JP6581653B2 - 眼鏡レンズ - Google Patents
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Description
眼鏡用プラスチックレンズは、コスメティック効果、目の保護、遮光効果等の目的から全体を所望の色に均一に染色するか、または濃度勾配(グラデーション)をつけて染色することもさかんに行われている。
さらに、近年、コスメティック効果以外に染色により一定の機能を付与した眼鏡レンズが提案され(特許文献1、及び2参照)、盛んに発売されている。
本出願人の出願に係る特許文献1には、380nm〜450nmの短波長光のみを効果的にカットすることができる特定の化合物を用いて染色して得られた、380nm〜450nmの短波長光吸収性能に優れた染色レンズが開示されている。
特許文献2に開示の眼鏡レンズは、565nm〜605nmの間に主吸収ピーク波長における透過率の低下が極めて大きく、視感透過率Yが、実施例等に開示されているものでも14.1%〜73.4%であり、視感透過率の低下が大きいものである。
このため、特許文献2に開示の眼鏡レンズでは、585nm付近に波長選択的にシャープな光吸収ピークを有しているため、優れた防眩性能とコントラスト増強効果を付与することができ、特定吸収ピークのシャープさに由来して585nm付近以外での光透過性が良好で明視野が確保できるため、防眩性と視認性のバランスが極めて良好であり、かつグレーやブラウンなどの各種の色調化が実現しやすいとしている。
したがって、年配者、例えば、40歳以上の年配者においては、元々、短波長帯の青色光を黄色く着色した水晶体でカットしていることになる。このため、年配者が、眼鏡レンズとして主流である青色光を効果的にカットした、特許文献1に開示されているような眼鏡レンズを装用しても、若年者ほどの効果が得られないことが予想されると言う問題があった。
また、年配者においては、水晶体が黄色く着色しているため、白色、特に、パソコン(PC)等の画面の白色が、きれいな白に見えないことが予想されると言う問題があった。
このため、年配者、例えば、40歳以上の年配者においては、若年者より、薄暗いところでは、物が明るく見えない、特に、赤の鮮やかさが失われ、赤がよりくすんで暗く見えるという問題があった。
また、特許文献2に開示のプラスチック眼鏡レンズは、視感透過率が大幅に低い為、極めて明るい高照度の環境下で使用することで防眩効果等を発揮できるものであるが、常用することが想定されておらず、要求照度が増加している年配者が通常装用すると、見えにくく、薄暗いところでは、物が明るく見えない、特に、赤の鮮やかさが更に失われ、赤が更によりくすんで暗く見えるという問題があった。
即ち、本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、年配者が装用した時に、薄暗いところでも、物が明るく鮮やかに、特に、赤の鮮やかさが失われず、赤が明るく見えるようにすることができ、白色、例えば、パソコン(特にLEDバックライト)の白い画面がより白く見えるようにすることができ、その結果、白色を注視する必要のある作業、例えば、パソコン作業をより快適に行うことができる眼鏡レンズを提供することにある。
ここで、プラスチックレンズ基材の両面の内、少なくとも片側の面に配設された前記多層膜において、少なくとも530〜570nmの波長範囲における反射率に1つの極大値を有し、その反射率の極大値が、2.0〜6.0%であることが好ましい。
また、プラスチックレンズ基材の両面に配設された多層膜の少なくとも530〜570nmの波長範囲における平均反射率の和が、3.0〜6.0%であることが好ましい。
また、プラスチックレンズ基材の両面の内、片側の面に配設された多層膜において、その視感反射率が、1.5〜5.0%以下であることが好ましい。
また、少なくとも530〜570nmの波長範囲は、530〜580nmの波長範囲であることがより好ましい。
また、高屈折率材料は、二酸化ジルコニウムを含み、低屈折率材料は、二酸化珪素を含むことが好ましい。
また、多層膜は、3層以上の多層膜であることが好ましい。
また、プラスチック基材と前記多層膜との間に、機能性薄膜を備えることが好ましい。
また、本発明によれば、以上のように構成されているので、年配者が装用した時に、薄暗いところでも、物が明るく鮮やかに、特に、赤の鮮やかさが失われず、赤が明るく見えるようにすることができ、白色、例えば、パソコン(特にLEDバックライト)の白い画面がより白く見えるようにすることができ、その結果、白色を注視する必要のある作業、例えば、パソコン作業をより快適に行うことができる。
なお、以下に示す好適実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
同図に示す眼鏡レンズ1は、プラスチックレンズ基材(以下、プラスチック基材という)2と、プラスチック基材2の前面(表面:眼球と反対側(外側)の面)に配設された光学多層膜3aと、プラスチック基材2の後面(裏面:眼球側(顔側)の面)に配設された光学多層膜3bとを備えて構成されている。
本実施形態の眼鏡レンズ1では、プラスチック基材2の前面と光学多層膜3aとの間、及びプラスチック基材2の後面と光学多層膜3bとの間には、機能性薄膜4が配設されていることが好ましい。この機能性薄膜4は、プライマ層5とハードコート層6とからなっている。また、本実施形態では、さらに、光学多層膜3a及び3bの上には撥水撥油膜12が設けられていることが好ましい。この撥水撥油膜12については後述する。
また、プラスチック基材2は透光性を有していれば透明でなくてもよく、着色されていてもよい。着色されたプラスチック基材2の透過率は、5〜85%であることが好ましい。
プライマ層5は、プラスチック基材2とハードコート層6との密着性を良好にするためのもので、密着層として機能するようになっている。また、眼鏡レンズ1に対する衝撃を吸収するためのものでもあり、衝撃吸収層としても機能するようになっている。
このようなプライマ層5は、プライマ層5の形成材料液にプラスチック基材2を浸漬し、その後引き上げて乾燥することにより、プラスチック基材2上に所定の厚さで形成することができる。プライマ層5の形成材料液としては、例えば水又はアルコール系の溶媒に、上述したプライマ層5となる樹脂と光学酸化物微粒子ゾルとを分散又は溶解し、混合した液を用いることができる。
ハードコート層6は、シリコーン系耐擦傷性向上ハードコート膜として、例えばオルガノシロキサン系ハードコート層からなっている。オルガノシロキサン系ハードコート層は、オルガノシロキサン系樹脂に光学酸化物の微粒子を分散させたものである。光学酸化物としては、例えばルチル型の酸化チタンや、ケイ素、錫、ジルコニウム、及びアンチモンの酸化物が好適に用いられる。また、ハードコート層6として、例えば特公平4−55615号公報に開示されているような、コロイド状シリカ含有の有機ケイ素系樹脂であってもよい。ハードコート層6の厚み(実際の厚み)については、2μm以上4μm以下程度とするのが好ましい。
なお、ハードコート層6として、特に制限的ではなく、例えば、ウレタン系耐衝撃性向上ハードコート層等の従来公知のハードコート層を用いても良い。
本実施形態の眼鏡レンズでは、プラスチック基材2の前面と光学多層膜3aとの間、及びプラスチック基材2の後面と光学多層膜3bとの間には、同じ機能性薄膜4が配設されているのが好ましいが、本発明はこれに限定されず、プラスチック基材2の前面と後面とで、異なる機能性薄膜が配設されていても良い。
また、導電体膜、金属膜又は可視光の吸収膜は、本実施形態の多層膜に用いられる高屈折率光学材料である酸化物に比べて、電気伝導性があり、又、可視光の吸収が大きく着色が起こるので、本実施形態の多層膜に用いられる高屈折率光学材料に用いることができず、この高屈折率光学材料とは明確に区別され、本実施形態の多層膜に用いられる高屈折率光学材料には、含まれない。
本実施形態においては、プラスチック基材2の両面に配設される光学多層膜3a及び3bの少なくとも一方、即ち3a又は3bの一方は、その少なくとも530nm〜570nm、好ましくは530nm〜580nmの波長範囲(緑光)における平均反射率が2.5%〜5.5%であるように設計されている。
なお、光学多層膜3a及び3bは、その少なくとも530nm〜570nm、好ましくは530nm〜580nmの波長範囲(緑光)における両方の平均反射率の和が、3.0%〜6.0%であるように設計されていることが好ましい。
どちらか一方の平均反射率を2.5%以上5.5%以下に設定した場合には、光学多層膜3a及び3bを備える本実施形態の眼鏡レンズ1は、年配者が装用した時に、薄暗いところでも、物が明るく鮮やかに、特に、赤の鮮やかさが失われず、赤が明るく見えるようにすることができ、白色、例えば、パソコン(特にLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)バックライト)の白い画面がより白く見えるようにすることができ、その結果、白色を注視する必要のある作業、例えば、パソコン作業をより快適に行うことができるからである。
これに対し、この波長範囲における平均反射率を2.5%未満に設定した場合には、かかる眼鏡レンズを装用する際に、反射率が低すぎて反射が少なすぎるために装用者が上記効果を得られず、実感し難いという問題があるからであり、平均反射率を5.5%超に設定した場合には、かかる眼鏡レンズを装用する際に、反射率が高すぎるために眼鏡レンズの反射が装用者に強く感じられるようになり、装用者の視界内で煩わしく感じられたり、装用者が不快に感じたりするという問題があるからである。
なお、光学多層膜3a及び3bの両方の平均反射率の和を、3.0%以上6.0%以下に設定した場合には、本実施形態の眼鏡レンズ1による上述した種々の効果をより高いものとすることができる。
即ち、光学多層膜3a及び3bの少なくとも一方は、図2に示す反射分光特性(分光反射率曲線)A及びBのように、530〜570nm、好ましくは530nm〜580nmの波長範囲において、反射率の極大値を有し、その極大値が2.0%以上6.0%以下の範囲内にあることが好ましい。
その理由は、この波長範囲に反射率の極大値を有し、その反射率の極大値が2.0〜6.0%の範囲内にあれば、選択的に緑光をカットすることができ、そうすることでフィルター効果を得ることができ、上述した効果を得ることができるからである。
ところで、380nm〜780nmの可視領域全域にわたって、低い反射分光特性(広帯域低反射特性)を有する一般的な眼鏡レンズ用反射防止膜は、図2に示す反射分光特性Cのように、530〜570nmの波長範囲において反射率の極大値が無く、反射率自体も2.0%未満である。
なお、詳細は後述するが、図2に示す反射分光特性A及びBは、それぞれ実施例1及び2の眼鏡レンズ1の前面の光学多層膜3aの反射分光特性であり、図2に示す反射分光特性Cは、実施例1及び2の眼鏡レンズ1の後面の光学多層膜3bの反射分光特性である。
実施例1の反射分光特性A及びCの組み合わせ、及び実施例2の反射分光特性B及びCの組み合わせから、光学多層膜3a及び3bの530〜570nmの波長範囲における平均反射率の和が、3.0〜6.0の範囲に入ることが分かる。また、実施例2の反射分光特性Bから、光学多層膜3a単独の530〜570nmの波長範囲における平均反射率が、3.0〜6.0の範囲に入ることも分かる。
その理由は、光学多層膜3a及び3bの少なくとも一方であっても、可視領域の全体に亘って視感反射率を1.5%〜5.0%での範囲に少し低く抑えることにより、上述した効果を得易くなるからであり、視感反射率が1.5%未満では、上述した効果を感じにくくなり、5.0%超では、眼鏡レンズの反射が装用者に強く感じられるようになり装用者が不快に感じたりする恐れがあるからである。
なお、本実施形態の眼鏡レンズ1においては、光学多層膜3a及び3bの一方の視感反射率が1.5%〜5.0%の規定範囲内であれば、装用者が感じる反射のギラツキを抑えることができるので、もう一方の面はなるべく低反射の多層膜であった方が眼鏡レンズとして好ましい。
その理由は、この平均反射率の和が、2.0%超では、黄味が比較的強く感じられるようになり、装用者が上述した効果を感じにくくなるからである。
また、本実施形態の眼鏡レンズ1においては、上記限定に加え、プラスチック基材2の両面に配設された光学多層膜3a及び3bの630nm〜670nmの波長範囲における平均反射率の和が、2.0%以下であることが好ましい。
その理由は、この平均反射率の和が、2.0%超では、青みが感じられるようになったり、装用者が上述した効果を実感し難くなったりするからである。
図示例の光学多層膜3bも、上述のように、プラスチック基材2に高屈折率光学材料と低屈折率光学材料とが交互に5層積層されてなる5層構造であり、プラスチック基材2側に設けられた低屈折率光学材料よりなる第1層(低屈折率層)7bと、第1層7b上に設けられた高屈折率光学材料よりなる第2層(高屈折率層)8bと、第2層8b上に設けられた低屈折率光学材料よりなる第3層(低屈折率層)9bと、第3層9b上に設けられた高屈折率光学材料よりなる第4層(高屈折率層)10bと、第4層10b上に設けられた低屈折率光学材料よりなる第5層(低屈折率層)11bと、からなる。
光学多層膜3a及び3bにおいて、それぞれ3層以上積層するのは、3層以上でないと、高屈折率光学材料と低屈折率光学材料とを交互に積層することができないからであり、12層以下であれば十分な生産性を維持しつつ目的の分光反射特性を得ることができるからである。
図1に示す例では、光学多層膜3a及び3bは、共に高屈折率光学材料と低屈折率光学材料とが交互に5層積層されてなる5層構造であるが、本発明はこれに限定されず、高屈折率光学材料の高屈折率層と、低屈折率光学材料の低屈折率層とが交互に積層されていれば、光学多層膜3aと3bとで積層される層の数が異なっていても良いし、積層順序も異なっていても良い。
本実施形態における低屈折率層は、例えば、好ましくは屈折率が1.50以下、より好ましくは1.30〜1.50の低屈折率光学材料からなる層である。
眼鏡レンズ用の光学多層膜を設計する際、一般的に、このような低屈折率層の光学膜厚は、0.030λ〜1.000λの間で設計することが好ましい。
この際に、設計の中心波長は、400〜600nmとして設計することが好ましい。
本実施形態における高屈折率層は、例えば、屈折率が1.60以上であるのが好ましく、より好ましくは1.80〜2.40の高屈折率光学材料からなる層であるということもできる。
眼鏡レンズ用の光学多層膜を設計する際、このような高屈折率層の光学膜厚も、0.030λ〜1.000λの間で設計することが好ましく、一般的である。
第4層10a及び10bは、それぞれ第3層9a及び9bに接して設けられたもので、第2層8a及び8bと同様に、二酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる高屈折率層である。なお、この第4層10a及び10bについても、第2層8a及び8bと同様に、ZrO2以外の高屈折率光学材料によって形成することもできる。
第5層11a及び11bは、それぞれ第4層10a及び10bに接して設けられたもので、第2層8a及び8bと同様に、屈折率が1.47の二酸化珪素(SiO2)からなる低屈折率層である。なお、この第5層11a及び11bについても、第1層7a及び7bと同様に、SiO2以外の低屈折率光学材料によって形成することもできる。
この撥水撥油膜12は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を主成分とするもので、撥液性(撥水性、撥油性)を有するものである。すなわち、この撥水撥油膜12は、眼鏡レンズ1の後面エネルギーを低下させ、水やけ防止、曇り防止、及び汚れ防止の機能を発揮するとともに、眼鏡レンズ後面のすべり性能を向上させ、その結果として、耐擦傷性を向上させることができる。
フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、下記一般式(1):
及び下記一般式(2)〜(5):
及び下記一般式(6):
の中から選択される。
一般式(1)〜(5)で示されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、ダイキン工業株式会社製オプツール−DSX、オプツール−AES4などを用いることができる。また、一般式(6)示されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、信越化学工業株式会社製KY−130、KY−164などを用いることができる。
次に、本実施形態の眼鏡レンズの製造方法の一例について説明する。以下では、上述の図1に示す両面に光学多層膜3a及び3bが配設されている眼鏡レンズ1の製造方法に基づいて説明を行う。
本実施形態の製造方法は、プラスチック基材2の前面及び後面の両面に対して従来と同様の方法で機能性薄膜4(プライマ層5、ハードコート層6)を形成する工程と、プラスチック基材2を加熱する工程と、加熱によってプラスチック基材2を所定温度(例えば70℃)に調整した後、このプラスチック基材2の両面上にそれぞれ光学多層膜3a及び3bを形成する工程と、光学多層膜3a及び3b上にそれぞれ撥水撥油膜12を形成する工程と、を備えてなる。
また、蒸着装置30は、図示しない温調手段により、第1成膜室31、第2成膜室32、第3成膜室33のそれぞれの内部温度が調整可能になっている。
蒸着装置30の蒸着源35は、第2成膜室32の内側の空間に配置されている。蒸着源35は、第1蒸着源35A及び第2蒸着源35Bからなる。また、第2成膜室32には、蒸着源35にビームを照射可能な光源装置36が配置されている。光源装置36は、蒸着源35に対して電子を照射して蒸着源35の構成粒子を叩き出すことができるものである。
例えば、光源装置36が、第2蒸着源35Bにビームを照射することにより、SiO2の蒸気を第2蒸着源35Bから放出させ、保持部材34に保持されているプラスチック基材2の両面上に供給し、蒸着させる。これにより、光学多層膜3a及び3bの低屈折率層である第1層7a及び7b、第3層9a及び9b及び第5層11a及び11bを形成することができる。同様に、光源装置36が、第1蒸着源35Aにビームを照射することにより、ZrO2の蒸気を第1蒸着源35Aから放出させ、保持部材34に保持されているプラスチック基材2の両面上に供給し蒸着させる。これにより、光学多層膜3の高屈折率層である第2層8a及び8bと第4層10a及び10bとを形成することができる。
なお、第1蒸着源35Aとして酸化ジルコニウム(ZrO)からなる蒸着源を用い、第2成膜室32の内部空間に酸素を導入しながら第1蒸着源35Aにビームを照射し、二酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる高屈折率光学材料層を形成するようにしてもよい。
また、本実施形態の眼鏡レンズの製造方法において、光学多層膜3a及び3bを形成する工程は、光学多層膜3a及び3bを構成する層のうちの少なくとも一層を、イオンビームアシストを施しながら成膜を行う工程を含んでいてもよい。本実施形態の眼鏡レンズの製造方法が、かかる工程を含むことにより、光学多層膜を構成する高屈折率光学材料と低屈折率光学材料との間に、ITOや金属等の導電体膜が配設される。
本実施形態においては、光学多層膜3a及び3bを構成する高屈折率層である第4層10a及び10bと低屈折率層である第5層11a及び11bとの間に、ITOや金属等の導電体膜を配設する際に、イオンビームアシストを施しながら成膜を行う。
なお、成膜室32内で光学多層膜3a及び3bを構成する層のうち少なくとも一層を、イオンビームアシストを施しながら成膜を行えばよく、イオンビームアシストを施す対象は、導電体膜に限定されない。
また、成膜装置30aはその内部が真空蒸着装置30と同様にほぼ真空に減圧され、プラスチック基材2の周囲を真空雰囲気に保持できるようになっている。更に成膜装置30aには、ガスボンベ等の雰囲気ガス供給源が接続されていて、真空容器の内部を真空等の低圧状態で、かつ、酸素ガス、アルゴンガス、またはその他の不活性ガス雰囲気、あるいは、酸素を含む不活性ガス雰囲気にすることができるようになっている。
イオンガン37は、第2成膜室32の内部に、イオン化させるガスを導入し、正面に引き出し電極を備えて構成されている。そして、ガスの原子または分子の一部をイオン化し、そのイオン化した粒子を引き出し電極で発生させた電界で制御してイオンビームとして照射する装置である。
光源装置36は、イオンガン37と同等の構成をなし、蒸着源35aに対して電子を照射して蒸着源35aの構成粒子を叩き出すことができるものである。なお、成膜装置30aにおいては、蒸着源35aの構成粒子を叩き出すことができることが重要であるので、蒸着源35aに高周波コイル等で電圧を印加して蒸着源35aの構成粒子を叩き出し可能なように構成し、光源装置36を省略しても良い。
光源装置36から蒸着源35aに電子を照射すると、蒸着源35aの構成粒子が叩き出されて第4層10a及び10b上に飛来する。そして、第4層10a及び10b上に、蒸着源35aから叩き出した構成粒子を堆積させると同時に、イオンガン37からアルゴンイオンを照射する。
本実施形態において、イオンビームアシストは、不活性ガス、酸素ガス、及び不活性ガスと酸素ガスの混合ガスから選ばれる少なくとも一種のガスを用いて行われることが好ましい。該不活性ガスはアルゴンであることが好ましい。
撥水撥油膜12の形成方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法などの湿式法、あるいは真空蒸着法などの乾式法がある。
湿式法の中では、ディッピング法が一般的であり、よく用いられる。この方法は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を有機溶剤に溶解した液中に、光学多層膜3a及び3bまで形成し眼鏡レンズを浸漬し、一定条件で引き上げ、乾燥させて成膜する方法である。有機溶剤としては、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ−4−メトキシブタン、パーフルオロ−4−エトキシブタン、メタキシレンヘキサフルオライドなどが使用される。
乾式法の中では、真空蒸着法がよく用いられる。この方法は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を真空槽内で加熱して蒸発させ、撥水撥油膜12を形成する方法である。
なお、本実施形態の眼鏡レンズは、装用して光源を観察した場合、人工太陽照明灯、昼光色LED電球、及び昼光色蛍光灯などのいずれの光源においても、装用しない場合に比べて、光源の色温度を1%〜3%上昇させることができる。
また、眼鏡レンズの製造方法にあっては、このような年配者の目に好適な優れた眼鏡レンズを確実に提供することができる。
上記従来技術において、図12を用いて説明したように、人の目は、明るい所では視感度(視感効率)自体は低く、感度ピークは、555nm付近となるが、光が足りなくなって暗くなってくると、視感度は上昇して高くなり、感度ピークは、短波長側にシフトし、ずれてくる。このため、人の目には、明るいところで赤色と青色が同じような明るさに見えても、薄暗いところでは赤はくすんで暗く見えるプルキンエ現象が生じる。
このため、530nm〜570nmの中波長領域における光を選択的にカットすると共に、好ましくは他の可視波長領域の大部分において僅かに光をカットして、薄暗いところでの感度が低くなり、暗く見える薄い赤色の本実施形態の眼鏡レンズを装用することによって、薄暗いところでも物が明るく鮮やかに見えると言う効果を更に得ることができる。
<実施例1>
図1に示すプラスチック基材2であるウレタン系合成樹脂基板の両面(眼鏡レンズ1の表面(前面;外側)及び後面(顔側))上に、屈折率1.67のプライマコート、及び屈折率1.67のシリコン系ハードコートを加熱硬化にて施してプライマ層5及びハードコート層6からなる機能性薄膜4を形成する前処理を行った後、それらの上に、以下に示すように、真空蒸着法により光学多層膜3a及び3bを成膜して、実施例1の眼鏡レンズ1を作製した。
表面(前面;外側):顔側の表面と同様の装置、加工雰囲気下で、前処理後のプラスチック基材2の前面に、前面側から順次、第1層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.150λ、第2層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.080λ、第3層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.040λ、第4層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.500λ、第5層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.250λで積層して、光学多層膜3aを形成した。
なお、各実施例及び各比較例において、両面の光学多層膜3a及び3bとも、波長λは、設計の中心波長で500nmとした。
また、530〜570nm、430〜470nm、及び630〜730nm、並びに530〜580nmの各波長領域における前面及び後面の光学多層膜3a及び3bの各平均反射率、及び前面と後面との平均反射率の和を求めた。なお、平均反射率は、波長1nmおきに測定した反射率の平均である。また、前面及び後面の光学多層膜3a及び3bの各視感反射率、及び前面と後面との視感反射率の和を求めた。
実施例1の多層膜の構成及び膜特性として求められた530〜570nm、530〜580nm、430〜470nm、及び630〜730nmの4つの波長範囲の平均反射率及び視感反射率の値を、後面、表面(前面)、及び後面と表面(前面)の和それぞれについて表1に示す。
さらに、図5から明らかなように、実施例1の光学多層膜3aは、530〜570nm(530〜580nm)の波長範囲における分光反射率に1つの極大値を有し、その反射率の極大値が、3.0%であり、2.0〜6.0%の範囲内にあることが分かる。
なお、上述したように、実施例1の前面の光学多層膜3aでは、530〜570nmの波長範囲を530〜580nmの波長範囲に拡大しても、同様な反射分光特性を示すことがわかる。
実施例1と同様に、プラスチック基材2の両面上に前処理を行った後、以下に示すように、真空蒸着法により、光学多層膜3a及び3bを成膜して、実施例2の眼鏡レンズ1を作製した。
前面:実施例1と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で、真空蒸着法により、前処理後のプラスチック基材2の前面に、前面側から順次、第1層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.250λ、第2層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.040λ、第3層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.060λ、第4層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.550λ、第5層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.250λで積層して、光学多層膜3aを形成した。
後面:実施例1と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で、真空蒸着法により、前処理後のプラスチック基材2の後面に、実施例1の後面の光学多層膜3bと全く同一の多層膜の構成を有する実施例2の後面の光学多層膜3bを形成した。
また、実施例1と同様にして、膜特性として、上述した4つの波長範囲の平均反射率、及び視感反射率を前面(表面)、後面、及び前面(表面)、後面の和それぞれについて求めた。
実施例2の多層膜の構成及び膜特性を表1に示す。
さらに、図7から明らかなように、実施例2の光学多層膜3aは、530〜570nmの波長範囲における分光反射率に1つの極大値を有し、その反射率の極大値が、5.0%であり、2.0〜6.0%の範囲内にあることが分かる。
また、実施例2の前面の光学多層膜3aでは、実施例1と同様に、530〜570nmの波長範囲を530〜580nmの波長範囲に拡大しても、同様な反射分光特性を示すことがわかる。
前面:実施例1と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で、真空蒸着法により、前処理後のプラスチック基材2の前面に、実施例1の後面の光学多層膜3bと全く同一の多層膜の構成を有する比較例1の前面の光学多層膜を形成した。
後面:実施例1と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で、真空蒸着法により、前処理後のプラスチック基材2の後面に、実施例1の後面の光学多層膜3bと全く同一の多層膜の構成を有する比較例1の後面の光学多層膜を形成した。
こうして、比較例1の眼鏡レンズを作製した。
こうして作製された比較例1の前面及び後面の光学多層膜の反射分光特性は、実施例1及び2の後面の光学多層膜3bと同様に、眼鏡レンズに用いられる一般的な反射防止膜の反射分光特性である図6に示されるものとなった。
比較例1の多層膜の構成及び膜特性を表2に示す。
図6から明らかなように、比較例1の前面及び後面の光学多層膜は、共に眼鏡レンズに用いられる一般的な反射防止膜であり、その530〜570nm(530〜580nm)の波長範囲における分光反射率が高くなっておらず、実施例1の図5に示す反射分光特性とは全く異なる反射分光特性を示していることが分かる。
前面:実施例1と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で、真空蒸着法により、前処理後のプラスチック基材2の前面に、前面側から順次、第1層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.100λ、第2層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.080λ、第3層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.060λ、第4層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.400λ、第5層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.150λ、第6層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.100λ、第7層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.180λ、第8層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.280λで積層して、比較例2の前面の光学多層膜を形成した。
後面:実施例1と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で、真空蒸着法により、前処理後のプラスチック基材2の後面に、実施例1の後面の光学多層膜3bと全く同一の多層膜の構成を有する比較例2の後面の光学多層膜を形成した。
こうして、比較例2の眼鏡レンズを作製した。
また、実施例1と同様にして、比較例2の前面及び後面の光学多層膜の4つの波長範囲の平均反射率、及び視感反射率を求めた。
比較例2の多層膜の構成及び膜特性を表2に示す。
図8から明らかなように、比較例2の前面の光学多層膜は、その530〜570nm(530〜580nm)の波長範囲における分光反射率が高くなりすぎており、実施例1の図5に示す反射分光特性とは全く異なる反射分光特性を示していることが分かる。また、比較例2の前面の光学多層膜は、図6に示す反射分光特性を持ち、一般的な反射防止膜である比較例2の後面の光学多層膜と組み合わせても、530〜570nm(530〜580nm)の緑光をカットしすぎることになることが分かる。
前面:実施例1と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で、真空蒸着法により、前処理後のプラスチック基材2の前面に、前面側から順次、第1層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.100λ、第2層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.060λ、第3層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.060λ、第4層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.420λ、第5層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.150λ、第6層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.100λ、第7層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.180λ、第8層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.270λで積層して、比較例3の前面の光学多層膜を形成した。
後面:実施例1と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で、真空蒸着法により、前処理後のプラスチック基材2の後面に、実施例1の後面の光学多層膜3bと全く同一の多層膜の構成を有する比較例3の後面の光学多層膜を形成した。
こうして、比較例3の眼鏡レンズを作製した。
また、実施例1と同様にして、比較例3の前面及び後面の光学多層膜の4つの波長範囲の平均反射率および、視感反射率を求めた。
比較例3の多層膜の構成及び膜特性を表2に示す。
図9から明らかなように、比較例3の前面の光学多層膜は、その530〜570nm(530〜580nm)の波長範囲における分光反射率が高くなりすぎており、実施例1の図5に示す反射分光特性とは全く異なる反射分光特性を示していることが分かる。また、比較例3の前面の光学多層膜は、図6に示す反射分光特性を持ち、一般的な反射防止膜である比較例2の後面の光学多層膜と組み合わせても、530〜570nm(530〜580nm)の緑光をカットしすぎることになることが分かる。
まず、実施例1の前面の光学多層膜3aは、表1から明らかなように、それらの530〜570nm、及び530〜580nmの波長範囲における平均反射率が、それぞれ、3.0%、及び2.9%であり、いずれも、2.5〜5.5%の範囲内にあることが分かる。また、実施例1の光学多層膜3a及び3bは、表1から明らかなように、それらの530〜570nm、及び530〜580nmの波長範囲における平均反射率の和が、それぞれ、3.6%、及び3.4%であり、いずれも、3.0〜6.0%の範囲内にあることが分かる。また、実施例1の前面及び後面の光学多層膜3a及び3bは、各視感反射率が、それぞれ2.4%及び0.6%であり、前面の光学多層膜3aの視感反射率が1.5%〜5.0%の範囲内にあることが分かる。さらに、実施例1の前面の光学多層膜3aは、430〜470nmの波長範囲における平均反射率が、0.5%で、630〜670nmの波長範囲における平均反射率が、0.6%であり、いずれも2.0%以下であることが分かる。また、実施例1の前面及び後面の光学多層膜3a及び3bは、それらの430〜470nmの波長範囲における平均反射率の和が、1.0%で、630〜670nmの波長範囲における平均反射率の和が、1.2%であり、いずれも2.0%以下の範囲内にあることが分かる。
次に、比較例1、2及び3の前面及び後面の光学多層膜は、両面の光学多層膜の530〜570nmの波長範囲における平均反射率の和が、それぞれ、1.2%、7.4%及び9.4%であり、また、両面の光学多層膜の530〜580nmの波長範囲における平均反射率の和が、それぞれ、1.0%、7.2%、及び9.1%であり、いずれも、3.0〜6.0%の範囲から外れていることが分かる。
さらに、人工太陽(照明)灯、昼光色LED(電球)、昼光色蛍光灯の光源の色温度を、分光放射輝度計を用いて、実施例1、2、比較例1、2、3のレンズを通した場合と通さない場合で測定し、比較を行った。
アンケートによる官能評価結果と各光源の色温度の測定結果を表3に示す。
また、それぞれの光源の色温度を、実施例1及び2の眼鏡レンズを通して測定した場合、眼鏡レンズを通さず測定した色温度よりも高く測定されている。
これに対し、比較例1は、530〜570nm(530〜580nm)における平均反射率の和が、3.0〜6.0%の限定範囲よりも低く、効果が得られず、評価が×であった。色温度も眼鏡レンズ無しの場合とほぼ等しい値が測定されている。
さらに、比較例2及び3は、色温度は高く測定されているが、530〜570nm(530〜580nm)における平均反射率の和が3.0〜6.0%の限定範囲よりも高く、効果が得られず評価が×であった。これは、眼鏡レンズとして装用する際に、反射率が高すぎるために、眼鏡レンズの反射が装用者の視界内で煩わしく感じられることなどが原因に挙げられた。
以上の結果から、本実施形態のレンズを通して光源を観測する場合、かけない場合に比べて観測される光源の色温度が1〜3%上昇することが好ましいことが分かる。
Claims (9)
- プラスチックレンズ基材の両面に多層膜を備える眼鏡レンズであって、
前記プラスチックレンズ基材の両面の内、少なくとも片側の面に配設された前記多層膜の少なくとも530〜570nmの波長範囲における平均反射率が、2.5〜5.5%であり、
前記プラスチックレンズ基材の両面に配設された前記多層膜の430〜470nmの波長範囲における平均反射率の和が、2.0%以下であり、
前記プラスチックレンズ基材の両面に配設された前記多層膜の630〜670nmの波長範囲における平均反射率の和が、2.0%以下である眼鏡レンズ。 - 前記プラスチックレンズ基材の両面の内、少なくとも片側の面に配設された前記多層膜において、少なくとも530〜570nmの波長範囲における反射率に1つの極大値を有し、その反射率の極大値が、2.0〜6.0%である請求項1に記載の眼鏡レンズ。
- 前記プラスチックレンズ基材の両面に配設された前記多層膜の少なくとも530〜570nmの波長範囲における平均反射率の和が、3.0〜6.0%である請求項1又は2に記載の眼鏡レンズ。
- 前記プラスチックレンズ基材の両面の内、片側の面に配設された前記多層膜において、その視感反射率が、1.5〜5.0%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
- 前記少なくとも530〜570nmの波長範囲は、530〜580nmの波長範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
- 前記多層膜は、高屈折率材料と低屈折率材料とによって構成され、
前記多層膜を構成する高屈折率材料と低屈折率材料との間に、厚さ20nm以下の導電体膜又は金属膜を備える請求項1〜5のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。 - 前記高屈折率材料は、二酸化ジルコニウムを含み、
前記低屈折率材料は、二酸化珪素を含む請求項6に記載の眼鏡レンズ。 - 前記多層膜は、3層以上の多層膜である請求項1〜7のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
- 前記プラスチックレンズ基材と前記多層膜との間に、機能性薄膜を備える請求項1〜8のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
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