以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用された車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、エンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた車両用動力伝達装置16(以下、動力伝達装置16という)とを備えている。動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース18(図2参照)内に配設されたトルクコンバータ(車両用流体式伝動装置)20および自動変速機22と、自動変速機22の出力回転部材である変速機出力ギヤ24がリングギヤ26aに連結された差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)26と、差動歯車装置26に連結された一対の車軸28等とを備えている。動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、トルクコンバータ20、自動変速機22、差動歯車装置26、及び車軸28等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
エンジン12は、車両10の駆動力源であり、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。
図2は、トルクコンバータ20や自動変速機22の一例を説明する骨子図である。なお、トルクコンバータ20や自動変速機22等は、自動変速機22の入力回転部材である変速機入力軸30の軸心RCに対して略対称的に構成されており、図2ではその軸心RCの下半分が省略されている。
図2および図3に示すように、トルクコンバータ20は、相互に溶接されたフロントカバー34およびリヤカバー35と、リヤカバー35の内側に固定された複数のポンプ羽根20fとを有し、エンジン12のクランク軸12aと動力伝達可能に連結され、軸心RC回りに回転するように配設されたポンプ翼車20pと、リヤカバー35に対向し、変速機入力軸30に動力伝達可能に連結されたタービン翼車20tとを備えている。トルクコンバータ20は、ポンプ翼車20pとタービン翼車20tとの間を直結可能なロックアップクラッチ32を備えている。このように、トルクコンバータ20は、エンジン12と自動変速機22との間の動力伝達経路に設けられた、ロックアップクラッチ32付車両用流体式伝動装置として機能している。また、動力伝達装置16には、ポンプ翼車20pに動力伝達可能に連結された機械式のオイルポンプ(ライン圧供給源)33が備えられている。オイルポンプ33は、エンジン12によって回転駆動されることにより、自動変速機22を変速制御したり、ロックアップクラッチ32を係合したり、動力伝達装置16の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりする為の油圧を発生する(吐出する)。
ロックアップクラッチ32は、油圧式多板摩擦クラッチであり、そのロックアップクラッチ32には、図3に示すように、ポンプ翼車20pと一体的に連結されたフロントカバー34に溶接によって固定された第1環状部材36と、第1環状部材36の外周に形成された外周スプライン歯36aに軸心RC回りに相対回転不能且つ軸心RC方向の移動可能に係合された複数枚(本実施例では3枚)の環状の第1摩擦板(摩擦板)38と、トルクコンバータ20内に設けられたダンパ装置40を介して変速機入力軸30およびタービン翼車20tに動力伝達可能に連結された第2環状部材42と、第2環状部材42の内周に形成された内周スプライン歯42aに軸心RC回りに相対回転不能且つ軸心RC方向の移動可能に係合され且つ複数の第1摩擦板38との間に配設された複数枚(本実施例では2枚)の環状の第2摩擦板(摩擦板)44と、フロントカバー34の内周部34aに固定され変速機入力軸30のフロントカバー34側の端部を軸心RC回りに回転可能に支持するハブ部材46に、軸心RC方向の移動可能に支持され、フロントカバー34に対向する環状の押圧部材(ピストン)48と、ハブ部材46に位置固定で支持され、押圧部材48のフロントカバー34側とは反対側に押圧部材48に対向するように配設された環状の固定部材50と、押圧部材48を固定部材50側に付勢するリターンスプリング52と、が備えられている。
トルクコンバータ20には、図3に示すように、フロントカバー34およびリヤカバー35内に設けられ、オイルポンプ33から出力された作動油が供給される作動油供給ポート20aおよび作動油供給ポート20aから供給された作動油を流出させる作動油流出ポート20bを有する主油室(トルクコンバータ油室)20cが形成されている。また、トルクコンバータ20の主油室20c内には、ロックアップクラッチ32と、ロックアップクラッチ32を係合させるためのすなわちロックアップクラッチ32の第1摩擦材38および第2摩擦材44を押圧する押圧部材48をフロントカバー34側へ付勢するための例えば後述するロックアップ係合圧PSLU(制御油圧)が供給される制御油室20dと、ロックアップクラッチ32を解放させるためのすなわち押圧部材48をフロントカバー34側とは反対側へ付勢するための後述する例えば第2ライン油圧Psecが供給されるフロント側油室20eと、フロント側油室20eと連通しフロント側油室20eからの作動油で満たされてその作動油を作動油流出ポート20bから流出させるリヤ側油室20gとが設けられている。なお、上記制御油室20dは押圧部材48と固定部材50との間に形成された油密な空間であり、上記フロント側油室20eは押圧部材48とフロントカバー34との間に形成された空間であり、上記リヤ側油室20gは主油室20cにおいて制御油室20dおよびフロント側油室20eを除く空間である。
トルクコンバータ20では、図3に示すように、例えば、制御油室20dの油圧すなわちロックアップオン圧PLupON(kPa)が比較的大きく(フロント側油室20eの油圧すなわちトルクコンバータイン圧PTCin(kPa)が比較的小さく)なることにより押圧部材48が付勢されて一点鎖線に示すようにフロントカバー34側に移動させられると、押圧部材48によって第1摩擦板38および第2摩擦板44を押圧して第1環状部材36に連結されたポンプ翼車20pと第2環状部材42に連結されたタービン翼車20tとが一体回転する。また、例えば、制御油室20dのロックアップオン圧PLupON(kPa)が比較的小さく(フロント側油室20eのトルクコンバータイン圧PTCin(kPa)が比較的大きく)なることにより押圧部材48が実線に示すように第1摩擦板38から離間した位置に移動させられると、第1環状部材36に連結されたポンプ翼車20pと第2環状部材42に連結されたタービン翼車20tとが相対回転する。
ロックアップクラッチ32は、制御油室20d内のロックアップオン圧PLupON(kPa)と、フロント側油室20e内のトルクコンバータイン圧PTCin(kPa)および作動油流出ポート20bから出力されるトルクコンバータアウト圧PTCout(kPa)の平均値((PTCin+PTCout)/2)との差圧すなわちロックアップ差圧ΔP(=PLupON−(PTCin+PTCout)/2)に基づいて、伝達トルクが制御される。なお、上記したロックアップ差圧(係合圧)ΔP=PLupON−(PTCin+PTCout)/2の式は、予め実験等によって決定された実験式である。また、上記式において、トルクコンバータイン圧PTCinとトルクコンバータアウト圧PTCoutは、エンジン回転数Ne(rpm)、タービン回転数Nt(rpm)、それらの差回転(エンジン回転数−タービン回転数)ΔN(rpm)、第2ライン油圧Psec(kPa)、ATF油温Toil(℃)、エンジントルクTe(Nm)等により変化する。なお、上記トルクコンバータアウト圧PTCoutは、エンジン回転数Ne、タービン回転数Nt、ATF油温Toil等が変化してトルクコンバータ20のリヤ側油室20g内の遠心油圧が変化することによって、変化する。
ロックアップクラッチ32は、電子制御装置(油圧制御装置)56によって油圧制御回路54を介してロックアップ差圧ΔPが制御されることで、例えば、ロックアップ差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ32が解放される所謂ロックアップ解放状態(ロックアップオフ)と、ロックアップ差圧ΔPが零以上とされてロックアップクラッチ32が滑りを伴って半係合される所謂ロックアップスリップ状態(スリップ状態)と、ロックアップ差圧ΔPが最大値とされてロックアップクラッチ32が完全係合される所謂ロックアップ状態(ロックアップオン)とのうちの何れかの作動状態に切り替えられる。なお、トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ32がロックアップ状態、ロックアップスリップ状態、ロックアップ解放状態であっても、フロント側油室20eとリヤ側油室20gとが同室すなわちフロント側油室20eとリヤ側油室20gとが常時相互に連通しており、作動油供給ポート20aから供給される作動油によってロックアップクラッチ32が好適に冷却される。
自動変速機22は、エンジン12から駆動輪14までの動力伝達経路の一部を構成し、複数の油圧式摩擦係合装置(第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2)およびワンウェイクラッチF1の何れかが選択的に係合されることによりギヤ比(変速比)が異なる複数のギヤ段(変速段)が形成される有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式多段変速機である。例えば、車両によく用いられる所謂クラッチツゥクラッチ変速を行う有段変速機である。自動変速機22は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置58と、ラビニヨ型に構成されているシングルピニオン型の第2遊星歯車装置60およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置62とを同軸線上(軸心RC上)に有し、変速機入力軸30の回転を変速して変速機出力ギヤ24から出力する。
第1遊星歯車装置58は、外歯歯車である第1サンギヤS1と、第1サンギヤS1と同心円上に配置される内歯歯車である第1リングギヤR1と、第1サンギヤS1および第1リングギヤR1と噛み合う、一対の歯車対からなる第1ピニオンギヤP1と、その第1ピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1とを有している。
第2遊星歯車装置60は、外歯歯車である第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2と同心円上に配置される内歯歯車である第2リングギヤR2と、第2サンギヤS2および第2リングギヤR2と噛み合う第2ピニオンギヤP2と、その第2ピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2とを有している。
第3遊星歯車装置62は、外歯歯車である第3サンギヤS3と、第3サンギヤS3と同心円上に配置される内歯歯車である第3リングギヤR3と、その第3サンギヤS3および第3リングギヤR3と噛み合う、一対の歯車対からなる第3ピニオンギヤP3と、その第3ピニオンギヤP3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3とを有している。
上記第1クラッチC1,第2クラッチC2,第3クラッチC3,第4クラッチC4、および第1ブレーキB1,第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合は単に油圧式摩擦係合装置或いは係合要素という)は、油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される。
これら油圧式摩擦係合装置の係合と解放とが制御されることで、図4の係合作動表に示すように、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて前進8段、後進1段の各ギヤ段が形成される。図4の「1st」-「8th」は前進ギヤ段としての第1変速段−第8速変速段を意味し、「Rev」は後進ギヤ段としての後進変速段を意味しており、各変速段に対応する自動変速機22のギヤ比γ(=変速機入力軸回転速度Nin/変速機出力ギヤ回転速度Nout)は、第1遊星歯車装置58、第2遊星歯車装置60、及び第3遊星歯車装置62の各歯車比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)によって適宜定められる。
図5に示すように、油圧制御回路54には、ロックアップコントロールバルブ64と、オイルポンプ33から発生する油圧を元圧としてリリーフ形の第1ライン圧調圧弁67により調圧された第1ライン油圧PLを、ロックアップ係合圧PSLUに調圧するリニアソレノイドバルブSLUと、第1ライン油圧PLを元圧としてモジュレータ油圧PMODを一定値に調圧するモジュレータバルブ66とが備えられている。なお、油圧制御回路54には、前記油圧式摩擦係合装置の図示しない各油圧アクチュエータの作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL6(図1参照)が備えられている。なお、図5では、上記リニアソレノイドバルブSLUの元圧として第1ライン圧PLが用いられていたが、その第1ライン圧PLに替えてモジュレータ油圧PMODが用いられていても良い。
また、図5に示すように、ロックアップコントロールバルブ64は、ロックアップ係合圧PSLUが所定値を超えるとOFF位置からON位置へ切り換えられる型式の2位置切換弁であって、ON位置では、第1油路L1を閉路し、第2油路L2を第3油路L3へ接続し、第1油路L1を排出油路EXへ接続し、第4油路L4をクーラー68へ接続し、且つ第5油路L5を第6油路L6へ接続する。上記第1油路L1は、トルクコンバータ20の作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧PTCoutが導かれる油路である。上記第2油路L2は、リニアソレノイドバルブSLUによって調圧されたロックアップ係合圧PSLUが導かれる油路である。上記第3油路L3は、トルクコンバータ20の制御油室20dに供給されるロックアップオン圧PLupONが導かれる油路である。上記第4油路L4は、第1ライン圧調圧弁67からリリーフされた油圧を元圧として第2ライン圧調圧弁69により調圧された第2ライン油圧Psecが導かれる油路である。上記第5油路L5は、モジュレータバルブ66によって一定値に調圧されたモジュレータ油圧PMODが導かれる油路である。上記第6油路L6は、トルクコンバータ20のフロント側油室20eに供給されるトルクコンバータイン圧PTCinが導かれる油路である。
また、ロックアップコントロールバルブ64は、図5に示すように、OFF位置では、第1油路L1を第3油路L3へ接続し、第2油路L2を閉路し、第1油路L1をクーラー68へ接続し、第4油路L4を第6油路L6へ接続し、且つ第5油路L5を閉路する。上記ロックアップコントロールバルブ64は、スプール弁子をOFF位置側へ付勢するスプリング64aと、スプール弁子をON位置側へ付勢するためにロックアップ係合圧PSLUを受け入れる油室64bとを備えている。ロックアップコントロールバルブ64では、ロックアップ係合圧PSLUが比較的小さく設定された所定値より小さい場合には、スプリング64aの付勢力によってスプール弁子がOFF位置に保持される。また、ロックアップコントロールバルブ64では、ロックアップ係合圧PSLUが前記所定値より大きい場合には、スプリング64aの付勢力に抗してスプール弁子がON位置に保持される。なお、図5のロックアップコントロールバルブ64では、実線はスプール弁子がON位置であるときの流路を示し、破線はスプール弁子がOFF位置であるときの流路を示している。
上記のように構成された油圧制御回路54により、ロックアップコントロールバルブ64からトルクコンバータ20における制御油室20dおよびフロント側油室20eへ供給される油圧が切換えられることで、ロックアップクラッチ32の作動状態が切り替えられる。先ず、ロックアップクラッチ32がスリップ状態乃至ロックアップオンとされた場合を説明する。ロックアップコントロールバルブ64において、電子制御装置56から出力される指令信号によって前記所定値より大きくされたロックアップ係合圧PSLUが供給されると、ロックアップコントロールバルブ64がON位置に切り替えられ、ロックアップ係合圧PSLUがトルクコンバータ20の制御油室20dへ供給されると共に、ロックアップコントロールバルブ64に供給されたモジュレータ油圧PMODがトルクコンバータ20のフロント側油室20eへ供給される。すなわち、ロックアップ係合圧PSLUがロックアップオン圧PLupONとして制御油室20dに供給され、モジュレータ油圧PMODがトルクコンバータイン圧PTCinとしてフロント側油室20eに供給される。なお、ロックアップコントロールバルブ64がON位置に切り替えられると、ロックアップオン圧PLupONと、トルクコンバータイン圧PTCinと、トルクコンバータアウト圧PTCoutとの大きさの関係は、ロックアップオン圧PLupON>トルクコンバータイン圧PTCin>トルクコンバータアウト圧PTCoutとなる。これによって、トルクコンバータ20の制御油室20dのロックアップオン圧(係合圧)PLupONがリニアソレノイドバルブSLUにより調圧されることにより、ロックアップ差圧(PLupON−(PTCin+PTCout)/2)ΔPが調圧されて、ロックアップクラッチ32の作動状態がスリップ状態乃至ロックアップオン(完全係合)の範囲で切り替えられる。
次に、ロックアップクラッチ32がロックアップオフとされた場合を説明する。ロックアップコントロールバルブ64において、ロックアップ係合圧PSLUが前記所定値より小さい場合には、ロックアップコントロールバルブ64がスプリング64aの付勢力によりOFF位置に切り替えられ、トルクコンバータ20の作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧PTCoutがトルクコンバータ20の制御油室20dへ供給されると共に、第2ライン油圧Psecがトルクコンバータ20のフロント側油室20eへ供給される。すなわち、トルクコンバータアウト圧PTCoutがロックアップオン圧PLupONとして制御油室20dに供給され、第2ライン油圧Psecがトルクコンバータイン圧PTCinとしてフロント側油室20eに供給される。なお、ロックアップコントロールバルブ64がOFF位置に切り替えられると、上記ロックアップオン圧PLupONと、トルクコンバータイン圧PTCinと、トルクコンバータアウト圧PTCoutとの大きさの関係は、トルクコンバータイン圧PTCin>トルクコンバータアウト圧PTCout>ロックアップオン圧PLupONとなる。これによって、ロックアップクラッチ32の作動状態がロックアップオフに切り替えられる。
上記のように構成された油圧制御回路54では、ロックアップクラッチ32の非係合時(ロックアップオフの時)には、作動油流出ポート20bから出力された作動油圧(トルクコンバータアウト圧PTCout)が第1油路L1および第3油路L3を介して制御油室20dに供給されることによって制御油室20d内がロックアップクラッチ32の非係合が維持される範囲で予圧されている。また、ロックアップクラッチ32の係合時(ロックアップオンの時)には、ロックアップ係合圧PSLUが第3油路L3を介して制御油室20dに供給されることによってロックアップ係合圧PSLUが制御油室20dに作用する。これにより、制御油室20dには、予め作用しているトルクコンバータアウト圧PTCoutに加えて、ロックアップ係合圧PSLUが作用させられる。上記トルクコンバータアウト圧PTCoutは、第2ライン油圧Psecを元圧とするが、フロント側油室20eおよびリヤ側油室20gを通過することで、エンジン回転数Ne、タービン回転数Nt、それ等の差回転ΔN、第2ライン油圧Psec、ATF油温Toilの影響を受けて変動する圧力である。
図1に戻り、車両10は、例えばロックアップクラッチ32を係合させるロックアップクラッチ係合制御と、自動変速機22の変速時の油圧式摩擦係合装置の係合圧を制御する変速制御等とを油圧制御回路54を介して実行する電子制御装置56を備えている。図1は、電子制御装置56の入出力系統を示す図であり、電子制御装置56による制御機能の要部を説明する機能ブロックである。電子制御装置56は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各制御を実行する。
電子制御装置56には、車両10が備える各種センサにより検出される各種入力信号が供給されるようになっている。例えば、スロットル弁開度センサ70により検出されるスロットル弁開度θth(%)を表す信号、車速センサ72により検出される車速V(km/h)を表す信号、油温センサ74により検出される作動油の油温T(℃)を表す信号、油圧センサ76により検出されるトルクコンバータ20の作動油流出ポート20bから出力されるトルクコンバータアウト圧PTCout(kPa)を表す信号等、が電子制御装置56に入力される。また、電子制御装置56からは、自動変速機22の変速に関する油圧制御の為の油圧制御指令信号Satと、ロックアップクラッチ32の作動状態の切替制御のための油圧制御指令信号Slu等とが、それぞれ出力される。なお、上記油圧制御指令信号Satは、油圧式摩擦係合装置の図示しない各油圧アクチュエータへ供給される各油圧を調圧するリニアソレノイドバルブSL1〜SL6を駆動する為の指令信号であり、油圧制御回路54のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6へ出力される。また、上記油圧制御指令信号Sluは、ロックアップ係合圧PSLUを調圧するリニアソレノイドバルブSLUを駆動する為の指令信号であり、油圧制御回路54のリニアソレノイドバルブSLUへ出力される。
図1に示す電子制御装置56は、制御機能の要部として、ロックアップクラッチ係合制御開始判定部80bと指令値設定部80dを有する初期油圧急速供給制御実行部80cとを備えるロックアップクラッチ係合制御実行部80aにより構成されるロックアップクラッチ制御部80と、記憶部82とを含んでいる。ロックアップクラッチ制御部80は、ロックアップクラッチ32のロックアップ差圧ΔP(=PLupON−(PTCin+PTCout)/2)を制御するロックアップ制御を実行する。例えば、ロックアップクラッチ制御部80は、車速Vおよびスロットル弁開度θthを変数として、ロックアップオフ領域、スリップ作動領域、ロックアップオン領域を有する予め定められた関係(ロックアップ領域線図)を用いて実際の車速Vおよびスロットル弁開度θthに基づいて、ロックアップオフ領域、スリップ作動領域、ロックアップオン領域の何れの領域であるかを判断し、その判断した領域に対応する作動状態にロックアップクラッチ32の作動状態がなるように、油圧制御指令信号Sluを油圧制御回路54へ出力する。この油圧制御指令信号Sluに従って、判断した領域に対応する作動状態にロックアップクラッチ32の作動状態がなるように油圧制御回路54に設けられたリニアソレノイドバルブSLUが駆動(作動)させられる。
ロックアップクラッチ係合制御実行部80aは、ロックアップクラッチ制御部80でロックアップオフ領域からロックアップオン領域に切り替えられると、ロックアップクラッチ32を係合させるロックアップクラッチ係合制御を実行する。
ロックアップクラッチ係合制御開始判定部80bは、ロックアップクラッチ係合制御が開始されたか否かを判定する。ロックアップクラッチ係合制御開始判定部80bでは、例えば、ロックアップクラッチ制御部80においてロックアップオフ領域からロックアップオン領域に切り替えられると、ロックアップクラッチ係合制御が開始されたと判定する。
初期油圧急速供給制御実行部80cは、ロックアップクラッチ係合制御開始判定部80bでロックアップクラッチ係合制御が開始されたと判定されると、ロックアップクラッチ32のパッククリアランスを速やかに詰めるために、リニアソレノイドバルブSLUへ出力される油圧制御指令信号Sluの指令値すなわちロックアップ係合圧PSLUの指令値をクイックフィル圧設定値Pcまで一時的に上昇させてトルクコンバータ20の制御油室20dへ作動油を急速供給する初期油圧急速供給制御(クイックフィル)を実行する。なお、上記パッククリアランスは、例えばロックアップクラッチ32に設けられた押圧部材48がリターンスプリング52により戻された位置から第1摩擦板38に当接するまでの隙間である。
記憶部82は、ロックアップクラッチ係合制御開始判定部80bでロックアップクラッチ係合制御が開始されたと判定されると、ロックアップクラッチ係合制御の開始時における作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧PTCout(kPa)と、トルクコンバータ20内の作動油の油温T(℃)とを記憶する。なお、記憶部82において、例えば、作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧PTCoutは油圧センサ76により検出され、トルクコンバータ20内の作動油の油温T(℃)は油温センサ74により測定される。
指令値設定部80dは、記憶部82でロックアップクラッチ係合制御の開始時における作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧PTCout(kPa)と作動油の油温T(℃)とが記憶されると、その記憶されたトルクコンバータアウト圧PTCoutと油温T(℃)とを用いて例えば図6および図7に示すマップによってクイックフィル圧設定値Pc(kPa)を設定する。例えば、指令値設定部80dでは、記憶部82でロックアップクラッチ係合制御の開始時の作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧PTCout(kPa)が記憶されると、図6のマップに示すように、記憶部82で記憶されたトルクコンバータアウト圧PTCoutが高いほどクイックフィル圧設定値Pcが低くなるように設定され、また、記憶部82で記憶されたトルクコンバータアウト圧PTCoutが低いほどクイックフィル圧設定値Pcが高くなるように設定される。また、指令値設定部80dでは、記憶部82でロックアップクラッチ係合制御の開始時の油温T(℃)が記憶されると、図7のマップに示すように、記憶部82で記憶された油温Tが高いほどクイックフィル圧設定値Pcが低くなるように設定され、また、記憶部82で記憶された油温Tが低いほどクイックフィル圧設定値Pcが高くなるように設定される。
初期油圧急速供給制御実行部80cは、指令値設定部80dで、記憶部82で記憶された第2ライン油圧Psec(kPa)および油温T(℃)によってクイックフィル圧設定値Pc(kPa)が設定されると、その設定されたクイックフィル圧設定値Pcまで油圧制御指令信号Sluの指令値すなわちロックアップ係合圧PSLUの指令値を一時的に上昇させる。
図8は、電子制御装置56において、ロックアップ制御実行中にロックアップクラッチを係合させるロックアップクラッチ係合制御が実行された時における初期油圧急速供給制御(クイックフィル)の制御作動の要部を説明するフローチャートである。なお、図8のフローチャートは、ロックアップ制御実行中の流れを示すフローチャートである。
先ず、ロックアップクラッチ係合制御開始判定部80bの機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、ロックアップクラッチ32を係合させるロックアップクラッチ係合制御が開始されたか否かが判定される。このS1の判定が否定される場合には、再度S1が実行されるが、そのS1の判定が肯定される場合には、記憶部82の機能に対応するS2が実行される。
上記S2では、ロックアップクラッチ係合制御の開始時における作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧PTCout(kPa)とトルクコンバータ20内の作動油の油温T(℃)とが記憶される。次に、初期油圧急速供給制御実行部80cおよび指令値設定部80dの機能に対応するS3が実行される。上記S3では、上記S2で記憶されたトルクコンバータアウト圧PTCout(kPa)と油温T(℃)とによってクイックフィル圧設定値Pc(kPa)が設定され、その設定されたクイックフィル圧設定値Pcまで油圧制御指令信号Sluの指令値すなわちロックアップ係合圧PSLUの指令値が一時的に上昇させられる。
図8のフローチャートによれば、ロックアップクラッチ係合制御において、例えばエンジン回転数Ne、タービン回転数Nt、ATF油温Toil等によってロックアップクラッチ32の非係合時(ロックアップオフの時)に制御油室20dに作用される作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧PTCout(kPa)が比較的高い場合には、図6のマップに示すように、上記S3で設定されるクイックフィル圧設置値Pc(kPa)が比較的低く設定されるので、例えばロックアップクラッチ32の非係合時の制御油室20dに作用するトルクコンバータアウト圧PTCoutを考慮せずに初期油圧急速供給制御のクイックフィル圧設定値Pcが設定される従来のものに比べて、初期油圧急速供給制御実行時において制御油室20dのロックアップオン圧PLupONが目標値からオーバーシュートすることが好適に抑制される。また、例えばエンジン回転数Ne、タービン回転数Nt、ATF油温Toil等によってロックアップクラッチ32の非係合時に制御油室20dに作用される作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧PTCout(kPa)が比較的低い場合には、図6のマップに示すように、上記S3で設定されるクイックフィル圧設置値Pc(kPa)が比較的高く設定されるので、例えばロックアップクラッチ32の非係合時の制御油室20dに作用するトルクコンバータアウト圧PTCoutを考慮せずに初期油圧急速供給制御のクイックフィル圧設定値Pcが設定される従来のものに比べて、初期油圧急速供給制御実行時において制御油室20dのロックアップオン圧PLupONが目標値からアンダーシュートすることが好適に抑制される。
上述のように、本実施例のトルクコンバータ20の電子制御装置56によれば、ロックアップクラッチ32を係合させるロックアップクラッチ係合制御において、前記ロックアップクラッチ係合制御の開始時の作動油流出ポート20bから出力されるトルクコンバータアウト圧PTCoutが高いほど初期油圧急速供給制御によって制御油室20dに供給されるロックアップ係合圧PSLUの指令値を低くさせ、前記ロックアップクラッチ係合制御の開始時の作動油流出ポート20bから出力されるトルクコンバータアウト圧PTCoutが低いほど初期油圧急速供給制御によって制御油室20dに供給されるロックアップ係合圧PSLUの指令値を高くさせる。このため、制御油室20dへ供給されたトルクコンバータアウト圧PTCoutの変動に応じてロックアップ係合圧PSLUの指令値が適切な指令値となるので、前記ロックアップクラッチ係合制御が実行される場合の燃費および走行性が従来に比較して向上させられる。
また、本実施例のトルクコンバータ20の電子制御装置56によれば、前記ロックアップクラッチ係合制御では、ロックアップクラッチ32のパッククリアランスを詰めるためにロックアップ係合圧PSLUの指令値をクイックフィル圧設定値Pcまで一時的に上昇させて制御油室20dに作動油を急速供給する初期油圧急速供給制御が実行されており、前記初期油圧急速供給制御おいて、前記ロックアップクラッチ係合制御の開始時の作動油流出ポート20bから出力されるトルクコンバータアウト圧PTCoutが高いほどクイックフィル圧設定値Pcを低くさせ、前記ロックアップクラッチ係合制御の開始時の作動油流出ポート20bから出力されるトルクコンバータアウト圧PTCoutが低いほどクイックフィル圧設定値Pcを高くさせられる。このため、前記初期油圧急速供給制御において、制御油室20dへ供給されるトルクコンバータアウト圧PTCoutの変動に応じてクイックフィル圧設定値Pcが適切な指令値となる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例の電子制御装置56では、ロックアップクラッチ係合制御の初期油圧急速供給制御において、ロックアップクラッチ係合制御の開始時の作動油流出ポート20bから出力されるトルクコンバータアウト圧PTCoutが高いほどクイックフィル圧設定値Pcを低く設定させ、ロックアップクラッチ係合制御の開始時の作動油流出ポート20bから出力されるトルクコンバータアウト圧PTCoutが低いほどクイックフィル圧設定値Pcを高く設定させていたが、本発明は初期油圧急速制御のクイックフィル圧設定値Pcだけに適用されるものではない。例えば、ロックアップクラッチ係合制御においてロックアップ係合圧PSLUを略一定に待機させる定圧待機制御の時においても、ロックアップクラッチ係合制御の開始時の作動油流出ポート20bから出力されるトルクコンバータアウト圧PTCoutが高いほど制御油室20dに供給されるロックアップ係合圧PSLUの指令値を低く設定させ、ロックアップクラッチ係合制御の開始時の作動油流出ポート20bから出力されるトルクコンバータアウト圧PTCoutが低いほど制御油室20dに供給されるロックアップ係合圧PSLUの指令値を高く設定させても良い。
また、前述の実施例の電子制御装置56の記憶部82では、ロックアップクラッチ係合制御の開始時において作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧PTCout(kPa)を油圧センサ76によって直接測定していたが、直接測定する方法以外で作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧PTCout(kPa)を推定しても良い。例えば、オイルポンプ33から出力される第2ライン油圧Psec(kPa)と、その第2ライン油圧Psecがトルクコンバータ20を通ることによって変動するエンジン回転数Ne、タービン回転数Nt、ATF油温Toil等とからなる予め実験的に算出された実験式を用いることによって、作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧PTCout(kPa)を推定しても良い。
また、前述の実施例では、車両10にはトルクコンバータ20が用いられていたが、トルクコンバータ20に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の車両用流体式伝動装置が用いられても良い。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。