以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
<第1実施形態>
第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る被加工物Sの一例を示す斜視図である。図2は、本実施形態に係る被加工物Sの要部を示す側面図である。図1及び図2に示すように、被加工物Sは、円板状のウエーハWと、ウエーハWの表面に形成された複数のデバイスDと、デバイスDの表面に形成された複数のバンプBPとを備える。
ウエーハWは、シリコン、サファイア、及びガリウムの少なくとも一つを含む円板状の半導体ウエーハ又は光デバイスウエーハである。複数のデバイスDは、ウエーハWの表面に格子状に設けられたストリートLによって区画される。バンプBPは、被加工物Sの表面に形成される。バンプBPは、デバイスDの表面から突出するように設けられる。
レーザー加工装置から射出されたレーザー光線がストリートLに照射され、ウエーハWがアブレーション加工されることによって、被加工物Sを複数のデバイスDに分割するためのレーザー加工溝がウエーハWに形成される。本実施形態においては、被加工物Sの表面が水溶性保護膜Pで被覆された状態で、レーザー光線がストリートLに照射される。
図3は、本実施形態に係る水溶性保護膜Pが被覆された被加工物Sの要部を示す断面図である。水溶性保護膜Pは、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol:PVA)又はポリビニルピロリドン(polyvinyl pyrrolidone:PVP)を含む水溶性樹脂である。
なお、水溶性保護膜Pには、レーザー光線の吸収性を向上させる有機化合物や酸化物(遷移金属酸化物)や、シリカ等の低膨張率及び低熱伝導率を有する材料が添加されていてもよい。
レーザー光線によるアブレーション加工が実施される前に、被加工物Sの表面が水溶性保護膜Pで被覆される。被加工物Sの表面が水溶性保護膜Pで被覆された状態でアブレーション加工が実施されることにより、アブレーション加工において発生するデブリがデバイスDの表面に付着することが抑制され、デバイスDの品質の低下が抑制される。レーザー光線によるアブレーション加工が実施されウエーハWにレーザー加工溝が形成された後、被加工物Sの表面から水溶性保護膜Pが除去される。被加工物Sの表面から水溶性保護膜Pが除去された後、被加工物Sはレーザー加工溝に沿って複数のデバイスDに分割される。分割方法は、レーザー照射、研削ブレードによる加工、プラズマエッチング、及び裏面研削などがある。これらは、単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。組み合わせて使用した場合、例えば、研削ブレードにより深堀した後、裏面研削により分割する方法、プラズマエッチングにより深堀した後、裏面研削により分割する方法など複数の組み合わせがある。
図4は、本実施形態に係る保護膜被覆装置100の一例を示す斜視図である。保護膜被覆装置100は、被加工物Sの表面を水溶性保護膜Pで被覆する。また、本実施形態において、保護膜被覆装置100は、被加工物Sの表面から水溶性保護膜Pを除去する。保護膜被覆装置100は、被加工物Sの表面の全域が水溶性保護膜Pで被覆されるように水溶性保護膜Pを形成する。
図4に示すように、保護膜被覆装置100は、筐体101と、被加工物Sを吸引保持して回転可能なスピンナーテーブル102と、スピンナーテーブル102で吸引保持された被加工物Sの表面に水溶性保護膜Pを形成するための液状樹脂を供給する塗布ノズル103と、被加工物Sの表面から水溶性保護膜Pを除去するための洗浄液を供給する洗浄ノズル(不図示)とを備える。
被加工物Sの表面を水溶性保護膜Pで被覆する場合、被加工物Sが、筐体101の上方の開口を介してスピンナーテーブル102に搬入される。被加工物Sがスピンナーテーブル102に搬入されるとき、スピンナーテーブル102は上昇する。スピンナーテーブル102に被加工物Sが吸引保持された後、被加工物Sを保持したスピンナーテーブル102が下降し、筐体101の上方の開口が蓋104により塞がれる。蓋104により筐体101の上方の開口が塞がれた後、保護膜被覆装置100は、回転軸を中心にスピンナーテーブル102を回転させるとともに、塗布ノズル103を揺動させながら、スピンナーテーブル102に保持されている被加工物Sの表面に塗布ノズル103から液状樹脂を供給する。回転している被加工物Sの表面に液状樹脂が供給されることにより、遠心力によって被加工物Sの表面の全域に液状樹脂が塗布される。これにより、被加工物Sの表面の全域が水溶性保護膜Pで被覆される。被加工物Sの表面が水溶性保護膜Pで被覆された後、保護膜被覆装置100は、塗布ノズル103をスピンナーテーブル102から退避させ、スピンナーテーブル102の回転を停止させる。スピンナーテーブル102が上昇し、蓋104により筐体101の上方の開口が開放されると、保護膜被覆装置100は、スピンナーテーブル102の被加工物Sの吸引保持を解除する。これにより、水溶性保護膜Pで被覆された被加工物Sが、筐体101の上方の開口を介して、スピンナーテーブル102から搬出される。なお、必要に応じて、被加工物Sの表面に被覆された水溶性保護膜Pに、ランプ(赤外、タングステン、キセノンパルス)、連続光レーザー、LED等から射出された光が照射され、水溶性保護膜Pを乾燥する処理が実施される。キセノンパルスを用いることにより、短時間(0.5〜5分)で水溶性保護膜Pを乾燥することができ、且つ2μm以上の厚い水溶性保護膜Pを形成することができる。厚い水溶性保護膜Pを形成することにより、水溶性保護膜Pの塗布又は未塗布の検出精度を大幅に向上することができる。厚膜化により、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等水溶性の樹脂の置換基(O-H、C-H、C=O)由来にしたピークを精度良く確認できる。
アブレーション加工が実施された被加工物Sの表面から水溶性保護膜Pを除去する場合、被加工物Sが、筐体101の上方の開口を介して、上昇したスピンナーテーブル102に搬入される。スピンナーテーブル102に被加工物Sが吸引保持された後、被加工物Sを保持したスピンナーテーブル102が下降する。保護膜被覆装置100は、回転軸を中心にスピンナーテーブル102を回転させるとともに、スピンナーテーブル102に保持されている被加工物Sの表面に洗浄ノズルから洗浄液を供給する。回転している被加工物Sの表面に洗浄液が供給されることにより、遠心力によって水溶性保護膜Pが洗い流される。これにより、被加工物Sの表面から水溶性保護膜Pが除去される。被加工物Sの表面から水溶性保護膜Pが除去された後、保護膜被覆装置100は、洗浄ノズルをスピンナーテーブル102から退避させ、スピンナーテーブル102の回転を停止させる。スピンナーテーブル102が上昇すると、スピンナーテーブル102の被加工物Sの吸引保持が解除される。水溶性保護膜Pが除去された被加工物Sは、筐体101の上方の開口から搬出される。
図5は、本実施形態に係る水溶性保護膜Pを検出する検出装置10の一例を示す図である。検出装置10は、バンプBPが形成されている被加工物Sの表面が所定の厚さEの水溶性保護膜Pで被覆されているか否かを検出する。
図5に示すように、検出装置10は、水溶性保護膜Pで被覆された被加工物Sを保持する保持テーブル20と、保持テーブル20に保持されている被加工物Sに所定の波長λの赤外光IRを照射する赤外光照射部30と、赤外光照射部30から射出され被加工物Sで反射した赤外光IRを受光する赤外光受光部40と、保持テーブル20、赤外光照射部30、及び赤外光受光部40を駆動する駆動手段50と、制御手段60とを備える。
赤外光照射部30は、被加工物Sに所定の波長λの赤外光IRを照射する。赤外光照射部30は、赤外光IRを射出する発光部31と、発光部31から射出された赤外光IRを保持テーブル20に保持された被加工物Sに導く複数の光学部品32とを備える。赤外光照射部30は、保持テーブル20に保持された被加工物Sの表面の中心から離れた被加工物Sの照射位置に赤外光IRを照射する。
赤外光照射部30は、被加工物Sに照射する赤外光IRの波長λを変更可能である。赤外光照射部30は、例えば、波数が700[cm−1]以上4000[cm−1]以下の赤外光IRを被加工物Sに照射可能である。波数とは、波長λの逆数であり、単位はカイザー(cm−1)である。本実施形態において、赤外光照射部30は、少なくとも、波数が1700±100[cm−1]及び2900±200[cm−1]の赤外光IRを照射可能である。
赤外光受光部40は、被加工物Sに照射され被加工物Sの表面で反射した赤外光IRを受光する。赤外光受光部40は、被加工物Sの表面で反射した赤外光IRの反射強度Fを示す反射強度データを制御手段60に出力する。赤外光受光部40は、赤外光IRを受光する受光部41と、被加工物Sの表面で反射した赤外光IRを受光部41に導く複数の光学部品42とを備える。赤外光受光部40は、例えば、波数が700[cm−1]以上4000[cm−1]以下の赤外光IRを受光可能である。本実施形態において、赤外光受光部40は、少なくとも、波数が1700±100[cm−1]又は2900±200[cm−1]の赤外光IRを受光可能である。
波数が1700±100[cm−1]とは、波数が1600[cm−1]以上1800[cm−1]以下であることを意味し、波数が2900±200[cm−1]とは、波数が2700[cm−1]以上3100[cm−1]以下であることを意味する。波数を1700±100[cm−1]と範囲を持たせたのは、波数1700[cm−1]はC=O結合に由来するものの、そのC=O結合の周囲の結合状態によって、赤外光(IR)の吸収度合い(吸収エネルギーのピーク)が変化する可能性があるためである。波数を2900±200[cm−1]と範囲を持たせたのも同様の理由であり、波数2900[cm−1]はC−H結合に由来するものの、そのC−H結合の周囲の結合状態によりC−H結合の吸収エネルギーピークが変化する可能性があるためである。
駆動手段50は、回転軸Qを中心に保持テーブル20を回転する回転駆動部51と、赤外光照射部30と赤外光受光部40との距離を変更可能な直線駆動部52とを備える。回転駆動部51は、回転モータのようなアクチュエータを含み、回転軸Qを中心に保持テーブル20を回転して、被加工物Sの表面における赤外光IRの照射位置を変更する。直線駆動部52は、赤外光照射部30と赤外光受光部40とを水平方向に相対的に移動して、赤外光照射部30と赤外光受光部40との水平方向の距離を変更する。直線駆動部52は、赤外光照射部30と赤外光受光部40とを水平方向に相対的に移動させることにより、赤外光照射部30から被加工物Sに照射される赤外光IRの入射光IRinと被加工物Sの表面で反射した赤外光IRの反射光IRoutとのなす角度θを変更する。
なお、本実施形態においては、直線駆動部52により赤外光照射部30と赤外光受光部40との距離が変更されても、反射光IRoutが赤外光受光部40で受光されるように、赤外光照射部30と赤外光受光部40との距離に応じて、赤外光照射部30の光学部品32の向き及び赤外光受光部40の光学部品42の向きが調整される。
制御手段60は、検出装置10の構成要素を制御して、本実施形態に係る保護膜検出方法を検出装置10に実施させる。制御手段60は、コンピュータシステムを含み、例えばCPU(central processing unit)のようなプロセッサと、ROM(read only memory)又はRAM(random access memory)のようなメモリとを有する。制御手段60は、加工動作の状態を表示する表示手段(不図示)、及びオペレータが加工内容データを登録する際に使用される操作手段61と接続される。
本実施形態においては、検出装置10による被加工物Sの水溶性保護膜Pの検出前の準備工程において、検出装置10によるリファレンスRの検出が実施される。図6は、本実施形態に係るリファレンスRの一例を示す斜視図である。
本実施形態において、リファレンスRは、検出対象物である被加工物Sを含む。図6に示すように、リファレンスRは、被加工物Sと、その被加工物Sの少なくとも一部に被覆された水溶性保護膜Pとを有する。
本実施形態において、リファレンスRは、水溶性保護膜Pの表面を含む第1領域R1と、被加工物Sの表面を含む第2領域R2とを有する。被加工物Sの表面の第1領域R1が水溶性保護膜Pで被覆される。被加工物Sの表面の第2領域R2は水溶性保護膜Pで被覆されない。第2領域R2においては被加工物Sの表面が露出する。本実施形態において、第1領域R1と第2領域R2とは、被加工物Sの表面の中心を通る境界線R3で区画され、被加工物Sの表面を二分するように設けられる。
リファレンスRの第1領域R1は、保護膜被覆装置100によって形成される。リファレンスRとなる被加工物Sがスピンナーテーブル102に保持される。保護膜被覆装置100は、単位時間当たり所定の回転数で、回転軸を中心にスピンナーテーブル102を回転させるとともに、塗布ノズル103から液状樹脂をスピンナーテーブル102に保持されている被加工物Sの表面に供給する。これにより、被加工物Sの表面が水溶性保護膜Pで被覆される。被加工物Sの表面が水溶性保護膜Pで被覆された後、第1領域R1がマスク部材で覆われる。第1領域R1がマスク部材で覆われた状態で、保護膜被覆装置100は、洗浄ノズルから洗浄液をスピンナーテーブル102に保持されている被加工物Sの表面に供給する。これにより、水溶性保護膜Pが被覆された第1領域R1と、水溶性保護膜Pが被覆されていない第2領域R2とを有するリファレンスRが形成される。
なお、第2領域R2がマスク部材で覆われた状態で、塗布ノズル103から液状樹脂が被加工物Sの表面に供給されることによっても、水溶性保護膜Pで被覆された第1領域R1と、水溶性保護膜Pで被覆されていない第2領域R2とを有するリファレンスRが形成される。
リファレンスRの第1領域R1の水溶性保護膜Pの厚さEは、スピンナーテーブル102の単位時間当たりの回転数及び液状樹脂の粘度の少なくとも一方に基づいて調整可能である。スピンナーテーブル102が高速回転された状態で液状樹脂が被加工物Sに供給されることにより、被加工物Sに形成される水溶性保護膜Pの厚さEは薄くなる。スピンナーテーブル102が低速回転された状態で液状樹脂が被加工物Sに供給されることにより、被加工物Sに形成される水溶性保護膜Pの厚さEは厚くなる。また、高粘度の液状樹脂が被加工物Sに供給されることにより、被加工物Sに形成される水溶性保護膜Pの厚さEは厚くなる。低粘度の液状樹脂が被加工物Sに供給されることにより、被加工物Sに形成される水溶性保護膜Pの厚さEは薄くなる。保護膜被覆装置100は、スピンナーテーブル102の単位時間当たりの回転数及び液状樹脂の粘度の少なくとも一方を調整することにより、厚さEが異なる水溶性保護膜Pを有する複数のリファレンスRを形成することができる。
図7は、スピンナーテーブル102の単位時間当たりの回転数とリファレンスRの水溶性保護膜Pの厚さEとの関係の一例を示す図である。例えば、表面にバンプBPが形成された被加工物Sを単位時間当たり所定の回転数で回転させながら、一定の粘度の液状樹脂を被加工物Sに供給する場合、図7に示すように、被加工物Sの回転数に応じて水溶性保護膜Pの厚さEが変化する。図7に示す例では、スピンナーテーブル102の回転数を2000[rpm]とし90[sec]回転させた場合、形成される水溶性保護膜Pの厚さEは、1.2[μm]となる。スピンナーテーブル102の回転数を700[rpm]とし30[sec]回転させた場合、形成される水溶性保護膜Pの厚さEは、2.3[μm]となる。スピンナーテーブル102の回転数を600[rpm]とし30[sec]回転させた場合、形成される水溶性保護膜Pの厚さEは、2.7[μm]となる。スピンナーテーブル102の回転数を500[rpm]とし30[sec]回転させた場合、形成される水溶性保護膜Pの厚さEは、3.1[μm]となる。スピンナーテーブル102の回転数を300[rpm]とし30[sec]回転させた場合、形成される水溶性保護膜Pの厚さEは、5.0[μm]となる。
本実施形態においては、厚さEが厚い水溶性保護膜Pを形成する場合、被加工物Sに液状樹脂が塗布された後、キセノンパルスのようなランプから射出された光が被加工物Sに照射される。これにより、被加工物Sに塗布された液状樹脂が乾燥される。図7に示す例では、厚さEが2.3[μm]、2.7[μm]、3.1[μm]、及び5.0[μm]の水溶性保護膜Pを形成するとき、キセノンパルスによる乾燥が実施される。
検出装置10の保持テーブル20は、リファレンスRを保持可能である。赤外光照射部20は、保持テーブル20に保持されているリファレンスRに所定の波長λの赤外光IRを照射可能である。赤外光受光部40は、赤外光照射部30から射出されリファレンスRで反射した赤外光IRを受光可能である。
次に、本実施形態に係る水溶性保護膜Pの検出方法について説明する。本実施形態においては、検出装置10を使って、表面にバンプBPが形成された被加工物Sが所定の厚さEの水溶性保護膜Pで被覆されているか否かが検出される。図8は、本実施形態に係る水溶性保護膜Pの検出方法を示すフローチャートである。
図8に示すように、本実施形態に係る保護膜検出方法は、被加工物Sの水溶性保護膜Pを検出するときの検出条件を設定する設定ステップST11と、水溶性保護膜Pの厚さEを変化させながら所定の角度θで赤外光IRを水溶性保護膜Pに照射して赤外光IRの反射光IRoutを受光し、反射強度Fの変化を表す反射強度マップを作成する反射強度マップ形成ステップST12と、所定の厚さEに対応する所定反射強度Cを保護膜中のC−H結合に由来する2900±200[cm−1]又はC=O結合に由来する1700±100[cm−1]における反射強度Fから求める閾値決定ステップST13と、を有する検出前の準備工程ST1と、水溶性保護膜Pが形成された被加工物Sの表面に所定の角度θで赤外光IRを照射し赤外光IRの反射光IRoutを受光して、2900±200[cm−1]または1700±100[cm−1]における反射強度Fを取得し、取得した反射強度Fを閾値決定ステップST13で求めた所定反射強度Cと比較することにより所定の厚さEに水溶性保護膜Pが被覆されているか否かを判定する判定ステップST2を含む判定工程と、を含む。
本実施形態においては、検出内容データがオペレータにより制御手段60に登録され、オペレータにより検出開始の指示があった場合に、本実施形態に係る検出装置10を用いる保護膜検出方法が実施される。
設定ステップST11について説明する。設定ステップST11においては、水溶性保護膜Pが所定の厚さEで被加工物Sに形成されているか否かを検出するときの検出装置10の検出条件が設定される。被加工物Sの水溶性保護膜Pの検出条件は、入射光IRinと反射光IRoutとがなす角度θを含む。
設定ステップST11において、図6を参照して説明したリファレンスRが検出装置10の保持テーブル20に保持される。保持テーブル20は、リファレンスRの第1領域R1と赤外光照射部30及び赤外光受光部40とが対向するように、リファレンスRを保持する。
保持テーブル20にリファレンスRが保持された後、制御手段60は、駆動手段50の直線駆動部52を制御して角度θを変更するとともに、赤外光照射部30から射出される赤外光IRの波長λ(波数)を変更して、第1領域R1の位置A(図6参照)に赤外光IRを照射して、反射光IRoutを受光する。すなわち、制御手段60は、異なる波長λと異なる複数の角度θとの複数の組み合わせのそれぞれで、リファレンスRの第1領域R1に赤外光IRを照射し反射光IRoutを受光して、反射光IRoutの反射強度Fを検出する。
制御手段60は、リファレンスRの第1領域R1に赤外光IRを照射したときの、複数の赤外光IRの波長λと、複数の角度θと、複数の反射光IRoutの反射強度Fとを、1対1で対応付けて記憶する。
第1領域R1に対する赤外光IRの照射及び受光が終了した後、制御手段60は、駆動手段50の回転駆動部51を制御して、回転軸Qを中心に保持テーブル20を回転させ、駆動手段50の直線駆動部52を制御して角度θを変更するとともに、赤外光照射部30から射出される赤外光IRの波長λ(波数)を変更して、第2領域R2の位置B(図6参照)に赤外光IRを照射して、反射光IRoutを受光する。すなわち、制御手段60は、異なる波長λと異なる複数の角度θとの複数の組み合わせのそれぞれで、リファレンスRの第2領域R2に赤外光IRを照射し反射光IRoutを受光して、反射光IRoutの反射強度Fを検出する。
制御手段60は、リファレンスRの第2領域R2に赤外光IRを照射したときの、複数の赤外光IRの波長λと、複数の角度θと、複数の反射光IRoutの反射強度とを、1対1で対応付けて記憶する。
第1領域R1の位置Aに対する赤外光IRの照射及び位置Aからの反射光IRoutの受光と、第2領域R2の位置Bに対する赤外光IRの照射及び位置Bからの反射光IRoutの受光とが終了した後、制御手段60は、第1領域R1の位置Aからの反射光IRoutの反射強度Fと、第2領域R2の位置Bからの反射光IRoutの反射強度Fの差が最も大きくなる赤外光IRの角度θを導出する。本実施形態において、制御手段60は、波数が1700±100[cm−1]又は2900±200[cm−1]の赤外光IRの照射及び受光が実施されたときの、第1領域R1の位置Aからの反射光IRoutの反射強度Fと、第2領域R2の位置Bからの反射光IRoutの反射強度Fの差が最も大きくなる赤外光IRの角度θを導出する。角度θは、0[°]よりも大きく60[°]以下の範囲から選択される。導出された赤外光IRの角度θが、水溶性保護膜Pが所定の厚さEで被加工物Sに被覆されているか否かを検出するときの検出装置10の検出条件となる。
次に、反射強度マップ形成ステップST12について説明する。反射強度マップ形成ステップST12においては、水溶性保護膜Pの厚さEを変化させながら所定の角度θで赤外光IRが水溶性保護膜Pに照射され、赤外光IRの反射光IRoutが受光され、反射光IRoutの反射強度Fの変化を表す反射強度マップが作成される。
本実施形態においては、厚さEが異なる水溶性保護膜Pを有する複数のリファレンスRが準備される。上述のように、保護膜被覆装置100は、スピンナーテーブル102の単位時間当たりの回転数及び液状樹脂の粘度の少なくとも一方に基づいて、リファレンスRの水溶性保護膜Pの厚さEを調整可能である。
本実施形態においては、厚さEが異なるn種類の水溶性保護膜Pを有するリファレンスRnが準備される。すなわち、第1厚さE1の水溶性保護膜Pが形成されたリファレンスR1、第2厚さE2の水溶性保護膜Pが形成されたリファレンスR2、…、第n厚さEnの水溶性保護膜Pが形成されたリファレンスRnが準備される。なお、厚さEはゼロを含む。すなわち、リファレンスRとして、水溶性保護膜Pが被覆されているリファレンスRのみならず、水溶性保護膜Pが被覆されていないリファレンスR0も準備される。
第1厚さE1の水溶性保護膜Pが形成されたリファレンスR1について検出装置10を用いる検出を実施する場合、保持テーブル20にリファレンスR1が保持された後、制御手段60は、駆動手段50の直線駆動部52を制御して、赤外光IRの角度θを設定ステップST11で導出された所定の角度θに設定し、赤外光照射部30から射出される赤外光IRの波長λ(波数)を変更しながら第1領域R1の位置Aに赤外光IRを照射して、反射光IRoutを受光する。
本実施形態において、制御手段60は、リファレンスR1の第1領域R1の位置Aからの反射強度Fを取得する。制御手段60は、赤外光IRを、第1厚さE1の水溶性保護膜Pが設けられた第1領域R1の位置Aに所定の角度θで照射し、位置Aからの赤外光IRの反射光IRoutの反射強度Fを取得する。制御手段60は、リファレンスR1の第1領域R1の位置Aからの反射光IRoutを、第1厚さE1の水溶性保護膜Pの第1領域R1からの反射光IRoutの反射強度F1として記憶する。
なお、位置Aは、リファレンスR1の第1領域R1に複数設定されてもよい。その場合、制御手段60は、リファレンスR1の第1領域R1の複数の位置Aからの反射強度Fを順次取得する。制御手段60は、赤外光IRを、第1厚さE1の水溶性保護膜Pが設けられた第1領域R1の複数の位置Aに所定の角度θで順次照射し、複数の位置Aそれぞれからの赤外光IRの反射光IRoutの反射強度Fを取得する。制御手段60は、リファレンスR1の第1領域R1の複数の位置Aからの反射光IRoutの反射強度Fの平均値を、第1厚さE1の水溶性保護膜Pの第1領域R1からの反射光IRoutの反射強度F1として記憶する。
以上により、第1厚さE1を有する水溶性保護膜Pに所定の角度θで赤外光IRが照射されたときの反射光IRoutの反射強度F1が取得される。
次に、第1厚さE1とは異なる第2厚さE2の水溶性保護膜Pを有するリファレンスR2についての反射強度F2が検出装置10によって検出される。制御手段60は、第1厚さE1の水溶性保護膜Pの反射強度F1を取得した手順と同様の手順で、第2厚さE2を有する水溶性保護膜Pに所定の角度θで赤外光IRを照射したときの反射光IRoutの反射強度F2を取得する。
制御手段60は、上述と同様の手順で、全てのリファレンスR(R0〜Rn)について、第n厚さEnを有する水溶性保護膜Pに所定の角度θで赤外光IRを照射したときの反射光IRoutの反射強度F(F1〜Fn)を取得する。
以上のように、制御手段60は、水溶性保護膜Pの厚さEを変化させながら所定の角度θで赤外光IRを水溶性保護膜Pに照射して反射光IRoutを受光し、その受光結果に基づいて、水溶性保護膜Pの厚さEに応じた反射強度Fの変化を表す反射強度マップを作成する。反射強度マップは、異なる厚さEの水溶性保護膜Pのそれぞれに所定の角度θで所定の波長λ(波数)の赤外光IRを照射したときの、複数の水溶性保護膜Pの厚さE(E1〜En)と反射光IRoutの反射強度F(F1〜Fn)とが1対1で対応付けられたマップデータである。反射強度マップを作成するときの所定の角度θは、0[°]〜60[°]から選択される。また、反射強度マップは、波数が700[cm−1]以上4000[cm−1]以下の範囲において作成され、少なくとも1700±100[cm−1]又は2900±200[cm−1]における反射強度マップが作成される。制御手段60は、作成した反射強度マップを記憶する。
水溶性保護膜Pの厚さEが厚くなると、水溶性保護膜Pに照射された赤外光IRは水溶性保護膜Pに吸収されるため、反射光IRoutの反射強度Fは小さくなる。水溶性保護膜Pの厚さEが薄くなると、水溶性保護膜Pに照射された赤外光IRが水溶性保護膜Pに吸収される光エネルギーは少なくなるため、反射光IRoutの反射強度Fは大きくなる。制御手段60によって、水溶性保護膜Pの厚さEに応じた反射強度Fの変化を表す反射強度マップが作成される。
上述のように、反射強度マップは、水溶性保護膜Pの厚さEがゼロのときの反射強度Fを含む。すなわち、水溶性保護膜Pが形成されていないリファレンスRに赤外光IRを照射して、厚さEがゼロに対応する反射強度Fも取得される。
反射強度マップを作成する場合、水溶性保護膜Pが被覆されていない第2領域R2がリファレンスとして用いられてもよい。制御手段60は、第i厚さEiの水溶性保護膜Piが形成されたリファレンスRiの第1領域R1の複数の位置Aに赤外光IRを順次照射し、その第1領域R1からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi1を検出するとともに、そのリファレンスRiの第2領域R2の複数の位置Bに赤外光IRを順次照射し、その第2領域R2からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi2を検出し、第1領域R1からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi1の平均値と、第2領域R2からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi2の平均値とに基づいて、水溶性保護膜Piの第i厚さEiに応じた反射強度Fiが取得されてもよい。例えば、制御手段60は、第1領域R1からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi1の平均値と、第2領域R2からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi2の平均値との差を、第i厚さEiに対応する反射強度Fiとしてもよいし、第1領域R1からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi1の平均値と、第2領域R2からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi2の平均値との中間値を、第i厚さEiに対応する反射強度Fiとしてもよい。
次に、閾値決定ステップST13について説明する。閾値決定ステップST13においては、水溶性保護膜Pが所定の厚さEに被覆されているか否かを判定する基準となる所定反射強度Cが、水溶性保護膜P中のC−H結合に由来する2900±200[cm−1]又はC=O結合に由来する1700±100[cm−1]における反射強度Fから導出される。
本実施形態において、制御手段60は、反射強度マップ形成ステップST12で作成した反射強度マップに基づいて、複数の厚さEのそれぞれについて、その厚さEに対応する所定反射強度Cを、2900±200[cm−1]又は1700±100[cm−1]における反射強度Fから求める。
例えば、制御手段60は、第i厚さEiに対応する所定反射強度Ciを求める場合、第i厚さEiの水溶性保護膜Piに2900±200[cm−1]又は1700±100[cm−1]の赤外光IRを照射し、その水溶性保護膜Piからの反射光IRoutの反射強度Fiを、第i厚さEiに対応する所定反射強度Ciとする。
制御手段60は、複数の厚さE(E0〜En)の水溶性保護膜Pのそれぞれについて、所定反射強度C(C0〜Cn)を求める。
第i厚さEiに対応する所定反射強度Ciを求める場合、制御手段60は、第i厚さEiの水溶性保護膜Piの複数の位置Aに赤外光IRを順次照射し、その水溶性保護膜Piからの複数の反射光IRoutの反射強度Fiの平均値を、第i厚さEiに対応する所定反射強度Ciとしてもよい。
第i厚さEiに対応する所定反射強度Ciを求める場合、水溶性保護膜Pが被覆されていない第2領域R2がリファレンスとして用いられてもよい。制御手段60は、第i厚さEiの水溶性保護膜Piが形成されたリファレンスRiの第1領域R1の複数の位置Aに赤外光IRを順次照射し、その第1領域R1からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi1を検出するとともに、そのリファレンスRiの第2領域R2の複数の位置Bに赤外光IRを順次照射し、その第2領域R2からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi2を検出し、第1領域R1からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi1の平均値と、第2領域R2からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi2の平均値とに基づいて、第i厚さEiに対応する所定反射強度Ciを求めてもよい。例えば、制御手段60は、第1領域R1からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi1の平均値と、第2領域R2からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi2の平均値との差を、第i厚さEiに対応する所定反射強度Ciとしてもよいし、第1領域R1からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi1の平均値と、第2領域R2からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi2の平均値との中間値を、第i厚さEiに対応する所定反射強度Ciとしてもよい。
次に、判定ステップST2について説明する。判定ステップST2においては、水溶性保護膜Pが被覆された被加工物Sが検出装置10の保持テーブル20に保持され、その被加工物Sの表面に形成された水溶性保護膜Pが所定の厚さEに形成されているかどうかが判定される。判定ステップST2においては、水溶性保護膜Pの有無のみならず、水溶性保護膜Pの厚さEが判定される。
判定ステップST2において、図3等を参照して説明した、水溶性保護膜Pが被覆された検出対象物の被加工物Sが検出装置10の保持テーブル20に保持される。保持テーブル20は、被加工物Sの表面に被覆された水溶性保護膜Pと赤外光照射部30及び赤外光受光部40とが対向するように、被加工物Sを保持する。
保持テーブル20に被加工物Sが保持された後、制御手段60は、被加工物Sの表面に赤外光IRを照射して、被加工物Sの表面からの反射光IRoutの反射強度Fを取得する。制御手段60は、設定ステップST11で導出された所定の角度θで、赤外光IRを、リファレンスRの位置Aに対応する被加工物Sの位置に照射し、その位置からの赤外光IRの反射光IRoutの反射強度Fを取得し記憶する。リファレンスRの位置Aが複数設定されている場合、制御手段60は、その複数の位置Aのそれぞれに対応する被加工物Sの複数の位置に所定の角度θで赤外光IRを順次照射して、それら複数の位置からの赤外光IRの反射光IRoutの反射強度Fを取得する。
制御手段60は、水溶性保護膜Pが被覆された被加工物Sの表面の位置Aに所定の角度θで赤外光IRを照射し反射光IRoutを受光して、反射強度Fと所定反射強度Cとを比較することにより、所定の厚さEに水溶性保護膜Pが被覆されているか否かを判定する。
制御手段60は、2900±200[cm−1]又は1700±100[cm−1]における反射光IRoutの反射強度Fを取得し、取得した反射強度Fを閾値決定ステップST13で求めた所定反射強度Cと比較する。制御手段60は、取得した反射強度Fと、第i厚さEiにおける所定反射強度Ciとを比較し、反射強度Fと所定反射強度Ciとの差が予め定められた所定値以下の場合、その水溶性保護膜Pの厚さEは、第i厚さEiであると判定する。制御手段60は、反射強度マップに基づいて、取得した反射強度Fに最も近い所定反射強度Cを特定し、その所定反射強度Cに対応する厚さEを、水溶性保護膜Pの厚さEであると判定する。
また、被加工物Sの表面の複数の位置に赤外光IRが照射される場合、制御手段60は、被加工物Sの表面の複数の位置それぞれからの反射光IRoutの反射強度Fと、所定反射強度Cとを比較することにより、水溶性保護膜Pの厚さ分布を導出することができる。
所定反射強度Cは、厚さEがゼロ(水溶性保護膜Pが被覆されていない)状態のときの反射強度F0を含む。制御手段60は、厚さEがゼロに対応する所定反射強度C0に基づいて、水溶性保護膜Pの有無も判定することができる。制御手段60は、被加工物Sの表面の全ての位置からの反射強度Fと所定反射強度C0とに基づいて、被加工物Sの表面全体に水溶性保護膜Pが被覆されているか否かを検出し、保護膜検出処理を終了する。
判定ステップST2において、被加工物Sの表面に水溶性保護膜Pが形成されていないと判定された場合、又は、被加工物Sの表面に形成された水溶性保護膜Pが目標の厚さよりも薄い又は厚いと判定された場合、被加工物Sの水溶性保護膜Pが保護膜被覆装置100により除去される。被加工物Sから水溶性保護膜Pが除去された後、保護膜被覆装置100による被覆条件(形成条件)が変更された上で、再度、被加工物Sの表面に水溶性保護膜Pを被覆する処理が実施される。その後、上述と同様の手順で、水溶性保護膜Pの有無及び厚さEが検出される。
なお、本実施形態においては、被加工物Sの表面にはバンプBPが形成されている例について説明した。図9に示すように、水溶性保護膜Pが検出される被加工物Sは、デバイスDの表面に導電性の金属で構成されるパターンPTが形成されている被加工物Sでもよい。パターンPTは、デバイスDの表面から突出している。このように、本発明の保護膜検出方法は、表面にバンプBPやパターンPTが形成された被加工物Sに水溶性保護膜Pが被覆されているか否かを検出する方法である。図9に示す例においても、保護膜被覆装置100による水溶性保護膜Pの被覆状況を、精度良く確認することができる。
次に、本発明の保護膜検出方法の閾値決定ステップST13において、所定反射強度Cを求める際に用いる赤外光IRの波長λと角度θの臨界的な意義、及び所定反射強度Cを波数が2900±200[cm−1]及び1700±100[cm−1]である波長域の赤外光IRの反射強度Fに基づいて求める意義について説明する。
図10は、FT―IR分光光度計(パーキンエルマー社製)を用いて取得された反射強度の結果を示す図である。図10は、赤外光IRの角度θを10[°]とし、バンプBPを有する被加工物Sに形成される水溶性保護膜Pの厚さEを変化させたときの、各波長(波数が700[cm−1]以上4000[cm−1]以下の範囲)におけるリファレンスRからの反射光IRoutの反射強度に対する被加工物Sの水溶性保護膜Pからの反射光IRoutの反射強度を示す図である。図11は、赤外光IRの角度θを10[°]とし、パターンPTを有する被加工物Sに形成される水溶性保護膜Pの厚さEを変化させたときの、各波長(波数が700[cm−1]以上4000[cm−1]以下の範囲)におけるリファレンスRからの反射光IRoutの反射強度に対する被加工物Sの水溶性保護膜Pからの反射光IRoutの反射強度を示す図である。
図12は、赤外光IRの角度θを80[°]とし、バンプBPを有する被加工物Sに形成される水溶性保護膜Pの厚さEを変化させたときの、各波長(波数が700[cm−1]以上4000[cm−1]以下の範囲)におけるリファレンスRからの反射光IRoutの反射強度に対する被加工物Sの水溶性保護膜Pからの反射光IRoutの反射強度を示す図である。図13は、赤外光IRの角度θを80[°]とし、パターンPTを有する被加工物Sに形成される水溶性保護膜Pの厚さEを変化させたときの、各波長(波数が700[cm−1]以上4000[cm−1]以下の範囲)におけるリファレンスRからの反射光IRoutの反射強度に対する被加工物Sの水溶性保護膜Pからの反射光IRoutの反射強度を示す図である。
図10から図13において、2000[rpm]の線は、水溶性保護膜Pの厚さEが1.2[μm]であることを示し、700[rpm]の線は、水溶性保護膜Pの厚さEが2.3[μm]であることを示し、600[rpm]の線は、水溶性保護膜Pの厚さEが2.7[μm]であることを示し、500[rpm]の線は、水溶性保護膜Pの厚さEが3.1[μm]であることを示し、300[rpm]の線は、水溶性保護膜Pの厚さEが5.0[μm]であることを示す(図7参照)。
図10から図13において、横軸は、波数を示し、縦軸は、リファレンスRからの反射強度を100[%]としたときの被加工物Sの水溶性保護膜Pからの反射強度である受光率を示す。図10から図13において、リファレンスRからの反射光IRoutの反射強度は、第2領域R2からの反射光IRoutの反射強度を含む。
図10及び図11に示すように、波数が2900±200[cm−1]又は1700±100[cm−1]の赤外光IRを用いる場合、リファレンスRからの反射光IRoutの反射強度に対して、被加工物Sからの反射光IRoutの反射強度が充分に小さくなり、これらの反射強度間に大きな差が生じる。C(炭素)は、ポリビニルアルコール(PVA)又はポリビニルピロリドン(PVP)を含む水溶性保護膜Pの骨格を構成し、水溶性保護膜PにはC−H結合及びC=O結合が多く含まれる。C−H結合は2900[cm−1](波長λ=3.45[μm]に対応)付近の赤外光IRを多く吸収し、C=O結合は1700[cm−1](波長λ=5.88[μm]に対応)付近の赤外光IRを多く吸収する。図10及び図11に示すように、波数が2900[cm−1]又は1700[cm−1]付近の赤外光IRの受光率のピークは急峻となる。そのため、波数が2900[cm−1]又は1700[cm−1]の赤外光IRを用いることにより、水溶性保護膜Pの有無及び厚さEを正確に検出できる。
また、水溶性保護膜PにはOH基も含まれる。OH基は波数が3400[cm−1](波長λ=2.94[μm]に対応)付近の赤外光IRを多く吸収する。そのため、水溶性保護膜Pの有無及び厚さEを、波数が3400[cm−1]付近の赤外光IRの反射強度を用いて判定することも可能である。しかし、2900[cm−1]又は1700[cm−1]付近の赤外光IRの受光率のピークは、3400[cm−1]付近の赤外光IRの受光率のピークよりも急峻であり、波数が3400[cm−1]付近の赤外光IRの反射強度を用いるよりも、2900[cm−1]又は1700[cm−1]付近の赤外光IRの反射強度を用いる方が、水溶性保護膜Pの有無及び厚さEをより正確に検出できる。2900[cm−1]又は1700[cm−1]付近の赤外光IRの反射強度(吸収ピーク)の少なくともいずれか一方と波数が3400[cm−1]付近の赤外光IRの反射強度(吸収ピーク)を用いて検出してもよい。複数の波数における反射強度(吸収ピーク)を用いて検出する方が検出の確度を高めることができる。
図12及び図13に示すように、角度θが80[°]のように大きい場合、2900±200[cm−1]又は1700±100[cm−1]付近の赤外光IRを用いても、リファレンスRからの反射光IRoutの反射強度と被加工物Sからの反射光IRoutの反射強度との差が殆ど生じず、受光率のピークが発生し難くなる。一方、図10及び図11に示したように、角度θが10[°]のように小さい場合、リファレンスRからの反射光IRoutの反射強度に対して、被加工物Sからの反射光IRoutの反射強度を充分に小さくすることができ、これらの反射強度間に差を生じさせることができる。本発明者の知見によると、角度θを60[°]以下にすることにより、水溶性保護膜Pの有無及び厚さEの検出精度は維持される。なお、角度θを0[°]としてしまうと、検出装置10の構造が複雑化してしまう可能性がある。そのため、角度θを0[°]〜60[°]とすることにより、検出装置10の構造の複雑化を回避しつつ、水溶性保護膜Pを高精度に検出することができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、C−H結合に由来する2900±200[cm−1]又はC=O結合に由来する1700±100[cm−1]における反射光IRoutの反射強度Fを取得し、取得した反射強度Fを閾値決定ステップST13で求めた所定反射強度Cと比較することにより、被加工物Sにおける水溶性保護膜Pの有無及び厚さEを正確に検出することができる。
また、本実施形態によれば、水溶性保護膜Pの厚さEとその水溶性保護膜Pに赤外光IRが照射されたときの反射光IRoutの反射強度Fとの関係を示す反射強度マップが反射強度マップ形成ステップST12で作成されるので、判定ステップST2において被加工物Sの表面に形成された水溶性保護膜Pに赤外光IRを照射してその反射光IRoutの反射強度Fを取得することにより、その取得された反射強度Fと反射強度マップとに基づいて、被加工物Sに形成された水溶性保護膜Pの厚さEを精度良く検出することができる。
表面にバンプBPやパターンPTが形成された被加工物Sに水溶性保護膜Pを被覆する場合、それらバンプBPやパターンPTを十分に被覆するために、形成される水溶性保護膜Pの厚さEは厚いことが好ましい。また、被加工物Sの表面に形成される水溶性保護膜Pの厚さEが薄いと、アブレーション加工におけるレーザー光線の照射に起因してプラズマが発生し、水溶性保護膜Pが劣化する可能性がある。水溶性保護膜Pが形成されている場合でも、その水溶性保護膜Pの厚さEが薄いと、プラズマにより水溶性保護膜Pが破損して孔があき、デブリが付着し、デバイスDの品質が低下する可能性がある。本実施形態においては、被加工物Sの表面における水溶性保護膜Pの有無のみならず、水溶性保護膜Pの厚さEが検出される。そのため、判定ステップST2において、被加工物Sの表面に被覆された水溶性保護膜Pの厚さEが薄いと判定された場合には、水溶性保護膜Pが目標厚さになるように、水溶性保護膜Pの再被覆処理を実施することができる。
また、本実施形態においては、角度θが0[°]<θ≦60[°]の範囲に定められるので、水溶性保護膜Pの有無による反射強度の差を確実に確保でき、水溶性保護膜Pの有無及び厚さEを正確に検出することができる。
また、本実施形態においては、被加工物Sの表面の第1領域R1を水溶性保護膜Pで被覆し、第2領域R2を水溶性保護膜Pで被覆していないリファレンスRを用いる。検出対象物である被加工物Sを含むリファレンスRが用いられるので、水溶性保護膜Pの有無を正確に検出することができる。また、第1領域R1からの反射光IRoutの反射強度Fi1と、第2領域R2からの反射光IRoutの反射強度Fi2とに基づいて、反射強度マップの作成及び所定反射強度Cの導出が実施されることにより、水溶性保護膜Pの有無及び厚さEを正確に検出することができる。また、第1領域R1の複数の位置Aに赤外光IRを順次照射し、その第1領域R1からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi1を検出するとともに、第2領域R2の複数の位置Bに赤外光IRを順次照射し、その第2領域R2からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi2を検出し、第1領域R1からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi1の平均値と、第2領域R2からの複数の反射光IRoutの反射強度Fi2の平均値とに基づいて、反射強度マップの作成及び所定反射強度Cの導出が実施されることにより、リファレンスRとして用いる場所による反射強度のばらつきがあっても、そのばらつきによる影響を回避又は低減することができ、水溶性保護膜Pの被覆状況を精度良く確認することができる。
<第2実施形態>
第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
図14は、本実施形態に係る水溶性保護膜Pを検出する検出装置10−2の一例を示す図である。検出装置10−2の赤外光照射部30及び赤外光受光部40において、光学部品32,42は赤外光IRの向きを変更できない構造である。検出装置10−2の駆動手段50−2は、回転駆動部51と、保持テーブル20に保持された被加工物S及びリファレンスRの表面上の赤外光照射部30が赤外光IRを照射する位置を中心として、円弧上に赤外光照射部30及び赤外光受光部40を移動させる円弧駆動部52−2とを備える。入射光IRinと反射光IRoutとがなす角度θは、0[°]〜60[°]から選択される。
本実施形態に係る検出装置10−2においても、水溶性保護膜Pの被覆状況を精度良く確認することができる。
<第3実施形態>
第3実施形態について説明する。図15は、本実施形態に係る水溶性保護膜Pを検出する検出装置10−3の一例を示す図である。図16は、図15のX−X線矢視断面図である。図15に示すように、検出装置10−3の赤外光照射部30及び赤外光受光部40は、一本の光ファイバケーブル70を介して、赤外光IRを照射し、赤外光IRの反射光IRoutを受光する。本実施形態においては、図16に示すように、光ファイバケーブル70は、赤外光照射部30が射出する赤外光IRを保持テーブル20に保持された被加工物S及びリファレンスRに導く複数の照射用光ファイバ71と、被加工物S及びリファレンスRの表面で反射された赤外光IRの反射光IRoutを受光し赤外光受光部40まで導く受光用光ファイバ72と、照射用光ファイバ71及び受光用光ファイバ72を被覆する被覆部73とを備える。受光用光ファイバ72は、光ファイバケーブル70の中心に設けられ、複数の照射用光ファイバ71は、受光用光ファイバ72を中心とする周方向に間隔をあけて配置されている。本実施形態に係る検出装置10−3においては、角度θが極めて小さい。
本実施形態に係る検出装置10−3においても、水溶性保護膜Pの被覆状況を精度良く確認することができる。
なお、上述の各実施形態においては、水溶性保護膜P中のC−H結合に由来する2900±200[cm−1]又はC=O結合に由来する1700±100[cm−1]における反射強度Fを取得して、所定の厚さEに水溶性保護膜Pが被覆されているか否かを判定することとした。C−H結合に由来する2900±200[cm−1]における反射強度F、C=O結合に由来する1700±100[cm−1]における反射強度F、及びOH基に由来する3400[cm−1]における反射強度Fを併用して、所定の厚さEに水溶性保護膜Pが被覆されているか否かを判定してもよい。この場合においても、水溶性保護膜Pの有無及び厚さEを精度良く検出することができる。
なお、上述の各実施形態においては、異なる波長λと異なる複数の角度θとの複数の組み合わせのそれぞれで、リファレンスRの第1領域R1に赤外光IRを照射し反射光IRoutを受光して、反射光IRoutの反射強度Fを検出することとした。単一波長の赤外光IRを照射し、その単一波長の赤外光IRを照射したときに受光される反射強度Fが求められてもよい。
なお、上述の各実施形態においては、波数が700[cm−1]以上4000[cm−1]以下の赤外光IRの照射及び受光を実施することとした。波数が400[cm−1]以上10000[cm−1]以下の赤外光IRの照射及び受光が実施されてもよい。
なお、上述の各実施形態においては、保護膜被覆装置100と検出装置10とは別々の装置であることとした。保護膜被覆装置100に検出装置10の少なくとも一部が設けられてもよい。換言すれば、検出装置10の少なくとも一部が、保護膜被覆装置100と同じ空間に設置されてもよい。例えば、少なくとも赤外光照射部30、赤外光受光部40、及び赤外光照射部30と赤外光受光部40との距離を変更可能な直線駆動部52を備える検出装置(反射測定装置)が、図4を参照して説明した保護膜被覆装置100のスピンナーテーブル102の上方に設置されてもよい。そのスピンナーテーブル102の上方に設置された検出装置を用いて水溶性保護膜Pが被覆されているか否かが判定されてもよい。なお、その検出装置が、スピンナーテーブル102の上方の位置と、その上方の位置から水平方向に離れた退避位置との間で移動可能であれば、水溶性保護膜Pが塗布されるときには退避位置に退避し、水溶性保護膜Pを検出するときにスピンナーテーブル102の上方の位置に移動してもよい。保護膜被覆装置100に検出装置が設けられることにより、スピンナーテーブル102から被加工物Sを搬出することなく、水溶性保護膜Pが被覆されているか否かを検出することができる。したがって、その検出結果に基づいて、スピンナーテーブル102に被加工物Sを保持したまま、例えば、保護膜被覆装置100による水溶性保護膜Pの被覆処理又は除去処理を実施することができ、処理に要する時間を短縮することができる。
上述したように、レーザー加工装置によるアブレーション加工が実施される前に、被加工物Sの表面が水溶性保護膜Pで被覆される。レーザー加工装置に検出装置10の少なくとも一部が設けられてもよい。換言すれば、検出装置10の少なくとも一部が、レーザー加工装置と同じ空間(レーザー加工装置の近傍)に設置されてもよい。例えば、レーザー加工装置が、被加工物Sを保持するチャックテーブルを有する場合、少なくとも赤外光照射部30、赤外光受光部40、及び赤外光照射部30と赤外光受光部40との距離を変更可能な直線駆動部52を備える検出装置(反射測定装置)が、レーザー加工装置のチャックテーブルの上方に設置されてもよい。そのチャックテーブルの上方に設置された検出装置を用いて水溶性保護膜Pが被覆されているか否かが判定されてもよい。なお、その検出装置が、チャックテーブルの上方の位置と、その上方の位置から水平方向に離れた退避位置との間で移動可能であれば、水溶性保護膜Pを検出するときにチャックテーブルの上方の位置に移動し、レーザー光線によるアブレーション加工が実施されるときには退避位置に退避してもよい。
なお、上述の各実施形態においては、リファレンスRが、水溶性保護膜Pが形成された第1領域R1と水溶性保護膜Pが形成されていない第2領域R2とを有することとした。表面の全域が水溶性保護膜Pで被覆された被加工物SがリファレンスRとして使用されてもよい。
なお、上述の各実施形態においては、リファレンスRが検出対象物である被加工物Sを含むこととした。リファレンスRは被加工物Sを含まなくてもよく、例えば、表面に水溶性保護膜Pが形成されたミラーシリコンがリファレンスRとして使用されてもよい。ミラーシリコンとは、表面が鏡面状に形成され且つ金などで構成された円板である。
なお、上述の各実施形態において、設定ステップST11及び反射強度マップ形成ステップST12の少なくとも一方で取得された反射強度は、実際の反射強度の観測値でもよいし、金ミラーでの反射強度によって規格化された値でもよい。金ミラーでの反射強度によって規格化された値とは、[実際の反射強度/金ミラーでの反射強度]の演算から導出される値をいう。