以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。なお、後述する他の実施形態を含む以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の圧縮機8の模式的な軸方向断面図である。本実施形態の圧縮機8は、例えばヒートポンプ式給湯機に適用されている。このヒートポンプ式給湯機は、ヒートポンプサイクルによって給湯水を加熱するもので、圧縮機8は、ヒートポンプサイクルにおいて冷媒を圧縮して吐出する機能を果たす。
そのヒートポンプサイクルは、圧縮機8の吐出冷媒と給湯水とを熱交換させて給湯水を加熱する水−冷媒熱交換器と、水−冷媒熱交換器から流出した冷媒を減圧膨張させる減圧装置としての可変絞り機構と、可変絞り機構にて減圧膨張された冷媒を外気と熱交換させて蒸発させる室外蒸発器と、圧縮機8とを環状に接続した蒸気圧縮式の冷凍サイクルである。
さらに、本実施形態のヒートポンプサイクルでは、冷媒として二酸化炭素(CO2)を採用しており、圧縮機8から吐出された高圧冷媒が冷媒の臨界圧力以上となる超臨界冷凍サイクルを構成している。また、圧縮機8内において、圧縮機8の内部の各摺動部位を潤滑する潤滑油9すなわちオイル9が圧縮前の冷媒に混入される。そのオイル9は例えば冷凍機油である。そして、そのオイル9は冷媒圧縮後に冷媒から分離され圧縮機8内で循環する。
詳細には、圧縮機8内を循環するオイル9は、先ず、後述のケース30内の貯油部301からポンプ70によって吸い上げられると共に、そのポンプ70から吐出される。その吐出されたオイル9のうちの一部は、摺動等を行う各部の潤滑を行った後に貯油部301へ戻り、残部は圧縮部10へ流れる。その圧縮部10へ入ったオイル9は圧縮部10の潤滑およびシールを行った後、圧縮部10の吐出ポート123から冷媒と共に排出される。そして、その排出されたオイル9は、油分離器40で冷媒から分離された後、貯油部301へ戻る。
なお、吐出ポート123から冷媒と共に吐出されたオイル9の大部分は冷媒から分離されるが、冷媒から分離しきれなかったオイル9は冷媒と共に圧縮機8から吐出され、ヒートポンプサイクルを循環する。また、上記摺動等を行う各部とは、例えば、可動スクロール11のボス部113とシャフト25の偏心部253との摺動部位、および各軸受部27、29の摺動部位27a、29a等である。また、ケース30の内部空間は、圧縮部10よりも上側の箇所から貯油部301に至るまで相互につながった一空間として構成されている。
また、ヒートポンプサイクルでは、室外蒸発器と圧縮機8との間に、冷媒の気液を分離して余剰冷媒を蓄えるとともに圧縮機8側へ気相冷媒を流出させる気液分離器が配置されてもよい。さらに、ヒートポンプ式給湯機は、ヒートポンプサイクルの他に、水−冷媒熱交換器にて加熱された給湯水を貯湯する貯湯タンク、貯湯タンクと水−冷媒熱交換器との間で給湯水を循環させる給湯水循環回路等を有して構成されている。
次に、図1により、本実施形態の圧縮機8の詳細構成について説明する。なお、図1中の上下の矢印DR1は、圧縮機8をヒートポンプ給湯機へ搭載した状態における上下の方向を示している。すなわち、図1の両端矢印DR1は上下方向DR1を示している。
圧縮機8は電動圧縮機である。圧縮機8の全体としては、圧縮機8の冷媒入口である冷媒吸入管37で冷媒流れを分岐する吸気分配孔37bがケース30の内部と連通し、その分岐された冷媒が駆動用の電動機部20を冷却する所謂内部低圧式の圧縮機である。内部低圧式の圧縮機とは、圧縮機のケース内の圧力すなわちケース内圧が圧縮機の吸入圧力と略同じ圧力になる圧縮機である。
また、圧縮機8は、圧縮機8への吸入冷媒を導く冷媒吸入管37が圧縮部10の吸入ポート114へ直結した所謂ダイレクト吸入構造になっている。これにより、圧縮機8は、冷媒吸入の際の圧損による効率低下を抑える構造となっている。本実施形態のような内部低圧方式の圧縮機8に強制潤滑を行う方式においては、圧縮機8のケース30内へ吐出ポート123側から戻される高温のオイル9によって吸入冷媒が加熱される為、上記ダイレクト吸入構造は、圧縮機8が属するシステムであるヒートポンプサイクルの効率低下抑制に有効である。
図1に示すように、圧縮機8は、流体である冷媒を吸入し圧縮して吐出する圧縮部10、電動機部20、シャフト25、ケース30、油分離器40、間欠給油機構50、ポンプ70、および流量制限部72等を備えている。そして、この圧縮機8では、それらの圧縮部10、電動機部20、シャフト25、油分離器40、間欠給油機構50、ポンプ70、および流量制限部72等がケース30内に収容されている。
さらに、この圧縮機8では、図1に示すように、シャフト25の回転軸方向は、鉛直方向すなわち上下方向DR1に一致している。要するに、圧縮機8は、圧縮部10と電動機部20とを鉛直方向に配置した所謂縦置きタイプに構成されている。より具体的に言えば、圧縮部10が電動機部20の上方側に配置されている。
ケース30は圧縮機8の筐体を成し、圧力容器として機能する。具体的には、ケース30は、鉛直方向に延びる筒状部材31、筒状部材31の上端部を塞ぐアッパーハウジングとしての上蓋部材32、および筒状部材31の下端部を塞ぐロアハウジングとしての下蓋部材33を有している。そして、ケース30は、これらの部材31、32、33を一体に接合して密閉容器構造としたものである。筒状部材31、上蓋部材32および下蓋部材33は、いずれも鉄で構成されており、これらは溶接にて接合されている。
電動機部20は、圧縮部10を駆動する駆動力源として設けられている。電動機部20は、U相、V相、W相の巻線コイルを有する三相ブラシレスDCモータ、要するに三相モータである。具体的に、電動機部20は、固定子をなすステータ21と、回転子をなすロータ22とを備えている。ステータ21は、磁性材からなるステータコアと、そのステータコアに巻き付けられたステータコイルとによって構成されている。より具体的には、ステータ21では、ステータコイルのU相、V相、W相の各相に対応するステータコイルが、ステータコアに設けられた各スロットに巻き付けられている。ステータ21は、図示しないインバータ回路等を介して、ステータコイルに電力が供給されることによって、ロータ22を回転させる回転磁界を発生させる。
一方、電動機部20のロータ22は、永久磁石を有して構成されており、ステータ21の内周側に配置されている。このロータ22は回転軸方向すなわち上下方向DR1に延びる円筒状に形成され、さらに、ロータ22の軸中心穴には、回転軸方向に延びる略円筒状のシャフト25が圧入により固定されている。従って、ステータ21が電力供給により回転磁界を発生させると、ロータ22およびシャフト25が一体に回転する。
シャフト25は、電動機部20から圧縮部10へ回転駆動力を伝達する駆動軸である。要するに、シャフト25は電動機部20の動力を圧縮部10へ伝達する。
シャフト25は略円筒状に形成されている。そして、シャフト25の内部には、前述のオイル9を流通させる主給油通路25aと、第1副給油通路25bと、第2副給油通路25cとが形成されている。
換言すると、シャフト25は中空構造となっている。すなわち、シャフト25の内部に形成された軸内通路としての主給油通路25aは、そのシャフト25の軸方向(すなわち、上記回転軸方向)に延びるように形成されている。そして、その主給油通路25aの下方側の開口端は、オイル9が吐出されるポンプ70の吐出口へ接続されている。従って、主給油通路25aには、ポンプ70から吐出されたオイル9が下方側から流入する。その一方で、主給油通路25aの上方側の開口端は、ロータ給油通路115を介して流量制限部72の油室721へ接続されている。
第1副給油通路25bは、主給油通路25aから、シャフト25と後述する第1軸受部29との摺動部位29aすなわち潤滑対象部位29aへオイル9を導く。また、第2副給油通路25cは、主給油通路25aから、シャフト25と後述する第2軸受部27との摺動部位27aすなわち潤滑対象部位27aへオイル9を導く。
その第1副給油通路25bおよび第2副給油通路25cは、シャフト25の径方向に延びて主給油通路25aとシャフト25の外表面とを連通させる連通孔として形成されている。さらに、第2副給油通路25cは、第1副給油通路25bよりも鉛直方向下方側に配置されている。
また、シャフト25は、電動機部20のロータ22よりも軸方向長さが長く形成されている。具体的には、シャフト25の軸方向一端側である上端側すなわち圧縮部10側は、ロータ22の最上端部よりも上方側に延びている。そして、シャフト25の軸方向他端側(すなわち、圧縮部10側とは反対側)は、ロータ22の最下端部よりも下方側に延びている。そして、シャフト25においてロータ22よりも上方側の部位には、軸方向と垂直な水平方向に突出する鍔部251が形成されている。
また、シャフト25のロータ22よりも上方側の部位のうち、ロータ22と鍔部251との間の部位は、ミドルハウジング36に形成された第1軸受部29によって回転可能に支持されている。つまり、第1軸受部29は、シャフト25の軸方向一端側である上端側を支持している。さらに、第1軸受部29は、シャフト25の軸方向から見たときに、円形状となる内周面でシャフト25の外周面を受ける、すべり軸受として構成されている。
ミドルハウジング36は、下方側から上方側に向かって階段状に外径および内径が拡大する円筒形状を有している。ミドルハウジング36では、その外径および内径が最も小さい下方側部位に第1軸受部29が形成されている。さらに、ミドルハウジング36の外径および内径が最も大きい上方側部位の外周面は、ケース30の筒状部材31に当接した状態で固定されている。
一方、シャフト25においてロータ22よりも下方側の部位は、第2軸受部27によって回転可能に支持されている。つまり、第2軸受部27は、シャフト25の軸方向他端側である下端側を支持している。さらに、第2軸受部27は、シャフト25の軸方向から見たときに、その内周形状がシャフト25の外周形状と相似形の円形に形成されたすべり軸受として構成されている。
また、第2軸受部27は、介在部材28を介してケース30の筒状部材31に固定されている。介在部材28は、水平方向に拡がる環状板の外周部を下方側に向かって屈曲させた形状に形成され、その外周部がケース30の筒状部材31に当接した状態で固定されている。また、第2軸受部27の下端部には水平方向に突出する鍔部271が形成されており、鍔部271が介在部材28に対しボルト止めで固定されている。また、介在部材28には、介在部材28を上下方向DR1へ貫通した貫通孔28aが設けられている。この貫通孔28aにより、ケース30の内部空間のうち介在部材28よりも上方側の空間と貯油部301とが互いに連通する。
圧縮部10は周知のスクロール式の圧縮機構で構成されており、それぞれ渦巻き状に形成された歯部を有する可動スクロール11および固定スクロール12を備えている。可動スクロール11は、前述のミドルハウジング36のうち内径が最も大きい上方側部位の内周側に配置され、固定スクロール12は、可動スクロール11の上方側に配置されている。
可動スクロール11および固定スクロール12は、互いに鉛直方向に対向するように配置されている。固定スクロール12の外周側は、ケース30の筒状部材31に固定されている。
可動スクロール11の下面側の中心部には、シャフト25の上端部が挿入される円筒状のボス部113が形成されている。その一方で、シャフト25の上端部は、シャフト25の回転中心に対して偏心した偏心部253になっている。可動スクロール11には、そのシャフト25の偏心部253が挿入されている。
さらに、可動スクロール11およびミドルハウジング36の間には、可動スクロール11が偏心部253周りに自転することを防止する不図示の自転防止機構が設けられている。このため、シャフト25が回転すると、可動スクロール11は偏心部253周りに自転することなく、シャフト25の回転中心を公転中心として旋回しながら公転運動する。つまり、可動スクロール11は、シャフト25を介して電動機部20から回転駆動力が供給されると、シャフト25の回転中心を公転中心として旋回しながら公転運動する。
また、可動スクロール11には、固定スクロール12側に向かって突出する渦巻き状の歯部すなわち可動側歯部が形成されている。一方、固定スクロール12には、可動スクロール11側に向かって突出すると共に上記可動側歯部に噛み合う渦巻き状の歯部すなわち固定側歯部が形成されている。
そして、両スクロール11、12の各歯部同士が噛み合って複数箇所で接触することによって、回転軸方向から見たときに三日月形状に形成される密閉された作動室15が複数個形成される。なお、図1では図示を簡潔にするため、複数個の作動室15のうち、1つの作動室だけに符号を付しており、他の作動室については符号を省略している。
作動室15は、可動スクロール11が公転運動することによって回転軸周方向に外周側から中心側へ作動室15の容積を変化させながら移動する。詳しく言えば、作動室15は、その容積を減少させながら移動する。そして、その作動室15の容積が減少することによって作動室15内の冷媒が圧縮される。
作動室15には、ケース30が有する冷媒吸入管37と圧縮部10に形成された吸入ポート114とを介して圧縮機8外部から冷媒が供給される。すなわち、冷媒吸入管37および吸入ポート114は、作動室15へ冷媒を供給する冷媒供給通路を構成している。
冷媒吸入管37は、その内部に冷媒通路37aが形成された管状の部材である。冷媒吸入管37は、ケース30の筒状部材31を径方向に貫通するように設けられ、圧縮部10の吸入ポート114をケース30外部へ連通させている。要するに、冷媒吸入管37は、ケース30の中で、圧縮部10の吸入ポート114へ向かう冷媒がケース30外から流入する吸入部として機能する。なお、圧縮部10の吸入ポート114は、両スクロール11、12の各歯部の最外周側に形成される作動室15に連通している。
また、冷媒吸入管37には吸気分配孔37bが形成されており、この吸気分配孔37bは微細な貫通孔であり、冷媒吸入管37の冷媒通路37aをケース30内に連通させる。具体的には、吸気分配孔37bは、電動機部20の冷却に必要な最低限のガス冷媒(以下、冷媒ガスとも言う)をケース30内へ流出させる大きさに形成されている。これにより、冷媒通路37aを流れる吸入冷媒の殆どは圧縮部10の吸入ポート114へ導入されるが、その吸入冷媒の中の僅かな量は、吸気分配孔37bから電動機部20の冷却用としてケース30内へ導入される。圧縮機8のケース30内すなわちケース30の内部空間は、吸気分配孔37bが設けられているので、圧縮部10の作動中には、圧縮部10の吐出ポート123における冷媒の圧力Pdよりも吸入ポート114における冷媒の圧力Psに近い圧力になる。言い換えれば、ケース30内の圧力であるケース内圧と吸入ポート114における冷媒の圧力Psとの圧力差は僅かな差になり、そのケース内圧は、吐出ポート123における冷媒の圧力Pdと吸入ポート114における冷媒の圧力Psとのうち吸入ポート114における冷媒の圧力Psに近い圧力になる。詳細には、そのケース内圧は、冷媒吸入管37の冷媒通路37aの圧力よりも僅かに低く且つ吸入ポート114の圧力Psよりも僅かに高い圧力になる。なお、以下の説明では、吐出ポート123における冷媒の圧力Pdを吐出圧力Pdと呼び、吸入ポート114における冷媒の圧力Psを吸入圧力Psと呼ぶものとする。
また、固定スクロール12の径方向における中心部分には、作動室15で圧縮された冷媒が吐出される吐出ポート123としての吐出孔123が形成されている。すなわち、圧縮部10は、吸入ポート114から吸入した冷媒を圧縮すると共にその圧縮した冷媒を吐出ポート123から吐出する。
さらに、固定スクロール12の上方側にはセパレータブロック13が配置され、吐出ポート123と連通する吐出室124が、そのセパレータブロック13と固定スクロール12とによって形成されている。詳細には、吐出室124は、固定スクロール12の上面とセパレータブロック13に形成された凹部とによって区画形成されている。
さらに、吐出室124には、作動室15への冷媒の逆流を防止する逆止弁をなすリード弁19が配置されている。また、吐出室124へ流入した冷媒は、固定スクロール12と一体に構成された油分離器40を経て、冷媒吐出管34からケース30外部へ吐出される。その冷媒吐出管34は、その内部に冷媒通路34aが形成された管状の部材である。冷媒吐出管34は、ケース30の筒状部材31を径方向に貫通するように設けられている。要するに、冷媒吐出管34は、ケース30の中で、圧縮部10の吐出ポート123からの冷媒がケース30外へ流出する吐出部として機能する。
ポンプ70は、貯油部301に溜まるオイル9を、オイル吸入孔70aを介して吸い込む。そして、ポンプ70は、その吸い込んだオイル9を圧縮部10の吸入ポート114へ向けて吐出する。詳細には、ポンプ70は、吸入ポート114へつながるシャフト25の主給油通路25aへオイル9を吐出する。要するに、ポンプ70は、貯油部301に溜まるオイル9を吸入ポート114へ圧送するオイル圧送装置として機能する。ポンプ70は容積型であっても遠心型であっても構わない。
ポンプ70は、シャフト25の軸方向において、電動機部20に対し圧縮部10側とは反対側に配置されている。すなわち、その軸方向において、圧縮部10は電動機部20に対する一方側(具体的には上方側)に配置され、ポンプ70は電動機部20に対する他方側(具体的には下方側)に配置されている。
そして、ポンプ70は、電動機部20に対し第2軸受部27よりも更に下方側にて、動力伝達可能にシャフト25へ連結されている。これにより、電動機部20は、圧縮部10だけでなくポンプ70も駆動する。
また、貯油部301はケース30内においてオイル9が溜まる油溜りであり、ケース30はその貯油部301をケース30内の底部に備えている。詳細には、貯油部301は下蓋部材33に形成されている。
流量制限部72は、固定スクロール12の一部分とミドルハウジング36の一部分とによって構成されている。そして、流量制限部72は、ポンプ70から流出するオイル9の流量に対して、吸入ポート114へ流入するオイル9の流量を制限する。言い換えれば、流量制限部72は、吸入ポート114へ流入するオイル9の流量を調整する流量調整部である。具体的に、流量制限部72は、油室721が形成された油室形成部722と、流量調整絞り通路723が形成された流量調整絞り部724と、リリーフバルブ725とを有している。
その流量制限部72の油室721は、ポンプ70から圧縮部10の吸入ポート114へ至るオイル9の流通経路の一部を構成している。詳細には、油室721は、ロータ給油通路115を介してシャフト25の主給油通路25aへ常時連通している。そして、油室721は、ポンプ70から主給油通路25aを介して流入するオイル9を一時的に貯める。
流量制限部72の流量調整絞り通路723は、油室721と吸入ポート114とをつなぐオイル通路である。そして、流量調整絞り通路723は固定絞りとなっており、油室721から流出するオイル9の流れを絞りつつそのオイル9を吸入ポート114へ流す。このようにして、流量調整絞り通路723は、吸入ポート114へ流れるオイル9の流量を調整する。
この流量調整絞り通路723、油室721、ロータ給油通路115、および主給油通路25aは、ポンプ70から圧縮部10の吸入ポート114へ至るオイル9の流通経路を構成している。そして、それらの構成要素は、その流通経路において上流側から、主給油通路25a、ロータ給油通路115、油室721、流量調整絞り通路723の順に直列に接続されている。言い換えれば、ポンプ70は、そのポンプ70が吐出するオイル9が主給油通路25aとロータ給油通路115と油室721と流量調整絞り通路723とを順に通ってから吸入ポート114へ流れるように、主給油通路25aへ接続されている。
リリーフバルブ725は、油室721内の圧力上昇を抑制する圧力抑制装置である。このリリーフバルブ725は、公知のリリーフバルブで構成されている。従って、リリーフバルブ725は、油室721内の圧力Pspである油室内圧Pspが上昇する過程で、その油室内圧Pspが予め定められた圧力閾値Prに到達した場合に油室内圧Pspの上昇をその到達前に対して抑えるように作動する。
具体的には、リリーフバルブ725はリード弁式のリリーフバルブであり、油室721へ連通するオイル排出孔725aを開閉する弁体725bを有している。そして、リリーフバルブ725の弁体725bは、その弁体725b自体のバネ力によってオイル排出孔725aを塞ぐ向きに付勢されている。そして、油室内圧Pspが上記圧力閾値Prに到達すると、その油室内圧Pspはオイル排出孔725aが開放される側へ弁体725bを作動させ、そのオイル排出孔725aはケース30の内部空間へ開放される。このようにして、リリーフバルブ725は、ポンプ70から流出したオイル9が流量調整絞り通路723へ流入する前にそのオイル9の一部をケース30内の貯油部301へ排出することにより、油室内圧Pspの上昇を抑える。
また、圧縮部10の作動中には、上記のように、オイル9は流量制限部72の流量調整絞り通路723から吸入ポート114へ流入する。それと共に、ケース30内の冷媒は、ケース30の内部空間と吸入ポート114とをつなぐ微細な冷媒吸入孔114aを介して吸入ポート114へ流入する。
その冷媒吸入孔114aから吸入ポート114へ流入するケース30内の冷媒としては、例えば、間欠給油機構50にて減圧された際にオイル9の中から析出する気化冷媒、および、冷媒吸入管37の吸気分配孔37bからケース30内部へ流入する電動機冷却用の冷媒が挙げられる。更に、後述するように圧縮部10の吐出ポート123から間欠給油機構50を通過するガス冷媒も挙げられる。
以上説明したポンプ70および流量制限部72の構成から判るように、圧縮部10の吸入ポート114へ流入するオイル9の流量は、ポンプ70の吐出流量、流量調整絞り通路723の絞り径(すなわち、絞り度合)、およびリリーフバルブ725の開弁圧Prとしての上記圧力閾値Prに応じて決定される。このことについて、図2を用いて説明する。
図2では、図2(a)(b)(c)の3つのグラフが関連付けられており、その何れのグラフでも横軸は圧縮機回転数Ncを示している。その圧縮機回転数Ncとはシャフト25の回転数であるので、ポンプ70の回転数でもある。
図2(a)に示すように、ポンプ70が吐出するオイル流量であるポンプ吐出流量は、圧縮機回転数Ncの上昇に伴って増加する。すなわち、流量制限部72の油室721へ流入するオイル流量が、圧縮機回転数Ncの上昇に伴って増加する。このとき、油室内圧Pspがリリーフバルブ725の開弁圧Prに到達するとリリーフバルブ725の弁体725bが開弁する。従って、図2(b)に示すように、油室内圧Pspは、仮にリリーフバルブ725が無いとすれば破線Lxのように圧縮機回転数Ncの上昇に伴って上昇するところ、本実施形態ではリリーフバルブ725によって実線Lrのように略一定に保たれる。これにより、油室内圧Pspの上昇に起因してオイル9が圧縮部10の吸入ポート114へ過剰に流入することが防止されている。
また、図2(c)では縦軸はオイル流量を示している。そして、図2(c)の実線Lqは、流量調整絞り通路723から吸入ポート114へ流入するオイル流量を示している。この図2(c)に示すように、流量調整絞り通路723の絞り径は、吸入ポート114へ流入するオイル流量が、圧縮機回転数Ncの予め定められた常用変化範囲内では常に後述の通過可能オイル流量Qdよりも少なくなるように設定されている。従って、貯油部301におけるオイル9のオーバーフローが回避され、そのオイル9のオーバーフローに起因した圧縮機8外部へのオイル流出が防止される。よって、内部低圧式の圧縮機8において、ケース30の下部をオイル溜りである貯油部301として利用可能な強制潤滑方式が成立する。なお、図2(c)では、間欠給油機構50の前後の差圧が或る一定値である場合の通過可能オイル流量Qdが例示されている。
このようにして、ケース30内の貯油部301に溜まったオイル9は、図1に示すようにポンプ70によって油室721へ圧送され、その油室721から流量調整絞り通路723を介して圧縮部10の吸入ポート114へ流入する。そして、吸入ポート114へ流入したオイル9は、冷媒吸入管37を通って吸入ポート114へ流入する吸入冷媒と共に圧縮部10の作動室15へ流入する。次に、オイル9は圧縮部10へ流入した後、圧縮された冷媒と共に吐出ポート123を通って吐出室124へ排出される。
吐出室124に排出された冷媒およびオイル9は、遠心分離式の油分離装置である油分離器40に流入する。詳細には、そのオイル9は、図3および図4に示すように、吐出室124から油分離器40の連絡通路131に流入する。この油分離器40は、連絡通路131と、その連絡通路131を介して吐出室124へ連通する分離筒401と、その分離筒401と同心となるように分離筒401内に配置された分離パイプ402とで構成されている。
連絡通路131に流入した冷媒およびオイル9は、油分離器40で互いに分離される。具体的に説明すると、分離筒401は分離筒401の内壁面としての旋回室側壁401aを有し、その旋回室側壁401aは、分離筒401内側の空間である旋回室401bを一軸心CLsまわりに囲んで形成している。そして、その旋回室401bには、冷媒およびオイル9から成る混合流体が連絡通路131から流入する。例えば、その旋回室401bは、旋回室側壁401aの中心軸心である一軸心CLsに直交する断面においてその一軸心CLsを中心とした円形状を成している。
具体的に、油分離器40は、旋回室側壁401aの中心軸心である一軸心CLsがシャフト25の軸方向に対して交差する向きになるように配置されている。詳細に言えば、油分離器40は、その一軸心CLsがシャフト25の軸方向に直交する向き、要するに水平向きになるように配置されている。
また、油分離器40の分離パイプ402は旋回室側壁401aと同心であるので水平向きになっている。また、分離パイプ402は冷媒吐出管34と直列に連結され、且つ冷媒吐出管34と一体に構成されている。詳細には、分離パイプ402は旋回室401b内に配置され、一軸心CLsの軸方向における旋回室401bの一端側で冷媒吐出管34へ接続されている。その一方で、分離パイプ402は、旋回室401bの上記一端側とは反対側の他端側を向いて旋回室401b内で開口している。これにより、分離パイプ402は、オイル分離後の冷媒ガスを旋回室401bから分離パイプ402内を通して冷媒吐出管34へ流す。そして、分離パイプ402および冷媒吐出管34は一体となって1つの管状部材を構成している。このように本実施形態の圧縮機8は、分離パイプ402を冷媒吐出管34と一体化できる。
旋回室401bのうち一軸心CLsの軸方向における一端側には、吐出ポート123からの混合流体を旋回室401b内に流入させる旋回室入口401cが開口している。そして、旋回室401bのうち一軸心CLsの軸方向における他端側には、旋回室401b内で分離されたガス冷媒の一部とオイル9とから成る二相流を旋回室401b内から絞り通路501aへ流出させる旋回室出口401dが開口している。更に、旋回室入口401cだけでなく旋回室出口401dも旋回室側壁401aに形成され、給油通路132が旋回室出口401dから下向きに延びている。すなわち、旋回室出口401dは一軸心CLsよりも下方側に配置されている。
また、油分離器40において、旋回室401b内には、圧縮部10から吐出された高圧の冷媒およびオイル9から成る混合流体が旋回室入口401cから旋回室側壁401aに沿うように旋回室側壁401aの周方向を向いて流入する。従って、旋回室側壁401aは、旋回室401bに流入した混合流体の流れを一軸心CLsまわりに旋回する旋回流FLrにする。
このように、油分離器40は、旋回室401b内にて上記混合流体の流れを旋回流FLrにすることにより、その混合流体のうちの冷媒からオイル9を分離する。そして、その分離されたオイル9は、上記一端側とは反対側である他端側へ矢印ARsのように押される。従って、分離後のオイル9は、給油通路132の向きに拘わらず、旋回室出口401dから間欠給油機構50の絞り通路501aへと圧送される。すなわち、旋回室401bの一端側にて旋回室入口401cが開口し他端側にて旋回室出口401dが開口しているので、旋回室401bに対する給油通路132の接続向きに拘わらず、分離後のオイル9を旋回室401bから流出させることが可能である。
その一方で、上記混合流体のうちの分離後の冷媒すなわち冷媒ガスは、分離パイプ402内を通って冷媒吐出管34から外部のシステムたとえば熱交換器等へ圧送される。
次に、旋回室401b内で分離されたオイル9は、旋回室出口401dからセパレータブロック13内の給油通路132を通って間欠給油機構50へ送られる。すなわち、油分離器40は、圧縮部10の吐出ポート123から流出した冷媒からオイル9を分離してその分離後の冷媒を冷媒吐出管34へ流すと共に、分離したオイル9を間欠給油機構50へ流す。なお、旋回室出口401dから給油通路132へはオイル9のみが流出するのではなく、詳細に言えば、オイル9と共に僅かなガス冷媒も流出する。
ここで間欠給油機構50に関して説明すると、その間欠給油機構50は、図1および図3に示すように、固定スクロール12の一部分に設けられた固定側絞り501と、可動スクロール11の一部分に設けられ可動側連通孔502aすなわち旋回側孔502aが形成された可動側連通部502とによって構成されている。そして、間欠給油機構50は、固定側絞り501から可動側連通部502へと間欠的にオイル9を流す。
詳細に説明すると、固定側絞り501には、後述の図8Bに示すように、油分離器40で分離されたガス冷媒の一部とオイル9とから成る二相流が流入する。そして、図1および図3に示すように固定側絞り501には、その二相流が流入する絞り通路501aが形成されている。その絞り通路501aは、その二相流の流量を制限しつつ、油分離器40からの二相流を、可動側連通孔502aを介してケース30内へ流す。すなわち、間欠給油機構50は、油分離器40からの二相流を絞ってケース30内へ流す絞り部として機能する。
具体的には、間欠給油機構50は、その間欠給油機構50を通過するガス冷媒およびオイル9の流量を絞り通路501aの通路断面積Axに応じた流量に制限する。なお、その絞り通路501aの通路断面積Axは、後述の図5ではハッチングを施された領域の面積として表される。また、可動側連通孔502aのうち絞り通路501a側とは反対側の端部は、ミドルハウジング36に形成された連通孔36aを介してケース30の内部空間へ常時開放されている。
間欠給油機構50において、一点鎖線Ltrで可動側連通孔502aの軌跡が表示された図5に示すように、高圧側になる固定側絞り501の絞り通路501aと低圧側になる可動側連通孔502aとが可動スクロール11の公転運動により1回転に1度互いに連通する。間欠給油機構50では、この絞り通路501aと可動側連通孔502aとの連通の際に、固定側絞り501の絞り通路501a前後の高低差圧と絞り通路501aの孔径(すなわち、絞り径)に対応した通路断面積Axとにより定まる流量を噴出させる。その絞り通路501a前後の高低差圧は、圧縮部10の吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差である入出圧力差ΔPdsとほぼ同じであるので、入出圧力差ΔPdsとみなしても差し支えない。その入出圧力差ΔPdsは、「ΔPds=Pd−Ps」の算出式から得られる。
なお、図5に示すように可動側連通孔502aは固定側絞り501の絞り通路501aよりも大きく設定されているので、間欠給油機構50を通過する流量は絞り通路501aにより調整されている。そして、固定側絞り501は、絞り通路501aの通路断面積Axが変化しない固定絞りであるので、間欠給油機構50も固定絞りとして機能する。
また、図1および図3に示す固定側絞り501はその軸方向にスライド可能であり、可動スクロール11の可動側連通部502が配設された部位の端面と摺接するので、これにより、その端面と固定側絞り501との間からのオイル洩れが防止されている。
また、間欠給油機構50によって制御される流量は、固定側絞り501単体の流通可能流量q1と可動側連通孔502aの横断角度θとの積として求められる。その固定側絞り501単体の流通可能流量q1とは、固定側絞り501単体が流すことができる流量であって、上記したように絞り通路501a前後の高低差圧と絞り通路501aの絞り径とによって定まる流量である。また、可動側連通孔502aの横断角度θとは、図6に示すように、可動側連通孔502aが可動スクロール11の動作に従って固定側絞り501の絞り通路501aを横断する領域に相当する角度である。
従って、図1に示す間欠給油機構50にて流すことの出来る通過可能オイル流量Qdは、下記式F1にて表される。詳細に言えば、固定側絞り501の絞り通路501aには後述の図8Bのようにオイル9だけでなく冷媒ガスも流入するところ、通過可能オイル流量Qdとは、そのオイル9と冷媒ガスとのうちオイル9だけが絞り通路501aを満たして流れると仮定したときの仮想のオイル流量である。
Qd≒q1×θ°/360° ・・・(F1)
図6は、上記横断角度θを説明するための図である。その横断角度θは、図6に示すように可動側連通孔502aの回転中心を通り且つ可動側連通孔502aの外形に接する一対の接線Ltgが成す角度である。
更に言うと、上記式F1に含まれる流通可能流量q1は、液体流れ(例えばオイル流れ)を絞るオリフィスに適用される一般的な下記式F2で算出されるオリフィス流量Qofに相当するので、上記流通可能流量q1は、図1に示す絞り通路501a前後の高低差圧に支配される。従って、間欠給油機構50の通過可能オイル流量Qdもその高低差圧に支配されるので、その高低差圧が大きいほど、すなわち圧縮部10の入出圧力差ΔPdsが大きいほど、間欠給油機構50の通過可能オイル流量Qdは大きくなる。
Qof≒k×Aof×(2×ΔP/ρ)1/2 ・・・(F2)
(Qof:オリフィスを流れる液体流量、k:流量係数、Aof:オリフィスの絞り断面積、ΔP:オリフィス前後の圧力差、ρ:オリフィスを流れる液体(例えばオイル)の密度)
以上のようにしてオイル9は間欠給油機構50を通過する。
そして、間欠給油機構50を通ったオイル9は、図1に示すように、可動側連通孔502aからミドルハウジング36の連通孔36aを通ってケース30内へ排出され、ケース30内の貯油部301へと落下する。
なお、間欠給油機構50をオイル9が流れる際には高圧から低圧への減圧作用を伴うため、オイル9と共にオイル9内に含有される冷媒成分が気体となって発生するが、そのオイル9から気化した冷媒は、冷媒吸入孔114aを経て吸入ポート114内へ吸引されることとなる。
次に、流量調整絞り通路723から吸入ポート114内へ流入するオイル流量Qsである流量調整絞り流量Qsと、間欠給油機構50の通過可能オイル流量Qdとの関係について述べる。圧縮機8外部のシステム側へのオイル流出、要するに圧縮機8の冷媒吐出管34からのオイル流出を防ぐためには、「Qs<Qd」となる関係を満たす必要がある。
なぜなら、オイル9は流量調整絞り通路723から吸入ポート114へ流入し圧縮部10を通過して油分離器40へ流入しその油分離器40で分離されるので、その油分離器40で分離された分離後オイル流量Qsxは流量調整絞り流量Qsより少なくとも小さい。すなわち、「Qsx<Qs」という関係が成立する。そして、圧縮機8が上記の「Qs<Qd」の関係を保つ構成とされれば、「Qsx<Qs<Qd」の関係が成立し、油分離器40で分離されたオイル9の全量が間欠給油機構50を通過可能となるからである。すなわち、「Qsx<Qs<Qd」の関係が成立することにより、油分離器40のオーバーフローに起因した圧縮機8外部へのオイル流出現象は発生しないからである。
そこで、本実施形態の圧縮機8では、「Qs<Qd」となる関係を満たすように、流量調整絞り通路723の孔径と、間欠給油機構50の間欠率(すなわち、上記式F1内の「θ°/360°」)および絞り通路501aの孔径とが定められている。言い換えれば、圧縮機8におけるオイル流量の調整では、流量調整絞り通路723の孔径とポンプ70の吐出流量とリリーフバルブ725の開弁圧Prすなわち設定圧Prとを決定することにより、圧縮機8で必要とされる必要潤滑量を定めることとなる。
図7(b)にオイル流量設定の考え方を示す。図7(b)は、横軸を圧縮部10の入出圧力差ΔPdsとし、且つ、縦軸を流量調整絞り流量Qsに対する間欠給油機構50の通過可能オイル流量Qdの比率であるオイル流量比QRdsとした関係図である。すなわち、流量調整絞り流量Qsを図7(b)において表すと、入出圧力差ΔPdsに関わらず、「QRds=1.0」として表される。そのオイル流量比QRdsは、「QRds=Qd/Qs」の算出式から得られる。
また、図7(a)は、横軸を、圧縮部10の入出圧力差ΔPdsとし、且つ、縦軸を、圧縮部10の吐出冷媒ガスが気流となって固定側絞り501の絞り通路501aを通過するガスパス時における冷媒ガスの質量流量とした関係図である。図7(a)(b)は、その前提条件として、圧縮部10の吐出圧力Pdは10MPaで一定であるとされている。そして、図7(b)では、流量調整絞り流量Qsは圧縮部10の入出圧力差ΔPdsに関わらず一定になっている。
図7(b)において、流量調整絞り通路723の孔径(すなわち絞り径)、ポンプ70の吐出流量、およびリリーフバルブ725の開弁圧Prなどから決まる流量調整絞り流量Qsを1として、間欠給油機構50の通過可能オイル流量Qdが例えば曲線QL1のような特性を示すように定められていると仮定する。そうすると、曲線QL1から、6MPa未満の入出圧力差ΔPdsではオイル流量比QRdsが1未満になり、「Qsx>Qd」となるので、油分離器40内でオイル9がオーバーフローし圧縮機8外部へのオイル流出がいずれは発生するものと考えられる。これは、常用運転における上記入出圧力差ΔPdsの下限が例えば3.5MPaであれば、その入出圧力差ΔPdsの常用域のうち3.5MPaから6MPaの間でオイル9が圧縮機8外部へ流出することを意味するものである。
このようなことを踏まえれば、圧縮部10の入出圧力差ΔPdsの下限運転範囲に応じて、上記オーバーフローに起因したオイル流出を圧縮機8の予め定められた運転範囲全域で防止することができる。
そこで、流量調整絞り通路723の孔径、ポンプ70の吐出流量、およびリリーフバルブ725の開弁圧Prなどから決まる流量調整絞り流量Qsを1として、間欠給油機構50の通過可能オイル流量Qdが例えば曲線QL2のような特性を示すように定められていたとする。そして、仮に3.5MPa以上の入出圧力差ΔPdsを圧縮機8の常用運転範囲(言い換えれば、常用域)にしたとする。その場合、曲線QL2では3.5MPa以上の入出圧力差ΔPdsでオイル流量比QRdsが1以上になっているので、圧縮機8を、その常用運転範囲の全域で油分離器40のオーバーフローが発生しない構成にすることができる。
このような考え方に基づいて、本実施形態の間欠給油機構50は、予め定められた圧縮機8の運転範囲である常用運転範囲において、絞り通路501aを通る上記二相流の中のオイル9とガス冷媒とのうちオイル9だけが絞り通路501aに流れると仮定した場合に、流量調整絞り流量Qsよりも多くの流量のオイル9を流すことができるように構成されている。要するに、上記「Qs<Qd」となる関係を満たすように構成されている。
ここで、本実施形態の圧縮機8では上記のように「Qs<Qd」となる関係が満たされているので、間欠給油機構50の絞り通路501aには、オイル9だけでなく、油分離器40で分離されたガス冷媒の一部を含む二相流(すなわち、オイル9+ガス冷媒)が流入する。すなわち、油分離器40で分離されたガス冷媒の殆どは冷媒吐出管34から吐出されるが、そのガス冷媒のうちの僅かが間欠給油機構50へ流れる。その間欠給油機構50の絞り通路501a、501z内の流れのイメージが図8Aおよび図8Bに示されている。
図8Aおよび図8Bは何れも、絞り通路501a内の流れのイメージを示したイメージ図である。図8Aは、「Qs>Qd」となる関係が成立している特許文献2のような従来例における流れを示し、図8Bは、「Qs<Qd」となる関係が成立している本実施形態における流れを示している。なお、図8Aおよび図8Bにおいて実線矢印はオイル9の流れを示し、破線矢印はガス冷媒の流れを示す。また、図8Aの絞り通路501zは、上記従来例において本実施形態の絞り通路501aに相当する通路である。
図8Aでは、「Qs>Qd」という条件から、油分離器40で分離されたオイル9の全量が絞り通路501zを通過することはできないので、絞り通路501zの入口にはオイル9が溜まる。そのため、油分離器40で分離されたガス冷媒が絞り通路501zへ流入する余地は無く、オイル9だけが絞り通路501zへ流入する。
その一方で、図8Bに示す本実施形態では、「Qs<Qd」という条件から、油分離器40で分離されたオイル9の全量が絞り通路501aを通過できるので、オイル9は絞り通路501aの入口に殆ど溜まらない。そのため、油分離器40で分離されたガス冷媒が絞り通路501aへ流入する余地が生じ、オイル9とガス冷媒とから成る二相流が絞り通路501aへ流入する。
詳細に言えば、その二相流の中のガス冷媒は気流となって油分離器40から絞り通路501aへ流入する。すなわち、間欠給油機構50は、二相流の中のガス冷媒が気流となって油分離器40から絞り通路501aへ流入するように構成されている。例えば、絞り通路501aへ流入する二相流では、その二相流のうちのオイル9から成る液流は、ガス冷媒から成る気流の外周を取り囲むように環状の断面を有して流れる。なお、確認的に述べるが、上記「ガス冷媒が気流となって」とは、ガス冷媒が図8Bのように流れることであるので、間欠給油機構50にて減圧された際にオイル9の中から析出する気化冷媒が流れることを意味するものではない。
なお、圧縮機8は、図7(b)において、入出圧力差ΔPdsが上記常用運転範囲の下限を下回って運転されることもあり得るが、それは圧縮機8の起動時などの短時間的なものである。従って、圧縮機8外部へ多少のオイル流出があったとしても、短時間の圧縮機8の潤滑は、図1に示す貯油部301の容量分でまかなうことができる。そして、圧縮機8の外部へ流出したオイル9は圧縮機8の運転の安定と共に圧縮機8へ帰還して安定化するので、起動時などの短時間的なオイル流出は大きな問題とはならない。
ここで補足的な説明をする。上記のように図7(b)から説明される入出圧力差ΔPdsとオイル流出との関係が成立するのは、次のような2つの理由によるものと考えられる。先ず第1の理由とは、間欠給油機構50の通過可能オイル流量Qdが圧縮部10の入出圧力差ΔPdsに依存するということである。そして第2の理由とは、流量調整絞り流量Qsが入出圧力差ΔPdsに依らず、ポンプ70の吐出流量とリリーフバルブ725の開弁圧Prとの作用により油室内圧Pspが略一定になり、流量調整絞り通路723が差圧略一定での固定絞りとして作用するということである。
従って、圧縮機回転数Ncが高くポンプ70の吐出流量が十分に多いことにより油室内圧Pspがリリーフバルブ725の開弁圧Prに到達し易い状態において、次のように言える。すなわち、その状態において、上記常用運転範囲の下限における入出圧力差ΔPdsで「Qs<Qd」という関係が成立するようにしておけば、ほぼ全ての運転状態で、油分離器40のオーバーフローに起因したオイル流出を防止することができる。
次に、本実施形態の圧縮機8における考え方が、油分離器を備えた内部低圧式の従来の圧縮機たとえば特許文献2の圧縮機とは異なる点について述べる。具体的に言えば、オイル流出の防止を優先し、敢えて高圧側から低圧側へのホットガスバイパスを許容しても成立する点について述べる。ここで、上記高圧側とは間欠給油機構50のオイル流入側であり、上記低圧側とは間欠給油機構50のオイル流出側である。また、上記ホットガスバイパスとは、圧縮部10で圧縮されて吐出された高温高圧の冷媒ガスであるホットガスを、圧縮機8の外部へ流出させずにケース30内へ流入させることであり、単にガスパスとも呼ぶ。
以下、給湯機用のCO2サイクル用圧縮機を例にとって説明する。一般的な給湯機の定格に近い圧縮機8の運転条件では「Pd/Ps=10MPa/4MPa」程度であり、その運転条件下において、冷媒がヒートポンプサイクルで循環する冷媒循環流量は50〜100kg/h程度であることが多く見うけられる。
仮に上記冷媒循環流量を100kg/hとした場合、圧縮機8の内部のシール等のために必要なオイル流量は5%程度であり、そのため、流量調整絞り流量Qsが5kg/h(すなわち、100kg/h×0.05)となるように流量調整絞り通路723のオイル流れの絞りを設定することとなる。なお、上記オイル流量の5%は公知の文献などから引用したものであり、妥当な値であると判断される。
ここで、上記5kg/hのオイル9を通す絞りと同程度の別の絞りで、圧縮機8から吐出された冷媒ガス(すなわち、CO2)をホットガスバイパスさせたと仮定する。このときの上記別の絞りを通る冷媒ガス流量をオリフィスの式(すなわち、ベルヌーイの定理の連続式)で計算すると、冷媒ガスの質量流量はオイルの1/4〜1/5程度であるので、圧縮機8が属するヒートポンプサイクルの性能への影響は1%程度となる。具体的にいえば、圧縮機8から吐出される冷媒の質量流量が、ホットガスバイパスされる前の圧縮部10から吐出された冷媒の質量流量に対して1%程度低下するということである。この1%程度の低下は実際の圧縮機8の使用において問題となるものではなく、間欠給油機構50の通過可能オイル流量Qdが流量調整絞り流量Qsの2倍程度であっても圧縮機8の性能上問題ないということが言える。また、本実施形態の圧縮機8は、オイル流出のある特許文献2の圧縮機構成に対してシステムのオイルレートを低くできるため、そのシステムの性能上有利となる。
図9に、間欠給油機構50が有する絞り通路501aの絞り孔面積Axすなわち通路断面積Axを変化させ、圧縮機8が属するヒートポンプサイクルの性能(すなわち、圧縮機8が吐出する冷媒の吐出流量)を測定した結果を示す。図9の測定は、予め定められた一定負荷で圧縮部10が駆動されている運転状態すなわち定常運転状態で行われたものである。
図9の横軸には、絞り通路501aの通路断面積Ax(すなわち、絞り孔面積Ax)が仮想の基準通路断面積A0に対する面積比率(すなわち、Ax/A0)として示されている。その基準通路断面積A0とは、冷媒およびオイル9のうちオイル9だけが間欠給油機構50を通過するものと仮定して、圧縮部10の上記定常運転状態において流量調整絞り流量Qsと同量に、間欠給油機構50でのオイル9が通過可能な流量を制限する絞り通路501aの仮想の通路断面積である。すなわち、図9の横軸において「Ax/A0=1.0」では、ホットガスバイパスが発生しない。また、図9の縦軸には、冷媒吐出管34から吐出される冷媒の質量流量すなわち圧縮機8の吐出冷媒流量が、絞り通路501aの通路断面積Axが基準通路断面積A0である場合(すなわち、「Ax/A0=1.0」の場合)の流量に対する質量流量比率として示されている。
図9の破線L1xに示すように、周知のオリフィス流れの式からは、上記ホットガスバイパスによる冷媒流量であるホットガスバイパス流量が絞り通路501aの通路断面積Axの面積比率に応じて増加する。これにより、図9の縦軸に示す質量流量比率が、図9の横軸に示すその面積比率に対してリニアに低下するものと推定された。要するに、図9の横軸に示す面積比率が大きいほど、図9の縦軸に示す性能比である質量流量比率が、破線L1xに示すように低下するものと推定された。しかしながら、実験からは図9の破線L2xに示すように、縦軸に示す質量流量比率は、横軸に示す面積比率2.5〜3以上にて極度の低下を示す。
これは、ホットガスバイパスされた冷媒ガスが、図1に示す圧縮部10の吸入ポート114で、冷媒吸入管37から流入する吸入冷媒ガスと合流する際に、その吸入冷媒ガスを加熱することに起因するものと考えられる。要するに、ホットガスバイパスされた冷媒ガスによってその吸入冷媒ガスが加熱されるので、ホットガスバイパス流量の増加と共に吸入冷媒ガスの密度を低下させる影響が大きくなることに起因するものと考えられる。
従って、図9に示す測定結果から、図9横軸の面積比率は2.5〜3以下にすることが、性能低下のばらつきを抑えるためには有効である。言い換えれば、間欠給油機構50における絞り通路501aの実際の通路断面積Axは、上記仮想の基準通路断面積A0に3を乗じて得た面積以下となっていることが好ましい。更に好ましくは、絞り通路501aの実際の通路断面積Axが、仮想の基準通路断面積A0に2.5を乗じて得た面積以下となっていることである。
なお、本実施形態の絞り通路501aおよび流量調整絞り通路723は、「Qs<Qd」という関係が成立するように形成されているので、絞り通路501aの実際の通路断面積Axは上記仮想の基準通路断面積A0よりも大きくなっている。
また、図9縦軸の性能比に対するホットガスバイパスの影響が比較的小さく済むことは、オイル9をケース30内へ環流させる固定側絞り501の絞り径が小さいことと、オイル密度に比してガス冷媒密度が低いこととに起因するものと考えられる。
更に、間欠給油機構50の絞り通路501aを気流となって通過する冷媒のガス流れは、絞り通路501a前後の圧力比(すなわち、下流側圧力/上流側圧力)が臨界圧力比Pc/Po以下である場合には音速に達する。そのため、その圧力比が臨界圧力比Pc/Po以下になる入出圧力差ΔPdsの範囲においては、上記ホットガスバイパス流量は増加しない。このことを図10に示す。図10は、圧縮部10の吐出圧力Pdを10MPa一定とする条件下で、圧縮部10の吸入圧力Psと上記ホットガスバイパス流量との関係を示した図である。なお、例えばCO2の臨界圧力比Pc/Poを算出するのであれば、臨界圧力比Pc/Poは下記式F3で表され、CO2では「K≒1.32」であるので、臨界圧力比Pc/Po=0.54となる。
Pc/Po=(2/(K+1))K/(K−1) ・・・(F3)
図10に示すように、横軸パラメータとして吸入圧力Psを変化させると、入出圧力差ΔPds(すなわち、Pd−Ps)の増加と共に、すなわち吸入圧力Psの減少と共に、ホットガスバイパス流量は増加する。但し、絞り通路501a前後の圧力比が臨界圧力比Pc/Poに到達する臨界点以降では、ホットガスバイパス流量は増えなくなる。従って、間欠給油機構50の絞り通路501aではホットガスバイパス流量は頭打ちになるので、圧縮機8は、ヒートポンプサイクルに対しその極端な性能低下を生じさせるような影響を及ぼし難い。
この現象を図7に戻り説明する。図7(a)では、吐出圧力Pdが10MPa一定であるという条件、および、縦軸がホットガスバイパス流量であることは図10と同じであるが、横軸は図10とは異なり、圧縮部10の入出圧力差ΔPdsになっている。図7(a)(b)では、入出圧力差ΔPdsが大きくなると共に、曲線QL2に示すようにオイル流量比QRds(すなわち、Qd/Qs)は大きくなるので、「QRds>1」の領域すなわちガスパス領域では、間欠給油機構50の絞り通路501a内はオイル9と冷媒ガスとが共に通過する状態になる。要するに、絞り通路501a内はホットガスバイパスされている状態になる。
しかし、そのホットガスバイパスによる冷媒流量すなわちホットガスバイパス流量は、絞り通路501a前後の圧力比が臨界圧力比Pc/Poになる入出圧力差ΔPds以上すなわち臨界差圧ΔPCL以上では、図7(a)の曲線QL3に示すように一定流量となる。すなわち、入出圧力差ΔPdsを大きくしていくと、図8Bに示す二相流の中のガス冷媒による気流は図7に示す臨界差圧ΔPCLで音速になるので、間欠給油機構50の絞り通路501aは、上記ガス冷媒による気流をその気流の最高速度において音速に到達させるように絞っている。
従って、図7(a)(b)から、圧縮部10の入出圧力差ΔPdsが増加しても、ホットガスバイパス流量の増加は限定的であるので、圧縮機8の吐出冷媒流量に対応したヒートポンプサイクルの性能への影響を抑えることが可能であるということが判る。
更に、圧縮部10から吐出された高温の冷媒ガスをホットガスバイパスさせることのメリットについて述べる。例えば内部低圧式の圧縮機であって、図1とは異なり、圧縮機外部からケース内へ吸入冷媒を取り入れそのケース内の吸入冷媒をスクロール式の圧縮部へ吸入させる圧縮機が、従来からよく知られている。このような従来の圧縮機では、ケース内の電動機部としてのモータを冷却するためにケース内に吸入冷媒を通すと、吸入冷媒が加熱されてから圧縮部に吸入されることになるので、圧縮機が吐出する冷媒流量に対応したヒートポンプサイクルの性能が極端に低下する。
この対策として、特開2008−88975号公報に見られるような圧縮機の冷媒吸入方式が知られている。この冷媒吸入方式は、基本は外部からの吸入冷媒を圧縮部にダイレクトに吸引し、モータ冷却に最低限必要な冷媒ガスが分岐されてケース内へ導入される。これにより、ヒートポンプサイクルの性能とモータ冷却とが両立されている。本実施形態の圧縮機8でも、図1に示すように吸気分配孔37bが冷媒吸入管37に設けられ、これと同様の冷媒吸入方式が採用されている。
本実施形態の圧縮機8で採用されている冷媒吸入方式では、上記性能の確保の観点から、電動機部20の温度がそれの耐熱温度(すなわち、モータ耐熱温度)を下回り且つ耐熱温度近くになるように、図1に示す冷媒吸入管37から分岐させる冷媒流量を調整しておくことが有効である。そして、内部低圧式でありながらモータ室としてのケース30内の温度は比較的高く、そのケース30内の温度を圧縮機8の吐出冷媒温度と吸入冷媒温度との中間よりも高くすることで上記性能が確保できる。
このことを踏まえて、図11に示すCO2のモリエル線図に関して説明する。例えばPd/Ps=10MPa/2MPaの低温運転においては、圧縮部10の吸入冷媒の状態は図11のS点で表され、圧縮部10の吐出冷媒の状態は図11のD点で表される。
このことから、圧縮部10の吐出温度はD点が示す120℃程度となる。そして、ホットガスバイパスによる冷媒ガスの減圧は等エンタルピ変化となり、その冷媒ガスの状態は図11のD点からP点へ移行する。すなわち、間欠給油機構50の絞り通路501aでの減圧により冷媒温度は、D点が示す120℃程度から、P点が示す80℃程度へと低下する。一般的なモータ耐熱温度は100〜120℃であり電動機部20の耐熱温度はこれと同等であるので、ホットガスバイパスによりケース30内へ導入される冷媒の温度たとえば上記80℃程度の冷媒温度は、電動機部20の耐熱温度よりも低くなる。
従って、ホットガスバイパスは単なるロスとならず、電動機部20の冷却に寄与することが可能である。そして、ホットガスバイパスによる冷媒ガスを、電動機部20の耐熱温度を下回る温度でケース30内へ導入することが可能である。
また、一般的な内部高圧式の圧縮機と比較すれば、本実施形態では絞り通路501aでの減圧により冷媒温度が120℃程度から80℃程度へと低下するので、「120℃−80℃」の計算から得られる約40℃分の冷却効果がある。また、ホットガスバイパスにより冷媒ガスがケース30内へ導入されるので、その分、図1の冷媒吸入管37から冷媒通路37aを経てケース30内へ導入される電動機部20冷却用の冷媒の流量を減らすことができ、それにより、ヒートポンプサイクルの効率低下を防ぐことも可能となる。
上述したように本実施形態によれば、間欠給油機構50は、油分離器40で分離されたガス冷媒の一部とオイル9とから成る二相流をケース30内へ流し、その二相流の中のガス冷媒が気流となって絞り通路501aへ流入するように構成されている。ここで、仮に、間欠給油機構50が、油分離器40で分離されたオイル9の全量を通過させることができないほどオイル流れを絞っていたとすれば、絞り通路501a内はオイル9で満たされるので、ガス冷媒が気流となって絞り通路501aへ流入する余地は生じない。従って、本実施形態の間欠給油機構50では、油分離器40で分離されたオイル9の全量が間欠給油機構50を通過できるので、その分離されたオイル9が油分離器40でオーバーフローすることが防止され、圧縮機8の外部へのオイル流出を抑えることが可能である。
また、油分離器40には基本的にオイル9が溜まらず、オイル9が溜まるのはケース30内の貯油部301であるので、圧縮機8が属するヒートポンプサイクル全体のオイル封入量のバラツキにも対応してオイル流出を抑えることが可能である。そのため、圧縮機8から吐出された冷媒のオイルレートを低く維持することが可能である。これにより、圧縮機8の高信頼性を確保し、且つ、システムとしてのヒートポンプサイクルの性能低下を最小限とすることができる。
そして、油分離器40はケース30内に収容されている。そして、オイル9が溜まる貯油部301がケース30内に設けられ、ポンプ70および流量調整絞り通路723は、オイル9を貯油部301から吸入ポート114へ流入させる。従って、圧縮機8本体の潤滑を確実に行いつつ、油分離器40を内蔵することによる小型化を図ることが可能である。
また、本実施形態によれば、ポンプ70は、ケース30内の貯油部301に溜まるオイル9を圧縮部10の吸入ポート114へ圧送する。従って、図1の貯油部301におけるオイル9の貯留量に拘わらず、例えば貯油部301におけるオイル9の液面9aの高低に拘わらず、吸入ポート114への流入するオイル流量を安定させることが可能である。なお、オイル流量を安定させることとは、例えばそのオイル流量の変動を抑制しオイル流量を略一定に保つことである。
また、本実施形態によれば、間欠給油機構50は、圧縮機8の常用運転範囲において、絞り通路501aを通る上記二相流の中のオイル9とガス冷媒とのうちオイル9だけが絞り通路501aに流れると仮定した場合に、流量調整絞り流量Qsよりも多くの流量のオイル9を流すことができるように構成されている。従って、圧縮機8の常用運転範囲の全域において、油分離器40からオイル9が溢れることに起因してオイル9が圧縮機8の外部へ流出するオーバーフローを回避することが可能である。また、圧縮機8外部へのオイル9の流出が抑えられると、貯油部301におけるオイル9の貯留量が急変動することも抑えられる。
また、本実施形態によれば、予め定められた一定負荷で圧縮部10が駆動されている場合において、絞り通路501aの実際の通路断面積Axと、流量調整絞り通路723を通るオイル9の流量と同量に、オイル9の通過可能な流量をオイル9だけが間欠給油機構50を通過するものと仮定して制限する絞り通路501aの仮想の基準通路断面積A0とを比較すれば、上記実際の通路断面積Axは上記仮想の通路断面積A0よりも大きい。従って、絞り通路501aの実際の通路断面積Axの設定によって、油分離器40で分離されたオイル9の全量が間欠給油機構50を通過できるようにすることが可能である。
また、本実施形態によれば、絞り通路501aの実際の通路断面積Axは、絞り通路501aの仮想の基準通路断面積A0に3を乗じて得た面積以下となっている。従って、圧縮機8の消費電力に対する吐出冷媒流量に対応した圧縮機8単体の性能の低下を最低限とし、圧縮機8の小型化と圧縮機8外部へのオイル流出を抑えることとの両立を図ることができる。
また、本実施形態によれば、間欠給油機構50の絞り通路501aは、ガス冷媒による気流をその気流の最高速度において音速に到達させるように絞る。従って、そのガス冷媒の気流の速度は音速を超えることはないので、圧縮部10の入出圧力差ΔPdsが拡大しても、ホットガスバイパス流量の増加を抑えることが可能である。
また、本実施形態によれば、流量制限部72は、ポンプ70から流出するオイル9の流量に対して、吸入ポート114へ流入するオイル9の流量を制限する。従って、ポンプ70から流出するオイル流量が圧縮機回転数Ncの変化に伴って変動しても、そのオイル流量の変動に関わらず、吸入ポート114へ流入するオイル流量を安定させることが可能である。
また、本実施形態によれば、流量制限部72は、油室721が形成された油室形成部722と、流量調整絞り通路723が形成された流量調整絞り部724と、リリーフバルブ725とを有している。そして、その油室721は、ポンプ70から吸入ポート114へ至るオイル9の流通経路に設けられ、オイル9を一時的に貯める。また、流量調整絞り通路723は、油室721から流出するオイル9の流れを絞ってそのオイル9を吸入ポート114へ流す。また、リリーフバルブ725は、油室721内の圧力が上昇する過程でその油室721内の圧力が予め定められた圧力閾値Prに到達した場合に、油室721内の圧力上昇をその到達前に対して抑える。従って、その油室721と流量調整絞り通路723とリリーフバルブ725との相乗効果として、圧縮機8の作動中に油室721内の圧力を安定させ、それによって、流量調整絞り通路723から吸入ポート114へ流入するオイル流量を安定させることが可能である。
また、本実施形態によれば、リリーフバルブ725は、ポンプ70から流出したオイル9が流量調整絞り通路723へ流入する前にそのオイル9の一部を貯油部301へ排出することにより、油室721内の圧力上昇を抑える。従って、ポンプ70に過剰な負荷を与えないように、流量調整絞り通路723から吸入ポート114へ流入するオイル流量を安定させることが可能である。
また、本実施形態によれば、ポンプ70は、貯油部301に溜まるオイル9を吸い込むと共にその吸い込んだオイル9を圧縮部10の吸入ポート114へ向けて吐出する。従って、吸入ポート114への安定したオイル供給が可能である。
また、本実施形態によれば、ポンプ70はケース30内に収容され、且つ、電動機部20の動力を圧縮部10へ伝達するシャフト25へ連結されている。従って、圧縮機8の小型化を図ると共に、圧縮部10を駆動する電動機部20を利用してポンプ70を駆動することが可能である。
また、本実施形態によれば、シャフト25の回転軸方向において、圧縮部10は電動機部20に対する一方側に配置され、且つ、ポンプ70は電動機部20に対する他方側に配置されている。そして、ポンプ70は、そのポンプ70が吐出するオイル9がシャフト25の主給油通路25aを通ってから吸入ポート114へ流れるようにその主給油通路25aへ接続されている。従って、シャフト25に掛かる負荷が回転軸方向の一方に偏らないように、電動機部20の動力をシャフト25から圧縮部10とポンプ70とのそれぞれへ伝達することが可能である。それと共に、ポンプ70が吐出するオイル9を、ポンプ70から電動機部20を挟んだ反対側にある圧縮部10へ、主給油通路25aを用いて円滑に送ることが可能である。
また、本実施形態によれば、油分離器40は、旋回室側壁401aの中心軸心である一軸心CLsがシャフト25の軸方向に対して交差する向きになるように配置されている。従って、一軸心CLsがシャフト25の軸方向に沿う向きで油分離器40が構成されている場合と比較して、圧縮機8の軸方向長さを短縮することが可能であり、言い換えれば圧縮機8の小型化を図ることが容易となる。例えば、圧縮機8の軸方向長さを最小限に留めることが可能となる。
なお、本実施形態の油分離器40は遠心分離式の油分離装置である。すなわち、連絡通路131が一軸心CLsに対しオフセットされていることにより旋回流が旋回室401b内に発生し、油分離器40の冷媒とオイル9との分離は、その旋回流による遠心分離作用を利用している。そのため、本実施形態のように一軸心CLsが水平向きになる横置きで油分離器40が配置されても、冷媒とオイル9とを分離する分離効率は高く保たれるので、本実施形態の油分離器40が遠心分離式とされることは特に有効である。
また、本実施形態によれば、分離パイプ402および冷媒吐出管34は一体となって1つの部材を構成しているので、分離パイプ402から冷媒吐出管34へ冷媒ガスを導く配管部品またはシール部品等を省き、部品点数の削減を図り易い。
(他の実施形態)
(1)上述の実施形態において、圧縮機8は例えばヒートポンプ式給湯機に適用されるが、空調装置または冷凍装置などの他の用途に適用されても差し支えない。
(2)上述の実施形態において、圧縮機8が用いられるヒートポンプサイクルは超臨界冷凍サイクルであるが、圧縮機8から吐出された高圧冷媒が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルであっても差し支えない。また、圧縮機8で圧縮される冷媒は、二酸化炭素に限らずそれ以外の物質であっても差し支えない。
(3)上述の実施形態において、リリーフバルブ725はリード弁式のリリーフバルブであるが、そのリリーフバルブ725の形式に限定はない。例えば、リリーフバルブ725は、コイルスプリングの設定荷重に応じて開弁圧Prが増減される形式であってもよい。
(4)上述の実施形態において、間欠給油機構50は、固定側絞り501から可動側連通孔502aへと間欠的にオイル9を流す間欠機構を備えているが、そのような間欠機構は無くてもよい。例えば、間欠給油機構50は、オリフィスのような単なる固定絞り等であっても差し支えない。
(5)上述の実施形態において、油分離器40は遠心分離式の油分離器であるが、オイル9と冷媒とを分離する方式はこれに限定されない。
(6)上述の実施形態において、圧縮部10はスクロール式の圧縮機構で構成されているが、ローリングピストン式、スライドベーン式、または往復動式などの他の形式の圧縮機構で構成されていても差し支えない。
(7)上述の実施形態において、圧縮機8は、電動機部20を有する電動コンプレッサであるが、電動である必要はなく、例えば、内燃機関などの外部駆動力源により駆動されても差し支えない。
(8)上述の実施形態において、油分離器40はケース30内に収容されているが、油分離器40がケース30外に設けられている圧縮機8の構成も考え得る。そのように油分離器40がケース30外に設けられているとしても、圧縮機8では油分離器40にオイル9が溜まらない或いは殆ど溜まらないので、ケース30外の油分離器40にオイル9を溜めるための油溜りを設ける必要がない。また、図1の圧縮機8ではそもそも、油溜りとしての貯油部301のオイル9が次第に増加して溢れるという心配がない。従って、油分離器40がケース30外に設けられた圧縮機8であっても、特許文献1の圧縮機と比較して、貯油部301を小型化し易く、油分離器40を含む圧縮機8全体の体格を小さくして圧縮機8の低コスト化を図ることが容易である。
(9)上述の実施形態において、圧縮部10が電動機部20の上方側に配置されているが、オイル9および冷媒の流通経路などが確保されるのであれば、圧縮部10が電動機部20の下方側に配置されていても差し支えない。
(10)上述の実施形態において、油分離器40は、旋回室401b内に分離パイプ402を有しているが、その分離パイプ402が無いものも考え得る。例えば、分離パイプ402を有さない油分離器としては、特開2012−112267号公報に記載されたオイルセパレータを挙げることができる。
(11)上述の実施形態において、図1に示すように、リリーフバルブ725は油室721に連結されているが、ポンプ70から吐出されたオイル9が流量調整絞り通路723へ流入する前にその吐出されたオイル9を排出できる箇所であれば、リリーフバルブ725はどこに設けられていてもよい。例えば、リリーフバルブ725は、ポンプ70の吐出口に連結されると共にそのポンプ70と一体構成になっていても差し支えない。
(12)上述の実施形態において、ポンプ70は、圧縮機8が有するオイル圧送装置として設けられているが、貯油部301におけるオイル9の液面9aの影響を排してオイル9を吸入ポート114へ圧送できれば、ポンプ70以外の他の装置に置き換えられても差し支えない。
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。
また、上述した設定は計算上の設定であり、ポンプ70の吐出流量、リリーフバルブ725の開弁圧Pr、流量調整絞り通路723、および間欠給油機構50の流量特性、間欠給油機構50のガスパス特性などは実機の状態により多少の差異はあるものである。そして、それらについて厳密には実機での合わせこみを行うことでより損失を少なくすることが望ましい。
(まとめ)
上記実施形態の一部または全部で示された第1の観点によれば、絞り部は、油分離器で分離された冷媒の一部とオイルとから成る二相流をケース内へ流す。そして、その絞り部は、その二相流の中の冷媒が気流となって絞り通路へ流入するように構成されている。
また、第2の観点によれば、流量制限部は、オイル圧送装置から流出するオイルの流量に対して、吸入ポートへ流入するオイルの流量を制限する。従って、オイル圧送装置から流出するオイル流量が変動しても、そのオイル流量の変動に関わらず、吸入ポートへ流入するオイル流量を安定させることが可能である。
また、第3の観点によれば、流量制限部は、油室が形成された油室形成部と、流量調整絞り通路が形成された流量調整絞り部と、圧力抑制装置とを有している。そして、その油室は、オイル圧送装置から吸入ポートへ至るオイルの流通経路に設けられ、オイルを一時的に貯める。また、流量調整絞り通路は、油室から流出するオイルの流れを絞ってそのオイルを吸入ポートへ流す。また、圧力抑制装置は、油室内の圧力が上昇する過程でその油室内の圧力が予め定められた圧力閾値に到達した場合に油室内の圧力上昇をその到達前に対して抑える。従って、その油室と流量調整絞り通路と圧力抑制装置との相乗効果として、圧縮機の作動中に油室内の圧力を安定させ、それによって、流量調整絞り通路から吸入ポートへ流入するオイル流量を安定させることが可能である。
また、第4の観点によれば、圧力抑制装置は、オイル圧送装置から流出したオイルが流量調整絞り通路へ流入する前にそのオイルの一部を貯油部へ排出することにより、油室内の圧力上昇を抑える。従って、オイル圧送装置に過剰な負荷を与えないように、流量調整絞り通路から吸入ポートへ流入するオイル流量を安定させることが可能である。
また、第5の観点によれば、絞り部は、二相流の中のオイルと冷媒とのうちオイルだけが絞り通路に流れると仮定した場合に、流量調整絞り通路を通るオイルの流量よりも多くの流量のオイルを流すことができるように構成されている。従って、油分離器からオイルが溢れることに起因してオイルが圧縮機外部へ流出するオーバーフローを回避することが可能である。
また、第6の観点によれば、予め定められた一定負荷で圧縮部が駆動されている場合において、絞り通路の実際の通路断面積と、流量調整絞り通路を通るオイルの流量と同量に、オイルの通過可能な流量をオイルだけが絞り部を通過するものと仮定して制限する絞り通路の仮想の通路断面積とを比較すれば、実際の通路断面積はその仮想の通路断面積よりも大きい。従って、絞り通路の実際の通路断面積の設定によって、油分離器で分離されたオイルの全量が絞り部を通過できるようにすることが可能である。
また、第7の観点によれば、絞り通路の実際の通路断面積は、上記絞り通路の仮想の通路断面積に3を乗じて得た面積以下となっている。従って、圧縮機の消費電力に対する吐出冷媒流量に対応した圧縮機単体の性能の低下を最低限とし、圧縮機の小型化と圧縮機外部へのオイル流出を抑えることとの両立を図ることができる。
また、第8の観点によれば、油分離器はケース内に収容されている。従って、油分離器を含む圧縮機の小型化を図ることが可能である。
また、第9の観点によれば、オイル圧送装置は、貯油部に溜まるオイルを吸い込むと共にその吸い込んだオイルを吸入ポートへ向けて吐出するポンプである。従って、吸入ポートへの安定したオイル供給が可能である。
また、第10の観点によれば、ポンプはケース内に収容され、且つ、モータの動力を圧縮部へ伝達する駆動軸へ連結されている。従って、圧縮機の小型化を図ると共に、圧縮部を駆動するモータを利用してポンプを駆動することが可能である。
また、第11の観点によれば、駆動軸の軸方向において、圧縮部はモータに対する一方側に配置され、且つ、ポンプはモータに対する他方側に配置されている。そして、ポンプは、そのポンプが吐出するオイルが駆動軸の軸内通路を通ってから吸入ポートへ流れるようにその軸内通路へ接続されている。従って、駆動軸に掛かる負荷が軸方向の一方に偏らないように、モータの動力を駆動軸から圧縮部とポンプとのそれぞれへ伝達することが可能である。それと共に、ポンプが吐出するオイルを、ポンプからモータを挟んだ反対側にある圧縮部へ、軸内通路を用いて円滑に送ることが可能である。