以下、本発明の実施形態に係る動物侵入抑止柵の設置方法について詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る動物侵入抑止柵1が設置されている状態を示す斜視図である。
動物侵入抑止柵1は、図1に示すように、野生動物の侵入から保護する対象となる鉄道や道路、農地や林地が設けられている保護地(−X方向)と、保護地以外の敷地(+X方向)とを隔てるために用いられている。なお、上記±X方向の他、動物侵入抑止柵1の延展方向を±Y方向(特に図1紙面左方向を便宜的に+Y方向とする)、地面Gに対して垂直な方向であって動物侵入抑止柵1が立設される方向を+Z方向とする。
野生動物は、例えば、シカ科では、特にシカ属のニホンジカに分類される、エゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカ、マゲシカ、ヤクシカ、ケラマジカ、ツシマジカ等が該当する。また、ウシ科では、特にカモシカ属に分類されるニホンカモシカ等やウシ属に分類される各種ウシ等が該当する。更に、雑食性の動物である、イノシシ科のニホンイノシシやリュウキュウイノシシ等も該当する。
保護地は、例えば鉄道や道路の場合、列車の通過する線路や自動車が通過する道路等を有する敷地を想定している。また、農地や林地の場合、農作物の作付けや植林が施された敷地を想定している。このため、保護地は、動物侵入抑止柵1を境界にして線路や自動車用道路等の直線的に延長された敷地、農作物が作付けされた畑や植林が施された敷地である。
保護地以外の敷地は、動物侵入抑止柵1を境界にして線路や自動車用道路、畑や植林を有する保護地と反対側に位置する敷地である。保護地以外の敷地は、例えば、野生動物の生息地を想定している。しかし、これに限定されることなく、保護地位外の敷地は、動物侵入抑止柵1を境界にして保護地以外の敷地を全て含むものとする。
図2は、実施形態に係る動物侵入抑止柵1を示す斜視図である。図3は、実施形態に係る動物侵入抑止柵1を示す側面図である。
動物侵入抑止柵1は、間隔をあけて配置された支柱11と、これらの支柱11に架け渡された3本の樹脂被覆の繊維であるロープ12a、12b、12cと、中間部及び最下部にあるロープ12b、12cに取り付けられた網体である亀甲金網13と、亀甲金網13をロープ12b、12cに連結する第1連結コイル31と、隣接する亀甲金網13同士を連結する第2連結コイル32とを主な構成部材として構成されている。この動物侵入抑止柵1は、傾斜地である地面Gに対して垂直に設けられている。
上述した動物侵入抑止柵1において、地面Gから中央部にあるロープ12bまでの高さをH1、最下部にあるロープ12cまでの高さをH2、最上部にあるロープ12aまでの高さをH3とする。また、ロープ12aとロープ12bとの間の距離をH4とする。
図4は、実施形態に係る動物侵入抑止柵1を構成する支柱11を示す斜視図である。図5は、図4の支柱11の上部拡大斜視図である。図6は、図4の支柱11の下部拡大斜視図である。
支柱11は、地面に立設される支柱本体111と、支柱本体111の下部に連続して設けられた基礎杭112と、支柱本体111に取り付け固定される支柱カバー113とにより主に構成されている。支柱11が地面Gに立設される際には、保護地の外側(+X方向)に支柱カバー113を向けた状態で立設される。
図7は、図4の支柱を構成する支柱本体111を示す斜視図である。図8は、図7の支柱本体111の側面図である。
支柱本体111は、底部111gと、底部111gより垂直に立ち上がり互いに垂直となる位置関係で連続しているウェブ111e及びフランジ111fとにより構成される断面L型の鋼材である。
底部111gは略正方形の板状部材であり、中心部分にはボルト締結用の孔部111dが設けられている。この底部111gには、地面Gに打設された基礎杭112の上部に設けられたボルト(不図示)が挿通され、底部111g側からワッシャ(不図示)を介してナットN2が螺合されることにより底部111gと基礎杭112とが固定され、支柱11の地面Gへの立設が行われる。この底部111gから垂直に立ち上がるようにして、ウェブ111eとフランジ111fとが、互いに垂直となるように設けられている。
ウェブ111eには、所定の間隔を空けて、実際に動物侵入抑止柵1が設置された状態における水平方向(−X方向)に伸展して設けられた水平切欠部111aと、切欠部111aに連続して鉛直方向(−Z方向)に設けられた鉛直切欠部111bが形成されている。また、ウェブ111eには、支柱カバー113とのボルト締結用の孔部111cが設けられている。
水平切欠部111a及び鉛直切欠部111bの開口径は、ロープ12a、12b、12cを挿通可能な径となっている。
鉛直切欠部111bは、支柱本体111を傾斜させて地面Gに設置した状態でロープ12a、12b、12cを脱落させずに仮置きできる構成である。
そのため、地面Gに長い延長に渡り動物侵入抑止柵1を設置する際に、支柱カバー113の取り付けをそれぞれの支柱11を設置する都度行うことなく、先行して多数の支柱本体111を地面Gに設置し、ロープ12a、12b、12cを鉛直切欠部111bに仮置きさせることができる。
これにより、その後で多数の支柱カバー113の取り付けを連続しておこなうことができ、斜面での施工性がより良好なものとなる。
また、鉛直切欠部111bは、支柱本体111を地面Gに立設して傾けた状態で、ロープ12a、12b、12cが脱落せず仮置きできる形状であればよい。そのため、本実施形態においては切欠きが鉛直方向に設けられていて鉛直切欠部111bとなっているが、本発明においてはこれに限らず、水平切欠部111aに連続して鉛直方向以外の方向に延びる態様であってもよい。
フランジ111fは、底部111g及びウェブ111eに対して垂直に設けられた長板形状の構成であり、ウェブ111eとともに支柱本体111に機械的強度を付与している。
動物侵入抑止柵1の設置場所である地面Gには、複数の基礎杭112が所定の間隔を空けて打設されている。基礎杭112は、円筒状の部材であり、その上部からはボルトが突出している。
この基礎杭112の上部から突出するボルトが支柱本体111の底部111gに形成されている孔部111dに挿入されるようにして、支柱本体111が地面に垂直に載置されている。支柱本体111は、水平切欠部111aが地面Gの下方、すなわち保護地側と反対側に向くようにして載置されている。
基礎杭112と支柱本体111とのボルト締結は、支柱本体111の底部の孔部111gから突出している基礎杭112のボルトに対して、支柱本体111側からワッシャとナットとが嵌め込まれることで行われている。
図9は、図4の支柱を構成する支柱カバー113を示す斜視図である。図10は、図9の支柱カバー113の側面図である。
支柱カバー113は、長板状のウェブ113eと、ウェブ113eに対して垂直に連続して設けられたフランジ113fにより構成される断面L型の鋼材である。
ウェブ113eには、矩形の切欠部113aが所定の間隔をあけて複数設けられている。切欠部113aの上下方向(±Z方向)の幅は、支柱本体111のウェブ111eに形成された鉛直切欠部111bの長手方向の長さよりも短くなっていて、切欠部113a間の間隔は、鉛直切欠部111b間の間隔と同一の間隔となっている。
また、ウェブ113eには、支柱本体111とのボルト締結に用いられる複数の孔部113cが設けられている。孔部113c間の間隔は、支柱本体111のウェブ111eに設けられた孔部111c間の間隔と同一のものとなっている。
フランジ113fはウェブ113eよりも幅が狭くなっている板状の部材である。
ロープ12a、12b、12cは、両端部が環状にアイ加工されることで、それぞれ両端部に環状の連結構造121a、121b、121cが形成されている樹脂被覆の繊維ロープである。
図11は、支柱本体111にロープ12a、12b、12cが掛け渡される状態を示す部分拡大斜視図である。図12は、ロープが掛け渡された支柱本体に支柱カバーが当接した状態を示す部分拡大斜視図である。図13は、図12の状態から更にボルトとナットによる固定が行われた状態を示す部分拡大斜視図である。
本実施形態においては、3本のロープ12a、12b、12cが、複数の支柱11の支柱本体111の水平切欠部111aから鉛直切欠部111bに挿通され、支柱本体111間に架け渡されている。
ロープ12a、12b、12cに張力が加わり緊張した状態において、地面Gから見たロープ12cの高さをH2、ロープ12bの高さをH1、ロープ12aの高さをH3、ロープ12a−12b間の距離をH4とする。
また、支柱本体111に架け渡されたロープ12a、12b、12cの脱落を防止するため、支柱本体111に支柱カバー113が取り付けられている。
この支柱カバー113の取り付けは、各支柱本体111に掛け渡されたロープ12a、12b、12cを支柱本体111と挟み込むように、地面Gの斜面下方側から支柱カバー113を当接させることで行われている。
支柱カバー113の支柱本体111への当接は、支柱カバー113の切欠部113aにロープ12a、12b、12cが挿通されるようにして行われている。こうして、支柱本体111の鉛直切欠部111bと支柱カバー113の切欠部113aにより、ロープ12a、12b、12cが把持された状態となっている。
また、この状態では、支柱本体111の孔部111cと支柱カバー113の孔部113cとが対向する位置にあり、これらの孔部111c、113cが連通した状態となっている。
そして、図13に示すように、この状態で支柱本体111と支柱カバー113とがボルト締結され固定される。
連通した状態にある支柱本体111の上下に形成されている2つの孔部111cとこれらに対向する位置にある支柱カバー113の孔部113cにそれぞれワッシャW1、W2を介してボルトB1、B2が挿通されている。そして、挿通されたボルトB1、B2にそれぞれナットN1、N2が螺合されて、支柱本体111と支柱カバー113との固定が行われている。
図14は、ロープの端部が始点基礎に固定される態様を示す正面図である。図15は、始点基礎の構成を示す正面図である。図16は、シャックルを示す斜視図である。図17は、ロープの端部が終点基礎に固定される態様を示す正面図である。図18は、終点基礎の構成を示す斜視図である。
ロープ12a、12b、12cの一端部の連結構造121a、121b、121cは、シャックル611を介して単一の始点基礎61に固定されている。また、ロープ12a、12b、12cの他端部の連結構造121a、121b、121cは、ターンバックル5を介してそれぞれ別個の終点基礎8に固定されている。
始点基礎61は、ロープ12a、12b、12cの一端部を地面に固定するための部材である。始点基礎61は金属よりなる部材であり、板状の基材613と、基材613から円環状に立設されている円環部612と、基材613を地面Gに固定する基礎杭615を備えて構成されている。
基材613は、長板状の部材であり、長手方向の両端部近傍にそれぞれ貫通孔613aが形成されている。この貫通孔613aは、基材613と基礎杭615との固定に用いられるボルト614aを挿通可能な径を有している。
基礎杭615は金属製の部材であり、円筒状の本体部615aと、本体部615aの上部開放端部を覆うように取り付けられ中央部に貫通孔615cが形成されている端部板615bを備えて構成されている。貫通孔615cは、内周面にボルト614aと螺合可能なねじ溝が形成されている。
こうした始点基礎61の地面への設置は、基礎杭615を地面に打設した後、基材613をボルト614a及びワッシャ614bを用いて基礎杭615に固定することで行われる。
なお、始点基礎61の設置位置は、動物侵入抑止柵1の延展方向に平行か、または保護地側となっている。これは、亀甲金網13を保護地の外側から設置する際に妨げとならないようにするためである。
シャックル611は、環状部材同士の連結等に用いられる連結部材であり、シャックル本体611a及びボルト611dから形成されている。
シャックル本体611aはU字状である。このシャックル本体611aの両端部に挿通孔611b、611cが形成されている。挿通孔611bは内周面にねじ溝が形成されている。挿通孔611cは挿通孔611bよりも大きな径を有していて、ボルト611dを挿通可能となっている。
ボルト611dは、一端部は作業者が把持可能なように形成されているとともに、他端部にはねじ部611eが形成されている。ねじ部611eは挿通孔611bの内周面のねじ溝と螺合可能になっている。
そして、ロープ12a、12b、12cを始点基礎61の円環部612に固定する際には、シャックル本体611aがその内部に円環部612及び連結構造121a、121b、121cを取り込んだ状態でボルト611dが締め込まれる。これにより円環部612及び連結構造121a、121b、121cがシャックル本体611a内部から離脱できなくなり、その結果円環部612と連結構造121a、121b、121cが固定される。
終点基礎8は金属製の固定部材であり、地面に打設される基礎杭82と、基礎杭82に連続して形成され貫通孔83を有する起立部81とを備えている。貫通孔83は、ターンバックル5の両端部に形成されているシャックル部51のボルトを挿通可能な径を有している。
なお、終点基礎8の設置位置は保護地内部となっている。これは、亀甲金網13を保護地の外側から設置する際に妨げとならないようにするためである。
ターンバックル5は本実施形態においてロープ12a、12b、12cを本緊張するための本緊張治具として用いられ、本体部52と、本体部52の両端にねじ構造により進退可能に螺合されたシャックル部51が形成されている。
シャックル部51は上述したシャックル611と同様に、切欠きを有する円環部と、当該切欠きを閉鎖する取り外し可能なボルトを備えて構成されている。
このターンバックル5は、本体部52を所定の方向に回転すると、その両端部に螺合されたシャックル部51がともに突出又は退行をするように形成されている。すなわち、本体部52を回転することで、ターンバックル5全体の長さを調節することができるようになっている。
ターンバックル5の一方のシャックル部51は、ロープ12a(12b、12c)の他端部の連結構造121a(121b、121c)に連結されている。そして他方のシャックル部51は、終点基礎8の起立部81に連結されている。
そして、この連結状態においてターンバックル5の本体部52をターンバックル5の長さが短くなるように回転させることで、ロープ12a(12b、12c)の本緊張が実現されている。
なお、本実施形態においてはターンバックル5を用いてロープ12a、12b、12cの端部の固定を行っているが、本発明においてはこれに限らず、他の形状のターンバックル5を用いてもよく、また、ターンバックル5以外の、巻き取りリール等の任意の本緊張治具を用いて固定を行ってもよい。
緊張されたロープ12a、12b、12cには、亀甲金網13が取り付けられている。
亀甲金網13は、鋼線である線材をねじり合わせて六角形の網目を形成した網体であり、ビニール被覆線、亜鉛めっき鉄線、ステンレス線等を用いて形成されている。亀甲金網13は、工事の際に取り扱いが容易であり、鋼線の一部が破断しても裂け目が全体に広がることがないという利点がある。
亀甲金網13は、線材同士の撚り目を水平方向(地面Gと平行な方向)に向けて配置されている。亀甲金網13は、この撚り目が回転軸となることで、網目同士が所定の範囲回動することができるため、亀甲金網13を巻いた状態とすることができる。
亀甲金網13は、第1連結コイル31を用いてロープ12b、12cに取り付けられている。また、隣接する亀甲金網13同士は、互いの幅方向(±Y方向)の端部にある1マス分の網目を重ね合わせて配置されている。そして、隣接する亀甲金網13は、ロープ12b、12c間であってこの重ね合わさせている網目の部分において、第2連結コイル32により互いに固定されている。
亀甲金網13の幅及び用いられる枚数は適宜調節することができる。本実施形態においては、支柱11間にそれぞれ支柱11間の距離の3分の1よりもやや広い幅を有する3枚の亀甲金網が、そのうち1枚が支柱11に重なるようにしつつ、それぞれの端部において互いに1マス分ずつ網目を重ね合わせた状態で、隣接する2つの支柱11間に隙間なく架け渡されている。
亀甲金網13の縦方向の長さは、ロープ12b及びロープ12cに取り付けた状態において、亀甲金網13がロープ12cから更に延長し、地面Gに沿い広がる程度の長さとなっている。
また、亀甲金網13の1枚当たりの重量は、作業者が1人で持ち上げられる程度の重量(目安として30kg以下)となっている。このような重量とすることで、動物侵入抑止柵1の設置作業を少人数で容易かつ効率的に行うことができる。
なお、本実施形態においては亀甲金網13が用いられているが、本発明においてはこれに限らず、綿や樹脂製の紐より形成される網体等、作業者が一人でも持ち運び及び設置作業ができる程度に軽量で、かつ上方(+Z方向)に巻き上げられるものであれば好適に用いることができる。
上述した構成を有する動物侵入抑止柵1は、除草作業時に容易に作業スペースを確保し亀甲金網13の損傷を防止することができる。
図19は、動物侵入抑止柵の亀甲金網の下端部を巻き上げた状態を示す斜視図である。図20は、動物侵入抑止柵の亀甲金網の下端部を巻き上げた状態を示す正面図である。図21は、動物侵入抑止柵の亀甲金網の下端部を巻き上げた状態を示す側面図である。
動物侵入抑止柵1の亀甲金網13は、上述したように撚り目を中心として所定の範囲の回動可能であるため、全体として撚り目を軸として巻いた状態とすることができる。
そのため、図19〜図21に示すように、ロープ12cを緊張させたまま亀甲金網13のロープ12cよりも下側(−Z方向)に位置する部分を巻き上げることができ、亀甲金網13の下方に高さH2のスペースを確保することができる。この高さH2は、100mm以上300mm以下となっている。
巻き上げた亀甲金網13の端部は、係止部材7を用いて上方の網目に固定される。係止部材7としては、クリップやカラビナ等、取り付けと取り外しを容易に行うことのできるものであれば種々のものを用いることができる。これにより亀甲金網13を巻き上げた状態を保つことができる。
亀甲金網13の下部に形成されたスペースの高さH2が100mm以上あることで、除草作業時に草刈機の回転刃が亀甲金網13に接触し亀甲金網13が破損することを効果的に防止することができる。
また、高さH2が300mm以下であることで、野生動物としてのイノシシ2’(図36参照)の侵入を効果的に防止することができる。このイノシシ2’の侵入防止効果についての詳細は図36を用いて後述する。
次に、動物侵入抑止柵1の任意の個所において作業者の通用スペースを確保できる効果について説明する。
図22は、動物侵入抑止柵1の特定の亀甲金網13について全体を巻き上げ、出入口を形成した状態を示す斜視図である。図23は、動物侵入抑止柵1の特定の亀甲金網13について全体を巻き上げ、出入口を形成した状態を示す正面図である。図24は、動物侵入抑止柵1の特定の亀甲金網13について全体を巻き上げ、出入口を形成した状態を示す側面図である。
図22〜図24に示すように、動物侵入抑止柵1の亀甲金網13は、図19〜図21に示す状態よりも更に巻き上げられ、高さH1の位置で固定されている。
上述したように、支柱11間に互いに端部を重ね合わせた状態で取り付けられている3枚の亀甲金網13のうち、中央にある亀甲金網13は、他の2つの亀甲金網よりも保護地の外部に位置している。そのため、図22〜図24に示すように、ロープ12a、12b、12cの緊張状態を保ちつつ、中央にある亀甲金網13のみを保護地の外側に向けて巻き上げることができる。
このとき、巻き上げられる対象となる亀甲金網13をロープ12cに固定しているコイル部材31が取り外されるが、この取り外しはコイル部材31を回転させるのみで容易に行うことができる。また、亀甲金網13同士の連結に用いられているコイル部材32も、回転させるのみで容易に亀甲金網13から取り外される。
そして、中央にある亀甲金網13が高さH1に巻き上げられた状態で、その端部が係止部材7を用いてロープ12aに固定されることで、当該巻き上げられた状態が維持される。この高さH1は、作業者が通行可能な高さとなっているため、亀甲金網13が巻き上げられた個所は、作業者の通用スペースとすることができる。
また、作業者による作業が終了し、動物侵入抑止柵1を図1に示す当初の状態に戻す場合には、まず係止部材7が取り外され、亀甲金網13が地面Gまで下ろされる。
そして、下ろした亀甲金網13をコイル部材31を用いてロープ12cに連結固定するとともに、隣接する亀甲金網13間をコイル部材32で再度連結される。このとき、コイル部材32が亀甲金網13から脱落しないように、コイル部材32の上下に収縮する弾性力により亀甲金網13のマス目を保持する。
このように、動物侵入抑止柵1は、ロープ12a、12b、12cの緊張状態を維持したまま作業者の通用スペースを容易かつ迅速に形成することができるものであり、作業終了後にも容易かつ迅速に当初状態に戻すことができる。
次に、上述した動物侵入抑止柵1の設置方法について説明する。なお、以下の説明において各部材について第1の、第2の、…、第nの(nは3以上の整数)というときには、第1始点基礎61から近い位置に設けられているものから順に第1の、第2の、…、第nの、というものとする。
図25は、複数の支柱本体と第1始点基礎とが地面に設置された状態を示す概略正面図である。
まず、動物侵入抑止柵1の設置場所である地面Gに所定の間隔を空けて基礎杭112が打設されるとともに、基礎杭112に支柱本体111がボルト締結により固定される。
このとき、ロープ12a、12b、12cを架け渡す前の状態であるため、支柱カバー113は取り付けられていない。支柱本体111に対する支柱カバー113の取り付けは、支柱本体111に対してロープ12a、12b、12cが架け渡された後であれば任意のタイミングで行うことができる。
また、地面Gに対する始点基礎61の打設も行われる。
図26は、第1始点基礎に第1のロープの一端部の連結構造が連結されるとともに、第1のロープが支柱本体に架け渡された状態を示す概略正面図である。
次に、第1のロープとして、ロープ12a、12b、12cの一端部にある連結構造121a、121b、121cが、シャックル611を介して始点基礎61の円環部612に固定されるとともに、ロープ12a、12b、12cが支柱本体111に架け渡される。
なお、以下の説明では便宜のため第1のロープとしてロープ12aの取り付けについてのみ説明がされているが、ロープ12b、12cの取り付けについても同様に行われるためここではロープ12b、12cについての詳細な説明は省略されている。ロープ12b、12cの取り付けは、ロープ12aの取り付けの最中に行われてもよく、あるいはロープ12aの取り付けが完了した後に順次ロープ12b、12cの取り付けを行ってもよい。
図11で示したように、複数の支柱11の支柱本体111の水平切欠部111aから鉛直切欠部111bにロープ12aが挿通されることで、支柱本体111へのロープ12aの架け渡しが行われる。
また、ロープ12aの架け渡しとともに、地面Gへの第2始点基礎61’の設置も行われる(図27参照)。第2始点基礎61’は始点基礎61と同様の構成を備えた部材である。
なお、第2始点基礎61’の設置タイミングは、本実施形態においては支柱本体111に対するロープ12aの架け渡しの最中に行われるが、本発明においてはこれに限らず、ロープ12aの架け渡しが全て完了した後に行われてもよい。
図27は、第2始点基礎が設置されるとともに第2始点基礎と第1のロープの他端部側とが手動チェーンブロックを介して連結された状態を示す概略正面図である。
次に、第2始点基礎61’に、ロープ12aの仮緊張を行うための仮緊張治具として、手動チェーンブロック65が取り付けられる。この手動チェーンブロック65としては一般に市販されている、人力で持ち運び可能な(目安として重量が30kg以下の)種々の手動チェーンブロックを用いることができる。
また、ロープ12aの他端部側、すなわち始点基礎61に固定されていない側の端部近傍もこの手動チェーンブロック65に固定される。
図28は、第1のロープが手動チェーンブロックにより仮緊張された状態を示す概略正面図である。
手動チェーンブロック65にロープ12aと第2始点基礎61’とが固定された状態で、作業者の手により手動チェーンブロック65が操作されることで、ロープ12aが第2始点基礎61’に向けて引っ張られ、ロープ12aが仮緊張される。ロープ12b、12cについても同様に仮緊張が行われる。なお、本実施形態においては手動チェーンブロック65により仮緊張が行われているが、本発明においてはこれに限らず、手動巻き上げ機で仮緊張を行ってもよい。
図29は、仮緊張が行われた状態で更に他の支柱への第1の線材の架け渡しと、地面への第1終点基礎の設置が行われた状態を示す概略正面図である。
図29に示すように、手動チェーンブロック65による仮緊張が行われた状態で、手動チェーンブロック65よりも先にある、すなわち仮緊張が行われていない部分に相当するロープ12aの他端部側が、更に図29に示す第2始点基礎61’よりも先にある2本の支柱本体111に架け渡される。
この2本の支柱本体111には、後述するように、ロープ12aとともに、次に架け渡されるロープ12a’が重複して架け渡されることになる。
なお、重複してロープが架け渡される支柱本体111の本数は、本実施形態においては2本であるが、本発明においてはこれに限らず、1本又は3本以上であってもよい。重複してロープが架け渡される支柱本体111の支柱が多いほど、1本の支柱本体111に加わるロープからの負荷を分散することができ、動物侵入抑止柵1の機械的強度を増すことができる。
図30は、ターンバックルを介して第1終点基礎と第1の線材の他の連結構造を連結した状態を示す概略正面図である。
図30に示すように、手動チェーンブロック65が中途部分に取り付けられ仮緊張が行われたままの状態で、ロープ12aの他端部がターンバックル5を介して地面に打設された終点基礎8に固定される。
具体的には、ターンバックル5の一端部に設けられたシャックル部51が、ロープ12aの端部に形成されている連結構造121aに固定されるとともに、他端部に設けられたシャックル部51が、終点基礎8の起立部81に固定される。
上述した工程を経て支柱本体111にロープ12aが掛け渡された状態が形成される。
図31は、第2始点基礎及び第1の線材からの手動チェーンブロックの取り外しが行われた状態を示す概略正面図である。
図30に示す状態から手動チェーンブロック65を取り外すと、手動チェーンブロック65による緊張が解除される。そして、ロープ12aの手動チェーンブロック65側に屈曲していた部分がたわみとなり、その分緊張が緩んだ状態となる。
そこで、以下に説明するように、第1終点基礎8に連結されたターンバックル5によりこのたわみの分を再緊張し、本緊張が行われる。
図32は、終点基礎8に連結されたターンバックル5によりロープ12aが本緊張された状態を示す概略正面図である。
ターンバックル5の本体部52をターンバックル5の長さが短くなるように回転させることで、ロープ12aの本緊張が行われる。
図33は、第2始点基礎61’に他のロープの一端部の連結構造が連結されるとともに、他のロープが支柱本体に架け渡された状態を示す概略正面図である。
本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、上段、中段、下段の3つの高さについて、それぞれ始点基礎61側から順に複数のロープが架け渡されていく。例えば上段については、図33に示すように、最初に始点基礎61側にロープ12aが架け渡された後、次にロープ12a’が架け渡される。こうして水平方向において支柱11の本数及びロープを架け渡す数を調節することにより、動物侵入抑止柵1の総延長を調節することが可能となる。
ロープ12a’はロープ12aと同様の構成を備えていて、ロープ12a’の架け渡しもロープ12aと同様にして行われる。具体的には、ロープ12a’の一端部が第2始点基礎61’に固定されるとともに、支柱本体111に架け渡されていく。
このとき、先に架け渡しと本緊張が終了したロープ12aが架け渡されている支柱本体111のうち、始点基礎61から見て遠い位置にある2本の支柱本体に対して、次のロープ12a’が重複して架け渡される。図34は、複数のロープ12a、12a’が1本の支柱に架け渡された状態を示す斜視図である。
本発明においては重複してロープが架け渡される支柱本体111の本数は1本以上であれば任意に設定することが可能であるが、本数が多いほどロープから受ける張力が分散されるため、支柱本体111の当該張力による破損を効果的に防止することができる。
一方でロープが重複して架け渡される支柱本体111の本数が増加すると、その分動物侵入抑止柵1の設置に必要なロープの本数が増加する。
そのため、ロープが重複して架け渡される支柱本体111の本数は適宜調節され、本実施形態においては、当該本数は2本とされている。
そして、新たに架け渡されたロープ12a’についても上述したロープ12aと同様に仮緊張が行われた後、本緊張が行われる。
仮緊張時を行う際には、ロープ12aの仮緊張と同様に、予め設置された、始点基礎61と同様の構成を有する第3始点基礎が地面に設置される。そして、この第3始点基礎と手動チェーンブロック65とを用いて仮緊張が行われる。
また、本緊張を行う際には、ロープ12aの本緊張と同様に、予め設置された、終点基礎8と同様の構成を有する終点基礎8’’が地面に設置される。そして、この終点基礎8’’とターンバックル5とを用いて本緊張が行われる。
図35は、全ての支柱本体111にロープ12aが架け渡され本緊張された状態を示す概略正面図である。図36は、図35の状態の概略平面図である。
本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、その両端部について同様の端部処理、すなわち、同様に始点基礎によりロープが地面に固定されるようになっている。
そのため、動物侵入抑止柵の始点基礎61側と反対側の端部についても、図35及び図36に示すように、始点基礎61’’によりロープ12a’’(始点基礎61側から見て最も遠方にある上段のロープ)の地面への固定が行われている。中段、下段の各ロープについても同様である。
この始点基礎61’’によるロープ12a’’の地面への固定は、設置される方向が逆ではあるものの、始点基礎61によるロープ12aの固定と同様にして行われる。
そして、ロープ12a’’の支柱本体111への架け渡し、仮緊張及び本緊張も、上述したロープ12a、12a’と同様にして行われる。
すなわち、仮緊張は予め地面に設置された始点基礎61’’と手動チェーンブロック65を用いて行われるとともに、本緊張は予め地面に設置された終点基礎8’’とターンバックル5とを用いて行われる。
なお、ロープ12a’’の仮緊張時に用いられる始点基礎は、上述した他の始点基礎と異なり、その後に他のロープが固定されることはなく、単にロープ12a’’の仮緊張にのみ用いられるものである。そのため、ロープ12a’’の仮緊張が終了した後には、当該仮緊張に用いられた始点基礎はそのまま放置されるか、あるいは撤去されてもよい。
そして上段、中段、下段のロープが架け渡され本緊張が終了したら、次に支柱11間に掛け渡されたロープ12a、12b、12cのうち、中段にあるロープ12b及び最下部にあるロープ12c(及びこれらの次以降のスパンにおける中段、下段の各ロープ)に、亀甲金網13が取り付けられる。
この亀甲金網13の取り付けは、各スパンにおける上段、中段、下段のロープが架け渡され本緊張が終了した後であれば任意のタイミングで行うことができる。そのため、例えば各スパン毎にロープの架け渡しと本緊張が終了し次第亀甲金網13を取り付けてもよく、あるいは全スパンについてロープの架け渡しと本緊張が終了した後、全スパンについて亀甲金網13の取り付けを行ってもよい。
本実施形態においては、全スパンについて上段、中段、下段のロープが架け渡され、支柱カバー113が取り付けられて当該ロープが脱落しない状態となった後、隣接する支柱11間についてそれぞれ亀甲金網13が、端部の網目を1マス分ずつ重ね合わせつつ取り付けられる。
このとき、連続する複数枚の亀甲金網13のうち、支柱11に重ならない部分に位置する亀甲金網13は、隣接する他の2枚の亀甲金網13よりも保護地から離れた位置において当該他の亀甲金網13にその端部を重ねた状態で取り付けられる。これにより当該保護地から離れた位置において重ねあわされている亀甲金網13についてはこれを巻き上げることができる(図19〜図24参照)。
亀甲金網13のロープ12b、12cへの取り付けは、本実施形態においては取付部材としてのコイル部材31を用いて行われる。コイル部材31が亀甲金網13のマス目とロープ12b、12cとを縫うようにしてこれらに螺合されることで、亀甲金網13のロープ12b、12cへの取り付けが行われる。
更に、隣接する亀甲金網13同士についても、互いに重なり合うマス目の部分であってロープ12b、12c間に位置する部分が、連結部材としてのコイル部材32により連結される。このコイル部材32は、隣接する亀甲金網13同士が重なり合う部分のマス目を縫うようにして螺合されることで隣接する2つの亀甲金網13同士の隙間の無い連結を行う。
このとき、コイル部材32の上下に収縮する弾性力により亀甲金網13のマス目を保持して、コイル部材32の脱落が防止されている。
このように隣接する亀甲金網13同士が端部を重ねて連結されることで、長いスパンでロープ12b、12cが架け渡された場合に生じるロープ12b、12cのたるみに起因する亀甲金網13間の隙間の発生を防止し、野生動物が当該隙間から保護地に進入することを効果的に防止することができる。
上述したコイル部材31、32は、簡易な構成を備え、簡単な取付作業により亀甲金網13とロープ12b、12c、又は亀甲金網13同士を連結することができる。また、これらのコイル部材31、32は取り外し作業も容易に行うことができる。
こうしてロープ12b、12cに亀甲金網13が取り付けられた状態において、亀甲金網13の下側の部分は、地面Gに垂れた状態となる。
こうして本実施形態に係る動物侵入抑止柵1が完成する。
次に、野生動物の侵入抑止効果について説明する。まず、野生動物としてのイノシシ2’の侵入抑止効果について説明する。
図37は、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1の対象動物の一例であるイノシシ2’を示す図である。
イノシシ2’は、強い突進力を有する野生動物である。そのため、保護地の外部から動物侵入抑止柵1を通過して保護地内に進入しようとする際にも、直進して動物侵入抑止柵1に衝突してこれを通過しようとすることがある。
そのため、イノシシ2’の肩高であり鼻の位置でもある高さ2eよりも低い位置に障害物があれば、イノシシ2’はその直進動作が妨げられることになる。このイノシシ2’の肩高2eは、日本国内において広く分布しているニホンイノシシの場合、成獣は600mm〜900mm程度の高さとなっている。
そこで、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、最下段に緊張して設けられているロープ12cの高さH2が肩高600mmのイノシシの半分以下である300mm以下となっている。このようにロープ12cの高さH2が300mm以下とされ、亀甲金網13の巻き上げの有無に関わらず常に緊張した状態とされていることで、十分な反力が得られてイノシシ2’の直進動作を妨げ、イノシシ2’の保護地内への侵入を効果的に防止することができる。
次に、野生動物としてのシカ2の侵入抑止効果について説明する。図38は、本実施形態に係る動物侵入抑止柵の対象動物の一例であるシカを示す図である。図39は、図38のシカの頭部の各箇所の長さを示した図である。
図38及び図39に示すように、シカ2は、肩高が2a、頭部の高さが2b、頭部の長さが2c、頭部の幅が2dとなっている。
そして、図2及び図3に示すように、動物侵入抑止柵1は、地面Gからこの最上部にあるロープ12aまでの高さがH3となっているとともに、ロープ12aと2段目のロープ12bとの間の距離がH4となっている。
下草を食べるシカ2は、その性質上、進行方向に柵等の障害物がある場合には、柵を迂回、もしくは跨ぐか潜ろうとする。たとえ跳躍により飛び越えることが可能な高さの柵であっても、柵の先に餌があったり、後から追い立てられたりする等の跳躍を誘発する要因が無ければ、跳躍はほとんど行われない。
そして、跳躍の誘発要因が無く、柵を跨いだり潜ったりすることができない場合には、シカ2は引き返すか柵に沿って移動を行う。
そこで、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1を道路や鉄道に沿って設置する場合では、ロープ12aは地面からの高さがシカ2の肩高2aよりも高いH3となるよう設けられている。そのため、シカ2はロープ12aを跨ぐことができない。
このように、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1によると、シカ2がこれを跨ぎ保護地に侵入することを効果的に抑止することができる。
また、この侵入抑止効果は、動物侵入抑止柵1が地面Gに立設されることで更に高めることができる。
図40は、実施形態に係る動物侵入抑止柵1による保護地へのシカの侵入抑止効果と保護地からの脱出の容易さを説明する図である。
図40に示すように、動物侵入抑止柵1から見て地面Gの下方、すなわち保護地の外側にいるシカ2は、動物侵入抑止柵1のロープ12aを飛び越えるにあたり、斜面の傾斜分も加味した高さH5を跳躍しなければならない。
このH5は、通常シカ2が跳躍可能な高さよりも高く設定されているH3、すなわち、地面Gからロープ12aまでの高さよりも高くなっている。そのため、シカ2が地面Gの下方から動物侵入抑止柵1を飛び越え保護地に侵入することを効果的に防止することができる。
このように、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、動物侵入抑止柵1の高さを従来の柵よりも低く保つことができ、製造及び設置のコストと作業時の労力とを削減することができる。
更に、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、シカ2の潜り込みの対策として、亀甲金網13が地面Gに対して十分な長さ垂れ広がるとともに、亀甲金網13が最下段のロープ12cに固定されている。
シカ2は、障害物等への潜り込みを行う場合、まず、首を下げて鼻先を障害物の下に潜り込ませ、その状態で首を持ち上げることにより障害物を浮き上がらせ障害物の下に潜り込みの可能なスペースを形成する。そして、シカ2はその状態のまま体勢を低くし、このスペースに鼻先から頭部、首と順に潜り込んでいくことで障害物への潜り込みを行う。
しかし、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、シカ2が地面に垂れ下がる亀甲金網13に鼻先を潜り込ませ首を持ち上げ亀甲金網13の端部をめくり上げようとしても全てめくり上げることができない程度に十分な長さ地面Gに垂れ広がるよう構成されている。
具体的には、亀甲金網13は、シカ2がその鼻先を潜り込ませたときにめくり上がる長さ、すなわち、シカ2の頭部の高さ2bと頭部の長さ2cとの和よりも十分に長く地面Gに垂れ広がるよう構成されている。
そのため、シカ2は、亀甲金網13の下に鼻先を潜り込ませた場合でも、全てをめくり上げることができず、更に頭部や首を潜り込ませようとはしない。
更に、上述したように亀甲金網13は地面Gに近い位置においてロープ12cに固定されている。そのため、もしシカ2が地面Gに垂れ広がる亀甲金網13の下方に潜り込んだとしても、そこから更に保護地に進入することはできず、シカ2の潜り込みをより効果的に抑止できる。
このように、本実施形態における動物侵入抑止柵1では、シカ2の潜り込みも効果的に防止し、保護地への侵入を抑止することができる。
次に、シカ2の保護地からの脱出を促進する効果について説明する。
上述したように、シカ2は、跳躍により飛び越えることが可能な高さの柵であっても、柵の先に餌があったり、後から追い立てられたりする等の跳躍を誘発する要因が無ければ、跳躍はほとんど行わない。
そして、鉄道や道路等に設けられた横断区間等による動物侵入抑止柵1の切れ目から保護地側に侵入してしまったシカなどの野生動物が、車両等の接近により驚き、跳躍してこれを乗り越えようとする。
このとき、シカ2の跳躍可能高さは肩高2aの3倍程度までであるが、容易に超えられる高さは肩高2aの2倍程度までである。そのため、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、地面から最上部のロープ12aまでの高さH3は、シカ2の肩高2aの2倍以下となるように設定されている。
これにより、シカ2は、車両の接近時等には動物侵入抑止柵1を容易に飛び越え、保護地から脱出することができる。
また、図40に示すように、動物侵入抑止柵1から見て地面Gの上方、すなわち保護地に侵入した状態にあるシカ2が動物侵入抑止柵1のロープ12aを飛び越えるにあたり、跳躍すべき高さはH6となっている。
この高さH6は、シカ2が容易に跳躍可能な高さであるH3よりも更に低いものとなっている。そのため、シカ2が動物侵入抑止柵1を飛び越え、保護地から脱出することが更に容易となっている。
また、シカ2が動物侵入抑止柵1を飛び越える際には、動物侵入抑止柵1の向こう側を見渡せる視認性のあることが重要となる。シカ2は、跳躍方向の視認性が良く、着地点を視認できる場合には跳躍を行い易いことが知られている。
ヒトをはじめとする、ある程度知能を有する動物であれば、向こう側が見えない状態で障害物を跳躍して越えることは、恐怖がともなうので跳躍を自制する。
そのため、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、上部にロープ12a、12bを掛け渡した構成とすることで、動物侵入抑止柵1の上部に視認性の高い空間を確保し、シカ2が跳躍を行い易い状況を実現している。
なお、この視認性は、シカ2の頭部のサイズに依存している。具体的には、シカ2の頭部は図39に示す正面視で、縦の長さが2b、横幅が2dとなっていて、シカ2はこうした頭部の縦横のサイズを基準として、この縦横のサイズよりも大きな空間がある場合に柵の向こう側を認識して、柵の向こう側への跳躍を意識するようになる。
そのため、ロープ12a−12b間の距離H4が、シカ2の頭部の縦の長さ2bよりも長くなるように確保されている。また、支柱11間の距離も、シカ2の頭部の横幅2dよりも十分に広くなっている。
こうして動物侵入抑止柵1の上部において、シカ2の頭部のサイズよりも広い空間を確保することができ、シカ2が柵の向こう側を認識し易くすることで、シカ2が保護地から脱出する際の動物侵入抑止柵1の跳躍を行い易くすることができる。
具体的には、シカ2がホンシュウジカである場合には、頭部の縦の長さ2bと横幅2dがともに20cm程度であるため、動物侵入抑止柵1のH4が20cm以上、支柱11間の距離が20cm以上であれば、すなわち、動物侵入抑止柵1の上部に20cm四方以上の空間を確保することができれば、シカ2は跳躍を行い易くなる。
更に、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1には、シカ2の脱出時に跳躍した野生動物が動物侵入抑止柵1に衝突し、これが損傷した場合でも、保護地側に破損した構成部品が侵入することを効果的に防止するという効果もある。
シカ2が保護地側から跳躍して動物侵入抑止柵1に衝突し動物侵入抑止柵1が折れ曲がる場合、この折れ曲がりの方向は保護地の外側に向かうものであるため、保護地内に動物侵入抑止柵1が折れ曲がり、車両等の通行に支障をきたすことはない。
また、シカ2の衝突により動物侵入抑止柵1が破損し構成部品が脱落することがある。しかし、本実施形態に係る動物侵入抑止柵1では、各構成部品の脱落方向が保護地の外側(+X方向)に限られるため、保護地側(−X方向)に脱落した部品が侵入し、車両等の通行の妨げになることがない。
具体的には、動物侵入抑止柵1の支柱本体111は、基礎杭112により地面Gに固定されているため、シカ2が保護地の外側に跳躍し衝突した場合には、この跳躍方向、すなわち保護地の外側に向けて湾曲し、保護地側に湾曲することはない。
また、支柱カバー113は、支柱本体111にボルト締結されているため、支柱本体111とともに保護地の外側に湾曲するか、あるいはボルト締結箇所の破損が生じ脱落する場合でも、シカ2の跳躍方向に向けて脱落するのみである。
また、支柱11間に掛け渡されているロープ12a、12b、12cは2本以上の支柱11にまたがって架け渡されているため、野生動物の衝突により湾曲したり切断したりする場合にも、支柱11が障害となるため、保護地側に湾曲、屈曲することがない。
上述した本実施形態に係る動物侵入抑止柵1の設置方法によると、使用部材及び使用治具は何れも人力で搬送、使用、設置が可能であり、かつ現場において寸法調整等の加工をする必要のないものである。
また、作業者が複数の個所に分散して作業を行う必要がなく、始点基礎61側から作業者が一方向に移動しながら設置作業を行うことができる。
なお、上述した実施形態においては、支柱11間に3本のロープ12a、12b、12cが掛け渡されていたが、本発明においてはこれに限らず、ロープの数を野生動物の種類や動物侵入抑止柵1の設置状況に応じて適宜調整することができる。
また、支柱11間にロープを掛け渡すことで侵入抑止効果を発揮していたが、本発明においてはこれに限らず、野生動物の侵入抑止効果と跳躍時の視認性を確保できる材料であれば樹脂被覆の繊維ロープでなくともよく、板状部材や鋼線等のワイヤも好適に用いることができる。また、これらの材質についても、鋼材の他、樹脂や木材、天然繊維等を好適に用いることができる。
また、野生動物の潜り込みを防止する亀甲金網13についても、潜り込み防止効果を奏するとともに巻き上げが可能なものであれば好適に用いることができ、シートや繊維よりなるネット等も用いることができる。また、これらの材質についても、鋼材の他、樹脂や天然繊維等を好適に用いることができる。
また、隣接する2つの支柱11間に取り付けられる亀甲金網13の幅や枚数は上述した実施形態に限られることなく、任意の枚数に調節することができる。
支柱11間に取り付けられる亀甲金網13の幅が如何なるものになったとしても、上述した実施形態と同様に亀甲金網13同士はその端部を重ねて配置されるとともに、少なくとも1枚の亀甲金網13は他の亀甲金網13よりも保護地の外側に設けられ、保護地の外側に巻き上げることのできる状態とする必要がある。
また、支柱11間に取り付けられる亀甲金網13は何れの枚数であったとしても、1枚の亀甲金網13を高さH1まで巻き上げた場合に作業者が通行できる幅を有する必要がある。
また、隣接する支柱11間に複数の亀甲金網13を取り付ける場合、全ての亀甲金網13が同一の幅を有する必要はなく、それぞれ異なる幅を有していてもよい。
この場合にも、複数の亀甲金網13はそれぞれ端部を重ねて取り付けられるとともに、少なくとも1枚の亀甲金網13は他の亀甲金網13よりも保護地の外側に設けられ、高さH1まで巻き上げることが可能である必要がある。
また、当該巻き上げ可能な亀甲金網13の幅は、これを巻き上げたときに作業者が通行できる幅を有する必要がある。
また、上述した実施形態においては隣接する亀甲金網13間の端部の重ね合わせは1マス分を重ね合わせることで行われていたが、本発明においてはこれに限らず、2マス以上を重ね合わせて行われてもよい。
また、上述した実施形態においては亀甲金網13のロープ12b、12cへの取付、及び亀甲金網13同士の接続にそれぞれコイル部材31、32を用いていたが、本発明においてはこれに限らず、クリップやカラビナ等、任意の取付部材を用いて取り付けることができる。
また、上述した実施形態においては複数の支柱11は同一の間隔をあけて立設されていたが、本発明においてはこれに限らず、支柱11間の間隔がそれぞれ異なるように立設されてもよい。この場合、支柱11間に取り付けられる亀甲金網13の枚数を適宜調節してもよい。
また、隣接する2つの支柱11間の全てにおいて保護地の外側に巻き上げ可能な亀甲金網13を設ける必要はなく、任意の支柱11間に設ける態様としてもよい。
上述した何れの変形例に係る動物侵入抑止柵1によっても、野生動物の侵入抑止効果を維持しつつ、除草作業時に容易に作業スペースを確保し網の損傷を効果的に防止するとともに、任意の個所において作業者の通用スペースも容易に確保することができる。