した渦電流を示している。このような矢印CC1によって示した渦電流は、素線Lを貫く磁束Bの数を少なくするとともに、素線Lの内部における位置毎の磁束Bの方向及び大きさのばらつきを小さくすることによって抑制することができる。
図6は、循環電流の発生原理を説明するための図である。図6では、空芯巻線C1と、空芯巻線C2と、空芯巻線C3とが、空芯巻線C1、空芯巻線C2、空芯巻線C3の順に直列に接続されている。また、空芯巻線C4と、空芯巻線C5と、空芯巻線C6とが、空芯巻線C4、空芯巻線C5、空芯巻線C6の順に直列に接続されている。また、直列に接続された空芯巻線C1と、空芯巻線C2と、空芯巻線C3とを1つの空芯巻線C10と見立て、直列に接続された空芯巻線C4と、空芯巻線C5と、空芯巻線C6とを1つの空芯巻線C20と見立てた場合、空芯巻線C10と空芯巻線C20とが並列に接続されている。なお、ここでは、空芯巻線C1〜空芯巻線C6のそれぞれは、それぞれを構成する素線の素材、当該素線の断面積、当該素線の巻き数が同じである場合について説明する。
ここで、空芯巻線C10と空芯巻線C20とのそれぞれに対して磁束を貫かせた場合を例に挙げて説明する。この場合、空芯巻線C10を貫く磁束の方向及び大きさと、空芯巻線C20を貫く磁束の方向及び大きさとが異なると、空芯巻線C10に発生する誘導起電力の大きさと、空芯巻線C20に発生する誘導起電力の大きさに差異が生じる。並列に接続された空芯巻線C10と空芯巻線C20とのそれぞれに発生する誘導起電力の大きさが異なる場合、当該並列に接続された局所的な回路には、図6に示した矢印CC2の方向に電流が流れる。この電流が、前述の循環電流である。循環電流は、並列に接続された空芯巻線C10と空芯巻線C20とのそれぞれを貫く磁束の方向及び大きさのばらつきを小さくすることによって抑制することができる。
次に、図7を参照し、永久磁石回転電機1における渦電流及び循環電流の抑制について説明する。
図7は、回転子2の永久磁石22から永久磁石21へ向かう方向が、回転子2の中心から第1空芯巻線U1の上流辺と第1空芯巻線U7の下流辺とが配置された仮想スロットVS1へ向かう方向と一致した状態の一例を示す図である。図7に示した矢印B1〜矢印B4のそれぞれは、当該状態における回転子2の各永久磁石によって発生した磁束の方向を表わしている。ここで、一例として、第1相Uの第1空芯巻線及び第2空芯巻線を例に挙げて説明する。
当該状態において、第1空芯巻線U1と、第1空芯巻線U3と、第1空芯巻線U5と、第1空芯巻線U7とのそれぞれに発生する誘導起電力の大きさは、回転子2の回転における回転軸のずれ等による誤差を除いて等しい。また、当該状態において、第2空芯巻線U2と、第2空芯巻線U4と、第2空芯巻線U6と、第2空芯巻線U8とのそれぞれに発生する誘導起電力の大きさは、回転子2の回転における回転軸のずれ等による誤差を除いて等しい。
また、当該状態において、第1空芯巻線U1と、第1空芯巻線U3と、第1空芯巻線U5と、第1空芯巻線U7とのそれぞれに発生する誘導起電力の大きさは、第2空芯巻線U2と、第2空芯巻線U4と、第2空芯巻線U6と、第2空芯巻線U8とのそれぞれに発生する誘導起電力の大きさと比べて大きい。
ここで、図3において説明したように、永久磁石回転電機1では、第1直列回路UC1〜第4直列回路UC4が互いに並列に接続されている。回転子2の各永久磁石によって発生した磁束によって、これらの直列回路に発生する誘導起電力に差異が生じた場合、当該並列に接続された並列回路には、循環電流が発生する。しかし、図7において説明したように、第1直列回路UC1〜第4直列回路UC4のそれぞれには、回転子2の回転における回転軸のずれ等による誤差を除いて等しい誘導起電力が発生する。
これはすなわち、永久磁石回転電機1において、第1相Uの各極を形成する第1空芯巻線と、当該第1空芯巻線と同相である第1相Uの同極を形成する第2空芯巻線とを直列にそれぞれ接続することにより、当該並列回路を構成する第1直列回路UC1〜第4直列回路UC4のそれぞれを貫く磁束の大きさのばらつきが小さくなったことを示している。その結果、永久磁石回転電機1は、第1相Uにおいて、当該並列回路を循環する循環電流を抑制することができる。このような循環電流の抑制は、第1相Uと同様の構成を有する第2相W及び第3相Vのそれぞれについても同様に起こる。このため、ここでは、第2相W及び第3相Vのそれぞれにおける循環電流の抑制についての説明を省略する。
また、この一例における永久磁石回転電機1では、図2に示したように、第1相Uの各極が第1空芯巻線と第2空芯巻線との2つの空芯巻線によって構成される。このため、永久磁石回転電機1は、空芯巻線を構成する素線を細くすることによって当該空芯巻線に発生する渦電流を抑制しつつ、第1相Uの各極を構成する空芯巻線に流れる電流の総量を増やすことができる。このような渦電流の抑制と、空芯巻線に流れる電流の総量の増大とは、第1相Uと同様の構成を有する第2相W及び第3相Vのそれぞれについても同様に起こる。このため、ここでは、第2相W及び第3相Vのそれぞれにおける渦電流の抑制と、空芯巻線に流れる電流の総量の増大とについての説明を省略する。以上のことにより、永久磁石回転電機1は、前述の永久磁石回転電機Xと比べて、損失を低減するとともに高いトルクを発生させることができる。
なお、永久磁石回転電機1は、各相の各極を構成する第1空芯巻線と第2空芯巻線との接続状態として図3に示した接続状態を採用した場合、他の接続状態と比べて、空芯巻線間を直列に接続するための図示しない接続線(渡り線)を短くすることができる。このため、永久磁石回転電機1では、空芯巻線を構成する素線の終端部の長さを短縮することができ、且つコイル抵抗を低減することができる。その結果、永久磁石回転電機1は、当該コイル抵抗による損失(銅損)を抑制することができる。
また、永久磁石回転電機1において、各相の各極を構成する第1空芯巻線と第2空芯巻線との接続状態は、図3に示した接続状態に代えて、各相の各極を形成する第1空芯巻線のそれぞれについて、第1空芯巻線と、当該第1空芯巻線と同相の極を形成する第2空芯巻線とが直列にそれぞれ接続される他の接続状態であってもよい。
図8は、第1相Uの各極における第1空芯巻線及び第2空芯巻線の接続状態の他の例を示す図である。図8に示した例では、第1空芯巻線U1と第2空芯巻線U4とが直列に第1直列回路UC11として接続され、第1空芯巻線U3と第2空芯巻線U2とが直列に第2直列回路UC12として接続され、第1空芯巻線U5と第2空芯巻線U8とが直列に第3直列回路UC13として接続され、第1空芯巻線U7と第2空芯巻線U6とが直列に第4直列回路UC14として接続される。
すなわち、図8に示した例では、第1相Uの各極における第1空芯巻線のそれぞれについて、第1空芯巻線と、当該第1空芯巻線と同相(すなわち、第1相U)の他極の第2空芯巻線とが直列にそれぞれ接続される。また、図8に示した例では、これら4つの直列回路である第1直列回路UC11〜第4直列回路UC14が互いに並列に接続される。なお、この一例において、第2相Wと第3相Vとのそれぞれにおける第1空芯巻線と第2空芯巻線との接続状態は、第1相Uにおける第1空芯巻線と第2空芯巻線との接続状態と同様の接続状態であるため、説明を省略する。
ここで、第1空芯巻線U1と第2空芯巻線U4とのそれぞれに生じる誘導起電力の和と、第1空芯巻線U3と第2空芯巻線U2とのそれぞれに生じる誘導起電力の和と、第1空芯巻線U5と第2空芯巻線U8とのそれぞれに生じる誘導起電力の和と、第1空芯巻線U7と第2空芯巻線U6とのそれぞれに生じる誘導起電力の和とは、回転子2の回転における回転軸のずれ等による誤差を除いて等しい。すなわち、永久磁石回転電機1は、各相の各極を構成する第1空芯巻線と第2空芯巻線との接続状態を、図8に示した接続状態とした場合であっても、これらの第1空芯巻線及び第2空芯巻線によって構成される並列回路内を循環する循環電流を抑制することができる。
また、図8に示した例では、図3に示した例と同様に、各相の各極が第1空芯巻線と第2空芯巻線との2つの空芯巻線によって構成されるため、永久磁石回転電機1は、空芯巻線を構成する素線を細くすることによって当該空芯巻線に発生する渦電流を抑制しつつ、各相の各極を構成する空芯巻線に流れる電流の総量を増やすことができる。すなわち、永久磁石回転電機1は、前述の永久磁石回転電機Xと比べて、損失を低減するとともに高いトルクを発生させることができる。
図9は、第1相Uの各極における第1空芯巻線及び第2空芯巻線の接続状態の更に他の例を示す図である。図9に示した例では、第1空芯巻線U1と第2空芯巻線U6とが直列に第1直列回路UC21として接続され、第1空芯巻線U3と第2空芯巻線U8とが直列に第2直列回路UC22として接続され、第1空芯巻線U5と第2空芯巻線U2とが直列に第3直列回路UC23として接続され、第1空芯巻線U7と第2空芯巻線U4とが直列に第4直列回路UC24として接続される。
すなわち、図9に示した例では、第1相Uの各極における第1空芯巻線のそれぞれについて、第1空芯巻線と、当該第1空芯巻線と同相(すなわち、第1相U)の他極のうちの自極と対向する極の第2空芯巻線とが直列にそれぞれ接続される。また、図9に示した例では、これら4つの直列回路である第1直列回路UC21〜第4直列回路UC24が互いに並列に接続される。なお、この一例において、第2相Wと第3相Vとのそれぞれにおける第1空芯巻線と第2空芯巻線との接続状態は、第1相Uにおける第1空芯巻線と第2空芯巻線との接続状態と同様の接続状態であるため、説明を省略する。
ここで、第1空芯巻線U1と第2空芯巻線U6とのそれぞれに生じる誘導起電力の和と、第1空芯巻線U3と第2空芯巻線U8とのそれぞれに生じる誘導起電力の和と、第1空芯巻線U5と第2空芯巻線U2とのそれぞれに生じる誘導起電力の和と、第1空芯巻線U7と第2空芯巻線U4とのそれぞれに生じる誘導起電力の和とは、回転子2の回転における回転軸のずれ等による誤差を除いて等しい。すなわち、永久磁石回転電機1は、各相の各極を構成する第1空芯巻線と第2空芯巻線との接続状態を、図9に示した接続状態とした場合であっても、これらの第1空芯巻線及び第2空芯巻線によって構成される並列回路内を循環する循環電流を抑制することができる。
また、図9に示した例では、図3及び図8に示した例と同様に、第1相Uの各極が第1空芯巻線と第2空芯巻線との2つの空芯巻線によって構成されるため、永久磁石回転電機1は、空芯巻線を構成する素線を細くすることによって当該空芯巻線に発生する渦電流を抑制しつつ、第1相Uの各極を構成する空芯巻線に流れる電流の総量を増やすことができる。すなわち、永久磁石回転電機1は、前述の永久磁石回転電機Xと比べて、損失を低減するとともに高いトルクを発生させることができる。
なお、永久磁石回転電機1は、各相の各極を構成する第1空芯巻線と第2空芯巻線との接続状態として図3に示した接続状態を採用した場合、他の接続状態と比べて、回転子2が偏心した場合であっても、循環電流を抑制することができる。何故なら、第1相Uの各極における第1空芯巻線のそれぞれについて、第1空芯巻線と、当該第1空芯巻線と同相の他極のうちの自極と対向する極の第2空芯巻線とが直列にそれぞれ接続されているためである。例えば、回転子2が仮想スロットVS13側に偏心した場合、第1空芯巻線U5及び第2空芯巻線U6のそれぞれに発生する誘導起電力は大きくなる。一方、第1空芯巻線U1及び第2空芯巻線U2のそれぞれに発生する誘導起電力は小さくなる。このため、永久磁石回転電機1は、回転子2の偏心によって第1直列回路UC21〜第4直列回路UC24のそれぞれに発生する誘導起電力の差異を抑制することができる。また、この場合、永久磁石回転電機1は、回転子2の偏心による電磁加振力を抑制するため、振動や騒音を低減することができる。
上記の永久磁石回転電機1の説明では、図2における第1空芯巻線及び第2空芯巻線の位置関係を、回転子2の回転方向によって定義した。当該回転方向は、この実施形態において、図1に示した三次元座標系のZ軸の負方向に向かって図1に示した断面図を見た場合の時計回りである。このため、当該回転方向が、図1に示した三次元座標系のZ軸の負方向に向かって図1に示した断面図を見た場合の反時計回りである場合、第1空芯巻線と第2空芯巻線とを入れ替えた説明は、上記において説明した永久磁石回転電機1の構成と同様の構成についての説明となる。ただし、この場合、上記の説明において、第1空芯巻線の上流辺と下流辺とが入れ替わり、第2空芯巻線の上流辺と下流辺とが入れ替わる。
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、永久磁石回転電機1は、永久磁石を備えた回転子と、当該回転子の回転方向の上流側に配置される空芯巻線である第1空芯巻線と、第1空芯巻線よりも当該回転方向の下流側に配置される空芯巻線である第2空芯巻線との2種類の空芯巻線によって形成される極を相毎に1以上有する多相の電機子巻線であって、それぞれの極において、第1空芯巻線と第2空芯巻線とが回転子の径方向に重なり合い、第1空芯巻線については第2空芯巻線よりも当該上流側に配置されている部分があり、第2空芯巻線については第1空芯巻線よりも当該下流側に配置されている部分がある電機子巻線を備え、各相の各極を形成する第1空芯巻線毎に、当該第1空芯巻線と同相の極を形成する第2空芯巻線のうちの1つとが直列にそれぞれ接続される固定子と、を備える。これにより、永久磁石回転電機1は、損失を低減するとともに高いトルクを発生させることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。