JP6578260B2 - エレベーターシステムおよびその制御方法 - Google Patents

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Description

本発明はエレベーターシステムおよびその制御方法に関する。
エレベーターを駆動するためには、小型化や高効率化といった観点から永久磁石を用いた同期式の電動機が利用される。このような同期電動機を制御するためには、回転子の磁極位置を検出する必要がある。磁極位置を検出するためのセンサとして、たとえば光学式や磁気式のロータリーエンコーダや、レゾルバなどが用いられている。
同期電動機を用いたエレベーターシステムにおいて、磁極位置を検出するためのセンサが故障した場合、磁極位置信号が得られず同期電動機の制御が困難になる。特に、つり合い錘を利用するエレベーターを制御する場合には、つり合い錘の重量と乗りかごの重量との差分に相当するトルクを同期電動機が出力できないと、つり合い錘または乗りかごのうちどちらか重量の大きいほうへ引きずられるように乗りかごが移動する。このように、エレベーターの制御では、乗りかごを静止させるためのトルクを基準として乗りかごの加速および減速を行うため、同期電動機のトルクの制御が重要であり、同期電動機が所望のトルクを出力するためには、センサによる磁極位置の検出が重要である。
センサが故障したときに、救出運転などのために、エレベーターを駆動する従来技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。
特許文献1に記載の技術では、検出電流と、電圧指令と、モータ定数に基づいて、磁極位置を推定し、推定された磁極位置に基づいて同期電動機を駆動する。
特開2016−639号公報
しかしながら、上記従来技術においては、初期磁極位置の推定精度に起因するモータのつり合いトルク不足により、シーブに回転方向の振動が発生する。さらに、このような振動に対して制御追従性が不十分なため、つり合いトルクまでトルクが補償されず、乗りかごまたはつり合い錘のうちどちらか重いほうへ乗りかごが引きずられて移動してしまう恐れがある。
そこで、本発明は、磁極位置センサからの磁極位置信号が得られない場合に、乗りかごを安定に運転できるエレベーターシステムおよびその制御方法を提供する。
上記課題を解決するために本発明によるエレベーターシステムは、乗りかごを駆動する同期電動機と、同期電動機を制動するブレーキと、同期電動機を制御する駆動制御装置と、を備えるものであって、駆動制御装置は、同期電動機の電流指令を作成する電流指令作成部と、同期電動機の磁極位置指令を作成する磁極位置指令作成部と、同期電動機の初期磁極位置を推定する初期磁極位置推定部と、ブレーキの開放および制動を制御するブレーキ制御部と、を備え、ブレーキ制御部がブレーキを制動状態から開放する時、電流指令作成部は一定値の電流指令を作成し、かつ磁極位置指令作成部は初期磁極位置推定部で推定された初期磁極位置を磁極位置指令として設定し、ブレーキ制御部がブレーキを開放してから所定時間の間、磁極位置指令作成部は磁極位置指令を初期磁極位置に保持し、所定時間の後に、磁極位置指令作成部は、乗りかごを運転するように磁極位置指令を作成する。
また、上記課題を解決するために本発明によるエレベーターシステムの制御方法は、乗りかごの制動状態において同期電動機に一定電流を流す第1のステップと、同制動状態において同期電動機の初期磁極位置を推定する第2のステップと、同制動状態において同期電動機の磁極位置指令を初期磁極位置にセットする第3のステップと、乗りかごの制動状態を解除する第4のステップと、第4のステップの次に、乗りかごの制動状態を解除してから所定時間が経過した否かを判定する第5のステップと、第5のステップにおいて、所定時間が経過したと判定されたら、乗りかごを運転する第6のステップと、を含む。
本発明によれば、ブレーキ開放後、同期電動機に一定電流を流しつつ、所定時間、磁極位置指令を初期磁極位置に保持することにより、同期電動機の回転振動が収まった状態で、乗りかごが運転制御される。これにより、磁極位置信号が得られない場合でも、乗りかごを安定に運転できる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
第一の実施形態であるエレベーターシステムを示す全体構成図である。 コントローラの機能ブロックと、電力変換器および同期電動機の関係を示す。 第一の実施形態の動作の概要を示す。 同期電動機のトルクと、同期電動機における実際のq軸とコントローラにおけるq軸の位相差との関係を示す。 コントローラの処理動作の流れを示すフローチャートである。 第二の実施形態であるエレベーターシステムを示す全体構成図である。 第二の実施形態における、コントローラの機能ブロックと、電力変換器および同期電動機の関係を示す。 第三の実施形態であるエレベーターシステムを示す全体構成図である。 第三の実施形態における、コントローラの機能ブロックと、電力変換器および同期電動機の関係を示す。 第三の実施形態における、同期電動機のトルクと、同期電動機における実際のq軸とコントローラにおけるq軸の位相差との関係を示す。 比較例における、同期電動機のトルクと、同期電動機における実際のq軸とコントローラにおけるq軸の位相差との関係を示す。 第三の実施形態におけるコントローラの処理動作の流れを示すフローチャートである。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
(第一の実施形態)
図1は、本発明の第一の実施形態であるエレベーターシステムを示す全体構成図である。
本実施形態において、乗りかご104の移動は、電力変換器101およびコントローラ100を含む駆動制御装置によって同期電動機103の駆動を制御することにより制御される。コントローラ100は、電流指令作成部1、磁極位置指令作成部2、および初期磁極位置推定部3を備える。これらの機能については後述する。
同期電動機103としては、永久磁石式同期電動機が適用される。なお、本実施形態では、表面磁石型などの非突極性の永久磁石式同期電動機が適用される。このため、いわゆるセンサレス制御は適用しにくく、通常時は、図示されない磁極位置センサによって検出される磁極位置に基づいて、同期電動機103は制御される。
乗りかご104は、建屋に形成された昇降路内を複数の階床間に渡って移動する。乗りかご104と、主ロープを介して、乗りかご104と重量バランスを取るためのつり合い錘とは、主ロープに接続される。すなわち、乗りかご104とつり合い錘は、主ロープを介して、互いに接続されている。また、乗りかご104には、乗り場側扉と係合して開閉する乗りかご側扉が設けられている。
乗りかご104は、同期電動機103によって綱車(シーブ)が回転駆動されることにより、綱車に巻き掛けられる主ロープが駆動されると、昇降路内を移動する。同期電動機103には、電力変換器101によって駆動用の電力が供給される。電力変換器101は、コントローラ100が出力する、かご位置制御指令またはかご速度指令あるいはトルク指令に応じて、同期電動機103を制御するための電力を出力する。
コントローラ100は、乗りかご104を制動させる場合、ブレーキ電源停止指令10および動力電源停止指令を出力する。ブレーキ電源停止指令10によって、ブレーキ電源とブレーキ102間に設けられる電磁接触器(コンタクタ)が開放される。これにより、ブレーキ102への電力供給が遮断されるので、ブレーキ102は制動状態となる。また、動力電源停止指令によって、動力電源と電力変換器101間に設けられる電磁接触器が開放される。これにより、電力変換器101への電力供給が遮断されるので、同期電動機103への電力供給が停止する。
位置センサ5は、遮蔽板6を検出することにより、乗りかご104が戸開可能な位置に位置しているかどうかを検出するドアゾーンセンサである。
図2は、コントローラ100の機能ブロックと、電力変換器101および同期電動機103の関係を示す。
電流指令作成部1は、同期電動機103の出力トルクに応じた電流指令を出力する。なお、本実施形態において、電流指令作成部1は、定格トルク以上の出力トルクに応じた電流指令を出力する。また、本実施形態では、この電流指令の値は一定値である。
磁極位置指令作成部2は、初期磁極位置推定部3から入力される初期磁極位置を基準に、同期電動機103の速度に応じた磁極位置指令を出力する。磁極位置指令作成部2は、まず初期磁極位置推定部3から入力される初期磁極位置を、磁極位置指令として電流制御部21に出力し、その後、ブレーキ指令部23がブレーキを開いた後も、所定時間待機する(すなわち、磁極位置指令が初期磁極位置に保持される)。この所定時間は、同期電動機103および綱車の回転方向の振動が収まる時間に設定される。所定時間待機後、磁極位置指令作成部2は、乗りかごを動かすための速度指令に応じた磁極位置指令を出力する。
初期磁極位置推定部3は、同期電動機103の初期磁極位置を推定する。初期磁極位置を推定する手段としては、公知の技術が適用される。たとえば、ある特定のパターンを有する高調波電流を、電力変換器101を介して同期電動機103へ印加し、電流センサ22によって検出される電流のフィードバック信号のパターンに基づいて、初期磁極位置を推定する。なお、このような推定手段に限らず、様々な初期磁極位置推定手段あるいは検出手段が適用できる。
ブレーキ指令部23は、ブレーキの開閉指令を出力するが、初期磁極位置が推定されると、その後、ブレーキを開く指令を出力する。
電流制御部21は、電流指令作成部1からの電流指令と磁極位置指令作成部2からの磁極位置指令に基づいて、電力変換器101の制御指令(例えば、電圧指令)を出力する。電流制御部21においては、電流指令と、電流センサからの電流フィードバック信号との差分が零に近づくように、比例積分制御によって制御指令を作成する。なお、本実施形態では、回転座標系のd軸およびq軸電流に基づいて電流制御を行う、いわゆるベクトル制御が適用される。なお、ベクトル制御に限らず、他の制御技術を適用しても良い。
図3は、第一の実施形態の動作の概要を示す。時間経過順に、期間(a),(b),(c)および(d)に分けて以下説明する。
期間(a)においては、電流指令は定格トルク以上(図3では120%)の出力トルクに対応するが、初期磁極位置推定前であり、磁極位置指令は0°である。したがって、図示のように、コントローラにおいて作成される磁極位置指令と、同期電動機の実際の磁極位置との間には誤差がある。また、ブレーキ指令はONであり、ブレーキは制動状態である。すなわち、乗りかごは停止している。
期間(b)のおいては、初期磁極位置が推定され、初期磁極位置が磁極位置指令にセットされる。また、期間(a)と同様に、ブレーキは制動状態であり、乗りかごは停止している。このため、図示のように、コントローラ100において作成される磁極位置指令と、同期電動機の実際の磁極位置との間の誤差は、期間(a)よりも小さな一定値となる。ここで、誤差の大きさは、初期磁極位置推定の精度に依存する。
期間(c)においては、ブレーキ指令はOFFであり、ブレーキは開放される。磁極位置指令は、同期電動機および綱車の回転方向の振動が収まるまでの所定時間(期間(b)の時間)、初期磁極位置に維持される。従って、期間(b)においては、乗りかごの制御状態は、まだ運転状態とはならず、いわば待機状態である。また、同期電動機および綱車の回転方向の振動に応じて、コントローラにおいて作成される磁極位置指令と、同期電動機の実際の磁極位置との間の誤差も振動している。なお、同期電動機および綱車の回転方向の振動については、後述する。
期間(d)は、速度指令に応じた磁極位置指令を与えることで、同期電動機が回転される。期間(d)の開始時においては、期間(c)において印加される電流に応じた同期電動機のトルクと、乗りかご側の荷重とつり合い錘の荷重との差分による負荷トルクとがつり合う磁極位置にて、同期電動機の回転が停止しているため、初期磁極位置を基準として、速度指令に応じた磁極位置をフィードフォワードで与えることにより、同期電動機を安定に回転させることができる。
ここで、同期電動機および綱車の回転方向の振動(以下、単に「振動」と記す)に関し、この振動が収まるまでの現象について、以下、図4を用いて説明する。
図4は、同期電動機のトルクと、同期電動機における実際のq軸とコントローラにおけるq軸の位相差Δθとの関係を示す。なお、縦軸はトルクTを示し、横軸はΔθを示す。
図4中、曲線で示される同期電動機のトルクTは、電流指令(q軸(トルク)電流指令)iqcを一定とすると、式(1)で表される。式(1)中、Kはトルク定数である。
Figure 0006578260
Δθが0であるとき、同期電動機のトルクTはコントローラが作成する電流指令に応じたトルクと一致する。なお、図4中の直線は、乗りかごとつり合いおもりの差分に対する負荷トルクTを示す。
図4においては、乗りかご内の負荷が最大積載重量の半分以下、すなわち負荷が50%以下である。従って、図4では、磁極位置センサが故障した状態で、小さな負荷で乗りかごを運転する場合が想定されている。そのような場合として、例えば、磁極位置センサの故障に対する保守作業を行うために、乗りかごを保守運転する場合がある。
ここで、本実施形態では、50%負荷に対して、乗りかごとつり合い錘が釣り合うように、つり合い錘の重量が設定されている。従って、図4において、つり合い錘は乗りかご側よりも重いので、Tは、つり合い錘を下降させ、乗りかごを上昇させる方向に働く。
なお、つり合い錘とつり合うためのかごの積載量は、50%負荷に限らず、例えば40%負荷でも良い。このような場合においても、つり合い錘が乗りかご側よりも重ければ、本実施形態は、適用可能である。
また、TがTとつり合うだけの値を取り得るように、電流指令iqcが設定される。なお、本実施形態では、上述のように、電流指令作成部1は、定格トルク以上の出力トルクに応じた一定値の電流指令を出力する。
推定される初期磁極位置に対して、同期電動機における実際のq軸とコントローラにおけるq軸の位相差が点Aの位置であった場合、ブレーキを開くとモータトルクTmと負荷トルクTがつり合わないため、点Bの方へΔθが移動する。すなわち、同期電動機およびシーブが、TとTとがバランスする方向へ回転する。同期電動機およびシーブは、TとTとがバランスする位置を越えて回転する。すなわちΔθが点Bを越える。この時、TとTの大小関係が、点Bを越える前とは逆転するので、Δθは、その移動方向が反転し、点Bへ向かって移動する。すなわち、同期電動機およびシーブは、回転方向を反転させて、TとTとがバランスする方向へ回転する。Δθは、このような移動を繰り返し、所定の待機時間中に、点Bへ収束する。すなわち、同期電動機およびシーブは、回転振動するものの、所定の待機時間中に、TとTがつり合う位置に静定する。
これにより、磁極位置センサが故障した状態でも、推定された初期磁極位置に基づいて同期電動機を制御することができるので、乗りかごを安定に運転することができる。
図5は、本実施形態におけるコントローラ100の処理動作の流れを示すフローチャートである。
まず、電流指令作成部1によって、電流指令iqcが出力される(ステップS101)。
次に、初期磁極位置推定部3によって、初期磁極位置が推定される(ステップS102)。
次に、推定された初期磁極位置が、磁極位置指令作成部2によって、磁極位置指令としてセットされる(ステップS103)。
次に、ブレーキ指令部23によって、ブレーキが開放される(ステップS104)。
次に、コントローラ100は、予め設定される所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS105)。所定時間が経過していないと判定される場合(S105のNO)、再度ステップS105が実行される。所定時間が経過したと判定される場合(S105のYES)、次に、ステップS106が実行される。
ステップS106では、磁極位置指令作成部2によって、速度指令に対応する磁極位置指令作成し、磁極位置指令に応じて、同期電動機が制御される。
上述のように、第一の実施形態によれば、電流指令作成部は一定の電流値を出力し、かつ磁極位置指令作成部は初期磁極位置推定部で推定された初期磁極位置を出力した状態で、ブレーキ制御部がブレーキを開いた後に、コントローラは所定時間待機することで、モータの出力するトルクとつり合いトルクが平衡となる。これにより、コントローラが磁極位置指令作成部に、速度指令に応じた磁極位置を与えていくことで、安定してエレベーターを駆動することができる。
(第二の実施形態)
図6は、本発明の第二の実施形態であるエレベーターシステムを示す全体構成図である。以下、主に第一の実施形態とは異なる点について説明する。
本実施形態においては、乗りかご104の位置を検出する位置センサ60が設けられる。この位置センサ60として、本実施形態においては、ガバナロープを介して乗りかご104と連結されているガバナに取り付けられるエンコーダが用いられる。
なお、位置センサとしては、磁気式のテープからなるマーカーを昇降路内に設ける手段や、同期電動機に設けられるロータリーエンコーダのような回転位置センサ(角度あるいは位相検出器)など、乗りかごの移動を検出できる種々の手段を適用できる。
図7は、第二の実施形態における、コントローラ100の機能ブロックと、電力変換器101および同期電動機103の関係を示す。
第一の実施形態(図2参照)とは異なり、位置センサ60の出力信号が磁極位置指令作成部2に入力されている。ブレーキ指令部23がブレーキを開放した後、位置センサ60の出力信号に基づいて、同期電動機およびシーブの回転振動が収まったか否かを判断する。そして、磁極位置指令作成部2は、回転振動が収まったと判定すると、速度指令に応じた磁極位置を作成して出力する。
同期電動機およびシーブの回転振動は、主ロープを介して乗りかご104に伝わり、乗りかご104の振動を引き起こす。このため、ブレーキを開放後に磁極位置指令として初期磁極位置を設定して保持しながら位置センサ60によって乗りかごの振動を検出することにより、同期電動機およびシーブの回転振動を検出することができる。なお、本実施形態においては、乗りかご104の振動は、ガバナロープを介して、ガバナに取り付けられる位置センサ60(エンコーダ)に伝わる。
上述の第二の実施形態によれば、位置センサ60を用いて同期電動機およびシーブの回転振動が収まったことを判定するので、確実に回転振動が収まった状態で乗りかごの移動を開始できると共に、ブレーキを開放してから乗りかごの移動が開始されるまでの待機時間を短縮できる。
(第三の実施の形態)
図8は、本発明の第三の実施形態であるエレベーターシステムを示す全体構成図である。以下、主に第一の実施形態とは異なる点について説明する。なお、本実施形態においては、乗りかごに人荷が搭載されている状況、例えば、磁極位置センサ故障時における救出運転を行う場合が想定される。
本実施形態においては、乗りかご104に、乗りかご内の荷重を検出するための秤センサ4が設けられる。秤センサ4の出力信号はコントローラ100に入力される。
本実施形態において、秤センサ4は乗りかご内の乗客の人数を検出するために用いられる。通常運転中であれば、秤センサ4で検出される荷重に基づいて、コントローラ100は、乗りかごとつり合い錘の重量差を補償するための同期電動機トルクを計算する。秤センサ4として、かご床面が金属である場合には、かご枠に設けられる近接センサなどでかご床面のたわみ量から荷重を推定する手段が適用される。
なお、秤センサとしては、主ロープ端に接続されるばねの変位から荷重を推定する手段などを適用しても良い。
図9は、第三の実施形態における、コントローラ100の機能ブロックと、電力変換器101および同期電動機103の関係を示す。
第一の実施形態(図2参照)とは異なり、秤センサ4の出力信号、すなわち乗りかご内の負荷の情報が、磁極位置指令作成部2に入力されている。磁極位置指令作成部2は、秤センサ4から得られるかご内の負荷の情報に基づいて、図4に示したような同期電動機のトルクTの正負を反転する。
より具体的には、乗りかご内の負荷が最大積載重量の半分以上である場合、つまり負荷が50%以上のときに、モータトルクTが反転される。ここで、本実施形態では、50%負荷に対して、乗りかごとつり合い錘がつり合うように、つり合いおもりの重量が設定されている。従って、本実施形態においては、積載荷重も含めて乗りかご側がつり合い錘よりも重い場合に、モータトルクTが反転される。
なお、つり合い錘とつり合うためのかごの積載量は、50%負荷に限らず、例えば40%負荷でも良い。このような場合においても、本実施形態は適用可能であり、乗りかご側がつり合い錘よりも重い場合に、モータトルクTが反転される。
次に、モータトルクTが反転される場合における、振動が収まるまでの現象について、図10aおよび10bを用いて説明する。
図10aは、第三の実施形態における、同期電動機のトルクTと、同期電動機における実際のq軸とコントローラにおけるq軸の位相差(軸誤差)Δθとの関係を示す。なお、図4と同様に、縦軸はトルクTを示し、横軸はΔθを示す。
同期電動機のトルクTは、電流指令(q軸(トルク)電流指令)iqc、トルク定数Kを用いて、前述の式(1)と同様の式で表される。但し、本実施形態においては、Δθに対するTの値の正負(方向)が反転されるように電流指令(q軸(トルク)電流指令)iqcが設定される。
図10aに示すように、秤センサ4により負荷トルクTが50%以上であることが検出されると、モータトルクTは、図4のTに対し、正負が反転される。このため、図10aにおいては、図4におけるTおよびTが共に反転されている。従って、図4の場合と同様に、推定された初期磁極位置に対応する点Aは、TとTがバランスする点Bの周りを振動しながら、所定の待機時間中に点Bへ収束する。すなわち、本実施形態においても、同期電動機およびシーブは、回転振動するものの、所定の待機時間中に、TとTがつり合う位置に静定される。
図10bは、比較例として、モータトルクTが反転されない場合について、同期電動機のトルクTと、同期電動機における実際のq軸とコントローラにおけるq軸の位相差(軸誤差)Δθとの関係を示す。
図10bに示す点Aについては、図10aの場合と同様に、点Bに収束する。しかし、初期磁極位置の推定精度が高く、推定誤差がほぼ零である場合に、次のような問題が生じる。
初期磁極位置の推定誤差がほぼ零である場合、点Aは、図10bのT上のΔθ=0に対する点、すなわち正のピークに位置する。この場合、モータトルクのほうが負荷トルクよりも大きく、かつ、その差分も大きくなる。従って、大きなトルク(TとTの差分トルク)で点Aは点Bに向って移動を開始するので、振動の振幅が大きくなり、振動が静定するまでの時間も長くなる。また、点Aが点Bに収束せず、脱調を生じる怖れもある。
上述のように、負荷状態に応じてトルク指令を反転させることで、第一の実施形態と同様に、磁極位置センサが故障した状態でも、推定された初期磁極位置に基づいて同期電動機を制御することができるので、乗りかごを安定に運転することができる。
図11は、第三の実施形態におけるコントローラ100の処理動作の流れを示すフローチャートである。以下、第一の実施形態(図5)と異なる点について説明する。
図11に示すように、第三の実施形態においては、初期磁極位置を磁極位置指令としてセットするステップS203(図5ではステップS103)と、ブレーキを開放するステップS206(図5ではステップS104)との間に、負荷が50%以上であるか否かを判定するステップS204と、トルク指令を反転させるステップS205が設けられる。
ステップS201,S202およびS203は、それぞれ図5のステップS101,S102,S103と同様である。
ステップS204において、秤センサ4からの情報に基づいて、コントローラ100が、負荷が50%以上であると判定する場合(S204のYES)、次にステップS205が実行される。負荷が50%以上ではないと判定される場合(S204のNO)、ステップS205はスキップされ、次にステップS206が実行される。この場合、Tは反転されず、図4に示すTが保持される。
ステップS205においては、コントローラ100に設定されているTの正負が反転される。ステップS205の次に、ステップS206が実行される。
ステップS206,S207およびS208は、それぞれ図5のステップS104,S105,S106と同様である。
上述のように、第三の実施形態によれば、乗りかご内の負荷の情報に基づいて、トルク指令を反転させることで、乗りかご内の負荷が大きくても、磁極位置センサが故障した状態で、乗りかごを安定に運転することができる。
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
例えば、同期電動機は、永久磁石式同期電動機に限らず、巻線界磁式同期電動機でも良い。また、永久磁石式同期電動機は、表面磁石型に限らず埋め込み磁石型でも良い。
1 電流指令作成部
2 磁極位置指令作成部
3 初期磁極位置推定部
4 秤センサ
5 位置センサ
6 遮蔽板
10 ブレーキ電源停止指令
21 電流制御部
22 電流センサ
23 ブレーキ指令部
60 位置センサ
100 コントローラ
101 電力変換器
102 ブレーキ
103 同期電動機
104 乗りかご

Claims (15)

  1. 乗りかごを駆動する同期電動機と、
    前記同期電動機を制動するブレーキと、
    前記同期電動機を制御する駆動制御装置と、
    を備えたエレベーターシステムにおいて、
    前記駆動制御装置は、
    前記同期電動機の電流指令を作成する電流指令作成部と、
    前記同期電動機の磁極位置指令を作成する磁極位置指令作成部と、
    前記同期電動機の初期磁極位置を推定する初期磁極位置推定部と、
    前記ブレーキの開放および制動を制御するブレーキ制御部と、
    を備え、
    前記ブレーキ制御部が前記ブレーキを制動状態から開放する時、
    前記電流指令作成部は一定値の電流指令を作成し、
    かつ前記磁極位置指令作成部は前記初期磁極位置推定部で推定された初期磁極位置を磁極位置指令として設定し、
    前記ブレーキ制御部が前記ブレーキを開放してから所定時間の間、前記磁極位置指令作成部は前記磁極位置指令を前記初期磁極位置に保持し、
    前記所定時間の後に、前記磁極位置指令作成部は、前記乗りかごを運転するように前記磁極位置指令を作成することを特徴とするエレベーターシステム。
  2. 請求項1に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記所定時間として、前記駆動制御装置において、予め所定値が設定されることを特徴とするエレベーターシステム。
  3. 請求項2に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記所定値は、前記ブレーキを開放後に発生する前記同期電動機の回転振動が収まるための時間値であることを特徴とするエレベーターシステム。
  4. 請求項1に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記乗りかごの位置を検出する位置センサを備え、
    前記位置センサの出力信号に基づいて、前記同期電動機の回転振動を検出することを特徴とするエレベーターシステム。
  5. 請求項4に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記所定時間は、前記位置センサによって検出される前記同期電動機の前記回転振動が収まるまでの時間であることを特徴とするエレベーターシステム。
  6. 請求項4に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記位置センサは、ガバナに設けられるエンコーダであることを特徴とするエレベーターシステム。
  7. 請求項1に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記同期電動機の回転位置を検出する位置センサを備え、
    前記位置センサの出力信号に基づいて、前記同期電動機の回転振動を検出することを特徴とするエレベーターシステム。
  8. 請求項7に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記所定時間は、前記位置センサによって検出される前記同期電動機の前記回転振動が収まるまでの時間であることを特徴とするエレベーターシステム。
  9. 請求項7に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記位置センサは、前記同期電動機に取り付けられるロータリーエンコーダであることを特徴とするエレベーターシステム。
  10. 請求項1に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記電流指令の前記一定値は、定格以上のトルクが得られる電流値であることを特徴とするエレベーターシステム。
  11. 請求項1に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記ブレーキが開放された後、前記所定時間の間に、前記同期電動機の回転振動が収まると、前記同期電動機の発生するトルクと負荷トルクとがつり合うことを特徴とするエレベーターシステム。
  12. 請求項1に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記駆動制御装置は、前記乗りかご内の負荷に応じて、前記同期電動機のトルクの正負を反転することを特徴とするエレベーターシステム。
  13. 請求項12に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記乗りかご内の負荷を検出する秤センサを備えることを特徴とするエレベーターシステム。
  14. 請求項1に記載のエレベーターシステムにおいて、
    前記同期電動機は綱車を備え、前記綱車に巻き掛けられる主ロープにつり合い錘および前記乗りかごが接続されることを特徴とするエレベーターシステム。
  15. 乗りかごを駆動する同期電動機を備えるエレベーターシステムの制御方法において、
    前記乗りかごの制動状態において、前記同期電動機に一定電流を流す第1のステップと、
    前記乗りかごの制動状態において、前記同期電動機の初期磁極位置を推定する第2のステップと、
    前記乗りかごの制動状態において、前記同期電動機の磁極位置指令を前記初期磁極位置にセットする第3のステップと、
    前記乗りかごの制動状態を解除する第4のステップと、
    前記第4のステップの次に、前記乗りかごの制動状態を解除してから所定時間が経過した否かを判定する第5のステップと、
    前記第5のステップにおいて、所定時間が経過したと判定されたら、前記乗りかごを運転する第6のステップと、
    を含むことを特徴とするエレベーターシステムの制御方法。
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