JP6535528B2 - アルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物 - Google Patents

アルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物 Download PDF

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Description

本発明は、アルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物に関し、例えば、工業窯炉等の内張り材等に使用され、特に、鉄鋼業の製銑、製鋼プロセス等で使用される窯炉設備の内張り材に好適なアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物に関する。
鉄鋼業を始めとする高温溶融物を取り扱う産業分野においては、耐火物の使用は不可欠であり、耐火物の高耐用化は生産性の向上と、製造コストの削減に寄与するために非常に重要である。また、耐火物の一種である不定形耐火物は、使用量の多くを占める主要な品種である。
一般に、不定形耐火物は、耐火原料に結合剤が添加されてなり、これに水を加えて混錬し、任意の形状に施工して、各種構造体を得る。その中で、例えば、高炉出銑孔から出た銑鉄を混銑車へ注ぎ込むまでの湯道として用いられる主樋、溶銑樋、スラグ樋、傾注樋等の高炉用樋では、炭化珪素、アルミナ、シリカ、カーボンブラック、ピッチ、黒鉛、炭化ホウ素、シリコン、アルミナセメントのほか、爆裂防止剤や分散剤等が配合された不定形耐火物が使用されている。
この高炉用樋について、詳しくは、溶銑と接触する部位にはメタルライン材と称する不定形耐火物が使われ、溶融高炉スラグと接触する部位にはスラグライン材と称する不定形耐火物が使われるなどして、一般に2種類の材料がライニングされる。このうち、溶銑と接触するメタルライン部では、主に、耐FeO性に優れるスピネルを配合したアルミナ−スピネル−炭化珪素系不定系耐火物が採用されている。
一方で、溶融高炉スラグと接触するスラグライン部では、溶融高炉スラグに対する耐食性に優れた炭化珪素やカーボンブラック、ピッチ等を含み、炭化珪素が主成分のアルミナ−炭化珪素−カーボン系(Al2O3-SiC-C系)不定形耐火物が主に使用される。ところが、アルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物(以下、単に不定形耐火物と呼ぶ場合がある)は、それに含まれるSiCやCの酸化により組織が弱化し、そこにスラグの融液が浸潤するなどして耐用寿命が短くなるという問題がある。
このようなカーボンの酸化を防止して高寿命化を図る手段として、炭化ホウ素を添加する方法が知られている(特許文献1参照)。炭化ホウ素は、高炉用樋等で使用中に酸化され、ホウ酸に変質して溶融する。この溶融したホウ酸は蒸発し、不定形耐火物の表面にB質の皮膜を形成したり、酸素の耐火物内部への拡散経路となる耐火物の開気孔の内表面にB質の皮膜を形成する。このような耐火物表面や耐火物の開気孔の内表面に形成される皮膜が、耐火物中のカーボンと酸素との接触を防ぐため、カーボンの酸化を防止する。
しかしながら、炭化ホウ素が酸化されて生成したホウ酸融液は、蒸発する前に不定形耐火物のアルミナ質耐火原料、特に微粒のアルミナと容易に反応し、固体の化合物を生成する性質を有する。そのため、耐火物表面や耐火物の開気孔の内表面にB質の皮膜を形成することができず、カーボンの酸化を防止する機能が十分に発揮できないことがある。そこで、カーボンの酸化防止材である炭化ホウ素の効果を損なわせないために、粒度45μm未満の原料に含まれるAl成分の含有量を規定した高炉樋用キャスタブル耐火物が開示されている(特許文献2参照)。
ところで、不定形耐火物は、高温溶融物と接触する部位に用いられるため、結合剤(結合材と表記されることもある)としては、コンクリート材料で用いられるポルトランドセメントよりも高耐火性のアルミナセメントが一般に使用される。このアルミナセメントは、不定形耐火物が水と混練され、得られた混練物を任意の形状に施工された後の養生期間中に水和反応を起こし、硬化体を生成することにより強度を発現して、結合剤としての機能を果たす。また、アルミナセメントの水和反応により生成する硬化体の発現強度や耐火度を高めるために、通常は、アルミナセメントに粒度45μm以下のアルミナ超微粉を配合して結合剤とする。
このような結合剤について、従来のアルミナセメントよりもスラグや溶鉄に対する耐食性に優れ、かつ、施工性及び高温での安定性に優れたものとして、化学組成がCaSr1−xAlやCaSr1−yAlである結合剤(但し、0<x<1、0<y<1)が知られている(特許文献3参照)。これによれば、アルミナセメントCaO・AlにSrOを固溶させてCaをSrで置換しているため、従来のアルミナセメントよりも融点が高くなり、水と反応して硬化体となった際に、高温での安定性が優れるとされる。
しかしながら、この特許文献3に係る結合剤は、アルミナセメントの高温特性を改善するものである。例えば、その実施例では、粒度1μm以下の焼結アルミナを50質量%含有したアルミナ−マグネシア−シリカ系不定形耐火物における結合剤としての例を示しており、上記特許文献2のように粒度45μm未満の原料に含まれるAl成分の含有量を規制したり、上記特許文献1のように炭化ホウ素等の酸化防止材を配合して、アルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物におけるカーボンの酸化を防止するような技術とは全く異なるものである。加えて、特許文献3では、従来と同様、高温での耐スラグ性をより優れたものとするために、結合剤にアルミナ粉末を配合するのが良いとしている(表1の実施例1、2、6〜14等)。
特開昭58−151369号公報 特開2014−152092号公報 特開2008−290934号公報
例えば、高炉用樋のスラグライン部での使用をはじめとして、アルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物は、一般に、雰囲気中の酸素に曝露され、かつ、高炉スラグと接触する環境下で用いられる。このアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物は、酸素に曝されると、先ず、耐火物の表面に存在するカーボンが酸化され、COガスとなって消失する。続いて、耐火物の開気孔、並びに、カーボンの消失した空間を通して耐火物内部へ酸素が拡散するため、耐火物内部からもカーボンの酸化が進行し、その結果、カーボンの酸化が耐火物全体に渡って生じるために、耐火物の組織は多孔質なものとなる。
次に、多孔質な組織となった耐火物が高炉スラグと接触すると、耐火物表面から侵食が進行すると同時に、耐火物の開気孔やカーボンが消失した空間を通して耐火物内部にスラグが浸入するため、耐火物内部からも侵食が進行して、高炉スラグにより耐火物は著しく侵食されてしまう。そのため、アルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物の酸化の抑制(すなわちカーボンの酸化の抑制)は、高炉スラグによる侵食の抑制に不可欠であり、このような酸化を抑制することがこの不定形耐火物の高耐用化を図る上で極めて重要になる。
ところが、先の特許文献2にあるように粒度45μm未満の耐火原料に含まれるAl成分の含有量を制限しても、炭化ホウ素によるカーボンの酸化防止機能が損なわれないようにするには十分でないことが判明した。この原因を解明するために本発明者らが検討を重ねたところ、特許文献2で使用しているような結合剤としてのアルミナセメント由来のCaO−Al系化合物が、炭化ホウ素が酸化されて生成するホウ酸融液と反応して、B質の皮膜形成を阻害していることを突き止めた。
そこで、アルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物の結合剤として、CaSr1−xAl又はCaSr1−yAlの化学組成を有する成分のいずれか一方又は両方を所定量配合し、しかも、従来結合剤に配合しているアルミナ超微粉の配合量を制限することで、カーボンの酸化が十分に抑制されて、溶融高炉スラグに対する耐食性が格段に向上することを見出し、本発明を為すに至った。
したがって、本発明の目的は、耐食性を支配するカーボンの酸化を従来よりも抑制できて、耐酸化性と耐食性に極めて優れたアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物を提供することにある。
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)アルミナ質耐火原料、炭化珪素質耐火原料、カーボン質耐火原料、及び粒度10μm以下のシリカ質耐火原料を含む耐火原料と、酸化防止材と、結合剤とを含有したアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物であって、
酸化防止材として、炭化ホウ素を0.1質量%以上3質量%以下、及びシリコンを2質量%以下含有し、結合剤として、CaSr1−xAl及び/又はCaSr1−yAlの化学組成(但し、0<x<1、0<y<1)を有する成分を1質量%以上10質量%以下含有し、前記粒度10μm以下のシリカ質耐火原料を0.4質量%以上5質量%以下含有して、かつ、粒径45μm以下のアルミナの含有量が0質量%超4質量%未満であることを特徴とするアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物。
(2)溶銑が流通するメタルライン部とその上部でスラグが流通するスラグライン部とを有する高炉用樋のスラグライン部をライニングするものである(1)に記載のアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物。
(3)前記アルミナ質耐火原料が4.1質量%以上47質量%以下の割合で含まれている前記(1)又は(2)に記載のアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物。
本発明によれば、耐食性を支配するカーボンの酸化を従来よりも抑制することにより、耐酸化性と耐食性を向上させて、耐用性に極めて優れたアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物を得ることができる。また、このような不定形耐火物は、例えば高炉用樋におけるスラグライン部のライニングに適しており、得られた高炉用樋は、優れた耐用性を示して出銑作業等の効率化を図ることができる。
図1は、高炉用樋の耐火物ライニングの縦断面図を模式的に示したものである。
本発明におけるアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物は、耐火原料と酸化防止材と結合剤とを含んだアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物である。以下、このアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物(単に不定形耐火物と呼ぶ場合がある)を構成する各種原料やその配合割合を示しながら、本発明について説明する。
先ず、耐火原料としては、アルミナ質耐火原料、炭化珪素質耐火原料、カーボン質耐火原料、及びシリカ質耐火原料が配合される。但し、本発明における効果に影響を及ぼさない範囲であれば、これら以外の耐火原料が配合されても構わない。
ここで、アルミナ質耐火原料については特に制限はないが、例えば、焼結アルミナ、電融アルミナ、重焼アルミナ、仮焼アルミナ、ρ−アルミナ、ボーキサイト、電融ボーキサイト、ばん土頁岩等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。このアルミナ質耐火原料の配合割合については、緻密な耐火物組織が形成されて耐酸化性により優れると共に、高炉スラグ等による浸食を防いで耐食性により優れるようになる観点から、好ましくは、不定形耐火物における割合で8質量%以上47質量%以下であるのがよく、より好ましくは10質量%以上40質量%以下であるのがよい。
炭化珪素質耐火原料とは、炭化珪素(SiC)を材料とした耐火物原料であり、例えば、再結晶SiC、酸化物結合SiC、窒化ケイ素結合SiC等をはじめとした各種炭化珪素質を使用することができる。この炭化珪素質耐火原料の配合割合については、アルミナ質耐火原料の場合と同様、緻密な耐火物組織を形成して耐酸化性や耐食性をより優れたものにする観点から、好ましくは、不定形耐火物において40質量%以上80質量%以下であるのがよく、より好ましくは45質量%以上75質量%以下であるのがよい。
また、カーボン質耐火原料とは、炭素(C)を材料とした耐火物原料であり、例えば、黒鉛、カーボンブラック、ピッチ等の各種カーボン質を使用することができる。カーボン質耐火原料の配合割合については、緻密な耐火物組織を形成して耐酸化性や耐食性により優れたものとすると共に、耐火物内部へのスラグの浸潤を確実に防ぐ観点から、好ましくは、不定形耐火物において1質量%以上8質量%以下であるのがよく、より好ましくは2質量%以上6質量%以下であるのがよい。
また、シリカ質耐火原料を配合することで、不定形耐火物を水と混練して得られた混練物の流動性を向上させることができる。すなわち、シリカ質耐火原料は、混練時に不定形耐火物の構成原料の粒子間の間隙に存在し、構成原料の粒子同士の接触抵抗を低下させることにより、混練物の流動性を向上させる機能を有している。そのため、混練時に不定形耐火物の構成原料の粒子の間隙に存在できるようにするために、シリカ質耐火原料は粒度が10μm以下のものを使用する。
ここで、シリカ質耐火原料としては、例えば、シリコン及びシリコン合金の製造時に副生するシリカフラワーやシリカヒュームのようなシリカをはじめ、気相法で製造したエアロゾル状のシリカや、湿式法で合成した非晶質含水シリカを乾燥させたものなどを使用することができる。また、シリカ質耐火原料の配合割合については、不定形耐火物において0.4質量%以上5質量%以下、好ましくは1質量%以上3質量%以下となるようにする。この配合割合が0.4質量%未満であると、混練時に不定形耐火物の構成原料の粒子間の間隙に十分な量のシリカ質耐火原料が存在することができず、混練物の流動性を向上させる効果を十分に得ることができない。反対に5質量%超であると、高炉スラグによる侵食が大きくなり、耐食性に劣るおそれがある。
また、本発明における不定形耐火物には、酸化防止材として炭化ホウ素を配合する。この炭化ホウ素の配合割合は、不定形耐火物において0.1質量%以上3質量%以下、好ましくは0.5質量%以上2質量%以下となるようにする。炭化ホウ素の配合割合が0.1質量%未満であると、炭化ホウ素が酸化されて生成するホウ酸融液の量が少なくなり、耐火物表面や耐火物の開気孔の内表面に十分な厚みのB質の皮膜を形成することができずに、耐酸化性と耐食性に劣ってしまう。反対に3質量%超であると、炭化ホウ素が酸化されて生成するホウ酸の量が多くなり過ぎるために、高炉スラグによる侵食が大きくなり、耐食性に劣ってしまう。
また、本発明においては、酸化防止材として更にシリコンを配合してもよい。このシリコンは、炭化ホウ素のカーボンの酸化防止の効果を更に高めることができる。すなわち、アルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物に炭化ホウ素とシリコンとが配合されている場合、使用中に先ず炭化ホウ素が酸化され、生成したホウ酸融液が蒸発して、耐火物表面や耐火物の開気孔の内表面にB質の皮膜を形成する。次に、シリコンの溶融と蒸発が起こり、耐火物表面や耐火物の開気孔の内表面に既に生成しているB質の皮膜にSiOとしてトラップされると考えられる。蒸発したシリコンがB質の皮膜にSiOとしてトラップされることにより、より緻密な皮膜が形成されることになる。このような、耐火物表面や耐火物の開気孔の内表面における緻密な皮膜の生成により、耐火物内部への酸素の拡散防止効果が高まるために、耐火物の耐酸化性を更に向上させることができると考えられる。但し、シリコンを配合する場合には、不定形耐火物における割合で2質量%以下となるようにする必要がある。シリコンの配合割合が2質量%超であると、耐火物表面や耐火物の開気孔の内表面に既に生成している皮膜にトラップされるSiOの量が多くなり過ぎて、高炉スラグによる侵食が大きくなり、耐食性が問題になるおそれがある。すなわち、本発明に係る不定形耐火物におけるシリコンの配合割合は0質量%以上2質量%以下である。
また、本発明における不定形耐火物には、CaSr1−xAl又はCaSr1−yAlの化学組成(但し、0<x<1、0<y<1)を有する成分のいずれか一方又は両方を含んだ結合剤を配合する。一般に、結合剤は、水と混練された不定形耐火物を硬化させるために使用されるものである。本発明において、これらの化学組成を有する成分(合成鉱物と称することも可能)が混練過程中に水と接触すると、Ca2+イオン、Sr2+イオン、及びAl(OH) イオンを溶出し、溶出したイオンが会合することで水和反応を起こして、Ca−Sr−Al−OH系水和物が不定形耐火物の組織内部に均一に生成し、硬化を引き起こすと考えられる。
このうち、CaSr1−xAlは、CaO・AlにSrOを固溶、又はSrO・AlにCaOを固溶させて得ることができ、xとしては0超1未満の範囲であれば任意の値のものを用いることができる。また、CaSr1−yAlは、CaO・2AlにSrOを固溶、又はSrO・2AlにCaOを固溶させて得ることができ、yとしては0超1未満の範囲であれば任意の値のものを用いることができる。なお、固溶とは2種以上の元素(金属でも非金属でもあり得る)が互いに溶け合い、全体が均一の固相となる状態を意味する。
これらの化学組成を有する成分は、上述したように、不定形耐火物としての使用中にCa−Sr−Al−OH系水和物由来のCaO−SrO−Al系酸化物を生成する。このCaO−SrO−Al系酸化物に含まれるストロンチウム(Sr)は、ホウ素(B)と化学的親和力が極端に低いため、この酸化物は、炭化ホウ素が酸化されて生成したホウ酸融液と反応しない。その結果、炭化ホウ素のカーボンの酸化防止の機能を阻害させることがなく、耐火物の耐酸化性と耐食性を向上させることができる。そのため、これらの化学組成を有する成分は、いずれか一方又は両方を合計で不定形耐火物において1質量%以上10質量%未満となるように配合し、好ましくは2質量%以上7質量%以下となるように配合する。この配合割合が1質量%未満では、使用中に緻密な耐火物組織が形成されないため、耐酸化性と耐食性に劣ってしまう。反対に10質量%超であると、高炉スラグによる侵食が大きくなり、耐食性に劣ってしまう。
なお、上記化学組成を有する成分のうち、xの値が0であるSrAlとyの値が0であるSrAlとは、いずれも混練過程中に水と接触すると急速にCa−Sr−Al−OH系水和物の生成反応が起きて、混練過程中に硬化が完了してしまう。そのため、不定形耐火物を用いた構造体を施工することができず、結合剤として使用することができない。一方、xの値が1であるCaAlとyの値が1であるCaAlとは、いずれもアルミナセメント由来のCaO−Al系化合物であり、使用中に炭化ホウ素が酸化され、生成したホウ酸融液が蒸発する前にホウ酸融液と反応して、固体の化合物を生成する。その結果、炭化ホウ素のカーボンの酸化防止の機能を失わせ、耐火物の耐酸化性と耐食性を低下させることから、やはり結合剤として使用することができない。
xの値が0超1未満のCaSr1−xAlやyの値が0超1未満のCaSr1−yAlの化学組成を有する合成鉱物の製造方法については特に制限されないが、例えば、石灰石、生石灰、精製アルミナやボーキサイト、ストロンチアン鉱や天青石を原料とし、目的とする組成のモル比となるように原料を配合し、電気炉、反射炉、平炉、縦型炉又はシャフトキルンやロータリーキルンで1100℃以上、好ましくは1300℃以上、より好ましくは1500℃以上の高温で溶融又は焼成する方法が挙げられる。これらの温度や溶融・焼成時間は炉の容積や加熱能力等の仕様によって変わるものであり、実際には、溶融・焼成後の生成相をX線回折で確認し、目的の組成の合成鉱物の生成有無を確認することが重要である。
また、目的の組成の合成鉱物を効率良く得るためには、上記で溶融又は焼成する前に、これらの原料を粉砕、風力分級することで0.5〜100μmの範囲にまで粒度調整しておくのがよい。同じく、溶融又は焼成後、高圧の空気や水に接触させて冷却し、均一な組織を有する合成鉱物とするのがよい。更には、原料中のCaO、Al及びSrOの合計が98質量%以上であるような高純度のものを使用するのがよく、更にまた、これらの合成鉱物の粒度は水和反応の影響を考慮して、溶融又は焼成後、粉砕、風力分級することで1〜20μm程度に整粒化するのがよい。なお、これらの粒度分布についてはレーザー回折法やレーザー散乱法、或いは沈降天秤法などの粒度分析機器により測定できる。
本発明における耐火原料と酸化防止材と結合剤とを含んだアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物は、粒度45μm以下のアルミナの含有量が0質量%超4質量%未満、好ましくは0.1質量%以上2質量%以下となるようにする。このような粒度45μm以下のアルミナは、結合剤に由来するものと、アルミナ質耐火原料に由来するものとが考えられる。いずれから由来するとしても、不定形耐火物に粒度45μm以下のアルミナが4質量%以上存在する場合、このアルミナは混練時に水に完全に溶解することができず、不定形耐火物の組織中に残存してしまうおそれがある。そして、残存した粒度45μm以下のアルミナは、不定形耐火物の使用中に炭化ホウ素が酸化されて生成したホウ酸融液と反応し、固体の化合物を生成する。そのため、酸化防止材として配合した炭化ホウ素により耐火物表面や耐火物の開気孔の内表面にB質の皮膜を十分に形成することができなくなり、炭化ホウ素のカーボンの酸化防止の機能が損なわれて、耐酸化性と耐食性が低下してしまう。
一方で、このようなアルミナの超微粉は、結合剤としての機能を更に向上させることができ、水和反応による硬化時に不定形耐火物が発現する強度をより高められる。すなわち、上述したような合成鉱物と粒度45μm以下のアルミナが共存すると、不定形耐火物の混練時に水と接触して、合成鉱物からはCa2+イオン、Sr2+イオン、及びAl(OH) イオンが溶出され、一方の合成鉱物に近接する粒度45μm以下のアルミナは活性であるため、水に溶解してAl(OH) イオンを溶出する。そして、合成鉱物から溶出した各イオンが会合し、水和反応によりCa−Sr−Al−OH系水和物の結晶構造が形成される過程で、アルミナの超微粉から溶出したAl(OH) イオンがこのCa−Sr−Al−OH系水和物の結晶構造に取り込まれ、不定形耐火物の組織内部に強固な結合力を有するCa−Sr−Al−OH系水和物を均一に生成して、硬化時に不定形耐火物の発現強度を大幅に向上させることができる。
そこで、本発明においては、不定形耐火物における割合で0質量%超4質量%未満を満足しつつ、粒度45μm以下のアルミナを含むようにする。このような粒度45μm以下のアルミナを結合剤として配合する場合には、例えばα−Al等を使用することができる。その際、粒度45μm以下のアルミナは、好ましくは結合剤としての割合で0質量%超40質量%未満配合されるのがよい。結合剤における割合で上記のアルミナの超微粉が40質量%以上になると、当該アルミナから溶出するAl(OH) イオンが多くなるために、合成鉱物から溶出したイオンが会合し、水和反応によりCa−Sr−Al−OH系水和物の結晶構造が形成される過程で、その水和物の結晶構造に取り込まれないAl(OH) イオンが生じるおそれがある。この取り込まれなかったAl(OH) イオンは、Al(OH)として不定形耐火物の組織内部に存在することになり、不定形耐火物の使用中にAlに変質し、変質したAlは、炭化ホウ素が酸化されて生成したホウ酸融液と反応して固体の化合物を生成するため、炭化ホウ素のカーボンの酸化防止の機能を低下させて、耐酸化性と耐食性を低下させてしまう。なお、粒度45μm以下のアルミナとは、目開き45μmの篩で篩い分けしたときの篩下を表す。
本発明において、不定形耐火物を得る際の各種原料の混合や、上記合成鉱物を製造する際に原料を混合する手段については特に制限はなく、例えば、アイリッヒミキサー、ロータリードラム、コーンブレンダー、V型ブレンダー、オムニミキサー、ナウターミキサー、パン型ミキサー等の公知の手段を用いて均一化することができる。また、合成鉱物を粉砕する装置についても特に制限はなく、例えば、振動ミル、チューブミル、ボールミル、ローラミル等の工業用粉砕機を用いることができる。
また、本発明における不定形耐火物には、本発明の効果が損なわれない範囲であれば爆裂防止剤や分散剤等の添加剤を配合してもよい。このうち、爆裂防止剤としては、ビニロンファイバー、乳酸アルミニウム、発泡剤である金属アルミニウム、アゾジカルボンアミド等を挙げることができる。また、分散剤としては、トリポリリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、酸性ヘキサメタリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダ、スルホン酸ソーダ、ナフタレンスルホン酸ソーダ、リグニンスルホン酸ソーダ、ウルトラポリリン酸ソーダ、炭酸ソーダ、ホウ酸ソーダ、クエン酸ソーダ等を用いることができる。これらの添加剤はその1種又は2種以上を配合することができる。また、その配合量としては、例えば、爆裂防止剤であれば、不定形耐火物を100質量%として、その外掛けの割合で0.01質量%以上0.03質量%以下、分散剤であれば、同様に不定形耐火物100質量%に対する外掛けの割合で0.03質量%以上0.1質量%以下程度を目安にするのがよい。
本発明における不定形耐火物は、従来公知のものと同様に、水を加えて混錬し、任意の形状に施工して、各種構造体を得ることができる。その一例として、高炉用樋においてスラグが流通するスラグライン部を施工する場合は次のとおりである。
図1には、高炉用樋の断面図が示されており、例えばアルミナ−スピネル−炭化珪素系不定系耐火物を用いて、溶銑が流通するメタルライン部を施工する。一定時間経過した後、本発明に係るアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物を水と混練した混練物をその上部に流し込むことで、スラグライン部を施工することができる。施工の際には混練物の充填性を向上させるために、例えば、型枠にバイブレータを取り付けた上で流し込むか、あるいは混練物中に棒状バイブレータを挿入して加振するようにしてもよい。
また、アルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物を水と混練して混練物を得る際、水の添加量は、全配合原料の質量に対して外掛けで4〜8質量%程度にするのが一般的である。但し、施工に必要とされる水の添加量は、施工時の気温などにより影響を受けるため、混練物のフロー値を測定することにより、最適な水の添加量を決めるようにするのが望ましい。
本発明におけるアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物は、各種工業窯炉の内張り材等に使用することができ、なかでも高炉用樋、特にスラグと接するスラグライン材と称する部位への使用に加えて、溶滓樋の内張りライニング材、樋カバーの内張りライニング材、溶銑搬送容器の内張りライニング材、スラグ改質炉の内張りライニング材等に好適に使用することができる。
以下、実施例に基づきながら本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
(実施例1〜6、比較例1〜14)
耐火原料として、粒度が10mm以下のアルミナ質耐火原料と、粒度が10mm以下の炭化珪素質耐火原料と、カーボンブラックと、粒度が10μm以下のシリカフラワーとを用意し、酸化防止材として、炭化ホウ素と、シリコンとを用意し、結合剤として、CaSr1−xAlの化学組成を有する成分と、CaSr1−yAlの化学組成を有する成分と、アルミナセメント2種相当とを用意して、これらを表1〜3に示した質量割合で配合して、実施例1〜6及び比較例1〜14に係るアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物とした。これらの実施例及び比較例の不定形耐火物に含まれる粒径45μm以下のアルミナは、アルミナ質耐火原料由来と結合剤由来の合計量である。表の結合剤の欄に示すアルミナ含有量は結合剤として予め混合されている粒径45μm以下のアルミナ量であり、残部の粒径45μm以下のアルミナを、アルミナ質耐火原料として配合した。また、CaSr1−xAlとCaSr1−yAlの化学組成を有する成分は、純度99%の炭酸カルシウムと純度98%の炭酸ストロンチウムと純度99%のα―アルミナを当該化学組成になるよう配合し、電気炉で1400℃×48時間焼成し、常温まで放冷し、ボールミルで粉砕し、風力分級により20μm以下を回収して準備したものであり、各化学組成におけるx、yの値はそれぞれ表に示したとおりである。
上記実施例及び比較例の不定形耐火物には、それぞれ分散剤としてポリアクリル酸ソーダを不定形耐火物の質量に対して外掛け0.1質量%の範囲で添加すると共に、水を不定形耐火物の質量に対して外掛け5質量%添加して、二軸ミキサーを用いて3分間混練し、混練物を所定寸法の金枠に振動を付与させながら流し込んだ。そして、室温で24時間養生した後に、110℃で24時間乾燥させることにより、評価試料を作製した。
耐酸化性については、直径50mm×高さ50mmの試験片を大気中で1000℃×30時間焼成した後に、高さ25mmの位置で水平方向に切断し、切断面の脱炭層の厚みを測定することで評価した。脱炭層の厚みが薄い程、耐酸化性は良好である。その際、結合剤としてアルミナセメントを配合した比較例1での脱炭層の厚みを100として、各実施例及び比較例の不定形耐火物を指数表示した。ここでは、指数の数値が小さい程、耐酸化性が良好であることを表す。また、耐食性については、回転侵食試験法により評価した。その際、侵食剤には高炉スラグを使用して、試験は1600℃の温度で30分毎の侵食剤の排出と、新たな侵食剤の投入作業を6回繰り返すことで行った。そして、耐食性の評価として、試験終了後に試験片を切断し、最大溶損量を測定して、上記と同様に比較例1の溶損量を100として指数表示とした。ここでは、数値が小さい程、耐食性が良好であることを表す。
Figure 0006535528
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表1〜3に示した結果から分かるように、本発明の耐火原料と酸化防止材と結合剤とを含むと共に、粒径45μm以下のアルミナが所定の含有量となるようにした不定形耐火物であれば、これらをいずれかでも満たさない比較例の不定形耐火物に比べて、耐酸化性及び耐食性に優れたものとすることができる。そのため、本発明に係るアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物は、工業窯炉等の内張り材等として使用でき、なかでも、鉄鋼業の製銑、製鋼プロセス等で使用される窯炉設備の内張り材に好適であって、特に、溶融高炉スラグと接触するスラグライン部をライニングして高炉用樋とすれば、優れた耐用性を示して出銑作業等の効率化を図ることができる。

Claims (3)

  1. アルミナ質耐火原料、炭化珪素質耐火原料、カーボン質耐火原料、及び粒度10μm以下のシリカ質耐火原料を含む耐火原料と、酸化防止材と、結合剤とを含有したアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物であって、
    酸化防止材として、炭化ホウ素を0.1質量%以上3質量%以下、及びシリコンを2質量%以下含有し、結合剤として、CaSr1−xAl及び/又はCaSr1−yAlの化学組成(但し、0<x<1、0<y<1)を有する成分を1質量%以上10質量%以下含有し、前記粒度10μm以下のシリカ質耐火原料を0.4質量%以上5質量%以下含有して、かつ、粒径45μm以下のアルミナの含有量が0質量%超4質量%未満であることを特徴とするアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物。
  2. 溶銑が流通するメタルライン部とその上部でスラグが流通するスラグライン部とを有する高炉用樋のスラグライン部をライニングするものである請求項1に記載のアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物。
  3. 前記アルミナ質耐火原料が4.1質量%以上47質量%以下の割合で含まれている請求項1又は2に記載のアルミナ−炭化珪素−カーボン系不定形耐火物。
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