以下、本発明に係るSOI複合基板の製造方法の実施態様について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施態様では、シリコン薄膜を、シリコンとは異種材料である絶縁性支持基板上に備える複合基板の外周部を囲むように配置されたガイドリングによって前記複合基板の外周部を保持しながら、前記支持基板側の表面を押圧して、前記シリコン薄膜側の表面を研磨布に押し付けて前記複合基板のうちシリコン薄膜側の表面を研磨する工程(研磨工程)を少なくとも含む。また、本実施態様では、研磨工程の前に、研磨対象となる複合基板を提供する工程(複合基板作製工程)を更に含むことが好ましい。必要に応じて、ガイドリングと被研磨基板との厚さ調整工程や、複合基板吸着工程(複合基板搬送工程)等のその他の工程を含んでいてもよい。
[複合基板作製工程]
研磨の対象となる複合基板は、ドナー基板と、ドナー基板とは異種材料である支持基板とから形成される。ドナー基板としては、単結晶シリコン基板等が挙げられ、例えば、チョクラルスキー法により育成された一般に市販されているものであり、その導電型や比抵抗率等の電気特性値や結晶方位や結晶径は、SOI複合基板が供されるデバイスの設計値やプロセス又は製造されるデバイスの表示面積等に依存して適宜選択されてよい。また、ドナー基板として、シリコン基板の他、表面に酸化膜を形成したシリコン基板を用いてもよい。酸化膜の厚さは、好ましくは50〜500nmである。これはあまり薄いと、酸化膜厚の制御が難しく、またあまり厚いと時間がかかりすぎるためである。支持基板としては、絶縁性の支持基板が使用され、好ましくは、石英ガラス、サファイア、炭化ケイ素、ホウ珪酸ガラス又は結晶化ガラスのいずれかの材料からなるものを挙げることができる。なお、支持基板は、使用する前に予めRCA洗浄等の洗浄をしておくことが好ましい。基板の直径は使用される製造装置によって変わるが、好ましくは6〜12インチから選択され、ドナー基板と支持基板の直径を同じにして通常貼り合わせが行われる。
好ましくは、まず、シリコン薄膜をシリコンとは異種材料である支持基板上に備える複合基板を提供する。すなわち、シリコン基板の表面から水素イオンを注入し、シリコン基板のイオン注入された表面と、支持基板の表面とを貼り合わせ、熱処理を施した後、イオン注入層に沿ってシリコン薄膜を剥離して支持基板上に転写し、複合基板を得る。具体的には、支持基板と、ドナー基板としてシリコン基板とを用意する。次に、シリコン基板の表面から水素イオンを注入して内部に水素イオン注入層を形成させる。シリコン基板の表面から水素イオンを注入して水素イオン注入層を形成する際には、例えば、基板の温度が所定の温度以上に上がらないように基板を冷却しながら、その表面から所望の深さに水素イオン注入できるような注入エネルギーで、所定の線量の水素イオンを注入する。このときの条件として、例えば注入エネルギーは50〜100keV、注入線量は2×1016〜1×1017/cm2とすることができる。水素イオン注入されたシリコン基板の表面から水素イオン注入層までの深さは、支持基板上に設ける薄膜の所望の厚さに依存するが、好ましくは300〜500nm、さらに好ましくは400nm程度である。
その後、シリコン基板のイオン注入された表面と、支持基板の表面とを貼り合わせて、貼り合わせ基板を得る。ここで、シリコン基板と支持基板とを貼り合わせる前に、シリコン基板の表面と支持基板の表面のうちいずれか一方又は両方の表面に表面活性化処理を施してもよい。この表面活性化処理を施すことにより、後の機械的剥離等に十分耐え得るレベルの接合強度を得ることができる。表面活性化処理としては、プラズマ、UV、オゾン等の処理が挙げられる。
次に、貼り合わせ基板に、例えば温度が200〜400℃の熱処理を施す。その熱処理時間は、熱処理温度と材料に応じて決められ、好ましくは1〜24時間の範囲から選択される。このように、貼り合わせ基板を熱処理することによって、ドナー基板と支持基板の貼り合わせの強度を高めることができ、次の剥離時の力に耐えることができる。逆にこの熱処理が不十分であると、剥離時に薄膜が転写されずに貼り合わせ界面で基板が分離したり、部分的に転写されることによって力が均等にかからずに基板の破損を招いたりする場合がある。
次に、熱処理後の貼り合わせ基板におけるシリコン基板の一部からなるシリコン薄膜を、水素イオン注入層に沿って剥離して支持基板上に転写し、複合基板を得る。剥離を行う方法としては、水素イオン注入層に衝撃を与えて機械的剥離を行う方法、熱処理後の貼り合わせ基板を加熱して熱的剥離を行う方法等が挙げられる。熱的剥離を行う場合、上記熱処理後の貼り合わせ基板を加熱すると同時に、支持基板側から可視光等を照射してもよい。照射のための光源としては、半導体製造で使われるハロゲンランプによるランプ加熱やキセノンランプによるフラッシュランプ加熱等を用いることができる。熱的剥離によって剥離転写を行う場合、剥離転写後の複合基板に、例えば温度が300〜500℃のさらなる熱処理を施してもよい。このように、さらなる熱処理を施すことによって、ドナー基板と支持基板の貼り合わせの強度をさらに高めることができる。
次に、剥離転写後の複合基板のうち支持基板側の表面を、アルカリ溶液を用いてアルカリ洗浄してもよい。アルカリ洗浄によってダメージ層を取り除くことができるため、効果的な洗浄を行うことができる。
[研磨工程]
次に、洗浄後の複合基板のうちシリコン薄膜側の表面を研磨する(研磨工程)。具体的には、複合基板の外周部を覆うように配置されたガイドリングによって複合基板の外周部を保持しながら、支持基板側の表面を押圧して、シリコン薄膜側の表面を研磨布に押し付けることによって研磨が行われる。この際、複合基板(被研磨基板)の研磨面(シリコン薄膜側の面)は下向きに、すなわち研磨時に研磨布に接するように配置される。
(1)従来の研磨工程
ここで、従来の研磨工程における、研磨中の研磨布、ガイドリング、及び複合基板(被研磨基板)の関係を表した模式図を図18に示す。研磨布102は通常2層以上の構造となっており、図18では、表層102aの下に柔軟性のある内層102bを示す。ガイドリング113は研磨ヘッドに固定された状態で研磨布102に押し当てられるが、このとき研磨布102に対するガイドリング113の進行方向Eの外周部で研磨布102に変形が生じる。こうして変形した研磨布102が、不安定な形状のままガイドリング113の内周すなわち被研磨基板101の外周付近に到達した際に、被研磨基板101の基板外周部に対する研磨布102の接触圧は、基板中央部における接触圧とは異なる状態となる。この接触圧の差異により、基板外周部と基板中央部とのシリコン薄膜の研磨量に差が生じる。この研磨布の変形は、研磨布の使用時間、雰囲気温度、研磨ヘッドの押圧力等によって異なるため、研磨後の膜厚変動幅が安定しない原因となっている。
(2)本実施態様における研磨工程
上記のような従来の研磨工程における問題点に対し、本発明者らは鋭意検討を行い、ガイドリングの外周部において変形した研磨布の形状が十分安定してから、安定した研磨布を被研磨基板に到達させることが有効であることを突き止めた。すなわち、ガイドリングの外周部と基板の外周部とを従来よりも離して配置することがよいことを見出した。研磨後の複合基板のシリコン薄膜の基板外周部と基板中央部との膜厚差と、ガイドリング外周部から基板外周部までの距離の関係を、例えば図1に示す。図1に例示するように、ガイドリング外周部で変形した研磨布の形状が安定するためには、ガイドリング外周部から45mm以上離れた位置に基板外周部を配置すればよい。したがって、ガイドリングの外径と内径の差の半分である幅は、ガイドリングと被研磨基板との隙間(例えば1mm)を考慮して、34mm以上、好ましくは39mm以上、より好ましくは44mm以上とすればよい。好ましい上限値は特に限定されないが、あまり広くすると装置の大型化や消耗品の費用の増大等コスト面での問題が発生するため、90mm程度である。これによって、研磨後の基板内の膜厚変動幅を低減することができる。
ガイドリングの幅を広くすることで、より具体的には、次の2つの効果を得ることができる。第1の効果は、ガイドリングの下方向への押し付けによって、ガイドリングの外周部において変形した研磨布の状態が十分安定したところで基板を研磨できることである。上記したように、研磨時には、ガイドリングが下方向に押し当てられることで研磨布が沈み込み、かつ研磨ヘッドの回転により横方向にも摩擦による力がかかり、ガイドリングの外周部に当たり始めの研磨布の形状は安定していない。従来のようにガイドリングの幅が狭い場合は研磨布の変形が十分安定しないままに基板の領域にかかることとなり、そのために基板外周部の研磨は安定せず、基板外周部の膜厚が安定しない原因となっていた。これに対し、ガイドリングの幅を広くすることによれば、研磨布の変形は幅広のガイドリングを通過している間に修正され、研磨布の変形部分が基板の外周部に到達したときには十分に研磨布が変化して安定した状態になるため、基板外周部においても基板中央部(言い換えると、研磨領域の中央部)と同じ研磨状態にすることが出来る。第2の効果は、研磨ヘッド内の加圧圧力が均一な状態で基板全域の研磨が行えることである。図2に示される研磨ヘッド17内にあるバッキングプレート13の外周の空隙15は、基板の背面を加圧する空気の出口となっており、この部分の圧力は内側に比べて低くなり、基板を押付ける力(研磨圧力)が弱くなり、研磨しにくい状態となる。図2の様にガイドリング16の幅を広くして基板11に空隙15がかからないようにすることで、基板に均一な圧力を掛けることが出来、研磨後のシリコン薄膜の膜厚均一性が向上する。
上記のように、研磨時に使用するガイドリングの幅を広くすることにより研磨後のシリコン薄膜の膜厚変動幅を従来よりも低減することが出来るが、ここで本発明者らは、研磨後のシリコン薄膜の膜厚均一性をより一層向上させる観点から、以下のように更なる鋭意検討を行った。
例えば図2に示されるように、幅を広くしたガイドリング16は通常、被研磨基板11と同程度(例えば0.5〜1.5mm程度)に薄く構成されているため、このような薄く幅の広い樹脂のリングに力がかかった状態を考えると、研磨中の研磨布19、ガイドリング16、被研磨基板11の状態としては、例えば、図3の様な状態が予想される。なお研磨布19は通常2層以上の構造を有するもので、ここでは一例として表層19aの下に柔軟性のある内層19bを有する構造を示している。この状態は研磨布19に押されてガイドリング16の内周部が研磨ヘッド17側に押し戻されて撓んでいる、すなわちガイドリング16が変形している状態であり、これにより被研磨基板11の外周部に接する部分の研磨布は、被研磨基板の中央部に接する研磨布とは異なる状態となっている。被研磨基板11にはエア圧により全面に同じ圧力が掛かっているはずであるが、ガイドリング16の端は別の機構により加圧されているため、このような状態が起こり得る。研磨時にガイドリング16が平坦な形状を維持できず、このように撓んだ状態となると、研磨布19は、撓んだガイドリング16に沿って、不安定な形状のまま被研磨基板11の外周付近に接触することとなり、これにより基板外周部の研磨が安定せず、研磨後のシリコン薄膜の膜厚均一性が得られなくなる場合が考えられる。これを防止するためには、ガイドリングを変形しない程度にまで厚くすることも考えられるが、そうすると研磨装置における全ての構成部品の厚さを厚くする必要があり、構成部品が剛体と化し基板形状に合わせた所望の研磨が行えなくなることが懸念される。
そこで、本発明者らは更なる鋭意検討を行い、例えば図4及び図5に示すように、ガイドリング16の研磨布と対向する表面に、研磨の際に研磨布と接しない領域(たわみ吸収部16c)を部分的に設け、この領域により研磨布と連続して接触可能なガイドリングの径方向の長さを2以上に分断することで、ガイドリングの幅を広くした場合であっても、ガイドリングの撓みの影響をこの領域で断ち切り、基板外周部の研磨状態を安定化できることを見出した。研磨布により生じるガイドリングの撓みをたわみ吸収部16cの領域で吸収することで、少なくともガイドリングの内周付近は平坦な形状を維持することができる。例えば図6に示すように、研磨時に研磨布に押し戻されることによりガイドリングが撓む状態となっても、たわみ吸収部16cよりも径方向外側の部分16aが撓み変形するだけで、基板外周部に沿った、たわみ吸収部16cよりも径方向内側の部分16bが研磨布の状態を安定化させて、基板外周部の研磨状態を安定化させることができる。
すなわち、本実施態様の研磨工程において使用するガイドリングは、ガイドリング全体の径方向の幅が34mm以上、好ましくは39mm以上、より好ましくは44mm以上と、従来よりも幅広く形成されてなり、かつ、ガイドリングの研磨布と対向する表面に、研磨布により生じる撓みを吸収する少なくとも1つのたわみ吸収部を備えるものである。たわみ吸収部は、研磨時に研磨布と連続して接触可能なガイドリングの径方向の長さが、ガイドリング全体の径方向の幅未満(34mm未満)となるように、ガイドリングの表面上に設けられる。
たわみ吸収部は、研磨布により生じるガイドリングの撓みをたわみ吸収部を設けない場合と比べて低減できるものであれば、その形態に特に制限はないが、例えば、ガイドリングの研磨布と対向する表面に設けられた溝(ガイドリングの厚さ方向に深さを有するが、貫通はしていない)や、空隙(ガイドリングの厚さ方向に貫通している)などの形態をとり得る。ガイドリングの撓みをより低減する観点からは、好ましくは、たわみ吸収部はガイドリングの厚さ方向に貫通して形成される空隙である。ここで「厚さ方向」とは、ガイドリングの径方向の幅に対して垂直な厚さ方向、すなわち、被研磨基板における研磨面を下向きに配置して研磨を行う場合には、被研磨基板の外周を囲うように配置されるガイドリングにおける上下の方向を指す。
1つの形態として、図7(a)に示すように、たわみ吸収部はガイドリングの厚さ方向に深さを有する少なくとも1つの溝16cとして設けられる。溝は好ましくはガイドリングと同心円状に形成される。溝はガイドリングの研磨布と対向する表面に少なくとも1本形成されていればよく、2本、3本、又はそれ以上の本数が形成されていてもよい。溝が複数数形成される場合は、各溝は互いに同心円状に配置されることが好ましい。溝の本数は、好ましくは1本である。溝の断面形状に特に制限はなく、研磨布によるガイドリングの撓みを低減できるよう、適宜設定されればよい。例えば、ガイドリングの径方向における溝の断面が、角型(溝の底部が平面)、半円型、U字型、V型等となるような形状をとり得る。
例えば図4に示すように、溝16cが1本の場合、ガイドリングの研磨布と対向する表面は、溝16cによって、溝16cよりも径方向外側(外周側)の環状の外側領域16aと、前記溝よりも径方向内側(内周側)の環状の内側領域16bとに二分される。すなわち、外側領域は、ガイドリングの研磨布と対向する表面において、ガイドリングの外周から溝の外周までを含む環状の領域であり、内側領域は、ガイドリングの研磨布と対向する表面において、溝の内周からガイドリングの内周までを含む環状の領域である。ここで、研磨布による撓みの影響をガイドリングの外側領域のみにとどめ、内側領域には研磨布による撓みの影響を及ぼさないようにするため、ガイドリング全体の外径と溝の外径との差の半分で表される外側領域16aの径方向の長さは、溝の内径とガイドリング全体の内径との差の半分で表される内側領域16bの径方向の長さよりも長いことが好ましい。すなわち、外側領域の幅は内側領域の幅よりも広いことが好ましい。外側領域の幅が内側領域の幅よりも狭い状態では、研磨布によるガイドリングの撓みの影響が内側領域にまで及んでしまう場合が考えられ、撓んだ内側領域に沿った不安定な形状のまま研磨布が被研磨基板の外周付近に接触して、研磨後のシリコン薄膜の所望の膜厚均一性が得られなくなる場合が考えられるためである。
具体的には、ガイドリングの外径と溝の外径との差の半分で表される外側領域の径方向の長さ(外側領域の幅)は、22mm以上が好ましく、24mm以上がより好ましく、27mm以上が更に好ましく、上限は60mm程度である。また、溝の内径とガイドリングの内径との差の半分で表される内側領域の径方向の長さ(内側領域の幅)は、10mm以上が好ましく、13mm以上がより好ましく、15mm以上が更に好ましく、上限は30mm程度である。内側領域の幅は、撓んだ外側領域に沿った不安定な形状の研磨布を、基板外周部に接触するまでに平坦な形状に安定化させることができる程度に適宜設定されることが好ましい。
ガイドリングに形成される溝の幅(溝の外径と内径の差の半分)は、0.3〜5.0mmが好ましく、0.5〜3.0mmがより好ましく、1.0〜2.5mmが更に好ましい。溝の幅が狭すぎると、研磨時のガイドリングの変形等により外側領域と内側領域とが接触して、異物が発生してしまう可能性が考えられる。異物は複合基板の研磨面にダメージを与え欠陥の原因となり得ることから、異物の発生は出来るだけ抑えることが望ましく、このような観点から、溝の幅は0.3mm以上であることが好ましい。一方、溝の幅が広すぎると、外側領域と内側領域との間隔が大きくなるため、研磨布が溝部分を通過する間に更に研磨布の変形が生じ、内側領域で研磨布の状態を安定化しきれず、被研磨基板の外周付近に接する研磨布の状態が不安定となってしまう可能性が考えられる。よって、被研磨基板の外周付近に接する研磨布の状態をより安定化させる観点からは、溝の幅は5.0mm以下であることが好ましい。
図7(a)に示す形態において、ガイドリングの厚さ方向における溝の深さ(研磨布と対向する側の表面から反対側の表面に向けた深さ)は、ガイドリングの厚さ(図7(a)中の「T1」)に対して、溝の深さ(図7(a)中の「D」)が30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。溝の深さが浅すぎる場合は、ガイドリングの撓みを吸収しきれず、研磨布の状態を安定化する効果が不十分となる可能性が考えられる。よって、研磨布によるガイドリングの撓みの影響を溝の領域において十分に低減する観点から、溝の深さはガイドリングの厚さの30%以上であることが好ましい。
また、図7(a)に示す形態において、外側領域と内側領域との連結部分におけるガイドリングの厚さ(溝を有する部分のガイドリングの厚さ、図7(a)中の「T2」)は、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることが好ましい。溝を有する部分のガイドリングの厚さを薄く設計しすぎると、製造が困難であり、また部分的に貫通する部分を生じてしまう可能性があり、そのような部分からガイドリングの材料が剥がれ落ちたり異物を発生する等して、安定した研磨が困難となることが考えられる。よって、安定した製造及び研磨の観点から、溝を有する部分のガイドリングの厚さは0.1mm以上であることが好ましい。
別の1つの形態として、図7(b)に示すように、たわみ吸収部はガイドリングの厚さ方向に貫通した少なくとも1つの空隙16cとして設けられる。空隙は好ましくはガイドリングと同心円状に形成される。この場合、ガイドリングは空隙16cにより隔てられた中心が同じで径の長さが異なる少なくとも2つのサブリングから構成される。空隙により隔てられるサブリング数は2つ以上であればよく、3つ、4つ、又はそれ以上であってもよい。この場合、所望のサブリング数となるように形成する空隙の数を適宜設定することができる。サブリング数は、好ましくは2つである。
好ましくは、ガイドリングは、空隙16cにより2つのサブリング、具体的には、径方向外側(外周側)のサブリングと径方向内側(内周側)のサブリングとに二分される。以下、径方向外側のサブリングを「外側リング」、径方向内側のサブリングを「内側リング」と称する。内側リングは、ガイドリング全体の内周部を含む環状のリングであり、被研磨基板の外周部を囲むように配置される。外側リングは、ガイドリング全体における外周部を含む環状のリングであり、内側リングの外周部を囲むように空隙を介して配置される。ガイドリングを、外側リングと内側リングとの二重のリングで構成することにより、研磨布によるガイドリングの撓みの影響を外側リングのみにとどめ、内側リングによって研磨布の状態を安定化させて、基板外周部の研磨状態を安定化することができる。
使用する外側リングの外径、すなわちガイドリング全体の外径は、34mm以上であり、好ましくは39mm以上、より好ましくは44mm以上である。外側リングの外径の上限は90mm程度である。外側リングの幅(外側リングの外径と内径の差の半分)は、22mm以上が好ましく、24mm以上がより好ましく、27mm以上が更に好ましく、上限は60mm程度である。内側リングの幅(内側リングの外径と内径の差の半分)は、10mm以上が好ましく、13mm以上がより好ましく、15mm以上が更に好ましく、上限は30mm程度である。上記のように、外側リングの幅は、内側リングの幅よりも広く設定することが好ましい。研磨布による撓みの影響を外側リングのみにとどめ、内側リングには研磨布による撓みの影響を極力及ぼさないようにするためである。一方で、外側リングの幅が内側リングの幅よりも狭い状態では、研磨布によるガイドリングの撓みの影響が内側リングにまで及んでしまう場合が考えられ、撓んだ内側リングに沿った不安定な形状のまま研磨布が被研磨基板の外周付近に接触して、研磨後のシリコン薄膜の所望の膜厚均一性が得られなくなる場合が考えられる。
外側リングと内側リングとの間の空隙の幅は、0.3〜5.0mmが好ましく、0.5〜3.0mmがより好ましく、1.0〜2.5mmが更に好ましい。外側リングと内側リングとの間の空隙の幅が狭すぎると、研磨時のガイドリングの変形等により外側領域と内側領域とが接触して、異物が発生してしまう可能性が考えられ、広すぎると、外側リングと内側リングとの間で更に研磨布の変形が生じ、これにより被研磨基板の外周付近における研磨が不安定となる場合が考えられるためである。
1つの空隙により二分された外側リング及び内側リングを有するガイドリングの一形態を図7(b)に示す。図7(b)に示すガイドリング16は、外側リング16aと内側リング16bの二重のリング構造として構成されている。外側リング16aは研磨ヘッド17にメンブレンフィルム12を介して固定されている。外側リング16aを研磨ヘッド17に固定する方法に特に制限はないが、例えば、外側リング16aとメンブレンフィルム12、及び、研磨ヘッド17とメンブレンフィルム12を、各々接着剤及び/又は両面粘着シート18(18a及び18b)を介して接着させればよい。また、図7(b)において、内側リング16bは、メンブレンフィルム12に直接固定されている。内側リング16bをメンブレンフィルム12に固定する方法にも特に制限はないが、例えば、内側リング16bとメンブレンフィルム12とを接着剤及び/又は両面粘着シート18bを用いて接着することができる。図7(b)の形態では、外側リング16aと内側リング16bとは直接連結されてはいないが、メンブレンフィルム12を介して間接的に連結されており、そのため、研磨ヘッドを回転させながら被研磨基板の研磨を行う際にも、外側リングと内側リングとの位置関係は互いにずれることなく研磨ヘッドの回転に合わせて回転することが可能である。この際、外側リングと内側リングとの間の空隙の幅を上記のように適切に設定することで、後述するような連結部材を使用せずとも、外側リングと内側リングとの研磨時の接触を十分に防止することができる。
また、図7(c)〜(d)、及び、図8(a)〜(b)に示すように、外側リング16aと内側リング16bとは、連結部材21を用いてガイドリングの径方向に部分的に連結されていてもよい。この場合、外側リング16aと内側リング16bとの連結に使用する連結部材21としては、実質的に伸縮性を有さない部材を用いることが好ましい。たわみ吸収部がガイドリングの厚さ方向に貫通した空隙として設けられる場合には、伸縮性を有さない部材により外側リングと内側リングとを連結させることで、研磨時にも外側リングと内側リングとの位置関係が互いにずれることなく、所定の空隙の幅を保ち、外側リングと内側リングとが接触し破損することを防ぐことができるため、好ましい。このような連結部材に使用される材質としては、特に制限はないが、発塵性のない樹脂を使用することが好ましく、例えばポリプロピレン(PP)樹脂や、ガイドリングの材質として使用される樹脂(例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、ガラスエポキシ樹脂等)が挙げられる。連結部材の形状に特に制限はなく、例えば、短冊状、紐状、糸状、棒状、円柱状、プレート状、リング状等に形成した連結部材を使用することができる。
図7(c)及び図8(a)に示すように、例えば連結部材は、外側リングの内周面と内側リングの外周面とを径方向に部分的に繋ぐように、空隙を介して所望の位置に配置され得るが、その際、あまりに下方(研磨布側に近い位置)に配置すると、研磨時に連結部材が研磨布に接触しまうこと等により、空隙の部分で研磨布の状態を安定化させる所望の効果が得られなくなる場合が考えられる。そのため、連結部材は、ガイドリングの下面(研磨布と対向する面)から上方向(ガイドリングの厚さ方向)に、ある程度離して配置することが好ましい。具体的には、ガイドリングの下面から連結部材までのガイドリングの厚さ方向における距離が、ガイドリングの厚さに対して30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。なお、図8(a)はメンブレンフィルム側から見たガイドリング16及び連結部材21の位置関係を示した図であり、基板11、メンブレンフィルム12、研磨ヘッド17、接着剤及び/又は両面粘着シート18等は省略して示した。
また別の形態としては、図7(d)及び図8(b)に示すように、連結部材は、外側リング及び内側リングのメンブレンフィルムと接する側の面を部分的に繋ぐように、空隙を介して所望の位置に配置され得る。例えば、外側リング及び内側リングのメンブレンフィルムと接する側の面に、複数の短冊状又は糸状の連結部材を、外側リング及び内側リングにまたがるように放射状に(例えば16箇所)、等間隔に接着し、更に外側リング及び内側リングの連結部材が接着した面をメンブレンフィルムと接着させることで、図7(d)及び図8(b)に示すような形態で外側リング及び内側リングを連結させることができる。或いは、メンブレンフィルム上に予め連結部材を放射状に、等間隔に配置して接着させ、更にその上から外側リング及び内側リングを載せて接着させることにより、外側リング及び内側リングを連結させてもよい。連結部材21と、ガイドリング16及びメンブレンフィルム12との接着は例えば接着剤18bを介して行われる。図7(d)及び図8(b)に示す形態で使用する連結部材の各々は、その厚さが薄いことが好ましく、例えば厚さ0.1〜0.3mm程度のポリプロピレンシートを使用することができる。連結部材の厚さが厚い場合には、連結部材が存在する部分と存在しない部分とで段差が生じることを避けるため、例えば、連結部材が存在しない部分に接着剤層やスペーサーを設けること等でガイドリングとメンブレンフィルムとの間の段差を補填することができる。また、図7(d)及び図8(b)に示す形態で使用する連結部材の各々は、その幅(複数の連結部材をガイドリングに放射状に配置した際の、各々の連結部材のガイドリング周方向における幅)が細いことが好ましく、例えば幅が0.5〜2mm程度のポリプロピレンシートを使用することができる。連結部材の幅が広すぎると、連結部材の剛性の影響によりたわみ吸収の効果が小さくなる場合が考えられるためである。なお、図8(b)はメンブレンフィルム側から見たガイドリング16及び連結部材21の位置関係を示した図であり、基板11、メンブレンフィルム12、研磨ヘッド17、接着剤及び/又は両面粘着シート18等は省略して示した。
連結部材により外側リングと内側リングとを連結させる場合に、その連結数に特に制限はなく、研磨ヘッドを回転させながら被研磨基板の研磨を行う際に、外側リングと内側リングとの位置関係が互いにずれることなく研磨ヘッドの回転に合わせて回転することが可能となるように連結されていればよい。好ましくは、放射状に8〜48箇所で連結される。外側リングと内側リングと各連結部分とは、全てに同材料を用い一体化した構成として製造することもできるし、外側リングと内側リングと各連結部分とを各々別に準備した後に、例えば接着剤及び/又は両面粘着シートによって各部分を接着させるか、或いはボルトを用いて各部分を固定する等の手段によって製造することもできる。
ガイドリングの厚さ(ガイドリングの径方向に対して垂直な方向の厚さ)は、被研磨基板の厚さと同程度とすることが好ましい。この厚さは、ガイドリングがたわみ吸収部として(厚さ方向に貫通していない)溝を有する場合には、溝が形成された部分以外におけるガイドリング厚さであり、また、ガイドリングがたわみ吸収部として(厚さ方向に貫通した)空隙を有する場合には、空隙によって隔てられた外側リング及び内側リングの厚さである。ガイドリングの厚さが、被研磨基板の厚さよりも厚すぎるか、又は薄すぎる状態であると、ガイドリングと被研磨基板との間の段差で研磨布が平坦な状態を保てなくなり、そのため被研磨基板の外周部に接する際の研磨布の状態が被研磨基板の中央部に接する際とは異なる状態となり、基板面内において研磨量に差が生じてしまう場合があるためである。なお、ここでの同程度とは、ガイドリングの厚さと被研磨基板の厚さとの差が例えば、20μm以内であることを意味するが、この範囲には限定されず、ガイドリングの厚さは、基板面内における研磨量の差を低減できる効果が得られるような範囲内で適宜選択することができる。なお、被研磨基板をより均一に安定して押圧する等の観点から、被研磨基板とメンブレンフィルムとの間には図10に示すような補助部材24、25が設置される場合があるが、このような補助部材が使用される場合には、ガイドリングの厚さは、被研磨基板及び補助部材の合計厚さ(より詳細には、被研磨基板11、補助部材24、25、並びに、接着剤及び/又は両面粘着シート26の合計厚さ)と同程度となるように、適宜選択されることが好ましい。
一方で、例えば所定の厚さのガイドリングを使用したい場合等において、被研磨基板の厚さがガイドリングの厚さよりも薄い場合には、少なくとも研磨工程の前に、被研磨基板とメンブレンフィルムとの間に補助部材を介在させることにより、両者の厚さを調整することができる(厚さ調整工程)。具体的には、メンブレンフィルムの基板に対向する表面上、少なくとも基板保持部(研磨時に基板に接する部分)に、補助部材を接着剤及び/又は両面粘着シートを介して貼り付けることができる。このような補助部材としては、例えば、多孔質のポリウレタン樹脂等からなるバッキングパッド、PPS(ポリフェニレンサルファイド)板等が挙げられる。この場合、ガイドリングの厚さと、調整後の被研磨基板の厚さ(被研磨基板、補助部材、並びに、接着剤及び/又は両面粘着シートの合計厚さ)との差が同程度となることが好ましい。ここでも、同程度とは特に具体的な数値に制限されるものではなく、基板面内における研磨量の差を低減できる効果が得られるような範囲内で、適宜調整されればよい。補助部材は、例えば、図10(a)に示すようにバッキングパッド24を単独で使用してもよいし、図10(b)に示すようにバッキングパッド24とPPS板25とを併せて使用してもよく、ガイドリングの厚さと被研磨基板の厚さとの差に応じて使用する部材の種類、数を適宜調整すればよい。図10(a)及び(b)において、バッキングパッド24及びPPS板25は例えば両面テープ26を介してメンブレンフィルム12に固定されている。ガイドリングが、外側リングと内側リングとを含む構造である場合には、少なくとも内側リングの厚さと被研磨基板の厚さ(又は調整後の被研磨基板の厚さ)との差が同程度となることが好ましい。
ガイドリングの材質としては(ガイドリングが空隙を有する場合には外側リング及び内側リングともに)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、ガラスエポキシ樹脂等が挙げられるが、中でも曲げ強度、耐薬品性、コストを総合的に考慮して、充填材を含まない樹脂を使用することが好ましく、PPS樹脂を使用することがより好ましい。ここで本発明者らは、シリコン薄膜へのダメージを低減できるガイドリングの材質についても検討を行った。従来多く使用されているガラスエポキシ樹脂のようなガラス繊維等の充填材を用いる材質では、硬度の高い充填材が研磨中のシリコン薄膜へのダメージを与え、その結果シリコン薄膜に欠陥を生じさせることが懸念される場合があるため、主に充填材を含まない樹脂を検討した。検討項目は、100MPa以上の曲げ強度と酸、アルカリに対する耐薬品性である。通常、研磨に使用するスラリーはアルカリ性を示すため、アルカリに対する耐薬品性が重要となる。検討した樹脂の特性を表1に示す。表1から、曲げ強度、耐薬品性、コストを総合的に考慮して、PPS樹脂が最も優れることがわかる。
また、研磨工程において使用するメンブレンフィルムの材質としては、特に限定されず、一般的に使用できるものであればよい。例えば、PFAやPETからなる硬質プラスチックフィルム等が挙げられ、基板との接触面には、基板への傷防止のため、好ましくは、ポリウレタンからなる発泡シートが更に貼られている。例えば図7に示すように、メンブレンフィルム12は、研磨ヘッド17及びガイドリング16に、接着剤及び/または両面粘着シート18a、18bを介して直接固定されている。また、後述のように、被研磨基板のメンブレンフィルムへの吸着を行う場合には、メンブレンフィルム12は、少なくとも研磨時に被研磨基板に接する部分(基板保持部)において、1又は複数の貫通穴22を有することが好ましい(図9)。この貫通穴を通じメンブレンフィルムの背面の空間、すなわちメンブレンフィルムと、メンブレンフィルムの上方に配置されたバッキングプレートとの間の空間を減圧し、真空にすることで被研磨基板をメンブレンフィルムに吸着させることができる。更に好ましくは、メンブレンフィルムは、被研磨基板の支持基板側に対向する面とは反対側の表面上、かつ複合基板の外周部又は外周部より外側の位置(内側リング16b又は外側リング16a又はそれらの間の空隙に対応する位置、好ましくは外側リング16aに対応する位置)に、バッキングプレート方向に向けて突出した1又は複数の突起23を有する(図9)。なお、突起23は、バッキングプレート13の、メンブレンフィルム12に対向する表面上に設けられていても構わない。このような突起を有することによって、被研磨基板をメンブレンフィルムに吸着させる際に、メンブレンフィルムの背面の空間、すなわちメンブレンフィルムと、メンブレンフィルムの上方に配置されたバッキングプレートとの間に、減圧状態の密閉空間(減圧室)を形成することができる。
研磨工程において使用するバッキングプレートの材質は、特に限定されず、一般的に使用できるものであればよい。バッキングプレート13は、図5及び図6に示すように、その表面(表面積又は径)を被研磨基板11の支持基板側の表面(表面積又は径)よりも大きく設定することが好ましい。すなわち好ましくは、バッキングプレート13の表面が被研磨基板11の支持基板側の表面よりも大きく、バッキングプレート13がメンブレンフィルム12を介して被研磨基板11の支持基板側の表面を覆うように配置される。このような構成とすることにより、後述のように、研磨工程における基板の押圧がメンブレンフィルムとバッキングプレートとの間に形成された空気層の圧力によって行われる際に、空気が排出される部分15が被研磨基板11の外側に配置されるため、被研磨基板11の全面に対する押圧力を均一化することができるためである。
本実施態様の研磨工程において使用するその他の構成部品、例えば、研磨ヘッド、研磨布、プラテン、スラリー等については、一般的に使用されるものを適宜使用することができる。
被研磨基板の研磨を実施する際には、被研磨基板の支持基板側の表面を押圧し、反対側のシリコン薄膜側の表面を研磨布に押し付けるようにして、シリコン薄膜側の表面を研磨する。被研磨基板の支持基板側の表面の押圧は、好ましくは、メンブレンフィルムとバッキングプレートとの間に形成された空気層の圧力によって行うことができる。例えば、図5及び図6に示すように、被研磨基板の支持基板側の表面の上方に配置されたメンブレンフィルム12と、メンブレンフィルム12の支持基板側の表面とは反対側の表面の上方に配置されたバッキングプレート13との間に形成された空気層14の圧力により、被研磨基板の支持基板側の表面の押圧を行う。バッキングプレート13とメンブレンフィルム12との間に空気を供給し、その空気層の圧力をメンブレンフィルム12を介して被研磨基板11に伝達することにより、被研磨基板11への押圧力を作用させることができる。導入された空気は、バッキングプレート13とメンブレンフィルム12との間隙14を流れ、研磨ヘッド17とバッキングプレート13の外周との隙間15を通って排出される。研磨作業の終了後は、必要に応じて常法により基板を洗浄することができる。
以上のようにして、複合基板の研磨を行うことができる。研磨工程の前及び/又は研磨工程の後には、複合基板を研磨ヘッドに吸着させて複合基板を搬送する工程を有していてもよい。研磨ヘッドへの複合基板の吸着は、例えば、複合基板の支持基板側の表面の上方に配置されたメンブレンフィルムと、メンブレンフィルムの支持基板側の表面とは反対側の表面の上方に配置されたバッキングプレートとの間を真空にすることで、複合基板をメンブレンフィルムに吸着させることにより行うことができる。この場合、前記メンブレンフィルムは、複合基板の吸着を行うための1又は複数の貫通穴を有することが好ましい。具体的には、図9に示すようなメンブレンフィルム12に設けられた貫通穴22を通じ、メンブレンフィルム12の背面の空間を真空にすることで、基板11をメンブレンフィルム12に吸着保持しながら、基板11を搬送することができる。
この吸着時には、内側リングも含め、基板が若干研磨ヘッド側に引き上げられ、研磨ヘッド内の空間が密閉状態になることで吸着が維持される。このために好ましくは図9に示すように、メンブレンフィルム12の、バッキングプレートに対向する表面上には、複合基板の外周部又は外周部より外側の位置において、バッキングプレート13方向に向けて1又は複数の突起23が設けられており、基板吸着時の減圧下で、メンブレンフィルム12とバッキングプレート13との間に密閉空間が形成されるように構成されている。なお突起23は、バッキングプレート13の、メンブレンフィルム12に対向する表面上に設けられていても構わない。このような突起を設けることで、吸着のためにメンブレンフィルムの背面に形成させる減圧室を、ガイドリングを過度に変形させることにより形成させなくても良く、ガイドリングの変形を抑え、吸着も確実に行えるように出来る。これは内側リングを外側リングから独立させたために可能となった機能である。吸着は、メンブレンフィルムとバッキングプレートとの間を減圧状態とし、貫通穴を通して基板を吸引することの可能な吸引手段によって行うことができる。
以上のような工程により、SOI複合基板を製造することができる。本発明に係るSOI複合基板の製造方法によれば、ガイドリングの研磨布と対向する側の表面に、研磨時に研磨布と接しない領域を部分的に設けることにより(好ましくは、外側リングと内側リングとの二重のガイドリングを使用することにより)、全体として幅の広い(例えば、ガイドリング全体の幅が34mm以上の)ガイドリングを使用する場合であっても、基板外周部の研磨状態を安定化でき、これによりシリコン薄膜の膜厚を均一にできる。
次に、本発明に係るSOI複合基板の製造方法で用いる研磨装置について説明する。本発明で用いる研磨装置は、上面に研磨布及び該研磨布で研磨される被研磨基板を設置可能なプラテンと、周囲にプラテンに向けて突出する突出部を有する円板状の研磨ヘッドと、研磨ヘッドの内部に収納されたバッキングプレートと、研磨ヘッドの突出部に連結され、被研磨基板の外周部を囲むように配置されるガイドリングであって、径方向の幅が34mm以上であり、かつ、研磨布と対向する表面に、研磨布と連続して接触可能な径方向の長さを34mm未満に分断し、研磨布により生じるたわみを吸収する、少なくとも1つのたわみ吸収部を備えるガイドリングと、バッキングプレートの下方に、プラテンに平行で配置され、少なくとも研磨ヘッドの突出部とガイドリングとに周囲を挟まれ、被研磨基板の上面を覆うことができるメンブレンフィルムとを備えてなる。研磨時には、被研磨基板を研磨布に押し付けつつ、研磨ヘッドをプラテンに対して相対的に回転させることにより、被研磨基板を研磨することができる。研磨装置に使用するガイドリングの詳細は、SOI複合基板の製造方法について上記した通りである。
研磨装置の一例を図5に示す。研磨ヘッド17内にはバッキングプレート13が収められている。研磨ヘッド17は、バッキングプレート13を覆うように設けられている。研磨ヘッド17の先端に、被研磨基板11を配置することができ、被研磨面(シリコン薄膜側の面)を下向きに取り付ける。また、研磨ヘッド17には、被研磨基板11がヘッドの先端から飛び出さないようにリテーナーリングと呼ばれる飛び出し防止のためのガイドリング16が設けられている。このガイドリング16は、研磨布と対向する表面に、研磨の際に研磨布と接しない領域(たわみ吸収部)を部分的に有しており、図5の例では、たわみ吸収部はガイドリングの厚さ方向へ貫通した空隙16cとして形成されている。空隙16cによりガイドリング16は外側リング16aと内側リング16bとに二分されており、内側リング16bは被研磨基板11の外周部を囲うように配置されている。外側リング16aと内側リング16bとは、研磨ヘッド17を回転させながら被研磨基板11の研磨を行う際に、外側リング16aと内側リング16bとの位置関係が互いにずれることなく研磨ヘッドの回転に合わせて回転することが可能となるように連結されている。外側リングと内側リングとの連結手段は、SOI複合基板の製造方法について上記した通りであるが、図5の例では、外側リング16aと内側リング16bとがメンブレンフィルム12を介して連結されている。
被研磨基板11の裏面側(支持基板側)の上方には、メンブレンフィルム12が配置されている。メンブレンフィルム12の周囲は、研磨ヘッド17及びガイドリング16に、例えば接着剤又は両面粘着シート18を介して固定されている。このような構成であれば、交換作業が煩雑になる場合があるが、部材の構造が単純化されるため加工精度が得やすくなり、挟み込まれたメンブレンフィルムの張力が均一になる。交換作業を容易にする観点からは、メンブレンフィルム12の固定はボルト等を用いることにより行われてもよい。バッキングプレート13の表面は好ましくは被研磨基板11の支持基板側の表面よりも大きく、バッキングプレート13がメンブレンフィルム12を介して被研磨基板11の支持基板側の表面を覆うように配置される。メンブレンフィルム12と、メンブレンフィルム12の上方に配置されたバッキングプレート13との間には、空気層14が形成されている。好ましくは、研磨装置は、空気層14による圧力を発生させるためのエア供給源をさらに備え、研磨時には、この空気層14の圧力により被研磨基板11の支持基板側の表面が押圧される。この押圧力により被研磨面が、プラテン20上に配置された研磨布19へ押し付けられる。また、好ましくは、研磨装置は、メンブレンフィルム12とバッキングプレート13との間を真空にするための真空源をさらに備え、複合基板の搬送時には、図9に示すような、メンブレンフィルム12に設けられた複数の貫通穴22を通じメンブレンフィルム12の背面を真空にすることで、基板をメンブレンフィルムに吸着保持させながら搬送することができる。この場合、好ましくはメンブレンフィルム12には複合基板の外周部又は外周部より外側の位置において、バッキングプレート13方向に向けて突起23が設けられており、基板吸着時の減圧下で、メンブレンフィルム12とバッキングプレート13との間に密閉空間が形成されるように構成されている。
研磨装置における研磨条件の設定については、研磨装置やスラリーの種類、濃度、研磨布によって変わるが、プラテン回転数は15〜45rpm、ヘッド回転数は30〜90rpmの範囲から膜厚分布をみながら選択され、必要に応じてヘッドの揺動運動を組み合わせる。異常点が重ならないようにするため、プラテンの回転数とヘッドの回転数の比が割り切れないような値になるように設定される。
以下、実施例、比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
ドナー基板として表面を酸化した直径150mm、厚さ625μmの単結晶シリコン基板を準備した。この単結晶シリコン基板に対して、所定の深さへ水素イオン注入を行った。次に、支持基板として表面が平滑な直径150mm、厚さ625μmの石英基板を準備した。ドナー基板と支持基板の両方の表面をプラズマで活性化処理を施した後、処理面同士を貼り合わせて貼り合わせ基板を得た。この貼り合わせ基板に、300℃、12時間の熱処理を施して基板同士の結合力を上げた。その後、基板の両側の裏面へ引張り力を加えながら、貼り合わせ基板の貼り合わせ部の端部に薄い刃を挿入して機械的な剥離を行い、支持基板(石英基板)に単結晶シリコン薄膜を転写させた。剥離後の支持基板(石英基板)の表面を、過酸化水素水とアンモニア水からなるエッチング液(SC−1溶液)を用いて洗浄することによりダメージ層を除去し、約240nmの厚さの単結晶シリコン薄膜を有した複合基板(SOQ基板)を作製した。
外径245mm、内径186mm、幅29.5mm、厚さ1.2mmのPPS製の外側リングと、外径182mm、内径152mm、幅15mm、厚さ1.2mmのPPS製の内側リングを使用し、図5の様な断面となるガイドリングを作製した。外側リングと内側リングとの間の空隙の幅は2mmとなるように設定した。空隙を含むガイドリング全体の径方向の幅は46.5mmである。連結部材として、厚さ0.2mmのポリプロピレン(PP)シートを1mm幅にカットして短冊状にし、これを外側リング及び内側リングのメンブレンフィルムに接する側の表面に、外側リングと内側リングとを繋ぐように放射状に16個並べて接着剤で固定して、外側リングと内側リングとを連結した(図7(d)及び図8(b))。連結された外側リング及び内側リングを、更にメンブレンフィルムへ接着剤を用いて貼り付けた。この際、連結部材の厚さ(0.2mm)により形成される外側リング及び内側リングとメンブレンフィルムとの間の空間は接着剤で埋める形となった。ガイドリング厚さと基板厚さの差は、メンブレンフィルム(PFAシート)の基板に対する側に、更に厚さ0.5mmのバッキングパッド(多孔質のポリウレタン樹脂)を厚さ0.1mmの両面テープを介して貼り付けることで調整した(図10(a))。基板の入る基板保持部ではメンブレンフィルム及び貼り付けたバッキングパッドに貫通穴をあけ、その穴を通じ背面を真空にすることで基板搬送時には基板を吸着保持出来るようにした。
上記のように作製した研磨ヘッドにてSOQ基板の研磨を行った。エア加圧により基板を研磨布に押し付けた状態で研磨ヘッドを回転させ、90nmの研磨を行った。基板全面での膜厚差は9nmであり、研磨量に対する膜厚差(Range)は10%であった。研磨後の膜厚分布を図11に示す。図11は各半径での平均の膜厚値と中心との膜厚の差を研磨量に対するパーセントで表したもので、研磨量を掛けたものが実際の膜厚差の値となる。各半径での平均値の分布をみると基板表面は平坦であり、基板外周部での研磨状態の安定化の効果が十分みられた。
(実施例2)
実施例1と同様にSOQ基板を作製した。
外径245mm、内径186mm、幅29.5mm、厚さ2.2mmのPPS製の外側リングと、外径182mm、内径152mm、幅15mm、厚さ2.2mmのPPS製の内側リングを使用し、図5の様な断面となるガイドリングを作製した。外側リングと内側リングとの間の空隙の幅は2mmとなるように設定した。空隙を含むガイドリング全体の幅は46.5mmである。外側リングと内側リングとは、各々をメンブレンフィルムに直接接着させることにより連結させた(図7(b))。ガイドリング厚さと基板厚さの差は、メンブレンフィルム(PFAシート)の基板に対する側に、更に厚さ1mmのPPS板と、厚さ0.5mmのバッキングパッド(多孔質のポリウレタン樹脂)とを、それぞれ厚さ0.1mmの両面テープを介して貼り付けることで調整した(図10(b))。この厚さ1mmのPPS板は基板全体をより均一に押圧することで基板面内の研磨量の不均一を更に低減することを目的に取り付けた。基板の入る基板保持部ではメンブレンフィルム、及び貼り付けたPPS板及びバッキングパッドに貫通穴をあけ、その穴を通じ背面を真空にすることで基板搬送時には基板を吸着保持出来るようにした。
上記のように作製した研磨ヘッドにてSOQ基板の研磨を行った。エア加圧により基板を研磨布に押し付けた状態で研磨ヘッドを回転させ、90nmの研磨を行った。基板全面での膜厚差は5nmであり、研磨量に対する膜厚差(Range)は6%であった。研磨後の膜厚分布を図12に示す。図12は、図11同様に各半径での平均の膜厚値と中心との膜厚の差を研磨量に対するパーセントで表したもので、研磨量を掛けたものが実際の膜厚差の値となる。各半径での平均値の分布をみると基板表面は平坦であり、基板外周部での研磨状態の安定化の効果が十分みられた。
(参考例1)
実施例1と同様にSOQ基板を作製した。
外径245mm、内径152mm、幅46.5mm、厚さ0.6mmのPPS製ガイドリングを使用し、図2の様な研磨ヘッドを用意した。
この研磨ヘッドにてSOQ基板の研磨を行った。エア加圧により基板を研磨布に押し付けた状態で研磨ヘッドを回転させ、90nmの研磨を行った。基板全面での膜厚差は11nmであり、研磨量に対する膜厚差(Range)は12%であった。研磨後の膜厚分布を図13に示す。図13は、図11同様に各半径での平均の膜厚値と中心との膜厚の差を研磨量に対するパーセントで表したもので、研磨量を掛けたものが実際の膜厚差の値となる。
図13をみてわかるように基板外周部が基板中心部に比べてやや厚く残る傾向があった。
以上のことから、二重のガイドリングを用いた場合では一重のガイドリングを用いた場合よりも基板外周部の研磨の安定性に優れ、研磨後のシリコン薄膜の膜厚均一性をより向上できることがわかった。