JP6582995B2 - App切断型ペプチドの測定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、脳神経科学基礎研究分野、及び臨床医学分野に属し、アルツハイマー病の発症に深く関わっていると考えられているアミロイド・ベータ(Aβ)ペプチドを含むアミロイド前駆タンパク質(Amyloid precursor protein; APP)切断型ペプチドの測定方法に関する。
アルツハイマー病(Alzheimer's disease; AD)は認知症の主な原因で、認知症全体の50−60%を占める。2001年で2400万人以上いた世界の認知症患者数は、2040年には8100万人に達すると推定される(非特許文献1)。アルツハイマー病の発症にはアミロイド・ベータ(Aβ)ペプチドが深く関わっていると考えられている。Aβペプチドは、膜一回貫通タンパク質で770残基のアミノ酸から成るアミロイド前駆タンパク質(APP)がβセクレターゼとγセクレターゼによってタンパク質分解を受けることによって産生される(図1参照)。Aβペプチドの繊維化を伴う凝集により老人斑が出現すると、これを引き金にして神経細胞内にタウタンパク質が凝集蓄積し、神経機能不全や神経細胞死が引き起こされる。この結果として、極度の認知能力の低下が起こると考えられている。Aβペプチドは主に40mer(Aβ1-40)と42mer(Aβ1-42)からなることが古くから知られており、脳脊髄液(CSF)や血液中へ移行することもわかっている。さらに近年では、Aβ1-40とAβ1-42にも長さの異なるアミロイド・ベータ・ペプチドがCSF中にも存在することが報告されている(非特許文献2)。
アルツハイマー病は潜在性に発症し緩徐に進行する。アルツハイマー病の診断は、臨床症状を調べるためのADAS-cog、MMSE、DemTect、SKT、又は時計描画テストのような認知機能検査や、磁気共鳴画像診断(MRI)や陽電子放出断層撮影法(PET)等の画像所見の確認などを合わせて行われている。 MRIは、脳の変性萎縮の検出を可能にする画像診断法であるが、残念ながら脳の萎縮はアルツハイマー病に特異的ではない。一方、アミロイド沈着物上の検出分子(PIB: Pittsburgh compound-B)の蓄積を可視化する画像診断法としてPIB-PETがある。チオフラビンT-類似体(11C)PIBが、MCI又は軽度アルツハイマー病を有する患者の脳の特定の領域で次第に蓄積することが見出されており、アミロイド沈着物の検出方法として最適なツールである。AD剖検脳の所見により、軽度の認知機能低下の症例でもすでに大量の老人斑が蓄積していることがわかっている。このことから現在、健忘などの臨床症状が顕在化するかなり以前からAβペプチドの凝集・沈着が始まるのではないかと推測されており、PIB-PETの所見でもそれを裏付ける結果が報告されている。
血液や脳脊髄液(CSF)に存在するバイオマーカーは、病気の発症や進行を分子レベルで検出できる有効な方法である。アルツハイマー病においては、CSF中のAβ1-42の濃度やAβ1-42/ Aβ1-40の濃度比の低下、総タウ値あるいはリン酸化タウ値の上昇が有用な診断マーカーであると報告されている(特許文献1:特開2010−19864号公報、非特許文献3)。しかしながら、認知症の症状が現れていない患者からCSFを採取して診断する機会は少ない。
そこで、血液検査として、血中に存在するAβ1-42がAD診断マーカーになりえるのではないかと期待されているが、CSF Aβ1-42とは異なり、血中Aβ1-42濃度とAD発症との関連性は低いことが報告されている(非特許文献3)。その原因については未だ解明されていない。
また、特許文献2:特開2013−63976号公報には、可溶性Aβモノマーを認識せず、可溶性Aβオリゴマーのみに特異的に結合するモノクローナル抗体が開示され、前記抗体を用いたアルツハイマー病の診断法が開示されている。同号公報の[0104]には、被験者の試料中におけるAβモノマーに対するAβオリゴマーの比が、健常者と比較して高い場合に、被験者がアルツハイマー病候補であると判定される方法が開示されている。
非特許文献4には、2種類の抗Aβ抗体(クローン6E10と4G8)から調製されたF(ab')を用いて、6E10/4G8 F(ab')-(PEG)24 ビーズを作製したことが開示され、それを使った免疫沈降法(IP:Immunoprecipitation)により質量分析装置でのヒト血漿中ペプチドの検出感度が向上したことが開示されている(非特許文献4)。
特開2010−19864号公報 特開2013−63976号公報
Blennow K, de Leon MJ, Zetterberg H. : Alzheimer's disease. Lancet. 2006 Jul 29; 368(9533): 387-403 Portelius E, Westman-Brinkmalm A, Zetterberg H, Blennow K. : Determination of beta-amyloid peptide signatures in cerebrospinal fluid using immunoprecipitation-mass spectrometry. J Proteome Res. 2006 Apr; 5(4): 1010-6 Hampel H, Shen Y, Walsh DM, Aisen P, Shaw LM, Zetterberg H, Trojanowski JQ, Blennow K. : Biological markers of amyloid beta-related mechanisms in Alzheimer's disease. Exp Neurol. 2010 Jun; 223(2): 334-46 Kaneko N, Yoshimori T, Yamamoto R, Capon DJ, Shimada T, Sato TA, Tanaka K. : Multi epitope-targeting immunoprecipitation using F(ab') fragments with high affinity and specificity for the enhanced detection of a peptide with matrix-assisted laser desorption ionization-time-of-flight mass spectrometry. Anal Chem. 2013 Mar 19; 85(6): 3152-9
アルツハイマー病(AD)患者では、認知機能低下が顕在化する以前に大量のアミロイドが沈着していることがわかっている。しかし、現在の技術ではAβペプチドの凝集・沈着の開始時点の患者を検出できる方法はない。アミロイド蓄積の検出に有効なPIB-PETで診断するにしても、認知機能低下が顕在化されていない潜在的なAD患者がPIB-PETを受診することは極めて少ない。したがって、臨床症状が顕在化する前にアミロイド形成を検出できる簡便な早期診断方法が必要とされている。
上述したように、血液や脳脊髄液(CSF)に存在するバイオマーカーは、病気の発症や進行を分子レベルで検出できる有効な方法である。上記特許文献1、及び非特許文献3には、アルツハイマー病においては、CSF中のAβ1-42の濃度やAβ1-42/Aβ1-40の濃度比の低下、総タウ値あるいはリン酸化タウ値の上昇が有用な診断マーカーであると報告されている。しかしながら、一方で、非特許文献3には、CSF Aβ1-42とは異なり、血中Aβ1-42濃度とAD発症との関連性は低いことが報告されている。
血液中のアミロイド・ベータ(Aβ)に関するこれまでの報告では、血液中のAβ1-40及びAβ1-42の2種類の濃度についてのみしかADとの相関性が調べられていない。しかし、CSF中にはAβ1-40及びAβ1-42以外にも、Aβ1-40のN末端側やC末端側で切断されている短いAβペプチドも存在することが、免疫沈降法と質量分析装置を組み合わせた方法で発見されている。このことから、血液中にもAβ1-40及びAβ1-42以外の切断型Aβペプチドが存在することが推測され、これらがAD診断用マーカーとして利用できる可能性がある。しかしながら、血液中においてはCSF中よりも微量に存在するAβペプチドを免疫沈降法と質量分析装置で検出することは技術的に難しく、これまでにそれを成功させた例はない。
上記非特許文献4には、2種類の抗Aβ抗体(クローン6E10と4G8)を含む 6E10/4G8 F(ab')-(PEG)24 ビーズを用いて、ヒト血漿へスパイクされた合成ペプチドに対して免疫沈降法(IP)を行い、質量分析法(MS)の感度評価を行った結果、6E10/4G8 F(ab')-(PEG)24 ビーズを使うことによって、質量分析装置での検出感度が向上したことが開示されている。さらに、ヒト血漿サンプル 250 μLから、血漿内在性Aβ1-40ペプチドを質量分析装置で検出したことが開示されている。
しかしながら、上記非特許文献4において、質量分析装置で検出できたAβ1-40ペプチドのシグナルは低く、S/N比は4.1であった。このS/N比4.1は、検出限界(S/N=3)に近いS/N比である。もし、上記非特許文献4において用いられた検体とは異なる検体において血漿中Aβ1-40ペプチド濃度がより低かった場合、該Aβ1-40ペプチド濃度は検出限界以下となる恐れがある。そして、多検体の臨床サンプルを測定する場合、多くの検体においてAβ1-40ペプチドが検出できないというリスクもある。サンプル量を多くして、免疫沈降法及び質量分析法を行えば、シグナルは高くなるかもしれないが、実際に患者から採血する臨床サンプル量は限られている。したがって、臨床サンプルを測定するために患者からの採血量を考慮した場合は、1000 μL以下が解析する量として好ましい。
そこで、本発明の目的は、アルツハイマー病の発症に深く関わっていると考えられているアミロイド・ベータ(Aβ)ペプチドを含むアミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドの測定方法に関する。特に、本発明の目的は、血液試料自体が少量の場合であっても、及び/又は血液試料中に微量にしか存在しない場合であっても、アミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドを検出することのできる測定方法を提供することにある。
本発明者は、鋭意検討の結果、血液試料が少量の場合であっても、及び/又は血液試料中に微量にしか存在しない場合であっても、ヒト血漿中のAβ1-40及びAβ1-42を含めAPP切断型ペプチドを検出することに成功し、本発明に到達した。さらに、検出した22種類のAPP切断型ペプチドのうち、8種の新規なAPP切断型ペプチドを見出した。
本発明は、以下の発明を含む。
(1) 血液試料中のアミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドを測定する方法であって、
担体と、前記担体に結合した、アミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドを認識可能な抗原結合部位を持つ免疫グロブリン及びアミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドを認識可能な抗原結合部位を含む免疫グロブリン断片からなる群から選ばれる抗体とを含む抗体固定化担体に、血液試料を結合溶液中で接触させて、前記抗体固定化担体と前記血液試料中に含まれるAPP切断型ペプチドとを結合させる工程と、
前記抗体固定化担体と前記APP切断型ペプチドとの結合体を、洗浄溶液を用いて洗浄する工程と、
前記抗体固定化担体から前記APP切断型ペプチドを、有機溶媒を含む酸性水溶液を用いて解離させる工程と、
解離された前記APP切断型ペプチドを検出する工程と、
を含む血液試料中のAPP切断型ペプチドを測定する方法。
ここで、APP切断型ペプチドとは、770残基のアミノ酸から成るアミロイド前駆タンパク質(Amyloid precursor protein; APP)がタンパク質分解を受けることによって切断された (truncated) ペプチドである。典型的には、図1を参照して、アミロイド前駆タンパク質(APP)がβセクレターゼとγセクレターゼによってタンパク質分解を受けることによって産生される。しかしながら、本発明により、切断される部位の異なる、種々のAPP切断型ペプチドが存在することが判明した。APP切断型ペプチドには、公知のアミロイド・ベータ(Aβ)ペプチドも含まれる。
(2) 前記解離工程において、前記有機溶媒を含む酸性水溶液における有機溶媒濃度は、20%(v/v)を超える、(1)に記載の方法。
(3) 前記結合工程において、前記結合溶液は、界面活性剤を含む中性緩衝液である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記中性緩衝液における界面活性剤濃度は、0.001〜10%(/v)である、(3)に記載の方法。
(5) 前記界面活性剤が、マルトースを親水性部分に持つ中性界面活性剤、トレハロースを親水性部分に持つ中性界面活性剤、及びグルコースを親水性部分に持つ中性界面活性剤からなる群から選ばれる、(3)又は(4)に記載の方法。
(6) 前記洗浄工程において、前記洗浄溶液として界面活性剤を含む中性緩衝液を用いて洗浄を行い、その後、前記洗浄溶液としてアンモニウムイオンを含む水溶液を用いて洗浄を行う、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 前記検出工程において、質量分析による検出を行う、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 前記質量分析において、マトリックス支援レーザー脱離イオン化型質量分析装置を用いる、(7)に記載の方法。
(9) 前記マトリックス支援レーザー脱離イオン化型質量分析装置において、0.1〜20mg/mLの濃度のマトリックスと、0.1〜10%(w/v)の濃度のマトリックス添加剤とを使用する、(8)に記載の方法。
本発明によれば、血液試料が少量の場合であっても、及び/又は血液試料中に微量にしか存在しない場合であっても、血液試料中のAβ1-40及びAβ1-42を含めAPP切断型ペプチドを検出することができる。さらに、本発明により、8種の新規なAPP切断型ペプチドが見出された。これら8種の新規なAPP切断型ペプチドは、脳脊髄液(CSF)中においても発見されていなかったものである。
本発明の測定方法は、アルツハイマー病の早期診断(PIB-PET前の1次スクリーニングとして)、経過観察、及び治療薬(抗アミロイド・ベータ抗体医薬、β−及びγ−セクレターゼモジュレーター等)の感受性評価ツール; アルツハイマー病発症に関する基礎研究分野におけるアミロイド前駆タンパク質(APP)切断メカニズム解析のためのツールとして利用できる。
アミロイド前駆タンパク質(APP)の分解による、Aβペプチド及びp3ペプチドの生成経路を模式的に示す図である。 図2(B)は、実施例1でのマススペクトルであり、図2(A)は、比較例1でのマススペクトルである。横軸はm/z、縦軸はイオンの相対強度である。 実施例2でのマススペクトルであり、図3(B)は、酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)での洗浄工程を追加した場合のマススペクトルであり、図3(A)は、酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)での洗浄工程を追加しなかった場合のマススペクトルである。 実施例3でのマススペクトルであり、図4(A)〜(C)はそれぞれ、次の濃度のマトリックス溶液とマトリックス添加剤溶液を用いた場合のマススペクトルである。(A) 5 mg/mL CHCA溶液 0.5 μL、及び2%(w/v) MDPNA0.5 μL(B) 1.5 mg/mL CHCA溶液 0.5 μL、及び0.6%(w/v) MDPNA0.5 μL(C) 0.5 mg/mL CHCA溶液 0.5 μL、及び0.2%(w/v) MDPNA0.5 μL 実施例4及び比較例2でのマススペクトルであり、図5(A)〜(E)はそれぞれ、次の溶出液を用いた場合のマススペクトルである。(A) 5mM HCl (比較例)(B) 5mM HCl/20%(v/v)アセトニトリル(C) 5mM HCl/25%(v/v)アセトニトリル(D) 5mM HCl/50%(v/v)アセトニトリル(E) 5mM HCl/70%(v/v)アセトニトリル 実施例5でのマススペクトルであり、図6(A)は、6E10/4G8 F(ab’)-固定化ビーズ 150 μgに対して5 mM塩酸を含む70%(v/v) アセトニトリル 2.5 μLを用いた溶出操作を行って得られたマススペクトルであり、図6(B)は、ヒト血漿サンプル250 μLに対して、Cysteine-PEG24ビーズ150 μgを用いてIP-MSを行ったときのマススペクトルであり、図6(C)は、ヒト血漿サンプル250 μLに対して、6E10/4G8 F(ab’)- 固定化ビーズ150 μgを用いてIP-MSを行ったときのマススペクトルである。 実施例6でのマススペクトルであり、図7(A)〜(E)はそれぞれ、次の結合溶液と洗浄溶液を用いた場合のマススペクトルである。(A)結合溶液 (1%(w/v) OTG, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 洗浄溶液(0.5%(w/v) OTG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)(B)結合溶液 (3%(w/v) OG, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 洗浄溶液(1.5%(w/v) OG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)(C)結合溶液 (0.3%(w/v) DM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 洗浄溶液(0.15%(w/v) DM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)(D)結合溶液 (0.03%(w/v) DDM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 洗浄溶液(0.015%(w/v) DDM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)(E)結合溶液 (0.4%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 洗浄溶液(0.2%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4) 実施例6でのマススペクトルであり、図8(D-1)〜(D-3)はそれぞれ、次の結合溶液と洗浄溶液を用いた場合のマススペクトルである。(D-1) 結合溶液 (0.03%(w/v) DDM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 洗浄溶液(0.015%(w/v) DDM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)(D-2) 結合溶液 (0.1%(w/v) DDM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 洗浄溶液(0.05%(w/v) DDM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)(D-3) 結合溶液 (0.3%(w/v) DDM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 洗浄溶液(0.15%(w/v) DDM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4) 実施例6でのマススペクトルであり、図9(E-1)〜(E-3)はそれぞれ、次の結合溶液と洗浄溶液を用いた場合のマススペクトルである。(E-1) 結合溶液 (0.4%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 洗浄溶液(0.2%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)(E-2) 結合溶液 (0.3%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 洗浄溶液(0.15%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)(E-3) 結合溶液 (0.2%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 洗浄溶液(0.1%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4) 実施例6でのマススペクトルであり、図10(A)及び(F)はそれぞれ、次の結合溶液と洗浄溶液を用いた場合のマススペクトルである。(A)結合溶液 (1%(w/v) OTG, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 洗浄溶液(0.5%(w/v) OTG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)(F)結合溶液 (0.2%(w/v) DDM, 0.2%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、 図11(B)は、実施例7でのマススペクトルであり、図11(A)は、比較例3でのマススペクトルである。 実施例8において、ヒト血漿から 6E10/4G8 F(ab’)固定化ビーズを用いた免疫沈降法によって精製されたAPP切断型ペプチドのMALDIススペクトルである。図12(A)は、Linear TOFのマススペクトルであり、図12(B)は、QIT reflectron TOFのマススペクトルである。横軸はm/z、縦軸はイオンの相対強度である。 実験例1において、MSで検出されたAPP切断型ペプチドのうち20種類の分子量関連イオンピークについてのMS/MS解析のマススペクトルである。図13(A)〜(B)は、それぞれのAPP切断型ペプチドについてのMS/MS解析のマススペクトルである。 図13の続きであり、図14(C)〜(D)は、それぞれのAPP切断型ペプチドについてのMS/MS解析のマススペクトルである。 図14の続きであり、図15(E)〜(F)は、それぞれのAPP切断型ペプチドについてのMS/MS解析のマススペクトルである。 図15の続きであり、図16(G)〜(H)は、それぞれのAPP切断型ペプチドについてのMS/MS解析のマススペクトルである。 図16の続きであり、図17(I)〜(J)は、それぞれのAPP切断型ペプチドについてのMS/MS解析のマススペクトルである。 図17の続きであり、図18(K)〜(L)は、それぞれのAPP切断型ペプチドについてのMS/MS解析のマススペクトルである。 図18の続きであり、図19(M)〜(N)は、それぞれのAPP切断型ペプチドについてのMS/MS解析のマススペクトルである。 図19の続きであり、図20(O)〜(P)は、それぞれのAPP切断型ペプチドについてのMS/MS解析のマススペクトルである。 図20の続きであり、図21(Q)〜(R)は、それぞれのAPP切断型ペプチドについてのMS/MS解析のマススペクトルである。 図21の続きであり、図22(S)〜(T)は、それぞれのAPP切断型ペプチドについてのMS/MS解析のマススペクトルである。
本発明の方法は、血液試料中のアミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドを測定する方法であって、
担体と、前記担体に結合した抗体とを含む抗体固定化担体に、血液試料を結合溶液中で接触させて、前記抗体固定化担体と前記血液試料中に含まれるAPP切断型ペプチドとを結合させる工程と、
前記抗体固定化担体と前記APP切断型ペプチドとの結合体を、洗浄溶液を用いて洗浄する工程と、
前記抗体固定化担体から前記APP切断型ペプチドを、有機溶媒を含む酸性水溶液を用いて解離させる工程と、
解離された前記APP切断型ペプチドを検出する工程と、
を含む。
[1.抗体固定化担体]
本発明において用いる抗体固定化担体は、担体に、アミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドを認識可能な抗原結合部位を持つ免疫グロブリン及び/又はアミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドを認識可能な抗原結合部位を含む免疫グロブリン断片が結合しているものである。免疫グロブリンとしては、IgG、IgM、IgA、IgY、IgD、及びIgEが挙げられる。IgG としては、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4等が挙げられる。アミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドを認識可能な抗原結合部位を持つ免疫グロブリン(以下、「抗APP切断型ペプチド抗体」とも言う)としては、例えば、6E10, 4G8, 1E11, 11A50-B10, 12F4, 9C4, 82E1, 12B2, 1A10等が挙げられる。なお、これらの抗体は、抗アミロイド・ベータ抗体として公知のものである。アミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドを認識可能な抗原結合部位を含む免疫グロブリン断片としては、例えば、F(ab’)2、F(ab’)、F(ab)、Fd、Fv、L鎖、及びH鎖からなる群から選ばれることができる。これらの中でも、Fc領域を有しない、免疫グロブリンF(ab’)断片、免疫グロブリンF(ab)断片、及びFv断片からなる群から選ばれることが、非特異的吸着を抑制する観点から好ましい。担体に固定化する抗APP切断型ペプチド抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれでもよい。本発明において用いる抗体固定化担体は、以上の抗APP切断型ペプチド抗体及び/又は抗APP切断型ペプチド抗体断片が、任意の方法により担体に固定化されたものを使用することができる。
用いる担体の素材としては、公知のものを使用することができ、例えば、アガロース、セファロース、デキストラン、シリカゲル、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、(メタ)アクリル酸系ポリマー、フッ素樹脂、金属錯体樹脂、ガラス、金属、及び磁性体からなる群から選ばれてよい。
担体の形状は、平面状、球状及びその他の形状を問わない。例えば、担体は、目的物質の分離及び/又は濃縮に用いられるチップ、ビーズ又はマイクロデバイス内の流路壁を構成するものであってよい。担体表面には、結合性官能基を有する。
前記抗体は、スペーサを介して前記担体に結合していてもよい。スペーサとしては、例えば高分子重合体が挙げられる。より具体的には、スペーサは、オキシアルキレン基を含有してよい。オキシアルキレン基含有基は2価の基であり、例えば炭素数2〜6のオキシアルキレン基含有基でありうる。より具体的には、オキシアルキレン基含有基におけるオキシアルキレンは、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドである。オキシアルキレン基含有基は、好ましくは有機高分子重合体、すなわちポリオキシアルキレン基含有基である。ポリオキシアルキレン基含有基は、炭素数2〜6のアルキレングリコールの重合(例えば重合度2〜40)によって生じるポリアルキレングリコール基であることが好ましい。例えば、ポリエチレングリコール基(エチレングリコールの重合によって生じる基)及びポリプロピレングリコール基(1,2−プロパンジオール又は1,3−プロパンジオールの重合によって生じる基)からなる群から選ばれうる。
また例えば、スペーサは、ポリオキシアルキル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルキルエーテル、ポリサッカライド、生分解性高分子、及び脂質重合体からなる群から選ばれる有機高分子重合体であってよい。ポリオキシアルキル化ポリオール及びポリビニルアルキルエーテルにおけるアルキル基は、例えば炭素数1〜6、好ましくは1〜3でありうる。ポリサッカライドの例としては、デキストラン、ムコ多糖、及びキチン類が挙げられる。ムコ多糖の例としては、ヒアルロン酸が挙げられる。生分解性高分子の例としては、PLA(ポリ乳酸;poly(lactic acid))及びPLGA(ポリ乳酸−グリコール酸;poly(lactic-glycolic acid))が挙げられる。
本発明におけるスペーサは、上述の例示の1種を含むものであってもよいし、上述の例示から任意に選択される2種以上を含むものであってもよい。また、スペーサは直鎖であってもよいし、分岐していてもよい。
本発明において用いる抗体固定化担体は、担体、及び抗体、及び用いる場合にはスペーサ物質のそれぞれの要素が有する、共有結合性官能基、イオン結合性官能基及び水素結合性官能基などの結合性官能基を介し、各々を、官能基の種類に応じて公知の方法により結合させることで調製することができる。
[2.結合工程]
まず、前記抗体固定化担体に、血液試料を結合溶液中で接触させて、前記抗体固定化担体と前記血液試料中に含まれるAPP切断型ペプチドとを結合させる。
血液試料には、全血、血漿及び血清などが含まれる。血液試料は、個体から採取された全血を、適宜処理することによって調製することができる。採取された全血から血液試料の調製を行う場合に行われる処理としては特に限定されず、臨床学的に許容されるいかなる処理が行われてよい。例えば遠心分離などが行われうる。また、結合工程に供される血液試料は、その調製工程の中途段階又は調製工程の後段階において、適宜冷凍など低温下での保存が行われたものであってよい。なお、本発明において血液試料は、由来元の個体に戻すことなく破棄される。血液試料を対象試料とすることは、試料採取が固体や脳脊髄液である場合に対して低侵襲であること、また、一般の健康診断や人間ドック等におけるアルツハイマー病、あるいは他の疾患のスクリーニングのための対象試料であることからも好ましい。
結合溶液としては、通常の免疫沈降法(IP)で用いられる結合溶液を用いることができる。結合溶液組成は、非特異的吸着を抑制するために界面活性剤を含んでいることが好ましい。前記界面活性剤としては、抗体等のタンパク質の変性を起こしにくく、洗浄工程で容易に除去でき、たとえ後段の検出工程に質量分析を使用する場合であって、質量分析において混入していたとしてもAPP切断型ペプチドのシグナルを抑制しない中性の界面活性剤が好ましい。具体的には、マルトースを親水性部分に持つ中性界面活性剤、トレハロースを親水性部分に持つ中性界面活性剤、及びグルコースを親水性部分に持つ中性界面活性剤等が挙げられる。これらの中性界面活性剤の疎水性部については、特に限定しないが、炭素数が7〜14程度のアルキル基が好ましい。結合溶液は、これらから選ばれる界面活性剤を含む中性緩衝液が好ましい。
マルトースを親水性部分に持つ中性界面活性剤としては、
n-Decyl-β-D-maltoside (DM) [cmc: 0.087%]
n-Dodecyl-β-D-maltoside (DDM) [cmc: 0.009%]
n-Nonyl-β-D-thiomaltoside (NTM) [cmc: 0.116%]
等が挙げられる。CMCは、臨界ミセル濃度である。
トレハロースを親水性部分に持つ中性界面活性剤としては、
α-D-Glucopyranosyl-α-Dglucopyranoside monooctanoate (Trehalose C8)[cmc: 0.262%]
α-D-Glucopyranosyl-α-Dglucopyranoside monododecanoate (Trehalose C12)[cmc: 0.008%]
α-D-Glucopyranosyl-α-Dglucopyranoside monomyristate (Trehalose C14)[cmc: 0.0007%]
等が挙げられる。
グルコースを親水性部分に持つ中性界面活性剤としては、
n-Octyl-β-D-thioglucoside (OTG) [cmc: 0.278%]
n-Octyl-β-D-glucoside (OG) [cmc: 0.731%]
n-Heptyl-β -D-thioglucoside (HTG) [cmc: 0.883%]
等が挙げられる。
上記の中性界面活性剤を1種又は複数を組み合わせて用いることができる。これらのうち、マルトースを親水性部分に持つ中性界面活性剤が好ましく、n-Dodecyl-β-D-maltoside (DDM) とn-Nonyl-β-D-thiomaltoside (NTM) との組み合わせが、後段の検出工程において質量分析を使用する場合、質量分析において、非特異的に抗体固定化担体へ吸着した物質のシグナルを減少しつつ、APP切断型ペプチドの強いシグナルが得られるので好ましい。
結合溶液としての中性緩衝液における界面活性剤濃度は、特に限定されないが、例えば、0.001〜10%(/v)であり、0.01〜5%(/v)が好ましく、0.05〜2%(/v)がより好ましい。このような界面活性剤濃度とすることにより、抗体と、結合されるべき対象APP切断型ペプチドとの結合反応が良好に得られやすい。中性緩衝液の中性とは、pH6.5〜8.5程度を意味する。また、緩衝液組成としては、Tris緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液などが挙げられる。
さらに、結合工程前に血液試料の前処理を実施した方が好ましい。この前処理は、例えば、血液試料に含まれるIgGやIgMなどの抗体の除去が行われる。血液試料中には、結合工程で用いる担体に固定化された抗体に結合する試料由来抗体が含まれている。よって、この試料由来抗体を結合工程前に除去することにより、当該試料由来抗体が結合工程で用いる抗体に結合することを防ぐことができる。試料由来の抗体の除去は、血液試料を、Protein G, Protein A, Protein L, 抗IgG抗体、抗IgM抗体、抗IgA抗体、抗IgY抗体、抗IgD抗体、抗IgE抗体などが結合している担体に接触させることにより行うことができる。
[3.洗浄工程]
次に、結合工程により得られた前記抗体固定化担体と前記APP切断型ペプチドとの結合体を、洗浄溶液を用いて洗浄する。
洗浄工程において、まず、前記洗浄溶液として界面活性剤を含む中性緩衝液を用いて洗浄を行い、その後、前記洗浄溶液としてアンモニウムイオンを含む水溶液を用いて洗浄を行うことが好ましい。
前記洗浄溶液としての界面活性剤を含む中性緩衝液は、上述した結合溶液としての界面活性剤を含む中性緩衝液と同様のものを用いることができる。まず、前記界面活性剤を含む中性緩衝液を用いて洗浄を行うことにより、不要成分、例えば疎水性の高い血中タンパク質、脂質、糖脂質などの通常の除去を行う。中性緩衝液の中性は、体液に近いpHが抗原抗体結合反応によく、例えば、pH6.5〜8.5が好ましく、pH7.0〜8.0がより好ましい。
その後、アンモニウムイオンを含む水溶液を用いて洗浄を行うことが好ましい。アンモニウムイオンを含む水溶液を用いて洗浄を行うと、抗体固定化担体表面上に残った界面活性剤を含む中性緩衝液に含まれる陽イオン金属を効率よく除去することができる。後段の検出工程において質量分析を使用した場合において陽イオン金属はイオンサプレッションを引き起こすが、アンモニウムイオンは揮発性の強い物質のため、イオンサプレッションを引き起こしにくい。その結果、結合された対象APP切断型ペプチドの分析の感度向上(S/N比の向上)に資することとなる。
アンモニウムイオンを含む水溶液としては、酢酸アンモニウム緩衝液、炭酸アンモニウム緩衝液等が挙げられる。また、アンモニウムイオンの濃度としては、特に限定されないが、例えば、5〜1,000mM程度とするとよく、50〜200mM程度としてもよい。抗体固定化担体の構成によって、適宜決定することができる。さらに、アンモニウムイオンを含む水溶液での洗浄後に、水で洗浄するとよい。
洗浄工程においては、担体表面を洗浄溶液の0.01〜500MPa、好ましくは0.05〜300MPa、さらに好ましくは0.1〜200MPaの流体圧に供することによって、不要な成分を除去することができる。上記範囲を下回ると、所望の洗浄効果が得られない傾向にある。上記範囲を上回ると、抗体と結合された対象APP切断型ペプチドとの結合が切断されるおそれがある。洗浄条件をより高圧で行うことにより、抗体固定化担体への非特異吸着物質の除去効率を向上させ、その結果、結合された対象APP切断型ペプチドの分析の感度向上(S/N比の向上)に資することとなる。
なお、洗浄の具体的手法は特に限定されるものではない。例えば球状担体の場合は、洗浄液内で撹拌することによって洗浄することができる。平面担体の場合は、洗浄ノズルから高圧洗浄液を噴射することによって洗浄することができる。より具体的には、平面担体上における特定の領域を高圧洗浄するために、当該領域の面積に応じた内径を有する洗浄ノズルを用いることができる。このノズルは、例えば二重管で構成され、内管は担体表面へ洗浄液を噴射する注水専用として、外管は担体表面へ噴射した洗浄液を吸引する排水専用として機能させることができる。
[4.解離工程]
次に、洗浄後の前記抗体固定化担体と前記APP切断型ペプチドとの結合体について、前記抗体固定化担体から前記APP切断型ペプチドを、有機溶媒を含む酸性水溶液を溶出液として用いて解離させる。
抗原が結合している抗体(抗原抗体複合体)から抗原を解離させるために、酸性水溶液を抗原抗体複合体に接触させることが一般的である。本発明においては、有機溶媒を含む酸性水溶液を用いて、前記APP切断型ペプチドが結合している抗体固定化担体から前記APP切断型ペプチドを解離させ、溶出させる。この際の有機溶媒としては、水と任意の割合で混和する有機溶媒、例えば、アセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、クロロホルム等が挙げられる。また、酸性水溶液中の有機溶媒の濃度は、特に限定されないが、例えば、10〜90%(v/v)程度とするとよく、20〜80%(v/v)程度とすることが好ましく、25〜70%(v/v)程度とすることがより好ましい。上記範囲の酸性水溶液中の有機溶媒の濃度とすると、前記担体から前記APP切断型ペプチドの解離が効率よく起こる。その結果、結合された対象APP切断型ペプチドの分析の感度向上(S/N比の向上)に資することとなる。上記有機溶媒の濃度が10%(v/v)未満であると、有機溶媒の効果が得られず、前記APP切断型ペプチドの解離の効率はよくない。一方、上記有機溶媒の濃度が90%(v/v)を超えると、有機溶媒の効果は十分に得られ、前記APP切断型ペプチドの解離の効率が高まる。例えば、5mM酢酸に70%(v/v)アセトニトリルを含んだ水溶液を用いることと、より高い溶出効率が得られやすい。酸性水溶液の酸性とは、pH1〜3.5程度を意味する。
通常、解離に用いた有機溶媒を含む酸性水溶液を溶出液としても用いて、担体から解離された前記APP切断型ペプチドを溶出させることができる。あるいは、当業者が溶出液を適宜選択するとよい。
解離工程においては、担体表面を溶出液に接触させることにより前記APP切断型ペプチドを解離させて、溶出させることができる。必要に応じて、溶出液内で担体を攪拌してもよい。
[5.検出工程]
次に、解離され溶出された前記APP切断型ペプチドを、適切な検出系によって検出する。
本発明においては、検出系の例としての、放射活性測定、酵素活性測定、蛍光強度測定、及び発光強度測定による検出系を用いることができる。例えば、いかなる固相免疫測定法による検出系が選択されてもよい。例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、エンザイムイムノアッセイ(EIA, ELISA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)等による検出系が選択される。当業者はこれらの検出系に応じた標識(放射性同位元素、酵素、蛍光物質及び化学発光物質からなる群から選ばれる)を、適宜、抗体に結合させておくことができる。
本発明においては、上述の検出系以外の例としての、表面プラズモン共鳴(SPR)、和周波発生(SFG)、局在プラズモン共鳴(LPR)及びエリプソメトリ等の光学的検出系を用いることが好ましい。このような光学的検出系を用いる場合、上述の検出系とは異なり、標識を必要としない。
本発明においては、上述の検出系以外のさらなる例としての質量分析による検出系を用いることも好ましい。この場合に用いられる質量分析法は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析法などによる質量分析法であることが好ましい。例えば、MALDI-TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間)型質量分析装置、MALDI-IT(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−イオントラップ)型質量分析装置、MALDI-IT-TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−イオントラップ−飛行時間)型質量分析装置、MALDI-FTICR(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)型質量分析装置、ESI-QqQ(エレクトロスプレーイオン化−三連四重極)型質量分析装置、ESI-Qq-TOF(エレクトロスプレーイオン化−タンデム四重極−飛行時間)型質量分析装置、ESI -FTICR(エレクトロスプレーイオン化−フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)型質量分析装置等を用いることができる。
マトリックス及びマトリックス溶媒は、分析対象(APP切断型ペプチド)に応じて当業者が適宜決定することができる。
マトリックスとしては、例えば、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5−DHB)、シナピン酸、3−アミノキノリン(3−AQ)等を用いることができる。
マトリックス溶媒としては、例えば、アセトニトリル(ACN)、トリフルオロ酢酸(TFA)、メタノール、エタノール及び水からなる群から選択して用いることができる。より具体的には、ACN−TFA水溶液、ACN水溶液、メタノール−TFA水溶液、メタノール水溶液、エタノール−TFA水溶液、エタノール溶液などを用いることができる。ACN−TFA水溶液におけるACNの濃度は例えば10〜90体積%であり、TFAの濃度は例えば0.05〜1体積%、好ましくは0.05〜0.1体積%でありうる。
マトリックス濃度は、例えば0.1〜50mg/mL、好ましくは0.1〜20mg/mL、あるいは0.3〜20mg/mL、さらに好ましくは0.5〜10mg/mLでありうる。
MALDI質量分析による検出系を用いる場合、マトリックス添加剤(コマトリックス)が併用されることが好ましい。マトリックス添加剤は、分析対象(APP切断型ペプチド)及び/又はマトリックスに応じて当業者が適宜選択することができる。例えば、マトリックス添加剤として、ホスホン酸基含有化合物を用いることができる。具体的には、ホスホン酸基を1個含む化合物として、ホスホン酸(Phosphonic acid)、メチルホスホン酸(Methylphosphonic acid)、フェニルホスホン酸(Phenylphosphonic acid)、及び1-ナフチルメチルホスホン酸(1-Naphthylmethylphosphonic acid)等が挙げられる。また、ホスホン酸基を2個以上含む化合物として、メチレンジホスホン酸(Methylenediphosphonic acid;MDPNA)、エチレンジホスホン酸(Ethylenediphosphonic acid)、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸(Ethane-1-hydroxy-1,1-diphosphonic acid)、ニトリロトリホスホン酸(Nitrilotriphosphonic acid)、及びエチレンジアミノテトラホスホン酸(Ethylenediaminetetraphosphonic acid)等が挙げられる。上記のホスホン酸基含有化合物の中でも、1分子中に2以上、好ましくは2〜4個のホスホン酸基を有する化合物が好ましい。
ホスホン酸基含有化合物の使用は、例えば抗体固定化担体表面に残存した洗浄溶液の金属イオンが解離工程後の溶出液に混入した場合に有用である。この金属イオンは質量分析においてバックグラウンドへ悪影響を与える。ホスホン酸基含有化合物の使用には、このような悪影響を抑制する効果がある。前述したように、洗浄工程において、アンモニウムイオンを含む水溶液を用いて洗浄を行うことと共に、S/N比向上のために好ましい。
なお、上記マトリックス添加剤以外にも、より一般的な添加剤、例えばアンモニウム塩及び有機塩基からなる群から選ばれる物質が使用されても良い。
マトリックス添加剤は、水中又はマトリックス溶媒中0.1〜10w/v%、好ましくは0.2〜4w/v%の溶液に調製することができる。マトリックス添加剤溶液及びマトリックス溶液は、例えば、1:100〜100:1、好ましくは1:10〜10:1の体積比で混合することができる。
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。以下において%で示される物の量は、特に断りがない場合は、その物が固体である場合は重量基準、液体である場合は体積基準で示されている。
[実施例1及び比較例1:解離工程での有機溶媒の有無の比較]
(1) F(ab’)固定化ビーズの作製
ヒト血漿中のAPP切断型ペプチドを抗体固定化担体へ結合させ、得られたAPP切断型ペプチドと抗体固定化担体の結合体を洗浄し、その後、抗体固定化担体からAPP切断型ペプチドを解離させる工程を、免役沈降法を用いて実施した。免役沈降法で用いる抗体固定化担体はF(ab’) 固定化ビーズを使用した。F(ab’) 固定化ビーズの作製方法は次の通りである。
アミロイド・ベータの第3−8残基をエピトープとする抗アミロイド・ベータ抗体(6E10)250μgを Ficin アガロースビーズ (Thermo) 1250 μL(33%スラリー)により消化、アミロイド・ベータの第18−22残基をエピトープとする抗アミロイド・ベータ抗体 (4G8) 100 μgをリシルエンドペプチダーゼ (LysC) 500 ngにより消化し、それぞれの消化物をサイズ排除クロマトグラフィーで分離・分取した。分画したサンプルを還元および非還元 SDS-PAGE で確認し、F(ab')2 に相当するフラクションをプールした。この 6E10 と 4G8 の F(ab')2 画分をそれぞれ30mMの濃度の cysteamine で還元することにより F(ab') が得られた。次に、アミノ磁気ビーズ (Dynabeads(登録商標) M-270 Amine: Invitrogen) 5 μL(ビーズ量150 μg)を用意し、その表面に結合しているアミノ基に SM(PEG)24 の NHS基を室温で30分間反応させることで、PEGとビーズを共有結合させた。磁気ビーズに結合された SM(PEG) 24 に、6E10 F(ab')と 4G8 F(ab')を 0.25 μgずつ同時に加えたもの、もしくは 6E10 F(ab')単独で 0.5 μg加えたものを室温で2時間反応させてマレイミド基とチオール基を共有結合させた。最後に、0.4 mM L-システインを室温で30分間反応させることで、マレイミド基のブロッキングを行った。作製された 、6E10のF(ab’)及び4G8のF(ab')が固定されたビーズ(6E10/4G8 F(ab')固定化ビーズ)、もしくは、6E10単独の F(ab’)が固定化されたビーズ(6E10 F(ab') 固定化ビーズ)は使用するまで4℃で保存した。
(2)免疫沈降法(IP)の前処理
ヒト血漿 50 μL(C.C Biotech社)に等量の結合溶液 (2%(w/v) n-オクチル-β-D-チオグリコシド(OTG), 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)を混合させた後、10%(w/v) PEG6000 (ナカライ)をヒト血漿の1/50量(例えば、ヒト血漿 50 μLに対して10%(w/v) PEG6000 を0.5 μL)を添加した。この血漿サンプルに含まれる沈殿物はUltrafree-MC, DV 0.65 μm, centrifugal filter devices (Millipore, Cork, IR)を用いたフィルター遠心により除去した。Protein G Plus Agarose (50% slurry; Pierce, Rockford, IL)をH2Oで1回洗浄後、洗浄溶液(1%(w/v) OTG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)で3回洗浄した。この時に用いたProtein G Plus Agarose (50% slurry)の量は、ヒト血漿の2倍量(例えば、ヒト血漿 50 μLに対してProtein G Plus Agarose 100 μL)である。また、このProtein G Plus Agaroseを洗浄するために用いたH2Oおよび洗浄溶液の容量は1回の洗浄につき、Protein G Plus Agarose の4/5量(例えば、Protein G Plus Agarose 100 μLに対してH2Oおよび洗浄溶液80 μL)である。そのProtein G Plus Agaroseに先ほどの、沈殿物除去後の血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することにより血漿中に含まれている抗体をProtein G Plus Agaroseへ結合させた。その後、血漿サンプルからProtein G Plus Agaroseを取り除いた。
(3)免疫沈降法(IP)(ヒト血漿からの、F(ab’) 固定化ビーズによるAPP切断型ペプチドの結合、及び解離・溶出)
OTG-glycineバッファー(1%(w/v) OTG, 50mM glycine , pH2.8)で2回洗浄、前記洗浄溶液100 μLで3回洗浄された6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズ 150 μgに、前記前処理により抗体を取り除いた血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することにより、ビーズへAPP切断型ペプチドを結合させた。その後、前記洗浄溶液500 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行い、前記洗浄溶液100 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を4回行った。さらにH2O 20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行った後、溶出液として3 mM 塩酸5μLを用いた場合[比較例1、図2(A)]、又は3 mM 塩酸を含む50%(v/v) アセトニトリル 5 μLを用いた場合[実施例1、図2(B)]の2条件において、各々の溶出液中でビーズを攪拌することにより、6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズに結合されたAPP切断型ペプチドを解離させて、溶出液中へ放出させた。その溶出液を0.5 μL取り、μFocus MALDI plateTM 900 μm (Hudson Surface Technology, Inc., Fort Lee, NJ)上へ滴下した。
(4)MALDI-TOF MS (MALDI-TOF MSによる、溶出させたAPP切断型ペプチドの検出)
検出工程はMALDI-TOF MSを用いた。マススペクトルデータはAXIMA(登録商標) Performance (Shimadzu/KRATOS, Manchester, UK)を用いて、ポジティブイオンモードのLinear TOFで取得した。1wellに対して2500ショットずつ積算した。Linear TOF用のマトリックスとしてα-cyano-4-hydroxycinnamic acid (CHCA)を用いた。マトリックス溶液はCHCA 5mgを70%(v/v) アセトニトリル 1mLで溶解することによって調製した。マトリックス添加剤として、2%(w/v) methanediphosphonic acid (MDPNA)を用いた。5 mg/mL CHCA溶液 0.5 μLと2%(w/v) MDPNA 0.5 μLをμFocus MALDI plate上で溶出液に加えた。
本実施例で用いた方法は、免疫沈降法の後に質量分析で検出するため、IP-MSと呼ばれる。
ピークの検出限界の基準はS/N比3以上とした。Linear TOFのm/z値はピークのアベレージマスで表示した。m/z値は外部標準としてhuman angiotensin IIとhuman ACTH fragment 18-39、bovine insulin oxidized beta-chain、bovine insulinを用いてキャリブレーションした。
抗体抗原結合は、水素結合やクローンの静電気力、van der Waalsの力、疎水結合が組み合わさって結合を安定させている。抗体から抗原を解離させる条件は、酸性の溶液を用いることが一般的である。しかし、それだけでは抗原と抗体を解離させるためには不十分である。疎水結合をも切断させるために、有機溶媒であるアセトニトリルを50%(v/v)加えることによるAβ1-40の溶出効果を調べた。
図2(B)は、実施例1でのマススペクトルであり、図2(A)は、比較例1でのマススペクトルである。図2(B)に示されるように、3 mM 塩酸を含む50%(v/v) アセトニトリルで溶出させると、マススペクトルにおいてS/N比が2.77ではあるが、Aβ1-40のピークがみられた。一方、図2(A)に示されるように、(アセトニトリルを含まない)3 mM 塩酸で溶出させると、マススペクトルにおいてAβ1-40のピークがみられなかった。このことにより、APP切断型ペプチドが結合されているビーズからのAPP切断型ペプチドの解離には酸だけでなく有機溶媒を用いた方が溶出効率が高いことが示された。
しかしながら、非特異的に6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズへ結合した分子(m/z:3765)もAβ1-40と共に、より多く溶出されて強いシグナルとして検出された。m/z:3765に現れるピークが非特異的なピークである根拠については後述する。
[実施例2:APP切断型ペプチドと抗体固定化担体の結合体の洗浄工程における酢酸アンモニウム緩衝液の有無の比較]
洗浄工程で用いられる洗浄溶液にはTris緩衝液やリン酸緩衝液などの緩衝液を使用することが多いが、その溶液中にはカリウムやナトリウムなどの陽イオン金属元素が含まれている。MALDI-TOF MS測定において陽イオン金属元素の混入は、目的ピークのシグナルを減少させるため、できるだけ金属元素の混入を避ける必要がある。陽イオン金属元素をMALDI-TOF MS測定に混入させない方法として、洗浄工程に酢酸アンモニウム緩衝液による洗浄を追加した。アンモニウムイオンは揮発性のため、MALDI-TOF MSのシグナルをほとんど減少させない。洗浄溶液(1%(w/v) OTG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)で洗浄した後、残存している洗浄溶液の陽イオン金属元素を除去する目的で酢酸アンモニウム緩衝液を用いた。また、界面活性剤が溶液中に存在していると6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズが磁石へ集積しやすく、洗浄操作がしやすいため、0.1%(w/v) OTGも酢酸アンモニウム緩衝液へ加えた。
免疫沈降法の前処理と、免役沈降法は次のとおりに実施した。
ヒト血漿500 μL(C.C Biotech社)に等量の結合溶液 (2%(w/v) n-オクチル-β-D-チオグリコシド(OTG), 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)を混合させた後、10%(w/v) PEG6000を10 μL添加した。この血漿サンプルに含まれる沈殿物はUltrafree-MC, DV 0.65 μm, centrifugal filter devicesを用いたフィルター遠心により除去した。Protein G Plus Agarose 1000 μLをH2Oで1回洗浄後、洗浄溶液(1%(w/v) OTG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)で3回洗浄した。このProtein G Plus Agaroseに先ほどの血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することにより血漿中に含まれている抗体をProtein G Plus Agaroseへ結合させた。その後、血漿サンプルからProtein G Plus Agaroseを取り除いた。
OTG-glycineバッファー(1%(w/v) OTG, 50mM glycine , pH2.8)で2回洗浄、前記洗浄溶液100 μLで3回洗浄された6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズ 150 μgに、抗体を取り除いた血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することによりAPP切断型ペプチドと結合させた。その後、前記洗浄溶液1000 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行い、前記洗浄溶液100 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を4回行った。その後、0.1%(w/v) OTG/200mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を2回行った。ここで、この酢酸アンモニウム緩衝液により2回洗浄する工程を追加した場合(図3(B))と、追加しなかった場合(図3(A))の2通りの処理を実施した。さらにH2O 20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行った後、3 mM 塩酸を含む50%(v/v) アセトニトリル 5 μLでビーズを攪拌することにより、6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズに結合したAPP切断型ペプチドを解離させ、溶出させた。その溶出液を0.5 μL取り、μFocus MALDI plateTM 900 μm上へ滴下した。
図3は、実施例2でのマススペクトルであり、図3(B)は、酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)による洗浄を追加した場合のマススペクトルであり、図3(A)は、酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)による洗浄を追加しなかった場合のマススペクトルである。図3(A),(B)に示されるように、0.1%(w/v) OTG/200mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)で洗浄すると、Aβ1-40のピークと非特異的ピーク(m/z:3765)の両方ともS/N比が向上した。0.1%(w/v) OTG/200mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)による洗浄の効果があったことが示された。
[実施例3:MALDI-TOF MSで使用されるマトリックスの濃度によるS/N比の改善]
測定対象のペプチド量に応じて使用するマトリックス濃度及び/又はマトリックス添加剤濃度を最適化することによって、良好なMSシグナルを得ることができる。CHCAとMDPNAの濃度を検討した。
免疫沈降法の前処理と、免疫沈降法は次の通りに実施した。
ヒト血漿250 μL(C.C Biotech社)に等量の結合溶液 (2%(w/v) n-オクチル-β-D-チオグリコシド(OTG), 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)を混合させた後、10%(w/v) PEG6000を5 μL添加した。この血漿サンプルに含まれる沈殿物はUltrafree-MC, DV 0.65 μm, centrifugal filter devicesを用いたフィルター遠心により除去した。Protein G Plus Agarose 500 μLをH2Oで1回洗浄後、洗浄溶液(1%(w/v) OTG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)で3回洗浄した。このProtein G Plus Agaroseに先ほどの血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することにより血漿中に含まれている抗体をProtein G Plus Agaroseへ結合させた。その後、血漿サンプルからProtein G Plus Agaroseを取り除いた。
OTG-glycineバッファー(1%(w/v) OTG, 50mM glycine , pH2.8)で2回洗浄、前記洗浄溶液100 μLで3回洗浄された6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズ 150 μgに、抗体を取り除いた血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することによりAPP切断型ペプチドと結合させた。その後、前記洗浄溶液500 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行い、前記洗浄溶液100 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を4回行った。その後、0.1%(w/v) OTG/200mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を2回行った。さらにH2O 20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行った後、3 mM 塩酸を含む50%(v/v) アセトニトリル 5 μLでビーズを攪拌することにより、6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズに結合されたAPP切断型ペプチドを解離させ、溶出させた。その溶出液を0.5 μL取り、μFocus MALDI plateTM 900 μm上へ滴下した。
下記の濃度のマトリックス溶液とマトリックス添加剤溶液を用いて溶出サンプルと混合した。
(A) 5 mg/mL CHCA溶液 0.5 μL、及び2%(w/v) MDPNA0.5 μL
(B) 1.5 mg/mL CHCA溶液 0.5 μL、及び0.6%(w/v) MDPNA0.5 μL
(C) 0.5 mg/mL CHCA溶液 0.5 μL、及び0.2%(w/v) MDPNA0.5 μL
図4は、実施例3でのマススペクトルであり、図4(A)は、上記(A)の場合のマススペクトルであり、図4(B)は、上記(B)の場合のマススペクトルであり、図4(C)は、上記(C)の場合のマススペクトルである。図4(A)〜(C)に示されるように、(C) 0.5 mg/mL CHCA溶液 0.5 μL及び0.2%(w/v) MDPNA0.5 μLの組み合わせが最も良いAβ1-40のS/N比を示した。
[実施例4及び比較例2:解離工程での有機溶媒濃度の比較]
溶出に最適なアセトニトリル濃度を検討した。
免疫沈降法の前処理と、免疫沈降法は次のとおりに実施した。
ヒト血漿250 μL(Tennessee Blood Services社)に等量の結合溶液 (0.2%(w/v) DDM, 0.2%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)を混合させた。この血漿サンプルに含まれる沈殿物はUltrafree-MC, DV 0.65 μm, centrifugal filter devicesを用いたフィルター遠心により除去した。Protein G Plus Agarose 500 μLをH2Oで1回洗浄後、洗浄溶液(0.1%(w/v) DDM, 0.1%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)で3回洗浄した。このProtein G Plus Agaroseに先ほどの血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することにより血漿中に含まれている抗体をProtein G Plus Agaroseへ結合させた。その後、血漿サンプルからProtein G Plus Agaroseを取り除いた。
OTG-glycineバッファー(1%(w/v) OTG, 50mM glycine , pH2.8)で2回洗浄、前記洗浄溶液100 μLで3回洗浄された6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズ 150 μgに、抗体を取り除いた血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することによりAPP切断型ペプチドと結合させた。その後、前記洗浄溶液500 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行い、前記洗浄溶液100 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を4回行った。その後、50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を2回行った。さらにH2O 20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行った後、5種類の溶出液 2.5 μLで6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズに結合されたAPP切断型ペプチドを解離させ、溶出した。その溶出液0.5 μLをμFocus MALDI plateTM 900 μm上へ滴下し、0.5 mg/mL CHCA溶液 0.5 μLと0.2%(w/v) MDPNA 0.5 μLを混合した。マススペクトルデータは、1wellに対して16000ショットずつ積算した。溶出液としては下記の5通りを使用した。
(A) 5mM HCl (比較例)
(B) 5mM HCl/20%(v/v)アセトニトリル
(C) 5mM HCl/25%(v/v)アセトニトリル
(D) 5mM HCl/50%(v/v)アセトニトリル
(E) 5mM HCl/70%(v/v)アセトニトリル
図5は、実施例4及び比較例2でのマススペクトルであり、図5(A)は、上記(A)の場合のマススペクトルであり、図5(B)は、上記(B)の場合のマススペクトルであり、図5(C)は、上記(C)の場合のマススペクトルであり、図5(D)は、上記(D)の場合のマススペクトルであり、図5(E)は、上記(E)の場合のマススペクトルである。図5(A)〜(E)に示されるように、5mM HCl のみではAβ1-40シグナルを全く検出できなかった。5mM HClにアセトニトリルを加えることによりAβ1-40シグナルを検出できるようになり、25、50、70%(v/v)アセトニトリルにおいて良好なAβ1-40シグナルが得られた。
[実施例5:MSで検出される血漿由来非特異的ピーク]
以上の実施例で得られたマススペクトルにおいて検出されるm/z:3765付近のピークがマススペクトルで検出される原因が、血漿サンプル由来の分子が担体のビーズに非特異的に吸着することにより引き起こされているか否かを検証した。
まず、6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズ 150 μgに対して5 mM塩酸を含む70%(v/v) アセトニトリル 2.5 μLを用いた解離工程を行って解離させて溶出させたサンプルをMS測定したが、m/z:3765のピークは検出されなかった(図6(A))。このことから、m/z:3765のピークは、6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズ自体から解離され、溶出されている分子由来ではないことが判明した。
次に、実施例1の F(ab’) 固定化ビーズの作製において、6E10と4G8を結合させないで作製したCysteine-PEG24ビーズを準備した。このCysteine-PEG24ビーズ150 μgを用いて免疫沈降法を行った。
免疫沈降法の前処理と、免疫沈降法は次のとおりに実施した。
ヒト血漿250 μL(C.C Biotech社)に等量の結合溶液 (1%(w/v) n-オクチル-β-D-チオグリコシド(OTG), 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)を混合させた後、10%(w/v) PEG6000を5 μL添加した。この血漿サンプルに含まれる沈殿物はUltrafree-MC, DV 0.65 μm, centrifugal filter devicesを用いたフィルター遠心により除去した。Protein G Plus Agarose 500 μLをH2Oで1回洗浄後、洗浄溶液(0.5%(w/v) OTG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)で3回洗浄した。このProtein G Plus Agaroseに先ほどの血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することにより血漿中に含まれている抗体をProtein G Plus Agaroseへ結合させた。その後、血漿サンプルからProtein G Plus Agaroseを取り除いた。
OTG-glycineバッファー(1%(w/v) OTG, 50mM glycine , pH2.8)で2回洗浄、前記洗浄溶液100 μLで3回洗浄されたCysteine-PEG24ビーズ、または6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズ 150 μgに、抗体を取り除いた血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和した。その後、前記洗浄溶液500 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行い、前記洗浄溶液100 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を4回行った。その後、0.1%(w/v) OTG/200mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を2回行った。さらにH2O 20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行った後、5 mM塩酸を含む70%(v/v) アセトニトリル 2.5 μLでビーズを攪拌することにより、Cysteine-PEG24ビーズ、または6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズに結合された分子を解離させ、溶出させた。その溶出液0.5 μLをμFocus MALDI plateTM 900 μm上へ滴下し、0.5 mg/mL CHCA溶液 0.5 μLと0.2%(w/v) MDPNA 0.5 μLを混合した。マススペクトルデータは、1wellに対して16000ショットずつ積算した。
図6は、実施例5でのマススペクトルであり、図6(A)は、6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズ 150 μgに対して5 mM塩酸を含む70%(v/v) アセトニトリル 2.5 μLを用いた溶出工程を行って得られたマススペクトルであり、図6(B)は、ヒト血漿サンプル250 μLに対して、Cysteine-PEG24ビーズ150 μgを用いてIP-MSを行ったときのマススペクトルであり、図6(C)は、ヒト血漿サンプル250 μLに対して、6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズ150 μgを用いてIP-MSを行ったときのマススペクトルである。
図6(B)に示されるようにm/z:3765の強いピークが検出された。このm/z:3765のピークは6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズ 150 μgを用いた免疫沈降でも検出された(図6(C))。図6(A)〜(C)の結果から、m/z:3765のピークはヒト血漿サンプル由来の分子であり、担体のビーズに非特異的に吸着し、解離工程により解離・溶出することによりMSで検出されることが証明された。
[実施例6:結合溶液及び洗浄溶液に含まれる界面活性剤の種類によるMSシグナルへの影響]
実施例5により、マススペクトル中に検出されるm/z3765付近のピークは、担体のビーズに非特異的に吸着したヒト血漿サンプル由来分子であることが分かった。結合溶液及び洗浄溶液に加えている界面活性剤は非特異的な結合を抑えるために使用しているが、その種類によって抗原抗体の結合力および非特異的吸着は変化する。OTGの他に下記の界面活性剤を使用することによるMSスペクトルへの影響を調べた。[ ]内には、各界面活性剤の臨界ミセル濃度(cmc)を表示した。
(1) n-Octyl- β -D-thioglucoside (OTG) [cmc: 0.278%]
(2) n-Octyl- β -D-glucoside (OG) [cmc: 0.731%]
(3) n-Decyl- β -D-maltoside (DM) [cmc: 0.087%]
(4) n-Dodecyl- β -D-maltoside (DDM) [cmc: 0.009%]
(5) n-Nonyl-β-D-thiomaltoside (NTM) [cmc: 0.116%]
上記の界面活性剤を含む結合溶液および洗浄溶液を下記のとおり作製し、これらの結合溶液および洗浄溶液を用いて、ヒト血漿サンプル250 μL(Tennessee Blood Services社)に対して免疫沈降法を行った。
免疫沈降法の前処理と、免疫沈降法は次のとおりに実施した。
ヒト血漿250 μL(Tennessee Blood Services社)に等量の結合溶液を混合させた。この血漿サンプルに含まれる沈殿物はUltrafree-MC, DV 0.65 μm, centrifugal filter devicesを用いたフィルター遠心により除去した。Protein G Plus Agarose 500 μLをH2Oで1回洗浄後、洗浄溶液で3回洗浄した。このProtein G Plus Agaroseに先ほどの血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することにより血漿中に含まれている抗体をProtein G Plus Agaroseへ結合させた。その後、血漿サンプルからProtein G Plus Agaroseを取り除いた。
OTG-glycineバッファー(1%(w/v) OTG, 50mM glycine , pH2.8)で2回洗浄、前記洗浄溶液100 μLで3回洗浄された6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズ 150 μgに、抗体を取り除いた血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することによりAPP切断型ペプチドと結合させた。その後、前記洗浄溶液500 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行い、前記洗浄溶液100 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を4回行った。その後、50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を2回行った。さらにH2O 20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行った後、5 mM塩酸を含む70%(v/v) アセトニトリル 2.5 μLで6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズに結合されたAPP切断型ペプチドを解離させ、溶出した。その溶出液0.5 μLをμFocus MALDI plateTM 900 μm上へ滴下し、0.5 mg/mL CHCA溶液 0.5 μLと0.2%(w/v) MDPNA 0.5 μLを混合した。マススペクトルデータは、1wellに対して16000ショットずつ積算した。この時に使用した結合溶液と洗浄溶液は下記(A)〜(E)に示すとおりである。
(A)結合溶液(1%(w/v) OTG, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.5%(w/v) OTG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
(B)結合溶液(3%(w/v) OG, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(1.5%(w/v) OG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
(C)結合溶液(0.3%(w/v) DM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.15%(w/v) DM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
(D)結合溶液(0.03%(w/v) DDM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.015%(w/v) DDM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
(E)結合溶液(0.4%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.2%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
図7は、実施例6でのマススペクトルであり、図7(A)は、上記(A)の場合のマススペクトルであり、図7(B)は、上記(B)の場合のマススペクトルであり、図7(C)は、上記(C)の場合のマススペクトルであり、図7(D)は、上記(D)の場合のマススペクトルであり、図7(E)は、上記(E)の場合のマススペクトルである。
図7(A)〜(E)に示されるように、OGを含む溶液では、非特異的吸着分子由来ピーク(以下、非特異的ピークともいう)(m/z:3764.5)が非常に強く検出され、Aβ1-40シグナルはOTGの時よりも若干強くなった(図7(B))。DMを含む溶液では、非特異的ピーク(m/z:3765.1)が強く検出され、Aβ1-40シグナルも若干強くなった(図7(C))。DDMを含む溶液では、非特異的ピーク(m/z:3764.8)が強く検出され、Aβ1-40シグナルも強く検出された(図7(D))。NTMを含む溶液では、非特異的ピーク(m/z:3764.8)が検出されなくなったが、OTGの時よりもAβ1-40シグナルが減少した(図7(E))。これらの結果から、特にDDMでは非特異的ピークとAβ1-40のシグナルが両方とも強く検出されること、NTMでは逆に非特異的ピークとAβ1-40のシグナルが両方とも抑制される効果があることがわかった。
このようにDDMでは、OTG使用時よりもマススペクトルにおけるAβ1-40のピークのシグナル強度が高かったが、非特異的ピークのシグナル強度も高いことがわかった。そのため、非特異的吸着を抑制することを目的としてDDM濃度を高くして免疫沈降法を行った。使用した結合溶液および洗浄溶液の組成は下記のとおりである。
(D-1) 結合溶液 (0.03%(w/v) DDM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.015%(w/v) DDM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
(D-2) 結合溶液 (0.1%(w/v) DDM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.05%(w/v) DDM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
(D-3) 結合溶液 (0.3%(w/v) DDM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.15%(w/v) DDM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
図8は、実施例6でのマススペクトルであり、図8(D-1)は、上記(D-1)の場合のマススペクトルであり、図8(D-2)は、上記(D-2)の場合のマススペクトルであり、図8(D-3)は、上記(D-3)の場合のマススペクトルである。
結合溶液及び洗浄溶液におけるDDM濃度を(D-1)の条件から (D-2)の条件へと高くすることにより、Aβ1-40のシグナルを抑制せずに非特異的ピーク(m/z:3764.8)のシグナルを減少することに成功した(図8)。DDM濃度をさらに (D-3)の条件へと高くしても効果は(D-2)の時と変化は無かった。
次に、図7においてNTMは非特異的ピーク(m/z:3764.8)は検出されなかったが、同時にAβ1-40のシグナルは減少した。Aβ1-40のシグナルを高めることを目的として、NTM濃度を低くして免疫沈降法を行った。使用した結合溶液および洗浄溶液の組成は下記のとおりである。
(E-1) 結合溶液 (0.4%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.2%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
(E-2) 結合溶液 (0.3%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.15%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
(E-3) 結合溶液 (0.2%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.1%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
図9は、実施例6でのマススペクトルであり、図9(E-1)は、上記(E-1)の場合のマススペクトルであり、図9(E-2)は、上記(E-2)の場合のマススペクトルであり、図9(E-3)は、上記(E-3)の場合のマススペクトルである。
結合溶液及び洗浄溶液におけるNTM濃度を(E-1) から(E-2)へ低くすることにより、Aβ1-40のシグナルを増加できたが、非特異的ピーク(m/z:3764.8)も検出されるようになった(図9)。NTM濃度をさらに (E-3)の条件へ低くしても(E-2)の場合と変化は無かった。
最後に、シグナルを増加させる効果を持つDDMとシグナルを抑制させる効果を持つNTMを混合させた結合溶液および洗浄溶液を用いて、免疫沈降法を行った。使用した結合溶液および洗浄溶液の組成は下記の通りである。
(F)結合溶液 (0.2%(w/v) DDM, 0.2%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.1%(w/v) DDM, 0.1%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
(A)結合溶液 (1%(w/v) OTG, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.5%(w/v) OTG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)
この(A)は、前述のものと同じである。
図10は、実施例6でのマススペクトルであり、図10(F)は、上記(F)の場合のマススペクトルであり、図10(A)は、上記(A)の場合のマススペクトルである。なお、図10(A)は、前述の図7(A)と同じマススペクトルである。
図10(F)に示されるように、上記の結合溶液および洗浄溶液を用いると、図10(A)に示されるOTGを用いた場合と比べて、Aβ1-40のシグナルが非常に強いスペクトルが得られた。非特異的ピークを完全に取り除くことはできなかったが、相対的にAβ1-40のシグナルと比べて非特異的ピーク(m/z:3764.8)を減少させることができた。今回比較検討した界面活性剤の中では、DDMとNTMとの混合を使用することが、APP切断型ペプチドのシグナルを検出するために好ましい。
[実施例7及び比較例3:11A50-B10 IgG 固定化ビーズを用いた例]
実施例1で作製したF(ab’) 固定化ビーズ以外の抗体固定化担体を用いた、本発明の免疫沈降法による感度向上の効果を調べた。F(ab’) 固定化ビーズ以外の抗体固定化担体として、アミロイド・ベータ(1-40)のC末端をエピトープとする抗アミロイド抗体(11A50-B10)を固定化したビーズは次の通り作製した。
(1)11A50-B10 IgG固定化ビーズの作製
アミロイド・ベータ(1-40)のC末端をエピトープとする抗アミロイド・ベータ抗体(11A50-B10)をDynabeads Tosylactivated (Invirtogen)の製品に添付の手順書に従ってビーズへ直接固定化した。具体的には、抗アミロイド・ベータ抗体(11A50-B10)7.5 μgをDynabeads Tosylactivated 55 μL (ビーズ量:1.66 mg)のトシル基に結合させるために、バッファー(1.2M 硫酸アンモニウム、100mM リン酸バッファー、pH7.4)中で37℃、16時間反応させた。その後、TBS(150mM NaCl, 50 mM Tris-HCl, pH7.4)中で37℃、1時間反応させてブロッキングした。作製された11A50-B10 IgG固定化ビーズは使用するまで4℃で保存した。
(2)11A50-B10 IgG固定化ビーズを用いた免疫沈降法における改良法の効果
作製した抗体固定化担体を用いて、免疫沈降法の前処理と、免疫沈降法は次のとおりに実施した。
ヒト血漿サンプル250 μL(C.C Biotech社)に等量の結合溶液を混合させた。この血漿サンプルに含まれる沈殿物はUltrafree-MC, DV 0.65 μm, centrifugal filter devicesを用いたフィルター遠心により除去した。Protein G Plus Agarose 500 μLをH2Oで1回洗浄後、洗浄溶液で3回洗浄した後、先ほどの血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することにより血漿中に含まれている抗体をProtein G Plus Agaroseへ結合させた。その後、血漿サンプルからProtein G Plus Agaroseを取り除いた。
OTG-glycineバッファー(1%(w/v) OTG, 50mM glycine , pH2.8)で2回洗浄、前記洗浄溶液100 μLで3回洗浄された11A50-B10 IgG固定化ビーズ(ビーズ量:300 μg)に、抗体を取り除いた血漿サンプルを混合させて4℃で1時間転倒混和することによりAPP切断型ペプチドと結合させた。その後、前記洗浄溶液500 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行い、前記洗浄溶液100 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を4回行った。その後、50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を2回行った。さらにH2O 20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行った後、溶出液 2.5 μLで11A50-B10 IgG 固定化ビーズに結合されたAPP切断型ペプチドを解離させ、溶出させた。その溶出液を0.5 μL取り、μFocus MALDI plateTM 900 μm上へ滴下した。マトリックスとして0.5 mg/mL CHCA溶液 0.5 μLと0.2%(w/v) MDPNA 0.5 μLをμFocus MALDI plate上で溶出液に加えた。乾燥後、MSスペクトルを取得した。マススペクトルデータは、1wellに対して16000ショットずつ積算した(図11)。
ここで、免疫沈降法において用いた、結合溶液、洗浄溶液、及び溶出液の組成は以下(A)(比較例3:従来法)、及び(B)(実施例7:改良法)である。
(A)結合溶液(2%(w/v) OTG, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(1%(w/v) OTG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)、
溶出液(5mM HCl)
(B)結合溶液 (0.2%(w/v) DDM, 0.2%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)、
洗浄溶液(0.1%(w/v) DDM, 0.1%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4)、
溶出液(5mM HCl/70%(v/v)アセトニトリル)
図11(B)は、実施例7でのマススペクトルであり、図11(A)は、比較例3でのマススペクトルである。
従来法(A)[比較例3]ではAβ1-40のシグナルが全く検出されなかった。これに対して、改良法(B)[実施例7]ではAβ1-40のシグナルを検出することができた。このことから、ビーズや抗体の種類に関係なく、改良法は感度を向上させる効果があることが示された。非特異的なピークも検出されたが、これはDynabeads Tosylactivatedの表面上が疎水性であるため、血漿中のタンパク質等が非特異的に吸着したものと考えられる。
[実施例8]
本発明を用いたIP-MSを行い、ヒト血漿中に存在する各種APP切断型ペプチドの検出及び同定を試みた。
(1)免疫沈降法(IP)の前処理
ヒト血漿 250 μLに結合溶液 (1% n-オクチル-β-D-チオグリコシド(OTG), 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4) 250 μLと10% PEG6000 5 μLを混合させた。この血漿サンプルに含まれる沈殿物は Ultrafree-MC, DV 0.65 μm, centrifugal filter devicesを用いたフィルター遠心により除去した。Protein G Plus Agarose (50% slurry; Pierce, Rockford, IL) 500 μLをH2O 400 μLで1回洗浄後、洗浄溶液(0.5% OTG, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4) 400 μLで3回洗浄した。そのProtein G Plus Agaroseに先ほどの血漿サンプルを混合させて4℃で1時間インキュベーションすることにより、血漿中に含まれている抗体をProtein G Plus Agaroseへ結合させた。その後、血漿サンプルからProtein G Plus Agaroseを取り除いた。
(2)免疫沈降法(IP)
OTG-glycineバッファー(1% OTG, 50mM glycine , pH2.8)で2回洗浄、前記洗浄溶液100 μLで3回洗浄された 6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズ (実施例1で作製したもの)150 μgに、抗体を取り除いた血漿サンプルを混合させて4℃で1時間インキュベーションすることによりAPP切断型ペプチドと結合させた。その後、前記洗浄溶液500 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行い、前記洗浄溶液100 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を4回行った。その後、50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を2回行った。さらにH2O 20 μLでビーズを攪拌することにより洗浄する操作を1回行った後、5 mM 塩酸を含む70% アセトニトリル 2.5 μLで 6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズに結合されたAPP切断型ペプチドを解離させ、溶出した。その溶出液は次のようにμFocus MALDI plateTM 900 μm上へ滴下した。Linear TOF MSで測定する場合は、溶出液を0.5 μLずつ 4 wellへ滴下した。検出されたピークの同定で用いる四重極イオントラップ(QIT) reflectron TOF MSで測定する場合は、溶出液 2 μLを 1 wellへ滴下した。
(3)MALDI-TOF MSによる検出
マススペクトルデータは AXIMA Performanceを用いて、ポジティブイオンモードのLinear TOFで取得した。Linear TOFではラスターモードで400ヶ所のそれぞれの点に対して40ショットずつ積算した。APP切断型ペプチドの同定のために、AXIMA Resonance (Shimadzu/KRATOS)を用いてQIT reflectron TOFのポジティブイオンモードでMS/MS解析を行った。Linear TOF用のマトリックスとしてα-cyano-4-hydroxycinnamic acid (CHCA)を、QIT reflectron TOF用のマトリックスとして2,5-dihydroxybenzoic acid (DHB)を用いた。マトリックス溶液はCHCA 1mgとDHB 5mgそれぞれを70%アセトニトリル 1mLで溶解することによって調製した。マトリックス添加剤として、0.4% methanediphosphonic acid (MDPNA)を用いた。CHCA溶液とDHB溶液に0.4% MDPNAを等量混ぜた後、そのマトリックス・添加剤混合液 0.5 μLをμFocus MALDI plate上で溶出液に加えた。
ピークの検出限界の基準は S/N比3以上とした。Linear TOFのm/z値はピークのアベレージマスで、QIT reflectron TOFではモノアイソトピックイオンマスで表示した。m/z値は外部標準としてhuman angiotensin IIとhuman ACTH fragment 18-39、bovine insulin oxidized beta-chain、bovine insulinを用いてキャリブレーションした。MS/MSスペクトルのピークリストは Mascot Distiller (Matrix Science)によって作成され、Mascot software Version 2.4 (Matrix Science)で解析された。Mascotサーチのパラメーターは次の通り、no enzyme、SwissProt database with species limitation (only human)、プレカーサーイオントレランス 0.3 Da、 フラグメントイオントレランス 0.4 Da。
以上により得られたマススペクトルを図12に示す。図12(A)は、Linear TOFのマススペクトルであり、図12(B)は、QIT reflectron TOFのマススペクトルである。図12(A),(B)において、"*"は、APP切断によって生じるペプチドの質量に相当するイオンのピーク(分子量関連イオン)である。よく知られているAPP672-711(Aβ1-40)とAPP672-713(Aβ1-42)がLinear TOFとQIT reflectron TOFの両方で確認された。ここで使用するペプチドの名称は例えばAPP672-711(Aβ1-40)のように表現し、APPのアミノ酸配列の672番目がN末端で711番目がC末端となるペプチドを意味し、かつ、通常Aβと呼ばれるペプチドの1番目から40番目までのペプチドのことも意味する。Aβペプチドの1番目よりもN末端側に長いペプチドはAβで表現しないことにする。
ADの老人斑の主要成分であるこれらのペプチド(APP672-711(Aβ1-40)とAPP672-713(Aβ1-42))に加えて、APP672-711(Aβ1-40)よりもN末端側で切断されたペプチドやC末端側で切断されたペプチド、さらにはβセクレターゼによって切断される部位よりもN末端側で切断されることにより生成される新規切断型のAPPペプチドが検出された。QIT reflectron TOFで測定されたマススペクトル(図12(B))には"f"で示された4つのフラグメントイオンが検出されたため、これらのピークは除外した。
ここで、"f"で示された4つのフラグメントイオンは、血漿中に存在していた切断型APPペプチド自体の分子量関連イオンではなく、それらの切断型APPペプチドの分子量関連イオンがQIT reflectron TOFで測定される際に開裂したフラグメントイオンである。
(4)ヒト血漿で検出されたAPP切断型ペプチドのMS/MS解析
MSで検出されたAPP切断型ペプチドを同定するために、検出された22種類のピークのうち20種類のピークについてMS/MS解析をおこなった。6種類のピークについてはMascot scoreは20以上であったが、その他のピークはシグナルが弱かったためMascot scoreは低かった(表2)。しかし、CIDで優先的に起きやすいアスパラギン酸およびグルタミン酸のC末端側の開裂により生成されるフラグメントイオンがMS/MS解析した全てのスペクトルにおいて検出された(表2、図13〜図22)。さらに、6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズによる選択性、測定マス値の精度、使用した抗体 6E10、または、4G8のエピトープを含む配列であること、を合わせて考慮すると、表1〜表2に示されたAPP切断型ペプチドの同定の正確性はかなり高い。検出されたAPP切断型ペプチドの質量の高い2つのピークは、今回使用した装置では十分な選択性でイオントラップができないため、MS/MSデータは取得できなかった。
これらのデータをまとめると、最終的に22種類のAPP切断型ペプチドが血漿中に存在することがLinear TOFとQIT reflectron TOFの両方で確認されたことになる。これら22種類のうち8種類のペプチド(APP671-711, APP669-709, APP669-710, APP669-711, APP666-709, APP666-711, APP664-711, APP663-711)は、これまでヒトCSF中でも見つかっていないペプチドであり、今回の分析により初めて発見された新規なAPP切断型ペプチドであった。
APP671-711(配列番号14):
MDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV
APP669-709(配列番号15):
VKMDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGG
APP669-710(配列番号17):
VKMDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGV
APP669-711(配列番号18):
VKMDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV
APP666-709(配列番号19):
ISEVKMDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGG
APP666-711(配列番号20):
ISEVKMDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV
APP664-711(配列番号21):
EEISEVKMDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV
及び、
APP663-711(配列番号22):
TEEISEVKMDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV
また、22種類のAPP切断型ペプチドの中でAPP672-711(Aβ1-40)が一番高いピークを示しており、このことは他の報告で示されているヒトCSFの結果と一致する。また、6E10/4G8 F(ab’) 固定化ビーズで検出できた APP672-711(Aβ1-40)やそれよりもN末端側で切断されたペプチドなどのAPP切断型ペプチドは、6E10単独のF(ab’) 固定化ビーズでも検出できることを確認している。
表1〜2において、配列番号17のOxAPP672−711(OxAβ1−40)は、配列番号16のAPP672−711(Aβ1−40)のMet 706で酸化されたペプチドを示す。"N/D"は、検出されなかったことを表す。"N/A"は、MS/MS解析の適用外であることを表す。

Claims (7)

  1. 血液試料中のアミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドを測定する方法であって、
    担体と、前記担体に結合した、アミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドを認識可能な抗原結合部位を持つ免疫グロブリン及びアミロイド前駆タンパク質(APP)切断型ペプチドを認識可能な抗原結合部位を含む免疫グロブリン断片からなる群から選ばれる抗体とを含む抗体固定化担体に、血液試料を結合溶液中で接触させて、前記抗体固定化担体と前記血液試料中に含まれるAPP切断型ペプチドとを結合させる結合工程と、
    前記抗体固定化担体と前記APP切断型ペプチドとの結合体を、洗浄溶液を用いて洗浄する洗浄工程と、
    前記抗体固定化担体から前記APP切断型ペプチドを、アセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、及びクロロホルムからなる群から選ばれる有機溶媒を20〜80%(v/v)の濃度で含む酸性水溶液を用いて解離させ溶出させる解離工程と、
    解離され溶出された前記APP切断型ペプチドを質量分析により検出する検出工程と、
    を含む血液試料中のAPP切断型ペプチドを測定する方法。
  2. 前記結合工程において、前記結合溶液は、界面活性剤を含む中性緩衝液である、請求項に記載の方法。
  3. 前記中性緩衝液における界面活性剤濃度は、0.001〜10%(/v)である、請求項に記載の方法。
  4. 前記界面活性剤が、マルトースを親水性部分に持つ中性界面活性剤、トレハロースを親水性部分に持つ中性界面活性剤、及びグルコースを親水性部分に持つ中性界面活性剤からなる群から選ばれる、請求項2又は3に記載の方法。
  5. 前記洗浄工程において、前記洗浄溶液として界面活性剤を含む中性緩衝液を用いて洗浄を行い、その後、前記洗浄溶液としてアンモニウムイオンを含む水溶液を用いて洗浄を行う、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  6. 前記質量分析において、マトリックス支援レーザー脱離イオン化型質量分析装置を用いる、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 前記マトリックス支援レーザー脱離イオン化型質量分析装置において、0.1〜20mg/mLの濃度のマトリックスと、0.1〜10%(w/v)の濃度のマトリックス添加剤とを使用する、請求項に記載の方法。
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