以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。なお、本明細書において、各含有量は特記しない限り、カチオン%にて表示する。
本発明においてカチオン%とは、ガラスに含有される全ての陽イオンに対する個別の陽イオンの割合をモル百分率で示したものである。また、本発明の光学ガラスは酸化物ガラスであるため、陰イオンは主として酸素(O2−)であるが、酸素以外の陰イオン(例えば、ハロゲン)に一部を置換することができる。
光学ガラス
本発明の光学ガラスは、P5+、B3+およびAl3+の合計含有量[P5++B3++Al3+]が60%以下の酸化物ガラスであって、Ba2+と、Mg2+、Ca2+、Zn2+およびSr2+から選択されるいずれか1種以上と、Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+から選択されるいずれか1種以上と、を含み、Mg2+、Ca2+、Zn2+およびSr2+の合計含有量に対するBa2+の含有量のカチオン比α[Ba2+/(Mg2++Ca2++Zn2++Sr2+)]が0.80以下であり、Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+の合計含有量に対するP5+、B3+およびAl3+の合計含有量のカチオン比β[(P5++B3++Al3+)/(Gd3++Y3++La3++Yb3+)]が14.0未満であり、屈折率ndが1.620〜1.700、アッベ数νdが53〜65であることを特徴とする。
一般に、ガラスを構成する成分は、ガラスの網目構造を形成するネットワーク成分とガラスの特性を制御する修飾成分とに大別することができる。このうちネットワーク成分は、主にガラスの安定性(例えば、構造上の安定性や熱的安定性、ガラスの熔融性)に寄与する。そのため、安定なガラスを得る観点からは、ガラス中におけるネットワーク成分の割合を、比較的多くすることが望ましい。
一方、修飾成分は、主にガラスの機能性(例えば、屈折率・分散性等の光学特性や耐候性等の化学的耐久性)に寄与する。そのため、ガラスに求める機能や特性に応じて、修飾成分の種類やその添加量を適宜選択、調節して加えることが望ましい。しかし、ガラス中における修飾成分の割合が増加すると、結果的にネットワーク成分の割合が低下するため、ガラスとしての安定性が低下するおそれがある。また、修飾成分によっては、特性向上の観点からは有効であっても、少量の添加でガラスの安定性を著しく低下させるものもある。
このように、ガラスの安定性と機能性は、ネットワーク成分と修飾成分とのバランスにより大きく左右される。
従来、リン酸塩光学ガラスは、高屈折率と低分散性を示すことから光学レンズ等の光学素子としての利用が期待されていたが、耐候性が低く、プレス成形用ガラスとして用いることができなかった。このような不具合を解決するため、特許文献1に記載の発明(参考例4)では、修飾成分としてBa2+を添加し、ガラス中におけるBa2+の割合を多くすることにより、高屈折率(屈折率ndが1.620以上)を確保しつつ耐候性を向上していた。
しかし、このような光学ガラスは、耐候性が向上し、精密プレス成形用ガラスとして好適であるものの、多量に導入される修飾成分(例えば、Ba2+)に起因する結晶化が生じやすくなり、ガラスの熱的安定性が悪化する問題があった。そのため、一度良好に固化されたガラスであっても、再度過酷な条件下で軟化させると、冷却後のガラスに結晶が生じることがあり、このようなガラスはリヒートプレス成形法のような光学素子の作製法には不適であった。
特に、光学ガラス中におけるネットワーク成分(例えば、P5+等)の割合が低下し、修飾成分(例えば、耐候性を高める成分や屈折率を高める成分等)の割合が増えると、ガラスの熱的安定性は悪化する傾向にある。このため、リヒートプレス成形における再加熱によるガラスの結晶化が発生し、耐候性や熱的安定性に優れた高屈折率のリン酸塩光学ガラスを得ることは困難であった。このような問題は、比較的高い屈折率(屈折率ndが1.620以上、さらには1.630以上)を得ようとすると顕著に現れる。
そこで、本発明者らは、上記のような問題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、ガラス中における修飾成分の割合が増え、ネットワーク成分の割合が低下した場合(P5+、B3+およびAl3+の合計含有量[P5++B3++Al3+]が60%以下)であっても、Ba2+と、その他の二価成分とをバランスよく配合することで、ガラスの熱的安定性を向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係る光学ガラスは、Ba2+を含むと共に、Mg2+、Ca2+、Zn2+およびSr2+から選択されるいずれか1種以上を含み、Mg2+、Ca2+、Zn2+およびSr2+の合計含有量に対するBa2+の含有量のカチオン比α[Ba2+/(Mg2++Ca2++Zn2++Sr2+)]を、0.80以下とすることが一つの特徴である。
カチオン比αを上記範囲とすることにより、特定の修飾成分(Ba2+)が他の修飾成分に対して過剰に導入されることを抑えられるので、特定の修飾成分に起因して生じる結晶を防止できる。したがって、ガラスの熱的安定性を確保できる。
このような本発明に係る光学ガラスによれば、精密な温度制御が困難な大気雰囲気下で行われるリヒートプレス成形において、ガラスの内部結晶の発生を効果的に防止できる。
また、本発明に係る光学ガラスは、上記カチオン比αを所定範囲とすることによって得られる熱的安定性を維持しつつ、屈折率(nd)を効果的に高めるために、Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+から選択されるいずれか1種以上の希土類元素を含有し、かつ、Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+の合計含有量に対するP5+、B3+およびAl3+の合計含有量のカチオン比β[(P5++B3++Al3+)/(Gd3++Y3++La3++Yb3+)]を、14.0未満とすることが一つの特徴である。
上記希土類元素(Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+)の合計含有量に対するネットワーク成分(P5+、B3+およびAl3+)の合計含有量の比率(カチオン比β)を上記範囲とすることにより、上記希土類元素の合計含有量が相対的に増加するためガラスの屈折率を高く設定することができる。
このような本発明に係る光学ガラスは、特に、リヒートプレス成形法を用いて高屈折率の光学素子を作製する場合に好適である。
なお、本発明における光学ガラスとは、複数の金属酸化物を含むガラス組成物であって、形態(塊り状、板状、球状など)や用途(光学素子用素材、光学素子など)を問わず、総称して光学ガラスという。
<ガラス組成>
次に、本発明に係る光学ガラスのガラス組成について詳しく説明する。ガラスの構成成分の含有率は、例えば、ICP−AES(Inductively Coupled Plasma - Atomic Emission Spectrometry)などの方法により測定することができる。
なお、ICP−AES分析に基づいて各元素別に定量分析を行うことにより求められた分析値(例えば、原子%表記)は、分析値の±5%程度の測定誤差を含んでいることがある。また、上記分析値に基づいて、酸化物表記の値に換算したり、ガラス中の陽イオン成分をカチオン%表記の値に換算したりすることができるが、その換算方法は後述する。
また、本明細書において、構成成分の含有量が0%または含有しないもしくは導入しないとは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であることを指すものとする。
P5+は、ガラスの網目構造を形成するネットワーク成分であり、ガラスに製造可能な熱的安定性を持たせるための必須成分である。しかし、P5+が過剰に含まれると、ガラス転移温度や屈伏点、ガラスの熔融温度が上昇するとともに、屈折率や耐候性が低下する傾向にある。一方、P5+の含有量が少なすぎると、ガラスのアッベ数(νd)が減少して低分散性が損なわれると共に、ガラスの失透傾向が強くなりガラスが不安定になる傾向にある。よって、本発明の光学ガラスでは、P5+の含有量の上限は、好ましくは40%であり、さらには37%、35%、34%、33%の順に好ましい。また、P5+の含有量の下限は、好ましくは10%であり、さらには12%、13%、14%、15%の順に好ましい。
B3+は、ガラスの熔融性の向上やガラスの均質化に非常に有効な成分であると同時に、ガラスの耐失透性や耐候性の向上および屈折率を高め、低分散化を促す上で有効な成分である。しかし、B3+を過剰に導入すると、ガラス転移温度や屈伏点の上昇、耐失透性の悪化、低分散性の損失を生じるおそれがある。よって、本発明の光学ガラスでは、B3+の含有量の上限は、好ましくは35%であり、さらには32%、30%、28%、27%、26%の順に好ましい。また、B3+の導入量が少なすぎるとガラスの熔解性や耐失透性が低下する。よって、本発明の光学ガラスでは、B3+の含有量の下限は、好ましくは0.1%であり、さらには1.0%、2.0%、3.0%、5.0%、7.0の順に好ましい。なお、本発明の光学ガラスにおいてB3+は、P5+と共にガラスの網目構造を形成するため、ガラスの安定性の観点から、必須成分として含まれることが好ましい。
Al3+は、ガラスの網目構造を形成するネットワーク成分であり、ガラスの耐候性を向上させるために有効な成分として用いられる。しかし、その導入量が過剰であると、ガラス転移温度や屈伏点が高くなり、ガラスの安定性や熔融性が悪化し、屈折率も低下してしまうおそれがある。よって、本発明の光学ガラスでは、Al3+の含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには8%、7%、5%、4%の順に好ましい。また、Al3+の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.1%、0.5%、1.0%の順に好ましい。
なお、P5+、B3+およびAl3+の合計含有量[P5++B3++Al3+]が60%を超えると、屈折率の低下やガラスの熔融温度の上昇、さらにガラスの揮発による品質悪化を生じるおそれがある。一方、これらの成分の合計含有量が少なすぎると、耐失透性が悪化しガラス化が困難になるほか、低分散性が損なわれるおそれがある。本発明の光学ガラスでは、合計含有量[P5++B3++Al3+]の上限は、60%であり、さらには55%、52%、50%、48%、47.5%の順に好ましい。また、合計含有量[P5++B3++Al3+]の下限は、好ましくは27%であり、さらには32%、35%、38%、40%、41%の順に好ましい。
また、本発明の光学ガラスでは、ガラスに低分散性を付与することと、熱的安定性を高めることとを両立する観点から、B3+の含有量に対するP5+の含有量の割合:カチオン比[P5+/B3+]の上限は、好ましくは12であり、さらには10、8、6、5、4の順に好ましい。また、カチオン比[P5+/B3+]の下限は、好ましくは0.2であり、さらには0.3、0.4、0.5、0.6の順に好ましい。このように本発明に係る光学ガラスにおいてガラスの網目構造の形成に支配的に作用するP5+とB3+の割合をバランスさせることにより、低分散化を達成しつつ優れた熱的安定性を得ることができる。
Ba2+は、適量の導入によりガラスの屈折率を高め、耐候性を向上させるために非常に有効な必須成分である。しかし、その導入量が多すぎるとガラスの熱的安定性が著しく損なわれ、またガラス転移温度が上昇し、かつ低分散性を損なう傾向にある。一方、その導入量が少なすぎると、所望の屈折率が得られず、さらに耐候性が悪化する。よって、本発明の光学ガラスでは、Ba2+は、必須成分であり、その含有量の上限は、好ましくは25%であり、さらには22%、20%、18%、17%、16%、15%の順に好ましい。また、Ba2+の含有量の下限は、好ましくは5%であり、さらには6%、8%、9%、10%の順に好ましい。
また、ガラスの熱的安定性および耐候性を高める観点から、Ba2+とP5+の合計含有量[Ba2++P5+]の上限は、好ましくは60%であり、さらには55%、53%、51%、50%、48%の順に好ましい。また、合計含有量[Ba2++P5+]の下限は、好ましくは20%であり、さらには22%、25%、27%、29%、30%の順に好ましい。
さらに、ガラスを低分散化し、かつガラスの熱的安定性を高める観点から、B3+の含有量に対するBa2+の含有量の割合:カチオン比[Ba2+/B3+]の上限は、好ましくは10であり、さらには7、5、3、2、1.7、1.6の順に好ましい。また、カチオン比[Ba2+/B3+]の下限は、好ましくは0.1であり、さらには0.2、0.3、0.4、0.5の順に好ましい。
Mg2+は、ガラスの高い耐候性と低分散化を両立させるために導入される成分ある。少量のMg2+の導入により、ガラス転移温度や屈伏点または液相温度を下げる効果がある。しかし、多量に導入すると、ガラスの熱的安定性が著しく悪化し、液相温度が逆に高くなる。よって、本発明の光学ガラスでは、Mg2+の含有量の上限は、好ましくは25%であり、さらには22%、20%、18%、16%、15%の順に好ましい。また、Mg2+の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには1%、2%、5%、7%、8%の順に好ましい。
Ca2+は、ガラスの低分散化を促すと共に、ガラスの熱的安定性を改善し、液相温度を低下させるために導入される成分である。しかし、過剰にCa2+を導入すると、ガラスの化学的耐久性が悪化するだけでなく、ガラスの熱的安定性が却って低下し、屈折率も低下してしまうおそれがある。よって、本発明の光学ガラスでは、Ca2+の含有量の上限は、好ましくは22%であり、さらには20%、17%、15%、13%、12%の順に好ましい。また、Ca2+の含有量の下限は、好ましくは0%あり、さらには1%、2%、5%、7%、8%の順に好ましい。
なお、ガラスの低分散化と熱的安定性、および耐候性を両立する観点から、本発明の光学ガラスにおけるMg2+とCa2+の合計含有量[Mg2++Ca2+]の上限は、好ましくは40%であり、さらには35%、32%、30%、27%の順に好ましい。また、合計含有量[Mg2++Ca2+]の下限は、好ましくは5%であり、さらには10%、12%、14%、15%の順に好ましい。
Sr2+は、ガラスの低分散性を損なわずにガラスの屈折率を高める有効な成分である。また、ガラスの耐候性を高める成分としても有効である。しかし、過剰にSr2+を導入すると、液相温度が上昇してガラスの熱的安定性が悪化する傾向にある。よって、本発明の光学ガラスでは、Sr2+の含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには10%、7%、5%、4%の順に好ましい。また、Sr2+の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.1%、1.0%、1.5%、2.0%の順に好ましい。
Zn2+は、適度な導入によりガラスの屈折率を高め、ガラスの熱的安定性を改善し、液相温度やガラス転移温度を低下させるために用いられる成分である。しかし、過剰にZn2+を導入すると、低分散性が大きく損なわれるとともに、ガラスの化学的耐久性が悪化する。よって、本発明の光学ガラスでは、Zn2+の含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには14%、12%、10%、9%の順に好ましい。また、Zn2+の導入量が少なすぎると、液相温度やガラス転移温度が高くなる傾向にある。よって、Zn2+の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには1.0%、2.0%、2.5%、3.0%の順に好ましい。
なお、本発明の光学ガラスは、Ba2+の他に、二価成分としてMg2+、Ca2+、Zn2+およびSr2+から選択される1種以上を含有する。その際、ガラスの耐候性を向上させ、所望の光学特性を得る観点から、Mg2+、Ca2+、Zn2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量R=[Mg2++Ca2++Zn2++Sr2++Ba2+]の上限は、好ましくは53%であり、さらには50%、47%、45%、44%、43%、42%の順に好ましい。また、合計含有量Rの下限は、好ましくは26%であり、さらには30%、33%、35%、36%、38%の順に好ましい。
本発明の光学ガラスでは、屈折率を高めつつ、ガラスの熱的安定性を向上する観点から、Mg2+、Ca2+、Zn2+およびSr2+の合計含有量に対するBa2+の含有量の割合:カチオン比α[Ba2+/(Mg2++Ca2++Zn2++Sr2+)]を、0.80以下とする。また、カチオン比αの好ましい上限は0.75であり、さらには0.70、0.65、0.60、0.55、0.50の順に好ましい。また、ガラスの耐候性を向上させる観点から、カチオン比αの下限は、好ましくは0.10であり、さらには0.20、0.25、0.30、0.35、0.40の順に好ましい。このような条件を満たすことで、Ba2+の含有量がそれ以外の二価成分の含有量に対して際立って過剰に導入されないため、Ba2+に起因する結晶の析出を抑えられる。したがって、このようにBa2+とそれ以外の二価成分とをバランスよく配合することにより、屈折率を高める成分を増やし、網目構造を形成する成分を減らした場合であっても、ガラスの熱的安定性を向上できる。
また、カチオン比αが0.80以下を満たす本発明の光学ガラスは、後述する結晶化ピーク温度Tc(以下、単に「結晶化ピーク温度」、「Tc」または「温度Tc」という場合がある。)とガラス転移温度Tgとの温度差(Tc−Tg)が比較的広く、Tc−Tgはいずれも145℃以上になる。このカチオン比αを上記範囲内に設定することにより、結果的にTc−Tgが大きくなり、ガラスを再軟化する際に、温度Tcよりも低い温度で軟化させることができるため、ガラスが結晶化せず、ガラスの熱的安定性を向上できる。
さらに、ガラスの熱的安定性を向上する観点から、Mg2+およびSr2+の合計含有量に対するBa2+の含有量の割合:カチオン比[Ba2+/(Mg2++Sr2+)]の上限は、好ましくは2.5であり、さらには2.0、1.7、1.5、1.2、1.1、1.0の順に好ましい。また、カチオン比[Ba2+/(Mg2++Sr2+)]の下限は、好ましくは0.1であり、さらには0.2、0.3、0.4の順に好ましい。
また、ガラスの熱的安定性向上と所望の光学特性を得る観点から、Mg2+とCa2+の合計含有量に対するSr2+とBa2+の合計含有量の割合:カチオン比[(Sr2++Ba2+)/(Mg2++Ca2+)]の上限は、好ましくは2.5であり、さらには2.0、1.7、1.5、1.2、1.1、1.0の順に好ましい。また、カチオン比[(Sr2++Ba2+)/(Mg2++Ca2+)]の下限は、好ましくは0.1であり、さらには0.2、0.3、0.4、0.5の順に好ましい。
なお、Mg2+、Ca2+、Zn2+、Sr2+およびBa2+からなる二価成分のうち、Ba2+はガラスの屈折率および耐候性を効果的に高めるが、過剰な導入によりガラスの熱的安定性が著しく損なわれる。一方、Zn2+はガラスの熱的安定性を改善するものの、過剰な導入により低分散性が大きく損なわれる。そこで、ガラスの熱的安定性と所望の光学恒数を得る観点から、Ba2+の含有量に対するZn2+の含有量の割合:カチオン比[Zn2+/Ba2+]の上限は、好ましくは0.90であり、さらには0.80、0.75、0.70、0.65、0.60の順に好ましい。また、カチオン比[Zn2+/Ba2+]の下限は、好ましくは0.05であり、さらには0.10、0.15、0.20、0.25の順に好ましい。
Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+は、いずれもガラスの耐候性の改善や高屈折率化に寄与する成分である。しかし、これらの成分を過剰に導入すると、ガラスの熱的安定性が悪化してしまうおそれがある。よって、本発明の光学ガラスでは、Gd3+の含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには12%、10%、9%、8%、7%、6%の順に好ましい。また、Gd3+の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.5%、1%、2%、3%の順に好ましい。Y3+の含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには、7%、5%、4%、3%の順に好ましい。また、Y3+の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.5%、1.0%の順に好ましい。La3+の含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには7%、5%、4%、3%の順に好ましい。また、La3+の含有量の下限は、好ましくは0%であり、より好ましくは0.05%である。Yb3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2%、1.5%の順に好ましい。また、Yb3+の含有量の下限は、好ましくは0%であり、より好ましくは0.05%である。なお、Yb3+は、近赤外域で吸収性を有するので、近赤外域の光線を利用する場合は導入しないことが好ましい。
なお、Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+といった希土類元素は、屈折率を効果的に高める観点からも適度な導入が好ましい。そのため、本発明の光学ガラスは、Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+から選択されるいずれか1種以上を含有する。しかし、これらの成分を過剰に導入すると、ガラスの熱的安定性が悪化する傾向がある。そこで、Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+の合計含有量Re=[Gd3++Y3++La3++Yb3+]の上限は、好ましくは20%であり、さらには15%、12%、10%、9%の順に好ましい。また、合計含有量Reの下限は、好ましくは2.0%であり、さらには2.5%、3.0%、3.5%、4.0%の順に好ましい。なお、単一の希土類元素を導入するよりも、2種以上の希土類元素を導入することで、ガラスの熱的安定性が改善されることがある。このため、本発明の光学ガラスにおいて、Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+から選択されるいずれか2種以上の希土類元素を含有することが好ましい。
また、本発明に係る光学ガラスは、上記カチオン比αを所定範囲とすることによって得られるガラスの熱的安定性を確保しつつ、屈折率を効果的に高める観点から、上記希土類元素の合計含有量Reに対するP5+、B3+およびAl3+の合計含有量の割合:カチオン比β[(P5++B3++Al3+)/Re]を14.0未満とする。また、カチオン比βの好ましい上限は、13.5であり、さらには13.0、12.5、12.0、11.5、11.0の順に好ましい。また、カチオン比βの下限は、好ましくは2.0であり、さらには3.0、4.0、4.5、5.0、5.5の順に好ましい。
本発明において、所望の光学特性を得るとともにガラスの熱的安定性を向上させる観点から、カチオン比αとカチオン比βとは密接した関係にある。以下にその説明をする。
本発明に係る光学ガラスでは、ガラスの屈折率を高めることを優先的に考慮して、屈折率を効果的に上昇させる成分である希土類元素の合計含有量Reを比較的多く導入している。一方、希土類元素の合計含有量Reが過剰になると、上述のようにガラスの熱的安定性が悪化する傾向にある。したがって、希土類元素の合計含有量Reの導入量に所定の制限があり、この制限をカチオン比βにより規定(カチオン比βが14.0未満)している。このようにカチオン比βを所定範囲に規定することにより、所望の光学特性(高屈折率)を得ることができるが、希土類元素の合計含有量Reの増加に伴ってガラスの熱的安定性が悪化する傾向にある。
一方、希土類元素の過剰な導入が熱的安定性を悪化させることから、本発明に係る光学ガラスでは、カチオン比αを所定範囲内とすることで熱的安定性の改善を図っている。ただし、Mg2+、Ca2+、Zn2+およびSr2+の合計含有量に対するBa2+の導入量が多すぎると、熱的安定性が損なわれるので、本発明において、カチオン比αの上限を規定(カチオン比αが0.80以下)している。
このように、カチオン比αとカチオン比βとが所定範囲内になるようにガラス組成を調整することにより、所望の光学特性を得るとともにガラスの熱的安定性を向上させることができる。
Si4+は、低分散性を維持しつつ化学的耐久性を向上させるのに有効な成分である。しかし、その導入量が多すぎるとガラス転移温度や屈伏点を高くなると共に屈折率が低下する傾向にある。よって、本発明の光学ガラスでは、Si4+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1.5%、1.0%の順に好ましい。なお、Si4+は、P5+、B3+、Al3+と共にネットワーク成分であるが、本発明の光学ガラスにおいてSi4+を必ずしも導入しなくてもよい。
Li+は、ガラス転移温度および屈伏点を低下させ、さらに低分散化に有効な成分である。特に、ガラスの低分散化のために、P5+、B3+およびLi+を共存させることは非常に有効である。ただし、Li+を過剰に導入すると、ガラスの化学的耐久性(耐候性、耐アルカリ性等)が悪化し、屈折率も急激に低下する傾向にある。よって、本発明の光学ガラスでは、Li+の含有量の上限は、好ましくは23%であり、さらには、20%、17%、15%、14%の順に好ましい。また、Li+の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには、1%、2%、5%、7%、8%の順に好ましい。
Na+およびK+は、いずれもガラスの耐失透性を向上させ、ガラス転移温度、屈伏点、液相温度を低下させ、ガラスの熔融性を改善するために導入される任意成分である。適当量のNa+およびK+の導入はガラスの安定性を改善し、液相温度や転移温度の低下につながるが、過剰に導入すると、化学的耐久性が著しく悪化し、屈折率も低下する傾向にある。よって、本発明の光学ガラスでは、Na+およびK+の含有量の上限は、それぞれ、好ましくは10%であり、さらには、5%、3%、2%の順に好ましい。なお、Na+およびK+を実質的に導入しないことが特に好ましい。
また、Li+、Na+およびK+の合計含有量が、少なすぎると、ガラス転移温度や屈伏点が上昇したり、熔融性が悪化したりする。したがって、本発明の光学ガラスでは、Li+、Na+およびK+の合計含有量R2=[Li++Na++K+]の上限は、好ましくは23%であり、さらには、20%、17%、15%、14%の順に好ましい。また、合計含有量R2の下限は、好ましくは0%であり、さらには、1%、2%、5%、7%、8%の順に好ましい。
また、本発明の光学ガラスにおいて、アルカリ金属成分であるCs+の導入は必ずしも必要ではなく、原料コストの面から不利なのでむしろ不要である。また、Cs+は屈折率を下げ、耐候性を著しく損なうため、Cs+を導入しないことが好ましい。
なお、ガラスの熔融性と熱的安定性を両立させる点から、アルカリ金属成分の合計含有量R2に対するP5+含有量の割合:カチオン比[P5+/R2]の上限は、30とすることが好ましく、さらには、25、20、15、10、8の順に好ましい。また、カチオン比[P5+/R2]の下限は、1.0とすることが好ましく、さらには1.5、2.0、2.5の順に好ましい。
また、本発明の光学ガラスは、環境への負荷を低減する観点から、Pb、As、Cd、U、Th、Tlを実質的に含有しないことが好ましい。
また、本発明の光学ガラスにおいてはハロゲンすなわちF−、Cl−、Br−、I−を任意成分として含有することができる。その含有量は陰イオンのアニオン分率(例えば、[F−/(O2−+F−)])で表すことができる。F−の含有量の上限は10%とすることが好ましく、さらには、5%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%の順に好ましい。また、Cl−、Br−、I−の含有量の上限は、それぞれ5%とすることが好ましく、さらには、3%、2%、1%、0.5%、0.1%の順に好ましい。なお、ハロゲンをガラスに含む場合、ガラスの揮発を抑えるためガラス中のB3+の上限を25%にすることが好ましく、さらには、20%、15%、10%、5%の順に好ましく、最も好ましくは実質含有しないことである。ただし、ハロゲンを1%以下の少量添加するときはこの限りではない。特に、ガラスからの成分の揮発を抑止してガラスの均質性を向上させるためには、ハロゲンを実質的に含有しないことが好ましい。
また、本発明の光学ガラスにおいてはW6+、Ti4+、Bi3+およびNb5+からなる易還元成分を任意成分として含有することができる。これらの易還元成分は、屈折率を高くするために有効な成分である。しかしながら、W6+、Ti4+、Bi3+およびNb5+はガラスのアッベ数(νd)を著しく減少させてしまう。そこで、上記易還元成分の合計含有量[W6++Ti4++Bi3++Nb5+]の上限は、5%とすることが好ましく、さらには3%、2%、1%、0.5%の順に好ましい。なお、上記易還元成分を実質的に導入しないことが特に好ましい。
上記のような本発明の光学ガラスは、基本的にはP5+、B3+、Si4+、Al3+、Li+、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、Zn2+、Sr2+、Ba2+、Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+から選択される成分によって構成されることが好ましい。これらの成分の合計含有量[P5++B3++Si4++Al3++Li++Na++K++Mg2++Ca2++Zn2++Sr2++Ba2++Gd3++Y3++La3++Yb3+]は、95%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、より一層好ましくは100%である。
なお、本発明の光学ガラスは基本的に上記成分により構成されることが好ましいが、本発明の作用効果を妨げない範囲において、その他の成分を導入することも可能である。また、本発明において、不可避的不純物の含有を排除するものではない。
なお、「実質的に含有しない」とは、含有量が0.2%未満であることを目安にすることができる。実質的に含有しない成分や添加剤は、ガラスに含まれないことが好ましいから、その含有量が0.1%未満であることが好ましく、0.08%未満であることがより好ましく、0.05%未満であることがさらに好ましく、0.01%未満であることが一層好ましく、0.005%未満であることがより一層好ましい。
また、本発明の光学ガラスが上記成分により構成されて合計量を100質量%としたとき、Sb2O3、SnO2、CeO2などの清澄剤を外割で4質量%以内導入してもよい。Sb2O3の含有量の上限は、好ましくは4質量%であり、さらには3質量%、2質量%、1質量%、0.5質量%、0.1質量%の順に好ましい。また、Sb2O3の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.01質量%、0.02質量%、0.04質量%の順に好ましい。また、SnO2、CeO2は、ガラスの透過率を悪化させるおそれがあるため、1質量%以下の導入が好ましく、実質的に導入しないことが特に好ましい。
本明細書において、光学ガラスのガラス組成を主にカチオン%表示にて説明しているが、ICP−AES分析等により各成分別に定量分析を行なって求められた分析値を、次のような方法でカチオン%表示に換算することができる。
ガラス組成の定量分析の結果、陽イオンと陰イオンとから構成されるガラス成分のうち陽イオン元素の含有率が原子%の百分率で表示されることがある。このような組成表示を、例えば次のような方法で、本発明のカチオン%表示に換算することができる。
すなわち、定量されたガラス成分の各陽イオンの含有率(原子%)をそれぞれ固有の原子量で除算して各陽イオンのモル百分率を求め、含有される全ての陽イオンに対する求めるべき陽イオンの割合をモル百分率で示すことにより、カチオン%表示に換算される。
たとえば、定量分析によりn個の陽イオンの含有率(原子%)がm1,m2,・・・,mi,・・・,mnと定量され、各陽イオンの原子量がM1,M2,・・・,Mi,・・・,Mnとするとき、1成分(mi,Mi)のカチオン含有率(カチオン%)は次式で求めることができる。
[(mi/Mi)/{(m1/M1)+(m2/M2)+・・・+(mi/Mi)+・・・+(mn/Mn)}]×100
なお、定量分析により陰イオン元素の含有率(原子%)も定量されることがあるが、上記と同様の要領で陰イオンのアニオン含有率(アニオン%)に換算することができる。
また、ガラス組成の定量分析の結果、ガラス成分が酸化物基準で表され、ガラス成分の含有量が質量%表示されることがある。このような組成の表示は、例えば次のような方法で、カチオン%表示に換算することができる。
カチオンAと酸素とから成る酸化物は「AmOn」と表記される。mとnはそれぞれ化学量論的に定まる整数である。例えば、B3+では酸化物基準による表記がB2O3となり、m=2、n=3となり、Si4+ではSiO2となり、m=1、n=2となる。
まず、質量%表示におけるAmOnの含有量をAmOnの分子量で除算し、さらにmを乗じる。この値をQとする。そして、ガラス成分のすべてについてのQを合計する。Qを合計した値をΣQとすると、ΣQが100%になるように各ガラス成分のQの値を規格化した値が、カチオン%表示におけるAs+の含有量となる。なお、sは2n/mである。
<光学ガラスの光学特性(屈折率、アッベ数)>
本発明の光学ガラスの屈折率ndの上限は、1.700であり、さらには1.690、1.685、1.680、1.670、1.660の順に好ましい。また、屈折率ndの下限は、1.620であり、さらには1.625、1.630、1.635、1.640の順に好ましい。
本発明の光学ガラスのアッベ数νdの上限は、65であり、さらには62、61の順に好ましい。また、アッベ数νdの下限は、53であり、さらには54、55、56、57、58、59の順に好ましい。
このような高屈折率・低分散の光学ガラスからなる光学素子を用い、光学系を構成することによって、光学系のコンパクト化、高機能化、色収差の改善が可能となる。
<光学ガラスの熱的安定性>
ガラスの熱的安定性には、ガラス融液を成形する際の耐失透性と、一度固化したガラスを再加熱したときの耐失透性とがある。ガラス融液を成形する際の耐失透性は液相温度を目安にし、液相温度が低いほど優れた耐失透性を有している。液相温度が高いガラスでは、失透を防止するために、ガラス融液の温度を高温に保持しなければならず、これにより、ガラス成分の揮発による品質の悪化や生産性の低下を招いてしまうことがある。そのため、本発明の光学ガラスは、液相温度が1350℃以下であることが好ましく、1300℃以下であることがより好ましく、1250℃以下であることがさらに好ましく、1200℃以下であることが一層好ましく、1100℃以下であることがより一層好ましい。
一方、一度固化したガラスを再加熱したときの耐失透性については、結晶化ピーク温度Tcとガラス転移温度Tgとの温度差(Tc−Tg)が大きいものほど耐失透性が優れている。例えば、リヒートプレス成形法では、光学ガラス素材を温度Tgよりも高い温度に加熱して、適度な粘度(104〜106dPa・s程度)に軟化させる必要がある。ところが、加熱したガラス素材の温度が温度Tcに達すると内部結晶が生じるので温度差(Tc−Tg)が小さいガラスはリヒートプレス成形を行う上で不利である。これに対して、温度差(Tc−Tg)が大きいガラスは、温度Tcよりも低い温度で軟化しやすくなるので、ガラスが失透しない状態でリヒートプレス成形を行うことができる。
なお、一般に、ガラスの「軟化点(Softing Point)」は、ガラスが自重で顕著に変形し始める温度であって、約107.6dPa・sの粘度に相当する温度とされている。一方、リヒートプレス成形法において「ガラスが軟化する温度Tp」(以下、単に「ガラスが軟化する温度」、「Tp」または「温度Tp」という場合がある。)は、「軟化点」よりも高い温度であって、ガラスの粘度が104〜106dPa・sの粘度に相当する温度である。なお、104〜106dPa・sの粘度に相当する温度は、粘性曲線によって一義的に求めることができる。
ガラスの熱的安定性の指標となるガラス転移温度Tg、結晶化ピーク温度Tcおよびガラス転移に伴う吸熱ピーク温度Tk(以下、単に「吸熱ピーク温度」、「Tk」または「温度Tk」という場合がある。)、結晶化開始温度Tx(以下、単に「結晶化開始温度」、「Tx」または「温度Tx」という場合がある。)について、図1を参照して説明する。
図1は、光学ガラス(リン酸塩光学ガラス)の示差走査熱量曲線を示す模式図である。同図における横軸は温度、縦軸はガラスの発熱吸熱に対応する示差熱量を示す。ガラス転移温度Tg、ガラス転移に伴う吸熱ピーク温度Tk、結晶化開始温度Txおよび結晶化ピーク温度Tcは、いずれも示差走査熱量計[DSC(Differential Scanning Calorimetry)]で測定されたものである。
本発明でいうガラス転移に伴う吸熱ピーク温度Tkとは、Tg〜(Tg+100℃)程度付近に生じる吸熱反応のピークの温度を意味する。結晶化ピーク温度Tcとは、ガラスを粉末化して昇温速度10℃/分で室温から所定温度まで示差走査熱量測定を行ったときに、最も低温の結晶化発熱ピークを示す温度を意味する。また、結晶化開始温度Txとは、結晶化ピークの低温側の立ち上がり温度を意味する。
本発明の光学ガラスのガラス転移温度Tgは、次のような範囲内とすることが好ましい。すなわち、Tgの上限は630℃が好ましく、さらには600℃、580℃、560℃、540℃の順に好ましい。また、Tgの下限は特に限定されないが、400℃が好ましく、さらには440℃、460℃、480℃、490℃の順に好ましい。
本発明の光学ガラスの結晶化ピーク温度Tcは、次のような範囲内とすることが好ましい。すなわち、Tcの下限は640℃が好ましく、さらには650℃、660℃、67℃、675℃の順に好ましい。また、Tcの上限は820℃が好ましく、さらには810℃、800℃、790℃、785℃、780℃の順に好ましい。
通常、プレス成形法では、ガラス素材を加熱して、プレス成形に適した粘度となるように調整する。特にリヒートプレス成形法は、精密プレス成形法よりも短時間でガラスの変形を行うため、良好なプレス成形が行えるように比較的高い温度で再加熱し、ガラスの粘度を十分に下げるのが一般的である。
短時間のプレス成形の場合、加熱温度が不十分でガラスの粘度が高いと、プレス時の圧力で成形品に割れが生じたり、変形量の不足による形状不良が発生したりすることがあり、良品率が低下するおそれがある。したがって、良好なプレス成形を行うために、特にリヒートプレス成形法では、ガラス素材を十分に加熱し、適度な温度(ガラス粘度が104〜106dPa・sに相当する温度)に調整する必要がある。
一方、ガラスを加熱する際に、ガラスの結晶化ピーク温度Tcよりも高い温度まで加熱してしまうと、プレス成形後のガラス成形品に結晶(内部結晶や表面結晶)が発生し、不良品となるおそれがある。そのため、ガラス素材を加熱するに際しては、プレス成形に適した粘度となる温度であって、温度Tcよりも低い温度で行う必要がある。
しかし、リヒートプレス成形法において結晶化しやすいガラスは、TgとTcとの温度差が小さい場合が多く、プレス成形に適した粘度となる温度まで加熱すると、温度Tcを超えてしまう場合がある。
したがって、温度Tcと温度Tgとの温度差(Tc−Tg)が大きいほどガラスの結晶化は発生しにくい。本発明の光学ガラスは、後述する実施例に示すように、Tc−Tgがいずれも145℃以上あり、再加熱による内部結晶が発生せず、熱的安定性に優れている。すなわち、本発明の光学ガラスは、温度Tcが温度Tgよりも十分に高い温度にあるため、リヒートプレス成形時において、結晶化ピーク温度Tcよりも低い温度でガラス素材が軟化し、結晶が発生しない。
別の言い方をすれば、本発明の光学ガラスの結晶化ピーク温度Tcは、ガラスが軟化する温度Tpよりも十分に高い。本発明の光学ガラスは、後述する表1〜表3に示すように、いずれの試料(試料1〜37)も内部結晶が生じることはなかった。したがって、本発明の光学ガラスを用いれば、過酷な再加熱条件下にあるリヒートプレス成形を良好に行うことが可能となる。
さらに、温度差(Tc−Tg)および温度差(Tc−Tp)の関係をみると、温度Tgよりも温度Tpの方が高いので、温度差(Tc−Tg)の方が温度差(Tc−Tp)よりも大きく、これらの温度差はいずれも大きいほど好ましい。本発明の光学ガラスは、上述のガラス組成としたことで、温度Tcが高くなり、温度差(Tc−Tg)が大きい。したがって、結果的に温度差(Tc−Tp)も大きくなり、熱的安定性を向上させることができる。
なお、本発明の光学ガラスは、温度Tcと温度Tgとの温度差(Tc−Tg)は、145℃以上であることが好ましく、より好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは160℃以上、特に好ましくは180℃以上、一層好ましくは200℃以上である。
また、温度Tcと温度Tpとの温度差(Tc−Tp)は、1℃以上であることが好ましく、さらに温度差(Tc−Tp)は、5℃以上が好ましく、さらに好ましくは10℃以上であり、より好ましくは20℃以上であり、一層好ましくは30℃以上であり、さらに一層好ましくは50℃以上である。
本発明の光学ガラスは、ガラス素材をTgよりも高温に加熱して、適度な粘度(104〜106dPa・s程度)にガラス素材を軟化させるようなリヒートプレス成形法において、結晶化ピーク温度Tcよりも低い温度で十分に軟化するので、内部結晶の発生を効果的に防止できる。また、本発明の光学ガラスは、熱的安定性に優れているため、精密な温度制御が困難な開放された大気中におけるリヒートプレス成形法に適用することができる。
上述のように、本発明の光学ガラスは、光学ガラス中に含まれるBa2+の含有量と、Ba2+以外の二価成分との合計含有量の量的関係(カチオン比α[Ba2+/(Mg2++Ca2++Zn2++Sr2+)])を0.80以下の範囲に設定することにより、リヒートプレス成形のような過酷な再加熱条件下であっても、ガラスが失透せずにガラスの熱的安定性を向上させることができる。
また、本発明の光学ガラスは、Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+から選択されるいずれか1種以上の希土類元素を含有し、かつ、これらの希土類元素の合計含有量Reに対するP5+、B3+およびAl3+の合計含有量の量的関係(カチオン比β[(P5++B3++Al3+)/Re])を14.0未満に設定することにより、ガラスの熱的安定性を確保しつつ、屈折率を効果的に高めることができる。
なお、示差走査熱量計(DSC)から得られるガラスの熱的安定性は、結晶化のピーク強度Δによっても評価することができる。具体的には、結晶化の発熱ピークが小さいほど、ガラスが結晶に変化する傾向が小さいことから、ガラスの熱的安定性が高くなり、本発明のガラスにとって好ましい。結晶化のピーク強度Δは、装置感度を考慮して、このTkとTgの熱量差の絶対値をAとし、TxとTcの熱量差の絶対値をBとしたとき、Aを基準としたBの倍率、すなわちピーク強度Δ=B/A(倍)といった相対値で表すことができる。なお、結晶化ピークの高さは、ピーク温度における熱量と示差走査熱量計のベースラインとの差分からも計算できるが、この場合、ベースラインの引き方に依存するため、本願実施形態では、前者の方法により結晶化のピーク強度Δを算出した。
熱的安定性が高く結晶化が起こりにくいガラスほど、ガラスが結晶に転移する際の発熱が小さいためピーク強度Δは小さくなる。したがってピーク強度Δは、好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下、一層好ましくは4以下、より一層好ましくは2以下、さらに一層好ましくは1以下である。最も好ましいガラスでは、結晶化ピークが観測されずピーク強度が定義できなくなる。なお、ピーク強度Δが比較的大きい場合であっても、温度Tcと温度Tgとの温度差[Tc−Tg]が145℃以上あれば、ガラスをより高温にして粘性を低下させても結晶化が起こらないため、リヒートプレス成形における結晶化が起こりにくくなる。
また、本発明の光学ガラスは耐候性にも優れている。ガラスの耐候性は、ヘイズ値(haze)を指標に表すことができる。ヘイズ値とは、ガラスを高温高湿度の環境下で所定時間保持したときのガラスのくもり度合いである。具体的には、ヘイズ値は、両面光学研磨したガラス平板の研磨面に対し垂直に白色光を透過させたときの全透過光強度に対する散乱光強度の比、つまり[散乱光強度/透過光強度]を%表示したものである。本発明の光学ガラスは、好ましくは10以下のヘイズ値、より好ましくは5以下のヘイズ値、さらに好ましくは2以下のヘイズ値、一層好ましくはヘイズ値が1未満である。ヘイズ値の大きいガラスは、ガラスに付着する水滴や水蒸気および使用環境におけるガラスなど種々の化学成分によって、ガラスが侵蝕されたり、ガラス表面に反応物が生成したりする速度の大きい、いわゆる化学的耐久性が低いガラスである。逆に、本発明の光学ガラスのようにヘイズ値の小さいガラスは、化学的耐久性(耐候性)が高いガラスである。
光学ガラスの製造
本発明に係る光学ガラスは、上記所定の組成となるように原料を配合し、公知のガラス製造方法に従って作製すればよい。
なお、ガラス中の各成分の原料(ガラス原料)としては特に限定されないが、各金属の酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等が挙げられる。
光学素子等の製造
本発明に係る光学ガラスを使用して光学素子を作るには、公知の方法を適用すればよい。例えば、本発明に係る光学ガラスを熔融して板状のガラス素材を成形し、この板状のガラス素材を所定体積に細分化してプレス成形用ガラス素材を作製する。あるいは、本発明に係る光学ガラスを熔融した状態から連続的に所定体積のガラス塊を成形してプレス成形用ガラス素材を作製する。次に、このガラス素材を再加熱、プレス成形(リヒートプレス成形)して光学素子ブランクを作製する。さらに光学素子ブランクを、研磨を含む工程により加工して光学素子、または精密プレス成形用ガラス素材を作製する。
あるいは、熔融ガラスを熱間成形して精密プレス成形用ガラス素材(プリフォーム)を作製し、このガラス素材を加熱、精密プレス成形して光学素子を作製する。
あるいは、熔融ガラスを直接成形(ダイレクトプレス成形)してガラス成形体を作製し、この成形体を研磨加工して光学素子を作製する。
作製した光学素子の光学機能面には使用目的に応じて、反射防止膜、全反射膜などをコーティングしてもよい。
光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズ、レンズアレイなどの各種レンズ、プリズム、回折格子などを例示することができる。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1および比較例1)
表1〜3に本発明の実施例に係る光学ガラス(試料1〜37)を、表4に本発明の比較例に係る光学ガラス(試料38)をそれぞれ示す。なお、表4に示した試料6および18は、表1および表2に示した試料と同じであり、実施例と比較例の比較のために併記したものである。
これらの光学ガラスは、以下の手順で作製され、各種評価が行われた。
[光学ガラスの製造]
まず、ガラスの構成成分に対応する酸化物、水酸化物、炭酸塩、および硝酸塩を原材料として準備し、得られる光学ガラスのガラス組成が、カチオン%表示にて表1〜4に示す各組成となるように上記原材料を秤量、調合して、原材料を十分に混合した。こうして得られた調合原料(バッチ原料)を、白金坩堝に投入し、原材料の熔融性に応じて電気炉で1200〜1400℃の温度範囲で熔融し、攪拌して均質化を図り、清澄してから流出ノズルより熔融ガラスを流出して適当な温度に予熱した金型に鋳込んだ。鋳込んだガラスを徐冷炉に投入し、所定の徐冷スケジュールで室温まで冷却して各光学ガラスを得た(試料1〜38)。
[光学ガラスの評価]
得られた光学ガラス(試料1〜38)について、以下に示す方法にて、ガラス組成の確認、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、ガラス転移温度(Tg)、結晶化開始温度(Tx)、結晶化ピーク温度(Tc)、結晶化ピーク強度(Δ)および内部結晶の有無の評価が行われた。また、試料6については、耐候性(DH)試験も行った。
[1]ガラス組成の確認
上記のようにして得られた各光学ガラスを適量採取し、これを酸およびアルカリ処理し、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−AES法)を用いて、各成分の含有量を定量することで測定し、カチオン%換算で、表1〜4に示す各試料のガラス組成と一致していることを確認した。
[2]屈折率(nd)およびアッベ数(νd)
日本光学硝子工業会規格の屈折率測定法により、室温まで冷却された光学ガラスを再びガラス転移温度(Tg)〜屈伏点(Ts)間の温度で保持し、降温速度−30℃/時間で降温することによりガラス中の歪を除去して得られた光学ガラスについて、屈折率(nd)とアッベ数(νd)を測定した〔(株)島津デバイス製造より販売されている「GMR−1」を使用〕。結果を表1〜4に示す。
[3]ガラス転移温度(Tg)、結晶化ピーク温度(Tc)およびピーク強度(Δ)
ブルカー・AXS株式会社製の示差走査熱量計により昇温速度を10℃/分にして測定した。さらに、測定されたTgとTcから温度差(Tc−Tg)を算出した。また、示差走査熱量計によって示された示差走査熱量曲線に基づいて、ピーク強度(Δ)を算出した。結果を表1〜4に示す。
[4]内部結晶の有無
ガラスを大気中にて熔融状態から鋳型にキャストし、上面に平坦な自由表面を有するガラス成形体を作製し、このガラス成形体を切断し、1×1×1cm3の立方体状のガラス試料を得た。このガラス試料を加熱炉に投入して、温度Tgで10分間保持(一次加熱)した後、ガラスが軟化する温度(Tp)で10分間保持(二次加熱)し、ガラス試料を加熱炉から取り出して放冷した。次いで、ガラス試料を研磨加工して、研磨面からガラス内部を顕微鏡によって内部結晶の有無を観察した。この観察により、直径0.1μm以上の結晶が存在しないものを「結晶なし」とし、直径0.1μm以上の結晶が存在したものを「結晶あり」と評価した。なお、温度Tpは各試料によって個体差があったが、(Tg+約130℃)〜(Tg+約180℃)の範囲内の温度で、いずれの試料も軟化することを確認した。結果を表1〜4に示す。
[5]耐候性(DH)試験
得られた光学ガラス(試料6)について、日本光学硝子工業会規格JOGIS07に従い、主表面が対面研磨されたガラス試料(30×30×3mm)を成形し、高温高湿度の温度サイクル環境下で48時間処理した。その後、(有)東京電色製のヘーズメーター(TC−HIIIDPK)を用い、ガラス試料のヘイズ値を測定した。なお、ヘイズ値は、散乱光強度/透過光強度×100(単位:%)により求めることができる。結果は後述する。
表1〜4に示されるように、本発明の実施例に係る光学ガラス(試料1〜37)は、屈折率ndが1.620〜1.700、アッベ数νdが53〜65の範囲にあり、特に、カチオン比α[Ba2+/(Mg2++Ca2++Zn2++Sr2+)]およびカチオン比β[(P5++B3++Al3+)/Re]が、所望の範囲内(カチオン比αが0.80以下、さらにカチオン比βが14.0未満)にあるガラスである。
このような本発明の実施例に係る光学ガラスは、温度Tgと温度Tcとの温度差(Tc−Tg)の平均値が約210℃あり、いずれの試料も温度Tpが結晶化ピーク温度Tcよりも低く(すなわち、Tp<Tcの関係にあり)、固化したガラスに内部結晶が発生せず、熱的安定性が高いことが確認された。
特に、試料18は、試料1〜37の中で温度差(Tc−Tg)が最も低い試料であるが、この場合であってもガラスが軟化して、内部結晶が発生せず、熱的安定性が高いことが確認された。
また、試料6は、屈折率とアッベ数との観点では、試料38(比較例)に非常に近い試料であるにもかかわらず、温度差(Tc−Tg)が192℃もあり、内部結晶が発生せず、他の試料と同様に熱的安定性が高いことが確認された。
これに対して、本発明の比較例に係る光学ガラスである試料38は、温度差(Tc−Tg)が139℃であり、結晶化ピーク温度Tc(667℃)よりもはるかに高い温度Tp(710℃)で軟化した。つまり、この試料38は、温度Tpと温度Tcとが、Tp>Tcの関係にあった。そして、固化した試料38のガラスには、内部結晶が発生しており、熱的安定性に劣ることが確認された。
上述の差異が生じる理由として、比較例に係る光学ガラスである試料38は、カチオン比βが14未満であるものの、ガラスの熱的安定性の指標となるカチオン比αが所定の範囲内(0.80以下)から外れているためと考えられる。
以上のように、本発明の実施例に係る光学ガラスは、温度差(Tc−Tg)が十分に大きい。このため、温度Tcよりも低い温度Tpにてガラスを確実に軟化させることができる。したがって、精密な温度制御が困難なリヒートプレス成形に本発明の光学ガラスを適用することができる。
一方、比較例に係る光学ガラス(試料38)は、温度差(Tc−Tg)が比較的小さく、軟化する温度Tpが結晶化ピーク温度Tcよりも高いことから、比較例に係る光学ガラスを軟化させると内部結晶が生じてしまい、比較例に係る光学ガラスをリヒートプレス成形に適用することは困難である。
また、耐候性(DH)試験の結果、本実施例に係る光学ガラス(試料6)は、高温高湿度下で長時間処理された後も、表面変質がなく、透明度に優れることが確認された。また、ヘイズ値は、0.1%であった。
これらの結果から、本発明に係る光学ガラスは、優れた耐候性を有することが確認された。
(実施例2)
実施例1において作製した光学ガラス(試料1〜37)を用いて、光学レンズを作製した。具体的には、実施例1の各光学ガラスを所定形に加工して光学ガラス素材を作成した。次いで、その光学ガラス素材を加熱、軟化し、目的のレンズの形状に近似する形状にプレス成形し、プレス成形後、ガラスを焼鈍(アニール)し、研磨工程を含む加工工程により、光学レンズに仕上げた。なお、ガラスのプレス成形法、アニールの方法、加工工程は、公知の方法を適宜、適用すればよい。
このようにして得た光学レンズは、リヒートプレス成形にあたり比較的高温で加熱を行った場合であっても、ガラスが結晶化することがなく、良好な光学レンズが得られることが確認された。
(比較例2)
実施例2と同様の方法により、比較例1において作製した光学ガラス(試料38)を用いて、光学レンズの作製を試みた。
しかしながら、比較例に係る光学ガラスでは、熱的安定性が低く、リヒートプレス成形の際の加熱により結晶化が起こり、得られた光学レンズにおいて内部結晶が発生していることが確認された。
以下に、本発明を総括する。
表1〜4に示すように、本発明の光学ガラス(試料1〜37)は、P5+、B3+およびAl3+の合計含有量[P5++B3++Al3+]が60カチオン%以下のガラスであって、
Ba2+と、
Mg2+、Ca2+、Zn2+およびSr2+から選択されるいずれか1種以上と、
Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+から選択されるいずれか1種以上と、を含み、
Mg2+、Ca2+、Zn2+およびSr2+の合計含有量に対するBa2+の含有量のカチオン比α[Ba2+/(Mg2++Ca2++Zn2++Sr2+)]が、0.80以下であり、
Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+の合計含有量に対するP5+、B3+およびAl3+の合計含有量のカチオン比β[(P5++B3++Al3+)/(Gd3++Y3++La3++Yb3+)]が14.0未満であり、
屈折率ndが1.620〜1.700、アッベ数νdが53〜65であることを満たす。
別の局面から、低分散性と熱的安定性に特に優れた光学ガラスとして、本発明に係る光学ガラスの実施例である試料1〜17が選択される。これらの試料を参照して本発明をみると、これらの光学ガラスは以下の条件を満たす。
P5+、B3+およびAl3+の合計含有量[P5++B3++Al3+]が60カチオン%以下のガラスであって、
Ba2+と、
Mg2+、Ca2+、Zn2+およびSr2+から選択されるいずれか1種以上と、
Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+から選択されるいずれか1種以上と、を含み、
Mg2+、Ca2+、Zn2+およびSr2+の合計含有量に対するBa2+の含有量のカチオン比α[Ba2+/(Mg2++Ca2++Zn2++Sr2+)]が、0.50以下であり、
Gd3+、Y3+、La3+およびYb3+の合計含有量に対するP5+、B3+およびAl3+の合計含有量のカチオン比β[(P5++B3++Al3+])/(Gd3++Y3++La3++Yb3+)]が12.0以下であり、
屈折率ndが1.635〜1.660、アッベ数νdが59〜62である、光学ガラス。
これらの試料によれば、Tc-Tgが180℃以上と大きく、かつピーク強度Δを低く抑えられ、熱的安定性に優れるとともに、屈折率ndが1.635以上、アッベ数が59以上の光学特性を有する光学ガラスを製造することができる。