本発明の酢酸の製造方法は、酢酸の製造プロセスにおいて、プロセス内で発生するオフガスの少なくとも一部を吸収塔に供給し、酢酸よりも高沸点の有機酸を含む吸収剤と接触させて上記オフガス中のヨウ素化合物を上記吸収剤に吸収させ、上記オフガスよりもヨウ素化合物濃度が低減されたガス分と上記吸収剤及びヨウ素化合物を含む溶液とに分離する吸収工程を備える。なお、本明細書において、上記吸収工程を「本発明の吸収工程」と称する場合がある。
本発明の酢酸の製造方法では、酢酸の製造プロセス内で発生する全てのオフガスのうちの少なくとも一部を直接又は間接的に吸収塔に供給して本発明の吸収工程に付す。本発明の吸収工程に付すオフガスとしては、例えば、後述の反応工程における反応槽からの排出ガス、蒸発工程における蒸発槽からの排出ガス、分離工程における蒸留塔からの排出ガス、アセトアルデヒド分離除去システムにおける蒸留塔からの排出ガスなどが挙げられる。
本発明の吸収工程は、プロセス内で発生するオフガスを吸収剤と接触(特に向流接触)させてオフガス中のヨウ素化合物を吸収剤に吸収させ、上記オフガスよりもヨウ素化合物濃度が低減されたガス分と吸収剤及びヨウ素化合物を含む溶液とに分離する工程である。具体的には、オフガスを吸収工程を行う吸収塔に連続的に導入し、一方オフガス供給位置よりも吸収塔内上部に位置するラインを通じて吸収剤を吸収塔に連続的に導入し、塔内を上昇するオフガスと下降する吸収剤とを向流接触させ、オフガス内のヨウ素化合物を吸収剤に吸収させる。そして、上記オフガスよりもヨウ素化合物濃度が低減されたガス分と、ヨウ素化合物及び吸収剤を含む溶液とに分離される。
本発明の吸収工程は、1つの吸収塔で行ってもよいし、2以上の吸収塔で行ってもよい。例えば2以上のプロセスからのオフガスを吸収工程に付す場合、オフガス中の成分組成や圧力などが異なるため、2以上の吸収塔(例えば高圧吸収塔と低圧吸収塔)を用いて吸着法で吸収工程を行ってもよい。また、例えば、オフガスから2以上のヨウ素化合物を効率よく分離したい場合、2以上の吸収塔を直列に配置し、それぞれの吸収塔で使用する吸収剤の組成を異なるものとしてそれぞれの吸収塔において異なるヨウ素化合物を吸収する吸収工程を行ってもよい。
本発明の吸収工程で吸収剤に吸収させる上記ヨウ素化合物としては、プロセス内に存在するヨウ素化合物、例えば、ヨウ化水素;ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化ヘキシル等のヨウ化アルキルなどが挙げられる。中でも、吸収剤により吸収させるヨウ素化合物としては、蒸留塔内部を腐食させることがあるヨウ化水素、反応工程で使用することができる有用成分であるヨウ化メチルが好ましい。吸収工程でヨウ化水素を吸収させる場合、ガス分中のヨウ化水素濃度は極めて低くなり、下流にさらなる吸収工程を備える場合は当該吸収工程を行う吸収塔内部の腐食や、後述の放散工程で上記溶液を蒸留する際に蒸留塔内部の腐食が起こりにくく、当該吸収塔や蒸留塔に低級材質を用いることができる。また、吸収工程でヨウ化メチルを吸収させる場合、後述の放散工程で上記溶液を蒸留することで、ヨウ化メチルを分離取得することができ、反応槽にリサイクルしてヨウ化メチルを反応工程で再利用することができる。吸収工程で吸収するヨウ素化合物は、一種のみであってもよいし、二種以上であってもよい。
本発明の吸収工程では、吸収剤として酢酸よりも高沸点の有機酸を用いる。吸収剤として酢酸よりも高沸点の有機酸を用いることにより、ヨウ化メチルと上記有機酸の沸点差が大きいため、上流によりヨウ化メチルの分離を行う工程(放散工程)において、吸収剤として酢酸を用いる場合よりも分離効率に優れる。このため、酢酸を用いる場合と同程度まで蒸留塔の還流比を高くして分離効率を向上させる必要はなく、蒸留塔のリボイラーで使用する蒸気量を抑えることができ、省エネルギーとすることができる。上記有機酸は、一種のみを含んでいてもよいし、二種以上を含んでいてもよい。
上記酢酸よりも高沸点の有機酸としては、炭素数3以上のカルボン酸、炭化水素基置換スルホン酸などが挙げられる。炭素数3以上のカルボン酸としては、プロピオン酸、酪酸、吉草酸などが挙げられる。炭化水素基置換スルホン酸としては、メタンスルホン酸などが挙げられる。上記有機酸としては、取り扱い性に優れる観点、酢酸への影響が小さい観点などから、炭素数3以上のカルボン酸が好ましく、より好ましくはプロピオン酸である。上記吸収剤は、上記有機酸を一種のみ含んでいてもよいし、二種以上を含んでいてもよい。
上記有機酸は、大気圧下における沸点が、酢酸よりも高く、250℃以下(好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは190℃以下であり、さらに好ましくは180℃以下、さらに好ましくは170℃以下、さらに好ましくは160℃以下、特に好ましくは150℃以下)の有機酸であることが好ましい。また、上記沸点の下限は、ヨウ化メチルとの沸点差が大きくヨウ化メチル分離効率により優れる観点から、例えば120℃、好ましくは125℃、より好ましくは130℃である。上記有機酸としては、中でも、プロピオン酸が好ましい。
上記吸収剤は、上記有機酸以外の成分を含んでいてもよい。例えば、メタノール等のアルコール、酢酸メチル等のカルボン酸エステル、酢酸、ギ酸等の酢酸よりも沸点の低い有機酸、エーテル、ケトン、水、アルカリ性水溶液、炭化水素、その他酢酸の製造プロセスで使用若しくは形成される不純物などが挙げられる。
上記吸収剤中の上記有機酸の濃度は、例えば10質量ppm以上、好ましくは20質量ppm以上、より好ましくは50質量ppm以上、さらに好ましくは100質量ppm以上、特に好ましくは200質量ppm以上であり、300質量ppm以上、400質量ppm以上、500質量ppm以上、1000質量ppm以上、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であってもよい。また、上記濃度の上限は、100質量%であるが、99.999質量%、99.99質量%、99.9質量%、99.5質量%、99質量%、98質量%であってもよい。また、上記吸収剤中のプロピオン酸濃度が上記範囲内であってもよい。
ヨウ化水素は、分子状ヨウ化水素、及び少なくとも一部が極性媒体(通常少なくとも水を含む媒体)中でイオン化されている場合は解離ヨウ化水素酸の両方を含み、この2つは互換性がある。本明細書において、ヨウ化水素濃度は、電位差滴定法により求めてもよいし、全イオン性ヨウ化物から減じることによって求められる減算法により求めてもよい。
電位差滴定法では、酸−塩基滴定によって電位差滴定終点を用いて求められる。特に、ヨウ化水素濃度は、標準的な酢酸リチウム溶液などを用いて電位差滴定終点まで滴定することによって求められる。減算法は、腐食金属又は他の非水素カチオンの測定に関係すると推定されるヨウ化物の濃度を、試料中に存在する全イオン性ヨウ化物から減じることによって求める方法である。
減算法により求められる上記溶液中のヨウ化水素濃度は、例えば0.01質量ppm以上であり、0.1質量ppm以上、1質量ppm以上、10質量ppm以上、50質量ppm以上、100質量ppm以上、200質量ppm以上、300質量ppm以上、400質量ppm以上、500質量ppm以上、600質量ppm以上、700質量ppm以上、800質量ppm以上、900質量ppm以上、1000質量ppm以上、2000質量ppm以上、3000質量ppm以上、4000質量ppm以上、5000質量ppm以上、6000質量ppm以上、7000質量ppm以上、8000質量ppm以上、9000質量ppm以上、1質量%以上であってもよい。上記ヨウ化水素濃度は、例えば10質量%以下であり、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、1質量%未満、5000質量ppm以下、3000質量ppm以下であってもよい。
電位差滴定法により求められる上記溶液中のヨウ化水素濃度は、例えば0.01質量ppm以上であり、0.1質量ppm以上、1質量ppm以上、10質量ppm以上、50質量ppm以上、100質量ppm以上、200質量ppm以上、300質量ppm以上、400質量ppm以上、500質量ppm以上、600質量ppm以上、700質量ppm以上、800質量ppm以上、900質量ppm以上、1000質量ppm以上、2000質量ppm以上、3000質量ppm以上、4000質量ppm以上、5000質量ppm以上、6000質量ppm以上、7000質量ppm以上、8000質量ppm以上、9000質量ppm以上、1質量%以上であってもよい。上記ヨウ化水素濃度は、例えば5質量%以下であり、好ましくは2質量%以下である。上記ヨウ化水素濃度は、例えば10質量%以下であり、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、1質量%未満、5000質量ppm以下、3000質量ppm以下であってもよい。
上記溶液中のヨウ化メチル濃度は、例えば1質量ppm以上であり、10質量ppm以上、100質量ppm以上、1000質量ppm以上、5000質量ppm以上、1質量%以上であってもよい。上記ヨウ化メチル濃度は、例えば20質量%以下(例えば15質量%以下)であり、好ましくは10質量%以下(例えば8質量%以下)である。
本発明の酢酸の製造方法は、本発明の吸収工程以外のその他の吸収工程を備えていてもよい。その他の吸収工程は、吸収剤として上記有機酸以外の成分を用いること以外は本発明の吸収工程と同様である。
本発明の酢酸の製造方法は、吸収工程で得られた溶液を蒸留に付す蒸留工程(放散工程)を有していてもよい。放散工程では、上記溶液を蒸留に付して、上記吸収剤よりも低沸成分に富むオーバーヘッド流と上記吸収剤に富む缶出流とに分離する。放散工程を有する場合、有用成分と上記吸収剤に富む缶出流とに分離できるため、有用成分は反応槽へリサイクルし、分離された吸収剤は吸収工程の吸収剤として再利用することができ、経済性に優れる。
放散工程を行う蒸留塔の仕込液中のヨウ化メチル濃度は、例えば1質量ppm以上であり、10質量ppm以上、100質量ppm以上、1000質量ppm以上、5000質量ppm以上、1質量%以上であってもよい。上記ヨウ化メチル濃度は、例えば20質量%以下(例えば15質量%以下)であり、好ましくは10質量%以下(例えば8質量%以下)である。
減算法により求められる、放散工程を行う蒸留塔の仕込液中のヨウ化水素濃度は、例えば5質量%以下であり、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、1質量%未満、5000質量ppm以下、3000質量ppm以下、2000質量ppm以下、1000質量ppm以下、700質量ppm以下、500質量ppm以下、300質量ppm以下、200質量ppm以下、100質量ppm以下、100質量ppm未満、50質量ppm以下、30質量ppm以下、20質量ppm以下、10質量ppm以下、5質量ppm以下、3質量ppm以下、2質量ppm以下、1質量ppm以下であってもよい。上記ヨウ化水素濃度は、例えば0.0001質量ppm以上であり、0.001質量ppm以上、0.01質量ppm以上、0.1質量ppm以上、0.5質量ppm以上、1質量ppm以上であってもよい。
電位差滴定法により求められる、放散工程を行う蒸留塔の仕込液中のヨウ化水素濃度は、例えば5質量%以下であり、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、1質量%未満、5000質量ppm以下、3000質量ppm以下、2000質量ppm以下、1000質量ppm以下、700質量ppm以下、500質量ppm以下、300質量ppm以下、200質量ppm以下、100質量ppm以下、100質量ppm未満、50質量ppm以下、30質量ppm以下、20質量ppm以下、10質量ppm以下、5質量ppm以下、3質量ppm以下、2質量ppm以下、1質量ppm以下であってもよい。上記ヨウ化水素濃度は、例えば0.0001質量ppm以上であり、0.001質量ppm以上、0.01質量ppm以上、0.1質量ppm以上、0.5質量ppm以上、1質量ppm以上であってもよい。
放散工程で分離取得されるオーバーヘッド流に濃縮される低沸成分としては、ヨウ素化合物(ヨウ化メチル、ヨウ化水素等)、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、及びギ酸などが挙げられる。上記オーバーヘッド流がヨウ化メチル等の有用成分を含む場合、少なくとも一部を反応槽(反応工程)にリサイクルしてもよい。反応槽にリサイクルすることで、反応工程で有用成分を再利用することができ経済性に優れる。また、上記オーバーヘッド流を蒸発工程よりも下流の蒸留工程(脱低沸工程、脱水工程、脱高沸工程等)にリサイクルしてもよい。
なお、吸収工程に付されるオフガスが、後述の脱低沸工程からのオーバーヘッド流を凝縮させた凝縮液を貯留するためのデカンタからの排ガスである場合、放散工程からのオーバーヘッド流にはアセトアルデヒドを多く含むことがある。従って、放散工程からの上記オーバーヘッド流は、アセトアルデヒド分離除去システムに供給してもよく、アセトアルデヒド分離除去システムでアセトアルデヒド除去を行ってからデカンタを通じて反応槽にリサイクルしてもよい。
放散工程からの上記オーバーヘッド流中のヨウ化メチル濃度は、例えば5質量%以上であり、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上であってもよい。上記ヨウ化メチル濃度の上限は、例えば99.9質量%(例えば99質量%)、好ましくは98質量%(例えば95質量%)、より好ましくは93質量%(90質量%)であり、80質量%、70質量%、60質量%、50質量%、45質量%であってもよい。
放散工程で分離取得される蒸留塔塔底からの缶出流は、少なくとも一部を系外に連続的に排出してもよく、少なくとも一部を吸収塔に循環してもよい。また、上記缶出流の少なくとも一部を、反応工程、蒸発工程、蒸発工程よりも下流の精製工程などにリサイクルしてもよい。
以下、本発明の吸収工程を備えたスクラバーシステムの一実施形態について説明する。図1は、本発明におけるスクラバーシステムの一実施形態を示す概略フロー図の一例である。このスクラバーシステム8は、吸収塔81と、吸収塔82と、蒸留塔84とを備える。本実施形態の酢酸の製造方法では、吸収塔81,82において吸収工程が、蒸留塔84において放散工程がそれぞれ行われる。なお、吸収塔81及び82のうちの少なくとも一方、好ましくは両方で本発明の吸収工程が行われる。また、両吸収塔に用いられる吸収剤は同一であってもよいし異なっていてもよい。
吸収塔81は、オフガスのうちの高圧ガスからヨウ素化合物を吸収し回収する吸収工程を行うためのユニット(高圧吸収塔)である。この吸収工程は、高圧ガスを吸収剤と接触させて高圧ガス中のヨウ素化合物を吸収剤に吸収させ、上記高圧ガスよりもヨウ素化合物濃度が低減されたガス分と吸収剤及びヨウ素化合物を含む溶液とに分離する工程である。
具体的には、ライン58(高圧ガス供給ライン)を通じて高圧ガスが吸収塔81に連続的に導入され、一方高圧ガスの導入位置よりも上部に位置するライン59(吸収剤供給ライン)を通じて吸収剤を吸収塔81に連続的に導入され、塔内を上昇する高圧ガスと下降する吸収剤とを向流接触させ、高圧ガス内のヨウ素化合物を吸収剤に吸収させる。そして、上記高圧ガスよりもヨウ素化合物濃度が低減されたガス分と、ヨウ素化合物及び吸収剤を含む溶液とに分離され、吸収塔81塔頂からはライン60を通じて上記ガス分が、吸収塔81塔底からはライン61を通じて上記溶液がそれぞれ得られる。
上記高圧ガスとしては、例えば、反応槽(又は反応工程)からの排出ガスであり、反応槽から排出された排出ガスを、直接ライン58を通じて吸収塔81に供給してもよいし、反応槽から排出された排出ガスをコンデンサにより凝縮分が分離された非凝縮ガスをライン58を通じて吸収塔81に供給してもよい。吸収塔81に供給する前の吸収剤の温度は例えば1〜120℃であり、吸収剤が凍結せず、沸騰しない範囲内の温度である。
吸収塔81は、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。充填塔における充填物は、規則充填物、不規則充填物のいずれであってもよい。棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば1〜100段である。塔内圧力は例えば大気圧〜5MPaG(ゲージ圧)であり、通常反応槽内の圧力以下である。塔内温度は例えば1〜120℃程度である。
吸収塔82は、オフガスのうちの低圧ガスからヨウ素化合物を吸収し回収する吸収工程を行うためのユニット(低圧吸収塔)である。この吸収工程は、低圧ガスを吸収剤と接触させて低圧ガス中のヨウ素化合物を吸収剤に吸収させ、上記低圧ガスよりもヨウ素化合物濃度が低減されたガス分と吸収剤及びヨウ素化合物を含む溶液とに分離する工程である。
具体的には、ライン62(低圧ガス供給ライン)を通じて低圧ガスが吸収塔82に連続的に導入され、一方低圧ガスの導入位置よりも上部に位置するライン63(吸収剤供給ライン)を通じて吸収剤を吸収塔82に連続的に導入され、塔内を上昇する低圧ガスと下降する吸収剤とを向流接触させ、低圧ガス内のヨウ素化合物を吸収剤に吸収させる。そして、上記低圧ガスよりもヨウ素化合物濃度が低減されたガス分と、ヨウ素化合物及び吸収剤を含む溶液とに分離され、吸収塔82塔頂からはライン64を通じて上記ガス分が、吸収塔82塔底からはライン65を通じて上記溶液がそれぞれ得られる。
上記低圧ガスとしては、蒸発槽(又は蒸発工程)からの排出ガス、脱低沸塔(又は脱低沸工程)からの排出ガス、脱低沸塔からの低沸成分に富むオーバーヘッド流を凝縮して得られる凝縮液を貯留するためのデカンタからの排出ガス、脱水塔(又は脱水工程)からの排出ガス、脱高沸塔(又は脱高沸工程)からの排出ガスが挙げられる。これらの排出ガスは、直接ライン62を通じて吸収塔82に供給してもよいし、コンデンサにより凝縮分が分離された非凝縮ガスとしてライン62を通じて吸収塔82に供給してもよい。吸収塔82に供給する前の吸収剤の温度は、吸収塔81に供給する前の吸収剤の温度と同様である。
吸収塔81塔頂からのガス分(ライン60)及び吸収塔82塔頂からのガス分(ライン64)は、有用成分及びヨウ化水素が捕集及び除去されたガスであり、合流してライン69を通じて廃棄される。なお、ライン69あるいは合流前のライン60,64それぞれから排出されるガスは、後述する蒸発槽2の底部あるいは残液流リサイクルライン18,19へ導入するCO源として利用することができる。一方、吸収塔81塔底からの溶液(ライン61)及び吸収塔82塔底からの溶液(ライン65)は、合流してライン68aを通じて蒸留塔84に供給される。
蒸留塔84は、放散工程を行うためのユニットである。本実施形態における放散工程は、吸収塔塔底からの溶液(ライン68a)を蒸留に付して、有用成分(特にヨウ化メチル)に富むオーバーヘッド流と、吸収剤に富む缶出流とに分離する工程である。より具体的には、蒸留塔84に連続的に導入される溶液(ライン68a)を蒸留処理して有用成分(特にヨウ化メチル)に富むオーバーヘッド流と吸収剤に富む缶出液とに分離する。蒸留塔84の塔頂部からは、オーバーヘッド流としての蒸気がライン73に連続的に抜き取られる。蒸留塔84の塔底部からは、缶出液がライン74に連続的に抜き取られる。84bはリボイラーである。本発明の吸収工程では酢酸よりも沸点の高い有機酸を用いるため、蒸留塔84において蒸留する溶液には上記有機酸が含まれる。このため、上記有機酸とヨウ化メチルの沸点差が比較的大きいことに起因して蒸留塔84では分離が比較的容易であり、リボイラー84bで使用する蒸気量を削減することができ、省エネルギーとすることができる。
蒸留塔84は、例えば、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。蒸留塔84のオーバーヘッド流は、ライン73を通じてコンデンサ84aへと導入される。コンデンサ84aは、蒸留塔84からのオーバーヘッド流を冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分の一部を蒸留塔84に還流し、他の部分をライン73bから留出させる。なお、図1では凝縮分を蒸留塔84に還流する例を示したが、還流せずに全てをライン73bから留出してもよい。コンデンサ84aにより凝縮しなかった非凝縮のガスはライン73aを通じて、ライン62に合流して吸収塔82に循環されてもよく、廃棄されてもよく、若しくは、脱低沸塔、脱水塔、脱高沸塔などの蒸留塔の塔頂からのオーバーヘッド流を凝縮させるためのコンデンサ直前にリサイクルされてもよい。リサイクルされた非凝縮ガスは、その後、コンデンサにより凝縮分を除去された後、再びライン62から吸収塔82に循環されてもよい。
蒸留塔84塔頂からの有用成分(特にヨウ化メチル)に富むオーバーヘッド流(ライン73)は、反応槽、蒸発槽、蒸発槽よりも下流に位置する蒸留塔にリサイクルしてもよい。反応槽にリサイクルすることで、反応工程で有用成分(特にヨウ化メチル)を再利用することができ経済性に優れる。吸収工程に付されるオフガスがデカンタからの排ガスである場合、上記有用成分に富むオーバーヘッド流は吸収剤よりも低沸成分が濃縮されるためアセトアルデヒドを多く含むことがある。従って、上記有用成分に富むオーバーヘッド流は、アセトアルデヒド分離除去システムに供給してもよく、アセトアルデヒド分離除去システムでアセトアルデヒド除去を行ってからデカンタを通じて反応槽にリサイクルしてもよい。一方、蒸留塔84塔底からの缶出流(ライン74)は、その一部がライン75を通じて系外に連続的若しくはバッチ的に排出され、またライン76を通じて新たな吸収剤が連続的若しくはバッチ的に供給され、ライン68bを通じ吸収塔81,82に循環され、吸収工程における吸収剤として再利用される。なお、上記缶出流(ライン74)は、循環せずに全てを系外排出し、新たな吸収剤を吸収塔81,82に供給してもよい。また、上記缶出流(ライン74)の少なくとも一部(例えばライン75を通じて系外排出された溶液)は、反応槽、蒸発槽、蒸発槽よりも下流の蒸留塔(脱低沸塔、脱水塔、脱高沸塔等)などにリサイクルしてもよい。
蒸留塔84として棚段塔を採用する場合、蒸留に付す溶液の組成に依存するが、理論段は例えば1〜50段である。還流比は理論段数に応じて例えば3000以下(例えば0〜3000)であり、1000以下、500以下、300以下、100以下、50以下、30以下、20以下、10以下、5以下、3以下であってもよい。蒸留塔84の内部において、塔頂圧力は例えば1〜500kPaGに設定され、塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば10〜700kPaGに設定される。蒸留塔84の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での吸収剤の沸点より低い温度であって例えば40〜150℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点以上の温度であって118〜200℃(好ましくは120〜190℃、より好ましくは120〜180℃、さらに好ましくは120〜170℃)に設定される。
図2は本発明の吸収工程を有するスクラバーシステムの他の一実施形態を示す概略フロー図の一例である。この例では、吸収工程を吸収塔81のみで行い、吸収塔81塔頂からのガス分をライン60を通じて廃棄されるか、若しくは後述する蒸発槽2の底部あるいは残液流リサイクルライン18,19へ導入するCO源として利用される。一方、吸収塔81塔底からの溶液(ライン61)は蒸留塔84に供給される。これ以外は図1の例と同様である。
本発明の酢酸の製造方法は、プロセス内で発生するオフガスの少なくとも一部を吸収塔に供給し、第1吸収剤と接触させて上記オフガス中のヨウ素化合物を上記第1吸収剤に吸収させ、上記オフガスよりもヨウ素化合物濃度が低減された第1ガス分と上記第1吸収剤及びヨウ素化合物を含む第1溶液とに分離する第1吸収工程と、上記第1ガス分を、吸収塔において、上記第1吸収剤とは組成の異なる第2吸収剤と接触させて上記第1ガス分中のヨウ素化合物を上記第2吸収剤に吸収させ、上記第1ガス分よりもヨウ素化合物濃度が低減された第2ガス分と上記第2吸収剤及びヨウ素化合物を含む第2溶液とに分離する第2吸収工程と、を備えていてもよい。この場合、本発明の吸収工程は、第1及び第2吸収工程の少なくとも一方に含まれる。
第1及び第2吸収工程を備える場合、酢酸の製造プロセス内で発生する全てのオフガスのうちの少なくとも一部を吸収塔に供給し、第1及び第2吸収工程に付す。第1及び第2吸収工程に付すオフガスとしては、例えば、後述の反応工程における反応槽からの排出ガス、蒸発工程における蒸発槽からの排出ガス、分離工程における蒸留塔からの排出ガス、アセトアルデヒド分離除去システムにおける蒸留塔からの排出ガスなどが挙げられる。
第1及び第2吸収工程は、それぞれ、1つの吸収塔で行ってもよいし、2以上の吸収塔で行ってもよい。例えば2以上のプロセスからのオフガスを第1吸収工程に付す場合、オフガス中の成分組成や圧力などが異なるため、2以上の吸収塔(例えば高圧吸収塔と低圧吸収塔)を用いて吸着法で第1吸収工程を行ってもよい。また、第1及び第2吸収工程を単一の吸収塔で行ってもよい。
第2吸収剤は第1吸収剤と組成が異なる吸収剤である。例えば、一方の吸収剤に含まれない成分が他方の吸収剤に含まれる場合、両吸収剤で構成成分が同一であるものの少なくとも1つの成分の含有割合が異なる場合などが挙げられる。組成の異なる第1及び第2吸収剤の二種の吸収剤を用いて二段階で吸収工程を行うことにより、二種の吸収剤でヨウ化水素及びヨウ化メチルの溶解性が異なるため、一方の吸収剤を用いた吸収工程ではヨウ化水素及びヨウ化メチルのうちの一方が富化された溶液が、他方の吸収剤を用いた吸収工程ではヨウ化水素及びヨウ化メチルのうちの他方が上記溶液よりも富化された溶液がそれぞれ形成され、ヨウ化水素とヨウ化メチルを効率よく分離回収することができる。
第1吸収工程は、プロセス内で発生するオフガスを第1吸収剤と接触(特に向流接触)させてオフガス中のヨウ素化合物を第1吸収剤に吸収させ、上記オフガスよりもヨウ素化合物濃度が低減された第1ガス分と第1吸収剤及びヨウ素化合物を含む第1溶液とに分離する工程である。具体的には、オフガスを第1吸収工程を行う吸収塔に連続的に導入し、一方オフガス供給位置よりも吸収塔内上部に位置するラインを通じて第1吸収剤を吸収塔に連続的に導入し、塔内を上昇するオフガスと下降する第1吸収剤とを向流接触させ、オフガス内のヨウ素化合物を第1吸収剤に吸収させる。そして、上記オフガスよりもヨウ素化合物濃度が低減された第1ガス分と、ヨウ素化合物及び第1吸収剤を含む第1溶液とに分離される。なお、第1吸収工程は1の吸収塔で行ってもよく、2以上の吸収塔を用いて行ってもよい。
第2吸収工程は、第1吸収工程でヨウ素化合物濃度が低減された第1ガス分を第2吸収剤とを接触(特に向流接触)させ、第1ガス分よりもヨウ素化合物濃度が低減された第2ガス分と第2吸収剤及びヨウ素化合物を含む第2溶液とに分離する工程である。具体的には、第2吸収工程を行う吸収塔において、第1ガス分供給位置よりも吸収塔内上部に位置するラインを通じて第2吸収剤を吸収塔に連続的に導入し、塔内を上昇する第1ガス分と下降する第2吸収剤とを向流接触させ、第1ガス分内のヨウ素化合物を第2吸収剤に吸収させる。そして、第1ガス分よりもヨウ素化合物濃度が低減された第2ガス分と、ヨウ素化合物及び第2吸収剤を含む第2溶液とに分離される。なお、第2吸収工程は1の吸収塔で行ってもよく、2以上の吸収塔を用いて行ってもよい。第1吸収工程を2以上の吸収塔を用いて行う場合、上記2以上の吸収塔からの第1ガス分を合流させて第2吸収工程に付してもよく、上記2以上の吸収塔からの第1ガス分を1又は2以上の吸収塔にそれぞれ供給して第2吸収工程に付してもよい。また、第1及び第2吸収工程は単一の吸収塔で行ってもよく、2以上の異なる吸収塔を用いて行ってもよい。
第1及び第2吸収工程で吸収剤に吸収させる上記ヨウ素化合物としては、上述の本発明の吸収工程において吸収させるヨウ素化合物として例示されたものと同様である。中でも、ヨウ化水素、ヨウ化メチルが好ましい。特に、第1吸収工程で吸収させるヨウ素化合物がヨウ化水素であり、第2吸収工程で吸収させるヨウ素化合物がヨウ化メチルであることが好ましい。異なる吸収塔を用いて第1及び第2吸収工程を行う場合は、第1吸収工程でヨウ化水素を充分に吸収できると第1ガス分中のヨウ化水素濃度は極めて低くなり、第2吸収工程を行う吸収塔内部の腐食が起こりにくく、当該吸収塔に耐腐食性が低い材質(低級材質)を用いることができる。さらに、第2吸収工程に供給される第1ガス分中のヨウ化水素濃度が極めて低減されていると、第2吸収工程では第2吸収剤にヨウ化水素が吸収されることがほぼないため、得られる第2溶液中のヨウ化水素濃度も低くなり、後述の放散工程で第2溶液を蒸留する際に蒸留塔内部の腐食が起こりにくく、当該蒸留塔に低級材質を用いることができる。なお、第1及び第2吸収工程でそれぞれ吸収させるヨウ素化合物は、一種のみであってもよいし、二種以上であってもよい。
したがって、第1吸収剤及び第2吸収剤のうち、少なくとも一方が酢酸よりも沸点の高い酢酸を含み、他方が水又はアルカリ性水溶液を含むことが好ましい。すなわち、第1吸収工程及び第2吸収工程のうち、少なくとも一方が本発明の吸収工程であり、他方が水又はアルカリ性水溶液を含む吸収剤を用いる吸収工程であることが好ましい。第1若しくは第2吸収剤として水を用いた場合、ヨウ化水素の水への溶解性が高く、またアルカリ性水溶液を用いた場合は水への溶解性に加えヨウ化水素が中和されることで、ヨウ化水素を充分に吸収することができる。
特に、第1吸収剤は、ヨウ化水素の吸収性が高い観点から、水又はアルカリ性水溶液を含むことが好ましい。そして、第2吸収剤は、ヨウ化メチルの吸収性が高い観点から、酢酸よりも高沸点の有機酸を含むことが好ましい。この場合、第1吸収工程においては第1吸収剤によりオフガスからヨウ化水素を充分に回収でき、且つ第1吸収剤ではヨウ化メチルがほとんど吸収されず第2吸収工程で第2吸収剤によりヨウ化メチルを充分に回収できるため、ヨウ化水素とヨウ化メチルを効率よく分離回収することができる。このような第1及び第2吸収剤を用いた場合、第1吸収工程でヨウ化水素を、第2吸収工程でヨウ化メチルをそれぞれ選択的に回収・除去できるので、不要なヨウ化水素をほぼ含まないヨウ化メチルを回収でき、反応槽での再利用が容易である。また、第2吸収工程において吸収剤として使用した上記有機酸を蒸留に付して精製する際、省蒸気使用量、省エネルギーとすることができる。
酢酸よりも高沸点の有機酸を用いた吸収剤における当該有機酸の好ましい濃度は、上述の本発明の吸収工程において用いられる吸収剤における濃度と同様である。
上記の水を用いた吸収剤における水濃度は、例えば10質量ppm以上、好ましくは20質量ppm以上、より好ましくは50質量ppm以上、さらに好ましくは100質量ppm以上、特に好ましくは200質量ppm以上であり、300質量ppm以上、400質量ppm以上、500質量ppm以上、1000質量ppm以上、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であってもよい。また、上記濃度の上限は、100質量%であるが、99.999質量%、99.99質量%、99.9質量%、99.5質量%、99質量%、98質量%であってもよい。
減算法により求められる第1溶液中のヨウ化水素濃度は、例えば0.01質量ppm以上であり、0.1質量ppm以上、1質量ppm以上、10質量ppm以上、50質量ppm以上、100質量ppm以上、200質量ppm以上、300質量ppm以上、400質量ppm以上、500質量ppm以上、600質量ppm以上、700質量ppm以上、800質量ppm以上、900質量ppm以上、1000質量ppm以上、2000質量ppm以上、3000質量ppm以上、4000質量ppm以上、5000質量ppm以上、6000質量ppm以上、7000質量ppm以上、8000質量ppm以上、9000質量ppm以上、1質量%以上であってもよい。上記ヨウ化水素濃度は、例えば10質量%以下であり、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、5000質量ppm以下、3000質量ppm以下であってもよい。
電位差滴定法により求められる第1溶液中のヨウ化水素濃度は、例えば0.01質量ppm以上であり、0.1質量ppm以上、1質量ppm以上、10質量ppm以上、50質量ppm以上、100質量ppm以上、200質量ppm以上、300質量ppm以上、400質量ppm以上、500質量ppm以上、600質量ppm以上、700質量ppm以上、800質量ppm以上、900質量ppm以上、1000質量ppm以上、2000質量ppm以上、3000質量ppm以上、4000質量ppm以上、5000質量ppm以上、6000質量ppm以上、7000質量ppm以上、8000質量ppm以上、9000質量ppm以上、1質量%以上であってもよい。上記ヨウ化水素濃度は、例えば5質量%以下であり、好ましくは2質量%以下である。上記ヨウ化水素濃度は、例えば10質量%以下であり、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、5000質量ppm以下、3000質量ppm以下であってもよい。
第1溶液中のヨウ化メチル濃度は、例えば30質量%以下であり、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、5000質量ppm以下、2000質量ppm以下、1000質量ppm以下であってもよい。上記ヨウ化メチル濃度は、例えば10質量ppm以上(例えば50質量ppm以上)、好ましくは100質量ppm以上(例えば500質量ppm以上)、より好ましくは1000質量ppm以上(例えば2000質量ppm以上)である。
なお、複数の第1吸収工程を有する場合、第1溶液中の上記の各成分の濃度は、上記複数の第1吸収工程で分離取得される全ての第1溶液中の上記各成分の濃度である。
減算法により求められる第2溶液中のヨウ化水素濃度は、第1溶液中のヨウ化水素濃度よりも低いことが好ましく、例えば5質量%以下であり、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、1質量%未満、5000質量ppm以下、3000質量ppm以下、2000質量ppm以下、1000質量ppm以下、700質量ppm以下、500質量ppm以下、300質量ppm以下、200質量ppm以下、100質量ppm以下、100質量ppm未満、50質量ppm以下、30質量ppm以下、20質量ppm以下、10質量ppm以下、5質量ppm以下、3質量ppm以下、2質量ppm以下、1質量ppm以下、1質量ppm未満下であってもよい。上記ヨウ化水素濃度は、例えば0.0001質量ppm以上であり、0.001質量ppm以上、0.01質量ppm以上、0.1質量ppm以上、0.5質量ppm以上であってもよい。
電位差滴定法により求められる第2溶液中のヨウ化水素濃度は、第1溶液中のヨウ化水素濃度よりも低いことが好ましく、例えば5質量%以下であり、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、1質量%未満、5000質量ppm以下、3000質量ppm以下、2000質量ppm以下、1000質量ppm以下、700質量ppm以下、500質量ppm以下、300質量ppm以下、200質量ppm以下、100質量ppm以下、100質量ppm未満、50質量ppm以下、30質量ppm以下、20質量ppm以下、10質量ppm以下、5質量ppm以下、3質量ppm以下、2質量ppm以下、1質量ppm以下であってもよい。上記ヨウ化水素濃度は、例えば0.0001質量ppm以上であり、0.001質量ppm以上、0.01質量ppm以上、0.1質量ppm以上、0.5質量ppm以上であってもよい。
第2溶液中のヨウ化メチル濃度は、第1溶液中のヨウ化メチル濃度よりも高いことが好ましく、例えば1質量ppm以上であり、10質量ppm以上、100質量ppm以上、1000質量ppm以上、5000質量ppm以上、1質量%以上であってもよい。上記ヨウ化メチル濃度は、例えば20質量%以下(例えば15質量%以下)であり、好ましくは10質量%以下(例えば8質量%以下)である。
なお、複数の第2吸収工程を有する場合、第2溶液中の上記の各成分の濃度は、上記複数の第2吸収工程で分離取得される全ての第2溶液中の上記各成分の濃度である。
第1及び第2吸収工程を有する場合、第1吸収工程で得られた第1溶液及び/又は第2吸収工程で得られた第2溶液を蒸留に付す蒸留工程(放散工程)を有していてもよい。放散工程では、第1及び/又は第2溶液を蒸留に付して、第1及び/又は第2吸収剤よりも低沸成分に富むオーバーヘッド流と第1及び/又は第2吸収剤に富む缶出流とに分離する。放散工程を有する場合、有用成分と第1及び/又は第2吸収剤に富む缶出流とに分離できるため、有用成分は反応槽、蒸発槽、蒸留塔などへリサイクルし、分離された吸収剤は第1及び/又は第2吸収工程の吸収剤として再利用することができ、経済性に優れる。
放散工程で分離取得される蒸留塔塔底からの缶出流は、少なくとも一部を系外に連続的に排出してもよく、少なくとも一部を第1及び/又は第2吸収塔に循環してもよい。また、上記缶出流の少なくとも一部を、反応槽、蒸発槽、蒸発槽よりも下流の精製工程(蒸留工程)などにリサイクルしてもよい。その他の放散工程における好ましい態様は上述した通りである。
図3は、本発明における、第1及び第2吸収工程を備えたスクラバーシステムの一実施形態を示す概略フロー図の一例である。このスクラバーシステム8は、吸収塔81と、吸収塔82と、吸収塔83と、蒸留塔84とを備える。本実施形態の酢酸の製造方法では、吸収塔81,82それぞれにおいて第1吸収工程が、吸収塔83において第2吸収工程が、蒸留塔84において放散工程がそれぞれ行われる。
図3に示すスクラバーシステム8では、吸収塔81〜83のうちの少なくとも1つで本発明の吸収工程が行われる。第1吸収工程及び第2吸収工程のうちの少なくとも一方が本発明の吸収工程であることが好ましい。第1吸収工程が本発明の吸収工程である場合、吸収塔81及び82の両方における吸収工程が本発明の吸収工程であることが好ましい。吸収塔81,82で用いられる吸収剤は同一であってもよいし異なっていてもよい。
吸収塔81は、オフガスのうちの高圧ガスからヨウ素化合物を吸収し回収する第1吸収工程を行うためのユニット(高圧吸収塔)である。この第1吸収工程は、高圧ガスを第1吸収剤と接触させて高圧ガス中のヨウ素化合物を第1吸収剤に吸収させ、上記高圧ガスよりもヨウ素化合物濃度が低減された第1ガス分と第1吸収剤及びヨウ素化合物を含む第1溶液とに分離する工程である。
具体的には、ライン58(高圧ガス供給ライン)を通じて高圧ガスが吸収塔81に連続的に導入され、一方高圧ガスの導入位置よりも上部に位置するライン59(第1吸収剤供給ライン)を通じて第1吸収剤を吸収塔81に連続的に導入され、塔内を上昇する高圧ガスと下降する第1吸収剤とを向流接触させ、高圧ガス内のヨウ素化合物を第1吸収剤に吸収させる。そして、上記高圧ガスよりもヨウ素化合物濃度が低減された第1ガス分と、ヨウ素化合物及び第1吸収剤を含む第1溶液とに分離され、吸収塔81塔頂からはライン60を通じて第1ガス分が、吸収塔81塔底からはライン61を通じて第1溶液がそれぞれ得られる。
上記高圧ガスとしては、例えば、反応槽(又は反応工程)からの排出ガスであり、反応槽から排出された排出ガスを、直接ライン58を通じて吸収塔81に供給してもよいし、反応槽から排出された排出ガスをコンデンサにより凝縮分が分離された非凝縮ガスをライン58を通じて吸収塔81に供給してもよい。吸収塔81に供給する前の第1吸収剤の温度は例えば1〜120℃であり、第1吸収剤が凍結せず、沸騰しない範囲内の温度である。
吸収塔81は、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。充填塔における充填物は、規則充填物、不規則充填物のいずれであってもよい。棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば1〜100段である。塔内圧力は例えば大気圧〜5MPaGであり、通常反応槽内の圧力以下である。塔内温度は例えば1〜120℃程度である。
吸収塔82は、オフガスのうちの低圧ガスからヨウ素化合物を吸収し回収する第1吸収工程を行うためのユニット(低圧吸収塔)である。この第1吸収工程は、低圧ガスを第1吸収剤と接触させて低圧ガス中のヨウ素化合物を第1吸収剤に吸収させ、上記低圧ガスよりもヨウ素化合物濃度が低減された第1ガス分と第1吸収剤及びヨウ素化合物を含む第1溶液とに分離する工程である。
具体的には、ライン62(低圧ガス供給ライン)を通じて低圧ガスが吸収塔82に連続的に導入され、一方低圧ガスの導入位置よりも上部に位置するライン63(第1吸収剤供給ライン)を通じて第1吸収剤を吸収塔82に連続的に導入され、塔内を上昇する低圧ガスと下降する第1吸収剤とを向流接触させ、低圧ガス内のヨウ素化合物を第1吸収剤に吸収させる。そして、上記低圧ガスよりもヨウ素化合物濃度が低減された第1ガス分と、ヨウ素化合物及び第1吸収剤を含む第1溶液とに分離され、吸収塔82塔頂からはライン64を通じて第1ガス分が、吸収塔82塔底からはライン65を通じて第1溶液がそれぞれ得られる。
上記低圧ガスとしては、蒸発槽(又は蒸発工程)からの排出ガス、脱低沸塔(又は脱低沸工程)からの排出ガス、脱低沸塔からの低沸成分に富むオーバーヘッド流を凝縮して得られる凝縮液を貯留するためのデカンタからの排出ガス、脱水塔(又は脱水工程)からの排出ガス、脱高沸塔(又は脱高沸工程)からの排出ガスが挙げられる。これらの排出ガスは、直接ライン62を通じて吸収塔82に供給してもよいし、コンデンサにより凝縮分が分離された非凝縮ガスとしてライン62を通じて吸収塔82に供給してもよい。吸収塔82に供給する前の第1吸収剤の温度は、吸収塔81に供給する前の第1吸収剤の温度と同様である。
吸収塔82は、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。充填塔における充填物は、規則充填物、不規則充填物のいずれであってもよい。棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば1〜100段である。塔内圧力は例えば大気圧〜5MPaGであり、通常反応槽内の圧力以下である。塔内温度は例えば1〜120℃程度である。
吸収塔81塔頂からの第1ガス分(ライン60)及び吸収塔82塔頂からの第1ガス分(ライン64)は、合流してライン69を通じて第2吸収工程を行う吸収塔83に供給される。一方、吸収塔81塔底からの第1溶液(ライン61)及び吸収塔82塔底からの第1溶液(ライン65)は、合流してその一部がライン66を通じて系外に連続的若しくはバッチ的に排出され、またライン67を通じて新たな第1吸収剤が連続的若しくはバッチ的に供給され、ライン68を通じその後ライン59,63に分割して吸収塔81,82にそれぞれ循環され、第1吸収工程における第1吸収剤として再利用される。なお、第1溶液は、循環せずに全てを系外排出し、新たな第1吸収剤を吸収塔81,82に供給してもよい。また、第1溶液の少なくとも一部(例えばライン66を通じて系外排出された第1溶液)は、反応槽、蒸発槽、蒸留工程を行う蒸留塔にリサイクルしてもよい。例えば、第1吸収剤が水を含む場合、第1吸収剤によりヨウ化水素が効率的に吸収されるため、第1溶液のほとんどを第1吸収塔に循環して第1吸収剤として再利用し、ヨウ化水素が濃縮された場合はその一部を反応槽にリサイクルする。反応槽では水が一酸化炭素とのシフト反応(H2O+CO→H2+CO2)により消費されるためである。なお、第1溶液が水を多量に含む場合は反応槽で充分に消費されないことがあるため、反応槽へのリサイクルに代えて又は併せて、上記デカンタ内の水相、脱水塔、脱高沸塔にリサイクルしてもよい。この場合、例えばデカンタ内の水相、脱水塔塔頂、脱高沸塔塔頂に濃縮され、一部を反応槽にリサイクルし、他の一部を系外に排出する。また、図3では吸収塔81,82で同じ第1吸収剤を用いる例を説明したが、異なる第1吸収剤を用い、それぞれの第1吸収剤を循環、系外排出、リサイクルなどを行ってもよい。
吸収塔83は、第1吸収工程から排出された第1ガス分からヨウ素化合物を吸収し回収する第2吸収工程を行うためのユニット(通常は低圧吸収塔)である。この第2吸収工程は、第1ガス分を第2吸収剤と接触させて第1ガス分中のヨウ素化合物を第2吸収剤に吸収させ、上記第1ガス分よりもヨウ素化合物濃度が低減された第2ガス分と第2吸収剤及びヨウ素化合物を含む第2溶液とに分離する工程である。
具体的には、ライン69を通じて第1ガス分が吸収塔83に連続的に導入され、一方第1ガス分の導入位置よりも上部に位置するライン70(第2吸収剤供給ライン)を通じて第2吸収剤を吸収塔83に連続的に導入され、塔内を上昇する第1ガス分と下降する第2吸収剤とを向流接触させ、第1ガス分内のヨウ素化合物を第2吸収剤に吸収させる。そして、上記第1ガス分よりもヨウ素化合物濃度が低減された第2ガス分と、ヨウ素化合物及び第2吸収剤を含む第2溶液とに分離され、吸収塔83塔頂からはライン71を通じて第2ガス分が、吸収塔83塔底からはライン72を通じて第2溶液がそれぞれ得られる。吸収塔83に供給する前の第2吸収剤の温度は例えば1〜120℃であり、第2吸収剤が凍結せず、沸騰しない範囲内の温度である。
吸収塔83塔頂からの第2ガス分(ライン71)は、有用成分が捕集及び除去されたガスであり廃棄される。なお、ライン71から排出されるガスは、後述する蒸発槽2の底部あるいは残液流リサイクルライン18,19へ導入するCO源として利用することができる。一方、吸収塔83塔底からの第2溶液(ライン72)は蒸留塔84に供給される。
吸収塔83は、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。充填塔における充填物は、規則充填物、不規則充填物のいずれであってもよい。棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば1〜100段である。塔内圧力は例えば大気圧〜5MPaGであり、通常反応槽内の圧力以下である。塔内温度は例えば1〜120℃程度である。
蒸留塔84は、放散工程を行うためのユニットである。本実施形態における放散工程は、第2溶液を蒸留に付して、有用成分(特にヨウ化メチル)に富むオーバーヘッド流と、第2吸収剤に富む缶出流とに分離する工程である。蒸留塔84の塔頂部からは、オーバーヘッド流としての蒸気がライン73に連続的に抜き取られる。蒸留塔84の塔底部からは、缶出液がライン74に連続的に抜き取られる。84bはリボイラーである。
より具体的には、蒸留塔84に連続的に導入される第2溶液を蒸留処理して有用成分(特にヨウ化メチル)に富むオーバーヘッド流と第2吸収剤に富む缶出液とに分離する。蒸留塔84は、例えば、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。蒸留塔84のオーバーヘッド流は、ライン73を通じてコンデンサ84aへと導入される。コンデンサ84aは、蒸留塔84からのオーバーヘッド流を冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分の一部を蒸留塔84に還流し、他の部分をライン73bから留出させる。なお、図3では凝縮分を蒸留塔84に還流する例を示したが、還流せずに全てをライン73bから留出してもよい。コンデンサ84aにより凝縮しなかった非凝縮のガスはライン73aを通じて、ライン62に合流して吸収塔82に循環されてもよく、廃棄されてもよく、若しくは、脱低沸塔、脱水塔、脱高沸塔などの蒸留塔の塔頂からのオーバーヘッド流を凝縮させるためのコンデンサ直前にリサイクルされてもよい。リサイクルされた非凝縮ガスは、その後、コンデンサにより凝縮分を除去された後、再びライン再びライン62から吸収塔82に循環されてもよい。
蒸留塔84塔頂からの有用成分(特にヨウ化メチル)に富むオーバーヘッド流(ライン73)は、反応槽、蒸発槽、蒸発槽よりも下流の蒸留塔などにリサイクルしてもよい。反応槽にリサイクルすることで、反応工程で有用成分(特にヨウ化メチル)を再利用することができ経済性に優れる。第1吸収工程に付されるオフガスがデカンタからの排ガスである場合、上記有用成分に富むオーバーヘッド流は第2吸収剤よりも低沸成分が濃縮されるためアセトアルデヒドを多く含むことがある。従って、上記有用成分に富むオーバーヘッド流は、アセトアルデヒド分離除去システムに供給してもよく、アセトアルデヒド分離除去システムでアセトアルデヒド除去を行ってからデカンタを通じて反応槽にリサイクルしてもよい。一方、蒸留塔84塔底からの缶出流(ライン74)は、その一部がライン75を通じて系外に連続的若しくはバッチ的に排出され、またライン76を通じて新たな第2吸収剤が連続的若しくはバッチ的に供給され、ライン70を通じ吸収塔83に循環され、第2吸収工程における第2吸収剤として再利用される。なお、第2溶液は、循環せずに全てを系外排出し、新たな第2吸収剤を吸収塔83に供給してもよい。また、第2溶液の少なくとも一部(例えばライン75を通じて系外排出された第2溶液)は、反応槽、蒸発槽、脱低沸塔、脱水塔、脱高沸塔などにリサイクルしてもよい。
蒸留塔84として棚段塔を採用する場合の好ましい蒸留塔の条件は、図1に示す蒸留塔84における条件と同様である。
図4は第1及び第2吸収工程を有するスクラバーシステムの他の一実施形態を示す概略フロー図の一例である。この例では、第1吸収工程を吸収塔81のみで行い、吸収塔81塔頂からの第1ガス分をライン60を通じて第2吸収工程を行う吸収塔83に供給し、塔底から第1溶液をライン61を通じて抜き取り、その一部を系外に排出し(ライン66)、第1溶液に新たな第1吸収剤を供給し(ライン67)、ライン59を通じて第1吸収剤として再び吸収塔81に環流して再利用される。これ以外は図3の例と同様である。
図5は第1及び第2吸収工程を有するスクラバーシステムのさらに他の一実施形態を示す概略フロー図の一例である。この例では、第1及び第2吸収工程を単一の吸収塔85で行う。具体的には、第1吸収工程では、プロセス内のオフガスがライン77(オフガス供給ライン)を通じて吸収塔85に連続的に導入され、一方オフガスの導入位置よりも上部に位置するライン78(第1吸収剤供給ライン)を通じて第1吸収剤を吸収塔85に連続的に導入され、塔内を上昇するオフガスと下降する第1吸収剤とを向流接触させ、オフガス内のヨウ素化合物を第1吸収剤に吸収させる。そして、上記オフガスよりもヨウ素化合物濃度が低減された第1ガス分と、ヨウ素化合物及び第1吸収剤を含む第1溶液とに分離され、第1ガス分は吸収塔85内をさらに上昇し、第1溶液は吸収塔85塔底からライン79を通じて排出される。第2吸収工程では、第1ガス分は吸収塔85内で第1吸収剤の導入位置よりもさらに上昇し、一方吸収塔85塔頂付近のライン86を通じて第2吸収剤が連続的に導入され、塔内を上昇する第1ガス分と下降する第2吸収剤と向流接触させ、第1ガス分中のヨウ素化合物を第2吸収剤に吸収させる。そして、第1ガス分よりもヨウ素化合物濃度が低減された第2ガス分と、ヨウ素化合物及び第2吸収剤を含む第2溶液とに分離され、第2ガス分は吸収塔85塔頂からライン89を通じて抜き取られ、第2溶液は第2吸収剤の導入位置から降下する液を受けることのできるユニット(チムニートレイなど)87にて捕集されライン88から抜き取られる。吸収塔85からの第2溶液をライン88を通じて放散工程を行う蒸留塔84に供給し、塔底から第1溶液をライン79を通じて抜き取り、その一部を系外に排出し(ライン90)、第1溶液に新たな第1吸収剤を供給し(ライン90’)、ライン78を通じて第1吸収剤として吸収塔85に循環して再利用される。また、蒸留塔84塔底からの缶出流(ライン74)は、その一部がライン75を通じて系外に連続的若しくはバッチ的に排出され、またライン76を通じて新たな第2吸収剤が連続的若しくはバッチ的に供給され、ライン86を通じ吸収塔85に循環され、第2吸収工程における第2吸収剤として再利用される。これ以外は図3の例と同様である。すなわち、吸収塔85からの第2溶液は放散工程に供給されるが、第1及び/又は第2溶液をプロセス内の各所にリサイクルしてもよい。
本発明の酢酸の製造方法においては、酢酸の製造プロセスが、メタノールと一酸化炭素とを反応させて酢酸を生成させるカルボニル化反応工程と、上記カルボニル化反応工程で得られた反応混合物を、1以上の蒸発槽及び/又は蒸留塔を用いて、金属触媒を含む流れと、酢酸に富む酢酸流と、上記酢酸流よりも低沸成分に富む流れとに分離する分離工程と、を有していてもよい。上記分離工程は、例えば、上記カルボニル化反応工程で得られた反応混合物を蒸発槽において蒸気流と残液流とに分離する蒸発工程と、上記蒸気流を蒸留に付して、低沸成分に富むオーバーヘッド流と、酢酸に富む第1酢酸流とに分離する脱低沸工程と、を有することが好ましい。また、上記分離工程は、上記第1酢酸流を蒸留して、水に富むオーバーヘッド流と、第1酢酸流よりも酢酸が富化された第2酢酸流とに分離する脱水工程を有していてもよい。
なお、上記分離工程は、上記蒸発工程及び脱低沸工程に代えて、上記カルボニル化反応工程で得られた反応混合物を、上記触媒を含む流れと、上記低沸成分に富むオーバーヘッド流と、酢酸に富む第1酢酸流とに分離する工程(蒸発脱低沸工程)を備えていてもよい。また、上記分離工程は、上記脱低沸工程及び脱水工程に代えて、上記脱水工程の機能も備えた脱低沸工程(いわゆる脱低沸脱水工程)、すなわち、上記蒸気流を蒸留に付して、低沸成分に富むオーバーヘッド流と、上記第2酢酸流と同等の水濃度まで脱水された酢酸流とに分離する工程を備えていてもよい。よって、上記蒸発脱低沸工程は、上記脱水工程の機能も備えた工程(蒸発脱低沸脱水工程)であってもよい。脱低沸脱水工程及び蒸発脱低沸脱水工程から得られる酢酸に富む酢酸流は、上記第2酢酸流に相当する。
また、本発明の酢酸の製造方法は、さらに下記(a)〜(c)の少なくとも1つの工程を有していてもよい。
(a)上記第1若しくは第2酢酸流を蒸留して、高沸成分に富む缶出流と、蒸留に付す前の酢酸流よりも酢酸が富化された第3酢酸流とに分離する脱高沸工程
(b)上記第1若しくは第2若しくは第3酢酸流をイオン交換樹脂で処理して第4酢酸流を得る吸着除去工程
(c)上記第1若しくは第2若しくは第3若しくは第4酢酸流を蒸留して、蒸留に付す前の酢酸流よりも酢酸が富化された第5酢酸流を得る製品工程
また、本発明の酢酸の製造方法は、上記低沸成分に富む流れを凝縮して得られる凝縮液の少なくとも一部から、1以上の蒸留塔を用いてアセトアルデヒドを分離するアセトアルデヒド分離除去システムを有していてもよい。
このような本発明の酢酸の製造方法においては、反応槽からの排出ガス、蒸発槽からの排出ガス、上記分離工程における蒸留塔からの排出ガス、及び上記アセトアルデヒド分離除去システムにおける蒸留塔からの排出ガスからなる群より選択される1以上のオフガスを吸収塔に供給して本発明の吸収工程又は第1吸収工程に付すことが好ましい。
また、このような本発明の酢酸の製造方法においては、放散工程で分離取得されるヨウ化メチルに富むオーバーヘッド流を反応工程、蒸発工程、及び/又は蒸留工程にリサイクルしてもよい。ヨウ化メチルは反応槽における反応工程において有用に再利用することができるためである。
また、このような本発明の酢酸の製造方法においては、酢酸よりも高沸点の有機酸を含む吸収剤を用いた場合に放散工程で分離取得される上記有機酸に富む缶出流を、反応工程、蒸発工程、及び/又は蒸留工程にリサイクルしてもよい。中でも、脱水塔の仕込、若しくは脱高沸塔の仕込にリサイクルすることが好ましい。脱水塔では上記有機酸以外の高沸成分及び低沸成分を蒸留除去でき、また、脱高沸塔では上記有機酸を濃縮して缶出から除去できるためである。なお、吸収剤以外及び酢酸以外の不純物(例えば上記ヨウ素化合物など)が多くない場合は、製品酢酸に混入することも可能であり、反応槽、蒸発槽、脱低沸塔にリサイクルすることもできる。
また、このような本発明の酢酸の製造方法においては、水を含む吸収剤を用いた場合に吸収工程で得られる水を含む溶液を、上記反応槽、上記凝縮液を貯留するためのデカンタ、上記脱水塔、及び上記脱高沸塔からなる群より選択される1以上の装置にリサイクルすることが好ましい。反応槽では水が一酸化炭素のシフト反応(H2O+CO→H2+CO2)により消費されるためである。また、上記デカンタ内の水相にリサイクルした場合は当該水相とともに処理される。また、脱水塔にリサイクルした場合は脱水塔塔頂に水が濃縮され、脱高沸塔にリサイクルした場合は脱高沸塔塔頂に水が濃縮され、その後リサイクル若しくは廃棄処理される。
以下、本発明の酢酸の製造方法の一実施形態について説明する。図6は、酢酸製造システムの一実施形態を示す製造フロー図(メタノール法カルボニル化プロセス)の一例である。この酢酸製造フローに係る酢酸製造装置は、反応槽1と、蒸発槽2と、蒸留塔3と、デカンタ4と、蒸留塔5と、蒸留塔6と、イオン交換樹脂塔7と、スクラバーシステム8と、アセトアルデヒド分離除去システム9と、コンデンサ1a,2a,3a,5a,6aと、熱交換器2bと、リボイラー3b,5b,6bと、ライン11〜56、ポンプ57とを備え、酢酸を連続的に製造可能に構成されている。
本実施形態の酢酸の製造方法では、反応槽1、蒸発槽2、蒸留塔3、蒸留塔5、蒸留塔6、及びイオン交換樹脂塔7において、それぞれ、反応工程、蒸発工程(フラッシュ工程)、第1蒸留工程、第2蒸留工程、第3蒸留工程、及び吸着除去工程が行われる。第1蒸留工程は脱低沸工程、第2蒸留工程は脱水工程、第3蒸留工程は脱高沸工程ともいう。なお、本実施形態において、工程は上記に限らず、特に、蒸留塔5、蒸留塔(脱高沸塔)6、イオン交換樹脂塔7、アセトアルデヒド分離除去システム9(脱アセトアルデヒド塔など)の設備は付帯しない場合がある。また、後述するように、イオン交換樹脂塔7の下流に製品塔を設けてもよい。
反応槽1は、反応工程を行うためのユニットである。この反応工程は、下記の化学式(1)で示される反応(メタノールのカルボニル化反応)によって酢酸を連続的に生成させるための工程である。酢酸製造装置の定常稼働状態において、反応槽1内には、例えば撹拌機によって撹拌されている反応混合物が存在する。反応混合物は、原料であるメタノール及び一酸化炭素と、金属触媒と、助触媒と、水と、製造目的である酢酸と、各種の副生成物とを含み、液相と気相とが平衡状態にある。
CH3OH + CO → CH3COOH (1)
反応混合物中の原料は、液体状のメタノール及び気体状の一酸化炭素である。メタノールは、メタノール貯留部(図示略)からライン11を通じて反応槽1に所定の流量で連続的に供給される。一酸化炭素は、一酸化炭素貯留部(図示略)からライン12を通じて反応槽1に所定の流量で連続的に供給される。一酸化炭素は必ずしも純粋な一酸化炭素でなくてもよく、例えば窒素、水素、二酸化炭素、酸素等の他のガスが少量(例えば5質量%以下、好ましくは1質量%以下)含まれていてもよい。
反応混合物中の金属触媒は、メタノールのカルボニル化反応を促進するためのものであり、例えばロジウム触媒やイリジウム触媒を使用することができる。ロジウム触媒としては、例えば、化学式[Rh(CO)2I2]-で表されるロジウム錯体を使用することができる。イリジウム触媒としては、例えば化学式[Ir(CO)2I2]-で表されるイリジウム錯体を使用することができる。金属触媒としては金属錯体触媒が好ましい。反応混合物中の触媒の濃度(金属換算)は、反応混合物の液相(反応混合液)全体に対して、例えば200〜10000質量ppmであり、好ましくは300〜5000質量ppm、さらに好ましくは400〜2500質量ppmである。
助触媒は、上述の触媒の作用を補助するためのヨウ化物であり、例えば、ヨウ化メチルやイオン性ヨウ化物が使用される。ヨウ化メチルは、上述の触媒の触媒作用を促進する作用を示し得る。ヨウ化メチルの濃度は、反応混合物の液相全体に対して例えば1〜20質量%であり、好ましくは5〜15質量%である。イオン性ヨウ化物は、反応液中でヨウ化物イオンを生じさせるヨウ化物(特に、イオン性金属ヨウ化物)であり、上述の触媒を安定化させる作用や、副反応を抑制する作用を示し得る。イオン性ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどのアルカリ金属ヨウ化物などが挙げられる。反応混合物中のイオン性ヨウ化物の濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば1〜25質量%であり、好ましくは5〜20質量%である。また、例えばイリジウム触媒などを用いる場合は、助触媒として、ルテニウム化合物やオスミウム化合物を用いることもできる。これらの化合物の使用量は総和で、例えばイリジウム1モル(金属換算)に対して、0.1〜30モル(金属換算)、好ましくは0.5〜15モル(金属換算)である。
反応混合物中の水は、メタノールのカルボニル化反応の反応機構上、酢酸を生じさせるのに必要な成分であり、また、反応系の水溶性成分の可溶化のためにも必要な成分である。反応混合物中の水の濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば0.1〜15質量%であり、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1〜6質量%、さらに好ましくは1.5〜4質量%である。水濃度は、酢酸の精製過程での水の除去に要するエネルギーを抑制して酢酸製造の効率化を進めるうえでは15質量%以下が好ましい。水濃度を制御するために、反応槽1に対して所定流量の水を連続的に供給してもよい。
反応混合物中の酢酸は、酢酸製造装置の稼働前に反応槽1内に予め仕込まれた酢酸、及び、メタノールのカルボニル化反応の主生成物として生じる酢酸を含む。このような酢酸は、反応系では溶媒として機能し得る。反応混合物中の酢酸の濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば50〜90質量%であり、好ましくは60〜80質量%である。
反応混合物に含まれる主な副生成物としては、例えば酢酸メチルが挙げられる。この酢酸メチルは、酢酸とメタノールとの反応によって生じ得る。反応混合物中の酢酸メチルの濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば0.1〜30質量%であり、好ましくは1〜10質量%である。
反応混合物に含まれる副生成物としては、ヨウ化水素も挙げられる。このヨウ化水素は、上述のような触媒や助触媒が使用される場合、メタノールのカルボニル化反応の反応機構上、不可避的に生じることとなる。反応混合物中のヨウ化水素の濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば0.01〜2質量%である。
また、副生成物としては、例えば、水素、メタン、二酸化炭素、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、2−エチルクロトンアルデヒド、ジメチルエーテル、アルカン類、ギ酸、及びプロピオン酸、並びに、ヨウ化ヘキシル及びヨウ化デシルなどのヨウ化アルキル等が挙げられる。また、反応混合物には、装置の腐食により生じる鉄、ニッケル、クロム、マンガン、モリブデンなどの金属(以下、「腐食性金属」と称する場合がある)、及びその他の金属としてコバルトや亜鉛、銅などが含まれ得る。上記腐食性金属とその他の金属とを併せて「腐食金属等」と称する場合がある。
以上のような反応混合物が存在する反応槽1内において、反応温度は例えば150〜250℃に設定され、全体圧力としての反応圧力は例えば1.5〜3.5MPa(絶対圧)に設定され、一酸化炭素分圧は、例えば0.4〜1.8MPa(絶対圧)、好ましくは0.6〜1.6MPa(絶対圧)、さらに好ましくは0.9〜1.4MPa(絶対圧)に設定される。
装置稼働時の反応槽1内の気相部の蒸気には、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸、及びプロピオン酸などが含まれる。この蒸気は、反応槽1内からライン13を通じて抜き取ることが可能である。蒸気の抜き取り量の調節によって、反応槽1内の圧力を制御することが可能であり、例えば、反応槽1内の圧力は一定に維持される。反応槽1内から抜き取られた蒸気は、コンデンサ1aへと導入される。
コンデンサ1aは、反応槽1からの蒸気を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸、及びプロピオン酸などを含み、コンデンサ1aからライン14を通じて反応槽1へと導入され、リサイクルされる。ガス分は、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、及びギ酸などを含み、コンデンサ1aからライン15を通じてスクラバーシステム8へと供給される。
なお、図6では、コンデンサ2aからのガス分(ライン20)、コンデンサ3aからのガス分(ライン32)、コンデンサ5aからのガス分(ライン37)、及びコンデンサ6aからのガス分(ライン45)が全てライン15に合流してスクラバーシステム8へ供給されているが(パターンA)、コンデンサ1aからのガス分のみをライン15を通じてスクラバーシステム8に供給されてもよく、そしてコンデンサ3a,5a,6aからのガス分(ライン32,37,45)は全てライン20に合流してスクラバーシステム8に供給されてもよい(パターンB)。パターンAの場合、例えばコンデンサ1aからのガス分はライン15、及び、図2若しくは図4に示すスクラバーシステム8におけるライン58又は図5に示すスクラバーシステム8におけるライン77を通じて吸収塔81若しくは吸収塔85に供給される。パターンBの場合、例えばコンデンサ1aからのガス分はライン15及び図1若しくは図3に示すスクラバーシステム8におけるライン58を通じて吸収塔81に供給され、ライン20を通じるガス分は図1若しくは図3に示すスクラバーシステム8におけるライン62を通じて吸収塔82に供給される。
スクラバーシステム8では、上述のように本発明の吸収工程、さらに必要に応じて放散工程を経ることにより、コンデンサ1aからのガス分(ライン15)から有用成分(例えば、ヨウ化メチル、メタノール、ジメチルエーテル、水、酢酸メチル、酢酸など)が分離回収される。この分離回収には、本実施形態では、ガス分中の有用成分を捕集するための吸収液を使用して行う湿式法が利用される。例えば、吸収液として後述の蒸留塔6からの蒸気の凝縮分を使用できる。分離回収された有用成分(例えば、ヨウ化メチルなど)は、スクラバーシステム8(特に、放散工程における蒸留塔84塔頂からのライン73)からリサイクルライン48を通じて反応槽1へと導入され、リサイクルされる。なお、図示しないが、ライン48は、コンデンサ1a、2a、3a、5aの各コンデンサの仕込ラインに導入し、有用成分を冷却凝縮し回収することもできる。有用成分を捕集した後のガス(例えば、図1におけるライン69、図2におけるライン60)は、そのまま廃棄されるか、若しくは蒸発槽2の底部あるいは残液流リサイクルライン18,19へ導入するCO源として利用される。有用成分を捕集した後のガス(例えば、図3及び図4におけるライン71)はライン49を通じて廃棄される。また、有用成分を捕集した後のガス(例えば、図5におけるライン73a,89)は、コンデンサで凝縮成分を分離され、及び/又は、吸収塔に再循環されてもよい。なお、ライン49から排出されるガスは、後述する蒸発槽2の底部あるいは残液流リサイクルライン18,19へ導入するCO源として利用することができる。スクラバーシステム8での処理及びその後のリサイクル及び廃棄については、他のコンデンサからスクラバーシステム8へと供給される後述のガス分(ライン20,32,37,45)についても同様である。
装置稼働時の反応槽1内では、上述のように、酢酸が連続的に生成する。そのような酢酸を含む反応混合物が、連続的に、反応槽1内から所定の流量で抜き取られてライン16を通じて次の蒸発槽2へと導入される。
蒸発槽2は、蒸発工程(フラッシュ工程)を行うためのユニットである。この蒸発工程は、ライン16(反応混合物供給ライン)を通じて蒸発槽2に連続的に導入される反応混合物を、部分的に蒸発させることによって蒸気流(揮発相)と残液流(低揮発相)とに分けるための工程である。
反応混合物を加熱することなく圧力を減じることによって蒸発を生じさせてもよいし、反応混合物を加熱しつつ圧力を減じることによって蒸発を生じさせてもよい。蒸発工程において、蒸気流の温度は例えば100〜260℃、好ましくは120〜200℃であり、残液流の温度は例えば80〜200℃、好ましくは100〜180℃であり、槽内圧力は例えば50〜1000kPa(絶対圧)である。
また、蒸発工程にて分離される蒸気流及び残液流の割合に関しては、質量比で、例えば10/90〜50/50(蒸気流/残液流)である。本工程で生じる蒸気は、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸、及びプロピオン酸、並びに、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ヘキシル及びヨウ化デシルなどのヨウ化アルキルなどを含み、蒸発槽2内からライン17(蒸気流排出ライン)に連続的に抜き取られる。
蒸発槽2内から抜き取られた蒸気流の一部はコンデンサ2aへと連続的に導入され、当該蒸気流の他の一部はライン21を通じて次の蒸留塔3へと連続的に導入される。上記蒸気流の酢酸濃度は、例えば40〜85質量%(好ましくは50〜85質量%)、より好ましくは50〜75質量%(例えば55〜75質量%)であり、ヨウ化メチル濃度は、例えば2〜50質量%(好ましくは5〜30質量%)、水濃度は、例えば0.2〜20質量%(好ましくは1〜15質量%)、酢酸メチル濃度は、例えば0.2〜50質量%(好ましくは2〜30質量%)である。なお、上記蒸気流のヨウ化ヘキシル濃度は、例えば0.1〜10000質量ppb、通常0.5〜1000質量ppbであり、1〜100質量ppb(例えば2〜50質量ppb)であることが多い。
本工程で生じる残液流は、反応混合物に含まれていた触媒及び助触媒(ヨウ化メチル、ヨウ化リチウムなど)や、本工程では揮発せずに残存する水、酢酸メチル、酢酸、ギ酸、及びプロピオン酸などを含み、ポンプ57を用い、連続的に蒸発槽2からライン18を通じて熱交換器2bへと導入される。熱交換器2bは、蒸発槽2からの残液流を冷却する。降温した残液流は、連続的に熱交換器2bからライン19を通じて反応槽1へと導入され、リサイクルされる。なお、ライン18とライン19とを併せて残液流リサイクルラインと称する。上記残液流の酢酸濃度は、例えば55〜90質量%、好ましくは60〜85質量%である。
コンデンサ2aは、蒸発槽2からの蒸気流を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸、及びプロピオン酸などを含み、コンデンサ2aからライン22,23を通じて反応槽1へと導入され、リサイクルされる。ガス分は、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、及びギ酸などを含み、コンデンサ2aからライン20,15を通じてスクラバーシステム8へと供給される。上述の反応工程での酢酸の生成反応は発熱反応であるところ、反応混合物に蓄積する熱の一部は、蒸発工程(フラッシュ工程)において、反応混合物から生じた蒸気に移行する。この蒸気のコンデンサ2aでの冷却によって生じた凝縮分が反応槽1へとリサイクルされる。すなわち、この酢酸製造装置においては、メタノールのカルボニル化反応で生じる熱がコンデンサ2aにて効率よく除去されることとなる。
蒸留塔3は、第1蒸留工程を行うためのユニットであり、本実施形態ではいわゆる脱低沸塔に位置付けられる。第1蒸留工程は、蒸留塔3に連続的に導入される蒸気流を蒸留処理して低沸成分を分離除去する工程である。より具体的には、第1蒸留工程では、上記蒸気流を蒸留して、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドから選択された少なくとも一種の低沸成分に富むオーバーヘッド流と、酢酸に富む酢酸流とに分離する。
蒸留塔3は、例えば、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。蒸留塔3として棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば5〜50段であり、還流比は理論段数に応じて例えば0.5〜3000である。蒸留塔3の内部において、塔頂圧力は例えば80〜160kPaGに設定され、塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば85〜180kPaGに設定される。蒸留塔3の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での酢酸の沸点より低い温度であって90〜130℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点以上の温度であって120〜165℃(好ましくは125〜160℃)に設定される。
蒸留塔3に対しては、蒸発槽2からの蒸気流がライン21を通じて連続的に導入され、蒸留塔3の塔頂部からは、オーバーヘッド流としての蒸気がライン24に連続的に抜き取られる。蒸留塔3の塔底部からは、缶出液がライン25に連続的に抜き取られる。3bはリボイラーである。蒸留塔3における塔頂部と塔底部との間の高さ位置からは、側流としての酢酸流(第1酢酸流;液体)がライン27より連続的に抜き取られる。
蒸留塔3の塔頂部から抜き取られる蒸気は、酢酸よりも沸点の低い成分(低沸点成分)を蒸留塔3からの上記缶出液及び側流と比較して多く含み、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、及びギ酸などを含む。この蒸気には酢酸も含まれる。このような蒸気は、ライン24を通じてコンデンサ3aへと連続的に導入される。
コンデンサ3aは、蒸留塔3からの蒸気を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、及びギ酸などを含み、コンデンサ3aからライン28を通じてデカンタ4へと連続的に導入される。デカンタ4に導入された凝縮分は水相(上相)と有機相(ヨウ化メチル相;下相)とに分液される。
水相には、水と、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、及びギ酸などが含まれる。有機相には、例えば、ヨウ化メチルと、例えば、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、及びギ酸などが含まれる。
本実施形態では、水相の一部はライン29を通じて蒸留塔3に還流され、水相の他の一部は、ライン29,30,23を通じて反応槽1に導入されてリサイクルされる。有機相の一部はライン31,23を通じて反応槽1に導入されてリサイクルされる。有機相の他の一部、及び/又は、水相の他の一部は、ライン31,50、及び/又は、ライン30,51を通じてアセトアルデヒド分離除去システム9に導入される。なお、デカンタ4における水相には、水を含む第1又は第2溶液をリサイクルしてもよい。第1又は第2溶液における水は、上記水相に合流して水相とともに処理される。
アセトアルデヒド分離除去システム9を用いたアセトアルデヒド分離除去工程では、有機相及び/又は水相に含まれるアセトアルデヒドを公知の方法、例えば、蒸留、抽出、又はこれらの組み合わせにより分離除去する。分離されたアセトアルデヒドはライン53を通じて装置外へ排出される。また、有機相及び/又は水相に含まれる有用成分(例えば、ヨウ化メチルなど)は、ライン52,23を通じて反応槽1へとリサイクルされて再利用される。
図7はアセトアルデヒド分離除去システムの一例を示す概略フロー図である。このフローによれば、例えば上記有機相をアセトアルデヒド分離除去工程にて処理する場合は、有機相をライン101を通じて蒸留塔(第1脱アセトアルデヒド塔)91に供給して蒸留し、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド流(ライン102)と、ヨウ化メチルに富む残液流(ライン103)とに分離する。上記オーバーヘッド流をコンデンサ91aにて凝縮させ、凝縮液の一部を蒸留塔91の塔頂部に還流させ(ライン104)、凝縮液の他の部分を抽出塔92に供給する(ライン105)。
上記抽出塔92に供給された凝縮液はライン109から導入された水によって抽出処理される。抽出処理により得られた抽出液はライン107を通じて蒸留塔(第2脱アセトアルデヒド塔)93に供給して蒸留し、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド流(ライン112)と水に富む残液流(ライン113)とに分離する。そして、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド流をコンデンサ93aにて凝縮させ、凝縮液の一部を蒸留塔93の塔頂部に還流させ(ライン114)、凝縮液の他の部分は系外に排出する(ライン115)。
また、第1脱アセトアルデヒド塔91の缶出液であるヨウ化メチルに富む残液流、抽出塔92で得られたヨウ化メチルに富むラフィネート(ライン108)、及び第2脱アセトアルデヒド塔93の缶出液である水に富む残液流は、それぞれ、ライン103,111,113を通じて反応槽1へリサイクルされるか、あるいはプロセスの適宜な箇所にリサイクルされ、再利用される。例えば、抽出塔92で得られたヨウ化メチルに富むラフィネートはライン110を通じて蒸留塔91にリサイクルすることができる。113の液は、通常、排水として外部に排出される。コンデンサ91a、93aで凝縮しなかったガス(ライン106,116)はスクラバーシステム8で吸収処理されるか、あるいは廃棄処分される。
また、図7のフローにより上記水相をアセトアルデヒド分離除去工程にて処理する場合は、例えば、水相をライン101を通じて蒸留塔(第1脱アセトアルデヒド塔)91に供給して蒸留し、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド流(ライン102)と、水に富む残液流(ライン103)とに分離する。上記オーバーヘッド流をコンデンサ91aにて凝縮させ、凝縮液の一部を蒸留塔91の塔頂部に還流させ(ライン104)、凝縮液の他の部分を抽出塔92に供給する(ライン105)。
上記抽出塔92に供給された凝縮液はライン109から導入された水によって抽出処理される。抽出処理により得られた抽出液はライン107を通じて蒸留塔(第2脱アセトアルデヒド塔)93に供給して蒸留し、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド流(ライン112)と水に富む残液流(ライン113)とに分離する。そして、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド流をコンデンサ93aにて凝縮させ、凝縮液の一部を蒸留塔93の塔頂部に還流させ(ライン114)、凝縮液の他の部分は系外に排出する(ライン115)。
また、第1脱アセトアルデヒド塔91の缶出液である水に富む残液流、抽出塔92で得られたヨウ化メチルに富むラフィネート(ライン108)、及び第2脱アセトアルデヒド塔93の缶出液である水に富む残液流は、それぞれ、ライン103,111,113を通じて反応槽1へリサイクルされるか、あるいはプロセスの適宜な箇所にリサイクルされ、再利用される。例えば、抽出塔92で得られたヨウ化メチルに富むラフィネートはライン110を通じて蒸留塔91にリサイクルすることができる。113の液は、通常、排水として外部に排出される。コンデンサ91a、93aで凝縮しなかったガス(ライン106,116)はスクラバーシステム8で吸収処理されるか、あるいは廃棄処分される。
上記の水、酢酸(AC)、ヨウ化メチル(MeI)、及びアセトアルデヒド(AD)を少なくとも含むプロセス流に由来するアセトアルデヒドは、上記方法のほか、抽出蒸留を利用して分離除去することもできる。例えば、上記プロセス流を分液させて得られた有機相及び/又は水相(仕込液)を蒸留塔(抽出蒸留塔)に供給するとともに、蒸留塔内のヨウ化メチル及びアセトアルデヒドが濃縮される濃縮域(例えば、塔頂から仕込液供給位置までの空間)に抽出溶媒(通常、水)を導入し、上記濃縮域から降下する液(抽出液)を側流(サイドカット流)として抜き取り、この側流を水相と有機相とに分液させ、上記水相を蒸留することによりアセトアルデヒドを系外に排出することができる。
なお、蒸留塔内に比較的多くの水が存在する場合は、上記抽出溶媒を蒸留塔に導入することなく、上記濃縮域から降下する液を側流として抜き取ってもよい。例えば、この蒸留塔に上記濃縮域から降下する液(抽出液)を受けることのできるユニット(チムニートレイなど)を配設し、このユニットで受けた液(抽出液)を側流として抜き取ることができる。
抽出溶媒の導入位置は上記仕込液の供給位置よりも上方が好ましく、より好ましくは塔頂付近である。側流の抜き取り位置は、塔の高さ方向において、抽出溶媒の導入位置よりも下方であって、上記仕込液の供給位置よりも上方が好ましい。この方法によれば、抽出溶媒(通常、水)によって、ヨウ化メチルとアセトアルデヒドの濃縮物からアセトアルデヒドを高濃度に抽出できるとともに、抽出溶媒の導入部位とサイドカット部位との間を抽出域として利用するので、少量の抽出溶媒によりアセトアルデヒドを効率よく抽出できる。そのため、例えば、抽出蒸留による抽出液を蒸留塔(抽出蒸留塔)の塔底部から抜き取る方法と比較して蒸留塔の段数を大幅に低減できるとともに、蒸気負荷も低減できる。また、少量の抽出溶媒を用いて、上記図5の脱アルデヒド蒸留と水抽出とを組み合わせる方法よりも、水抽出液中のアセトアルデヒドに対するヨウ化メチルの割合(MeI/AD比)を小さくできるので、ヨウ化メチルの系外へのロスを抑制できる条件でアセトアルデヒドを除去可能である。
上記側流中のアセトアルデヒド濃度は、上記仕込液及び缶出液(塔底液)中のアセトアルデヒド濃度よりも格段に高い。また、上記側流中のヨウ化メチルに対するアセトアルデヒドの割合は、仕込液及び缶出液中のヨウ化メチルに対するアセトアルデヒドの割合よりも大きい。
なお、上記側流を分液させて得られる有機相(ヨウ化メチル相)をこの蒸留塔にリサイクルしてもよい。この場合、上記側流を分液させて得られる有機相のリサイクル位置は、塔の高さ方向において上記側流抜き取り位置よりも下方が好ましく、上記仕込液の供給位置よりも上方が好ましい。
また、上記プロセス流を分液させて得られた有機相を構成する成分(例えば、酢酸メチルなど)に対する混和性溶媒をこの蒸留塔(抽出蒸留塔)に導入してもよい。上記混和性溶媒として、例えば、酢酸、酢酸エチルなどが挙げられる。上記混和性溶媒の導入位置は、塔の高さ方向において、上記側流抜き取り位置よりも下方が好ましく、上記仕込液の供給位置よりも上方が好ましい。また、上記混和性溶媒の導入位置は、上記側流を分液させて得られる有機相をこの蒸留塔にリサイクルする場合はそのリサイクル位置よりも下方が好ましい。
上記側流を分液させて得られる有機相を蒸留塔へリサイクルしたり、上記混和性溶媒を蒸留塔へ導入することにより、側流として抜き取られる抽出液中の酢酸メチル濃度を低下させることができ、上記抽出液を分液させて得られる水相中の酢酸メチル濃度を低減でき、もって水相へのヨウ化メチルの混入を抑制できる。
上記蒸留塔(抽出蒸留塔)の理論段は、例えば1〜100段、好ましくは2〜50段、より好ましくは3〜30段、さらに好ましくは5〜20段であり、従来の脱アセトアルデヒドに用いる蒸留塔や抽出蒸留塔の80〜100段と比較して、少ない段数で効率よくアセトアルデヒドを分離除去できる。
抽出溶媒の流量と仕込液(プロセス流を分液させて得られた有機相及び/又は水相)の流量との質量割合(前者/後者)は、0.0001/100〜100/100の範囲から選択してもよいが、通常、0.0001/100〜20/100、好ましくは0.001/100〜10/100、より好ましくは0.01/100〜8/100、さらに好ましくは0.1/100〜5/100である。
上記蒸留塔(抽出蒸留塔)の塔頂温度は、例えば、15〜120℃、好ましくは20〜90℃、より好ましくは20〜80℃、さらに好ましくは25〜70℃である。塔頂圧力は、絶対圧力で、例えば0.1〜0.5MPa程度である。上記蒸留塔(抽出蒸留塔)の他の条件は、従来の脱アセトアルデヒドに用いる蒸留塔や抽出蒸留塔と同様であってもよい。
図8は上記の抽出蒸留を利用したアセトアルデヒド分離除去システムの一例を示す概略フロー図である。この例では、上記プロセス流を分液させて得られた有機相及び/又は水相(仕込液)を供給ライン201を通じて蒸留塔94の中段(塔頂と塔底との間の位置)に供給するとともに、塔頂付近より水をライン202を通じて導入し、蒸留塔94(抽出蒸留塔)内で抽出蒸留を行う。
蒸留塔94の上記仕込液の供給位置より上方には、塔内のヨウ化メチル及びアセトアルデヒドが濃縮される濃縮域から降下する液(抽出液)を受けるためのチムニートレイ200が配設されている。この抽出蒸留においては、チムニートレイ200上の液を好ましくは全量抜き取り、ライン208を通じてデカンタ95に導入して分液させる。
デカンタ95における水相(アセトアルデヒドを含む)をライン212を通じて冷却クーラー95aに導入して冷却し、水相に溶解していたヨウ化メチルを2相分離させ、デカンタ96にて分液させる。デカンタ96における水相をライン216を通じて蒸留塔97(脱アセトアルデヒド塔)に供給して蒸留し、塔頂の蒸気をライン217を通じてコンデンサ97aに導いて凝縮させ、凝縮液(主にアセトアルデヒド及びヨウ化メチル)の一部は蒸留塔97の塔頂に還流させ、残りは廃棄するか、あるいはライン220を通じて蒸留塔98(抽出蒸留塔)に供給する。
蒸留塔98の塔頂付近から水をライン222を通じて導入し、抽出蒸留する。塔頂の蒸気はライン223を通じてコンデンサ98aに導いて凝縮させ、凝縮液(主にヨウ化メチル)の一部は塔頂部に還流させ、残りはライン226を通じて反応系にリサイクルするが、系外除去する場合もある。デカンタ95における有機相(ヨウ化メチル相)は、好ましくは全量をライン209,210を通じて蒸留塔94のチムニートレイ200の位置より下方にリサイクルする。デカンタ95の水相の一部、及びデカンタ96の有機相は、それぞれ、ライン213,210、ライン214,210を通じて蒸留塔94にリサイクルするが、リサイクルしない場合もある。デカンタ95の水相の一部は蒸留塔94における抽出溶媒(水)として利用してもよい。デカンタ96の水相の一部はライン210を通じて蒸留塔94にリサイクルしてもよい。
場合により(例えば、上記仕込液中に酢酸メチルが含まれている場合など)、上記プロセス流を分液させて得られた有機相を構成する成分(例えば、酢酸メチルなど)に対する混和性溶媒(酢酸、酢酸エチル等)をライン215を通じて蒸留塔94に仕込み、蒸留効率を向上させることもできる。混和性溶媒の蒸留塔94への供給位置は上記仕込液供給部(ライン201の接続部)よりも上方で且つリサイクルライン210の接続部よりも下方である。蒸留塔94の缶出液は反応系にリサイクルする。
蒸留塔94の塔頂の蒸気はライン203を通じてコンデンサ94aに導いて凝縮させ、凝縮液をデカンタ99で分液させ、有機相はライン206を通じて蒸留塔94の塔頂部に還流させ、水相はライン207を通じてデカンタ95に導く。
蒸留塔97の缶出液(水が主成分)や蒸留塔98(抽出蒸留塔)の缶出液(少量のアセトアルデヒドを含む水)は、それぞれライン218,224を通じて系外除去するか、反応系にリサイクルする。コンデンサ94a、97a,98aで凝縮しなかったガス(ライン211,221,227)はスクラバーシステム8で吸収処理されるか、あるいは廃棄処分される。
図9は上記の抽出蒸留を利用したアセトアルデヒド分離除去システムの他の例を示す概略フロー図である。この例では、蒸留塔94の塔頂の蒸気の凝縮液をホールドタンク100に導き、その全量をライン206を通じて蒸留塔94の塔頂部に還流する。これ以外は図8の例と同様である。
図10は上記の抽出蒸留を利用したアセトアルデヒド分離除去システムのさらに他の例を示す概略フロー図である。この例では、チムニートレイ200上の液を全量抜き取り、ライン208を通じて、デカンタ95を経ることなく、直接冷却クーラー95aに導入して冷却し、デカンタ96に供給する。これ以外は図9の例と同様である。
上記図6において、コンデンサ3aで生じるガス分は、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、及びギ酸などを含み、コンデンサ3aからライン32,15を通じてスクラバーシステム8へと供給される。スクラバーシステム8に至ったガス分中のヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、及びギ酸などは、スクラバーシステム8にて吸収液に吸収される。本発明の吸収工程、第1吸収工程、又は第2吸収工程における吸収液としてメタノール又は酢酸メチルを含む吸収液を用いた場合、ヨウ化水素は吸収液中のメタノール又は酢酸メチルとの反応によってヨウ化メチルが生じる。そして、当該ヨウ化メチル等の有用成分を含有する液分(蒸留塔84塔頂からのオーバーヘッド流)がスクラバーシステム8からリサイクルライン48,23を通じて反応槽1へとリサイクルされて再利用することができる。
蒸留塔3の塔底部から抜き取られる缶出液は、酢酸よりも沸点の高い成分(高沸点成分)を蒸留塔3からのオーバーヘッド流及び側流と比較して多く含み、例えば、プロピオン酸、並びに、飛沫同伴の上述の触媒や助触媒を含む。この缶出液には、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、及び水なども含まれる。本実施形態では、このような缶出液の一部は、ライン25,26を通じて蒸発槽2へと連続的に導入されてリサイクルされ、缶出液の他の一部は、ライン25,23を通じて反応槽1へと連続的に導入されてリサイクルされる。
蒸留塔3から側流として連続的に抜き取られる第1酢酸流は、蒸留塔3に連続的に導入される蒸気流よりも酢酸が富化されている。すなわち、第1酢酸流の酢酸濃度は上記蒸気流の酢酸濃度よりも高い。第1酢酸流の酢酸濃度は、例えば90〜99.9質量%、好ましくは93〜99質量%である。また、第1酢酸流は、酢酸に加えて、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸、及びプロピオン酸、並びに、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ヘキシル、及びヨウ化デシルなどのヨウ化アルキルなどを含む。
なお、蒸留塔3に対するライン27の連結位置は、蒸留塔3の高さ方向において、図示されているように、蒸留塔3に対するライン21の連結位置より上方であってもよいが、蒸留塔3に対するライン21の連結位置より下方であってもよいし、蒸留塔3に対するライン21の連結位置と同じであってもよい。蒸留塔3からの第1酢酸流は、所定の流量で連続的に、ライン27を通じて次の蒸留塔5へと導入される。なお、蒸留塔3の側流として抜き取られる第1酢酸流や、蒸留塔3の塔底液あるいは蒸留塔3の塔底部の蒸気の凝縮液は、蒸留塔5(脱水工程)を経ずにそのまま後述する蒸留塔6に連続的に導入することもできる。
ライン27を通流する第1酢酸流に、ライン55(水酸化カリウム導入ライン)を通じて、水酸化カリウムを供給ないし添加することができる。水酸化カリウムは、例えば水溶液等の溶液として供給ないし添加できる。第1酢酸流に対する水酸化カリウムの供給ないし添加によって第1酢酸流中のヨウ化水素を減少できる。具体的には、ヨウ化水素は水酸化カリウムと反応してヨウ化カリウムと水が生じる。そのことによって、ヨウ化水素に起因する蒸留塔等の装置の腐食を低減できる。なお、水酸化カリウムは本プロセスにおいてヨウ化水素が存在する適宜な場所に供給ないし添加することができる。なお、プロセス中に添加された水酸化カリウムは酢酸とも反応して酢酸カリウムを生じさせる。
蒸留塔5は、第2蒸留工程を行うためのユニットであり、本実施形態ではいわゆる脱水塔に位置付けられる。第2蒸留工程は、蒸留塔5に連続的に導入される第1酢酸流を蒸留処理して酢酸を更に精製するための工程である。
蒸留塔5は、例えば、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。蒸留塔5として棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば5〜50段であり、還流比は理論段数に応じて例えば0.2〜3000である。第2蒸留工程にある蒸留塔5の内部において、塔頂圧力は例えば150〜250kPaGに設定され、塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば160〜290kPaGに設定される。第2蒸留工程にある蒸留塔5の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での水の沸点より高く且つ酢酸の沸点より低い温度であって130〜160℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点以上の温度であって150〜175℃に設定される。
蒸留塔5の塔頂部からは、オーバーヘッド流としての蒸気がライン33に連続的に抜き取られる。蒸留塔5の塔底部からは、缶出液がライン34に連続的に抜き取られる。5bはリボイラーである。蒸留塔5における塔頂部と塔底部との間の高さ位置から、側流(液体又は気体)がライン34に連続的に抜き取られてもよい。
蒸留塔5の塔頂部から抜き取られる蒸気は、酢酸よりも沸点の低い成分(低沸点成分)を蒸留塔5からの上記の缶出液と比較して多く含み、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、及びギ酸などを含む。このような蒸気は、ライン33を通じてコンデンサ5aへと連続的に導入される。
コンデンサ5aは、蒸留塔5からの蒸気を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、例えば水及び酢酸などを含む。凝縮分の一部は、コンデンサ5aからライン35を通じて蒸留塔5へと連続的に還流される。凝縮分の他の一部は、コンデンサ5aからライン35,36,23を通じて反応槽1へと連続的に導入され、リサイクルされる。また、コンデンサ5aで生じるガス分は、例えば一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、及びギ酸などを含み、コンデンサ5aからライン37,15を通じてスクラバーシステム8へと供給される。なお、上述したように、コンデンサ5aからのガス分はライン15に合流せずにスクラバーシステム8に供給されてもよい。スクラバーシステム8に至ったガス分中のヨウ化水素は、スクラバーシステム8にて吸収液に吸収され、吸収液中のヨウ化水素とメタノール又は酢酸メチルとの反応によってヨウ化メチルが生じ、そして、当該ヨウ化メチル等の有用成分を含有する液分(蒸留塔84塔頂からのオーバーヘッド流)がスクラバーシステム8からリサイクルライン48,23を通じて反応槽1へとリサイクルされて再利用される。
蒸留塔5の塔底部から抜き取られる缶出液(あるいは側流)は、酢酸よりも沸点の高い成分(高沸点成分)を蒸留塔5からの上記のオーバーヘッド流と比較して多く含み、例えば、無水酢酸、プロピオン酸、酢酸塩、及びヨウ化カリウムや腐食金属等由来のヨウ化金属塩等のヨウ化物塩、並びに、飛沫同伴の上述の触媒や助触媒などを含む。上記酢酸塩は、例えば、ライン27等に水酸化カリウム等のアルカリを供給した場合に形成される酢酸カリウムなどの酢酸金属塩が挙げられる。また、この酢酸製造装置の構成部材の内壁で生じて遊離した金属などの腐食金属等と酢酸とで形成される酢酸金属塩も挙げられる。上記ヨウ化物塩は、例えば、ライン27等に水酸化カリウム等のアルカリを供給した場合に形成されるヨウ化カリウムが挙げられる。この缶出液には酢酸も含まれうる。このような缶出液は、ライン34を通じて、第2酢酸流をなして次の蒸留塔6に連続的に導入されることとなる。また、蒸留塔5の塔底部から抜き取られる缶出液(あるいは側流)は、上記腐食金属等、及び腐食性ヨウ素に由来するヨウ素と当該腐食金属等との化合物(ヨウ化物塩)も含む。このような缶出液は、本実施形態では酢酸製造装置外に排出される。
第2酢酸流は、蒸留塔5に連続的に導入される第1酢酸流よりも酢酸が富化されている。すなわち、第2酢酸流の酢酸濃度は第1酢酸流の酢酸濃度よりも高い。第2酢酸流の酢酸濃度は、第1酢酸流の酢酸濃度より高い限りにおいて、例えば99.1〜99.99質量%である。また、第2酢酸流は、上記のように、酢酸に加えて、例えば、プロピオン酸、ヨウ化水素などを含みうる。本実施形態では、側流を抜き取る場合、蒸留塔5からの側流の抜き取り位置は、蒸留塔5の高さ方向において、蒸留塔5への第1酢酸流の導入位置よりも低い。
ライン34を通流する第2酢酸流に、ライン56(水酸化カリウム導入ライン)を通じて、水酸化カリウムを供給ないし添加することができる。水酸化カリウムは、例えば水溶液等の溶液として供給ないし添加できる。第2酢酸流に対する水酸化カリウムの供給ないし添加によって第2酢酸流中のヨウ化水素を減少できる。具体的には、ヨウ化水素は水酸化カリウムと反応してヨウ化カリウムと水が生じる。そのことによって、ヨウ化水素に起因する蒸留塔等の装置の腐食を低減できる。
蒸留塔6は、第3蒸留工程を行うためのユニットであり、本実施形態ではいわゆる脱高沸塔に位置付けられる。第3蒸留工程は、蒸留塔6に連続的に導入される第2酢酸流を精製処理して酢酸を更に精製するための工程である。
蒸留塔6は、例えば、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。蒸留塔6として棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば5〜50段であり、還流比は理論段数に応じて例えば0.2〜3000である。第3蒸留工程にある蒸留塔6の内部において、塔頂圧力は例えば−100〜150kPaGに設定され、塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば−90〜180kPaGに設定される。第3蒸留工程にある蒸留塔6の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での水の沸点より高く且つ酢酸の沸点より低い温度であって50〜150℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点より高い温度であって70〜160℃に設定される。
蒸留塔6の塔頂部からは、オーバーヘッド流としての蒸気がライン38に連続的に抜き取られる。蒸留塔6の塔底部からは、缶出液がライン39に連続的に抜き取られる。6bはリボイラーである。蒸留塔6における塔頂部と塔底部との間の高さ位置からは、側流(液体又は気体)がライン46に連続的に抜き取られる。蒸留塔6の高さ方向において、蒸留塔6に対するライン46の連結位置は、図示されているように、蒸留塔6に対するライン34の連結位置より上方であってもよいが、蒸留塔6に対するライン34の連結位置より下方であってもよいし、蒸留塔6に対するライン34の連結位置と同じであってもよい。
蒸留塔6の塔頂部から抜き取られる蒸気は、酢酸よりも沸点の低い成分(低沸点成分)を蒸留塔6からの上記の缶出液と比較して多く含み、酢酸のほか、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール、及びギ酸などを含む。このような蒸気は、ライン38を通じてコンデンサ6aへと連続的に導入される。
コンデンサ6aは、蒸留塔6からの蒸気を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、酢酸のほか、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール、及びギ酸などを含む。凝縮分の少なくとも一部については、コンデンサ6aからライン40を通じて蒸留塔6へと連続的に還流される。凝縮分の一部(留出分)については、コンデンサ6aからライン40,41,42を通じて、蒸留塔5へと導入される前のライン27中の第1酢酸流へとリサイクルすることが可能である。これと共に或はこれに代えて、凝縮分の一部(留出分)については、コンデンサ6aからライン40,41,43を通じて、蒸留塔3へと導入される前のライン21中の蒸気流へとリサイクルすることが可能である。
また、凝縮分の一部(留出分)については、コンデンサ6aからライン40,44,23を通じて、反応槽1へリサイクルしてもよい。さらに、コンデンサ6aからの留出分の一部については、上述したように、スクラバーシステム8へと供給して当該システム内で吸収液として使用することが可能である。スクラバーシステム8では、有用分を吸収した後のガス分は装置外に排出され、そして、有用成分を含む液分(蒸留塔84塔頂からのオーバーヘッド流)がスクラバーシステム8からリサイクルライン48,23を通じて反応槽1へと導入ないしリサイクルされて再利用される。加えて、コンデンサ6aからの留出分の一部については、装置内で稼働する各種ポンプ(図示略)へと図外のラインを通じて導いて当該ポンプのシール液として使用してもよい。更に加えて、コンデンサ6aからの留出分の一部については、ライン40に付設される抜き取りラインを通じて、定常的に装置外へ抜き取ってもよいし、非定常的に必要時において装置外へ抜き取ってもよい。
凝縮分の一部(留出分)が蒸留塔6での蒸留処理系から除かれる場合、その留出分の量(留出量)は、コンデンサ6aで生じる凝縮液の例えば0.01〜30質量%であり、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.3〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。一方、コンデンサ6aで生じるガス分は、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、及びギ酸などを含み、コンデンサ6aからライン45,15を通じてスクラバーシステム8へと供給される。なお、上述したように、コンデンサ6aからのガス分はライン15に合流せずにスクラバーシステム8に供給されてもよい。
蒸留塔6の塔底部からライン39を通じて抜き取られる缶出液は、酢酸よりも沸点の高い成分(高沸点成分)を蒸留塔6からのオーバーヘッド流と比較して多く含み、例えば酢酸塩、無水酢酸、プロピオン酸などを含む。上記酢酸塩は、例えば、ライン34等に水酸化カリウム等のアルカリを供給した場合に形成される酢酸カリウムが挙げられる。また、この酢酸製造装置の構成部材の内壁で生じて遊離した金属などの腐食金属等と酢酸とで形成される酢酸金属塩も挙げられる。蒸留塔6の塔底部からライン39を通じて抜き取られる缶出液は、さらに、上記腐食金属等、及び腐食性ヨウ素に由来するヨウ素と当該腐食金属等との化合物も含む。このような缶出液は、本実施形態では酢酸製造装置外に排出される。
蒸留塔6からライン46に連続的に抜き取られる側流は、第3酢酸流として、次のイオン交換樹脂塔7に連続的に導入されることとなる。この第3酢酸流は、蒸留塔6に連続的に導入される第2酢酸流よりも酢酸が富化されている。すなわち、第3酢酸流の酢酸濃度は第2酢酸流の酢酸濃度よりも高い。第3酢酸流の酢酸濃度は、第2酢酸流の酢酸濃度より高い限りにおいて、例えば99.8〜99.999質量%である。本実施形態では、蒸留塔6からの側流の抜き取り位置は、蒸留塔6の高さ方向において、蒸留塔6への第2酢酸流の導入位置よりも高い。他の実施形態では、蒸留塔6からの側流の抜き取り位置は、蒸留塔6の高さ方向において、蒸留塔6への第2酢酸流の導入位置と同じかそれよりも低い。なお、蒸留塔6は、単蒸留器(蒸発器)でも代用可能であり、また、蒸留塔5で不純物除去を充分に行えば、蒸留塔6は省略できる。
イオン交換樹脂塔7は、吸着除去工程を行うための精製ユニットである。この吸着除去工程は、イオン交換樹脂塔7に連続的に導入される第3酢酸流に微量含まれる主にヨウ化アルキル(例えば、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ヘキシル、ヨウ化デシルなど)を吸着除去して酢酸を更に精製するための工程である。
イオン交換樹脂塔7においては、ヨウ化アルキルに対する吸着能を有するイオン交換樹脂が塔内に充填されてイオン交換樹脂床をなす。そのようなイオン交換樹脂としては、例えば、交換基であるスルホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基等における脱離性のプロトンの一部が銀や銅などの金属で置換された陽イオン交換樹脂が挙げられる。吸着除去工程では、例えばこのようなイオン交換樹脂が充填されたイオン交換樹脂塔7の内部を第3酢酸流(液体)が通流し、その通流過程において、第3酢酸流中のヨウ化アルキル等の不純物がイオン交換樹脂に吸着されて第3酢酸流から除去される。吸着除去工程にあるイオン交換樹脂塔7において、内部温度は例えば18〜100℃であり、酢酸流の通液速度[樹脂容積1m3当たりの酢酸処理量(m3/h)]は、例えば3〜15m3/h・m3(樹脂容積)である。
イオン交換樹脂塔7の下端部からライン47へと第4酢酸流が連続的に導出される。第4酢酸流の酢酸濃度は第3酢酸流の酢酸濃度よりも高い。すなわち、第4酢酸流は、イオン交換樹脂塔7に連続的に導入される第3酢酸流よりも酢酸が富化されている。第4酢酸流の酢酸濃度は、第3酢酸流の酢酸濃度より高い限りにおいて例えば99.9〜99.999質量%又はそれ以上である。本製造方法においては、この第4酢酸流を図外の製品タンクに貯留することができる。
この酢酸製造装置においては、イオン交換樹脂塔7からの上記の第4酢酸流を更に精製するための精製ユニットとして、蒸留塔であるいわゆる製品塔ないし仕上塔が設けられてもよい。そのような製品塔が設けられる場合、当該製品塔は、例えば、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。製品塔として棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば5〜50段であり、還流比は理論段数に応じて例えば0.5〜3000である。精製工程にある製品塔の内部において、塔頂圧力は例えば−195〜150kPaGに設定され、塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば−190〜180kPaGに設定される。製品塔の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での水の沸点より高く且つ酢酸の沸点より低い温度であって50〜150℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点より高い温度であって70〜160℃に設定される。なお、製品塔ないし仕上塔は、単蒸留器(蒸発器)でも代用可能である。
製品塔を設ける場合、イオン交換樹脂塔7からの第4酢酸流(液体)の全部または一部が、製品塔に対して連続的に導入される。そのような製品塔の塔頂部からは、微量の低沸点成分(例えば、ヨウ化メチル、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、クロトンアルデヒド、アセトアルデヒド、及びギ酸など)を含むオーバーヘッド流としての蒸気が連続的に抜き取られる。この蒸気は、所定のコンデンサにて凝縮分とガス分とに分けられる。
凝縮分の一部は製品塔へと連続的に還流され、凝縮分の他の一部は反応槽1へとリサイクルされるか、系外に廃棄されるか、あるいはその両方であってもよく、ガス分はスクラバーシステム8へと供給される。製品塔の塔底部からは、微量の高沸点成分を含む缶出液が連続的に抜き取られ、この缶出液は、例えば蒸留塔6へ導入される前のライン34中の第2酢酸流へとリサイクルされる。製品塔における塔頂部と塔底部との間の高さ位置からは、側流(液体)が第5酢酸流として連続的に抜き取られる。製品塔からの側流の抜き取り位置は、製品塔の高さ方向において、例えば、製品塔への第4酢酸流の導入位置よりも低い。
第5酢酸流は、製品塔に連続的に導入される第4酢酸流よりも酢酸が富化されている。すなわち、第5酢酸流の酢酸濃度は第4酢酸流の酢酸濃度よりも高い。第5酢酸流の酢酸濃度は、第4酢酸流の酢酸濃度より高い限りにおいて例えば99.9〜99.999質量%又はそれ以上である。この第5酢酸流は、例えば、図外の製品タンクに貯留される。なお、イオン交換樹脂塔7は、蒸留塔6の下流に設置する代わりに(又はそれに加えて)、製品塔の下流に設置し、製品塔出の酢酸流を処理してもよい。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、%、ppm、ppbはすべて質量基準である。また、ヨウ化水素濃度は、減算法により求めた値である。
比較例1
図11に示すスクラバーシステムを用いて実験を行った。高圧仕込ガス(1)及び低圧仕込ガス(5)を、それぞれ、高圧吸収塔A(段数;理論段5段)及び低圧吸収塔B(段数;理論段5段)に仕込み、両吸収塔の塔頂から吸収剤としての循環酢酸を導入して、分散板で吸収塔上部から酢酸を散布させ、ヨウ素化合物を含む凝縮性ガスを吸収させ、吸収工程を行い、吸収塔缶出から吸収液を抜き取った。高圧吸収塔A塔頂からの高圧オフガス(3)及び低圧吸収塔B塔頂からの低圧オフガス(7)は合流して系外排出させた。高圧吸収塔A缶出液(4)と低圧吸収塔B缶出液(8)を合流させて得た仕込液(9)を、放散工程を行う蒸留塔C(段数;理論段5段)の中央部(上理論段2.5段、下理論段2.5段)に仕込み、蒸留塔Cで蒸気加熱して、酢酸以外の低沸成分を塔頂に濃縮してオーバーヘッド流(10)を得、これを還流比(還流量/留出量)1で留出させ反応槽にリサイクルした。この際の蒸気使用量を100とする。蒸留塔C缶出から放散後の酢酸(11)を抜き取り、冷却し、新しい酢酸(12)を補給後、循環して高圧吸収塔及び低圧吸収塔の吸収液(2)、(6)として使用した。なお、2本の吸収塔及び蒸留塔には、それぞれ、スルーザーケムテック社製の規則充填物「メラパック250X」を使用した。本実験では蒸留塔缶出液の系外への抜き取りは行わなかった。蒸留塔Cの塔底温度は147℃であった。上記(1)〜(11)における流量及び各種成分の濃度を表1に示す。
なお、表に示す「AD」はアセトアルデヒド、「MeI」はヨウ化メチル、「MA」は酢酸メチル、「AC」は酢酸、「PA」はプロピオン酸をそれぞれ示す。また、表中の「−」は、その成分について濃度測定を行わなかったことを示す。なお、「その他」には、各表に示す濃度測定を行わなかった成分や、メタノール、ジメチルエーテル、アルカン、クロトンアルデヒド等の過マンガン酸カリウム試験値(過マンガン酸タイム)を悪化させる物質、有機ヨウ素化合物などが含まれる場合がある。
比較例2
高圧吸収塔Aでの吸収工程を行わなかったこと以外は比較例1と同様にして実験を行った。放散工程における蒸留塔での蒸気量は90であった。なお、上記(5)〜(11)における流量及び各種成分の濃度を表2に示す。
実施例1
高圧吸収塔A及び低圧吸収塔Bの塔頂から導入する吸収剤として循環プロピオン酸を用いたこと、蒸留塔Cにおいて還流させず全てを系外に留出させたこと、及び(12)から吸収剤の補給を行わなかったこと以外は比較例1と同様にして実験を行った。放散工程における蒸留塔での蒸気量は53であり、比較例1に対して47%の省蒸気量であった。その結果、蒸留塔C塔頂(10)中にはプロピオン酸は殆ど含まれておらず、還流しない省蒸気条件でもヨウ化メチルを充分に分離できることを確認した。なお、上記(1)〜(11)における流量及び各種成分の濃度を表3に示す。
実施例2
低圧吸収塔Bの塔頂から導入する吸収剤として循環プロピオン酸を用いたこと、蒸留塔Cにおいて還流させず全てを系外に留出させたこと、及び(12)から吸収剤の補給を行わなかったこと以外は比較例2と同様にして実験を行った。放散工程における蒸留塔での蒸気量は実施例1の90%であり、比較例2に対して省蒸気量であった。その結果、蒸留塔C塔頂(10)中にはプロピオン酸は殆ど含まれておらず、還流しない省蒸気条件でもヨウ化メチルを充分に分離できることを確認した。なお、上記(5)〜(11)における流量及び各種成分の濃度を表4に示す。