しかしながら、従来の橋桁においてスパンを長くするためにはケーブルの本数を増やす必要がある。ところが、スパンの長大化に伴ってケーブルの傾斜角度は小さくなるため、スパンの延長度合いに対して増やすべきケーブルの本数が指数関数的に増加し、構造が煩雑になる。そのため、施工効率が悪化して費用が増加する上、増加費用に対して得られるスパン延長の効果も薄い。
ここで、スパンを長くするために、図14に示すように橋桁101の両端部近傍、即ち柱頭部近傍の桁高を橋桁101の中央部の桁高に比べて大きくすることが考えられる。しかしながら、橋桁101の両端部近傍の断面を表す図15に示すように、増厚部112bの突出高さによって桁高を変更する構成では、上記形状のPCaコンクリート板を用いることによる効果(施工効率の向上及び橋桁の軽量化)が薄れてしまう。
一方、橋桁の両端部近傍だけでなく橋桁のスパンの全体にわたって桁高(ウェブ板の高さ)を大きくすることによってスパンの長大化を図ることも考えられる。しかしながら、ウェブ板に作用する圧縮力及び引張力によって橋桁のせん断耐力を高めるためには、ウェブ板を高さ方向だけでなく橋軸方向の長さ方向にも大きくする必要がある。ところが、ウェブ板の高さ及び橋軸方向長さを共に大きくすると、ウェブ板の運搬が困難になる。特に、運搬車輌により一般道路を使ってウェブ板を運搬する場合には、通行車輌の幅や高さに制限があるため、ウェブ板の高さ及び橋軸方向長さを共に大きくすることはできない。
本発明はこのような背景に鑑みなされたものであり、ウェブにPCaコンクリート製のウェブ板を用いながらも、施工効率の悪化や費用の増加を抑制しつつスパンを長大化することができ、且つ軽量化が可能な箱状断面形状の橋桁を提供することを第1の課題とする。また本発明は、ウェブにPCaコンクリート製のウェブ板を用いながらも、ウェブ板の運搬を可能にしつつスパンを長大化することができ、且つ軽量化が可能な箱状断面形状の橋桁を提供することを第2の課題とする。
上記第1の課題を解決するために本発明は、上床版(11)と、下床版(12)と、前記上床版及び前記下床版を連結する複数のウェブ(13)とを備え、箱状断面形状を有する橋桁(1)であって、前記ウェブが、側面視において高さ方向の中位から上辺及び下辺に向けて橋軸方向長さが徐々に増大するPCaコンクリート製の複数のウェブ板(14(14A、14B))を橋軸方向に配列して形成され、橋軸方向の両端部近傍に配置される前記ウェブ板(14B)の高さが、橋軸方向の中央部に配置される前記ウェブ板(14A)の高さよりも大きい構成とする。
この構成によれば、ウェブ板が、側面視において高さ方向の中位から上辺及び下辺に向けて橋軸方向長さが徐々に増大する形状とされることにより、橋桁の軽量化が可能である。また、ウェブにPCaコンクリート製のウェブ板を用いながらも、橋軸方向の中央部よりも高さが大きなウェブ板を橋軸方向の両端部近傍に用いることで、ケーブル本数を増加させることなく橋桁の軸方向両端部近傍のせん断耐力を向上させることができる。これにより、施工効率の悪化や費用の増加を抑制しつつ橋桁のスパンを長大化することができる。
また、本発明は、上記の構成において、少なくとも橋軸方向の両端部近傍に配置される前記ウェブ板(14B)が、幅方向に分割され、せん断力の引張成分の分力(A)に沿って延在するウェブ引張部材(31)と、せん断力の圧縮成分の分力(B)に沿って延在するウェブ圧縮部材(32)とを有する構成とすることができる。
この構成によれば、ウェブ板を構成するウェブ引張部材及びウェブ圧縮部材の橋軸方向長さ(即ち、各部材の幅)を大きくしなくとも、これらの部材の延在方向長さを長くすることによってウェブ板の橋軸方向長さを大きくして橋桁のせん断耐力を高めることができ、ウェブ引張部材及びウェブ圧縮部材の運搬に支障を来すこともない。
また、本発明は、上記の構成において、少なくとも橋軸方向の両端部近傍に配置される前記ウェブ板(14B)が、せん断力の引張成分の分力(A)に沿って延在し、概ね平行四辺形を呈するウェブ主部材(61)と、前記ウェブ主部材と協働してせん断力の圧縮成分の分力(B)に沿って延在するように前記ウェブ主部材の上部及び下部に一体化され、概ね三角形を呈する2つのウェブ圧縮片(62)とを有する構成とすることができる。
この構成によれば、ウェブ板を構成するウェブ引張部材の橋軸方向長さ(即ち、幅)を大きくすることなく、ウェブ引張部材及びウェブ圧縮部材の延在方向長さを長くすることによって橋桁のせん断耐力を高めることができ、これらの部材の運搬に支障を来すこともない。
上記第2の課題を解決するために本発明は、上床版(11)と、下床版(12)と、前記上床版及び前記下床版を連結する複数のウェブ(13)とを備え、箱状断面形状を有する橋桁(1)であって、前記ウェブが、側面視において高さ方向の中位から上辺及び下辺に向けて橋軸方向長さが徐々に増大するPCaコンクリート製の複数のウェブ板(14(14A、14B))を橋軸方向に配列して形成され、少なくとも橋軸方向の両端部近傍に配置される前記ウェブ板(14B)が、幅方向に分割され、せん断力の引張成分の分力に沿って延在するウェブ引張部材(31)と、せん断力の圧縮成分の分力に沿って延在するウェブ圧縮部材(32)とを有する構成とする。
この構成によれば、ウェブが、側面視において高さ方向の中位から上辺及び下辺に向けて橋軸方向長さが徐々に増大する形状とされることにより、橋桁の軽量化が可能である。また、橋軸方向の両端部近傍に配置されるウェブ板が幅方向に分割されたウェブ引張部材とウェブ圧縮部材とにより構成されるため、ウェブ引張部材及びウェブ圧縮部材の橋軸方向長さ(即ち、各部材の幅)を大きくしなくとも、これらの部材の延在方向長さを長くすることによってウェブ板の橋軸方向長さを大きくして橋桁のせん断耐力を高めることができる。従って、ウェブ板を構成する各部材の運搬を可能にしつつ橋桁のスパンを長大化することができる。
また、ウェブの高さを橋軸方向の位置に応じて変更するために、大きさが異なる複数種のPCaコンクリート製のウェブ板を作製する際に、それぞれの大きさのウェブ板に対して専用の型枠を用意すると費用の増加が著しいが、この構成によれば、共通の型枠を用いて妻型枠の位置をずらすだけでウェブ引張部材及びウェブ圧縮部材の延在方向長さを変更することができるため、費用の増加を抑制できる。
また、上記第2の課題を解決するために本発明は、上床版(11)と、下床版(12)と、前記上床版及び前記下床版を連結する複数のウェブ(13)とを備え、箱状断面形状を有する橋桁(1)であって、前記ウェブが、側面視において高さ方向の中位から上辺及び下辺に向けて橋軸方向長さが徐々に増大するPCaコンクリート製の複数のウェブ板(14(14A、14B))を橋軸方向に配列して形成され、少なくとも橋軸方向の両端部近傍に配置される前記ウェブ板(14B)が、せん断力の引張成分の分力(A)に沿って延在し、概ね平行四辺形を呈するウェブ主部材(61)と、前記ウェブ主部材と協働してせん断力の圧縮成分の分力(B)に沿って延在するように前記ウェブ主部材の上部及び下部に一体化され、概ね三角形を呈する2つのウェブ圧縮片(62)とを有する構成とする。
この構成によっても、ウェブが、側面視において高さ方向の中位から上辺及び下辺に向けて橋軸方向長さが徐々に増大する形状とされることにより、橋桁の軽量化が可能である。また、橋軸方向の両端部近傍に配置されるウェブ板が引張成分の分力に沿って延在するウェブ主部材と2つのウェブ圧縮片とにより構成されるため、ウェブ主部材の橋軸方向長さ(即ち、幅)を大きくしなくとも、各部材の延在方向長さを長くすることによってウェブ板の橋軸方向長さを大きくして橋桁のせん断耐力を高めることができる。従って、ウェブ板を構成する各部材の運搬を可能にしつつ橋桁のスパンを長大化することができる。
また、上記同様に、共通の型枠を用いて妻型枠の位置をずらすだけでウェブ板を構成する各部材の延在方向長さを変更することができるため、費用の増加を抑制できる。
このように本発明によれば、ウェブにPCaコンクリート製のウェブ板を用いながらも、施工効率の悪化や費用の増加を抑制しつつスパンを長大化することができ、且つ軽量化が可能な箱状断面形状の橋桁や、ウェブ板の運搬を可能にしつつスパンを長大化することができ、且つ軽量化が可能な箱状断面形状の橋桁を提供することができる。
以下、本発明に係る橋桁1の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。まず、図1〜図9を参照して橋桁1の第1実施形態を説明する。
図1に示すように、橋桁1は、道路橋や鉄道橋として利用できるものであり、複数の橋脚2又は図示しない橋台間に架け渡されて連続する連続桁となっている。なお、図1には、互いに隣接する2つの橋脚2、2間の1スパンのみを示している。橋桁1は、例えば張出し架設工法で架設され、橋脚2の直上に構築される柱頭部1aと、柱頭部1aから橋軸方向の両方向へ同時に張り出すように構築される張出し施工部1bと、隣接する橋脚2間の張出し施工部1b同士を連結する中央閉合部1cとから構成される。柱頭部1aは、図示例では支承3を介して橋脚2に支持されているが、橋脚2に剛結合されてもよい。橋桁1の桁高は、中央部(中央閉合部1c)及びその近傍で最も小さく、中央部から両端部に近づくにつれて徐々に大きくなり、柱頭部1aで最も大きくなっている。
図2及び図3に併せて示すように、橋桁1は、略水平に配置されて路盤を構成する上床版11と、上床版11の下方に上床版11と略平行に配置される下床版12と、上床版11と下床版12とを連結する一対のウェブ13とを備えており、内部空間1iを有する箱状断面形状を呈している。ここでは、上床版11の幅寸法が下床版12の幅寸法よりも大きく、一対のウェブ13が互いに平行になっており、上床版11にはウェブ13との接合部から更に側方へ張り出す張出部11aが形成されている。他の実施形態では、一対のウェブ13が下床版12の側縁から上方へ向けて開くように若干の傾斜角度をもって上床版11に至っていてもよい。
上床版11及び下床版12は、鉄筋コンクリート造であり、現場打ち又はプレキャストのコンクリート部材により形成される。ウェブ13は、高強度コンクリートを用いた板状のPCaコンクリート部材である複数のウェブ板14(14A、14B)を橋軸方向に配列して形成される。ウェブ板14は、鉄筋を用いて補強されていてもよいが、本実施形態では鋼繊維を用いて補強された無筋構造とされている。
上床版11及び下床版12を現場打ちのコンクリートにより構築する場合には、少なくとも一対のウェブ13を所定の位置に配置した状態で、図示しない移動作業車上で型枠や鉄筋を組み立て、予め計画されたブロック割りに従って、一対のウェブ板14の上端部及び下端部が埋まるようにコンクリートを打設することにより、ブロック毎に上床版11及び下床版12を構築する。新たに構築したブロックは、上床版11に通したPC鋼材を緊張し、ポストテンション方式でプレストレスを導入されることにより、片持ち梁としての強度をもって既設の張出し施工部1bに一体化される。
一方、上床版11及び下床版12をPCaコンクリートにより構成する場合には、一対のウェブ板14の上端部及び下端部が埋まるように上床版11及び下床版12のコンクリートを打設して形成したセグメントを、移動作業車を使って所定の位置に配置し、上床版11や下床版12に通したPC鋼材を緊張することによって既設の張出し施工部1bに一体化する。
上床版11のウェブ板14との各接合部には、下方へ突出して橋軸方向に延在する増厚部11bが形成されている。また、上床版11の下面には、橋軸方向の適所に(図1の例では、各セグメントの中央に)横梁11cが形成されている。下床版12は、略水平に配置された平板状の床版部12aと、床版部12aの両側縁に沿って上方へ突出する一対の増厚部12bとを有している。また、下床版12の上面にも橋軸方向の適所に横梁12cが形成されている。図示例では、橋桁1の内部空間1iに下床版12を支持する斜ケーブルは設けられていないが、斜ケーブルが設けられる場合には、横梁12cが斜ケーブルの下端を定着させるために用いられる。或いは、一対の増厚部12bが床版部12aの両側縁に沿って下方へ突出するように設けられ、斜ケーブルの下端を定着する横梁12cが下床版12の下面に設けられてもよい。
図1に示されるように、ウェブ板14は、高さ方向の中位から上辺及び下辺に向けて橋軸方向長さが徐々に増大するバタフライ(蝶)形状を呈している。桁高が最も小さい橋桁1の中央部(中央閉合部1c)及びその近傍では、ウェブ板14の高さは一定とされている。一方、桁高が変化する橋桁1の両端部及びその近傍では、ウェブ板14の高さは橋桁1の両端部に近づくほど大きくなっている。つまり、橋軸方向の両端部近傍に配置されるウェブ板14の高さは、橋軸方向の中央部に配置されるウェブ板14の高さよりも大きくなっている。以下、橋桁1の中央部近傍に配置された比較的小さな一定高さを有するウェブ板14を一般部ウェブ板14Aと称し、橋桁1の端部近傍に配置された比較的大きな高さを有するウェブ板14を端部ウェブ板14Bと称する。
全ての一般部ウェブ板14Aは、同一形状且つ同一寸法とされている。但し、後述するPC鋼線24は、中央閉合部1cを中心として対称的に配置され、上床版11又は下床版12との接合部に設けられる補強鉄筋22は、左右の一般部ウェブ板14Aにおいて対称的に配置される。
図4には、図1において中央閉合部1cに対して左側に配置される一般部ウェブ板14Aを示している。図示するように、一般部ウェブ板14Aは、1回のコンクリート打設によって上記バタフライ形状に形成されたPCaコンクリート部を主要素として構成される。図には、上床版11の増厚部11bに埋め込まれる埋め込み部、及び下床版12の増厚部12bに埋め込まれる埋め込み部を一点鎖線で示している。一般部ウェブ板14Aの上床版11及び下床版12への各埋め込み部には、柱状体である複数のずれ止め部材21がPCaコンクリート部を貫通してPCaコンクリート部の両面から突出するように設けられている。また、一般部ウェブ板14Aの上床版11及び下床版12への各埋め込み部には、上床版11又は下床版12との接合を補強するための補強鉄筋22がPCaコンクリート部を貫通してPCaコンクリート部の両面から突出し、且つずれ止め部材21を取り囲むように設けられている。ずれ止め部材21は、例えば鋼管内に高強度モルタルを充填して形成される。更に、一般部ウェブ板14AのPCaコンクリート部の上面及び下面には、せん断キー23が突出するように形成されている。これらのずれ止め部材21、補強鉄筋22及びせん断キー23により、一般部ウェブ板14Aと上床版11又は下床版12とが強固に一体化される。
このように構成された一般部ウェブ板14Aでは、せん断力が矢印で示す向きの引張力Aと矢印で示す向きの圧縮力Bとに分解されてPCaコンクリート部内を伝わり、ダブルワーレントラスのような挙動を示す。そして、一般部ウェブ板14Aの内部には、せん断力の引張成分の分力である引張力Aに沿って延在するように複数のPC鋼線24が埋め込まれている。本実施形態では、一般部ウェブ板14Aの厚さ方向に2重にPC鋼線24が配置されている。PC鋼線24は、PCaコンクリートの打設前に緊張され、プレテンション方式で一般部ウェブ板14Aにプレストレスを導入する。
次に、図3及び図5〜図7を参照しながら端部ウェブ板14Bについて、一般部ウェブ板14Aと重複する部分を省略しつつ説明する。なお、図5にも図1中の中央閉合部1cに対して左側に配置される端部ウェブ板14Bを示している。従って、端部ウェブ板14Bにおいても、図4の一般部ウェブ板14Aと同様に、せん断力が矢印で示す向きの引張力Aと矢印で示す向きの圧縮力Bとに分解されて端部ウェブ板14Bを伝わる。
図5に示すように、端部ウェブ板14Bは、上記のように高さ方向の中位から上辺及び下辺に向けて橋軸方向長さが徐々に増大するバタフライ形状を呈しているが、橋桁1の幅方向に分割された2枚の板状のPCaコンクリート部材により構成されている。橋桁1の幅方向の外側に配置されたPCaコンクリート部材は、せん断力の引張成分の分力である引張力Aに沿って延在しており、引張力Aに抵抗する役割を主に担う。以下、このPCaコンクリート部材をウェブ引張部材31と称する。一方、橋桁1の幅方向の内側に配置されたPCaコンクリート部材は、せん断力の圧縮成分の分力である圧縮力Bに沿って延在しており、圧縮力Bに抵抗する役割を主に担う。以下、このPCaコンクリート部材をウェブ圧縮部材32と称する。
図6に示すように、ウェブ引張部材31は概ね平行四辺形を呈するPCaコンクリート部を主要素として構成されている。ウェブ圧縮部材32も、図7に示すようにウェブ引張部材31と異なる方向に傾斜する概ね平行四辺形を呈するPCaコンクリート部を主要素として構成される。ウェブ引張部材31及びウェブ圧縮部材32のPCaコンクリート部は共に、図4に示す一般部ウェブ板14Aと同程度の厚さとされている。
図4の一般部ウェブ板14Aと同様、ウェブ引張部材31及びウェブ圧縮部材32の各PCaコンクリート部における上床版11への埋め込み部及び下床版12への埋め込み部には、複数のずれ止め部材21がPCaコンクリート部を貫通してPCaコンクリート部の両面から突出するように設けられると共に、補強鉄筋22がPCaコンクリート部を貫通してPCaコンクリート部の両面から突出し、且つずれ止め部材21を取り囲むように設けられている。また、ウェブ引張部材31及びウェブ圧縮部材32の各PCaコンクリート部の上面及び下面には、せん断キー23が突出するように形成されている。ずれ止め部材21、補強鉄筋22及びせん断キー23により、ウェブ引張部材31及びウェブ圧縮部材32と上床版11又は下床版12とが強固に一体化される。
図6に示すウェブ引張部材31には、図4の一般部ウェブ板14A同様にせん断力の分力である引張力Aに沿って延在するように、複数のPC鋼線24がプレテンション方式でPCaコンクリート部の厚さ方向に2重に埋め込まれている。
このように構成されたウェブ引張部材31とウェブ圧縮部材32とは、正面視(橋桁1の側面視)でそれぞれのPCaコンクリート部の上辺同士及び下辺同士が連続するように重ね合わせて配置されることによって上記バタフライ形状の端部ウェブ板14Bを構成する。
ウェブ引張部材31とウェブ圧縮部材32とは、PCaコンクリート部同士が接触していても離間していてもよいが、PCaコンクリート部同士が結合しない独立した構造体となるように設けられている。これにより、ウェブ引張部材31の挙動とウェブ圧縮部材32の挙動とが独立したものとなるため、設計が容易になっている。なお、保守・点検の容易性の観点からは、ウェブ引張部材31とウェブ圧縮部材32とはPCaコンクリート部同士が離間するように配置されることが好ましい。
以上のように構成された橋桁1によれば、ウェブ板14が、側面視において高さ方向の中位から上辺及び下辺に向けて橋軸方向長さが徐々に増大する形状とされることにより、橋桁1が軽量化される。また、ウェブ13にPCaコンクリート製のウェブ板14が用いられながらも、橋軸方向の中央部よりも高さが大きな端部ウェブ板14Bが橋軸方向の両端部近傍に用いられることで、内部空間1i等に配置するケーブルに頼ることなく橋桁1の軸方向両端部近傍のせん断耐力が向上する。これにより、施工効率の悪化や費用の増加を抑制しつつ橋桁1のスパンを長大化することが可能になる。
また、本実施形態では、端部ウェブ板14Bが、幅方向に分割され、せん断力の引張成分の分力である引張力Aに沿って延在するウェブ引張部材31と、せん断力の圧縮成分の分力である圧縮力Bに沿って延在するウェブ圧縮部材32とにより構成されているため、ウェブ引張部材31及びウェブ圧縮部材32の橋軸方向長さ(即ち、各部材の幅)が大きくされなくとも、ウェブ引張部材31及びウェブ圧縮部材32の延在方向長さが長くされることによってウェブ板14の橋軸方向長さが大きくなる。従って、ウェブ引張部材31やウェブ圧縮部材32の運搬に支障を来すことなく、橋桁1のせん断耐力を高めることが可能である。
次に、PCaコンクリート板として形成されるウェブ板14の作製方法について説明する。
まず、公知の作製方法ではあるが端部ウェブ板14Bとの比較のために、一般部ウェブ板14Aの作製方法について図8を参照して説明する。一般部ウェブ板14Aは、左右を一対とする1対以上を1ロットとして架設順序に従って順次作製される。図8には、2対の一般部ウェブ板14Aを作製するために必要な4つの型枠40を上方から見た状態を示している。図示するように、型枠40は、形状が反転するものの、大きさが全て同一とされた鋼製型枠であり、作製する全ての一般部ウェブ板14Aの内面又は外面が上になり、且つPC鋼線24が一直線上になるように交互に傾く向きとされて、一対の反力架台45(図には一方のみを示す)の間に1列に配置される。このように配置された上で、各型枠40は底型枠41上に側型枠42を環状に配置・固定することで組み立てられる。
型枠40がこのように配置及び組み立てられると共に、ずれ止め部材21(図4参照、或いは、ずれ止め部材21配置用の貫通孔を形成するためのボイド管等)が配置され、補強鉄筋22(図4)が配置された後に、側型枠42における一般部ウェブ板14Aの上面及び下面を形成する部分を貫通するように複数のPC鋼線24が配置される。全てのPC鋼線24が一対の反力架台45に反力を取って緊張された状態で高強度コンクリートが型枠40内に打設されることにより、一般部ウェブ板14Aが作製される。なお、図には型枠40を簡略化して示しているが、この時に側型枠42によって一般部ウェブ板14Aと一体にせん断キー23が形成される。
一方、端部ウェブ板14Bは、次のようにして作製される。なお、端部ウェブ板14Bは、ウェブ引張部材31とウェブ圧縮部材32とを別々に作製し、対応する一対を組み合わせることで形成されるが、ウェブ引張部材31とウェブ圧縮部材32とは概ね同一の大きさであるため、ここではPC鋼線24が配置されるウェブ引張部材31の作製方法を説明する。ウェブ圧縮部材32は、PC鋼線24を配置しない点を除いてウェブ引張部材31と同様に作製される。
図9に示すように、ウェブ引張部材31は複数枚を1ロットとして作製される。図9(A)は、高さH1が比較的小さいウェブ圧縮部材32を作製する際の型枠50の組立状態を示しており、図9(B)は、高さH2が比較的大きいウェブ圧縮部材32を作製する際の型枠50の組立状態を示している。型枠50は、PC鋼線24に沿って長尺とされた底型枠51と、底型枠51上にPC鋼線24に沿って互いに平行に配置され、ウェブ圧縮部材32の橋軸方向を向く斜めの側面を形成する一対の側型枠52と、底型枠51上の一対の側型枠52内に互いに平行に配置され、ウェブ圧縮部材32の上面及び下面を形成する複数対の妻型枠53とにより構成される。底型枠51、側型枠52及び妻型枠53の全てが鋼製型枠とされている。
ウェブ引張部材31用の型枠50においても、作製する全てのウェブ引張部材31の内面又は外面が上になるように、妻型枠53が一対毎に交互に傾くように配置される。型枠50がこのように組み立てられると共に、ずれ止め部材21や補強鉄筋22が配置され、全ての妻型枠53を貫通するように複数のPC鋼線24が配置されて緊張された上で高強度コンクリートが型枠50内に打設されることにより、ウェブ引張部材31が作製される。なお、ここでも型枠50を簡略化して示しているが、妻型枠53によってウェブ引張部材31の上面及び下面にせん断キー23が一体形成される。
このように、端部ウェブ板14Bが橋桁1の幅方向に分割されたウェブ引張部材31とウェブ圧縮部材32とにより構成されることにより、共通の型枠50を用い、図9(A)及び(B)に示すように妻型枠53の位置をずらすだけで、ウェブ引張部材31やウェブ圧縮部材32の延在方向長さを変更することが可能である。そのため、ウェブ板14の高さを橋軸方向の位置に応じて変更するために、大きさが異なる複数種の端部ウェブ板14Bに対して専用型枠を用意する場合に比べ、費用の増加が抑制される。
≪第2実施形態≫
次に、以下、図10及び図11を参照して橋桁1の第1実施形態を説明する。なお、上記実施形態と構成や機能等が共通する部材や部位には共通の符号を付し、重複する説明は省略する。
図10は、図5に対応する端部ウェブ板14Bの詳細図であり、図5と同様に図1中の中央閉合部1cに対して左側に配置される端部ウェブ板14Bを示している。従って、図示するように、せん断力が矢印で示す向きの引張力Aと矢印で示す向きの圧縮力Bとに分解されて端部ウェブ板14Bを伝わる。
本実施形態の端部ウェブ板14Bは、上記実施形態と同様に高さ方向の中位から上辺及び下辺に向けて橋軸方向長さが徐々に増大するバタフライ形状を呈しているが、概ね橋軸方向に分割された3枚の板状のPCaコンクリート部材により構成されている。
3枚の中央に配置されるPCaコンクリート部材は、せん断力の引張成分の分力である引張力Aに沿って延在する概ね平行四辺形を呈するPCaコンクリート部を主要素として構成されている。このPCaコンクリート部材は、引張力Aに抵抗する役割を主に担う。以下、このPCaコンクリート部材をウェブ主部材61と称する。
一方、橋軸方向の両端に配置された一対のPCaコンクリート部材は、ウェブ主部材61と協働してせん断力の圧縮成分の分力である圧縮力Bに沿って延在するように、作製後にウェブ主部材61の上部及び下部に一体化される概ね三角形を呈するPCaコンクリート部を主要素として構成されている。これらのPCaコンクリート部材は、ウェブ主部材61と共に圧縮力Bに抵抗する役割を主に担う。以下、これらのPCaコンクリート部材をウェブ圧縮片62と称する。
ウェブ主部材61及び2つのウェブ圧縮片62のPCaコンクリート部は全て、図4に示す一般部ウェブ板14Aよりも厚い同程度の厚さとされている。ウェブ主部材61及び2つのウェブ圧縮片62は、第1実施形態と同様にずれ止め部材21、補強鉄筋22及びせん断キー23を有しており、これらによって上床版11又は下床版12に強固に一体化される。また、ウェブ主部材61とウェブ圧縮片62との接合面にもせん断キー25が設けられている。これにより、圧縮力Bが作用した際に、ウェブ主部材61とウェブ圧縮片62とのずれが防止される。
本実施形態では、このように端部ウェブ板14Bが、概ね橋軸方向に分割され、せん断力の引張成分の分力に沿って延在するウェブ主部材61と、ウェブ主部材61と協働してせん断力の圧縮成分の分力に沿って延在する2つのウェブ圧縮片62とにより構成されているため、ウェブ主部材61の橋軸方向長さ(即ち、幅)が大きくされなくとも、ウェブ主部材61及びウェブ圧縮片62の延在方向長さが長くされることによってウェブ板14の橋軸方向長さが大きくなる。従って、ウェブ主部材61やウェブ圧縮片62の運搬に支障を来すことなく、橋桁1のせん断耐力を高めることが可能である。
次に、本実施形態の端部ウェブ板14Bの作製方法について説明する。端部ウェブ板14Bのうち、ウェブ主部材61の作製要領は上記実施形態のウェブ引張部材31と同様である。そのため、ここではウェブ圧縮片62の作製方法について説明する。
図11に示すように、ウェブ圧縮片62は、複数対を1ロットとして作製される。図11(A)は、高さH3が比較的小さい(即ち、延在方向長さが比較的小さい)ウェブ圧縮片62を作製する際の型枠70の組立状態を示しており、図11(B)は、高さH4が比較的大きい(即ち、延在方向長さが比較的大きい)ウェブ圧縮片62を作製する際の型枠70の組立状態を示している。
型枠70は、上記実施形態と同様に、長尺とされた底型枠71と、底型枠71上に互いに平行に配置され、ウェブ圧縮片62の橋軸方向を向く斜めの側面を形成する一対の側型枠72とを備える。一対の側型枠72内には、互いに平行に配置され、ウェブ圧縮片62の上面及び下面を形成する複数対の第1妻型枠73が底型枠71上の所定の位置に設けられる。第1妻型枠73は、作製する全てのウェブ圧縮片62の内面又は外面が上になるように、一対毎に交互に傾くように配置される。更に、一対の側型枠72内には、各側型枠72とこれに対して鋭角に配置された側の第1妻型枠73との解放端を塞ぐように、ウェブ圧縮片62のウェブ主部材61との接合面を形成する複数対の第2妻型枠74が底型枠71上に互いに平行に配置される。図11(A)及び(B)に示すように、第2妻型枠74は、作製するウェブ圧縮片62の高さに応じて長さが異なるように複数種を用意され、長さに応じて異なる位置に配置される。
型枠70がこのように組み立てられると共に、ずれ止め部材21や補強鉄筋22が配置された状態で、高強度コンクリートが型枠50内に打設されることにより、ウェブ圧縮片62が作製される。なお、ここでも型枠70を簡略化して示しているが、第1妻型枠73及び第2妻型枠74はせん断キー23、25を形成する形状とされている。
このように、端部ウェブ板14Bが橋軸方向に分割されたウェブ主部材61と2つのウェブ圧縮片62とにより構成されることにより、大半が共通の型枠70を用い、図11(A)及び(B)に示すように第2妻型枠74の長さ及び位置を変更するだけで、ウェブ圧縮片62の延在方向長さを変更することが可能である。そのため、ウェブ板14の高さを橋軸方向の位置に応じて変更するために、大きさが異なる複数種の端部ウェブ板14Bに対して専用型枠を用意する場合に比べ、費用の増加が抑制される。
以上で具体的実施形態についての説明を終えるが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、橋桁1が複数の橋脚2間に連続する連続桁であるが、隣接する橋脚2間でそれぞれ独立した桁であってもよい。また、上記実施形態では、橋桁1が一対のウェブ13を有しているが、3つ以上のウェブ13を有していてもよい。更に、上記実施形態では、一定高さを有する一般部ウェブ板14Aが一体型とされているが、端部ウェブ板14Bと同様に、橋桁1の幅方向や橋軸方向に分割されたPCaコンクリート部材を組み合わせて構成されてもよい。また、上記実施形態の構成を組み合わせた形態、例えば、端部ウェブ板14Bが橋桁1の幅方向にも橋軸方向にも分割された形態等とすることも可能である。更に、上記実施形態に示した本発明に係る橋桁1の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。