以下に添付図面を参照して、本発明に係る熱処理装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態である熱処理装置を模式的に示す模式図であり、図2は、本発明の実施の形態である熱処理装置の特徴的な制御系を示すブロック図である。ここで例示する熱処理装置は、装置本体10、発熱体20、カバー体30、コイル40及びファン50を備えて構成されている。
装置本体10は、断熱板11、脚部12及び箱体13を備えて構成されている。断熱板11(11a,11b)は、複数(図示の例では2つ)あり、それぞれセラミックス等から形成されて矩形状の板状体である。これら断熱板11は、スペーサ11cを介在させた状態で互いが離隔した状態で積層されている。つまり、2つの断熱板11a,11bの間には、間隙11dが形成されている。
脚部12は、複数(例えば4つ)設けられており、それぞれが下側の断熱板11bの4つの頂部の下面より下方に延在する態様で設けられている。
箱体13は、下面が開口した直方状を成すものである。このような箱体13は、前面、後面、左側面及び右側面の各下端部が上側の断熱板11aの各縁端部の上面に載置されることで、上側の断熱板11aの上方域を覆う外壁を構成している。
発熱体20は、図3に示すように、円環状の形態を成すものである。この発熱体20は、例えば黒鉛、グラファイト等から形成されるものである。このような発熱体20は、上側の断熱板11aにおける中央域の上面に載置されている。かかる発熱体20は、自身の上面に熱処理の対象となる対象物(例えば銅や銀等)1を載置させるものである。
カバー体30は、断熱性材料から形成されるもので、例えば半球状の形態を成すものである。このようなカバー体30は、自身の開口部が上側の断熱板11aに閉塞される態様で、該上側の断熱板11aに載置されることにより、発熱体20及び対象物1の周囲を覆う態様で配設されている。これにより、対象物1及び発熱体20は、カバー体30により略密閉された空間Sに位置することとなる。かかるカバー体30の内面は、反射面を構成している。
このようなカバー体30には、図示せぬ給気孔及び排気孔が形成されている。給気孔には、給気ライン21が貫通している。給気ライン21は、箱体13に設けられた貫通孔(図示せず)を通過する態様で設けられており、図示せぬボンベ等に封入された窒素ガス等の不活性ガスを空間Sに供給するためのものである。この給気ライン21は、内径の大きい大給気管21aと、この大給気管21aよりも内径の小さい小給気管21bとが合流するものである。ここで、大給気管21aは、小給気管21bよりも不活性ガスの流量が大きい。そして、大給気管21aの途中には第1バルブ21cが設けられ、小給気管21bの途中には第2バルブ21dが設けられている。
第1バルブ21cは、後述する制御部70からの指令により開閉する電磁弁であり、閉成する場合には、大給気管21aを不活性ガスが通過することを規制する一方、開成する場合には、大給気管21aを不活性ガスが通過することを許容するものである。
第2バルブ21dは、制御部70からの指令により開閉する電磁弁であり、閉成する場合には、小給気管21bを不活性ガスが通過することを規制する一方、開成する場合には、小給気管21bを不活性ガスが通過することを許容するものである。
排気孔には、排出ライン22に連通している。排出ライン22は、箱体13に設けられた貫通孔(図示せず)を通過する態様で設けられている。この排出ライン22は、排気口から流入したガスを外部に排出するためのものであり、その途中に排出バルブ22aが設けられている。
この排出バルブ22aは、排出ライン22とともに排出機構を構成するもので、常態においては閉成している一方、カバー体30により形成される空間Sの内部の圧力が予め決められた大きさとなる場合には、開成して該空間Sの内部雰囲気を外部に排出するものである。つまり、排出バルブ22aは、カバー体30により形成される空間Sに適正な与圧を設定している。
コイル40は、下側の断熱板11bよりも下方側に配設されており、より詳細に説明すると、アクチュエータ60に載置されている。ここでアクチュエータ60は、コイル40を平面方向における互いに直交する方向(X方向及びY方向)に移動させるものである。上記コイル40は、図3に示すように、渦巻形状に巻かれている。
このようなコイル40は、電気的に接続される電力変換装置42より特定の周波数の電圧が印加される場合に、発熱体20を誘導加熱により加熱するもので、電力変換装置42とともに加熱手段を構成している。ここで、電力変換装置42は、いわゆるインバータ回路を内蔵するものであり、商用電源44から与えられる交流を特定の周波数の交流としてコイル40に与えるものである。
ファン50は、コイル40の下方側に配設されている。このファン50は、制御部70からの指令により駆動するものであり、駆動する場合に、コイル40に対して空気を送出する送風手段である。
このような熱処理装置は、上記構成の他、入力手段61、酸素濃度検出センサ62、温度検出センサ63、温度検知部64及び制御部70を備えて構成されている。
入力手段61は、例えばリモコンのテンキーやキーボード、あるいはタッチパネル式画面等のようなもので、熱処理装置を利用する作業者が各種指令等を入力するための操作入力部である。
酸素濃度検出センサ62は、カバー体30における内面の所定個所に配設されている。この酸素濃度検出センサ62は、カバー体30が配設される場合に、該カバー体30により形成される空間Sの酸素濃度を検出するものである。この酸素濃度検出センサ62で検出した酸素濃度は、酸素濃度信号として制御部70に出力されることとなる。
温度検出センサ63は、発熱体20の表面の所定個所に配設されている。この温度検出センサ63は、発熱体20の温度を検出するものである。この温度検出センサ63で検出した温度は、温度信号として制御部70に出力されることとなる。
温度検知部64は、図4に示すように、発熱体20においてコイル40の中心部分の上方個所を原点として、互いに直交する2つの方向(X方向、Y方向)における原点から等距離の個所(X+、X−、Y+、Y−)の温度を検知する検知手段である。
制御部70は、メモリ75に記憶されたプログラムやデータにしたがって熱処理装置の各部の動作を統括的に制御するもので、入力処理部71、算出演算処理部72及び出力処理部73を備えている。
ここでメモリ75には、種々の情報が記憶されており、本実施の形態において特徴的なものとして基準濃度情報、目標温度情報、切換濃度情報、目標値情報が記憶されている。基準濃度情報は、後述する雰囲気調整処理において閾値となる基準濃度(例えば100ppm)が含まれる情報である。目標温度情報は、後述する加熱処理において閾値となる目標温度が含まれる情報である。切換濃度情報は、雰囲気調整処理において閾値となる切換濃度(例えば1000ppm)が含まれる情報である。目標値情報は、後述する位置調整処理において閾値となる目標値が含まれる情報である。
入力処理部71は、入力手段61や各種センサ等からの指令や信号等を入力するものである。算出演算処理部72は、入力処理部71を通じて入力した信号等に基づいて各種の処理を行うもので、本実施の形態の特徴的なものとして算出部72a、演算部72b、決定部72c及び比較部72dを備えている。
算出部72aは、入力処理部71を通じて入力した温度検知部64の検知温度からX方向の温度差((X+)−(X−))及びY方向の温度差((Y+)−(Y−))を算出するものである。
演算部72bは、算出部72aで算出した温度差を予め実験的に求められた固定値で除算して移動量を演算するものである。決定部72cは、コイル40の移動方向を決定するものである。ここでは、温度差から移動量を計算する計算式を記憶しておいてもよいし、温度差と移動量との関係を示す温度差−移動量特性を予め記憶しておき、この温度差−移動量特性に基づいて温度差から移動量を求めるようにしてもよい。
比較部72dは、算出部72aで算出した温度差の絶対値とメモリ75から読み出した目標値とを比較、入力処理部71を通じて入力した検出濃度とメモリ75から読み出した基準濃度とを比較、入力処理部71を通じて入力した検出温度とメモリ75から読み出した目標温度とを比較、並びに入力処理部71を通じて入力した検出濃度とメモリ75から読み出した切換濃度とを比較するものである。
出力処理部73は、熱処理装置の各部に対して各種指令等を出力するもので、本実施の形態の特徴的なものとして、バルブ駆動処理部73a、インバータ駆動処理部73b、ファン駆動処理部73c及びアクチュエータ駆動処理部73dを備えている。
バルブ駆動処理部73aは、第1バルブ21c及び第2バルブ21dに対して個別に指令を与えて、第1バルブ21c及び第2バルブ21dを開成及び閉成させるものである。
インバータ駆動処理部73bは、電力変換装置42に対して指令を与えて、電力変換装置42を駆動、あるいは駆動停止にさせるものである。また、インバータ駆動処理部73bは、電力変換装置42に対して指令を与えることにより、電力変換装置42の出力を増減させてコイル40に印加する電圧の周波数を増減させるものである。
ファン駆動処理部73cは、ファン50に対して指令を与えることにより、ファン50を駆動及び駆動停止にさせるものである。
アクチュエータ駆動処理部73dは、アクチュエータ60に対して指令を与えることにより、アクチュエータ60を駆動及び駆動停止にさせるものである。
以上のような構成を有する熱処理装置では、発熱体20の上に対象物1が載置された後にカバー体30が配設されることにより略密閉された空間Sが形成され、そして、給気ライン21及び排出ライン22が配設された後に箱体13が配置されることで、次のような熱処理を行うことができる。
図5は、本発明の実施の形態である熱処理装置を構成する制御部70が実施する処理内容を示すフローチャートである。
制御部70は、利用者である作業者が入力手段61を通じて熱処理指令を入力する入力待ちとなっている(ステップS100)。そして、作業者が入力手段61を通じて熱処理指令を入力することで、入力処理部71を通じて熱処理指令を入力した場合(ステップS100:Yes)、制御部70は、位置調整処理を実施する(ステップS200)。
図6は、図5に示した位置調整処理の処理内容を示すフローチャートである。
この位置調整処理において制御部70は、インバータ駆動処理部73bを通じて電力変換装置42に対して駆動指令を与えて該電力変換装置42を駆動させるとともに、ファン駆動処理部73cを通じてファン50に対して駆動指令を与えてファン50を駆動させる(ステップS201,ステップS202)。
これによれば、特定の周波数(例えば20kHz程度)の電圧がコイル40に印加されることとなり、発熱体20がコイル40により誘導加熱される。
このように電力変換装置42及びファン50を駆動させた制御部70は、温度検知部64からの検知温度の入力待ちとなる(ステップS203)。入力処理部71を通じて検知温度を入力した場合(ステップS203:Yes)、すなわち温度検知部64により4つの個所(X+、X−、Y+、Y−)の温度が検知された場合、制御部70は、算出部72aを通じてX方向の温度差((X+)−(X−))及びY方向の温度差((Y+)−(Y−))を算出する(ステップS204)。
X方向の温度差及びY方向の温度差を算出した制御部70は、比較部72dを通じて目標値情報を読み出して、温度差の絶対値が目標値情報に含まれる目標値を上回るものがあるか否かを比較する(ステップS205)。
すべての温度差の絶対値が目標値以下である場合(ステップS205:No)、制御部70は、後述するステップS213の処理を実施する。
一方、温度差の絶対値が目標値を上回るものがある場合(ステップS205:Yes)、制御部70は、移動方向決定処理を実施する(ステップS206)。
図7は、図6に示した移動方向決定処理の処理内容を示すフローチャートである。
この移動方向決定処理において制御部70は、X方向の温度差の絶対値とY方向の温度差の絶対値とが目標値を上回っている場合(ステップS206a)、比較部72dを通じてX方向の温度差の絶対値がY方向の温度差の絶対値以上であるか否かを比較する(ステップS206b)。
X方向の温度差の絶対値がY方向の温度差の絶対値以上である場合(ステップS206b:Yes)、制御部70は、決定部72cを通じて移動方向をX方向に決定し(ステップS206c)、その後に手順をリターンさせて今回の移動方向決定処理を終了する。
X方向の温度差の絶対値がY方向の温度差の絶対値未満である場合(ステップS206b:No)、制御部70は、決定部72cを通じて移動方向をY方向に決定し(ステップS206d)、その後に手順をリターンさせて今回の移動方向決定処理を終了する。
一方、X方向の温度差の絶対値のみが目標値を上回っている場合(ステップS206a:No,ステップS206e:Yes)、制御部70は、決定部72cを通じて移動方向をX方向に決定し(ステップS206f)、その後に手順をリターンさせて今回の移動方向決定処理を終了する。
Y方向の温度差の絶対値のみが目標値を上回っている場合(ステップS206a:No,ステップS206e:No)、制御部70は、決定部72cを通じて移動方向をY方向に決定し(ステップS206g)、その後に手順をリターンさせて今回の移動方向決定処理を終了する。
かかる移動方向決定処理を実施した制御部70は、演算部72bを通じて決定した移動方向(X方向又はY方向)における移動量を演算する(ステップS207)。例えば、決定した移動方向がX方向であってその方向の温度差が正である場合には、X方向の+側への移動量を演算し、該方向の温度差が負である場合には、X方向の−側への移動量を演算する。
移動量を演算した制御部70は、アクチュエータ駆動処理部73dを通じてアクチュエータ60に駆動指令を与え、決定した方向に沿って該移動量の分だけコイル40を移動させる(ステップS208)。
このようにアクチュエータ60を駆動させた制御部70は、アクチュエータ60の駆動回数が予め決められた所定回数(n回)となるまで上記ステップS203〜ステップS208の処理を繰り返す(ステップS209:No)。
一方、アクチュエータ60の駆動回数がn回となる場合(ステップS209:Yes)、制御部70は、温度検知部64からの検知温度の入力待ちとなる(ステップS210)。入力処理部71を通じて検知温度を入力した場合(ステップS210:Yes)、すなわち温度検知部64により4つの個所(X+、X−、Y+、Y−)の温度が検知された場合、制御部70は、算出部72aを通じてX方向の温度差及びY方向の温度差を算出する(ステップS211)。
X方向の温度差及びY方向の温度差を算出した制御部70は、比較部72dを通じて目標値情報を読み出して、温度差の絶対値が目標値情報に含まれる目標値以下であるか否かを比較する(ステップS212)。
すべての温度差の絶対値が目標値以下である場合(ステップS212:Yes)、制御部70は、インバータ駆動処理部73bを通じて電力変換装置42に対して駆動停止指令を与えて電力変換装置42を駆動停止にさせるとともに、ファン駆動処理部73cを通じてファン50に対して駆動停止指令を与えてファン50を駆動停止にさせ(ステップS213)、その後に手順をリターンさせて今回の位置調整処理を終了する。
ところで、すべての温度差の絶対値が目標値以下でない場合(ステップS212:No)、制御部70は、出力処理部73を通じて上位機器や入力手段61に対してエラー信号を送出し(ステップS214)、その後に手順をリターンさせて今回の位置調整処理を終了する。
このように位置調整処理を実施した制御部70は、位置調整が完了しなかった場合(ステップS300:No)、すなわち位置調整処理においてステップS214のエラー信号の送出を行った場合、後述する処理を実施することなく今回の処理を終了する。
一方、位置調整が完了した場合(ステップS300:Yes)、すなわち位置調整処理においてステップS214のエラー信号の送出を行わなかった場合、制御部70は、雰囲気調整処理を実施する(ステップS400)。
図8は、図5に示した雰囲気調整処理の処理内容を示すフローチャートである。
この雰囲気調整処理において制御部70は、バルブ駆動処理部73aを通じて第1バルブ21c及び第2バルブ21dに対して開指令を与えて第1バルブ21c及び第2バルブ21dを開成させるとともに、インバータ駆動処理部73bを通じて電力変換装置42に対して駆動指令を与えて電力変換装置42を駆動させる(ステップS401,ステップS402)。
これによれば、大給気管21aを通過する不活性ガスと、小給気管21bを通過する不活性ガスが給気ライン21を通じて空間Sの内部に送出される。また特定の周波数(例えば20kHz程度)の電圧がコイル40に印加されることにより発熱体20がコイル40により誘導加熱される。
そして、制御部70は、入力処理部71を通じての酸素濃度信号の入力待ち(ステップS403)、すなわち酸素濃度検出センサ62による酸素濃度検出待ちとなる。
入力処理部71を通じて酸素濃度信号を入力した場合(ステップS403:Yes)、制御部70は、比較部72dを通じてメモリ75より切換濃度情報を読み出し、酸素濃度信号に含まれる検出濃度が切換濃度情報に含まれる切換濃度(1000ppm)以下であるか否かを比較する(ステップS404)。
検出濃度が切換濃度を上回る場合(ステップS404:No)、制御部70は、上記ステップS403の処理を繰り返す。
その一方、検出濃度が切換濃度以下の場合(ステップS404:Yes)、制御部70は、バルブ駆動処理部73aを通じて第1バルブ21cに対して閉指令を与えて第1バルブ21cを閉成させる(ステップS405)。これにより、大給気管21aを不活性ガスが通過することが規制され、小給気管21bを通過した不活性ガスのみが給気ライン21を通じて空間Sに送出されることとなり、該空間Sに送出される不活性ガスの流量が低減する。
第1バルブ21cを閉成させた制御部70は、入力処理部71を通じての酸素濃度信号の入力待ち(ステップS406)、すなわち酸素濃度検出センサ62による酸素濃度検出待ちとなる。
入力処理部71を通じて酸素濃度信号を入力した場合(ステップS406:Yes)、制御部70は、比較部72dを通じてメモリ75より基準濃度情報を読み出し、酸素濃度信号に含まれる検出濃度が基準濃度情報に含まれる基準濃度(100ppm)以下であるか否かを比較する(ステップS407)。
検出濃度が基準濃度を上回る場合(ステップS407:No)、制御部70は、上記ステップS406の処理を繰り返す。
その一方、検出濃度が基準濃度以下の場合(ステップS407:Yes)、制御部70は、バルブ駆動処理部73aを通じて第2バルブ21dに対して閉指令を与えて第2バルブ21dを閉成させるとともにインバータ駆動処理部73bを通じて電力変換装置42に対して駆動停止指令を与えて電力変換装置42を駆動停止にさせ(ステップS408,ステップS409)、その後に手順をリターンさせて今回の雰囲気調整処理を終了する。
このような雰囲気調整処理によれば、カバー体30により略密閉される空間Sの酸素濃度を100ppm以下に調整することができる。
このようにして雰囲気調整処理を実施した制御部70は、加熱処理を実施する(ステップS500)。
図9は、図5に示した加熱処理の処理内容を示すフローチャートである。
この加熱処理において制御部70は、インバータ駆動処理部73bを通じて電力変換装置42に対して駆動指令を与えて電力変換装置42を駆動させるとともに、ファン駆動処理部73cを通じてファン50に対して駆動指令を与えてファン50を駆動させる(ステップS501,ステップS502)。
これによれば、特定の周波数(例えば20kHz程度)の電圧がコイル40に印加されることとなり、発熱体20がコイル40により誘導加熱される。このように発熱体20が加熱されると、発熱体20に載置された対象物1を発熱体20から直接、カバー体30により形成される空間Sの内部雰囲気を通じて、あるいはカバー体30の内面に反射して熱が伝わることで対象物1が加熱されることとなる。そして、ファン50を駆動させることにより、空気をコイル40に送出することができ、コイル40が必要以上に高温となってしまうことを抑制することができる。
このように電力変換装置42及びファン50を駆動させた制御部70は、内蔵する時計により予め設定された所定時間が経過するまで温調制御処理を行う(ステップS503〜ステップS507)。
この温調制御処理において制御部70は、入力処理部71を通じて温度信号を入力した場合(ステップS503:Yes)、比較部72dを通じてメモリ75より目標温度情報を読み出し、温度信号に含まれる検出温度が目標温度情報に含まれる目標温度以上であるか否かを比較する(ステップS504)。
制御部70は、検出温度が目標温度以上の場合(ステップS504:Yes)には、インバータ駆動処理部73bを通じて電力変換装置42に対して出力を減少させる旨の指令を与えることでコイル40に印加する周波数を減少させる(ステップS505)。
一方、検出温度が目標温度未満の場合(ステップS504:No)には、インバータ駆動処理部73bを通じて電力変換装置42に対して出力を増大させる旨の指令を与えることでコイル40に印加する周波数を増大させる(ステップS506)。
制御部70は、このような温調制御処理を所定時間が経過するまで行い、所定時間が経過した場合(ステップS507:Yes)、インバータ駆動処理部73bを通じて電力変換装置42に対して駆動停止指令を与えて電力変換装置42を駆動停止にさせ(ステップS508)、その後に手順をリターンさせて今回の加熱処理を終了する。
このような加熱処理によれば、発熱体20を目標温度に一致するよう誘導加熱することで対象物1を加熱処理することができる。また、この加熱処理中は、不活性ガスが供給されないので、カバー体30により形成される空間Sの温度が必要以上に低下することを防止する。
このようにして加熱処理を実施した制御部70は、冷却処理を実施する(ステップS600)。
図10は、図5に示した冷却処理の処理内容を示すフローチャートである。
この冷却処理において制御部70は、バルブ駆動処理部73aを通じて第1バルブ21c及び第2バルブ21dに対して開指令を与えて第1バルブ21c及び第2バルブ21dを開成させる(ステップS601)。
これによれば、大給気管21aを通過する不活性ガスと小給気管21bを通過する不活性ガスを給気ライン21を通じて空間Sに送出することができ、不活性ガスの供給量を増大させることができ、かかる不活性ガスにより対象物1を徐々に冷却することができる。また、対象物1を冷却している際にもファン50の駆動を継続させているので、空気をコイル40に送出することを継続し、対象物1の熱がコイル40に伝達して必要以上に高温となってしまうことを抑制することができる。
このようにして第1バルブ21c及び第2バルブ21dを開成させた制御部70は、内蔵する時計を通じて予め設定された所定時間が経過するか否かを確認する(ステップS602)。このステップS602における所定時間は、対象物1を不活性ガスにより常温にまで冷却するのに必要十分な時間であり、予め実験的に求められて設定されている。
所定時間が経過した場合(ステップS602:Yes)、制御部70は、バルブ駆動処理部73aを通じて第1バルブ21c及び第2バルブ21dに対して閉指令を与えて第1バルブ21c及び第2バルブ21dを閉成させるとともに(ステップS603)、ファン駆動処理部73cを通じてファン50に対して駆動停止指令を与えてファン50を駆動停止にさせ(ステップS604)、その後に手順をリターンさせて今回の冷却処理を終了する。
このような冷却処理によれば、不活性ガスを供給することで対象物1を常温まで冷却することができる。
そして、このような冷却処理を実施した制御部70は、今回の熱処理指令に基づく処理を終了する。これにより、作業者は、箱体13を上側の断熱板11aから離脱させるとともに、カバー体30を取り外すことにより、対象物1が熱処理されて製造された所望のろう付け製品を取り出すことができる。
以上説明したように本実施の形態である熱処理装置によれば、制御部70が、電力変換装置42を駆動させた状態において温度検知部64を通じて検知された温度からX方向及びY方向における2個所の温度差を算出し、温度差の絶対値の少なくとも1つが目標値を超える場合には、絶対値が目標値を超える方向での移動量を演算し、アクチュエータ60を駆動させてコイル40を該移動量だけ移動させる位置調整処理を行うので、加熱手段と発熱体20との相互の位置関係を適正なものに調整することで対象物1の加熱処理を良好なものとすることができる。
特に、互いに直交する2方向(X方向及びY方向)の2個所の温度差を算出すればよいので、位置調整を容易なものとすることができる。
上記熱処理装置によれば、制御部70が、第1バルブ21c及び第2バルブ21dを開成させてカバー体30により形成される空間Sに不活性ガスを供給する場合に、該空間Sの酸素濃度が切換濃度以下となるときには第1バルブ21cを閉成させて該空間Sに対する不活性ガスの流量を低減させるので、空間Sの酸素濃度が切換濃度を超える場合には、不活性ガスを大流量で供給することができ、該空間Sにおける酸素濃度を早期に低下させることができる。そして、空間Sの酸素濃度が切換濃度以下となる場合には、不活性ガスを小流量で供給するので、排出ライン22の出口近傍で渦流が発生して該排出ライン22を介して空間Sに外気が侵入してしまうことを抑制することができる。従って、カバー体30により形成される空間Sの雰囲気を調整する時間の短縮化を図ることができる。
また上記熱処理装置によれば、雰囲気調整処理を実施する場合に電力変換装置42を駆動させてコイル40により発熱体20を加熱するので、カバー体30により形成される空間Sの水分を蒸発させることができ、これによりカバー体30により形成される空間Sの雰囲気を調整する時間の短縮化を図ることができる。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
上述した実施の形態では、コイル40により発熱体20を誘導加熱により加熱して対象物1を間接的に加熱していたが、これは熱処理の対象物1として例えば銅を銀ろう付けする場合等のように誘導加熱しづらい材質の場合に特に有効である。本発明においては、対象物が鉄等のように誘導加熱により加熱されやすい材質のものであれば、発熱体を用いずにコイルにより対象物を誘導加熱により直接加熱するようにしてもよい。
上述した実施の形態では、第1バルブ21c及び第2バルブ21dは、ともに電磁弁により構成されていたが、本発明においては、給気ラインに設けられたバルブは、開度が調整できるものであってもよい。この場合、給気ラインは、大給気管と小給気管とが合流されるものである必要はない。また、開度が調整できるバルブの開度を2段、あるいは3段以上に段階的に切り替えて流量を調整してもよいし、流量をリニアに変更するようにしてもよい。すなわち、空間(S)の内部の酸素濃度が低下するのに応じて供給する不活性ガスの流量を大流量から小流量まで複数段階、あるいは無段階に減少させるようにしてもよい。